(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
偽型化した前記アデノウイルス発現ベクターがアデノウイルス5型(Ad5)およびアデノウイルス35型(Ad35)に由来する配列を含有する、請求項7に記載の方法。
偽型化した前記アデノウイルス発現ベクターがアデノウイルス5型(Ad5)およびアデノウイルス11型(Ad11)に由来する配列を含有し、そして前記導入遺伝子、及び少なくとも1のジンクフィンガーヌクレアーゼを含む、請求項7に記載の方法。
T細胞内でタンパク質をコードする導入遺伝子の発現を増加させるためのキットであって、第1及び第2共刺激剤、ここで当該第1共刺激剤がCD3抗体を含み、かつ第2共刺激剤がCD28抗体を含む;と、(i)当該タンパク質をコードする導入遺伝子及び(ii)少なくとも1のジンクフィンガーヌクレアーゼをコードする配列を含むアデノウイルスベクターとを含むキット。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、本発明の好ましい実施形態について詳細に言及する。これらの実施例を添付図面に示す。
【0022】
本発明は、アデノウイルスベクターなどの非組み込み型のウイルスベクターを用いてT細胞内に外因性核酸を形質導入するための方法および組成物に関し、詳細には、これらの細胞内に入った導入遺伝子の発現に関する。本発明は、共刺激シグナルで活性化して外因性遺伝子物質を運ぶアデノウイルスベクターを用いて形質導入を行った際に、T細胞内における形質導入が高効率であったばかりでなく導入遺伝子も高発現していたという驚くべき結果に少なくとも部分的に基づいている。
【0023】
本発明の一態様は、T細胞内において外因性核酸を発現させるための方法に関する。好ましい実施形態では、本発明は、導入遺伝子をコードする外因性核酸を、この導入遺伝子を発現させる細胞内に導入するための改良された方法を提供する。「外因性核酸」は、細胞内に導入する任意の核酸として定義することができる。この外因性核酸が1つのポリペプチド産物をコードしてもよい。あるいは、この外因性核酸配列によって、1つ以上の非コード配列、たとえば1つ以上のRNA分子(短鎖干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、阻害RNA(RNAi)、マイクロRNA(miRNA)など)を生成させてもよい。この外因性核酸は、ある配列(たとえば遺伝子)と一致していてもしていなくてもよく、あるいは、細胞内においてみられるまたは発現されるものであってもよい。たとえば「外因性」核酸が、正常T細胞においては通常みられるが、形質導入を行うT細胞内においてはみられない、またはみられてもより少ない、あるいは発現量が少ない、ある遺伝子と一致していてもよい。本明細書において用いる「導入遺伝子」とは、発現させるために、すなわち転写および/または翻訳によってポリペプチド産物を生成させるために、細胞内に導入する外因性遺伝子を表す。また、本明細書においては「外因性核酸」を「外因性遺伝子物質」と互換可能に用いる。
【0024】
本明細書において用いる「核酸」という用語は、1本鎖または2本鎖の構造をしたデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの重合体を表すことができる。この用語は、遺伝子、cDNA、mRNAなどを示すために用いる。本開示の目的のために、これらの用語がポリマーの長さに関して限定するように解釈されるべきではない。これらの用語は、天然のヌクレオチドの既知のアナログ、ならびに塩基、糖、および/またはリン酸基を改変したヌクレオチドを包含することができる。一般的に、ある特定のヌクレオチドのアナログは同じ塩基対特異性を有する。すなわち、AのアナログはTと塩基対をなすであろう。また、この用語は、天然に生じた場合に致死性となるような、あるいは天然に生じないような修飾主鎖残基または結合を含む核酸も包含する。このようなアナログの例には、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の方法によって形質導入させるT細胞は、任意の哺乳動物の任意のT細胞であってよい。本明細書において用いているように、「T細胞」は「Tリンパ球」と互換可能に用いられる。好ましい実施形態では、T細胞が初期リンパ球であり、より好ましくはヒトの初期Tリンパ球である。いくつかの好ましい実施形態では、T細胞がCD4+細胞である。また、このT細胞がCD8+細胞であってもよく、あるいはCD4+細胞とCD8+細胞の混合物であってもよい。当技術分野において周知の方法によって、本発明の組成物および方法に使用するためのT細胞を採取かつ/または入手することができる。試料はすぐに使用可能であり、あるいは将来使用するために凍結することもできる。凍結試料の場合には、当技術分野において周知の方法に従って、使用前に適切な培養液で解凍して培養することができる。
共刺激シグナル
【0026】
本発明の方法には、共刺激シグナルでT細胞を活性化することが含まれる。本明細書において用いているように、「共刺激シグナル」とは、少なくとも2つの共刺激剤が協調して働く活性化シグナルを表す。好ましい実施形態では、共刺激シグナルがT細胞の受容体の活性化を含み、かつ第1の共刺激剤がCD3リガンドを含み、好ましくは抗CD3抗体を含む。T細胞および特にCD4+T細胞の好ましい実施形態では、共刺激シグナルはさらにCD28受容体の活性化を含み、かつ第2の共刺激剤がCD28リガンドを含み、好ましくは抗CD28抗体を含む。CD8+T細胞の代替実施形態では、共刺激シグナルがさらにIL−15受容体の活性化を含み、かつ第2の共刺激剤がIL−15を含む。いくつかの実施形態では、抗体が、たとえばDynabeads CD3/CD28(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド市)のようにビーズ上に結合している。
【0027】
CD3およびCD28の経路の共刺激はCD4+T細胞の最適な形質導入に必要とされる一方、本明細書に示すように、追加の造血細胞系統はまた少なくとも2つの異なる伝達経路(たとえば、分裂シグナルや細胞間接触に関連するシグナル)を通って、完全な活性化を達成するために共刺激を必要とする。したがって、本明細書に記載の方法は、特定の細胞種に適した共刺激シグナルを除いて、同様のアデノウイルスベクターを使って別の細胞種に適用できるかもしれない。例としては、抗CD3抗体およびCD137リガンド(4−1BBL)によって共刺激されるCD8+T細胞(Wenら、J.Immunol.2002 May 15;168(10):4897−906)、CD40LおよびIL−4によって共刺激されるBリンパ球(Fecteauら、J.Immunol.2003 Nov l;171(9):4621−9)、および抗CD94抗体およびIL−2またはIL−15によって共刺激されるNK細胞のサブセット(Vossら、J.Immunol.1998 Feb l5;160(4):1618−26)が含まれるが、それらに限定されない。
発現ベクター
【0028】
本方法のさらなるステップには、活性化した細胞を、発現させる外因性遺伝子物質を運ぶベクターに曝露することが含まれる。本明細書で用いる「ベクター」という用語は、キャリアー核酸分子を表す。キャリアー核酸分子内には、細胞内に導入する核酸配列を挿入することができる。いくつかの実施形態では、このキャリアー核酸分子は導入された細胞内で複製可能である。好ましい実施形態では、ベクターが発現ベクターである。「発現ベクター」とは、形質導入させた細胞内において外因性遺伝子の転写を、かつ任意で翻訳を、許可するための適切な制御配列を含むベクターを意味する。一般的に、発現ベクターには「発現カセット」が含まれ、発現カセットには転写させる核酸をプロモーターに結合させて転写可能にしたものが含まれる。たとえば、発現ベクターの調節領域には挿入した核酸配列の転写を活性化するプロモーター配列が含まれていてもよい(このプロモーター配列に挿入する核酸を結合させて転写可能にする)。また、発現ベクターには塩基配列、たとえば1つ以上のRNA分子(たとえば、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、阻害RNA(RNAi)、マイクロRNA(miRNA)など)を転写させるためのベクターも含まれる。
【0029】
好ましい実施形態では、ベクターがアデノウイルス発現ベクターである。アデノウイルスは、約36、000塩基対の直鎖状2本鎖DNA分子と約90〜140塩基対の同一の逆方向末端反復(ITR)とを含有している。このITRの正確な長さは、アデノウイルスのセロタイプに依存する。アデノウイルスは、その感染のメカニズムを利用することによって、さまざまな型の細胞内で形質導入や導入遺伝子の発現を達成するためのベクターとして使用されてきた。たとえば、Ad5ベクターを使って、感染を成功させるための最初のステップは、アデノウイルスを標的細胞に結合させることであり、その過程はそれらの繊維タンパク質によって仲介される。この繊維タンパク質は3量体の構造を有している(Stouten,P.W.F.、Sander,C、Ruigrok,R.W.H.、およびCusack,S.(1992)アデノウイルス繊維の軸の新しい3重らせんモデル、J.MoI.Biol.226,1073−1084)。また、この繊維タンパク質はウイルスのセロタイプにより長さが異なる(Signas,G.、Akusjarvi,G.、およびPetterson,U.(1985)アデノウイルス3繊維ポリペプチド遺伝子:繊維タンパク質の構造の複雑さ、Journal of Virology.53,672−678;Kidd,A.H.、Chrboczek,J.、Cusack,S.、およびRuigrok,R.W./H.(1993)アデノウイルスタイプ40ウイルス粒子は2つの異なる繊維を含んでいる、Virology 192,73−84)。異なるセロタイプは、構造的に似たN末端およびC末端を有し、しかし中間の基部領域は異なるポリぺプチドを有している。N末端の最初の30アミノ酸は、ペントン基を繊維に固着するのに関わる(W.DoerferおよびP.Bohm(編)、Springer−Verlag、ベルリン市、アデノウイルスの分子レパートリーI、内のChroboczek J.、Ruigrok R.W.H.、およびCusack S.、1995.アデノウイルス繊維、p.163−200.)。特に、尾部に保存されたFNPVYP領域がある(Amberg N.、Mei Y.およびWadell G.、1997.目と生殖器指向性を有するアデノウイルスの繊維遺伝子、Virology 227:239−244)。C末端、または“ノブ”は細胞のアデノウイルス受容体と最初の相互作用をするのに関わる。この最初の結合の後、キャプシドペントン基と細胞表面のインテグリン間の第2の結合は、コートされたくぼみの中のウイルス粒子の内部移行と飲食作用を導く(Morgan,C、Rozenkrantz,H.S.、およびMednis,B.(1969)電子顕微鏡に観察されるようなウイルスの構造と発達X、J.Virol 4、777−796;Svensson,V.およびPersson,R.(1984).アデノウイルス2型のHeLa細胞への侵入、Journal of Virology.51、687−694;Varga,M.J.、Weibull,C、およびEveritt,E.(1991).アデノウイルス2型の感染侵入経路、Journal of Virology 65、6061−6070;Greber,U.F.、Willets,M.、Webster,P.、およびHelenius,A.(1993).細胞に侵入している間のアデノウイルス2型の段階的な分解、Cell 75、477−486;Wickham,T.J.、Mathias,P.、Cherish,D.A.、およびNemerow,G.R.(1993)ウイルス付着ではないインテグリンavb3とavb5プロモーターアデノウイルス内部移行、Cell 73、309−319)。インテグリンはαβヘテロ2量体で、少なくともその14αと8βサブユニットは同定されている(Hynes,R.O.(1992)インテグリン:細胞接着の万能性、調節と情報伝達、Cell 69、11−25)。細胞内で発現しているインテグリンの配列は複雑で、細胞種と細胞の環境間で変動するであろう。このノブはセロタイプ間である保存された領域を含むが、ノブタンパク質は高度な可変性を示し、かつそのことは、異なるアデノウイルス受容体が存在することを示している。
【0030】
いくつかの他のアデノウイルスベクターは、侵入する際に、別のメカニズムを使用することもある。たとえば、Ad35のようなサブグループBアデノウイルスは細胞接着受容体としてヒトCD46を使う(Gaggarら(2003)Nature Medicine、Vol.9、pp.1408−1412)。キメラAd5135ベクターはAd35と同じ受容体特異性を有し、したがってヒト造血幹細胞のような細胞のCAR非依存的形質導入を許すことも証明されてきている(Nilssonら(2004)Molecular Therapy、Vol.9、pp.377−388)。
【0031】
ヒトアデノウイルスの少なくとも6つの異なるサブグループが提唱され、約50の異なるアデノウイルスセロタイプが含まれる。これらのヒトアデノウイルスの他に、多くの動物のアデノウイルスが同定されている(たとえば、Ishibashi,M.およびYasue(1983)動物のアデノウイルス12章、p497−561を参照されたい)。動物の抗血清(ウマやウサギ)での定量的中和によって決定づけられるように、セロタイプはその免疫学的違いに基づいて定義され得る。もし中和することで2つのウイルス間である程度の相互反応が示されるならば、セルタイプの違いは、A)たとえば、赤血球凝集素阻害における交差反応の欠如によって示されるように、赤血球凝集素と関係ないかどうか、または、B)DNAの中に実質的な生物物理学的/生化学的な違いが存在するかどうか、が想定される。(Francki,R.I.B.、Fauquet,C.M.、Knudson,D.L.およびBrown,F.(1991)。ウイルスの分類と命名法、ウイルス分類国際委員の第5報告書、Arch.Virol.Suppl.2,140−144)異なるアデノウイルスセロタイプの抗体を中和するのに対する感受性の違いの他に、Ad2やAd5のようなサブグループCの中のアデノウイルスは、Ad3、Ad7、Ad11、Ad14、Ad21、Ad34およびAd35のようなサブグループB由来のアデノウイルスと比較したときに、異なる受容体に結合する(たとえば、Defer C、Belin M.、Caillet−Boudin M.およびBoulanger P.、1990.ヒトアデノウイルス宿主細胞相互作用:サブグループBとCのメンバーを用いた比較研究、Journal of Virology 64(8):3661−3673;Gall J.、Kass−Eisler A.、Leinwand L.およびFalck−Pedersen E.、1996.アデノウイルスの5型と7型とのキャプシドキメラ:繊維交換は初期免疫中和エピトープに影響することなく受容体の指向性を変える、Journal of Virology 70(4):2116−2123、などを参照されたい)。
【0032】
1つのアデノウイルスセロタイプの繊維タンパク質のノブ領域を、もう1つのセロタイプのそれと置き換えることによって、アデノウイルスベクターの偽型化は、本来可能となり得る(Stevenson,J Virol.1997 Jun;71(6):4782−90)。この種の繊維タンパク質操作は、ベクター指向性の変更を許す、すなわち細胞種の異なる範囲の形質導入を許す(Mizuguchi 2002、キメラな5型と35型の繊維タンパク質を含むアデノウイルスベクターは変えられかつ拡大された指向性を示し、かつ外因性遺伝子のサイズ制限を増す、Feb 20;285(l−2):69−77.、Takayamaら、Virology.2003 May 10;309(2):282−93.;Stecherら、Mol Ther.2001 Jul;4(l):36−44)。このようなキメラアデノウイルスベクターの構築は、当技術分野で周知である。たとえば、受容体特異性は、Ad3ノブタンパク質とAd5ノブタンパク質を、逆も同じであるが、交換することにより、変えられ得ることが証明されてきている(Krasnykh V.N.、Mikheeva G.V.、Douglas J.T.およびCuriel D.T.、1996.ウイルス指向性を変えるため修飾された繊維を有する組み換えアデノウイルスベクターの産生、Journal of Virology 70(10):6839−6846;Stevenson S.C、Rollence M.、White B.、Weaver L.およびMcClelland A.、1995.ヒトアデノウイルスセロタイプ3と5は、繊維の頭部領域を経由して、2つの異なる細胞の受容体に結合する、Journal of Virology 69(5):2850−2857、Stevenson S.C、Rollence M.、Marshall−Neff J.およびMcClelland A.、 1997.修飾された繊維タンパク質を含むキメラアデノウイルスベクターによるヒト細胞の選択的標的、Journal of Virology 71(6):4782−4790;また、Yotndaら、Gene Ther.2001 Jun;8(12):930−7なども参照されたい)。
【0033】
いくつかの実施形態では、アデノウイルス発現ベクターが偽型化される。たとえばベクターが、キメラのアデノウイルスベクター、すなわち2つ以上のアデノウイルス(外因性遺伝子を含む)由来の核酸配列を含む遺伝的に修飾されたベクターを含み得る。特に、この核酸配列は、2つの異なるセロタイプのアデノウイルス由来のアデノウイルスタンパク質と一致するであろう。好ましい実施形態では、ベクターが、少なくとも1つの組織指向性を決定づけている、サブグループBアデノウイルス由来の繊維タンパク質の断片と一致する配列を含む。この場合の指向性は、T細胞指向性である。より好ましい実施形態では、ベクターがAd5とAd35アデノウイルス由来の配列を含み、たとえば、ベクター上でAd5繊維遺伝子をAd35繊維遺伝子に置換する。さらにより好ましい実施形態では、Ad35塩基配列が、F35として知られる繊維タンパク質のノブ部分をコードするAd35の遺伝子と一致する。このようなベクターは、Ad5/F35ベクターと呼ぶことができる。いくつかの実施形態では、ベクターがAd5とAd11の塩基配列を含む。さらにいくつかの実施形態では、アデノウイルスベクターの組合せ、たとえば、本明細書に記載の任意の種類のアデノウイルス発現ベクターおよび/またはキメラアデノウイルスベクターの組合せを使用することができる。
【0034】
当業者は、本発明のいくつかの実施形態の実施において、アデノウイルスベクターに他の修飾または変更がなされ得ることを理解されよう。たとえば、いくつかの実施形態では、アデノウイルスベクターを改変して、標的細胞内におけるアデノウイルス核酸の複製を減少または不能にさせる。いくつかの実施形態では、アデノウイルス核酸を改変して、アデノウイルス核酸によってコードされるアデノウイルスタンパク質に対する免疫応答を開始するための宿主免疫システムの能力を減少または不能にさせる。いくつかの実施形態では、アデノウイルス核酸を改変して、宿主細胞ゲノムに組み込まれるようにする。たとえば、いくつかの実施形態では、類似配列を使用して、たとえば標的化した相同組換えを介して、アデノウイルス核酸の少なくとも一部を宿主細胞のゲノムに組み込む。
【0035】
本発明の方法に従って、たとえば、形質導入に適した状況下でT細胞をベクターに曝露することによって、ベクターでT細胞を形質導入させることができる。たとえば、Tリンパ球培養物は約37℃、5%CO
2で培養することができる。ベクターで細胞を「形質導入」させるとは、ベクターを細胞に侵入させることを表す。侵入はいかなる過程、たとえば、受容体を介した飲食作用、すなわち粒子が細胞に取り込まれる手段によってもよい。上記のより詳細な概要として、いくつかのアデノウイルス粒子の取り込みには一般的に2段階の過程がある。まず、ウイルスの繊維タンパク質と細胞受容体との相互作用がこの過程に関わる。たとえば、MHCクラスI分子とコクサッキーウイルス−アデノウイルス受容体との相互作用などである。ウイルスペントンタンパク質は、次いで、受容体を介した飲食反応を経た内部移行を促進することによって、インテグリン細胞受容体に結合する。たとえば、これは、A5ベクターによって使われるメカニズムである。他のアデノウイルスベクター、たとえばAd5/Ad35ベクターは、侵入のためにCD46を使用する。当技術分野で知られた方法および/またはAdEasy(商標)(Strategene、カリフォルニア州ラホーヤ市)キットのような商業的に利用可能なキットを使って、アデノウイルスベクターを簡単に構築することができる。
【0036】
本発明のさらにいくつかの実施形態では、本明細書に記載の1又は複数のアデノウイルスベクターを、当技術分野で知られた別のアプローチと組み合わせて使用する。たとえば、アデノウイルスとレンチウイルスベクターの混合物を、形質導入を達成するために使用してもよい。
【0037】
当業者に知られているように、感染多重度(MOI)を変えるために、ベクターをさまざまな希釈で前記T細胞に直接加えることができる。たとえば、1細胞あたり約10〜1000感染単位の範囲のMOIになるように、ベクターを培養液で希釈することができる。本発明を使用することによる利点は、MOIを、特にヒトの免疫細胞およびT細胞に対してより毒性の低いレベルに低下させることができると同時に、効果的なアデノウイルス形質導入と適切な導入遺伝子発現レベルをなお達成していることである。
【0038】
いくつかの実施形態では、抗CD3と抗CD28抗体で被覆されたビーズを使ってCD4+細胞を活性化し、導入させる外因性遺伝子を運ぶAd5/F35ベクターで形質導入させる。
【0039】
形質導入後、T細胞で外因性遺伝子を発現させることができる。以下の実施例でより詳細に説明しているように、本発明のいくつかの実施形態によって、以前に記載された方法(たとえば、レンチウイルス遺伝子送達を使う方法)と比較して、驚くべきかつ予想外に高い導入遺伝子発現レベルが得られた。さらに、本発明のいくつかの実施形態の方法は、T細胞活性化を用いない場合を超える、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、または少なくとも約20倍の改良をもたらす。
【0040】
たとえばいくつかの好ましい実施形態では、本明細書で提供する方法が、以前に当技術分野で記載された方法と比較して外因性遺伝子の発現レベルを上昇させるという結果が得られた。たとえば、本明細書での方法は、共刺激シグナルを用いずに得られた発現レベルの約2倍以上、約3倍以上、または約4倍以上のレベルを提供し得る。さらに、本発明はまた、細胞を活性化する既知の方法と比較して改良された発現レベルも提供し得る。たとえば、PHAまたはIL−2による刺激前と比較して、本発明のいくつかの実施形態の方法では、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、または少なくとも約6倍の導入遺伝子発現レベルを提供する。たとえば、以下の実施例を参照されたい。実施例では、導入遺伝子としてGFP遺伝子を用いることによって、GFPの蛍光強度から導入遺伝子発現レベルを測定している。
【0041】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、PHAまたはIL−2によって予め刺激した場合と比較して、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、またはさらに少なくとも約15倍の導入遺伝子発現のレベルを提供する。たとえば、以下の実施例を参照されたい。実施例では、導入遺伝子としてコードされたヌクレアーゼの発現によって生じるNHEJの割合から導入遺伝子発現レベルを測定している。
図11も参照されたい。
図11には、PHAまたは抗CD3/抗CD28抗体のいずれかによって予め刺激した場合の、CCR5を標的とするジンクフィンガーヌクレアーゼを運ぶAd5/F35ベクターに曝露したCD4+T細胞内におけるCCR5遺伝子の改変の違いを示している。
【0042】
形質導入によって、一過的に発現させることも、あるいは安定的に発現させることもできる。導入遺伝子が、安定的に宿主ゲノムに組み込まれる場合には、たとえば、安定した発現が得られる。いくつかの適用例においては、一過的な発現がより好ましい。たとえば、ある方法には、宿主のゲノム上の領域と1塩基違いのほぼ相同な配列を使うことが含まれる。この場合の組込みは、たとえば、10個中1個または20個中1個のような高い確率で起こり得る。しかし、細胞が分裂するときに、このヌクレオチドの違いは修復される。この方法によって、高い形質導入効率と高いが一過的な導入遺伝子発現を得ることができる。
【0043】
当業者は、細胞に導入した外因性核酸を発現させる必要のない適用例にも気付くであろう。たとえば、本発明のいくつかの実施形態の方法は、それ自体に有効な核酸配列を送達することができる。転写されるが、翻訳されない核酸配列には、たとえば、アプタマー、リボソームRNA、tRNA、スプライセオソーマルRNA、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA、miRNAおよびmRNAが含まれる。したがって、本発明の他の一態様は、共刺激シグナルでT細胞を活性化し、外因性遺伝子を送達するアデノウイルスベクターにT細胞を曝露し、かつベクターをT細胞に侵入させることによってT細胞を形質導入させる方法に関する。上記に記載の細胞、ベクター、および共刺激シグナルを、本発明のこの態様に用いることもできる。本発明の好ましい実施形態によって、T細胞に外因性遺伝子物質を導入することに関して、形質導入効率の増大が得られる。たとえば、いくつかの実施形態では、形質導入効率が、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、または少なくとも約80%である。核酸送達効率は、当技術分野に知られるさまざまな技術によって測定することができる。例として、フローサイトメトリー、Cel1アッセイ、およびその類似方法を含むが、これらに限定されない。
キット
【0044】
本発明の他の一態様では、T細胞を形質導入させるためのかつ/またはT細胞内で外因性遺伝子を発現させるためのキットを含む。このようなキットは、1つ又は複数の本発明の組成物を含む適切な物質を、より好ましくは適切なラベルをして、適切な容器で、パッケージすることで構築され得る。キットはまた、該方法を実施するためにかつ/または形質導入および/または導入遺伝子発現の割合を測定するために役立つ追加的試薬や物質(たとえば、適切な緩衝液、塩類溶液など)も含み得る。いくつかの実施形態では、このキットがさらに、本明細書で開示する形質導入および/または導入遺伝子発現に関係する適切な説明書のセットも含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、キットが共刺激剤およびアデノウイルスベクターを含み、たとえば、さらにアデノウイルス発現ベクターを含む。本明細書において用いる「共刺激剤」とは、T細胞活性化のために共刺激シグナルを与えることができる任意の化合物、組成物、凝集物、溶液などを表すことができる。例としては、本明細書に記載のような組合せで、抗CD3抗体の被覆ビーズ、抗CD3抗体および抗CD28抗体の被覆ビーズ、およびIL−15を含むが、これらに限定されない。
【0046】
キットのアデノウイルスベクターは、本明細書に記載の任意の1つ又は複数のアデノウイルスベクターにすることができる。好ましい実施形態では、ベクターが、T細胞の形質導入を促進するために偽型化したアデノウイルス発現ベクターである。特定の一実施形態では、ベクターにはAd5/F35ベクターが含まれる。いくつかの実施形態では、ベクターがさらに、T細胞における形質導入および/または発現のための外因性遺伝子を運ぶ。他の実施形態では、ベクターが外来の挿入断片なしで提供される。たとえば、使用者が選択した外因性遺伝子を挿入できるように、ベクターがアデノウイルスの塩基配列と説明書とで提供される。
【0047】
当業者は、本明細書に記載の改良された方法や組成物のさまざまな用途を理解されよう。たとえば、本発明の方法は、より高い形質導入効率(形質導入される確率という観点から)かつ/またはより高い形質導入発現レベルが望まれるex vivoでの応用に用いることもできる。このような適用例は、遺伝子改変、遺伝子の機能解析、およびT細胞の性質を変えることを含むが、これらに限定されない。
遺伝子改変
【0048】
遺伝子改変に関しては、ヌクレアーゼの送達および/または発現の増強によって、遺伝子破壊、遺伝子改変、および/または標的化した組込みを導くことができる。たとえば、そのような適用例においては、外因性遺伝物質が、より詳しくは後述するがCCR5−ZFN(8267および8196z)やGR−ZFN(9674および9666)などのジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)のようなヌクレアーゼを含んでもよい。NHEJを介してかつ/または相同組換え修復(HDR)の供与体を介して組込みが生じて、改変する標的遺伝子の領域および/またはランダムに破壊する多様な遺伝子の領域に外因性遺伝子が導入され得る。HDRには、HDR装置の鋳型として用いることのできるZFN標的部位と相同な配列を供与分子に提供することが含まれる。
【0049】
いくつかの実施例では、導入に用いるベクターがジンクフィンガー対を含む。ジンクフィンガー対とは、2つの結合ドメインを有する1つ又は複数のジンクフィンガータンパク質を表す。「ジンクフィンガータンパク質」または「ZFP」の用語は、亜鉛(ジンク)によって安定化されるDNA結合ドメインを有するタンパク質を表す。個々のDNA結合ドメインは、一般的に「指(フィンガー)」として表される。ZFPは少なくとも1つのフィンガー、一般的には2つのフィンガー、3つのフィンガー、4つのフィンガー、5つのフィンガー、または6つのフィンガーを持つ。それぞれのフィンガーは、2〜4塩基対のDNAに結合し、一般的には3〜4塩基対のDNAに結合する。ZFPは、標的部位または標的セグメントと呼ばれる核酸配列に結合する。それぞれのフィンガーは一般的に、約30アミノ酸、ジンクキレート、DNA結合サブドメインを含む。これらのタンパク質の1つのクラス(C
2H
2クラス)を特徴づける例示的なモチーフは、‐Cys‐(X)
2-4‐Cys‐(X)
12‐His‐(X)
3-5‐His(Xは任意のアミノ酸)である(配列番号29)。研究によって、このクラスの1つのジンクフィンガーは、1つのベータターンの2つのシステイン残基とともにジンクに連動する2つの不変のヒスチジン残基を含むアルファへリックスを含むことが示されている(たとえばBergおよびShi、Science 271:1081−1085 (1996年)を参照されたい)。非標準的な(すなわち、非C
2H
2)ジンクフィンガータンパク質も、たとえば米国特許第7,273,923号、および第7,262,054号、ならびに米国特許公開第20060246588号、第20060246567号、および第20030108880号に記載されている。
【0050】
ジンクフィンガー結合ドメインを改変して、予め決定したヌクレオチド配列と結合させることができる。たとえば、米国特許出願公開第2007/0059795号を参照されたい。好ましい実施形態では、たとえば、ジンクフィンガー対がCCR5を標的とすることができる。より好ましい実施形態では、たとえば、ベクターがCCR5を標的とするジンクフィンガー対とヌクレアーゼ(ZFN)との両方を運び、後に詳しく述べるように、それによってヌクレアーゼがCCR5遺伝子を特異的に切断することができる。
【0051】
あるいは、DNA結合ドメインがヌクレアーゼ由来であってもよい。たとえば、I−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、I−PanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevIIおよびI−TevIIIのようなエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼに由来する認識配列が知られている。米国特許第5,420,032号、米国特許第6,833,252号、Belfortら(1997年)Nucleic Acid Res.25:3379−3388、Dujonら(1989年)Gene 82:115−118、Perlerら(1994年)Nucleic Acid Res.22,1125−1127、Jasin(1996年)Trends Genet.12:224−228、Gimbleら(1996年)J.Mol.Biol.264:163−180、Argastら(1998年)J.Mol.Biol.280:345−353、およびthe New England Biolabs catalogueも参照されたい。加えて、エンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼに由来するDNA結合特異性を改変して、非天然の標的部位に結合させることができる。たとえば、Chevalierら(2002年)Molec.Cell 10:895−905、Epinatら(2003年)Nucleic Acids Res.31:2952−2962、Ashworthら(2006年)Nature 441:656−659、Paquesら(2007)Current Gene Therapy 7:49−66、米国特許公開第20070117128号を参照されたい。
ジンクフィンガーヌクレアーゼ
【0052】
本明細書に記載するのは、たとえばCCR5遺伝子の不活化のような、遺伝子の不活化に用いることができるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)である。ZFNはジンクフィンガータンパク質(ZFP)ドメインおよびヌクレアーゼ(切断)ドメインを含む。ジンクフィンガーヌクレアーゼならびにそれらの作製方法および使用方法についての例示的な開示は、米国特許出願公開第2003/0232410号、第2005/0026157号、第2005/0064474号、第2005/0208489号、および第2006/0188987号、ならびにPCT公開第WO2005/84190号および第WO2007114275号に提供される。例示的なCCR5標的化ZFN対ならびにそれらの作製方法および使用方法は、国際特許公開第WO2007/139982号に開示され、本明細書にも完全に組み込まれる。
A.ジンクフィンガータンパク質
【0053】
ジンクフィンガー結合ドメインを改変して、選択した配列と結合させることができる。たとえば、Beerliら(2002年)Nature Biotechnol.20:135−141、Paboら(2001年)Ann.Rev.Biochem.70:313−340、Isalanら(2001年)Nature Biotechnol.19:656−660、Segalら(2001年)Curr.Opin.Biotechnol.12:632−637、Chooら(2000年)Curr.Opin.Struct.Biol.10:411−416を参照されたい。改変したジンクフィンガー結合ドメインが、天然に生成されるジンクフィンガータンパク質と比較して、新規な結合特異性を有していてもよい。改変方法には、合理的な設計およびさまざまな様式の選択が含まれるが、これらに限定されない。合理的な設計には、たとえば、3塩基組(または4塩基組)のヌクレオチド配列およびそれぞれのジンクフィンガーアミノ酸配列を含むデータベースを用いることが含まれ、3塩基組または4塩基組のヌクレオチド配列のそれぞれが、特定の3塩基組または4塩基組の配列に結合するジンクフィンガーの1つ又は複数のアミノ酸配列と関連している。たとえば、共同所有の米国特許第6,453,242号および第6,534,261号、ならびに米国特許出願公開第2004/0197892号を参照されたい。また、これらのすべてが参照により本明細書に完全に組み込まれる。設計方法は、米国特許第6,013,453号、第6,479,626号、第6,746,838号、第6,866,997号、第6,903,185号、第7,030,215号、および第7,153,949号、ならびに第WO01/53480号にも開示されており、これらの開示は参照によりその全体が組み込まれる。
【0054】
例示的な選択方法には、ファージディスプレイ系およびツーハイブリッド系が含まれ、米国特許第5,789,538号、第5,925,523号、第6,007,988号、第6,013,453号、第6,410,248号、第6,140,466号、第6,200,759号、第6,242,568号、第6,790,941号、ならびに国際特許第WO98/37186号、第WO98/53057号、第WO00/27878号、第WO01/88197号および第GB2,338,237号に開示されており、これらの開示は参照によりその全体が組み込まれる。ジンクフィンガー結合ドメインの結合特異性を高めることについては、たとえば、共同所有の米国特許第6,794,136号に開示されている。
【0055】
特定の実施形態では、本明細書に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼのジンクフィンガードメインが、CCR5遺伝子における標的配列に結合する。表1は、ヒトCCR5遺伝子のヌクレオチド配列に結合するように改変された、いくつかのジンクフィンガー結合ドメインを示している。それぞれの行は別々の場所にあるジンクフィンガーDNA結合ドメインを示している。それぞれのドメインのDNA標的配列を第1列目に示しており(DNA標的部位は大文字で、接触しないヌクレオチドは小文字で示されている)、第2〜5列目はタンパク質のそれぞれのジンクフィンガー(F1〜F4)の認識領域のアミノ酸配列を示している(ヘリックスの開始位置に対して、アミノ酸−1から+6)。第1列目には、それぞれのタンパク質の特定番号をも示している。
ヒトCCR5遺伝子を標的とするジンクフィンガーヌクレアーゼ
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0056】
特定の実施形態では、表1に示すようなジンクフィンガー結合ドメインを、切断ハーフドメイン、たとえば、FokIなどのタイプII制限エンドヌクレアーゼの切断ドメインのようなものと融合する。このようなジンクフィンガー/ヌクレアーゼハーフドメイン融合物の対は、たとえば米国特許出願公開第2005/0064474号に記載されるように、標的化した切断のために利用される。たとえば、ZFN‐215は、8267(配列番号1に示した標的配列により認識され、配列番号2、6、4、および8に示した4つの認識へリックスを含む)と8196z(配列番号9に示した標的配列により認識され、配列番号10、17、12、および13に示した4つの認識へリックスを含む)との対で設計されたジンクフィンガー結合ドメインを含む融合タンパク質を意味する。ZFN‐201は8266(配列番号1に示した標的配列を認識し、配列番号2、5、4、および8に示した4つの認識へリックスを含む)および8196z(配列番号9に示した標的配列により認識され、配列番号10、17、12、および13に示した4つの認識へリックスを含む)で設計されたジンクフィンガー結合ドメインを含む融合タンパク質の対を意味する。
【0057】
標的化した切断のために、結合部位の近隣端は5つもしくはそれ以上のヌクレオチド対に分離することができ、また、それらの融合タンパク質は標的DNAの反対鎖と結合することができる。したがって、表1に「r162設計」(リバース鎖に結合し、その結合部位の下流端がヌクレオチド162にあることを示している)として示したタンパク質はいずれも、「168設計」(r162設計により方向づけられ、またはその結合部位の上流端がヌクレオチド168である反対鎖に結合することで示される)として示した任意のタンパク質と対をなすことができる。たとえば、タンパク質8267はタンパク質8196またはタンパク質8196z、あるいは168設計のその他の任意のタンパク質と対をなすことができ、すなわち、タンパク質8266はタンパク質8196または8196z、あるいは168設計のその他の任意のタンパク質とも対をなすことができる。すべてのr162および168設計の対合成は、CCR5遺伝子を標的とした切断および変異生成に用いることができる。同様に、7524タンパク質(または他の任意のr627設計)はCCR5遺伝子を標的とした切断および変異生成を行うために8040タンパク質(または他の任意の633設計)との結合に利用することができる。
【0058】
本明細書に記載のCCR5‐ZFNは、CCR5ゲノム内の任意の配列を標的とすることができる。たとえば、CCR5のゲノム配列(CCR5‐A32のような対立遺伝子多型を含む)は当技術分野で周知であり、ホモ接合型のCCR5‐432を有する個体(たとえば、Liuら(1996年)Cell 367377を参照されたい)はHIV‐1感染に抵抗性である。
B.切断ドメイン
【0059】
本明細書に記載の融合切断ドメイン部は、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。切断ドメインを得ることのできる例示的なエンドヌクレアーゼには、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼが含まれるが、これらに限定されない。たとえば、2002−2003 Catalogue、New England Biolabs,マサチューセッツ州ビバリー市、およびBelfortら(1997年)Nucleic Acids Res.25:3379−3388を参照されたい。DNAを切断する酵素は他にも知られている(たとえば、S1ヌクレアーゼ、大豆ヌクレアーゼ、膵DNアーゼI、ミクロコッカスヌクレアーゼ、酵母HOエンドヌクレアーゼなど、また、Linnら(編)Nucleases、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1993年も参照されたい)。既知のホーミングヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼの例としては、I−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、I−PanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevIIおよびI−TevIIIが含まれるが、これらに限定されない。米国特許第5,420,032号、米国特許第6,833,252号、Belfortら(1997年)Nucleic Acids Res.25:3379−3388、Dujonら(1989年)Gene 82:115−118、Perlerら(1994年)Nucleic Acids Res.22、1125−1127、Jasin(1996年)Trends Genet.12:224−228、Gimbleら(1996年)J.MoI.Biol.263:163−180、Argastら(1998年)J.MoI.Biol.280:345−353、およびthe New England Biolabs catalogueを参照されたい。これらの酵素(またはその機能性断片)の1つ又は複数を、切断ドメインおよび切断ハーフドメインの提供源として利用することができる。
【0060】
同様に、切断ハーフドメインは任意のヌクレアーゼまたはそれらの一部分から得ることができ、上記のように、切断活性のために2量体化が必要とされる。一般的に、融合タンパク質が切断ハーフドメインを含む場合には、2つの融合タンパク質が切断に必要とされる。あるいは、2つの切断ハーフドメインを含む1つのタンパク質を用いることも可能である。2つの切断ハーフドメインは同じエンドヌクレアーゼ(またはそれらの機能性フラグメント)から得ることができ、あるいはそれぞれの切断ハーフドメインは異なるエンドヌクレアーゼ(またはそれらの機能性フラグメント)から得ることもできる。加えて、2つの融合タンパク質がそれらの各々の標的部位に結合する際に、切断ハーフドメインが、たとえば2量体化によって、機能的な切断ドメインを形成できる空間的な方向性で互いに位置することができるように、2つの融合タンパク質の標的部位を互いに配置することが好ましい。したがって、特定の実施形態では、標的部位の隣接端は5〜8ヌクレオチドまたは15〜18ヌクレオチド離される。しかし、2つの標的部位の間に、任意の整数のヌクレオチドまたはヌクレオチド対(たとえば、2〜50ヌクレオチド対またはそれ以上)があってもよい。一般的に、切断部位は2つの標的部位の間にある。
【0061】
制限ヌクレアーゼ(制限酵素)は多くの種に存在し、また、DNAの特定配列に(認識領域において)結合して、結合した部位またはその近隣のDNAを切断することができる。特定の制限酵素(たとえば、タイプIIS)は認識領域とは違う部位でDNAを切断し、結合ドメインおよび切断ドメインが離れている。たとえば、タイプIIS、FokI酵素はその1つの鎖の認識部位から9ヌクレオチドおよびその他のその認識部位から13ヌクレオチドで、DNAの二本鎖切断を触媒する。たとえば、米国特許第5,356,802号、第5,436,150号、および第5,487,994号、ならびにLiら(1992年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:42754279、Liら(1993年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2764−2768、Kimら(1994年a)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:883−887、Kimら(1994年b)J.Biol.Chem.269:31、978−31、982を参照されたい。したがって、一実施形態では、融合タンパク質が、少なくとも1つのタイプIIS制限酵素および1つ又は複数のジンクフィンガー結合ドメイン由来の切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)を含み、これらは改変したものでもしていないものでもよい。
【0062】
切断ドメインが結合ドメインと離れている例示的なタイプIIS制限酵素はFokIである。この特定の酵素は2量体で活性を有する。Bitinaiteら(1998年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:10、570−10、575。したがって、本開示の目的のために、記載の融合タンパク質に用いるFokI酵素の部分は、切断ハーフドメインとみなされる。したがって、ジンクフィンガー‐FokI融合の標的となる二本鎖切断および/または細胞配列の標的置換は、触媒的に活性のある切断ドメインに再構成される。あるいは、ジンクフィンガー結合ドメインを有する単一ポリペプチド分子または2つのFokI切断ハーフドメインも利用され得る。標的化した切断およびジンクフィンガー‐FokI融合を用いた変性標的配列のパラメーターは、この開示の他の部分に記載する。
【0063】
切断ドメインまたは切断ハーフドメインは、切断活性を有するタンパク質の任意の部分、あるいは多量体化(たとえば、2量体化)して機能的な切断ドメインを形成し得るタンパク質の任意の部分とすることができる。
【0064】
例示的なタイプIIS制限酵素は、米国特許出願公開第2005/0064474号および国際特許公開第WO2007/014275号に開示されており、その全体が本明細書に組み込まれる。付加的な制限酵素も、分離した結合部位および切断ドメインを含み、かつこれらは本開示によって熟慮される。たとえば、Robertsら(2003年)Nucleic Acids Res.31:418−420を参照されたい。
【0065】
切断特異性を高めるために、切断ドメインも修飾されるであろう。ある実施形態では、切断ハーフドメインの多型が採用され、それは多型が最小限に抑えられている、または切断ハーフドメインのホモ2量体化を防ぐものである。そのような改変された切断ハーフドメインの非限定的な例は、詳細にWO2007/014275に述べられており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。特定の実施形態では、切断ドメインが、ホモ2量体化を最小限にするあるいは防ぐように改変された切断ハーフドメイン(2量体化ドメイン変異体とも呼ばれる)を含有する。これは当業者に知られており、たとえば、米国特許公開第20050064474号および第20060188987号に記載され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。FokIのアミノ酸残基446位、447位、479位、483位、484位、486位、487位、490位、491位、496位、498位、499位、500位、531位、534位、537位、および538位はすべて、FokI切断ハーフドメインの2量体化に影響する標的部位である。たとえば、米国特許公開第20050064474号および第20060188987号、国際特許公開第WO07/139898号、Millerら(2007)Nat.Biotechnol.25(7):778−785を参照されたい。
【0066】
ヘテロ2量体を構成するFokIの例示的な改変切断ハーフドメインは、第1の切断ハーフドメインがFokIの490位および538位のアミノ酸残基に変異を有し、かつ第2の切断ハーフドメインが486位および499位のアミノ酸残基に変異を有する対を含む。国際特許公開WO2007/139982の
図2、3、および4を参照されたい。また、これらは参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0067】
したがって、一実施形態では、
図3および4に示すように、490における変異ではGIu(E)をLys(K)に置換し、538における変異ではIso(I)をLys(K)に置換し、486における変異ではGin(Q)をGIu(E)に置換し、かつ499における変異ではIso(I)をLys(K)に置換する。特に、本明細書に記載される改変切断ハーフドメインは、「E490K:I538K」改変切断ハーフドメインとして導入される1つの切断ハーフドメインにおける490位(EからK)および538位(IからK)の変異、および「Q486E:I499L」改変切断ハーフドメインとして導入される他方の切断ハーフドメインにおける486位(QからE)および499位(IからL)の変異によって調整される。本明細書に記載の改変切断ハーフドメインは変種の切断が最小限化されまたは除去されるヘテロ2量体変異体となる。たとえば、国際特許公開07/139898の実施例1を参照されたい。この開示は、参照によりすべての目的のためにその全体が組み込まれる。
【0068】
本明細書に記載の改変切断ハーフドメインは、適切な任意の方法を用いて調整することができ、たとえば、米国特許公開第2005/0064474号(たとえば実施例5)および第WO2007/14275号(たとえば実施例38)に記載されるように野性型の切断ハーフドメイン(FokI)の部位特異的変異導入法による。
C.CCR5の標的化した切断への付加的方法
【0069】
本明細書に開示する方法には、CCR5遺伝子に標的部位を持つ任意のヌクレアーゼを用いることができる。たとえば、ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼはきわめて長い認識領域を持ち、それらのうちいくつかは、統計学によると、かつてはヒトサイズのゲノムに存在していたようである。CCR5遺伝子の特徴的な標的部位を有する任意のヌクレアーゼを、CCR5遺伝子を標的とした切断のためにジンクフィンガーヌクレアーゼの代わりに、または付加的に用いることができる。
【0070】
例示的なホーミングエンドヌクレアーゼはI−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、IPanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevII、およびI−TevIIIを含む。これらの認識配列は知られている。米国特許第5,420,032号、米国特許第6,833,252号、Belfortら(1997年)Nucleic Acids Res.25:3379−3388、Dujonら(1989年)Gene 82:115−118、Perlerら(1994年)Nucleic Acids Res.22、1125−1127、Jasin(1996年)Trends Genet.12:224−228、Gimbleら(1996年)J.MoI.Biol.263:163−180、Argastら(1998年)J.MoI.Biol.280:345−353、およびthe New England Biolabs catalogueも参照されたい。
【0071】
多くのホーミングエンドヌクレアーゼも切断特異性はそれらの認識領域に対して絶対的なものではないが、その部位は、哺乳類ゲノムに対する単一切断がその認識部位の単一コピーを含む細胞中でホーミングエンドヌクレアーゼが発現することによって得られるに充分な長さである。ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼの特異性は非天然標的部位に結合させるために改変できることも報告されている。たとえば、Chevalierら(2002年)Molec.Cell 10:895−905、Epinatら(2003年)Nucleic Acids Res.31:2952−2962、Ashworthら(2006年)Nature 441:656−659、Paquesら(2007年)Current Gene Therapy 7:49−66を参照されたい。
遺伝子解析
【0072】
遺伝子の機能解析に関して、cDNAカセットの送達および/または発現の改良によって、研究を行う遺伝子の発現を大幅に上昇させることができる。別の一実施例としては、siDNA発現カセットの送達および/または発現の改良によって、研究を行う遺伝子の発現を大幅に低下させることができる。いずれの場合にも、発現における大幅な変化によって、T細胞遺伝子の遺伝子機能の解析を促進することができる。
【0073】
ex vivoにおける適用例には、形質導入されたT細胞集団の機能的特性を変更することも含まれる。T細胞の機能を変更するために用いることのできる導入遺伝子の例には、より詳しくは後述するように、T細胞集団を特定抗原に再標的化させることができるキメラなT細胞受容体、ならびに過剰発現させることによって免疫機能および/または抗ウイルス活性を高めることのできるサイトカインが含まれるが、これらに限定されない。
治療
【0074】
本明細書に記載の方法および組成物を、動物対象者におけるいくつかの血液学的、免疫学的かつ/または遺伝的な疾患の治療に用いることもできる。本明細書で用いる「治療」(およびその文法上の変形)という用語は、治療上の利益および/または予防上の利益を得ることを含む。治療上の利益は治療する原因となっている疾患の根絶または寛解を意味する。同様に、治療上の利益は、対象者がまだ病気の状態にある事実にも関わらず、対象者に改善がみられるような状態下に関連する1つ又は複数の生理的な症状の根絶または寛解が得られる。予防上の利益のためには、本発明の組成物が、まだ診断がついていないとしても、状態の進行のリスクがある対象者、またはそのような状態の1つ又は複数の生理学的症状が報告される対象者に投与される。
【0075】
本発明はまた、本明細書に開示する1つ又は複数の方法および/または組成物を用いて治療を行うことができる対象者に投与するための医薬組成物を提供する。いくつかの実施例では、医薬組成物は、アデノウイルスベクターにより送達し、ex vivoで宿主細胞に導入する外因性遺伝子のような治療遺伝子を含む。「治療遺伝子」とは、形質導入および/または発現をさせた場合に、治療する対象者において利益ある結果をもたらす核酸分子を意味する。そのような治療遺伝子の例としては、T細胞発現を増強して、癌患者の治療に用い得るIL−2、ならびにTIC細胞感染およびAPC変異において重要な役割を果たし、ある種の白血病の患者の治療に用い得るCD40L(gp39またはCD154)が含まれる。特定の一実施例として、アロステリック制御可能なリボザイムがin vitroおよびin vivoでb2a2型bcr‐abl腫瘍遺伝子に存在する慢性骨髄性白血病のセルラインに細胞死を誘導することが示されている。Tanabeら、Nature 2000年、406:473−474。本発明のいくつかの実施例では、CML患者の初期T細胞内にこのリボザイムを形質導入するという用途もあり得、それはたとえば、本明細書で教示する1つ又は複数の方法を用いてリボザイムを形質導入して高いレベルで発現させることができる場合などである。
免疫学的疾患
【0076】
一実施形態では、形質導入されたT細胞によって発現した治療タンパク質は、免疫調節活性を持つ。たとえば、本発明の治療ポリペプチドは、免疫細胞の激増、分化、または可動化(走化性)の活性化または阻害により、免疫系の不全または疾患の治療に有用となり得る。免疫細胞は、多能性造血幹細胞から血液生成の過程、骨髄性(血小板、赤血球細胞、好中球、およびマクロファージ)およびリンパ細胞(Bリンパ球およびTリンパ球)の生成を通して発達する。これらの免疫不全または疾患は、遺伝的病因、体細胞性病因、たとえば癌または自己免疫疾患、後天的病因(たとえば、化学療法または毒による)、または感染によるものである。
【0077】
本発明の治療ポリペプチドは、血液生成細胞の欠陥または疾患の治療に有用である。本発明の治療ポリペプチドは、特定の(または多くの)タイプの血液生成細胞の減少に関連するそれらの疾患を治療しようとする目的で、多能性造血幹細胞を含む血液生成細部の分化および増殖の増加に用いることができる。免疫欠乏症候群の例には、血液タンパク質疾患(たとえば、γグロブリン欠乏血症、異常γグロブリン血症)、血管拡張性失調症、一般変異型免疫不全症、ディジョージ症候群、HIV感染、HTLV−BLV感染、白血球粘着因子欠乏症、リンパ球減少症、食細胞殺菌性機能不全、重症複合型免疫不全症(SCIDs)、ウィスコット・アルドリッチ症候群、貧血、血小板減少症、またはヘモグロビン尿症が含まれるが、これらに限定されない。
【0078】
本発明の治療用ポリペプチドは自己免疫疾患の治療にも有用である。多くの自己免疫疾患は、免疫細胞により異物として自己を不適当に認識することに起因する。この不適当な認識は宿主組織の破壊を誘導する免疫応答という結果となる。したがって、免疫応答、特にT細胞の増殖、分化、または走化性を阻害する本発明の治療用ポリペプチドの投与は、自己免疫疾患の防止に効果的な療法である。
【0079】
本発明により治療される自己免疫疾患の例には、アディソン病、溶血性貧血、抗リン脂質抗体症候群、リウマチ性関節炎、皮膚炎、アレルギー性脳脊髄炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、バセドウ病、多発性硬化症、重症筋無力症、神経炎、眼炎、水疱性類天然痘、天然痘、多内分泌障害、紫斑病、ライター病、スティッフマン症候群、自己免疫性甲状腺炎、全身性エリテマトーデス、自己免疫性肺胞性炎症、ギラン・バレー症候群、インスリン依存性糖尿病、クローン病、潰瘍性大腸炎、および、自己免疫性炎症性眼疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0080】
同様に、喘息(特にアレルギー性喘息)または他の呼吸器系の問題のような、アレルギー反応および状態が本発明の治療用ポリペプチドによって治療されうる。
【0081】
さらに、これらの分子はアナフィラキシー、抗原分子への過敏症、または血液型不一致の治療にも用いることができる。
【0082】
本発明の治療用ポリペプチドを、臓器拒絶反応または移植片対宿主疾患(GVHD)の治療および/または予防に用いることもできる。臓器拒絶反応は、宿主免疫細胞が免疫応答を介して移植組織を破壊することによって起こる。同様に、GVHDにも免疫応答が含まれるが、しかしこの場合では、外部から移植された免疫細胞が宿主組織を破壊する。免疫応答、特に、T細胞の増殖、分化、または走化性を阻害する本発明の治療用ポリペプチドを投与することは、臓器拒絶反応またはGVHDを予防するために効果的な療法となり得る。
【0083】
同様に、炎症を調節するために本発明の治療用ポリペプチドを用いてもよい。たとえば、この治療用ポリペプチドによって、炎症反応に関わる細胞の増殖および分化を阻害し得る。これらの分子を慢性および急性の両方の炎症性疾患の治療に用いることができ、これには、感染に起因する炎症(たとえば、敗血症ショック、敗血症、または全身性炎症反応症候群(SIRS))や、虚血再潅流による損傷、エンドトキシン致死性、関節炎、補体媒介劇症拒絶、腎炎、サイトカインまたはケモカインに誘導された肺損傷、炎症性大腸疾患、クローン病、またはサイトカイン(たとえば、TFNまたはIL‐1)の過剰発現に起因するものが含まれる。
【0084】
免疫調節活性を持つタンパク質のクラスの例には、サイトカインおよび胸腺ホルモンが含まれる。胸腺ホルモンには、たとえば、プロチモシンアルファ、チモリン、胸腺液性因子(THF)、THF‐γ‐2、胸腺細胞増殖ペプチド(TGP)、チモポイエチン(TPO)、チモペンチン、およびチモシン‐α‐1が含まれる。サイトカインという用語は、細胞内のコミュニケーションを仲介して個々の細胞および組織の機能的な活性を調整する、分泌型可溶性のタンパク質およびペプチドの多様なグループを表す。サイトカインのクラスには、インターロイキン、インターフェロン、コロニー刺激因子、およびケモカインが含まれる。サイトカインの例には、IL‐1α、IL‐1β、IL‐2からIL‐30、白血球抑制因子(LIF)、IFN‐α、IFN‐γ、TFN、TFN‐α、TGF‐β、G−CSF、M−CSF、およびGM−CSFが含まれる。たとえば免疫機能および/または抗ウイルス特性を増強するためなどに、1つ又は複数のサイトカインをT細胞に導入して過剰発現させることができる。
高増殖性疾患
【0085】
一実施形態では、本発明の治療タンパク質は細胞増殖の調節をすることができる。そのような治療ペプチドは腫瘍を含む、高増殖性疾患を治療することに用いることができる。
【0086】
本発明の治療ペプチドによる治療が可能な高増殖性疾患の例としては、腫瘍が腹腔、骨、乳房、消化器系統、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、目、頭部および頸部、神経(中枢および末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部、および泌尿生殖器に位置するものが含まれるが、これらに限定されない。
【0087】
同様に、本発明の治療用ポリペプチドによってその他の高増殖性疾患を治療することも可能である。そのような高増殖性疾患の例としては、高γグロブリン血症、リンパ増殖性障害、パラプロテイン血症、紫斑病、サルコイドーシス、セザリー症候群、ヴァルデンストロームマクログロブリン血症、ゴシェ病、組織球増加症、および上記に列挙した器官系に位置する、腫瘍以外の任意の他の過剰増殖性疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0088】
本発明による導入遺伝子によって発現する治療用ポリペプチドは、直接または間接的な相互作用を通した異常増殖を阻止する。形質導入された細胞の全身的な投与は、さまざまな組織の広範囲への治療タンパク質の接近方法を提供する。あるいは、本発明の治療用ポリペプチドが、高増殖性疾患を阻止することができるその他の細胞の増殖を刺激してもよい。
【0089】
たとえば、免疫応答を増強させること、特に、高増殖性疾患の抗原性を高めること、あるいはT細胞を増殖、分化、または可動化させることによって、高増殖性疾患を治療することができる。既存の免疫応答を促進すること、または新しい免疫応答を開始すること、いずれによってこの免疫応答を増強させてもよい。あるいは、化学療法因子を用いた場合のように、免疫応答を減少させることも、高増殖性疾患の治療方法となり得る。
感染症
【0090】
一実施形態では、本発明の治療用ポリペプチドを感染症の治療に用いることができる。たとえば、免疫応答を増強することによって、特にB細胞および/またはT細胞の増殖および分化を促進して、感染症を治療してもよい。免疫応答は、免疫応答の存在、または新しい免疫応答の開始のいずれによっても増強されうる。あるいは、本発明の治療用ポリペプチドが、必ずしも免疫応答の誘発をすることなく、感染因子を直接的に阻害してもよい。
【0091】
ウイルスは、本発明の治療用ポリペプチドによって治療されうる疾患または症状が起こる可能性のある感染因子の1つの例である。ウイルスの例としては、次に述べるDNAおよびRNAウイルスファミリー、すなわち、アルボウイルス科、アデノウイルス科、アレナウイルス科、アルテリウイルス科、ビルナウイルス科、ブニアウイルス科、カリシウイルス科、シルコウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、ヘパドナウイルス科(肝炎)、HIV、ヘルペスウイルス科(サイトメガロウイルス、単純ヘルペス、帯状疱疹など)、モノネガウイルス科(たとえば、パラクリウイルス科、ブルビリウイルス、ラブドウイルス)、オルソミキソウイルス科(たとえば、インフルエンザ)、パポバウイルス科、パルボウイルス科、ピコルナウイルス科、ポックスウイルス科(天然痘または牛痘など)、レオウイルス科(たとえば、ロタウイルス)、レトロウイルス科(HTLV‐I、HTLV‐II、レンチウイルス)、および、トガウイルス科(たとえば、ルビウイルス)が含まれるが、これらに限定されない。これらのファミリーの範囲内にあるウイルス群が引き起こす種々の疾患または症状には、関節炎、気管支炎、脳炎、眼感染症(たとえば、結膜炎、角膜炎)、慢性疲労症候群、肝炎(A、B、C、E、慢性活動性、デルタ)、髄膜炎、日和見感染(たとえば、AIDS)、肺炎、バーキットリンパ腫、水痘、出血熱、麻疹、おたふく風邪、パラインフルエンザ、狂犬病、一般的な風邪、ポリオ、白血病、風疹、性感染症、皮膚病(たとえば、カポジ、いぼ)、およびウイルス血症が含まれるが、これらに限定されない。これらの任意の症状または疾患の治療に、本発明の治療用ポリペプチドを用いることができる。
【0092】
HIV感染に関して、一方法では、上記により詳細に説明したように、CCR5遺伝子部位を標的とするジンクフィンガーヌクレアーゼを導入遺伝子として送達するアデノウイルスベクターを利用することを含む。たとえば、国際特許公開WO2007/139982も参照されたい。また、本明細書にその全体が組み込まれる。本発明のいくつかの実施形態によれば、改良された形質導入および導入遺伝子発現を達成することが可能であり、その結果、CCR5内で効率的な標的指向および切断が生じる。
【0093】
疾患または症状を引き起こす可能性があり、本発明の治療用ポリペプチドにより治療または検出することができる細菌性または真菌性の因子は、以下のグラム陰性細菌およびグラム陽性細菌のファミリーならびに真菌であり、放線菌目(たとえば、コリネバクテリウム属、マイコバクテリウム属、ノルカディア属)、アスペルギルス症、バチルス科(たとえば、炭疽菌、クロストリジウム)、バクテロイデス科、ブラストミセス症、ボルテデラ属、ボレリア属、ブルセラ症、カンジダ症、カンピロバクター属、コクシジウム症、クリプトコッカス症、皮膚真菌症、エンテロバクター(クレブシエラ属、サルモネラ属、セラチア属、エラシニア属)、エリシペロトリックス属、ヘリコバクター属、レジオネラ属、レプトスピラ属、リステリア属、マイコプラズマ目、ナイセリア科(たとえば、アシネトバクター属、淋病、髄膜炎菌)、パスツレラ感染症(たとえば、アクチノバチルス、ヘモフィルス、パスツレラ)、シュードモナス属、リケッチア属、クラミジア科、梅毒、およびブドウ球菌性が含まれるが、これらに限定されない。これらの細菌性または真菌性ファミリーが引き起こす疾患または症状には、菌血症、心内膜炎、眼感染症(結膜炎、結核、ブドウ膜炎)、歯肉炎、日和見感染(たとえばAIDSに関連する感染症)、爪周囲炎、プロステーシス関連感染症、ライター病、百日咳または蓄膿のような気道感染症、敗血症、ライム病、ネコひっかき病、赤痢、パラチフス、食中毒、腸チフス、肺炎、淋病、髄膜炎、クラミジア、梅毒、ジフテリア、ハンセン病、傍結核、結核、ループス、ボツリヌス中毒、壊疽、破傷風、膿痂疹、リウマチ熱、猩紅熱、性感染症、皮膚病(たとえば、蜂巣炎、皮膚真菌症)、毒素血症、尿路感染症、創傷感染症が含まれるが、これらに限定されない。これらの任意の症状または疾患の治療に、本発明の治療用ポリペプチドを用いることができる。
【0094】
さらに、本発明の治療用ポリペプチドにより治療できる疾患または症状を起こす寄生因子には、以下のファミリー、すなわち、アメーバ症、バベシア症、コクシジウム症、クリプトスポリジウム症、二核アメーバ症、媾疫、外寄生生物、ジアルジア症、蠕虫症、リーシュマニア症、タイレリア症、トキソプラズマ症、トリパノゾーマ症、およびトリコモナス症が含まれるが、これらに限定されない。これらの寄生生物が引き起こすさまざまな疾患または症状には、疥癬、ツツガムシ病、眼感染症、腸疾患(たとえば、赤痢、ジアルジア症)、肝疾患、肺疾患、日和見感染(たとえばAIDS関連)、マラリア、妊娠合併症、およびトキソプラズマ症が含まれるが、これらに限定されない。これらの任意の症状または疾患の治療に、本発明の治療用ポリペプチドを用いることができる。
再生
【0095】
本発明の治療用ポリペプチドを、組織を培養して再生させる際の細胞の分化、増殖、および誘引に用いることもできる。(Science 276:59〜87(1997)を参照されたい。)組織の再生は、先天性欠損、外傷(創傷、熱傷、切開、または潰瘍)、老化疾患(たとえば、骨粗鬆症、骨関節炎、歯周病、肝不全)、美容形成手術を含む外科手術、線維症、再灌流傷害、または全身性サイトカイン損傷により損傷を受けた組織の修復、交換、または保護に用いられることがある。
【0096】
本発明の治療用タンパク質が再生に貢献し得る組織には、器官(たとえば、膵臓、肝臓、腸、腎臓、皮膚、内皮)や、筋肉組織(平滑筋、骨格筋、または心筋)、脈管組織(脈管内皮を含む)、神経組織、造血組織、骨格組織(骨、軟骨、腱、および靭帯)が含まれる。小瘢痕で、あるいは瘢痕なく再生させることが好ましい。また、血管新生が再生に含まれることもある。
【0097】
さらに、本発明の治療用ポリペプチドによって、治癒困難な組織の再生を促進してもよい。たとえば、腱/靭帯の再生を促進することによって、損傷後の回復時期が早まるであろう。また、本発明の治療用ポリペプチドを、損傷回避のための処置に予防的に用いることもできる。治療し得る特定の疾患には、腱炎、手根管症候群、および腱または靭帯の他の障害が含まれる。非治癒性創傷の組織再生のさらなる実施例には、圧迫性潰瘍や、血管不全、外科的創傷、および外傷性創傷に関連した潰瘍が含まれる。
走化性
【0098】
一実施形態では、本発明の治療用ポリペプチドが走化性活性を有する。走化性分子によって炎症、感染、または過剰増殖の部位など体内の特定部位に細胞(たとえば、単球、線維芽細胞、好中球、T細胞、肥満細胞、好酸球、上皮細胞、および/または内皮細胞)を誘引または移動させ、移動した細胞によってその特定の外傷または異常を撃退および/または治癒することができる。
【0099】
本発明の治療用ポリペプチドによって、形質導入した細胞の走化性活性を高めることもできる。走化性分子を発現させ、体内の特定部位を標的とする細胞数を増加させることによって、これを炎症、感染、過剰増殖性障害、または任意の免疫系障害の治療に利用することができる。たとえば、損傷部位にさらに多くの免疫細胞を誘引するような走化性分子を、組織創傷および他の組織外傷の治療に利用することができる。本発明の走化性分子によって線維芽細胞を誘引することも可能であり、これを創傷の治療に利用することもできる。
【0100】
また、本発明の治療用ポリペプチドが走化性活性を阻害し得ることも意図され、そのような分子も疾患の治療に利用可能であろう。したがって、本発明の治療用ポリペプチドを走化性の阻害剤として用いることもできる。
【0101】
利用が意図される他の治療用ポリペプチドには下記のものが含まれるが、これらに限定されない。成長障害または消耗症候群の治療用として、成長因子(たとえば、成長ホルモン、インスリン様成長因子1、血小板由来成長因子、上皮成長因子、酸性線維芽細胞成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、トランスフォーミング成長因子(3など);外因性抗原または病原体(たとえば、ヘリコバクターピロリ)に対する対象者の受動免疫または防御を提供するためとして、あるいは癌、関節炎、または心血管疾患の治療用として、抗体(たとえば、ヒト抗体、ヒト化抗体);サイトカイン、インターフェロン(たとえば、インターフェロン(INF)、INF−a2b、INF−a2a、INF−aN1、INF−(31b、INF−γ)、インターロイキン(たとえば、IL−1〜IL−10)、腫瘍壊死因子(TNF−a、TNF−R)、ケモカイン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、ポリペプチドホルモン、抗微生物性ポリペプチド(たとえば、抗細菌性、抗真菌性、抗ウイルス性、および/または抗寄生虫性のポリペプチド)、酵素(たとえば、アデノシンデアミナーゼ)、性腺刺激ホルモン、ケモタキシン、脂質結合タンパク質、フィルグラスチム(ニューポジェン)、ヘモグロビン、エリスロポエチン、インシュリノトロピン、イミグルセラーゼ、サルグラモスチム、組織プラスミノーゲン活性化因子(WA)、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、トロンボポエチン(TPO)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、アデノシン、デアミダーゼ、カタラーゼ、カルシトニン、エンドセリアン、L−アスパラギナーゼ、ペプシン、ウリカーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ、ラクターゼ、サッカラーゼ、内因子、カルシトニン、副甲状腺ホルモン(PTH)様ホルモン、可溶性CD4、ならびに抗体(たとえば、オルソクローンOKT3(抗CD3抗体)、GPllb/llaモノクローナル抗体)および/またはその抗原結合フラグメント(たとえば、Fab)。
【0102】
当業者は、本発明のさまざまな実施形態の方法および/または組成物を用いて形質導入した細胞内において、他の治療用遺伝子産物を発現し得ることを理解されよう。米国特許出願公開第2007/0059833号などに記載される他の実施例を参照されたい。当業者はまた、本明細書に開示する遺伝子療法のための方法の有用性を理解されよう。遺伝子療法において、遺伝情報を宿主細胞に送達する目的は、通常、宿主細胞における遺伝的な欠陥を修正(補正)するため、宿主細胞内での望ましくない作用を阻害するため、あるいは宿主細胞を除去するためである。さらに、遺伝情報によって宿主細胞に所望の機能をもたらすことを意図してもよく、たとえば、宿主細胞に分泌タンパク質を供給して、その宿主個体の別の細胞を治療することなども可能である。
【0103】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の治療用遺伝子産物を医薬品用に精製することもできる。いくつかの実施形態では、後でさらに詳細に説明するように、遺伝子を導入したT細胞自体を治療に用いてもよく、該医薬組成物には遺伝子導入T細胞が含まれる。
【0104】
いくつかの実施形態では、該医薬組成物には医薬的に許容される担体が含まれる。医薬的に許容される担体は、投与する特定の組成物ならびにその組成物の特定の投与方法に部分的に依存する。したがって、適切に利用可能な医薬組成物の配合は多種多様である(Remington著 Pharmaceutical Sciences 第17版、1989などを参照されたい)。
【0105】
本発明の医薬組成物は、これを必要とする対象者にその有効量を投与することができる。本明細書に記載のように形質導入したT細胞を含む医薬組成物の場合の有効量とは、一般に、医学または薬学の技術分野における各種の規制組織または諮問組織のいずれか(米国食品医薬品局(FDA)、米国医師会(AMA)など)によって、あるいは製造業者または販売業者によって推奨または承認された、用量範囲、投与方法、配合などを意味することとなる。白血病など、特定の疾患の治療において効果を生ずる場合の有効量とは、一般に、内科または外科の技術分野における各種の規制組織または諮問組織のいずれか(FDA、AMAなど)によって、あるいは製造業者または販売業者によって推奨または承認された臨床結果を達成する量を意味することとなる。
【0106】
当業者は、本明細書に記載の形質導入T細胞の有効投与量を決定することができる。この有効量は、使用する外因性遺伝子および/または共刺激剤に依存する場合もあり、既知のデータを治療する対象者用に換算して導き出すことができる。データとしては、その外因性遺伝子に期待される発現に関するデータや、ex vivo(たとえば、本明細書の実施例に示すような)および/またはモデル動物におけるその外因性遺伝子に関する測定値などが用いられる。
【0107】
該医薬組成物は、当技術分野で知られるさまざまな方法によって投与することができる。たとえば、個々の患者から採取して体外培養した細胞(たとえば、リンパ球、骨髄穿刺液、生検組織)などにex vivoでベクターを送達し、通常、ベクターを組み込んだ細胞を選択した後に、その細胞を患者内に再移植することができる。細胞をex vivoで遺伝子改変した後に対象者に再導入する療法は、細胞療法などと呼ばれることもある。好ましい一実施形態では、対象生体から細胞を採取して、本開示の記載に従い外因性遺伝子(遺伝子またはcDNA)で形質導入を行い、それを再び対象生体(たとえば、患者)内に注入して戻す。特定の一実施例としては、本発明のいくつかの実施形態に従って自己由来の癌細胞を改変して1つ又は複数の免疫賦活タンパク質を発現させることが可能であり、たとえば癌ワクチンとして、この細胞を患者に再導入することもできる。
【0108】
当業者は、本明細書において教示する形質導入効率および/または導入遺伝子発現効率が予想外に高いためにもたらされる、本発明の実施形態のいくつかの利点を理解されよう。特に、アデノウイルスベクターを使用することによって、レンチウイルスベクターを超える特有の利点が得られる。たとえば、アデノウイルスでは、ベクターが外因性遺伝物質のより大きな挿入断片を送達するようにウイルスを改変して、大きなペイロードを運ばせることができる。たとえば、Ad5ベクターは一般的にウイルスゲノムの初期転写遺伝子(E1および/またはE3)を欠失しており、ここに新しい遺伝情報を導入することができる(また、このE1の欠失により組換えウイルスが複製不能となる)。さらに、大量のベクターを作製して、一度に多数の細胞を形質導入させることができる。当技術分野で知られているように、アデノウイルスベクターの濃縮および精製は比較的容易である。その上、これらのベクターを患者に使用するにあたって有用な情報が治験から得られている。
【0109】
さらに、送達および/または発現の効率が改良されることによって、所定の効果を達成するために必要なアデノウイルスがより少なくなる。したがって、本発明のいくつかの実施形態を実施することによって、(細胞間および/または培養液中での)アデノウイルスに対する過剰な曝露が原因となって生じる細胞毒性を低下させることができる。また、長期培養に好都合な方法で細胞に形質導入を行った場合には、形質導入した細胞の長期間作用、たとえば、所望の導入遺伝子を長期間発現することなどを解析できる。したがって、本発明のいくつかの実施形態は、長期培養および/または長期培養についての試験をさらに容易にする。特に関心があるのは、このような長期培養によって、アデノウイルス形質導入後の遺伝子導入物質の臨床製造が可能となることである。たとえば、いくつかの実施形態では、アデノウイルス形質導入後の培養によって100
9個以上、100
11個以上、または100
13個以上の遺伝子導入細胞を得ることができる。したがって、細胞療法用の遺伝子導入細胞をより効率よく作製するために本発明を用いることもできる。
【0110】
当業者は、本明細書に記載の詳細な開示に鑑み、T細胞における遺伝情報の導入および/または発現に改良が望まれる他の適用例を理解されよう。
【0111】
すべての引用は、参照によりその全体が本明細書に明白に組み込まれる。
【実施例】
【0112】
実施例1
抗CD3/抗CD28抗体で活性化させたTリンパ球の形質導入
A.抗CD3抗体/抗CD28抗体で活性化させたT細胞
健常なドナーから初期Tリンパ球を得た。凍結試料の場合には、細胞を解凍して、10%FBS、1%L−グルタミン、および10ng/mLのIL−2(Sigma 12644)を加えたRPMI培養液中において、1×10
6細胞/mLの細胞密度で培養した。Dynabeads CD3/CD28(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド市)を用いて、直ちにこれらのTリンパ球をCD3/CD28に対する経路によって活性化させた。Dynabeadsの調製や操作は、製造業者のプロトコルに従って行った。簡単に説明すると、細胞に再懸濁するビーズ(1×10
6細胞/mLあたり75uLのDynabeads)を、エッペンドルフチューブ中において培養液で3回洗浄した。各回の洗浄にあたっては磁石を用いてビーズを沈殿させた。Tリンパ球の培養物を37℃、5%CO
2で15〜48時間インキュベートした。
【0113】
インキュベート後、活性化Tリンパ球を3×10
5〜1×10
6細胞/mLに希釈した。1細胞あたり10〜1000の範囲の感染単位(IU)の感染多重度(MOI)でTリンパ球を形質導入させるために、Ad5/F35ベクターを培養液で希釈した。次いで、希釈したAd5/F35ベクターを、希釈した活性化Tリンパ球に直接加えて再びインキュベートした。フローサイトメトリー(Ad5/F35 GFPベクターを使用した場合)またはCel1アッセイ(Ad5/F35 ZFNベクターを使用した場合)によって遺伝子送達効率を評価した。
【0114】
図1に示すように、100IU/細胞および1000IU/細胞のMOIにおいて、活性化T細胞のうち最高で92%および87%の細胞がAd5ベクターまたはAd5/35ベクターにより形質導入され、平均蛍光強度(MFI)はそれぞれ630および1780であった。
B.ビーズで活性化させたT細胞とIL−7で活性化させたT細胞との形質導入効率の比較
【0115】
IL−7で刺激したTリンパ球内へのアデノウイルスベクターの形質導入効率の評価も行った。簡単に説明すると、T細胞の活性化のためにDynabeads CD3/CD28の代わりに10ng/mLのIL−7を培養物に加えたことを除き、実施例1Aに記載のように初期T細胞の採取および活性化を行った。
【0116】
図2Aおよび2Bに示すように、100IU/細胞および1000IU/細胞のMOIにおいて、IL−7で活性化させたT細胞の形質導入効率はそれぞれ55%および70%、MFIは109および288となったのに比較して、Dynabeadsで活性化させたT細胞の形質導入効率はそれぞれ91%および87%、MFIは910および1620であった。
C.ビーズで活性化させたT細胞とPHA/IL−2で活性化させたT細胞との形質導入効率の比較
【0117】
CD4+T細胞に対しても、PHAおよびIL−2、または抗CD3/抗CD28抗体被覆ビーズを4日間添加することによって活性化を行った。次いで、活性化させたCD4+T細胞にAd5/35 GFPベクターを30または100のMOIで用いて形質導入を行った。2つの活性化条件を30または100のMOIで比較するために、形質導入後1日目および2日目に、FACS解析でGFPを発現している細胞の割合を測定することによって形質導入効率を決定した。
【0118】
図4に示すように、ビーズで活性化させたT細胞は、PHA/IL−2で活性化させた細胞よりも高い効率で形質導入された(たとえば、30のMOIにおいて、PHAの刺激によりGFPを発現した細胞は約35%であったのに対して、抗CD3/28抗体の刺激によりGFPを発現した細胞は約65%であった)。
【0119】
これらの結果により、細胞表面受容体であるCD3およびCD28に対するモノクローナル抗体で被覆されているビーズによって予め刺激したTリンパ球のAd5/F35の形質導入効率は60〜90%となることが示される。これと比較して、PHAで活性化させたTリンパ球ではAd5/F35ベクターの形質導入効率が45%程度である。上記のSchroersらの文献などを参照されたい。さらに、CCR5を標的とする1対のZFNをコードするAd5/F35ベクターを用いて形質導入を行った場合に、抗CD3/抗CD28ビーズでの共刺激によって活性化させたT細胞では、Tリンパ球の他の刺激方法(PHAまたはIL−7)と直接比較して有意に、より高レベルの非相同末端結合(NHEJ)が生じた。
【0120】
実施例2
抗CD3/抗CD28ビーズで活性化させたTリンパ球の形質導入
末梢血単核球(PBMC)およびCD4 T細胞に対しても、実施例1および2に記載のように、別々に調製した(ロットが異なる)2つのAd5/35 GFPベクターを用いて形質導入を行った。
【0121】
図3Aおよび3Bに示すように、いずれの調製のAd5/35 GFPベクターを用いた場合も、100および300のMOIにおいて、高い割合(67〜91%)かつMFI(598〜1408)でPBMCおよびCD4 T細胞が形質導入された。両方のロットのAd5/35 GFPベクターで同様の形質導入効率がみられた。
【0122】
実施例3
導入遺伝子の発現
ビーズで活性化させたT細胞における導入遺伝子の発現レベルの評価も行った。PHAおよびIL−2、または抗CD3/抗CD28抗体被覆ビーズのいずれかを4日間添加することによってCD4 T細胞を活性化させた。次いで、Ad5/35 GFPベクターを10、30、または100のMOIで用いて、これらの活性化細胞に形質導入を行った。
【0123】
形質導入後1日目(
図5)および2日目(
図6)に、試験した全3条件のMOIについて、GFPを発現している細胞の割合を測定することにより形質導入効率を決定し(
図5Aおよび6A)、形質導入された細胞集団のMFIを測定することにより導入遺伝子の発現レベルを決定した(
図5Bおよび6B)。
【0124】
導入遺伝子の発現が一過性であったこと、あるいは導入遺伝子の発現がPHA/IL−2での活性化による何らかの遅延反応の影響を受けていないことを示すために、形質導入後14日目までの長期間、30および100のMOIの試料におけるGFPの発現を調べた。
図7は、PHAで活性化させたT細胞にMOI 30(黒四角)またはMOI 100(黒三角)で形質導入を行った場合と比較した、ビーズで活性化させたT細胞にMOI 30(灰四角)またはMOI 100(灰三角)で形質導入を行った場合のGFP陽性細胞の割合を示す。
【0125】
また、導入遺伝子の発現が細胞分裂の低下や形質導入したベクター配列の希釈によって影響を受けた可能性を排除するために、集団倍加数を測定してT細胞の増殖率を調べた。
【0126】
図8に示すように、ビーズで活性化させたT細胞は、PHAで活性化させたT細胞と同様に、あるいはよりよく増殖した。さらに、ビーズで活性化させたT細胞は、PHAで活性化させたT細胞と比較してより高い効率でアデノウイルスベクターによって形質導入された。
図9を参照されたい。
【0127】
実施例4
内因性標的の切断
上記のように、PHA/IL−2または抗CD3/CD28ビーズでT細胞を活性化して、GFP、CCR5−ZFN、およびGR−ZFNをコードするAd5/F35ウイルスで形質導入を行う。形質導入後3日目および10日目に細胞を回収して、ゲノムDNAを抽出する。ZFNがCCR5またはGRにおけるそれぞれの標的部位を切断可能であるかどうかをCel1アッセイによって解析する。
【0128】
細胞に入ったウイルスのコピー数を調べるために、定量的PCR解析を用いて内因性RNAポリメラーゼ(RNAP)遺伝子あたりのアデノウイルスE4遺伝子の数を測定して、活性化し形質導入させた細胞あたりに存在するウイルスゲノムの数を決定する。それぞれの活性化条件によって、導入遺伝子が発現するかどうか、あるいは形質導入効率が影響される(たとえば、より多くのアデノウイルス粒子を細胞に導入する)かどうかを判定するために定量PCRを行う。
【0129】
GFPベクターによる形質導入後にフローサイトメトリーを行い、形質導入された細胞の数(割合)を測定する。MFIも測定して、抗CD3/CD28ビーズによって、導入遺伝子が発現しているかどうか、あるいはその発現細胞の増加および/または発現レベルの上昇(MFIが上昇してもGFP陽性細胞の割合が比較的一定である場合など)が生じているかどうかを評価する。また、Ad5/F35ベクターの細胞表面受容体(CD46)のレベルが、それぞれの活性化条件に応答してどのように変化するかについてもフローサイトメトリーで測定する。CD3/CD28に対する活性化によって細胞表面受容体CD46の発現が上昇して形質導入が生じているかどうかを判定するために、抗CD46抗体を用いて細胞を染色し、フローサイトメトリーを用いてMFIの変化を評価する。
【0130】
実施例5
Ad5/11を用いた形質導入
該方法の融通性を実証するために、実施例1に記載のように調製し活性化させたT細胞に、Ad5/F35ベクターの代わりにAd5/11ベクターを用いて形質導入を行う。T細胞の形質導入効率および導入遺伝子の活性を検証するために、同様の解析を行う。
【0131】
本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明のさまざまな変更形態および変形形態が可能であることは当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、添付の請求項およびこれらと同等なものの範囲内にある限りにおいて、本発明の変更形態および変形形態を包含することが意図されている。
【0132】
本明細書に記載の刊行物、論文、特許、および特許出願はすべて、各個の刊行物、論文、特許、または特許出願が参照により本明細書に組み込まれているものとして具体的かつ個別に示されているのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。