(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述の磁気ディスク用のガラスブランクの製造方法で成形されるガラスブランクの表面精度は、上述の磁気記録の高密度化および磁気記録情報エリアの微細化のために求められる主表面の表面精度に対して十分でない。
例えば、板状ガラスブランクを成形する際、ガラスが上型および下型の型表面に融着するのを防止するために型表面に離型剤を塗布するが、離型剤を用いるためにガラスブランクの主表面の表面粗さは大きい。また、上型および下型の表面温度差が大きく、ガラスコブ(溶融ガラスの塊)が供給される下型は高温となる。この表面温度差は、成形されたガラスブランクの厚さ方向およびこの板の面内で温度分布をつくるため、板状のガラスブランクの収縮量もガラスブランクの厚さ方向およびこの板の面内で分布を持つ。このため、ガラスブランクは反り易く、その結果、成形されたときのガラスブランクの平坦度は悪い。
【0010】
このようなガラスブランクの平坦度は、研削(第1研削工程)により向上させることができる。例えば、平坦度の向上のために研削工程における取り代(削り量)を大きくする。しかし、研削工程における取り代を大きくすると、ガラスブランクの表面に深いクラックが入るため、深いクラックが残留しないように、後工程である研磨工程においても取り代(研磨量)は必然的に大きくなる。しかし、遊離砥粒および樹脂ポリッシャを用いる研磨工程において取り代を大きくすると、ガラスブランクの主表面の外周エッジ部近傍が丸く削られて、エッジ部の「だれの問題」が発生する。すなわち、ガラスブランクの外周エッジ部近傍が丸く削られるため、このガラスブランクをガラス基板として用いて磁気ディスクを作製したとき、外周エッジ部近傍の磁性層と磁気ヘッドとの間の距離が、ガラス基板の別の部分における磁気ヘッドの浮上距離より大きくなる。また、外周エッジ部近傍が丸みを持った形状となるため、表面凹凸が発生する。この結果、外周エッジ部近傍の磁性層において磁気ヘッドの記録及び読み出しの動作が正確でなくなる。これが「だれの問題」である。
また、研磨工程における取り代が大きくなるため、研磨工程は長時間を要する等により実用上好ましくない。
【0011】
一方、上述の情報記録媒体用のガラスブランクを製造する方法では、突条が金型のプレス成型面に設けられているので、金型でガラスをプレスするときのプレス成形面上の温度はガラスブランクの周りで均一でない。このため、成形されたガラス基板の面取り形状以外の部分では平坦度が低下する。低下した平坦度を上げるために、プレス成形後のガラスブランクに研削が行われるが、ガラスブランクには、研削のための取り代が必要となるため、ガラスブランクは、最終的に作製される情報記録媒体用ガラス基板に比べて予め厚く成形される。このため、プレス成形後のガラスブランクの板厚を情報記録媒体用ガラス基板の板厚に近づけることはできない。また、上記突条をプレス成形面に備えた金型を用いてプレス成形をしたとき、上記突条は、プレス成形中の冷却で生じるガラスブランクの収縮の障害物となり、ガラスブランクを破損させる場合がある。また、プレス成形面の上記突条の部分と平面状の部分との間のガラスブランクの冷却の違いにより、ガラスブランクに温度差が生じ、この温度差によって生じる熱歪によってガラスブランクが破損するおそれもある。
また、突条が設けられた上述の金型を用いて滴下する溶融ガラスの塊を用いてガラスブランクを成形する場合、溶融ガラスの高い温度条件では、滴下する溶融ガラスの塊であるガラスゴブは球形状にならず、円形状のガラスブランクが成形されない場合がある。また、溶融ガラスの高い温度条件では、金型のプレス成形面上の離型剤が必要となり、この結果ガラスブランクの主表面の表面粗さは大きくなる。
このように、突条をプレス成形面に設けた金型を用いたプレス成形では、主表面に十分な表面精度を持った円形状のガラスブランクを効率よく作製することはできない。
【0012】
そこで、本発明は、主表面の表面凹凸を抑制した磁気ディスク用ガラス基板及びガラスブランクを、効率よく製造する方法及び磁気ディスク用ガラス基板及びガラスブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。
当該方法は、
溶融ガラスあるいは軟化したガラスを両側から挟むように金型の平面状のプレス成形面でプレスすることにより、ガラスブランクを成形する工程と、
前記ガラスブランクを研磨する工程と、を有し、
前記成形する工程では、前記ガラスブランクのプレス中における一対の主表面周りの温度条件を揃える。
【0014】
このとき、前記成形する工程では、前記ガラスブランクのプレス中における一対の主表面と接する前記プレス成形面同士で温度を揃えること、また、前記成形する工程では、プレス直前の溶融ガラスあるいは軟化したガラスの両側に位置する前記金型の温度を揃えることが、前記ガラスブランクの前記一対の主表面周りの温度条件を揃えて、ガラスブランクの熱的均衡を実現する点で好ましい。
また、前記金型で溶融ガラスあるいは軟化したガラスをプレスするとき、プレス直前の溶融ガラスあるいは軟化したガラスの両側に位置する前記金型の、溶融ガラスあるいは軟化したガラスへの接触を同時に開始させることが、前記ガラスブランクの前記一対の主表面周りの温度条件を揃えて、ガラスブランクの熱的均衡を実現する点で好ましい。
【0015】
前記研磨する工程では、前記ガラスブランクは、前記一対の主表面が成形されたときの表面凹凸の状態で研磨されることが好ましい。
【0016】
この場合、例えば、前記磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚は設定されており、前記ガラスブランクを成形する工程で成形される前記のガラスブランクの板厚は、前記目標板厚と同等である。
【0017】
あるいは、前記磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚は設定されており、前記のガラスブランクを成形する工程で成形される前記ガラスブランクの板厚は、前記目標板厚より厚い板厚であり、前記ガラスブランクを研磨する工程の前に、前記ガラスブランクの板厚を前記目標板厚と同等に削る研削工程を有する、ことも同様に好ましい。
【0018】
本発明の他の一態様は、前記方法で製造された磁気ディスク用ガラス基板であって、前記主表面の平坦度が4μm以下であり、前記主表面の粗さが0.2nm以下の表面凹凸を有する、磁気ディスク用ガラス基板である。
【0019】
本発明のさらに他の一態様は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。当該製造方法は、
溶融ガラスあるいは軟化したガラスを1つの塊として落下させる工程と、
落下中の前記塊を、落下方向に対して直交する方向から一対の金型でプレスすることにより、円板状のガラスブランクを成形する工程と、を有し、
前記ガラスブランクを成形する工程では、前記金型のプレスの開始からプレスされた前記塊の温度が歪点に下がるまでの間、前記金型の両側のプレス成形面の前記塊と接する部分の温度が、前記プレス成形面同士で揃うように前記塊をプレスすることにより、前記ガラスブランクの平坦度を、磁気ディスク用ガラス基板に与えられる目標平坦度にする。
【0020】
その際、前記ガラスブランクを成形する工程では、前記両側のプレス成形面の温度差が5度以下である、ことが好ましい。
前記磁気ディスク用ガラス基板の熱膨張係数は、例えば、30〜100×10
-7(K
-1)の範囲内である。
【0021】
また、本発明の他の一態様は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。当該方法は、
溶融ガラスあるいは軟化したガラスを1つの塊として落下させる工程と、
落下中の前記塊を、落下方向に対して直交する方向から一対の金型でプレスすることにより、円板状のガラスブランクを成形する工程と、
前記ガラスブランクの両側の主表面に対して、固定砥粒を用いて研削を行う工程と、を有し、
前記ガラスブランクを成形する工程では、前記金型のプレスの開始から、プレスされたガラスブランクの温度が歪点に下がるまでの間、前記金型の両側のプレス成形面の前記ガラスブランクと接する部分の温度が、前記プレス成形面同士で揃うように前記ガラスブランクをプレスすることにより、前記ガラスブランクの平坦度を、磁気ディスク用ガラス基板に与えられる目標平坦度にし、かつ、前記ガラスブランクの断面形状が外周側から中心側に向かうに従って板厚が減少するガラスブランクを成形する。
【0022】
その際、前記製造方法は、さらに、前記ガラスブランクの研削工程後、研磨パッドを用いて研磨をする工程を有し、前記研磨によって得られるガラス基板の板厚は、前記ガラスブランクにおける板厚の最大厚さの80%〜96%の範囲に入る、ことが好ましい。
成形された前記ガラスブランクの平坦度は、4μm以下である、ことが好ましい。
【0023】
また、本発明の一態様は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法である。当該方法は、
溶融ガラスあるいは軟化したガラスの塊を落下させる工程と、
落下中の前記塊を両側から挟むように金型の平面状のプレス成形面でプレスすることにより、ガラスブランクを成形する工程と、を有し、
前記ガラスブランクのプレス中における一対の主表面と接する前記プレス成形面同士の温度を揃える。
【0024】
本発明の一態様は、磁気ディスク用ガラス基板を製造するための磁気ディスク用ガラスブランクであって、断面形状が外周側から中心側に向かうに従って板厚が減少する凹形状であり、最大厚さと最小厚さの差が8μm以下であることを特徴とする磁気ディスク用ガラスブランクである。
本発明の一態様は、上記磁気ディスク用ガラスブランクにおいて、ヘイズ率が20%以上であることを特徴とする。
また、本発明の一態様は、
上記磁気ディスク用ガラスブランクにおいて、主表面の平坦度が4μm以
下であることを特徴とする。
さらに、本発明の一態様は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板を製造するためのガラスブランクの製造方法であって、溶融ガラスを両側から挟むように金型の平面状のプレス成形面でプレスすることにより、ガラスブランクを成形する工程を有し、前記成形する工程では、プレス開始からプレスされた前記溶融ガラスの温度が歪点に下がるまでの間、金型の両側のプレス成形面の前記溶融ガラスと接する温度がプレス成形面同士で揃うように、前記溶融ガラスをプレスする。
さらに、本発明の一態様は、一対の主表面を有する磁気ディスク用ガラス基板を製造するためのガラスブランクの製造方法であって、溶融ガラスを両側から挟むように金型の平面状のプレス成形面でプレスすることにより、ガラスブランクを成形する工程を有し、前記成形する工程では、前記溶融ガラスが前記プレス成形面に接触してからプレス成形面が閉じられるまでの時間を0.1秒以下とする。
上記ガラスブランクの製造方法において、前記溶融ガラスを落下させる工程をさらに含み、前記ガラスブランクを成形する工程では、落下中の前記溶融ガラスを両側から挟むように金型の平面状のプレス成形面でプレスすることによりガラスブランクを成形することが好ましい。
上記ガラスブランクの製造方法において、前記金型で前記溶融ガラスをプレスするとき、プレス直前の溶融ガラスの両側に位置する前記金型の、溶融ガラスへの接触を同時に開始させることが好ましい。
上記ガラスブランクの製造方法において、一方の金型と溶融ガラスとの接触と、他方の金型と溶融ガラスとの接触との差が、10msec以下であることが好ましい。
本発明の一態様は、上記ガラスブランクの製造方法によって得られたガラスブランクの主表面を研磨する工程を有する。前記研磨する工程では、前記ガラスブランクは、前記成形する工程によって成形されたときの表面凹凸の状態で研磨されることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
上述の磁気ディスク用ガラス基板及びガラスブランクの製造方法では、主表面の表面凹凸を抑制した磁気ディスク用ガラス基板及びガラスブランクを、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板及びガラスブランクの製造方法および磁気ディスク用ガラス基板及びガラスブランクについて詳細に説明する。
なお、本明細書では、溶融ガラスの塊であるガラスゴブ(以降、単にゴブという)をプレス成形して得られた板状ガラス素材をガラスブランクあるいは磁気ディスク用ガラスブランクといい、ガラスブランクに研削あるいは研磨等の少なくとも1つの加工を施したものをガラス基板といい、本実施形態の製造工程を通して作製されたガラス基板を磁気ディスク用ガラス基板という。
図1(a)〜(c)は、本発明の磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクを説明する図である。
【0028】
(磁気ディスクおよび磁気ディスク用ガラス基板)
図1(a)に示す、ハードディスク装置に用いる磁気ディスク1は、リング状の磁気ディスク用ガラス基板2の主表面に、
図1(b)に示すように少なくとも磁性層(垂直磁気記録層)等を含む層3A,3Bが形成されている。より具体的には、層3A,3Bには、例えば、図示されない付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層が含まれる。付着層には、例えばCr合金等が用いられ、付着層は磁気ディスク用ガラス基板2との接着層として機能する。軟磁性層には、例えばCoTaZr合金等が用いられ、非磁性下地層には、例えばグラニュラー非磁性層等が用いられ、垂直磁気記録層には、例えばグラニュラー磁性層等が用いられる。また、保護層には、水素化カーボンからなる材料が用いられ、潤滑層には、例えばフッ素系樹脂等が用いられる。
【0029】
磁気ディスク1について、より具体的な例で説明すると、磁気ディスク用ガラス基板2に対して、インライン型スパッタリング装置を用いて、磁気ディスク用ガラス基板2の両主表面に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、CoCrSiO
2の非磁性グラニュラー下地層、CoCrPt−SiO
2・TiO
2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜が順次成膜される。さらに、成膜された最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層が成膜される。
【0030】
磁気ディスク1は、
図1(c)に示すように、ハードディスク装置の磁気ヘッド4A,4Bのそれぞれが、磁気ディスク1の高速回転、例えば7200rpmの回転に伴って磁気ディスク1の表面から5nm浮上する。すなわち、
図1(c)中の距離Hが5nmである。この状態で、磁気ヘッド4A,4Bは、磁性層に情報を記録し、あるいは読み出しを行う。この磁気ヘッド4A,4Bの浮上によって、磁気ディスク1に対して摺動することなく、しかも近距離で磁性層に対して記録あるいは読み出しを行うので、磁気記録情報エリアの微細化と磁気記録の高密度化を実現する。
このとき、磁気ディスク1の磁気ディスク用ガラス基板2の中央部から外周エッジ部5まで、目標とする表面精度で正確に加工され、距離H=5nmを保った状態で磁気ヘッド4A,4Bを正確に動作させることができる。
このような磁気ディスク用ガラス基板2の元となる円板状のガラスブランクの表面凹凸の加工は、後述するように、取り代が小さい研削工程、及び取り代が小さい第1研磨および第2研磨を経て、あるいは研削工程がなく取り代の小さい第1研磨および第2研磨のみを経て作製される。したがって、従来の「だれの問題」が解消される。
【0031】
このような磁気ディスク1に用いる磁気ディスク用ガラス基板2の主表面の表面凹凸は、平坦度が例えば4μm以下であり、表面の粗さが例えば0.2nm以下である。4μm以下は、最終製品としての磁気ディスク用ガラス基板2に求められる目標平坦度である。平坦度は、例えば、Nidek社製フラットネステスターFT−900を用いて測定することができる。また、主表面の粗さはJIS B0601:2001により規定され算術平均粗さRaで表され、0.006μm以上200μm以下の場合は、例えば、ミツトヨ社製粗さ測定機SV−3100で測定し、JIS B0633:2001で規定される方法で算出できる。また粗さが0.03μm以下であった場合は、例えば、エスアイアイナノテクノロジーズ社製走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)で計測しJIS R1683:2007で規定される方法で主表面の粗さは算出できる。
本明細書では、ガラスブランクの表面粗さについては、ミツトヨ製粗さ測定機SV−3100を用いて測定した結果を用い、研磨後の磁気ディスク用ガラス基板の表面粗さについては上記走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)にて測定した結果を用いている。
【0032】
図2(a)〜(d)は、表面凹凸を説明する図である。表面凹凸は、凹凸の波長に応じて概略4つの凹凸によって定めることができる。
具体的には、表面凹凸は、最も波長が大きな平坦度(波長0.6μm〜130mm程度)、ウェービネス(波長0.2μm〜2mm程度)、マイクロウェービネス(波長0.1μm〜1mm)、粗さ(波長10nm以下)に分けられる。
この中で、粗さは上記Raを指標として表すことができる。
【0033】
このような磁気ディスク用ガラス基板の元となるガラスブランクは、後述するようにプレス成形後、第2研削工程、第1研磨工程および第2研磨工程を経て、あるいは、プレス成形後、第1研磨工程および第2研磨工程を経て、平坦度が例えば4μm以下であり、表面の粗さが例えば0.2nm以下の表面凹凸を有する、設定された目標板厚を持った磁気ディスク用ガラス基板となる。
【0034】
ところで、成形直後のガラスブランクの表面凹凸および目標板厚は必ずしも上記数値範囲に含まれない。
例えば、磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚に対してプレス成形においてガラスブランクが厚く成形されるように定められている場合、例えば、目標板厚に対して10μm〜150μm厚いガラスブランクが作製される場合、プレス成形後、第1研磨工程の前に固定砥粒による研削工程が行われる。この場合、ガラスブランクは、磁気ディスク用ガラス基板として必要な主表面の目標平坦度、具体的には主表面の平坦度が4μm以下であり、主表面の粗さが0.01μm以上10μm以下である表面凹凸を持つように成形されることが好ましい。
ガラスブランクの表面の平坦度を磁気ディスク用ガラス基板として必要な主表面の目標平坦度とするのは、平坦度及び板厚を調整する従来の第1研削工程を行うことなく磁気ディスク1に用いる磁気ディスク用ガラス基板2の平坦度を維持するためであり、磁気ヘッド4A,4Bによる適切な記録と読み取りの動作を可能にするためである。このような磁気ディスク用ガラス基板の元となるガラスブランクは、一例を挙げると、後述するプレス成形により作製することができる。従来のプレス成形では、平坦度が4μm以下のガラスブランクを成形することはできない。
また、このとき成形されるガラスブランクはヘイズ率が20%以上の光学特性を有することが好ましい。ガラスブランクのヘイズ率を20%以上にすることにより、後述する固定砥粒による研削工程で効率良く研削することができる。なお、ヘイズ率は、JIS K7105およびJIS K7136で規定される。
【0035】
ガラスブランクの表面の粗さを0.01μm以上とするのは、ガラスブランクを後述する固定砥粒による研削を効率よく行うためである。ガラスブランクの表面の粗さを10μm以下とするのは、研削により深く進行したクラックを除去するために研磨による取り代が大きくなるのを抑制するためである。また、ガラスブランクの主表面の表面粗さを10μm以下とすることにより、磁気ディスク用ガラス基板として求められる表面粗さRaに確実に調整することができる。また、スクライブを含むガラスブランクの形状加工を効率よく行うために、ガラスブランクの表面の粗さは、0.01μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。なお、スクライブを含む形状加工工程とは、ガラスブランクの外径が、目的物たる磁気ディスク用ガラス基板の外径よりも大きい場合や、円孔を形成する場合に、ガラスブランクの表面に切り筋を入れて、ディスク形状のガラス基板を得る工程である。ガラスブランクの表面の粗さを上記範囲とすることにより、スクライブを行う際に用いるダイヤモンドホイールカッターによりガラス基板の表面に形成する円形状の切り筋の円形状をより新円形状に近づけることができるため、磁気ディスク用ガラス基板に形成される内側の円孔形状および外形形状の真円度を向上させることができる。
このようなガラスブランクの表面凹凸は、プレス成形に用いる金型の表面の粗さを調整することにより達成することができる。
【0036】
上記ガラスブランクの板厚は、固定砥粒による研削、研磨による取り代を考慮すると、磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚に対して100μm〜200μm程度厚く設計されてよいが、上記ガラスブランクに対して固定砥粒による研削を行わず、直接研磨工程を行うことを想定している場合には、上記ガラスブランクの板厚は、磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚に対して10μm〜50μm程度厚いことが好ましい。ここで、後者の場合には、ガラスブランクは、具体的には主表面の平坦度が4μm以下であり、主表面の粗さが0.2μm以下の表面凹凸を持つように成形されることが好ましい。
本明細書において、「ガラスブランクの板厚が磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚と同等」とは、ガラスブランクの板厚が、磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚よりも研磨工程による取り代分だけ厚いこと、すなわち10μm〜50μm厚いことを意味し、「ガラスブランクの板厚が磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚よりも厚い」とは、ガラスブランクの板厚が、磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚よりも固定砥粒による研削による取り代、及び、研磨工程による取り代分だけ厚いこと、すなわち100μm〜200μm厚いことを意味する。
【0037】
磁気ディスク1に用いる磁気ディスク用ガラス基板2の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
アルミノシリケートガラスとして、モル%表示で、SiO
2を57〜74%、ZnO
2を0〜2.8%、Al
2O
3を3〜15%、Li
2Oを7〜16%、Na
2Oを4〜14%、を主成分として含有する、化学強化用ガラス材を用いることが好ましい。
【0038】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
図3(a),(b)は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一実施形態のフローを示す図である。
まず、ガラスブランクをプレス成形により作製する(ステップS10)。プレス成形では、上述したように、成形しようとするガラスブランクの表面凹凸と板厚に応じて、
図3(a),(b)に示すように、固定砥粒による研削を行うか否かが定まる。
このようなプレス成形は、例えば
図4及び
図5に示す装置を用いて行われる。また、このプレス成形は、
図6、
図7、あるいは
図8に示す装置を用いて行うこともできる。
図4はプレス成形をする装置101の平面図であり、
図5〜8は、装置がプレス成形をする様子を側面から見た図である。
【0039】
以下に説明するプレス成形工程において、ガラスブランクのプレス中、ガラスブランクから金型に向かって熱が流れる。したがって、ガラスブランクの一対の主表面周りの温度条件を揃えることにより、より具体的には、ガラスブランクのプレス中における一対の主表面と接する金型のプレス成形面同士の温度、さらには温度勾配を揃えることにより、ガラスブランクの一対の主表面から均等に金型に熱が伝わる。したがって、ガラスブランクから金型に伝わる熱は均等になり、ガラスブランクの一対の主表面の温度は略同一に冷却される。勿論、温度条件を揃えるために、プレス直前の金型の温度が揃えられることが好ましい。プレス中の上記温度条件によって、ガラスブランクの一対の主表面において冷却段階での熱的均衡が実現される。このため、冷却段階の金型の微小熱変形に起因するガラスブランクの表面凹凸は小さい。また、一対の主表面間の温度差が無いので、成形されたガラスブランクの熱歪みもない。このため、成形されるガラスブランクの平坦度の精度は高く、例えば4μm以下にすることができる。
【0040】
(a)プレス成形工程
図4に示す装置101は、4組のプレスユニット120,130,140及び150と、切断ユニット160を有する。切断ユニット160は、溶融ガラス流出口111から流出する溶融ガラスの経路上に設けられる。装置101は、切断ユニット160によって切断されてできる溶融ガラスの塊を落下させ、そのとき、塊の落下経路の両側から、互いに対向する一対の型の面で塊を挟み込みプレスすることにより、ガラスブランクを成形する。
具体的には、
図4に示されるように、装置101は、溶融ガラス流出口111を中心として、4組のプレスユニット120,130,140及び150が90度おきに設けられている。
【0041】
プレスユニット120,130,140及び150の各々は、図示しない移動機構によって駆動されて、溶融ガラス流出口111に対して進退可能となっている。すなわち、溶融ガラス流出口111の真下に位置するキャッチ位置(
図4においてプレスユニット140が実線で描画されている位置)と、溶融ガラス流出口111から離れた退避位置(
図4において、プレスユニット120,130及び150が実線で描画されている位置及び、プレスユニット140が破線で描画されている位置)との間で、プレスユニット120,130,140及び150の各々は移動可能となっている。
【0042】
切断ユニット160は、キャッチ位置と溶融ガラス流出口111との間の溶融ガラスの経路上に設けられ、溶融ガラス流出口111から流出される溶融ガラスを適量に切り出して溶融ガラスの塊であるゴブを形成する。切断ユニット160は、一対の切断刃161及び162を有する。切断刃161及び162は、一定のタイミングで溶融ガラスの経路上で交差するよう駆動され、切断刃161及び162が交差したとき、溶融ガラスが切り出されてゴブが得られる。得られたゴブは、キャッチ位置に向かって落下する。
【0043】
プレスユニット120は、第1の型121、第2の型122、第1駆動部123及び第2駆動部124(
図4参照)を有する。第1の型121と第2の型122の各々は、ゴブをプレス成形するためのプレス成形面を有するプレート状の金型である。プレス成形面は、従来の金型のような突条が設けられておらず、平面状である。この2つの面の法線方向が略水平方向となり、この2つの面が互いに平行に対向するよう配置されている。第1駆動部123は、第1の型121を第2の型122に対して進退させる。一方、第2駆動部124は、第2の型122を第1の型121に対して進退させる。第1駆動部123及び第2駆動部124は、例えばエアシリンダやソレノイドとコイルばねを組み合わせた機構など、第1駆動部123の面と第2駆動部124の面とを急速に近接させる機構を有する。
なお、プレスユニット130,140及び150の構造は、プレスユニット120と同様であるため、説明は省略する。
【0044】
プレスユニットの各々は、キャッチ位置に移動した後、第1駆動部123と第2駆動部124の駆動により、落下するゴブを第1の型と第2の型の間で挟み込んで所定の厚さに成形すると共に少なくとも歪点まで急速冷却し、円形状のガラスブランクGを作製する。つぎに、プレスユニットは退避位置に移動した後、第1の型と第2の型を引き離し、成形されたガラスブランクGを落下させる。なお、歪点は、10
14.7dPa・秒の粘度に相当する温度であり、JIS R3103−2:2001に規定される方法により測定され得る。プレスユニット120,130,140及び150の退避位置の下には、第1コンベア171、第2コンベア172、第3コンベア173及び第4コンベア174が設けられている。第1〜第4コンベア171〜174の各々は、対応する各プレスユニットから落下するガラスブランクGを受け止めて図示しない次工程の装置にガラスブランクGを搬送する。
【0045】
装置101では、プレスユニット120,130,140及び150が、順番にキャッチ位置に移動して、ゴブを挟み込んで退避位置に移動するよう構成されているため、各プレスユニットでのガラスブランクGの冷却を待たずに、連続的にガラスブランクGの成形を行うことができる。
【0046】
図5(a)〜(c)は、装置101を用いたプレス成形をより具体的に説明している。
図5(a)は、ゴブを作る以前の状態を示す図であり、
図5(b)は、切断ユニット160によってゴブが作られた状態を示す図であり、
図5(c)は、ゴブをプレスすることにより主表面が平面状を成した円板状のガラスブランクGが成形された状態を示す図である。
【0047】
図5(a)に示されるように、溶融ガラス流出口111から、溶融ガラス材料L
Gが連続的に流出される。このとき、装置101は、所定のタイミングで切断ユニット160を駆動し、切断刃161及び162によって溶融ガラス材料L
Gを切断する(
図5(b))。これにより、切断された溶融ガラスは、その表面張力によって、概略球状のゴブG
Gとなる。図示される例では、一回切断ユニット160を駆動する度に、例えば半径10mm程度のゴブG
G が形成されるように、溶融ガラス材料L
Gの時間当たりの流出量及び切断ユニット160の駆動間隔が調整される。
【0048】
作られたゴブG
G は、プレスユニット120の第1の型121と第2の型122の隙間に向かって落下する。このとき、ゴブG
G が第1の型121と第2の型122の隙間に入るタイミングで、第1駆動部123及び第2駆動部124(
図4参照)が駆動され、第1の型121と第2の型122が近接して、第1の型121と第2の型122が略同時にゴブG
G に接触する。これにより、
図5(c)に示されるように、第1の型121と第2の型122の間にゴブG
G が捕獲(キャッチ)される。さらに、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aとが、微小な間隔にて近接した状態になり、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間に挟み込まれたゴブG
G が、薄板状に成形される。なお、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間隔を一定に維持するために、第2の型122の内周面122aには、突起状のスペーサ122bが設けられる。すなわち、第2の型のスペーサ122bが第1の型121の内周面121aに当接することによって、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間隔は一定に維持されて、板状の空間が作られる。
【0049】
第1の型121及び第2の型122には、図示しない温度調節機構が設けられており、しかも、第1の型121及び第2の型122は、同じ温度雰囲気内にある。第1の型121及び第2の型122の温度は、溶融ガラスL
Gのガラス転移温度T
Gよりも十分に低い同じ温度に保持されている。すなわち、プレス前の第1の型121及び第2の型122は同等の温度状態にある。
装置101では、ゴブG
G が第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aに略同時に(誤差10m秒以下)接触を開始してから、第1の型121と第2の型122とがゴブG
Gを完全に閉じ込める状態になるまでの時間は約0.06秒と極めて短い。このため、ゴブG
G は極めて短時間の内に第1の型121の内周面121a及び第2の型122の内周面122aに沿って広がって略円形状に成形され、さらに、急激に冷却されて非晶質のガラスとして固化する。これによって、ガラスブランクGが作製される。なお、本実施形態において成形されるガラスブランクGは、例えば、直径75〜80mm、厚さ約1mmの円形状の板である。
【0050】
第1の型121と第2の型122が閉じられた後、プレスユニット120は速やかに退避位置に移動し、代わりに、他のプレスユニット130がキャッチ位置に移動し、このプレスユニット130によって、ゴブG
G のプレスが行われる。
【0051】
プレスユニット120が退避位置に移動した後、ガラスブランクGが十分に冷却されるまで(少なくとも屈服点よりも低い温度となるまで)、第1の型121と第2の型122は閉じた状態を維特する。この後、第1駆動部123及び第2駆動部124が駆動されて第1の型121と第2の型122が離間し、ガラスブランクGは、プレスユニット120を離れて落下し、下部にあるコンベア171に受け止められる(
図4参照)。
【0052】
装置101では、上記のように、0.1秒以内(約0.06秒)という極めて短時間の間に同等の温度状態にある第1の型121と第2の型122が閉じられ、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aに、略同時に溶融ガラスが接触することになる。このため、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aが局所的に加熱されることは無く、内周面121aと内周面122aに歪みは殆ど生じない。また、溶融ガラスから第1の型121及び第2の型122に熱が伝導する前に、溶融ガラスが円形状に成形されるため、成形されるガラスブランクの温度分布は、ガラスブランクの温度がプレス開始から少なくとも歪点に下降するまで、さらには、プレスが終了するまで、略一様なものとなる。プレス中、熱の伝導があるとしても、プレス直後のガラスブランクを挟んだ第1の型121及び第2の型122の温度は以下の点から揃っている。すなわち、落下するゴブG
G は、一定の温度雰囲気中にあるので、プレス成形前のゴブG
G は、等方的な温度分布を有する。さらに、プレス前の第1の型121及び第2の型122は同じ温度雰囲気内にあるので、同等の温度状態にある。したがって、ゴブG
G が第1の型121と第2の型122と接触を開始してゴブG
Gから第1の型121及び第2の型122に熱が伝導しても、プレス直後の第1の型121及び第2の型122の温度は同等となる。すなわち、プレス直後のガラスブランクの一対の主表面周りの温度条件は揃う。したがって、第1の型121及び第2の型122で挟まれた状態でガラスブランクが一定時間冷却される段階、すなわち少なくとも歪点まで下降する段階でも、さらには、プレスが終了する段階でも、ガラスブランクの一対の主表面の温度差はない。すなわち、ガラスブランクの主表面間の熱的均衡が実現される。
このため、ガラスブランクの冷却段階で、プレス中のガラスブランクの収縮量の分布は小さく、ガラスブランクGの歪みが大きく発生することはない。また、作製されたガラスブランクGの主表面の平坦度は、第1の型121の内周面121aであるプレス成形面と第2の型122の内周面122aであるプレス成形面の間で実質同一になるようにガラスブランクGプレスすることにより、従来のプレス成形により作製されるガラスブランクに比べて向上し、磁気ディスク用ガラス基板として必要な主表面の目標平坦度にすることができる。
【0053】
なお、後述する固定砥粒による研削工程を行う場合、第1の型121の内周面121a及び第2の型122の内周面122aの表面凹凸は、成形されるガラスブランクGにおけるヘイズ率が20%以上の光学特性となるように、調整される。さらに、内周面121a及び内周面122aの表面の粗さは、ガラスブランクGの算術平均粗さRaが0.01μm〜10μmとなるように、好ましくは、0.01μm〜1μmとなるように、調整される。また、成形されたガラスブランクは固定砥粒により研削されるので、磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚に対して、例えば10μm〜150μm厚く形成される。ガラスブランクの板厚は、スペーサ122bに応じて定まるので、スペーサ122bの厚さは、磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚に対して例えば10μm〜150μm厚くするとよい。
一方、固定砥粒による研削工程を行わない場合、第1の型121の内周面121a及び第2の型122の内周面122aの表面凹凸は、成形されるガラスブランクGの表面粗さは0.2μm以下となるように調整される。この場合、プレス成形により得られたガラスブランクは、研削されないので、設定されている磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚と同等の板厚となるように、スペーサ122bの厚さが調整される。
【0054】
なお、
図5に示す例では、切断刃161及び162を用いて、流出する溶融ガラスL
Gを切断することによって略球状のゴブG
Gが形成される。しかしながら、溶融ガラス材料L
G の粘度が、切り出そうとするゴブG
Gの体積に対して小さい場合は、溶融ガラスL
Gを切断するのみでは切断されたガラスが略球状とはならず、ゴブが作れない。このような場合は、ゴブを作るためのゴブ形成型を用いる。
【0055】
図6(a)〜(c)は、
図5に示す実施形態の変形例を説明する図である。この変形例ではゴブ形成型を用いる。
図6(a)は、ゴブを作る前の状態を示す図であり、
図6(b)は、切断ユニット160及びゴブ形成型180によってゴブG
Gが作られた状態を示す図であり、
図6(c)は、ゴブG
Gをプレス成形してガラスブランクGが作られた状態を示す図である。
図6(a)に示すように、プレスユニット120は、ブロック181,182を溶融ガラスL
Gの経路上で閉じることにより溶融ガラスL
Gの経路が塞がれ、ブロック181,182で作られる凹部180Cで、切断ユニット160で切断された溶融ガラスL
Gの塊が受け止められる。この後、
図6(b)に示すように、ブロック181,182が開かれることにより、凹部180Cにおいて球状となった溶融ガラスL
Gが一度にプレスユニット120に向けて落下する。この落下時、ゴブG
Gは、溶融ガラスL
Gの表面張力により球状になる。球状のゴブG
Gは、落下途中、
図6(c)に示すように、一定の温度雰囲気内にある第1の型121と第2の型122に略同時に(誤差10m秒以下)接触を開始し、第1の型121と第2の型122に挟まれてプレス成形されることにより、円形状のガラスブランクGが作製される。
図6(a)〜(c)に示すプレス成形においても、
図5(a)〜(c)に示すプレス成形と同様に、プレス直後の第1の型121及び第2の型122の温度は同等となる。すなわち、プレス直後のガラス素材の一対の主表面周りの温度条件は揃う。したがって、第1の型121及び第2の型122で挟まれた状態でガラスブランクが一定時間冷却される段階でも、ガラスブランクの一対の主表面の温度は常に同等となる。すなわち、ガラスブランクの主表面間の熱的均衡が実現される。
【0056】
あるいは、
図7(a)〜(d)に示すように、装置101は、
図6(a)〜(c)に示す切断ユニット160を用いず、ゴブ形成型180を、溶融ガラスL
Gの経路に沿って上流側方向あるいは下流側方向に移動させる移動機構を用いてもよい。
図7(a)〜(d)は、ゴブ形成型180を使用する変形例を説明する図である。
図7(a),(b)は、ゴブG
Gが作られる前の状態を示す図であり、
図7(c)は、ゴブ形成型180によってゴブG
Gが作られた状態を示す図であり、
図7(d)は、ゴブG
Gをプレス成形してガラスブランクGが作られた状態を示す図である。
図7(a)に示すように、ブロック181,182によって作られる凹部180Cが溶融ガラス流出口111から流出する溶融ガラスL
Gを受け止め、
図7(b)に示すように、所定のタイミングでブロック181,182を溶融ガラスL
Gの流れの下流側に素早く移動させる。これにより、溶融ガラスL
Gが切断される。この後、所定のタイミングで、
図7(c)に示すように、ブロック181,182が離間する。これにより、ブロック181,182で保持されている溶融ガラスL
Gは一度に落下し、ゴブG
Gは、溶融ガラスL
Gの表面張力により球状になる。球状のゴブG
Gは、一定の温度雰囲気内にある第1の型121と第2の型122に略同時に(誤差10m秒以下)接触を開始し、第1の型121と第2の型122に挟まれてプレス成形されることにより、円形状のガラスブランクGが作製される。
図7(a)〜(d)に示すプレス成形においても、
図5(a)〜(c)に示すプレス成形と同様に、プレス直後の第1の型121及び第2の型122の温度は同等となる。すなわち、プレス直後のガラス素材の一対の主表面周りの温度条件は揃う。したがって、第1の型121及び第2の型122で挟まれた状態でガラスブランクが一定時間冷却される段階でも、ガラスブランクの一対の主表面の温度は常に同等となる。すなわち、ガラスブランクの主表面間の熱的均衡が実現される。
【0057】
図8(a)〜(c)は、ゴブG
Gとの代わりに図示されない軟化炉で加熱した光学ガラスの塊C
Pを落下させ、落下途中の両側から型221,222で挟んでプレス成形する変形例を説明する図である。
図8(a)は、加熱した光学ガラスの塊を成形する前の状態を示す図であり、
図8(b)は、光学ガラスの塊を落下する状態を示す図であり、
図8(c)は、光学ガラスの塊をプレス成形してガラスブランクGが作られた状態を示す図である。
図8(a)に示すように、装置201は、光学ガラスの塊C
Pをガラス材把持機構212でプレスユニット220の上部の位置に搬送し、この位置で、
図8(b)に示すように、ガラス材把持機構212による光学ガラスの塊C
Pの把持を開放して、光学ガラスの塊C
Pを落下させる。光学ガラスの塊C
Pは、落下途中、
図8(c)に示すように、第1の型221と第2の型222に略同時に(誤差10m秒以下)接触を開始し、第1の型221と第2の型222に挟まれてプレス成形されることにより、円形状のガラスブランクGが成形される。第1の型221及び第2の型222は、
図5に示す第1の型121及び第2の型122と同じ構成及び作用をするので、その説明は省略する。
図8(a)〜(c)に示すプレス成形においても、
図5(a)〜(c)に示すプレス成形と同様に、プレス直後の第1の型221及び第2の型222の温度は同等となる。すなわち、プレス直後のガラス素材の一対の主表面周りの温度条件は揃う。したがって、第1の型221及び第2の型222で挟まれた状態でガラスブランクが一定時間冷却される段階でも、ガラスブランクの一対の主表面の温度は常に同等となる。すなわち、ガラスブランクの主表面間の熱的均衡が実現される。
【0058】
(b)スクライブ工程
以上のプレス成形の後、
図3(a)に示すように、成形されたガラスブランクGに対してスクライブが行われる(ステップS20)。
ここでスクライブとは、成形されたガラスブランクGを所定のサイズのリング形状とするために、ガラスブランクGの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子からなるスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされたガラスブランクGは、部分的に加熱され、ガラスブランクGの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、リング形状のガラスブランクとなる。
上述したように、ガラスブランクGの粗さの上限を1μmとすることにより、スクライバを用いて好適に切断線を設けることができる。ガラスブランクGの粗さが1μmを越える場合、スクライバが表面凹凸に追従せず、切断線を一様に設けることはできない。なお、ガラスブランクの粗さが1μmを超える場合には、ガラスブランクをスクライブを必要としない程度の外径、真円度とし、このようなガラスブランクに対してコアドリル等を用いて円孔を形成することによりリング形状とすることもできる。
【0059】
(c)形状加工工程(チャンファリング工程)
次に、スクライブされたガラスブランクGの形状加工が行われる(ステップS30)。形状加工は、チャンファリング(外周端部および内周端部の面取り)を含む。
リング形状のガラスブランクGの外周端部および内周端部に、ダイヤモンド砥石により面取りが施される。
【0060】
(d)固定砥粒による研削工程
この研削工程は、上述したように、プレス成形で得られるガラスブランクの表面凹凸および板厚に応じて、選択的に行われる。固定砥粒による研削工程は、
図3(a)に示す方法において行われ、
図3(b)に示す方法では行われない。
研削工程では、リング形状のガラスブランクGに対して、一対の主表面が成形されたときの表面凹凸の状態で、固定砥粒による研削が施される(ステップS40)。固定砥粒による研削による取り代は、例えば数μm〜100μm程度である。固定砥粒の粒子サイズは、例えば10μm程度である。
図9(a)は、研削に用いる装置の全体図である。
図9(b)は、この装置に用いられるキャリヤを説明する図である。
図10は、ガラスブランクGの研削中の状態を説明する図である。
【0061】
装置400は、
図9(a)および
図10に示すように、下定盤402、上定盤404、インターナルギヤ406、キャリヤ408、ダイヤモンドシート410、太陽ギヤ412、インターナルギヤ414、容器416、及びクーラント418を有する。
装置400は、下定盤402と上定盤404との間に、インターナルギヤ406を上下方向から挟む。インターナルギヤ406内には、研削時に複数のキャリヤ408が保持される。
図9(b)では、5つのキャリヤを保持する。下定盤402および上定磐404に平面的に接着したダイヤモンドシート410の面が研削面となる。すなわち、ガラスブランクGは、ダイヤモンドシート410を用いた固定砥粒による研削が行われる。
【0062】
研削すべき複数のガラスブランクGは、
図9(b)に示すように、各キャリヤ408に設けられた円形状の孔に配置されて保持される。ガラスブランクGの一対の主表面は、研削時、下定盤402および上定盤404に挟まれてダイヤモンドシート410に当接する。
一方、ガラスブランクGは、下定盤402の上で、外周にギヤ409を有するキャリヤ408に保持される。このキャリヤ408は、下定盤402に設けられた太陽ギヤ412、インターナルギヤ414と噛合する。太陽ギヤ412を矢印方向に回転させることにより、各キャリヤ408はそれぞれの矢印方向に遊星歯車として自転しながら公転する。これにより、ガラスブランクGは、ダイヤモンドシート410を用いて研削が行われる。
【0063】
装置400は、
図9(a)に示すように、容器416内のクーラント418をポンプ420によって上定盤404内に供給し、下定盤402からクーラント418を回収し、容器416に戻すことにより、循環させる。このとき、クーラント418は、研削中に生じる切子を、研削面から除去する。具体的には、装置400は、クーラント418を循環させる際に、下定盤402内に設けられたフィルタ422で濾過し、そのフィルタ422に切子を滞留させる。
【0064】
このような固定砥粒による研削により、主表面は、
図11(a)に示すような表面プロファイルを有する。
図11(a)は、固定砥粒による研削後の表面プロファイルの一例を示す図であり、
図11(b)は、従来から行われていた遊離砥粒による研削後の表面プロファイルの一例を示す図である。
すなわち、
図11(a)に示すように、ガラスブランクGの表面凹凸のうち、凸部のみが固定砥粒により効果的に削れて、研削面は、比較的平坦な部分に凹部およびクラックが部分的に入ったプロファイル形状となる。勿論、上記平坦な部分には、固定砥粒の粒子サイズに応じた大きさの凹凸、例えば粗さを備える。これに対して、遊離砥粒を用いた研削の場合、
図11(b)に示すように凸部の他に凹部も同様に除去される。このため、遊離砥粒による研削後の平面プロファイルは、
図11(a)に示すような、平坦な部分が比較的多い表面プロファイルとはならない。
なお、固定砥粒による研削は、表面凹凸の粗さが0.01μm未満の場合殆ど機能しない。すなわち、研削されない。このため、固定砥粒による研削を効果的に行うために、成形されたガラスブランクGの表面凹凸の粗さは0.01μm以上に調整されている。
【0065】
図11(c)は、固定砥粒による研削が行われ易い表面プロファイル形状の一例を示す図であり、
図11(d)は、固定砥粒による研削が行われ難い表面プロファイル形状の一例を示す図である。
すなわち、
図11(c)に示すように、表面プロファイルにおいて局所的に凸部が存在し、粗さが0.01μm以上であることにより、固定砥粒による研削が効果的に行われ易い。一方、
図11(d)に示すように、表面プロファイルにおいて局所的に凸部が存在せず、滑らかに変化するとき、粗さが0.01μm以上であっても、固定砥粒による研削が行われ難い。
このような表面プロファイルの形状の差異は、ヘイズ率によって表すことができる。すなわち、ガラスブランクGにおいて、ヘイズ率が20%以上の光学特性を有するものは、
図11(d)に示すような表面プロファイル形状を持たず、固定砥粒による研削が行われ易い。このため、成形されるガラスブランクGが上記表面凹凸および上記光学特性を持つように、型121,122の内周面121a,122aの表面形状が調整されている。ガラスブランクGの光学特性は、ヘイズ率20%以上である。
【0066】
研削装置400では、ダイヤモンドシート410を用いて研削を行うが、ダイヤモンドシート410の代わりに、ダイヤモンド粒子を設けた固定砥粒を用いることができる。例えば、複数のダイヤモンド粒子を樹脂で結合することによりペレット状にしたものを固定砥粒による研削に用いることができる。
【0067】
(d)端面研磨工程
固定砥粒による研削後のガラスブランクGの端面研磨が行われる(ステップS50)。
端面研磨では、ガラスブランクGの内周側端面及び外周側端面をブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。端面研磨を行うことにより、ガラスブランクGの端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、サーマルアスペリティの発生の防止や、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0068】
(e)第1研磨(主表面研磨)工程
次に、研削されたガラスブランクGの主表面に第1研磨が施される(ステップS60)。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。
第1研磨は、固定砥粒による研削により主表面に残留したキズ、歪みの除去を目的とする。第1研磨では、固定砥粒による研削(ステップS40)で用いた装置400を用いる。このとき、固定砥粒による研削と異なる点は、
・ 固定砥粒の代わりにスラリーに混濁した遊離砥粒を用いること、
・ クーラントは用いないこと、
・ ダイヤモンドシート410の代わりに樹脂ポリッシャを用いること、である。
第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させた酸化セリウム等の微粒子(粒子サイズ:直径1〜2μm程度)が用いられる。
【0069】
(f)化学強化工程
次に、第1研磨後のガラスブランクGは化学強化される(ステップS60)。
化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60%)と硫酸ナトリウム(40%)の混合液等を用いることができる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄したガラスブランクGが、例えば200℃〜300℃に予熱された後、ガラスブランクGが化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬される。この浸漬の際には、ガラスブランクGの両主表面全体が化学強化されるように、複数のガラスブランクGが端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
このように、ガラスブランクGを化学強化液に浸漬することによって、ガラスブランクGの表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラスブランクGが強化される。なお、化学強化処理されたガラスブランクGは洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水、IPA(イソプロピルアルコール)等で洗浄される。
【0070】
(g)第2研磨(最終研磨)工程
次に、化学強化されて十分に洗浄されたガラスブランクGに第2研磨が施される(ステップS80)。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。
第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨では、固定砥粒による研削(ステップS40)および第1研磨(ステップS60)で用いた装置400を用いる。このとき、第1研磨と異なる点は、
・遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なること、
・ 樹脂ポリッシャの硬度が異なること、である。
第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径0.1μm程度)が用いられる。
こうして、研磨されたガラスブランクGは、洗浄される。洗浄では、中性洗剤、純水、IPAが用いられる。
第2研磨により、主表面の平坦度が4μm以下であり、主表面の粗さが0.2nm以下の表面凹凸を有する、磁気ディスク用ガラス基板2が得られる。
この後、磁気ディスク用ガラス基板2に、
図1に示されるように、磁性層等の層3A,3Bが成膜されて、磁気ディスク1が作製される。
以上が、
図3(a),(b)に沿ったフローの説明である。
図3(a),(b)に示すフローでは、スクライブ(ステップS20)及び形状加工(ステップS30)は、固定砥粒による研削(ステップS40)と第1研磨(ステップS60)の前に行われ、化学強化(ステップS70)は、第1研磨(ステップS60)と第2研磨(ステップS80)との間に行われるが、この順番に限定されない。固定砥粒による研削(ステップS40)の後、第1研磨(ステップS60)、その後第2研磨(ステップS80)が行われる限り、スクライブ(ステップS20)、形状加工(ステップS30)および化学強化(ステップS70)の各工程は、適宜配置することができる。
【0071】
本実施形態では、成形されたガラスブランクGを、従来のように遊離砥粒を用いた2回の研削(第1研削及び第2研削)をせず、第1研磨及び第2研磨を行う、あるいは、固定砥粒を用いた1回の研削をした後、第1研磨及び第2研磨を行う。このように研削工程を少なくとも1工程省くことができるのは、主表面が磁気ディスク用ガラス基板として必要な目標平坦度を有するガラスブランクを成形することができるからである。
なお、固定砥粒を用いた研削では、
図11(a)に示すように、表面プロファイルにおける凸部の部分のみを優先的に研削することができ、後工程の第1研磨及び第2研磨において、取り代を抑えることができる。例えば、研削及び研磨において合計の取り代を100μm〜200μmとすることができる。したがって、ガラスブランクGは、磁気ディスクに用いるガラス基板2の目標厚さに対して100μm〜200μm厚く成形され、研削及び研磨によって、ガラスブランクGを目標厚さに加工することが好ましい。
【0072】
従来における研削(第1研削工程及び第2研削工程)及び研磨(第1研磨工程及び第2研磨工程)における取り代は、成形されるガラスブランクの平坦度の低さの解消のために200μmを越えていた。すなわち、従来の第1研削工程および第2研削工程では取り代を大きく定めていた。研削で大きく削ると、平坦度は向上するが、クラックが深く進行する。このため、第1研磨及び第2研磨における取り代は必然的に大きくなっていた。このような研磨における大きな取り代に起因して、上述したようにガラス基板の外周エッジ部近傍が丸く削られるエッジ部の「だれの問題」が発生する。なお、外周エッジ部近傍が丸く削られるのは、上述した第1研磨及び第2研磨を行う際、硬質あるいは軟質樹脂ポリッシャを用いることに起因する。
【0073】
以上のように、本実施形態では、研削工程を少なくとも1工程省くことができるガラスブランクが成形される。このガラスブランクの成形では、金型によるガラスブランクのプレス中、ガラスブランクの一対の主表面周りの温度条件を揃える。これによって、ガラスブランクの一対の主表面について熱的均衡を維持した状態で熱が伝導する。このとき、成形されるガラスブランクに生じる熱歪みはなく、両側の金型の熱変形の差異もなくなるので、成形されるガラスブランクの平坦度は向上する。したがって、従来のような2回の研削工程を行う必要が無くなり、効率よく磁気ディスク用ガラス基板を製造することができる。
【0074】
特に、
図1(b)に示す磁気ディスク用ガラス基板2は、磁気ディスク1として、ハードディスク装置内で熱膨張係数の高い金属製のスピンドルに軸支されて組み込まれるため、磁気ディスク用ガラス基板2の熱膨張係数もスピンドルと同程度に高いことが好ましい。このため、磁気ディスク用ガラス基板2の熱膨張係数が高くなるように磁気ディスク用ガラス基板2の組成は定められている。磁気ディスク用ガラス基板2の熱膨張係数は、例えば、30〜100×10
-7(K
-1)の範囲内であり、好ましくは、50〜100×10
-7(K
-1)の範囲内である。上記熱膨張係数は、磁気ディスク用ガラス基板2の温度100度と温度300度における線膨張率を用いて算出される値である。熱膨張係数は、例えば30×10
-7(K
-1)未満または100×10
-7より大きい場合、スピンドルの熱膨張係数との差が大きくなり好ましくない。この点から、熱膨張係数が高い磁気ディスク用ガラス基板2を作製する際、上記プレス成形段階においてガラスブランクの主表面周りの温度条件を揃える。したがって、一例として、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの温度が実質的に同一になるように温度管理をすることは極めて重要である。実質的に温度が同一となるように温度管理される場合、例えば、温度差は5度以下であることが好ましい。上記温度差は、より好ましくは3度以下であり、特に好ましくは1度以下である。なお、温度差は、第1の型121の内周面121aおよび第2の型122の内周面122aのそれぞれの表面から型の内部に1mm移動した地点であって、内周面121aおよび内周面122aの互いに対向する地点(例えば、ガラスブランクの中心位置に対応する地点や内周面121aおよび内周面122aの中心点)で、熱電対を用いて計測するときの温度の差分である。
また、研削工程を行う場合でも、ガラスブランクの平坦度は高いので、研削における取り代は小さい。その結果、第1研磨及び第2研磨における取り代も小さくなるので、「だれの問題」は解消する。
また、プレス直前の溶融ガラスあるいは軟化したガラスの両側に位置する金型の温度状態を揃えるので、プレス中のガラスブランクの一対の主表面周りの温度条件を正確に揃えることができる。
さらに、プレス直前の溶融ガラスあるいは軟化したガラスは、一定の温度雰囲気中にあり、温度分布は等方的分布になる。このため、両側の金型が近接して金型が溶融ガラスあるいは軟化したガラスと接触を開始したとき、両側の金型に熱が伝わったとしても、伝わる熱は同等になる。このため、プレス成形直後のガラスブランクの一対の主表面周りの温度条件を正確に揃えることができる。
【0075】
(プレス成型方法の変形例)
上述の実施形態のプレス成形(
図3(a)に示すステップS10のプレス成形)において、ガラスブランクの一対の主表面周りの温度条件を揃えることにより、ガラスブランクの一対の主表面から均等に金型に熱を伝え、プレス成形面における温度分布が略均一であるようにガラスブランクGをプレスする。しかし、
図3(a)に示すプレス成形では、第1の型121の内周面121aであるプレス成形面および第2の型122の内周面122aであるプレス成形面それぞれにおける温度分布が均一でなくてもよい。この場合においても、第1の型121の内周面121aであるプレス成形面と第2の型122の内周面122aであるプレス成形面との間で温度が実質的に同一になるように第1の型121及び第2の型122の温度管理が行われる。実質的に温度が同一となるように温度管理される場合、例えば、内周面121aと内周面122a間の温度差はこの5度以下であることが好ましい。上記温度差は、より好ましくは3度以下であり、特に好ましくは1度以下である。
【0076】
例えば、
図3(a)に示す製造方法のフローにしたがって磁気ディスク用ガラス基板を作製する際、溶融ガラスあるいは軟化したガラスを1つの塊として落下させてプレス成形が行われる。このとき、
図12(a)に示されるように、
図5(a)〜(c)に示される第1の型121及び第2の型122において、平面状のプレス成形面である内周面121aおよび内周面122aのそれぞれに対して反対側の外周面121cおよび122cの外周縁に、円板状のガラスブランクの外周を取り巻くようにヒートシンク121d,122dが設けられる。第1の型121および第2の型122にヒートシンク121d,122dが設けられることにより、プラス成形中の第1の型121および第2の型122には、
図12(b)に示すような熱の流れが生じ、プレス成形中のガラスブランクの外周側の部分と中心部側では冷却に差が生じる。これにより、プレス成形後のガラスブランクGは、
図12(c)に示すように、成形されたガラスブランクGの断面形状が外周側から中心側に向かうに従って板厚が減少する凹形状のガラスブランクが成形される。この場合においても、ガラスブランクGの平坦度は、磁気ディスク用ガラス基板に与えられる目標平坦度、すなわち4μm以下にすることができる。これは、ガラスブランクGをプレス成形する際、金型のプレスの開始からプレスされたガラスブランクGの温度が歪点に下がるまでの期間、金型の両側の内周面121aおよび内周面122aのガラスブランクと接触する部分の温度が、内周面121aおよび内周面122a間で実質同一になるからである。
また、凹形状のガラスブランクを意図的に成形するのは、ダイヤモンドシート410を用いたステップS40における研削を効率よく行うためである。例えば、研削の際、ガラスブランクの板厚が厚い外周エッジ部が、ダイヤモンドシート410による研削加工の起点となり易くなる。また、研削における取り代を、厚さが均一なガラスブランクに比べて約半分に抑えることができる。さらに、平坦度に比べて周期の長い表面凹凸であるガラスブランクの反りも改善することができる。
図12(c)に示すような凹形状の断面を有するガラスブランクGの板厚は、最大厚さと最小厚さの差は、例えば8μm以下である。
【0077】
プレス成形後、
図3(a)に示すステップS20,30を経て得られるガラス基板の両側の主表面に対して固定砥粒を用いた研削が効率よく行われる(ステップS40)。この後、ステップS50を経て、樹脂ポリッシャを研磨パッドとして用いて研磨をするステップS60の第1研磨が行われる。以下、ステップS70〜80を得て、磁気ディスク用ガラス基板2が作製される。このとき、第2研磨によって得られるガラス基板の板厚は、ガラスブランクGにおける板厚の最大厚さの80%〜96%の範囲にあることが好ましい。
【0078】
このようなプレス成形の形態においても、金型のプレスの開始から、プレスされたガラスブランクの温度が歪点に下がるまでの期間、金型の両側のプレス成形面のガラスブランクと接触する部分の温度が、プレス成形面の間で実質同一になるようにガラスブランクをプレスする。このため、ガラスブランクの平坦度は、磁気ディスク用ガラス基板に与えられる目標平坦度にすることができる。このため、研削工程を少なくとも1工程省くことができるガラスブランクが成形される。このとき、ガラスブランクの断面形状が外周側から中心側に向かうに従って板厚が減少するガラスブランクが成形されるので、ガラスブランクの板厚が厚い外周縁が、研削加工の起点となり易く、その結果、効率のよい研削をすることができる。
なお、
図12(a),(b)に示す金型の形態は、ヒートシンク121d,122dを設け、
図12(b)に示すような熱の流れを作るものであるが、このような熱の流れを実現して、
図12(c)に示すような凹状のガラスブランクGを作製するには、プレス成形中のガラスブランクGの中心部分に対応する第1の型121および第2の型122の外周面121c,122cの部分に熱源を設ける形態を採用することもできる。
【0079】
(実施例)
以下、
図3に示す方法の有効性を確かめた。
ガラス材は、アルミノシリケートガラス(SiO
2を57〜74%、ZnO
2を0〜2.8%、Al
2O
3を3〜15%、Li
2Oを7〜16%、Na
2Oを4〜14%)を用いた。
図4および
図5(a)〜(c)に示される一対の金型を用い、この金型の両側のプレス成形面の温度を同じとし、それぞれのプレス成形面とガラスとが接触する誤差を5m秒とした上述のプレス機を用いることにより、平坦度が3.91μm、表面粗さが0.013μm、ヘイズ率が20%、板厚が0.95mmのガラスブランクを作製した。得られたガラスブランクに対し、上述した(b)〜(g)の工程を行うことにより、平坦度が3.88μm、板厚が0.80mm、表面粗さが0.15nmの磁気ディスク用ガラス基板を得た。
なお、研削、研磨の条件は以下のように定めて、研削および研磨を行った。
・固定砥粒による研削工程:ダイヤモンドシート
・第1研磨工程:酸化セリウム(平均粒子サイズ;直径1〜2μm)、硬質ウレタンパッドを使用して研磨した。取り代10μm。
・第2研磨工程:コロイダルシリカ(平均粒子サイズ;直径0.1μm)、軟質ポリウレタンパッドを使用して研磨した。取り代1μm。
作製されたガラス基板について、インライン型スパッタリング装置を用いて、磁性層を形成した。具体的には、ガラス基板の両主表面に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、CoCrSiO
2の非磁性グラニュラー下地層、CoCrPt−SiO
2・TiO
2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を順次成膜した。
この後、成膜された最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層を成膜した。これにより、磁気ディスクを得た。
【0080】
得られた磁気ディスクに対する磁気ヘッドの浮上安定性を評価するため、LUL耐久試験(60万回)を行って評価した。LUL耐久試験とは、HDD(ハードディスク装置)を70℃80%の恒湿槽に入れた状態で、磁気ヘッドを、ランプおよびIDストップを1サイクルとして複数サイクル動かし、エラーの発生状況や試験後のヘッドの汚れや摩耗等の異常発生を調査する試験のことである。1つの実験に対して10台のHDD装置を用い、8万回/日×7.5日=60万回のLUL試験の結果、HDD装置10台ともに異常は見られなかった。
【0081】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板及びガラスブランクの製造方法および磁気ディスク用ガラス基板及びガラスブランクについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、ガラスブランクのプレス中、ガラスブランクの一対の主表面周りの温度条件を揃える方法は、
図4〜8に示す方法に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。