(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667036
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】オレフィン中に含有されるアセチレン系化合物を除去する、オレフィンの精製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 7/12 20060101AFI20150122BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20150122BHJP
B01D 53/02 20060101ALI20150122BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20150122BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
C07C7/12
C07C11/04
B01D53/02 Z
B01J20/18 E
C08F10/00 510
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-271218(P2011-271218)
(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-121932(P2013-121932A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123227
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 陽
(72)【発明者】
【氏名】水上 茂雄
【審査官】
天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−527104(JP,A)
【文献】
特開2013−122031(JP,A)
【文献】
特表2002−515466(JP,A)
【文献】
特開2010−095494(JP,A)
【文献】
特開2010−095495(JP,A)
【文献】
ゼオライト,2010年 9月10日,V27,P67-73
【文献】
SEPARATION SCIENCE AND TECHNOLOGY,2009年,V44,P874-893
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 7/12
B01D 53/02
B01J 20/18
C07C 11/04
C08F 10/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチレン、メチルアセチレンを不純物として含むオレフィンを、活性アルミナとゼオライトの混合物からなるハイブリッド系吸着剤と接触させ、アセチレン、メチルアセチレンを除去することを特徴とする、オレフィンの精製方法。
【請求項2】
ハイブリッド系吸着剤を100〜650℃の温度で前処理することを特徴とする、請求項1に記載されたオレフィンの精製方法。
【請求項3】
活性アルミナの平均細孔径が1〜100nmであり、ゼオライトの平均細孔径が0.2〜1nmであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載されたオレフィンの精製方法。
【請求項4】
ハイブリッド吸着剤との接触温度が0〜100℃であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載されたオレフィンの精製方法。
【請求項5】
ハイブリッド系吸着剤との接触処理を二段以上の多段にすることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載されたオレフィンの精製方法。
【請求項6】
エチレン又はプロピレン中のアセチレンを除去することを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載されたオレフィンの精製方法。
【請求項7】
精製触媒部分として(イ)モレキュラーシーブ、(ロ)金属酸化物、又は(ハ)活性アルミナによる接触処理を併用することを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載されたオレフィンの精製方法。
【請求項8】
予め他の手段にてアセチレン、メチルアセチレンの濃度を10ppm以下に低下させておくことを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載されたオレフィンの精製方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載された、オレフィンの精製方法によりエチレン及び/又はプロピレンを精製し、さらに当該エチレン及び/又はプロピレンを重合することを特徴とする、エチレン及び/又はプロピレンの重合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン原料の精製方法に関し、詳しくは、オレフィン中に含有されるアセチレン系化合物の不純物を特別の吸着剤により除去する、オレフィンの精製方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油化学工業の基礎原料として利用されるオレフィンにおいて、特に、ポリオレフィン製造用原料として、オレフィンの需要が急速に高まっている。
一般に工業用原料としてのエチレンやプロピレンは、それぞれ炭化水素の熱分解や重質油の接触分解生成物から得られるC3留分の分離等によって製造されている。
しかしながら、このようにして得られる、高分子化学工業用原料としての、工業用オレフィン中には通常、アセチレン、メチルアセチレン等のいわゆる、アセチレン系化合物を始めジエン化合物等の多種の不純物が少量含有されている。これら不純物、特にアセチレン系化合物はオレフィンの重合において、触媒を被毒する作用があり、触媒効率の低下といった問題を引き起こす。そのため、これら不純物を除去するための検討が以前より行われてきた。
【0003】
一般的に、混合ガス中に不純物として含まれる微量な有害成分を選択的に除去する方法としては、大別すると、物理吸着による方法(「物理的除去法」という)と、化学反応により除去する方法(「化学的除去法」という)とに分けられる。
工業用オレフィンにおける不純物の除去方法としては、具体的には、以下のような除去方法が提案されている。
【0004】
先ず、オレフィン中のアセチレン系化合物を除去する、化学的除去法である一般的な方法として、例えば、特許文献1〜3に開示されたような、アルミナ担体に担持されたパラジウム触媒により、選択的に水素化反応し除去する方法が挙げられる。
また、その方法を応用した精製方法として、最初にC2及びC3オレフィン系ガスを別々の供給流に分離することなく、気相過程において同時にアセチレン類及びジオレフィン類不純物を選択的に水素化する、アセチレン系及びジオレフィン系不純物を含むC2及びC3オレフィン系供給流の選択的水素化方法が開示されている(特許文献4参照)。
しかしながら、いずれの方法においても高価な貴金属元素であるPdを使用することから、工業的規模で使用するには経済的に問題があった。そればかりでなく、オレフィン供給流中に水素ガス(H
2)を導入し化学的除去(水添反応)することからH
2の供給ラインが必要となり、また、未反応のH
2がオレフィン流に残存する問題もあった。
【0005】
その他の、物理的除去法による、オレフィン中のアセチレン系化合物を除去する方法としては、例えば、炭素数2〜8のオレフィンと、同じ若しくは同様な炭素含量を有するアセチレン系不純物と、任意の飽和炭化水素ガスとを含むガス混合物を、BETガス吸着方法で測定して10〜2,000m
2/gの範囲内の表面積を有し、その上部にクロム、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、パラジウム及び白金から成る群から選択された少なくとも1種類の金属元素の、吸着剤の総重量に基づいて0.01〜40%が分散した、アルミナ、シリカ、活性炭、粘土及びゼオライトから成る群から選択された担体物質を主として含む吸着剤の粒状床に通して、床内の本質的に分子状水素を含まない雰囲気の存在下で、吸着剤による、含有されるアセチレン系汚染物の選択的かつ可逆的な吸着及び/又は錯体形成を行わせて、それによって予め定められたレベル未満のアセチレン系不純物を含有する精製流出物を得る工程と;その後に、結果としての吸着剤床を分子状水素を含む還元性ガスの存在下で再生して、吸着剤から含有されるアセチレン系不純物を放出させる工程とを含む精製方法が開示されている(特許文献5参照)。
しかしながら、本手法においてもPdなどの高価な貴金属元素を使用する方法も含まれ、分子状水素の供給も必要であって、工業的規模で使用するには経済的に問題があった。
【0006】
一方、銅及び亜鉛を含む触媒での不飽和炭化水素の水素化方法であって、有効成分が、未還元の形で、10〜95質量%の、酸化銅(II)として計算される酸化銅(CuO)と、5〜90質量%の酸化亜鉛(ZnO)と、必要により0.1〜50質量%の二酸化ジルコニウム(ZrO
2)と、必要により0.1〜50質量%のAl
2O
3とから本質的になる触媒を使用することを特徴とする水素化方法が開示されている(特許文献6参照)。
また、アルミナ等の酸化物担体上の触媒を使用した、アルキン等の不飽和化合物を含む炭化水素流中の不飽和化合物を選択的に水素化する方法も開示されている(特許文献7参照)。
これらの手法においては、Pdなどの高価な貴金属元素は使用しないものの、H
2の供給は必要であるため、その供給設備が必要で、オレフィン流中にH
2が残存する問題は解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許明細書第3,113,980号
【特許文献2】米国特許明細書第4,126,645号
【特許文献3】米国特許明細書第4,329,530号
【特許文献4】特表2004−511533号公報
【特許文献5】特表2001−514696号公報
【特許文献6】特表2009−543834号公報
【特許文献7】特表2008−515631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来においては、種々の方法により製造された工業用オレフィン原料中には、通常、アセチレン、メチルアセチレン等の不純物のアセチレン系化合物が含有されている。この工業用オレフィンを、ポリマー製造用の原料モノマーとして使用するためには、含有されているアセチレン系化合物を1ppmよりも下の濃度レベル、時には0.1ppmよりも下のレベルにまで除去して、重合用触媒の被毒を防止する必要があるところ、背景技術として前述したように、従来のアセチレン系不純物の除去方法は、高価な触媒金属を使用したり、また、水素ガスの使用のために水素ガス供給ラインを必要とし、水素ガスが精製オレフィンに残存する問題があった。
そこで、本発明は、オレフィン原料からアセチレン系不純物を除去する際に、高価な触媒貴金属を使用せず、水素ガス供給が不要で、水素ガスの残存がないことにより、経済的で、簡易かつオレフィン精製を効率的に行える、オレフィン原料におけるアセチレン系不純物の除去精製方法を開発することを、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の発明の課題を解決するために、高価な触媒貴金属を使用しない触媒金属を使用し、かつ水素ガスによる精製方法に依らずに、種々の触媒金属により、オレフィン原料からのアセチレン系不純物の除去精製方法を勘案試行して、特定の吸着剤を採用することにより、本発明の課題を解決し得ることを見い出して、本発明を創出するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、上記公知技術及びその問題点を鑑みてなされたものであり、エチレン、プロピレンをポリマー製造用の原料モノマーとして使用するために、これらの原料モノマーにおいて、重合用の触媒を被毒させるアセチレン系化合物を重合用触媒に悪影響を及ぼさない程度の含有量にまで低減する簡便かつ効率的な方法であり、更にモノマー中にH
2等のポリマー分子量に影響を与える物質が混入しない利点を有する。
【0011】
本発明では、発明の主要な要件として、活性アルミナとゼオライトの混合物からなるハイブリッド系吸着剤(以下単に、「ハイブリッド系吸着剤」ともいう)を用いることで、触媒被毒の原因となるオレフィン、特にエチレン、プロピレン中の、不純物としてのアセチレン系化合物を従来よりも効率的かつ確実に除去することが可能となる。
よって、本発明の第一の発明(基本発明;請求項1)は、アセチレン系化合物を不純物として含むオレフィンを、活性アルミナとゼオライトの混合物からなるハイブリッド系吸着剤と接触させ、アセチレン系化合物を除去することを特徴とする、オレフィンの精製方法、となる。
【0012】
なお、活性アルミナとゼオライトの混合物からなるハイブリッド系吸着剤は、従来から知られた吸着剤であるが、炭化水素の精製には、C4留分のブテン系の炭化水素からエーテル類やアルコール類等の含酸素化合物を除去する方法に使用されているのみであり(特開2010−095494,特開2010−095495)、従来の特許文献などを精査しても、オレフィン原料からのアセチレン系不純物の除去精製を行う、上記した本発明の要件(発明の特定事項)は見い出せない。そして、本発明は、後記の実施例により実証されているとおり、アセチレン系不純物が検出限界以下(0.1ppm以下)までに除去され得る。
【0013】
段落0011に前記した、本発明の基本発明に付随する実施の態様発明(従属請求項の各発明)としては、第二の発明として、ハイブリッド系吸着剤を100〜650℃の温度で前処理することを特徴とする、第一の発明におけるオレフィンの精製方法であり、第三の発明として、活性アルミナの平均細孔径が1〜100nmであり、ゼオライトの平均細孔径が0.2〜1nmであることを特徴とする、第一又は第二の発明におけるオレフィンの精製方法であり、第四の発明として、ハイブリッド吸着剤との接触温度が0〜100℃であることを特徴とする、第一〜第三の発明におけるオレフィンの精製方法であり、第五の発明として、ハイブリッド系吸着剤との接触処理を二段以上の多段にすることを特徴とする、第一〜第四の発明におけるオレフィンの精製方法である。
【0014】
更に、第六の発明として、エチレン又はプロピレン中のアセチレンを除去することを特徴とする、第一〜第五の発明におけるオレフィンの精製方法であり、第七の発明として、精製触媒部分として(イ)モレキュラーシーブ、(ロ)金属酸化物、又は(ハ)活性アルミナによる接触処理を併用することを特徴とする、第一〜第六の発明におけるレフィンの精製方法であり、第八の発明として、予め他の手段にてアセチレン系化合物の濃度を10ppm以下に低下させておくことを特徴とする、第一〜第七の発明におけるオレフィンの精製方法であり、第九の発明として、第一〜第八の発明における、オレフィンの精製方法により精製されたエチレン及び/又はプロピレンを用いることを特徴とする、エチレン及び/又はプロピレンの重合方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、オレフィン原料からアセチレン系不純物を除去する際に、高価な触媒貴金属を使用せず、水素ガス供給が不要で、水素ガスの残存がないことにより、経済的で、簡易にオレフィン精製を効率的に行える。
具体的には、本発明により、アセチレン系化合物を除去して精製したエチレン、プロピレンは、不純物に弱い重合触媒、例えばメタロセン触媒の重合用モノマーとして用いることが可能であり、ポリエチレン、ポリプロピレン単独重合体やプロピレン・α−オレフィン共重合体、プロピレンブロック共重合体などを触媒の被毒なく、安定した触媒効率で生産することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下においては、本発明の各請求項に係る、原料オレフィン、ハイブリッド吸着剤、精製処理手法等について、本発明を詳細に説明する。
【0017】
〔I〕原料オレフィン
本発明において原料として使用されるオレフィンは、種々の方法によって製造された、アセチレン系化合物を含有する工業用オレフィンを用いることができるが、特にエチレンプラントのロードアップや重質油の接触分解生成物から得られるC2,3留分の分離等によって製造される工業用エチレン、及びFCCプロピレン(FCC;Fluid Catalytic Cracking Process)を用いる場合に好適に適用される。
これら原料オレフィン中に含有されるアセチレン系化合物は、100ppm以下の場合に適用され、特に10ppm以下であることが好ましい。仮に、原料オレフィン中に100ppmを超える濃度でアセチレン系化合物が含有されている場合には、予め蒸留やPSA(Pressure Swing Adsorption)法などの他の手段にてアセチレン系化合物の濃度を10ppm以下に予め低下させておくことが望ましい。
【0018】
〔II〕ハイブリッド系吸着剤
(1)吸着剤の組成
本発明で用いられるハイブリッド系吸着剤は、活性アルミナ及びゼオライトの混合物からなり、活性アルミナ及びゼオライトの合計100重量%中、通常、活性アルミナ20〜80重量%及びゼオライト80〜20重量%、好ましくは活性アルミナ30〜70重量%及びゼオライト70〜30重量%の混合物からなる。
なお、段落0012に前記したように、かかるハイブリッド系吸着剤は、従来から知られた吸着剤であり、ハイブリッド系吸着剤は、市販品を用いてもよい。
通常、原料オレフィンはアセチレン系化合物以外の不純物(例えば、H
2O,CO、COS等)も含んでいるため、ハイブリッド系吸着剤を充填した吸着カラムの前後に別途、モレキュラーシーブス、活性アルミナ、金属酸化物等を充填した吸着カラムを併用し、それらの不純物を除去することができる。
【0019】
ハイブリッド系吸着剤を構成する活性アルミナとは、水酸化アルミナを結晶性の低い多孔質の酸化アルミニウムに転移させて吸着能力を持たせたものをいい、比表面積及び細孔容積が高く、優れた吸着能力を有する。活性アルミナは、市販品を用いてもよいし、公知の方法により製造してもよい。
【0020】
上記活性アルミナの平均細孔径は通常1〜100nm、好ましくは1〜80nmである。活性アルミナの平均粒径は特に制限はなく、平均細孔径が上記の範囲であると、アセチレン系化合物を含む種々の不純物を効率的に吸着させることができるので好ましい。
好ましい活性アルミナとしては特に制限されるものではないが、γ−アルミナなどが挙げられる。
【0021】
ハイブリッド系吸着剤を構成するゼオライトは、公知の方法により合成して製造することができる。
上記ゼオライトの平均細孔径は、通常0.2〜1nm、好ましくは0.5〜1nmである。ゼオライトの平均粒径は特に制限はなく、平均細孔径が上記の範囲であると、アセチレン系化合物を含む種々の不純物を効率的に吸着させることができるので好ましい。
【0022】
好ましいゼオライトとしては特に制限されるものではないが、ゼオライトX、Y及びA等が挙げられ、特に好ましくはゼオライトX等が挙げられる。(なお、これらの各種ゼオライトは、ゼオライトの種類としての通称であり周知のものである。)
なお、オレフィン中に水及びアルコールなどの極性を有する不純物が多く含まれていると、これらの不純物がアセチレン系化合物よりも優先してハイブリッド系吸着剤に吸着されるので、ゼオライト(モレキュラーシーブス)やアルミナ等の吸着剤をハイブリッド系吸着剤の前段に併用することもでき、むしろ、そうする方が好ましい。
ハイブリッド系吸着剤と併用される単独のゼオライト及び活性アルミナ吸着剤の平均粒径は特に制限はないが、平均細孔径は上述した範囲のものを使用するのが好ましい。
【0023】
平均細孔径の測定法は、窒素吸脱着法による吸着及び脱離等温線の測定等が用いられる。本測定においては、窒素ガスを使用する。細孔分布を調べるときに一般的な吸着ガスとしての特性もよく使用されているためである。
脱離等温線は相対圧を減少させた場合に得られる曲線である。脱離等温線の方が、吸着等温線に比べて、同一の吸着ガス量に対してより低い相対圧力を示し、結果的により低い自由エネルギー状態を示すために、より真の熱力学的安定に近い状態であると一般的に考えられている。
上記分析装置としては、カンタークロム社(オートソーブ)、日本ベル社(ベルソープ)、コールター社(40オムニソープ)等の一般市販品が使用可能である。細孔分布の計算方法としては、BJH法が最も一般的である。
測定方法の一例を以下具体的に示す。温度77Kで、圧力は相対圧P/P
0(P
0は、大気圧である)が0.02〜1の範囲で測定する。BJH法により、横軸を細孔直径(単位:オングストローム,Å)、縦軸に細孔容積の微分値(単位:cm
3/g)で表現する。測定回数は通常1回で充分である。
【0024】
(2)吸着剤の形状
本発明において用いられる吸着剤の形状は、特に制限は無く、ペレット状、粉末状、粒状の他、円滴状、円盤状などに成形されたものでもよい。吸着材の形状は、使用態様に応じて適宜選択すればよく、その大きさも、使用条件に応じて適宜選択できる。
【0025】
〔III〕処理条件
(1)ハイブリッド系吸着剤の前処理(活性化処理)
本発明のハイブリッド系吸着剤は前処理として加熱活性化処理されていることが好ましい。
本発明の前処理(活性化処理)温度は、不活性ガス流通下、100〜650℃であり、好ましくは200〜600℃、より好ましくは300〜600℃、最も好ましくは400〜600℃である。前処理温度が高過ぎるとゼオライト結晶の崩れが激しくなり除去効率が低下し、前処理温度が低過ぎると除去効率が低くなる。不活性ガスとしては窒素、アルゴン、ヘリウム等が使用できる。
本発明の前処理(活性化処理)時間は、0.1〜100時間、好ましくは0.5〜50時間、より好ましくは1〜25時間である。
【0026】
(2)オレフィンとハイブリッド系吸着剤の接触温度
本発明の接触温度は、0〜100℃であり、好ましくは10〜60℃であり、より好ましくは20〜50℃の範囲である。処理温度が高過ぎると液化オレフィンの場合には気化し処理操作が効率的でなくなる。また、気体オレフィンの場合には副反応が生じる懸念がある。同様に処理温度が低過ぎると除去効率が低くなる。
【0027】
(3)オレフィンとハイブリッド系吸着剤の接触時間
本発明の接触時間としては、オレフィン中のアセチレン系化合物濃度、ハイブリッド系吸着剤量、接触温度、接触圧力等により適宜選択される。通常は1分〜100時間である。
【0028】
(4)オレフィンとハイブリッド系吸着剤の接触圧力
本発明の接触圧力としては、常圧で行なうことができるが、0.2〜5MPa、好ましくは、0.5〜4MPaの圧力下においても行なうことができる。
【0029】
(5)オレフィンとハイブリッド系吸着剤の接触方法
本発明の接触方法としては、通常はオレフィンをガス状で流通接触させるが、これに限定されるものではなく、プロピレンの場合には液状で接触させても良い。ハイブリッド系吸着剤の充填態様としては、接触塔の形状に応じて適宜選択すればよく、一般的には固定床が用いられるが、移動床、流動床等として充填することもできる。
【0030】
(6)他の吸着剤による補足処理
特にメタロセン触媒などの不純物の影響を受け易い触媒によるオレフィンの重合では、アセチレン系化合物濃度を下げるために、オレフィンを、本発明の活性アルミナとゼオライトの混合物からなるハイブリッド系吸着剤で接触処理することが有用であるが、更に各種の慣用の追加可能な精製触媒部分による接触といえる(イ)モレキュラーシーブ接触、(ロ)金属酸化物接触、及び(ハ)活性アルミナ接触、との併用接触をすることにより、アセチレン系化合物以外のその他多種の不純物を除去することが可能となり有益である。
【0031】
このような、いわゆる併用接触による実施態様の例を示すと以下のとおりになる。
(1)モレキュラーシーブ接触後に、ハイブリッド系吸着剤による併用接触
(2)金属酸化物接触後に、ハイブリッド系吸着剤による併用接触
(3)活性アルミナ接触後に、ハイブリッド系吸着剤による併用接触
(4)ハイブリッド系吸着剤接触後に、金属酸化物又は金属酸化物の複合酸化物による併用接触
(5)金属酸化物又は金属酸化物の複合酸化物による接触後に、ハイブリッド系吸着剤接触、次いで金属酸化物又は金属酸化物の複合酸化物による多段併用接触
【0032】
以上のハイブリッド系吸着剤、及び追加可能な精製触媒による接触処理は、オレフィンの性状、品質を考慮して種々の組み合わせの変更及び回数などを、任意に多段に設定できる。というのも、活性アルミナとゼオライトの混合物からなるハイブリッド系吸着剤による接触は、専ら、ハイブリッド系吸着剤の含有量を順次低下させるのに対して、この追加可能な精製触媒はそれ以外の触媒毒のような不純物の含有量を順次低下させることにも有益であり、具体的には、例えば、エチレン、プロピレンを重合に供する場合に、あらゆる触媒毒を無害化することにより、メタロセン触媒の活性を全体的に維持するという点で顕著に有用である。
このように、エチレン、プロピレンを、予めモレキュラーシーブ接触、金属酸化物又は金属酸化物の複合酸化物接触、或いは活性アルミナなどの追加可能な汎用の各種の精製触媒部分と接触後、ハイブリッド系吸着剤により接触する併用接触も有益である。ハイブリッド系吸着剤処理を二段、三段にすることも可能であり、又追加可能な精製触媒部分を任意に多段に併設すること、その接触前後を任意に変えるいずれの態様も本発明の技術範囲に含まれる。
【0033】
〔IV〕アセチレン濃度測定
モレキュラーカーボンカラムを用いたGC/MS分析(ガスクロ/マス分析)にて行う。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の実施例と比較例との対照において、本発明の構成要件の合理性と有意性及び本発明の卓越性を実証するものである。
【0035】
[実施例1]
予めハイブリッド系吸着剤として、平均細孔径1〜100nmの活性アルミナと平均細孔径0.9nmのゼオライトから成るAZ−300(#7×14 1.4−2.8mmφ UOP社/ユニオン昭和製)0.5gをU字管に仕込み、600℃、Heガス流通下で前処理を行った。
アセチレンの吸着性はエチレンを吸着材に通す前後の濃度で評価をした。また標準ガスとして、アセチレン4ppm含有のエチレンガスを用いた。予め処理したハイブリッド系吸着剤に、25℃にて50cc/minの速度で90分間エチレンガスを流した。90分経過時の通過ガスをサンプリングボトルに採取し、He気流下、on−lineでGC/MSへ導入した。GCカラムとしてパックドカラム(shincarbonST)を用いた。吸着剤通過後のアセチレン濃度を表1に示す。
【0036】
[比較例1]
予めパラジウム/アルミナ吸着剤として、PolyMax200(3−5mm Sph.ズード・ケミー製)0.1gをU字管に仕込み、150℃、Heガス流通下で前処理を行った。また、20分間エチレンガスを流し、接触温度を40℃とすること以外は実施例1と同様に行った。
【0037】
[比較例2]
PolyMax200を0.5g充填、多量のH
2(>180ppm)による水添反応を行ったこと以外は比較例1と同様に行った。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果を見ると、本願の実施例にあっては、エチレン流通量50cc/minで90分間流通継続において、アセチレンが検出限界以下(0.1ppm以下)までに除去され、かつ、水添反応に依らないため水素が混入していない。
これに対して、高価なパラジウム/アルミナを用いる比較例1にあっては、水添反応には依らないものの、吸着能力が不十分なため吸着剤接触後もアセチレンが多量に残存していた。また、比較例2にあっては、水添反応により実施例1と同様にアセチレンが検出限界以下(0.1ppm以下)までに除去されている。しかし、多量のH
2を使用することから吸着剤接触後にH
2が残存していた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のオレフィンの精製方法は、オレフィン、特にエチレン、プロピレン中のアセチレン系化合物の不純物を、経済的に簡便かつ極めて効率的に吸着除去できる。そのため、精製したオレフィンはモノマーとして使用した場合に、重合用触媒、特にメタロセン触媒の被毒が極めて少ないため、飛躍的に安定した触媒効率での生産が可能となる。更に、水添反応に依らないため、オレフィンモノマー中にH
2が残存することなく、特に、H
2に対して反応性の高いメタロセン触媒での分子量制御性が安定する。
以上の理由から、ポリプロピレン単独重合体、ポリエチレン単独重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン系ブロック共重合体等々の製造や、オレフィンを接触反応原料として用いる有機化合物(例えばフェノールやアクリル酸等々)の製造におけるコストを大幅に低減でき、よって、重合用モノマー材料や接触反応原料としての利用が格段に広がる。