特許第5667038号(P5667038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667038
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】車両の電子キーシステム
(51)【国際特許分類】
   E05B 49/00 20060101AFI20150122BHJP
   B60R 25/00 20130101ALI20150122BHJP
   B60R 25/10 20130101ALI20150122BHJP
【FI】
   E05B49/00 K
   B60R25/00
   B60R25/10
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-280387(P2011-280387)
(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-130013(P2013-130013A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年5月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】小塩 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】森 裕史
(72)【発明者】
【氏名】川村 将之
【審査官】 家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−348497(JP,A)
【文献】 特開2009−217371(JP,A)
【文献】 特許第4528528(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00−85/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車載機の通信エリアに携帯機が位置していることを条件に前記車載機と前記携帯機との間で無線通信を行い、前記携帯機は、前記車載機から送信される第1の無線信号を受信した際にその第1の無線信号に含まれる、RSSI値を測定するためのバースト部により当該第1の無線信号の受信信号強度を測定するとともに、同測定結果を含む第2の無線信号を前記車載機に送信し、前記車載機は、前記第2の無線信号に含まれる前記受信信号強度の測定結果に基づき前記通信エリア内における前記携帯機の位置を判定し、同判定結果に応じた車両制御を実行する車両の電子キーシステムにおいて、
前記携帯機は、前記第1の無線信号の受信信号強度の測定を複数回行い、
前記車載機は、前記携帯機により測定される受信信号強度の複数の測定結果のうち、強度の大きいものから一定数の測定結果を除く残りの測定結果に基づき前記携帯機の位置を判定する
ことを特徴とする車両の電子キーシステム。
【請求項2】
前記携帯機の位置の判定が、前記複数の測定結果のうち、強度の大きいものから一定数の測定結果を除く残りの測定結果の平均値に基づいて行われる
請求項1に記載の車両の電子キーシステム。
【請求項3】
前記一定数が、1つに設定されてなる
請求項1又は2に記載の車両の電子キーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両と電子キーとの間の無線通信を通じて車両の各種制御を実行する電子キーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機(電子キー)を所持したユーザが車両のドアノブに手を触れることにより車両ドアが解錠されるとともに、ユーザがダッシュボードに設けられたエンジンスイッチを押下操作することによりエンジンが始動される、いわゆる電子キーシステムが周知である。そして従来、このような電子キーシステムとしては、例えば特許文献1に記載のシステムが知られている。
【0003】
この特許文献1に記載の電子キーシステムでは、車室外及び車室内に設定された複数の通信エリアに無線信号をそれぞれ送信するための複数の送信機が設けられている。そして、ユーザが車両のドアノブに手を触れたとすると、各送信機から第1の無線信号がそれぞれ送信される。そして、これらの第1の無線信号がユーザの所持する携帯機により受信されると、携帯機は、各送信機から送信された第1の無線信号について受信信号強度(RSSI)の値をそれぞれ測定するとともに、それぞれのRSSI値の測定結果と、自身の識別コードを含む第2の無線信号を送信する。そして、携帯機から送信された第2の無線信号は、車両に搭載された受信機を介して車載機により受信される。車載機は、こうして第2の無線信号を受信すると、同第2の無線信号に含まれる携帯機の識別コードと、内蔵するメモリに含まれる識別コードとの照合を行うことにより、携帯機の認証を行う。また、第2の無線信号に含まれる各RSSI値に基づいて携帯機の位置を判定する。そして、携帯機の認証が成立して且つ、携帯機が車両ドアの周辺に位置していると判定された場合には、車両ドアを解錠する。
【0004】
このような構成によれば、携帯機の位置を高い精度で判定することができるため、携帯機の位置に応じた、換言すればユーザの位置に応じた車両制御がより適切に実行されるようになる。したがって、電子キーシステムとしての信頼性を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−348497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような車両の電子キーシステムでは、車両の送信機から送信される第1の無線信号にノイズが混入するようなことがあると、携帯機が、第1の無線信号のRSSI値ではなく、ノイズのRSSI値を測定するおそれがある。なお、第1の無線信号に混入するノイズとしては、例えば車両に搭載された点火プラグやワイパ駆動用モータなどがその駆動に際して発する発生時間が極めて短くて且つ強度の強いノイズ、いわゆるスパイクノイズなどがある。そしてこのようなスパイクノイズのRSSI値を携帯機が測定するようなことがあると、携帯機から送信される第2の無線信号にスパイクノイズのRSSI値が含まれることとなるため、車載機は、スパイクノイズのRSSI値に基づいて携帯機の位置を判定してしまう。この場合、携帯機の位置を適切に判定することが困難となるため、携帯機の位置に応じた適切な車両制御を実行することができなくなるなど、車両の電子キーシステムの動作に支障をきたしかねない。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スパイクノイズが発生するような環境下であっても、誤動作を抑制することができる車両の電子キーシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両に搭載された車載機の通信エリアに携帯機が位置していることを条件に前記車載機と前記携帯機との間で無線通信を行い、前記携帯機は、前記車載機から送信される第1の無線信号を受信した際にその第1の無線信号に含まれる、RSSI値を測定するためのバースト部により当該第1の無線信号の受信信号強度を測定するとともに、同測定結果を含む第2の無線信号を前記車載機に送信し、前記車載機は、前記第2の無線信号に含まれる前記受信信号強度の測定結果に基づき前記通信エリア内における前記携帯機の位置を判定し、同判定結果に応じた車両制御を実行する車両の電子キーシステムにおいて、前記携帯機は、前記第1の無線信号の受信信号強度の測定を複数回行い、前記車載機は、前記携帯機により測定される受信信号強度の複数の測定結果のうち、強度の大きいものから一定数の測定結果を除く残りの測定結果に基づき前記携帯機の位置を判定することを要旨とする。
【0009】
スパイクノイズは、一般に、単発のノイズであるため、その影響を受けるのは無線信号全体のごく一部である。したがって、上記構成によるように、車載機から送信される第1の無線信号の受信信号強度を携帯機において複数回測定することとすれば、仮に第1の無線信号にスパイクノイズが混入したとしても、複数の測定結果の全てがスパイクノイズの影響を受けることはまれであり、通常はそれら測定結果のいずれかがスパイクノイズの影響を受けることとなる。そして、車載機では、それら複数の測定結果のうちの大きいものから一定数の測定結果を除く残りの測定結果に基づいて携帯機の位置が判定されるため、スパイクノイズの影響の少ない測定結果に基づいて携帯機の位置が判定されることとなる。これにより、携帯機の位置をより高い精度で判定することが可能となるため、電子キーシステムの誤動作を抑制することが可能となる。
また、受信信号強度を測定するための新たな信号を車載機から携帯機に送信する必要がなくなるため、当該新たな信号を携帯機と車載機との間で授受する必要がなくなり、それらの間の通信時間を短縮することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の電子キーシステムにおいて、前記携帯機の位置の判定が、前記複数の測定結果のうち、強度の大きいものから一定数の測定結果を除く残りの測定結果の平均値に基づいて行われることを要旨とする。
【0011】
同構成によるように、受信信号強度の測定結果の平均値を求めるとともに、同平均値に基づいて携帯機の位置を判定することとすれば、受信信号強度の測定結果のばらつきによる影響を抑制しつつ、携帯機の位置を判定することが可能となる。これにより、携帯機の位置をより高い精度で判定することができるため、電子キーシステムの誤動作をより的確に抑制することが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両の電子キーシステムにおいて、前記一定数が、1つに設定されてなることを要旨とする。
スパイクノイズは単発のノイズであるため、携帯機により測定される受信信号強度の複数の測定結果のうちの一つがノイズの影響を受けることが多い。よって、上記構成によるように、携帯機により測定される受信信号強度の複数の測定結果のうち、最も強度の大きいもののみを除く残りの測定結果に基づいて携帯機の位置を判定することとすれば、スパイクノイズの影響を抑制しつつ携帯機の位置を判定することが可能である。そしてこのように、携帯機により測定される複数の測定結果のうちの一つのみを除外するという方法であれば、受信信号強度の測定回数を数回程度に設定することができるため、受信信号強度の測定にかかる時間が大幅に長くなることはない。これにより、携帯機と車載機との間の通信時間を極力短くすることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる車両の電子キーシステムによれば、スパイクノイズが発生するような環境下であっても、誤動作を抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態にかかる車両の電子キーシステムの一実施形態についてそのシステム構成を示すブロック図。
図2】車両の平面構造を示す平面図。
図3】(a)〜(c)は、車載機の第1及び第2の送信機、並びに携帯機からそれぞれ送信される信号の内容を示すタイムチャート。
図4】同実施形態の車両の電子キーシステムにおいて車載機の第1及び第2の送信機から送信されるウェイク信号のフレーム構成を模式的に示す図。
図5】同実施形態の車両の電子キーシステムによるウェイク信号のRSSI値を測定する処理の手順を示すフローチャート。
図6】同実施形態の車両の電子キーシステムにおいてウェイク信号のRSSI値が演算される様子を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる車両の電子キーシステムの一実施形態について図1図6を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる車両の電子キーシステムでは、ユーザが携帯所持する携帯機1と、車両に搭載された車載機2との間で無線通信による各種通信制御が実行される。
【0016】
このうち、携帯機1は、車載機2から送信される無線信号を受信する受信機10、及び車載機2に対して無線信号を送信する送信機11を備えている。受信機10は、車載機2から送信される無線信号を受信すると、これを受信処理し、携帯機1の各種制御を実行する携帯機制御部13に出力する。また、受信機10には、受信される無線信号の受信信号強度(RSSI)の値を検出するRSSI回路12が設けられている。RSSI回路12は、無線信号のRSSI値を検出すると、その検出結果を携帯機制御部13に出力する。携帯機制御部13は、受信機10を介して受信される無線信号に基づいて送信機11からの無線信号の送信を行う。携帯機制御部13は、受信機10を介して受信した無線信号がウェイク信号である場合、携帯機1を起動させるとともに、携帯機1が起動したことを示すアック信号を送信機11を介して車載機2に送信する。また、携帯機制御部13は、ウェイク信号を受信した場合、そのRSSI値をRSSI回路12を通じて検出するとともに、その検出結果を、内蔵するメモリ13aに記憶する。このように、本実施形態では、RSSI値の測定に用いられる第1の無線信号がウェイク信号となっている。一方、携帯機制御部13は、受信機10を介して受信した無線信号がリクエスト信号である場合、メモリ13aに記憶されているウェイク信号のRSSI値、及び認証情報である識別コード(IDコード)を含むレスポンス信号を生成してこれを送信機11から送信する。このように、本実施形態では、RSSI値の測定結果を含む第2の無線信号がレスポンス信号となっている。
【0017】
車載機2は、所定の通信エリアに無線信号を送信する第1及び第2の送信機20,21、並びに携帯機1から送信される無線信号を受信する受信機22を備えている。
第1の送信機20は、図2に示すように、運転席のドアに設けられており、同運転席のドアの外側周辺及び車室内に設定された第1の通信エリアA1に無線信号を送信する。また、第2の送信機21は、助手席のドアに設けられており、同助手席のドアの外側周辺及び車室内に設定された第2の通信エリアA2に無線信号を送信する。第1及び第2の通信エリアA1,A2は、車室内に設定されたそれぞれのエリアが互いに重畳するように設定されている。さらに、図1に示す受信機22は、携帯機1から送信される無線信号を受信すると、これを受信処理して、車両の各種制御を実行する車載制御部29に出力する。
【0018】
また、車載機2は、ユーザにより操作される部分として、エンジンを始動する際に操作されるエンジンスイッチ23、及び車両ドアをロックする際に操作されるロックスイッチ24を備えている。エンジンスイッチ23は、ユーザにより押下操作されるタイプのスイッチであり、図2に示すように、車両のダッシュボードに設けられている。エンジンスイッチ23は、ユーザにより押下操作されると、そのことを示す操作信号を車載制御部29に出力する。また、ロックスイッチ24も、ユーザにより押下操作されるタイプのスイッチであり、図2に示すように、車両のドアノブに設けられている。ロックスイッチ24は、ユーザにより押下操作されると、そのことを示す操作信号を車載制御部29に出力する。
【0019】
さらに、図1に示すように、車載機2は、ユーザの車両操作を検出するためのセンサとして、車両のブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ25、及びユーザの手がドアノブに触れたか否かを検知するタッチセンサ26を備えている。ブレーキセンサ25は、ユーザによるブレーキペダルの操作の有無を検出するとともに、この検出した操作の有無に応じた信号を車載制御部29に出力する。また、タッチセンサ26は、例えば静電容量センサからなるものであり、ユーザの手がドアノブに接触したか否かを検出するとともに、その検出結果を車載制御部29に出力する。
【0020】
そして、車載制御部29は、各スイッチ23,24及び各センサ25,26の出力に基づいて第1及び第2の送信機20,21から無線信号を送信したり、受信機22を介して受信される無線信号に基づき各種車両制御を実行する。
【0021】
車載制御部29は、以下の(a1)〜(a3)のいずれかの条件が満たされたとき、図3(a)に示すように、ウェイク信号を生成してこれを第1の送信機20から送信する。
(a1)エンジンスイッチ23の出力に基づき同スイッチ23が押下操作されたことを検知すること。
【0022】
(a2)ロックスイッチ24の出力に基づき同スイッチ24が押下操作されたことを検知すること。
(a3)タッチセンサ26の出力に基づきユーザの手がドアノブに触れたことを検知すること。
【0023】
ここで、携帯機1が先の図2に例示した第1の通信エリアA1に位置していた場合には、図3(c)に示すように、携帯機1からウェイク信号の受信に基づきアック信号が送信されるため、車載制御部29は、携帯機1から送信されるアック信号を受信機22を介して受信する。車載制御部29は、こうしてアック信号を受信すると、図3(a)に示すように、リクエスト信号を生成してこれを第1の送信機20から送信する。そして、このリクエスト信号の送信に基づいて、図3(c)に示すように、携帯機1からレスポンス信号が送信されると、車載制御部29は、レスポンス信号を受信機22を介して受信する。このとき、車載制御部29は、レスポンス信号に含まれる識別コードと、内蔵するメモリ29aに記憶されている識別コードとの照合を行うことで、携帯機1の認証を行う。そして、互いの識別コードが一致した場合には、携帯機1の認証が成立したと判断する。
【0024】
一方、車載制御部29が受信したレスポンス信号にはウェイク信号のRSSI値が含まれているが、このRSSI値と、第1の送信機20から携帯機1までの距離との間には相関関係がある。具体的には、RSSI値が大きいほど、第1の送信機20から携帯機1までの距離が短いといった相関関係がある。本実施形態では、このようなウェイク信号のRSSI値と、第1の送信機20から携帯機1までの距離との関係が予めの実験などを通じて求められており、それらの関係がマップとして車載制御部29のメモリ29aに記憶されている。車載制御部29は、メモリ29aに記憶されているマップを用いて、レスポンス信号に含まれるウェイク信号のRSSI値から、第1の送信機20から携帯機1までの距離を演算する。
【0025】
また、車載制御部29は、第1の送信機20からのウェイク信号及びリクエスト信号の送信に続いて、図3(b)に示すように、第2の送信機21からウェイク信号を送信する。このとき、携帯機1が先の図2に例示した第2の通信エリアA2に位置していた場合には、図3(b),(c)に示すように、第2の送信機21からのリクエスト信号の送信、並びに携帯機1からのアック信号及びレスポンス信号の送信が同様に行われる。そして、車載制御部29は、レスポンス信号に含まれるウェイク信号のRSSI値から、第2の送信機21から携帯機1までの距離をマップ演算する。
【0026】
次いで、車載制御部29は、こうして演算された第1の送信機20から携帯機1までの距離、及び第2の送信機21から携帯機1までの距離に基づいて、携帯機1が運転席のドアの外側、助手席のドアの外側、及び車室内のいずれに位置しているかを判定する。例えば、図2に示すように、第1の送信機20から携帯機1までの距離が図中の距離d10であって且つ、第2の送信機21から携帯機1までの距離が図中の距離d20である場合、携帯機1は運転席のドアの外側に位置していると判定することができる。また、例えば第1の送信機20から携帯機1までの距離が図中の距離d11であって且つ、第2の送信機21から携帯機1までの距離が図中の距離d21である場合、携帯機1は運転席に位置していると判定することができる。このように、第1の送信機20から携帯機1までの距離、及び第2の送信機21から携帯機1までの距離に基づいて、携帯機1の位置を判定することが可能である。本実施形態では、第1の送信機20から携帯機1までの距離、第2の送信機21から携帯機1までの距離、及び携帯機1の位置の関係が予めの実験などを通じて求められており、それらの関係がマップとして車載制御部29のメモリ29aに記憶されている。車載制御部29は、メモリ29aに記憶されているマップを用いて、第1の送信機20から携帯機1までの距離、及び第2の送信機21から携帯機1までの距離に基づき携帯機1の位置を判定する。
【0027】
また、車載制御部29は、判定された携帯機1の位置、及び上記(a1)〜(a3)のいずれの操作が行われたかに基づいて、車両ドアの施錠及び解錠、並びにエンジンの始動のいずれを行うかを判断する。車載制御部29は、エンジンスイッチ23が押下操作された場合であって且つ、携帯機1が車室内に位置している場合には、例えばCAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークを介してエンジン制御部28にエンジン始動要求を行う。これにより、車載エンジンが始動されることとなる。また、ロックスイッチ24が押下操作された場合であって且つ、携帯機1が運転席のドアの外側、あるいは助手席のドアの外側に位置している場合には、ドアロック機構27を駆動させて車両ドアを施錠する。さらに、ユーザの手がドアノブに触れた場合であって且つ、携帯機1が運転席のドアの外側、あるいは助手席のドアの外側に位置している場合には、ドアロック機構27を駆動させて車両ドアを解錠する。
【0028】
ところで、このような車両の電子キーシステムでは、携帯機1においてRSSI値の測定が行われるウェイク信号に上述したスパイクノイズが混入した場合、携帯機1の位置を適切に判定することができなくなるおそれがある。そこで、本実施形態では、スパイクノイズの影響を排除すべく、ウェイク信号のRSSI値の測定を3回行うとともに、それらの測定結果のうち、最も強度の大きいものを除く残りの2つの測定結果の平均値に基づいて携帯機1の位置を判定することとしている。以下、その詳細について説明する。
【0029】
図4に示すように、本実施形態のウェイク信号は、その先頭部分から時間幅Taだけずれた後半部分に、RSSI値を測定するためのバースト部を含むフレーム構成を有している。バースト部は、図中に示すように、その先頭から一定周期Tbで3回だけハイレベルに対応する信号レベルとなるものである。
【0030】
次に、図5を参照して、このようなフレーム構成からなるウェイク信号について、携帯機制御部13がそのRSSI値を測定する手順を説明する。なお、図5に示す処理は、携帯機制御部13がウェイク信号を受信したときに実行される。
【0031】
図5に示すように、この処理ではまず、受信機10を介してウェイク信号を受信した時点からの経過時間が携帯機制御部13の内部タイマを通じて計測されるとともに(ステップS1)、その経過時間が時間Taに達した時点から一定周期TbでRSSI値がRSSI回路12を通じて3回測定される(ステップS2)。これにより、図に示すように、ウェイク信号に含まれるバースト部のハイレベルに対応する信号レベルのRSSI値が3回測定される。次いで、測定された3つのRSSI値rs1〜rs3のうち、最も大きいものを除く残りの2つのRSSI値の平均値が演算されるとともに(ステップS3)、演算された測定結果の平均値をウェイク信号のRSSI値の測定結果として、これがメモリ13aに記憶されるとともに、アック信号が生成され、これが送信機11から送信される(ステップS4)。
【0032】
次に、図6を参照して、本実施形態にかかる電子キーシステムの動作例(作用)について説明する。
スパイクノイズは単発のノイズであるため、ウェイク信号にスパイクノイズが混入した場合、その影響を受けるのはウェイク信号全体のごく一部である。よって、仮にウェイク信号にスパイクノイズが混入したとしても、バースト部においてハイレベルに対応する信号レベルとなる3箇所全てにスパイクノイズが混入することはまれであり、通常は、図6に示すように、それらのうちの一つにスパイクノイズが混入することとなる。なおここでは、ハイレベルに対応する信号レベルとなる3箇所のうち、最初の部分にスパイクノイズが混入した場合について例示している。そしてこのようなウェイク信号が携帯機1により受信された場合、携帯機制御部13によりRSSI値の測定が3回行われると、その測定結果のうちのRSSI値rs1が異常値となる。このとき、本実施形態では、RSSI値の3つの測定結果のうち、最も大きいRSSI値rs1を除く残りのRSSI値rs2,rs3の平均値を演算することによりウェイク信号のRSSI値が求められるため、スパイクノイズの影響の少ない測定結果に基づいてウェイク信号のRSSI値が求められることとなる。よって、ウェイク信号のRSSI値を高い精度で検出することが可能となる。これにより、車載機2では、レスポンス信号に含まれるRSSI値に基づいて携帯機1の位置を判定する際に、より高い精度で携帯機1の位置を判定することができるため、携帯機1の位置に応じた車両制御を適切に実行することができる。したがって、電子キーシステムの誤動作を抑制することが可能となる。
【0033】
また、RSSI値の平均値を求めるとともに、同平均値に基づいて携帯機1の位置を判定することとすれば、測定結果のばらつきによる影響を抑制しつつ、携帯機1の位置を判定することが可能となる。これにより、携帯機1の位置をより高い精度で判定することができるため、電子キーシステムの誤動作をより的確に抑制することが可能となる。
【0034】
さらに、携帯機1において測定される3つのRSSI値のうちの一つのみを除外するといった方法であれば、RSSI値の測定回数を3回程度に設定することが可能であるため、RSSI値の測定にかかる時間が大幅に長くなることはない。これにより、携帯機1と車載機2との間の通信時間を極力短くすることが可能となる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態にかかる車両の電子キーシステムによれば、以下のような効果が得られるようになる。
(1)携帯機1では、ウェイク信号のRSSI値の測定を3回行うこととした。また、携帯機1では、測定される3つのRSSI値rs1〜rs3のうち、最も強度の大きいものを除く残りの2つのRSSI値の平均値を演算し、これをウェイク信号のRSSI値とすることとした。一方、車載機2では、携帯機1から送信される応答信号に含まれるウェイク信号のRSSI値に基づいて携帯機1の位置を判定することとした。これにより、携帯機1の位置をより高い精度で判定することができるため、電子キーシステムとしての誤動作を抑制することが可能となる。
【0036】
(2)ウェイク信号のRSSI値を求めるにあたり、携帯機1において測定される3つのRSSI値のうち、最も強度の大きいもののみを除外することとした。これにより、携帯機1においてRSSI値を測定する回数を3回程度に設定することができるため、携帯機1と車載機との間の通信時間を極力短くすることが可能となる。
【0037】
(3)RSSI値の平均値を演算する処理を、携帯機1で行うこととした。これにより、同様の処理を車載機2側で行う場合と比較すると、車載機2側の処理負担を軽減することが可能となる。
【0038】
(4)車両には第1及び第2の送信機20,21を設けることとした。そして、第1の送信機20からウェイク信号を送信した際に携帯機1により測定されるRSSI値、及び第2の送信機21からウェイク信号を送信した際に携帯機1により測定されるRSSI値の双方に基づいて携帯機1の位置を判定し、その判定結果に基づいて車両制御を実行することとした。これにより、車両に搭載される送信機の数を2つとしながらも、電子キーシステムの誤動作を抑制することが可能となる。
【0039】
(5)車載機2から送信されるウェイク信号に、RSSI値測定用のバースト部を設けることとした。これにより、受信信号強度を測定するための新たな信号を車載機2から送信する必要がなくなるため、ウェイク信号やリクエスト信号とは別の新たな信号を携帯機1と車載機2との間で授受する必要がなくなる。よって、携帯機1と車載機2との間の通信時間を短縮することが可能となる。
【0040】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、第1及び第2の送信機20,21を運転席のドア及び助手席のドアにそれぞれ設けることとしたが、第1及び第2の送信機20,21のそれぞれの配置は適宜変更可能である。
【0041】
・上記実施形態では、ウェイク信号のRSSI値をレスポンス信号に含めることとしたが、同ウェイク信号のRSSI値をアック信号に含めてもよい。
・上記実施形態では、携帯機1においてウェイク信号のRSSI値を測定する回数を3回に設定することとしたが、RSSI値の測定回数については適宜変更可能である。また、例えばRSSI値の測定回数を4回に設定した場合、その測定結果のうちの強度の大きいものから2つの測定結果を除く残りの2つの測定結果の平均値を求めるなど、平均値の演算の際に除外する測定結果の個数を適宜変更してもよい。要は、携帯機1により測定されるRSSI値の複数の測定結果のうち、強度の大きいものから一定数の測定結果を除く残りの測定結果に基づいてRSSI値の平均値を演算するものであればよい。
【0042】
・上記実施形態では、携帯機1により測定されるRSSI値の3つの測定結果のうち、最も強度の大きいものを除く残りの2つの測定結果の平均値を演算することでウェイク信号のRSSI値を求めることとした。これに代えて、例えば最も強度の大きいものを除く残りの2つの測定結果のうちのいずれか一方をウェイク信号のRSSI値として採用してもよい。
【0043】
・携帯機1において測定される3つのRSSI値の全てのデータをレスポンス信号に含めてこれを携帯機1から車載機2に送信することで、3つのRSSI値rs1〜rs3のうち、最も強度の大きいものを除く残りの2つのRSSI値の平均値を演算するといった処理を車載機2側で行ってもよい。このような構成であれば、携帯機1の処理負担を軽減することが可能となる。
【0044】
・上記実施形態では、ウェイク信号のRSSI値を測定することとしたが、これに代えて、例えばリクエスト信号のRSSI値を測定してもよい。また、ウェイク信号及びリクエスト信号とは別にRSSI測定用の新たな信号を第1及び第2の送信機20,21から送信し、この新たな信号のRSSI値を携帯機1で測定してもよい。
【0045】
・上記実施形態では、携帯機1に記憶されている識別コードと、車載機2に記憶されている識別コードとの照合を通じて携帯機1の認証を行うこととしたが、これに代えて、例えば携帯機1と車載機2との間でチャレンジコードを授受することで携帯機1の認証を行う、いわゆるチャレンジレスポンス認証により携帯機1の認証を行ってもよい。
【0046】
・上記実施形態では、本発明にかかる車両の電子キーシステムを、携帯機1の位置に基づいて車両ドアの施錠及び解錠、並びにエンジンの始動を行う電子キーシステムに適用することとしたが、これに代えて、例えば携帯機1の位置に基づいて何らかの警報を発する電子キーシステムに適用することも可能である。要は、携帯機1の位置に基づいて所定の車両制御を実行する車両の電子キーシステムであれば、本発明にかかる電子キーシステムを適用することが可能である。
【0047】
・上記実施形態では、本発明にかかる車両の電子キーシステムを、車両に搭載された2つの送信機から無線信号を送信することにより携帯機1の位置を判定する電子キーシステムに適用することとした。これに代えて、例えば車両に搭載された1つの送信機から無線信号を送信することにより携帯機1の位置を判定したり、あるいは車両に搭載された3つ以上の送信機から送信される無線信号を送信することにより携帯機1の位置を判定する電子キーシステムに適用することも可能である。要は、車載機2から送信される無線信号のRSSI値を携帯機1で測定するとともに、その測定結果に基づいて携帯機1の位置を判定し、さらにその測定結果に基づいて車両制御を実行する車両の電子キーシステムであれば、本発明にかかる電子キーシステムを適用することが可能である。
【0048】
<付記>
次に、上記実施形態及びその変形例から把握できる技術的思想について追記する。
(イ)車両の電子キーシステムにおいて、前記携帯機は、前記第1の無線信号の受信信号強度を複数回測定したとき、その複数の測定結果のうち、強度の大きいものから一定数の測定結果を除く残りの測定結果を前記第2の無線信号に含めてこれを送信するものであること。同構成によるように、受信信号強度の複数の測定結果のうち、強度の大きいものから一定数の測定結果を除外するといった処理を携帯機側で行うこととすれば、同様の処理を車載機側で行う場合と比較すると、車載機側の処理負担を軽減することが可能となる。
【0049】
(ロ)車両の電子キーシステムにおいて、前記車載機は、前記第1の無線信号を送信する送信機として、前記車両の運転席のドアの外側周辺及び車室内に前記第1の無線信号を送信する第1の送信機と、前記車両の助手席のドアの外側周辺及び車室内に前記第1の無線信号を送信する第2の送信機とを有して、前記第1の送信機から前記第1の無線信号を送信した際に前記携帯機により測定される受信信号強度、並びに前記第2の送信機から前記第1の無線信号を送信した際に前記携帯機により測定される受信信号強度の双方に基づいて前記携帯機の位置を判定し、その判定結果に応じた車両制御を実行するものであること。同構成によれば、車載機に搭載される送信機の数を2つとしながらも、電子キーシステムの誤動作を抑制することが可能となる。
【0050】
(ハ)車両の電子キーシステムにおいて、前記車載機から前記携帯機に送信される無線信号には、前記携帯機を起動させるためのウェイク信号と、前記携帯機に認証情報の送信を要求するリクエスト信号とが含まれ、前記第1の無線信号が、前記ウェイク信号及び前記リクエスト信号のいずれか一項であること。同構成によれば、携帯機による受信信号強度の測定が、車載機から送信されるウェイク信号やリクエスト信号において行われるため、受信信号強度を測定するための新たな信号を車載機から携帯機に送信する必要がなくなる。これにより、ウェイク信号やリクエスト信号とは別の新たな信号を携帯機と車載機との間で授受する必要がなくなるため、それらの間の通信時間を短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
A1…第1の通信エリア、A2…第2の通信エリア、1…携帯機、2…車載機、10…受信機、11…送信機、12…RSSI回路、13…携帯機制御部、13a…メモリ、20…第1の送信機、21…第2の送信機、22…受信機、23…エンジンスイッチ、24…ロックスイッチ、25…ブレーキセンサ、26…タッチセンサ、27…ドアロック機構、28…エンジン制御部、29…車載制御部、29a…メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6