(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上部構造体と、該上部構造体の下方にギャップを隔てて対向配置された下部構造体との間に介装されて該上部構造体の水平方向および鉛直方向の振動に対する免震効果を発揮する3次元免震装置であって、
前記ギャップ内に配置された高剛性の支持部材と、前記支持部材上面と前記上部構造体との間に固定配置された鉛直免震機構と、前記支持部材下面と前記下部構造体との間に固定配置された水平免震機構と、を備え、
前記支持部材下面の前記水平免震機構配置部位は、上向きに凹陥した凹陥部の天井面であり、該凹陥部の裾部には水平に外径方向へ延びる張出し部が形成され、該張出し部上面には前記各鉛直免震機構が設置されており、
前記凹陥部の上面には、前記鉛直免震機構の鉛直方向の振動を許容しつつ水平方向の変形を拘束する水平変形拘束機構が前記鉛直免震機構と並列に設けられており、
該水平変形拘束機構は、支柱と、該支柱の鉛直方向に摺動自在に装着される円筒状のスリーブ部材と、を備え、該水平変形拘束機構の一端部が前記支持部材に対して鉛直方向に変位可能かつ水平方向に変位不能に係合せしめられていることを特徴とする3次元免震装置。
前記上部構造体底部の局部をカバーするに足る小面積の前記支持部材下面の中心部に単一の前記水平免震機構が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の3次元免震装置。
前記水平免震機構は、積層ゴムまたはすべり支承手段、もしくは転がり支承手段により構成され、前記鉛直免震機構は、空気ばねから構成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の3次元免震装置。
前記鉛直免震機構の鉛直方向の振動を減衰させる鉛直振動減衰機構が該鉛直免震機構と並列に設けられ、該鉛直振動減衰機構の一端部が前記支持部材に連結されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の3次元免震装置。
【背景技術】
【0002】
建築物に対する地震対策のための構造として、建築物自体の耐力を高める「耐震構造」、建築物内に配置したダンパー装置等で運動エネルギーを吸収する「制震構造」、地盤から建築物への振動を遮断する「免震構造」があり、それぞれに様々な技術が提案されている。
「耐震構造」にあっては、建築物構造体の耐力を増す必要があるため、構造躯体の材料費等のコストが嵩む一方で、建築物内部における振動は緩和されず内部に配置された物品が損傷するおそれがあり、これに対する対策が別途必要となる。
「制震構造」は建物に入った地震力を吸収し、振動を抑制することで建物の損傷を抑えることができる。建物内部における振動は建物上層部ではある程度緩和できるが1階においては耐震の場合と同様である。
これに対して、「免震構造」にあっては、地盤から建築物へ伝わる振動を遮断するための免震装置を設けることにより建築物全体を大地震から効果的に保護することが可能となる。
【0003】
最近では、水平方向と鉛直方向の双方の振動から建築物を保護する免震効果を発揮する3次元免震装置が提案されている(特許文献1、2)。
特許文献1、2には、上部構造としての建屋とそれを支持する下部構造との間において、水平免震機構と鉛直免震機構とを上下方向に直列に配置することにより、建屋の水平方向および鉛直方向の振動に対する免震効果を得る構成の3次元免震装置が開示されている。この3次元免震装置は、高剛性フレームと、高剛性フレーム上面と建屋下面との間に配置された単一の積層ゴム等から成る水平免震機構と、高剛性フレーム下面と下部構造との間に配置された空気ばねからなる鉛直免震機構とを一体化した構成を備えている。水平免震機構はフレームの中心位置に固定され、鉛直免震機構はフレームの中心位置の周囲に均等配置されている。
特許文献1、2に係る3次元免震装置によれば、個々の空気ばねによる支持力が不充分であっても複数の空気ばねを用いることで全体で充分な支持力を確保でき、それら空気ばねの個数の増減により鉛直方向の支持力を自由にかつ幅広く設定することが可能であり、したがって鉛直免震機構の支持力を水平免震機構の支持力と適正にバランスさせることが可能である。その結果、従来一般のこの種の3次元免震装置において問題とされていた積層ゴムと空気ばねとの支持力のアンバランスを容易に解消でき、そのために高圧あるいは大型の特殊仕様の空気ばねを用いるような必要もなく、ローコストで充分な改善効果が得られる旨が記載されている。
しかし、地震の振動は地盤側から伝達されてくるにも拘わらず、従来の3次元免震装置のように鉛直免震効果しか有さず水平免震効果を有していない空気ばね(鉛直免震機構)を下側に配置すると、空気ばねは地盤側から入来してきた水平方向への振動を緩衝することができず、水平方向への剪断力によって空気ばね及びフレームがダメージを受ける。そのための対策として、水平変形拘束機構(スライダー棒)によりフレームを下部構造と直結して水平振動を直接上側に配置した積層ゴム(水平免震機構)に伝えるように構成したり、空気ばね、及びフレームの強度を高める必要が生じている。
【0004】
一方、従来の3次元免震装置においては、地震発生時に水平変形拘束機構を経由して地盤側からの水平方向振動が積層ゴムに伝わって積層ゴムが水平方向へ変形する際に建物の重みが同時に加わるため、積層ゴムを回転させようとする力(負荷曲げモーメント)が発生し易い状況にある。この負荷曲げモーメントによってフレーム及び水平変形拘束機構、空気ばねが回転しようとし、ダメージを受け易くなる。このような負荷曲げモーメントに対処するためには、3次元免震装置の設計に当たって、個々の3次元免震装置ユニットごとに負荷曲げモーメントに起因したフレーム及び空気ばねの挙動を実験で解析しつつ、フレーム及び水平変形拘束機構、空気ばねの強度を更に高めるための追加設計が必要となる。3次元免震装置の設計に当たっては、上側の積層ゴムと下側の空気ばねの挙動、及び必要強度を夫々別個独立に計算して適正値を算出できれば理想的であるが、実際には負荷曲げモーメントの影響によりフレーム及び水平変形拘束機構、空気ばねの挙動が複雑に変化するため、曲げ、変形についても加味した上で設計を行う必要が生じ、計算、設計作業が極めて難解、複雑となる。
なお、特許文献1には、フレームの上側に鉛直免震機構を配置し、下側に水平免震機構を配置してもよい旨が記載されているが、各免震機構の上下を逆転するための具体的な構造については一切開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1(a)及び(b)は本発明の第1の実施形態に係る3次元免震装置の構成を示す縦断面図、及び要部平面図である。
本発明の3次元免震装置1は、上部構造体(建屋)100と、上部構造体100の下方にギャップGを隔てて対向配置された下部構造体(基礎)120との間に介装されて上部構造体100の水平方向および鉛直方向の振動に対する免震効果を発揮する手段である。下部構造体120は地盤の上に構築され、下部構造体120上に設置された3次元免震装置1が上部構造体100の下面を免震支持する。
本実施形態に係る3次元免震装置1は、3次元免震ユニットとして構成されており、上部構造体の各柱100aに相当する部位に個別に設置される。
3次元免震装置1は、ギャップG内に配置された高剛性の支持部材2と、支持部材2と上部構造体100との間に固定配置された複数の鉛直免震機構30と、支持部材と下部構造体との間に固定配置された一つの水平免震機構50と、を備えている。
水平免震機構50は、支持部材2の下面中心部に配置され、鉛直免震機構30は支持部材2の上面中心部の周囲に複数個均等配置されている。
【0013】
本実施形態における支持部材2としては、例えばRC造スラブを用いる。或いは、金属板であってもよいし、特許文献1、2に開示されたフレームのようにH型鋼材と金属板を組み合わせて一体化した構成であってもよい。要するに支持部材2としては、上部構造体100、鉛直免震機構30、水平免震機構50を支持するに足る十分な強度を備えていれば、どのような材質であってもよい。
鉛直免震機構30は、空気ばね31から構成されている。また、水平免震機構50は、積層ゴム51またはすべり支承手段、もしくは転がり支承手段により構成されている。
本例に係る支持部材2は、その下面中央部が上向きに凹陥した凹陥部3を有し、凹陥部3の裾部から外径方向(水平方向)へ張出し部5を延在させた平面形状が概略四角形のRC造スラブである。凹陥部3は、水平免震機構50を配置する部位に相当しており、凹陥部3の天井面に水平免震機構50としての積層ゴム51の上部を固定し、積層ゴム51の下部を下部構造体120に固定する。具体的には、積層ゴム51のベースプレートを下部構造体120の上面に図示しないアンカーボルトにより固定すると共に、トッププレートを凹陥部3の天井面に固定する。
張出し部5の四隅に相当する部位には夫々鉛直免震機構30としての空気ばね31の下部を固定し、空気ばね31の上部を上部構造体100の底面に固定する。
【0014】
各空気ばね31は、
図1(a)中に一部断面にて示すように、内部空間が空気室として画成されているゴムベローズ31aと、そのゴムベローズ31aの下部に一体に連結された補助タンク31bから構成されていて、ゴムベローズ31aの上部が
上部構造体100の下面に固定されており、補助タンク31bの下部が
支持部材2に対してアンカーボルト等により固定されるようになっている。
空気ばね31を構成しているゴムベローズ31aの空気室と補助タンク31bの内部空間とはオリフィス31cを介して連通しており、ゴムベローズ31aが鉛直方向に振動して弾性変形した際にはその内部空間である空気室と補助タンク31bの間でオリフィス31cを通して空気が流通し、その際に生じる流通抵抗によってゴムベローズ31aの振動が速やかに減衰させられるものとなっている。つまり、この空気ばね31はそれ自身が振動減衰機能を有するものであって、鉛直方向の免震効果のみならず優れた減衰効果も併せて発揮し得るものである。
【0015】
また、支持部材2の上面の適所、本例では凹陥部3の上面側には図示しないオイルダンパー等の鉛直振動減衰機構が空気ばね31と並列に設置され、その下端部が支持部材2に対して連結されており、上端部は上部構造体100に対して連結されている。鉛直振動減衰機構は、空気ばね31自身が有する上記のような振動減衰機能では不充分な場合に所望の減衰量を確保するべく補助的に付加すれば良く、空気ばね31自身で充分な振動減衰機能が確保できる場合は省略して差し支えない、勿論、必要とされる減衰性能によっては鉛直振動減衰機構としてオイルダンパーに限らず適宜の形式のダンパーを採用しても良く、その設置数も任意である。
さらに、支持部材2の上面には、その中心位置(凹陥部3の上面)の周囲に複数(図示例では4つ)の水平変形拘束機構35が空気ばね31と並列に設けられている。これら水平変形拘束機構35は、上部構造体100に対する支持部材2の鉛直方向の相対変位は許容しつつ水平方向の相対変位を拘束し、以て、空気ばね31を支障なく作動させて鉛直方向の免震効果を確保しつつ、空気ばね31に無用な水平方向剪断力を作用させないように設置されたものである。
【0016】
つまり、このような水平変形拘束機構35がない場合には、上部構造体100が水平方向に振動した際にその水平剪断力が空気ばね31にそのまま伝達されてしまうことから、空気ばね31に無用な水平力が作用して横方向に無用な変形を生じ、本来の鉛直方向への免震効果に悪影響を及ぼすばかりでなく、ゴムベローズ31aが座屈したり損傷を受けることも懸念されることから、水平変形拘束機構35の設置によってそのような事態を回避するようにしたものである。
具体的には、本実施形態における水平変形拘束機構35は、
図2に示すように高剛性の鋼棒からなる支柱35aがベース部材35bにより上部構造体100の下面に固定され、支柱35aの下端部に円筒状のスリーブ部材35cが鉛直方向に摺動自在に装着されるようになっており、スリーブ部材35cの内側には支柱35aに対する摺動抵抗を軽減するためのリング状のベアリング35dが取り付けられている。そして、スリーブ部材35cを支持部材2の中心位置の周囲に固定して支柱35aに装着することにより、支柱35aに対する支持部材2の鉛直方向の相対変位は支障なく許容されるが、支持部材2の水平方向の相対変位は支柱35aによって確実に拘束される。これにより空気ばね31を支障なく作動させつつ空気ばね31に無用な水平力が作用することを確実に防止できる。
更に、本発明の3次元免震装置1に対して、本出願人らにより提案された特許文献2に開示されたオイルダンパーによる免震床のロッキング動防止機構130(後述)を適宜追加することにより、ロッキング動を効果的に抑止することが可能となる。
【0017】
以上の構成を備えた本実施形態の3次元免震装置によれば、水平免震機構50としての積層ゴム51と、鉛直免震機構30としての空気ばね31とにより水平振動と上下振動の双方に対して優れた免震効果が得られ、大規模な建屋全体を免震支持する3次元免震装置として効果を発揮できる。
そして、特に本実施形態の3次元免震装置は、単一の積層ゴム51と、複数の空気ばね31とを組合せた構成としたことから、個々の空気ばね31の支持力が充分でない場合であっても複数の空気ばね全体で充分な支持力を確保できるし、空気ばね31の個数の増減により支持荷重を自由にかつ幅広く設定することが可能であり、したがって空気ばね全体の支持力を単一の積層ゴム51の支持力と適正にバランスさせることが可能である。
その結果、従来一般のこの種の3次元免震装置において問題とされていた積層ゴムと空気ばねとの支持力のアンバランスを容易に解消でき、そのために高圧あるいは大型の特殊仕様の空気ばねを用いるような必要もないから、個々の空気ばね31としては小型の汎用製品を用いれば充分であり、さしたるコストアップとなることなく3次元免震装置全体として所望の支持能力を確保することが可能となる。
【0018】
特許文献1、2に開示された3次元免震装置にあっては、フレーム(支持部材)の上側に水平免震機構を配置し、下側に鉛直免震機構を配置した構成であったため、地震発生時に水平変形拘束機構を経由して地盤側からの水平方向振動が水平免震機構に加わったときに建物の重量との協働によって積層ゴムを水平方向に回転させようとする負荷曲げモーメントがフレーム及び鉛直免震機構に加わって変形させる虞があった。このため、3次元免震装置を設計する際に、水平免震機構と鉛直免震機構について個別に強度設計を行うだけでなく、負荷曲げモーメントによる影響についても加味した上で強度設計を行う必要があった。また、フレーム及び鉛直免震機構の強度を高める必要から、装置の大型化、高コスト化を招く結果となっていた。
これに対して本発明の3次元免震装置1にあっては、支持部材2の上側に鉛直免震機構30を配置し、下側に鉛直免震機構50を配置したため、地震発生時に下部構造体120を経由して地盤側から水平方向振動が入来する際には、下側に位置する水平免震機構50による減衰が真っ先に行われるため、鉛直免震機構50に過大な負荷曲げモーメントが加わってこれを変形、破損することを回避できる。
このため、本発明によれば、鉛直免震機構に対して負荷曲げモーメントによる影響を考慮せずに、水平免震機構50と鉛直免震機構30について独立個別に強度設計を行うことにより、装置全体の設計を完了することができることとなる。このような比較的簡易な設計の結果、鉛直免震機構30、及び鉛直免震機構50に求められる強度も低くて済み、装置の大型化、高コスト化を避けることができる。
【0019】
また、本発明では、支持部材2の下面中央部に設けた上向きの凹陥部3の天井面(水平免震機構配置部位)に積層ゴム51の上端部を固定し、下端部を下部構造体120の上面に固定している一方で、各空気ばね31の下端部は、積層ゴム51の上端部よりも下方に位置する張出し部5の上面に固定している。このため、積層ゴム51と空気ばね31の高さ位置が長さLだけ重複しており、装置全体の高さ寸法を大幅に低減することができる。
また、空気ばねは高さ寸法が大きいため、特許文献1、2に開示された装置構成では、基礎工事において地盤に根切りを深く掘る必要が発生する。これに対して、本実施形態のように装置の薄型化を達成できれば、重複高さ寸法Lの分だけ免震装置の高さを低減し、根切りの深さを減少できるため、掘削工事等に要する労力を低減することができる。
また、本発明の3次元免震装置1は、上部構造体の要所、例えば複数の柱100a部分に夫々個別に設定可能となるようにユニット化されており、支持部材2を小面積化できるため、工場における組立と、組立済みのユニットの現場への搬送が可能であり、施工が容易である。
【0020】
次に、
図3(a)及び(b)は本発明の第2の実施形態に係る3次元免震装置の構成を示す正面図、及び要部平面図である。
この実施形態に係る3次元免震装置1は、支持部材2が平板状である点が前記第1の実施形態と異なっているが、免震効果としては同等な効果を発揮する。支持部材2が平板状であることによるメリットは支持部材の加工が容易となる点と、鉛直免震機構30と水平免震機構50の横方向位置を近接させることが可能となることにより装置全体の平面積を縮小して小型化できる点と、両免震機構が接近することにより力の伝達が効率化することである。
次に、上記各実施形態に係る3次元免震装置は、支持部材2に対して鉛直免震機構30、水平免震機構50等を組み付けたユニットを、上部構造体100側の柱等の特定部位と下部構造体120との間に個別に配置することによって局部的な免震効果を発揮させるようにしている。しかし、このようにユニット化した3次元免震装置にあっては、個々の3次元免震装置による免震能力や荷重に対する耐久性を高めるために、免震機構30、50の個数を増やしたり、各免震機構のサイズを大型化する必要が生じたとしても、支持部材2のサイズ上の物理的な制約による限界が発生する。具体的には例えば支持部材2上に搭載する空気ばねの個数を4個よりも増設する必要が生じたとしても、支持部材2の面積上の制限から増設が難しくなるケースが起きる。
【0021】
図4(a)及び(b)はユニット化された3次元免震装置の欠点を解消することができる変形実施形態を示す縦断面図、及び各免震機構の位置関係を示す平面図である。
なお、
図1、
図2と同一部分には同一符号を付して説明する。
この実施形態に係る3次元免震装置60は、上部構造体(建屋)100と、上部構造体100の下方にギャップGを隔てて対向配置された下部構造体(基礎)120との間に介装されて上部構造体100の水平方向および鉛直方向の振動に対する免震効果を発揮する手段である。下部構造体120は地盤の上に構築され、下部構造体120上に設置された3次元免震装置60が上部構造体100の下面を広い面積範囲に渡って支持する。
本実施形態に係る3次元免震装置60は、上部構造体100の底面を非局部的に、即ち、複数の柱100aに跨った広い面積に渡ってカバーする3次元免震手段として構成されており、複数個の柱100aを含む上部構造体底面を一つの3次元免震装置60によりカバーするように構成されている。
3次元免震装置60は、ギャップG内に配置された高剛性の支持部材62と、支持部材62上面と上部構造体100との間に固定配置された鉛直免震機構30と、支持部材下面と下部構造体との間に固定配置された水平免震機構50と、を備えている。
支持部材62は、上部構造体100の下面を複数の柱100aを含む広い範囲に渡ってカバーすることができる平面積を有する。
水平免震機構50は、支持部材62の下面に配置され、鉛直免震機構30は支持部材62上面に鉛直免震機構30を中心としてその周囲に複数個均等配置されている。水平免震機構50は、積層ゴム51またはすべり支承手段、もしくは転がり支承手段により構成されている。鉛直免震機構30は、空気ばね31から構成されている。
【0022】
本実施形態における支持部材62としては、例えばRC造スラブを用いる。或いは、金属板であってもよいし、特許文献1、2に開示されたフレームのようにH型鋼材と金属板を組み合わせて一体化した構成であってもよい。要するに支持部材62としては、上部構造体100、鉛直免震機構30、水平免震機構50を支持するに足る十分な強度を備えていれば、どのような材質であってもよい。
本例に係る支持部材62は、その下面に上向きに凹陥した凹陥部63を複数箇所有し、各凹陥部63の裾部から夫々外径方向(水平方向)へ張出し部65を延在させたRC造スラブである。凹陥部63は、水平免震機構50を配置する部位に相当しており、凹陥部63の天井面に水平免震機構50としての積層ゴム51の上部を固定し、積層ゴム51の下部を下部構造体120に固定する。具体的には、積層ゴム51のベースプレートを下部構造体120の上面に図示しないアンカーボルトにより固定すると共に、トッププレートを凹陥部63の天井面に固定する。
各凹陥部63の外径側の張出し部65上には夫々鉛直免震機構30としての空気ばね31の下部を固定し、空気ばね31の上部を上部構造体100の底面に固定する。本発明においては、
図1の実施形態に比して張出し部65の面積が大幅に広く構成されているため、張出し部65上の余剰スペースを利用して空気ばね31の増設することが可能となる。即ち、
図4(b)に示した4個ずつの空気ばね31の外径側に更に必要個数の空気ばね31を積層ゴム51を中心とした周辺位置に均等に配置することが可能となる。
空気ばね31の構成は、
図1(a)中に示した如くである。
【0023】
また、支持部材62の上面の適所、本例では凹陥部63の上面側には図示しないオイルダンパー等の鉛直振動減衰機構が空気ばね31と並列に設置され、その下端部が支持部材62に対して連結されており、上端部は上部構造体100に対して連結されている。
更に、支持部材62の上面には、凹陥部63の上面の周囲に複数(図示例では4つ)の水平変形拘束機構35が空気ばね31と並列に設けられている。水平変形拘束機構35の構成、動作については
図2に基づいて説明した通りである。
更に、本発明の3次元免震装置1に対して、本出願人らにより提案された特許文献2に開示されたオイルダンパーによる免震床のロッキング動防止機構40を適宜追加することにより、ロッキング動を効果的に抑止することが可能となることも前述の通りである。
以上の構成を備えた本実施形態の3次元免震装置によれば、水平免震機構50としての積層ゴム51と、鉛直免震機構30としての空気ばね31とにより水平振動と上下振動の双方に対して優れた免震効果が得られ、大規模な建屋全体を免震支持する3次元免震装置として効果を発揮できる。特に、複数の柱100aに跨って展開する広面積の支持部材62を用いているため、鉛直免震機構30を増設するための設置スペースを十分に確保することが可能となる。
【0024】
また、必要に応じて水平免震機構50としての多層ゴムを大型化したり、配置個数を増設することも可能となる。
また、本実施形態によれば、
図1の実施形態と同様に、支持部材62の上側に鉛直免震機構30を配置し、下側に
水平免震機構50を配置したため、地震発生時に下部構造体120を経由して地盤側から水平方向振動が入来する際には、下側に位置する水平免震機構50による減衰が真っ先に行われるため、鉛直免震機構
30に過大な負荷曲げモーメントが加わってこれを変形、破損することを回避できる。
このため、本発明によれば、鉛直免震機構に対して負荷曲げモーメントによる影響を考慮せずに、水平免震機構50と鉛直免震機構30について独立個別に強度設計を行うことにより、免震装置全体の設計を完了することができることとなる。このような比較的簡易な設計の結果、鉛直免震機構30、及び
水平免震機構50に求められる強度も低くて済み、装置の大型化、高コスト化を避けることができる。
【0025】
また、本発明では、支持部材62の下面中央部に設けた上向きの凹陥部63の天井面に積層ゴム51の上端部を固定し、下端部を下部構造体120の上面に固定している一方で、各空気ばね31の下端部は、積層ゴム51の上端部よりも下方に位置する張出し部65の上面に固定している。このため、積層ゴム51と空気ばね31の高さ位置が長さLだけ重複しており、装置全体の高さ寸法を大幅に低減することができる。
また、空気ばねは高さ寸法が大きいため、特許文献1、2に開示された装置構成では、基礎工事において地盤に根切りを掘る必要が発生する。これに対して、本実施形態のように装置の薄型化を達成できれば、重複高さ寸法Lの分だけ免震装置の高さを低減し、根切りの深さを減少できるため、掘削工事等に要する労力を低減することができる。
【0026】
次に、
図5(a)(b)及び(c)は本発明の他の実施形態に係る3次元免震装置の縦断面図、鉛直免震機構の配置を示す要部平面図、及び水平免震機構の配置を示す要部平面図である。
この実施形態に係る3次元免震装置60は、支持部材62が平板状である点が
図4の実施形態と異なっているが、免震効果としては同等な効果を発揮する。支持部材62が平板状であることによるメリットは支持部材の加工が容易となる点にある。
以上のように
図4、
図5に示した3次元免震装置にあっては、上部構造体100の底面を広い範囲に渡って一つの3次元免震装置
60によりカバーすると共に、一つの大面積支持部材62の下面に水平免震機構50を分散配置し、各水平免震機構に対応して複数の鉛直免震機構30を支持部材上面に配置する。その際、一つの水平免震機構に対応して設置する鉛直免震機構の配置個数や配置箇所を任意に種々選定することが可能となる。このため、ユニット化された3次元免震装置によっては得られない安定した免震効果を得ることができる。
【0027】
また、小面積の支持部材2に対して各免震機構30、50を組み付けたユニットタイプの3次元免震装置にあっては、負荷曲げモーメントによる影響を受けやすいが、広面積の一枚の支持部材62を用いた場合には負荷曲げモーメントが支持部材62を変形させる虞が大幅に減少する。即ち、想定を越えた過大な水平方向振動が入来した場合には、下方に位置する水平免震機構50により緩衝し切れずに水平方向振動エネルギーが支持部材62を介して鉛直免震機構30に印加される虞があるが、このような場合であっても支持部材を広面積とすることにより負荷曲げモーメントによる影響を減殺することができる。
更に、広面積の支持部材が上部構造体の柱部分等の要所とは関係のない部位に跨って展開していることにより、柱部分とは関係のない部位に各免震機構を配置することができる。
【0028】
次に、
図6は
図5に示した3次元免震装置に特許文献2に開示されたオイルダンパー130(ロッキング動防止機構)を適用した場合の要部平面図であり、
図7はオイルダンパーの概略構成を模式的に表した断面図である。
オイルダンパー130は、鉛直方向の振動を減衰させるものであり、矩形の支持部材62の上面側の4つの角隅部に空気ばね31と並列に設置されている。オイルダンパー130は、
図7に示すように、鉛直方向に延設された筒状のシリンダー140と、鉛直方向に延在した棒状のピストンロッド141と、ピストンロッド141の中間部に固定されたピストン142とから構成されている。
シリンダー140内には、オイルで満たされたオイルタンク室143が形成されている。ピストンロッド141は、シリンダー140の上端側からシリンダー140内に挿入され、オイルタンク室143を鉛直方向に貫通して設けられている。このピストンロッド141は、鉛直方向に移動可能に設けられている。
【0029】
ピストン142は、オイルタンク室143内に配置されてオイルタンク室143を上下に仕切るものである。オイルタンク室143は、ピストン142の上方に形成された上側オイルタンク室143aと、ピストン142の下方に形成された下側オイルタンク室143bとに分けられる。また、ピストン142は、オイルタンク室143の壁面(シリンダー140の内周面)に沿って鉛直方向に摺動可能に設けられている。したがって、ピストンロッド141の鉛直方向に移動によりピストン142が上下動される。また、ピストン142の上下動により、上記した上側オイルタンク室143aと下側オイルタンク室143bとの容積比率が可変される。
また、ピストン142には、上側オイルタンク室143aと下側オイルタンク室143bとを連通させる調圧弁144が設けられている。この調圧弁144は、オイルが通過する出口の形状を変えることでその出口の大きさ(面積)を可変させる弁である。オイルダンパー130は、上記した調圧弁144を通過するオイルの流体抵抗によって必要な減衰力を発生させる構成となっている。
【0030】
本実施の形態の他に、後述する第一油圧配管150及び第二油圧配管151、それぞれに電磁開閉弁145を設け、通常時ロックとすると、上下動時もロッキング時と同じ高減衰が得られ、各種の振動に対し防振効果を強化することが出来る。
地震時は、緊急地震速報の情報や地震計の信号等に基づいて、開放に切り替え、ロッキング防止と上下動免震への減衰切り替え回路にすることが出来る。
また、上記した構成のオイルダンパー130は、支持部材62の上面と上部構造体100の下面との間に介装されており、ピストンロッド141の上端が上部構造体100に連結されており、シリンダー140の下端が支持部材62に連結されている。
ところで、
図6に示した複数のオイルダンパー130のうち、平面視における支持部材62の隅角位置に設けられた第一オイルダンパー130Aと、その隅角位置の対角位置に設けられた第二オイルダンパー130Bと、が対を成し、一対のオイルダンパーとなっている。本実施の形態では、平面視における支持部材62の四隅にそれぞれオイルダンパー130が配設されており、一対のオイルダンパー130A、130Bが二組設けられた構成になっている。
【0031】
図8は一対のオイルダンパー130A、130Bを模式的に表した断面図である。なお、
図8(a)は鉛直方向に振動するときの状態を表しており、(b)は上部構造体100がロッキング動が作用するときの状態を表している。
図8に示すように、第一オイルダンパー130Aのオイルタンク室143と第二オイルダンパー130Bのオイルタンク室143とは、第一油圧配管150及び第二油圧配管151によりたすき掛け状に連結されている。すなわち、第一オイルダンパー130Aの上側オイルタンク室143aと第二オイルダンパー130Bの下側オイルタンク室143bとは第一油圧配管150を介して連通されている。また、第一オイルダンパー130Aの下側オイルタンク室143bと第二オイルダンパー130Bの上側オイルタンク室143aとは第二油圧配管151を介して連通されている。第一油圧配管150の一端は、第一オイルダンパー130Aのオイルタンク室143の上部に接続されており、第一油圧配管150の他端は、第二オイルダンパー130Bのオイルタンク室143の下部に接続されている。また、第二油圧配管151の一端は、第一オイルダンパー130Aのオイルタンク室143の下部に接続されており、第二油圧配管151の他端は、第二オイルダンパー130Bのオイルタンク室143の上部に接続されている。
【0032】
次に、上記した構成からなる3次元免震システムの作用について説明する。
図8(a)に示すように、鉛直方向の地震動が作用すると、一対のオイルダンパー130A、130Bのピストン142が上下方向に同位相でそれぞれ作動するため、第一、第二油圧配管150、151内のオイルの流れがスムーズになり、ピストン142は抵抗なく作動する。
例えば、鉛直方向の地震動により、一対のオイルダンパー130A、130Bに圧縮力がそれぞれ作用すると、一対のオイルダンパー130A、130Bのピストン142にそれぞれ下方向の力が作用する。このとき、双方のオイルダンパー130A、130Bの下側オイルタンク室143b内のオイルはピストン142によりそれぞれ押圧される。このため、
図6(a)の実線矢印で示すように、第一オイルダンパー130Aの下側オイルタンク室143b内のオイルの一部が第二油圧配管151内に押し出され、第二オイルダンパー130Bの下側オイルタンク室143b内のオイルの一部が第一油圧配管150内に押し出される。また、このとき、双方のオイルダンパー130A、130Bの上側オイルタンク室143aの容積はそれぞれ増大される。このため、第二油圧配管151内のオイルは第二オイルダンパー130Bの上側オイルタンク室143a内に吸引され、第一油圧配管150内のオイルは第一オイルダンパー130Aの上側オイルタンク室143a内に吸引される。このように、第一油圧配管150では、一端からオイルが流出するとともに他端からオイルが流入し、また、第二油圧配管151では、一端からオイルが流入するとともに他端からオイルが流出するため、第一、第二油圧配管150、151内でオイルがスムーズに流通し、第一、第二油圧配管150、151内でオイルの抵抗が小さい。
【0033】
また、鉛直方向の地震動により、一対のオイルダンパー130A、130Bに引張力がそれぞれ作用すると、一対のオイルダンパー130A、130Bのピストン142に上方向の力が作用する。
このとき、オイルの流れは、上述した圧縮力が作用する場合と逆になる。すなわち、
図8(a)の破線矢印で示すように、第一オイルダンパー130Aの上側オイルタンク室143a内から第一油圧配管150を通って第二オイルダンパー130Bの下側オイルタンク室143b内に流れるとともに、第二オイルダンパー130Bの上側オイルタンク室143a内から第二油圧配管151を通って第一オイルダンパー130Aの下側オイルタンク室143b内に流れる。このように、オイルはスムーズに流れ、第一、第二油圧配管150、151内を流通するオイルに抵抗が小さい。
【0034】
一方、
図8(b)に示すように、上部構造体100にロッキング動が作用する場合、一対のオイルダンパー130A、130Bのピストン142が上下方向に90度ずれた位相でそれぞれ作動するため、第一油圧配管150及び第二油圧配管151の何れか一方の内部でオイルがぶつかり合って油圧の抵抗力が生じ、ピストン142の上下動が抑制される。
例えば、上部構造体100のロッキング動により、第一オイルダンパー130Aに対して圧縮力F1が作用し、第二オイルダンパー130Bに対して引張力F2が作用すると、第一オイルダンパー130Aのピストン142に下方向の力が作用し、第二オイルダンパー130Bのピストン142は上方向の力が作用する。このとき、第一オイルダンパー130Aの下側オイルタンク室143b内のオイルがピストン142により押圧され、第一オイルダンパー130Aの下側オイルタンク室143b内のオイルの一部を第二油圧配管151の一端から第二油圧配管151内に押し出そうとする。また、これと同時に、第二オイルダンパー130Bの上側オイルタンク室143a内のオイルがピストン142により押圧され、第二オイルダンパー130Bの下側オイルタンク室143b内のオイルの一部を第二油圧配管151の他端から第二油圧配管151内に押し出そうとする。つまり、第二油圧配管151の両端からオイルが押し込まれ、
図8(b)の実線矢印で示すように第二油圧配管151内でオイルがぶつかり合う状態となる。これにより、オイルは、第一、第二オイルダンパー130A、130Bの調圧弁144から流れとなり、調圧弁144の流量抵抗は大きく設定されているので、第一オイルダンパー130Aは圧縮側に、第二オイルダンパー130Bは伸張側に大きな減衰力が発生する。
【0035】
また、上部構造体100のロッキング動により、第一オイルダンパー130Aに対して引張力F3が作用し、第二オイルダンパー130Bに対して圧縮力F4が作用すると、第一オイルダンパー130Aのピストン142に上方向の力が作用し、第二オイルダンパー130Bのピストン142に下方向の力が作用する。このとき、第一油圧配管150の両端からオイルが押し込まれ、
図8(b)の破線矢印で示すように第一油圧配管150内でオイルがぶつかり合う状態となる。これにより、オイルは、第一、第二オイルダンパー130A、130Bの調圧弁144から流れとなり、調圧弁144の流量抵抗は大きく設定されているので、第一オイルダンパー130Aは伸張側に、第二オイルダンパー130Bは圧縮側に大きな減衰力が発生する。
上記した構成からなる3次元免震システムによれば、第一オイルダンパー130Aと第二オイルダンパー130Bが同一位相で作動する上下動振動に対しては、オイルが流量抵抗の小さい配管を小さな抵抗で流れ、位相の異なるロッキング作動に対しては、油圧配管150、151から流れず、流量抵抗の大きいピストン142の調圧弁144から流れ、高減衰を発生する。
【0036】
また、同位相の作動に対しては、減衰力の両オイルダンパーの方向は同一であり、位相差のある作動に対しては方向が逆になるので、同位相では、上下動に対する低減衰ダンパーとなり、位相差のあるロッキングに対しては、回転方向に作用する高減衰ダンパーとなる。
本実施形態の他に、第一油圧配管150及び第二油圧配管151に電磁開閉弁145を設け、通常時ロック状態で使用すると、位相差に関係なく、単なる高減衰オイルダンパーとして作動する。これにより、通常時は、風揺れ、交通振動等の各種振動に対して防振効果を発揮できる。
地震時は、緊急地震速報の情報や地震計の信号等に基づいて、開放に切り替わると、上下動作動とロッキング作動に対して、減衰力が切り替わるオイルダンパーとなる。すなわち、上下動作動には低減衰の上下動オイルダンパーとして作用し、ロッキング作動に対しては回転防止高減衰ダンパーとして作用する。
【0037】
上記した構成からなる3次元免震システムによれば、汎用品である、空気ばね31、積層ゴム51及びオイルダンパー130を用いて3次元免震システムが構築されている。
このため、免震作用の信頼性が高く、また、高圧或いは大型の特殊仕様の空気ばねを用いる必要がなく、ローコストで大容量の3次元免震システムを実現することができる。なお、積層ゴム51に代えて滑り支承や弾性滑り支承、コイルばねや油圧系等の他の汎用の水平免震機構を用いたり、空気ばね31に代えてコイルばね等の他の汎用の鉛直免震機構を用いたりしても、同様の効果を奏する。
本実施形態に係るオイルダンパー130(ロッキング動防止機構)は、
図5に示した3次元免震装置60のみならず、
図4に示した3次元免震装置60にも適用可能である。更に、
図1、
図3に夫々示した3次元免震装置1に対しても適用することができる。
なお、上記各実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記各実施形態に限定されるものでは勿論なく、たとえば以下に列挙するような様々な設計的変形や応用が可能である。
【0038】
まず、空気ばね31の設置個数は当然に任意であって、この3次元免震装置全体に要求される支持力と、使用する個々の空気ばねの支持力とから適正数を設定すれば良い。但し、いずれにしても3次元免震装置全体に対して偏心モーメントが生じることは好ましくなく、したがって空気ばね31の配置は積層ゴム51を設置した部位を中心として点対称となるようにその周囲に可及的に均等配置することとし、かつその全体としての重心位置と水平免震機構50の重心位置とを可及的に合致させるような配置とすべきである。
勿論、支持部材2、62の具体的な構成や形状、寸法は、この支持部材に要求される剛性はもとより、水平免震機構50や空気ばね31の寸法、特に空気ばね31の設置数やその配置等に対応させて適宜設計すれば良い。
上記実施形態では鉛直免震機構としての空気ばね31としてゴムベローズ31aによるベローズ型のものを用いたが、空気ばね31の形式は特に限定すべきものではなく、例えば特許文献3に開示されたようなローリングシール型の空気ばねをはじめとして各種形式の空気ばねを任意に採用可能である。
【0039】
また、空気ばね31としては上記実施形態のように補助タンク31bとオリフィス31cとによる振動減衰機能を有するものが好ましいが、上述したように空気ばね31と並列に鉛直振動減衰機構を付加することを前提とする場合、あるいは上部構造体100と下部構造体120との間に適宜の減衰機構を別途設けるような場合には、必ずしもそのような形式の空気ばねとする必要はない。
同様に、水平免震機構50としての積層ゴム51は、たとえば鉛プラグを組み込んだものや高減衰ゴムを用いたもののようにそれ自身で減衰機能を有するものが好適に採用可能であるが、水平方向の減衰機構を別途設置する場合にはその必要もない。
さらに、水平免震機構としては上記実施形態のように水平免震機構50を用いることが最も一般的であり現実的ではあるが、軽量な建物等に適用する場合には水平免震機構50に代えてより簡略な水平免震機構としてすべり支承手段や転がり支承手段を採用することも妨げるものではない。いずれにしてもそれら水平免震機構の支持力と、複数の空気ばねによる鉛直免震機構全体の支持力を可及的にバランスさせることが好ましい。
【0040】
上記実施形態のように空気ばね31の水平変形を拘束するための水平変形拘束機構35を設置することが好ましいが、その具体的な構成は任意であるし、上部構造体100の水平変位が他の手段によって自ずと拘束されるような場合には省略しても良い。
さらに、本発明の3次元免震装置は、上記実施形態のように基礎免震として下部構造体120と上部構造体(建屋)100との間に設置するのみならず、中間免震として上部構造体100の中間階に設置することも可能である。
また、上記した実施の形態では、3次元免震装置1、60の内部にオイルダンパー130が設置された構成となっているが、上部構造体100と下部構造体120との間にオイルダンパー130を介装させ、オイルダンパー130を3次元免震装置と独立させて設置することも可能である。
また、上記実施形態では、オイルダンパー130がピストンロッド141を上向きにして配置されており、シリンダー140が支持部材62に固定され、ピストンロッド141が上部構造体100側に固定されているが、これとは逆にピストンロッド141を下向きにしてオイルダンパー130を配置してもよい。
また、上記した実施の形態では、一対のオイルダンパー130A、130Bが2組設けられているが、本発明は、一対のオイルダンパー130A、130Bが1組であってもよく、或いは、一対のオイルダンパー130A、130Bが3組以上設けられていてもよい。
【0041】
以上の構成を備えた本発明の3次元免震装置によれば、支持部材と下部構造体との間に水平免震機構を固定配置し、支持部材と上部構造体との間に鉛直免震機構を固定配置したので、地震発生時に下部構造体側から入来してくる水平方向への振動エネルギーを水平免震機構が先行して低減することができる。
また、水平免震機構を配置した部位の周辺に相当する支持部材
上面に鉛直免震機構を任意の個数配置することが可能となる。
3次元免震装置を上部構造体の要所に分散配置する場合には、小面積の支持部材を用いてユニット化した構成とすることが有効である。
上部構造体の底面を広い範囲に渡って一つの3次元免震装置によりカバーする場合には、一つの大面積支持部材の下面に水平免震機構を分散配置し、各水平免震機構に対応して複数の鉛直免震機構を支持部材上面に配置する。その際、一つの水平免震機構に対応して設置する鉛直免震機構の配置個数や配置箇所を任意に種々選定することが可能となる。
【0042】
また、小面積の支持部材に対して各免震機構を組み付けたユニットタイプの3次元免震装置にあっては、想定を越えた過大な水平振動に起因した負荷曲げモーメントによる影響を受けることがあるが、広面積の一枚の支持部材を用いた場合には負荷曲げモーメントが支持部材を変形させる虞が大幅に減少する。即ち、想定を越えた過大な水平方向振動が入来した場合には、支持部材下方に位置する水平免震機構により緩衝し切れずに水平方向振動エネルギーが支持部材を介して鉛直免震機構に印加される虞があるが、このような場合であっても支持部材を広面積とすることにより負荷曲げモーメントによる影響を減殺することができる。
更に、広面積の支持部材が上部構造体の柱部分等の要所とは関係のない部位に跨って展開していることにより、免震機構設置スペースが拡大した状態にあり、柱部分とは関係のない部位に各免震機構を配置することができる。
また、支持部材下面を上向きにへこませた凹陥部を設け、この凹陥部天井面に水平免震機構を配置することにより、3次元免震装置の全高を低くすることができる。