特許第5666734号(P5666734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666734
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ジフルオロリン酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/455 20060101AFI20150122BHJP
【FI】
   C01B25/455
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-116602(P2014-116602)
(22)【出願日】2014年6月5日
(65)【公開番号】特開2015-13796(P2015-13796A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2014年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-121330(P2013-121330)
(32)【優先日】2013年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162847
【氏名又は名称】ステラケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】近 壮二郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲郎
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−051752(JP,A)
【文献】 特開2010−155773(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/004187(WO,A2)
【文献】 SEMMOUD, A. et al.,ACIDE DIFLUOROPHOSPHORIQUE NOUVELLE PREPARATION,J. Fluor. Chem.,1990年,Vol. 46,p. 1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/455
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素酸水溶液とリンのオキシハロゲン化物(但し、リン酸トリフルオリドを除く。)とを反応させて粗ジフルオロリン酸を生成させる工程と、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物と前記粗ジフルオロリン酸とを反応させることにより、当該粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程と、
前記ジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸を加熱乾燥して、粗ジフルオロリン酸を留去する工程、又は晶析により粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を析出させた後、当該ジフルオロリン酸塩を固液分離し、さらに固液分離後のジフルオロリン酸塩に含まれる粗ジフルオロリン酸を留去する工程のいずれかとを含むジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記フッ化水素酸水溶液と前記リンのオキシハロゲン化物とを反応させて粗ジフルオロリン酸を生成させる工程は、前記リンのオキシハロゲン化物を冷却しながら、当該リンのオキシハロゲン化物に対しフッ化水素酸水溶液を添加して行う請求項1に記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物は粒子状であり、その最大粒径が10mm未満である請求項1又は2に記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物を前記粗ジフルオロリン酸に添加する際に、当該粗ジフルオロリン酸の液温を−40℃〜100℃の範囲内に保持して行う請求項1〜3の何れか1項に記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。
【請求項5】
前記固液分離後の粗ジフルオロリン酸中に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物を添加した後、加熱乾燥して余剰な粗ジフルオロリン酸を留去する工程、又は前記ジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸を晶析することにより析出させた析出物を固液分離し、さらに前記析出物に含まれる粗ジフルオロリン酸を留去する工程のいずれかを繰り返す請求項1〜4の何れか1項に記載のジフルオロリン酸塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のジフルオロリン酸塩を簡便かつ工業的に有利に製造することが可能なジフルオロリン酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イオン液体を、電池やキャパシタの電解液として応用する検討や、めっき浴として利用する検討が活発に進められている。従来の電池や電気二重層キャパシタにおいては、電解液として水系電解液または有機系電解液が用いられてきた。しかし、水系電解液では、水の分解電圧に制約を受けるという問題があった。また有機系電解液では、耐熱性や安全面に問題があった。一方、イオン液体は難燃性・不揮発性といった安全上好ましい特徴を有するうえ、電気化学的安定性も高い。そのため、イオン液体は高温環境下で使用する電池や電気二重層キャパシタの電解液に特に好適である。
【0003】
イオン液体を電池や電気二重層キャパシタの電解液として適用するために、様々な種類の陽イオンと陰イオンとからなるイオン液体の検討が進められてきた。例えば、非特許文献1では、イオン液体として、ジフルオロホスフェートを陰イオンとする1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロホスフェートの特徴が報告されている。また、非特許文献2では、当該1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロホスフェートが、代表的なイオン液体として知られる1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートと同等の電気伝導性・耐電圧性を有していることが述べられており、電気二重層キャパシタの電解質として好適に使用できると報告されている。
【0004】
前記1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジフルオロホスフェートの製造方法としては、非特許文献1によると、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドとジフルオロリン酸カリウムとをアセトン中で反応させ、副生する塩化カリウムを濾別したアセトン溶液をアルミナカラムに作用させた後、アセトンを留去させることにより可能とされている。電解液中の不純物は電池や電気二重層キャパシタの性能に著しく影響するため、イオン液体を電解液として使用する際には、できるかぎり不純物を低減することが好ましい。イオン液体は難揮発性であり、また広い温度範囲に渡って液体状態であるため、蒸留や再結晶といった精製方法によって不純物を低減することが困難である。そのため、純度の高いイオン液体を合成するには高純度の原料を用いる必要がある。従って、非特許文献1に開示の製造方法においては、使用するジフルオロリン酸カリウム中に含まれる不純物は可能な限り少ない方が望ましい。
【0005】
ここで、ジフルオロリン酸カリウム等のジフルオロリン酸塩の製造方法としては、下記特許文献1〜特許文献8、および非特許文献3〜非特許文献7に開示されている。
【0006】
非特許文献3及び非特許文献4には、五酸化ニ燐にフッ化アンモニウムや酸性フッ化ナトリウムなどを作用させてジフルオロリン酸塩を得る方法が記載されている。しかし、これらに開示の製造方法では、ジフルオロリン酸塩の他にモノフルオロリン酸塩やリン酸塩、水が多く副生する。そのため、その後の精製工程の負荷が重く効率的な手法とは言い難い。
【0007】
非特許文献5には、P(無水ジフルオロリン酸)を、例えばLiO若しくはLiOHなどの酸化物や水酸化物と作用させて所望するジフルオロリン酸塩を得る方法が開示されている。しかし、無水ジフルオロリン酸は非常に高価であり、加えて純度が高いものを入手するのは困難であるため、工業生産には不利である。
【0008】
特許文献1には、六フッ化リン酸カリウムとメタリン酸カリウムを混合融解させることによりジフルオロリン酸カリウムを得る方法が開示されている。しかし、この製造方法であると、六フッ化リン酸カリウム及びメタリン酸カリウムを溶融する際に用いる坩堝から汚染されるという問題がある。また、700℃といった高温の環境を実現する必要もある。そのため、特許文献1に開示の製造方法も、製品の純度や生産性の観点から好ましい方法とは言えない。
【0009】
非特許文献6には、尿素とリン酸ニ水素カリウムとフッ化アンモニウムを融解、反応させることにより、ジフルオロリン酸カリウムを製造する方法が開示されている。この製造方法においては、反応温度を170℃程度に抑制できることから、特許文献1の反応条件と比べて工業的生産が実現可能である。しかし、大量に副生するアンモニアガスを廃棄処理する必要があり、またフッ化アンモニウムも大量に残留するという問題がある。従って、非特許文献6に開示の製造方法も、製造効率や製品の純度の観点から好ましくない。
【0010】
非特許文献7には、アルカリ金属クロライドと過剰のジフルオロリン酸を反応させ、副生する塩化水素と余剰のジフルオロリン酸を加熱減圧乾燥することによって留去させた後、ジフルオロリン酸塩を得る方法が開示されている。しかしながら、十分に純度が高いジフルオロリン酸を使用したとしても、この方法により得られるジフルオロリン酸塩には、モノフルオロリン酸塩やフッ化物塩が不純物として多量に残存しており、純度の高いものを得ることが困難である。
【0011】
特許文献2〜4には、六フッ化リン酸リチウムとホウ酸塩、二酸化ケイ素、炭酸塩とを非水溶媒中で反応させてジフルオロリン酸リチウムを得る方法が開示されている。また、特許文献5には、炭酸塩やホウ酸塩を、五フッ化リン等の気体と接触させてジフルオロリン酸リチウムを得る方法が開示されている。しかし、これらの特許文献に開示の製造方法であると、ジフルオロリン酸塩を得るために、例えば40〜170時間といった長時間を要する。そのため、工業生産には向かない。
【0012】
特許文献6には、リンのオキソ酸やオキシハロゲン化物と、六フッ化リン酸塩およびアルカリ金属のハロゲン化物等とをフッ化水素の存在下で反応させ、ジフルオロリン酸塩を得る方法が記載されている。この方法によれば、六フッ化リン酸塩が存在することにより、混入する水分に対して有効に作用し、純度の高いジフルオロリン酸塩が得られるとされている。しかし、高価な六フッ化リン酸塩を比較的大量に使用することに加え、実施例に記載の方法によれば、リン及びフッ素を大量に含んだ排ガスや廃液が生じることから、有用物の分離回収や廃棄処理が煩雑になるという問題がある。
【0013】
特許文献7には、アルカリ金属等のハロゲン化物とジフルオロリン酸とを、六フッ化リン酸塩の存在下で反応させるジフルオロリン酸塩の製造方法が開示されている。また、特許文献8には、ジフルオロリン酸中でジフルオロリン酸とアルカリ金属のハロゲン化物等とを反応させ、ジフルオロリン酸中でジフルオロリン酸塩を晶析操作により得る方法が開示されている。しかし、これらの製造方法では純度の高いジフルオロリン酸を用いる必要があるが、ジフルオロリン酸は腐蝕性が高いため、減圧蒸留等の操作が必要な上に設備的にも煩雑となる。また、ジフルオロリン酸は純度に関わらず工業的に入手することが困難である。
【0014】
一方、高純度ジフルオロリン酸塩はイオン液体の原料としてだけでなく、リチウム二次電池用の電解液の添加剤としても利用することができる。近年、リチウム二次電池の応用分野は、携帯電話やパソコン、デジタルカメラ等の電子機器から車載への用途拡大に伴い、出力密度やエネルギー密度の向上ならびに容量損失の抑制等、さらなる高性能化が進められている。特に車載用途は民生品用途よりも過酷な環境に晒されるおそれがあることから、サイクル寿命や保存性能の面において高い信頼性が要求されている。リチウム二次電池の電解液には、有機溶媒にリチウム塩を溶解させてなる非水電解液が使用されているが、こうした非水電解液の分解や副反応がリチウム二次電池の性能に影響を及ぼすため、非水電解液に各種添加剤を混合することによって、サイクル寿命や保存性能を向上させる試みがなされてきた。
【0015】
例えば、特許文献9には、リチウム電池の非水電解液として、有機溶媒にモノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムのうち少なくとも一方が添加剤として含有することが開示されている。当該特許文献9によれば、そのような非水電解液を用いることによって正極及び負極に皮膜を形成させることができ、これにより非水電解液と正極活物質及び負極活物質との接触に起因する電解液の分解を抑制し、自己放電の抑制、保存性能の向上が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】ドイツ特許第813848号
【特許文献2】特開平2005−53727号
【特許文献3】特開平2005−219994号
【特許文献4】特開平2005−306619号
【特許文献5】特開平2006−143572号
【特許文献6】特開2010−155774号
【特許文献7】特開2010−155773号
【特許文献8】特開2012−51752号
【特許文献9】日本国特許第3439085号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】K. Matsumoto and R. Hagiwara, Inorganic Chemistry, 2009, 48, 7350-7358
【非特許文献2】第77回電気化学会予稿集 1I18
【非特許文献3】Ber. Dtsch. Chem., Ges. B26(1929)786
【非特許文献4】Zh. Neorgan. Khim., 7(1962)1313-1315
【非特許文献5】Journal of Fluorine Chemistry, 38(1988)297-302
【非特許文献6】日本分析化学会第43年会公演要旨集、536(1994)
【非特許文献7】Inorganic Nuclear Chemistry Letters, vol.5(1969)581-585
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、高純度のジフルオロリン酸塩を簡便かつ工業的に有利に製造することが可能なジフルオロリン酸塩の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明者等は、前記従来の課題を解決すべく、ジフルオロリン酸塩の製造方法について検討した。その結果、下記の構成を採用することにより純度の高いジフルオロリン酸塩を、工業的に有利な方法で合成することが可能なことを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち、本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法は、前記の課題を解決する為に、フッ化水素酸水溶液とリンのオキシハロゲン化物(但し、リン酸トリフルオリドを除く。)とを反応させて粗ジフルオロリン酸を生成させる工程と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物と前記粗ジフルオロリン酸とを反応させることにより、当該粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程と、前記ジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸を加熱乾燥して、粗ジフルオロリン酸を留去する工程、又は晶析により粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を析出させた後、当該ジフルオロリン酸塩を固液分離し、さらに固液分離後のジフルオロリン酸塩に含まれる粗ジフルオロリン酸を留去する工程のいずれかとを含むことを特徴とする。
【0021】
従来のジフルオロリン酸塩の製造方法においては、その原料として高純度のジフルオロリン酸を準備する必要があったが、ジフルオロリン酸は工業的に入手困難な原料である。また、腐蝕性が高いので、高純度化のための減圧蒸留等の製造設備も複雑となる。そのため、高純度のジフルオロリン酸を製造することは容易でない。しかし、前記の構成によれば、事前にジフルオロリン酸を調製し高純度のものを準備する必要がなく、従来よりも簡便な方法でジフルオロリン酸塩の工業的な製造が可能になる。
【0022】
すなわち、前記の構成によれば、先ずリンのオキシハロゲン化物とフッ化水素酸水溶液とを反応させ、粗ジフルオロリン酸を生成させる。その後、得られた粗ジフルオロリン酸を高純度化することなくアルカリ金属等のハロゲン化物と反応させる。これにより、粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を生成させる。
【0023】
さらに、粗ジフルオロリン酸中に生成したジフルオロリン酸塩を分離するために、これを加熱乾燥し、粗ジフルオロリン酸の留去を行うか、或いはジフルオロリン酸塩が生成した粗ジフルオロリン酸において晶析操作によって析出した析出物を当該粗ジフルオロリン酸から固液分離し、析出物に含まれる粗ジフルオロリン酸を留去する。これにより、高純度のジフルオロリン酸塩を工業的に有利な方法で簡便に製造することができる。
【0024】
また、前記の構成に於いて、前記フッ化水素酸水溶液と前記リンのオキシハロゲン化物とを反応させて粗ジフルオロリン酸を生成させる工程は、前記リンのオキシハロゲン化物を冷却しながら、当該リンのオキシハロゲン化物に対しフッ化水素酸水溶液を添加して行うことが好ましい。リンのオキシハロゲン化物と、フッ化水素酸水溶液との反応を冷却しながら行うことにより、例えば、当該反応により得られた粗ジフルオロリン酸のうち、沸点の低いものが蒸発するのを抑制し、目的の組成のものが得られなくなるのを防止することができる。すなわち、リンのオキシハロゲン化物と、フッ化水素酸水溶液とを冷却しながら混合させることで、両者の反応性の制御が図れる。
【0025】
また、前記の構成に於いて、前記アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物は粒子状であり、その最大粒径が10mm未満であることが好ましい。最大粒径を10mm未満にすることにより、粗ジフルオロリン酸との接触面積が小さくなって反応の進行が遅くなるのを防止することができる。また、合成したジフルオロリン酸塩中にアルカリ金属等のハロゲン化物の残量を抑制することができる。
【0026】
さらに、前記構成に於いては、前記粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を生成させる工程は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物を前記粗ジフルオロリン酸に添加する際に、当該粗ジフルオロリン酸の液温を−40℃〜100℃の範囲内に保持して行うことが好ましい。粗ジフルオロリン酸を100℃以下に保持することにより、当該粗ジフルオロリン酸が劣化するのを防止することができ、ジフルオロリン酸塩を安定的に生成させることが可能になる。尚、粗ジフルオロリン酸は−40℃以上であることが好ましい。これにより、粗ジフルオロリン酸の粘性の増大を防止して攪拌効率の低下を防ぐことができ、副生するハロゲン化水素酸の留去を可能にする。
【0027】
また、前記構成において、前記固液分離後の粗ジフルオロリン酸中に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物を添加した後、加熱乾燥して余剰な粗ジフルオロリン酸を留去する工程、又は前記ジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸を晶析することにより析出させた析出物を固液分離し、さらに前記析出物に含まれる粗ジフルオロリン酸を留去する工程のいずれかを繰り返すことが好ましい。これにより、固液分離された粗ジフルオロリン酸を再びアルカリ金属等のハロゲン化物との反応に再利用することができ、製造コストの低減が図れる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、リンのオキシハロゲン化物とフッ化水素酸水溶液を反応させて粗ジフルオロリン酸を生成した後に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物と前記粗ジフルオロリン酸を反応させて、当該粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を生成させるものである。このような方法であると、予め高純度のジフルオロリン酸を調製し準備することが不要となり、従来よりも簡便な方法でジフルオロリン酸塩の製造を可能にするものである。
【0029】
さらに、本発明によれば、ジフルオロリン酸塩が溶解した粗ジフルオロリン酸を加熱乾燥して、粗ジフルオロリン酸の留去を行うか、晶析によりジフルオロリン酸塩を析出させ、その析出物を当該粗ジフルオロリン酸から固液分離して、析出物に含まれる粗ジフルオロリン酸を留去する。そのため、高純度のジフルオロリン酸塩を簡便に得ることができ、工業的に有利である。その結果、本発明のジフルオロリン酸塩の製造方法により得られるジフルオロリン酸塩は、例えば、二次電池用非水電解液の添加剤としても極めて有用であり、優れた性能を有する二次電池の提供も可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本実施の形態に係るジフルオロリン酸塩の製造方法について、以下に説明する。
本実施の形態に係るジフルオロリン酸塩の製造方法は、粗ジフルオロリン酸を生成する工程と、粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を生成する工程と、ジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸を加熱乾燥することにより、余剰な粗ジフルオロリン酸を留去する工程、又は粗ジフルオロリン酸中において晶析操作によって析出した析出物を当該粗ジフルオロリン酸中から固液分離し、前記析出物に含まれる粗ジフルオロリン酸を留去する工程の何れかとを含む。
【0031】
前記粗ジフルオロリン酸の生成工程においては、フッ化水素酸水溶液とリンのオキシハロゲン化物(但し、リン酸トリフルオリドを除く。)(以下、「オキシハロゲン化物」という。)とを反応させて粗ジフルオロリン酸を生成させる工程を行う。
【0032】
前記「粗ジフルオロリン酸」とは、ジフルオロリン酸を主成分として、六フッ化リン酸やモノフルオロリン酸等も共存するジフルオロリン酸のことを意味する。例えば、POXで表されるオキシハロゲン化物とフッ化水素酸水溶液を反応させると、下記化学反応式(1)の様に、ジフルオロリン酸と副生物であるHXとの混合溶液が得られる。
【0033】
【化1】
【0034】
ただし、ジフルオロリン酸は、水又はフッ化水素が存在する反応系においては、下記化学反応式の様に平衡反応が存在する。
【0035】
【化2】
【0036】
そのため、実際には六フッ化リン酸やモノフルオロリン酸等も共存するような、ジフルオロリン酸を主成分とする粗ジフルオロリン酸となる。
【0037】
粗ジフルオロリン酸の成分については、例えば、イオンクロマトグラフィー等の方法で確認することができる。標準物質を入手することが困難なため、種々成分の濃度を十分に定量することは難しいが、検出されたイオン種の相対面積比を含有濃度の指標にすることができる。このような方法により定量された粗ジフルオロリン酸の組成は、ジフルオロリン酸イオンが75%〜95%であり、フッ化物イオンが3%〜10%であり、六フッ化リン酸イオンが0.2%〜5%であることが好ましい。このような組成の粗ジフルオロリン酸であると、当該粗ジフルオロリン酸とアルカリ金属等のハロゲン化物との反応性が低下するのを防止し、未反応のアルカリ金属等のハロゲン化物が、目的とするジフルオロリン酸塩中に残存するのを低減すると共に、高純度のジフルオロリン酸塩の製造効率を向上させることができる。
【0038】
前記オキシハロゲン化物としては特に限定されず、例えば、リン酸トリクロリド、リン酸トリブロミド、リン酸ジクロリドフルオリド、ジホスホリルクロリド等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。尚、オキシハロゲン化物においてはリン酸トリフルオリドは除かれる。
【0039】
前記フッ化水素酸水溶液の濃度としては、50%〜90%が好ましい、より好ましくは60%〜80%、特に好ましくは65%〜75%である。フッ化水素酸水溶液の濃度を50%以上にすることにより、生成された前記粗ジフルオロリン酸中におけるリン酸イオンやモノフルオロリン酸イオンの生成を調整することができる。その一方、フッ化水素酸水溶液の濃度を90%以下にすることにより、生成された前記粗ジフルオロリン酸中における六フッ化リン酸イオンの生成を調整することができる。
【0040】
粗ジフルオロリン酸の生成工程は、冷却しながら行うのが好ましい。すなわち、例えば、前記フッ化水素酸水溶液と前記オキシハロゲン化物の反応は冷却しながら徐々に混合することが好ましい。ここで、混合はオキシハロゲン化物に対しフッ化水素酸水溶液を添加して行うのが好ましい。これにより、平衡反応を制御しやすく、目的とする粗ジフルオロリン酸の組成にて合成することができる。但し、本発明はこれに限定されず、フッ化水素酸水溶液に対しオキシハロゲン化物を添加してもよい。また、予め作成した粗ジフルオロリン酸がある場合には、当該粗ジフルオロリン酸にオキシハロゲン化物とフッ化水素酸水溶液とを添加してもよい。この場合、予め調製した粗ジフルオロリン酸は十分に冷却しておくのが好ましい。また、オキシハロゲン化物及びフッ化水素酸水溶液の粗ジフルオロリン酸への添加の順序については特に限定されず、どちらが先であってもよい。
【0041】
冷却を行う際の冷却温度は、それぞれ原料の種類や混合時の状況に応じて適宜設定することができる。例えば、オキシハロゲン化物としてPOClを用いる場合、冷却温度は−30℃〜70℃の範囲が好ましく、−20℃〜60℃の範囲がより好ましく、−10℃〜40℃の範囲が特に好ましい。冷却温度を−30℃以上にすることにより、粘性が増大し撹拌効率が低下するのを防止し、経済性も向上させることができる。また、副生するハロゲン化水素酸を留去することもできる。ただし、POClの凝固点は約1℃のためフッ化水素酸水溶液を添加する前に凝固点以下に冷却してしまうと、当該POClの凝固が生じる。しかし、フッ化水素酸水溶液を添加し始めるとPOClの凝固点が下がり凝固が生じないようになる。従って、フッ化水素酸水溶液を添加する前は5℃程度に冷却しておき、フッ化水素酸水溶液を添加後、混合時の様子を見ながら上記温度範囲内で冷却をおこなうのが好ましい。一方、冷却温度を70℃以下にすることにより、リンのオキシハロゲン化物とフッ化水素酸水溶液との反応性の制御を可能にする。局所的な発熱等によってその周辺の成分が揮発するなど、反応性が制御できない場合、仕込み原料の質量(リンのオキシハロゲン化物とフッ化水素酸水溶液の総質量)に対して、得られた粗ジフルオロリン酸の質量が低下することで、収率が低下する場合がある。
【0042】
尚、前記冷却温度とは、例えば、オキシハロゲン化物に対しフッ化水素酸水溶液を添加する場合は、冷却温度とはオキシハロゲン化物の温度を意味する。また、粗ジフルオロリン酸にオキシハロゲン化物とフッ化水素酸水溶液とを添加する場合は、粗ジフルオロリン酸の温度を意味する。
【0043】
また、オキシハロゲン化物として、例えばPOBrを用いる場合、冷却温度は−10℃〜70℃の範囲が好ましく、0℃〜60℃の範囲がより好ましく、5℃〜50℃の範囲が特に好ましい。ただし、POBrの凝固点は約56℃であるため、これらの原料における冷却温度の上限値及び下限値の効果については、POClを用いる場合と同様である。
【0044】
前記粗ジフルオロリン酸の生成の際における冷却時間は、冷却温度との関係で適宜必要に応じて設定されるが、フッ化水素酸水溶液に対しオキシハロゲン化物の添加が完了するまで、オキシハロゲン化物に対してフッ化水素酸水溶液の添加が完了するまで、又は予め調製された粗ジフルオロリン酸にフッ化水素酸水溶液とオキシハロゲン化物の添加が完了するまでの間行われるのが好ましい。より具体的には、例えば、2時間〜10時間の範囲内が好ましく、3時間〜8時間の範囲内がより好ましく3.5時間〜7.5時間の範囲内が特に好ましい。
【0045】
また、オキシハロゲン化物とフッ化水素酸水溶液の反応は還流をしながら行ってもよい。これにより、両者の反応効率を向上させることができる。還流の条件としては、使用する還流塔の温度を−50℃〜10℃の範囲内に設定するのが好ましく、より好ましくは−40℃〜8℃、特に好ましくは−30℃〜5℃である。
【0046】
前記ジフルオロリン酸塩の生成工程においては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物(以下、「アルカリ金属等のハロゲン化物」という。)と粗ジフルオロリン酸とを反応させることにより行う。この反応は粗ジフルオロリン酸中において行われ、当該粗ジフルオロリン酸は反応溶媒としての役割を果たす。従来のジフルオロリン酸塩の製造方法においては、特許文献6に見られるように、六フッ化リン酸リチウム、フッ化リチウム及び五酸化二リンにフッ化水素を加えて反応させ、ジフルオロリン酸リチウムを製造する方法が行われている。しかし、このような合成では、反応が非常に激しく進行し、得られるジフルオロリン酸リチウムの品位も安定していないという不都合があった。これは、反応が激しいために、局所的な発熱等によって反応容器内における温度分布にムラが生じ、反応条件を安定化させることが難しいためと考えられる。しかしながら、本実施の形態に於いては、予め合成しておいた粗ジフルオロリン酸を反応溶媒として、アルカリ金属等のハロゲン化物と当該粗ジフルオロリン酸とを反応させるので、反応容器内における温度分布のムラの発生を低減し、反応条件の安定化を図ることができる。その結果、得られるジフルオロリン酸塩の品位をより安定化させることが可能になる。
【0047】
前記アルカリ金属のハロゲン化物としては特に限定されず、例えば、Li、Na、K、Rb又はCs等のフッ化物、塩化物、臭化物又はヨウ化物が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0048】
また、前記アルカリ土類金属のハロゲン化物としては特に限定されず、例えば、Be、Mg、Ca、Sr又はBa等のフッ化物、塩化物、臭化物又はヨウ化物が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0049】
前記オニウムのハロゲン化物としては特に限定されず、例えば、アンモニウム、ホスホニウム又はスルホニウム等のフッ化物、塩化物、臭化物又はヨウ化物が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。さらに、前記アンモニウムとしては、例えばNH、第2級アンモニウム、第3級アンモニウム、第4級アンモニウム等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を併用することができる。このうち前記第4級アンモニウムとしては、例えば、テトラアルキルアンモニウム(例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム等)、イミダゾリウム、ピラゾリウム、ピリジニウム、トリアゾリウム、ピリダジニウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウムが挙げられる。また、前記ホスホニウムとしては、例えば、テトラアルキルホスホニウム(テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム等)等が挙げられる。さらに、前記スルホニウムとしては、例えば、トリアルキルスルホニウム(トリメチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム等)が挙げられる。これらは何れにおいても一種単独で、又は二種以上を併用することができる。
【0050】
前記アルカリ金属等のハロゲン化物は、粒子の形態であることが好ましい。粒子であることで、粗ジフルオロリン酸との反応性が増し、未反応分であるアルカリ金属等のハロゲン化物が残留するのを低減することができる。その結果、一層高純度のジフルオロリン酸塩を合成することができる。なお、未反応のハロゲン化物は、得られたジフルオロリン酸塩をイオンクロマトグラフィーや比濁等の手法で分析することによって確認することができる。
【0051】
前記アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム又はオニウムのハロゲン化物は粒子であり、その形状や大きさ(粒径)は、粗ジフルオロリン酸との反応性に支障がない限り限定しない。粒子形状は1つの粒子からなる一次粒子であってもよく、複数の一次粒子が凝集した状態の二次粒子であってもよい。また、一次粒子や二次粒子を造粒したものであってもよい。いずれの場合であっても粒子の最大粒径は10mm未満であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることがさらに好ましく、1mm以下であることが特に好ましい。最大粒径を10mm未満にすることにより、粗ジフルオロリン酸との接触面積が大きくなって反応の進行が遅くなるのを防止することができる。また、合成したジフルオロリン酸塩中にアルカリ金属等のハロゲン化物の残量を抑制することができる。ただし、アルカリ金属等のハロゲン化物の粒子形状や大きさ(粒径)は、粗ジフルオロリン酸との反応性だけでなく、例えばアルカリ金属等の粒子を粗ジフルオロリン酸へ投入する場合には、粉体流動性などの物性を考慮して設定してもよい。設備の大きさや運転条件等を踏まえて、ハロゲン化物の粒子形状や大きさ(粒径)を適宜選択することができる。尚、粒子の最大粒径は粒度分布計や走査型電子顕微鏡等により確認することができる。
【0052】
さらに、前記アルカリ金属等のハロゲン化物は、含有する水分量が全質量に対し1質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。前記水分量を1質量%未満にすることにより、前記アルカリ金属等のハロゲン化物と粗ジフルオロリン酸を混合した際に、ハロゲン化物中に含まれる水分に起因して粗ジフルオロリン酸が分解するのを抑制し、一層高純度のジフルオロリン酸塩の合成を可能にする。なお、含有する水分量は、カールフィッシャー水分計によって測定することができる。
【0053】
ここで、アルカリ金属等のハロゲン化物と粗ジフルオロリン酸の反応は、アルカリ金属等のハロゲン化物に対し粗ジフルオロリン酸を添加することにより行うことができる。また、粗ジフルオロリン酸に対しアルカリ金属等のハロゲン化物を添加して行ってもよい。ここで、アルカリ金属等のハロゲン化物の粗ジフルオロリン酸への添加、又は粗ジフルオロリン酸のアルカリ金属等のハロゲン化物への添加は、反応の状況を踏まえて適宜決定することができる。例えば、所定量を一度に投入してもよく、複数回に分けて投入してもよい。アルカリ金属等のハロゲン化物を粗ジフルオロリン酸に添加する場合、当該粗ジフルオロリン酸の液温は、−40℃〜100℃の範囲内が好ましく、−20℃〜90℃の範囲内がより好ましく、−10℃〜80℃の範囲内が特に好ましい。前記液温を100℃以下にすることにより、当該粗ジフルオロリン酸が劣化するのを防止することができる。その一方、液温を−40℃以上にすることにより、アルカリ金属等のハロゲン化物と粗ジフルオロリン酸との反応を促進することができる。
【0054】
前記アルカリ金属等のハロゲン化物と粗ジフルオロリン酸の反応条件は、任意に設定することができる。例えば、反応温度は0℃〜300℃の範囲内が好ましく、0℃〜200℃の範囲内がより好ましく、0℃〜180℃の範囲内が特に好ましい。また、反応は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。さらに、反応時間は通常0.5時間〜5時間の範囲で行われるが、反応装置や仕込み量によって適宜設定することができる。
【0055】
また、アルカリ金属等のハロゲン化物と粗ジフルオロリン酸の反応効率を高めるために、還流を行ってもよい。還流の条件としては、使用する還流塔の温度を−50℃〜10℃の範囲内で設定するのが好ましく、より好ましくは−40℃〜8℃、特に好ましくは−30℃〜5℃の範囲内である。
【0056】
アルカリ金属等のハロゲン化物と粗ジフルオロリン酸の混合比率は、本工程の後に行われる粗ジフルオロリン酸を留去する工程に応じて設定され得る。すなわち、ジフルオロリン酸塩の生成工程の後に行われる工程が、加熱乾燥しながら余剰の粗ジフルオロリン酸を留去する工程であるか、粗ジフルオロリン酸中でジフルオロリン酸塩を晶析した後に固液分離することにより粗ジフルオロリン酸を留去する工程であるかによって異なる。
【0057】
次工程が加熱乾燥しながら余剰の粗ジフルオロリン酸を留去する工程である場合、粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸のモル数に対するアルカリ金属等のハロゲン化物の金属イオンのモル数の比率をxとすると、0.5≦x≦0.95が好ましく、0.55≦x≦0.9がより好ましく、0.6≦x≦0.85がさらに好ましい。xを0.5以上にすることにより、得られるジフルオロリン酸塩に対して留去する粗ジフルオロリン酸の量が多くなり生産効率が低下するのを防止することができる。その一方、xを0.95以下にすることにより、未反応として残留する原料のアルカリ金属等のハロゲン化物の低減が図れる。
【0058】
また、次工程がジフルオロリン酸塩の晶析後に固液分離を行う場合、粗ジフルオロリン酸への温度に依存した溶解度差に相当するジフルオロリン酸塩を回収することになる。従って、粗ジフルオロリン酸に対するジフルオロリン酸塩の飽和溶解度に相当するモル量の金属イオンを含むアルカリ金属等のハロゲン化物を、粗ジフルオロリン酸と反応させればよい。よって、前記xは0.05≦x≦0.5であることが好ましく、0.1≦x≦0.45であることがより好ましく、0.15≦x≦0.4であることが特に好ましい。
【0059】
前記ジフルオロリン酸塩の生成工程の後、本実施の形態に於いては、残留する粗ジフルオロリン酸を留去する工程を行う。粗ジフルオロリン酸を留去する方法としては、ジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸を加熱乾燥することにより、余剰な粗ジフルオロリン酸を留去する方法、又は晶析により粗ジフルオロリン酸中に析出した析出物を当該粗ジフルオロリン酸から固液分離し、前記析出物に含まれる粗ジフルオロリン酸を留去する方法の何れかを行う。
【0060】
前者の方法においては、加熱温度は20℃〜200℃の範囲内が好ましく、40℃〜180℃の範囲内がより好ましく、60℃〜150℃の範囲内が特に好ましい。加熱温度を20℃以上にすることにより、粗ジフルオロリン酸の留去が不十分となるのを防止することができる。その一方、加熱温度を200℃以下にすることにより、乾燥装置の耐久性の問題を回避することができる。また、加熱時間は加熱温度等の条件により適宜必要に応じて設定され得る。具体的には、2時間〜35時間の範囲内が好ましく、3時間〜30時間の範囲内がより好ましく、4時間〜25時間の範囲内が特に好ましい。
【0061】
さらに、加熱乾燥は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス中またはガス気流中で行うことが好ましい。これにより、大気中の水分が粗ジフルオロリン酸に溶解して、ジフルオロリン酸イオンが加水分解し、モノフルオロリン酸イオンやリン酸イオン等の不純物が生成して、組成変化が生じるのを防止することができる。また、加熱乾燥は使用する乾燥装置の観点から常圧が好ましいが、揮発物(粗ジフルオロリン酸)の留去を促進する観点からは減圧乾燥であってもよい。さらに、乾燥効率の観点から、乾燥の際にはジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸に対し振動や揺動、攪拌等の混合操作を行ってもよい。
【0062】
後者の方法においては、先ず、粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸塩の晶析を行う。晶析は当該粗ジフルオロリン酸を加熱し、又は冷却することによりジフルオロリン酸塩を過飽和状態にして行う。これにより、ジフルオロリン酸塩の結晶を粗ジフルオロリン酸中に析出させる。晶析温度は適宜必要に応じて設定することができ、具体的には、−100℃〜100℃の範囲内が好ましく、−80℃〜80℃の範囲内がより好ましく、−50℃〜50℃の範囲内が特に好ましい。
【0063】
ジフルオロリン酸塩の結晶を析出させた後、固液分離を行う。固液分離は、例えば濾過により行われる。これにより得られた析出物には晶析溶媒として用いた粗ジフルオロリン酸が含まれている。そのため、加熱乾燥によって当該粗ジフルオロリン酸を取り除く必要がある。本実施の形態に於いては、この加熱乾燥により副生した不純物も析出物から除去することができる。このときの加熱乾燥温度は、20℃〜200℃の範囲内が好ましく、40℃〜180℃の範囲内がより好ましく、60℃〜150℃の範囲内が特に好ましい。加熱温度を20℃以上にすることにより、粗ジフルオロリン酸の留去が不十分となるのを防止することができる。その一方、加熱温度を200℃以下にすることにより、乾燥装置の耐久性の問題を回避することができる。また、加熱時間は加熱温度等の条件により適宜必要に応じて設定され得る。具体的には、2時間〜35時間の範囲内が好ましく、3時間〜30時間の範囲内がより好ましく、4時間〜25時間の範囲内が特に好ましい。
【0064】
さらに、加熱乾燥は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス中またはガス気流中で行うことが好ましい。これにより、大気中の水分が粗ジフルオロリン酸に溶解し水素原子と酸素原子の比率が変動して組成変化が生じるのを防止することができる。また、加熱乾燥は使用する乾燥装置の観点から常圧が好ましいが、揮発物(粗ジフルオロリン酸)の留去を促進する観点からは減圧乾燥であってもよい。さらに、乾燥効率の観点から、乾燥の際にはジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸に対し振動や揺動、攪拌等の混合操作を行ってもよい。これにより、析出物に含まれる粗ジフルオロリン酸や不純物を留去することができ、高純度のジフルオロリン酸塩を得ることができる。
【0065】
尚、前記の固液分離により得られた粗ジフルオロリン酸には未析出のジフルオロリン酸塩が溶解している。そのため、固液分離後の粗ジフルオロリン酸は再利用することができる。固液分離後の粗ジフルオロリン酸の再利用は、当該粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸塩の濃度が低下していることから、低下分に相当する原料塩(アルカリ金属等のハロゲン化物)、および粗ジフルオロリン酸を加えることにより行うことができる。これにより、粗ジフルオロリン酸とアルカリ金属等のハロゲン化物を反応させた後、前記と同様に、ジフルオロリン酸塩を含む粗ジフルオロリン酸を加熱乾燥して、余剰な粗ジフルオロリン酸を留去する工程を繰り返す。あるいは、晶析により粗ジフルオロリン酸中にジフルオロリン酸塩を析出させた後、これを固液分離し、その後、加熱乾燥させることにより粗ジフルオロリン酸を留去させる工程を繰り返す。これにより、高純度のジフルオロリン酸塩を効率よく製造することができる。
【0066】
また、本実施の形態に於いては、ジフルオロリン酸塩の製造方法のいずれの工程においても、有機溶媒を介在させて行うことができる。有機溶媒を使用することによって、反応性や反応条件を制御しやすいなどのメリットが得られる場合がある。例えば、粗ジフルオロリン酸を生成させる工程においては、フッ化水素酸水溶液と有機溶媒の混合溶液にリンのオキシハロゲン化物を接触させることにより行うことができる。また、ジフルオロリン酸塩を生成させる工程においては、前記粗ジフルオロリン酸と有機溶媒の混合液中に、アルカリ金属等のハロゲン化物を添加等することにより行うことができる。
【0067】
使用する有機溶媒は、原料や反応生成物との反応性がないことや、留去しやすいか等の観点から適宜選択すればよい。すなわち、前記有機溶媒としては反応や分解の変質を来たさない限り特に限定されず、具体的には、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、リン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ラクトン化合物、鎖状エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン化合物、アルコール類等が挙げられる。
【0068】
さらに、前記環状炭酸エステルとしては特に限定されず、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。これらの環状炭酸エステルのうち、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが好ましい。前記鎖状炭酸エステルとしては特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。これらの鎖状炭酸エステルのうち、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが好ましい。前記リン酸エステルとしては特に限定されず、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル等が挙げられる。前記環状エーテルとしては特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。前記鎖状エーテルとしては特に限定されず、例えば、ジメトキシエタン等が挙げられる。前記ラクトン化合物としては特に限定されず、例えば、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。前記鎖状エステルとしては特に限定されず、例えば、メチルプロピオネート、メチルアセテート、エチルアセテート、メチルホルメート等が挙げられる。前記ニトリル化合物としては特に限定されず、例えば、アセトニトリル等が挙げられる。前記アミド化合物としては特に限定されず、例えば、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。前記スルホン化合物としては特に限定されず、例えば、スルホラン、メチルスルホラン等が挙げられる。前記アルコール類としては特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。また、前記有機溶媒分子中に含まれる炭化水素基の水素を少なくとも一部フッ素で置換したものも好適に用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
【0070】
(実施例1)
<塩化リチウムの篩い分け>
塩化リチウム(試薬:和光純薬工業株式会社製)をステンレス製篩い(目開き1.0m)にて篩い分けし、走査型電子顕微鏡により、凝集粒子の最大粒径が1.0mm以下であることを確認した。
【0071】
続いて、得られた塩化リチウムの含有する水分量をカールフィッシャー電量法(平沼産業(株)製、商品名:AQ−2200)により求めた。含有する水分量は、全質量に対し0.1質量%であった。
【0072】
<粗ジフルオロリン酸の調製>
リン酸トリクロリド(試薬:和光純薬工業株式会社製)120.0gを内容量1LのPFA容器に秤取り、窒素雰囲気下で5℃に冷却した。続いて、リン酸トリクロリドに濃度71.6%のフッ化水素酸水溶液49.0gを加え、−10℃で還流しながら3時間攪拌した。得られた粗ジフルオロリン酸をイオンクロマトグラフィー(日本ダイオネクス株式会社製、商品名;ICS−1000、カラムAS−23)にてアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸の濃度の指標とした。得られた粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸イオンの相対面積濃度は87%、フッ化物イオンの相対面積濃度は6%、六フッ化リン酸イオンの相対面積濃度は2%であった。
【0073】
<ジフルオロリン酸リチウムの合成>
得られた粗ジフルオロリン酸100gを内容量1LのPFA容器に秤取り、前記篩い分けした最大粒子径が1mm以下で、含有する水分量が全質量に対し0.1質量%の塩化リチウム33.3gを加え、窒素雰囲気下にて常温で2時間攪拌した。さらに、窒素雰囲気下で攪拌を続けながら、110℃まで昇温させ、7時間加熱乾燥した。その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を得た。
【0074】
得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶をイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行い、ジフルオロリン酸イオンの相対面積比をジフルオロリン酸リチウムの純度の指標とした。得られた結晶のジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積濃度で97%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0075】
(比較例1)
<ジフルオロリン酸の蒸留精製>
実施例1に記載の方法と同じ方法で作成した粗ジフルオロリン酸400gを、PTFE製丸底フラスコに秤りとり、これを減圧下40℃で蒸留を行い、―20℃に冷却したPTFE製丸底フラスコに留分354gを得た。この留分を、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。得られたジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸イオンの相対面積濃度は97%、フッ化物イオンの相対面積濃度は2%であった。
【0076】
この蒸留操作にて得られたジフルオロリン酸を使用すること以外は、実施例1と同様にしてジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。得られた結晶のジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積で75%であった。得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、10,000ppm以上であった。
【0077】
(実施例2)
本実施例に於いては、凝集粒子の最大粒径が1.0mmを超えて2.0mm以下の範囲の塩化リチウムを用いた。それ以外は、前記実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。尚、前記塩化リチウムの篩い分けは、目開きが1.0mmと2.0mmmの2種類のステンレス製篩いを用いて行った。
【0078】
さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で96%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm以上200ppm未満であった。
【0079】
(実施例3)
本実施例に於いては、凝集粒子の最大粒径が2.0mmを超える塩化リチウムを用いた。それ以外は、前記実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。尚、前記塩化リチウムの篩い分けは、目開きが2.0mmmのステンレス製篩いを用いて行った。
【0080】
さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で96%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、200ppm以上300ppm未満であった。
【0081】
(実施例4)
本実施例に於いては、塩化リチウムとして、含有する水分量が全質量に対し0.5質量%のものを用いた。それ以外は、前記実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。
【0082】
さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で95%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0083】
(実施例5)
本実施例に於いては、ジフルオロリン酸リチウムの合成の際の塩化リチウムの添加量を25.0gに変更した。それ以外は、前記実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。
【0084】
さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で98%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0085】
(実施例6)
本実施例に於いては、ジフルオロリン酸リチウムの合成の際の塩化リチウムの添加量を29.0gに変更した。それ以外は、前記実施例1と同様にして、ジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。
【0086】
さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で98%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0087】
(実施例7)
本実施例に於いては、粗ジフルオロリン酸の合成に用いるフッ化水素酸水溶液として、濃度が69.3%のものを用いた。また、前記フッ化水素酸水溶液の添加量を45.7gに変更した。それ以外は、前記実施例1と同様にして、粗ジフルオロリン酸の合成を行った。
【0088】
得られた粗ジフルオロリン酸について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸イオンの相対面積濃度は87%、フッ化物イオンの相対面積濃度は5%、六フッ化リン酸イオンの相対面積濃度は0.2%であった。
【0089】
また、前記粗ジフルオロリン酸を用いて、実施例1と同様にジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で95%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0090】
(実施例8)
本実施例に於いては、粗ジフルオロリン酸の合成に用いるフッ化水素酸水溶液として、濃度が70.8%のものを用いた。また、前記フッ化水素酸水溶液の添加量を47.7gに変更した。それ以外は、前記実施例1と同様にして、粗ジフルオロリン酸の合成を行った。
【0091】
得られた粗ジフルオロリン酸について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸イオンの相対面積濃度は88%、フッ化物イオンの相対面積濃度は4%、六フッ化リン酸イオンの相対面積濃度は0.5%であった。
【0092】
また、前記粗ジフルオロリン酸を用いて、実施例1と同様にジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で96%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0093】
(実施例9)
本実施例に於いては、粗ジフルオロリン酸の合成に用いるフッ化水素酸水溶液として、濃度が72.9%のものを用いた。また、前記フッ化水素酸水溶液の添加量を50.9gに変更した。それ以外は、前記実施例1と同様にして、粗ジフルオロリン酸の合成を行った。
【0094】
得られた粗ジフルオロリン酸について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸イオンの相対面積濃度は86%、フッ化物イオンの相対面積濃度は7%、六フッ化リン酸イオンの相対面積濃度は3%であった。
【0095】
また、前記粗ジフルオロリン酸を用いて、実施例1と同様にジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で96%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0096】
(実施例10)
本実施例に於いては、粗ジフルオロリン酸の合成に用いるフッ化水素酸水溶液として、濃度が73.5%のものを用いた。また、前記フッ化水素酸水溶液の添加量を51.5gに変更した。それ以外は、前記実施例1と同様にして、粗ジフルオロリン酸の合成を行った。
【0097】
得られた粗ジフルオロリン酸について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、得られた粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸イオンの相対面積濃度は85%、フッ化物イオンの相対面積濃度は10%、六フッ化リン酸イオンの相対面積濃度は4%であった。
【0098】
また、前記粗ジフルオロリン酸を用いて、実施例1と同様にジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。さらに、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で95%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0099】
(実施例11)
本実施例に於いては、先ず、実施例1と同様にして粗ジフルオロリン酸を調製した。続いて、得られた粗ジフルオロリン酸100gを内容量1LのPFA容器に秤取り、前記篩い分けした最大粒径が1.0mm以下で、含有する水分量が0.1質量%の塩化リチウムを8.3g加え、窒素雰囲気下にて常温で2時間攪拌した。その後、得られた反応液を濾過し、不溶解分を除去した。さらに、得られた濾液を常温から−30℃まで冷却し、結晶を析出させた。このスラリーを固液分離し、得られた結晶を窒素雰囲気下110℃にて7時間加熱乾燥した。その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を得た。
【0100】
次に、得られたジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は、相対面積で98%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0101】
(実施例12)
本実施例に於いては、リン酸トリブロミド(試薬:シグマアルドリッチ社製)224.4gを内容量1LのPFA容器に秤取り、窒素雰囲気下60℃に加熱した。続いて、リン酸トリブロミドに濃度71.6%のフッ化水素酸水溶液49.0gを加え、−10℃で還流しながら3時間攪拌した。得られた粗ジフルオロリン酸について、イオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、得られた粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸イオンの相対面積濃度は87%、フッ化物イオンの相対面積濃度は5%、六フッ化リン酸イオンの相対面積濃度は2%であった。
【0102】
さらに、得られた粗ジフルオロリン酸を用いて、実施例1と同様にしてジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積で96%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンと臭化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、いずれも100ppm未満であった。
【0103】
(実施例13)
本実施例に於いては、実施例1で調製した粗ジフルオロリン酸100gとジメチルカーボネート170gを、内容量1LのPFA容器に秤取り、さらに、凝集粒子の最大粒径が2.0mmを超え、かつ、水分量が0.1質量%の塩化リチウムを33.3g加えて、窒素雰囲気下にて常温で2時間攪拌した。尚、塩化リチウムは、目開きが2.0mmmのステンレス製篩いを用いて篩い分けしたものを用いた。これにより得られたスラリーを固液分離し、結晶を得た。さらに、この結晶を窒素雰囲気下110℃にて7時間加熱乾燥した。その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を得た。
【0104】
さらに、得られた結晶のジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積で97%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0105】
(実施例14)
本実施例に於いては、濃度が71.6%のフッ化水素酸水溶液49.0gを内容量1LのPFA容器に秤取り、窒素雰囲気下で5℃に冷却した。続いて、フッ化水素酸水溶液に、リン酸トリクロリドを120.0g加え、−10℃で還流しながら3時間攪拌した。得られた粗ジフルオロリン酸について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。得られた粗ジフルオロリン酸中のジフルオロリン酸イオンの相対面積濃度は60%、フッ化物イオンの相対面積濃度は11%、六フッ化リン酸イオンの相対面積濃度は2%であった。
【0106】
さらに、得られた粗ジフルオロリン酸を用い、ジフルオロリン酸リチウムの合成の際の塩化リチウムの添加量を23.0gに変更した以外は、実施例1と同様にしてジフルオロリン酸リチウムの合成を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積で85%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、100ppm未満であった。
【0107】
(比較例2)
本比較例に於いては、先ず、リン酸トリクロリド50.0gを内容量1LのPFA容器に秤取り、凝集粒子の最大粒径が1.0mm以下で、かつ、水分量が0.1質量%の塩化リチウムを11.0g加えた。尚、塩化リチウムは、目開きが1.0mmmのステンレス製篩いを用いて篩い分けしたものを用いた。続いて、濃度71.6%のフッ化水素酸水溶液を20.3g加え、窒素雰囲気下にて常温で2時間攪拌した。さらに、窒素雰囲気下で攪拌を続けながら、110℃まで昇温させ、7時間加熱乾燥した。その後、室温まで冷却してジフルオロリン酸リチウムの結晶を得た。
【0108】
さらに、得られた結晶のジフルオロリン酸リチウムの結晶について、実施例1と同様にしてイオンクロマトグラフィーでアニオン分析を行った。その結果、ジフルオロリン酸リチウムの純度は相対面積で79%であった。また、得られたジフルオロリン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの量を比濁法にて測定した結果、10,000ppm以上であった。