特許第5666944号(P5666944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5666944人工筋肉に用いられる筒状体及び当該筒状体を備える人工筋肉並びに筒状体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666944
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】人工筋肉に用いられる筒状体及び当該筒状体を備える人工筋肉並びに筒状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20150122BHJP
   F15B 15/10 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   A61B1/00 320B
   F15B15/10 H
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-40933(P2011-40933)
(22)【出願日】2011年2月25日
(65)【公開番号】特開2012-176125(P2012-176125A)
(43)【公開日】2012年9月13日
【審査請求日】2014年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】樋▲高▼ 裕也
(72)【発明者】
【氏名】横島 真人
(72)【発明者】
【氏名】安達 和紀
【審査官】 安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−043114(JP,U)
【文献】 特開平07−113755(JP,A)
【文献】 特開昭63−225707(JP,A)
【文献】 特開2004−337324(JP,A)
【文献】 特開2006−000294(JP,A)
【文献】 特開2006−169461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00−1/32
F15B 15/10
G02B 23/24−23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工筋肉に用いられる筒状体であって、
弾性体からなり、軸方向において伸縮する蛇腹構造を有する筒部と、
前記筒部に内包され、前記筒部の蛇腹における山と谷に沿って軸方向に延長する繊維層とを備えた筒状体。
【請求項2】
前記筒部が、内側ゴム層と、当該内側ゴム層を覆う外側ゴム層とを有し、
前記繊維層が前記内側ゴム層及び外側ゴム層との間に介挿された請求項1記載の筒状体。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2記載の筒状体を備えた人工筋肉であって、
前記筒部の両端部を閉塞する蓋部材を備えた人工筋肉。
【請求項4】
人工筋肉に用いられる筒状体の製造方法であって、
外周面が軸方向に沿って蛇腹状に形成された型部材の表面に酸性水溶液を塗布する工程と、
前記型部材を液状のゴムに浸漬する工程と、
前記ゴムに浸漬した型部材を洗浄する工程を含む筒状体の製造方法。
【請求項5】
前記型部材の表面に付着したゴムの外周面に形成された蛇腹における山と谷に沿って軸方向に延長する繊維を貼り付けて繊維層を形成する工程と、
前記繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、前記繊維層にゴムを付着させる工程を含む請求項4記載の筒状体の製造方法。
【請求項6】
前記繊維層にゴムを付着させる工程の前に、前記繊維層に酸性水溶液を塗布する工程を含む請求項5記載の筒状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工筋肉に用いられる筒状体及び当該筒状体を備えた人工筋肉に関し、特に、内部に流体を供給することにより伸縮する筒状体及び人工筋肉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば生体内に埋設可能な人工筋肉として、本願発明者らが提案した軸方向繊維強化型人工筋肉と呼ばれる人工筋肉が提案されている。当該人工筋肉は、ゴム製のチューブ内に軸方向に延長する複数の繊維を内挿し、チューブ及びガラスロービング繊維の両端部がターミナルにより固定されることによって形成される。そして、当該人工筋肉を収縮させる際には、ターミナルを介して空気などの流体をチューブ内に供給することによりゴムチューブを膨張させる。チューブは、内挿された複数の繊維により軸方向への伸長が規制されているため、径方向にのみに膨張し、径方向への膨張に伴って軸方向への高い収縮率を得ることができる。
【0003】
しかしながら、近年においては、人工筋肉の動作を応用して多様な医療機器等の推進装置等に用いる検討がなされており、例えば生体の腸内を進行可能な内視鏡の推進機構として応用しようとした場合には、従来の人工筋肉では、曲げ剛性が大きく、腸内で受動的に曲がることができないために推進機構の先端が腸の湾曲部に突っかかってしまい、進行できなくなる等、推進機構としての機能を十分に果たせないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2008/140032 A1
【特許文献2】特開2009−240713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本願発明は上記課題を解決するため、人工筋肉として要求される十分な収縮量,耐久性を担保したまま、流体が供給された状態においても柔軟に湾曲することが可能な筒状体、当該筒状体を備えた人工筋肉、及び、筒状体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための筒状体の態様として、弾性体からなり、軸方向において伸縮する蛇腹構造を有する筒部と、筒部に内包され、筒部の蛇腹における山と谷に沿って軸方向に延長する繊維層とを備えた態様とした。
本態様によれば筒部が蛇腹構造を有することにより、高い収縮量を維持したまま、柔軟性に富んだ筒状体を得ることができる。
また、筒状体の他の態様として、筒部が内側ゴム層と、当該内側ゴム層を覆う外側ゴム層とを有し、繊維層が内側ゴム層及び外側ゴム層との間に介挿された態様とした。
本態様によれば筒部が内側ゴム層と当該内側ゴム層を覆う外側ゴム層とを有することから、前記態様から生じる効果に加え、耐久性を向上させることができる。
また、筒状体を備えた人工筋肉の態様として、筒部の両端部を閉塞する蓋部材を備えた態様とした。
本態様によれば、筒状体に密閉空間が形成され、当該密閉空間内に圧力を印加することにより、高い収縮量を維持したまま、柔軟性に富んだ人工筋肉を得ることができる。
また、筒状体を前提とする他の態様として、外周面が軸方向に沿って蛇腹状に形成された型部材の表面に酸性水溶液を塗布する工程と、型部材を液状のゴムに浸漬する工程と、ゴムに浸漬した型部材を洗浄する工程を含む筒状体の製造方法とした。
本態様によれば、蛇腹状に形成された型部材の表面に残存するゴムが洗浄により除去されるので、軸方向に沿って厚さが均一な筒状体を得ることができる。
また、他の態様として、型部材の表面に付着したゴムの外周面に形成された蛇腹における山と谷に沿って軸方向に延長する繊維を貼り付けて繊維層を形成する工程と、繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、繊維層にゴムを付着させる工程を含む態様とした。
本態様によれば、高い収縮量と柔軟性とを有した筒状体を得ることができる。
また、他の態様として、繊維層にゴムを付着させる工程の前に、繊維層に酸性水溶液を塗布する工程を含む態様とした。
本態様によれば、繊維層の表面に液状のゴムを安定して定着させることができるとともに、残余のゴムを除去することにより厚さが均一な筒状体を得ることができる。
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係る人工筋肉の構成を示す図である。
図2】人工筋肉用筒状体の製造方法を示すフローチャートである。
図3】ディップ棒の一例を示す図である。
図4酸性水溶液の塗布方法の一例を示す図である。
図5】ディップ棒の浸漬方法の一例を示す図である。
図6】繊維層の形成方法を示す図である。
図7】人工筋肉の駆動方法を説明するための図である。
図8】人工筋肉の動作を説明するための図である。
図9】圧力応答特性の測定に使用した人工筋肉を示す図である。
図10】人工筋肉の軸方向への圧力応答特性を示す図である。
図11】人工筋肉の曲げ状態を示す図である(空気圧無印加)。
図12】人工筋肉の曲げ状態を示す図である(空気圧印加)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1(a)乃至(d)は、実施形態に係る人工筋肉10の構成を示す図である。
(a)は、側面図,(b)は、縦断面図,(c)は(a)図のA−A断面図,(d)は(a)図のB−B断面図である。
同図に示すように、人工筋肉10は、ゴム部材から成る蛇腹状の筒状体11と、当該筒状体11に内包される繊維層12と筒状体11の両端にそれぞれ取り付けられる蓋部材14a,14b、及び、締付バンド15a,15bを備える。筒状体11は、軸方向に沿って伸縮可能な蛇腹状であって、図1(c),(d)に示すように、繊維層12を挟んで径方向内側に位置する内側ゴム層11A、及び、径方向外側に位置する外側ゴム層11Bからなる筒部を有する。内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとは、例えば天然ゴムラテックスから形成される。蛇腹を形成する内側ゴム層11A及び外側ゴム層11Bの山部同士、及び谷部同士は、互いに一致した状態で一体化されており、筒状体11は軸方向に沿って伸縮自在である。
【0010】
繊維層12は、内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの間に介挿される層であって、複数の繊維12kにより形成される。繊維12kは、筒状体11の軸方向に沿って延在する。より詳細には、内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとにより形成される蛇腹の山部と谷部の間に沿うように延在する。つまり、繊維層12も蛇腹構造を有している。繊維12kは、例えば、機械的な撚りをかけずに収束された無撚り繊維が好適である。本例では、繊維12kとして、5〜15μm程度の直径を有し、強度の高いカーボンロービング繊維を用いた。
【0011】
蓋部材14a,14bは、筒状体11の両端開口を閉塞し、内部を密閉状態に維持する部材である。締付バンド15a,15bは、筒状体11の両端部の外周面に締結され、蓋部材14a,14bと筒状体11との間に隙間ができないように筒状体11を締め付ける。つまり、筒状体11は、蓋部材14a,14b及び締付バンド15a,15bにより、密閉状態に維持され、密閉空間内に圧縮空気が導入されることにより収縮する。また、蓋部材14bには、内外に貫通する空気注入孔ha及び空気排出孔hbが開設され、空気注入孔haには、後述する圧縮空気注入管31aが嵌挿され、空気排出孔hbには空気排出管31bが嵌挿される。
【0012】
次に、上記構成から成る人工筋肉10に用いられる筒状体11の製造方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。
まず、S11において筒状体11の型部材となるディップ棒21を準備する。図3(a),(b)は、ディップ棒21の一例を示す図である。ディップ棒21は、例えば、押出成形法を用いて成形されたABS樹脂などの樹脂からなり、内側ゴム層11Aの内径と同じ外径を有する塗布部21aと、塗布部21aの両端にそれぞれ設けられた把持部21bとを備える。ディップ棒21の塗布部21aの表面は、軸方向に沿って蛇腹状に形成されており、当該塗布部21aの形状が内側ゴム層11A、外側ゴム層11B及び繊維層12の蛇腹形状と対応する。
【0013】
次に、S12において、ディップ棒21の塗布部21aの外周面に、例えば硝酸とエタノールとを混合した硝酸アルコールなどの酸性水溶液を均一に塗布する前処理を実行する。
次に、S13において、図5に示すように、前処理が実行されたディップ棒21を容器25内に収容された天然ゴムラテックス液(以下、単にゴム液という)26中に所定時間浸漬するディッピング処理を行う。ディッピング処理に際しては、人為的に把持部21bを把持して行ってもよいが、例えば、ディップ棒21の一方の把持部21bを把持部材27で把持し、把持部材27を図示しない昇降手段により連続して下降させるようにすることが好ましい。次に、S14においてディッピング処理から所定時間経過後に、ディップ棒21をゴム液26中から引き上げ、例えば水を収容した容器内に投入することでディップ棒21の外周面に未定着の残余のゴム液26を除去し、S15において所定の時間乾燥させる。なお、乾燥の際は、ディップ棒21をモーター等と接続して継続的に回転させることが好ましい。当該工程を経ることにより、内側ゴム層11Aが形成される。
【0014】
つまり、S12乃至S14の工程は、ゴム液26を酸性水溶液と反応させることで蛇腹状の塗布部21aの表面上において早期に定着させ(酸凝固法)、さらに、ディップ棒21を水の入った容器に浸させて、蛇腹の谷の間に溜まり易い固化前の未定着のゴム液26を洗い流すことにより、ディップ棒21の蛇腹形状を精密に反映しつつ、厚さにムラがない蛇腹形状の内側ゴム層11Aを形成する工程である。
なお、本実施形態における内側ゴム層11Aの厚さ(0.4mm程度)であれば、十数秒程度の短い時間で内側ゴム層11Aを形成することができる。
また、ディップ棒21の塗布部21aに酸性水溶液を均一に塗布するために、例えば、図4に示すように、ディップ棒21の把持部21bとモーター22の出力軸22Jとを連結部材23で連結させてディップ棒21を回転させながら、塗布部21aの外周面に酸性水溶液を含ませた刷毛等の塗布手段24により塗布すれば好適である。
【0015】
次に、S16において、乾燥後の内側ゴム層11Aの外周面にカーボンロービング繊維から成る繊維12kをディップ棒21の軸方向に沿って貼り付け、繊維層12を形成する。
具体的には、例えば図6に示すように、繊維12kを接着材等により収斂し、シート状に成形した繊維シート12Sを内側ゴム層11A軸方向に沿って貼り付ける。繊維シート12Sは、内側ゴム層11Aの全周に亘って隙間なく貼り付ける。例えば、1枚当りの繊維シート12Sの幅を周長の1/30〜1/10程度、かつ、1枚当りの繊維シート12Sの長さLを内側ゴム層11Aの軸方向長さよりも短くカットし、複数枚の繊維シート12Sを円周上に沿って少しずつ貼り付ける。このとき、内側ゴム層11Aの山部と谷部との差を埋めてしまわないように、山部と谷部との間の表面に沿うように繊維シート12Sを密着させる。つまり、繊維12kは、内側ゴム層11Aの蛇腹形状に沿って軸方向に延長する。
また、繊維シート12Sを貼り付ける際には、ゴム液26を内側ゴム層11Aの外周面、或いは、繊維シート12Sにおける内側ゴム層11Aの外周面と対向する面に塗布しながら貼り付けることが好ましい。これにより、繊維12kと内側ゴム層11Aを構成する天然ゴムラテックス液とを馴染ませながら強固に一体化することができる。
【0016】
次にS17以降の工程により、外側ゴム層11Bを形成する。まず、S17において、S16により形成された繊維層12の外周面に硝酸アルコールなどの酸性水溶液を均一に塗布する前処理を行った後、S18において、再度ゴム液26中にディップ棒21を浸漬するディッピング処理を行う。当該ディッピング処理においては、ゴム液26が各繊維12kの隙間にも浸透するので、内側ゴム層11Aと繊維層12と外側ゴム層11Bとを一体化させることができる。つまり、繊維層12を内包した状態の筒状体11を得ることが可能となる。
なお、上記S17においては、繊維層12の表面に直接酸性水溶液を塗布するものとしたが、繊維層12の上にゴム液26をディップして薄いゴム層を形成した後に、当該ゴム層の表面に酸性水溶液を塗布することにより外側ゴム層11Bを形成してもよい。
次に、S19において、所定時間浸漬したディップ棒21をゴム液26中から引き上げ、水を収容した容器内に投入し、未定着の残余のゴム液26を除去する。当該工程により、蛇腹形状の繊維層12にゴム液26を確実に定着させつつ、谷部に溜まり易い未定着の残余のゴム液26を洗い流すことができる。よって、ディップ棒21の蛇腹形状が精密に反映された外側ゴム層11Bを形成することができる。
【0017】
次に、S20において所定の時間乾燥させた後、S21において、型部材であるディップ棒21を内側ゴム層11Aから引き抜き、内側ゴム層11A、繊維層12及び外側ゴム層11Bからなる蛇腹構造を有する筒状体11を得ることができる。上記工程を経て製造された筒状体11は、蛇腹状のディップ棒21の形状が精密に反映されているため、柔軟性に富み、曲げ方向の力が加わることにより、座屈することなく湾曲可能である。また、S22において、筒状体11を必要な長さに切断することにより、複数の筒状体11を同時に製造することができる。
そして、得られた筒状体11の両端部に蓋部材14a,14bをそれぞれ挿入した後、締付バンド15a,15bで筒状体11を締め付けることにより、図1に示した密閉空間を有する人工筋肉10を得ることができる。
【0018】
次に、上記工程を経て製造された筒状体11を用いた人工筋肉10の動作について説明する。
まず、図7に示すように、人工筋肉10と駆動装置30とを接続する。駆動装置30は、圧縮空気注入管31aと、空気排出管31bと、空気注入用の電磁弁32aと、空気排気用の電磁弁32bと、圧縮空気供給手段33と、制御手段34とを備える。
圧縮空気注入管31aと空気排出管31bとは、一方の蓋部材14bに開設された空気注入孔haと空気排出孔hbとに嵌挿される。圧縮空気注入管31aは、注入用の電磁弁32aを介して圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段33と連結され、空気排出管31bは排気用の電磁弁32bと連結される。なお、空気注入と排出とを両方行える電磁弁を利用し、蓋部材14bの孔を単一のものとしてもよい。制御手段34は、注入用の電磁弁32aの開閉と排気用の電磁弁32bの開閉とを制御して、筒状体11の膨張・収縮を制御する。
【0019】
図8は、人工筋肉10を固定するための固定部材35に蓋部材14bを固定し、蓋部材14bとの距離を伸縮させる無負荷往復運動の概要を示す。
図8(a)に示す状態から制御手段34が注入用の電磁弁32aを開き、圧縮空気供給手段33から送出される圧縮空気が圧縮空気注入管31aを介して筒状体11の密閉空間内に導入されると、筒状体11を構成する内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとは、導入された圧縮空気の圧力により全方向、すなわち、径方向と軸方向との両方に膨張しようとする。一方で、内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの間に介挿されている繊維層12は、内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの軸方向への膨張を拘束する。よって、筒状体11の膨張は、径方向に限定され、筒状体11は、図8(b)に示す状態となり、軸方向へ収縮する。なお、詳細は後述するが、圧縮空気の導入初期においては、筒状体11は軸方向へ僅かに伸長し、その後に軸方向に収縮することが確認されている。つまり、圧縮空気の導入初期においては、筒状体11の軸方向への膨張が僅かに許容され、その後に軸方向への膨張が拘束される。
すなわち、人工筋肉10の筒状体11は、繊維層12が内側ゴム層11Aと外側ゴム層11Bとの軸方向への膨張を拘束するので、蛇腹の山部と谷部との差が縮まるように径方向に膨張しながら軸方向に収縮する。このように、人工筋肉10においては、圧縮空気の給排が繰り返されることにより繰り返しの収縮動作を行うことができ、例えば生体の関節における腱の代替要素や、腸内を進行するための推進機構として組み込むことが可能となる。
【0020】
以下、上記構成からなる人工筋肉の優位性を示す実験結果について説明する。
図9は、本実施形態に係る蛇腹構造を有する人工筋肉10と、従来に係る軸方向繊維強化型の人工筋肉50A、50Bを示す模式図である。図9(a)に示すように、人工筋肉10における可動長は(締付バンド15a,15b間の筒状体長さ)、62mmに設定し、谷部の直径が23mm、山部の直径が31mm、ピッチが15.5mmである。図9(b)に示す人工筋肉50Aの可動長は、62mmであり、蛇腹構造を有していない。図9(c)に示す人工筋肉50Bの可動長は、人工筋肉10に内挿された繊維を緊張させた長さに相当する72mmであり、蛇腹構造を有していない。また、いずれの人工筋肉10,50A,50Bにおいても径方向厚さは、0.8mmである。
【0021】
図10(a),(b)は、上記各人工筋肉10,50A,50Bの軸方向への圧力応答特性である圧力−収縮量特性、及び、径方向への圧力応答特性である圧力−膨張量特性を測定した結果を示すグラフである。
各グラフの横軸は密閉空間内に導入された空気の圧力(MPa)であり、縦軸は、それぞれ軸方向への収縮量(mm)、径方向への膨張量(mm)である。なお、人工筋肉10では、筒状体11の中央の谷部の変位量を膨張量とし、人工筋肉50A,50Bでは、筒状体11の中央部の径方向への変位量を膨張量とした。また、測定においては、空気の圧力を0(MPa)から0.005(MPa)間隔で印加していき、各人工筋肉10,50A,50Bが破損したときを終了とした。
図10(a),(b)において、三角マークが本実施形態に係る人工筋肉10(bellows)の測定データで、菱形マークが人工筋肉50A(n−short)、四角マークが人工筋肉50B(n−long)の測定データである。
【0022】
上記測定結果からも明らかなように、蛇腹構造を有する人工筋肉10は、従来の人工筋肉50A,50Bとの比較において、略同程度の収縮量及び膨張量が維持されており、応用が検討される推進機構としての機能を十分に発揮し得る。また、上記測定結果において顕著な事実として、図10(a)に示すように、人工筋肉10では、0.025(MPa)までの収縮量がマイナスの値をとっている。
当該事実は、圧力導入初期において人工筋肉10の山部が圧力によって軸方向に引き伸ばされるために起こる現象であると考えられ、当該期間においては、筒状体11の軸方向への伸長動作が観察された。当該測定結果は、人工筋肉10が空気圧無印加時において、バネ特性を有していることを示すものであり、人工筋肉10は、従来の人工筋肉50A,50Bと比較して柔軟性が向上していることがわかる。
【0023】
次に、図11及び図12を参照して人工筋肉10の柔軟性を評価するための曲げ試験について説明する。
同図に示すように、曲げ試験は、蓋部材14b側を固定板36に固定し、蓋部材14a側に人工筋肉10の中心軸に沿って延長する押棒37を取り付け、この押棒37を軸方向に対して鉛直上向きに押し、このときの曲り方を観察した。また、各図における(b)は、従来の人工筋肉50Aの状態を示す。観察は、人工筋肉10,50Aに空気圧を印加しない場合(図11参照)と、0.01(MPa)を印加した場合(図12参照)の2通りである。
【0024】
各図において、上側が初期状態、中央の図が最大曲げ状態、下側の図が座屈状態を示す。なお、最大曲げ状態とは、人工筋肉10,50Aが座屈を起こす直前の状態である。
図11及び図12の見た目からも明らかなように、人工筋肉10は、人工筋肉50Aと比較して、座屈が発生するまでの曲げが大きく、柔軟性が高いことがわかる。
また、空気圧印加時は、人工筋肉10及び人工筋肉50Aともに、無印加時に比べて剛性が高くなり、曲げに対する復元力は大きくなるものの、人工筋肉50Aと比較して人工筋肉10の方が加圧時の柔軟性が顕著であり、より大きく湾曲可能であることが確認された。
【0025】
このように、本実施形態に係る筒状体11は、圧力無印加時及び印加時の両方において柔軟性が極めて高く、当該筒状体11を備えた人工筋肉10は、例えば、生体の腸内を進行するための推進機構として応用する際に、腸の湾曲によって進行が阻害されるようなことがなく、極めて円滑に湾曲部内を進行することが可能である。また、本実施形態に係る筒状体11の製造方法にあっては、極めて精密に型部材の蛇腹構造を反映することができるため、柔軟性が極めて高い筒状体11を形成することが可能となる。
【0026】
なお、前記実施の形態では、内側ゴム層11A及び外側ゴム層11Bを天然ゴムラテックスとしたが、シリコーンゴムなど他の種類のゴムを用いてもよい。また、前記例では、筒状体11の繊維層12は一層としたが、複数の繊維層としてもよい。繊維層12を複数とし、複数の繊維層12の間にゴムからなる中間層を設ければ、繊維間の隙間によって生じる膨張時のゴムの破裂を確実に抑制することができるとともに、繊維12kによる軸方向の拘束を強靭にできるので、高負荷にも耐えることができる。
【0027】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【符号の説明】
【0028】
10 人工筋肉、11 筒状体、11A 内側ゴム層、11B 外側ゴム層、
12 繊維層、12k 繊維、12S 繊維シート、14a,14b 蓋部材、
15a,15b 締付バンド、21 ディップ棒、21a 塗布部、21b 把持部、
26 天然ゴムラテックス液、27 把持部材、30 駆動装置、
31a 圧縮空気注入管、31b 空気排出管、33 圧縮空気供給手段、
34 制御手段。
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