(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の小型アンテナにおける好適な実施の形態について、
図1から
図11を参照して詳細に説明する。
(1)実施形態の概要
図12に示した従来のSRRを用いた小型アンテナ(以下SRR小型アンテナという)がスプリット部270を中心とする破断環状部260に給電ラインを直接接続(電気的接続)しているのに対して、本実施形態では、電磁的な結合により給電するEM結合型給電を行う。
具体的には、破断部によりその内側に開口部を形成する複数層の破断環状部22を備えたSRR部21と、この破断環状部22の一部と各層毎に所定間隔をおいて対抗して配置される複数層のEM給電部41、及び、いずれかのEM給電部41と電気的に接続される給電ライン42により、SRR小型アンテナ2を構成する。
このように、本実施形態のSRR小型アンテナ2によれば、給電ライン42が破断環状部22との電気的な接続にはよらず、電磁的接合により給電することで、共振周波数に実用範囲での影響を与えることなく、給電ラインの特性インピーダンスを単独で設計することが可能になる。従って、EM給電部41における給電ライン42の接続位置(給電位置)、言い換えると、給電ライン42と破断環状部22(直線部24)との距離を変化させることが可能になる。
また、本実施形態の構成により、比帯域幅をより広く確保することができると共に、安定給電が可能になる。
【0013】
(2)実施形態の詳細
図1はSRR小型アンテナにおける実施形態の構成を表した斜視図である。
図1(a)は、小型アンテナモジュール1の全体を表したもので、第1絶縁層11、第2絶縁層12、第3絶縁層13からなる多層基板において、SRR小型アンテナ2が形成されている。
第1絶縁層11〜第3絶縁層13は、縦30mm、横50mmの方形であり、SRR小型アンテナ2の内側にも第1絶縁層11〜第3絶縁層13が存在している。
本実施形態におけるSRR小型アンテナ2は、後述する各種パラメータ値の選択により、共振周波数が2.18GHzに設定されている。
SRR小型アンテナ2は、
図1(b)に示されるように、開口部Aを備え、その内側の寸法が同じ第1から第4層のSRRパターン20a〜20dが上面視で重なるように形成されている。
なお、各層のSRRパターン22a〜22dは、ビア接続(後述)することで電気的に接続され、1つのSRRとして機能している。
【0014】
以下、本明細書において、第1層から第4層の各部材、部分を示す場合には各部材等を表す数字にa〜dを添え、各層に共通する部材等を纏めて示す場合にはa〜dを添えずに表示することとする。
例えば、SRRパターン20bと表示した場合には第2層目のSRRパターンを示し、一方、SRRパターン20と表示した場合には第1層から第4層の各SRRパターン全体を示す。
【0015】
第1層目のSRRパターン20aと第4層目のSRRパターン20dは、グランド(GRD)プレーンと一体に形成されている。
SRR小型アンテナ2は、
図1(b)に示すように、開口部Aを囲む方形形状のSRR部21と、EM給電部41と、給電ライン42を備えている。
【0016】
SRR部21は、長手方向の1辺が破断した破断環状部22と、この破断環状部22の両破断端部とそれぞれ連続して形成され、平行結合線路を形成する第1スプリット部28と、第2スプリット部29を備えている。
この破断環状部22は、破断部が存在しない場合(破断部の両端が接続している場合)にその形状が環状となる形状であり、本実施形態で説明する形状としては方形であるが、半円形、D字状、三角形、その他の多角形等の左右対称となる形状も可能である。この場合、対称軸となる部分に破断部が形成される。
【0017】
EM給電部41は、開口部A内に配設され、破断環状部22の第1スプリット部28と連続する部分(後述する直線部23)と所定の距離を離して対抗配置されている。EM給電部41の各層も後述するようにビア接続されることで電気的に接続されている。
第3層目のEM給電部41cは、給電ライン42と電気的に接続されている。これにより、給電ライン42からSRR部21に対し、EM給電部41を介して電磁(EM)結合給電が行われる。
【0018】
図2(a)〜(d)は、1層目から4層目までの各層におけるSRRパターン20a〜SRRパターン20dの各形状を表したものである。
1層目のSRRパターン20aと、4層目のSRRパターン20dは、同一形状であり、上述したようにグランドプレーンと一体形成されている。
各層のSRRパターン20は、方形のSRR部21と、EM給電部41を備えている。
【0019】
SRR部21は、破断環状部22と第1スプリット部28、第2スプリット部29を備えている。
破断環状部22は、直線部23〜27の順に、互いに直角方向に連続する4つの直線部で方形状に構成されている。直線部23と直線部27とは、所定幅で破断されていて連続していない。直線部23は、方形の基板(第1絶縁層11〜第3絶縁層13)の一辺(端部)と一致するように形成される。
破断環状部22の内側サイズは直線部24、26に対応する縦方向が4.5mmで、直線部25に対応する横方向が10mmである。
各直線部23〜27の幅は0.5mmに形成されている。ただし、1層目の破断環状部22aと4層目の破断環状部22dは、直線部23a、27aと直線部23d、27dが0.5mm幅に形成され、直線部24a〜26a、24d〜26dはグランドプレーンと一体形成されている。
【0020】
直線部23の破断部側の端部には、直線部23と連続して、破断環状部22の内側に張り出して、直線部24と平行に、第1スプリット部28が形成されている。
直線部27の破断部側の端部には、直線部27と連続して、破断環状部22の内側に張り出して、第1スプリット部28及び直線部26と平行に、第2スプリット部29が形成されている。
互いに対向して配置された第1スプリット部28と第2スプリット部29とは、破断環状部22の一部を形成する。
第1スプリット部28、第2スプリット部29の長さは1.45mmで、幅は0.5mmである。
第1スプリット部28と第2スプリット部29間のギャップ(所定間隔)は0.1mmである。
【0021】
第1スプリット部28と第2スプリット部29により、平行結合線路として機能するスプリット部が形成される。
本実施形態のSRR小型アンテナ2では、SRRパターン20にループ電流が流れることで破断環状部22による誘導性(インダクタンス)と、スプリット部(第1スプリット部28と第2スプリット部29)に生じる容量性(キャパシタンス)の双方を装荷し、LC直列共振回路(スプリットリング共振器)が形成される。これによりSRR小型アンテナ2が、所定の共振周波数付近でアンテナとして動作する。
SRRパターン20(スプリットリング共振器)には、電磁的に接続されるEM給電部41を介し、図示しない外部の高周波回路からの高周波信号が給電される。
【0022】
第3層目のSRRパターン20cには、
図2(c)に示されるように、給電ライン42を備えている。この給電ライン42は、一方の端部がEM給電部41cと電気的に接続され、他方の端部が図示しないアンテナ回路に電気的に接続されている。給電ライン42とアンテナ回路との接続部については後述する。
各層のEM給電部41a〜41dは、上面視で同一位置にビアホール(Via Hole)49が形成されている。各層のビアホール49は、各EM給電部41a〜41dの間に配設される第1絶縁層11〜第3絶縁層13の同一位置にも形成され、全体として貫通孔を形成すると共に、その貫通孔の内周面がメッキされることで、EM給電部41a〜41dがビア接続されている。これによって、給電ライン42からの高周波信号は、EM給電部41全体に給電される。
【0023】
なお、本実施形態における給電ライン42は、3層目のEM給電部41cと一体形成されているが、他層のEM給電部41と一体形成するようにしてもよい。
また、給電ライン42の先端にビアホールを形成し、EM給電部41とビア接続することで電気的に接続されるようにしてもよい。ビア接続をする場合の給電ライン42は、EM給電部のいずれの層間に配設してもよく、またEM給電部41a又は、41dの外側に配設するようにしてもよい。
更に、各実施形態及び変形例ではいずれも給電ライン42を1層としたが、給電ライン42についても、EM給電部41の層数以下であれば複数層としてもよい。この場合にも給電ライン42の各々を、EM給電部41と一体形成しても、EM給電部41にビア接続してもよい。また、EM給電部41に一体形成又はビア接続された各層の給電ライン42同士については、ビア接続する場合、しない場合のいずれも可能である。
【0024】
給電ライン42の幅は、高周波回路と基準インピーダンス(例えば50Ω)でインピーダンス整合させるための幅Hが選択される。本実施形態では、基準インピーダンス50Ωに対して、幅H=0.55mmが選択されている。
【0025】
3層目のSRRパターン20cの直線部25cには、電気的接続を回避して給電ライン42を通すための破断部251が形成されている。破断部251の幅は、給電ライン42の幅H+f1+f2=2.55mmである。ここで幅f1、f2は、給電ライン42から、左右の破断部251までの距離(間隔)で、本実施形態ではf1=f2=1.0mmとしている。
なお本実施形態のSRR小型アンテナ2では、給電ライン42が電気的に破断環状部22に接続していないため、給電ライン42と破断環状部22の直線部24との間隔aは、後述するように、共振周波数にはほとんど影響を与えることがなく、実用範囲で一定と判断して各種設計することができる。このため、給電ライン42と直線部24との間隔はEM給電部41の長さの範囲で任意位置とすることが可能であるが、本実施形態では、a=1.7mmとしている。
【0026】
図2(a)〜(d)に示すように、SRRパターン20a〜SRRパターン20dの各破断環状部22には、給電ライン42に対向する位置(3層目のSRRパターン20cにおける破断部251に対応する位置)を避けて、上面視で同一の位置に複数のビアホール30が形成され、上述したEM給電部41と同様に貫通孔の内周面がメッキされることでビア接続されている。
ビア接続されたSRRパターン20a〜20dは、1のSRRとして機能する。
また、1層目のSRRパターン20aのグランドプレーンと、4層目のSRRパターン20dのグランドプレーンも同様にしてビアホール30で接続されている。
なお、上述したビアホール49及びビアホール30による接続は、貫通孔内周面のメッキ以外に、導電性ペーストを充填することで行うようにしてもよい。
【0027】
一方、
図2に示すように、SRRパターン20a〜20dの第1スプリット部28及び第2スプリット部29には、ビアホールは形成されていない。
これは、ビアホールが形成されていない第1スプリット部28、第2スプリット部29と、ビアホールが形成されている隣接素子(隣接導体)との間のキャパシタンス(C)値の制御に、ビアホールを形成していない直線部27aの構成のほうが有効に作用するからである。すなわち、ビア接続しないために
図2(a)〜(d)の第1スプリット部28、第2スプリット部29が多層コンデンサを形成するため、キャパシタンス(C)値が増加する効果がある。このことにより、SRR小型アンテナ2の、共振周波数の周波数制御が容易となるものと考える。
【0028】
図3は、外部の高周波回路に接続される給電ライン42の端部側の各種形状を表した断面図である。
図3(a)は、小型アンテナモジュール1における1層目のSRRパターン20aと連接するグランドプレーン側に給電端子35を形成した場合の第1の例である。
すなわち、給電ライン42の給電端部に対応する位置で、第1絶縁層11と第2絶縁層12にスルーホール31を形成するとともに、SRRパターン20aと連接するグランドプレーンに設けた開口部に給電端子35が形成される。
そして、スルーホール31の内周面がメッキされ、又はスルーホール31内に導電ペーストが充填されることで、給電端子35と給電ライン42の端部とがビア接続される。
【0029】
図3(b)は、第1の例とは逆の面、すなわち、4層目のSRRパターン20d側に給電端子36を形成した場合の第2の例である。
この例では、給電ライン42の給電端部に対応する位置で、第3絶縁層13にスルーホール32を形成するとともに、SRRパターン20dと連接するグランドプレーンに設けた開口部に給電端子36が形成される。
そして、スルーホール32の内周面がメッキされ、又はスルーホール32内に導電ペーストが充填されることで、給電端子36と給電ライン42の端部とがビア接続される。
【0030】
図3(c)は、 給電ライン42の長さ方向における第3絶縁層13の長さを、第1絶縁層11と第2絶縁層12よりも長くし、給電ライン42も第1絶縁層11、第2絶縁層12よりも長く形成したものである。
この場合、給電ライン42の端部が給電端子37として機能する。
なお、
図3(c)では、第3絶縁層13を第1絶縁層11等よりも大きくしたことにあわせて、第3絶縁層13のグランドプレーンも、第1絶縁層11のグランドプレーンよりも大きく形成しているが、第3絶縁層13のグランドプレーンを第3絶縁層13よりも小さく(給電ライン42の長さ方向を短く)することで第1絶縁層11のグランドプレーンと同じ大きさに形成するようにしてもよい。
【0031】
図3(d)は、スルーホールなどを作成せず、給電ライン42を、そのままメイン回路基板に一体として形成し、メイン回路基板の他の電気素子33(他の回路パターン)に接続するようにしたものである。
【0032】
図4は、小型アンテナモジュール1を構成する各部の材料や材料定数について表したものである。
図4(a)は、各層の厚さと材料を表したものである。
SRRパターン20の材料は銅で、その厚さ(所定厚T)は、例えば18μmや35μmが採用されるが、後述する特性解析においては、ほぼゼロとしている。
一方、第1絶縁層11〜第3絶縁層13の材料としては、ガラスエポキシが使用される。第1絶縁層11の厚さが0.4mm、第2絶縁層12の厚さが0.6mm、第3絶縁層13の厚さが0.4mmである。
なお、基板の総厚は、SRRパターン20a〜20dの厚さをほぼゼロとしているので、全体で1.4mmで特性解析を行っている。
【0033】
図4(b)は材料定数を表したもので、SRRパターン20の材料である銅の導電率σ=5.977×10
7[S/m]である。
第1絶縁層11〜第3絶縁層13の材料であるガラスエポキシは、比誘電率εr=4.25、誘電正接(損失)tanδ=1×10{−2}である。なお、10{−2}における{−2}は、累乗を示す指数を表している。
また、特性解析では小型アンテナモジュール1の周囲を空気で取り囲むものとし、その比誘電率は1.000517とした。
【0034】
以上説明したように本実施形態によれば、
図1〜4に示した各構成のサイズや材料により、縦4.5mm、横10.0mmで、共振周波数2.18GHzのSRR小型アンテナ2を構成することができる。
例えば、共振周波数2.18GHzにおいて、通常のスロットアンテナのサイズが縦a=7mm(=b/10)、横b=69mm(=半波長@2.18GHz)であるのに比べて十分に小型化することができる。
また、
図12で説明した従来のSRR小型アンテナに比べて、共振周波数に実用上の影響を与えることなく、任意の位置(直線部24cからの距離)に給電ライン42を配設することが可能になるため、アンテナ回路と基準インピーダンス(例えば50Ω)でインピーダンス整合させるための幅Hを、給電ライン42単独で選択することが可能になる。
さらに、本実施形態の構成により、比帯域幅をより広く確保することができると共に、安定給電が可能になる。
【0035】
図5は、
図1〜4で説明した本実施形態のSRR小型アンテナ2についての特性を表したものである。
図5(a)はアンテナの共振周波数と反射損失を、(b)はスミスチャートを、(c)は指向特性を表す。
図5(a)に示すように、本実施形態のSRR小型アンテナ2は、反射損失が−6dB以下の周波数範囲は2.037GHz〜2.385GHzと広帯域であり、その帯域の中心周波数は2.211GHzである。この広帯域性は、共振周波数を調整することで、例えば無線LANの2.4GHz帯を十分にカバーすることが可能となることは容易に想定できる。
【0036】
また、
図5(b)のスミスチャートに示されるように、2.18GHzにてほぼクリティカルカップリング(臨界結合)が得られている。これにより、アンテナと高周波回路と接続される給電ライン42との結合が非常に良好であることがわかる。
【0037】
また
図5(c)の指向特性で示されるように、水平方向、垂直方向ともに一様な放射指向特性が得られている。各方向については、
図1に示したように、SRR小型アンテナ2の縦方向(給電ライン42の長さ方向)をZ軸、横方向をX軸、厚さ方向をY軸としている。
本実施形態のSRR小型アンテナ2における最大利得は2.6dBi、放射効率ηは86.6%(2.18GHz)である。
【0038】
次に、上述した実施形態におけるSRR小型アンテナ2を設計する上で、パラメータが所望の共振周波数に与える影響について説明する。
図6はSRR小型アンテナ2における特性変化について検討したパラメータについて表したものである。
図6に示すように、給電ライン42と直線部24との間隔をa(パラメータa)、EM給電部41の長さをS(パラメータS)、EM給電部41と直線部23との間隔をG(パラメータG)とした場合、これら各値の変化に対して共振周波数が次のように変化することが、シミュレーションにより確認された。
図6において、パラメータaを変更する場合に、EM給電部41の長さSと長手方向の位置については固定している。
【0039】
以下の説明では、特性比較をする際に各SRR小型アンテナの形状(サイズ)と給電方式を特定するために、各アンテナについて次のよう呼ぶこととする。
図6に示した、EM給電部41を介して電磁的な結合による給電を行う実施形態のSRR小型アンテナ2に対して「EM給電」という。
なお、給電ラインを電気的にSRR部に接続することで直接給電を行う従来のSRR小型アンテナ(
図12参照)については、「直接給電」という。
【0040】
先に、実施形態のSRR小型アンテナ2の特性について説明する。
図7は、シミュレーション結果により得られた、給電ライン42と直線部24との間隔(パラメータa)と、(a)共振周波数(GHz)、(b)反射損失−6dB以下の帯域幅(MHz)、及び、(c)反射損失−6dB以下の比帯域幅(%)との関係を表したシミュレーション結果である。
図7に示したシミュレーションは、パラメータaを変化させたことによるアンテナ特性への効果を求めたものである。
シミュレーションの対象は、直接給電と、EM給電に対して測定したものである。
【0041】
このシミュレーションの条件は次の通りである。
SRR部21の構成は、直接給電、EM給電共に、開口部のサイズ(破断環状部の内側サイズ)が縦4.5mm×横10mmとした。
また、パラメータa(給電ライン42と直線部24との距離)を、1.18mmから3.4mmまで順次広げていった際の、「共振周波数」、「帯域幅(R.L.≦−6dB)」、「比帯域幅(R.L.≦−6dB)」を比較する。
なお、EM給電において、パラメータGとパラメータSについては、いずれもG=0.1mm、S=3.45mmで固定した。
【0042】
シミュレーション結果は次の通りである。
図7(a)に示すように、
図12に示した従来の直接給電では、SRR部への給電位置(給電ライン42と直線部24との間隔a)が変化すると、共振周波数が2.3GHz〜2.51GHzで、ずれが大きく(最大0.21GHz)、安定的ではない。このため、給電ライン42の特性インピーダンスを単独で設計することができず、共振周波数への影響を考慮して設計する必要がある。
これに対して、実施形態によるEM給電では、間隔aの変化に対して、共振周波数は2.04GHz〜2.14GHzの範囲で変化するだけである。このように、間隔aの変化に対して、共振周波数のずれが小さく(最大0.06GHz)、安定型給電ということができる。
また、EM給電による場合には、間隔aの変化による共振周波数のずれは実用範囲で一定とみなすことができるため、給電ライン42を共振周波数から切り離して単独で設計することが可能になる。
【0043】
EM給電におけるパラメータaの変化に対する放射効率ηと共振周波数については次の通りである。
a=1.18mm・・・η=84.8%(2.2 GHz)
a=1.7mm ・・・η=86.6%(2.18GHz)
a=2.2mm ・・・η=86.9%(2.16GHz)
a=2.7mm ・・・η=86.7%(2.14GHz)
a=3.2mm ・・・η=86.5%(2.14GHz)
a=3.4mm ・・・η=86.3%(2.15GHz)
また、シミュレーション結果から、間隔aを広げることで、アンダーカップリング(疎結合)からオーバーカップリング(密結合)へ変化することが確認された。
【0044】
次に、実施形態のSRR小型アンテナ2(EM給電)において、パラメータGを変化させた場合のアンテナ特性について説明する。
図8は、EM給電において、パラメータGを変化させた場合の、(a)共振周波数(GHz)、(b)反射損失−6dB以下の帯域幅(MHz)、及び、(c)反射損失−6dB以下の比帯域幅(%)との関係を表したシミュレーション結果である。
このシミュレーションの条件は次の通りである。
SRR部21の構成は、
図7の場合と同一サイズとし、パラメータaとパラメータSについては、a=1.7mm、S=3.45mmで固定した。
【0045】
シミュレーション結果は次の通りである。
図8に示されるように、EM給電において、EM給電部41と直線部23との間隔Gを広げても共振周波数はほぼ変わらないが、確保出来る帯域は急激に狭くなり、アンテナ特性は急激に劣化した。
EM給電における、パラメータGの変化に対する放射効率ηと共振周波数については次の通りである。
G=0.1mm ・・・η=86.6%(2.18GHz)
G=0.2mm ・・・η=85.5%(2.17GHz)
G=0.3mm ・・・η=84.2%(2.17GHz)
【0046】
次に、実施形態のSRR小型アンテナ2(EM給電)において、パラメータSを変化させた場合のアンテナ特性について説明する。
図9は、パラメータa(S)を変化させた場合の、(a)共振周波数(GHz)、(b)反射損失−6dB以下の帯域幅(MHz)、及び、(c)反射損失−6dB以下の比帯域幅(%)との関係について、EM給電とEM給電Lのシミュレーション結果を表したものである。
図9におけるEM給電のシミュレーション結果は
図7で示したものと同じである。従って、各シミュレーションにおけるパラメータaの値も同じである。
従って、EM給電Lについても、
図7のEM給電と同じパラメータaの値毎にシミュレートしている。
【0047】
EM給電Lは、上述したように、給電ライン42をEM給電部41の直線部24側端部に接続した形状とし、EM給電部41の第1スプリット部28側端部は固定位置としている。
このため、EM給電Lでは、パラメータaの増加に伴い、パラメータSが小さく(EM給電部41が短く)なる。
図9では、各パラメータaの値毎に、パラメータSが一定のEM給電と、パラメータSが変化するEM給電Lとを対比することができる。
図9(b)、(c)に示されるように、EM給電と比較してEM給電Lは、パラメータaの増加に伴い、帯域幅と比帯域幅がパラメータa=3.3mm以降で大きく低下するが、これは、EM給電部41の長さSがほぼ、給電ライン42の幅程度(0.75と0.5)と狭くなったためと考えられる。
一方、
図9(a)に示すように、共振周波数については、パラメータaの各値に対して、EM給電とEM給電Lとでは、ほぼ同じとなっている。即ち、パラメータS=一定のEM給電に対して、EM給電LのパラメータSが減少しても共振周波数はほぼ同じであるといえる。
従って、パラメータSの変化は、EM給電、EM給電L共に変化共振周波数に影響を与えない、若しくは、ほとんど影響しない、ということができる。
【0048】
EM給電Lにおけるパラメータa(パラメータS)の変化に対する放射効率ηと共振周波数については次の通りである。なお、EM給電についての値は上述の通りである
a=1.18mm(S=2.77mm)・・・η=84.0%(2.19GHz)
a=1.7mm(S=2.25mm) ・・・η=85.5%(2.16GHz)
a=2.2mm(S=1.75mm) ・・・η=85.6%(2.13GHz)
a=2.7mm(S=1.25mm) ・・・η=85.1%(2.10GHz)
a=3.2mm(S=0.75mm) ・・・η=84.2%(2.12GHz)
a=3.4mm(S=0.50mm) ・・・η=83.7%(2.11GHz)
【0049】
この、EM給電のシミュレーション結果から、次のことが確認された。
即ち、パラメータS(EM給電部41の長さ)を短くすることで「SRR部21とEM給電部41との結合部を小さくすること」と、パラメータGを大きくすること、即ち、「SRR部21とEM給電部41との間隔(Gap)Gを広げること」が等価であることが確認された。
また、SRR部21とEM給電部41との間隔Gを広げることと同様に、SRR部21とEM給電部41との結合部を小さくすることで、オーバーカップリング(密結合)からアンダーカップリング(疎結合)へと変化することが確認された。
【0050】
更に、実施形態のSRR小型アンテナ2では、次の点についても確認されている。
即ち、第1スプリット部28、第2スプリット部29の長さTを長くすることで共振周波数fを小さくすることが可能である。
また、SRR小型アンテナ2における、直線部24の長さをm、直線部25の長さをnとした場合、開口縦横比(パラメータm/n)を小さくするほど、すなわち、横方向に細長くするほど、共振周波数fを小さくすることが可能である。
【0051】
実施形態によれば、給電ライン42からの給電を電気的なものではなく、電磁的な給電(EM給電方式)とすることで、給電部40に関する影響を考慮することなく(パラメータa、G、Sに関わらず)、SRR部21単独で所望共振周波数のSRR小型アンテナ2を設計することができる。
そして、SRR小型アンテナ2の共振周波数fについては、パラメータa、G、Sの影響を考慮せずに、パラメータTやパラメータm/nを考慮して設計すればよいため、設計の自由度が高く、より小型のアンテナを得ることができる。
【0052】
次に、説明した実施形態の変形例について説明する。
図10は、第1スプリット部28、第2スプリット部29についての変形例を表したものである。
本実施形態の第1スプリット部28、第2スプリット部29の長さTについて、
図2、6に示すように所定の長さ(T=1.45mm)として説明したが、この長さに限られるものではなく、直線部24の長さ以下の範囲でより長くすることも可能であり、また、より短くすることも可能である。
例えば、
図10に示すように、独立した第1スプリット部28、第2スプリット部29を配設せずに、破断環状部22の破断端部(直線部23と、直線部27との両対向端部をそれぞれ第1スプリット部28、第2スプリット部29として機能させるようにしてもよい。
【0053】
実施形態では、
図2で説明したように1層目〜4層目のSRRパターン20a〜20dでSRR小型アンテナ2を構成したのに対し、変形例としては、4層に限られず、2層、3層、5層以上とすることが可能である。
図11は、実施形態で説明したSRR小型アンテナ2を、2層のSRRパターン20a、20dで構成した場合の説明図である。
図11で示した2層のSRR小型アンテナ2では、図示しないが、1枚の絶縁層の両面にSRRパターン20aとSRRパターン20dが形成されている。絶縁層の形状及び材質については実施形態と同様である。
【0054】
図11に示されるように、破断環状部22と第1スプリット部28、第2スプリット部29の形状については実施形態と同様であるが、給電ライン42が1層目のEM給電部41aに電気的に接続されている点が異なっている。
また、本変形例の給電ライン42はマイクロストリップラインを形成している。この給電ライン42の形成に伴い、1層目のSRRパターン20aの破断環状部22aに連続形成されるグランドプレーンには、給電ライン42の長手方向からみた左右にスリット252、253が形成されている。給電ライン42の端部にも同様にスリット254が形成される。
この給電ライン42は、絶縁層の一方の面に形成されることから、実施形態において
図3で説明したような給電用のスルーホール31、32は形成されない。
ただし、給電ライン42が形成されている面と反対側の面に給電端子を形成する場合には、
図3(b)と同様にスルーホール32及び給電端子36を形成する。
【0055】
なお、SRR小型アンテナ2を3層で構成する場合には、
図2に示したSRR小型アンテナ2のうち、2層目のSRRパターン20bを省略する。
一方、5層以上とする場合には、
図2(b)に示したSRRパターン20bの数と絶縁層を層数にあわせて増加させる。この場合、
図2(c)に示したSRRパターン20cに対する上下いずれの側に増加してもよく、6層以上とする場合には上下の両方の側に増加するようにしてもよい。
【0056】
以上説明したように、実施形態及び各変形例のSRR小型アンテナによれば、EM結合給電型とすることで、給電位置(パラメータa)が変化しても、共振周波数の変化が少なく、比帯域幅が広く確保できるアンテナとすることができる。即ち、安定給電が可能なアンテナとすることができる。
【解決手段】SRRを用いた小型アンテナにおいて、電磁的な結合方式により給電するEM結合型給電を行う。具体的には、複数層の破断環状部22を備えたSRR部21と、破断環状部22と各層毎に対抗して配置される複数層のEM給電部41、及び、いずれかのEM給電部41と電気的に接続される給電ライン42により、SRR小型アンテナ2を構成する。給電ライン42が破断環状部22との電気的な接続ではなく、電磁的接合により給電することで、共振周波数に実用範囲での影響を与えることなく、給電ラインの特性インピーダンスを単独で設計することが可能になる。従って、給電ライン42と破断環状部22との距離(給電位置)を変化させることが可能になる。また、本実施形態の構成により、比帯域幅をより広く確保することができると共に、安定給電が可能になる。