(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666916
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】切り屑除去機械加工用工具及びその基体並びに切削インサート
(51)【国際特許分類】
B23C 5/22 20060101AFI20150122BHJP
B23C 5/08 20060101ALI20150122BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20150122BHJP
B23B 27/16 20060101ALI20150122BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
B23C5/22
B23C5/08 A
B23C5/06 A
B23B27/16 Z
B23B51/00 T
【請求項の数】37
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-545828(P2010-545828)
(86)(22)【出願日】2009年2月2日
(65)【公表番号】特表2011-510829(P2011-510829A)
(43)【公表日】2011年4月7日
(86)【国際出願番号】SE2009050105
(87)【国際公開番号】WO2009099386
(87)【国際公開日】20090813
【審査請求日】2011年12月2日
(31)【優先権主張番号】0800265-1
(32)【優先日】2008年2月5日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】リンドストロム,スベン−オロブ
(72)【発明者】
【氏名】ビールボルイ,レナルト
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第01524051(EP,A2)
【文献】
国際公開第99/019104(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/22
B23B 27/16
B23B 51/00
B23C 5/06
B23C 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り屑除去機械加工用の工具であって、
一方において、基体(1)を含み、基体(1)には少なくとも一つの座部(11)が含まれ、座部(11)は上面と二つの互いに平行である側面(17a,17b)とを有し、前記座部(11)の上面がベース面(12)とベース面(12)に対して突出している後方支持部(13)によって境界が定められ、ベース面(12)は一つ以上の隆起(28)と溝(29)の形態の第1の結合部(32)を含み、
他方において、交換可能な切削インサート(2)を含み、切削インサート(2)は上面(22)、下面(23)、及び上面と下面の間で延びて少なくとも一つの切れ刃(25)を介して上面に移行してゆく逃げ面(24)を有し、
下面(23)が一つ以上の溝(27)と隆起(26)を有する第2の結合部を含み、第2の結合部の隆起(26)が第1の結合部(32)の溝と係合し、第2の結合部の溝(27)が第1の結合部(32)の隆起と係合し、同時に逃げ面(24)の一部(24b)が後方支持部(13)に付勢され、
第1の結合部(32)の個々の隆起(28)の想像上の延長線が後方支持部(13)の側方まで延び、
後方支持部は、二つの前記側面(17a,17b)の中間に配置された中央平面(CP1)に対して垂直に延びる後方支持面(13)であり、第1の結合部(32)の個々の隆起(28)の前記想像上の延長線が、前記後方支持面(13)が垂直に延びる方向に対して鋭角(β)を成すことを特徴とする工具。
【請求項2】
第1の結合部(32)が溝(29)によって間隔をあけた複数の隆起(28)を含み、隆起(28)の対向する端(28a,28b)が境界線に沿って位置し、端(28a,28b)がベース面(12)の輪郭形状を決定することを特徴とする請求項1に記載の工具。
【請求項3】
ベース面(12)が、結合部(32)の他に、自由面(33)を含み、結合部が後方支持部の方へ傾斜するのと同時にそれが後方支持部(13)に最も近く位置する隣接する隆起の端の方へ傾斜することを特徴とする請求項1又は2に記載の工具。
【請求項4】
自由面(33)は、一方で、一つ以上の隆起(28)の頂点で表される第1の結合部(32)の最高高さ位置よりも低く位置し、他方で、一つ以上の溝(29)の底で表される第1の結合部(32)の最低高さ位置よりも高く位置することを特徴とする請求項3に記載の工具。
【請求項5】
後方支持面(13)の幅は、互いに間隔をあけた二つの側方境界線(17a,17b)の間の距離で表されるベース面(12)の幅(W)の少なくとも半分になることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の工具。
【請求項6】
樋形状の凹部(34)がベース面(12)と後方支持部(13)の間に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の工具。
【請求項7】
第1の結合部(32)がベース面(12)の全投影面積の少なくとも2/3を占める投影面積を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の工具。
【請求項8】
後方支持面(13)と隆起(28)の間の鋭角(β)が少なくとも25゜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の工具。
【請求項9】
後方支持面(13)と隆起(28)の間の鋭角(β)が大きくても50゜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の工具。
【請求項10】
前記後方支持面(13)と隆起(28)の間の鋭角(β)が45゜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の工具。
【請求項11】
基体(1)の座部(11)が基体に半永久的に結合するエレメント(3)に形成されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の工具。
【請求項12】
側及び正面フライスカッターの形態の請求項11に記載の工具であって、
基体が中心軸(C1)のまわりで回転可能な円形ディスク(1)であり、円形ディスク(1)の周縁に複数の切削インサート(2)が装備され、個々の切削インサート(2)がカセット(3)の形態のエレメントに取り付けられ、
カセットは、円形ディスクに形成された一連の隆起と溝の形態の第1のセレーション面(9)及びカセットの下面に形成された円形ディスクの中心軸(C1)と平行に延びる溝と隆起の形の第2のセレーション面(10)を含む境界面を介して、円形ディスクと半永久的に結合し、第2のセレーション面(10)の隆起が第1のセレーション面の溝と係合し、及び第2のセレーション面(10)の溝が第1のセレーション面の隆起と係合し、
第1の結合部(32)がカセット(3)の上面、更に詳しくは突起(14)と前端面(18)との間に形成され、カセットは前端面(18)から後端面(19)の方へ延びる一対の互いに間隔をあけた側面(17a,17b)によって境界が定められ、
第1の結合部(32)の個々の隆起(28)が個々の側面(17b)に対して鋭角(α)をなして延び、隆起(28)の想像上の延長線を突起(14)の側方まで導くことを特徴とする請求項11に記載の工具。
【請求項13】
第1の結合部(32)の隆起(28)の対向する第1及び第2の端(28a,28b)の対のうち、すべての第1の端(28a)は側面の一方(17b)に沿って位置し、少なくともいくつかの対向する第2の端(28b)はカセットの前端面(18)の幅全体に沿って位置していることを特徴とする請求項12に記載の工具。
【請求項14】
側面(17b)と隆起(28)の間の角(α)が少なくとも25゜であることを特徴とする請求項12又は13に記載の工具。
【請求項15】
側面(17b)と隆起(28)の間の角(α)が大きくても50゜であることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の工具。
【請求項16】
側面(17b)と隆起(28)の間の角(α)が45゜であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項に記載の工具。
【請求項17】
切り屑除去機械加工用の工具の基体であって、
切削インサートを受け入れるための座部(11)を含み、座部(11)は上面と二つの互いに平行である側面(17a,17b)とを有し、前記座部(11)の上面がベース面(12)とベース面(12)に対して突出している後方支持部(13)によって境界が定められ、
ベース面(12)は一つ以上の隆起(28)と溝(29)の形態の結合部(32)を含み、結合部(32)の個々の隆起(28)の想像上の延長線が後方支持部(13)の側方まで延び、
後方支持部は、二つの前記側面(17a,17b)の中間に配置された中央平面(CP1)に対して垂直に延びる後方支持面(13)であり、第1の結合部(32)の個々の隆起(28)の想像上の延長線が、前記後方支持面(13)が垂直に延びる方向に対して鋭角(β)を成し、
前記切削インサート(2)は、上面(22)、下面(23)、及び上面と下面の間で延びて少なくとも一つの切れ刃(25)を介して上面に移行してゆく逃げ面(24)を有し、前記下面(23)が一つ以上の溝(27)と隆起(26)を有する第2の結合部を含み、
前記切削インサート(2)が前記基体に装着されるとき、前記第2の結合部の隆起(26)が前記第1の結合部(32)の溝と係合し、前記第2の結合部の溝(27)が第1の結合部(32)の隆起と係合し、同時に前記逃げ面(24)の一部(24b)が後方支持部(13)に付勢されることを特徴とする基体。
【請求項18】
結合部(32)が溝(29)によって間隔をあけた複数の隆起(28)を含み、隆起(28)の対向する端(28a,28b)が、ベース面(12)の輪郭形状を決定する境界線に沿って位置することを特徴とする請求項17に記載の基体。
【請求項19】
ベース面(12)が、結合部(32)の他に、自由面(33)を含み、自由面(33)が後方支持部(13)の最も近くに位置する隣接する隆起の端(28a)の方へ傾斜することを特徴とする請求項17又は18に記載の基体。
【請求項20】
自由面(33)は、一つ以上の隆起(28)の頂点で表される結合部(32)の最高高さ位置よりも低く位置し、かつ、一つ以上の溝(29)の底で表される結合部(32)の最低高さ位置よりも高く位置することを特徴とする請求項19に記載の基体。
【請求項21】
後方支持面(13)の幅が、ベース面(12)の二つの互いに間隔をあけた側方境界線の間の距離で表されるベース面(12)の幅(W)の少なくとも半分になることを特徴とする請求項17〜20のいずれか1項に記載の基体。
【請求項22】
樋形状の凹部(34)がベース面(12)と後方支持部(13)の間に形成されることを特徴とする請求項17〜21のいずれか1項に記載の基体。
【請求項23】
結合部(32)がベース面(12)の全投影面積の少なくとも2/3を占める投影面積を有することを特徴とする請求項17〜22のいずれか1項に記載の基体。
【請求項24】
後方支持部(13)と個々の隆起(28)の間の角度(β)が少なくとも25゜であることを特徴とする請求項17〜23のいずれか1項に記載の基体。
【請求項25】
後方支持部(13)と個々の隆起(28)の間の角度(β)が大きくても50゜であることを特徴とする請求項17〜24のいずれか1項に記載の基体。
【請求項26】
後方支持部(13)と個々の隆起(28)の間の角度(β)が45゜であることを特徴とする請求項17〜25のいずれか1項に記載の基体。
【請求項27】
個々の座部(11)は、基体に半永久的に結合するエレメント(3)に形成されることを特徴とする請求項17〜26のいずれか1項に記載の基体。
【請求項28】
中心軸(C1)のまわりで回転可能な円形ディスク(1)の形態の請求項29に記載の基体であって、
基体の周縁がカセット(3)を含み、カセット(3)がディスクに形成された一連の隆起と溝の形の第1のセレーション面(9)及びカセットの下面に形成されたディスクの中心軸(C1)と平行に延びる溝と隆起の形態の第2のセレーション面(10)を含む境界面によって、ディスクと半永久的に結合し、第2のセレーション面(10)の隆起が第1のセレーション面の溝と係合し、第2のセレーション面(10)の溝が第1のセレーション面の突起と係合し、
結合部(32)がカセットの上面、更に詳しくは突起(14)と前端面(18)の間に形成され、
カセットは前端面(18)から後端面(19)の方へ延びる一対の互いに間隔をあけた側面(17a,17b)によって境界が定められ、
結合部の個々の隆起(28)が個々の側面(17b)に対して鋭角(α)をなして延び、隆起(28)の想像上の延長線を突起(14)の側方まで導くことを特徴とする請求項27に記載の基体。
【請求項29】
角度(α)が少なくとも25゜であることを特徴とする請求項28に記載の基体。
【請求項30】
角度(α)が大きくても50゜であることを特徴とする請求項28又は29に記載の基体。
【請求項31】
角度(α)が45゜であることを特徴とする請求項28〜30のいずれか1項に記載の基体。
【請求項32】
結合部(32)の隆起(28)の対向する第1及び第2の端(28a,28b)の対のうち、すべての第1の端(28a)は側面の一方(17b)に沿って位置し、少なくともいくつかの対向する第2の端(28b)はカセットの前端面(18)の幅全体に沿って位置していることを特徴とする請求項28〜31のいずれか1項に記載の基体。
【請求項33】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の工具のための交換可能な切削インサートであって、
上面(22)、下面(23)、及び上面と下面の間に延びて少なくとも一つの切れ刃(25)を介して上面(22)に移行する逃げ面(24)を含み、
下面(23)は、溝(27)によって間隔をあけ、各々が一対の対向端を有する複数の隆起の形態の結合部を含み、
隆起(26)が切れ刃(25)に対してある鋭角(γ)をなして延びることを特徴とする切削インサート。
【請求項34】
結合部が下面(23)全体に沿って延び、すべての隆起(26)の間の溝(27)が逃げ面(24)に開放していることを特徴とする請求項33に記載の切削インサート。
【請求項35】
隆起と切れ刃の間の角度(γ)が少なくとも25゜であることを特徴とする請求項33又は34に記載の切削インサート。
【請求項36】
隆起と切れ刃との間の角度(γ)が大きくても50゜であることを特徴とする請求項33〜35のいずれか1項に記載の切削インサート。
【請求項37】
隆起と切れ刃との間の角度(γ)が45゜であることを特徴とする請求項33〜36のいずれか1項に記載の切削インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第1の様態で、本発明は切削工具すなわち切り屑除去機械加工用の工具であって、一方において、ベース面とそれに対して突出する支持部によって境界を定められる少なくとも一つの座部が含まれる基体を含み、ベース面が一つ以上の隆起と溝の形の第1の結合部を含み、他方において、上面、下面、及びそれらの間に延びて少なくとも一つの切れ刃を介して上面に移行してゆく逃げ面を含む交換可能な切削インサートを含む工具に関し、下面は一つ以上の溝と隆起を含む第2の結合部を含み、逃げ面の一部を支持部に押しつけたときに、第2の結合部の隆起が第1の結合部の溝と係合し、第2の結合部の溝が第1の結合部の隆起と係合する。
【0002】
問題としている種類の工具は主に金属の被削材を機械加工することを意図するものである。
【背景技術】
【0003】
本発明は、あらゆる切削工具(フライス削り、旋削加工、及び穴あけ工具)に適用可能であり、特に、小さな切削インサートを有するフライスカッター、溝入れカッターに適用でき、共通の問題を有している。
【0004】
特許文献1には、従来例として、円形ディスクを含み、その周縁に複数の取り替え可能な硬い耐摩耗性材料、例えば超硬合金、でできた切削インサートを備えた溝入れカッターが開示されている。これらの切削インサートは、ディスクに半永久的に結合され、周縁に間隔をあけた切り屑ポケットに配置された鋼などでできた別のカセットに取り付けられ、損傷した場合には交換することができる、すなわちディスク全体を廃棄する必要なしに交換することができる。個々のカセットを信頼できる仕方でディスクに固定して保持し、カセットの位置を側方に微調整できるように、ねじで締め付けることができるくさびが用いられ、それによってカセットの下面の(真っ直ぐで平行な隆起と溝の形をした)いわゆるセレーション面を、協働するディスクの個々の切り屑ポケットのセレーション面に力で押し込むことができる。詳しくは、一方のセレーション面で断面がくさび形の隆起が他方のセレーション面の溝に押し込まれ、一方のセレーション面の溝が他方のセレーション面の隆起に押し込まれ、カセットとディスクの間のきわめて安定した結合を実現しつつ、同時に、カセット及びそれによって切削インサートの側方位置を簡単な方法で微調整でき、その後にカセットを最終的にくさびで固定することができる。そして、切削インサートは、カセットの上面のいわゆるインサート座又は座部に取り付けることができる。特許文献1に示されている工具では、座部は平坦な底面すなわちベース面と、及び互いに垂直な方向の二つの平坦な支持面、すなわち後方支持面と側方支持面と、によって境界を定められ、これらの面に切削インサートの逃げ面が柔軟な締め付けねじによって押し付けられ、そのねじが同時に切削インサートの下面を座部のベース面に押しつける。後に、この工具の開発が進み、座部のベース面と切削インサートの下面に結合する部分とが、カセットの下面とディスクの切り屑ポケットの間の結合と同じタイプのセレーション面の形で、すなわち互いに平行な隆起と溝を有し、それらが交互に互いに係合する面の形で形成されたている。詳しく言うと、切削インサートには一組の隆起が形成され、それが二つの側方逃げ面と平行に前端と後端の間に延び、そのうち少なくとも前端は切り屑除去に必要な切れ刃を含み、他方座部のベース面にはディスクの平面内で(すなわちディスクの中心軸と垂直に)、ベース面の前端又は外側端から後方支持面の方へ延びる隆起が形成されている。このようにして、個々の側方支持面を省くことができ、工具の製造が容易となった。
【0005】
本発明は、上記特許文献に基づいて開発された、請求項1の前提部分に定義されているような市販の側及び正面フライスカッターから出発する。
【0006】
既知の側及び正面フライスカッターにおける、二つの協働するセレーション面又は結合部が形成された切削インサートとカセットの界面は十分に大きいが、切削インサートを制限された寸法で作らなければならない場合、カセットの結合部の隆起と溝に切削インサートの回転に効果的に対抗してそれを安定に固定するのに十分な大きさの長さを与えることができないという問題が生ずる。すなわち、カセットの結合部は、実際にはシャンクエンドミルによるフライス削りによって、所望の数の溝がカセットの座部の最初は平坦であるベース面に作られる。しかし、座部のべース面がフライスカッターに対して小さい場合、短い溝と隆起しか得られない。使用できる最小のシャンクエンドミルがベース面の長さと同じ大きさの直径を有すると考えると、溝及び隆起の長さは最大でも高々直径の半分になる。それより長くするにはフライスカッターを前方へ送ることが必要になり、突出している支持面を損傷する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5800079号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した問題を軽減して、改良された切り屑除去機械加工用の工具、特に側及び正面フライスカッター、を提供することを目指す。したがって、本発明の第1の目的は、交換することができる切削インサートを受け入れるための座部(単数又は複数)にベース面が形成され、その結合部が最適の投影面積を有し、隆起がかなり大きな長さを有するような工具を提供することである。言い換えると、小さな切削インサートのための小さな座部にベース面を形成して、その大きな割合が隆起と溝が交互に設けられた結合部であるようにすることが可能であり、もっぱら切削インサートの安定した固定と高い機械加工精度を確保することを目的として座部の突出する支持面を損傷せずに溝をフライス加工することが可能である。本発明の目的は、また、構造的に簡易であって安価に製造できる工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、少なくとも第1の目的は請求項1の特徴部分において定義された特徴によって達成される。さらに、本発明による工具の好ましい実施形態は従属請求項2〜17で定義される。
【0010】
別の様態で、本発明はまた、問題としている種類の工具のための基体に関する。この基体の特徴は独立請求項18、及び従属請求項19〜34、から明らかである。
【0011】
第3の様態で、本発明はまた、特にこの工具に適した切削インサートに関する。この切削インサートは請求項35、及び従属請求項36〜39から明らかである。
【0012】
本発明は、切削インサートを受け入れる座部のベース面に含まれる隆起と溝(又は複数の隆起と溝)を鋭角に傾けて、隆起の想像上の延長線が座部の後方支持面の側方を通り過ぎる位置になるようにするという思想に基づいている。このようにして、例えば、シャンクエンドミルでは、隆起と溝を支持面と接触させることなく、支持面のそばに形成することができ、ベース面のより大きな部分に長い、力を吸収する隆起を形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って作られた工具を側及び正面フライスカッターの形で例示して示す斜視図である。
【
図2】工具のディスク状の基体にカセットと交換可能な切削インサートを装備する仕方を示す拡大された斜視詳細図である。
【
図3】個々のカセットを示す上からの拡大斜視図である。
【
図7】カセットに装着された本発明による切削インサートを示す斜視図である。
【
図8】
図7によるカセット及び切削インサートを正面から示す端面図である。
【
図9】本発明による切削インサートを示す上からの斜視図である。
【
図10】同じ切削インサートを示す下からの斜視図である。
【
図11】
図9と10による切削インサートを示す平面図である。
【
図12】この切削インサートを正面から示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明が適用される工具の一例として、側及び正面フライスカッターが選ばれ、
図1と2に示されている。これは、一方において、中心軸C1のまわりで回転可能な円形ディスク又はブレードの形の基体1と、他方において、このディスクの外周に沿って取り付けられた交換可能な切削インサート2とから構成される。詳しくは、個々の切削インサート2は、いわゆるカセット3に取り付けられ、カセット3は半永久的に基体に結合されて基体の一部となっている。このような各カセット3が、ディスクの周縁に開放している切り屑ポケット4に隣接して配置され、くさび5によって固定される。くさび5は、締め付けねじ6によって、ディスクの平坦なくさび面7と、カセット3の上側の平坦なくさび面8との間に引き込まれる。カセットを安定して固定できるように、境界面は、ディスク本体1のいわゆるセレーション面9と、それと協働するカセット3の下側のセレーション面10(
図4と6を参照)という形態で利用されている。セレーション面9,10は、溝によって隔てられた複数の真っ直ぐな互いに平行な隆起を含み、一方のセレーション面の隆起が他方のセレーション面の溝と係合し、一方のセレーション面の溝が他方のセレーション面の隆起と係合する。隆起は断面で見るとくさび形状であり、対応する溝の底に当たらないように形成される。さらに、個々の隆起はディスク本体ーの中心軸C1と平行に延び、したがってディスクの平面と90゜の角度をなす。このことは、ディスクに対するカセットの水平方向位置が、中心軸C1に対する切削インサートの径方向距離を変えることなく、簡単な仕方で微調整できるということを意味する。こうして、くさび5を緩く締めた状態でカセットをセレーション面9に対して変位させることができ、そのあとでくさび5を最終的に締めてカセットを動かないように固定することができる。
【0015】
次に
図3〜6を参照すると、カセット3の性質がさらに詳しくそこに示されている。
【0016】
カセットの上面には、全体が11で表される座部(いわゆるインサート座)が形成されている。座部は、底面又はベース面12と、ベース面12に対して突出する後方支持面と、によって境界を定められている。この場合、後方支持面は突起14に含まれる平面であり、突起にはくさび面8も含まれている。カセットの下面はすべてセレーション面10によって占められ、その隆起と溝が、それぞれ、15と16で表されている。さらに、カセットは二つの互いに平行な平面である側面17a、17bによって境界が定められ、それらは前端及び後端面18,19の間に延びている。
図4で、CP1は側面17a、17bの真ん中に位置している垂直な中央平面を表している。ベース面12には雌ねじ溝を有する孔20が開口し、そこで締め付けねじ21の雄ねじを締めることができる(
図7を参照)。この例では、孔20は貫通しており、したがってカセットの下面にも開口している。
【0017】
次に
図9〜12を参照すると、切削インサート2の性質が詳しく示されている。一般に、切削インサートは、上面22,下面23,及び全体が24で表される外周面の逃げ面を含む。外周面は、切削インサートが四角形の基本形を有するこの場合は四つの部分面を含む。すなわち、前方端面24a、後方端面24b、及び二つの側面24cを含む。これらの面のうち、二つの側面24cは同じであり、共通の中央平面CP2から等しい距離にある。この例では、切削インサート2は切削インサートの上面22と逃げ面24に含まれる前方部分面24aの間にただ一つの切れ刃25を含む。切れ刃25は、この場合その長さの大きな部分で真っ直ぐであるが、その両端でアーチ状の部分刃25aに移行してゆく。切れ刃25から、逃げ面24が下向き方向及び後方に続く。
【0018】
切削インサートの下面23には、一連の隆起と溝26,27が、カセット3のベース面12の一連の隆起と溝と協働動作するために形成される。これらの隆起と溝を、カセットとディスク本体との間の境界面のセレーション面9,10に含まれる隆起と溝から概念的に区別するために、隆起/溝26,27が存在する面及びベース面12における対応する配置は、以下では“結合部”と呼ばれる。カセットの結合部(全体を32で表す)に含まれる隆起と溝は28,29で表される(
図3と5を参照)。続けて
図9〜12を参照して、切削インサート2は、その中心軸がC3と表される垂直の貫通孔30を含むことを指摘しておきたい。この孔の上方の開口は円錐面31によって境界が定められている。
【0019】
図7と8には、カセット3に取り付けられた、詳しくは締め付けねじ21によって取り付けられた切削インサート2が示されている。この状態で、切削インサートの下面の隆起26はカセットの溝29と係合しており、隆起28は溝27と係合している。
【0020】
本発明をさらに詳しく説明する前に、完全のために、最大の力はこの場合フライス削りのときに切削インサートに作用するものであり、径方向でディスク本体ーの平面に向けられるということを指摘しておかなければならない。これらの径方向の力は、切削インサートの後端面が付勢されるカセットに形成された後方支持面によって担われる。しかし、切削インサートはもっと弱い側方への力も受け、それは切削インサートを座部に対して変位させ、回転させようとする(ときには、交互に)。当然、そのような変位や回転を防ぐことは協働する隆起の役目である。
【0021】
上述したように、既知の工具の欠点は、カセットの結合部の隆起がカセットの側面と平行に(したがって後方支持表面と垂直に)延び、同時に切削インサートの下面の隆起が切れ刃と垂直に、すなわち切削インサートの側方表面と本質的に平行に延びていることである。したがって、切削インサートが小さく、カセットの座部も 小さい場合には、、カセットの結合部の隆起に切削インサートを安定して固定するのに十分な長さを与えることが困難になる。このように、カセットの結合部の溝をフライス削りするのに通常用いられるシャンクエンドミルは、シャンクエンドミルの直径の半分に相当する距離よりも後方支持表面に近づけることができない。
【0022】
本発明によれば、上述の問題は、カセットと切削インサートの二つの結合部の隆起(及び溝)を、それぞれ、その中央平面CP1とCP2に対して角度をつける又は傾斜させることによって解決される。
図3と5で、32は、隆起28と溝29によって構成される結合部を表す、すなわち、座部11のベース面12の部分であって、切削インサートの下面の隆起26と溝27に機械的に結合させることができる部分を表す。
図5に見られるように、結合部32の隆起28は中央平面CP1と鋭角αをなす。隆起28はまた、支持面13と鋭角βをなす。支持面13は、この場合、中央平面CP1に垂直に延びているので、角βは角αに対して補角をなす。隆起28が中央平面CP1に平行に延びずに傾斜していることによって、隆起の想像上の延長は支持面の側方を通って延びる。このようにして、支持面13の側方を自由に通過できるシャンクエンドミルによって、すなわちそれを損傷することなく、隆起を設けることができ、結合部32の投影面と隆起の長さは、隆起が中央平面と平行であってそのため支持面13から比較的大きな距離のところで終わらざるをえない場合に比べて大きくなる。
【0023】
カセットの二つの側面17a,17b、及び端面18は、この場合、平面なので、ベース面12の輪郭形状を決定する境界線は真っ直ぐになる。
図5の平面図にはっきりと見られるように、隆起28はこの境界線まで延びている、すなわち、隆起の対向する端はこれらの境界線に位置している。各隆起の第1の端は28aで表され、対向する端は28bで表される。
図5にはっきりと見られるように、すべての第1の端28aは一方の側面17bに沿って位置し、いくつかの対向する第2の端28bはカセットの前端面18に沿って位置し、その他の第2の端28bはカセットの対向側面17aに沿って位置している。
【0024】
結合部32と支持面13の間に自由面33があって、この場合は三角形の形を有し、支持面に最も近く位置する隣接する隆起の方に向かうテーパーを有している。
【0025】
ベース面12と支持面13の間に、樋形状の凹部34が形成されており、これは切削インサートの下面後部に対する隙間を構成している。したがって、ベース面の長さLは凹部34とカセットの前方端面18の間の距離によって決定される。カセットの幅はWで表される。図示した例では、角α並びに角βは45゜になり、隆起と溝によって形成される結合部32がベース面12の全面積のほぼ74%を占める。
【0026】
結合部32の面積を最適化するために、突起14に面取り面35が形成されている。これは、隆起と同様、中央平面CP1に対して45゜の角度で延びている。こうしてカセットの全幅に対する支持面13の幅が減少するが、切削インサートに作用する径方向の力を信頼できる方法で担うのに十分な大きさである。この例では、支持面13の幅は、カセットの幅Wのほぼ75%になる。もちろん、この幅は大きくも小さくも変わりうる。しかし、いずれにしてもそれは少なくとも50%になるであろう。
【0027】
さらに、角α及び角βも、互いに独立に、変わりうる。すなわち、支持面13が中央平面CP1に対して90゜以外の角度になっている場合である。一般に、結合部32の面積は(ベース面12の形と大きさが同じであり、支持面13が同じ幅を有するという条件で)、角αが減少すると減少し、その逆も起こる。しかし、実際に、結合部の十分な面積並びに支持面13の十分な幅を確保するためには、角αは25゜を下回ってはならない。他方、角αは50゜を超えてはならない。50゜を超えると、切削インサートからの側方への力を担う隆起の能力があまりに大きく低下するからである。実際には、結合部の面積はベース面の全面積の少なくとも2/3にならなければならない。
【0028】
図6に見られるように、自由面33は、一方で、隆起28の頂点で表される結合部32の最高高さ位置よりも低い位置にあり、他方で、溝29の底で表される結合部32の最低高さ位置よりも高い位置にある。凹部34の底は自由面よりも低い位置にある。
【0029】
例示されている工具の実施形態において、切削インサートは(再び
図9〜12を参照)、中央平面CP2に関して対称であり、ただ一つの切り屑を除去する切れ刃25を有する。これに関連して、切削インサートの下面23に形成される第2の結合部の隆起26は中央平面CP2に対して鋭角δで延びている。切削インサートをカセット3の中央平面に関して対称に配置するためには、δとαは等しい大きさ、すなわちこの例では45゜でなければならない。切れ刃25は中央平面CP2に垂直に延びているので、γはδに対して補角をなす。したがって、δが45゜であればγも45゜である。また、切削インサートの下面の結合部は、すべての溝27が逃げ面24のいろいろな部分面に続いているため、結合部は下面全体にわたって延びていることに注意すべきである。また、隆起26は中央平面に対して少なくとも25゜そして大きくても50゜の角度で延びていなければならない。
【0030】
図5で、締め付けねじ21のための孔20が中央平面CP1に対して少し側方へずれていることが見られる。しかし、切削インサートの対応する孔30は中央に位置しているので、その中心軸C3は切削インサートの中央平面CP2と合致する。円錐状のヘッド(不図示)を有するねじ21はある程度の固有の弾性を有する鋼から作られる。孔20と孔30の間に偏心があるために、ねじ21は、締められたとき、下向きの力だけでなく、切削インサートにスプリング力も及ぼし、それが切削インサートを
図5で右及び後方に対角線方向に、切削インサートの後端面24bが後方支持面13にぴったりと押しつけられるまで移動させる。この位置で、小さな切削インサートはまた安定な形で固定され、径方向ディスク本体の方へのその移動が突起14の支持面13によって阻止され、同時に側方の力の結果としての切削インサートの回転に対しては、支持面に最も近く位置する結合部に含まれる隆起(単数又は複数)28が長く、切削インサートの下面の後部と係合することによって効果的に対抗する。
【0031】
本発明の根本的な利点は、交換可能な切削インサート、特に小さな切削インサートを安定に固定することを目的とするL字形(側面から見て)の座部に、通常の簡単なフライス削り(又はそれと同等な機械加工)によって比例した大きさの面を与え、同時にその最も長い隆起(単数又は複数)が突出する支持部のすぐ近くまで延び延びるようにできるということである。このようにして、隆起の一部は対応する切削インサートの結合部の後部と係合して、切削インサートの回転に効果的に対抗する。言い換えると、切削インサートからの最も大きな力を担うベース面の結合部の前端に、ベース面の幅全体に沿って隆起が形成され、同時に最も長い隆起(単数又は複数)がベース面の後端までずっと延びている。
【0032】
(発明の実行可能な変形)
図面に例示された本発明の工具の実施形態では、切削インサートは対称な基本形を有し、ただ一つの前方の切れ刃を含む。本発明の範囲内で、二つ以上の切れ刃を有する割り出し可能な切削インサートを用いることもできるが、結合部の隆起が傾斜する鋭角が正確に45゜でなければならない。さらに、主要な切削力が切削インサートに対角線方向で切削インサートの個々のコーナーの方へ加えられる場合、上述した隆起の傾斜を特に有利な方法で利用できる。主要な力の作用線に対して隆起を適当な角度、例えば90゜又はほぼ90゜に配置することによって、切削インサートの回転に対して効果的に対抗する他に、大きな切削力を後方支持部と共に隆起を利用して担うことができる。また、後方支持部は必ずしもこの例のように平面である必要はないということも指摘しておきたい。後方支持部は座部のベース面に対して直立し、切削インサートの後端面と少なくとも線接触又は点接触して切削インサートが後ろ向きにずれることを防止するということだけが重要である。突起がベース面と同じ幅を有する代わりに、もっと小さな幅又は直径を有する突出する直立部、例えばスタッド、とすることもできる。また、結合部に含まれる隆起や溝の幾何的デザインもいろいろな方法で変更できる。すなわち、全く真っ直ぐな隆起の代わりに、少しカーブした隆起を考えることもできる。隆起は一般にくさび形であるが、フランク角は(通常は60゜であるが)かなり広い範囲内で変えることができる。切削インサートがそれを回転させようとする側方への弱い力しか受けない場合、個々の結合部に、例に示されたように5本ではなく、ただ1本又は数本の隆起と溝を形成することも可能である。さらに、切削インサートは多角形の基本形でなく、丸い基本形であってもよい。序論で述べたように、本発明はフライスカッター以外の切削工具にも、例えば旋削工具並びに穴あけ工具にも、適用できる。これらの工具のための旋削インサートはしばしばインサートのコーナーの方へ対角線方向に作用する切削力を受けるからである。さらに、座部の後方支持面を特別な取り替え可能なシムで形成し、それがカセットの後方突起(又は直接、基体の対応する部分)に押しつけられるようにすることも可能である。このようなやり方で、異なるくさび角のいろいろなくさび形のシムを用いることが可能になり、結合部の隆起に対する支持面の角度を変えることができる。また、自由面をいくつかの短い隆起/溝で補って、それらが突出する支持面から大きな距離のところで終わって損傷の危険がないようにすることもできる。こうすると、結合部の面積を広げることができ、同時に切削インサートの後部の回転にしっかりと対抗するために、一つ以上の隆起は長さをいっぱいに保持することができる。終わりに、交換可能な切削インサートを受け入れることを目的とする座部又はインサート座は、もちろん、基体の他の部分と半永久的に結合したカセット又はその他の形、例えばシムプレート、として形成する必要はない。座部は、一体としての基体に直接に形成することもできる。