(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666561
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20150122BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20150122BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20150122BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20150122BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20150122BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20150122BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/1391
H01M10/0566
H01M10/052
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-509363(P2012-509363)
(86)(22)【出願日】2011年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2011055657
(87)【国際公開番号】WO2011125410
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2010-84730(P2010-84730)
(32)【優先日】2010年4月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087572
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 克明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章弘
(72)【発明者】
【氏名】新名 史冶
(72)【発明者】
【氏名】戸出 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智一
(72)【発明者】
【氏名】喜田 佳典
【審査官】
瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−224664(JP,A)
【文献】
特開2008−270175(JP,A)
【文献】
特開2009−135045(JP,A)
【文献】
特開2005−251684(JP,A)
【文献】
特開2010−171020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62、10/05−10/0587
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と導電性の炭素材料とが混合されたものを含む正極合剤層が表面に形成された正極と、負極活物質を含む負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えた非水電解質二次電池において、上記の正極活物質に、一般式LiaNixM(1−x)O2(式中、Mは1種類以上の元素であり、0<a≦1.2、0.4≦x≦1.0の条件を満たす。)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物が用いられると共に、上記の正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合が80%以上であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、上記の正極の表面から正極合剤層の厚み方向30%までの領域における全原子に対する炭素原子の割合が50%以上である非水電解質二次電池。
【請求項3】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、上記の導電性の炭素材料の平均粒径が230nm以下である非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項2に記載の非水電解質二次電池において、上記の導電性の炭素材料の平均粒径が230nm以下である非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えた非水電解質二次電池に係り、特に、正極活物質に、遷移金属としてニッケルを多く含む層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた場合において、このリチウム含有遷移金属複合酸化物が大気に晒されることによって劣化するのを抑制し、大気曝露後における出力特性、特に低温での出力特性が低下するのを改善した点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等のモバイル機器の小型化・軽量化が著しく進行しており、また多機能化に伴って消費電力も増加しており、これらの電源として使用される非水電解質二次電池においても、軽量化及び高容量化の要望が高まっている。
【0003】
また、近年においては、車両からの排ガスによる環境問題を解決するため、自動車のガソリンエンジンと電気モーターを併用したハイブリッド型電気自動車の開発が進められている。
【0004】
そして、このような電気自動車の電源としては、一般にニッケル・水素蓄電池が広く用いられているが、より高容量かつ高出力な電源として、非水電解質二次電池を利用することが検討されている。
【0005】
ここで、上記のような非水電解質二次電池においては、その正極の正極活物質として、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)等のコバルトを主成分とするリチウム含有遷移金属複合酸化物が主に用いられている。
【0006】
しかし、上記の正極活物質に使用されるコバルトは稀少な資源であり、コストが高くつくと共に、安定した供給が困難になる等の問題があり、特に、ハイブリッド型電気自動車等の電源として使用する場合には、多くの量のコバルトが必要になって、電源としてのコストが非常に高くなるという問題がある。
【0007】
このため、近年においては、安価で安定した供給が行える正極活物質として、コバルトに代えてニッケルを主原料とする正極活物質の検討が行われている。
【0008】
例えば、層状構造を有するニッケル酸リチウム(LiNiO
2)は、大きな放電容量が得られる材料として期待されているが、高温での熱安定性に劣ると共に、過電圧が大きくなり、また、大気に晒されることにより劣化して、放電容量や出力が減少し、大気環境下での取り扱いが難しいという問題もある。
【0009】
そして、近年においては、コストが低く、かつ熱安定性に優れた正極活物質として、遷移金属の主成分がニッケルとマンガンとの2元素から構成されて層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物が注目されている。
【0010】
しかし、遷移金属の主成分がニッケルとマンガンとの2元素から構成されて層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物は、コバルト酸リチウムに比べて、高率充放電特性が著しく劣り、かつ大気環境下での取り扱いも難しいという問題がある。
【0011】
そして、特許文献1においては、少なくともニッケル及びマンガンを含有する層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物において、上記のニッケル及びマンガンの一部をコバルトで置換した単相カソード材料が提案されている。
【0012】
しかし、この特許文献1に示される単相カソード材料の場合でも、ニッケルの含有量の多い領域では、大気に晒されると放電容量や出力が低下するという問題がある。
【0013】
また、このように大気環境下での取り扱いが難しいニッケル含有量の多いリチウム含有遷移金属酸化物において、特許文献2においては、正極合剤層の表面にカップリング剤による表面処理層を設け、これにより正極合剤層表面の耐吸湿性を高めて、吸湿による正極合剤層表面の変質を抑制し、サイクル特性を改善すると共に、電池厚みの増加を抑制することが提案されている。
【0014】
しかし、この特許文献2に示されるように、正極合剤層の表面にカップリング剤による表面処理層を設けた場合、この表面処理層により正極におけるリチウムイオンの出入りが阻害され、出力特性が大きく低下するという問題がある。
【0015】
また、特許文献3においては、正極活物質の一次粒子の表面に炭素材料等を用いた導電性被覆層を形成し、充放電による正極活物質層の体積変化を抑制して、正極活物質粒子が正極活物質層内の導電ネットワークから孤立するのを抑制し、非水電解質二次電池の高容量化及び長寿命化を図ることが提案されている。
【0016】
しかし、この特許文献3に示されるように、正極活物質の一次粒子の表面に炭素材料等を用いた導電性被覆層を形成した場合においても、この正極活物質へのリチウムイオンの出入りが阻害され、出力特性が大きく低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第3571671号公報
【特許文献2】特開2008−235090号公報
【特許文献3】特開2008−270175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えた非水電解質二次電池における上記のような問題を解決することを課題とするものである。
【0019】
すなわち、本発明においては、正極活物質に、遷移金属としてニッケルを多く含む層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた場合において、このリチウム含有遷移金属複合酸化物が大気に晒されることによって劣化するのを抑制し、大気曝露後における出力特性、特に低温での出力特性が低下するのを防止することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明においては、上記のような課題を解決するため、正極活物質と導電性の炭素材料とが混合されたものを含む正極合剤層が表面に形成された正極と、負極活物質を含む負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えた非水電解質二次電池において、上記の正極活物質として、一般式Li
aNi
xM
(1−x)O
2(式中、Mは1種類以上の元素であり、0<a≦1.2、0.4≦x≦1.0の条件を満たす。)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物を用い、上記の正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合が80%以上であるようにした。
【0021】
ここで、正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合は、正極の表面からエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて測定した値である。
【0022】
また、正極活物質に用いる上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物として、ニッケルNiのモル比xが0.4以上のものを用いるようにしたのは、正極活物質における充放電容量を高めるためである。なお、このようにNiの割合が大きいリチウム含有遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いた場合、前記のように大気に晒されることにより、この正極活物質が吸湿して劣化しやすくなる。
【0023】
また、上記の一般式に示されるリチウム含有遷移金属複合酸化物において、上記のMは特に限定されず、層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物を構成できるものであればよく、例えば、Co,Al,Mn,Cu,Mg,Ba,Ti,Zr,Nbから選択される少なくとも1つの元素を用いることができ、特に、Co,Al,Mnから選択される少なくとも1つの元素を用いることが好ましい。
【0024】
そして、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物と導電性の炭素材料とが混合されたものを含む正極合剤層が形成された正極の表面において、全原子に対する炭素原子の割合が80%以上になるようにすると、Niの割合が大きい上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物からなる正極活物質が大気に晒されて劣化するのが抑制される。
【0025】
また、本発明においては、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物と導電性の炭素材料とを混合させているだけであるため、従来のように、正極合剤層の表面に設けたカップリング剤による表面処理層によって正極におけるリチウムイオンの出入りが阻害されたり、また正極活物質の一次粒子の表面に形成された導電性被覆層によって正極活物質へのリチウムイオンの出入りが阻害されたりするということがなく、正極におけるリチウムイオンの出入りが適切に行われるようになる。
【0026】
ここで、上記の炭素材料としては、その粒径が小さくなるほど、この炭素材料が軽くなって正極合剤層の表面に出現しやすくなり、正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合が多くなって、正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合を80%以上にすることが容易に行えるようになる。このため、上記の炭素材料としては、平均粒径が230nm以下のものを用いることが好ましい。
【0027】
また、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物からなる正極活物質が大気に晒されて劣化するのをより抑制するためには、上記の正極の表面からある程度の深さまで炭素原子の割合が多くなっていることが好ましい。このため、正極の表面から正極合剤層の厚み方向30%までの領域における全原子に対する炭素原子の割合が50%以上であることが好ましい。なお、正極合剤層の厚み方向30%までの領域における全原子に対する炭素原子の割合は、正極を正極合剤層の厚み方向に切断した断面を、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて測定した値である。
【0028】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、上記の正極活物質と他の正極活物質とを混合して使用することも可能である。ここで、混合させる他の正極活物質は、可逆的にリチウムを挿入・脱離可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、安定した結晶構造を維持したままリチウムの挿入脱離が可能である層状構造や、スピネル型構造や、オリビン型構造を有するものを用いることが好ましい。
【0029】
また、本発明の非水電解質二次電池において、その負極に用いる負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵・放出できるものでれば特に限定されず、例えば、炭素材料や、リチウムと合金化する金属或いは合金材料や、金属酸化物等を用いることができる。なお、材料コストの観点からは、負極活物質に炭素材料を用いることが好ましく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェーズピッチ系炭素繊維(MCF)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス、ハードカーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ等を用いることができる。特に、高率充放電特性を向上させる観点からは、黒鉛材料を低結晶性炭素で被覆した炭素材料を用いることが好ましい。
【0030】
また、本発明の非水電解質二次電池において、非水電解液に用いる非水系溶媒としては、従来から非水電解質二次電池において一般に使用されている公知の非水系溶媒を用いることができ、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、低粘度、低融点でリチウムイオン伝導度の高い非水系溶媒として、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましく、この混合溶媒における環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比を2:8〜5:5の範囲にすることが好ましい。
【0031】
また、非水電解液の非水系溶媒としてイオン性液体を用いることもでき、この場合、カチオン種、アニオン種については特に限定されるものではないが、低粘度、電気化学的安定性、疎水性の観点から、カチオンとしては、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンを、アニオンとしては、フッ素含有イミド系アニオンを用いた組合せが特に好ましい。
【0032】
また、上記の非水電解液に用いる溶質としても、従来から非水電解質二次電池において一般に使用されている公知のリチウム塩を用いることができる。そして、このようなリチウム塩としては、P、B、F、O、S、N、Clの中の一種類以上の元素を含むリチウム塩を用いることができ、具体的には、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(FSO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiC(C
2F
5SO
2)
3、LiAsF
6、LiClO
4等のリチウム塩及びこれらの混合物を用いることができる。特に、非水電解質二次電池における高率充放電特性や耐久性を高めるためには、LiPF
6を用いることが好ましい。
【0033】
また、本発明の非水電解質二次電池において、上記の正極と負極との間に介在させるセパレータとしては、正極と負極との接触による短絡を防ぎ、かつ非水電解液を含浸して、リチウムイオン伝導性が得られる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン製やポリエチレン製のセパレータ、ポリプロピレン−ポリエチレンの多層セパレータ等を用いることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の非水電解質二次電池においては、正極の表面に、一般式Li
aNi
xM
(1−x)O
2(式中、Mは1種類以上の元素であり、0<a≦1.2、0.4≦x≦1.0の条件を満たす。)で表される層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と導電性の炭素材料とが混合されたものを含む正極合剤層を形成し、この正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合が80%以上になるようにしたため、上記のリチウム含有遷移金属複合酸化物からなる正極活物質が大気に晒されて劣化するのが抑制されると共に、正極におけるリチウムイオンの出入りが適切に行われるようになる。
【0035】
この結果、本発明の非水電解質二次電池においては、大気曝露後における出力特性が低下するのが防止され、特に低温でも優れた出力特性が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施例及び比較例において作製した正極を作用極に用いた三電極式試験セルの概略説明図である。
【実施例】
【0037】
以下、この発明に係る非水電解質二次電池について実施例を挙げて具体的に説明すると共に、この実施例における非水電解質二次電池においては、大気曝露後において、低温での出力特性が低下するのが抑制されることを、比較例を挙げて明らかにする。なお、本発明の非水電解質二次電池は下記の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0038】
(実施例1)
実施例1においては、前記の一般式に示すリチウム含有遷移金属複合酸化物からなる正極活物質を作製するにあたり、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを用いて、反応槽内に、ニッケルイオン、コバルトイオン、マンガンイオンを含有する水溶液を準備し、この水溶液中のニッケルとコバルトとマンガンとが5:2:3のモル比になるように調整した。
【0039】
次いで、この水溶液の温度を50℃にし、この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、水溶液のpHが9〜12になるように調整して、ニッケルとコバルトとマンガンを含む沈殿物を得た。そして、この沈殿物をろ過し、水洗した後、この沈殿物を、酸素を含有する気流中において300℃で熱処理し、ニッケルとコバルトとマンガンとの複合酸化物(Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3)
3O
4を得た。
【0040】
そして、このニッケルとコバルトとマンガンとの複合酸化物に対して、炭酸リチウムをニッケルとコバルトとマンガンのモル総和に対するモル比が1.15となるように加え、これを混合した後、大気中において980℃で15時間焼成した。
【0041】
次いで、この焼成物を粉砕し、篩にかけて、Li
1.15Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2からなる正極活物質を得た。なお、この正極活物質の平均粒径は約6μmであった。
【0042】
そして、上記の正極活物質Li
1.15Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2と、平均粒径が230nmである導電剤のファーネスブラックと、結着剤のポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質と導電剤と結着剤との質量比が92:5:3となるように調整し、これを混合させて正極合剤のスラリーを作製した。
【0043】
次いで、このスラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の上に1.0m/分の塗布速度で塗布し、これを乾燥温度90℃、風量5m/秒の乾燥条件で乾燥させた後、これを圧延ローラーにより圧延し、その後、アルミニウムの集電タブを取りつけて正極を作製した。
【0044】
ここで、このように作製した正極の表面を、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(JEOL DATUM LTD.製)によって測定した結果、正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合(原子数濃度)が83%になっていた。なお、上記の正極活物質と導電剤と結着剤の質量比から計算される炭素原子の原子数濃度は42%程度であり、正極の表面における炭素原子の原子数濃度が高くなっていることが分かる。
【0045】
また、上記の正極を正極合剤層の厚み方向に切断させて、その断面を上記のエネルギー分散型蛍光X線分析装置によって測定した結果、正極の表面から正極合剤層の厚み方向30%までの領域における全原子に対する炭素原子の原子数濃度は54%であり、また正極の表面から正極合剤層の厚み方向30%から60%までの領域における全原子に対する炭素原子の原子数濃度は48%であり、正極の表面から正極合剤層の厚み方向に深くなるにつれて炭素原子の原子数濃度が減少していた。
【0046】
そして、
図1に示すように、上記のようにして作製した正極を作用極11として用いる一方、負極となる対極12及び参照極13にそれぞれ金属リチウムを用い、また非水電解液14として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジメチルカーボネートとを3:3:4の体積比で混合させた混合溶媒にLiPF
6を1mol/lの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネートを1質量%溶解させたものを用いて、実施例1の三電極式試験セルを作製した。
【0047】
また、上記のようにして作製した正極を、恒温恒湿槽内において温度30℃、湿度60%で5日間保持させて大気曝露させ、大気曝露後の正極を作用極11に用い、上記のようにして大気曝露後の三電極式試験セルとした。
【0048】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1における正極の作製において、導電剤として、上記のファーネスブラックに代えて気相成長炭素繊維(VGCF)を用いて正極合剤のスラリーを作製し、このスラリーを正極集電体の上に塗布する塗布速度を0.5m/分に変更し、さらにこれを乾燥させる乾燥条件を、乾燥温度120℃、風量10m/秒に変更させ、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして正極を作製した。そして、このように作製した正極を作用極11に用い、上記の実施例1と同様にして、比較例1の三電極式試験セルを作製した。
【0049】
また、このように作製した正極の表面を、実施例1の場合と同様に、エネルギー分散型蛍光X線分析装置によって測定した結果、正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合(原子数濃度)が74%になっていた。また、上記の正極を正極合剤層の厚み方向に切断させた断面を、上記のエネルギー分散型蛍光X線分析装置によって測定した結果、正極の表面から正極合剤層の厚み方向30%までの領域における全原子に対する炭素原子の原子数濃度は32%であり、また正極の表面から正極合剤層の厚み方向30%から60%までの領域における全原子に対する炭素原子の原子数濃度は60%であり、正極の表面から正極合剤層の厚み方向に深くなるにつれて炭素原子の原子数濃度が増加していた。
【0050】
また、この比較例1においても、上記の実施例1と同様に、上記のようにして作製した正極を、恒温恒湿槽内において温度30℃、湿度60%で5日間保持させて大気曝露させ、このように大気曝露させた正極を作用極11に用いて、大気曝露後の三電極式試験セルを作製した。
【0051】
(比較例2)
比較例2においては、実施例1における正極の作製において、実施例1と同じスラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の上に、2.0m/分の塗布速度で塗布し、これを乾燥温度120℃、風量8m/秒の乾燥条件で乾燥させるようにし、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして正極を作製した。そして、このように作製した正極を作用極11に用い、上記の実施例1と同様にして、比較例1の三電極式試験セルを作製した。
【0052】
なお、このように作製した正極の表面を、実施例1の場合と同様に、エネルギー分散型蛍光X線分析装置によって測定した結果、正極の表面における全原子に対する炭素原子の割合(原子数濃度)が74%になっていた。
【0053】
また、この比較例2においても、上記の実施例1と同様に、上記のようにして作製した正極を、恒温恒湿槽内において温度30℃、湿度60%で5日間保持させて大気曝露させ、このように大気曝露させた正極を作用極11に用いて、大気曝露後の三電極式試験セルを作製した。
【0054】
そして、上記のように作製した実施例1、比較例1及び比較例2における大気曝露前、大気曝露後の各三電極式試験セルを用い、それぞれ25℃の温度条件下において、0.2mA/cm
2の電流密度で4.3V(vs.Li/Li
+)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li
+)の定電圧で電流密度が0.04mA/cm
2になるまで定電圧充電を行った後、0.2mA/cm
2の電流密度で2.5V(vs.Li/Li
+)まで定電流放電を行った。
【0055】
次に、上記の各三電極式試験セルを、定格容量の50%まで充電させた時点、すなわち充電深度(SOC)が50%になった時点において、それぞれ−30℃の低温環境下において、各開回路電圧から0.08mA/cm
2、0.4mA/cm
2、0.8mA/cm
2、1.6mA/cm
2で10秒間充電および放電を行い、それぞれの場合における10秒後の電池電圧を電流値に対してプロットし、カット電圧での電流値(Ip値)を求め、−30℃の低温環境下における各三電極式試験セルの出力を算出した。そして、大気曝露前における実施例1、比較例1及び比較例2の各三電極式試験セルにおける出力をそれぞれ100%として、大気曝露後における実施例1、比較例1及び比較例2の三電極式試験セルの出力比率を求め、その結果を下記の表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から明らかなように、上記の一般式で表されるNiが多く含有された層状構造を有するリチウム含有遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と導電性の炭素材料とが混合されたものを含む正極合剤層を形成した正極を用いる場合において、この正極の表面における全原子に対する炭素原子の原子数濃度が80%以上になった実施例1の三電極式試験セルは、正極の表面における全原子に対する炭素原子の原子数濃度が80%未満である比較例1及び比較例2の各三電極式試験セルに比べて、大気曝露後における低温環境下での出力低下が大きく低減されており、大気曝露後の低温出力特性が改善されていた。
【0058】
ここで、実施例1や比較例2において導電性の炭素材料として用いたファーネスブラックは平均粒径が230nmmであり、比較例1において用いた気相成長炭素繊維(VGCF)に比べて平均粒径が小さく、正極の表面における全原子に対する炭素原子の原子数濃度を高くしやすいという特徴を有している。
【0059】
また、導電性の炭素材料として同じファーネスブラックを用いた場合においても、正極の表面における全原子に対する炭素原子の原子数濃度を高い実施例1のものは、比較例2のものに比べて大気曝露後における低温環境下での出力低下が大きく低減されていた。このため、導電性の炭素材料の種類に関わらず、正極の表面における全原子に対する炭素原子の原子数濃度が高くなることにより、大気曝露後における低温環境下での出力特性が向上されることが分かる。
【符号の説明】
【0060】
11 作用極(正極)
12 対極(負極)
13 参照極
14 非水電解液