【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意研究した結果、充放電回路にて使用する際に生じるショートの発生要因を解明するべく、ショートが発生した電解コンデンサを分析したところ、陰極内部端子の表面に鉄が露出していることが分かった。この現象は、充電時において、陰極箔及び陰極内部端子付近の駆動用電解液は、酸素と水の還元反応と水素の還元反応によりアルカリ化する事が電気化学的メカニズムから確認でき、ここで、電圧差の大きい充放電回路での電解コンデンサの使用など、充電電流が多く流れる条件下では、上記の還元反応が頻繁に生じるため、陰極箔及び陰極内部端子付近の駆動用電解液のアルカリ化に大きく作用する。この還元反応は、陰極内部端子に含まれる異種金属の含有量が均一であれば、陰極内部端子の全面で反応が起きるが、陰極内部端子の一部に異種金属を多く含む部位が存在すると、該異種金属と駆動用電解液との界面に還元反応が集中して生じる。従来の陰極内部端子では、純度の高い(例えば99.99%以上の純度)アルミニウム材を用いると、柔らかく陰極箔との接続性が不安定であり、または高価であることから、純度の低いアルミニウム材が用いられており、従って主に陰極箔よりも異種金属、特に鉄金属の含有量が多い為、陰極内部端子に含有されている鉄と駆動用電解液との界面での還元反応が頻繁に発生し、陰極内部端子付近の駆動用電解液がアルカリ化に至り、これによって陰極内部端子表面の酸化皮膜やアルミニウムが溶け出し、陰極内部端子に含まれる異種金属である鉄が露出し、この鉄に電流が集中し、ショートに至ると考えられる。
【0009】
そこで、これらの部分に於いて、陰極内部端子の表面付近に存在する異種金属を極めて少量とすることでショートを防止できることを見出して本発明にいたったものである。
【0010】
また、上記の陰極内部端子以外にも、コンデンサ素子の巻き始め部分と陰極内部端子近傍に多く発生することが分かった。さらに、巻き始め部分では陽極箔を先行して巻き始めた際の陰極箔端部に対向する陽極箔でショートが発生し、陰極内部端子に対向する陽極箔でショートが発生していた。また、充放電電圧印加の際の充電終了後にショートが発生することもわかった。ここで電解コンデンサの構造を考察すると、電解コンデンサでは陽極箔の酸化皮膜が誘電体となり、この酸化皮膜に対向する陰極箔との間に電荷が蓄積されてコンデンサを形成する。ここで陽極箔に対向する陰極箔がないか、もしくは陰極箔の面積が小さいと、これらの部分の陽極箔の電荷がもっとも近い陰極箔、もしくは小さい面積の陰極箔に対向する部分に集中する。そしてこれまでにない厳しい条件での充放電印加によって誘電体皮膜が劣化したうえに、充電終了後の電荷が最大に蓄積された状態で誘電体皮膜に大きな電圧が印加されてショートにいたると推察された。すなわち、陽極箔を先行して巻き始めた際には、陽極箔に対向する陰極箔がない状態となり、陰極内部端子においては陽極箔に対向するのは面積の小さな平坦な陰極内部端子であって、前者の場合は対向する陰極箔のない陽極箔の部分の電荷のすべてが陰極箔の端部に対向する部分に集中し、後者の場合は平坦な陰極内部端子に対向する部分に集中してショートにいたる。このことは、電解コンデンサ駆動用電解液を用いた電解コンデンサについての考察であるが、固体電解質を用いた電解コンデンサについても同様の挙動を考えることができる。
【0011】
そこで、これらの部分において、陽極箔に対向する陰極箔の面積を拡大することに着眼して本発明にいたったものである。
【0012】
本発明の電解コンデンサは、陽極内部端子を備えた陽極箔と陰極内部端子を備えた陰極箔とを、セパレータを介して巻回又は積層したコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸した電解コンデンサにおいて、前記陰極内部端子は、表面を溶解処理されたアルミニウムからなり、該溶解処理層中の鉄の濃度を40ppm以下としたことを特徴としている。また前記溶解処理がエッチング処理であることを特徴とする。
【0013】
このように、溶解処理(エッチング処理)により、陰極内部端子の表面を溶解させることで、溶解処理層(エッチング層)中の鉄の濃度を所定量に制限することで、該溶解処理層(エッチング層)の表面付近に残存する鉄を極めて少量とすることができ、この鉄に起因して発生するショートを防止することができる。つまり、純度99.9%のアルミニウムの合金中では、アルミニウムは多結晶の状態となっており、固溶限界を超えた鉄はアルミニウムの結晶界面に偏析した状態となっている。また、結晶界面にはその他の不純物成分も偏析した状態となっている。このようなアルミニウム合金をエッチング等の溶解処理を施した際には、アルミニウムの結晶界面はアルミニウムの結晶部分に比べると、鉄やその他の不純物成分による局部電池等の作用によって、溶解速度がより速いものとなる。このように結晶界面で溶解がより早く進行することにより結晶界面に偏析して存在する鉄は脱落しやすいものとなる。このような作用のため、マクロ的にみると、エッチングによって鉄が選択的に脱落するようになり、陰極内部端子のエッチング層中の鉄濃度が減少するとともに、少なくともエッチング層の表面付近に露出する鉄は極めて少ないものとなる。なお、前記溶解処理層(エッチング層)中の鉄の濃度は、300ppm未満が好ましく40ppm以下が最適である。
【0014】
また、本発明の電解コンデンサは、陽極内部端子を備えた陽極箔と、陰極内部端子を備えた陰極箔とを、セパレータを介して巻回又は積層したコンデンサ素子を用いた電解コンデンサにおいて、陽極箔の端部がセパレータを介して陰極箔に対向し、かつ陰極内部端子は表面を拡面処理されている。以上の本発明の電解コンデンサにおいては、陽極箔の端部がセパレータを介して陰極箔に対向しているので、陽極箔の端部において陰極箔が対向し、電荷が集中することがない。さらに、陰極内部端子に拡面処理を施しているので、陽極箔に対向する陰極内部端子の面積が拡大する。これらのことによって、陽極箔に電荷の集中する部分がなくなって、充放電特性が向上する。
【0015】
さらに、本発明の電解コンデンサは、陽極内部端子を備えた陽極箔と、陰極内部端子を備えた陰極箔とを、セパレータを介して巻回したコンデンサ素子を用いた電解コンデンサにおいて、陰極箔を陽極箔に先行させて巻き始めて巻回し、かつ陰極内部端子は表面を拡面処理されている。陰極箔を陽極箔に先行させて巻き始め、陰極箔で巻き終わるようにして、巻回することによって、陽極箔の端部において陰極箔が対向させることができる。そして、陽極箔を内側に巻回した際には、巻き始め端の陽極箔の内側には対向する陰極箔がない状態となるが、先行した陰極箔が巻きこまれて巻き始め端の陽極箔に対向するので、電荷の集中を抑制することができて、充放電特性が向上する。
【0016】
また、陽極内部端子を備えた陽極箔と、陰極内部端子を備えた陰極箔とを、セパレータを介して巻回又は積層したコンデンサ素子を用いた電解コンデンサにおいて、陽極箔全面がセパレータを介して陰極箔に対向し、かつ陰極内部端子は表面を拡面処理を施す。このことによって、陽極箔の端部のみならず、陽極箔の全面が陰極箔に対向して、さらに充放電特性が向上する。
【0017】
以上の本発明の電解コンデンサにおいて、表面に拡面処理を施した陰極内部端子を陰極箔に接合する際には、コールドウェルド等の陰極表面に損傷をあたえない方法を用いる。従来のような電極箔と内部端子を重ね、針状の穿孔具を突き刺して、その後に押しつぶして接合するような方法では、電極箔、内部端子の切断面が露出する。すなわち、このような方法では拡面処理されない部分が発生し、陽極箔に対向する陰極箔に面積の小さな部分が発生するので本願の効果は大きく低減するので好ましくない。
【0018】
また、陽極箔の端部がセパレータを介して陰極箔に対向し、陰極内部端子は表面を拡面処理されていない電解コンデンサと、陽極箔の端部がセパレータを介して陰極箔に対向せず、陰極内部端子は表面を拡面処理されている電解コンデンサの充放電特性は前者の方が良好であった。このことから、陰極箔の端部のほうが拡面処理しない陰極内部端子より、陽極箔に対向する面積が小さいことがわかる。
【0019】
以上のように、本発明の電解コンデンサにおいては、陽極箔の電荷の集中しやすい部分においては陰極箔と対向させ、さらに陰極箔の面積が小さい部分がないようにすることによって、本願の効果を得ているものである。
【0020】
また、前記陰極内部端子のアルミニウム純度が99.9%以上であることを特徴とする。これによると、陰極内部端子に用いるアルミニウムを高純度とすることで、陰極内部端子の鉄の含有量を予め少なくし、溶解処理後の陰極内部端子の溶解処理層の表面付近における鉄の濃度を低減し、ショート発生を防止することができる。
【0021】
また、前記陰極内部端子には、化成皮膜が形成されていることを特徴とする。これによると、陰極内部端子の表面を化成皮膜で覆うことにより、該陰極内部端子の表面付近に残存した鉄と駆動用電解液における還元反応を抑制し、陰極内部端子付近のアルカリ化を効果的に防止できる。
【0022】
また、前記陰極箔は、エッチング処理が施され、このエッチング倍率に対して陰極内部端子のエッチング倍率を70%以上とすることを特徴とする。これによると、陰極内部端子の静電容量を増やすことで、陰極内部端子への電力集中が低減され、陰極内部端子付近でのアルカリ化を抑制できる。
【0023】
また、前記駆動用電解液は、そのpHが5〜7であることを特徴とする。これによると、駆動用電解液のpHを弱酸性側にすることによって、陰極内部端子付近に生成されたアルカリを中和により抑制できる。
【0024】
また、前記セパレータの低密度側の面を前記陰極内部端子に対面するように配置したことを特徴とする。これによると、前記セパレータの低密度側の面は、駆動用電解液の保持性が高く、陰極内部端子付近への駆動用電解液の供給量を充分に確保でき、陰極内部端子付近のアルカリ化を抑制できる。
【0025】
また、クラフト、ヘンプ、コットンを含むセパレータを用いることで、セパレータの駆動用電解液の保持性をさらに高め、陰極内部端子付近への駆動用電解液の供給量を充分に確保でき、陰極内部端子付近のアルカリ化を抑制できる。
【0026】
さらに、アミン塩を含有する駆動用電解液を用いることによって、誘電体皮膜の皮膜特性が向上して、とくに電圧差の大きな充放電に対する特性が向上する。
【0027】
また、誘電体皮膜がアルミニウム上の均一に結晶化した層とこの層上のけい素を含む層からなる陽極箔を用いることによって、さらに誘電体皮膜の皮膜特性が向上して、とくに電圧差の大きな充放電に対する特性が向上する。