特許第5666583号(P5666583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5666583被覆されたステータ表面を有する回転シアーインジェクタ弁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666583
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】被覆されたステータ表面を有する回転シアーインジェクタ弁
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/26 20060101AFI20150122BHJP
   F16K 3/08 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   G01N30/26 M
   F16K3/08
【請求項の数】15
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-522915(P2012-522915)
(86)(22)【出願日】2010年7月23日
(65)【公表番号】特表2013-501219(P2013-501219A)
(43)【公表日】2013年1月10日
(86)【国際出願番号】US2010043004
(87)【国際公開番号】WO2011014414
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2013年5月8日
(31)【優先権主張番号】61/229,398
(32)【優先日】2009年7月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509131764
【氏名又は名称】ウオーターズ・テクノロジーズ・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モーラー,マーク・ダブリユ
(72)【発明者】
【氏名】キルビー,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】チヨルコシユ,テオドール・デイー
(72)【発明者】
【氏名】ジエンクス,ロバート・エイ
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−227882(JP,A)
【文献】 特開昭62−109222(JP,A)
【文献】 特開2004−028215(JP,A)
【文献】 特表平10−500633(JP,A)
【文献】 特表2007−526974(JP,A)
【文献】 特開2004−353759(JP,A)
【文献】 特表平06−501745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
F16K 3/00−3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ基板を備えるロータと、
ステータ基板を備え、ロータの接触面と摺動可能に接触する接触面を有するステータと
を備えるクロマトグラフィー弁であって、
ロータおよびステータの一方または両方が、接触面に隣接する少なくとも部分的に非晶質の中間層と中間層上のダイヤモンド状炭素を含む表面層とを備える接触面被覆をさらに備えており、
表面層が、約0.025μm以下の平均粗さ(Ra)をもつ未研磨の接触表面を有している、前記クロマトグラフィー弁。
【請求項2】
表面層には、実質的にノジュールがない、請求項1に記載の弁。
【請求項3】
弁が、HPLCまたは高圧回転インジェクタ弁である、請求項1に記載の弁。
【請求項4】
中間層が基板と直接接触しており、表面層が中間層と直接接触している、請求項1に記載の弁。
【請求項5】
中間層がシリカを含む、請求項1に記載の弁。
【請求項6】
中間層が、実質的に非晶質シリカから成る、請求項5に記載の弁。
【請求項7】
中間層には、実質的に柱状成長構造体がない、請求項1に記載の弁。
【請求項8】
ステータ基板が、鋼またはチタンを含む、請求項1に記載の弁。
【請求項9】
表面層が、約10原子%よりも小さい濃度の珪素をさらに含む、請求項1に記載の弁。
【請求項10】
中間層が、約0.3μmから約0.5μmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の弁。
【請求項11】
表面層が、約1.0μmから約3.0μmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の弁。
【請求項12】
接触面を画定するステータ基板を準備するステップと、
接触面を画定するロータ基板を準備するステップと、
ロータ基板およびステータ基板のうちの一方または両方の接触面に隣接する少なくとも部分的に非晶質の中間層を付着するステップと、
イヤモンド状炭素を含み、約0.025μm以下の平均粗さ(Ra)をもつ未研磨の接触表面を有する表面層を、中間層上に付着するステップと、
各接触面を摺動可能に接触させて配置するステップと
を含む、クロマトグラフィー弁を作る方法。
【請求項13】
中間層が、実質的にシリカから成る、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
中間層が、実質的に非晶質である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
表面層が、約1.0μmから約3.0μmの範囲の厚さを有する、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年7月29日に出願した米国仮特許出願第61/229,398号明細書の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、一般に弁、および、より詳細には可動部品を有し、化学処理装置に使用される高圧弁に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、負荷を受ける可動部品を有する弁に関する。通常の流体弁は、流体の漏れを回避するように構成される部品を有する。しかしながら、弁は弁状態の間でサイクル運転されるので、可動部品に加えられる負荷が摩耗の原因となる。負荷は、分析機器に使用される弁の可動部品、通常ステータおよびロータに実在し得る。いくつかの分析機器のうちの一部は、高圧で作動し、多くの場合、弁部界面で高圧の使用を必要とする。たとえば、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプは、通常、1,000から5,000ポンド/1平方インチ(psi)までで作動し、高圧クロマトグラフィー装置は、10,000psi以上のまでの圧力で作動する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
システムの圧力が増加すると、弁の可動部品の摩耗が増大する傾向があり、弁の予期サイクル寿命が低減される。非常に高い圧力で作動する多くの弁は、150,000サイクルしか耐えることができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、化学処理装置における摺動部品を有する弁が、少なくとも部分的に非晶質の材料で形成される実質的に滑らかな中間層にDLC被覆を形成することによって、有利なことに、摺動接触面に実質的に滑らかなダイヤモンド状炭素(DLC)被覆を獲得できることを実現することから一部は生まれている。滑らかな被覆は、良好な摩耗率および摩擦係数を与えるが、非晶質の中間層を使用すると、化学処理装置に使用される現存する弁のそれに比して製造の複雑さおよびコストが低減される。したがって、たとえば、本発明は特に、HPLCまたは高圧クロマトグラフィー装置に試料を送出するのに使用されるような、改良された回転シアーインジェクタ弁を提供するのに良好に適している。
【0006】
したがって、本発明の1つの実施形態は、弁を特徴付けるものである。弁は、ロータ基板から少なくとも一部は形成されるロータと、ステータ基板から少なくとも一部は形成されるステータとを含む。ロータおよびステータはそれぞれシール面を有し、弁が組み立てられかつ作動されるときに、ロータおよびステータは、それらのそれぞれのシール面で摺動可能に接触している。ロータおよびステータの一方または両方は、それぞれの接触面に隣接する、少なくとも部分的に非晶質または単結晶の中間層を付着し、中間層にダイヤモンド状炭素を含む表面層を付着することによって形成される接触面被覆を有する。中間層は、実質的に滑らかな表面層の成長のために実質的に滑らかな層を形成し、それにより、いくつかの先行する弁と対照的に機械研磨を必要としない。
【0007】
本発明の第2の実施形態は、上述の弁を作る方法を特徴付けるものである。
【0008】
図面は、必ずしも縮尺通りに描かれておらず、その代わりに、全体的に本発明のいくつかの原理を示すことを強調している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の1つの実施形態による、インジェクタ弁の一部のブロック側面図である。
図2A図1のステータの断面側面図である。
図2B図2Aのステータのシール面の一部の底部詳細図である。
図3A図1のロータの3次元図である。
図3B図3Aのロータの接触面の中央部分の上面詳細図である。
図3C】接触面の溝を示す、図3Aのロータの断面詳細図である。
図4】シール面の近くの、図2Aのステータの一部の断面詳細図である。
図5】先行技術のステータの表面領域の小部分の断面詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
便宜上、本発明の特徴は、本明細書において、改良された6ポート回転シアーインジェクタ弁の実施形態の説明によって示されている。マルチポートインジェクタ弁は、クロマトグラフィー技術の当業者によく知られている。本説明を考慮すると、当業者は、本発明の特徴が他のタイプのインジェクタ弁、クロマトグラフィーおよび化学処理に使用される他の弁、ならびに、より一般的には、構成部品接触面での摺動運動によるせん断面力を蒙る構成部品を有する他の弁および機械装置に適用できることを理解する。
【0011】
図1は、本発明の1つの実施形態による、たとえばHPLCまたは高圧LCに適したインジェクタ弁100の一部のブロック図である。弁は、ステータ110およびロータ120を含む(現行の弁で典型的な他の構成部品は、図示されていない)。本発明は、ステータ110および/またはロータ120の摺動接触面に使用される被覆に関するものである。したがって、簡潔にするために、ステータ110およびロータ120だけが示され、説明される。
【0012】
図2Aは、ステータ110の断面側面図である。ステータは、シール/接触面Aを有し、これは、6つの取付け具F(2つが示されている)に至る6つのポートを画定する。取付け具Fにより、HPLC技術で知られているように、溶媒ポンプ、サンプル源、サンプルループ、廃棄ライン、および分離カラムへの配管接続が可能になる。
【0013】
図2Bは、ステータ110のシール面Aの一部の詳細平面図である。シール面Aは、上で説明したように、6つの取付け具Fのそれぞれについて1つの、6つのポートP(開口)を有する。下でより詳細に説明されるように、ステータ110のシール面Aは、ロータ120の表面と合わさり、このロータ120の表面は、弁100の作動時に望まれるように、ポートPの対の間で流体経路を選択可能に形成する形状構成を有する。
【0014】
図3Aは、ロータ120の3次元図である。ロータ120は、3つの貫通孔121を有し、これは弁シャフト(図示せず)と係合し、この弁シャフトは、使用時に、ステータ110と接触してロータ120を押圧しながらロータ120を回転させる。また、ロータ120は、シール/接触面Bに画定される3つの溝122を有し、これは、ステータ110のシール面Aと協働して流体導管として働く。
【0015】
図3Bは、ロータ110のシール面Bの中央部分の詳細平面図である。ステータ110およびロータ120のシール面A、Bが接触している場合、溝122は、ステータ110のポートPの対を接続する流体導管を形成する。ステータ110に対してロータ120を回転させることによって、ポートPの異なる対が、流体連通するために接続される。
【0016】
図3Cは、溝122のうちの1つの断面形状構成を示す、ロータ120の小部分の断面詳細図である。この例では、溝122の深さは、約200μmである。
【0017】
図4は、接触面Aの近くの、ステータ110の小部分の断面詳細図である。ステータ110は、金属製基板113と、基板113上の実質的に滑らかな中間層111と、中間層111上の実質的に滑らかな低摩擦表面層112とを含む。基板は、316ステンレス鋼またはチタンで形成されることが好ましい。中間層111は、少なくとも部分的に非晶質であり、表面層112に対して良好な成長および密着層を可能にするように選択されることが好ましい。中間層111は、ガラス状シリカなどの実質的に非晶質の二酸化珪素で形成されることが好ましい。表面層112は、水素および/または珪素などの、他の成分の有りまたは無しのダイヤモンド状炭素112で形成されることが好ましい。たとえば、約10原子%よりも少ない珪素が、任意に含まれる。
【0018】
層111および層112は、物理蒸着(PVD)、プラズマアシスト化学蒸着(PACVD)、イオンビーム蒸着(IBD)、またはスパッタ成膜などの知られている技術を含む、任意の適切な蒸着技術によって付着される。たとえば、中間層111は、400℃でテトラエトキシシラン(TEOS)のPACVDによって付着される非晶質シリカで形成される。
【0019】
中間層111の厚さは、約0.3μmから約0.5μmの範囲にあることが好ましく、表面層112の厚さは、約1.0μmから約3.0μmの範囲にあることが好ましい。中間層111は、表面層112に対する成長および密着基材として働く。表面層112は、コンフォーマル付着であることが好ましく、これは、中間層111の実質的に滑らかな表面を維持する。約0.025μm以下の平均粗さ(Ra)(すなわち、表面の平均線と表面のすべての点との間の平均距離)を有する接触面Aを得るために、いかなる研磨も要求されない。
【0020】
図5は、先行技術のステータ210の例についての表面領域の小部分の断面詳細図であり、これは、ステータ110に比してより大きな製造の複雑さおよび/または接触面の摩擦を伴う。ステータ210は、ステンレス鋼の基板213と、基板210に付着されるクロム層211と、クロム層上のダイヤモンド状炭素層212とを含む。層211および層212は、PVDまたはPACVDによって付着される。クロム層211の厚さは、約0.4μmであり、ダイヤモンド状炭素層212の厚さは、約2.0μmである。
【0021】
ダイヤモンド状炭素層212の付着の後、ステータ210の表面は、(表面に平行な)直径が約0.5μmから約2.0μmのノジュール、および約0.05μmから約0.13μmの垂直方向の平均粗さ(Ra)を有する。この種の粗さは、望ましくないレベルの摩擦の原因となるので、付着したままの表面は、通常、約0.025μmの平均粗さ(Ra)を得るように機械的に研磨される。しかしながら、研磨プロセスは、通常、いくらかの表面損傷を招く。
【0022】
クロムは、通常、表面凹凸をもたらす柱状結晶成長を示す。表面粗さは、クロムに付着されるダイヤモンド状炭素(DLC)または他の材料の望ましくない粗さをもたらす場合がある。本発明のいくつかの構成では、この問題が軽減される。したがって、たとえば、研磨前に、ステータ210が約2×10/cmから4×10/cmのノジュール表面密度を有することができる場合、ステータ110は、研磨無しで、実質的に全くノジュール無しから2×10/cmよりはるかに小さい範囲までのノジュール表面密度を有する。
【0023】
弁100は、被覆された金属ベースのステータ110、およびポリマーベースのロータ120を有することが好ましい。ステータ基板113は、ステンレス鋼、チタン、およびアルミニウムなどの金属を含む任意の適切な材料で形成される。ロータ120は、所望の圧力で液密シールを形成できるように選択されるポリマー材料で形成されることが好ましい。ポリマーは、知られている材料を含む任意の適切な材料を含む。
【0024】
適切なポリマー材料のうちの1つは、(Victrex PLC、Lancashire、United Kingdomから入手できる)PEEKポリマーなどのポリエーテルエーテルケトンである。他のポリマーは、たとえば、(Dupont Engineering Polymers、Newark、DelwareからTEFLON(登録商標)ポリマーとして入手できる)ポリテトラフルオロエチレン、(Fluorotherm Polymers、Inc.、Fairfield、New JerseyからNEOFLON PCTFEフルオロポリマーとして入手できる)クロロテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、および変性共重合体フルオロポリマー(たとえば、DUPONT TEFZELフルオロポリマーとして入手できるテトラフルオロエチレンおよびエチレンの変性共重合体、これは濃縮硝酸または硫酸に耐性がある)、ならびに(DUPONT VESPELポリイミドとして入手できる)ポリイミドなどの他のポリマーを含む。
【0025】
実施形態よっては、ロータ120は、複合材料で形成される。たとえば、これらの実施形態のうちのいくつかでは、ロータ120は、ポリエーテルエーテルケトンなどのポリマーの混合物、ならびに約5重量%のガラス、繊維ガラス、炭素、および/または他の粒子、および/または繊維で形成される。
【0026】
ロータ120は、ポリエーテルエーテルケトンおよびテトラフルオロエチレンの化合物などのポリマーの混合物を任意に含む。ポリエーテルエーテルケトンおよびテトラフルオロエチレンの任意の化合物は、50%から90%のポリエーテルエーテルケトンおよび10%から50%のテトラフルオロエチレン、または60%から80%のポリエーテルエーテルケトンおよび20%から40%のテトラフルオロエチレンを有する。
【0027】
インジェクタ弁100は、数十万回以上の確実な回転サイクルが可能である。
【0028】
より一般的には、本発明のさまざまな実施形態は、少なくとも2つの接触部品を含み、そのうちの少なくとも1つは、少なくとも一部が被覆された金属で形成される。インジェクタ100の本発明の構成は、溶媒流れの中にサンプルを注入するために、知られているインジェクタを含む任意の適切なインジェクタに適用できる。
【0029】
本明細書において説明したものに関するさまざまな変化、改変および他の実施が、説明した本発明の範囲から逸脱することなく当業者には見出される。たとえば、上述のインジェクタ弁100のさまざな構成要素の数および/または配置は、本発明の特徴を依然として活かしながら任意に改変されることが明らかである。たとえば、本発明の他の実施形態は、摺動面を有する他のタイプの弁、ならびに通風弁、スイッチング弁、および切換え弁などのLCでの適用を含んでいる。したがって、「ロータ」および「ステータ」という用語は、これらの実施形態のいずれの場合も、互いに対して摺動する構成要素を指すように本明細書で使用される。したがって、本発明は、先行する例示的な説明によってではなく、その代わりに以下の特許請求の範囲によって規定されるべきである。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5