【実施例】
【0056】
[実施例1〜3及び比較例1〜4]
(1)歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞の調製
歯の形成を行うために、歯胚の再構築を行った。この実験モデルとしてマウスを用いた。
C57BL/6Nマウス(日本クレアから購入)又はGreen Fluorescence Protein (EGFP) トランスジェニックマウスであるC57BL/6−TgN(act-EGFP)OsbC14-Y01-FM131(GFPマウス:理研バイオリソースセンター)の胎齢14.5日、胚仔から下顎切歯歯胚組織を顕微鏡下で常法により摘出した。下顎切歯歯胚組織をCa
2+,Mg
2+不含リン酸緩衝液(PBS(−))で洗浄し、PBS(−)に最終濃度1.2U/mlのDispase II (Roche, Mannheim, Germany)を添加した酵素液で室温にて12.5分間処理した後、10%FCS(JRH Biosciences, Lenexa, KS)を添加したDMEM(Sigma, St. Louis, MO)で3回洗浄した。さらにDNase I溶液 (Takara, Siga, Japan)を最終濃度70U/mlになるよう添加し歯胚組織を分散させ、25G注射針 (Terumo, Tokyo, Japan)を用いて外科的に歯胚上皮組織と歯胚間葉組織を分離した。
【0057】
歯胚上皮系細胞は、上記により得られた歯胚上皮組織をPBS(−)で3回洗浄し、PBS(−)に最終濃度100U/mlのCollagenase I(Worthington, Lakewood, NJ)を溶解した酵素液で37℃にて20分間の処理を2回繰り返した。遠心分離によって沈殿回収した細胞を、さらに0.25% Trypsin (Sigma)−PBS(−)で37℃、5分間処理した。10%FCS添加DMEMで、細胞を3回洗浄した後、細胞に最終濃度70U/mlのDNase I溶液を添加して、ピペッティングにより単一の歯胚上皮系細胞を得た。
一方、歯胚間葉系細胞は、歯胚間葉組織をPBS(−)で3回洗浄し、0.25%Trypsin (Sigma)、50U/mlのCollagenase I (Worthington)を含むPBS(−)で処理した。70U/mlのDNase I (Takara)を添加して、ピペッティングにより単一の歯胚間葉系細胞を得た。
【0058】
(2)再構成歯胚の作製
次に、上記で調製された歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いて、歯胚再構築を行った。
シリコングリースを塗布した1.5mLマイクロチューブ (Eppendorf, Hamburg, Germany)に、10%FCS(JRH Biosciences) 添加DMEM(Sigma)で懸濁した歯胚上皮系細胞、あるいは歯胚間葉系細胞を入れ、遠心分離(580×g)により細胞を沈殿として回収した。遠心後の培養液の上清をできる限り除去し、再度遠心操作を行い、実体顕微鏡で観察しながら細胞の沈殿周囲に残存する培養液を GELoader Tip 0,5−20μL (eppendorf) を用いて完全に除去し、再構成歯胚作製に用いる細胞を準備した。
シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、2.4mg/mlの濃度に上記培養液で調製したCellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してコラーゲンゲル溶液のドロップ(ゲルドロップ)を作製した。この溶液に、上記歯胚上皮系細胞、あるいは歯胚間葉系細胞の遠心後の沈殿を、0.1−10μLのピペットチップ (Quality Scientific plastics)を用いて、0.2−0.3μLアプライして、細胞集合体としての細胞凝集塊を作製した。
【0059】
これを、
図2を参照して説明する。
ピペットチップ16で先にゲルドロップ10内に配置された細胞凝集塊12は、ゲルドロップ10内で球体を構成する(
図2(B)参照)。この後に他方の細胞凝集塊14を押し込むことによって、球体の細胞凝集塊12がつぶされて、他方の細胞凝集塊14を包むようになることが多い(
図2(C)参照)。その後にゲルドロップ10を固化させることにより、細胞間の結合が強固になる(
図2(D)参照)。
【0060】
本実施例では、細胞集合体として、上皮系細胞又は間葉系細胞の単一細胞からなる細胞凝集塊と、歯胚のうち、上皮系細胞からなる部分組織及び間葉系細胞からなる部分組織とを、それぞれ調製して用いた。
本実施例において、細胞凝集塊と組織とによる再構成歯胚を組み合わせる場合(実施例1及び2)には、歯胚上皮系細胞、あるいは間葉系細胞から作製した細胞凝集塊に、上皮系細胞又は間葉系細胞からなる部分組織をゲルドロップ中に移した後、それぞれの組織の歯胚における組織境界面側を、タングステン針を用いて細胞凝集塊に密着させて再構成歯胚を作製した。
一方、単一細胞にした歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞を用いた再構成歯胚(実施例3)では、先に作製した歯胚間葉系細胞の細胞凝集塊に接するように、歯胚上皮系細胞を同様の方法によりアプライして細胞凝集塊を作製し、両者が互いに密接するようにして再構成歯胚を作製した。
【0061】
ゲルドロップ中で作製した再構成歯胚は、CO
2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固化し、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、細胞凝集塊を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−24時間、器官培養した。培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して異所的な歯の発生を進行させるか、セルカルチャーインサート上での器官培養を継続し、歯の発生を解析した。
また比較例としては、歯胚組織をそのまま腎皮膜下に移植したもの(比較例1)と、歯胚から分離した上皮組織と間葉組織をそれぞれ単独で移植したもの(比較例2)、また細胞の容量と等量の培養液を含む低密度凝集塊を用いたもの(比較例3)と、歯胚から分離して上皮細胞と間葉細胞を混合して上皮細胞と間葉細胞を区画化することなく支持担体中で細胞凝集塊を形成させたもの(比較例4)とを、それぞれ上記と同様にして調製し、同様に解析した。なお、比較例4において、上皮細胞と間葉細胞との混合は、それぞれ1対1の比率で穏やか混合した後、実施例1〜3と同様にして、再構成歯胚作製に用いる1の細胞凝集塊として調製した。
【0062】
(3)組織学的解析
腎皮膜下に移植の場合には、移植後7日目、あるいは14日目に周囲の腎組織ごと再構成歯胚を摘出し、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、4.5%のEDTA(pH7.2)で24時間脱灰し、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
再構成歯胚にGFPマウス由来の歯胚を用いた場合は、50%(w/v)スクロース−4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で18時間固定した後、4.5%のEDTA(pH7.2)で24時間脱灰し、OCT compound(Miles Inc., Naperville, IL)に包埋して、クリオスタット (Leica, Wetzlar, Germany)で10μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。
歯胚組織のまま培養した結果を
図3に、本発明の製造方法に従って培養した結果を
図4〜7に示す。
【0063】
摘出された歯胚のまま腎皮膜下移植を行った比較例1では、
図3に示されるように、歯胚を構成している間葉系細胞と上皮系細胞との細胞間相互作用が損なわれないため、上皮系細胞に由来するエナメル質、間葉系細胞に由来する象牙質と歯髄が形成されており、エナメル質及び象牙質を所定の位置に配置すると共に、歯先端部と歯根を有する歯が形成された。
【0064】
一方、
図4〜6に示されるように、本発明に従って、歯胚から調製された単一細胞形態を用いた場合、即ち、歯胚上皮組織に歯胚間葉系細胞を組み合わせて再構成した場合(実施例1、
図4及び
図5参照)と、歯胚上皮系細胞に歯胚間葉組織を組み合わせて再構成した場合(実施例2、
図6参照)には、それぞれ、内側に象牙質及び外側にエナメル質を有する特有の細胞配置を備えた歯を、11〜14日の期間で腎皮膜下移植により発生させることができた。ここで得られた歯は、歯胚をそのまま培養して得られた正常発生のもの(
図3)と同様の歯を再構成できることが示された。
【0065】
更に、
図4に示されるように、本再構成と腎皮膜下移植によって、移植後11日目には、外側のエナメル質、エナメル芽細胞、エナメル芽細胞、象牙質、象牙芽細胞が容易に認められた。歯根部分も、正常発生と変わらず、歯根部分の外周には歯槽骨も認められた。また、経時観察によれば、移植後3日目には象牙質、象牙芽細胞が容易に認められ、組織配置上、歯の特徴的構造の形成が開始されていた。また7日目には象牙質の蓄積と、象牙芽細胞、エナメル芽細胞も存在しており、その後、歯の発生が進行した(データ示さず)。
またゲルドロップ内に配置された直後には、細胞凝集塊を構成する細胞が顕微鏡下で単独で存在することが認められるが、1日の短期の培養によって、摘出した正常歯胚と同様に、細胞の結合が強固になり、ひとつのまとまりのある組織へと変化した。このことから、移植前の短期の培養が歯の形成に有効であることが示された。
【0066】
また、GFPマウス由来の間葉系細胞を用いた場合には内側の間葉細胞由来の歯髄細胞と象牙芽細胞に局在しており(
図5)、一方、GFPマウス由来の上皮系細胞を用いた場合には外側のエナメル芽細胞に局在していることが示され、使用した細胞種と蛍光とが一致していた(
図6)。従って、正常発生と同様に細胞相互作用が行われて、発生における細胞の方向性が損なわれずに組織の再構成が行われたことが明らかであった。
【0067】
なお、腎皮膜下での移植を適用せず、器官培養を継続した場合であっても、培養開始から経時的に培養した再構成歯胚は次第に大きくなり、移植後16日目には、象牙質、象牙芽細胞が容易に認められ、組織配置上、歯の特徴的構造の形成が認められた(データ示さず)。このような器官培養による構築は、一方を組織として用いた場合のみならず、上皮系細胞及び間葉系細胞双方を用いた場合であっても同様に認められた。
【0068】
また、歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いた場合(実施例3)では、
図7に示されるように、いずれか一方を組織として用いた場合と同様に、象牙質及びエナメル質の存在を確認することができた。歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いた場合には、しばしば1個の再構成歯胚より複数個の方向性と構造を有した歯が発生することが認められ、発生後の歯芽を分離することにより複数個の歯を発生させられる可能性が示唆された。特に、歯胚間葉系細胞を先にゲルドロップ内に配置して、その後から歯胚上皮系細胞を押し当てて配置した場合には、エナメル質及び象牙質がそれぞれ外側及び内側に配置された特徴的な構造をより明確に構築することができ、より歯の形態をとりやすく、歯の形成に有利である可能性が示された(データ示さず)。
【0069】
なお本発明により上皮系細胞と間葉系細胞を配置し再構成した歯胚を器官培養することにより複数の歯胚及び/又は歯芽の形成がしばしば認められた。このことは、これらの複数の歯胚及び/又は歯芽を外科的に分離することにより、ひとつの再構成歯胚より複数の歯を発生させられる可能性が示唆された。
【0070】
一方、上皮組織のみ又は間葉組織のみで培養した比較例2の場合では、
図8に示されるように、上述したような特定構造の歯を構成することができなかった。従って、本発明の方法では、細胞相互作用が行われて特定構造を有する組織が再構成されていることが示唆された。
また、低密度の細胞凝集塊を用いた比較例3の場合では、
図9に示されるように、コラーゲンゲルドロップ中での培養において既に単一細胞が分散し、腎臓皮膜下に移植しても、歯としての特定構造を再構成しなかった。このことは、細胞相互作用によって歯を再構成するには、可能な限り高密度の細胞凝集塊を用いることが好ましいことが示唆された。
更に、歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞とを事前に1対1で混合させ、高密度でこれら細胞を区画化することなく細胞凝集塊を形成させた比較例4の場合には、
図10に示されるように、エナメル質や象牙質の硬組織は認められなかった。このことは、歯胚上皮系細胞の集合体と歯胚間葉系細胞の集合体とを別個に調製した後、区画化して細胞凝集塊を形成させることが重要であることが示された。
【0071】
(4)歯周組織の確認
次に、本方法によって形成された歯が歯周組織を備えているか確認した。歯周組織の確認は、上記のHE染色像による観察に加えて、下記のようなin situ ハイブリダイゼーションを用いた。
腎皮膜下移植した再構成歯胚を移植14日目に摘出し、常法によりパラフィン包埋して10μm厚に切片化した。キシレンとエタノール希釈系列に切片を浸してパラフィンを除去した。10μg/ml Protease K (Nacalai tesque, kyoto, Japan) in PBS(-)で3分間処理し、4%パラホルムアルデヒド (Nacalai tesque) リン酸緩衝液で15分間固定した。0.1% (v/v) TritonX-100 (Sigma) in PBS(-)で3分間処理し、PBS(−)で3分間洗浄した。0.2N HCl (Wako) で10分間処理し、PBS(−)とDEPC(ジエチルピロカーボネート)waterでそれぞれ5分間洗浄した。1.5% (v/v) トリエタノールアミン(nacalai tesque), 0.33N HCl (Wako), 0.25% (v/v) 無水酢酸 (Nacalai tesque) in DEPC waterで10分間処理した後、2×SSCで10分間、2回洗浄した。Periostin (Genbank accession no. NM#015784) プローブは、センスプライマー (-7; ggctgaagatggttcctctc、配列番号1)とアンチセンスプライマー (573; gtacattgaaggaataacca、配列番号2)を用いてPCRにより取得したcDNA断片を、DIG標識して用いた。定法に従ってin situ ハイブリダイゼーションを行い、抗DIG−AP Fabフラグメント(Roche)とNBT/BCIP Stock Solution(Roche)で発色させ、Axio Imager A.1 (Zeiss)とAxioCam MRc5 (Zeiss)で解析を行なった。
【0072】
上記実施例における歯周組織を、歯周組織の有無について詳細に観察したところ、実施例1〜3のいずれにおいても、
図4から
図7に示したように、移植後14日目の歯の周囲には、正常な歯胚を移植した比較例1(
図3参照)と同様の歯槽骨が形成されていた。
【0073】
さらに
図11で示されるように、単一細胞と組織との組み合わせの別に拘らず、実施例1〜3のいずれにおいても、得られた歯の周囲には、正常な歯胚を移植した比較例1と同様の歯槽骨及び歯根膜が形成された。また実施例2の歯において確認したところ、
図12で示されるように、HE染色により歯根膜形成が認められた領域には、歯根膜特異的な遺伝子であるぺリオスチンmRNAの発現が認められた(実施例1及び3において同様)。
このことは、実施例1〜3により作製した歯胚は、歯槽骨や歯根膜といった歯周組織を形成することができることを示している。
【0074】
[実施例4及び5、比較例5]
上記と同様にして配置工程を終了した後に、培養工程として、一般に用いられる器官培養を14日間にわたって継続して実施し、歯の発生を解析した。歯胚由来上皮組織と間葉細胞との組み合わせを実施例4とし、歯胚由来上皮細胞と間葉細胞との組み合わせを実施例5とした。なお、正常歯胚を用いて器官培養した例を比較例5とした。結果を
図13に示す。
図13に示されるように、実施例4及び5のいずれも、培養期間が長くなるにつれて歯胚の大きさが大きくなり、腎皮膜下移植を実施した場合とほぼ同様の特徴的な構造を有した歯の発生が認められた。
また実施例4及び5のいずれにおいても、器官培養によって得られた歯は、複数の歯で構成された集合体(例えば、間葉細胞と上皮細胞とを用いた場合には6個;
図13最下段)を形成していた。
【0075】
[実施例6及び7、比較例6]
実施例5で示されるように、再構成歯胚から得られた歯は、1個の再構成歯胚から間葉細胞及び上皮細胞を調製したにも拘わらず、複数の歯へ再誘導された。このように再構成歯胚で同時に再誘導された個々の歯が1本の歯として成長しうるかどうかを解析した。
【0076】
(1)再構成歯胚から発生する複数の歯胚の分離と歯への発生能力の解析
1)複数発生させた歯胚の個別分離と器官培養
実施例3と同様にして得られた再構成歯胚を、2〜5日間器官培養し、1つの再構成歯胚から複数の歯胚を発生させた。その後、歯胚が複数発生している再構成歯胚を、器官培養2〜5日目に実体顕微鏡下で注射針とピンセットを用いて外科的に1個の歯胚に分離した。
シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、実施例1と同様にして、Cellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してゲルドロップを作製した。このゲルドロップに、上記個別分離歯胚を入れ、CO
2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固形化し、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、個別分離歯胚を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−24時間、器官培養した。
2)組織学的解析
培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して14日目に周囲の腎組織ごと個別分離歯胚を摘出した。組織を、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
【0077】
3)結果
分離した歯胚を腎臓皮膜下へ移植して14日間発生させ、組織学的に解析した結果を、
図14に示した。
図14に示されるように、移植した分離歯胚は、それぞれがエナメル質と象牙質、歯髄、歯冠、歯根という特徴を有する1本の「歯」に発生した。また、得られた歯の歯冠部にはエナメル質と象牙質が存在すること(
図14中段及び下段におけるa参照)及び歯根部では歯根の開口部が存在すること(
図14中段におけるb参照)がそれぞれ確認できた。
これらのことは、正常発生した歯と同様に、歯冠部においてエナメル芽細胞と象牙芽細胞が存在し、また正常発生した歯と同一の形態を有することを示しており、歯の集合体として同時に発生した個々の歯が、いずれも正常発生した歯と細胞配置及び方向性において同一であることを示していた。
【0078】
(2)再構成歯胚の口腔内移植による歯の発生
1)個別分離歯胚と個別分離歯牙の作製
上記と同様にして、器官培養2〜5日目において歯胚が複数発生している再構成歯胚から、個別に分離した歯胚を作製した。一方、腎皮膜下移植して14日後に摘出した、再構成歯胚より複数発生した歯を、実体顕微鏡下で注射針とピンセットを用いて外科的に個別に分離した。
個別分離歯胚の場合、前記同様に、シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、2.4mg/mlの濃度に上記培養液で調製したCellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してゲルドロップを作製した。このゲルドロップに、上記個別分離歯胚を入れ、CO
2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固化した。次いで、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、支持担体である周囲のゲルと共に個別分離歯胚を移して、18−24時間、器官培養した。
培養後、周囲のゲルを注射針とピンセットで外科的に除去し、8週齢C57BL/6の下顎切歯抜歯孔に移植し、実施例6とした。一方、腎臓皮膜下へ移植した再構成歯胚より個別に分離した歯の場合には、分離後ゲルに包まず、そのまま8週齢C57BL/6の下顎切歯抜歯孔に移植し、実施例7とした。
【0079】
2)切歯の抜歯と口腔内移植の方法
口腔内移植の3日前に、ジエチルエーテルで吸引麻酔した8週齢C57BL/6に、5mg/mlのペントバルビタールナトリウムを含む生理食塩水を、体重20gに対して200μlの割合で腹腔注射した。痛覚の麻痺したマウスの下顎切歯萌出部付近の下顎骨をメスで剥離し、顎骨に埋まっている切歯先端部を露出させた。ピンセットを用いて下顎から切歯を抜歯し、血液を脱脂綿で拭き取り止血した。食物摂取のために、抜歯は片側の下顎切歯のみとし、粉末状に砕いた飼育用の餌を毎日与えた。
【0080】
上記方法により抜歯した8週齢C57BL/6をジエチルエーテルで吸引麻酔し、5mg/mlのペントバルビタールナトリウムを含む生理食塩水を、体重20gに対して200μlの割合で腹腔注射した。痛覚の麻痺したマウスを、抜歯した側の顎を上にして解剖台に固定し、抜歯孔歯根部領域の頭部横面より皮膚と筋肉層を切開し、下顎骨を露出させた。メスを用いて抜歯孔歯根部領域を覆う下顎骨に、個別分離歯胚の場合は直径1mm、個別分離歯牙の場合は直径2mmの穴をあけ、そこから個別分離歯胚と個別分離歯牙を抜歯孔歯根部領域に移植した。移植する個別分離歯胚と個別分離歯の向きは、正常発生の歯の方向と一致させ、また成体マウス下顎切歯で見られるエナメル質、歯根膜の方向性とも一致させた。切開した筋肉層と皮膚を常法により縫合した。口腔内移植した8週齢C57BL/6には粉末状に砕いた飼育用の餌を毎日与えた。
なお、切歯抜歯後に移植をしなかったマウスを比較例6とした。
【0081】
3)組織学的解析
口腔内移植して14日目に、個別分離歯胚、並びに個別分離歯を移植した下顎骨を摘出した。4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で16時間固定した後、22.5%のギ酸で72時間脱灰し、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。脱灰液は下顎骨2つにつき50mlとし、脱灰48時間目に全量を交換した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
個別分離歯胚、並びに個別分離歯牙にC57BL/6−TgN(act−EGFP)OsbC14-Y01-FM131マウス由来の歯胚を用いた場合は、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で16時間固定した後、22.5%のギ酸で72時間脱灰し、常法によりOCT compound(Miles Inc., Naperville, IL)に包埋して、クリオスタット (Leica, Wetzlar, Germany)で10μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。
【0082】
4)結果
切歯抜歯後に移植をしなかった比較例6のマウスの抜歯後14日後の組織像を
図15に、個別分離した歯胚(実施例6)、並びに歯(実施例7)を、切歯抜歯孔へ移植して14日後の組織像を、それぞれ
図16及び
図17に示した。
図15に示すように、比較例6の非移植マウスでは、切歯抜歯孔の移植部位に該当する位置に浸潤した細胞と発生した骨のみが認められ、硬組織を有する歯は認められなかった。
これに対して、
図16に示すように、実施例6として個別分離した歯胚を移植した当該部位には、エナメル質を外側に、象牙質を内側に有する歯が発生した。発生した歯は、歯の先端と歯根が認められ、歯の方向性が存在し、正常発生する歯と同一の構造を有していた。
また、腎臓皮膜下へ移植して発生させた後に分離した歯を抜歯孔へ移植した実施例7のマウスでは、
図17に示すように、当該部位にエナメル質を外側に、象牙質を内側に有する歯が発生した。発生した歯は、歯の先端と歯根を有しており、歯髄内部には血管が認められると共に、歯の周囲には歯根膜と歯槽骨を有しており、正常発生する歯と同一の構造を有していた。
【0083】
[実施例8及び比較例7]
(1)毛胞の再構成
本発明において開発した技術が、歯胚の発生に寄与するのみならず、他の器官形成にも有用な技術であることを示すために、毛胞の再構成を実施した。この実験モデルとしてマウスを用いた。
1)細胞の分離方法
C57BL/6Nマウス(日本クレアから購入)又はGreen Fluorescence Protein (EGFP) トランスジェニックマウスであるC57BL/6−TgN(act-EGFP)OsbC14-Y01-FM131(理研バイオリソースセンター)の胎齢14.5日、胚仔から上顎髭毛胞組織を顕微鏡下で常法により摘出した。上顎髭毛胞組織をCa
2+,Mg
2+不含リン酸緩衝液(PBS(−))で洗浄し、PBS(−)に最終濃度1.2U/mlのDispase II (Roche, Mannheim, Germany)を添加した酵素液で室温にて60分間処理した後、10%FCS(JRH Biosciences, Lenexa, KS)を添加したDMEM(Sigma, St. Louis, MO)で3回洗浄した。さらにDNase I溶液 (Takara, Siga, Japan)を最終濃度70U/mlになるよう添加し毛胞組織を分散させ、25G注射針 (Terumo, Tokyo, Japan)を用いて外科的に毛胞上皮組織と毛胞間葉組織を分離した。
【0084】
毛胞上皮系細胞は、上記により得られた毛胞上皮組織をPBS(−)で3回洗浄し、PBS(−)に最終濃度100U/mlのCollagenase I(Worthington, Lakewood, NJ)を溶解した酵素液で、37℃にて20分間の処理を2回繰り返した。遠心分離によって沈殿回収した細胞を、さらに0.25% Trypsin (Sigma)−PBS(−)で37℃、5分間処理した。10%FCS添加DMEMで、細胞を3回洗浄した後、細胞に最終濃度70U/mlのDNase I溶液を添加して、ピペッティングにより単一の毛胞上皮系細胞を得た。
一方、毛胞間葉系細胞は、毛胞間葉組織をPBS(−)で3回洗浄し、0.25%Trypsin (Sigma)、50U/mlのCollagenase I (Worthington)を含むPBS(−)で処理した。70U/mlのDNase I (Takara)を添加して、ピペッティングにより単一の毛胞間葉系細胞を得た。
【0085】
2)再構成毛胞の作製方法
次に、上記で調製された毛胞上皮系細胞及び毛胞間葉系細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、再構成毛胞作製に用いる細胞を準備し、コラーゲンゲルドロップにそれぞれ0.2−0.3μLアプライしてそれぞれの細胞凝集塊を作製し、両者が互いに密接するようにして再構成毛胞を作製した。
3)腎皮膜下移植
ゲル中で作製した再構成毛胞は、実施例1と同様にして、培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、細胞塊を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−48時間、器官培養した。培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して異所的な毛の発生を進行させ、毛の発生を解析した。
一方、比較例7は、毛胞上皮系細胞及び毛胞間葉系細胞を用いた以外は、比較例4と同様にして、生体外で2種類の細胞を混合して1つの細胞凝集体を作製し、実施例8と同様にして腎皮膜下に移植した。
【0086】
4)組織学的解析
腎皮膜下に移植の場合には、移植後14日目に周囲の腎組織ごと再構成毛胞を摘出した。器官培養の場合には、同様の日数の培養後、細胞凝集塊を回収した。組織、あるいは細胞凝集塊を、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
【0087】
5)結果
実施例8に係る毛胞を、同系マウスの腎臓皮膜下へ移植した結果を
図18に示す。
図18に示されるように、再構成毛胞を移植すると初期毛胞を構成する上皮細胞と間葉細胞との細胞間相互作用が損なわれないため、毛胞の縦断面(切片A)では上皮細胞に由来する毛包や内毛根鞘、外毛根鞘、並びに間葉細胞に由来する毛乳頭の細胞が認められた。さらに切片Aでは、毛は組織染色時に溶解するものの、完全に溶解していない毛が認められた。横断面(切片B)では、上皮細胞が毛穴を取り囲むように、内毛根鞘や外毛根鞘等の細胞配置が認められた。毛は組織染色時に溶解するため、毛の溶解残存物が認められた。
また、
図19に示されるように、再構成毛胞を腎臓皮膜下へ移植して14日後に摘出した移植片には、毛胞から生えた毛が認められた。
一方、上皮、並びに間葉細胞をあらかじめ混合して、支持担体中で再構成した比較例7の場合には、
図20に示されるように、毛胞組織は認められなかった。
従って、実施例8によれば、実施例1〜7の歯胚を用いて歯を作製する場合と同様に、毛胞組織から毛を作製することができた。
【0088】
このように本発明によれば、歯や毛に限らず、上皮系細胞と間葉系細胞との細胞間相互作用が有効になされるように上皮組織・細胞及び間葉組織・細胞を別個に調製し、これらを区画化して高密度に接触させて培養することによって、細胞の分化を効果的に誘導することができ、組織に特有の細胞配置と方向性を備えた組織を作製することができることを示している。
従って、本発明によれば、細胞間相互作用を損なうことなく多種の単一細胞から組織を再構築できるので、細胞相互作用によって構築される組織を人為的に作製することができる。