(54)【発明の名称】新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物及びそれらを使用するα−オレフィン系重合触媒並びにα−オレフィン系共重合体の製造方法。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜3のいずれかに記載のトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物と、第8〜10族の遷移金属化合物とを反応させて得られる、α−オレフィン重合触媒。
請求項4又は5に記載のα−オレフィン重合触媒の存在下に、α−オレフィンと、(メタ)アクリル酸又はエステルとを共重合することを特徴とする、α−オレフィン・(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
請求項4又は5に記載のα−オレフィン重合触媒の存在下に、二種類の異なるα−オレフィン、(メタ)アクリル酸又はエステルの三成分を共重合することを特徴とする、α−オレフィン・(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、特定の構造を有する新規なトリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物、それらの新規な化合物が特定の金属元素に配位した触媒、それらを使用したα−オレフィン・(メタ)アクリル酸系共重合体、並びに、二種類の異なるα−オレフィンと(メタ)アクリル酸系共重合体との共重合体の製造に係るものである。
以下において、それらの新規化合物、重合触媒、重合体の構成成分(モノマー成分)、及び重合方法などについて詳細に説明する。
【0017】
1.トリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物
本発明の重合触媒において、特定の金属元素に対する配位子となる新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物は、下記の一般式(1)で示される。
【化2】
【0018】
(一般式(1)中、Yは、リン又は砒素であり、Zは、−SO
3H又はCO
2Hである。W
1〜W
8は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数1〜30のアルコキシ基、又は炭素数6〜30のアリールオキシ基からなる群より選ばれた置換基を示す。
m及びnは、各々独立して、0又は1の整数であり、
Xは、酸素原子又は窒素原子を有する置換基を示し、当該酸素原子又は窒素原子は、リン原子を第一番目として数えて第五番目又は第六番目の位置に存在している。
R
1〜R
12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜30の炭化水素基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数6〜30のアリールオキシ基、又は炭素数1〜30の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。)
【0019】
W
1〜W
8として好ましい炭素数1〜30の炭化水素基は、更に好ましくは炭素数1〜13の炭化水素基であり、好ましい具体例は、メチル基、エチル基、1−プロピル基、1−ブチル基、1−ペンチル基、1−ヘキシル基、1−ヘプチル基、1−オクチル基、1−ノニル基、1−デシル基、t−ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1−ジメチル−2−フェニルエチル基、イソプロピル基、1−ジメチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,1−ジエチルプロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、イソブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、4−ヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、2−オクチル基、3−ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、エキソ−ノルボルニル基、エンド−ノルボニル基、2−ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、5−デシル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、トリル基、キシリル基、及びp−エチルフェニル基などが挙げられる。
これらの中で、更に好ましい置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基であり、特に好ましくは、メチル基である。
【0020】
W
1〜W
8として好ましいハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基は、前述の炭素数1〜30の炭化水素基をフッ素、塩素、又は臭素で置換した置換基であり、具体的に好ましい例として、トリフルオロメチル基、又はペンタフルオロフェニル基が挙げられる。
W
1〜W
8として好ましい炭素数1〜30のアルコキシ基は、更に好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、及びt−ブトキシ基などである。これらの中で、更に好ましい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、又はイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0021】
W
1〜W
8として好ましい炭素数6〜30のアリールオキシ基は、更に好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例は、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、及び2,6−ジーt−ブチルフェノキシ基が挙げられる。これらの中で、更に好ましい置換基としては、フェノキシ基、又は2,6−ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基である。
これらのW
1〜W
8として好ましい置換基群のうち、特に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基が挙げられ、最も好ましいのは水素原子である。
【0022】
m及びnは、各々独立して、0又は1の整数を示す。置換基Xと芳香環とを結ぶスペーサー部位の存在は、後述の錯化状態での空間配置を考える上で重要であり、m及びnが0であっても、一つのメチレン鎖スペーサーが存在している。
m及びnの数によってスペーサー長が異なるが、これによりW
1〜W
8として好ましい置換基群が場合分けされる。これは、同一炭素上に結合する置換基W
1〜W
8が、二つ以上の酸素原子又は窒素原子と結合した状態、すなわち、アセタールに代表される不安定なジェミナル置換構造を避けるためである。
【0023】
m、nがそれぞれ0である場合には、W
1、W
2、W
5、W
6は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基からなる群より選ばれた置換基を示し、W
1、W
2、W
5、W
6として好ましい置換基は、前述の記載と同様である。
m、nがそれぞれ1である場合には、W
3、W
4、W
7、W
8は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基からなる群より選ばれた置換基を示し、W
1、W
2、W
5、W
6は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数1〜30のアルコキシ基、又は炭素数6〜30のアリールオキシ基からなる群より選ばれた置換基を示す。W
1〜W
8として好ましい置換基は、前述の記載と同様である。
【0024】
Xは、酸素原子又は窒素原子を有する置換基を示し、当該酸素原子又は窒素原子は、リン原子又は砒素原子を第一番目として数えて第五番目から第六番目の位置に存在している。Xは不対電子を有することが重要であり、後述の錯化状態において、Xが中心金属に配位できることが好ましい。
Xとしては具体的には例えば、CO
2R
13、COR
13、CH(NR
13)、CN、OR
13、NHR
13、N(R
13)
2等が挙げられる。ここで、R
13は、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基、アルコキシ基を有する炭素数1〜30の炭化水素基、又は炭素数1〜30の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。
上記Xで表される置換基のうち、OR
13、CO
2R
13、NHR
13、N(R
13)
2なる群より選ばれた置換基であることが好ましい。
【0025】
Xとして好ましい置換基OR
13は、更に好ましくは、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数3〜18のシロキシ基である。
好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−(ジメチルアミノ)フェノキシ基、3,5−ジメチルフェノキシ基、ヘキサフルオロフェノキシ基、(2’−メトキシ)エトキシ基、(2’−フェノキシ)エトキシ基、トリメチルシロキシ基、ジメチルフェニルシロキシ基、ジフェニルメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基であり、更に好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、t−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0026】
Xとして好ましい置換基CO
2R
13は、さらに好ましくは炭素数1〜10のエステル基である。好ましい具体例は、メチルエステル基、エチルエステル基、プロピルエステル基、イソプロピルエステル基、ブチルエステル基、t−ブチルエステル基、フェニルエステル基、4−メチルフェニルエステル基、4−メトキシフェニルエステル基、4−(ジメチルアミノ)フェニルエステル基、3,5−ジメチルフェニルエステル基であり、更に好ましくは、メチルエステル基、エチルエステル基、ターシャリーブチルエステル基であり、特に好ましくは、メチルエステル基である。
【0027】
Xとして好ましい置換基NHR
13は、更に好ましくは炭素数1〜18のアミノ基である。好ましい具体例は、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基、フェニルアミノ基、4−メチルフェニルアミノ基、4−メトキシフェニルアミノ基、4−(ジメチルアミノ)フェニルアミノ基、3,5−ジメチルフェニルアミノ基、トリメチルシリルアミノ基、ジメチルフェニルシリルアミノ基、ジフェニルメチルシリルアミノ基、トリフェニルシリルアミノ基であり、更に好ましくは、メチルアミノ基、エチルアミノ基、t−ブチルアミノ基であり、特に好ましくは、メチルアミノ基、エチルアミノ基である。
【0028】
Xとして好ましい置換基N(R
13)
2は、更に好ましくは炭素数1〜16のアミノ基である。好ましい具体例は、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジ(4−メチルフェニル)アミノ基、ジ(4−メトキシフェニル)アミノ基、ジ(4−(ジメチルアミノ)フェニル)アミノ基、ジ(3,5−ジメチルフェニル)アミノ基、ピリジル基、ピロピジル基、ピペリジニル基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基、4−ジメチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基であり、更に好ましくは、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ピリジル基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基であり、特に好ましくは、ジエチルアミノ基、ピリジル基である。
【0029】
R
1〜R
12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜 30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜30の炭化水素基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数6〜30のアリールオキシ基、又は炭素数1〜30の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。これらの置換基は、錯体形成時に中心金属から比較的離れた部位の置換基であるため、配位子の錯体形成に悪影響を与えない置換基であればよい。これらの置換基は同一でも異なってもよい。
【0030】
R
1〜R
12として好ましいハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが挙げられる。
R
1〜R
12として好ましい炭素数1〜30の炭化水素基としては、好ましくは例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基が挙げられる。
ここで、アルキル基、シクロアルキル基の例は、メチル基、エチル基、1−プロピル基、1−ブチル基、1−ペンチル基、1−ヘキシル基、1−ヘプチル基、1−オクチル基、1−ノニル基、1−デシル基、t−ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1−ジメチル−2−フェニルエチル基、イソプロピル基、1−ジメチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,1−ジエチルプロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、イソブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、4−ヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、2−オクチル基、3−ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、エキソ−ノルボルニル基、エンド−ノルボニル基、2−ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、及び5−デシル基などが挙げられる。
これらの中で、好ましい置換基としては、メチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基である。
【0031】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基、シンナミル基、スチリル基が挙げられ、好ましくは、シクロヘキセニル基である。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基が挙げられ、これらのアリール基の芳香環に存在させうる置換基の例としては、アルキル基、アリール基、融合アリール基、フェニルシクロヘキシル基、フェニルブテニル基、トリル基、キシリル基、p−エチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基が挙げられる。
これらの中で、好ましい置換基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基である。
【0032】
R
1〜R
12として好ましいハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基は、更に好ましくは前述の炭素数1〜30の炭化水素基をフッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子で置換した置換基である。
R
1〜R
12として好ましいアルコキシ基で置換された炭素数2〜30の炭化水素基は、更に好ましくは前述の炭素数1〜30の炭化水素基をメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、又はt−ブトキシ基で置換した置換基であり、更に好ましくはメトキシ基又はエトキシ基で置換された炭素数1〜6の炭化水素基である。具体的には、1−(メトキシメチル)エチル基、1−(エトキシメチル)エチル基、1−(フェノキシメチル)エチル基、1−(メトキシエチル)エチル基、1−(エトキシエチル)エチル基、1−(ジメチルアミノメチル)エチル基、1−(ジエチルアミノメチル)エチル基、ジ(メトキシメチル)メチル基、ジ(エトキシメチル)メチル基、ジ(フェノキシメチル)メチル基が挙げられる。
特に好ましくは、1−(メトキシメチル)エチル基、1−(エトキシメチル)エチル基である。
【0033】
R
1〜R
12として好ましい炭素数1〜30のアルコキシ基は、更に好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、及びt−ブトキシ基などである。これらの中で、更に好ましい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、又はイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基が挙げられる。
R
1〜R
12として好ましい炭素数6〜30のアリールオキシ基は、さらに好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基である。好ましい具体例は、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、及び2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ基である。
これらの中で、更に好ましい置換基としては、フェノキシ基、又は2,6−ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基である。
【0034】
R
1〜R
12として好ましい炭素数1〜30の炭化水素基で置換されたシリル基は、更に好ましくは炭素数3〜18のシリル基であり、好ましい具体例は、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリプロピルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリブチルシリル基、トリヘキシルシリル基、シクロヘキシルジメチルシリル基、トリベンジルシリル基が挙げられる。
特に好ましくは、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基である。
【0035】
これらのR
1〜R
12として好ましい置換基群のうち、更に好ましくは、水素原子、メチル基、イソプロピル基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0036】
Zは、−SO
3H基、又は、CO
2H基である。本発明の配位子はキレート性又は潜在的キレート性であると考えられる(式2)。例えば、一般に、−SO
3H基を有する配位子はパラジウムと錯形成してキレート状の金属錯体となることが報告され(非特許文献3)、−CO
2H基を有する配位子はニッケルと錯形成してキレート状金属錯体となることが報告されている(非特許文献4を参照)。
【化3】
本発明において見いだされた、置換基Xの存在によって触媒活性が向上する効果は、その原因は必ずしも明確でないが、錯化状態において置換基Xと中心金属とが空間的に接近することにより、置換基Xの不対電子と、中心金属のアピカル(軸)方向の空軌道(dz2)とが相互作用し、中心金属の電子密度調整や触媒構造安定化に寄与していると考えている。
【0037】
【化4】
例として(式3)に、Yがリン原子、W
1〜W
8が水素原子、R
1〜R
12が水素原子、Xがメトキシ基である場合の構造を示した。添字は、リン原子から数えた場合の番号を示している。ここで、メトキシ基である置換基Xの酸素原子は、リン原子から数えて第六番目に位置しており、中心金属(M)と相互作用して七員環構造を形成している。このように、置換基Xの酸素原子又は窒素原子の空間配置を適切に制御することが重要であり、リン原子から数えて第五番目又は第六番目に位置して中心金属と相互作用することが好ましいと考えている。
【0038】
2.トリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物の合成
第一の発明としての、新規なトリアリールホスフィン化合物の合成は以下の経路により行われる。
ホスフィン化合物の合成経路は、いくつか知られているが、そのうちの具体例として、原料である三塩化リンに導入すべきアリール基のリチオ体(アリールリチウム塩)を適切なモル比で反応させる経路が利用される。反応後は、酸性条件で抽出した後、洗浄して目的物を得ることができる。トリアリールアルシン化合物の合成も同様になされる。
【0039】
3.重合触媒の合成
本発明の重合触媒は、一般式(1)で表される新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物と、第8〜10族の遷移金属化合物とを反応させて得られるα−オレフィン(共)重合触媒である。(なお、本願明細書においては長周期型周期律表を使用している。)
触媒組成物の合成は、一般に、第8〜10族の遷移金属化合物と配位子とを溶液又はスラリー中で接触して行う。遷移金属化合物として好ましくは、10族の遷移金属化合物であり、例えば、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アリルパラジウムクロライド)、塩化パラジウム、臭化パラジウム、(シクロオクタジエン)パラジウム(メチル)クロライド、ジメチル(テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム、ビス(シクロオクタジエン)ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、(テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル(メチル)クロライド、ジメチル(テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル、(シクロオクタジエン)ニッケル(メチル)クロライドなどを使用して合成する。
【0040】
錯形成反応は、α−オレフィンとの共重合に使用する反応器中で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。錯形成後に、金属錯体を単離抽出して触媒に用いてもよいし、単離せずに触媒に用いてもよい。更に、後述する多孔質担体の存在下に実施することも可能である。また、本発明の触媒組成物は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種の触媒組成物を併用してもよい。特に、分子量分布やコモノマー含量分布を広げる目的には、こうした複数種の触媒組成物の併用が有用である。
【0041】
4.重合触媒の使用態様
本発明の重合触媒は、単独で用いてもよく、また担体に担持して用いることもできる。使用可能な担体としては、本発明の主旨を損なわない限りにおいて、任意の担体を用いることができる。
一般に、無機酸化物やポリマー担体が好適に使用できる。具体的には、SiO
2、Al
2O
3、MgO、ZrO
2、TiO
2、B
2O
3、CaO、ZnO、BaO、ThO
2など又はこれらの混合物が挙げられ、SiO
2−Al
2O
3、SiO
2−V
2O
5、SiO
2−TiO
2、SiO
2−MgO、SiO
2−Cr
2O
3などの混合酸化物も使用することができ、無機ケイ酸塩、ポリエチレン担体、ポリプロピレン担体、ポリスチレン担体、ポリアクリル酸担体、ポリメタクリル酸担体、ポリアクリル酸エステル担体、ポリエステル担体、ポリアミド担体、ポリイミド担体なども使用可能である。
これらの担体については、粒径、粒径分布、細孔容積、比表面積などに特に制限はなく、任意のものが使用可能である。
【0042】
上記の無機ケイ酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土などが使用可能である。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。
粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイトなどのカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイトなどのハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライトなどの蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群などが挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。
人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトなどが挙げられる。
【0043】
これら具体例のうち好ましくは、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイトなどのカオリン族、メタハロサイト、ハロサイトなどのハロサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライトなどの蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト、バーミキュライトなどのバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられる。
これらの担体は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸などによる酸処理及び/又は、LiCl、NaCl、KCl、CaCl
2、MgCl
2、Li
2SO
4、MgSO
4、ZnSO
4、Ti(SO
4)
2、Zr(SO
4)
2、Al
2(SO
4)
3などの塩類処理を行ってもよい。該処理において、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよく、また粉砕や造粒などの形状制御や乾燥処理を行ってもよい。
【0044】
5.使用モノマー
共重合体の製造に用いられるモノマーとしては、以下に説明するα−オレフィン、(メタ)アクリル酸系オレフィン、その他オレフィンが挙げられる。
(a)α−オレフィン
本発明に用いられるモノマーの一つは、一般式CH
2=CHR
14で表されるα−オレフィン(以下、「(a)成分」と称することがある)である。ここで、R
14は、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。
なかでも、好ましい(a)成分として、炭素数1〜10のR
14を有するα−オレフィンが挙げられる。更に好ましい(a)成分としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。なお、単独の(a)成分を使用してもよいし、複数の(a)成分を併用してもよい。
【0045】
(b)(メタ)アクリル酸系オレフィン
本発明に用いられるモノマーの別の一つは、(メタ)アクリル酸、又は、一般式CH
2=C(R
15)CO
2(R
16)で表される(メタ)アクリル酸エステルである(以下、「(b)成分」と称することがある)。ここで、R
15は、水素又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有していてもよい。R
16は、水素又は炭素数1〜30のアルキル基である。更に、R
16内の任意の位置に酸素原子又は窒素原子を含有していてもよい。
【0046】
好ましい(b)成分として、炭素数1〜5のR
15を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸が挙げられる。より好ましい(b)成分としては、R
15がメチル基であるメタクリル酸エステル又はR
15が水素であるアクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸が挙げられる。更に好ましい(b)成分としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸などが挙げられる。なお、単独の(b)成分を使用してもよいし、複数の(b)成分を併用してもよい。
【0047】
(c)その他オレフィン
本発明に用いてもよいモノマーの別の一つは、その他オレフィンである(以下、「(c)成分」と称することがある)。
好ましい(c)成分として、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネンなどの環状オレフィンモノマー、p−メチルスチレンなどのスチレン系モノマーなどを挙げることができ、これらの骨格に、水酸基、アルコキサイド基、カルボン酸基、エステル基、アルデヒド基を含有してもよい。
ノルボルネン系オレフィンは、シクロペンタジエンを使用するディールスアルダー反応([4+2]シクロ付加)で作ることができる。使用するジエノフィルは例えば、ジエチルアゾジカルボキシレート、アルデヒド、マレイン酸無水物、ジヒドロフラン、ビニルピリジン、アルキルアクリレート又は上記の置換オレフィンである(T.L.Gilchrist,”Heterocyclic Chemistry”,1985,4.3.3章を参照)。これらのモノマーは、下記式(4a)〜(4f)で表すことができる。ここで、R
17は、炭素数1〜30の炭化水素基であり、分岐、環、又は不飽和結合を有していてもよい。
更に、(a)成分で規定されたモノマーに、水酸基、アルコキサイド基、カルボン酸基、エステル基、アルデヒド基などを付与したモノマーでもよく、その他、ジエン誘導体、無水マレイン酸、酢酸ビニルなども使用可能である。
【0049】
6.共重合反応
本発明における共重合反応は、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素溶媒や液化α−オレフィンなどの液体、また、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、ホルミルアミド、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなどのような極性溶媒の存在下或いは非存在下に行われる。また、ここで記載した液体化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。なお、高い重合活性や高い分子量を得るうえでは、上述の炭化水素溶媒がより好ましい。
【0050】
本発明における共重合に際して、公知の添加剤の存在下又は非存在下で共重合を行うことができる。添加剤としては、ラジカル重合禁止剤や、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤が好ましい。例えば、キノン誘導体やヒンダードフェノール誘導体などが好ましい添加剤の例として挙げられる。
具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノンや、2,6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物などが使用可能である。
また、添加剤として、無機及び又は有機フィラーを使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行ってもよい。
【0051】
本発明において、重合形式に特に制限はない。媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、又は、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが好ましく用いられる。また、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。
未反応モノマーや媒体は、生成共重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。リサイクルの際、これらのモノマーや媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成共重合体と未反応モノマー及び媒体との分離には、従来の公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
【0052】
共重合温度、共重合圧力及び共重合時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。
即ち、共重合温度は、通常−20℃から290℃、好ましくは0℃から250℃、共重合圧力は、0.1MPaから100MPa、好ましくは、0.3MPaから90MPa、共重合時間は、0.1分から10時間、好ましくは、0.5分から7時間、更に好ましくは1分から6時間の範囲から選ぶことができる。
本発明において、共重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン雰囲気が使用でき、窒素雰囲気が好ましく使用される。なお、少量の酸素や空気の混入があってもよい。
【0053】
共重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給法をとることができる。例えばバッチ重合の場合、予め所定量のモノマーを共重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を共重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を共重合反応器に連続的に、又は間歇的に供給し、共重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0054】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法が挙げられる。
共重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。即ち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、遷移金属錯体中の配位子構造の制御により分子量を制御するなどが挙げられる。
【0055】
連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素、メタルアルキルなどを使用することができる。また、(b)又は(c)成分自身が一種の連鎖移動剤となる場合には、(b)又は(c)成分の濃度や、(a)成分に対する比率を制御することによっても分子量調節が可能である。
遷移金属錯体中の配位子構造を制御して分子量調節を行う場合には、金属Mのまわりに嵩高い置換基を配置したり、金属Mにアリール基や酸素原子含有置換基などの電子供与性基が相互作用可能となるように配置したり、前記したR
15〜R
17中に酸素原子を導入することにより、一般に分子量が向上する傾向を利用することができる。
【実施例】
【0056】
以下に本発明を実施例及び比較例によって、更に具体的に説明し、好適な各実施例のデータ及び各実施例と各比較例の対照により、本発明の構成の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を実証する。なお、実施例と比較例で用いた配位子の構造を表1に示した。
【0057】
【表1】
また、実施例では、以下の略号を使用した。Pd(dba)2:ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム MA:メチルアクリレート tBA:ターシャリーブチルアクリレート AA:アクリリックアシッド VA:ビニルアセテート
【0058】
1.評価方法
(1)分子量及び分子量分布(Mw、Mn、Q値)
(測定条件)使用機種:ウォーターズ社製150C 検出器:FOXBORO社製MIRAN1A・IR検出器(測定波長:3.42μm) 測定温度:140℃ 溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB) カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本) 流速:1.0mL/分 注入量:0.2mL
(試料の調製)試料はODCB(0.5mg/mLのBHT(2,6−ジ−t−
ブチル−4−メチルフェノール)を含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させた。
(分子量の算出)標準ポリスチレン法により行い、保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行った。
使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー社製の銘柄である、F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000を使用した。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成した。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いた。分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×M
αは以下の数値を用いた。
PS:K=1.38×10
−4、α=0.7
PE:K=3.92×10
−4、α=0.733
PP:K=1.03×10
−4、α=0.78
【0059】
(2)融点(Tm)
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200示差走査熱量測定装置を使用して、シート状にしたサンプル片を5mgアルミパンに詰め、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で20℃まで降温して結晶化させた後に、10℃/分で200℃まで昇温することにより融解曲線を得た。
融解曲線を得るために行った最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点Tmとし、該ピークのピーク面積をΔHmとした。
【0060】
(3)コモノマー含量
コモノマー含量の定量は約0.5mmのプレス板を作製し、島津製作所FTIR−8300型を用いて、赤外吸収スペクトルを得た。コモノマー含量は、3450cm
−1付近のカルボニル基の倍音吸収と、4250cm
−1付近のオレフィン吸収の赤外吸収強度比をもとに算出した。なお、算出に当たっては、
13C−NMR測定により作成した検量線を使用した。
【0061】
2.配位子合成
下記の合成例で得られた配位子を用いた。なお、以下の合成例で特に断りのない限り、操作は精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は脱水・脱酸素したものを用いた。
(合成例1)配位子(I)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(2.4g,15mmol)のテトラヒドロフラン(40mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,12mL,30mmol)を−78℃でゆっくりと滴下した後、三塩化リン(1.3mL,15mmol)を加え、−78℃で2時間撹拌した(反応液A)。
マグネシウム(1.3g,54mmol)のテトラヒドロフラン(50mL)懸濁溶液に、1−ブロモ−2−(メトキシメチル)ベンゼン(9g,45mmol)を室温で加えて、一晩撹拌した。この溶液を、先ほどの反応液Aに−78℃で滴下し、一晩撹拌した。反応後、水(100mL)を加え、1N塩酸(20mL×2)で洗浄した後、酢酸エチルで抽出した。更に、水(100mL×3)で抽出した後、水を留去した。更に、塩化メチレン(100mL×3)で抽出した後、溶媒を留去した。メタノール(5mL)で洗浄し、白色の目的物を1.2g得た。1H NMR (CDCl3, ppm/d): 8.30 (m, 1 H), 7.67 (t, J = 7.2 Hz, 1 H), 7.56 (t, J = 7.6 Hz, 2 H), 7.4-7.3 (m, 5 H), 7.13 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.09 (dd, J = 4.4, 7.2 Hz, 1 H), 7.05 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 4.72 (d, J = 12.4 Hz, 2 H), 4.41 (d, J = 12.4 Hz, 2 H), 2.96 (s, 6 H). 31P NMR (CDCl3, ppm/d): -1.3.
【0062】
(合成例2)配位子(II)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(500mg,3.2mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,12.5mL,6.3mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら1時間撹拌した。反応液を−78℃まで冷却し、三塩化リン(430mg,3.2mmol)を加え、2時間撹拌した(反応液B)。
マグネシウム(182mg,7.6mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)懸濁溶液に、1−ブロモ−2−(2’−メトキシエチル)ベンゼン(1.35g,6.3mmol)を室温で加えて、1時間撹拌した。この溶液を、先ほどの反応液Bに−78℃で滴下し、室温で一晩撹拌した。反応後、水(10mL)を加え、1N塩酸(20mL×2)で洗浄し、塩化メチレン(20mL×3)で抽出した後、溶媒を留去した。テトラヒドロフランで再結晶化後、塩化メチレンで抽出した後、溶媒を留去し、白色の目的物を640mg得た。1H NMR (CDCl3, ppm/d): 8.28 (m, 1 H), 7.68 (t, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.58 (tt, J = 1.6, 7.6 Hz, 2 H), 7.45 (t, J = 7.6 Hz, 2 H), 7.39 (m, 1 H), 7.30 (ddt, J = 1.2, 2.8, 8.0 Hz, 2 H), 7.12 (dd, J = 1.2, 8.0 Hz, 1 H), 7.09 (dd, J = 1.2, 7.6 Hz, 1 H), 7.04 (dd, J = 0.8, 7.6 Hz, 1 H), 3.61 (m, 2 H), 3.40 (m, 2 H), 3.19 (m, 2 H), 2.95 (s, 6 H), 2.83 (td, J = 4.8, 14.8 Hz, 1 H). 31P NMR (CDCl3, ppm/d): -8.9.
【0063】
(合成例3)配位子(III)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(0.8g,5.1mmol)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,4.0mL,10.2mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら1時間撹拌した。反応液を−78℃まで冷却し、三塩化リン(0.4mL,5.1mmol)を加え、2時間撹拌した(反応液C)。
マグネシウム(0.3g,13.5mmol)を、テトラヒドロフラン(10mL)溶液に加え、1−ブロモ−2−(t−ブトキシメチル)ベンゼン(2.5g,10.2mmol)を室温で滴下し、2時間撹拌した。この溶液を、先ほどの反応液Cに−78℃で滴下し、室温で一晩撹拌した。水を加え、塩酸を加えて酸性にした(PH<3)。塩化メチレン抽出し、硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。酢酸エチルで再結晶化することにより、白色の目的物1gを得た。1H NMR (CDCl3, ppm/d): 8.34 (dd, J = 4.8, 7.2 Hz, 1 H), 7.74 (dd, J = 7.2, 7.6 Hz, 1 H), 7.63 (dd, J = 7.2, 7.6 Hz, 2 H), 7.56 (m, 2 H), 7.44 (m, 1 H), 7.36 (m, 2 H), 7.19-7.12 (m, 3 H), 4.84 (br, 2 H), 4.42 (d, J = 12.0 Hz, 2 H), 0.98 (s, 18 H). 31P NMR (CDCl3, ppm/d): -4.1.
【0064】
(合成例4)配位子(IV)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(5.2g,32.9mmol)のテトラヒドロフラン(60mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,25mL,62mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら20時間撹拌した。この反応液に、ビス(2−メトキシフェニル)メトキシホスフィン(9.1g,32.9mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液を滴下し、16時間撹拌した。塩化アンモニウム(3.4g,62mmol)を加えた後、溶媒を留去し、水(100mL)を加えた。MTBE(40mL×2)で洗浄した後、塩酸を加えて酸性にした(PH<3)。塩化メチレン抽出し(60mL×2)、硫酸ナトリウムにより乾燥した後、−35℃で再結晶化し、白色の目的物を3.7g得た。
1H NMR (C2D2Cl4, ppm/d): 6.7-8.2 (m, 12H), 3.79 (s, 6H). 31P NMR (C2D2Cl4, ppm/d): -9.8.
【0065】
(合成例5)配位子(V)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(0.74g,4.7mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,3.8mL,9.4mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら2時間撹拌した。反応液を−78℃まで冷却し、三塩化リン(0.41mL,4.7mmol)を加え、室温で2時間撹拌した(反応液F)。
1−ブロモ−2−(2’,6’−ジメトキシフェニル)ベンゼン(2.8g,9.4mmol)のテトラヒドロフラン(25mL)溶液に、t−ブチルリチウムヘキサン溶液(1.5M,12.5mL,18.8mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、30分間撹拌した。この溶液を、先ほどの反応液Fに−50℃で滴下し、室温で一晩撹拌した。溶媒を留去した後、水(200mL)を加え、塩酸を加えて酸性にした(PH<3)。MTBE抽出し(100mL×3)、硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。THF(5mL)で洗浄し、白色の目的物を0.5g得た。
1H NMR (CDCl3, ppm/d): 8.08 (m, 1 H), 7.61 (m, 3 H), 7.42-7.12 (m, 10 H), 6.68-6.22 (br, 4 H), 3.84-3.31 (br, 9 H), 2.96 (br, 3 H). 31P NMR (CDCl3, ppm/d): -2.4.
【0066】
(合成例6)配位子(VI)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(3.7g,23.6mmol)のテトラヒドロフラン(100mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,19mL,47.2mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら1時間撹拌した。反応液を−78℃まで冷却し、三塩化リン(2mL,23.6mmol)を加え、−78℃で2時間撹拌した(反応液G)。
1−ブロモ−2−ブチルベンゼン(10g,47.2mmol)のテトラヒドロフラン(100mL)溶液に、t−ブチルリチウムヘキサン溶液(60mL,94.3mmol)を−78℃℃でゆっくりと滴下し、1時間撹拌した。この溶液を、先ほどの反応液Gに室温で滴下し、一晩撹拌した。溶媒を留去した後、水を加え、塩酸を加えて酸性にした(PH<3)。塩化メチレンで抽出し(100mL×3)、硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィー(塩化メチレン:メタノール=100:1)で精製し、白色の目的物を0.6g得た。1H NMR (CDCl3, ppm/d): 8.33 (m, 1 H), 7.74 (t, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.42 (t, J = 6.4 Hz, 2 H), 7.28 (m, 3 H), 7.06 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.00 (d, J = 8.0 Hz, 1 H), 2.66 (m, 4 H), 1.46 (m, 4 H), 1.21 (m, 4 H), 0.73 (t, J = 7.2 Hz, 6 H). 31P NMR (CDCl3, ppm/d): -9.6.
【0067】
3.重合
3−1.(実施例1)(比較例1)
充分に窒素置換した30mLフラスコに、パラジウムビスジベンジリデンアセトンとリンスルホン酸配位子をそれぞれ100マイクロモル秤量し、脱水トルエン(10mL)を加えた後、これを超音波振動機にて10分間処理することで、触媒スラリーを調製した。次に、内容積1Lの誘導撹拌式ステンレス製オートクレーブ内を精製窒素で置換し、精製トルエン(617mL)、メチルアクリレート(72mL,重合時の濃度が1mol/Lになるように調整)を精製窒素雰囲気下にオートクレーブ内に導入した。先に調製した触媒溶液を添加し、室温下、エチレン圧を3MPaとして重合を開始した。反応中は温度を80℃に保ち、エチレンの分圧が3MPaに保持されるように連続的にエチレンを供給した。
重合終了後、エチレンをパージし、オートクレーブを室温まで冷却し、得られたポリマーがトルエン不溶の固体である場合には、濾過によりポリマーと溶媒を分離した。濾過では分離が不十分な場合には、エタノール(1L)を用いてポリマーを再沈させ、沈殿したポリマーを濾過した。更に、得られた固形ポリマーをエタノール(1L)に分散させ、ここに1N−塩酸(20ml)を加えて60分撹拌し、ポリマーを濾過した。得られた固形ポリマーをエタノールで洗浄し、60℃で3時間減圧乾燥することで、最終的にポリマーを回収した。それぞれの重合結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
3−2.(実施例2,3)(比較例2)
(ビスジベンジリデンアセトン)パラジウムとリンスルホン酸配位子のスラリーを別々に用意し、超音波振動器にて処理した後、混合して室温で15分間撹拌することで、0.0025〜0.002mol/Lの触媒スラリーを調製した。内容積10mLの誘導撹拌式ステンレス製オートクレーブ内を精製窒素で置換し、精製トルエン、所定量のコモノマーを導入した。昇温後、エチレンで加圧して2MPaとした後、先に調製した触媒スラリーを所定量添加して、重合を開始した。なお、重合時の液総量は5mLになるように調製した。反応中は温度を一定に保ち、エチレンの分圧が2MPaに保持されるように連続的にエチレンを供給した。60分後に、未反応のエチレンをパージ後、オートクレーブを室温まで冷却し、得られたポリマーを濾過により回収し、40℃で6時間減圧乾燥した。重合結果を表3、表4に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
4.実施例と比較例の結果の考察
実施例1(表2)では、エチレン/メチルアクリレート共重合において、本発明による触媒組成物を用いることで、公知技術(従来の配位子)である比較例1−1及び1−2よりも高い触媒活性を発現できることを明らかにした。また、比較例1−3において、置換基Xの存在しないリンスルホン酸を用いた場合には、その触媒活性が低いことを明らかにした。
実施例2(表3)では、エチレン/メチルアクリレート共重合において、本発明による触媒組成物を用いることで、公知技術(従来の配位子)である比較例よりも高い触媒活性を発現できることを明らかにした。
実施例3(表4)では、本発明による触媒組成物を用いることで、多様なコモノマー共重合体も製造可能であることを示した。
また、各実施例においては、各比較例と対照して、触媒活性と分子量及び極性基含有モノマーの共重合率のいずれもがバランスして高められている。
なお、ヘテロ原子を有する置換基Xは、錯形成時に、中心金属のアピカル(軸)方向の空軌道(dz2)と相互作用することが肝要であると考えられ、置換基Xの空間配置が適切になるように触媒設計する必要があり、このために、W
1〜W
8、m及びnの選択が重要であることが実施例において理解される。