特許第5666919号(P5666919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5666919ポリエステル樹脂水性分散体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666919
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂水性分散体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20150122BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20150122BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20150122BHJP
   C08J 3/05 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08K5/17
   C08K3/28
   C08J3/05CFD
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2010-550490(P2010-550490)
(86)(22)【出願日】2010年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2010051468
(87)【国際公開番号】WO2010092889
(87)【国際公開日】20100819
【審査請求日】2012年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2009-28040(P2009-28040)
(32)【優先日】2009年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】杉原 崇嗣
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−173582(JP,A)
【文献】 特開平05−295100(JP,A)
【文献】 特開2007−031509(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/037924(WO,A1)
【文献】 特開2010−059266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08J 3/
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価が2〜40mgKOH/gであり、酸成分として芳香族ジカルボン酸を70モル%以上、かつアルコール成分としてネオペンチルグリコールを70モル%以上含有するポリエステル樹脂が水性媒体に分散されたポリエステル樹脂水性分散体であって、該芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を含み、テレフタル酸およびイソフタル酸のモル比が3/7〜9/1であり、体積平均粒径が50nm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項2】
ポリエステル樹脂の酸価が10〜35mgKOH/gであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂水性分散体が自己分散型の水性分散体である請求項1または2に記載のポリエステル樹脂水性分散体。
【請求項4】
酸価が2〜40mgKOH/gであり、酸成分として芳香族ジカルボン酸を70モル%以上、かつアルコール成分としてネオペンチルグリコールを70モル%以上含有しているポリエステル樹脂を塩基性化合物とともに水性媒体に分散させる分散工程を含む水性分散体の製造方法であって、該芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を含み、テレフタル酸およびイソフタル酸のモル比が3/7〜9/1であり、前記工程において反応槽の攪拌の回転速度を30〜500rpm以下とすること特徴とするポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項5】
分散工程における攪拌の回転の剪断速度を50〜400sec-1とすることを特徴とする請求項記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項6】
分散工程における反応槽の温度を30〜100℃とすることを特徴とする請求項記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項7】
分散工程における反応槽の容積を0.001〜10mとすることを特徴とする請求項記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項8】
水性媒体が有機溶剤を含有することを特徴とする請求項記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項9】
有機溶剤が、20℃における水への溶解性が5g/L以上であり、かつ沸点が150℃以下であることを特徴とする請求項に記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項10】
塩基性化合物が、沸点が150℃以下の有機アミンおよび/またはアンモニアであることを特徴とする請求項のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項11】
分散工程後に、有機溶剤および/または塩基性化合物の脱溶剤工程を含むことを特徴とする請求項10のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項12】
分散工程後に、濾過工程を含むことを特徴とする請求項11のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項13】
濾過工程における濾過残渣が、原料ポリエステル樹脂質量の0.1質量%以下であることを特徴とする請求項12に記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積平均粒径が非常に小さく、保存安定性と高性能な極薄膜の形成に優れたポリエステル樹脂水性分散体に関する。また、本発明は、特殊な機械を用いることなく、省エネルギーで容易に、前記ポリエステル樹脂水性分散体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル樹脂は被膜形成用樹脂として用いられている。特に、被膜の加工性、有機溶剤に対する耐性(耐溶剤性)、耐候性に優れ、同時にPET、PBT、塩化ビニル、各種金属などの成形品やフィルムなど、さまざまな基材への密着性にも優れていることから、こうした基材に対する塗料、インキ、接着剤、コーティング剤などに用いる樹脂として、有機溶剤に溶解したものが非常に多く使用されている。
【0003】
また、近年、環境保護、消防法による危険物規制、職場環境の改善などの理由で、有機溶剤の使用が抑制される傾向にあるため、前記用途に使用できるポリエステル樹脂を、水性媒体に微分散させた、ポリエステル樹脂水性分散体が求められるようになり、その開発が盛んにおこなわれている。
【0004】
たとえば、ポリエステル樹脂のカルボキシル基を塩基性化合物で中和することにより水性媒体中に分散させたポリエステル樹脂水性分散体が提案されており、かかる水性分散体を用いると加工性、耐水性、耐溶剤性などの性能に優れた被膜を形成できることが開示されている。特に、ポリエステル樹脂の中でも、アルコール成分としてネオペンチルグリコールを使用すると、樹脂被膜の耐候性が向上し、インキやコーティング剤としての工業的な利用価値が高いことが知られている。(特許文献1〜3)
【0005】
【特許文献1】特開2002−173582号公報
【特許文献2】国際公開第2004/037924号パンフレット
【特許文献3】特開2007−031509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
6ヶ月程度の長期間にわたる保存安定性を確保するためには、ポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径を、例えば50nm以下とすることが好ましい。しかしながら、前記の特許文献に記載されたポリエステル樹脂水性分散体においては、このような非常に小さい分散粒径のものを得ることは困難であった。また、前記特許文献記載の製造方法では、分散のために、高いせん断力を与える高速回転速度の攪拌が可能な大掛かりな装置を使用する必要があり、また、このような装置を用いて高速回転速度で攪拌するため、多大なエネルギーを消費するという問題もあった。
【0007】
このような状況下、本発明の課題は、保存安定性と高性能な極薄膜の形成に優れる小粒径のポリエステル樹脂水性分散体を、特殊な機械を用いることなく、省エネルギーで容易に得ることのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0009】
第一に、酸価が2〜40mgKOH/gであり、酸成分として芳香族ジカルボン酸を70モル%以上、かつアルコール成分としてネオペンチルグリコールを70モル%以上含有するポリエステル樹脂が水性媒体に分散されたポリエステル樹脂水性分散体であって、該芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を含み、テレフタル酸およびイソフタル酸のモル比が3/7〜9/1であり、前記ポリエステル樹脂の体積平均粒径が50nm以下であることを特徴とするポリエステル樹脂水性分散体である。
【0010】
また、第二に、酸価が2〜40mgKOH/gであり、酸成分として芳香族ジカルボン酸を70モル%以上、かつアルコール成分としてネオペンチルグリコールを70モル%以上含有しているポリエステル樹脂を塩基性化合物とともに水性媒体に分散させる分散工程を含む水性分散体の製造方法であって、該芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を含み、テレフタル酸およびイソフタル酸のモル比が3/7〜9/1であり、前記工程において反応槽の攪拌の回転速度を30〜500rpm以下とすること特徴とするポリエステル樹脂水性分散体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
上記第二の発明によれば、第一の発明に係る、ネオペンチルグリコールをアルコール成分中に70モル%以上含有する体積平均粒径50nm以下のポリエステル樹脂水性分散体を、特殊な機械を用いることなく、省エネルギーで、生産効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
はじめに、本発明におけるポリエステル樹脂の構成成分について説明する。
【0014】
本発明においては、ポリエステル樹脂として、そのアルコール成分中にネオペンチルグリコールを70モル%以上、好ましくは74モル%以上含有しているものを使用する。ネオペンチルグリコールは特に、樹脂被膜の耐候性を向上させる。ネオペンチルグリコールの含有量が70モル%未満の場合には、前記被膜特性が低下するほか、本発明の製造方法を適用しても、得られるポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径が大きくなる場合がある。しかも、分散工程後の濾過残渣が多くなる傾向がある。
【0015】
また、詳細な理由は解明されていないが、ネオペンチルグリコールを多く含有するポリエステル樹脂は、ポリプロピレン(PP)基材、特に、CPP(Cast polypropylene:無延伸ポリプロピレン)フィルムのような基材フィルムにも優れた密着性を有する。
【0016】
ネオペンチルグリコールの他に用いることのできるポリエステル樹脂のアルコール成分としては、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコール、3官能以上のアルコールなど、末端に2個以上のヒドロキシル基を有するポリアルコールが挙げられる。脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールなどが挙げられ、脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。また、3官能以上のアルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。さらに、ポリアルコールとしては、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのようなビスフェノール類(ビスフェノールA)のエチレンオキシド付加体やビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのようなビスフェノール類(ビスフェノールS)のエチレンオキシド付加体なども使用することができる。好ましいものは、相溶性、ハンドリング、得られるポリエステル樹脂の硬さ、耐水性、耐薬品性を向上させる観点から、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体などが挙げられ、その中でも特に多用されるものとして、エチレングリコールが挙げられる。
【0017】
ネオペンチルグリコール以外のアルコール成分は、アルコール成分中0〜30モル%未満、好ましくは0〜26モル%未満の範囲で用いるようにすればよい。
【0018】
ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。また、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの3官能以上のカルボン酸を用いることもできる。
【0019】
酸成分としては、水性分散体から形成される樹脂被膜の、硬度、耐水性、耐溶剤性、加工性などが向上するという理由から、芳香族ジカルボン酸が好ましく、全酸成分中の芳香族ジカルボン酸が好ましくは50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%、より更に好ましくは80〜100モル%である。芳香族カルボン酸としては、工業的に多量に生産されており、安価であることから、テレフタル酸やイソフタル酸が好ましい。テレフタル酸は、ポリエステル樹脂の強度、硬度を向上させる。またイソフタル酸は、ポリエステル樹脂の自己乳化プロセスにおいて、分散媒への親和性を高め、より膨潤しやすくして、分散粒径を低下させる効果がある。
【0020】
また、芳香族ジカルボン酸成分として、テレフタル酸とイソフタル酸を併用することが好ましい。併用する場合には、テレフタル酸/イソフタル酸(モル比)を3/7〜9/1の範囲とすることが、水性分散体から形成される樹脂被膜が、硬性や靭性など各種樹脂被膜性能をバランスよく有するという理由から好ましく、より好ましいのは4/6〜9/1の範囲であり、さらに好ましくは7/3〜9/1である。
【0021】
ポリエステル樹脂の構成成分には、モノカルボン酸、モノアルコール、ヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよく、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール、ε−カプロラクトン、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキシド付加体などが挙げられる。また、3官能以上のポリオキシカルボン酸が共重合されていてもよく、たとえば、リンゴ酸、グリセリン酸、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0022】
ポリエステル樹脂の成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など、カルボキシル基やヒドロキシル基以外の親水性基を有するポリカルボン酸なども使用することができるが、水性分散体より形成される樹脂被膜の耐水性が悪くなる傾向にあるので、使用にあたっては注意が必要である。
【0023】
ポリエステル樹脂の酸価は2〜40mgKOH/gであることが必要である。酸価が40mgKOH/gを超える場合は、樹脂被膜の加工性などの特性が不足する傾向にある。酸価が2mgKOH/g未満では、ポリエステル樹脂を後述する水性媒体に分散させることが非常に困難となる。ポリエステル樹脂の酸価は、8〜40mgKOH/gであることが好ましく、7〜35mgKOH/gであることがより好ましい。
【0024】
用いるポリエステル樹脂原料の形状は、特に限定されないが、水性分散化の容易さを考慮すると、粉状や粒状、フレーク状などが好ましい。
【0025】
また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は特に限定されず、例えば−40〜100℃の範囲のものが使用できるが、上記の水性分散化の容易さの観点から、粉状や粒状、フレーク状などが好ましいことを考慮すると、30〜100℃の範囲がより好ましく、35〜90℃の範囲がさらに好ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、5000以上が好ましい。数平均分子量が5000未満である場合は、得られる樹脂被膜の造膜性などが不足するため好ましくない。また、ポリエステル樹脂に好ましい酸価を付与させ易い点から、数平均分子量は20000以下が好ましい。
【0027】
次に、本発明に用いるポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
【0028】
ポリエステル樹脂を製造する方法としては、たとえば、前記したポリカルボン酸の1種類以上とポリアルコールの1種類以上とを、公知の方法により、縮重合させることにより製造することができる。全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下で180〜260℃、2.5〜10時間反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて縮重合触媒の存在下、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で、所望の分子量に達するまで縮重合反応を進めて、ポリエステル樹脂を得る方法などを挙げることができる。
【0029】
ポリエステルの縮重合触媒は特に限定されず、酢酸亜鉛や三酸化アンチモンなどの公知の化合物を用いることができる。
【0030】
ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する方法として、前記の縮重合反応に引き続き、ポリカルボン酸をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合反応をおこなう方法などを挙げることができる。
【0031】
また、ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する方法として、前記の縮重合反応に引き続き、ポリカルボン酸の無水物をさらに添加し、不活性雰囲気下、ポリエステル樹脂のヒドロキシル基と付加反応させる方法を用いることもできるが、付加反応の場合は、製造途中の溶融粘度が非常に高くなり、ポリエステル樹脂を払い出せなくなることがあるので、注意が必要である。
【0032】
解重合反応および/または付加反応で用いるポリカルボン酸としては、前記した3官能以上のカルボン酸が好ましい。3官能以上のカルボン酸を使用することにより、解重合によるポリエステル樹脂の分子量低下を抑制しながら、所望の酸価を付与することができる。その中でも、芳香族のカルボン酸であるトリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸が好ましい。
【0033】
つづいて、ポリエステル樹脂水性分散体について説明する。
【0034】
本発明において、ポリエステル樹脂水性分散体とは、前記したポリエステル樹脂が、水性媒体中に分散されてなる液状物である。ここで、水性媒体とは、水を含む液体からなる媒体であり、有機溶剤や塩基性化合物を含んでいてもよい。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体に含有される、ポリエステル樹脂の含有率は、5〜50質量%が好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の含有率が50質量%を超えると、分散していたポリエステル樹脂が凝集しやすくなり、安定性が乏しくなる傾向にある。ポリエステル樹脂の含有率が5質量%未満では、実用的でない。
【0036】
水については特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などが挙げられるが、蒸留水やイオン交換水を使用することが好ましい。
【0037】
次に、ポリエステル樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、前記ポリエステル樹脂を塩基性化合物とともに水性媒体に分散させる分散工程を経て製造される。例えば、ポリエステル樹脂と塩基性化合物を、水性媒体中に一括で仕込み、混合、攪拌することが挙げられる。塩基性化合物を用いない場合には、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散することが困難となる。また、水性化を容易にするためにさらに有機溶剤を用いることが好ましい。ただし、後述する脱溶剤工程により、有機溶剤および/または塩基性化合物の一部または全部を留去することができる。
【0039】
本発明の製造方法によれば、ポリエステル樹脂のカルボキシル基が塩基性化合物と中和して生成するカルボキシルアニオンの親水性作用により分散化が進行する、いわゆる「自己乳化」が容易に達成される。したがって、あらかじめポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解し、この溶液を塩基性化合物を含む水性媒体と混合して分散化を達成する、いわゆる転相乳化を採る必要がないため、工業的な製法としてより有利である。
【0040】
本発明の製造方法は、分散工程における反応槽の攪拌の回転速度を500rpm以下でおこなうことで、ポリエステル樹脂分散体の体積平均粒径を50nm以下とすることができる。回転速度が500rpmを超える場合、分散工程でより多くのエネルギーが浪費されてしまう。エネルギー消費を考慮すれば回転数は低いほど好ましいので、回転速度は400rpm以下が好ましく、300rpm以下がより好ましい。ポリエステル樹脂の組成や、反応槽の容積などにも依存するが、回転数は30rpm程度まで下げることができる。
【0041】
転相乳化型の水性分散化は、樹脂の有機溶剤溶液を水性媒体に添加して混合する、液/液型の混合であるため、比較的低剪断の攪拌方式が採用されてきた。一方、自己乳化型の水性分散化では、樹脂の固形物を直接水性媒体中に微分散させる固/液型の混合であるため、樹脂固体を粉砕するための高回転・高剪断が必要であると信じられてきた。しかしながら、理由は不明であるが、本発明のように特定のポリエステル樹脂組成においては、水性分散化のためには必ずしも従来のような高回転、高剪断は必要としない。
【0042】
分散工程における剪断速度は、50〜400sec-1であることが好ましく、さらに好ましくは100〜300sec-1である。剪断速度が50sec-1を下回ると、体積平均粒径が50nm以下の安定性に優れたポリエステル水性分散体を得ることが困難になる。400sec-1を超える剪断速度では、多大なエネルギーが必要となり好ましくない。
ここでいう剪断速度(sec-1)とは、攪拌翼先端の回転速度v(m/sec)、攪拌翼先端と反応槽内壁面との距離h(m)とから、v/hとして算出される値である。
【0043】
分散工程における反応槽の温度は、特に限定されないが、30〜100℃の範囲が挙げられる。また、ポリエステル樹脂のTgに応じて設定されることが好ましく、Tg〜(Tg+70)℃が好ましい範囲として挙げられる。反応槽の温度が100℃を超えるような高温になると、そのために多大なエネルギーを消費することになるため、100℃以下であることが好ましい。反応槽の温度の下限はTg+10℃以上であることがより好ましく、温度の上限は80〜100℃であることがより好ましい。具体的には、例えば、Tgが40℃である場合は、反応槽の温度は40℃〜100℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。また、例えば、Tgが70℃である場合は、反応槽の温度は、70℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。
【0044】
分散工程における反応槽の容積は、特に限定されないが、0.001〜10mが好ましい。
【0045】
本発明に用いることのできる有機溶剤としては、たとえば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤など、公知のものが挙げられる。ケトン系有機溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、芳香族炭化水素系有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼンなど、エーテル系有機溶剤としては、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。含ハロゲン系有機溶剤としては、四塩化炭素、トリクロロメタン、ジククロロメタンなど、アルコール系有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノールなど、エステル系有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチルなど、グリコール系有機溶剤としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテートなどが挙げられる。また、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコールなどの有機溶剤も使用することができる。なお、使用する有機溶剤は、単独、あるいは、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
有機溶剤としては、20℃における水への溶解性が5g/L以上のものが好ましく、10g/L以上のものがさらに好ましい。また、沸点は150℃以下であることが好ましい。沸点が150℃を超える場合、樹脂被膜から乾燥によって揮散させるために多量のエネルギーを浪費してしまう。特に、前記溶解性が5g/L以上でかつ沸点150℃以下のものが好ましく、このような条件を満たす具体的な有機溶剤としては、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられ、易分散性、分散安定性、揮散性などがより優れたものとして好ましくは炭素数2〜4のアルコール、より好ましくは炭素数3のアルコール、特にイソプロパノールが例示される。
【0047】
さらに、用いる有機溶剤の含有比率を制御することによって、体積平均粒径が50nm以下となるポリエステル樹脂水性分散体を、より容易に製造できる。例えば、有機溶剤として、イソプロパノールを用いる場合、ポリエステル樹脂水性分散体のうちイソプロパノールの含有比率は、17〜22質量%にすることがより好ましい。
【0048】
本発明に用いる塩基性化合物としては、カルボキシル基を中和することができるものであれば特に限定されず、例えば、金属水酸化物や、アンモニア、有機アミンなどが挙げられる。金属水酸化物の具体例としては、LiOH、KOH、NaOHなどが挙げられる。有機アミンの具体例としては、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどが挙げられる。
【0049】
本発明における塩基性化合物は、樹脂被膜から乾燥する際に揮散させやすいという理由から、沸点が150℃以下のものであることが好ましく、その中でも、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、特に、分散安定性に優れたものとなるためトリエチルアミンを使用することが好ましい。
【0050】
塩基性化合物の使用量は、易分散性、分散安定性、保存安定性などの観点から、例えば、酸価10mgKOH/gのポリエステル樹脂100gに対して、0.90〜3.61g、好ましくは1.80〜2.71g程度使用する。その目安としては、酸価が2倍となれば、用いる塩基性化合物の使用量も2倍とするのが好ましい。その量が多すぎると、分散工程中に液粘度が激しく上昇することがあるため、容易にポリエステル樹脂水性分散体を得ることが困難となり、またその量が少なすぎるとポリエステル樹脂が水性媒体中に十分分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができない。
【0051】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法では、有機溶剤や塩基性化合物の留去(脱溶剤)をおこなってもよい。脱溶剤工程は、分散工程の後に水性媒体を蒸留する方法によりおこなうことができる。蒸留は、常圧、減圧下いずれでおこなってもよく、蒸留をおこなう装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであればよい。
【0052】
本発明の製造方法においては、異物などを取り除く目的で、分散工程後に濾過工程を設けることが好ましい。このような場合には、たとえば、1000メッシュのステンレス製フィルター(濾過精度15μm、綾織)を設置し、加圧濾過(空気圧0.2MPa)をおこなえばよい。濾過工程は分散工程の直後に設けてもよいし、前述の脱溶剤工程を設ける場合には、脱溶剤工程の後に設けてもよい。
【0053】
本発明の製造方法においては、分散工程にける水性化効率が非常に高い。そのため、水性化されないポリエステル樹脂の残渣は極めて少量である。具体的には、上記濾過工程を設けたときに、その濾過残渣は、原料として用いたポリエステル樹脂質量の0.1質量%以下となる。
【0054】
本発明の製造方法より得られるポリエステル樹脂水性分散体は、外観上、水性媒体中に沈殿、相分離といった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない均一な状態で得られ、しかもポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径は50nm以下となる。体積平均粒径が50nm以下であると、ポリエステル樹脂水性分散体の保存安定性は顕著に向上し、製品の長期保存が可能となるため、産業上の利用価値が非常に高くなる。また、体積平均粒径が50nm以下であることにより、例えば、フィルムのコーティング用プライマーとして用いる場合、極めて薄い塗膜(0.1μm程度)を均一、かつ平滑に塗工することができるようになることからも、産業上の利用価値は非常に高いものといえる。なお、「ポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径」とは、ポリエステル樹脂水性分散体中に分散している、ポリエステル樹脂の体積平均粒径を指すものとする。
【0055】
本発明において体積平均粒径は、動的光散乱法を原理とし、日機装製 MICROTRAC UPA(モデル9340−UPA)により測定した値を使用している。 該原理よる方法であれば、左記装置により測定された値に限定されるものではない。
【0056】
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、平均体積粒径が小さく、かつ被膜形成能に非常に優れているので、インキ用バインダーや塗料用バインダー、PETやPVC、またはCPPのフィルムのコーティング用プライマー、蒸着フィルム用プライマーなどの用途に好適に使用することができる。
【0057】
特に、本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、アルミニウムなどの金属類や、二酸化ケイ素などの酸化物を、基材となるCPPフィルム上に、強固に蒸着させる際のプライマーとして有用である。従来、蒸着用プライマーとしては、ウレタン樹脂やアクリル樹脂などを使用しているが、本発明のポリエステル樹脂水性分散体をプライマーとして用いることで、蒸着層と基材の強固な接着だけでなく、耐熱性や、耐溶剤性などの特性を有する蒸着フィルムを形成することができるようになる。
【0058】
また、本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂のフィルムやシートに、ポリエステル、塩化ビニル、ポリアミドなどの極性基含有樹脂のフィルムやシートを貼り合わせる際のプライマーとしても有用である。上記のようなポリオレフィン系樹脂フィルムと極性基含有樹脂フィルムは、従来、接着剤としてウレタン樹脂やポリエステル樹脂などを使用して貼り合わせていたが、そのような接着剤を使用する前に、本発明のポリエステル樹脂水性分散体をプライマーとして、ポリオレフィン系樹脂フィルムおよび/または極性基含有樹脂フィルム表面に被膜を形成することにより、両者のフィルムをより強固に貼り合わせることができ、耐熱性の向上なども図ることができるものとなる。
【0059】
被膜の形成方法としては、たとえばグラビアコート法、マイヤーバーコート法、ディッピング法、はけ塗り法、スプレーコート法、カーテンフローコート法などが挙げられ、これらの方法により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥および焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや、赤外線ヒータなどを使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である、基材の種類などにより適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、通常60〜250℃であり、70〜230℃が好ましく、80〜200℃が最も好ましい。加熱時間としては、通常1秒〜30分間であり、5秒〜20分が好ましく、10秒〜10分が最も好ましい。
【0060】
ポリエステル樹脂水性分散体を用いて形成される樹脂被膜の厚さは、その目的や用途によって適宜選択されるものであるが、通常0.01〜40μmである。さらに、本発明品の特徴を最大限に活かすためには、樹脂被膜の厚さは0.01〜0.1μmであることがより好ましい。
【0061】
ポリエステル樹脂水性分散体には、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、界面活性剤、保護コロイド作用を有する化合物、水、有機溶剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラックなどの顔料、染料、他の水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性オレフィン樹脂、水性アクリル樹脂などの水性樹脂などを配合して使用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
なお、評価、測定方法は下記の通りである。
【0063】
(1)ポリエステル樹脂の構成:
1H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。また、1H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
【0064】
(2)ポリエステル樹脂の酸価:
ポリエステル樹脂0.5gを精秤し、50mlの水/ジオキサン=1/9(体積比)に溶解して、クレゾールレッドを指示薬として0.1モル/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、ポリエステル樹脂のg数で割った値を酸価とした。
【0065】
(3)ポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度:
ポリエステル樹脂水性分散体を約1g秤量(X1gとする)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物(固形分)の質量を秤量し(Y1gとする)、次式により固形分濃度を求めた。
【0066】
固形分濃度(質量%)=(Y1/X1)×100
【0067】
(4)ポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径:
ポリエステル樹脂水性分散体を、水で0.1質量%([(分散体の質量×分散体の固形分濃度)/(分散体の質量+水の質量)×100](分散体を水希釈した全体の質量のうち、樹脂固形分の質量が占める「質量%」))に希釈し、日機装製 MICROTRAC UPA(モデル9340−UPA)を用いて測定した。
【0068】
(5)ポリエステル樹脂水性分散体製造後の濾過残渣:
分散工程後の水性分散体を1000メッシュのステンレスフィルター(濾過精度15μm、綾織)で、加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、ステンレスフィルター上に残った残存物を十分に水洗、乾燥し、質量を秤量した(X2g)。原料として用いたポリエステル樹脂の質量をY2gとして次式により、濾過残渣を求めた。
【0069】
ポリエステル樹脂水性分散体製造後の濾過残渣(質量%)=(X2/Y2)×100
【0070】
(6)ポリエステル樹脂水性分散体の保存安定性:
50mlのガラス製サンプル瓶に、水性分散体30mlを入れて、25℃で6か月間保存した後の外観変化を目視にて観察し、保存安定性を評価した。
○:外観に変化がなく、沈殿や堆積物が現れていない。
△:底部にやや堆積物が見られる。
×:底部に多量の堆積物(沈殿含む)がある、または、外観に変化が見られる。
【0071】
(7)ポリエステル樹脂被膜の厚さ
厚み計(ユニオンツール社製、MICROFINE)を用いて、基材の厚みを予め測定しておき、水性分散体を用いて基材上に樹脂被膜を形成した後、この樹脂被膜を有する基材の厚みを同様の方法で測定し、その差を樹脂被膜の厚さとした。
【0072】
(8)ポリエステル樹脂被膜の造膜性
ポリエステル樹脂水性分散体をCPPフィルム(東セロ社製、厚さ50μm)上に、卓上型コーティング装置(安田精機製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装着)を用いてコーティングした後、90℃に設定された熱風乾燥機中で1分間乾燥させることにより平均膜厚が0.1μmの樹脂被膜を形成した。樹脂被膜を目視にて観察し、クラックなどが見られず、かつ透明な樹脂被膜を形成しているか否かにより以下のように分類し、造膜性を評価した。
○:クラックなどが見られず、かつ透明
×:クラックなどが見られる、および/または、不透明
【0073】
(9)ポリエステル樹脂被膜の均一性
前記(8)と同様に樹脂被膜を形成してできた積層CPPフィルムを、ネオカルミン試薬を用いて80℃、2分間ボイル処理を施し、染色をおこなった。それを水洗し、染色された被膜表面のムラを目視にて観察することで、被膜の均一性を評価した。
○:色の濃淡がなく、均一に染色されている。
×:色に濃淡があり、不均一に染色されている。
【0074】
(10)ポリエステル樹脂被膜の接着性
延伸PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ38μm)に、ポリエステル系接着剤(ユニチカ社製、エリーテルUE−3220)を、前記(8)と同様の方法で、接着剤層が平均膜厚3μmになるようにコートし、積層PETフィルムを得た。この積層PETフィルムと、前記(8)と同様に樹脂被膜を形成した積層CPPフィルムを、コート面とコート面が接触するように重ねて、ヒートプレス機にて、100℃、シール圧0.1MPa、30秒間圧着した。このサンプルを引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い20℃の雰囲気で、剥離面の角度90度、剥離速度50mm/分、剥離幅25mmの剥離強度を測定し、以下の様に評価した。
◎剥離強度が10N/25mmより大きい値である。
○剥離強度が7〜10N/25mmである。
×剥離強度が7N/25mm未満である。
【0075】
(11)ポリエステル樹脂被膜の金属蒸着膜との密着性
抵抗加熱式真空蒸着機(アルバック社製、EBS−10A)を用いて、真空度0.01Paで、アルミニウム金属を、前記(8)と同様に樹脂被膜を形成してできた積層CPPフィルムの、該樹脂被膜上に、厚さ400〜600Åとなるように蒸着層を形成し、CPP蒸着フィルムを得た。次いで、JIS Z1522に規定された粘着テープ(幅18mm)を、端部を残して金属蒸着膜に貼りつけ、その上からゴムローラーでしごきを加えて十分に接着させた後に、粘着テープの端部をフィルムに対して直角としてから瞬間的に引き剥がした。この引き剥がした粘着テープ面に、金属蒸着膜が付着しているか否かを目視にて確認し、密着性を評価した。
○:粘着テープ面に金属蒸着膜が認められない。
×:粘着テープ面に金属蒸着膜が認められる。
【0076】
(12)ガラス転移温度の測定
ガラス転移温度は以下のように測定した。
ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、入力補償DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 Diamond DSC、検出範囲:−50℃〜200℃)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中の、低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が、最大になるような点で引いた接線との交点の温度を求め、これをガラス転移温度(Tg)とした。
【0077】
(13)数平均分子量の測定
数平均分子量は以下のように測定した。
GPC分析(島津製作所製、送液ユニットLC−10ADvp型および紫外−可視分光光度計SPD−6AV型、検出波長:254nm、溶剤:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)より求めた。
【0078】
実施例、および、比較例で用いたポリエステル樹脂は、以下のようにして得た。
【0079】
[ポリエステル樹脂の製造例]
[ポリエステル樹脂P−1]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。ついで、触媒として三酸化アンチモン2.3gを添加した後、系の温度を280℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに2時間縮重合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、250℃になったところで無水トリメリット酸120gを添加し、250℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂P−1を得た。得られたポリエステル樹脂P−1の酸性分,アルコール成分のモル比、酸価、ガラス転移温度、数平均分子量は表1に示す通りである。以下のポリエステル樹脂P−2〜P−12についてもモル比、酸価、ガラス転移温度、数平均分子量を同様に示している。
【0080】
[ポリエステル樹脂P−2]
酸成分として、テレフタル酸3177g、イソフタル酸561g、アジピン酸365g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、270℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて粒状のポリエステル樹脂P−2を得た。
【0081】
[ポリエステル樹脂P−3]
酸成分として、テレフタル酸2392g、イソフタル酸997g、アジピン酸526g、エチレングリコール521g、ネオペンチルグリコール2500gをオートクレーブ中に仕込んで、270℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−3を得た。
【0082】
[ポリエステル樹脂P−4]
酸成分として、テレフタル酸3230g、イソフタル酸359g、セバシン酸501g、エチレングリコール745g、ネオペンチルグリコール2125gをオートクレーブ中に仕込んで、270℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を92gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−4を得た。
【0083】
[ポリエステル樹脂P−5]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を148gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−5を得た。
【0084】
[ポリエステル樹脂P−6]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を67gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−6を得た。
【0085】
[ポリエステル樹脂P−7]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を181gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−7を得た。
【0086】
[ポリエステル樹脂P−8]
酸成分として、テレフタル酸2307g、イソフタル酸577g、アジピン酸1087g、エチレングリコール770g、ネオペンチルグリコール2195gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を119gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、シート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、シート状のポリエステル樹脂P−8を得た。
【0087】
[ポリエステル樹脂P−9]
酸成分として、テレフタル酸2284g、イソフタル酸1246g、アジピン酸548g、エチレングリコール1164g、ネオペンチルグリコール1562gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸120gを、無水トリメリット酸67gと、イソフタル酸55gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−9を得た。
【0088】
[ポリエステル樹脂P−10]
酸成分として、テレフタル酸2492g、イソフタル酸623g、セバシン酸1263g、エチレングリコール1288g、ネオペンチルグリコール1354gをオートクレーブ中に仕込んで、250℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を38gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、シート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、シート状のポリエステル樹脂P−10を得た。
【0089】
[ポリエステル樹脂P−11]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を14gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−11を得た。
【0090】
[ポリエステル樹脂P−12]
酸成分として、テレフタル酸2471g、イソフタル酸1059g、アジピン酸548g、エチレングリコール776g、ネオペンチルグリコール2213gをオートクレーブ中に仕込んで、260℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。以降は、無水トリメリット酸の添加量を214gに変更すること以外は、前記ポリエステル樹脂P−1の製造例と同様の方法を用いて、粒状のポリエステル樹脂P−12を得た。
【0091】
【表1】
【0092】
[ポリエステル樹脂水性分散体の製造例]
[実施例1]
ジャケット付きの、密閉が可能なガラス容器(内容量2L)と、攪拌機(東京理科器械社製、MAZELA NZ−1200)を用いて、ポリエステル樹脂P−1を300g、イソプロピルアルコールを180g、トリエチルアミンを10.0g、蒸留水を510.0gそれぞれガラス容器内に仕込み、攪拌翼(3枚プロペラ)の回転速度を300rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して加熱した。このとき、回転軸から攪拌翼先端までの距離は3.5cm、攪拌翼先端から反応容器内壁までの距離は1cmであった。計算される剪断速度は110sec-1であった。
【0093】
つづいて、系内温度を71〜75℃に保ってさらに1時間分散工程をおこなった。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を200rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却した。得られた水性分散体を、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度30.6質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0094】
[実施例2]
実施例1と略同様の方法で分散工程までをおこなった後、2Lフラスコに得られた水性分散体を900g仕込み、蒸留水300gを仕込んで、常圧下で蒸留をおこなうことで水性媒体を脱溶剤した。脱溶剤工程は留去量が約300gになったところで終了し、25℃まで冷却した。脱溶剤した水性分散体を、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を900g得た。
【0095】
[実施例3]
ポリエステル樹脂P−2を300g、イソプロピルアルコールを200g、トリエチルアミンを11.0g、蒸留水を490.0g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.1質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0096】
[実施例4]
用いるポリエステル樹脂をP−3に変更し、トリエチルアミンを13.0g、蒸留水を507.0g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.3質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0097】
[実施例5]
用いるポリエステル樹脂をP−4に変更し、トリエチルアミンを10.5g、蒸留水を509.5g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.1質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0098】
[実施例6]
用いるポリエステル樹脂をP−5に変更し、トリエチルアミンを18.4g、蒸留水を501.6g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0099】
[実施例7]
用いるポリエステル樹脂をP−6に変更し、トリエチルアミンを5.5g、蒸留水を514.6g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度29.7質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0100】
[実施例8]
用いるポリエステル樹脂をP−7に変更し、トリエチルアミンを23.9g、蒸留水を496.1g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0101】
[実施例9]
用いるポリエステル樹脂をP−8に変更し、トリエチルアミンを11.7g、蒸留水を508.3g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.3質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0102】
[実施例10]
攪拌機を超高速攪拌機(特殊機化工業株式会社製、T.K.ロボミックス)に変更すること以外は実施例1と同様の操作をおこなって、固形分濃度30.2質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0103】
[比較例1]
ポリエステル樹脂P−9を300g、イソプロピルアルコールを180g、トリエチルアミンを9.1g、蒸留水を510.9g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度29.8質量%のポリエステル樹脂水性分散体を950g得た。
【0104】
[比較例2]
ポリエステル樹脂P−10を300g、イソプロピルアルコールを180g、トリエチルアミンを3.9g、蒸留水を516.1g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度28.9質量%のポリエステル樹脂水性分散体を870g得た。
【0105】
[比較例3]
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)と、攪拌機(東京理科器械社製、MAZELA NZ−1200)を用いて、にポリエステル樹脂P−1を400gとメチルエチルケトン600gをガラス容器内に仕込み、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌翼(羽根付き攪拌棒)の回転速度を100rpmに保って攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂を溶解させ、固形分濃度40質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、攪拌翼の回転速度を100rpmに保ったまま、塩基性化合物としてトリエチルアミン15.6gを添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を1114.7g添加して分散工程をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで水性媒体を脱溶剤した。脱溶剤工程は留去量が631gになったところで終了し、室温まで冷却後、ポリエステル樹脂水性分散体を攪拌しながら、蒸留水を32g添加して固形分濃度を30質量%に調整した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0106】
[比較例4]
トリエチルアミンを添加しないように変更した以外は、実施例1と略同様の方法で、分散工程をおこなったが、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0107】
[比較例5]
ポリエステル樹脂P−11を300g、イソプロピルアルコールを180g、トリエチルアミンを0.81g、蒸留水を519.2g仕込み、それ以外は実施例1と略同様の方法で分散工程をおこなったが、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0108】
[比較例6]
用いるポリエステル樹脂をP−12に変更し、トリエチルアミンを30.9g、蒸留水を489.1g仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
【0109】
実施例1〜10、比較例1〜6で得られたポリエステル樹脂水性分散体の特性、評価結果、および得られたポリエステル樹脂水性分散体を用いて得られるポリエステル樹脂被膜の評価結果を、表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
以上の実施例1〜10は、本発明のポリエステル樹脂水性分散体であるため、ポリエステル樹脂を水性媒体に分散する工程において、特殊な装置を用いることなく、省エネルギーで容易に、高収率でポリエステル樹脂水性分散体を得ることができ、得られた水性分散体は、体積平均粒径が小さく、保存安定性に優れていて、極薄膜の形成に優れていた。
【0112】
実施例8は、ポリエステル樹脂の酸価が少し高いものであるため、得られたポリエステル樹脂被膜の密着性がやや劣るものであったが、実用性は高いものであった。
【0113】
実施例9は、ポリエステル樹脂を構成している酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸が80質量%未満であるため、得られたポリエステル樹脂被膜の密着性がやや劣るものであったが、実用性は高いものであった。
【0114】
実施例10でも同様に、高収率で、かつ、体積平均粒径が小さく、保存安定性に優れたポリエステル樹脂水性分散体を得ることができた。さらに、それから得られた樹脂被膜は、極薄膜の形成に優れていた。
【0115】
一方、各比較例については次のような問題があった。
【0116】
比較例1、2は、ポリエステル樹脂を構成しているアルコール成分として、オペンチルグリコールが70モル%未満であったために、分散工程後の濾過残渣が非常に多く、得られる水性分散体の収量が悪かった。さらに、得られたポリエステル樹脂水性分散体は、体積平均粒径が大きく、保存安定性の悪いものであった。また、それから得られたポリエステル樹脂被膜は、造膜性、均一性、密着性のそれぞれが劣るものとなった。
【0117】
比較例3は、本発明とは異なる分散方法(転相乳化法)を用いたため、得られた水性分散体の体積平均粒径がやや大きくなり、保存安定性に劣っていて、それから得られたポリエステル樹脂被膜は、均一性が劣るものとなった。
【0118】
比較例については、水性分散体を製造する際に、塩基性化合物を用いておらず、水性媒体中にポリエステル樹脂が分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0119】
比較例5については、ポリエステル樹脂の酸価が2mgKOH/g未満であったために、水性媒体中にポリエステル樹脂が十分分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
【0120】
比較例6は、ポリエステル樹脂の酸価が40mgKOH/gより大きい値であったために、特に、ポリエステル樹脂被膜の密着性が劣るものとなった。