(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666492
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】乗客コンベアのクリート破損検出装置及び乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
B66B 29/00 20060101AFI20150122BHJP
【FI】
B66B29/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-37471(P2012-37471)
(22)【出願日】2012年2月23日
(65)【公開番号】特開2013-173575(P2013-173575A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2013年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルテクノサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 修一
【審査官】
篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−091754(JP,A)
【文献】
特開平08−301566(JP,A)
【文献】
特開2009−029524(JP,A)
【文献】
特開2011−116515(JP,A)
【文献】
特開平06−211480(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0031090(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップのクリートの破損を検出する乗客コンベアのクリート破損検出装置であって、
乗降口の床板の裏側に前記クリートの1つ乃至2つ毎に設けられ、全ての前記クリートの上面に接触する複数の探触部と、
前記探触部の各々に接続され、前記探触部の変位を検知する複数の検知部と、
前記検知部の一部により前記探触部の変位が検知されたときに、対応する前記クリートに破損が存在すると判定し、前記検知部の全てが前記探触部の変位を同時に検知したときには当該判定を行わない手段と、
を備えることを特徴とするクリート破損検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクリート破損検出装置において、
前記探触部は、前記ステップの移動により回転するローラーであることを特徴とするクリート破損検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクリート破損検出装置において、
前記探触部は、前記クリートの前記上面に押し付けられており、
前記検知部は、前記探触部から受ける荷重の変動を検知することにより、前記探触部の変位を検知することを特徴とするクリート破損検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリート破損検出装置において、
前記ステップに設けられ、前記ステップの各々を識別する情報を含む識別タグと、
前記識別タグから前記情報を取得する読み取り器と、
前記読み取り器により取得された前記情報に基づいて、前記クリートの破損が判定されたときに、当該破損が存在する前記ステップを特定する手段と、
をさらに備えることを特徴とするクリート破損検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のクリート破損検出装置と、
前記クリート破損検出装置により判定された前記クリートの破損状態に基づいて、前記ステップの運転を停止させる制御装置と、
を備えることを特徴とする乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアのクリート破損検出装置及び乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータ等の乗客コンベアのステップには、複数のクリートが設けられている。クリートは、踏板の上面に等間隔で設けられてステップの前後方向と平行に延びた凸状部であって、乗降口に設けられたコムと噛み合う。これにより、乗降口の床板とステップとの隙間に靴等が挟まることを防止している。なお、クリートは、使用中に破損する場合があるため、定期的に点検がなされる。しかし、この点検作業は目視で行われるため、点検精度を高めるためには長時間を要し、当該作業の負荷は大きかった。
【0003】
かかる状況に鑑みて、特許文献1では、ステップの踏板の破損を検出して破損検出信号を発生すると共に、ステップの移動方向に直交する方向に移動可能な破損検出手段を備えたエスカレータ踏板破損監視装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−301566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された装置によれば、クリートの破損を自動的に検出することができる。しかし、クリートの数は多いため、この装置では、クリートの破損が発生してからそれが検出されるまでに時間がかかる場合がある。特に、乗客コンベアが長くなりステップの数が多い場合には、破損の検出に要する時間がさらに延びる場合がある。
【0006】
即ち、本発明の目的は、簡便且つ安価な手法によって、迅速にクリートの破損を検出することが可能なクリート破損検出装置、及びそれを備えた乗客コンベアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る乗客コンベアのクリート破損検出装置は、ステップのクリートの破損を検出する乗客コンベアのクリート破損検出装置であって、乗降口の床板の裏側に前記クリートの1つ乃至2つ毎に設けられ、全ての前記クリートの上面に接触する複数の探触部と、前記探触部の各々に接続され、前記探触部の変位を検知する複数の検知部と、前記検知部の一部により前記探触部の変位が検知されたときに、対応する前記クリートに破損が存在すると判定し、前記検知部の全てが前記探触部の変位を同時に検知したときには当該判定を行わない手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、複数の探触部がクリートの上面に直接触れているため、クリートに破損が発生した場合に探触部が下方に下がる等の変位を起こす。かかる変位を検知部が検知することでクリートの破損を自動的に検出することができる。なお、クリートの破損判定は、検知部の一部により探触部の変位が検知されたときになされ、検知部の全てにより当該変位が同時に検知された場合には行われない。このため、例えば、ステップ同士の間に存在する隙間に起因して誤判定がなされることを防止できる。
【0009】
本発明に係るクリート破損検出装置において、前記探触部は、前記ステップの移動により回転するローラーであることが好適である。
【0010】
本発明に係るクリート破損検出装置において、前記探触部は、前記クリートの前記上面に押し付けられており、前記検知部は、前記探触部から受ける荷重の変動を検知することにより、前記探触部の変位を検知することが好適である。
【0011】
本発明に係るクリート破損検出装置において、前記ステップに設けられ、前記ステップの各々を識別する情報を含む識別タグと、前記識別タグから前記情報を取得する読み取り器と、前記読み取り器により取得された前記情報に基づいて、前記クリートの破損が判定されたときに、当該破損が存在する前記ステップを特定する手段とをさらに備えることが好適である。当該構成によれば、ステップの数が多い場合等であっても、クリートの破損を簡単に確認することができる。
【0012】
本発明に係る乗客コンベアは、前記クリート破損検出装置と、前記クリート破損検出装置により判定された前記クリートの破損状態に基づいて、前記ステップの運転を停止させる制御装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便且つ安価な手法によって、迅速にクリートの破損を検出することができる。また、タイムリーに検出したクリートの破損状態に基づいて、ステップの運転を停止させる等、適切な処理を迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る実施形態の一例であるクリート破損検出装置、及びそれを備えたエスカレータの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示すエスカレータの乗降口を上方から見た図である。
【
図3】
図1に示す検出器の近傍を拡大した図である。
【
図5】本発明に係る実施形態の一例であるクリート破損検出装置において、クリート破損の検出のメカニズムを説明するための図である。
【
図6】本発明に係る実施形態の一例であるクリート破損検出装置において、クリート破損の検出のメカニズムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しながら、本発明に係る実施形態の一例であるクリート破損検出装置30、及びそれを備えたエスカレータ10について詳細に説明する。
【0016】
実施形態では、乗客コンベアとしてエスカレータ10を例示するが、乗客コンベアはこれに限定されず、他の形態のエスカレータや所謂動く歩道であってもよい。また、クリート破損検出装置30が上階側の乗降口14に設けられた形態を例示するが、クリート破損検出装置30は下階側の乗降口に設けられていてもよい。
【0017】
実施形態では、説明の便宜上、前後・左右・上下等の方向を示す用語を使用するが、これらはエスカレータ10の利用者にとって常識的に判断される方向を意味する。例えば、ステップ11の前後方向とは、乗降口14の近傍においてステップ11が移動する方向に沿った方向を意味し、ステップ11の左右方向とは、当該前後方向及び上下方向(鉛直方向)に直交する方向を意味する。
【0018】
まず、
図1を参照して、クリート破損検出装置30を備えるエスカレータ10の全体構成を簡単に説明する。エスカレータ10は、複数のステップ11が上階フロアと下階フロアとの間を循環する昇降装置である。また、エスカレータ10には、ステップ11と共に移動する移動手摺12が欄干13上に設けられている。そして、エスカレータ10には、上階フロアと下階フロアとに、それぞれ乗降口14が設けられている。
【0019】
ステップ11は、利用者が載る踏板15、各ステップ11の踏板15間を塞ぐライザ16、及び踏板15及びライザ16を固定する図示しないフレーム等を有する。フレームには、ステップ11の左右方向に伸びたステップ軸が設けられ、ステップ軸には、各ステップ11を連結するステップチェーン18が取り付けられている。なお、踏板15には、クリート17(詳細については後述する)が形成されている。ステップ11は、乗降口14において、床下に入り込んでスプロケット19により反転される。
【0020】
乗降口14の床下には、ステップチェーン18が掛け渡されたスプロケット19、スプロケット19を回転させる電動機20、及び後述の制御装置32等が設置された機械室22が設けられている。なお、機械室22を含む、ステップチェーン18等が配置されるエスカレータ10の内部構造部分をトラス21という。
【0021】
乗降口14には、機械室22の開口を塞ぐ床板として、ランディングプレート23及びコムプレート24が設置されている。コムプレート24は、クリート17と噛み合うコム25が取り付けられる床板であって、通常、コム25側が下方に向かって傾斜している。ランディングプレート23は、コムプレート24よりもステップ11から離れて配置された平坦な床板である。なお、点検者はランディングプレート23を取り外すことで機械室22に降りることができる。
【0022】
エスカレータ10は、ステップ11のクリート17の破損を検出するクリート破損検出装置30を備えることを特徴とする。以下、
図2〜
図5をさらに参照しながら、クリート破損検出装置30について詳細に説明する。
【0023】
クリート17は、上記のように、踏板15の上面に等間隔で設けられ、ステップ11の前後方向と平行に延びた凸状部である。踏板15の上面の端縁部にはデマケーションライン15Lが設けられているが、クリート17は、デマケーションライン15Lを含む踏板15の上面全体に設けられている。なお、クリート17とコム25とが互いに噛み合うことで、乗降口14の床板とステップ11との隙間に靴等が挟まることを防止している。
【0024】
クリート破損検出装置30は、クリート17の上面に接触してクリート17の破損を検出する接触式の検出器31を備える。さらに、クリート破損検出装置30は、検出器31による検出情報等を表示する表示装置33と、各ステップ11に取り付けたICタグ34の識別情報を読み取るリーダライタ35とを備える。
図1に示す例では、検出器31、表示装置33、及びリーダライタ35は、いずれも機械室22に設けられている。例えば、表示装置33は、機械室22の壁面に取り付けられ、リーダライタ35は、スプロケット19の近傍に取り付けられる。なお、ICタグ34は、ステップ11のフレーム等に取り付けることができ、ステップ11の各々の識別を可能とする識別情報を含む。
【0025】
本実施形態では、クリート破損検出装置30の検出情報が制御装置32に送信されて活用される。制御装置32は、エスカレータ10の動作を統合的に制御する装置であって、例えば、CPU、制御パラメータ等の入力部、及び制御パラメータや制御プログラム、検出器31による検出情報等を記憶する記録部などを備えている。
【0026】
制御装置32は、クリート破損検出装置30からクリート17の破損の検出情報を取得したときに、例えば、破損レベルを判断して、当該レベルに応じた処理を実行する。例えば、クリート17の上部が欠ける等の軽微な破損レベルの場合、表示装置33に当該情報を表示させ、ステップ11の運転を継続する。或いは、表示装置33に当該情報を表示すると共に、管理室や遠隔監視センターに異常信号を発報して、ステップ11の運転を継続する。一方、破損レベルが高い場合には、ステップ11の運転を停止させると共に、管理室等に異常信号を発報することが好適である。
【0027】
図2は、乗降口14を上方から見た様子を示す。
図2に示すように、検出器31は、コムプレート24の裏面に取り付けられている。検出器31は、例えば、ボルト等の締結部材を用いて、又は接着剤等を用いて取り付けることができる。検出器31は、デマケーションライン15Lを含む踏板15の左右方向の全長に亘って設けられ、全てのクリート17について破損の有無を同時に点検する。つまり、後述する複数のローラー40は、一列に並んで設けられている。なお、検出器31は、ステップ11の左右方向に沿って長く延びているが、途中で分離された形態又は途中で分離可能な形態であってもよい。
【0028】
図3は、
図1の検出器31の近傍を拡大して示す。
図3に示すように、検出器31は、ローラー40と、検出器本体41とで構成されており、検出器本体41がコムプレート24の裏面に取り付けられている。ローラー40は、クリート17の上面に接触する探触部である。ローラー40は、検出器本体41に対して回転可能に取り付けられ、ステップ11の移動によって受動的に回転する。即ち、ローラー40には、当該回転を可能とすべく、ステップ11の左右方向に沿って延びた回転軸43(後述の
図5参照)が設けられている。これにより、ローラー40がクリート17に強く接触した場合であっても、ステップ11のスムーズな移動は阻害されない。
【0029】
図4は、
図2のAA線断面(検出器31を除く)の一部を示す。
図4に示すように、ローラー40は、クリート17毎に設けられている。つまり、各ステップ11のクリート17の数と、ローラー40の数とは同数であり、全てのクリート17にローラー40が接触する。なお、
図4に示す例では、1つのクリート17に1つのローラー40が接触するが、クリート17の2つ毎にローラー40を設けた形態(即ち、2つのクリート17に1つのローラー40が接触する形態)としてもよい。
【0030】
図5は、検出器31の詳細を示す図であって、一部を断面図としている。
図5に示すように、検出器本体41には、複数のローラー40の各々に接続された複数の荷重検知器42が設けられている。荷重検知器42は、探触部であるローラー40の変位を検知する検知器であって、具体的には、ローラー40から受ける荷重の変動を検知することにより、ローラー40の変位(即ち、クリート17の破損)を検知する。ローラー40から受ける荷重は、クリート17の上面を押す力(以下、「押圧力」という)に対抗する力(以下、「反力」という)である。
【0031】
本実施形態では、ローラー40が圧縮バネ44によってクリート17の上面に押し付けられている。より詳しくは、圧縮バネ44の一端がローラー40の回転軸43に取り付けられて回転軸43を下方に付勢すると共に、他端が荷重検知器42に取り付けられて荷重検知器42に反力が作用している。なお、回転軸43は、検出器本体41の支持部45に支持されている。具体的には、上下方向に延びた軸受け溝46が支持部45に形成されており、かかる軸受け溝46に回転軸43が挿入されることで上下方向に移動可能に支持されている。
【0032】
上記構成を備えるクリート破損検出装置30は、ローラー40の一部の変位を検知したとき、即ち荷重検知器42の一部により荷重の変動が検知されたときに、対応するクリート17(荷重検知器42に接続されているローラー40が接触しているクリート17)に破損が存在すると判定する。一方、荷重検知器42の全てが荷重の変動を同時に検知したときには当該判定を行わない。これにより、ステップ11同士の間に存在する隙間P(
図2参照)に起因して誤判定がなされることを防止できる。なお、かかる破損判定は、例えば、検出器本体41に搭載されたマイコンにより実行される。
【0033】
また、クリート破損検出装置30は、リーダライタ35により読み取られたICタグ34の識別情報に基づいて、クリート17の破損判定がなされたときに当該破損が存在するステップ11を特定する。本実施形態では、かかる特定を制御装置32が実行する。つまり、制御装置32は、検出器31からクリート17の破損検出情報を取得すると共に、リーダライタ35からステップ11の識別情報を取得して2つの情報をリンクさせる。これにより、例えば、クリート17の破損の存在と、当該破損が存在するステップ11とを表示装置33に表示することができ、ステップ11の数が多い場合等であっても、クリート17の破損を簡単に確認することができる。
【0034】
ここで、
図6をさらに参照しながら、クリート破損検出装置30の機能について詳説する。なお、
図6では、根元から折れて破損したクリート17を「クリート17z」とし、クリート17zに関わるローラー40等の符号に「z」を付して他のローラー40等と区別している。
【0035】
図6に示すように、クリート17に破損が存在しない場合、圧縮バネ44によって付勢されたローラー40は、ステップ11の移動により受動的に回転しながらクリート17の上面を押圧している。そして、ローラー40は、クリート17から押圧力に対抗する力(以下、「反力」という)を受けており、このとき、荷重検知器42では反力による荷重が検知されている。
【0036】
一方、根元から折れたクリート17zに対応するローラー40zは、圧縮バネ44zの付勢力により下方に押し下げられている。このとき、回転軸43zは、軸受け溝46zの下端まで移動している。そして、圧縮バネ44zは、圧縮バネ44に比べて長く延びており、荷重検知器42zにより検知される荷重は荷重検知器42により検知される荷重よりも大幅に小さくなる。こうして、荷重検知器42zによってローラー40zから受ける荷重の変動が検知され、上記破損判定がなされる。
【0037】
以上のように、クリート破損検出装置30によれば、迅速にクリート17の破損を検出することができる。また、エスカレータ10によれば、制御装置32の機能によって、タイムリーに検出したクリート17の破損状態に基づいて、ステップ11の運転を停止させる等、適切な処理を迅速に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
10 エスカレータ、11 ステップ、12 移動手摺、13 欄干、14 乗降口、15 踏板、15L デマケーションライン、16 ライザ、17 クリート、18 ステップチェーン、19 スプロケット、20 電動機、21 トラス、22 機械室、23 ランディングプレート、24 コムプレート、25 コム、30 クリート破損検出装置、31 検出器、32 制御装置、33 表示装置、34 ICタグ、35 リーダライタ、40 ローラー、41 検出器本体、42 荷重検知器、43 回転軸、44 圧縮バネ、45 支持部、46 軸受け溝。