(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化数4価の金属元素または酸化数4価の半金属元素(M)前駆体、アルカリ金属(N)前駆体及びリン酸の混合物に溶媒を添加し、化学式1の無機プロトン伝導体形成用の組成物を準備する段階と、
前記組成物を撹拌する段階と、
前記撹拌された組成物を熱処理し、化学式1の無機プロトン伝導体を形成する段階と、を含む化学式1の無機プロトン伝導体を製造する方法:
[化1]
M1−aNaP2O7
前記化学式1で、Mは酸化数4価の金属元素または酸化数4価の半金属元素であり、
Nはアルカリ金属であり、
aは0.01ないし0.7である。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、使われる電解質及び使われる燃料の種類によって、高分子電解質型燃料電池(PEMFC:polymer electrolyte membrane fuel cell)、直接メタノール燃料電池(DMFC:direct methanol fuel cell)、リン酸型燃料電池(PAFC:phosphoric acid fuel cell)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC:molten carbonate fuel cell)、固体酸化物型燃料電池(SOFC:solid oxide fuel cell)などに区分可能である。また、燃料電池は、使われる電解質によって、燃料電池の作動温度及び構成部品の材質が異なる。
【0003】
SOFCは、高温(800〜1,000℃)で作動し、電気効率が高く、かつ燃料ガスの純度に対する制約が少ないので、多様な燃料を使用できるという長所のために、分散電源として有望な燃料電池として知られている。しかし、高温で作動するので、高温環境で耐久性を維持できる高価な周辺材料を使用しなければならないという問題を有し、かつ迅速なオン−オフを行うことができないという点で、ポータブル電源、自動車用などの多様な用途への適用が困難である状況である。従って、SOFCを低温で運転するための研究が活発に進められている。
【0004】
一方、PEMFCの電解質膜は、加湿が必要である高分子膜であり、水が蒸発する100℃以上では、伝導度が大きく落ちるという現象が起こる。また、加湿状態を維持するために、システムに加湿装置を備え付け、運転状況に合わせて注意深く制御を行わなければならないという困難さがある。
【0005】
前述のように、PEMFCの作動温度を高温化させ、SOFCの作動温度を低温化させようとする動きによって、150〜400℃間の中温域で作動できる燃料電池への関心が高まっている。しかし、この温度でイオン伝導特性を示す電解質については、あまり知られていない状況である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の望ましい実施例について詳細に説明する。
【0016】
下記化学式1で表示される無機プロトン伝導体が提供される。
【0018】
前記化学式1で、Mは酸化数4価の金属元素または酸化数4価の半金属元素であり、Nはアルカリ金属であり、aは0.01ないし0.7である。
【0019】
前記Mは4価陽イオンを形成する金属元素または半金属元素であり、その具体的な例としては、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、シリコン(Si)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)のうちから選択された1種が挙げられる。
【0020】
前記Nの例としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)からなる群から選択された1種が挙げられる。
【0021】
前記化学式1の無機プロトン伝導体は、4価陽イオンを形成するMの一部を、アルカリ金属であるNで置換させた構造を有している。
【0022】
前記化学式1で、aは、0.05ないし0.5であり、一具現例によれば、0.1ないし0.4である。
【0023】
前記MはSnであり、NはLiであり、その例として、Sn
1−aLi
aP
2O
7がある。
【0024】
図1AはSn
1−aLi
aP
2O
7の結晶構造を示したものであって、
図1Bは
図1の結晶構造でプロトン濃度が上昇する原理を説明するためのものである。
【0025】
これを参照すれば、Sn
1−aLi
aP
2O
7は、SnP
2O
7(リン酸スズ)の一部Sn
4+を、酸化数が1価である金属イオン(Li
+、Na
+、K
+またはCs
+)で置換(ドーピング)した構造を有している。このように、酸化数が1価である金属イオンであるアルカリ金属イオンをドーピングすると、SnP
2O
7の結晶構造内に点欠陥(point defect)が発生し、ドーピングされたSn
1−aLi
aP
2O
7は、非ドーピングSnP
2O
7に比べてプロトン濃度が高い。また、ドーピングされたSn
1−aLiaP
2O
7のリン酸に対する結合親和度(binding affinity)が上昇する。これにより、無機プロトン伝導体は、高温ですぐれた伝導特性を維持できることになる。
【0026】
前記Sn
1−aLi
aP
2O
7で、aが0.1ないし0.3である場合には、X線回折(X−ray diffraction)分析の結果、主相(main phase)結晶構造を有し、aが0.4ないし0.5である場合には、リチウムが固溶限界を超え、新しい相、すなわち、リチウム二次相が観察される。
【0027】
前記化学式1の無機プロトン伝導体の例として、Sn
0.7Li
0.3P
2O
7、Sn
0.95Li
0.05P
2O
7、Sn
0.9Li
0.1P
2O
7、Sn
0.8Li
0.2P
2O
7、Sn
0.6Li
0.4P
2O
7、Sn
0.5Li
0.5P
2O
7、Sn
0.7Na
0.3P
2O
7、Sn
0.7K
0.3P
2O
7、Sn
0.7Cs
0.3P
2O
7、Zr
0.9Li
0.1P
2O
7、Ti
0.9Li
0.1P
2O
7、Si
0.9Li
0.1P
2O
7、Mo
0.9Li
0.1P
2O
7またはW
0.9Li
0.1P
2O
7が挙げられる。
【0028】
前記化学式1のイオン伝導体の製造方法について説明する。
【0029】
まず、酸化数4価の金属元素または酸化数4価の半金属元素(M)前駆体、アルカリ金属(N)前駆体及びリン酸を混合し、ここに溶媒を付加及び混合し、化学式1のイオン伝導体形成用の組成物を準備する。
【0030】
前記溶媒としては、脱イオン水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを使用し、溶媒の含有量は、M前駆体100重量部を基準として、300ないし800重量部である。
【0031】
溶媒の含有量が前記範囲であるとき、組成物の粘度が適切であって作業性が容易である。
【0032】
前記組成物を200ないし300℃で撹拌する。
【0033】
前記のような撹拌過程が、前述の温度範囲でなされれば、組成物を構成する成分の混合が均一になされつつ、組成物から水を除去して適切な粘度を維持できる。このように、組成物の適切な粘度が適切に制御されれば、後続過程の熱処理が、物質の相分離なしに効率的に進められうる。
【0034】
次に、前記混合物を300ないし1,200℃で熱処理し、これを所定サイズの粉末に粉砕し、化学式1のイオン伝導体を得ることができる。
【0035】
前記M前駆体としては、M酸化物、M塩化物、M水酸化物などが可能であり、具体的には、酸化スズ(SnO
2)、塩化スズ(SnCl
4、SnCl
2)、水酸化スズ(Sn(OH)
4)、酸化タングステン(WO
2、WO
3)、塩化タングステン(WCl
4)、酸化モリブデン(MoO
2)、塩化モリブデン(MoCl
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、塩化ジルコニウム(ZrCl
4)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)
4)、酸化チタン(TiO
2)、塩化チタン(TiCl
2、TiCl
3)からなる群から選択された一つ以上を使用する。
【0036】
前記N前駆体としては、N酸化物、N塩化物、N水酸化物、N硝酸塩などが可能であり、具体的には、水酸化リチウム(LiOH・H
2O)、酸化リチウム(Li
2O)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO
3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、塩化ナトリウム(NaCl)、水酸化カリウム(KOH)、塩化カリウム(KCl)、水酸化セシウム(CsOH・H
2O)、塩化セシウム(CsCl)などを使用する。
【0037】
前記N前駆体の含有量は、M前駆体とN前駆体との総含有量を基準として、1ないし70モル%である。
【0038】
N前駆体の含有量が前記範囲であるとき、化学式1の組成を有する無機プロトン伝導体を得ることができる。
【0039】
前記リン酸としては、80ないし100重量%のリン酸水溶液を使用し、前記リン酸の含有量は、85重量%のリン酸水溶液の使用時、M前駆体100重量部を基準として、200ないし300重量部である。リン酸の含有量が前記範囲であるとき、熱処理時のリン酸損失を勘案し、目的とする化学式1の無機プロトン伝導体を容易に得ることができる。
【0040】
前記組成物の熱処理温度が前記範囲であるとき、構造の変形なしに、プロトン伝導度にすぐれる化学式1の無機プロトン伝導体を得ることができる。
【0041】
前記熱処理時間は、熱処理温度によって可変的であるが、一具現例によれば、1ないし5時間でなされる。
【0042】
前記熱処理は、窒素のような不活性ガス雰囲気、または空気雰囲気下で実施できる。
【0043】
前記粉末に粉砕するとき、粒径は特別に制限されるものではないが、50ないし5,000nmほどに調節する。
【0044】
前記化学式1の無機プロトン伝導体は、Sn
0.7Li
0.3P
2O
7、Sn
0.95Li
0.05P
2O
7、Sn
0.9Li
0.1P
2O
7、Sn
0.8Li
0.2P
2O
7、Sn
0.6Li
0.4P
2O
7、Sn
0.5Li
0.5P
2O
7、Sn
0.7Na
0.3P
2O
7、Sn
0.7K
0.3P
2O
7、Sn
0.7Cs
0.3P
2O
7、Zr
0.9Li
0.1P
2O
7、Ti
0.9Li
0.1P
2O
7、Si
0.9Li
0.1P
2O
7、Mo
0.9Li
0.1P
2O
7またはW
0.9Li
0.1P
2O
7である。
【0045】
前記化学式1の無機プロトン伝導体は、電極と電解質とを有する燃料電池、水素製造装置、排ガス浄化装置などの電気化学素子に利用されうる。
【0046】
前記無機プロトン伝導体は無加湿型プロトン伝導体であってよく、中温無加湿条件で作動する燃料電池に有用である。ここで、「中温」とは、特別に制限されるものではないが、一具現例によれば、150ないし400℃を指す。
【0047】
以下、下記実施例を例に挙げて説明するが、それらに限定されることを意味するものではない。
【0048】
実施例1
Sn、Li、Pのモル比が0.7:0.3:2〜3になるように、SnO
2、LiOH・H
2O、85重量%H
3PO
4を混合し、ここにイオン交換水を添加し、これを約250℃で撹拌し、高粘度の混合ペーストを得た。ここで、LiOH・H
2Oの含有量は、30モル%であり、SnO
2の含有量は、70モル%であった。得られたペーストを、650℃で2.5時間アルミナ・ルツボ内で熱処理した。
【0049】
熱処理後、得られた塊を乳鉢で粉砕し、乳白色の粉末状態であるSn
0.7Li
0.3P
2O
7を得た。
【0050】
Sn
0.7Li
0.3P
2O
7の組成をICP(inductively coupled plasma)−AES(atomic emission spectrometry)測定で確認した。前記熱処理中の一部リン酸の損失量を考慮し、最終化学量論組成がSn
0.7Li
0.3P
2O
7(Sn:Li:P=0.7:0.3:2)になるように、初期リン酸投入量を定めた。
【0051】
実施例2
Sn、Li、Pのモル比が0.95:0.05:2〜3になるように、LiOH・H
2Oを5mol%使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.95Li
0.05P
2O
7を合成した。
【0052】
実施例3
Sn、Li、Pのモル比が0.9:0.1:2〜3になるように、LiOH・H
2Oを10mol%使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.9Li
0.1P
2O
7を合成した。
【0053】
実施例4
Sn、Li、Pのモル比が0.8:0.2:2〜3になるように、LiOH・H
2Oを20mol%使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.8Li
0.2P
2O
7を合成した。
【0054】
実施例5
Sn、Li、Pのモル比が0.6:0.4:2〜3になるように、LiOH・H
2Oを40mol%使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.6Li
0.4P
2O
7を合成した。
【0055】
実施例6
Sn、Li、Pのモル比が0.5:0.5:2〜3になるように、LiOH・H
2Oを50mol%使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.5Li
0.5P
2O
7を合成した。
【0056】
実施例7
LiOH・H
2Oの代わりにNaOHを使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.7Na
0.3P
2O
7を合成した。
【0057】
実施例8
LiOH・H
2Oの代わりにKOHを使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.7K
0.3P
2O
7を合成した。
【0058】
実施例9
LiOH・H
2Oの代わりにCsOHを使用したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.7Cs
0.3P
2O
7を合成した。
【0059】
実施例10
SnO
2の代わりにZrO
2を使用し、Zr、Li、Pのモル比が0.9:0.1:2〜3になるように、ZrO
2、LiOH・H
2O、85%H
3PO
4を混合したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Zr
0.9Li
0.1P
2O
7を合成した。
【0060】
実施例11
ZrO
2の代わりにTiO
2を使用したことを除いては、実施例10と同じ方法によって実施し、Ti
0.9Li
0.1P
2O
7を合成した。
【0061】
実施例12
ZrO
2の代わりにSiO
2を使用したことを除いては、実施例10と同じ方法によって実施し、Si
0.9Li
0.1P
2O
7を合成した。
【0062】
実施例13
ZrO
2の代わりにMoO
2を使用したことを除いては、実施例10と同じ方法によって実施し、Mo
0.9Li
0.1P
2O
7を合成した。
【0063】
実施例14
ZrO
2の代わりにWO
2を使用したことを除いては、実施例10と同じ方法によって実施し、W
0.9Li
0.1P
2O
7を合成した。
【0064】
比較例1
Sn、Pのモル比が1:2〜3になるように、SnO
2、85重量%H
3PO
4を混合したことを除いては、実施例1と同一に実施し、SnP
2O
7を合成した。
【0065】
比較例2
LiOH・H
2Oの代わりにIn
2O
3を使用し、Sn、In、Pのモル比が0.9:0.1:2〜3になるように、SnO
2、In
2O
3、85重量%H
3PO
4を混合したことを除いては、実施例1と同じ方法によって実施し、Sn
0.9In
0.1P
2O
7を合成した。
【0066】
前記実施例1−6及び比較例1によって製造された物質を乳鉢で粉砕した後、X線回折分析を実施し、XRDピーク変化を観察した。XRDピークの変化は、
図2に示した通りである。
【0067】
図2を参照し、LiOHが40モル%以上である場合に二次相が示されることから見て、リチウムの固溶限界量が30モル%であることが分かった。
【0068】
前記実施例1,7,8によって製造された物質を乳鉢で粉砕した後、X線回折分析を実施した(
図3)。
【0069】
図3は、実施例1,7,8によって合成した無機プロトン伝導体のXRD測定結果を示したものである。実施例1,7,8の無機プロトン伝導体は、SnP
2O
7の結晶構造を有するということが分かった。
【0070】
前記実施例10及び11による無機プロトン伝導体を乳鉢で粉砕した後、X線回折分析を実施し、XRDピークの変化を観察した(
図4)。
【0071】
図4を参照し、実施例10及び実施例11の無機プロトン伝導体は、SnP
2O
7の結晶構造を維持していることが分かった。
【0072】
前記実施例1,3,4,5で得られた物質と、比較例1で得られたSnP
2O
7との温度によるプロトン伝導度変化を測定した。ここで、前記実施例1,3,4,5及び比較例1−2によって得られた物質のプロトン伝導度は、下記方法によって評価した。
【0073】
前記実施例1,3,4,5及び比較例1−2によって得られた物質を乳鉢ですりつぶして粉砕した後、3X10
3kg/cm
2で加圧し、直径12mmのペレットを製作した。
【0074】
前述のように得られた各ペレットを、金でコーティングされたブロッキング電極(blocking electrode)間に圧着させて伝導度測定セルを構成した。
【0075】
測定セルをオーブンに入れ、無加湿、空気雰囲気で温度条件を変えつつ、4極ACインピーダンス法を利用し、周波数0.1〜1x10
6Hz、振幅20mV条件でプロトン伝導度を測定した。
【0076】
前記伝導度の測定結果を
図5に示した。
【0077】
図5を参照し、Li
+ドーピング量の増加によって、伝導度が漸増し、最高伝導度を示す温度が高温領域に移動することが分かり、実施例1,3,4及び5の場合が、比較例1のSnP
2O
7に比べて、高い伝導特性を維持することが分かった。
【0078】
前記実施例1、比較例1−2によって製造された物質のプロトン伝導度特性を測定し、その結果を
図6に示した。プロトン伝導度の評価方法は、前述の実施例1,3,4,5及び比較例1−2によって得られた物質のプロトン伝導度の評価方法と同一である。
【0079】
図6を参照し、実施例1の無機プロトン伝導体は、比較例1の場合に比べて、プロトン伝導度が改善され、実施例1の無機プロトン伝導体は、比較例2のSn
0.9In
0.1P
2O
7に対して、最大伝導度のレベルは、類似した値を示しているが、最大伝導度を示す温度の領域帯が高温に移動したということが分かる。