特許第5666739号(P5666739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 冨士ダイス株式会社の特許一覧

特許5666739ダイヤモンド砥粒を固着させた掴み用工具またはこれを備えたパイプベンダー
<>
  • 特許5666739-ダイヤモンド砥粒を固着させた掴み用工具またはこれを備えたパイプベンダー 図000003
  • 特許5666739-ダイヤモンド砥粒を固着させた掴み用工具またはこれを備えたパイプベンダー 図000004
  • 特許5666739-ダイヤモンド砥粒を固着させた掴み用工具またはこれを備えたパイプベンダー 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5666739
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ダイヤモンド砥粒を固着させた掴み用工具またはこれを備えたパイプベンダー
(51)【国際特許分類】
   B25B 1/20 20060101AFI20150122BHJP
【FI】
   B25B1/20
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-162647(P2014-162647)
(22)【出願日】2014年8月8日
【審査請求日】2014年8月12日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238016
【氏名又は名称】冨士ダイス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】番匠 秀行
(72)【発明者】
【氏名】井本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】浅野 勝則
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 実
(72)【発明者】
【氏名】土屋 一彦
(72)【発明者】
【氏名】千葉 理彦
【審査官】 橋本 卓行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−097574(JP,A)
【文献】 特開2005−263575(JP,A)
【文献】 実開昭60−034812(JP,U)
【文献】 特開2003−159658(JP,A)
【文献】 特表平04−504887(JP,A)
【文献】 特開平06−262520(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3063519(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルめっきにより、粒度が500メッシュ以上30メッシュ以下であり、ヤング率が760GPaを越える、ダイヤモンド砥粒を、掴む面に固着させてあり、この固着した砥粒は、ナノフォトン株式会社製走査型レーザーラマン顕微鏡RAMAN−11によって砥粒の集合を面分析した結果、個々の砥粒は、ダイヤモンドの結晶性の高い領域とダイヤモンドの結晶性の低い領域とに分れるものと、前2領域に加えて、非晶質炭素の多い領域を加えた3種類の領域に分れるものがあり、非晶質炭素の多い領域の面積比が0%以上30%以下であり、かつダイヤモンドの結晶性の高いものまたはダイヤモンドの結晶性の低いものの領域を分光してダイヤモンドと非晶質炭素に分離した時の、ダイヤモンドの強度比をダイヤ率とすると、ダイヤモンドの結晶性の高い領域はダイヤ率が90%以上、かつダイヤモンドの結晶性の低い領域はダイヤ率が80%以上である、掴み用工具。
【請求項2】
請求項1に記載の掴み用工具を、被加工材であるパイプの固定用工具として備えた、パイプベンダー。
【請求項3】
請求項2のパイプベンダーを用いてパイプを曲げる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を固定する際に掴むための工具、特にパイプに曲げによる成形を行う時に用いるパイプベンダーのパイプ固定用工具等に関する。
【背景技術】
【0002】
パイプを潰さないで曲げる時に用いるパイプベンダーは、被加工材であるパイプを固定するまたは押すための掴み用工具を備えているが、この掴み用工具は従来、主としてSKD11等の工具鋼で製作されていた。
【0003】
パイプベンダーの、パイプを曲げる部分の概念図を図1に示す。形状は本図に限定されるものではないが、被加工材のパイプを固定するため及び押すための掴み用工具を備えていることが特徴である。本図では、向き合った2個の掴み用工具でパイプを挟み、さらにこれらが2組ある構成となっている。
【0004】
掴み用工具の概念図を図2に示すが、形状は本図に限定されるものではない。4に示す凹面が、掴む面すなわちパイプに接する面である。
【0005】
従来は、掴む面すなわちパイプに接する面は、通常の研削、切削、ないしはポリッシングによる表面仕上げをしたり、CVDまたはPVDによりTiN、TiC、DLC等の硬質被膜を被覆したり、あるいは滑り止めとしてパイプに垂直の方向にスリット状の溝を形成したり、クロスハッチ、ローレット、あるいは放電加工により粗い表面にする等の表面処理をしているが、本発明のような砥粒を固着させる表面処理は行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−155324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パイプベンダーの掴み用工具は、SKD11等の工具鋼で製作された場合は、CVDまたはPVDによりTiN、TiC、DLC等の硬質被膜を被覆したり、あるいは滑り止めとしてスリット状の溝を形成したり、クロスハッチ、ローレット、あるいは放電加工により粗い表面にする等の表面処理をしている。しかし、通常200クランプすなわち200回の曲げ加工程度で損耗により表面処理が失われて滑るようになり、これにより寿命になっていた。
【0008】
一方、耐摩耗性に優れる超硬合金で製作することも考えられるが、この場合は工具鋼よりも重くなり、さらに高価であるので通常用いられない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、パイプベンダーにおける掴み用工具の損耗機構を研究した。その結果、掴み用工具は引張り応力が作用して表面処理の溝が摩滅するのではなく、圧縮応力が作用して、硬質被膜、クロスハッチ、ローレット、あるいは放電加工で粗くした表面処理部分の凸部等が潰されて消滅していることが分かった。これが第1の知見である。
【0010】
以上から、圧縮応力が作用しても、変形し難い素材を用いればよいことが考えられる。しかし、SKD11をWC−Co系等の超硬合金に替えると、前記のように重くなり、また高価である。
【0011】
ここで、超硬合金よりヤング率が高いダイヤモンドに注目した。当然ながらダイヤモンドで掴み用工具のパイプに接触する面の部分を製作すると、靭性が低いため欠け易く、さらに極めて高価であり、実用的ではない。
【0012】
そこで、ダイヤモンド砥粒を、工具鋼の表面に電着砥石を製作する時と同じ方法により、ニッケルめっきで電着する方法を考えた。ダイヤモンド砥粒は、研削工具用としてニッケルめっきによる電着に適したものが比較的安価に入手できる。これが第2の知見である。
【0013】
この方法により作製した掴み用工具の形状及び電着した部分を図3に示す。5に示す点線及び点々の部分がダイヤモンド砥粒を電着した部分である。
【0014】
母材は従来通り工具鋼でよいが、後述するが、母材には適度な弾性変形が必要なので、ヤング率が180GPa〜250GPaの材料が最適である。ただし、これに限定されるものではない。
【0015】
一般にニッケルめっきでは、掴み用工具に用いると、ダイヤモンド砥粒が簡単に脱落することが予想されるが、パイプベンダーの掴み用工具に用いたところ全く問題なく使用できることを発見した。これは、引張り応力が発生した場合は砥粒が容易に剥離するが、圧縮応力しか作用しない場合はそのようなことは起こらないので、パイプベンダーの掴み用工具では主として圧縮応力しか作用していないためと思われた。これが第3の知見である。
【0016】
ニッケルめっきによりダイヤモンド等の砥粒を固着させるには、通常行われている電着砥石の製造法と同じ方法で行うことができる。これは電解めっき、無電解めっきのいずれかあるいは両方で可能である(当業者はいずれも電着と呼んでいる)。この方法により、砥粒の密着強度及び固着する砥粒の量等が適切である、砥粒固着すなわち電着ができる。
【0017】
従来、掴む面に砥粒を電着させるという発想は、被加工材に傷を付け、かつすぐ剥れるものと考えられていたため、存在しなかった。しかし、本発明者らは、適切な粒度及び種類の砥粒を選びこれを電着した面で掴むことで、ダイヤモンドであるからすぐに潰されることもなく、かつ母材の鋼が弾性変形することにより問題となるような砥粒のめっきへの沈み込みも起こらず、しっかり掴みながらも被加工材に問題となるような大きい傷を付けることなく、顕著な長寿命となることを発見した。
【0018】
しかも、ダイヤモンドは一般的な物質の中で最もヤング率が高く、圧縮による変形が少ないので、従来SKD11にローレット加工してCVDによりTiN被覆したもの、あるいは放電加工で表面を粗くしたものでは、いずれも200回の曲げ加工で寿命になり交換していたのに対し、本発明品は寿命を10万回以上と著しく長寿命にすることができた。
【0019】
本発明品では、1万回程度の使用により砥粒の間の目詰まりが起こることが時々あるが、これを超音波洗浄で除くことにより、引続き使用することができる。最終的な寿命に至った原因は、砥粒が徐々に剥離して掴むのに不足するようになった場合か、繰返し作用した圧縮応力により砥粒が疲労破壊して脱落したため使用できなくなったこと、またはこれらの複合要因による。
【0020】
また、砥粒の粒度も重要である。粒度は、325メッシュ以上30メッシュ以下が最適である。当然砥粒の寸法が大きい方が長寿命となるが、掴む素材につく傷が許される範囲で、より微粒の砥粒を選択して用いる。ここで、500メッシュより細かい微粒になると、砥粒が潰れたり母材にめり込む等した上に、滑りで砥粒が剥れやすくなるため、実用的でなくなる。また30メッシュより粗い砥粒では、被加工材に深すぎる傷がつきやすくなるため、実用的ではなくなる。これが第4の知見である。
【0021】
ここで、本発明者らは、市販されているダイヤモンド砥粒は、純粋にダイヤモンド相だけから構成されているとは限らず、非晶質炭素を含むものも多いことを発見し、特許文献1に記載している。
【0022】
すなわち砥粒の質も重要である。本発明では、掴み用工具の寿命に及ぼす、市販のダイヤモンド砥粒に含まれる非晶質炭素の比率の影響について、詳しく検討した。
【0023】
硬質の非晶質炭素の比率の測定方法は、特許文献1に記載した方法を発展させた方法によった。即ち、ナノフォトン株式会社製走査型レーザーラマン顕微鏡RAMAN−11によって砥粒の集合を面分析して、砥粒のダイヤモンドのピーク(ラマンシフト1330cm−1)の検出される部分を赤色で、非晶質炭素のピーク(ラマンシフト1450cm−1)の検出される部分を緑色で表示した。
【0024】
その結果、明るい赤色と、暗い赤色の2種類、またはさらに黄色から緑色に至る部分を加えた3種類の領域に分れた。ここで、視覚的に上記の色になってはいるが、これが単色光であるのかあるいは赤色と緑色の混在しているものなのか、分光して調査した。
【0025】
その結果、明るい赤色の部分はダイヤモンドのピーク(ラマンシフト1330cm−1)が高い領域であるが、それでも4〜28%程度の非晶質炭素のピーク(ラマンシフト1450cm−1)を含んでいた。
【0026】
暗い赤色の部分は、ダイヤモンドのピーク(ラマンシフト1330cm−1)が主であるが、やはり5〜29%程度の非晶質炭素のピーク(ラマンシフト1450cm−1)を含んでいた。この部分は、色は上記の明るい赤色の部分に似ているが、ピークの高さがそれに比べて著しく低かった。これは、ダイヤモンドの結晶性が明るい赤色の部分に比べてかなり低いことを示す。
【0027】
また黄色から緑色の部分は、非晶質炭素のピーク(ラマンシフト1450cm−1)が主であるが、34〜57%程度のダイヤモンドのピーク(ラマンシフト1330cm−1)を含んでいた。
【0028】
各砥粒を光学顕微鏡観察すると、形状がきれいな結晶形のものから不規則なものまで種々のものがあったが、上記ラマン分析による結晶度の結果とは一致しなかった。すなわち形状がきれいな結晶形であるから結晶性がよい、あるいは不規則であるから結晶性が悪いとは限らないことを発見した。これが第5の知見である。
【0029】
ここで、実施例の表1に示したように、黄色から緑色の領域すなわち非晶質炭素が多い領域の面積比が30%以下であり、かつ明るい赤色の領域すなわちダイヤモンドの結晶性の高い領域または暗い赤色の領域すなわちダイヤモンドの結晶性の低い領域を分光して赤色と緑色に分離した時の赤色の強度比をダイヤ率とすると、ダイヤモンドの結晶性の高い領域はダイヤ率が90%以上(残りは非晶質炭素)、かつダイヤモンドの結晶性の低い領域はダイヤ率が80%以上(残りは非晶質炭素)である砥粒を使用した場合に、長寿命となる顕著な効果があることがわかった。これが第6の知見である。
【0030】
ここで、ダイヤモンドのヤング率は1050GPa〜1200GPaであるが、この代わりにcBN砥粒を用いても同様の効果が得られる。cBNとは立方晶窒化硼素のことであり、ヤング率は909GPa〜912GPaである。
【0031】
なお、常圧から減圧の条件でCVDまたはPVDにより合成されるDLCは、ラマンシフトを測定すると必ずグラファイトのピークも生じるが、ダイヤモンド砥粒として高圧合成された砥粒に含まれる非晶質炭素には、グラファイトのピークはない。また非晶質炭素のピーク位置も若干ずれる。このことから高圧合成された砥粒で認められる非晶質炭素は、硬質のものであると言える。多孔質でない非晶質炭素(ガラス状炭素、DLC等)のヤング率は一般に100GPa〜760GPaとされているので、砥粒の非晶質炭素のヤング率は760GPa程度と思われる。
【0032】
上記第6の知見は、次の理由による。まず、非晶質炭素が多い領域の面積比が30%を超えると、非晶質炭素はヤング率がダイヤモンドには及ばず変形しやすいため、非晶質炭素が多い砥粒は比較的早く疲労破壊すること、及び非晶質炭素が多い砥粒は不純物が多いことが知られており、このため電着での密着性が悪く脱落しやすいこと、の両方の理由で寿命が短くなる。
【0033】
同様に、ダイヤモンドの領域のダイヤ率の高低でも、ダイヤ率が90%または80%以上の場合がよいのは、非晶質部分はヤング率が低いためこれが少ない方が変形し難いことに基づくものである。
【0034】
cBNについては、アモルファスBNとしてナノcBNを取上げる例が見られるが、これはX線回折で六方晶BN(hBN)が検出できることから、結晶性の低いhBNであると考えられるので、砥粒として市販されているcBNは立方晶の単一相と考えてよい。
【0035】
なお、ダイヤモンドやcBN以外のヤング率が高い他の硬質粒子を用いても、同様の効果が得られるが、ヤング率が低いことに応じて寿命は短くなるので、非晶質炭素より高いヤング率すなわち760GPaより高くないと、実用的でない。
【0036】
また、本方法による表面処理は、従来の他の方法よりも容易にできるため安価かつ短納期で行うことができる。
【0037】
さらに、本方法により製作された掴み用工具は、パイプベンダーに限定せず、滑らないことが要求される他の似た機構の掴み用工具にも広く応用できる。
【発明の効果】
【0038】
パイプベンダーの掴み用工具において、ダイヤモンド砥粒を掴む面に固着させることにより、従来品より数百倍以上の長寿命になり、かつ安価で短納期に製作できるようになった。また、パイプベンダーに限定せず、滑らないことが要求される他の似た機構の掴み用工具にも広く応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】パイプベンダーにおける、パイプを曲げる部分の概念図の例である。本図では例として、2に示す向き合った2個の掴み用工具で1に示すパイプを挟み、さらにこれらが2組ある構成になっていて、3に示す曲げ型にそってパイプを曲げるようになっている。太い矢印はパイプの曲がる方向を示す。
図2】パイプベンダーの掴み用工具の概念図の例である。4に示す凹面が、掴む面すなわちパイプに接する面である。
図3】本発明によるパイプベンダーの掴み用工具の形状の例である。ダイヤモンド砥粒を固着させたことおよびその位置を示している。5に示す点線及び点々の部分がダイヤモンド砥粒を固着した部分である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0040】
各種の砥粒を工具鋼SKD11の表面にニッケルめっきで電着した。砥粒を電着させる方法は、通常行われている電着砥石の製造法と同じ方法で行った。砥粒の種類およびそれを用いた掴み用工具の寿命を表1に示す。比較例として、従来の掴み用工具の寿命も併示した。本発明の掴み用工具は極めて長寿命であることがわかる。
【0041】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の掴み用工具は、パイプベンダーの効率化と長寿命化を進め、より精密な加工を可能とすると共に、コストダウンさせるので産業界への貢献は計り知れない。
【符号の説明】
【0043】
1 被加工物であるパイプ
2 掴み用工具
3 曲げ型
4 パイプを掴む面
5 ダイヤモンド砥粒を電着した部分
【要約】
【課題】従来のパイプベンダーの掴み用工具は、耐摩耗性が十分でなかったため、掴む面が摩耗することにより、短寿命であった。
【解決手段】パイプベンダーのパイプの掴み用工具の掴む面に、粒度が500メッシュ以上30メッシュ以下であり、ヤング率が760GPaを越え、レーザーラマン顕微鏡RAMAN−11によって砥粒の集合を面分析すると、非晶質炭素の多い領域の面積比が0%以上30%以下であり、かつダイヤモンドの結晶性の高い領域はダイヤ率が90%以上、かつダイヤモンドの結晶性の低い領域はダイヤ率が80%以上である、ダイヤモンド砥粒を、ニッケルめっきにより電着する。これにより、掴む面の損耗を著しく少なくし、またパイプには傷を付けることもなく、掴み用工具の著しい長寿命化ができる。
【選択図】図3
図1
図2
図3