特許第5666905号(P5666905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5666905ヘマグルチニンポリペプチド中に変化を有するインフルエンザBウイルス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666905
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ヘマグルチニンポリペプチド中に変化を有するインフルエンザBウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20150122BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150122BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 39/145 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   C12N7/00ZNA
   C12N15/00 A
   C12N5/00 102
   A61P31/16
   A61P37/04
   A61K39/00 G
   A61K39/145
【請求項の数】14
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2010-513371(P2010-513371)
(86)(22)【出願日】2008年6月18日
(65)【公表番号】特表2010-530248(P2010-530248A)
(43)【公表日】2010年9月9日
(86)【国際出願番号】US2008067301
(87)【国際公開番号】WO2008157583
(87)【国際公開日】20081224
【審査請求日】2011年6月14日
(31)【優先権主張番号】60/944,600
(32)【優先日】2007年6月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100096183
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 貞次
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ホン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チョンイン
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 "Influenza B virus (B/Jiangsu/10/2003 (recomb)) segment 4 hemagglutinin (HA) gene, partial cds.", [online], 2007.05, [2013.6.20検索], Accession No.EF473637
【文献】 J. Gen. Virol., 2003, Vol.84, p.769-773
【文献】 Virology, 2007.05, Vol.365, p.315-323
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 5/00−5/28
C12N 7/00−7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再集合体インフルエンザBウイルスを調製する方法であって、
(a)宿主細胞集団中に、
(i)第1のインフルエンザB株のPB1、PB2、PA、NP、NB、M1、BM2、NS1およびNS2ポリペプチドをコードする少なくとも6個の内部ゲノム断片;
(ii)第2のインフルエンザB株のHAポリペプチドをコードするゲノム断片であって、HAポリペプチドが該HAポリペプチドのアミノ酸残基141にアルギニンをもたらす導入された突然変異を含む前記断片;および
(iii)第1のインフルエンザB株、第2のインフルエンザB株または第3のインフルエンザB株のNAポリペプチドをコードするゲノム断片、
に対応するヌクレオチド配列を含む、複数のベクターを導入すること、ここで(i)、(ii)および(iii)のゲノム断片が完全なインフルエンザBゲノムを形成する;
(b)35℃を超えない温度で(a)の宿主細胞集団を培養すること;ならびに
(c)卵中で複製した場合に、(i)HAのアミノ酸残基位置196/197の糖鎖付加部位に糖鎖付加を保持し、且つ(ii)卵中で増加した複製を示す、該再集合体インフルエンザBウイルスを回収すること、
を含む前記方法。
【請求項2】
第1のインフルエンザBウイルスが1個以上の下記性質:温度感受性、弱毒性、および/または低温適合性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数のベクターのうち少なくとも1つのベクター中に突然変異を導入する工程をさらに含み、該複数のベクターが第1のインフルエンザB株の6個の内部ゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含み、該導入された突然変異がアミノ酸残基:PB2630 (630R); PA431 (431M); PA497(497H); NP55 (55A); NP114 (114A); NP4l0(410H); NP5l0 (510T); M1159 (159Q)およびM1183 (183V)の存在をもたらす、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1のインフルエンザBウイルスがB/Ann Arbor/1/66株である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が、Vero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、PCK細胞、MDCK細胞、MDBK細胞、293細胞、またはCOS細胞のうちの1つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のベクターが複数のプラスミドである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数のプラスミドが、8つのプラスミドのセットを含み、8つのプラスミドのそれぞれが、第1または第2または第3(存在する場合)のインフルエンザB株の異なるゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
複数のプラスミドの各々が、第1のインフルエンザB株の少なくとも6個の内部ゲノム断片第2のインフルエンザB株のHAポリペプチドをコードするゲノム断片、及びNAポリペプチドをコードするゲノム断片に対応する全てのヌクレオチド配列を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記(a)における導入がヘルパーウイルスを用いることを含まない、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
(a)における導入を脂質媒介性トランスフェクションまたはエレクトロポレーションにより実施する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記温度が30〜35℃である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記温度が32〜35℃である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
回収された再集合体インフルエンザBウイルスを卵で複製させることをさらに含み、該再集合体インフルエンザBウイルスが卵で少なくとも7.0 log10 PFU/mlのピーク力価まで複製する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
回収されたウイルスを殺傷することをさらに含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
インフルエンザウイルスは、断片化された一本鎖RNAゲノムを含む内部リボ核タンパク質コアおよびマトリックスタンパク質により並べられた外部リポタンパク質エンベロープから構成される。インフルエンザAおよびBウイルスはそれぞれ、負の極性を有する8個の断片の一本鎖RNAを含む。インフルエンザBの8個のゲノム断片は、11個のタンパク質をコードする。3個の最も大きい遺伝子は、RNAポリメラーゼ、PB1、PB2およびPAの成分をコードする。断片4はHAタンパク質をコードする。断片5はNPをコードする。断片6はNAタンパク質とNBタンパク質をコードする。両タンパク質、NBおよびNAは、二シストロン性mRNAの重複するリーディングフレームから翻訳される。インフルエンザBの断片7はまた、2個のタンパク質:M1およびBM2をコードする。最も小さい断片は、2個の産物をコードする:NS1は完全長RNAから翻訳されるが、NS2はスプライスされたmRNA変異体から翻訳される。
【0002】
インフルエンザウイルスに特異的な防御免疫応答を生成することができるワクチンが、50年以上製造されてきた。ワクチンは、全ウイルスワクチン、スプリットウイルスワクチン、表面抗原ワクチンおよび生弱毒化ウイルスワクチンとして特性付けることができる。任意のこれらのワクチン型の好適な製剤は全身性免疫応答を生成することができるが、生弱毒化ウイルスワクチンは、気道中で局所粘膜免疫を刺激することもできる。
【0003】
FluMist(商標)は、インフルエンザ疾患から子供および成人を保護する生の弱毒化ワクチンである(Belsheら(1998) The efficacy of live attenuated, cold-adapted, trivalent, intranasal influenza virus vaccine in children N Engl J Med 338:1405-12; Nichol et al. (1999) Effectiveness of live, attenuated intranasal influenza virus vaccine in healthy, working adults: a randomized controlled trial JAMA 282:137-44)。FluMist(商標)ワクチン株は、共通のマスタードナーウイルス(MDV)に由来する6個の内部遺伝子断片と共に、現在血中循環している野生型株から誘導されたHAおよびNA遺伝子断片を含む。
【0004】
現在まで、米国における市販のインフルエンザワクチンは、孵化鶏卵中で増殖させている。インフルエンザBウイルスの多くの株は卵の中ではよく増殖せず、「卵適合性」にならなければならない。不幸なことに、インフルエンザBウイルスの卵適合化は、HAポリペプチドのアミノ酸残基196または197のN結合糖鎖付加部位の喪失をもたらす。このN結合糖鎖付加の喪失は、ウイルスの抗原性および対応するワクチン効力に影響する。卵中で増殖させたインフルエンザBウイルス中でのN結合糖鎖付加部位の安定化は、特に、インフルエンザBワクチン製造において重要であり得る。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一実施形態は、インフルエンザBウイルスを調製する方法を包含する。HA位置141でアルギニンへのアミノ酸置換をもたらす突然変異を、インフルエンザBウイルスゲノムに導入する。突然変異させたインフルエンザBウイルスゲノムを、インフルエンザBウイルスが産生される条件下で複製させる。
【0006】
本発明の別の実施形態は、インフルエンザBウイルスを調製する方法を包含する。複数のベクターを宿主細胞集団に導入する。このベクターは、(a)第1のインフルエンザB株の少なくとも6個の内部ゲノム断片、ならびに(b)少なくとも第2のインフルエンザB株のHAおよびNAポリペプチドをコードする1個以上のゲノム断片、に対応するヌクレオチド配列を含む。そのHAポリペプチドは、アミノ酸残基141にアルギニンを含む。宿主細胞集団を、35℃を超えない温度で培養する。このインフルエンザウイルスを回収する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1:pAD3000プラスミドの図である。
図2図2:インフルエンザBウイルスの産生のための8プラスミド系の図である。
図3-1】図3A-D:AおよびB:RT-PCRによる組換えMDV-Bウイルスの特性付け;CおよびD:RT-PCRによる組換えB/Yamanashi/166/98の特性付けを示す。
図3-2】図3A-D:AおよびB:RT-PCRによる組換えMDV-Bウイルスの特性付け;CおよびD:RT-PCRによる組換えB/Yamanashi/166/98の特性付けを示す。
図4-1】図4AおよびB:GeneBank形式のpAD3000の配列(配列番号3)を示す。
図4-2】図4AおよびB:GeneBank形式のpAD3000の配列(配列番号3)を示す。
図5-1】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-2】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-3】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-4】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-5】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-6】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-7】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-8】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-9】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-10】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-11】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-12】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-13】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-14】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-15】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-16】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-17】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-18】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-19】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-20】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-21】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-22】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-23】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-24】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-25】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-26】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-27】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-28】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-29】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-30】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図5-31】図5A-AE:MDV-Bと8個のプラスミドとの配列アラインメントを示す。A-E、PB1断片(配列番号4);F-JはPB2断片(配列番号5);K-OはPA断片(配列番号6);P-SはHA断片(配列番号7);T-WはNP断片(配列番号8);X-ZはNA断片(配列番号9);AA-ACはM断片(配列番号10);AD-AEはNS断片(配列番号11)である。
図6図6:インフルエンザB株のHAおよびNA断片の同時増幅から誘導されるRT-PCR産物を示す。
図7図7:組換えおよび再集合体ウイルスの相対力価を示す棒グラフである。
図8図8:PA、NP、およびM1タンパク質中に野生型残基を有する3遺伝子組換え体の模式図である。
図9図9:1遺伝子および2遺伝子組換えウイルスの増殖の一覧表である。
図10図10:非ts表現型に対応する核タンパク質のアミノ酸残基の一覧表である。
図11図11:再集合体ウイルスの示差的複製を示す棒グラフである。灰色の欄は野生型アミノ酸残基である。点線は2.0 log10のシャットオフ温度(ts)である。
図12図12:いくつかの卵で増幅されたインフルエンザB株の196/197糖鎖付加部位の近くのHA配列のアラインメントである。Victoria系列ウイルスを、参照株B/Victoria/2/87(配列番号12)とアラインメントさせる。Yamagata系列ウイルスを、B/Yamagata/16/88(配列番号13)とアラインメントさせる。参照株と異なる残基のみをアラインメント中に示す。196/197の位置の潜在的なN糖鎖付加部位(N-X-T/S)を、下線および矢印で示す。「.」はB/Yamagata系列中でのアミノ酸欠失を示す。「x」は混合アミノ酸を示す。
図13図13:ウェスタンブロットによるHA糖鎖付加の確認を示す。示された196-199配列を含む6:2 B/Shanghai/361/02 (B/SH)、6:2 B/Jilin/20/03 (B/JL)および6:2 B/Jiangsu/10/03 (B/JS)を、10%SDS-PAGE上で電気泳動した。HA1およびHA2タンパク質を、ポリクローナル抗HA抗体を用いるウェスタンブロッティングにより検出した。下線は、ウイルス卵単離物中に存在する元の配列を示す。
図14図14:HA残基141にアルギニンを有する卵中で増殖させたウイルスは、残基196-197に糖鎖を保持する。141および196/197に示された残基を含む6:2 B/Shanghai/361/02 (B/SH)、6:2 B/Ohio/1/05 (B/Ohio)および6:2 B/Jiangsu/10/03 (B/JS)を、卵中で増殖させ、ウイルスを10%SDS-PAGE上で電気泳動した。HA1およびHA2タンパク質を、ポリクローナル抗HA抗体を用いるウェスタンブロッティングにより検出した。よりゆっくり移動するHA1は、196/197部位が*により示されるように糖鎖付加されたことを示す。下線はウイルス卵単離物中に存在する元の配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ベクターを培養細胞に導入することによりインフルエンザBウイルスを製造するための系を包含する。この方法により製造されたインフルエンザBウイルスは、卵中で複製するウイルスの能力に影響するか、または卵中で一度複製されたウイルスの特性に影響し得る特定の位置にアミノ酸残基を有してもよい。
【0009】
別途定義しない限り、全ての科学用語および技術用語は、それらが属する当業界で一般的に用いられるのと同じ意味を有すると理解される。本発明の目的のために、以下の用語を以下に定義する。
【0010】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」および「核酸配列」は、一本鎖もしくは二本鎖デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドポリマー、またはそのキメラもしくは類似体であってよい。これらの用語はまた、それらが天然のヌクレオチド(例えば、ペプチド核酸)と同様の様式で一本鎖核酸にハイブリダイズするという点で、天然ヌクレオチドの必須の性質を有する天然のヌクレオチドの類似体のポリマーを含んでもよい。
【0011】
「遺伝子」とは、生物学的機能に関連する任意の核酸を指してもよい。遺伝子は、コード配列および/またはその配列にとって必要とされる調節配列を含む。「遺伝子」とは、特定のゲノム配列、ならびにそのゲノム配列によりコードされるcDNAまたはmRNAを指してもよい。
【0012】
遺伝子は、例えば、他のタンパク質のための認識配列を形成する、発現されない核酸断片をさらに含んでもよい。非発現調節配列は、転写因子などの調節タンパク質が結合し、隣接するか、または近くの配列の転写をもたらす「プロモーター」および「エンハンサー」を含む。「組織特異的」プロモーターまたはエンハンサーは、特定の組織型または細胞型における転写を調節するものである。
【0013】
「ベクター」は、生物、細胞、または細胞成分間で核酸を増殖させ、および/または移動させることができる手段であってよい。ベクターとしては、自律的に複製するか、または宿主細胞の染色体中に組込むことができる、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、プロウイルス、ファージミド、トランスポゾン、および人工染色体などが挙げられる。ベクターはまた、自律的に複製しない、裸のRNAポリヌクレオチド、裸のDNAポリヌクレオチド、同じ鎖内にDNAとRNAの両方を含むポリヌクレオチド、ポリ-リジンに結合したDNAもしくはRNA、ペプチドに結合したDNAもしくはRNA、リポソームに結合したDNAなどであってもよい。
【0014】
「発現ベクター」は、発現、ならびにそこに組み入れられる核酸の複製を促進することができるプラスミドなどのベクターであってよい。発現させようとする核酸を、プロモーターおよび/またはエンハンサーに「機能し得る形で連結」し、該プロモーターおよび/またはエンハンサーによる転写調節制御に供することができる。
【0015】
「二方向発現ベクタ−」は、典型的には、例えば、プラス(+)もしくはセンス鎖、およびマイナス(-)もしくはアンチセンス鎖の両方のRNAの転写をもたらす両方の向きで発現を開始することができるように、2個のプロモーターの間に配置された核酸と比べて反対の方向に配置された2個の代替的なプロモーターを特徴とする。あるいは、二方向発現ベクターは、ウイルスmRNAおよびウイルスゲノムRNA(cRNAとして)が同じ鎖から発現されるアンビセンスベクターであってよい。
【0016】
核酸またはタンパク質などの生物材料に関して言及する場合、「単離された」は、その天然の環境中で通常は付随するか、またはそれと相互作用する成分を実質的に含まない生物材料であってよい。単離された材料は、必要に応じて、その天然の環境、例えば、細胞中では該材料について見出されない材料を含んでもよい。
【0017】
「組換え体」は、人的介入により人工的もしくは合成的(非天然的)に変化させた材料(たとえば、核酸またはタンパク質)を示唆してもよい。この変化を、その天然の環境または状態の中で実施するか、またはそこから除去することができる。
【0018】
再集合体ウイルスは、2種以上の親ウイルス株または起源から誘導された遺伝子成分および/またはポリペプチド成分を含むウイルスを含む。例えば、7:1の再集合体は、第1の親ウイルスに由来する7個のウイルスゲノム断片(または遺伝子断片)、および第2の親ウイルスに由来する、例えば、ヘマグルチニンもしくはノイラミニダーゼをコードする1個のウイルスゲノム断片を含む。6:2の再集合体は、6個のゲノム断片を含み、最も一般的には、第1の親ウイルスに由来する6個の内部遺伝子、ならびに第2の親ウイルスに由来する、2個のゲノム断片、例えば、ヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼを含む。6:1:1の再集合体は、6個の遺伝子断片を含み、最も一般的には、第1の親ウイルスに由来する6個の内部遺伝子、ヘマグルチニンをコードする第2の親ウイルスに由来する1個の遺伝子断片、およびノイラミニダーゼをコードする第3の親ウイルスに由来する1個の遺伝子断片を含んでもよい。6個の内部遺伝子は、同様に2種以上の親ウイルスのものであってもよい。
【0019】
ベクターまたは核酸の導入は、真核または原核細胞中への核酸の組込みを意味し得る。このベクターまたは核酸を、そのゲノム(例えば、染色体、プラスミド、プラスチドもしくはミトコンドリアDNA)中への組込みにより細胞中に組込み、自律的レプリコンに変換するか、または一過的に発現させることができる(例えば、トランスフェクトされたmRNA)。導入は、「感染」、「トランスフェクション」、「形質転換」および「形質導入」などの方法を含む。導入を、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈降法、または脂質媒介性トランスフェクション(リポフェクション)により実施することができる。
【0020】
宿主細胞は、ベクターなどの異種核酸を含み、該核酸の複製および/または発現を支援する細胞であってよい。宿主細胞は、大腸菌などの原核細胞、または酵母、昆虫、両生類、鳥類もしくはヒト細胞などの哺乳動物の細胞などの真核細胞であってよい。宿主細胞としては、Vero(アフリカミドリザル腎臓)細胞、Per.C6細胞(ヒト胚性網膜細胞)、BHK(ベビーハムスター腎臓)細胞、一次ニワトリ腎臓(PCK)細胞、293細胞(例えば、293T細胞)、およびCOS細胞(例えば、COS1、COS7細胞)が挙げられる。宿主細胞はまた、例えば、異なる細胞型または細胞系(例えば、Vero細胞およびCEK細胞)の混合培養物などの細胞の組合せまたは混合物を包含する。エレクトロポレーションされたVero細胞の同時培養が、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする2004年12月22日に出願されたPCT/US04/42669に記載されている。
【0021】
温度感受性(ts)ウイルスは、典型的には、インフルエンザB株については、33℃と比較して37℃において100倍以上の力価の低下を示す。低温適合性(ca)ウイルスは、典型的には、25℃で、33℃でのその増殖の100倍以内の増殖を示す。弱毒化(att)ウイルスは、典型的には、フェレットの上気道で複製するが、肺組織においては検出不可能であり、動物においてインフルエンザ様疾患を引き起こさない。増殖は、力価、プラークの大きさもしくは形態、粒子密度または当業者には公知の他の尺度により示されるウイルス量を示す。
【0022】
人工的に操作されたウイルス、ウイルス核酸、またはウイルスにコードされる産物、例えば、ポリペプチド、ワクチンは、組換え方法、例えば、部位特異的突然変異誘発、PCR突然変異誘発などにより導入された少なくとも1個の突然変異を含む、ウイルス、核酸または産物である。1個以上のヌクレオチド突然変異および/もしくはアミノ酸置換を含む人工的に操作されたウイルス(またはウイルス成分もしくは産物)は、該ウイルス(またはウイルス成分もしくは産物)をコードするウイルスゲノムまたはゲノム断片が、非組換え方法(25℃での進行的継代)により製造されたウイルスの天然または以前から存在する実験室株、例えば、野生型もしくは低温適合A/Ann Arbor/6/60もしくはB/Ann Arbor/1/66株などの天然の起源に由来するものではないことを示唆している。
【0023】
ベクター
本発明により包含されるいくつかの方法においては、インフルエンザBウイルスの8個の断片の各々に対応するウイルスゲノム断片を、インフルエンザウイルスの操作および製造のための複数のベクター中に挿入することができる。8個のベクターは、複数のベクターに含まれうるし、8個のベクターは、1種以上のインフルエンザBウイルスの8個のゲノム断片に対応する核酸配列を含みうる。複数のベクターは、より多くの、またはより少ないベクターを含んでもよい。例えば、11個のベクターは、複数のベクターに含まれうるし、11個のベクターは、11個のインフルエンザBウイルスタンパク質のコード配列に対応する核酸配列を含みうる。あるいは、1個のベクターも複数のベクターに含まれうるし、1個のベクターは、1種以上のインフルエンザBウイルスの8個のゲノム断片の各々を含みうる。2、3、4、5、6、7、9、または10個のベクターも、複数のベクターに含まれうる。
【0024】
ベクターは、ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、ファージ、または人工染色体であってよい。ベクターがプラスミドである場合、プラスミドは細菌および真核細胞中で機能的な1個以上の複製起点、ならびに必要に応じて、プラスミド配列を組込む細胞をスクリーニングするか、または選択するのに都合がよいマーカーを提供することができる。例示的なベクター、プラスミドpAD3000を、図1に示す。
【0025】
ベクターがプラスミドである場合、プラスミドは、いずれかの方向でウイルスゲノム断片の転写を開始する、すなわち、(+)鎖および(-)鎖の両方のウイルスRNA分子を生じることができる二方向発現ベクターであってよい。二方向転写を行うために、それぞれのウイルスゲノム断片を、ウイルスゲノムRNAのコピーが第1のRNAポリメラーゼプロモーター(例えば、Pol I)により、一方の鎖から転写され、ウイルスmRNAが第2のRNAポリメラーゼプロモーター(例えば、Pol II)から合成されるように、少なくとも2個の独立したプロモーターを有するベクター中に挿入する。従って、2個のプロモーターを、少なくとも1個のクローニング部位(すなわち、制限酵素認識配列)、好ましくは、ウイルスゲノムRNA断片の挿入にとって好適な、ユニークなクローニング部位にフランキングする反対の方向に配置する。あるいは、(+)鎖mRNAと(-)鎖ウイルスRNA(cRNAとして)がベクターの同じ鎖から転写される「アンビセンス」ベクターを用いることができる。
【0026】
発現ベクター
発現させようとするインフルエンザウイルスゲノム断片を、mRNA合成を指令する好適な転写制御配列(プロモーター)に機能し得る形で連結する。様々なプロモーターが、インフルエンザウイルスゲノム断片の転写を調節するための発現ベクターにおける使用にとって好適である。特定の実施形態においては、例えば、ベクターがプラスミドpAD3000である場合、サイトメガロウイルス(CMV) DNA依存的RNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーターを用いる。必要に応じて、例えば、条件的発現を調節するために、特定の条件下で、または特定の組織もしくは細胞中で、RNA転写を誘導する他のプロモーターと置換することができる。多くのウイルスおよび哺乳動物プロモーター、例えば、ヒトプロモーターが利用可能であり、または意図される特定の用途に従って単離することができる。例えば、動物およびヒトウイルスのゲノムから得られた代替的なプロモーターとしては、アデノウイルス(アデノウイルス2など)、パピローマウイルス、B型肝炎ウイルス、ポリオーマウイルス、およびサルウイルス40(SV40)などのプロモーター、および種々のレトロウイルスプロモーターが挙げられる。哺乳動物プロモーターとしては、特に、アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターなどが挙げられる。さらに、バクテリオファージプロモーターを、同族RNAポリメラーゼ、例えば、T7プロモーターと共に用いることができる。
【0027】
必要に応じて、エンハンサー配列を含有させることにより、転写を増加させる。典型的には、エンハンサーは、プロモーターと協調して作用して転写を増加させる、短い、例えば、10〜500 bpのシス作用性DNAエレメントである。多くのエンハンサー配列が、哺乳動物遺伝子(ヘモグロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトタンパク質、およびインスリン)ならびに真核細胞ウイルスから単離されている。エンハンサーを、異種コード配列に対して5'もしくは3'側の位置でベクター中でスプライシングすることができるが、典型的には、プロモーターに対して5'側の部位に挿入する。典型的には、プロモーター、および必要に応じて、さらなる転写増強配列を選択して、異種DNAを導入しようとする宿主細胞型における発現を最適化する(Scharfら(1994) Heat stress promoters and transcription factors Results Probl Cell Differ 20:125-62; Krieglerら(1990) Assembly of enhancers, promoters, and splice signals to control expression of transferred genes Methods in Enzymol 185: 512-27)。必要に応じて、アンプリコンは、転写開始のためのリボソーム結合部位または内部リボソーム進入部位(IRES)を含んでもよい。
【0028】
また、本発明のベクターは、ポリアデニル化部位またはターミネーター配列などの、転写の終結およびmRNAの安定化にとって必要な配列を含んでもよい。そのような配列は、真核生物もしくはウイルスのDNAもしくはcRNAの非翻訳領域の5'側および場合によっては3'側から一般的に入手可能である。一実施形態においては、例えば、プラスミドpAD3000を用いる場合、SV40ポリアデニル化配列がポリアデニル化シグナルを提供する。
【0029】
さらに、上記のように、発現ベクターは、必要に応じて、形質転換された宿主細胞の選択のための表現型形質を提供する1個以上の選択マーカーを含む。以前に列挙された遺伝子に加えて、ジヒドロ葉酸リダクターゼまたはネオマイシン耐性などのマーカーが、真核細胞培養物における選択にとって好適である。
【0030】
上記の好適なDNA配列を含むベクター、ならびに好適なプロモーターまたは制御配列を用いて、宿主細胞を形質転換し、前記タンパク質の発現を可能にすることができる。
【0031】
さらなる発現エレメント
インフルエンザウイルスタンパク質をコードするゲノム断片は、該断片の発現にとって必要な任意の追加配列を含んでもよい。例えば、異種コード配列の効率的な翻訳を助ける特異的開始シグナルを含有させることができる。これらのシグナルは、例えば、ATG開始コドンおよび隣接配列を含んでもよい。ゲノム断片によりコードされるタンパク質全体の翻訳を確実にするために、ウイルスタンパク質と比較して正確な読み枠で開始コドンを挿入する。外因性転写エレメントおよび開始コドンは、天然および合成の両方の様々な起源のものであってよい。発現の効率を、使用における細胞系にとって好適なエンハンサーの含有により増強することができる。
【0032】
シグナル配列、分泌もしくは局在化シグナルなどの追加のポリヌクレオチド配列を、通常、目的のポリヌクレオチド配列と読み枠を合わせてベクター中に組込んで、例えば、所望の細胞区分、膜、もしくは器官に、または細胞培養培地中でのポリペプチド発現を標的化することができる。そのような配列は、当業者には公知であり、分泌リーダーペプチド、器官標的化配列(例えば、核局在化配列、ER保持シグナル、ミトコンドリア転移配列)、膜局在化/アンカー配列(例えば、停止転移配列、GPIアンカー配列)などが挙げられる。
【0033】
内部ゲノム断片
インフルエンザBウイルス株の内部ゲノム断片は、1種以上のマスターインフルエンザBウイルスの内部ゲノム断片であってよい。1種以上のマスターインフルエンザBウイルスを、ワクチン投与に関連する所望の特性に基づいて選択することができる。例えば、マスタードナーインフルエンザBウイルス株を、弱毒化表現型、低温適合性および/または温度感受性について選択することができる。この文脈においては、ca B/Ann Arbor/1/66、または表17に特定された1個以上のアミノ酸置換を含む人工的に操作されたインフルエンザB株が、マスタードナーインフルエンザB株であってよい。これらのアミノ酸置換としては、PB2630; PA431; PA497; NP55; NP114; NP410; NP509; M1159およびM1183の1個以上の置換が挙げられる。このアミノ酸置換は、以下の1個以上:PB2630 (S630R); PA431 (V431M); PA497 (Y497H); NP55 (T55A); NP114 (V114A); NP410 (P410H); NP509 (A509T); M1159 (H159Q)およびM1183 (M183V)を含んでもよい。アミノ酸置換は、PB2630; PA431; PA497; NP55; NP114; NP410; NP509; M1159およびM1183の全部の置換を含んでもよい。置換は、PB2630 (S630R); PA431 (V431M); PA497 (Y497H); NP55 (T55A); NP114 (V114A); NP410 (P410H); NP509 (A509T); M1159 (H159Q)およびM1183 (M183V)の全部であってよい。
【0034】
1種以上のインフルエンザマスターインフルエンザBウイルス株の6個の内部ゲノム断片(すなわち、PB1、PB2、PA、NP、NB、M1、BM2、NS1およびNS2)を、抗原的に望ましい株、例えば、有意な局所的もしくは全身的インフルエンザ感染を引き起こすと予測される株に由来するヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼ断片と共に、好適な宿主細胞中に導入することができる。効率的な回収のための好適な温度、例えば、35℃以下、例えば、約30℃〜35℃、例えば、約32℃〜35℃、例えば、約32℃〜34℃、もしくは約30℃、もしくは約31℃、もしくは約32℃、もしくは約33℃、もしくは約34℃、もしくは約35℃で細胞培養物中で再集合体ウイルスを複製させた後、再集合体ウイルスを回収する。回収されたウイルスを孵化鶏卵中で複製することができる。回収されたウイルスを培養細胞中で複製することができる。孵化鶏卵または培養細胞中で複製することができた回収されたウイルスを、ホルムアルデヒドまたはβ-プロピオラクトンなどの変性剤を用いて不活化することができる。
【0035】
変化した性質を有するインフルエンザBウイルス
本発明の方法はまた、HAの位置141にアミノ酸置換をもたらす突然変異を導入することを包含する。この突然変異は、HA非置換インフルエンザウイルスと比較した場合、孵化鶏卵中で複製するインフルエンザBウイルスの能力を増加させることができる。HAの位置141での置換により、インフルエンザウイルスはHAのアミノ酸残基196/197に糖鎖をさらに保持することができる。HAの位置141での置換はさらに、HAの抗原性を有意に変化させなくてもよい。HAの位置141での置換は、アルギニン、ヒスチジン、またはシステインに対するものであってよい。
【0036】
HA中へのアミノ酸置換の導入は、卵中で複製するインフルエンザBウイルスの能力を、未改変のインフルエンザウイルスと比較した場合、少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも200%、または少なくとも300%、または少なくとも400%、または少なくとも500%増強することができる。卵中で複製する能力が増強されたウイルスの力価は、少なくとも5.0 log10 PFU/ml、少なくとも6.0 log10 PFU/ml、少なくとも6.5 log10 PFU/ml、少なくとも7.0 log10 PFU/ml、少なくとも7.25 log10 PFU/ml、少なくとも7.5 log10 PFU/ml、少なくとも7.75 log10 PFU/ml、少なくとも8.0 log10 PFU/ml、少なくとも8.25 log10 PFU/ml、少なくとも8.5 log10 PFU/ml、少なくとも8.75 log10 PFU/ml、少なくとも9.0 log10 PFU/ml、または少なくとも9.5 log10 PFU/mlであってよい。また、未改変のインフルエンザウイルスと比較した場合に卵中で複製する能力が増強されたインフルエンザBウイルスは、アミノ酸残基位置196/197にHA糖鎖を保持するであろう。
【0037】
アミノ酸残基の導入はさらに、非置換ウイルスと比較した場合、置換されたインフルエンザウイルスの抗原性を有意に変化させなくてもよい。非置換ウイルスと比較した場合、置換されたウイルスの抗原性は、5%未満、10%未満、20%未満、25%未満、30%未満、40%未満、または50%未満異なる。ウイルスの抗原性を決定するための方法は、当業界でよく知られている。
【0038】
残基位置141でHA中にアミノ酸置換をもたらす突然変異の導入は、HAの受容体結合活性を調節することができる。HAの受容体結合活性としては、限定されるものではないが、細胞表面の糖タンパク質または糖脂質上に存在するシアル酸残基へのHAの結合(例えば、2,6-結合シアリル-ガラクトシル部分[Siaα(2,6)Gal]および2,3-結合シアリル-ガラクトシル部分[Siaα(2,3)Gal])が挙げられる。HA結合をアッセイする方法は当業界でよく知られている。HAの残基141にアミノ酸置換をもたらす突然変異の導入は、HAの[Siaα(2,3)Gal]部分への結合を増強させることができる。[Siaα(2,3)Gal]部分への結合の増強は、例えば、当業者にはよく知られた血球凝集アッセイにおいて少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも100%、または少なくとも200%であってよい。
【0039】
インフルエンザB変異体ウイルスはさらに、弱毒性、低温適合性、温度感受性、またはその任意の組合せなどの1個以上の性質を有してもよい。インフルエンザB変異体ウイルスは、インフルエンザB/Ann Arbor/1/66などのマスターインフルエンザBドナーウイルスの内部ゲノム断片の組込みが原因でこれらの性質の1個以上を有してもよい。
【0040】
インフルエンザB変異体ウイルスは、位置141にグリシン残基を有するHAポリペプチドを含む任意のインフルエンザBウイルスであってよい。インフルエンザBウイルスHAポリペプチドは、インフルエンザ株B/Victoria/2/87、B/Hong Kong/330/01、B/Brisbane/32/02、B/Malaysia/2506/04、B/Hawaii/13/04、B/Ohio/1/05、B/Yamagata/16/88、B/Yamanashi/166/98、B/Johannesburg/5/99、B/Vicotria/504/00、B/Shanghai/361/02、B/Jilin/20/03、またはB/Florida/7/04のものであってよい。
【0041】
細胞培養物
本発明により包含されるいくつかの方法においては、複数のベクターを宿主細胞中に導入する。これらの宿主細胞としては、例えば、Vero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、MDCK細胞、293細胞およびCOS細胞、例えば、293T細胞、COS7細胞が挙げられる。あるいは、上記細胞系のうちの2種、例えば、MDCK細胞と293TもしくはCOS細胞とを含む同時培養物を、例えば、1:1の比率で用いることができる。この細胞を、中性の緩衝化pH(例えば、7.0〜7.2のpH)を維持するのに好適な制御された湿度およびCO2濃度下で、血清(例えば、10%ウシ胎仔血清)を補給したDulbeccoの改変イーグル培地などの好適な市販の培養培地中、または無血清培地中で維持することができる。必要に応じて、培地は細菌の増殖を防止するための抗生物質、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシンなど、および/またはL-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、好ましい増殖特性を促進するための追加補給物質、例えば、トリプシン、β-メルカプトエタノールなどの追加栄養素を含む。
【0042】
培養物中で哺乳動物細胞を維持するための手順は、広く報告されており、当業者には公知である。一般的なプロトコルは、例えば、Freshney (1983) Culture of Animal Cells: Manual of Basic Technique, Alan R. Liss, New York; Paul (1975) Cell and Tissue Culture、第5版、Livingston, Edinburgh; Adams (1980) Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Cell Culture for Biochemists, WorkおよびBurdon (編) Elsevier, Amsterdamに提供されている。in vitroでのインフルエンザウイルスの製造における特定の目的の組織培養手順に関するさらなる詳細としては、例えば、Mertenら(1996) Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation、CohenおよびShafferman (編) Novel Strategies in Design and Production of Vaccines(その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)が挙げられる。さらに、本発明に適合させたそのような手順における変更は、日常的な実験を介して容易に決定される。
【0043】
インフルエンザBウイルスの製造のための細胞を、血清含有培地または無血清培地中で培養することができる。いくつかの場合、例えば、精製されたウイルスの調製のためには、宿主細胞を無血清条件で増殖させるのが望ましい。
【0044】
細胞を任意の規模で培養することができる。細胞を、小規模で、例えば、攪拌しながら、培養チューブもしくはフラスコ中、または大きいフラスコ中で、回転式ボトル中で、25 ml未満の培地中で、またはフラスコ、ボトルもしくは反応培養物中、微小担体ビーズ(例えば、Dormacell, Pfeifer & Langen; Superbead, Flow LaboratoriesなどのDEAE-デキストラン微小担体ビーズ; styrene copolymer-tri-methylamine beads, such as Hillex, SoloHill, Ann Arborなどのスチレンコポリマー-トリメチルアミンビーズ)上で培養することができる。微小担体ビーズは、細胞培養物の体積あたりに付着する細胞増殖のために大きい表面積を提供する小さい球体(直径100〜200μmの範囲)である。例えば、1リットルの培地は、8000平方センチメートルを超える増殖表面を提供する20μmを超える微小担体ビーズを含んでもよい。ウイルスの商業生産のため、例えば、ワクチン製造のためには、細胞をバイオリアクターまたは発酵器中で培養するのが望ましい。バイオリアクターは、1リットル以下から100リットルを超える容量で利用可能であり、例えば、Cyto3 Bioreactor (Osmonics, Minnetonka, MN);NBSバイオリアクター(New Brunswick Scientific, Edison, N.J.); B. Braun Biotech International (B. Braun Biotech, Melsungen, Germany)社製の実験室規模および商業規模のバイオリアクターが挙げられる。
【0045】
培養容量に関係なく、培養物を35℃以下、34℃以下、33℃以下、32℃以下、31℃以下、または30℃以下の温度で維持することができる。細胞を、約30℃〜35℃、約32℃〜35℃、約32℃〜約34℃、または約32℃〜33℃の温度で培養することができる。
【0046】
宿主細胞へのベクターの導入
インフルエンザゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含むベクターを、例えば、リン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、およびポリアミントランスフェクション試薬を用いるトランスフェクションなどの当業界でよく知られた方法に従って宿主細胞中に導入する(例えば、トランスフェクトする)ことができる。例えば、ベクター、例えば、プラスミドを、製造業者の説明書に従ってポリアミントランスフェクション試薬TransIT-LT1 (Mirus)を用いて、COS細胞、293T細胞またはCOSもしくは293T細胞とMDCK細胞の組合せなどの宿主細胞中にトランスフェクトすることができる。約1μgの各ベクターを、200μlの全量中、160μlの培地に希釈した約2μlのTransIT-LT1と共に、宿主細胞の集団中に導入することができる。DNA:トランスフェクション試薬混合物を、室温で45分間インキュベートした後、800μlの培地を添加する。トランスフェクション混合物を宿主細胞に添加し、細胞を上記のように培養する。
【0047】
あるいは、エレクトロポレーションを用いて、インフルエンザゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含むベクターを宿主細胞中に導入することができる。例えば、インフルエンザBゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含むプラスミドベクターを、以下の手順に従ってエレクトロポレーションを用いてVero細胞中に導入することができる。例えば、10%ウシ胎仔血清(FBS)を補給した改変イーグル培地(MEM)中で増殖させた5 x 106個のVero細胞を、0.4 mlのOptiMEM中に再懸濁し、エレクトロポレーションキュベット中に入れる。最大25μlの容量の20μgのDNAを、キュベット中の細胞に添加した後、タッピングにより穏やかに混合する。28〜33 msecの時間定数と共に300ボルト、950μFaradで、エレクトロポレーションを製造業者の説明書(例えば、Capacitance Extender Plusを接続したBioRad Gene Pulser II)に従って実施する。細胞を穏やかにタッピングすることにより再混合し、エレクトロポレーションの約1〜2分後、10%FBSを含む0.7 mlのMEMをキュベットに直接添加する。次いで、細胞を、2 ml MEM、10%FBSまたは血清を含まないOPTI-MEMを含む標準的な6穴組織培養ディッシュの2個のウェルに移す。キュベットを洗浄して残りの細胞を回収し、洗浄懸濁液を2個のウェルに分割する。最終的な容量は約3.5 mlである。次いで、細胞を、ウイルス増殖を許容する条件下でインキュベートする。
【0048】
ウイルスの回収
複数のベクターを導入した細胞の培養培地から、ウイルスを回収することができる。粗培地を、取得し、清澄化した後、清澄化された培地中のインフルエンザウイルスを濃縮することができる。一般的な濃縮方法としては、濾過、限外濾過、硫酸バリウム上での吸着および溶出、ならびに遠心分離が挙げられる。例えば、感染した培養物に由来する粗培地を、最初に、例えば、1000〜2000 x gで、細胞破片および他の大きい粒子状物質を除去するのに十分な時間、例えば、10〜30分間遠心分離することにより清澄化することができる。あるいは、培地を0.8μmの酢酸セルロースフィルターを通して濾過して、無傷の細胞および他の大きい粒子状物質を除去することができる。次いで、必要に応じて、清澄化された培地上清を遠心分離して、例えば、15,000 x gで約3〜5時間、インフルエンザウイルスを沈降化させることができる。STE (0.01 M Tris-HCl;0.15 M NaCl;0.0001 M EDTA)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH 7.4などの好適なバッファー中にウイルス沈降物を再懸濁した後、スクロース(60%〜12%)または酒石酸カリウム(50%〜10%)上での密度勾配遠心分離によりウイルスを濃縮することができる。連続的または段階的勾配、例えば、12%の4段階での12%〜60%のスクロース勾配が好適である。勾配を、回収のための可視的バンドにウイルスを濃縮するのに十分な速度、および時間、この勾配を遠心分離することができる。あるいは、および大規模商業用途のために、連続的な様式で操作するゾーン遠心分離ローターを用いて密度勾配からウイルスを浄化することができる。組織培養からのインフルエンザウイルスの調製を介して当業者を案内するのに十分なさらなる詳細は、例えば、Furminger. Vaccine Production, Nicholsonら(編) Textbook of Influenza pp. 324-332; Mertenら(1996) Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation、Cohen & Shafferman (編) Novel Strategies in Design and Production of Vaccines pp. 141-151、および米国特許第5,690,937号に提供されている。必要に応じて、回収されたウイルスを、安定剤としてのスクロース-リン酸-グルタミン酸(SPG)の存在下で-80℃で保存することができる。
【0049】
ワクチンの予防的投与のための方法および組成物
好適な担体または賦形剤中の本発明の組換えウイルスおよび再集合体ウイルスを、予防的に投与して、1種以上の株のインフルエンザウイルスに特異的な免疫応答を刺激することができる。担体または賦形剤は、滅菌水、水性塩水溶液、水性緩衝塩水溶液、水性デキストロース溶液、水性グリセロール溶液、エタノール、未感染の鶏卵から得た尿膜腔液(すなわち、正常な尿膜腔液、「NAF」)またはその組合せなどの製薬上許容し得る担体または賦形剤であってよい。無菌性、pH、等張性、および安定性を確保するそのような溶液の調製を、当業界で確立されたプロトコルに従って行う。一般的には、アレルギー作用および他の望ましくない作用を最小化し、特定の投与経路、例えば、皮下、筋肉内、鼻内などに適合するように、担体または賦形剤を選択する。
【0050】
一般的には、本発明のインフルエンザウイルスを、1種以上のインフルエンザウイルス株に特異的な免疫応答を刺激するのに十分な量で投与する。1種以上のインフルエンザ株に対する防御免疫応答を引き出すための用量および方法は、当業者には公知である。例えば、不活化インフルエンザウイルスを、約1〜1000 HID50(ヒト感染用量)、すなわち、投与される用量あたり約105〜108 pfu(プラーク形成単位)の範囲で提供することができる。あるいは、約10〜15μgの、例えば、約15μgのHAをアジュバントを用いずに投与し、より少ない用量をアジュバントと共に投与する。典型的には、この用量を、例えば、年齢、身体条件、体重、性別、食事、投与の時間、および他の臨床因子に基づいて、この範囲内で調整することができる。予防用ワクチン製剤を、例えば、針およびシリンジ、または針を用いない注射装置を用いる皮下または筋肉内注射により全身投与することができる。あるいは、ワクチン製剤を、上気道中に、液滴、大粒子エアロゾル(約10μmを超える)、またはスプレーにより鼻内投与することができる。鼻内投与のために、弱毒化生ウイルスワクチン、例えば、弱毒性、低温適合性および/もしくは温度感受性の組換えインフルエンザウイルスまたは再集合体インフルエンザウイルスを用いることができる。単回投与での防御免疫応答の刺激が好ましいが、同じか、または異なる経路により、追加の用量を投与して、所望の予防効果を達成することができる。
【0051】
あるいは、免疫応答を、インフルエンザウイルスを用いる樹状細胞のex vivoまたはin vivoでの標的化により刺激することができる。例えば、増殖中の樹状細胞を、該樹状細胞によるインフルエンザ抗原の捕捉を許容するのに十分な量のウイルスに、そうするのに十分な時間曝露することができる。次いで、標準的な静脈内移植方法によりワクチン接種しようとする被験体に細胞を導入する。
【0052】
インフルエンザの予防的または治療的処理のための製剤中には、1種以上のインフルエンザBウイルスが存在してもよい。製剤は1種のインフルエンザBウイルスを含んでもよい。製剤は1種のインフルエンザBウイルスと1種のインフルエンザAウイルスを含んでもよい。製剤は、1種のインフルエンザBウイルスと2種のインフルエンザAウイルスを含んでもよい。製剤は、2種のインフルエンザBウイルスと2種のインフルエンザAウイルスを含んでもよい。製剤は、2種のインフルエンザBウイルスを含んでもよい。製剤中の少なくとも1種のインフルエンザBウイルスは、アミノ酸残基141にアルギニンを含んでもよい。
【0053】
インフルエンザウイルス、またはそのサブユニットの予防的投与のための製剤はまた、インフルエンザ抗原に対する免疫応答を増強するための1種以上のアジュバントを含んでもよい。好適なアジュバントとしては、サポニン、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油もしくは炭化水素乳濁液、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)、コリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)、ならびに合成アジュバントQS-21およびMF59が挙げられる。
【0054】
インフルエンザウイルスの予防的投与のための製剤化を、1種以上の免疫刺激分子の投与と共に行うことができる。免疫刺激分子としては、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-12、IL-13)などの、免疫刺激活性、免疫促進活性および前炎症活性を有する種々のサイトカイン、リンホカインおよびケモカイン;増殖因子(例えば、顆粒球-マクロファージ(GM)-コロニー刺激因子(CSF));ならびにマクロファージ炎症因子、Flt3リガンド、B7.1;B7.2などの他の免疫刺激分子が挙げられる。免疫刺激分子を、インフルエンザウイルスと同じ製剤中で投与するか、または別々に投与することができる。前記タンパク質または該タンパク質をコードする発現ベクターを投与して、免疫刺激効果をもたらすことができる。
【0055】
別の実施形態においては、インフルエンザゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含む本発明のベクターを用いて、宿主生物または宿主細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば、ヒト被験者から誘導された細胞中に、上記の好適な医薬担体または賦形剤と共に、異種核酸を導入することができる。異種核酸を、遺伝子またはゲノム断片の非必須領域中に挿入することができる。異種ポリヌクレオチド配列は、ポリペプチドもしくはペプチド、またはアンチセンスRNAもしくはリボザイムなどのRNAをコードしてもよい。次いで、異種核酸を含む組換えウイルスを製造することにより宿主または宿主細胞中に該異種核酸を導入し、ウイルスを上記のように投与する。
【0056】
あるいは、異種核酸を含む本発明のベクターを、インフルエンザウイルスに感染させた細胞中に該ベクターを同時トランスフェクトすることにより、宿主細胞中に導入し、発現させることができる。次いで、必要に応じて、細胞を、被験者、典型的には、それらを取得した部位に戻すか、または送達する。いくつかの用途においては、確立された細胞導入または移植手順を用いて、目的の組織、器官、または全身部位(上記の)に細胞を移植する。例えば、骨髄、臍帯血、または末梢血由来造血幹細胞などの造血系列の幹細胞を、標準的な送達または輸血技術を用いて被験体に送達することができる。
【0057】
あるいは、異種核酸を含むウイルスを、in vivoで被験体の細胞に送達することができる。そのような方法は、標的細胞集団(例えば、血液細胞、皮膚細胞、肝細胞、神経細胞(脳細胞を含む)、腎臓細胞、子宮細胞、筋肉細胞、腸管細胞、頸部細胞、膣細胞、前立腺細胞など、ならびに様々な細胞、組織および/もしくは器官から誘導された腫瘍細胞へのベクター粒子の投与を含んでもよい。投与は、例えば、ウイルス粒子の静脈内投与によるか、または注射(例えば、針もしくはシリンジを用いる)、針を用いないワクチン送達、局所投与、または組織、器官もしくは皮膚部位への押出しなどの様々な方法により目的の部位に直接的にウイルス粒子を送達することによる全身性のものであってよい。例えば、ウイルスベクター粒子を、吸入、経口、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内、鞘内により、または例えば、手術の間に体腔もしくは体の他の部位内にウイルス粒子を入れることにより送達することができる。
【0058】
本発明により包含される方法およびウイルスを用いて、例えば、ウイルス、細菌などに起因する感染性疾患のためのワクチンとして、遺伝的障害および後天的障害などの様々な障害を治療的または予防的に処理することができる。
【0059】
キット
本発明により包含されるベクターおよびインフルエンザウイルスの使用を容易にするために、実験目的または治療目的のためのインフルエンザウイルスのパッケージングおよび感染にとって有用な、任意のこれらの、およびさらなる成分、例えば、バッファー、細胞、培養培地を、キットの形態で包装することができる。キットは、上記成分に加えて、追加の材料、例えば、本発明の方法を実施するための器具、包装材料、および容器を含んでもよい。
【0060】
ウイルス核酸およびタンパク質の操作
本発明の文脈においては、インフルエンザウイルス核酸および/またはタンパク質を、よく知られる分子生物学技術に従って操作する。増幅、クローニング、突然変異誘発、形質転換などの多くのそのような手順に関する詳細なプロトコルは、例えば、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology (supplemented through 2000) John Wiley & Sons, New York (「Ausubel」); Sambrookら、Molecular Cloning - A Laboratory Manual (第2版), Vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York, 1989 (「Sambrook」)ならびにBergerおよびKimmel、Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology volume 152 Academic Press, Inc., San Diego, CA (「Berger」)に記載されている。
【0061】
上記の参考文献に加えて、例えば、本発明のcDNAプローブを増幅するのに有用な、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、Qβ-レプリカーゼ増幅などのin vitro増幅技術、および他のRNAポリメラーゼ媒介性技術(例えば、NASBA)のためのプロトコルが、Mullisら(1987)、米国特許第4,683,202号; PCR Protocols A Guide to Methods and Applications (Innisら(編)) Academic Press Inc. San Diego, CA (1990) (「Innis」); ArnheimおよびLevinson (1990) C&EN 36; The Journal Of NIH Research (1991) 3:81; Kwohら(1989) Proc Natl Acad Sci USA 86, 1173; Guatelliら(1990) Proc Natl Acad Sci USA 87:1874; Lomellら(1989) J Clin Chem 35:1826; Landegrenら(1988) Science 241:1077; Van Brunt (1990) Biotechnology 8:291; WuおよびWallace (1989) Gene 4: 560; Barringerら(1990) Gene 89:117、ならびにSooknananおよびMalek (1995) Biotechnology 13:563に見出される。本発明の文脈において核酸をクローニングするのに有用なさらなる方法としては、Wallaceら、米国特許第5,426,039号が挙げられる。PCRにより大きい核酸を増幅する改良された方法は、Chengら(1994) Nature 269:684およびその参考文献にまとめられている。
【0062】
本発明の特定のポリヌクレオチド、例えば、オリゴヌクレオチドを、モノヌクレオチド-および/またはトリヌクレオチドに基づくホスホルアミダイトカップリング化学などの様々な固相戦略を用いて合成することができる。例えば、核酸配列を、伸長しているポリヌクレオチド鎖への活性化されたモノマーおよび/またはトリマーの連続的付加により合成することができる。例えば、Caruthers, M.H.ら(1992) Meth Enzymol 211:3を参照されたい。
【0063】
所望の配列を合成する代わりに、本質的に任意の核酸を、Midland Certified Reagent Company (mcrc@oligos.com)、The Great American Gene Company (www.genco.com)、ExpressGen, Inc. (www.expressgen.com)、Operon Technologies, Inc. (www.operon.com)などの任意の様々な商業的供給源から特別注文することができる。
【0064】
さらに、ウイルスポリペプチド中での選択されたアミノ酸残基の置換を、例えば、部位特異的突然変異誘発により達成することができる。例えば、望ましい表現型特性、例えば、弱毒化表現型、低温適合性、温度感受性と機能的に相関するアミノ酸置換を有するウイルスポリペプチドを、該ポリペプチドをコードするウイルス核酸断片中に特定の突然変異を導入することにより製造することができる。部位特異的突然変異誘発のための方法は当業界でよく知られており、例えば、Ausubel、Sambrook、およびBerger(上掲)に記載されている。部位特異的突然変異誘発を実施するための多くのキット、例えば、Chameleon Site Directed Mutagenesis Kit (Stratagene, La Jolla)が市販されており、それを製造業者に従って使用して、例えば、表6または表17に記載の1個以上のアミノ酸置換を、それぞれ、インフルエンザAまたはBポリペプチドをコードするゲノム断片中に導入することができる。
【0065】
特定の実施形態
1.卵中で増加した複製を示すHA糖鎖付加されたインフルエンザBウイルスを調製する方法であって、
(a)インフルエンザBウイルスゲノム中に、HA位置141でのアルギニンへのアミノ酸置換をもたらす突然変異を導入すること;および
(b)インフルエンザBウイルスが産生される条件下で、突然変異させたインフルエンザウイルスゲノムを複製すること、
を含む前記方法。
【0066】
2.導入する工程を部位特異的突然変異誘発により実施する、実施形態1に記載の方法。
【0067】
3.卵中で増加した複製を示すHA糖鎖付加されたインフルエンザBウイルスを調製する方法であって、
(a)宿主細胞集団中に、
(i)第1のインフルエンザB株の少なくとも6個の内部ゲノム断片;および
(ii)少なくとも第2のインフルエンザB株のHAおよびNAポリペプチドをコードする1個以上のゲノム断片であって、HAポリペプチドがアミノ酸残基141にアルギニンを含む前記断片、
に対応するヌクレオチド配列を含む、複数のベクターを導入すること;
(b)35℃を超えない温度で宿主細胞集団を培養すること;ならびに
(c)インフルエンザウイルスを回収すること、
を含む前記方法。
【0068】
4.工程(i)の前に、複数のベクターのうちの1つのベクターに突然変異を導入することをさらに含み、該1つのベクターがHAをコードするゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含み、および該突然変異がアミノ酸残基141にアルギニンをもたらす、実施形態3に記載の方法。
【0069】
5.第1のインフルエンザBウイルスが1個以上の下記性質:温度感受性、弱毒性、または低温適合性を有する、実施形態3または4に記載の方法。
【0070】
6.第1のインフルエンザBウイルスが、アミノ酸残基:PB2630 (630R); PA431 (431M); PA497 (497H); NP55 (55A); NP114 (114A); NP4l0 (410H); NP5l0 (510T); M1159 (159Q)およびM1183 (183V)を含む、実施形態3〜5のいずれか1つに記載の方法。
【0071】
7.複数のベクターのベクター中に突然変異を導入する工程をさらに含み、該ベクターが第1のインフルエンザB株の6個の内部ゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含み、該突然変異がアミノ酸残基:PB2630 (630R); PA431 (431M); PA497 (497H); NP55 (55A); NP114 (114A); NP4l0 (410H); NP5l0 (510T); M1159 (159Q)およびM1183 (183V)の存在をもたらす、実施形態6に記載の方法。
【0072】
8.第1のインフルエンザBウイルスがB/Ann Arbor/1/66株である、実施形態3〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0073】
9.前記細胞が、Vero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、PCK細胞、MDCK細胞、MDBK細胞、293細胞、またはCOS細胞のうちの1つである、実施形態3〜8のいずれか1つに記載の方法。
【0074】
10.前記ベクターがプラスミドである、実施形態3〜9のいずれか1つに記載の方法。
【0075】
11.前記複数のベクターが、8つのプラスミドのセットを含み、8つのプラスミドのそれぞれが、第1または第2のインフルエンザB株の異なるゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含む、実施形態3〜10のいずれか1つに記載の方法。
【0076】
12.複数のプラスミドの各々が、全てのヌクレオチド配列を含む、実施形態3〜11のいずれか1つに記載の方法。
【0077】
13.前記方法がヘルパーウイルスを用いることを含まない、実施形態3〜12のいずれか1つに記載の方法。
【0078】
14.導入する工程を脂質媒介性トランスフェクションまたはエレクトロポレーションにより実施する、実施形態3〜13のいずれか1つに記載の方法。
【0079】
15.前記温度が30〜35℃である、実施形態3〜14のいずれか1つに記載の方法。
【0080】
16.前記温度が32〜35℃である、実施形態3〜15のいずれか1つに記載の方法。
【0081】
17.回収されたインフルエンザウイルスを卵で複製させることをさらに含み、卵で複製されたインフルエンザウイルスがHAのアミノ酸残基位置196/197の糖鎖付加部位を保持し、および該インフルエンザウイルスが卵で少なくとも7.0 log10 PFU/mlのピーク力価まで複製する、実施形態3〜16のいずれか1つに記載の方法。
【0082】
18.実施形態1〜17のいずれか1つに記載の方法により調製されたインフルエンザBウイルス。
【0083】
19.実施形態18に記載のインフルエンザBウイルスを含む免疫原性組成物。
【0084】
20.実施形態19に記載のインフルエンザBウイルスを含むワクチン。
【0085】
21.鼻内投与にとって好適である実施形態20に記載のワクチン。
【0086】
22.回収されたウイルスを殺傷することをさらに含む、実施形態3〜17のいずれか1つに記載の方法。
【0087】
23.a)インフルエンザウイルスを回収すること;およびb)回収されたウイルスを殺傷することをさらに含む実施形態1または2に記載の方法。
【0088】
24.実施形態1〜17のいずれか1つに記載の方法により製造されたウイルスを含む生弱毒化インフルエンザBウイルスワクチン。
【0089】
25.被験体におけるウイルス感染の治療方法であって、該被験体に、ウイルス感染に対する免疫原性応答を生成させるのに有効な量の、実施形態1〜17のいずれか1つに記載の方法により製造されたウイルスを投与することを含む、前記方法。
【実施例】
【0090】
実施例1:pAD3000の構築
プラスミドpHW2000(Hoffmannら(2000) A DNA transfection system for generation of influenza A virus from eight plasmids., Proc Natl Acad Sci USA, 97:6108-6113)を改変して、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルをサルウイルス40(SV40)から得られたポリアデニル化シグナル配列で置換した。
【0091】
SV40から得られた配列を、5'から3'への方向に規定された以下のオリゴヌクレオチド:polyA.1:AACAATTGAGATCTCGGTCACCTCAGACATGATAAGATACATTGATGAGT (配列番号1)、polyA.2: TATAACTGCAGACTAGTGATATCCTTGTTTATTGCAGCTTATAATGGTTA (配列番号2)を用いて、Taq MasterMix (Qiagen)を用いて増幅した。
【0092】
プラスミドpSV2Hisを鋳型として用いた。予測される175 bpの産物に一致する断片を取得し、Topo TAクローニングベクター(Invitrogen)を製造業者の指示書に従って用いて、pcDNA3.1中にクローニングした。SV40ポリアデニル化シグナルを含む所望の138 bpの断片を、EcoRVおよびBstEIIを用いて得られたプラスミドから切り出し、アガロースゲルから単離し、従来の技術(例えば、Ausubel、Berger、Sambrookを参照)を用いてpHW2000中のユニークなPvuIIおよびBstEII部位の間に連結した。得られたプラスミド、pAD3000(図1)を配列決定したところ、正確な向きにSV40のポリアデニル化部位を含むことがわかった。pAD3000中のヌクレオチド295〜423が、SV40株777(AF332562)中の、それぞれヌクレオチド2466〜2594に対応する。
【0093】
実施例2:MDV-Bの製造のための8プラスミド系
インフルエンザB/Ann Arbor/1/66の低温適合変異体(ca/Master Ann Arbor/1/66 P1 Aviron 10/2/97)である例示的なインフルエンザBマスタードナー株(MDV-B)に由来するウイルスRNAを、RNeasy Kit (Qiagen, Valencia, CA)を用いて、感染した孵化卵に由来する100μlの尿膜腔液から抽出し、RNAを40μlのH2O中に溶出させた。提供されたプロトコルに従ってOne Step RT-PCRキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて、各反応につき1μlの抽出されたRNAを用いて、ゲノム断片のRT-PCRを行った。RT反応を50℃で50分間行った後、94℃で15分間行った。PCRは、94℃で1分間、54℃で1分間、および72℃で3分間を25サイクルで行った。P遺伝子を、2個の断片の生成をもたらすBsmB1部位を含む断片特異的プライマーを用いて増幅した(表1)。
【表1】
【0094】
プラスミドのクローニング
PCR断片を単離し、BsmBI(またはNPについてはBsaI)で消化し、上記のようにBsmBI部位でpAD3000(マイナス鎖vRNAおよびプラス鎖mRNAの転写を可能にするpHW2000の誘導体)中に挿入した。得られたプラスミドのそれぞれについて2〜4個を配列決定し、RT-PCR断片の直接配列決定に基づいてMDV-Bの共通配列と比較した。共通配列とは異なるアミノ酸変化をもたらすヌクレオチド置換を有したプラスミドを、プラスミドのクローニングにより、またはQuikchangeキット(Stratagene, La Jolla, CA)を用いることにより、「修復」した。得られたB/Ann Arbor/1/66プラスミドを、pAB121-PB1、pAB122-PB2、pAB123-PA、pAB124-HA、pAB125-NP、pAB126-NA、pAB127-M、およびpAB128-NSと命名した。この二方向転写系を用いて、全てのウイルスRNAおよびタンパク質を細胞内生産させ、感染性インフルエンザBウイルスの生成をもたらした(図2)。
【0095】
共通配列と比較して、pAB121-PB1およびpAB124-HAが2個、およびpAB128-NSは1個のサイレントなヌクレオチド置換を有したことは注目に値する(表2)。これらのヌクレオチド変化は、アミノ酸変化をもたらさず、ウイルスの増殖およびレスキューに影響しないと予想される。これらのサイレントな置換を保持して、組換えウイルスの遺伝子型決定を容易にした。
【表2】
【0096】
PA、NP、およびM1遺伝子中にヌクレオチド置換を有するプラスミドの構築のために、プラスミドpAB123-PA、pAB125-NP、pAB127-Mを鋳型として用いた。ヌクレオチドをQuikchangeキット(Stratagene, La Jolla, CA)により変化させた。あるいは、2個の断片を、所望の突然変異を含むプライマーを用いるPCRにより増幅し、BsmBIを用いて消化し、および3個の断片の連結反応においてpAD3000-BsmBI中に挿入した。生成されたプラスミドを配列決定して、cDNAが望ましくない突然変異を含まないことを確保した。
【0097】
鋳型DNAの配列を、AmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼFS (Perkin-Elmer Applied Biosystems, Inc, Foster City, CA)と共にローダミン(Rhodamine)またはdRhodamineダイターミネーターサイクル配列決定即時反応キットを用いることにより決定した。サンプルを電気泳動により分離し、PE/ABIモデル373、モデル373 Stretch、またはモデル377 DNA配列決定装置上で分析した。
【0098】
別の実験において、増幅を94℃で30秒間、54℃で30秒間および72℃で3分間の25サイクルで行うこと以外は、インフルエンザB/Yamanashi/166/98に由来するウイルスRNAを増幅し、MDV-B株に関して上述したようにしてpAD3000中にクローニングした。B/Yamanashi/166/98株断片の増幅には、NPおよびNA断片の増幅のための以下のプライマー:それぞれ、MDV-B 5'BsmBI-NP:TATTCGTCTCAGGGAGCAGAAGCACAGCATTTTCTTGTG (配列番号36)およびMDV-B 3'BsmBI-NP:ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAACAGCATTTTTTAC (配列番号37)ならびにBm-NAb-1: TATTCGTCTCAGGGAGCAGAAGCAGAGCA (配列番号38)およびBm-NAb-1557R:ATATCGTCTCGTATTAGTAGTAACAAGAGCATTTT (配列番号39)の置換を有する同一のプライマーを用いた。このB/Yamanashi/166/98プラスミドを、pAB251-PB1、pAB252-PB2、pAB253-PA、pAB254-HA、pAB255-NP、pAB256-NA、pAB257-M、およびpAB258-NSと命名した。3個のサイレントなヌクレオチド差異を、PA中で同定し、組換えおよび再集合体B/Yamanashi/166/98ウイルスの遺伝子型決定を容易にした。
【0099】
実施例3:感染性組換えインフルエンザBウイルスおよび再集合体インフルエンザウイルスの生成
293TまたはCOS-7細胞(高いトランスフェクション効率およびpolI活性を有する霊長類細胞)と、MDCK細胞(インフルエンザウイルスに対して許容性)との同時培養により、感染性組換えインフルエンザBウイルスを産生させた。293T細胞を、5%FBS細胞を含むOptiMEM I-AB培地中で維持し、COS-7細胞を、10%FBSを含むDMEM I-AB培地中で維持した。MDCK細胞を、抗生物質および抗真菌剤を添加した1 x MEM、10%FBS中で維持した。ウイルスゲノムベクターを用いるトランスフェクションの前に、細胞を5 mlのPBSまたはFBSを含まない培地で1回洗浄した。10 mlのトリプシン-EDTAを、75 cm2のフラスコ中の集密状態(confluent)の細胞に添加した(MDCK細胞を、20〜45分間インキュベートし、293T細胞を1分間インキュベートした)。細胞を遠心分離し、10 mlのOptiMEM I-AB中に再懸濁した。次いで、1 mlの各懸濁化細胞系を、18 mlのOptiMEM I-AB中に希釈し、混合した。次いで、細胞を3 ml/ウェルで6個のウェルに分注した。6〜24時間後、1μgの各プラスミドを、OptiMEM I-ABを含む1.5 mlのエッペンドルフチューブ中で、プラスミド(xμlのプラスミド + xμlのOptiMEM I-AB + xμlのTransIT-LT1=200μl)と混合した。すなわちプラスミドDNA 1μgあたり2μlのTransIT-LT1。混合物を室温で45分間インキュベートした。次いで、800μlのOptiMEM I-ABを添加した。培地を細胞から除去し、トランスフェクション混合物を33℃で6〜15時間、細胞に添加した(t = 0)。トランスフェクション混合物を細胞からゆっくりと除去し、1 mlのOptiMEM I-ABを添加し、細胞を33℃で24時間インキュベートした。トランスフェクションの48時間後、1μg/mlのTPCK-トリプシンを含有する1 mlのOptiMEM I-ABを細胞に添加した。トランスフェクションの96時間後、1μg/mlのTPCK-トリプシンを含む1 mlのOptiMEM I-ABを細胞に添加した。
【0100】
トランスフェクション後4日〜7日の間に、1 mlの細胞培養上清を取り出し、HAまたはプラークアッセイによりモニターした。簡単に述べると、1 mlの上清をエッペンドルフチューブ中に分注し、5000 rpmで5分間遠心分離した。900μlの上清を新しいチューブに移し、MDCK細胞に対して500μl/ウェル(例えば、12穴プレート中)で連続希釈を行った。上清は1時間細胞と共にインキュベートした後、除去し、1μg/mlのTPCK-トリプシンを含む感染培地(1 x MEM)に置換した。次いで、HAアッセイまたはプラークアッセイを行った。例えば、プラークアッセイについては、上清を、33℃で3日間、0.8%のアガロース上層と共にインキュベートしたMDCK細胞について滴定した。卵の感染のために、トランスフェクトされた細胞の上清を、トランスフェクションの6または7日後に回収し、Opti-MEM I中の100μlのウイルス希釈液を、11日齢の孵化鶏卵中に33℃で注入した。MDCK細胞中でTCID50アッセイにより接種の3日後に力価を決定した。
【0101】
MDV-Bを作製するために、同時培養された293T-MDCK細胞またはCOS-7-MDCK細胞を、1μgの各プラスミドを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの5〜7日後に試験した場合、同時培養されたMDCK細胞は細胞変性効果(CPE)を示したが、これは、クローニングされたcDNAから感染性MDV-Bウイルスが生成されたことを示唆している。7つのプラスミドでトランスフェクトされた細胞中ではCPEは観察されなかった(表3)。ウイルス生成に関するDNAトランスフェクション系の効率を決定するために、細胞の上清を、MDCK細胞についてトランスフェクションの7日後に滴定し、ウイルス力価をプラークアッセイにより決定した。同時培養された293T-MDCKの上清のウイルス力価は5.0 x 106 pfu/mlであり、COS7-MDCK細胞においては7.6 x 106 pfu/mlであった。
【表3】
【0102】
一過的に同時培養された293T-MDCK(1,2)または同時培養されたCOS7-MDCK細胞(3,4)を、7つまたは8つのプラスミドでトランスフェクトした。細胞変性効果(CPE)を、同時培養されたMDCK細胞中でトランスフェクションの7日後にモニターした。トランスフェクションの7日後、トランスフェクトされた細胞の上清をMDCK細胞について滴定した。pfu/mlのデータは、複数回(例えば、3回または4回)トランスフェクション実験の平均である。
【0103】
B/Yamanashi/166/98プラスミドベクターを用いるトランスフェクション実験において、同等の結果が得られた。これらの結果は、トランスフェクション系が8つのプラスミド由来のインフルエンザBウイルスの再現可能なde novo生成を可能にすることを示している。
【0104】
組換えインフルエンザBの遺伝子型決定
その後、MDCK細胞で継代した後、感染細胞の上清のRT-PCRを用いて、生成されたウイルスの真正性を確認した。RT-PCRを、全部で8個の断片に対する断片特異的プライマーを用いて行った(表1)。図3Aに示されるように、PCR産物は全ての断片について生成された。PB1、HAおよびNS断片のPCR産物の直接配列決定により、分析された4個のヌクレオチドが、プラスミドpAB121-PB1、pAB124-HA、およびpAB128-NS中に認められるものと同じであることが示された。これらの結果により、生成されたウイルスが、設計されたプラスミドから生成されたこと、そして親ウイルスの実験室夾雑物の可能性が排除されたこと(陰性対照に加えて)が確認された(図3B)。
【0105】
同様に、B/Yamanashi/166/98プラスミドベクターでトランスフェクトした後、ウイルスを回収し、PA断片のヌクレオチド1280〜1290を含む領域を増幅した。配列決定により、回収されたウイルスがプラスミド由来組換えB/Yamanashi/166/98に相当することが確認された(図3CおよびD)。
【0106】
rMDV-Bの表現型決定
MDV-Bウイルスは、2つの特徴的な表現型を示す:温度感受性(ts)および低温適合性(ca)。定義により、33℃と比較して37℃でのウイルス力価における2 log(またはそれ以上)の差異がtsを定義し、caは33℃と比較して25℃でのウイルス増殖における2 log未満の差異により定義される。一次ニワトリ腎臓(PCK)細胞に、親ウイルスMDV-Bおよびプラスミドに由来するトランスフェクトされたウイルスを感染させて、3つの温度でのウイルス増殖を決定した。
【0107】
プラークアッセイのために、6穴プレート中の集密状態のMDCK細胞(ECACC)を用いた。ウイルス希釈液を、33℃で30〜60分間インキュベートした。細胞に、0.8%のアガロース上層を上層した。感染細胞を33℃または37℃でインキュベートした。感染の3日後、細胞を0.1%クリスタルバイオレット溶液で染色し、プラーク数を決定した。
【0108】
ca-ts表現型アッセイを、25、33、および37℃でのウイルスサンプルのTCID50滴定により実施した。このアッセイ形式は、様々な温度(25℃、33℃、37℃)で、96穴細胞培養プレート中の一次ニワトリ腎臓細胞単層上でのインフルエンザウイルスの細胞変性効果(CPE)を試験することによりTCID50力価を測定する。このアッセイは、温度およびウイルス株に応じて変化するプラークの形態に依存するのではなく、その代わりに、複製し、CPEを引き起こすインフルエンザウイルスの能力にもっぱら依存する。原発組織のトリプシン処理により調製された、一次ニワトリ腎臓(PCK)細胞懸濁液を、5%FCSを含むMEM(Earlの)培地中に懸濁した。PCK細胞を96穴細胞培養プレート中に48時間播種して、90%を超える集密度を有する単層を調製した。48時間後、PCK細胞単層を、表現型アッセイ培地(PAM)と呼ばれる5 mM L-グルタミン、抗生物質、非必須アミノ酸を含む無血清MEM培地で1時間洗浄した。ウイルスサンプルの連続10倍希釈液を、PAMを含む96穴ブロック中で調製した。次いで、希釈されたウイルスサンプルを、96穴プレート中の洗浄されたPCK単層上にプレーティングした。ウイルスサンプルのそれぞれの希釈率で、6ウェルの反復物を、希釈されたウイルスによる感染に用いた。細胞対照としての未感染の細胞を、各サンプルにつき6ウェルの反復物として含有させた。各ウイルスサンプルを2〜4個の反復物中で滴定した。25℃、33℃、および37℃で所定の力価を有する表現型対照ウイルスを、各アッセイに含有させる。ウイルスサンプルのts表現型を決定するために、プレートを、5%CO2細胞培養インキュベーター中、33℃および37℃で6日間インキュベートした。ca表現型の特性評価のために、プレートを、2℃で10日間インキュベートした。Karber法によりウイルス力価を算出し、Log10平均(n=4)TCID50力価/ml±標準偏差として報告した。図1〜3に示したウイルス力価の標準偏差は0.1〜0.3の範囲であった。33℃および37℃でのウイルス力価の差異を用いてts表現型を決定し、ウイルスの25℃および33℃での力価の差異を用いてca表現型を決定した。
【0109】
プラスミド由来組換えMDV-B (recMDV-B)ウイルスは、予想されるように、細胞培養における2つの特徴的な表現型caおよびtsを発現した。25℃で効率的に複製するca表現型は、PCK細胞についてアッセイした場合、2 log10以下である25℃と33℃の間の力価の差異として機能的に測定される。親MDV-BとrecMDV-Bは共に、caを発現した。その25℃と33℃の間の差異は、それぞれ、0.3および0.4 log10であった(表4)。PCK細胞について2つの異なる温度で力価を測定することにより、ts表現型も測定する。しかしながら、この表現型については、37℃での力価は、2 log10以上であることにより、33℃での力価未満であるはずである。親MDV-BおよびrecMDV-Bに関する33℃と37℃の間の差異は、それぞれ、3.4および3.7 log10であった(表4)。かくして、組換えプラスミド由来MDV-Bウイルスは、caおよびts表現型の両方を発現した。
【0110】
組換えウイルスは、33℃での7.0 log10 TCID50/mlおよび37℃での3.3 TCID50/mlおよび25℃での8.8 log10 TCID50/mlの力価を有していた(表4)。かくして、8個のインフルエンザMDV-Bゲノム断片プラスミドでのトランスフェクションから誘導された組換えウイルスは、caおよびts表現型の両方を有していた。
【表4】
【0111】
実施例7:再集合体B/Yamanashi/166/98ウイルスの製造
インフルエンザBの主要な系列であるいくつかの異なる株のHAおよびNA断片を、本質的には上記のようにして増幅し、pAD3000中にクローニングした。HAおよびNA断片の同時的RT-PCR増幅のためにプライマーを最適化した。断片4(HA)および断片6(NB/NA)の非コード領域であるvRNAの末端領域の比較により、5'末端の20個の末端ヌクレオチドおよび3'末端の15ヌクレオチドが、インフルエンザBウイルスのHAおよびNA遺伝子の間で同一であることが示された。RT-PCRのためのプライマー対(イタリック体の配列はインフルエンザBウイルス特異的である):
を合成し、これを用いて様々なインフルエンザB株に由来するHAおよびNA遺伝子を同時に増幅した(図6)。B/Victoria/504/2000、B/Hawaii/10/2001、およびB/Hong Kong/330/2001のHAおよびNA PCR断片を単離し、BsmBIで消化し、pAD3000中に挿入した。これらの結果は、インフルエンザBの主要な系列であるいくつかの異なる野生型ウイルスに由来するインフルエンザB HAおよびNA遺伝子を含むプラスミドの効率的生成のためのこれらのプライマーの適用性を証明していた。このRT-PCR産物を、発現プラスミド中での配列決定および/またはクローニングに用いることができる。
【0112】
様々なインフルエンザB系列に由来する抗原を効率的に発現するB/Yamanashi/166/98 (B/Yamagata/16/88様ウイルス)の有用性を証明するために、B/Yamanashi/166/98に由来するPB1、PB2、PA、NP、M、NSを含む再集合体ならびにVictoriaおよびYamagata系列の双方に該当する株に由来するHAおよびNA(6+2再集合体)を作製した。一過的に同時培養したCOS7-MDCK細胞を、上記の方法に従って、B/Yamanashi/166/98に該当する6個のプラスミドならびにB/Victoria/2/87系列に由来する2種の株B/Hong Kong/330/2001およびB/Hawaii/10/2001、ならびにB/Yamagata/16/88系列に由来する1種の株B/Victoria/504/2000のHAおよびNA断片のcDNAを含む2個のプラスミドで同時トランスフェクトした。トランスフェクションの6〜7日後、上清を新鮮なMDCK細胞で滴定した。全部で3種の6+2再集合体ウイルスが、4〜9 x 106 pfu/mlの力価を有していた(表5)。これらのデータは、B/Yamanashi/166/98の6個の内部遺伝子が、両方のインフルエンザB系列に由来するHAおよびNA遺伝子断片を含む感染性ウイルスを効率的に形成することができることを示していた。
【0113】
同時培養されたCOS7-MDCK細胞の上清を、トランスフェクションの6または7日後に滴定し、MDCK細胞でのプラークアッセイによりウイルス力価を決定した。
【表5】
【0114】
卵中での野生型B/Yamanashi/166/98の複製により、比較的高い力価が得られた。実験を行って、この特性がこのウイルスの6個の「内部」遺伝子の固有の表現型であるかどうかを決定した。この特性を評価するために、卵中でのみ適度に複製した野生型B/Victoria/504/2000の収率を、B/Victoria/504/2000のHAおよびNAを発現する6+2再集合体の収率を比較した。野生型および組換えB/Yamanashi/166/98に加えて、これらのウイルスをそれぞれ3または4個の孵化鶏卵中に、100または1000 pfuで接種した。感染の3日後、尿膜腔液を卵から回収し、TCID50力価をMDCK細胞で決定した。6+2再集合体は、尿膜腔液中でwtおよび組換えB/Yamanashi/166/98株と同様の量のウイルスを産生した(図7)。B/Victoria/504/2000と6+2組換え体の間の力価の差異は、約1.6 log10 TCID50 (0.7-2.5 log10 TCID50/mL、95% CI)であった。B/Victoria/504/2000と6+2組換え体の間の差異を、3つの別々の実験上で確認した(P<0.001)。これらの結果は、B/Yamanashi/166/98の卵増殖特性を、通常は卵中であまり複製しない株から発現されるHAおよびNA抗原に付与することができることを示していた。
【0115】
実施例8:ca B/Ann Arbor/1/66の弱毒化のための分子的基礎
フェレットにおいて弱毒化表現型を示し、細胞培養物において低温適合性および温度感受性表現型を示す、MDV-Bウイルス(ca B/Ann Arbor/1/66)を、ヒトにおいて弱毒化する。MDV-Bの内部遺伝子の推定アミノ酸配列を、BLAST検索アルゴリズムを用いて、Los Alamosインフルエンザデータベース(ワールドワイドウェブ上のflu.lanl.gov)中の配列と比較した。MDV-Bにとってユニークであり、任意の他の株に存在しない8個のアミノ酸を同定した(表6)。PB1、BM2、NS1、およびNS2をコードするゲノム断片は、ユニークな置換された残基を示さない。PAおよびM1タンパク質は各々2個、NPタンパク質は4個のユニークな置換アミノ酸(表6)を有する。1個の置換アミノ酸は、PB2中の位置630に認められる(さらなる株B/Harbin/7/94 (AF170572)も位置630にアルギニン残基を有する)。
【0116】
これらの結果は、遺伝子断片PB2、PA、NPおよびM1がMDV-Bの弱毒化表現型に関与することを示唆していた。MDV-Aについて上記されたものと類似する様式で、8プラスミド系を用いて、単にMDV-Aに関して上記の培養細胞中での関連するプラスミドの同時トランスフェクションによるヘルパー非依存的様式で組換え体および再集合体(1および/または2個、すなわち、7:1;6:2再集合体)を作製することができる。例えば、B/Lee/40に由来する6個の内部遺伝子を、MDV-Bから誘導されるHAおよびNA断片と共に用いて、6+2再集合体を作製することができる。
【表6】
【0117】
8個のユニークなアミノ酸差異が、特徴的なMDV-B表現型に対する影響を有するかどうかを決定するために、8個全部のヌクレオチド位置がwtインフルエンザ遺伝的相補体を反映するアミノ酸をコードする組換えウイルスを構築した。PA、NP、およびM1遺伝子の8個の残基を部位特異的突然変異誘発により変化させて、野生型アミノ酸を反映させたプラスミドのセットを構築した(表6に示される)。rec53-MDV-Bと命名された、8個全部の変化を有する組換え体を、同時培養されたCOS7-MDCK細胞上への構築されたプラスミドの同時トランスフェクションにより作製した。MDCK細胞の同時培養および33℃での増殖により、上清がトランスフェクションの6〜7日後に高いウイルス力価を含むことを確保した。トランスフェクトされた細胞の上清を滴定(力価測定)し、プラークアッセイならびに33℃および37℃のPCK細胞によりMDCK細胞上で力価を決定した。
【0118】
図8に示されるように、2つの異なる独立した実験において、recMDV-BはMDCK細胞とPCK細胞の両方においてts表現型を発現した。8個全部のアミノ酸変化を担持するように設計された3再集合体ウイルスrec53-MDV-Bが非ts表現型を発現し、33℃〜37℃での力価の差異はPCK細胞においてはわずかに0.7 log10であった。この力価は、ts定義に特徴的な必要な2 log10の差異よりも低く、recMDV-Bについて観察された約3 log10の差異よりも有意に低かった。これらの結果は、PA、NP、およびM1タンパク質内の8個のアミノ酸の変化が、同種および異種性糖タンパク質の両方を有する非ts、野生型様ウイルスをもたらすのに十分であったことを示している。
【0119】
次いで、ts表現型への各遺伝子断片の寄与を決定した。野生型アミノ酸相補体を含むPA、NP、またはM遺伝子断片を担持するプラスミド由来組換え体を、DNA同時トランスフェクション技術により作製した。単一遺伝子組換え体は全て、MDCK細胞およびPCK細胞中、37℃で増殖制限を示した(図9)が、これは1個の遺伝子断片における変化がts表現型を逆転させることができないことを示唆している。さらに、NPおよびMまたはPAおよびM遺伝子断片の両方を一緒に担持する組換えウイルスも、ts表現型を保持していた。対照的に、PAおよびNP遺伝子断片の両方を担持した組換えウイルスは、rec53-MDV-Bと同様に、37℃〜33℃で2.0 log10以下の力価の差異を有していた。これらの結果は、NPおよびPA遺伝子がts表現型への主要な寄与を有することを示している。
【0120】
NPタンパク質中のその4個全部のアミノ酸およびPAタンパク質中の2個のアミノ酸が非tsに寄与するかどうかを決定するために、NPおよびPA遺伝子を変化させた3重遺伝子および2重遺伝子組換え体を作製した(図10)。NPタンパク質中の2個のアミノ酸の置換、A114→V114およびH410→P410は非ts表現型をもたらした。核タンパク質中の1個の置換H410→P410を有するウイルスは、MDCKおよびPCK中で非ts表現型を示した。一方、1個の置換A55→T55は、ts表現型を示し、位置509での1個の置換も同様であった。これらの結果は、NP中のアミノ酸残基V114およびP410が、37℃での効率的な増殖に関与することを示唆している(図11A)。同様の戦略を用いて、PA遺伝子中の2個のアミノ酸の寄与を分析した。それぞれ4個の野生型共通アミノ酸を含むNP遺伝子および2個の共通野生型アミノ酸のうちの1個のみを含むPA遺伝子を担持する組換え体のセットを構築した。H497→Y497の置換は、tsを保持したが(図11B)、この遺伝子座は該表現型の発現に対してほとんど影響しなかったことを示している。対照的にM431のV431での置換はts表現型の逆転をもたらした。これらの結果は、NP中のアミノ酸A114およびH410ならびにPA中のM431がMDV-Bの温度感受性の主要な決定因子であることを示している。
【0121】
以前の証拠に基づけば、ts表現型と弱毒化表現型は高度に相関する。ca B/Ann Arbor/1/66ウイルスは感染したフェレットの肺組織においては検出不可能であるが、非弱毒化インフルエンザBウイルスは鼻内感染後に肺中で検出可能である。同一の突然変異がtsおよびatt表現型の基礎となっているかどうかを決定するために、以下の研究を行った。
【0122】
トランスフェクション後に得られた組換えウイルスを孵化鶏卵中で継代して、ウイルス保存液を作製した。9週齢のフェレットに、5.5、6.0または7.0 log10 pfu/mlの力価を有するウイルスを鼻孔あたり0.5 ml、鼻内接種した。感染の3日後に、フェレットを犠牲にし、その肺および鼻甲介を以前に記載のように試験した。
【0123】
フェレット(各群に4匹の動物)を、recMDV-Bまたはrec53-MDV-Bに鼻内感染させた。ウイルス感染の3日後、鼻甲介および肺組織を収穫し、ウイルスの存在を試験した。7.0 log10 pfuのrecMDV-Bに感染させたフェレットの肺組織にはウイルスは検出されなかった。7.0 log10 pfuのrec53-MDV-Bを感染させた4匹の動物のうち、3匹の動物において、肺組織でウイルスが検出された(この群の1匹の動物については理由不明)。より低い用量(5.5 log pfu/ml)のrec53-MDV-Bに感染させたフェレットの4つの肺組織のうちの2つにおいて、肺組織からウイルスを単離することができた。かくして、PA、NP、およびM1タンパク質中の8個のユニークなアミノ酸の野生型残基への変化は、att表現型を非att表現型に変換するのに十分であった。
【0124】
細胞培養物中のデータは、PAおよびNPがts表現型への主要な寄与因子であることを示すため、第2の実験において、フェレットを6 log pfuのrec53-MDV-B(PA、NP、M)、rec62-MDV-B(PA)、NPrec71-MDV-B(NP)に感染させた。rec53-MDV-Bに感染させた4匹の動物のうちの2匹は、肺にウイルスを有していた。1個および2個の再集合体ウイルスに感染させたフェレットの肺組織はいずれも、検出可能なレベルのウイルスを有していなかった。かくして、PAおよびNPタンパク質中のアミノ酸に加えて、M1タンパク質がatt表現型にとって重要である。wt PAおよびNPを有するウイルスはフェレットの肺において複製しなかったが、これは、弱毒化に関与する突然変異のサブセットがts表現型に関与することを示唆している。
【0125】
かくして、B/Ann Arbor/1/66のtsおよびatt表現型は、多くても3個の遺伝子により決定される。PA、NPおよびM1タンパク質中の8個のアミノ酸の野生型残基への変換により、組換えウイルスは37℃で効率的に複製した。同様に、B/Hong Kong/330/01に由来するHAおよびNA断片を有するMDV-Bの6個の内部遺伝子を表す6+2組換えウイルスは、ts表現型を示し、三重組換え体は非tsを示した。
【0126】
MDV-B骨格を用いる本発明者らの結果は、ts/att表現型を非ts/非att表現型に変換するには、6個のアミノ酸で十分であることを示唆していた。従って、本発明者らは、これらの6個の「弱毒化」残基の導入により、これらの生物学的特性が、B/Yamanashi/166/98などの、異種野生型の非弱毒化インフルエンザBウイルスに導入されるかどうかを決定することに興味を持った。
【0127】
6個のアミノ酸変化PA(V431→M431、H497→Y497)、NP(V114→A114、P410→H410)、およびM1(H159→Q159、M183→V183)を有する組換え野生型B/Yamanashi/166/98 (recYam)(7)および組換えウイルス(rec6-Yam)を作製した。RecYamは、33℃と比較して37℃で0.17 log10の力価減少を示したが、rec6Yamは明らかにtsであり、37℃と33℃の間のウイルス力価の差異は4.6 log10であった。典型的な野生型インフルエンザBウイルスについて予想された通り、recYamに感染させたフェレットからウイルスが効率的に回収された。rec6Yamをフェレットに接種した場合、肺組織ではウイルスが検出されなかった(表7)。かくして、MDV-Bに由来するts/att遺伝子座の導入は、tsおよびatt表現型を異なるウイルスに導入するのに十分である。
【表7】
【0128】
従って、1個以上のこれらのアミノ酸置換を有するインフルエンザB株ウイルスの人工的に操作された変異体は、tsおよびatt表現型を示し、例えば、弱毒化生インフルエンザウイルスワクチンの製造におけるマスタードナー株ウイルスとしての使用にとって好適である。
【0129】
実施例9:B/Ann Arbor/1/66インフルエンザウイルスの低温適合性表現型を制御する遺伝子座の決定
低温適合性(ca)B/Ann Arbor/1/66は、生弱毒化インフルエンザB Flumist(登録商標)ワクチンのためのマスタードナーウイルス(MDV-B)である。ca B/Ann Arbor/1/66に由来する6個の内部遺伝子ならびに血中循環する野生型株に由来するHAおよびNA表面糖タンパク質を担持する6:2インフルエンザBワクチンは、低温適合性(ca)、温度感受性(ts)および弱毒化(att)表現型を特徴とする。配列分析により、MDV-Bが野生型インフルエンザB株には認められないPB2、PA、NPおよびM1タンパク質中の9個のアミノ酸を含むことが示された。本発明者らは、PA(M431V)およびNP(A114V、H410P)中の3個のアミノ酸がts表現型を決定し、これらの3個のts遺伝子座に加えて、M1中の2個のアミノ酸(Q159H、V183M)がatt表現型を付与することを決定した。
【0130】
ca表現型の分子的基礎を理解するために、プラスミドに基づく逆遺伝学系を用いて、ca表現型へのこれらの9個のMDV-B特異的アミノ酸の寄与を評価した。組換えMDV-Bはニワトリ胚性腎臓(CEK)細胞中、25℃および33℃で効率的に複製した。対照的に、9個の野生型アミノ酸を含む、組換え野生型B/Ann Arbor/1/66は、25℃で効率的に複製しなかった。1個はPB2中(R630S)、1個はPA中(M431V)および3個はNP中(A114V、H410P、T509A)の合計5個の野生型アミノ酸が、MDV-B ca表現型を完全に逆転するのに必要であると決定された。さらに、MDV-Bまたは6:2ワクチン株のM1タンパク質中の2個のアミノ酸(Q159H、V183M)を、野生型アミノ酸と置換することにより、CEK細胞中、33℃でのウイルス複製が有意に増加したが、25℃では増加しなかった;V183Mの変化は該変化に対するより大きい影響を有していた。
【0131】
実施例10:Vero細胞のエレクトロポレーションによる8つのプラスミドからのインフルエンザのレスキュー
組換えインフルエンザウイルスをエレクトロポレーションを用いてVero細胞からレスキューすることもできる。これらの方法は、インフルエンザAおよびインフルエンザB株ウイルスの両方の製造にとって好適であり、例えば、鼻内ワクチン製剤中での投与にとって好適な生弱毒化ワクチンの調製を容易にする無血清条件下で増殖させたVero細胞からの、例えば、低温適合性、温度感受性、弱毒化ウイルスの回収を可能にする。ウイルス株間でのその広い適用性に加えて、エレクトロポレーションは細胞基質のための増殖培地以外の追加試薬を必要とせず、かくして、望ましくない夾雑物の可能性が低い。特に、この方法は、病原体を含まないと見なされ、かつワクチン製造にとって好適なVero細胞単離物などの、無血清条件下で増殖するように適合させたVero細胞を用いて組換えおよび再集合体ウイルスを作成するのに有効である。この特徴は、細胞基質へのDNAの商業的導入のための好適な方法としてのエレクトロポレーションの選択を支持する。
【0132】
エレクトロポレーションを、多くの脂質に基づく試薬を用いるトランスフェクション、リン酸カルシウム沈降法および細胞のマイクロインジェクションなどの、Vero細胞にDNAを導入するための様々な方法と比較した。インフルエンザAのレスキューについては脂質に基づく試薬を用いる場合にいくらかの成功が得られたが、Vero細胞からインフルエンザBならいbにインフルエンザAをレスキューすることが示されたのはエレクトロポレーションのみであった。
【0133】
エレクトロポレーションの1日前に、90〜100%集密なVero細胞を分割し、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸および10%FBSを補給したMEM(MEM、10%FBS)中、T225フラスコあたり9 x 106細胞の密度で播種した。次の日、細胞をトリプシン処理し、T225フラスコあたり50 mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。次いで、細胞をペレット化し、T225フラスコあたり0.5 mlのOptiMEM I中に再懸濁する。必要に応じて、ヒトまたは動物由来成分を含まない特注生産されたOptiMEM培地を用いることができる。例えば、血球計中の1:40希釈液を計測することにより、細胞密度を決定した後、5 x 106細胞を、最終容量400μlのOptiMEM I中、0.4 cmのエレクトロポレーションキュベットに添加した。次いで、25μl以下の容量のMDV-AもしくはMDV-Bを含む8プラスミドの等モル濃度混合物からなる20μgのDNAを、キュベット中の細胞に添加した。細胞をタッピングにより穏やかに混合し、Capacitance Extender Plusを備えたBioRad Gene Pulser II(BioRad, Hercules, CA)中、300ボルト、950μFaradでエレクトロポレーションした。時間定数は28〜33 msecの範囲にあるべきである。
【0134】
キュベットの内容物をタッピングにより穏やかに混合し、エレクトロポレーションの1〜2分後、0.7 mlのMEM、10%FBSを1 mlのピペットを用いて添加した。細胞を、上下に数回ピペッティングすることにより穏やかに再度混合した後、ウェルあたり2 mlのMEM、10%FBSを含む6ウェルディッシュの2個のウェルに分割した。次いで、キュベットを1 mlのMEM、10%FBSで洗浄し、ウェルあたり約3.5 mlの最終容量で2個のウェルに分割した。
【0135】
代替的な実験において、例えば、OptiPro(SFM)(Invitrogen, Carlsbad, CA)中での無血清増殖条件に適合させたVero細胞を、OptiMEM I中でのエレクトロポレーション後に、細胞をOptiPro(SFM)中に希釈した後、それらをウイルスのレスキューのために培養したことを除いて、上記のようにエレクトロポレーションした。
【0136】
次いで、エレクトロポレーションされた細胞を、導入されたウイルスの複製および回収にとって好適な条件下で、すなわち、低温適合性マスタードナー株については33℃で増殖させた。次の日(例えば、エレクトロポレーションの約19時間後)、培地を除去し、細胞をウェルあたり3 mlのOptiMEM IまたはOptiPro(SFM)で洗浄した。ペニシリン/ストレプトマイシンを含む1 ml/ウェルのOptiMEM IまたはOptiPro(SFM)を各ウェルに添加し、培地を置換することにより上清を毎日回収した。上清をSPG中、-80℃で保存した。典型的には、ピークウイルス産生はエレクトロポレーションの2〜3日後に観察された。
【表8】
【0137】
実施例11:卵中でのインフルエンザBウイルスの増殖はHA 196/197糖鎖付加部位の喪失をもたらす
多くのインフルエンザBウイルス臨床単離物は、潜在的なHA N結合糖鎖付加部位を含む。このHA N結合糖鎖付加部位は、B/Yamagata株についてはアミノ酸残基196〜199の周辺に、B/Victoria株についてはアミノ酸残基197〜199の周辺に存在する。B/Malaysia/2506/04およびB/Ohio/1/05などの最近血中循環が見られるB/Victoria株、ならびにB/Florida/7/04などの最近血中循環が見られるB/Yamagata株は、この潜在的なHA N結合糖鎖付加部位を含む。
【0138】
これらの株のHA糖鎖付加部位が卵中での継代後に保持されるかどうかを決定するために、それぞれの株を卵で増殖させ、ヌクレオチド配列決定を行って、コードされたHAポリペプチドのアミノ酸配列を決定した。この研究において用いた記載のウイルス株は、米疾病対策予防センター(CDC, Atlanta, GA)から得られたものである。このウイルスを用いて、ウイルス接種の10〜11日前に受精させたCharles River SPAFAS (Franklin, CT, North)から得られた孵化鶏卵に接種した。接種された卵を33℃でインキュベートした。接種された卵中のウイルスに由来するHAウイルスRNAを、RT-PCRにより増幅した後、配列決定した。
【0139】
インフルエンザB株B/Ohio/1/05、B/Malaysia/2506/04、およびB/Florida/7/04のHAポリペプチドのアミノ酸配列はいずれも、卵での継代後にN結合糖鎖付加部位において変化した。B/Ohio/1/05の糖鎖付加部位の配列は、NETからSETに変化した。B/Malaysia/2506/04の糖鎖付加部位の配列は、NETからNEAまたはSETに変化した。B/Florida/7/04の糖鎖付加部位の配列は、NKTからNKP、DKT、またはIKTに変化した。以下の表9を参照されたい。
【表9】
【0140】
インフルエンザBウイルスの様々な他の株のHA糖鎖付加部位のアミノ酸配列を試験した。卵での継代後に6種のB/Victoriaおよび8種のB/Yamagataに関するHAアミノ酸配列の一部を示す図12を参照されたい。図中で、潜在的なN結合糖鎖付加部位(N-X-T/S)に下線を付す。試験した14種のインフルエンザBウイルス株はいずれも、卵での継代後にその潜在的なN-X-T/S結合糖鎖付加部位を保持しなかったことが分かった。
【0141】
実施例12:HA 196/197糖鎖付加部位の喪失はインフルエンザBウイルスの抗原性を低下させる
インフルエンザB株B/Ohio/1/05、B/Malaysia/2506/04、およびB/Florida/7/04の抗原性に対するHA 196-197糖鎖付加部位の効果を次に試験した。糖鎖付加されたウイルスと糖鎖付加されていないウイルスの抗原性を比較するために、インフルエンザB株B/Ohio/1/05、B/Malaysia/2506/04、およびB/Florida/7/04の各々に対応するウイルス対を、逆遺伝学を用いて作製した(実施例3を参照)。各対の2個のメンバーは、第1のメンバーが野生型アミノ酸配列を有するHAポリペプチド、すなわち、CDCから得られた株中に存在するN結合糖鎖付加部位を含むHAアミノ酸配列を含み、第2のメンバーがN結合糖鎖付加部位を欠くHAポリペプチド、すなわち、卵中での継代後にウイルスから得られたHAアミノ酸配列を含む以外は同一であった。
【0142】
逆遺伝学技術において用いられた6個のプラスミドは、B/Ann Arbor/1/66 (MDV-B)の内部ゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を提供した。7番目のプラスミドは、各野生型ウイルスに由来する野生型NAポリペプチドをコードするゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を提供した。例えば、B/Ohio/1/05ウイルスの対の各メンバーを、B/Ohio/1/05株の野生型NAポリヌクレオチド配列を用いて作製した。第8のプラスミドは、HAポリペプチドをコードするゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を提供した。HAポリペプチドは、インフルエンザウイルスがウイルス対の第1または第2のメンバーであったかどうかに応じて、野生型または卵中で継代されたHAのいずれかであった。
【0143】
野生型ウイルスのNAおよびHAポリヌクレオチド配列を、野生型ウイルスのNAまたはHA vRNAのRT-PCR増幅、およびpAD3000の2個のBsmBI部位間で増幅されたcDNAのクローニングにより取得した。卵中で継代されたHAポリペプチドをコードするゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含むプラスミドを、QuikChange(登録商標)部位特異的突然誘発キット(Stratagene, La Jolla, CA)を用いて野生型HA断片を含むプラスミドを部位特異的突然変異誘発にかけることにより調製した。
【0144】
このプラスミドを、同時培養されたMDCKおよび293細胞中にトランスフェクトした。全てのレスキューされたウイルスは、6〜7 log10PFU/mLの力価でMDCK細胞中で効率的に複製した。トランスフェクションの7日後、トランスフェクトされた細胞に由来する上清を回収し、プラークアッセイにより滴定した。回収されたウイルスの配列分析により、野生型または卵中で継代されたHAアミノ酸配列が、トランスフェクションの間にウイルスを産生するのに用いられたHAプラスミドに従って保持されることが確認された。
【0145】
各ウイルス対の抗原性を、感染後のフェレット血清を用いるHAIアッセイにより試験した。6〜7 log10PFUのウイルスを鼻内接種した21日後に、血清をフェレットから回収した。種々のウイルスに対するフェレット血清中の抗体レベルを、血球凝集阻害(HAI)アッセイにより評価した。V底96穴マイクロプレート中、4 HA単位のインフルエンザウイルスを含む25μLの連続希釈された血清サンプル(25μL容量)を添加することにより、HAIアッセイを行った。30分のインキュベーション後、50μlの0.5%七面鳥赤血球を添加して、血球凝集を測定した。HAI力価を、ウイルス血球凝集を阻害する最も高い血清希釈率で表した。表10は、wt(HA糖鎖+)ウイルス/卵中で継代された(HA糖鎖-)ウイルスの対の抗原性を示す。
【表10】
【0146】
HA糖鎖付加ウイルスに対して生成された血清は、HA非糖鎖付加ウイルス対よりもHA糖鎖付加ウイルスに対してより高いHAI力価を有し、HA非糖鎖付加ウイルスに対して生成された血清は、HA非糖鎖付加ウイルス対に対してより高いHAI力価を有していた。HAIアッセイにおけるそれぞれのHA糖鎖付加ウイルス/HA非糖鎖付加ウイルス対の間の抗原性の差異は1.5〜4.5倍変化した。この相違は、196/197糖鎖付加部位がウイルス抗原性に影響を及ぼすことを示唆していた。
【0147】
実施例13:HA 196/197糖鎖付加部位を有するインフルエンザBウイルスは卵中で複製することができなかった
実施例12の対になったインフルエンザ株のそれぞれのメンバーが卵中で複製することができるかどうかを決定するために、孵化鶏卵に102PFU/卵または104〜105PFU/卵のウイルスを接種し、33℃で3日間インキュベートした。次いで、ウイルスピーク力価を、MDCK細胞中でのプラークアッセイにより決定した。卵でのウイルス対の複製(ウイルス力価)およびそれぞれのウイルスのHAアミノ酸残基196〜199の配列を表11に示す。
【表11】
【0148】
それぞれのウイルス対について、糖鎖付加部位を欠くメンバーウイルスは、8.0 log10 PFU/mLより低い力価で、卵中で良好に増殖した。しかしながら、糖鎖付加部位(NXT)を含むメンバーウイルスは、102PFUのウイルスを接種した卵中では良好に複製しなかった。HA糖鎖付加ウイルスB/Ohio/1/05、B/Malaysia/2506/04、およびB/Florida/7/04が、それぞれ、わずかに2.1 log10PFU/mL、1.7 log10PFU/mL、および3.0 log10PFU/mLのウイルス力価まで増殖したことを示す表11を参照されたい。HA糖鎖付加されたメンバーウイルスの複製は、より多い量のウイルス、104〜105PFU/卵を卵に接種した場合に検出可能になった。これらの複製ウイルスの配列分析により、アミノ酸置換が196/197糖鎖付加部位に導入されたことが示された。B/Ohio/1/05のwt糖鎖付加配列がNETからSETに変化し、B/Malaysia/2506/04のwt糖鎖付加配列がNETからSETもしくはNENに変化し、B/Florida/7/04のwt糖鎖付加配列がNKTからNKIに変化したか、またはプロリンがNXT糖鎖付加配列のすぐC末端側でグルタミンに置換されたことを示す表11を参照されたい。従来の研究(Bause, Biochem J. 209 (1983):331-336; GavelおよびVon Heijne, Protein Eng. 3 (1990):433-442)により、HA NXT糖鎖付加部位のC末端に隣接するプロリンが、N結合糖鎖付加を阻害することが示された。かくして、インフルエンザBウイルスが卵で良好に複製するには、HA 196/197の糖鎖付加の欠如が必要であるようであった。
【0149】
実施例14:卵で複製することができるHA糖鎖付加インフルエンザB株の同定
196/197糖鎖付加部位を含む任意のインフルエンザB株が卵中で複製することができたかどうかを決定するために、卵に様々な野生型インフルエンザBウイルス株を接種した。次いで、複製しているウイルスのHA配列を決定した。卵で複製することができたインフルエンザBウイルスの多くは、残基197〜199(または196〜198)にNXT糖鎖付加部位を含まなかった。卵中で継代されたウイルスがNXT糖鎖付加部位を含んでいた場合、それらはそれを喪失しつつあった。すなわちNXT配列は、HAタンパク質の197〜199/196〜198残基における配列集団の1つであった。
【0150】
2つのウイルス株、B/Jilin/20/03 (B/JL)およびB/Jiangsu/10/03 (B/JS)が、卵中での継代の後に、NXT糖鎖付加配列NKTを有すると同定された。B/JLは、196〜198の糖鎖付加部位のすぐC末端側の位置199にプロリンを有していた。上記で考察されたように、糖鎖付加部位残基のすぐC末端側のプロリンは、196/197糖鎖付加と干渉し、これを阻害する。卵でのB/JLおよびB/JSの複製をより詳細に試験するために、NXT糖鎖付加部位配列を欠くインフルエンザBウイルス株対およびNXT糖鎖付加部位配列を含むインフルエンザBウイルス株対を、実施例12に記載の逆遺伝学により、B/JL、B/JS、および関連するインフルエンザB株B/Shanghai/361/02 (B/SH)のそれぞれについて調製した。次いで、MDCK細胞および卵でのこれらのウイルス対の複製を決定した。表12を参照されたい。
【表12】
【0151】
3つのウイルス対セットは全て、MDCK細胞中で良好に複製し、その力価は6.4〜7.5 log10PFU/mLの範囲であった。しかしながら、全てのウイルスが卵中で良好に複製したわけではなかった。HA 196/197糖鎖付加(糖鎖付加配列NKTQ)B/SHまたはB/JLウイルスの102 log10PFUを接種された卵は、良好に複製しなかった。B/SHまたはB/JL HA糖鎖付加ウイルスの接種用量を104〜105 log10PFUに上昇させると、検出可能なウイルス複製が得られた。これらの複製しているウイルスを配列決定したところ、糖鎖部位の喪失が示された(B/SHにおいてはNKTからSKTもしくはDKT、B/JLにおいてはNKTからNKSへ)。B/SHおよびB/JLウイルスと違って、B/JSウイルスは糖鎖付加部位の存在下または非存在下、卵中で良好に複製することができたが、その力価はそれぞれ7.3および8.4 log10PFUであった。
【0152】
HA特異的抗体を用いるウェスタンブロッティングにより、MDCK細胞および卵中で増殖させた各ウイルスの糖鎖付加状態を確認した。MDCK細胞培養上清または尿膜腔液に由来するウイルスと、2 xタンパク質溶解バッファー(Invitrogen)とを混合し、10%SDS-PAGEゲル上で電気泳動することにより、ウェスタンブロッティングを実施した。ゲル上で電気泳動されたタンパク質を、ニトロセルロース膜に転写し、ニワトリ抗インフルエンザB抗血清を用いるウェスタンブロットにかけた。タンパク質-抗体複合体を、HRP結合抗ニワトリ抗体と共にインキュベートした後、化学発光検出キット(GE Healthcare Bio-Sciences)により検出した。
【0153】
ウェスタンブロット分析により、MDCK細胞上で複製した場合、HA糖鎖付加+ウイルスがその糖鎖付加部位を保持し、従って、その対となる対応するHA糖鎖付加-ウイルスよりもゆっくりとゲル上を移動することが示された。例えば、糖鎖付加-HAを有するウイルスを含むレーン(レーン2)中のバンドよりもゆっくりと移動する糖鎖付加+HA(レーン1)ウイルスのHA抗血清と交差反応するバンドを示す、図13aのレーン1および2を参照されたい。同様の結果が、B/SH(図13a、レーン3および4)およびB/JL(図13a、レーン5および6)ウイルスの両方について得られた。
【0154】
卵で複製した場合、1つのウイルスのみ(B/JSウイルス)が、糖鎖付加+HAウイルスに関するバンド(図13b、レーン3)が、糖鎖付加-HAウイルスに関するバンド(図13b、レーン4)よりもゆっくり移動する移動パターンを保持した。このパターンは、B/JSウイルスが卵で複製し、HA糖鎖付加部位を保持することができる、試験した唯一のウイルスであることを示唆していた。
【0155】
実施例15:HAアミノ酸残基位置141のアルギニンは196〜197糖鎖付加部位を安定化する
表12の検討により、B/JSおよびB/JLインフルエンザ株が共にHAアミノ酸残基196〜199にアミノ酸配列NKTQを有したが、B/JSのみが卵で良好に複製し、NKTQ糖鎖付加部位を保持することができることが示された。B/JSおよびB/JLウイルスのHAアミノ酸配列の比較により、3個の異なるアミノ酸残基が同定された。これらの3個の残基の中で、141Rおよび237EはB/JSにとってユニークであった(他のインフルエンザBウイルスと比較して)。アミノ酸残基位置141および237には、多くのインフルエンザB株がグリシンを含む。141Rおよび/または237Eアミノ酸残基の一方または両方が、B/JS HA 196糖鎖付加部位の安定化に寄与したかどうかを試験するために、B/JS HAを突然変異させて、141Rおよび/または237Eをグリシンに変化させた。次いで、卵での種々のB/JSウイルスの複製を決定した。
【0156】
表13に示されるように、B/JS HA残基141をRからGに変化させた場合、ウイルスは102PFUの用量で接種された卵で複製することができなかった。104〜105PFUに接種用量を増加させることにより、ウイルスは卵で複製することができた。HA 141G残基を有する複製しているB/JSを配列決定して、196/197糖鎖付加部位が保持されるかどうかを決定した。配列決定により、NKT糖鎖付加部位が失われ、DKTまたはNKTPと置換されたことが示された。この知見は、B/JSのHA 141アルギニン残基が196/197 HA糖鎖付加部位を安定化し得ることを示唆していた。B/JS HAアミノ酸残基237でグルタミン酸をグリシンに置換することは、卵での増殖に影響しなかった。データは示さない。
【表13】
【0157】
HA残基141Rが、卵中での複製の間にインフルエンザB HA 196/197糖鎖付加部位を安定化するのに十分であったことをさらに確認するために、B/SHおよびB/Ohio/1/05のHA 141にグリシンのアルギニンへのアミノ酸置換を導入した。表13に示されるように、HA位置141にグリシンからアルギニンへの置換を有するB/SHおよびB/Ohio/1/05の両方は、約8.0 log10PFU/mLの力価で卵中で効率的に複製することができた。HA 141R置換を有するB/SHおよびB/Ohio/1/05ウイルスはまた、卵中での複製の間にHA糖鎖を保持していた。HA 141R残基を有する、卵中で継代したB/SH(レーン2)、B/Ohio(レーン4)、およびB/JS(レーン6)ウイルスのHA糖鎖を確認するウェスタンブロットを提供する図14を参照されたい。これらのデータは、HA残基141が、卵で増殖させたインフルエンザBウイルスのHA 196/197糖鎖付加部位の使用に影響する役割を果たすことを示唆していた。
【0158】
実施例16:インフルエンザBのHA残基141のアルギニンはウイルス抗原性に影響しない
インフルエンザB株の抗原性に対するHAアミノ酸位置141のアルギニン残基を置換する効果を試験した。141R残基がウイルスの抗原性に影響するかどうかを決定するために、様々な糖鎖付加された、および糖鎖付加されていないウイルスに対するフェレット血清を作製した。このフェレット血清を、141および196/197残基中に異なる修飾を含むウイルスに対する反応性について試験した。
【0159】
それぞれ、141および196/197部位に、GD(非糖鎖付加)またはRN(糖鎖付加)の遺伝子特性を有する7.0 log10PFUの卵由来ウイルスをフェレットに鼻内接種することにより、フェレット血清を調製した。感染後の血清を、HAIアッセイにおける抗原性試験のために21日後にフェレットから回収した。
【0160】
HAアミノ酸位置141および196/197に、それぞれGD、RNまたはGNの遺伝子特性の各々を有するB/SH/361/02、B/Ohio/1/05、およびB/JS/10/03ウイルスを調製して、フェレット血清に対する抗原性について試験した。これらのウイルスを、感染したMDCK細胞から調製した。G141および196/197N残基を有するインフルエンザウイルスは卵中で増殖することができなかった。
【0161】
HAIアッセイにおいて、非糖鎖付加(GD)されたB/SH/361/02に対して生成されたフェレット血清は、糖鎖付加されたB/SH/361/02ウイルスではなく、非糖鎖付加されたB/SH/361/02ウイルスと良好に反応した。感染後のフェレット血清のHAI力価は、糖鎖付加ウイルスと比較して非糖鎖付加ウイルスについて4倍高かった。同様に、糖鎖付加された(RN)B/SH/361/02ウイルスに対して生成されたフェレット血清は、非糖鎖付加B/SH/361/02ウイルスではなく、糖鎖付加B/SH/361/02ウイルスと良好に反応した。同様に、感染後のフェレット血清のHAI力価の差異は4倍であった。これらの4倍の差異は、実施例12、表10にも考察されたように、非糖鎖付加ウイルスと糖鎖付加ウイルスの間の抗原性の差異を示す。
【0162】
糖鎖付加(RN)B/SH/361/02に対して生成されたフェレット血清は、HAIアッセイにおいてRNおよびGN糖鎖付加ウイルスに対して同様に反応した。GN糖鎖付加ウイルスと比較してRN糖鎖付加ウイルスに対して2倍以上高い。反応性におけるこのわずかな差異は、グリシンからアルギニンへの位置141のアミノ酸残基変化がB/SH/361/02抗原性に対する有意な影響を有さないことを示唆していた。インフルエンザBウイルス株B/Ohio/1/05およびB/JS/10/03を用いて同じセットのHAIアッセイを行った場合も同様の結果が得られた。表14を参照されたい。
【表14】
【0163】
実施例17:HA 196/197の糖鎖は、α-2,3連結されたシアル酸への結合に影響する
HA 196/197部位が糖鎖付加されたインフルエンザBウイルスはMDCK細胞中で良好に増殖するが、卵中では増殖しないため、HA 196/197での糖鎖はウイルス受容体結合特異性に影響し得る。Sia(α-2,3)GalおよびSia(α-2,6)Galは様々な宿主細胞中に示差的に分布する2つの主要な受容体部分である。MDCK細胞はSia(α-2,3)GalおよびSia(α-2,6)Gal部分の両方を発現する。ニワトリ胚絨毛尿膜細胞はSia(α-2,3)Gal部分のみを発現する。ウイルス受容体結合特異性を、Sia(α-2,3)GalおよびSia(α-2,6)Gal部分を示差的に発現する異なる動物種に由来する赤血球(RBC)を用いる血球凝集アッセイにより試験することができる。ウマRBCは主にSia(α-2,3)Gal受容体を発現するが、モルモットRBCは主にSia(α-2,6)Gal受容体を発現する。七面鳥およびニワトリRBCはSia(α-2,3)GalおよびSia(α-2,6)Gal部分の両方の発現に富む(Itoら、Virol. 156(1997): 493-499)。
【0164】
糖鎖付加+(RN)または糖鎖付加-(GS、RS、GD、もしくはRD)である卵由来V/Ohio/1/05およびB/Jiangsu/10/03ウイルスを、ウマRBC(hRBC)、モルモットRBC(gpRBC)および七面鳥RBC(tRBC)を用いてそのHA力価について試験した。インフルエンザBウイルスの糖鎖付加状態に関わらず、それらは全て同様に良好に、両方ともSia(α-2,6)Gal部分を発現するgpRBCおよびtRBCに結合した。対照的に、糖鎖付加+(RN)ウイルスは、Sia(α-2,3)部分のみを発現するhRBCにあまり結合しないか、または検出不可能なレベルで結合したが、これは、HA 196/197の糖鎖はSia(α-2,3)Gal受容体に結合するウイルスを阻害したことを示唆している。表15を参照されたい。
【表15】
【0165】
孵化鶏卵の尿膜細胞などの、Sia(α-2,3)部分を発現する細胞に結合する能力を糖鎖付加ウイルスが有しないことにより、卵中でインフルエンザBワクチン株を増殖させることが困難になる。卵中でのインフルエンザB株の増殖を可能にする糖鎖付加部位の喪失は、この株の抗原性を変化させる。卵での増殖およびウイルス抗原性を維持しながら、インフルエンザBウイルスのHA 196/197糖鎖付加部位を保持する能力は、ワクチン製造を援助することができる。インフルエンザB株のHAアミノ酸位置141でのアルギニンの導入は、これを達成する手段である。
【0166】
明確性および理解のためにいくらか詳細に前記発明を説明してきたが、本発明の真の範囲を逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更を行うことができることが、本開示の読解から当業者にとっては明らかであろう。例えば、上記の全ての技術および装置を、様々な組合せで用いることができる。本出願に記載の全ての刊行物、特許、特許出願、または他の書類が、あたかもそれぞれ個々の刊行物、特許、特許出願、または他の書類があらゆる目的で参照により本明細書に組み入れられると個別に示唆されるのと同程度まで、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0167】
特に、以下の特許出願の全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする:2007年6月18日に出願された米国特許仮出願第60/944,600号。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]