【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
なお、評価、測定方法は下記の通りである。
【0063】
(1)ポリエステル樹脂の構成:
1H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。また、1H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
【0064】
(2)ポリエステル樹脂の酸価:
ポリエステル樹脂0.5gを精秤し、50mlの水/ジオキサン=1/9(体積比)に溶解して、クレゾールレッドを指示薬として0.1モル/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、ポリエステル樹脂のg数で割った値を酸価とした。
【0065】
(3)ポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度:
ポリエステル樹脂水性分散体を約1g秤量(X1gとする)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物(固形分)の質量を秤量し(Y1gとする)、次式により固形分濃度を求めた。
【0066】
固形分濃度(質量%)=(Y1/X1)×100
【0067】
(4)ポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径:
ポリエステル樹脂水性分散体を、水で0.1質量%([(分散体の質量×分散体の固形分濃度)/(分散体の質量+水の質量)×100](分散体を水希釈した全体の質量のうち、樹脂固形分の質量が占める「質量%」))に希釈し、日機装製 MICROTRAC UPA(モデル9340−UPA)を用いて測定した。
【0068】
(5)ポリエステル樹脂水性分散体製造後の濾過残渣:
分散工程後の水性分散体を1000メッシュのステンレスフィルター(濾過精度15μm、綾織)で、加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、ステンレスフィルター上に残った残存物を十分に水洗、乾燥し、質量を秤量した(X2g)。原料として用いたポリエステル樹脂の質量をY2gとして次式により、濾過残渣を求めた。
【0069】
ポリエステル樹脂水性分散体製造後の濾過残渣(質量%)=(X2/Y2)×100
【0070】
(6)ポリエステル樹脂水性分散体の保存安定性:
50mlのガラス製サンプル瓶に、水性分散体30mlを入れて、25℃で6か月間保存した後の外観変化を目視にて観察し、保存安定性を評価した。
○:外観に変化がなく、沈殿や堆積物が現れていない。
△:底部にやや堆積物が見られる。
×:底部に多量の堆積物(沈殿含む)がある、または、外観に変化が見られる。
【0071】
(7)ポリエステル樹脂被膜の厚さ
厚み計(ユニオンツール社製、MICROFINE)を用いて、基材の厚みを予め測定しておき、水性分散体を用いて基材上に樹脂被膜を形成した後、この樹脂被膜を有する基材の厚みを同様の方法で測定し、その差を樹脂被膜の厚さとした。
【0072】
(8)ポリエステル樹脂被膜の造膜性
ポリエステル樹脂水性分散体をCPPフィルム(東セロ社製、厚さ50μm)上に、卓上型コーティング装置(安田精機製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装着)を用いてコーティングした後、90℃に設定された熱風乾燥機中で1分間乾燥させることにより平均膜厚が0.1μmの樹脂被膜を形成した。樹脂被膜を目視にて観察し、クラックなどが見られず、かつ透明な樹脂被膜を形成しているか否かにより以下のように分類し、造膜性を評価した。
○:クラックなどが見られず、かつ透明
×:クラックなどが見られる、および/または、不透明
【0073】
(9)ポリエステル樹脂被膜の均一性
前記(8)と同様に樹脂被膜を形成してできた積層CPPフィルムを、ネオカルミン試薬を用いて80℃、2分間ボイル処理を施し、染色をおこなった。それを水洗し、染色された被膜表面のムラを目視にて観察することで、被膜の均一性を評価した。
○:色の濃淡がなく、均一に染色されている。
×:色に濃淡があり、不均一に染色されている。
【0074】
(10)ポリエステル樹脂被膜の接着性
延伸PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ38μm)に、ポリエステル系接着剤(ユニチカ社製、エリーテルUE−3220)を、前記(8)と同様の方法で、接着剤層が平均膜厚3μmになるようにコートし、積層PETフィルムを得た。この積層PETフィルムと、前記(8)と同様に樹脂被膜を形成した積層CPPフィルムを、コート面とコート面が接触するように重ねて、ヒートプレス機にて、100℃、シール圧0.1MPa、30秒間圧着した。このサンプルを引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い20℃の雰囲気で、剥離面の角度90度、剥離速度50mm/分、剥離幅25mmの剥離強度を測定し、以下の様に評価した。
◎剥離強度が10N/25mmより大きい値である。
○剥離強度が7〜10N/25mmである。
×剥離強度が7N/25mm未満である。
【0075】
(11)ポリエステル樹脂被膜の金属蒸着膜との密着性
抵抗加熱式真空蒸着機(アルバック社製、EBS−10A)を用いて、真空度0.01Paで、アルミニウム金属を、前記(8)と同様に樹脂被膜を形成してできた積層CPPフィルムの、該樹脂被膜上に、厚さ400〜600Åとなるように蒸着層を形成し、CPP蒸着フィルムを得た。次いで、JIS Z1522に規定された粘着テープ(幅18mm)を、端部を残して金属蒸着膜に貼りつけ、その上からゴムローラーでしごきを加えて十分に接着させた後に、粘着テープの端部をフィルムに対して直角としてから瞬間的に引き剥がした。この引き剥がした粘着テープ面に、金属蒸着膜が付着しているか否かを目視にて確認し、密着性を評価した。
○:粘着テープ面に金属蒸着膜が認められない。
×:粘着テープ面に金属蒸着膜が認められる。
【0076】
(12)ガラス転移温度の測定
ガラス転移温度は以下のように測定した。
ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、入力補償DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 Diamond DSC、検出範囲:−50℃〜200℃)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中の、低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が、最大になるような点で引いた接線との交点の温度を求め、これをガラス転移温度(Tg)とした。
【0077】
(13)数平均分子量の測定
数平均分子量は以下のように測定した。
GPC分析(島津製作所製、送液ユニットLC−10ADvp型および紫外−可視分光光度計SPD−6AV型、検出波長:254nm、溶剤:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)より求めた。
【0078】
実施例、および、比較例で用いたポリエステル樹脂は、以下のようにして得た。
【0079】
[ポリエステル樹脂の製造例]
[ポリエステル樹脂P−1]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。ついで、触媒として三酸化アンチモン2.3gを添加した後、系の温度を280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに2時間縮重合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、250℃になったところで無水トリメリット酸120gを添加し、250℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂P−1を得た。得られたポリエステル樹脂P−1の酸性分,アルコール成分のモル比、酸価、ガラス転移温度、数平均分子量は表1に示す通りである。以下のポリエステル樹脂P−2〜P−12についてもモル比、酸価、ガラス転移温度、数平均分子量を同様に示している。
【0080】
[ポリエステル樹脂P−2]
酸成分として、テレフタル酸3177g、イソフタル酸561g、アジピン酸365g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、270℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて粒状のポリエステル樹脂P−2を得た。
【0081】
[ポリエステル樹脂P−3]
酸成分として、テレフタル酸2392g、イソフタル酸997g、アジピン酸526g、エチレングリコール521g、ネオペンチルグリコール2500gをオートクレーブ中に仕込んで、270℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−3を得た。
【0082】
[ポリエステル樹脂P−4]
酸成分として、テレフタル酸3230g、イソフタル酸359g、セバシン酸501g、エチレングリコール745g、ネオペンチルグリコール2125gをオートクレーブ中に仕込んで、270℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を92gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−4を得た。
【0083】
[ポリエステル樹脂P−5]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を148gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−5を得た。
【0084】
[ポリエステル樹脂P−6]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を67gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−6を得た。
【0085】
[ポリエステル樹脂P−7]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を181gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−7を得た。
【0086】
[ポリエステル樹脂P−8]
酸成分として、テレフタル酸2307g、イソフタル酸577g、アジピン酸1087g、エチレングリコール770g、ネオペンチルグリコール2195gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を119gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、シート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、シート状のポリエステル樹脂P−8を得た。
【0087】
[ポリエステル樹脂P−9]
酸成分として、テレフタル酸2284g、イソフタル酸1246g、アジピン酸548g、エチレングリコール1164g、ネオペンチルグリコール1562gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸120gを、無水トリメリット酸67gと、イソフタル酸55gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−9を得た。
【0088】
[ポリエステル樹脂P−10]
酸成分として、テレフタル酸2492g、イソフタル酸623g、セバシン酸1263g、エチレングリコール1288g、ネオペンチルグリコール1354gをオートクレーブ中に仕込んで、250℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を38gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、シート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、シート状のポリエステル樹脂P−10を得た。
【0089】
[ポリエステル樹脂P−11]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を14gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−11を得た。
【0090】
[ポリエステル樹脂P−12]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を214gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−12を得た。
【0091】
【表1】
【0092】
[ポリエステル樹脂水性分散体の製造例]
[実施例1]
ジャケット付きの、密閉が可能なガラス容器(内容量2L)と、攪拌機(東京理科器械社製、MAZELA NZ−1200)を用いて、ポリエステル樹脂P−1を300g、イソプロピルアルコールを180g、トリエチルアミンを10.0g、蒸留水を510.0gそれぞれガラス容器内に仕込み、攪拌翼(3枚プロペラ)の回転速度を300rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して加熱した。このとき、回転軸から攪拌翼先端までの距離は3.5cm、攪拌翼先端から反応容器内壁までの距離は1cmであった。計算される剪断速度は110sec-1であった。
【0093】
つづいて、系内温度を71〜75℃に保ってさらに1時間分散工程をおこなった。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を200rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却した。得られた水性分散体を、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度30.6質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0094】
[実施例2]
実施例1と略同様の方法で分散工程までをおこなった後、2Lフラスコに得られた水性分散体を900g仕込み、蒸留水300gを仕込んで、常圧下で蒸留をおこなうことで水性媒体を脱溶剤した。脱溶剤工程は留去量が約300gになったところで終了し、25℃まで冷却した。脱溶剤した水性分散体を、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を900g得た。
【0095】
[実施例3]
ポリエステル樹脂P−2を300g、イソプロピルアルコールを200g、トリエチルアミンを11.0g、蒸留水を490.0g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.1質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0096】
[実施例4]
用いるポリエステル樹脂をP−3に変更し、トリエチルアミンを13.0g、蒸留水を507.0g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.3質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0097】
[実施例5]
用いるポリエステル樹脂をP−4に変更し、トリエチルアミンを10.5g、蒸留水を509.5g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.1質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0098】
[実施例6]
用いるポリエステル樹脂をP−5に変更し、トリエチルアミンを18.4g、蒸留水を501.6g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0099】
[実施例7]
用いるポリエステル樹脂をP−6に変更し、トリエチルアミンを5.5g、蒸留水を514.6g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度29.7質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0100】
[実施例8]
用いるポリエステル樹脂をP−7に変更し、トリエチルアミンを23.9g、蒸留水を496.1g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0101】
[実施例9]
用いるポリエステル樹脂をP−8に変更し、トリエチルアミンを11.7g、蒸留水を508.3g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.3質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0102】
[実施例10]
攪拌機を超高速攪拌機(特殊機化工業株式会社製、T.K.ロボミックス)に変更すること以外は実施例1と同様の操作をおこなって、固形分濃度30.2質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0103】
[比較例1]
ポリエステル樹脂P−9を300g、イソプロピルアルコールを180g、トリエチルアミンを9.1g、蒸留水を510.9g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度29.8質量%のポリエステル樹脂水性分散体を950g得た。
【0104】
[比較例2]
ポリエステル樹脂P−10を300g、イソプロピルアルコールを180g、トリエチルアミンを3.9g、蒸留水を516.1g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度28.9質量%のポリエステル樹脂水性分散体を870g得た。
【0105】
[比較例3]
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)と、攪拌機(東京理科器械社製、MAZELA NZ−1200)を用いて、にポリエステル樹脂P−1を400gとメチルエチルケトン600gをガラス容器内に仕込み、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌翼(羽根付き攪拌棒)の回転速度を100rpmに保って攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂を溶解させ、固形分濃度40質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、攪拌翼の回転速度を100rpmに保ったまま、塩基性化合物としてトリエチルアミン15.6gを添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を1114.7g添加して分散工程をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで水性媒体を脱溶剤した。脱溶剤工程は留去量が631gになったところで終了し、室温まで冷却後、ポリエステル樹脂水性分散体を攪拌しながら、蒸留水を32g添加して固形分濃度を30質量%に調整した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0106】
[比較例4]
トリエチルアミンを添加しないように変更した以外は、実施例1と略同様の方法で、分散工程をおこなったが、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0107】
[比較例5]
ポリエステル樹脂P−11を300g、イソプロピルアルコールを180g、トリエチルアミンを0.81g、蒸留水を519.2g仕込み、それ以外は実施例1と略同様の方法で分散工程をおこなったが、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0108】
[比較例6]
用いるポリエステル樹脂をP−12に変更し、トリエチルアミンを30.9g、蒸留水を489.1g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0109】
実施例1〜10、比較例1〜6で得られたポリエステル樹脂水性分散体の特性、評価結果、および得られたポリエステル樹脂水性分散体を用いて得られるポリエステル樹脂被膜の評価結果を、表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
以上の実施例1〜10は、本発明のポリエステル樹脂水性分散体であるため、ポリエステル樹脂を水性媒体に分散する工程において、特殊な装置を用いることなく、省エネルギーで容易に、高収率でポリエステル樹脂水性分散体を得ることができ、得られた水性分散体は、体積平均粒径が小さく、保存安定性に優れていて、極薄膜の形成に優れていた。
【0112】
実施例8は、ポリエステル樹脂の酸価が少し高いものであるため、得られたポリエステル樹脂被膜の密着性がやや劣るものであったが、実用性は高いものであった。
【0113】
実施例9は、ポリエステル樹脂を構成している酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸が80質量%未満であるため、得られたポリエステル樹脂被膜の密着性がやや劣るものであったが、実用性は高いものであった。
【0114】
実施例10でも同様に、高収率で、かつ、体積平均粒径が小さく、保存安定性に優れたポリエステル樹脂水性分散体を得ることができた。さらに、それから得られた樹脂被膜は、極薄膜の形成に優れていた。
【0115】
一方、各比較例については次のような問題があった。
【0116】
比較例1、2は、ポリエステル樹脂を構成しているアルコール成分として、オペンチルグリコールが70モル%未満であったために、分散工程後の濾過残渣が非常に多く、得られる水性分散体の収量が悪かった。さらに、得られたポリエステル樹脂水性分散体は、体積平均粒径が大きく、保存安定性の悪いものであった。また、それから得られたポリエステル樹脂被膜は、造膜性、均一性、密着性のそれぞれが劣るものとなった。
【0117】
比較例3は、本発明とは異なる分散方法(転相乳化法)を用いたため、得られた水性分散体の体積平均粒径がやや大きくなり、保存安定性に劣っていて、それから得られたポリエステル樹脂被膜は、均一性が劣るものとなった。
【0118】
比較例については、水性分散体を製造する際に、塩基性化合物を用いておらず、水性媒体中にポリエステル樹脂が分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0119】
比較例5については、ポリエステル樹脂の酸価が2mgKOH/g未満であったために、水性媒体中にポリエステル樹脂が十分分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0120】
比較例6は、ポリエステル樹脂の酸価が40mgKOH/gより大きい値であったために、特に、ポリエステル樹脂被膜の密着性が劣るものとなった。