(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666562
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20150122BHJP
B01D 46/00 20060101ALI20150122BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20150122BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20150122BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20150122BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20150122BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20150122BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
B01D39/20 DZAB
B01D46/00 302
F01N3/02 301C
B01J35/04 301E
B01J35/04 301A
B01J35/04 301C
B01D53/36 103C
B01D53/36 C
B01J35/04 301P
B01J35/04 301J
B01D53/36 104B
B01J23/63 A
C04B37/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-509531(P2012-509531)
(86)(22)【出願日】2011年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2011058079
(87)【国際公開番号】WO2011125769
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2013年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-81901(P2010-81901)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 貴志
(72)【発明者】
【氏名】永田 晃士
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
【審査官】
増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/117559(WO,A1)
【文献】
特開2009−255055(JP,A)
【文献】
特開2009−233587(JP,A)
【文献】
特開2009−148742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 46/00
B01D 53/86
B01D 53/94
B01J 23/63
B01J 35/04
C04B 37/00
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止され流体の流路となるセルである小セルと、一方の端部が目封止され且つ他方の端部が開口しており前記小セルよりも開口面積の大きいセルである大セルとが存在し、前記大セルと前記大セルとの間及び前記大セルと前記小セルとの間に形成されている複数の多孔質の隔壁部と、
前記隔壁部の平均細孔径よりも小さい平均粒径で構成された粒子群により前記隔壁部上に形成され前記流体に含まれる固体成分を捕集・除去する層である捕集層と、を備え、
前記大セルと前記大セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さが、前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さの60%以上95%以下であり、
前記隔壁部は、前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部の厚さに対する前記大セルと前記大セルとの間の隔壁部の厚さの比である隔壁厚さ比が1.0以上1.8以下に形成されている、ハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さが10μm以上80μm以下である、請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記大セルと前記大セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さが、前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さの80%以上95%以下である、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記小セルの幅に対する前記大セルの幅の比であるセル幅比が1.2以上2.0以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記捕集層は、気体を搬送媒体とし該捕集層の原料である無機材料を前記大セルへ供給することにより該無機材料が前記隔壁部上に堆積して形成されたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記隔壁部は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項7】
前記捕集層は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項8】
前記ハニカムフィルタは、前記隔壁部及び前記捕集層を有する2以上のハニカムセグメントが接合層によって接合されて形成されている、請求項1〜7に記載のハニカムフィルタ。
【請求項9】
前記隔壁部及び前記捕集層のうち少なくとも一方には、触媒が担持されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項10】
前記大セルは前記流体の流通方向に垂直な断面が8角形に形成され、
前記小セルは前記流体の流通方向に垂直な断面が4角形に形成されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載のハニカムフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハニカムフィルタとしては、入口側のセルの断面積が出口側のセルの断面積よりも大きく形成されているものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハニカムフィルタでは、断面積の大きいセルの角部をR形状とし、隔壁の厚さに対するこの隔壁の交差する交差部との比を適正なものとすることにより、入口側セルの開口部分が閉塞されるのを抑制すると共に、高強度をより維持することができる。また、ハニカムフィルタとしては、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止されたセルと、一方の端部が目封止され且つ他方の端部が開口するセルとが交互に配設されるよう形成された多孔質の隔壁部と、この隔壁部上に形成された排ガスに含まれる粒子状物質(以下PMとも称する)を捕集・除去する層が形成されているものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このハニカムフィルタでは、捕集層によりPMを捕集することにより、圧力損失を低減させつつPMの捕集を行うことができる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−270969号公報
【特許文献2】特開2004−216226号公報
【発明の開示】
【0004】
ところで、この特許文献1に記載されたハニカムフィルタに、捕集層を設けることがある。このような場合に、例えば通常では起こりえないような過剰量のPMを堆積させたあとに、このPMを燃焼除去する再生処理を行うと、その熱応力により捕集層にクラックが生じ、捕集層が剥離するなどの不具合が生じ捕集効率が低下してしまうことがあった。このため、捕集層における耐久性をより高めることが求められていた。また、捕集層に不具合が生じると、例えば隔壁部にPMが堆積するなどして圧力損失が増加することが考えられる。このように圧力損失が増加すると、例えば、燃費などが低下することから、圧力損失をより抑えることも望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、圧力損失をより低減すると共に、捕集層における耐久性をより高めることができるハニカムフィルタを提供することを主目的とする。
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
即ち、本発明のハニカムフィルタは、
一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止され流体の流路となるセルである小セルと、一方の端部が目封じされ且つ他方の端部が開口しており前記小セルよりも開口面積の大きいセルである大セルとが存在し、前記大セルと前記大セルとの間及び前記大セルと前記小セルとの間に形成されている複数の多孔質の隔壁部と、
前記隔壁部の平均細孔径よりも小さい平均粒径で構成された粒子群により前記隔壁部上に形成され前記流体に含まれる固体成分を捕集・除去する層である捕集層と、を備え、
前記大セルと前記大セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さが、前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さの60%以上95%以下であり、
前記隔壁部は、前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部の厚さに対する前記大セルと前記大セルとの間の隔壁部の厚さの比である隔壁厚さ比が1.0以上1.8以下に形成されているものである。
【0008】
このハニカムフィルタでは、圧力損失をより低減すると共に、捕集層における耐久性をより高めることができる。この理由は、以下のように推察される。例えば、入口セルが出口セルよりも大きい構造を持つ場合、捕集した固体成分(以下PMとも称する)を燃焼除去処理(以下再生処理とも称する)した時の応力は入口セルのコーナー部にかかり、大セルと大セルとの間に存在する隔壁、及びその上に形成された捕集層に集中すると考えられる。例えば、一般に、通常ではあり得ないような過剰な堆積量のPMをハニカムフィルタに堆積させて再生処理を行うと、その応力集中により隔壁上に形成された捕集層にクラックが発生し、それが起点となって捕集層の一部が剥離し、捕集性能が悪化する場合がある。これは捕集層の上面(入口セル側)に引張応力が発生することで起こるものと考えられる。本発明においては、大セルと大セルとの間の隔壁での捕集層の厚さを薄くすることにより、PMの過堆積時における異常発熱時の熱応力によって起こる捕集層剥離を抑制することができると推察される。なお、本発明のハニカムフィルタにおいて、前記大セルと前記小セルとが隣り合って配設されると共に、前記大セルと前記大セルとが隣接して配設されているものとしてもよい。
【0009】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記大セルと前記大セルとの間(大−大セル間とも称する)の隔壁部に形成された捕集層の厚さが、前記大セルと前記小セルとの間(大−小セル間とも称する)の隔壁部に形成された捕集層の厚さの60%以上95%以下である。この割合が60%以上では、PMが捕集層でより捕集されやすく、95%以下では圧力損失をより低減することができる。このとき、前記大セルと前記大セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さが、前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部に形成された捕集層の厚さの65%以上80%以下であることがより好ましい。
【0010】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記大セルと前記小セルとの間(大−小セル間)の隔壁部に形成された捕集層の厚さが10μm以上80μm以下であるものとしてもよい。捕集層の厚さが10μm以上ではPMを捕集しやすく、80μm以下では流体が隔壁を通過する抵抗をより低減可能であり、圧力損失をより低減することができる。この大−小セル間の捕集層の厚さは、20μm以上60μm以下であることがより好ましく、30μm以上50μm以下であることが更に好ましい。
【0011】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記隔壁部は、前記大セルと前記大セルとの間の隔壁部の厚さが、前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部の厚さ以上に形成されているものとしてもよい。こうすれば、PMの捕集開始時から流体が流通しやすく、大−小セル間の隔壁部にPMが堆積したのちに大−大セル間の隔壁部にPMが堆積するため、より好ましい。このとき、前記隔壁部は、前記大セルと前記小セルとの間の隔壁部の厚さに対する前記大セルと前記大セルとの間の隔壁部の厚さの比である隔壁厚さ比が1.0以上1.8以下に形成されているものとしてもよい。この隔壁厚さ比が1.0以上では、大−大セル間の隔壁部の厚さが大きいことによる変位の抑制効果に加え、隔壁が厚いことにより熱容量をより確保可能である。また、この隔壁厚さ比が1.8以下では、流体の通過しにくい大−大セル間の隔壁がより小さく、大セルと小セルとの面積をより大きくすることができ、圧力損失をより抑制することができる。
【0012】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記小セルの幅に対する前記大セルの幅の比であるセル幅比が1.2以上2.0以下であるものとしてもよい。このセル幅比は、1.1以上1.6以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記捕集層は、気体を搬送媒体とし該捕集層の原料である無機材料を前記大セルへ供給することにより形成されているものとしてもよい。こうすれば、気体による搬送を利用して、比較的容易に捕集層の厚さを制御することができる。
【0014】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記隔壁部は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。また、前記捕集層は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。
【0015】
本発明のハニカムフィルタは、前記隔壁部及び前記捕集層を有する2以上のハニカムセグメントが接合層によって接合されて形成されているものとしてもよい。
【0016】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記隔壁部及び前記捕集層のうち少なくとも一方には、触媒が担持されているものとしてもよい。こうすれば、捕集した固体成分の燃焼除去などをより効率よく行うことができる。
【0017】
本発明のハニカムフィルタにおいて、前記大セルは前記流体の流通方向に垂直な断面が8角形に形成され、前記小セルは前記流体の流通方向に垂直な断面が4角形に形成されているものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ハニカムフィルタ20の構成の概略の一例を示す説明図である。
【
図3】SEM観察による捕集層の厚さの算出方法の説明図である。
【
図4】捕集層24の形成厚の測定位置の説明図である。
【
図5】ハニカムフィルタ40の構成の概略の一例を示す説明図である。
【
図6】捕集層厚さ比E/Dに対する再生限界(g/L)の測定結果である。
【
図7】捕集層厚さ比E/Dに対するPM堆積圧力損失(kPa)の測定結果である。
【
図8】隔壁厚さ比B/Aに対する再生限界(g/L)の測定結果でる。
【
図9】隔壁厚さ比B/Aに対するPM堆積圧力損失(kPa)の測定結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のハニカムフィルタの一実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるハニカムフィルタ20の構成の概略の一例を示す説明図である。
図2は、セル、隔壁及び捕集層の説明図であり、
図3は、SEM観察による捕集層の厚さの算出方法の説明図であり、
図4は、捕集層24の形成厚の測定位置の説明図である。本実施形態のハニカムフィルタ20は、
図1に示すように、隔壁部22を有する2以上のハニカムセグメント21が接合層27によって接合された形状を有し、その外周に外周保護部28が形成されている。
【0020】
このハニカムフィルタ20は、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止され流体の流路となる小セル25と、一方の端部が目封じされ且つ他方の端部が開口しており小セル25よりも開口面積の大きい大セル23とが形成されている。このハニカムフィルタ20では、大セル23が流体としての排ガスの入口側のセルであり、小セル25が排ガスの出口側のセルであり、大セル23の内壁に捕集層24が形成されている。このハニカムフィルタ20は、大セル23と大セル23との間(大−大セル間)及び大セル23と小セル25との間(大−小セル間)に形成されている複数の多孔質の隔壁部22と、隔壁部22の平均細孔径よりも小さい平均粒径の粒子により構成された粒子群により隔壁部22上に形成され排ガスに含まれる固体成分(PM)を捕集・除去する層である捕集層24とを備えている。ハニカムフィルタ20では、隔壁部22は、一方の端部が開口され且つ他方の端部が目封止された大セル23と一方の端部が目封止され且つ他方の端部が開口した小セル25とが交互に配置されるよう形成されている。このハニカムフィルタ20では、大セル23と小セル25とが隣り合って配設されると共に、大セル23と大セル23とが隣接して配設されている。ここで、ハニカムフィルタ20において、大−小セル間の隔壁厚さを大−小セル間隔壁22a、大−大セル間の隔壁厚さを大−大セル間隔壁22bと称し、これらを隔壁部22と総称するものとする。また、大−小セル間の捕集層を大−小セル間捕集層24a、大−大セル間の捕集層を大−大セル間捕集層24bと称し、これらを捕集層24と総称するものとする。ハニカムフィルタ20では、入口側から大セル23へ入った排ガスが捕集層24及び隔壁部22を介して出口側の小セル25を通過して排出され、このとき、排ガスに含まれるPMが捕集層24上に捕集される。なお、捕集層24の粒子群の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で捕集層24を観察し、撮影した画像に含まれる捕集層24の各粒子を計測して求めた平均値をいうものとする。また、原料粒子における平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、水を分散媒として原料粒子を測定したメディアン径(D50)をいうものとする。
【0021】
このハニカムフィルタ20の外形は、特に限定されないが、円柱状、四角柱状、楕円柱状、六角柱状などの形状とすることができる。ハニカムセグメント21の外形は、特に限定されないが、接合しやすい平面を有していることが好ましく、断面が多角形の角柱状(四角柱状、六角柱状など)の形状とすることができる。セルは、その断面の形状として3角形、4角形、6角形、8角形などの多角形の形状や円形、楕円形などの流線形状、及びそれらの組み合わせとすることができる。例えば、大セル23は排ガスの流通方向に垂直な断面が8角形に形成され、小セル25は排ガスの流通方向に垂直な断面が4角形に形成されているものとしてもよい。なお、
図1,2には、ハニカムフィルタ20の外形が円柱状に形成され、ハニカムセグメント21の外形が矩形柱状に形成され、大セル23が8角形、小セル25が矩形状に形成されているものを一例として示した。
【0022】
隔壁部22は、
図2に示すように、大−小セル間隔壁厚さA、大−大セル間隔壁厚さB及び大−大セル間隔壁長さC、大セル23の幅、小セル25の幅がそれぞれ定められた値になるように形成されている。この小セル25の幅に対する大セル23の幅の比であるセル幅比が1.05以上2.2以下であるものとしてもよい。このセル幅比は、1.1以上1.8以下であることがより好ましく、1.1以上1.4以下であることが更に好ましい。大−大セル間隔壁22bの厚さが大−小セル間隔壁22aの厚さに比して大きいと隔壁自体がその剛性により熱応力による変位を抑制する効力があるためより好ましい。このとき、このセル幅比が2.2より大きいと本来排ガスがほとんど透過しない部分での隔壁が大きくなりすぎ、入口セル、出口セル面積が小さくなり圧損が悪化する。セル幅比が1.1を超えると、大−大セル間隔壁22bの厚さが大きいことによる変位の抑制効果に加え、隔壁が厚いことにより熱容量をかせぐことができ、PMの堆積量に対するPMの異常燃焼時の最高温度をより低下できるため、PM堆積量に対するクラック発生限界を向上することができる。大−小セル間隔壁厚さAは、100μm以上600μm以下であることがより好ましく、200μm以上450μm以下であることが更に好ましい。大−大セル間隔壁厚さBは、100μm以上600μm以下であることがより好ましく、200μm以上600μm以下であることが更に好ましい。大−大セル間隔壁長さCは、350μm以上1200μm以下であることがより好ましく、500μm以上700μm以下であることが更に好ましい。大セル幅は、1000μm以上2000μm以下であることがより好ましく、1200μm以上1600μm以下であることが更に好ましい。小セル幅は、600μm以上1400μm以下であることがより好ましく、800μm以上1100μm以下であることが更に好ましい。
【0023】
この隔壁部22は、多孔質であり、例えば、コージェライト、Si結合SiC、再結晶SiC、チタン酸アルミニウム、ムライト、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア、アルミナ及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。このうち、コージェライトやSi結合SiC、再結晶SiCなどが好ましい。隔壁部22は、その気孔率が30体積%以上85体積%以下であることが好ましく、35体積%以上65体積%以下であることがより好ましい。この隔壁部22は、その平均細孔径が10μm以上60μm以下の範囲であることが好ましい。この気孔率や平均細孔径は、水銀圧入法により測定した結果をいうものとする。このような気孔率、平均細孔径、厚さで隔壁部22を形成すると、排ガスが通過しやすく、PMを捕集・除去しやすい。
【0024】
捕集層24は、大−大セル間隔壁22bに形成された大−大セル間捕集層24bの厚さが、大−小セル間隔壁22aに形成された大−小セル間捕集層24aの厚さの60%以上95%以下となるよう形成されている。大−大セル間隔壁22bは本来排ガスの透過は起こらないが、大−小セル間隔壁22aの上にPMが堆積してくるとそこでの透過抵抗が高くなるため、大−大セル間隔壁も排ガスが透過しながら大セルから小セルへ排ガスが流出していく場合がある。大−大セル間捕集層24bの厚さが大−小セル間捕集層24aの厚さに対して60%以上では、PMを捕集層24で十分に捕集することが可能であり、隔壁部22の細孔内に浸入堆積するのを抑制し、PMが堆積した圧損の上昇をより抑制可能である。一方、大−大セル間捕集層24bの厚さが大−小セル間捕集層24aの厚さに対して95%以下では、例えばPMを過剰堆積させたのち燃焼させた際に、捕集層24の剥離などの不具合の発生をより抑制し、その後、PMを堆積した際の圧損悪化をより抑制することができる。このとき、大−大セル間捕集層24bの厚さが、大−小セル間捕集層24aの厚さの80%以上95%以下であることがより好ましい。大−小セル間捕集層24aの厚さは、10μm以上80μm以下であることが好ましく、20μm以上60μm以下であることがより好ましく、30μm以上50μm以下であることが更に好ましい。大−小セル間捕集層24aの厚さが10μm以上ではPMを捕集しやすく、80μm以下では流体が隔壁を通過する抵抗をより低減可能であり、圧力損失をより低減することができる。また、大−大セル間捕集層24bの厚さは、大−小セル間捕集層24aの厚さよりも小さいが、6μm以上76μm以下であることが好ましく、12μm以上57μm以下であることがより好ましく、18μm以上48μm以下であることが更に好ましい。大−小セル間捕集層24aの厚さが6μm以上76μm以下では、PMを捕集しやすい。
【0025】
捕集層24は、平均細孔径が、0.2μm以上10μm以下であることが好ましく、気孔率が40体積%以上95体積%以下であることが好ましく、捕集層を構成する粒子の平均粒径が0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。平均細孔径が0.2μm以上であればPMが堆積していない初期の圧力損失が過大になるのを抑制することができ、10μm以下であればPM捕集効率が良好なものとなり、捕集層24を通り抜け細孔内部にPMが到達するのを抑制可能であり、PM堆積時の圧力損失の悪化を抑制することができる。また、気孔率が40体積%以上であると、PMが堆積していない初期の圧力損失が過大となるのを抑制することができ、95体積%以下では耐久性のある捕集層24としての表層を作製することができる。また、捕集層を構成する粒子の平均粒径が0.5μm以上であれば捕集層を構成する粒子の粒子間の空間のサイズを十分に確保可能であるため捕集層の透過性を維持でき急激な圧力損失の上昇を抑制することができ、15μm以下であれば粒子同士の接触点が十分に存在するから粒子間の結合強度を十分に確保可能であり捕集層の剥離強度を確保することができる。このように、良好なPM捕集効率の維持、PM捕集開始直後の急激な圧力損失上昇防止、PM堆積時の圧力損失低減、捕集層の耐久性を実現することができる。この捕集層24は、コージェライト、SiC、ムライト、チタン酸アルミニウム、アルミナ、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。このとき、捕集層24は、隔壁部22と同種の材料により形成されているものとすることが好ましい。また、この捕集層24は、セラミック又は金属の無機繊維を70重量%以上含有しているものとするのがより好ましい。こうすれば、繊維質によりPMを捕集しやすい。また、捕集層24は、無機繊維がアルミノシリケート、アルミナ、シリカ、ジルコニア、セリア及びムライトから選択される1以上の材料を含んで形成されているものとすることができる。
【0026】
ここで、捕集層24の厚さの測定方法について
図3を用いて説明する。捕集層24の厚さ、換言すると捕集層を構成する粒子群の厚さは、以下のようにして求めるものとする。ここでは、ハニカムフィルタ20の隔壁基材を樹脂埋めした後に研磨した観察用試料を用意し、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い得られた画像を解析することによって捕集層の厚さを求める。まず、流体の流通方向に垂直な断面を観察面とするように切断・研磨した観察用試料を用意する。次に、SEMの倍率を100倍〜500倍に設定し、後述する測定位置において、視野をおよそ500μm×500μmの範囲として用意した観察用試料の観察面を撮影する。次に、撮影した画像において、隔壁の最外輪郭線を仮想的に描画する。この隔壁の最外輪郭線とは、隔壁の輪郭を示す線であって、隔壁表面(照射面、
図3上段参照)に対して垂直の方向からこの隔壁表面に仮想平行光を照射したものとしたときに得られる投影線をいうものとする(
図3中段参照)。即ち、隔壁の最外輪郭線は、光が当たっているものとする高さの異なる複数の隔壁上面の線分と、隣り合う高さの異なる隔壁上面の線分の各々をつなぐ垂線とにより形成される。この隔壁上面の線分は、例えば、100μmの長さの線分に対して5μmの長さ以下の凹凸については無視する「5%解像度」により描画するものとし、水平方向の線分が細かくなりすぎないようにするものとする。また、隔壁の最外輪郭線を描画する際には、捕集層の存在については無視するものとする。続いて、隔壁の最外輪郭線と同様に、捕集層を形成する粒子群の最外輪郭線を仮想的に描画する。この粒子群の最外輪郭線とは、捕集層の輪郭を示す線であって、捕集層表面(照射面、
図3上段参照)に対して垂直の方向からこの捕集層表面に仮想平行光を照射したものとしたときに得られる投影線をいうものとする(
図3中段参照)。即ち、粒子群の最外輪郭線は、光が当たっているものとする高さの異なる複数の粒子群上面の線分と、隣り合う高さの異なる粒子群上面の線分の各々をつなぐ垂線とにより形成される。この粒子群上面の線分は、例えば、上記隔壁と同じ「解像度」により描画するものとする。多孔性の高い捕集層では、樹脂埋めして研磨して観察用試料を作製すると、空中に浮いているように観察される粒子群もあることから、このように仮想光の照射による投影線を用いて最外輪郭線を描画するのである。続いて、描画した隔壁の最外輪郭線の上面線分の各々の高さ及び長さに基づいて隔壁の最外輪郭線の平均線である隔壁の標準基準線を求める(
図3下段参照)。また、隔壁の標準基準線と同様に、描画した粒子群の最外輪郭線の上面線分の各々の高さ及び長さに基づいて粒子群の最外輪郭線の平均線である粒子群の平均高さを求める(
図3下段参照)。そして、得られた粒子群の平均高さと隔壁の標準基準線との差をとり、この差(長さ)を、この撮影画像における捕集層の厚さ(粒子群の厚さ)とする。このようにして、捕集層の厚さを求めることができる。
【0027】
次に、捕集層の厚さを測定する測定位置について説明する。PMの再生処理時において、ハニカムフィルタの温度上昇は出口端面近傍で大きいことから、
図4に示すように、ハニカムフィルタの出口端面から、ハニカムフィルタの全長の10%程度の長さ上流の断面において、セル内の捕集層の厚さの分布を測定する。この捕集層の厚さの分布は、断面内の中央領域における中央点とこの中央点に対して上下左右に位置する4点を含む任意の5箇所を測定するものとした。また、
図4に示すように、大−小セル間での捕集層厚さは、各辺につき等間隔で5箇所計測し、その平均値として求めるものとする。また、大−大セル間の捕集層厚さは、各辺につき中央部の1箇所を測定し、この平均値として求めるものとする。したがって、大−小セル間捕集層厚さは、1つのセルにつき5箇所×4辺=20箇所、且つ、断面内で5箇所を測定することから、20×5=100点の平均として求めるものとする。また、大−大セル間の捕集層厚さは、1つのセルにつき1箇所×4辺=4箇所、且つ断面内で5箇所を測定することから、4×5=20点の平均として求めるものとする。このようにして、大−小セル間捕集層24aや大−大セル間捕集層24bの捕集層(粒子群)の厚さを求めることができる。
【0028】
また、捕集層24の平均細孔径及び気孔率は、SEM観察による画像解析によって求めるものとする。上述した捕集層の厚さと同様に、
図3に示すように、ハニカムフィルタ20の断面をSEM撮影して画像を得る。次に、隔壁の最外輪郭線と粒子群の最外輪郭線との間に形成される領域を捕集層の占める領域(捕集層領域)とし、この捕集層領域のうち、粒子群の存在する領域を「粒子群領域」とすると共に、粒子群の存在しない領域を「捕集層の気孔領域」とする。そして、この捕集層領域の面積(捕集層面積)と、粒子群領域の面積(粒子群面積)とを求める。そして、粒子群面積を捕集層面積で除算し100を乗算することにより、得られた値を捕集層の気孔率とする。また、「捕集層の気孔領域」において、粒子群及び隔壁の最外輪郭線と粒子群の外周とに内接する内接円を直径が最大になるように描く処理を行う。このとき、例えばアスペクト比の大きい長方形の気孔領域など、1つの「捕集層の気孔領域」に複数の内接円を描くことができるときには、気孔領域が十分に埋められるように、できるだけ大きい内接円を複数描くものとする。そして、観察した画像範囲において、描いた内接円の直径の平均値を捕集層の平均細孔径とするものとする。このようにして、捕集層24の平均細孔径及び気孔率を求めることができる。
【0029】
また、捕集層24の形成では、時間経過に伴い揮発する溶媒を隔壁部22に含ませて、気体により捕集層24の原料粒子をセル23へ供給するものとしてもよい。こうすると、捕集層24の原料粒子を隔壁部22上へ堆積させ始めた初期段階では、高い透過抵抗により、流入した原料粒子の大半は大−小セル間隔壁22aに堆積するが、その後、揮発溶媒が気化していくことから、徐々に透過抵抗が低下し、大−大セル間隔壁22bへも原料粒子が堆積していく。このように、揮発溶媒を用いて大−大セル間捕集層24bが薄い傾向を示す捕集層24をより容易に形成することができる。なお、この揮発溶媒の濃度などを調整することにより気化速度をコントロールし、各隔壁での原料粒子の堆積量を制御することができる。揮発溶媒としては、アルコールやアセトン、ベンゼンなどの有機溶媒や、水などが挙げられる。このうち、揮発溶媒としては、水が好ましい。このようにして捕集層24を形成することができる。
【0030】
捕集層24の原料は、例えば、無機繊維や無機粒子を用いてもよい。この無機繊維は上述したものを用いることができ、例えば平均粒径が0.5μm以上8μm以下、平均長さが100μm以上500μm以下であるものが好ましい。無機粒子としては、上述した無機材料の粒子を用いることができる。例えば、平均粒径が0.5μm以上15μm以下のSiC粒子やコージェライト粒子を用いることができる。このとき、隔壁部22と捕集層24との無機材料を同じ材質とすることが好ましい。また、捕集層24の形成において、無機繊維や無機粒子と共に結合材も供給してもよい。結合材としてはゾル材料、コロイド材料から選択でき特にコロイダルシリカを用いることが好ましい。無機粒子はシリカにより被覆されており且つ無機粒子同士、及び無機粒子と隔壁部の材料とがシリカにより結合されていることが好ましい。例えば、コージェライトやチタン酸アルミニウムなどの酸化物材料の場合には、無機粒子同士、及び無機粒子と隔壁部の材料とが焼結により結合されているのが好ましい。捕集層24は、隔壁部22上に原料の層を形成したあと、熱処理を行い結合することが好ましい。熱処理での温度としては、例えば650℃以上1350℃以下の温度とするのが好ましい。熱処理温度が650℃以上では十分な結合力を確保することができ、1350℃以下であると過度な粒子の酸化による細孔の閉塞を抑制することができる。なお、捕集層24の形成方法は、例えば、捕集層24の原料になる無機粒子を含むスラリーを用いてセル23の表面に形成するものとしてもよい。
【0031】
接合層27は、ハニカムセグメント21を接合する層であり、無機粒子、無機繊維及び結合材などを含むものとしてもよい。無機粒子は、上述した無機材料の粒子とすることができ、その平均粒径は0.1μm以上30μm以下であることが好ましい。無機繊維は、上述したものとしてもよく、例えば平均粒径が0.5μm以上8μm以下、平均長さが100μm以上500μm以下であることが好ましい。結合材としてはコロイダルシリカや粘土などとすることができる。接合層27は、0.5mm以上2mm以下の範囲で形成されていることが好ましい。なお、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、水を分散媒として測定したメディアン径(D50)をいうものとする。外周保護部28は、ハニカムフィルタ20の外周を保護する層であり、上述した無機粒子、無機繊維及び結合材などを含むものとしてもよい。
【0032】
ハニカムフィルタ20において、40℃〜800℃におけるセル23の通過孔方向の熱膨張係数は、6.0×10
-6/℃以下であることが好ましく、1.0×10
-6/℃以下であることがより好ましく、0.8×10
-6/℃以下であることが更に好ましい。この熱膨張係数が6.0×10
-6/℃以下であると、高温の排気に晒された際に発生する熱応力を許容範囲内に抑えることができる。
【0033】
ハニカムフィルタ20において、セルピッチは、1.0mm以上2.5mm以下とするのが好ましい。PM堆積時の圧力損失は、濾過面積が大きいほど小さい値を示す。一方、初期の圧力損失は、セル直径が小さいほど大きい値を示す。したがって、初期圧力損失、PM堆積時の圧力損失、PMの捕集効率のトレードオフを考慮して、セルピッチ、セル密度や隔壁部22の厚さを設定するものとすればよい。
【0034】
ハニカムフィルタ20において、隔壁部22や捕集層24は、触媒を含むものとしてもよい。この触媒は、捕集されたPMの燃焼を促進する触媒、排ガスに含まれる未燃焼ガス(HCやCOなど)を酸化する触媒及びNO
Xを吸蔵/吸着/分解する触媒のうち少なくとも1種以上としてもよい。こうすれば、PMを効率よく除去することや未燃焼ガスを効率よく酸化することやNO
Xを効率よく分解することなどができる。この触媒としては、例えば、貴金属元素、遷移金属元素を1種以上含むものとするのがより好ましい。また、ハニカムフィルタ20では、他の触媒や浄化材が担持されていてもよい。例えば、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)やアルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)などを含むNO
x吸蔵触媒、少なくとも1種の希土類金属、遷移金属、三元触媒、セリウム(Ce)及び/又はジルコニウム(Zr)の酸化物に代表される助触媒、HC(Hydro Carbon)吸着材等が挙げられる。具体的には、貴金属としては、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)や、金(Au)及び銀(Ag)などが挙げられる。触媒に含まれる遷移金属としては、例えば、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Sc,Ti,V,Cr等が挙げられる。また、希土類金属としては、例えば、Sm,Gd,Nd,Y,La,Pr等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、例えば、Mg,Ca,Sr,Ba等が挙げられる。このうち、白金及びパラジウムがより好ましい。また、貴金属及び遷移金属、助触媒などは、比表面積の大きな担体に担持してもよい。担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライトなどを用いることができる。PMの燃焼を促進する触媒を有するものとすれば、捕集層24上に捕集されたPMをより容易に除去することができるし、未燃焼ガスを酸化する触媒やNO
Xを分解する触媒を有するものとすれば、排ガスをより浄化することができる。
【0035】
以上説明した実施形態のハニカムフィルタによれば、大−小セル間捕集層24aや大−大セル間捕集層24bの厚さなどを好適な範囲とすることにより、圧力損失をより低減すると共に、捕集層における耐久性をより高めることができる。この点について説明する。例えば、堆積したPMを燃焼除去する再生処理において、再生中にエンジン状態が低速状態やアイドル状態に切り替わる等の状況によりハニカムフィルタ内部で異常燃焼を起こした場合、PMの異常燃焼で発生する熱応力によって捕集層にクラックが発生することがある。例えば、ハニカムフィルタを車両の床下位置に搭載した場合などには、ハニカムフィルタの入口温度を上昇させることが容易ではなく、想定より多くのPMが堆積することがあり、特に運転条件が非定常で低速走行の割合が多い場合、想定外のPMの過堆積が起こることが考えられる。その結果、クラックの発生につながることも予想される。入口セルが出口セルよりも大きい構造を持つ場合、PM燃焼時の応力は入口セルのコーナー部にかかり、大−大セル間の隔壁、及びその上に形成された捕集層に集中することが考えられる。その応力集中により隔壁上に形成された捕集層にクラックが発生し、それが起点となって捕集層の一部が剥離し、捕集性能が低下する場合がある。これは捕集層の上面(入口セル側)に引張応力が発生することで起こるものである。そこで、本発明のハニカムフィルタ20では、大−大セル間の捕集層を薄くすることでPM燃焼における熱応力の発生をより抑制することによって、捕集層の剥離を抑制することができる。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、ハニカムセグメント21を接合層27により接合したハニカムフィルタ20としたが、
図5に示すように、一体成形されたハニカムフィルタ40としてもよい。ハニカムフィルタ40において、隔壁部42、大セル43、捕集層44、小セル45、目封止部46などは、ハニカムフィルタ20の隔壁部22、大セル23、捕集層24、小セル25、目封止部26と同様の構成とすることができる。こうしても、圧力損失をより低減すると共に、捕集層における耐久性をより高めることができる。
【0038】
上述した実施形態では、ハニカムフィルタ20には触媒が含まれるものとしたが、流通する流体に含まれる除去対象物質を浄化処理可能なものであれば特にこれに限定されない。あるいは、ハニカムフィルタ20は、触媒を含まないものとしてもよい。また、排ガスに含まれるPMを捕集するハニカムフィルタ20として説明したが、流体に含まれる固体成分を捕集・除去するものであれば特にこれに限定されず、建設機器の動力エンジン用のハニカムフィルタとしてもよいし、工場や発電所用のハニカムフィルタとしてもよい。
【実施例】
【0039】
以下には、ハニカムフィルタを具体的に製造した例を実施例として説明する。
【0040】
[ハニカムフィルタの作製]
SiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合し、これにメチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、界面活性剤及び水を添加して混練し、可塑性の坏土を得て、所定の金型を用いて坏土を押出成形し、所望形状のハニカムセグメント成形体を成形した。ここでは、大セルが8角形、小セルが4角形であり、大セルと小セルとの間の隔壁である大−小セル間の隔壁厚さA、大セルと大セルとの間の隔壁である大−大セル間の隔壁厚さB、大セルと大セルとの間の長さである大−大セル間長さC、大セル/小セルの幅比、などを後述する値に適宜設定したセル形状に成形した。また、ハニカムセグメントは、断面が35mm×35mm、長さが152mmの形状に成形した。次に、得られたハニカムセグメント成形体をマイクロ波により乾燥させ、更に熱風にて乾燥させた後、目封止をして、酸化雰囲気において550℃、3時間で仮焼きした後に、不活性雰囲気下にて1400℃、2時間の条件で本焼成を行った。目封止部の形成は、セグメント成形体の一方の端面のセル開口部に交互にマスクを施し、マスクした端面をSiC原料を含有する目封止スラリーに浸漬し、開口部と目封止部とが交互に配設されるように行った。また、他方の端面にも同様にマスクを施し、一方が開口し他方が目封止されたセルと一方が目封止され他方が開口したセルとが交互に配設されるように目封止部を形成した。得られたハニカムセグメント焼成体の排ガス流入側の開口端部より、隔壁の平均細孔径よりも小さい平均粒径を有するSiC粒子を含む空気を流入させ、且つハニカムセグメントの流出側より吸引しながら、排ガス流入側の隔壁の表層に堆積させた。このとき、後述する捕集層の形成厚分布処理を行い、大−小セル間の捕集層厚さDに対して大−大セル間の捕集層厚さEが小さくなるように捕集層を隔壁部に形成した。次に、大気雰囲気下にて1300℃、2時間の条件の熱処理により、隔壁の表層に堆積させたSiC粒子同士、及び堆積させたSiC粒子と隔壁を構成するSiC及びSi粒子と結合させた。このように、隔壁部上に捕集層を形成したハニカムセグメントを作製した。このようにして得られたハニカムセグメントの側面に、アルミナシリケートファイバ、コロイダルシリカ、ポリビニルアルコール、炭化珪素、および水を混練してなる接合用スラリーを塗布し、互いに組み付けて圧着したあと、加熱乾燥して、全体形状が四角形状のハニカムセグメント接合体を得た。さらに、そのハニカムセグメント接合体を、円柱形状に研削加工した後、その周囲を、接合用スラリーと同等の材料からなる外周コート用スラリーで被覆し、乾燥により硬化させることにより所望の形状、セグメント形状、セル構造を有する円柱形状のハニカムフィルタを得た。ここでは、ハニカムフィルタは、断面の直径が144mm、長さが152mmの形状とした。また、後述する実施例1〜15及び比較例1〜6の隔壁部の気孔率は40体積%であり、平均細孔径は15μmであり、捕集層を形成する粒子の平均粒径は2.0μmであった。なお、隔壁部の気孔率及び平均細孔径は水銀ポロシメータ(Micromeritics社製Auto PoreIII型式9405)を用いて測定した。また、捕集層の原料粒子の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製LA−910)を用い、水を分散媒として測定したメディアン径(D50)である。
【0041】
[捕集層の形成厚分布処理]
作製したハニカムセグメントに十分な水を吸水させたあと、エアーブローにて表面張力の影響等で隔壁部に残った水分と次に捕集層を形成する部分の隔壁細孔内に含まれる水分とを飛ばした。このとき、大−小セル間隔壁に吸水されていた水分はエアーブロー時の空気の透過により吹き飛ぶが、大−大セル間隔壁の吸水分はエアーブロー時の空気の透過がほとんどないため飛ばずに残るが、エアーブロー圧力を徐々に上昇させていくことにより大-大セル間隔壁に吸水された水分も徐々に吹き飛ぶようになる。このように、大−大セル間隔壁に水分が残った状態のハニカムセグメントに対して捕集層を形成することで、大−大セル間隔壁上の捕集層の形成厚を制御することができる。ここでは、エアーブロー圧力を0.2MPaから0.8MPaの間で調整することにより、大-大セル間隔壁の捕集層の形成厚を制御した。
【0042】
[触媒担持]
まず、重量比でアルミナ:白金:セリア系材料=7:0.5:2.5とし、セリア系材料を重量比でCe:Zr:Pr:Y:Mn=60:20:10:5:5とした原料を混合し、溶媒を水とした触媒のスラリーを調製した。次に、ハニカム構造体の出口端面(排ガスが流出する側)を所定の高さまで浸漬させ、入口端面(排ガスが流入する側)より、所定の吸引圧力と吸引流量に調整しながら所定時間にわたって吸引し、隔壁に触媒を担持し、120℃2時間で乾燥させた後、550℃1時間で焼付けを行った。ハニカムフィルタの単位体積当たりの触媒量は、30g/Lとなるようにした。
【0043】
(実施例1〜4)
上記ハニカムフィルタの作製条件において、大−小セル間の隔壁厚さAが305μm、大−大セル間の隔壁厚さBが305μm、大−大セル間長さCが657μm、大セル/小セルの幅比が1.3であるセル形状に成形した。また、大−小セル間の捕集層厚さDが40μm、大−大セル間の捕集層厚さEが24μmとなるように捕集層の形成厚分布処理を行い得られたハニカムフィルタを実施例1とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを26μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例2とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを28μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例3とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを32μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例4とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを36μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例5とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを38μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例6とした。なお、実施例1〜6及び後述する比較例1,2では、大−小セル間の隔壁厚さAと大−大セル間の隔壁厚さBとの隔壁厚さ比(B/A)を1.00とし、大セル/小セルの幅比を1.3とした。
【0044】
(比較例1,2)
大−大セル間の捕集層厚さEを22μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを比較例1とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを39μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを比較例2とした。
【0045】
(実施例7〜10)
上記ハニカムフィルタの作製条件において、大−小セル間の隔壁厚さAが305μm、大−大セル間の隔壁厚さBが305μm、大−大セル間長さCが770μm、大セル/小セルの幅比が1.5であるセル形状に成形した。また、大−小セル間の捕集層厚さDが40μm、大−大セル間の捕集層厚さEが24μmとなるように捕集層の形成厚分布処理を行い得られたハニカムフィルタを実施例7とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを32μmとした以外は実施例7と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例8とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを36μmとした以外は実施例7と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例9とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを38μmとした以外は実施例7と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例10とした。なお、実施例7〜10及び後述する比較例3,4では、大セル/小セルの幅比を1.5とした。
【0046】
(比較例3,4)
大−大セル間の捕集層厚さEを22μmとした以外は実施例7と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを比較例3とした。また、大−大セル間の捕集層厚さEを39μmとした以外は実施例7と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを比較例4とした。
【0047】
(実施例11〜15)
上記ハニカムフィルタの作製条件において、大−小セル間の隔壁厚さAが305μm、大−大セル間の隔壁厚さBが335μm、大−大セル間長さCが657μm、隔壁厚さ比(B/A)が1.10、大セル/小セルの幅比が1.3であるセル形状に成形した。また、大−小セル間の捕集層厚さDが40μm、大−大セル間の捕集層厚さEが32μmとなるように捕集層の形成厚分布処理を行い得られたハニカムフィルタを実施例11とした。また、大−大セル間の隔壁厚さBを366μm、隔壁厚さ比(B/A)を1.20とした以外は実施例11と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例12とした。また、大−大セル間の隔壁厚さBを427μm、隔壁厚さ比(B/A)を1.40とした以外は実施例11と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例13とした。また、大−大セル間の隔壁厚さBを488μm、隔壁厚さ比(B/A)を1.60とした以外は実施例11と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例14とした。また、大−大セル間の隔壁厚さBを549μm、隔壁厚さ比(B/A)を1.80とした以外は実施例11と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを実施例15とした。
【0048】
(比較例5,6)
大−大セル間の隔壁厚さBを332μm、隔壁厚さ比(B/A)を1.09とした以外は実施例11と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを比較例5とした。また、大−大セル間の隔壁厚さBを610μm、隔壁厚さ比(B/A)を2.00とした以外は実施例11と同様の工程を経て得られたハニカムフィルタを比較例6とした。
【0049】
[SEM観察による捕集層の厚さ測定]
実施例1〜15及び比較例1〜6の断面のSEM撮影を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S−3200N)を用いて行い、大−小セル間捕集層及び大−大セル間捕集層の厚さを測定した。まず、ハニカムフィルタの隔壁基材を樹脂埋めした後に研磨した試料を用意し、SEM観察を行い得られた画像を解析することによって捕集層を形成する粒子群の厚さを求めた。測定位置は、ハニカムフィルタの出口端面から15mm上流側の断面において、その中央領域の任意の5箇所とした(
図4参照)。大−小セル間の捕集層厚さは各辺につき等間隔で5箇所計測しその平均値として求め、大−大セル間の捕集層厚さは各辺につき中央部の1箇所を測定しこの平均値として求めた。撮影した画像において、隔壁の輪郭を示す線であって隔壁表面に対して垂直の方向から投影された際に隔壁の凹あるいは凸の輪郭に沿った投影線(隔壁の最外輪郭線)を描き、この隔壁の最外輪郭線の平均線を求め、これを隔壁の標準基準線とした。また、同様に、撮影した画像において、捕集層を形成する粒子群の輪郭を示す線であって隔壁表面に対して垂直の方向から投影された際に粒子群の凹あるいは凸の輪郭に沿った投影線(粒子群の最外輪郭線)を描き、この粒子群の最外輪郭線の平均線を求め、これを粒子群の平均高さとした。そして、粒子群の平均高さと隔壁の標準基準線との差を捕集層の厚さとした。
【0050】
[再生限界試験(捕集層クラック限界試験)]
PMを過剰に堆積した状態でのPMの異常燃焼におけるクラック発生有無を評価した。ここでは、PMを燃焼除去する再生処理において通常のPM堆積量を超える過剰量のPMを堆積させて再生処理したあと、捕集層に不具合が生じるPM堆積量、即ち、再生処理の前後でPMの捕集効率が低下し始めるPM堆積量を「再生限界」と定義し、この測定を行った。3000rpm、50Nmの一定状態で所定量のPMを堆積させたあと、ハニカムフィルタの内部温度が最も高くなる、以下のPM異常燃焼モードにて試験を実施した。まず、2.0Lディーゼルエンジンを3000rpm、50Nmの一定状態に制御した状態でポストインジェクションによりフィルタの入口ガス温度を650℃に上げて堆積したPMを燃焼させた。ハニカムフィルタの前後の圧損が低下しはじめたところで走行中に車両走行を停止するモードを想定して、ポストインジェクションを終了し、エンジンをアイドル状態へ切り替えた。これによりハニカムフィルタへ流入する酸素濃度が急上昇し、ハニカムフィルタの内部で堆積しているPMの異常燃焼が起こる。捕集層にクラック、剥離が発生した場合、その部分よりPMが漏れてPM捕集能力が低下することから、再生処理後に捕集効率を測定し、再生処理前の捕集効率と比較した。この捕集効率は、ハニカムフィルタの上流側と下流側でのPMの濃度を走査型モビリティ粒径分析装置(Scanning Mobility Particle Sizer:SMPS)により計測し、ハニカムフィルタ上流でのPMの濃度に対するハニカムフィルタ下流でのPMの濃度の減少率より算出した。PM異常燃焼モード試験にて堆積させるPM量を0.5g/Lずつ増加させていき、試験前に比べ試験後に捕集効率が悪化した際のPM堆積量を、評価しているハニカムフィルタの再生限界値とした。
【0051】
[圧力損失試験]
上記作製したハニカムフィルタを2.0Lディーゼルエンジンに搭載し、エンジン回転数3000rpm、トルク50Nmの定常状態にてPMを堆積させながら、圧力損失の挙動を計測した。エンジン試験前後にハニカムフィルタの重量を測定し、試験後の重量から試験前の重量を引くことで、試験時の堆積PM量を算出した。PMは一定速度で発生しているものとすることで堆積PM量に対する圧力損失の値を得た。ハニカムフィルタの性能評価として、通常の再生限界設定値近傍である、PMが8g/L堆積した状態の圧力損失値を用いた。
【0052】
(実験結果)
実施例1〜15及び比較例1〜6のセル構造及び評価結果を表1にまとめて示す。
図6は、大−小セル間の捕集層厚さDに対する大−大セル間の捕集層厚さEとの比を捕集層厚さ比E/D(%)としたときの、捕集層厚さ比E/D(%)に対する再生限界(g/L)の測定結果である。
図7は、大−小セル間の捕集層厚さDと大−大セル間の捕集層厚さEとの捕集層厚さ比E/D(%)に対するPM堆積圧力損失(kPa)の測定結果である。
図8は、大−小セル間の隔壁厚さAと大−大セル間の隔壁厚さBとの隔壁厚さ比B/A(−)に対する再生限界(g/L)の測定結果である。
図9は、大−小セル間の隔壁厚さAと大−大セル間の隔壁厚さBとの隔壁厚さ比B/A(−)に対するPM堆積圧力損失(kPa)の測定結果である。
図6に示すように、通常では起こりえない過剰量のPMを堆積させて上記再生限界試験を行った場合、捕集層厚さ比E/Dが95%を超えると再生限界値が12g/L以下に低下した。即ち、隔壁上に形成された捕集層に何らかの不具合が生じたものと推察された。また、
図7に示すように、再生限界値近傍では、捕集層厚さ比E/Dが60%を下回ると圧力損失が急激に上昇した。このため、大−小セル間の捕集層厚さDと大−大セル間の捕集層厚さEとの捕集層厚さ比E/D(%)は60%以上95%以下が好ましいことがわかった。また、
図8に示すように、隔壁厚さ比B/Aが1.10を下回ると再生限界値が低下し、
図9に示すように、隔壁厚さ比B/Aが1.80を上回ると圧力損失が上昇した。したがって、大−小セル間の隔壁厚さAと大−大セル間の隔壁厚さBとの隔壁厚さ比B/Aは、1.10以上1.80以下であることが好ましいことがわかった。
【0053】
【表1】
【0054】
本出願は、2010年3月31日に出願された日本国特許出願第2010−81901号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、自動車用エンジン、建設機械用及び産業用の定置エンジン並びに燃焼機器等から排出される排ガスを浄化するためのフィルターとして好適に使用することができる。