特許第5666834号(P5666834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666834
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ルーズトップタイプの穴あけ工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20150122BHJP
【FI】
   B23B51/00 T
【請求項の数】22
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-142832(P2010-142832)
(22)【出願日】2010年6月23日
(65)【公開番号】特開2011-5630(P2011-5630A)
(43)【公開日】2011年1月13日
【審査請求日】2013年4月23日
(31)【優先権主張番号】0900847-5
(32)【優先日】2009年6月23日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ヘレナ ペーベル
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−167871(JP,A)
【文献】 特表2004−527391(JP,A)
【文献】 特表2002−501441(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0116920(US,A1)
【文献】 特表2008−500195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
B23C 5/10
B23C 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り屑除去機械加工のための穴あけ工具であって、
前端と後端(4,5)を有する基体(1)であって、前端と後端(4,5)の間に第1の中心軸(C1)が延伸し、第1の中心軸(C1)の回りで与えられた回転方向(R)に回転できる基体(1)と、
前端と後端(10,111)を有するルーズトップ(2)であって、前端と後端(10,111)の間に第2の中心軸(C2)が延伸し、前端(10)がひとつ以上の切れ刃(3)を有するルーズトップ(2)と、を備え、
基体(1)の前端(4)は、軸方向に突出し周縁に位置する二つのブランチ(15)の間にジョー(14)を有し、ブランチは弾性的に曲がることができ、一方において、ブランチ(15)の内側支持面(17)がルーズトップ(2)の外側接触面(23)に弾力的に押しつけられることによってルーズトップ(2)をジョー(14)に弾力的にクランプし、他方において、ブランチの接線方向支持面(19)と協働動作するルーズトップの接線方向接触面(44)を介してトルクをルーズトップに伝達し、
個々のブランチ(15)の内側支持面(17)は、接線方向に分離した第1及び第2の側方境界線(51,52)の間に延び、工具の回転でその第1側方境界線(51)が先行し、第2側方境界線(52)が後行し、
個々の外側接触面(23)は第1及び第2の側方境界線(35,36)の間に延び、回転方向で後行する第2の側方境界線(36)は後行する部分の面(41)のエッジ(40)に含まれ、
ルーズトップ(2)はジョー(14)に軸方向に挿入可能であり、ブランチ(15)に対して回して着脱自在に取り付けることができる穴あけ工具において、
ルーズトップ(2)の中心軸(C2)に垂直で、二つの外側接触面(23)の前記エッジ(40)の前端点(40a)の間に延びる第2の直径を通る線分(DL2)は、ブランチ(15)がルーズトップ(2)から力を受けていないときで、内側支持面(17)の間の最短距離を延びる第1の直径を通る線分(DL1)より長く、第1の直径を通る線分(DL1)の対向する端点(Ea,Eb)が、それぞれの内側支持面(17)の第1の側方境界線(51)及び第2の側方境界線(52)から接線方向に所定距離離れて位置し
前記二つのブランチ(15)の間に前記ルーズトップ(2)を係合させた状態で、前記ブランチ(15)による最大のクランプ力を生ずる予め定められた中間ポジション(P3)まで前記ルーズトップ(2)を回すと、前記エッジ(40)によって順次増加する前記ブランチ(15)の曲がりが生じ、その後最終ポジション(P4)に達するまで前記ルーズトップ(2)を更に回す間、クランプ力は減少し、前記中間ポジション(P3)から前記最終ポジション(P4)までの最終段階の回動運動で、前記ブランチ(15)によるクランプ力が前記ルーズトップ(2)を前記最終ポジション(P4)まで移動させることを助けることを特徴とする、穴あけ工具。
【請求項2】
ブランチ(15)の内側支持面(17)の間の最短の第1の直径を通る線分(DL1)の端点(Ea,Eb)が、回転方向で後行する内側支持面(17)の第2の側方境界線(52)に、回転方向で先行する第1の側方境界線(51)より近くに位置していることを特徴とする、請求項1に記載の穴あけ工具。
【請求項3】
ルーズトップ(2)の二つの外側接触面(23)が、中間面(46)を介して、第2の直径を通る線分(DL2)より短い直径を有する第2の円(S2)によって定められ、回転対称な形を有する軸方向背後にある一対の外側ガイド面(45)に移行し、ブランチ(15)が、内側支持面(17)の軸方向背後にあり、円(S2)の直径より長く、第1の直径を通る線分(DL1)より短い直径(D1)を有する第1の円(S1)によって定められ、回転対称な形を有する一対の協働動作する内側ガイド面(48)を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の穴あけ工具。
【請求項4】
外側及び内側ガイド面(45,48)が円筒状であり、それぞれが、ルーズトップ及び基体の中心軸(C2,C1)と同心であることを特徴とする、請求項3に記載の穴あけ工具。
【請求項5】
ルーズトップ(2)の個々の外側接触面(23)が少なくとも部分的に平面であり、ルーズトップの第2の直径を通る線分(DL2)と鋭角(β)をなし、個々のブランチ(15)の協働動作する内側支持面(17)は平面であり、外側接触面(23)と内側支持面(17)との面接触を可能にすることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項6】
個々の外側接触面(23)が二つの面部分を含み、
第1の面部分(23a)は回転で第2の面部分(23b)の回転方向後方に位置すると共にエッジ(40)を含み、
第2の面部分(23b)は断面が凸のアーチ状になっており、回転方向後方に位置する第1の面部分(17a)と共に個々のブランチの内側支持面(17)に含まれる凹のアーチ状になっている第2の面部分(17b)と協働動作することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項7】
ルーズトップの外側接触面(23)の第2の面部分(23b)及びブランチの内側支持面(17)の第2の面部分(17b)が、部分円筒状の形を有することを特徴とする、請求項6に記載の穴あけ工具。
【請求項8】
第2の直径を通る線分(DL2)と個々の外側接触面(23)の間の角度(β)が大きくても88°であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項9】
角度(β)が少なくとも75°であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項10】
角度(β)が80-86°の範囲内にあることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項11】
ルーズトップの二つの外側接触面(23)が、後端(111)から前端(11)に向かって、拡がり角(α)で拡がっていることを特徴とする、請求項5〜10のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項12】
拡がり角(α)が少なくとも0.20°であることを特徴とする、請求項11に記載の穴あけ工具。
【請求項13】
拡がり角(α)が大きくても3°であることを特徴とする、請求項11又は12に記載の穴あけ工具。
【請求項14】
拡がり角(α)が0.60-1.20°の範囲内にあることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項15】
ブランチ(15)の二つの内側支持面(17)が、ブランチ(15)がルーズトップ(2)から力を受けていないときで、互いに対して、かつ、基体の中心軸(C1)に対して平行に延びていることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項16】
ルーズトップ(2)の個々の外側接触面(23)に沿った個々のエッジ(40)が真っ直ぐであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項17】
個々の外側接触面(23)に沿った個々のエッジ(40)が、外側接触面(23)と、外側接触面に接続する接続面(41)との間でアールの形態で移行することを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項18】
ルーズトップ(2)の個々の外側接触面(23)と、エッジ(40)に沿って外側接触面に接続する接続面(41)とが、互いに鈍角(γ)をなすことを特徴とする、請求項1〜17のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項19】
外側接触面(23)が、ルーズトップ(2)の前端(10)に含まれ、切り屑除去する切れ刃(3)に続く少なくともひとつの逃げ面(25,28)から後方へ延びていることを特徴とする、請求項1〜18のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項20】
基体(1)とルーズトップ(2)が協働動作するロック手段を含み、ルーズトップがジョーから意図せずに軸方向に抜け出すことを防ぐことを特徴とする、請求項1〜19のいずれか1項に記載の穴あけ工具。
【請求項21】
ロック手段が、個々のブランチ(15)の後端に凹設された座(54)を含み、ルーズトップ(2)の軸方向接触面(11)に隣接して位置する雄部材(55)が座(54)に挿入可能であることを特徴とする、請求項20に記載の穴あけ工具。
【請求項22】
座はブランチ(15)の接線方向支持面(19)の背後に位置する樋(54)であり、雄部材はルーズトップの接線方向接触面(44)の背後に位置する隆起(55)であることを特徴とする、請求項21に記載の穴あけ工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り屑除去機械加工のための穴あけ工具であって、一方において、前端と後端を有しその間に第1の中心軸が延伸する基体(basic body)であって、基体がその中心軸のまわりで与えられた回転方向に回転できる基体を含み、他方において、前端と後端を含みその間に第2の中心軸が延伸しており、前端がひとつ以上の切れ刃を含むルーズトップ(loose top)を含んで成るタイプの穴あけ工具に関する。基体の前端は、軸方向に突出し周縁に位置する二つのブランチ(branch)の間にジョー(jaw)を含み、ブランチは弾性的に曲げることができ、その目的は、一方において、ブランチの内側支持面をルーズトップの外側側方接触面に押しつけることによってルーズトップをジョーにクランプすることであり、他方において、ブランチの接線方向の支持面と、協働動作するルーズトップの接線方向の接触面を介してそれにトルクを伝達することであり、個々のブランチの内側支持面は第1及び第2の接線方向に離れた側方境界線の間に延び、工具の回転の間その第1のものが先頭になりその第2のものがあとを追い、個々の側方接触面が第1及び第2の境界線の間に延び、そのうち回転であとを追うものはあとを追う部分面のエッジに含まれ、そのわきでルーズトップがジョーに挿入可能であり、ルーズトップを回してブランチと動作的に係合したり係合から脱したりできる。
【0002】
問題としている種類の穴あけ工具は、鋼、鋳鉄、アルミニウム、チタン、イエローメタル、などの金属のワークピースの切り屑除去又は切削機械加工(特に穴あけ)に適する。この工具はいろいろなタイプの複合材料の機械加工にも使用できる。
【背景技術】
【0003】
ソリッドドリルと異なり、二つの部分で構成された穴あけ工具、すなわち基体又はドリルボディーと、それに着脱可能に結合され、交換可能なヘッドとから構成された穴あけ工具が開発されてきた。ヘッドは必要な切れ刃を含む。こうすると、工具の大きな部分は小さな弾性率の比較的安価な材料、例えば鋼、で製造することができ、小さな部分、すなわちヘッドはもっと硬い高価な材料、例えば超硬合金、サーメット、セラミックなど、から製造することができ、それによって、切れ刃には、良い切り屑除去能力、高い加工精度、及び長い使用寿命が与えられる。ヘッドは摩耗した後で廃棄できる摩耗部分となり、基体は何回でも(例えば10回から20回取り替えて)再使用できる。このような切れ刃がついたヘッドは“ルーズトップ”という呼び名が現在では認められており、この明細書でも以下ではこの呼び方を用いる。
【0004】
ルーズトップタイプの穴あけ工具には、幾つかのことが要求されており、そのひとつは、駆動されて回転する基体から、トルクが信頼できる仕方で交換可能なルーズトップに伝達されなければならないということである。さらに、基体は、穴あけの動作中にルーズトップに加わる軸方向後方への力を問題なく担うことができなければならない。もうひとつの必要条件は、ルーズトップは正確かつ信頼できる仕方で基体に対して中心合わせして保持されなければならないということである。さらに別の必要条件は、穴を開けているときだけでなく、穴あけ工具を穴から引き抜くときにも、ルーズトップが基体にクランプされていることである。ユーザーはさらに、駆動する機械から基体を取り外す必要なしにルーズトップを迅速かつ簡単に取り付けたり外したりできるということを望んでいる。さらに、工具は、特に高価な材料で作られるルーズトップは、低いコストで製造できなければならない。
【0005】
穴あけのためのルーズトップ工具であって、最初に一般的に述べたようなタイプのものは、以前に特許文献1によって知られている。この場合、基体の二つのブランチがアーチ状のポケットに取り付けるように配置される。このポケットは、ルーズトップに含まれ、切り屑フルートで分離される二つのバーの凸状包絡面の後部に凹設され、軸方向の延長が限られており、そのためブランチの可能な最大長さが制限される。ブランチの内側支持面、並びにルーズトップの外側接触面は、ルーズトップをブランチの間で弾力的にしっかりとつかむように互いに押しつけられ、回転対称な基本形を有し、ルーズトップの外側側方接触面の直径方向の寸法がブランチの内側支持面より大きく、ブランチを弾性的又は弾力的にたわませるようになっている。回したときの角度的な最終位置で、回転で先頭になるトルクを伝達するブランチの接線方向支持面は、ルーズトップにおける二つのポケットで端面となる二つの接線方向接触面にぴったりと接触して押し付ける必要がある。
【0006】
特許文献1の工具はいくつかの点で長所があるが、そのひとつは、ブランチの間に位置し、基体のジョーで底面を形成する軸方向支持面に切り屑が引っかかる可能性がある溝又は空洞を設ける必要がないということである。もうひとつの利点は、ルーズトップを直径に対してかなり短く作ることができるということで、材料の節約になり、コストも減らせる。さらに、ルーズトップの軸方向接触面、並びに基体の軸方向支持面は、周縁に位置する端の間に延びている。このようにして、これらの面はたっぷりしたものになり、大きな軸方向の力を伝達するのに適したものになる。
【0007】
しかし、従来の工具の欠点は、基体のジョーへのルーズトップの取り付けが信頼できないものになる危険があり、実行するのに厄介であるということである。二つのブランチをルーズトップのそれぞれのポケットに取り付けることを最初に始めるときにすでに、ブランチにクランプする力が作用し、その力はそれ以後、ブランチがポケットの端面に押しつけられる最終位置までの回動運動の間ずっと同じような大きさである。取り付けは手で行われ、ブランチはルーズトップの側方接触面に回動運動の間ずっと同じ大きさの力で弾力的にクランプされて保持されるので、ルーズトップが最終位置に達したのかどうかをオペレーターが判定することが難しくなる可能性がある。ルーズトップを十分に信頼できる仕方でクランプするためには、クランプする一様な力はかなり大きくなければならないので、この判定はさらに難しくなる。このことは、回し込み(turning in)の作業が面倒なものになり、したがってオペレーターが - 特に急いでいるとき - 回し込みを意図せずに早すぎる段階で、すなわちルーズトップがジョーにおける最終位置に達する前に、終了してしまう可能性があるということを意味する。ルーズトップの取り付けが正しく行われないと、それは特に、ワークピースの入れ方(entering)に関連した穴あけ工具の不適切なセンタリングとなって現れるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第1013367号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の穴あけ工具の上記のような欠点を軽減し、改良された穴あけ工具を提供することを目指す。したがって、本発明の第1の目的は、ルーズトップ及び協働動作する基体のジョーが、回し込み(turning in)のさいにルーズトップが最終位置に達したことをオペレーターが ―触覚的及び/又は聴覚的に―はっきりと感受できるように形成されている穴あけ工具を提供することである。本発明のもうひとつの目的は、ブランチがルーズトップにたえず大きなクランプ力をかけることなく、したがって回し込みの全作業の間大きな一様な抵抗を引き起こさずにルーズトップを基体のジョーに取り付けることができる穴あけ工具を提供することである。本発明のさらに別の目的は、ルーズトップが基体のジョーに信頼できる仕方で、詳しくはブランチの内在的な弾性を利用してルーズトップの最適なグリップが得られるようにして、クランプされて保持される穴あけ工具を提供することである。本発明のさらなる目的は、直径との対比でルーズトップの長さが最小で、体積が最小になる穴あけ工具を提供することであり、これはすべて、ルーズトップの製造と関連して高価な材料の消費を最小にするということを目的としている。また、基体がルーズトップに大きなトルクを伝達できる穴あけ工具を提供することも本発明の目的である。さらに、ルーズトップを基体に対して正確な仕方で中心合わせすることができ、中心合わせした状態で保持する―ことができる穴あけ工具を提供することも本発明のさらに別の目的である。
【0010】
本発明によれば、少なくとも第1の目的は、請求項1の特徴部分に定義されている特徴によって達成される。本発明による穴あけ工具の好ましい実施形態はさらに従属請求項2〜22で定義されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ルーズトップの側方接触面にエッジを形成するというアイディアに基づいており、それがブランチの内側支持面の間の適当に選択された距離と合わせて、回し込み(turning in)したときに予め定められたデッドポジション又は中間ポジションまで順次増加するブランチの曲がりを与える。予め定められたデッドポジション又は中間ポジションで、クランプする力は最大になり、その後最終ポジションに達するまでさらに短い距離続けて回す間は減少する。デッドポジションから最終ポジションまでの最終段階の回動運動で、ブランチのクランプする力はルーズトップを最終ポジションに速やかに到達させることを助ける。最終ポジションはオペレーターの指の触覚での感受又は耳に聴かれるクリック音として(又はそれらの発現の組み合わせとして)現れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】組立状態にある穴あけ工具の基体とルーズトップを示す斜視図である。
図2】ルーズトップを基体から分離して示す分解斜視図である。
図3】下から見たルーズトップと、上から見た基体の前端とを示す拡大分解図である。
図4】基体とルーズトップの側面分解図である。
図5】ルーズトップの前端を示す図4のV-V端面図である。
図6】基体を前方から見た図4のVI-VI端面図である。
図7】ルーズトップを背後から見た図4のVII-VII端面図である。
図8】ルーズトップの拡大側面図である。
図9図8のIX-IXでの断面図である。
図10】ルーズトップが基体のジョーに挿入され、その回し込み(turning in)が開始されようとする状態を示す部分斜視図である。
図11図4のXI-XIでの断面図である。
図12図4のXII-XIIでの断面図である。
図13】基体のジョーへのルーズトップの回し込みに関連してルーズトップの一つの位置を示す図である。
図14】基体のジョーへのルーズトップの回し込みに関連してルーズトップの一つの位置を示す図である。
図15】基体のジョーへのルーズトップの回し込みに関連してルーズトップの一つの位置を示す図である。
図16】基体のジョーへのルーズトップの回し込みに関連してルーズトップの一つの位置を示す図である。
図17図4のXVII-XVIIでの断面図であり、ルーズトップがブランチの間の中間ポジションで示されている断面図である。
図18】ルーズトップが最終回転位置で示されている、図17に対応する断面図である。
図19】協働動作するブランチをたわませているルーズトップのエッジのいろいろなポジションを示すきわめて大きく拡大した概略図である。
図20】基体のジョーを示す拡大斜視図である。
図21】本発明の別の実施形態を示す分解斜視図である。
図22図21によるルーズトップを基体のジョー(図13参照)の中に入れる前の初期位置で示す断面図である。
図23】中に入った動作位置(図16参照)でルーズトップを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明とクレームでは、それぞれ基体とルーズトップの面のいくつかの協働動作する対が記載される。これらの面が基体に存在する場合、それは“支持面”と呼ばれ、ルーズトップの対応する面は“接触面”と呼ばれる(例えば、それぞれ、“軸方向支持面”と“軸方向接触面”)。さらに、ルーズトップは平面の形の後端を含み、それがこの例では基体の軸方向支持面に押しつけられる軸方向接触面の役目をするということを指摘しておかなければならない。文脈によるが、この面は“後端”又は“軸方向接触面”と呼ばれる。さらに、ブランチの内側支持面、並びにルーズトップの側方接触面は、一対の側方境界線によって画定され、回転でその一方は他方の先に立って動く。“前”及び“後”という概念と取り違えないように、これらの境界線は、それぞれ、“先頭の”及び“あとを追う”と呼ばれる。図面において、穴あけ工具の動作状態で互いに接触して協働動作する面は同様の面パタンで示される。
【0014】
図1と2に示された穴あけ工具は、本発明にしたがって作られ、いわゆるツイストドリルの形をしており、基体1,並びにルーズトップ2を含み、ルーズトップに必要な切れ刃3が含まれる。図1による構成された動作状態で、穴あけ工具はCで示された中心軸のまわりで、さらに詳しくは回転Rの方向に、回転できる。
【0015】
図2で、基体1は前端4と後端5を含み、その間に基体に固有の中心軸C1が延伸していることが見られる。前端4から後方へ、円筒状の包絡面6が延びており、そこに二つの切り屑フルート7が凹設され、この場合、それはらせん形であるが、タップボーラーの場合のように真っ直ぐであってもよい。この例では、切り屑フルート7は、駆動機械(図示せず)に取り付けることを意図する後部9に含まれるカラー8の付近で終わっている。
【0016】
ルーズトップ2も前端10と後端111及び自身の中心軸C2を含み、この中心軸と包絡面の二つの部分12が同心である。包絡部分面12は二つのらせん形切り屑フルート13によって分離される(図13参照)。これらは、ルーズトップが基体に取り付けられたときに、基体の切り屑フルート7の延長になる。ルーズトップ2が基体1に対して正しく中心合わせされるならば、個々の中心軸C1とC2は構成された穴あけ工具の中心軸Cと合致する。
【0017】
基体1の主要部分は本発明に関連した部分がないため、以下ではその前端部分だけをルーズトップ2と合わせて図示する、詳しくは拡大して図示する。
【0018】
次に図3及びその他の図面を参照する。図3で、基体1は、その前端に二つの同一のブランチ又はシャンク15の間で画定されるジョー14、及び中間底面16を含み、それがルーズトップに対して軸方向支持面を形成している。各ブランチ15は内側支持面17を含み、それはブランチの前方端面18から軸方向後方に延びている。さらに、個々のブランチは接線方向支持面19を含み、それは回転方向で前方に向いている、すなわち先頭になっている。反対側の追いかける接線方向支持面は凹面20の前部20aとして含まれている。凹面20は、二つのらせん形境界線21,22の間にあり、切り屑フルート7を画定している。個々のブランチ15は、弾性的に曲がってルーズトップ2に対して弾力的にクランプ可能になる。これは、基体1の少なくとも前方部分の材料がある内在的な弾性(ルーズトップ2の材料よりも小さな弾性率)を有することによって、好適には鋼であることによって実現される。これに対し、ルーズトップの材料は、伝統的な仕方で、超硬合金(バインダー金属中の炭化物粒子)、サーメット、セラミックなどから成る。好適には、軸方向支持面16は平面であり、中心軸C1に直角方向に延びる。さらに、軸方向支持面16は、一緒になって包絡面6を形成する二つの部分面の間に直径方向に延びる。一般に軸方向支持面は§状の輪郭形状を有する。
【0019】
図3にさらに見られるように、ルーズトップの後端は軸方向接触面11で表され、それは軸方向支持面16と同様に、最も適切には平面であり、中心軸C2に直角方向に延びる。軸方向接触面11は、直径方向で対向する包絡部分面12の間に延び、§状の輪郭形状を有する。さらに、ルーズトップ2は一対の外側の直径方向に対向する側方接触面23を含み、側方接触面23に対してブランチの内側支持面17が弾力的に固定される。最も適切には、面11と16の輪郭形状が同一であり、工具の動作状態で完全な面接触が確立される。
【0020】
切れ刃3が含まれるルーズトップ2の前端10は、複数の部分面で構成される端面によって表され(図5と8を参照)、それらはこの場合ペアで同一であり、したがって、個々に記述されない。個々の切れ刃3の背後に(回転方向で見て)、第1逃げ面24が形成される。これは小さな(moderate)逃げ角を有し、もっと大きな逃げ角を有する第2逃げ面25に変わってゆく、より詳細には、境界線26を介して変わってゆく。別の境界線27を介して、第2逃げ面25は第3逃げ面28に変わってゆき、それはさらに、アーチ状の境界線29を介して、背後にある切り屑フルート13に変わってゆく。図8に最もよく見られるように、切り屑フルート13を画定する凹面30は部分的に個々の切れ刃3まで延び、その切れ刃の切り屑面を形成する。切れ刃の切り屑面に、凸面31も含まれる。ルーズトップの前端のデザインはいろいろな仕方で変更することができ、ルーズトップが切り屑除去機械加工を行うことができる限り、付随的である。
【0021】
さらに、包絡部分面12に隣接して、ガイドパッド32が形成されている(図3と5を参照)ことが認められる。その主な役割は穴あけ工具をガイドすることである。あけられた穴の直径は、切れ刃がガイドパッド32と出会う周縁の点33の間の直径方向の距離によって決定される。また、二つの切れ刃3は先端34に収斂し、それがルーズトップの最先端部分を形成し、そこにいわゆるチゼルエッジ及び最小の芯出しポンチ(不図示)が含まれる。
【0022】
次に図8を参照すると、ルーズトップ2の個々の側方接触面23が第1及び第2の側方境界線35,36の間で画定されている。そのうち第1の側方境界線35は工具が回転するときに先行し、第2の側方境界線36は後行する。後方に(図では下向きに)、側方接触面23は横向きの後方境界線37によって定められ、他方その前方の限界は二つの斜めの境界線38,39である。そのうち最初にあげたものは第2逃げ面25と境を接し、あとであげたものは第3逃げ面28と境を接する。第2の側方境界線36は、40と記されたエッジに含まれ(又はエッジを形成し)、それは側方接触面23と、回転方向後方の部分面41の間の移行部を構成する。エッジ40をシャープに形成することそれ自体は実行可能であるが、エッジ40をアールがある移行部として、すなわち面23と41の間の移行部における凸状に湾曲した細長い面として作ることが好ましい。また、回転方向後方の部分面41はこの場合はくさび形であり、回転方向後方の切り屑フルートの凹面30と境を接するということを言っておかなければならない。さらに詳しくは、回転方向後方の部分面41はエッジ40と、エッジ40と鋭角をなす境界線42の間で定められている。エッジ40と境界線42は後方へ拡がっている。
【0023】
側方接触面23は、その第1の側方境界線35で凹面43に変わってゆき、それはさらに接線方向接触面44と境を接し(図3を参照)、個々のブランチ15がそれに押しつけられてトルクをルーズトップに伝達する。
【0024】
図示された好ましい実施形態では、側方接触面23は、ブランチ15の内側支持面17と同様、本質的に平面である。図9の断面図からさらに見られるように、ルーズトップ2の対向する二つの側方接触面23は一定の角度αで後端から前端へ向かう方向に拡がっている。したがって、エッジ40の前端40aのレベルにある基準面RP1において、ルーズトップの幅W1は、側方接触面の後方境界線37のレベルにある基準面RP2における幅W2よりも少し大きい。実際には、幅W1とW2の差はきわめて小さく、拡がりの角度αが小さいことを意味する。図示された実施形態では、W1は8.00mmとなり、W2は7.97mmとなり、角度αは0.86°(α/2 = 0.43°)になる。この拡がり角はごく小さいものであるが、ブランチ15を曲げてブランチがルーズトップにかなり大きな固定力を及ぼすようにするには全く十分である。
【0025】
これに関連して、拡がり角αは0.86°から大きくも小さくも変わりうるということを指摘しておかなければならない。しかし、拡がり角αは少なくとも0.2°、そして高々2°でなければならず、最も適切には0.60-1.20°という範囲内にある。角度αの大きさは面17,23の軸方向の長さに依存する、もっと詳しく言うと、ルーズトップの動作状態で面接触が達成されるような仕方でこの角度はこれらの面の長さに適合しなければならない。
【0026】
側方接触面23は上述のような仕方で拡がるので、エッジ40の前端40aはエッジ40の後端40bよりもルーズトップの中心軸から大きな径方向距離にある。言い換えると、ルーズトップをジョー14に取り付けることに関連して、前端40aは個々のブランチの内側支持面17に最初に接触する。また、エッジ40はこの場合真っ直ぐである。
【0027】
次に図20を参照すると、この図から、個々のブランチ15の内側支持面17は協働動作するルーズトップの側方接触面23と同様に、第1及び第2の側方境界線51,52の間で定められ、回転時、第1の側方境界線51が先行し、第2の側方境界線52が後行する。内側支持面17と接線方向支持面19の間には、凹面53があり、そのアールは凹面43のアールより大きい。
【0028】
図10にはルーズトップ2が初期位置で示されており、ルーズトップはブランチ15の間のジョーの中へ軸方向にに挿入されているが、動作する最終ポジションにはない。その後の回し込みでルーズトップを大まかに中心合わせするために、すなわちルーズトップをかなり良く(しかし正確にではなく)中心合わせされた位置に暫定的に保持するために、ルーズトップの後部とブランチの内側部分に協働動作するガイド面が形成される。詳しく言うと、各側方接触面23は(図3と4を見よ)は、中間面46を介して軸方向背後にある凸の外側ガイド面45に変わってゆく。外側ガイド面45とルーズトップの軸方向接触面11の間に、逃げ面47が存在する。図7に見られるように、ルーズトップの中央部分の直径方向に対向する側面に形成される二つの外側ガイド面45は回転対称な形を有する。これらの面は直径がD2と表される円S2に続く。円S2 − それにより面45も − ルーズトップの中心軸C2と同心である。図示された好ましい実施形態では面45は円筒状であるが、それらは円錐状であってもよい。
【0029】
図3に、そして図6と20を組み合わせて、見られるように、二つのブランチ15には、その後端に一対の凹の内側ガイド面48が形成され、それらがルーズトップの凸の外側ガイド面と協働動作する。個々の内側ガイド面48は、内側支持面17から内向き/後方に傾斜した中間面49を介して、内側支持面17に変わってゆく。二つの内側ガイド面48も円筒状であり(又は、円錐状であり)、直径がD1で表される想像上の円S1(図6参照)によって定められる。円S1の直径D1は、円S2の直径D2よりも少し大きく、このことはルーズトップが基体のジョーに動作的にクランプされたときにガイド面45,48は互いに接触しないことを意味する。実際には直径の差は10分の1乃至10分の数ミリメートルになる。しかし、図10に示された初期位置から行われる取り付けでルーズトップは大まかに中心合わせされる(すなわち、ブランチの間で近似的な中間位置を保持する)ことが保証される。直径D1とD2の大きさが異なることは、ガイド面45,48が製造に関連した寸法精度に何も条件を課さないということを意味する。
【0030】
外側ガイド面45(図8を見よ)は、切り屑フルート13への境界線45aが側方接触面の限界エッジ40に対して回転方向Rで後方に、すなわち図8で左の方へ、ずれるという形で側方接触面23に対して接線方向に部分的にずれる。したがって、取り付け方向Vへのルーズトップの取り付けの間、境界線45aは限界エッジ40の前に動く。その実際の結果は、限界エッジ40がブランチの内側支持面17と接触する前に、外側ガイド面45がルーズトップを暫定的に大まかに中心合わせする目的で内側ガイド面48との協働動作をスタートできるということである。
【0031】
次に図11を参照すると、同図においてDL1は真っ直ぐな第1の直径を通る線分(diametrical line)を表し、これは中心軸C1と交わり、互いに向き合うブランチ15の内側支持面17の間で可能な最短距離に延び、したがって内側支持面と直角をなす。この可能な最短の直径を通る線分DL1の端点はEa,Ebと表されている。内側支持面の間に引かれた中心軸C1と交わる他のどんな想像上の線(呼称なし)も最短の直径を通る線分DL1より長くなることは明らかである。これは、想像上の長い直径を通る線分が図11に示される直径を通る線分DL1に対してC1のまわりで時計方向に回されるか又は反時計方向に回されるかに関わりなくあてはまる。
【0032】
図12で、DL2は第2の同様な真っ直ぐな直径を通る線分であり、二つの対向する側方接触面23のエッジの間に延び、ルーズトップの中心軸C2と交わるものである。さらに詳しく言うと、直径を通る線分DL2は、エッジの前端点40aの間で延びている(図8参照)。個々の側方接触面23は直径を通る線分DL2と鋭角βをなす。この例では角βはほぼ85°に成る。実際にはこの角は少なくとも75°、そして高々88°でなければならず、最も適切には80-86°の範囲内にある。図12の拡大された細部断面図から、さらに、側方支持面23と結合する部分面41が互いに鈍角γをなすことが見られる。この例では、γは152°になる。角γが鈍角である(鋭角でない、それも可能であるが)ことによってエッジ40を囲むルーズトップの部分が堅牢になり、エッジに作用する力に耐えることができる。
【0033】
本発明によれば、直径を通る線分DL2は直径を通る線分DL1より少し長い。長さの差はきわめて小さく(100分の数ミリメートル)、肉眼では見えないので、図13−16の一連の図、並びに図19の拡大概略図を以下で参照する。図13で、ルーズトップ2は図10による初期位置P1で示されている。図13は、この位置のルーズトップが、その側方接触面がブランチ15と何も接触しないことによってジョーに軸方向に自由に挿入できることを示している。この位置で、ルーズトップの凸の外側ガイド面45は一部分ブランチ15の凹の内側ガイド面48の間に位置している。最初のステップで、ルーズトップは図14による位置P2に回され、そこで二つの対向するエッジ40がブランチの内側支持面に接触する。さらに回した後、ルーズトップ2は図15に示された位置P3に達し、そこで直径を通る線分DL1とDL2が一致する。この位置で、エッジ40はデッドポジション又は中間ポジションに達し、そこでブランチ15のクランプ力が最大になる。このデッドポジションP3から、ルーズトップはさらに短い距離だけ回されて図16による最終ポジションP4に達する。この位置で、エッジ40は図15によるデッドポジションP3を通過するが、ブランチ15の弾性復元力又は引っ張り力は尽きていない。図16による最終ポジションで、側方接触面23は内側支持面17に当接し、同時にトルクを伝達するブランチの接線方向支持面19が圧されてルーズトップの接線方向接触面44とぴったりと接触する。
【0034】
図19には、個々のブランチ15に対するエッジ40のいろいろな位置がもっとはっきりと図示されている。図13による位置P1では、エッジ40はブランチの内側支持面17とのあらゆる接触が断たれている。位置P2では、内側支持面17との接触が確立されている。この位置から先、ルーズトップのエッジ40は、ブランチ15が順次増大するクランプ力をルーズトップに加える間、ブランチ15をたわませ始める。図15によるデッドポジションP3で、ブランチのクランプ力は最大になる。それはここで直径を通る線分DL1とDL2が一致するからである。最終ポジションP4に到達するために、ルーズトップがさらに短い距離回される(中心軸C1のまわりに時計方向に)。位置P3とP4の間で、エッジ40がデッドポジションP3を通過したときの比較的短い動きの間、継続するルーズトップの回動は、全体的に又は部分的に、ブランチ15によって行われる。これは、ブランチのクランプ力がルーズトップを最終ポジションに移動させることを目的としており、そこでは面の対23,17と19,44が互いにぴったりと押しつけられて保持されることでそれ以上回すことができなくなるためである。本発明による工具を用いて行われた実際の試験では、位置P3とP4の間の最終的な回動に続いて、作業者が指に顕著な触覚を感じる。ときにはクリック音が聞こえ、作業者はそれによってルーズトップがその動作する最終ポジションに到達したことを確認できる。
【0035】
基体に対するルーズトップの正確な中心合わせは位置P2で、ルーズトップのエッジ40が最初にブランチ15の内側支持面17と接触したときに開始される。エッジがその最終ポジションP4の方へ回されるにつれて、ブランチにおける保持力が増大する結果、中心合わせはますますはっきりし、正確になる。ブランチ15は、最終ポジションP4において、位置P3における最大保持力と比べるとある程度減少した保持力を有するが、まだ余裕のある保持力を残している。選択されたDL1とDL2の間の長さの差に対するP3とP4の間の回動運動などの幾何的因子を適当に調整することによって、動作する最終ポジションにおけるクランプ力を予め決めることができる。例えば、最終ポジションP4における保持力力をデッドポジションにおける最大保持力の50%に決めることができる。
【0036】
図17と18には、ルーズトップが動作する最終ポジションの方へ回されたときに、それぞれルーズトップ2とブランチ15の協働動作するガイド面の対の間に、はっきりとした狭い間隙50が生ずる様子が示されている。
【0037】
さらに、本発明による穴あけ工具の重要な特徴は、ルーズトップ2の側方接触面23がルーズトップの前端の近くに位置していること、及び対応するブランチ15の内側支持面17がブランチの前方遠くに位置していることである。したがって、側方接触面23は、ルーズトップの前端10における部分面として含まれる二つの逃げ面25,28から後方へ延びている。同様に、ブランチの内側支持面17は、ブランチの前端面18への移行部を形成するエッジラインから後方へ延びている。側方接触面と内側支持面それぞれのこの配置により、切れ刃に隣接するルーズトップの前方部分に沿って強力なグリップ又はつかみが得られる。なぜなら、ブランチは後端の付近よりも自由な前端(自由端)のエリアで最大の曲げ能力、 すなわち最適のグリップ能力を持つからである。
【0038】
図8で、44aは、部分包絡面12とルーズトップの接線方向接触面44の間の移行部を構成する真っ直ぐな境界線を表す(図3参照)。上記接線方向接触面44はルーズトップの軸方向接触面11に対して傾斜している、詳しくは角度δで傾斜しており、この例ではそれは76°になる。個々の接線方向接触面44と協働動作する接線方向支持面19(図10と20を見よ)も対応する形で傾斜している。それぞれの面のこの傾斜によって、ロック手段が設けられ、それがブランチ15のつかむ効果(pinching effect)と組み合わされて、ジョー14からルーズトップから意図せずに軸方向に外れること、例えばあけた穴から穴あけ工具が出すときに関連して、ルーズトップが外れることに対抗する。本発明の範囲内で、角度δは上にも下にも変わることができる。しかし、この角は、少なくとも65°、そして高々85°でなければならない。
【0039】
図4と5には、ルーズトップ2が一対の周縁に位置するノッチ(切り欠き)又はシート55の形のキーグリップ(key grip)を含むことが見られる。
【0040】
本発明の根本的な利点は、作業者がルーズトップを回すさいに、ルーズトップがその動作する最終ポジションに到達したという明らかな確認を得られることである。別の利点は、ルーズトップを回した際に、曲がることができるブランチ抵抗がいつも大きいわけではなく、エッジが回りデッドポジションを過ぎる短い瞬間だけ最大になるということである。さらに、回動運動の最終段階において、デッドポジションから最終ポジションまでの回し込みが、ブランチに内在する弾性により、全体的又は部分的に行われる。言い換えると、作業者が意図せずに(例えば、急いでいるとき)、絶対的な最終ポジションまでの手動による回し込みを終了しないでしまうという危険に対する対策になる。別の利点は、ブランチが最も曲がることができ、最適の固定力を発揮できるブランチの前端の間にルーズトップが確実に保持されることである。さらに、ルーズトップがその直径に対して最小の体積になることができ、それによってルーズトップに高価な材料が消費されることも効果的に減らすることができる。さらに別の利点は、利用できるルーズトップの軸方向長さの範囲内でブランチの接線方向支持面に最適の長さを与えることができるので、基体がかなり大きなトルクをルーズトップに伝達できることである。さらに、ルーズトップは、シンプルなキー以外に他の手段なしで、簡単な仕方で取り付けたり、取り外したりできる。さらに、ルーズトップの二つの側方接触面は十分に露出しており、良い中心合わせを保証するために二つの側方接触面を研磨する必要がある場合にも容易に行うことができる。
【0041】
次に図21〜23を参照すると、これらは別の実施形態を図示しており、そこでは各個々のブランチ15の内側支持面17に複数の部分面又は面部分17a、17b、17cが形成されている。第1の面部分17aは、回転方向後方の境界線52と面部分17cの間で延び、面部分17cは第2の面部分17bへ凹状のアールで移行する移行部であり、面部分17bはさらに境界線51と結合している。三つのファセット(facet)面を含む移行面53を介して、面部分17bは接線方向支持面19に変わってゆく。図示された実施形態では、面部分17bは凹状の、詳しくは部分円筒状の形を有し、他方、面部分17aは平面である(又は、場合によってわずかに反っている)。
【0042】
内側軸方向支持面の軸方向背後に、前の実施形態と同様に、円筒状又はその他の回転対称な形の内側ガイド面48があり、それがブランチ15の肉厚の後方部分に含まれ、内側支持面17から中間面49によって隔てられている。
【0043】
内側支持面と同様に、協働動作するルーズトップ2の側方接触面も二つの面部分23a、23bを含み、面部分23aが面部分23bに対して回転方向後方に位置する。面部分23aは、一方で、面部分23bの境界線23cと、他方で、回転方向後方に位置する部分面41への移行部を形成するエッジ40の間に延びる。面23bは凸であり、ブランチ15の凹面部分17bと同じ回転対称な形、好ましくは円筒状の形、を有する。境界線35を介して、面部分23bは凹面43に変わってゆき、それはさらに接線方向接触面44に変わってゆく。面部分23aは、内側支持面17に含まれる面部分17aと同様に平面である(又は、わずかに反っている)。二つの面部分23a、23bの軸方向背後に、凹の内側ガイド面48と協働動作する凸の、円筒状又はその他の回転対称の形のガイド面がある。
【0044】
図22にはルーズトップ2が、ブランチ15の間のジョーに取り付ける前の最初の位置(P1)で示されている(図13参照)。ブランチの二つの内側支持面に含まれる二つの平面の面部分17aは互いに平行である。中心軸と交わり、面部分17aに垂直な直径を通る線分DL1はこれらの面部分17aの間の最短距離を表す。上記直径を通る線分DL1は面部分17aに、それぞれ、その側方限界17cと52の間に位置する点で接触する。DL2はルーズトップの二つの対向する側方接触面23に含まれる面部分23aに沿ったエッジ40の間に延びる第2の直径を通る線分である。第2の直径を通る線分DL2は第1の直径を通る線分DL1より100分の数ミリメートル長い。しかし、中心軸Cと直径を通る線分DL2の端をなすエッジ40の間の径方向距離は、中心軸Cと凹面17bの間の径方向距離より少し短い。このことは、ルーズトップの回し込みがスタートしたとき、ルーズトップのエッジ40は凹面17bに接触しないということを意味する。
【0045】
ルーズトップ2が図22によるその初期位置(P1)から図23による動作する最終ポジション(P4)まで回すと、次のことが起こる。最初、エッジ40は面部分17bをブランチ15に影響を及ぼすことなく自由に通過する。エッジ40がアール移行部17cを過ぎると、エッジ40は面部分17aに接触し、ブランチをたわませることを順次開始する。エッジ40のペアが直径を通る線分DL1とDL2が互いに一致する回転角度位置(図15の位置P3を参照)に達すると、曲がり及びそれによって弾性復元力が最大になる、すなわちデッドポジションを通過する。この状態で、ルーズトップの凸面23bは、個々のブランチ15の内側の凹面17bに重なり始める。上記のデッドポジションから、ルーズトップの回し込みは、図23に示されている動作する最終ポジション、そこではルーズトップの接線方向接触面44がブランチの接線方向支持面19に押しつけられて動作する最終ポジションまで主としてブランチの弾性復元力によって続けられる。回し込みの最終段階、すなわちデッドポジションと最終ポジションの間、ルーズトップの凸面23bは凹面17bに対向して位置し、そこではブランチの弾性復元力は面部分17bと23bの間の面接触によってルーズトップに伝達される。同時に、平面の面部分17aはルーズトップの内部の、平面部分23aから少し離れている。言い換えると、ブランチが及ぼすクランプ力は図23による面のペア17b、23bの間に直径方向に延びる軸方向平面APに沿って位置する。
【0046】
図21〜23による実施形態はルーズトップの軸方向ロッキングのための別のタイプの手段を含む、すなわち、ブランチ15の後端に形成された二つの座54,並びにルーズトップの二つの雄部材55である。座54はこの場合、個々のブランチ15にその接線方向支持面19と基体の軸方向支持面16の間に位置する凹設された樋である。それに対し、個々の雄部材55は、ルーズトップの接線方向接触面44の軸方向背後に位置し、軸方向接触面11に結合する隆起である。言い換えると、隆起55は側方接触面44に対して側方に突出し、その後部が軸方向接触面11に変わってゆく。ルーズトップがその動作位置に回されると、隆起55がシュート54と係合するが、隆起がシュートと面接触はしない。したがって、隆起55は、ルーズトップにかかるネガティブの軸方向の力がブランチの弾性復元力に勝ったときにのみ活性化される。
【0047】
以下のクレームにおいて定義されるような本発明の範囲内でいろいろな変更を加えることができる。だから、ルーズトップの側方接触面は必ずしも平面である必要はない。例えば、側方接触面は少し反っていても、又ははっきりと凸であって多少とも顕著に凹の形を与えられた内側支持面と協働動作するように配置されてもよい。本質的なことは、各側方接触面がブランチをデッドポジションにたわませて、そこでクランプ力が最大になり、その後クランプ力が減少するが尽きるわけではない最終ポジションまで動かされるということである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23