(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄道車両の側壁に設けられた乗降口の上方に当該乗降口の上縁に沿うように上レールが設けられる一方、この乗降口を開閉するための引戸には、上記上レールに係合して支持される吊金を有し、この引戸は、開閉用の直動型アクチュエータの駆動により上記乗降口を閉じた閉鎖状態と、上記乗降口を開いて車両構体と内装材の間の空隙内に収容された開放状態の間を移動するように構成された鉄道車両用のドア装置において、
上記上レールに、上記直動型アクチュエータの駆動により引戸を閉鎖状態へと向けて移動させたとき、引戸が閉鎖状態に至る直前で、当該引戸を枕木方向外側へと案内する枕木方向案内機構と、当該引戸を下方へと案内する上下方向案内機構とを備え、引戸はその閉鎖状態で車両構体側壁部と靴擦部とに押し付けられるように構成されていることを特徴とする鉄道車両用スライドプッシュ式ドア装置。
上記車両構体の側壁の上記引戸が閉鎖時に押し付けられる部位と、上記引戸の底部に、弾性部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用スライドプッシュ式ドア装置。
上記引戸の開閉方向両端部近傍にそれぞれ設けられたガイドローラのうち、戸尻側のガイドローラが引戸の閉鎖状態に対応する位置に到達する直前で入り込む屈曲部には、ガイドローラが入り込むことを阻止する侵入阻止機構が設けられ、上記戸尻側のガイドローラにはその侵入阻止機構を不能化する機構が、戸先側のガイドローラにはその侵入阻止機構を能動化する機構が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両用スライドプッシュ式ドア装置。
少なくとも上記枕木方向案内機構および上下方向案内機構を含む上レールと、上記直動型アクチュエータがユニット化され、このユニットがあらかじめ組み立てられた状態で上記車両構体に組み付けられることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の鉄道車両用スライドプッシュ式ドア装置。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の側壁部分に設けられた乗降口、つまり側出入口を開閉するドアの構造として、戸袋構造と称されるものが多用されている。この戸袋構造では、側出入口を引戸により開閉するとともに、側出入口の解放状態において、車両構体の側壁と内装材の間に形成された空間(戸袋)に引戸を収容する構造を採り、引戸は側出入口の間口幅に応じて1扉あるいは2扉で構成され、主に車掌の開閉操作で動作する。また、各側引戸には閉操作によって引戸が確実に閉まっていることを機械的に検知する機能が設けられており、車両の発車時には引戸が閉状態であることが検知されているときに限って走行が可能となる。
【0003】
このような戸袋構造のドア装置においては、一般に、車体側には鴨居部に上レール(J形)を、靴擦り部には下レールを配する一方、引戸側には上部に
吊金、下端部には溝金を取り付け、上レールの溝に戸車が嵌まり、下レールには溝金がはまる構成となっている。動力源として主に直動式エアシリンダ等の直動型アクチュエータが用いられ、引戸の開閉は直動方向で、前記したように開状態では車両構体と内装材の間に収納される(例えば特許文献1参照)。
【0004】
鉄道車両の他のドア構造としては、スライドドア構造およびプラグドア構造がある。スライドドア構造は、戸閉装置の上部にレールを配し、このレールに沿って引戸を車外に出しながら開く構造としている。動力源としては主に電気式モータを用い、ボールネジ形状のロッドを回転させることで引戸を開閉させる(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また、プラグドア構造は、前記した戸袋構造とスライドドア構造の機能を併せ持つ構造であり、上部と下部にレールを配し、動力源としてシリンダを用いて引戸を開閉する。気密を保持するために2次動力、つまりドア開閉用のアクチュエータとは別のアクチュエータにより引戸を車両構体に押さえ込む構造が採用されている(例えば特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、以上の各構造のドア構造のうち、スライドドア構造では、上レールや戸閉機、戸閉機とドアとの連結部品等の部品がユニット化されており、側引戸をそのユニットで支えるため、堅牢な重構造である。そのため、車両構体の取付座をより強固とする必要があり、車両構体自体の重量も増大するという問題がある。また、取り付けは専用治具で持ち上げて仮取付まで複数人で行う必要があり、しかもライナー調整を行う必要があって、取付作業が難しいという問題がある。
【0008】
一方、プラグドア構造は、車両構体とドアとの隙間を、前記したように閉状態で2次動力により引戸を外側に押し付ける対策をとっているが、この構造では片開きドアに適用できるものの、両開きドアには適用できないという問題がある。しかも、このプラグドア構造はアクチュエータを複数個必要とするなど構造が複雑で、高価であるという問題もある。
【0009】
これに対し、戸袋構造は比較的簡単な構造であり、しかも片開き、両開きのいずれにも適用できるという利点があり、また、コンパクトで出っ張りが少ないという利点もある。
【0010】
ここで、この戸袋構造においては、従来、車外から侵入する音の対策として、車両構体および客室側に被覆処理を施したスポンジゴムと、モケットなどで隙間を塞ぐ対策が多用されている。この対策は主として側および鴨居部に取り付けられるが、隙間を塞いでいない箇所が多く存在するのが実情である。また、経年変化により対策要素が劣化するなど、外部からの音を遮断する効果を十分に発揮できないことがあるという問題がある。
【0011】
また、戸袋構造の引戸部品は開閉用のシリンダ、上レール、下レール、シリンダと引戸との連結部品など、個々に調整しながら取り付ける構成である。特に、上レールについては、車両構体と引戸の隙間を設計寸法にするため、上レールと車両構体の間にライナーを使用して調整を行っている。この調整には固定ボルトを締め付けて確認を行い、設計寸法に至らない場合はボルトを緩めてライナー調整を行うなど、試行錯誤的な繰り返し作業が必要となる。取付には細心の注意と熟練した技量が必要で、更には相当に長時間を要するという問題もある。
【0012】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、片開き、両開きのいずれにも対応でき、しかも従来の戸袋構造のドア装置に対して所要スペースが特に増えることがなく、コンパクトでありながら車外からの音を確実に遮蔽することのできる、プッシュ機能を有する鉄道車両用のドア装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の鉄道車両用スライドプッシュ式ドア装置は、鉄道車両の側壁に設けられた乗降口の上方に当該乗降口の上縁に沿うように上レールが設けられる一方、この乗降口を開閉するための引戸には、上記上レールに係合して支持される
吊金を有し、この引戸は、開閉用の直動型アクチュエータの駆動により上記乗降口を閉じた閉鎖状態と、上記乗降口を開いて車両構体と内装材の間の空隙内に収容された解放状態の間を移動するように構成された鉄道車両のドア装置において、上記上レールに、上記直動型アクチュエータの駆動により引戸を閉鎖状態へと向けて移動させたとき、引戸が閉鎖状態に至る直前で、当該引戸を枕木方向外側へと案内する枕木方向案内機構と、当該引戸を下方へと案内する上下方向案内機構とを備え、引戸はその閉鎖状態で車両構体側壁部と靴擦部とに押し付けられるように構成されていることによって特徴付けられる(請求項1)。
【0014】
ここで、本発明においては、上記車両構体の側壁の上記引戸が閉鎖時に押し付けられる部位と、上記引戸の底部に、弾性部材が取り付けられた構成(請求項2)を好適に採用することができる。
【0015】
また、本発明においては、上記引戸の
吊金は、当該引戸の開閉方向両端部近傍にそれぞれ設けられたガイドローラを含むとともに、上記枕木方向案内機構は、水平方向に沿う板材にその板厚方向に穿ったガイド溝を形成し、そのガイド溝内に上記各ガイドローラが嵌まり込むとともに、このガイド溝は、上記各ガイドローラがそれぞれ上記引戸の閉鎖状態に対応する位置に到達する直前で枕木方向外側に屈曲している機構とすること(請求項3)を採用することができる。
【0016】
更に、本発明においては、上記引戸の
吊金は、当該引戸の開閉方向両端部近傍にそれぞれ設けられ、かつ、上記上レールの上面に転がり接触して引戸を移動自在に吊り下げるための荷重ローラを含み、上記上下方向案内機構は、上記上レールの上面が、上記各荷重ローラが上記引戸の閉鎖状態に対応する位置に到達する直前で下方に傾斜している機構とすること(請求項4)ができる。
【0017】
ここで、請求項3に係る発明においては、上記引戸の開閉方向両端部近傍にそれぞれ設けられたガイドローラのうち、戸尻側のガイドローラが引戸の閉鎖状態に対応する位置に到達する直前で入り込む屈曲部には、ガイドローラが入り込むことを阻止する侵入阻止機構が設けられ、上記戸尻側のガイドローラにはその侵入阻止機構を不能化する機構が、戸先側のガイドローラにはその侵入阻止機構を能動化する機構が設けられている構成(請求項5)を採用することができる。
【0018】
また、鉄道車両用スライドブッシュ式ドア
装置は、請求項
4ないしは5に係る発明においては、上記上下
方向案内機構の上レールの斜面は、上記ガイドローラが屈曲部に入り込んだ状態で上記荷重ローラが転がり接触する部位に形成されている構
成を好適に採用することができる(請求項6)。
【0019】
本発明においては、上記引戸の
吊金は、当該引戸の戸先側端部と、当該引戸の戸尻から開閉方向引戸外に突出して設けられたブラケットに設けられ、その各
吊金にはガイドローラと、上記上レールの上面に転がり接触して引戸を移動自在に吊り下げるための荷重ローラを含み、上記枕木方向案内機構は、水平方向に沿う板材にその板厚方向に穿ったガイド溝を形成し、そのガイド溝内に上記各ガイドローラが嵌まり込むとともに、このガイド溝は、上記各ガイドローラがそれぞれ上記引戸の閉鎖状態に対応する位置に到来する直前で枕木方向に屈曲している機構であり、上記上下方向案内機構は、上記上レールの上面が、上記荷重ローラが上記引戸の閉鎖状態に対応する位置に到達する直前で下方に傾斜する機構であり、上記ブラケットに設けられている
吊金のガイドローラが入り込む屈曲部、および荷重ローラが転がり接触する斜面は、上記戸先側端部に設けられている
吊金のガイドローラおよび荷重ローラが上記引戸の開閉時に通過する領域外に形成されている構成(請求項7)を採用することもできる。
【0020】
更にまた、本発明においては、少なくとも上記枕木方向案内機構および上下方向案内機構を含む上レールと、上記直動型アクチュエータがユニット化され、このユニットがあらかじめ組み立てられた状態で上記車両構体に組付けられる構成(請求項8)を採用することが望ましい。
【0021】
本発明は、従来の戸袋構造の側扉装置の所要スペースをそのままにし、しかも別途アクチュエータを用いることなく、戸閉機としてのシリンダ等の直動型アクチュエータの駆動により、閉鎖状態における側引戸を車両構体に押し付けることにより、課題を解決しようとするものである。
【0022】
すなわち、本発明では、戸閉機としての直動型アクチュエータを駆動して引戸を閉じる際、この引戸の上方に配置されている上レールに設けられた枕木方向案内機構および上下方向案内機構により、引戸が閉鎖する直前で当該引戸を枕木方向外側並びに下方へと案内され、車両構体の側壁部並びに靴擦部に押し付けられる。これにより 引戸と車両構体との間の隙間が実質的になくなり、外部からの音や風を遮蔽することができる。
【0023】
そして、請求項2に係る発明のように、引戸の閉鎖状態で当該引戸が押し付けられる車両構体の側壁部分と、靴擦部に押し付けられる引戸の下端面に弾性部材を取り付けておくことにより、外部からの音や風の遮蔽効果はより確実なものとなる。
【0024】
ここで、枕木方向案内機構並びに上下方向案内機構の具体的構成は特に限定されるものではないが、枕木方向案内機構としては、請求項3に係る発明のように、水平方向に沿う板材にその板厚方向にガイド溝を刻設し、その溝内に引戸側の
吊金に設けたガイドローラを嵌め込み、ガイド溝には所要部位に枕木方向外側に屈曲させて引戸の閉鎖直前で車両構体に向けて案内する構成を挙げることができる。
【0025】
また、上下方向案内機構としては、請求項4に係る発明のように、
吊金に設けた荷重ローラを上面で支持する上レールの上面に、荷重ローラが引戸の閉鎖する直前位置に到達する領域において下向きへの傾斜面を形成し、引戸の閉鎖直前で靴擦部に向けて案内する構成を挙げることができる。
【0026】
請求項3に係る発明のように、引戸の開閉方向両端部近傍にそれぞれガイドローラを設け、これらのガイドローラを溝でガイドして引戸の閉鎖状態の直前でそれぞれの屈曲部に入り込ませることによって引戸を枕木方向外側に案内する構成を採用すると、戸尻側のガイドローラが入り込む屈曲部を戸先側のガイドローラが通過することになるが、これを規制するのが請求項5に係る発明である。すなわち、請求項5に係る発明では、戸尻側が入り込むべき屈曲部に侵入阻止機構を設けて、戸先側のガイドローラがその屈曲部に入り込まず、戸尻側のガイドローラのみがその屈曲部に入り込むようにしている。
【0027】
また、請求項4に係る発明のように、引戸の開閉方向両端部近傍にそれぞれ荷重ローラを設け、その各荷重ローラが転がり接触する上レールには斜面を設けて引戸を上下方向に案内する上下方向案内機構を採用した場合、上記と同様に戸尻側の荷重ローラを下方に案内するための斜面により、戸先側の荷重ローラが通過することになるが、この斜面に戸先側の荷重ローラが影響を受けないようにするのが、請求項6に係る発明である。すなわち、請求項6に係る発明においては、戸尻側の荷重ローラを上下に案内するための斜面は、枕木方向案内機構の屈曲部にガイドローラが入り込んでその部分の引戸を枕木方向外側に案内した状態で荷重ローラが転がり接触する部位にのみ形成する。これにより、戸尻側の荷重ローラを上下させるための斜面に、戸先側の荷重ローラが影響を受けることがない。
【0028】
一方、請求項7に係る発明は、戸尻側のガイドローラ並びに荷重ローラを枕木方向並びに上下方向に案内する屈曲部並びに斜面の形成部位を、戸先側のガイドローラ並びに荷重ローラが通過しないように配慮した構成を採用している。すなわち、戸尻側のガイドローラ並びに荷重ローラは、引戸の戸尻部から開閉方向外側に突出したブラケットに配置し、その戸尻側のガイドローラ並びに荷重ローラを案内する屈曲部並びに斜面は、開閉動作において戸先側のガイドローラ並びに荷重ローラが移動する領域外に設けることで、戸尻側の屈曲部並びに斜面に戸先側のガイドローラ並びに荷重ローラが影響を受けないようにしている。
【0029】
そして、請求項8に係る発明のように、以上のような枕木方向案内機構および上下方向案内機構を含む上レールと、戸閉機としての直動型アクチュエータとを含む部材をユニット化し、車両構体へはそのユニットを単に取り付けるように構成すれば、側引戸装置の車両構体への取付作業が容易化される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、外部からの侵入音を低減することができるとともに、走行中での風の侵入を防ぐことができる。しかも、従来の戸袋構造のドア装置と同等の所要スペースのもとに、かつ、アクチュエータを追加することなく上記の効果を達成することができるので、配管や配線処理のための作業が増大することがなく、低コストで実現できるるとともに、メンテナンス箇所を少なくすることができる。
【0031】
また、従来の戸袋構造のドア装置をベースに、その所要スペースを増大することがないため、両開き並びに片開きドアの双方に適用することができ、既存車にも適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明を両開きの側引戸装置に適用した実施の形態の正面図で、両側の引戸1a,1bの近傍の内装材を外した状態で示している。また、
図2にはドアエンジン、すなわち開閉駆動機構2の近傍の拡大図を示す。
【0034】
左右両側の引戸1a,1bは、開閉駆動機構2によって開閉し、車両構体Bの側壁部に形成された乗降口を図示のように閉鎖状態とし、あるいは解放状態とする。解放状態にあっては、各引戸1a,1bは車両構体Bと内装材の間に形成されている空間、つまり戸袋内に収容された状態となる。
【0035】
開閉駆動機構2の駆動源は1本の開閉用エアシリンダ21のみであり、このエアシリンダ21の駆動により、左右の引戸1a,1bが同時に左右逆向きに移動して乗降口を開閉するとともに、後述するように引戸1a,1bを車両構体Bの側壁部に押し付け、かつ、車両構体Bの靴擦部に押し付ける。
【0036】
開閉駆動機構2による左右両側の引戸1a,1bの同時逆向きへの移動は、従来のこの種の戸袋構造の開閉機構と同じであるために特に詳細な説明は省略するが、エアシリンダ21のピストンロッド211に係合してその移動により回転するタイミングプーリ221と、このタイミングプーリ221に対して水平方向に所定距離だけ離れて配置された他方のタイミングプーリ222との間に掛け回されたタイミングベルト223にロッド224が取り付けられており、このロッド224はエアシリンダ21の駆動によるピストンロッド211の移動と逆向きに移動する。ピストンロッド211には一方の引戸1aが連結されているとともに、ロッド224には他方の引戸1bが連結され、エアシリンダ21の駆動により左右の引戸1aと1bとが互いに逆向きに移動し、乗降口を開閉する。
【0037】
この実施の形態の特徴は、開閉駆動機構2に、引戸1a,1bの開閉時にこれらを枕木方向に案内する枕木方向案内機構と、同じく上下方向に案内する上下方向移動機構を備えている点と、従来の戸袋構造のように引戸1a,1bの下端部が係合してその枕木方向への変位(揺れ)を防止する靴擦り部の下レールがなく、これに代えて、戸袋内の車両構体にレール5が設けられ、各引戸1a,1bの戸尻部に突出して設けられたローラ取付金12の先端部に回転自在に支承されたローラ11が嵌まり込んで案内される点である。また、引戸1a,1bとピストンロッド211もしくはロッド224との連結は連結機構26によって行われるが、この実施の形態においては、引戸1a,1bはその開閉時に枕木方向並びに上下方向に案内されるため、連結機構26による連結を剛的なものとすることはできず、後述するような工夫がなされている
(図12,図13参照)。
【0038】
以下、その特徴部分について順次説明する。
図3は
図1,
図2にAで示す部分の拡大図で、
図4はその右側面図であり、引戸1a,1bの戸先部および戸尻部にそれぞれに取り付けられた吊金6を表している。なお、この
図3,
図4には、後述する切り換え板66の図示を省略している。また、この
図3,
図4は引戸1a,1bが閉鎖状態にあるときの状態であり、この閉鎖状態では、後述するように引戸1a,1bは枕木方向外側に移動して車両構体側壁部分に押し付けられると同時に、下方に移動して車両構体靴擦部に押し付けられる。車両構体側壁の引戸1a,1bが押し付けられる部位、具体的には、引戸a,1bの上縁部と戸尻の側縁部には、弾性部材Eが取り付けられている。また、引戸1a,1bの下端面にも後述するように弾性部材E′が取り付けられている。
【0039】
吊金6は、吊金本体61と、この吊金本体61に水平軸の回りに回転自在に支承された荷重ローラ62と、その荷重ローラ62の上方において同じく吊金本体61に垂直軸の回りに回転自在に支承された2つのガイドローラ63を主体としている。また、吊金本体61は引戸1a,1bに対してスラスト軸受64を介して鉛直軸の回りに回転自在に取り付けられている。
【0040】
各荷重ローラ62は、各引戸1a,1bにそれぞれ対応して車両構体側の開閉駆動機構2内に設けられている荷重レール(上レール)23に転がり接触し、各引戸1a,1bは、それぞれ戸先並びに戸尻部の合計2個の荷重ローラ62によって荷重レール23にそれぞれ吊り下げられた状態となっている。
【0041】
また、各吊金6に取り付けられている2個のガイドローラ63は、同じく車両構体側の開閉駆動機構2内に設けられているガイド板24に形成されたガイド溝25内に嵌まり込んでいる。
【0042】
ガイド板24のガイド溝25は、
図5に示すように、引戸1a,1bを閉鎖する向きに移動させたとき、完全に閉鎖状態となる直前の位置に戸先並びに戸尻側の各ガイドローラ63が到達する直前で枕木方向外側に屈曲して、屈曲部251,252を形成している。以下、この屈曲部のうち、戸先側に位置するものを戸先側屈曲部251,戸尻側に位置するものを戸尻側屈曲部252と称する。
【0043】
前記した荷重レール23は、引戸1a,1bを閉鎖する向きに移動させたとき、同じく完全に閉鎖状態となる直前の位置に荷重ローラ62が到達する直前で下方に傾斜している。この荷重レール23の傾斜部分は、上記したガイド溝25の屈曲部分に対応する部分においてのみ形成されており、
図6はその傾斜領域を示す模式図で、クロスハッチングを付した領域が、図中左側へと向けて下方に傾斜している。すなわち、後述するようにガイドローラ63がそれぞれに対応する屈曲部251,252に嵌まり込むことにより引戸1a,1bが枕木方向外側に案内されはじめることによって荷重ローラ62が同方向に移動を開始してから、下向きの斜面が始まる。
【0044】
戸先側の吊金6には、
図7に示すように、ガイドローラ63の上方に切り換え板65が取り付けられている。この切り換え板65の平面図は
図8に示されているように、引戸1a,1bの開閉方向で枕木方向外側に斜面65aが形成されている。そして、この切り換え板65によって、引戸1a,1bの閉鎖時に戸先側のガイドローラ63が戸尻側の屈曲部252内に入り込むことを防止している。すなわち、
図8に示すように、戸尻側の屈曲部252には、邪魔板253がその根元部253aを支点に回動自在に設けられており、この邪魔板253の先端部にはローラ254が取り付けられている。引戸1a,1bを閉じるとき、戸先側のガイドローラ63が戸尻側屈曲部252に差しかかったとき、
図8(A)〜(F)に示すように、切り換え板65の斜面65aが邪魔板253の先端のローラ234に当接して邪魔板253を回動させ、戸尻側屈曲部252を閉鎖した状態とする。これにより、戸先側のガイドローラ63は戸尻側屈曲部252に入り込まず、直線状のガイド溝25内を進む。
【0045】
一方、戸先側屈曲部251には、上記のような邪魔板は取り付けられておらず、従って戸先側のガイドローラ63はこの戸先側屈曲部251に嵌まり込む。
【0046】
また、戸尻側の吊金6には上記のような切り換え板65に変えて、
図9に側面図を、
図10に平面図を示すような切り換え板66が取り付けられいてる。この切り換え板66には、引戸1a,1bが閉じる向きに移動する際に前側となる部分に上記した戸先側の吊金6に設けられている切り換え板65の斜面とは逆向きの斜面66aが形成されており、この切り換え板66の存在によって、戸尻側のガイドローラ63は邪魔板253の存在に係わらず確実に戸尻側屈曲部252内に嵌まり込む。すなわち、
図9(A)〜(F)に示すように、引戸1a,1bを閉じるとき、戸尻側のガイドローラ63が戸尻側屈曲部252に差しかかったとき、切り換え板66の斜面66aがローラに当接して邪魔板253を回動させ、戸尻側屈曲部252を開いた状態とする。これにより、戸尻側のガイドローラ63は戸尻側屈曲部252内に嵌まり込む。
【0047】
以上のことから、エアシリンダ21を駆動して引戸1a,1bを閉じると、引戸1a,1bが完全に閉鎖状態になる直前で戸先側のガイドローラ63が戸先側屈曲部251に嵌まり込むと同時に、戸尻側のガイドローラ63が戸尻側屈曲部252に嵌まり込み、これによって引戸1a,1bは枕木方向外側へと案内され、
図4に示すように車両構体Bに取り付けられた弾性部材Eに押し付けられる。
【0048】
そして、前記したように、ガイド溝25の各屈曲部251,252に対応して荷重レール23に斜面が形成されているため、各引戸1a,1bが枕木方向外側に案内されて荷重ローラ62が外側に移動すると同時に下向きの斜面上を転がり、従って各引戸1a.1bは下側にも案内される。
図10に示すように、また、前記したように、各引戸1a.1bの底面には弾性部材E′が取り付けられているため、これらの引戸1a,1bが下方に案内された状態では、
図10(B)のように引戸1a,1bは弾性部材E′を介して靴擦部B′に押し付けられた状態となる。
【0049】
ここで、各吊金6は引戸1a,1bに対してスラスト軸受64を介して鉛直軸の回りに回動自在に取り付けられているため、ガイド溝25の各屈曲部251,252にそれぞれのガイドローラ63が嵌まり込んだとき、各吊金6は鉛直軸の回りに適宜に回動する。
【0050】
また、各引戸1a,1bが枕木方向並びに上下方向に案内されるため、各引戸1a,1bにピストンロッド211もしくはロッド224の変位を伝えるための連結機構26を剛的なものとするとことはできず、以下に示すような機構を採用している。
図11はその部分断面図(A)とその右側面図である。引戸1a,1b側に連結部材261が固着されており、ピストンロッド211(あるいは
図2に示したロッド224、以下同)側には連結部材262が固着されている。引戸1a,1b側の連結部材261の頂部には、スライド台263が固定されている。このスライド台263には、その引戸1a,1bの開閉方向両面に枕木方向に伸びる円弧状の溝263aが形成されている。一方、ピストンロッド211側の連結部材には、互いに対向してスライド台263を挟むような位置関係で一対のボールローラ264が取り付けられている。ボールローラ264はボールを任意の方向に回転自在に支持した部材であり、その各ボールローラ264のボールがスライド台263の各溝263aに対して転がり接触している。スライド台263の円弧状の溝263aの曲率半径はボールローラ264のボールの半径よりも所要寸法だけ大きくしている。そして、引戸1a,1b側の連結部材261と、ピストンロッド211側の連結部材262とは、スライド台263とボールローラ264によってのみ係合している。
【0051】
以上の構成により、ピストンロッド211の直線運動により引戸1a,1bを開閉したとき、引戸1a,1bが枕木方向並びに上下方向に移動しても、スライド台263の溝263aに対して枕木方向並びに上下方向に転がり移動し、ピストンロッド211に枕木方向ないしは上下方向の力が殆ど加わることがない。
【0052】
また、この実施の形態においては、従来の戸袋構造のような下レールを設けない代わりに、戸袋内にレール5を設けることは前記した通りであるが、その詳細について述べると、
図12および
図13に示す通りである。すなわち、引戸1b(1a)の戸尻部にローラ取付金12を突出させ、その先端にローラ11を鉛直軸の回りに回動自在に取り付けている。一方、車両構体B側には、戸袋内にレール5を取り付け、その内部をローラ11が嵌まり込んで案内するように構成している。レール5は枕木方向案内機構による引戸1b(1a)の枕木方向への変位に対応して、閉鎖状態の直前で枕木方向外側に屈曲しており、また、ローラ11はレール5に対して上下方向には拘束されておらず、上下方向案内機構による引戸1b(1a)の上下方向への変位を拘束しない。このような構成により、引戸1a,1bの開閉時における枕木方向並びに上下方向への変位を許容しながら、従来の下レールと同様に引戸1a,1bの下側の振れを抑制することを実現している。
【0053】
更に、以上の構成において、エアシリンダ21、タイミングプーリ221、222、タイミングベルト223、ロッド224、荷重ローラ62並びにガイドローラ63を含む吊金6のユニット、荷重レール23、ガイド板24を含む開閉駆動装置2をユニット化しておくことにより、車両への組み込みを従来の戸袋構造の引戸装置に比して大幅に簡略化することができる。
【0054】
図14は、上記した本発明の実施の形態と従来の戸袋構造の外部からの音の遮蔽効果の相違を確認するために行った実験の結果を示すグラフである。このグラフは横軸に中心周波数[Hz]、縦軸に騒音レベル[dB(A)]をとったもので、同一条件下での従来構造と本発明の実施の形態による結果を併せてプロットしている。このグラフから明らかなように、本発明の実施の形態は、全ての周波数において、従来構造のものに比して騒音の侵入の抑制効果があり、各周波数においておおよそ3〜12dBの遮音効果が確認された。
【0055】
以上のように、1本のエアシリンダ21の駆動により、左右両側の引戸1a,1bが閉じられると同時に、各引戸1a,1bが枕木方向外側並びに下方に案内され、車両構体Bの側壁並びに靴擦部B′に弾性部材E,E′を介して押し付けられるため、引戸1a,1bと車両構体Bとの間の密閉性が向上し、外部からの音や風の車両内への侵入を効率的に防止することができる。しかも、引戸1a,1bの枕木方向並びに上下方向への移動は、別途アクチュエータを必要とすることなく、開閉用のエアシリンダ1本で足り、また、枕木方向案内機構並びに上下方向案内機構は開閉駆動装置2内に収められており、従来の戸袋構造の開閉駆動機構とその所要スペースが変わるところもない。
【0056】
なお、以上の実施の形態においては、枕木方向案内機構として、ガイド板24にガイド溝25を穿ち、そのガイド溝25内にガイドローラ63を嵌め込んだ機構、換言すれば溝カム機構を採用したが、ガイド板24にガイド溝25を穿ったものに代えて、レールを採用することもできる。
【0057】
また、以上の実施の形態においては、ガイドローラ63を戸先および戸尻部分にそれぞれ2個ずつ配した構成を採用しており、この構成によれば、これらのガイドローラ63が屈曲部251ないしは252に入り込んだとき、2個のガイドローラ63の中間部分が安定して吊金6の回転の中心となり、この2個のガイドローラ63の中間位置にスラスト軸受64を配置することにより、吊金6の挙動を安定したものとすることができる。
【0058】
ここで、以上の実施の形態においては、ガイド溝25に設けた2箇所の屈曲部251,252を設け、そのうち、戸尻側のガイドローラ63が入り込む屈曲部252に、戸先側のガイドローラ63が入り込むことを阻止するための邪魔板等を設けた機構を採用したが、これに代えて、引戸の開閉時の戸先側のガイドローラの移動領域外に、戸尻側のガイドローラが入り込むための屈曲部を形成する構成を採用することもできる。その例を
図15に示す。
【0059】
この
図15の例は、各引戸1a,1bの戸先側の吊金601については先の例と同様の位置に設けている一方、戸尻側の上端部分に、引戸開閉方向外側にブラケット10を突出させ、そのブラケット100の上端に戸尻側の吊金602を設けている。各吊金601,602は先の例と同等であり、それぞれに荷重ローラ62とガイドローラ63とを備えている。また、枕木方向案内機構を構成するガイド板24と屈曲部251,252を含むガイド溝25、および、上下方向案内機構を構成する荷重レール23およびそれに形成された斜面については、その基本構成は先の例と同じであり、
図15において図示を省略している。
【0060】
戸先側のガイドローラ63が入り込む屈曲部251と同じく戸先側の荷重ローラ62のための斜面は、
図15においてAで示される位置に形成されており、戸尻側のガイドローラ63が入り込む屈曲部251と同じく戸尻側の荷重ローラ62のための斜面は、
図15においてBで示されている。そして、戸先側のガイドローラ63と荷重ローラ62が配されている戸先側の吊金601は、引戸1bの開閉動作時に
図15においてCで示される範囲を移動する。また、戸尻側のガイドローラ63と荷重ローラ62が配されている戸尻側の吊金602、つまりブラケット100に設けられている吊金802の引戸1bの開閉動作時における移動範囲はDで示される。
【0061】
以上の構成によると、戸先側のガイドローラ63および荷重ローラ62は、引戸1bの開閉動作における全移動範囲で、戸尻側のガイドローラ63および荷重ローラ62のための屈曲部と斜面の形成部位Bの位置を通らず、従って、先の実施の形態のように戸尻側の屈曲部に邪魔板等を設けて戸先側のガイドローラの侵入を規制する対策を講じる必要がない。
【0062】
また、先の実施の形態においては、引戸1a,1bの枕木方向並びに上下方向への変位により、ピストンロッド211ないしはロッド224がこじることを防止するために、これら両者を連結する連結機構26にポールローラ264とスライド台263等を用いた機構を採用したが、本発明はこれに限定されることなく、他の機構を採用することができる。その例を
図16(A)に正面図、(B)に右側面図で示す。
【0063】
図16において
261は引戸1a,1b側に固着された連結部材、262はピストンロッド211ないしはロッド224側に固着された連結部材である。この例では、連結部材261と262をリンク265で連結している。すなわち、リンク265の両端部を連結部材261と262にそれぞれピン265a,265bで接合している。連結部材261側のピン265aはリンク265に形成された貫通孔265cに挿入されているのに対し、連結部材262側のピン265bはリンク265に形成された長孔265dに挿入されている。
【0064】
以上の構成によれば、引戸1a,1bがその開閉時に枕木方向並びに上下方向に変位しても、ピン265aが貫通孔265c内で適宜に回動し、かつ、
ピン265が長孔265d内で適宜に回動並びに移動することになり、引戸1a,1bとピストンロッド211ないしはロッド224との間で枕木方向並びに上下方向への力が伝わることがない。