【実施例】
【0090】
実施例1:pAD3000の構築
プラスミドpHW2000(Hoffmannら(2000) A DNA transfection system for generation of influenza A virus from eight plasmids., Proc Natl Acad Sci USA, 97:6108-6113)を改変して、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルをサルウイルス40(SV40)から得られたポリアデニル化シグナル配列で置換した。
【0091】
SV40から得られた配列を、5'から3'への方向に規定された以下のオリゴヌクレオチド:polyA.1:AACAATTGAGATCTCGGTCACCTCAGACATGATAAGATACATTGATGAGT (配列番号1)、polyA.2: TATAACTGCAGACTAGTGATATCCTTGTTTATTGCAGCTTATAATGGTTA (配列番号2)を用いて、Taq MasterMix (Qiagen)を用いて増幅した。
【0092】
プラスミドpSV2Hisを鋳型として用いた。予測される175 bpの産物に一致する断片を取得し、Topo TAクローニングベクター(Invitrogen)を製造業者の指示書に従って用いて、pcDNA3.1中にクローニングした。SV40ポリアデニル化シグナルを含む所望の138 bpの断片を、EcoRVおよびBstEIIを用いて得られたプラスミドから切り出し、アガロースゲルから単離し、従来の技術(例えば、Ausubel、Berger、Sambrookを参照)を用いてpHW2000中のユニークなPvuIIおよびBstEII部位の間に連結した。得られたプラスミド、pAD3000(
図1)を配列決定したところ、正確な向きにSV40のポリアデニル化部位を含むことがわかった。pAD3000中のヌクレオチド295〜423が、SV40株777(AF332562)中の、それぞれヌクレオチド2466〜2594に対応する。
【0093】
実施例2:MDV-Bの製造のための8プラスミド系
インフルエンザB/Ann Arbor/1/66の低温適合変異体(ca/Master Ann Arbor/1/66 P1 Aviron 10/2/97)である例示的なインフルエンザBマスタードナー株(MDV-B)に由来するウイルスRNAを、RNeasy Kit (Qiagen, Valencia, CA)を用いて、感染した孵化卵に由来する100μlの尿膜腔液から抽出し、RNAを40μlのH
2O中に溶出させた。提供されたプロトコルに従ってOne Step RT-PCRキット(Qiagen, Valencia, CA)を用いて、各反応につき1μlの抽出されたRNAを用いて、ゲノム断片のRT-PCRを行った。RT反応を50℃で50分間行った後、94℃で15分間行った。PCRは、94℃で1分間、54℃で1分間、および72℃で3分間を25サイクルで行った。P遺伝子を、2個の断片の生成をもたらすBsmB1部位を含む断片特異的プライマーを用いて増幅した(表1)。
【表1】
【0094】
プラスミドのクローニング
PCR断片を単離し、BsmBI(またはNPについてはBsaI)で消化し、上記のようにBsmBI部位でpAD3000(マイナス鎖vRNAおよびプラス鎖mRNAの転写を可能にするpHW2000の誘導体)中に挿入した。得られたプラスミドのそれぞれについて2〜4個を配列決定し、RT-PCR断片の直接配列決定に基づいてMDV-Bの共通配列と比較した。共通配列とは異なるアミノ酸変化をもたらすヌクレオチド置換を有したプラスミドを、プラスミドのクローニングにより、またはQuikchangeキット(Stratagene, La Jolla, CA)を用いることにより、「修復」した。得られたB/Ann Arbor/1/66プラスミドを、pAB121-PB1、pAB122-PB2、pAB123-PA、pAB124-HA、pAB125-NP、pAB126-NA、pAB127-M、およびpAB128-NSと命名した。この二方向転写系を用いて、全てのウイルスRNAおよびタンパク質を細胞内生産させ、感染性インフルエンザBウイルスの生成をもたらした(
図2)。
【0095】
共通配列と比較して、pAB121-PB1およびpAB124-HAが2個、およびpAB128-NSは1個のサイレントなヌクレオチド置換を有したことは注目に値する(表2)。これらのヌクレオチド変化は、アミノ酸変化をもたらさず、ウイルスの増殖およびレスキューに影響しないと予想される。これらのサイレントな置換を保持して、組換えウイルスの遺伝子型決定を容易にした。
【表2】
【0096】
PA、NP、およびM1遺伝子中にヌクレオチド置換を有するプラスミドの構築のために、プラスミドpAB123-PA、pAB125-NP、pAB127-Mを鋳型として用いた。ヌクレオチドをQuikchangeキット(Stratagene, La Jolla, CA)により変化させた。あるいは、2個の断片を、所望の突然変異を含むプライマーを用いるPCRにより増幅し、BsmBIを用いて消化し、および3個の断片の連結反応においてpAD3000-BsmBI中に挿入した。生成されたプラスミドを配列決定して、cDNAが望ましくない突然変異を含まないことを確保した。
【0097】
鋳型DNAの配列を、AmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼFS (Perkin-Elmer Applied Biosystems, Inc, Foster City, CA)と共にローダミン(Rhodamine)またはdRhodamineダイターミネーターサイクル配列決定即時反応キットを用いることにより決定した。サンプルを電気泳動により分離し、PE/ABIモデル373、モデル373 Stretch、またはモデル377 DNA配列決定装置上で分析した。
【0098】
別の実験において、増幅を94℃で30秒間、54℃で30秒間および72℃で3分間の25サイクルで行うこと以外は、インフルエンザB/Yamanashi/166/98に由来するウイルスRNAを増幅し、MDV-B株に関して上述したようにしてpAD3000中にクローニングした。B/Yamanashi/166/98株断片の増幅には、NPおよびNA断片の増幅のための以下のプライマー:それぞれ、MDV-B 5'BsmBI-NP:TATTCGTCTCAGGGAGCAGAAGCACAGCATTTTCTTGTG (配列番号36)およびMDV-B 3'BsmBI-NP:ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAACAGCATTTTTTAC (配列番号37)ならびにBm-NAb-1: TATTCGTCTCAGGGAGCAGAAGCAGAGCA (配列番号38)およびBm-NAb-1557R:ATATCGTCTCGTATTAGTAGTAACAAGAGCATTTT (配列番号39)の置換を有する同一のプライマーを用いた。このB/Yamanashi/166/98プラスミドを、pAB251-PB1、pAB252-PB2、pAB253-PA、pAB254-HA、pAB255-NP、pAB256-NA、pAB257-M、およびpAB258-NSと命名した。3個のサイレントなヌクレオチド差異を、PA中で同定し、組換えおよび再集合体B/Yamanashi/166/98ウイルスの遺伝子型決定を容易にした。
【0099】
実施例3:感染性組換えインフルエンザBウイルスおよび再集合体インフルエンザウイルスの生成
293TまたはCOS-7細胞(高いトランスフェクション効率およびpolI活性を有する霊長類細胞)と、MDCK細胞(インフルエンザウイルスに対して許容性)との同時培養により、感染性組換えインフルエンザBウイルスを産生させた。293T細胞を、5%FBS細胞を含むOptiMEM I-AB培地中で維持し、COS-7細胞を、10%FBSを含むDMEM I-AB培地中で維持した。MDCK細胞を、抗生物質および抗真菌剤を添加した1 x MEM、10%FBS中で維持した。ウイルスゲノムベクターを用いるトランスフェクションの前に、細胞を5 mlのPBSまたはFBSを含まない培地で1回洗浄した。10 mlのトリプシン-EDTAを、75 cm
2のフラスコ中の集密状態(confluent)の細胞に添加した(MDCK細胞を、20〜45分間インキュベートし、293T細胞を1分間インキュベートした)。細胞を遠心分離し、10 mlのOptiMEM I-AB中に再懸濁した。次いで、1 mlの各懸濁化細胞系を、18 mlのOptiMEM I-AB中に希釈し、混合した。次いで、細胞を3 ml/ウェルで6個のウェルに分注した。6〜24時間後、1μgの各プラスミドを、OptiMEM I-ABを含む1.5 mlのエッペンドルフチューブ中で、プラスミド(xμlのプラスミド + xμlのOptiMEM I-AB + xμlのTransIT-LT1=200μl)と混合した。すなわちプラスミドDNA 1μgあたり2μlのTransIT-LT1。混合物を室温で45分間インキュベートした。次いで、800μlのOptiMEM I-ABを添加した。培地を細胞から除去し、トランスフェクション混合物を33℃で6〜15時間、細胞に添加した(t = 0)。トランスフェクション混合物を細胞からゆっくりと除去し、1 mlのOptiMEM I-ABを添加し、細胞を33℃で24時間インキュベートした。トランスフェクションの48時間後、1μg/mlのTPCK-トリプシンを含有する1 mlのOptiMEM I-ABを細胞に添加した。トランスフェクションの96時間後、1μg/mlのTPCK-トリプシンを含む1 mlのOptiMEM I-ABを細胞に添加した。
【0100】
トランスフェクション後4日〜7日の間に、1 mlの細胞培養上清を取り出し、HAまたはプラークアッセイによりモニターした。簡単に述べると、1 mlの上清をエッペンドルフチューブ中に分注し、5000 rpmで5分間遠心分離した。900μlの上清を新しいチューブに移し、MDCK細胞に対して500μl/ウェル(例えば、12穴プレート中)で連続希釈を行った。上清は1時間細胞と共にインキュベートした後、除去し、1μg/mlのTPCK-トリプシンを含む感染培地(1 x MEM)に置換した。次いで、HAアッセイまたはプラークアッセイを行った。例えば、プラークアッセイについては、上清を、33℃で3日間、0.8%のアガロース上層と共にインキュベートしたMDCK細胞について滴定した。卵の感染のために、トランスフェクトされた細胞の上清を、トランスフェクションの6または7日後に回収し、Opti-MEM I中の100μlのウイルス希釈液を、11日齢の孵化鶏卵中に33℃で注入した。MDCK細胞中でTCID
50アッセイにより接種の3日後に力価を決定した。
【0101】
MDV-Bを作製するために、同時培養された293T-MDCK細胞またはCOS-7-MDCK細胞を、1μgの各プラスミドを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの5〜7日後に試験した場合、同時培養されたMDCK細胞は細胞変性効果(CPE)を示したが、これは、クローニングされたcDNAから感染性MDV-Bウイルスが生成されたことを示唆している。7つのプラスミドでトランスフェクトされた細胞中ではCPEは観察されなかった(表3)。ウイルス生成に関するDNAトランスフェクション系の効率を決定するために、細胞の上清を、MDCK細胞についてトランスフェクションの7日後に滴定し、ウイルス力価をプラークアッセイにより決定した。同時培養された293T-MDCKの上清のウイルス力価は5.0 x 10
6 pfu/mlであり、COS7-MDCK細胞においては7.6 x 10
6 pfu/mlであった。
【表3】
【0102】
一過的に同時培養された293T-MDCK(1,2)または同時培養されたCOS7-MDCK細胞(3,4)を、7つまたは8つのプラスミドでトランスフェクトした。細胞変性効果(CPE)を、同時培養されたMDCK細胞中でトランスフェクションの7日後にモニターした。トランスフェクションの7日後、トランスフェクトされた細胞の上清をMDCK細胞について滴定した。pfu/mlのデータは、複数回(例えば、3回または4回)トランスフェクション実験の平均である。
【0103】
B/Yamanashi/166/98プラスミドベクターを用いるトランスフェクション実験において、同等の結果が得られた。これらの結果は、トランスフェクション系が8つのプラスミド由来のインフルエンザBウイルスの再現可能なde novo生成を可能にすることを示している。
【0104】
組換えインフルエンザBの遺伝子型決定
その後、MDCK細胞で継代した後、感染細胞の上清のRT-PCRを用いて、生成されたウイルスの真正性を確認した。RT-PCRを、全部で8個の断片に対する断片特異的プライマーを用いて行った(表1)。
図3Aに示されるように、PCR産物は全ての断片について生成された。PB1、HAおよびNS断片のPCR産物の直接配列決定により、分析された4個のヌクレオチドが、プラスミドpAB121-PB1、pAB124-HA、およびpAB128-NS中に認められるものと同じであることが示された。これらの結果により、生成されたウイルスが、設計されたプラスミドから生成されたこと、そして親ウイルスの実験室夾雑物の可能性が排除されたこと(陰性対照に加えて)が確認された(
図3B)。
【0105】
同様に、B/Yamanashi/166/98プラスミドベクターでトランスフェクトした後、ウイルスを回収し、PA断片のヌクレオチド1280〜1290を含む領域を増幅した。配列決定により、回収されたウイルスがプラスミド由来組換えB/Yamanashi/166/98に相当することが確認された(
図3CおよびD)。
【0106】
rMDV-Bの表現型決定
MDV-Bウイルスは、2つの特徴的な表現型を示す:温度感受性(ts)および低温適合性(ca)。定義により、33℃と比較して37℃でのウイルス力価における2 log(またはそれ以上)の差異がtsを定義し、caは33℃と比較して25℃でのウイルス増殖における2 log未満の差異により定義される。一次ニワトリ腎臓(PCK)細胞に、親ウイルスMDV-Bおよびプラスミドに由来するトランスフェクトされたウイルスを感染させて、3つの温度でのウイルス増殖を決定した。
【0107】
プラークアッセイのために、6穴プレート中の集密状態のMDCK細胞(ECACC)を用いた。ウイルス希釈液を、33℃で30〜60分間インキュベートした。細胞に、0.8%のアガロース上層を上層した。感染細胞を33℃または37℃でインキュベートした。感染の3日後、細胞を0.1%クリスタルバイオレット溶液で染色し、プラーク数を決定した。
【0108】
ca-ts表現型アッセイを、25、33、および37℃でのウイルスサンプルのTCID
50滴定により実施した。このアッセイ形式は、様々な温度(25℃、33℃、37℃)で、96穴細胞培養プレート中の一次ニワトリ腎臓細胞単層上でのインフルエンザウイルスの細胞変性効果(CPE)を試験することによりTCID
50力価を測定する。このアッセイは、温度およびウイルス株に応じて変化するプラークの形態に依存するのではなく、その代わりに、複製し、CPEを引き起こすインフルエンザウイルスの能力にもっぱら依存する。原発組織のトリプシン処理により調製された、一次ニワトリ腎臓(PCK)細胞懸濁液を、5%FCSを含むMEM(Earlの)培地中に懸濁した。PCK細胞を96穴細胞培養プレート中に48時間播種して、90%を超える集密度を有する単層を調製した。48時間後、PCK細胞単層を、表現型アッセイ培地(PAM)と呼ばれる5 mM L-グルタミン、抗生物質、非必須アミノ酸を含む無血清MEM培地で1時間洗浄した。ウイルスサンプルの連続10倍希釈液を、PAMを含む96穴ブロック中で調製した。次いで、希釈されたウイルスサンプルを、96穴プレート中の洗浄されたPCK単層上にプレーティングした。ウイルスサンプルのそれぞれの希釈率で、6ウェルの反復物を、希釈されたウイルスによる感染に用いた。細胞対照としての未感染の細胞を、各サンプルにつき6ウェルの反復物として含有させた。各ウイルスサンプルを2〜4個の反復物中で滴定した。25℃、33℃、および37℃で所定の力価を有する表現型対照ウイルスを、各アッセイに含有させる。ウイルスサンプルのts表現型を決定するために、プレートを、5%CO
2細胞培養インキュベーター中、33℃および37℃で6日間インキュベートした。ca表現型の特性評価のために、プレートを、2℃で10日間インキュベートした。Karber法によりウイルス力価を算出し、Log
10平均(n=4)TCID
50力価/ml±標準偏差として報告した。
図1〜3に示したウイルス力価の標準偏差は0.1〜0.3の範囲であった。33℃および37℃でのウイルス力価の差異を用いてts表現型を決定し、ウイルスの25℃および33℃での力価の差異を用いてca表現型を決定した。
【0109】
プラスミド由来組換えMDV-B (recMDV-B)ウイルスは、予想されるように、細胞培養における2つの特徴的な表現型caおよびtsを発現した。25℃で効率的に複製するca表現型は、PCK細胞についてアッセイした場合、2 log10以下である25℃と33℃の間の力価の差異として機能的に測定される。親MDV-BとrecMDV-Bは共に、caを発現した。その25℃と33℃の間の差異は、それぞれ、0.3および0.4 log10であった(表4)。PCK細胞について2つの異なる温度で力価を測定することにより、ts表現型も測定する。しかしながら、この表現型については、37℃での力価は、2 log10以上であることにより、33℃での力価未満であるはずである。親MDV-BおよびrecMDV-Bに関する33℃と37℃の間の差異は、それぞれ、3.4および3.7 log10であった(表4)。かくして、組換えプラスミド由来MDV-Bウイルスは、caおよびts表現型の両方を発現した。
【0110】
組換えウイルスは、33℃での7.0 log
10 TCID
50/mlおよび37℃での3.3 TCID
50/mlおよび25℃での8.8 log
10 TCID
50/mlの力価を有していた(表4)。かくして、8個のインフルエンザMDV-Bゲノム断片プラスミドでのトランスフェクションから誘導された組換えウイルスは、caおよびts表現型の両方を有していた。
【表4】
【0111】
実施例7:再集合体B/Yamanashi/166/98ウイルスの製造
インフルエンザBの主要な系列であるいくつかの異なる株のHAおよびNA断片を、本質的には上記のようにして増幅し、pAD3000中にクローニングした。HAおよびNA断片の同時的RT-PCR増幅のためにプライマーを最適化した。断片4(HA)および断片6(NB/NA)の非コード領域であるvRNAの末端領域の比較により、5'末端の20個の末端ヌクレオチドおよび3'末端の15ヌクレオチドが、インフルエンザBウイルスのHAおよびNA遺伝子の間で同一であることが示された。RT-PCRのためのプライマー対(イタリック体の配列はインフルエンザBウイルス特異的である):
を合成し、これを用いて様々なインフルエンザB株に由来するHAおよびNA遺伝子を同時に増幅した(
図6)。B/Victoria/504/2000、B/Hawaii/10/2001、およびB/Hong Kong/330/2001のHAおよびNA PCR断片を単離し、BsmBIで消化し、pAD3000中に挿入した。これらの結果は、インフルエンザBの主要な系列であるいくつかの異なる野生型ウイルスに由来するインフルエンザB HAおよびNA遺伝子を含むプラスミドの効率的生成のためのこれらのプライマーの適用性を証明していた。このRT-PCR産物を、発現プラスミド中での配列決定および/またはクローニングに用いることができる。
【0112】
様々なインフルエンザB系列に由来する抗原を効率的に発現するB/Yamanashi/166/98 (B/Yamagata/16/88様ウイルス)の有用性を証明するために、B/Yamanashi/166/98に由来するPB1、PB2、PA、NP、M、NSを含む再集合体ならびにVictoriaおよびYamagata系列の双方に該当する株に由来するHAおよびNA(6+2再集合体)を作製した。一過的に同時培養したCOS7-MDCK細胞を、上記の方法に従って、B/Yamanashi/166/98に該当する6個のプラスミドならびにB/Victoria/2/87系列に由来する2種の株B/Hong Kong/330/2001およびB/Hawaii/10/2001、ならびにB/Yamagata/16/88系列に由来する1種の株B/Victoria/504/2000のHAおよびNA断片のcDNAを含む2個のプラスミドで同時トランスフェクトした。トランスフェクションの6〜7日後、上清を新鮮なMDCK細胞で滴定した。全部で3種の6+2再集合体ウイルスが、4〜9 x 10
6 pfu/mlの力価を有していた(表5)。これらのデータは、B/Yamanashi/166/98の6個の内部遺伝子が、両方のインフルエンザB系列に由来するHAおよびNA遺伝子断片を含む感染性ウイルスを効率的に形成することができることを示していた。
【0113】
同時培養されたCOS7-MDCK細胞の上清を、トランスフェクションの6または7日後に滴定し、MDCK細胞でのプラークアッセイによりウイルス力価を決定した。
【表5】
【0114】
卵中での野生型B/Yamanashi/166/98の複製により、比較的高い力価が得られた。実験を行って、この特性がこのウイルスの6個の「内部」遺伝子の固有の表現型であるかどうかを決定した。この特性を評価するために、卵中でのみ適度に複製した野生型B/Victoria/504/2000の収率を、B/Victoria/504/2000のHAおよびNAを発現する6+2再集合体の収率を比較した。野生型および組換えB/Yamanashi/166/98に加えて、これらのウイルスをそれぞれ3または4個の孵化鶏卵中に、100または1000 pfuで接種した。感染の3日後、尿膜腔液を卵から回収し、TCID
50力価をMDCK細胞で決定した。6+2再集合体は、尿膜腔液中でwtおよび組換えB/Yamanashi/166/98株と同様の量のウイルスを産生した(
図7)。B/Victoria/504/2000と6+2組換え体の間の力価の差異は、約1.6 log
10 TCID
50 (0.7-2.5 log
10 TCID
50/mL、95% CI)であった。B/Victoria/504/2000と6+2組換え体の間の差異を、3つの別々の実験上で確認した(P<0.001)。これらの結果は、B/Yamanashi/166/98の卵増殖特性を、通常は卵中であまり複製しない株から発現されるHAおよびNA抗原に付与することができることを示していた。
【0115】
実施例8:ca B/Ann Arbor/1/66の弱毒化のための分子的基礎
フェレットにおいて弱毒化表現型を示し、細胞培養物において低温適合性および温度感受性表現型を示す、MDV-Bウイルス(ca B/Ann Arbor/1/66)を、ヒトにおいて弱毒化する。MDV-Bの内部遺伝子の推定アミノ酸配列を、BLAST検索アルゴリズムを用いて、Los Alamosインフルエンザデータベース(ワールドワイドウェブ上のflu.lanl.gov)中の配列と比較した。MDV-Bにとってユニークであり、任意の他の株に存在しない8個のアミノ酸を同定した(表6)。PB1、BM2、NS1、およびNS2をコードするゲノム断片は、ユニークな置換された残基を示さない。PAおよびM1タンパク質は各々2個、NPタンパク質は4個のユニークな置換アミノ酸(表6)を有する。1個の置換アミノ酸は、PB2中の位置630に認められる(さらなる株B/Harbin/7/94 (AF170572)も位置630にアルギニン残基を有する)。
【0116】
これらの結果は、遺伝子断片PB2、PA、NPおよびM1がMDV-Bの弱毒化表現型に関与することを示唆していた。MDV-Aについて上記されたものと類似する様式で、8プラスミド系を用いて、単にMDV-Aに関して上記の培養細胞中での関連するプラスミドの同時トランスフェクションによるヘルパー非依存的様式で組換え体および再集合体(1および/または2個、すなわち、7:1;6:2再集合体)を作製することができる。例えば、B/Lee/40に由来する6個の内部遺伝子を、MDV-Bから誘導されるHAおよびNA断片と共に用いて、6+2再集合体を作製することができる。
【表6】
【0117】
8個のユニークなアミノ酸差異が、特徴的なMDV-B表現型に対する影響を有するかどうかを決定するために、8個全部のヌクレオチド位置がwtインフルエンザ遺伝的相補体を反映するアミノ酸をコードする組換えウイルスを構築した。PA、NP、およびM1遺伝子の8個の残基を部位特異的突然変異誘発により変化させて、野生型アミノ酸を反映させたプラスミドのセットを構築した(表6に示される)。rec53-MDV-Bと命名された、8個全部の変化を有する組換え体を、同時培養されたCOS7-MDCK細胞上への構築されたプラスミドの同時トランスフェクションにより作製した。MDCK細胞の同時培養および33℃での増殖により、上清がトランスフェクションの6〜7日後に高いウイルス力価を含むことを確保した。トランスフェクトされた細胞の上清を滴定(力価測定)し、プラークアッセイならびに33℃および37℃のPCK細胞によりMDCK細胞上で力価を決定した。
【0118】
図8に示されるように、2つの異なる独立した実験において、recMDV-BはMDCK細胞とPCK細胞の両方においてts表現型を発現した。8個全部のアミノ酸変化を担持するように設計された3再集合体ウイルスrec53-MDV-Bが非ts表現型を発現し、33℃〜37℃での力価の差異はPCK細胞においてはわずかに0.7 log
10であった。この力価は、ts定義に特徴的な必要な2 log
10の差異よりも低く、recMDV-Bについて観察された約3 log
10の差異よりも有意に低かった。これらの結果は、PA、NP、およびM1タンパク質内の8個のアミノ酸の変化が、同種および異種性糖タンパク質の両方を有する非ts、野生型様ウイルスをもたらすのに十分であったことを示している。
【0119】
次いで、ts表現型への各遺伝子断片の寄与を決定した。野生型アミノ酸相補体を含むPA、NP、またはM遺伝子断片を担持するプラスミド由来組換え体を、DNA同時トランスフェクション技術により作製した。単一遺伝子組換え体は全て、MDCK細胞およびPCK細胞中、37℃で増殖制限を示した(
図9)が、これは1個の遺伝子断片における変化がts表現型を逆転させることができないことを示唆している。さらに、NPおよびMまたはPAおよびM遺伝子断片の両方を一緒に担持する組換えウイルスも、ts表現型を保持していた。対照的に、PAおよびNP遺伝子断片の両方を担持した組換えウイルスは、rec53-MDV-Bと同様に、37℃〜33℃で2.0 log
10以下の力価の差異を有していた。これらの結果は、NPおよびPA遺伝子がts表現型への主要な寄与を有することを示している。
【0120】
NPタンパク質中のその4個全部のアミノ酸およびPAタンパク質中の2個のアミノ酸が非tsに寄与するかどうかを決定するために、NPおよびPA遺伝子を変化させた3重遺伝子および2重遺伝子組換え体を作製した(
図10)。NPタンパク質中の2個のアミノ酸の置換、A114→V114およびH410→P410は非ts表現型をもたらした。核タンパク質中の1個の置換H410→P410を有するウイルスは、MDCKおよびPCK中で非ts表現型を示した。一方、1個の置換A55→T55は、ts表現型を示し、位置509での1個の置換も同様であった。これらの結果は、NP中のアミノ酸残基V114およびP410が、37℃での効率的な増殖に関与することを示唆している(
図11A)。同様の戦略を用いて、PA遺伝子中の2個のアミノ酸の寄与を分析した。それぞれ4個の野生型共通アミノ酸を含むNP遺伝子および2個の共通野生型アミノ酸のうちの1個のみを含むPA遺伝子を担持する組換え体のセットを構築した。H497→Y497の置換は、tsを保持したが(
図11B)、この遺伝子座は該表現型の発現に対してほとんど影響しなかったことを示している。対照的にM431のV431での置換はts表現型の逆転をもたらした。これらの結果は、NP中のアミノ酸A114およびH410ならびにPA中のM431がMDV-Bの温度感受性の主要な決定因子であることを示している。
【0121】
以前の証拠に基づけば、ts表現型と弱毒化表現型は高度に相関する。ca B/Ann Arbor/1/66ウイルスは感染したフェレットの肺組織においては検出不可能であるが、非弱毒化インフルエンザBウイルスは鼻内感染後に肺中で検出可能である。同一の突然変異がtsおよびatt表現型の基礎となっているかどうかを決定するために、以下の研究を行った。
【0122】
トランスフェクション後に得られた組換えウイルスを孵化鶏卵中で継代して、ウイルス保存液を作製した。9週齢のフェレットに、5.5、6.0または7.0 log
10 pfu/mlの力価を有するウイルスを鼻孔あたり0.5 ml、鼻内接種した。感染の3日後に、フェレットを犠牲にし、その肺および鼻甲介を以前に記載のように試験した。
【0123】
フェレット(各群に4匹の動物)を、recMDV-Bまたはrec53-MDV-Bに鼻内感染させた。ウイルス感染の3日後、鼻甲介および肺組織を収穫し、ウイルスの存在を試験した。7.0 log
10 pfuのrecMDV-Bに感染させたフェレットの肺組織にはウイルスは検出されなかった。7.0 log
10 pfuのrec53-MDV-Bを感染させた4匹の動物のうち、3匹の動物において、肺組織でウイルスが検出された(この群の1匹の動物については理由不明)。より低い用量(5.5 log pfu/ml)のrec53-MDV-Bに感染させたフェレットの4つの肺組織のうちの2つにおいて、肺組織からウイルスを単離することができた。かくして、PA、NP、およびM1タンパク質中の8個のユニークなアミノ酸の野生型残基への変化は、att表現型を非att表現型に変換するのに十分であった。
【0124】
細胞培養物中のデータは、PAおよびNPがts表現型への主要な寄与因子であることを示すため、第2の実験において、フェレットを6 log pfuのrec53-MDV-B(PA、NP、M)、rec62-MDV-B(PA)、NPrec71-MDV-B(NP)に感染させた。rec53-MDV-Bに感染させた4匹の動物のうちの2匹は、肺にウイルスを有していた。1個および2個の再集合体ウイルスに感染させたフェレットの肺組織はいずれも、検出可能なレベルのウイルスを有していなかった。かくして、PAおよびNPタンパク質中のアミノ酸に加えて、M1タンパク質がatt表現型にとって重要である。wt PAおよびNPを有するウイルスはフェレットの肺において複製しなかったが、これは、弱毒化に関与する突然変異のサブセットがts表現型に関与することを示唆している。
【0125】
かくして、B/Ann Arbor/1/66のtsおよびatt表現型は、多くても3個の遺伝子により決定される。PA、NPおよびM1タンパク質中の8個のアミノ酸の野生型残基への変換により、組換えウイルスは37℃で効率的に複製した。同様に、B/Hong Kong/330/01に由来するHAおよびNA断片を有するMDV-Bの6個の内部遺伝子を表す6+2組換えウイルスは、ts表現型を示し、三重組換え体は非tsを示した。
【0126】
MDV-B骨格を用いる本発明者らの結果は、ts/att表現型を非ts/非att表現型に変換するには、6個のアミノ酸で十分であることを示唆していた。従って、本発明者らは、これらの6個の「弱毒化」残基の導入により、これらの生物学的特性が、B/Yamanashi/166/98などの、異種野生型の非弱毒化インフルエンザBウイルスに導入されるかどうかを決定することに興味を持った。
【0127】
6個のアミノ酸変化PA(V431→M431、H497→Y497)、NP(V114→A114、P410→H410)、およびM1(H159→Q159、M183→V183)を有する組換え野生型B/Yamanashi/166/98 (recYam)(7)および組換えウイルス(rec6-Yam)を作製した。RecYamは、33℃と比較して37℃で0.17 log10の力価減少を示したが、rec6Yamは明らかにtsであり、37℃と33℃の間のウイルス力価の差異は4.6 log10であった。典型的な野生型インフルエンザBウイルスについて予想された通り、recYamに感染させたフェレットからウイルスが効率的に回収された。rec6Yamをフェレットに接種した場合、肺組織ではウイルスが検出されなかった(表7)。かくして、MDV-Bに由来するts/att遺伝子座の導入は、tsおよびatt表現型を異なるウイルスに導入するのに十分である。
【表7】
【0128】
従って、1個以上のこれらのアミノ酸置換を有するインフルエンザB株ウイルスの人工的に操作された変異体は、tsおよびatt表現型を示し、例えば、弱毒化生インフルエンザウイルスワクチンの製造におけるマスタードナー株ウイルスとしての使用にとって好適である。
【0129】
実施例9:B/Ann Arbor/1/66インフルエンザウイルスの低温適合性表現型を制御する遺伝子座の決定
低温適合性(ca)B/Ann Arbor/1/66は、生弱毒化インフルエンザB Flumist(登録商標)ワクチンのためのマスタードナーウイルス(MDV-B)である。ca B/Ann Arbor/1/66に由来する6個の内部遺伝子ならびに血中循環する野生型株に由来するHAおよびNA表面糖タンパク質を担持する6:2インフルエンザBワクチンは、低温適合性(ca)、温度感受性(ts)および弱毒化(att)表現型を特徴とする。配列分析により、MDV-Bが野生型インフルエンザB株には認められないPB2、PA、NPおよびM1タンパク質中の9個のアミノ酸を含むことが示された。本発明者らは、PA(M431V)およびNP(A114V、H410P)中の3個のアミノ酸がts表現型を決定し、これらの3個のts遺伝子座に加えて、M1中の2個のアミノ酸(Q159H、V183M)がatt表現型を付与することを決定した。
【0130】
ca表現型の分子的基礎を理解するために、プラスミドに基づく逆遺伝学系を用いて、ca表現型へのこれらの9個のMDV-B特異的アミノ酸の寄与を評価した。組換えMDV-Bはニワトリ胚性腎臓(CEK)細胞中、25℃および33℃で効率的に複製した。対照的に、9個の野生型アミノ酸を含む、組換え野生型B/Ann Arbor/1/66は、25℃で効率的に複製しなかった。1個はPB2中(R630S)、1個はPA中(M431V)および3個はNP中(A114V、H410P、T509A)の合計5個の野生型アミノ酸が、MDV-B ca表現型を完全に逆転するのに必要であると決定された。さらに、MDV-Bまたは6:2ワクチン株のM1タンパク質中の2個のアミノ酸(Q159H、V183M)を、野生型アミノ酸と置換することにより、CEK細胞中、33℃でのウイルス複製が有意に増加したが、25℃では増加しなかった;V183Mの変化は該変化に対するより大きい影響を有していた。
【0131】
実施例10:Vero細胞のエレクトロポレーションによる8つのプラスミドからのインフルエンザのレスキュー
組換えインフルエンザウイルスをエレクトロポレーションを用いてVero細胞からレスキューすることもできる。これらの方法は、インフルエンザAおよびインフルエンザB株ウイルスの両方の製造にとって好適であり、例えば、鼻内ワクチン製剤中での投与にとって好適な生弱毒化ワクチンの調製を容易にする無血清条件下で増殖させたVero細胞からの、例えば、低温適合性、温度感受性、弱毒化ウイルスの回収を可能にする。ウイルス株間でのその広い適用性に加えて、エレクトロポレーションは細胞基質のための増殖培地以外の追加試薬を必要とせず、かくして、望ましくない夾雑物の可能性が低い。特に、この方法は、病原体を含まないと見なされ、かつワクチン製造にとって好適なVero細胞単離物などの、無血清条件下で増殖するように適合させたVero細胞を用いて組換えおよび再集合体ウイルスを作成するのに有効である。この特徴は、細胞基質へのDNAの商業的導入のための好適な方法としてのエレクトロポレーションの選択を支持する。
【0132】
エレクトロポレーションを、多くの脂質に基づく試薬を用いるトランスフェクション、リン酸カルシウム沈降法および細胞のマイクロインジェクションなどの、Vero細胞にDNAを導入するための様々な方法と比較した。インフルエンザAのレスキューについては脂質に基づく試薬を用いる場合にいくらかの成功が得られたが、Vero細胞からインフルエンザBならいbにインフルエンザAをレスキューすることが示されたのはエレクトロポレーションのみであった。
【0133】
エレクトロポレーションの1日前に、90〜100%集密なVero細胞を分割し、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸および10%FBSを補給したMEM(MEM、10%FBS)中、T225フラスコあたり9 x 10
6細胞の密度で播種した。次の日、細胞をトリプシン処理し、T225フラスコあたり50 mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。次いで、細胞をペレット化し、T225フラスコあたり0.5 mlのOptiMEM I中に再懸濁する。必要に応じて、ヒトまたは動物由来成分を含まない特注生産されたOptiMEM培地を用いることができる。例えば、血球計中の1:40希釈液を計測することにより、細胞密度を決定した後、5 x 10
6細胞を、最終容量400μlのOptiMEM I中、0.4 cmのエレクトロポレーションキュベットに添加した。次いで、25μl以下の容量のMDV-AもしくはMDV-Bを含む8プラスミドの等モル濃度混合物からなる20μgのDNAを、キュベット中の細胞に添加した。細胞をタッピングにより穏やかに混合し、Capacitance Extender Plusを備えたBioRad Gene Pulser II(BioRad, Hercules, CA)中、300ボルト、950μFaradでエレクトロポレーションした。時間定数は28〜33 msecの範囲にあるべきである。
【0134】
キュベットの内容物をタッピングにより穏やかに混合し、エレクトロポレーションの1〜2分後、0.7 mlのMEM、10%FBSを1 mlのピペットを用いて添加した。細胞を、上下に数回ピペッティングすることにより穏やかに再度混合した後、ウェルあたり2 mlのMEM、10%FBSを含む6ウェルディッシュの2個のウェルに分割した。次いで、キュベットを1 mlのMEM、10%FBSで洗浄し、ウェルあたり約3.5 mlの最終容量で2個のウェルに分割した。
【0135】
代替的な実験において、例えば、OptiPro(SFM)(Invitrogen, Carlsbad, CA)中での無血清増殖条件に適合させたVero細胞を、OptiMEM I中でのエレクトロポレーション後に、細胞をOptiPro(SFM)中に希釈した後、それらをウイルスのレスキューのために培養したことを除いて、上記のようにエレクトロポレーションした。
【0136】
次いで、エレクトロポレーションされた細胞を、導入されたウイルスの複製および回収にとって好適な条件下で、すなわち、低温適合性マスタードナー株については33℃で増殖させた。次の日(例えば、エレクトロポレーションの約19時間後)、培地を除去し、細胞をウェルあたり3 mlのOptiMEM IまたはOptiPro(SFM)で洗浄した。ペニシリン/ストレプトマイシンを含む1 ml/ウェルのOptiMEM IまたはOptiPro(SFM)を各ウェルに添加し、培地を置換することにより上清を毎日回収した。上清をSPG中、-80℃で保存した。典型的には、ピークウイルス産生はエレクトロポレーションの2〜3日後に観察された。
【表8】
【0137】
実施例11:卵中でのインフルエンザBウイルスの増殖はHA 196/197糖鎖付加部位の喪失をもたらす
多くのインフルエンザBウイルス臨床単離物は、潜在的なHA N結合糖鎖付加部位を含む。このHA N結合糖鎖付加部位は、B/Yamagata株についてはアミノ酸残基196〜199の周辺に、B/Victoria株についてはアミノ酸残基197〜199の周辺に存在する。B/Malaysia/2506/04およびB/Ohio/1/05などの最近血中循環が見られるB/Victoria株、ならびにB/Florida/7/04などの最近血中循環が見られるB/Yamagata株は、この潜在的なHA N結合糖鎖付加部位を含む。
【0138】
これらの株のHA糖鎖付加部位が卵中での継代後に保持されるかどうかを決定するために、それぞれの株を卵で増殖させ、ヌクレオチド配列決定を行って、コードされたHAポリペプチドのアミノ酸配列を決定した。この研究において用いた記載のウイルス株は、米疾病対策予防センター(CDC, Atlanta, GA)から得られたものである。このウイルスを用いて、ウイルス接種の10〜11日前に受精させたCharles River SPAFAS (Franklin, CT, North)から得られた孵化鶏卵に接種した。接種された卵を33℃でインキュベートした。接種された卵中のウイルスに由来するHAウイルスRNAを、RT-PCRにより増幅した後、配列決定した。
【0139】
インフルエンザB株B/Ohio/1/05、B/Malaysia/2506/04、およびB/Florida/7/04のHAポリペプチドのアミノ酸配列はいずれも、卵での継代後にN結合糖鎖付加部位において変化した。B/Ohio/1/05の糖鎖付加部位の配列は、NETからSETに変化した。B/Malaysia/2506/04の糖鎖付加部位の配列は、NETからNEAまたはSETに変化した。B/Florida/7/04の糖鎖付加部位の配列は、NKTからNKP、DKT、またはIKTに変化した。以下の表9を参照されたい。
【表9】
【0140】
インフルエンザBウイルスの様々な他の株のHA糖鎖付加部位のアミノ酸配列を試験した。卵での継代後に6種のB/Victoriaおよび8種のB/Yamagataに関するHAアミノ酸配列の一部を示す
図12を参照されたい。図中で、潜在的なN結合糖鎖付加部位(N-X-T/S)に下線を付す。試験した14種のインフルエンザBウイルス株はいずれも、卵での継代後にその潜在的なN-X-T/S結合糖鎖付加部位を保持しなかったことが分かった。
【0141】
実施例12:HA 196/197糖鎖付加部位の喪失はインフルエンザBウイルスの抗原性を低下させる
インフルエンザB株B/Ohio/1/05、B/Malaysia/2506/04、およびB/Florida/7/04の抗原性に対するHA 196-197糖鎖付加部位の効果を次に試験した。糖鎖付加されたウイルスと糖鎖付加されていないウイルスの抗原性を比較するために、インフルエンザB株B/Ohio/1/05、B/Malaysia/2506/04、およびB/Florida/7/04の各々に対応するウイルス対を、逆遺伝学を用いて作製した(実施例3を参照)。各対の2個のメンバーは、第1のメンバーが野生型アミノ酸配列を有するHAポリペプチド、すなわち、CDCから得られた株中に存在するN結合糖鎖付加部位を含むHAアミノ酸配列を含み、第2のメンバーがN結合糖鎖付加部位を欠くHAポリペプチド、すなわち、卵中での継代後にウイルスから得られたHAアミノ酸配列を含む以外は同一であった。
【0142】
逆遺伝学技術において用いられた6個のプラスミドは、B/Ann Arbor/1/66 (MDV-B)の内部ゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を提供した。7番目のプラスミドは、各野生型ウイルスに由来する野生型NAポリペプチドをコードするゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を提供した。例えば、B/Ohio/1/05ウイルスの対の各メンバーを、B/Ohio/1/05株の野生型NAポリヌクレオチド配列を用いて作製した。第8のプラスミドは、HAポリペプチドをコードするゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を提供した。HAポリペプチドは、インフルエンザウイルスがウイルス対の第1または第2のメンバーであったかどうかに応じて、野生型または卵中で継代されたHAのいずれかであった。
【0143】
野生型ウイルスのNAおよびHAポリヌクレオチド配列を、野生型ウイルスのNAまたはHA vRNAのRT-PCR増幅、およびpAD3000の2個のBsmBI部位間で増幅されたcDNAのクローニングにより取得した。卵中で継代されたHAポリペプチドをコードするゲノム断片に対応するヌクレオチド配列を含むプラスミドを、QuikChange(登録商標)部位特異的突然誘発キット(Stratagene, La Jolla, CA)を用いて野生型HA断片を含むプラスミドを部位特異的突然変異誘発にかけることにより調製した。
【0144】
このプラスミドを、同時培養されたMDCKおよび293細胞中にトランスフェクトした。全てのレスキューされたウイルスは、6〜7 log
10PFU/mLの力価でMDCK細胞中で効率的に複製した。トランスフェクションの7日後、トランスフェクトされた細胞に由来する上清を回収し、プラークアッセイにより滴定した。回収されたウイルスの配列分析により、野生型または卵中で継代されたHAアミノ酸配列が、トランスフェクションの間にウイルスを産生するのに用いられたHAプラスミドに従って保持されることが確認された。
【0145】
各ウイルス対の抗原性を、感染後のフェレット血清を用いるHAIアッセイにより試験した。6〜7 log
10PFUのウイルスを鼻内接種した21日後に、血清をフェレットから回収した。種々のウイルスに対するフェレット血清中の抗体レベルを、血球凝集阻害(HAI)アッセイにより評価した。V底96穴マイクロプレート中、4 HA単位のインフルエンザウイルスを含む25μLの連続希釈された血清サンプル(25μL容量)を添加することにより、HAIアッセイを行った。30分のインキュベーション後、50μlの0.5%七面鳥赤血球を添加して、血球凝集を測定した。HAI力価を、ウイルス血球凝集を阻害する最も高い血清希釈率で表した。表10は、wt(HA糖鎖
+)ウイルス/卵中で継代された(HA糖鎖
-)ウイルスの対の抗原性を示す。
【表10】
【0146】
HA糖鎖付加ウイルスに対して生成された血清は、HA非糖鎖付加ウイルス対よりもHA糖鎖付加ウイルスに対してより高いHAI力価を有し、HA非糖鎖付加ウイルスに対して生成された血清は、HA非糖鎖付加ウイルス対に対してより高いHAI力価を有していた。HAIアッセイにおけるそれぞれのHA糖鎖付加ウイルス/HA非糖鎖付加ウイルス対の間の抗原性の差異は1.5〜4.5倍変化した。この相違は、196/197糖鎖付加部位がウイルス抗原性に影響を及ぼすことを示唆していた。
【0147】
実施例13:HA 196/197糖鎖付加部位を有するインフルエンザBウイルスは卵中で複製することができなかった
実施例12の対になったインフルエンザ株のそれぞれのメンバーが卵中で複製することができるかどうかを決定するために、孵化鶏卵に10
2PFU/卵または10
4〜10
5PFU/卵のウイルスを接種し、33℃で3日間インキュベートした。次いで、ウイルスピーク力価を、MDCK細胞中でのプラークアッセイにより決定した。卵でのウイルス対の複製(ウイルス力価)およびそれぞれのウイルスのHAアミノ酸残基196〜199の配列を表11に示す。
【表11】
【0148】
それぞれのウイルス対について、糖鎖付加部位を欠くメンバーウイルスは、8.0 log
10 PFU/mLより低い力価で、卵中で良好に増殖した。しかしながら、糖鎖付加部位(NXT)を含むメンバーウイルスは、10
2PFUのウイルスを接種した卵中では良好に複製しなかった。HA糖鎖付加ウイルスB/Ohio/1/05、B/Malaysia/2506/04、およびB/Florida/7/04が、それぞれ、わずかに2.1 log
10PFU/mL、1.7 log
10PFU/mL、および3.0 log
10PFU/mLのウイルス力価まで増殖したことを示す表11を参照されたい。HA糖鎖付加されたメンバーウイルスの複製は、より多い量のウイルス、10
4〜10
5PFU/卵を卵に接種した場合に検出可能になった。これらの複製ウイルスの配列分析により、アミノ酸置換が196/197糖鎖付加部位に導入されたことが示された。B/Ohio/1/05のwt糖鎖付加配列がNETからSETに変化し、B/Malaysia/2506/04のwt糖鎖付加配列がNETからSETもしくはNENに変化し、B/Florida/7/04のwt糖鎖付加配列がNKTからNKIに変化したか、またはプロリンがNXT糖鎖付加配列のすぐC末端側でグルタミンに置換されたことを示す表11を参照されたい。従来の研究(Bause, Biochem J. 209 (1983):331-336; GavelおよびVon Heijne, Protein Eng. 3 (1990):433-442)により、HA NXT糖鎖付加部位のC末端に隣接するプロリンが、N結合糖鎖付加を阻害することが示された。かくして、インフルエンザBウイルスが卵で良好に複製するには、HA 196/197の糖鎖付加の欠如が必要であるようであった。
【0149】
実施例14:卵で複製することができるHA糖鎖付加インフルエンザB株の同定
196/197糖鎖付加部位を含む任意のインフルエンザB株が卵中で複製することができたかどうかを決定するために、卵に様々な野生型インフルエンザBウイルス株を接種した。次いで、複製しているウイルスのHA配列を決定した。卵で複製することができたインフルエンザBウイルスの多くは、残基197〜199(または196〜198)にNXT糖鎖付加部位を含まなかった。卵中で継代されたウイルスがNXT糖鎖付加部位を含んでいた場合、それらはそれを喪失しつつあった。すなわちNXT配列は、HAタンパク質の197〜199/196〜198残基における配列集団の1つであった。
【0150】
2つのウイルス株、B/Jilin/20/03 (B/JL)およびB/Jiangsu/10/03 (B/JS)が、卵中での継代の後に、NXT糖鎖付加配列NKTを有すると同定された。B/JLは、196〜198の糖鎖付加部位のすぐC末端側の位置199にプロリンを有していた。上記で考察されたように、糖鎖付加部位残基のすぐC末端側のプロリンは、196/197糖鎖付加と干渉し、これを阻害する。卵でのB/JLおよびB/JSの複製をより詳細に試験するために、NXT糖鎖付加部位配列を欠くインフルエンザBウイルス株対およびNXT糖鎖付加部位配列を含むインフルエンザBウイルス株対を、実施例12に記載の逆遺伝学により、B/JL、B/JS、および関連するインフルエンザB株B/Shanghai/361/02 (B/SH)のそれぞれについて調製した。次いで、MDCK細胞および卵でのこれらのウイルス対の複製を決定した。表12を参照されたい。
【表12】
【0151】
3つのウイルス対セットは全て、MDCK細胞中で良好に複製し、その力価は6.4〜7.5 log
10PFU/mLの範囲であった。しかしながら、全てのウイルスが卵中で良好に複製したわけではなかった。HA 196/197糖鎖付加(糖鎖付加配列NKTQ)B/SHまたはB/JLウイルスの10
2 log
10PFUを接種された卵は、良好に複製しなかった。B/SHまたはB/JL HA糖鎖付加ウイルスの接種用量を10
4〜10
5 log
10PFUに上昇させると、検出可能なウイルス複製が得られた。これらの複製しているウイルスを配列決定したところ、糖鎖部位の喪失が示された(B/SHにおいてはNKTからSKTもしくはDKT、B/JLにおいてはNKTからNKSへ)。B/SHおよびB/JLウイルスと違って、B/JSウイルスは糖鎖付加部位の存在下または非存在下、卵中で良好に複製することができたが、その力価はそれぞれ7.3および8.4 log
10PFUであった。
【0152】
HA特異的抗体を用いるウェスタンブロッティングにより、MDCK細胞および卵中で増殖させた各ウイルスの糖鎖付加状態を確認した。MDCK細胞培養上清または尿膜腔液に由来するウイルスと、2 xタンパク質溶解バッファー(Invitrogen)とを混合し、10%SDS-PAGEゲル上で電気泳動することにより、ウェスタンブロッティングを実施した。ゲル上で電気泳動されたタンパク質を、ニトロセルロース膜に転写し、ニワトリ抗インフルエンザB抗血清を用いるウェスタンブロットにかけた。タンパク質-抗体複合体を、HRP結合抗ニワトリ抗体と共にインキュベートした後、化学発光検出キット(GE Healthcare Bio-Sciences)により検出した。
【0153】
ウェスタンブロット分析により、MDCK細胞上で複製した場合、HA糖鎖付加
+ウイルスがその糖鎖付加部位を保持し、従って、その対となる対応するHA糖鎖付加
-ウイルスよりもゆっくりとゲル上を移動することが示された。例えば、糖鎖付加
-HAを有するウイルスを含むレーン(レーン2)中のバンドよりもゆっくりと移動する糖鎖付加
+HA(レーン1)ウイルスのHA抗血清と交差反応するバンドを示す、
図13aのレーン1および2を参照されたい。同様の結果が、B/SH(
図13a、レーン3および4)およびB/JL(
図13a、レーン5および6)ウイルスの両方について得られた。
【0154】
卵で複製した場合、1つのウイルスのみ(B/JSウイルス)が、糖鎖付加
+HAウイルスに関するバンド(
図13b、レーン3)が、糖鎖付加
-HAウイルスに関するバンド(
図13b、レーン4)よりもゆっくり移動する移動パターンを保持した。このパターンは、B/JSウイルスが卵で複製し、HA糖鎖付加部位を保持することができる、試験した唯一のウイルスであることを示唆していた。
【0155】
実施例15:HAアミノ酸残基位置141のアルギニンは196〜197糖鎖付加部位を安定化する
表12の検討により、B/JSおよびB/JLインフルエンザ株が共にHAアミノ酸残基196〜199にアミノ酸配列NKTQを有したが、B/JSのみが卵で良好に複製し、NKTQ糖鎖付加部位を保持することができることが示された。B/JSおよびB/JLウイルスのHAアミノ酸配列の比較により、3個の異なるアミノ酸残基が同定された。これらの3個の残基の中で、141Rおよび237EはB/JSにとってユニークであった(他のインフルエンザBウイルスと比較して)。アミノ酸残基位置141および237には、多くのインフルエンザB株がグリシンを含む。141Rおよび/または237Eアミノ酸残基の一方または両方が、B/JS HA 196糖鎖付加部位の安定化に寄与したかどうかを試験するために、B/JS HAを突然変異させて、141Rおよび/または237Eをグリシンに変化させた。次いで、卵での種々のB/JSウイルスの複製を決定した。
【0156】
表13に示されるように、B/JS HA残基141をRからGに変化させた場合、ウイルスは10
2PFUの用量で接種された卵で複製することができなかった。10
4〜10
5PFUに接種用量を増加させることにより、ウイルスは卵で複製することができた。HA 141G残基を有する複製しているB/JSを配列決定して、196/197糖鎖付加部位が保持されるかどうかを決定した。配列決定により、NKT糖鎖付加部位が失われ、DKTまたはNKTPと置換されたことが示された。この知見は、B/JSのHA 141アルギニン残基が196/197 HA糖鎖付加部位を安定化し得ることを示唆していた。B/JS HAアミノ酸残基237でグルタミン酸をグリシンに置換することは、卵での増殖に影響しなかった。データは示さない。
【表13】
【0157】
HA残基141Rが、卵中での複製の間にインフルエンザB HA 196/197糖鎖付加部位を安定化するのに十分であったことをさらに確認するために、B/SHおよびB/Ohio/1/05のHA 141にグリシンのアルギニンへのアミノ酸置換を導入した。表13に示されるように、HA位置141にグリシンからアルギニンへの置換を有するB/SHおよびB/Ohio/1/05の両方は、約8.0 log
10PFU/mLの力価で卵中で効率的に複製することができた。HA 141R置換を有するB/SHおよびB/Ohio/1/05ウイルスはまた、卵中での複製の間にHA糖鎖を保持していた。HA 141R残基を有する、卵中で継代したB/SH(レーン2)、B/Ohio(レーン4)、およびB/JS(レーン6)ウイルスのHA糖鎖を確認するウェスタンブロットを提供する
図14を参照されたい。これらのデータは、HA残基141が、卵で増殖させたインフルエンザBウイルスのHA 196/197糖鎖付加部位の使用に影響する役割を果たすことを示唆していた。
【0158】
実施例16:インフルエンザBのHA残基141のアルギニンはウイルス抗原性に影響しない
インフルエンザB株の抗原性に対するHAアミノ酸位置141のアルギニン残基を置換する効果を試験した。141R残基がウイルスの抗原性に影響するかどうかを決定するために、様々な糖鎖付加された、および糖鎖付加されていないウイルスに対するフェレット血清を作製した。このフェレット血清を、141および196/197残基中に異なる修飾を含むウイルスに対する反応性について試験した。
【0159】
それぞれ、141および196/197部位に、GD(非糖鎖付加)またはRN(糖鎖付加)の遺伝子特性を有する7.0 log
10PFUの卵由来ウイルスをフェレットに鼻内接種することにより、フェレット血清を調製した。感染後の血清を、HAIアッセイにおける抗原性試験のために21日後にフェレットから回収した。
【0160】
HAアミノ酸位置141および196/197に、それぞれGD、RNまたはGNの遺伝子特性の各々を有するB/SH/361/02、B/Ohio/1/05、およびB/JS/10/03ウイルスを調製して、フェレット血清に対する抗原性について試験した。これらのウイルスを、感染したMDCK細胞から調製した。G141および196/197N残基を有するインフルエンザウイルスは卵中で増殖することができなかった。
【0161】
HAIアッセイにおいて、非糖鎖付加(GD)されたB/SH/361/02に対して生成されたフェレット血清は、糖鎖付加されたB/SH/361/02ウイルスではなく、非糖鎖付加されたB/SH/361/02ウイルスと良好に反応した。感染後のフェレット血清のHAI力価は、糖鎖付加ウイルスと比較して非糖鎖付加ウイルスについて4倍高かった。同様に、糖鎖付加された(RN)B/SH/361/02ウイルスに対して生成されたフェレット血清は、非糖鎖付加B/SH/361/02ウイルスではなく、糖鎖付加B/SH/361/02ウイルスと良好に反応した。同様に、感染後のフェレット血清のHAI力価の差異は4倍であった。これらの4倍の差異は、実施例12、表10にも考察されたように、非糖鎖付加ウイルスと糖鎖付加ウイルスの間の抗原性の差異を示す。
【0162】
糖鎖付加(RN)B/SH/361/02に対して生成されたフェレット血清は、HAIアッセイにおいてRNおよびGN糖鎖付加ウイルスに対して同様に反応した。GN糖鎖付加ウイルスと比較してRN糖鎖付加ウイルスに対して2倍以上高い。反応性におけるこのわずかな差異は、グリシンからアルギニンへの位置141のアミノ酸残基変化がB/SH/361/02抗原性に対する有意な影響を有さないことを示唆していた。インフルエンザBウイルス株B/Ohio/1/05およびB/JS/10/03を用いて同じセットのHAIアッセイを行った場合も同様の結果が得られた。表14を参照されたい。
【表14】
【0163】
実施例17:HA 196/197の糖鎖は、α-2,3連結されたシアル酸への結合に影響する
HA 196/197部位が糖鎖付加されたインフルエンザBウイルスはMDCK細胞中で良好に増殖するが、卵中では増殖しないため、HA 196/197での糖鎖はウイルス受容体結合特異性に影響し得る。Sia(α-2,3)GalおよびSia(α-2,6)Galは様々な宿主細胞中に示差的に分布する2つの主要な受容体部分である。MDCK細胞はSia(α-2,3)GalおよびSia(α-2,6)Gal部分の両方を発現する。ニワトリ胚絨毛尿膜細胞はSia(α-2,3)Gal部分のみを発現する。ウイルス受容体結合特異性を、Sia(α-2,3)GalおよびSia(α-2,6)Gal部分を示差的に発現する異なる動物種に由来する赤血球(RBC)を用いる血球凝集アッセイにより試験することができる。ウマRBCは主にSia(α-2,3)Gal受容体を発現するが、モルモットRBCは主にSia(α-2,6)Gal受容体を発現する。七面鳥およびニワトリRBCはSia(α-2,3)GalおよびSia(α-2,6)Gal部分の両方の発現に富む(Itoら、Virol. 156(1997): 493-499)。
【0164】
糖鎖付加
+(RN)または糖鎖付加
-(GS、RS、GD、もしくはRD)である卵由来V/Ohio/1/05およびB/Jiangsu/10/03ウイルスを、ウマRBC(hRBC)、モルモットRBC(gpRBC)および七面鳥RBC(tRBC)を用いてそのHA力価について試験した。インフルエンザBウイルスの糖鎖付加状態に関わらず、それらは全て同様に良好に、両方ともSia(α-2,6)Gal部分を発現するgpRBCおよびtRBCに結合した。対照的に、糖鎖付加
+(RN)ウイルスは、Sia(α-2,3)部分のみを発現するhRBCにあまり結合しないか、または検出不可能なレベルで結合したが、これは、HA 196/197の糖鎖はSia(α-2,3)Gal受容体に結合するウイルスを阻害したことを示唆している。表15を参照されたい。
【表15】
【0165】
孵化鶏卵の尿膜細胞などの、Sia(α-2,3)部分を発現する細胞に結合する能力を糖鎖付加ウイルスが有しないことにより、卵中でインフルエンザBワクチン株を増殖させることが困難になる。卵中でのインフルエンザB株の増殖を可能にする糖鎖付加部位の喪失は、この株の抗原性を変化させる。卵での増殖およびウイルス抗原性を維持しながら、インフルエンザBウイルスのHA 196/197糖鎖付加部位を保持する能力は、ワクチン製造を援助することができる。インフルエンザB株のHAアミノ酸位置141でのアルギニンの導入は、これを達成する手段である。
【0166】
明確性および理解のためにいくらか詳細に前記発明を説明してきたが、本発明の真の範囲を逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更を行うことができることが、本開示の読解から当業者にとっては明らかであろう。例えば、上記の全ての技術および装置を、様々な組合せで用いることができる。本出願に記載の全ての刊行物、特許、特許出願、または他の書類が、あたかもそれぞれ個々の刊行物、特許、特許出願、または他の書類があらゆる目的で参照により本明細書に組み入れられると個別に示唆されるのと同程度まで、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0167】
特に、以下の特許出願の全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする:2007年6月18日に出願された米国特許仮出願第60/944,600号。