特許第5667094号(P5667094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5667094好中球減少症の処置におけるセリンプロテアーゼ阻害剤の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667094
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】好中球減少症の処置におけるセリンプロテアーゼ阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/55 20060101AFI20150122BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20150122BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   A61K37/64
   A61K37/02
   A61P7/00
   A61P9/00
   A61P17/02
   A61P31/04
   A61P43/00 111
   A61K49/00 C
   C12N9/99ZNA
【請求項の数】5
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2011-553587(P2011-553587)
(86)(22)【出願日】2010年3月10日
(65)【公表番号】特表2012-520287(P2012-520287A)
(43)【公表日】2012年9月6日
(86)【国際出願番号】IB2010051038
(87)【国際公開番号】WO2010103475
(87)【国際公開日】20100916
【審査請求日】2013年3月1日
(31)【優先権主張番号】61/202,535
(32)【優先日】2009年3月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511210040
【氏名又は名称】エムイーディー ディスカバリー エスエー
(73)【特許権者】
【識別番号】504022504
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】フォンタナ アドリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】レヒャー マイク
(72)【発明者】
【氏名】クンディグ クリストフ
【審査官】 ▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/079096(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/093119(WO,A1)
【文献】 Schapira et al.,'Purified human plasma kallikrein aggregates human blood neutrophils',Journal of Clinical Investigation,1982年,69(5),1199-1202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染、敗血症、化学療法、照射、毒性化学物質に起因して、またはいずれかの医薬の副作用として発症する、患者における好中球減少症を処置または予防するための、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18またはこれらの混合物からなる群から選択される物質を含む組成物
【請求項2】
前記好中球減少症を処置または予防することは、好中球が細胞死を経る糖尿病患者における皮膚潰瘍、または皮膚における低酸素条件および好中球機能障害およびアポトーシスと関連する末梢動脈疾患を有する患者において発症する皮膚潰瘍を処置または予防することを含む、請求項に記載の組成物
【請求項3】
前記好中球減少症を処置または予防することは、悪性腫瘍の処置の過程、原子力プラントでの事故または核兵器の使用で起こる、骨髄系細胞の照射によって誘導される損傷を処置または予防することを含む、請求項1または請求項2に記載の組成物
【請求項4】
哺乳動物における好中球減少症の処置または予防のためのキットであって、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の組成物と、必要に応じて試薬および/または取扱説明書とを含むことを特徴とする、キット。
【請求項5】
前記組成物は、検出可能な標識を含むか、または検出可能な標識に結合して検出可能な複合体を形成することができる、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリンプロテアーゼの阻害剤である治療用化合物、その医薬組成物およびヒトまたは動物の体の処置におけるその使用に関する。より具体的には、本発明は、好中球減少症の処置のための方法であって、必要とする対象(被投与者)への、治療上有効量のセリンプロテアーゼ阻害剤の投与を含む、方法に関する。本発明は、(1)遺伝子治療のために行われる骨髄細胞の形質移入の間および後、(2)造血の再構成のために行われる血液幹細胞動員(blood stem cell mobilization)の間、ならびに(3)遺伝子治療のための造血の再構成のため、または好中球の注入による好中球減少症の処置のための、骨髄系の細胞の注入の間の骨髄系細胞のアポトーシスの予防をも含む。
【背景技術】
【0002】
本発明は、セリンプロテアーゼの阻害剤である化合物の使用に関する。プロテアーゼまたはタンパク質分解酵素は、細菌およびウイルスから哺乳動物までの生物に必須である。プロテアーゼは、ペプチド結合を加水分解することによって、タンパク質を消化および分解する。セリンプロテアーゼ(EC.3.4.21)は、活性部位に、主に活性セリン残基に、共通の特徴を有する。触媒残基His、Asp、Serの同一の空間配置を有するが、タンパク質骨格が全く異なる、キモトリプシン/トリプシン/エラスターゼ様セリンプロテアーゼおよびスブチリシン様セリンプロテアーゼという2種類の主要なセリンプロテアーゼが存在する。しかしながら、セリンプロテアーゼの20を超えるファミリー(S1〜S27)が同定されており、それらは、構造的類似性および他の機能的証拠に基づいて、SA、SB、SC、SE、SFおよびSGの6つのクラスにグループ分けされる。キモトリプシン/トリプシン/エラスターゼ様セリンプロテアーゼのファミリーは、2つのクラスに細分されてきた。「大きい」クラス(約230残基)には、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カリクレイン、およびトロンビンなどの哺乳類の酵素がほとんど含まれる。「小さい」クラス(約190残基)には細菌酵素が含まれる。
【0003】
触媒残基His、AspおよびSerは、基質のC末側または「プライム」側においてS1’、S2’、S3’などと呼ばれる基質アミノ酸側鎖残基結合ポケットに隣接し、N末側においてS1、S2、S3などに隣接する。この命名法は、非特許文献1および非特許文献2に記載されているとおりである。キモトリプシン/トリプシン/エラスターゼ様セリンプロテアーゼは、非特許文献3に記載されるようにS1ポケットに存在する残基によってさらに細分することもできる。キモトリプシン様(S1ポケットにおけるGly−226、Ser−189、およびGly−216)、トリプシン様(S1ポケットにおけるGly−226、Asp−189、およびGly−216)およびエラスターゼ様(S1ポケットにおけるVal−226およびThr−216)に細分される(残基の付番は標準キモトリプシン付番に対応)。トリプシン様セリンプロテアーゼは、LysまたはArgのいずれかをS1ポケットに配置する基質を選択する。
【0004】
セリンプロテアーゼは、キモトリプシン付番法において195位置に存在する特に反応性のSer残基を特徴とする共通の触媒メカニズムを有する。セリンプロテアーゼの例としては、トリプシン、トリプターゼ、キモトリプシン、エラスターゼ、トロンビン、プラスミン、カリクレイン、補体(complement)Cl、先体プロテアーゼ(acrosomal protease)、リソソームプロテアーゼ、コクナーゼ、α−溶菌プロテアーゼ、プロテアーゼA、プロテアーゼB、セリンカルボキシペプチダーゼπ、スブチリシン、ウロキナーゼ(uPA)、Vila因子、IXa因子およびXa因子が挙げられる。セリンプロテアーゼは長年にわたって広範囲に研究されており、実に様々な生理学的プロセスの調節に関与するため、薬物標的として盛んに研究が行われている。
【0005】
セリンプロテアーゼが関与するプロセスとしては、凝固、フィブリン溶解、受精、発育、悪性腫瘍、神経筋パターニング(neuromuscular patterning)、および炎症が挙げられる。これらの化合物は、種々の循環プロテアーゼおよび組織内で活性化または放出されるプロテアーゼを阻害することが周知である。また、セリンプロテアーゼ阻害剤は、接着、遊走、フリーラジカル生成およびアポトーシスなどの重要な細胞プロセスを阻害することも知られている。さらに、動物実験によって、静脈内投与したセリンプロテアーゼ阻害剤、バリアントまたはセリンプロテアーゼ阻害剤を発現する細胞は組織損傷を防止することが示されている。
【0006】
セリンプロテアーゼ阻害剤は、腫瘍学、血液学、神経学、呼吸器学、免疫学、炎症および感染症などの実に様々な臨床分野において、疾患の処置で有益に使用される潜在的可能性を有すると予想されてきた。セリンプロテアーゼ阻害剤は、血栓性疾患、喘息、肺気腫、硬変症、関節炎、細胞腫、黒色腫、再狭窄、アテローマ、外傷、ショックおよび再灌流傷害の処置においても有益である可能性がある。有用な総説は、非特許文献4に見出される。セリンプロテアーゼ阻害剤は、特許文献1および特許文献2ならびに特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7および特許文献8に開示されている。
【0007】
白血球減少症は、約4.0×10細胞/L未満への総白血球数の減少を指す。通常は、この低下は、多形核好中球(PMN)の数の減少の結果であり(好中球減少症)、その数は、通常は2.0×10細胞/L未満、そしてしばしば1.0×10細胞/L未満である。好中球減少症は、ウイルス感染症(例えば、インフルエンザ、麻疹、肝炎ウイルス、水痘、デング熱および黄熱、HIV)から、または粟粒結核症および敗血症を含めた重症の細菌感染から生じる可能性がある。さらには、好中球減少症は、照射、または例えば、悪性疾患もしくは血管炎および自己免疫疾患の化学療法で使用される薬物を用いた処置が原因で発症する。薬物誘発性好中球減少症の例は、スルホンアミド、抗甲状腺薬、抗ヒスタミン薬、抗菌薬、フェノチアジンならびに種々の鎮痛剤、鎮静剤および消炎剤または種々の毒性化学物質である。感染病原体、薬物および毒性化学物質または抗体による細胞死の誘導は、骨髄の中の好中球および/またはその前駆体細胞に影響を及ぼす可能性がある。骨髄系の細胞に対する抗体は、全身性エリテマトーデスまたは若年性関節リウマチなどの免疫介在性疾患で見られる。上記のすべてに加えて、先天性好中球減少症の種々の形態が記載されてきた。好中球減少症は、循環中のPMNの損傷から生じるだけでなく、感染病原体、薬物、照射および毒性化学物質による、または細胞分裂の緩慢化、DNA鎖の複製の遮断、RNA形成または紡錘体の微小管の崩壊に起因する骨髄中の幹細胞および有糸分裂細胞の損傷からも生じる。
【0008】
例えば血液の重大な悪性腫瘍、固形腫瘍または細胞腫のための化学療法に起因する好中球減少症は、感染による著しい罹患率および死亡率を伴う、損なわれた宿主応答を導く。例えば、シクロホスファミド、メトトレキセートおよびフルオロウラシルを用いる早期の乳癌の化学療法は、敗血症を有する患者の30%において、好中球減少性事象を生じ、さらなる抗癌処置の遅延または用量減少が必要となる。20〜30%の用量減少は、より低い完全奏効率、およびリンパ腫を有する患者の生存の短縮または無再発性生存の悪化に関連づけられてきた。好中球減少性敗血症に対する抗菌療法の改善にもかかわらず、毎年、骨髄毒性化学療法を受ける患者のおよそ5%が、感染に関連する合併症のために死亡している。
【0009】
例えば遺伝子治療のため、または好中球の注入液の調製のための好中球およびその前駆体細胞の生体外での取り扱いには、骨髄系細胞のアポトーシスの誘導に起因して、細胞死の増加が伴う。
【0010】
好中球減少症の処置のために使用される現在の薬剤としては、G−CSF、GM−CSFおよびペグ化されたG−CSFとしてポリエチレングリコールに接合されたG−CSFが挙げられる。好中球減少症のリスクを低下させることにおける上記の承認された薬剤の利用能およびかなりの有効性にもかかわらず、好中球減少症の合併症は、腫瘍学において重要な問題のままである。まれに脾臓の破裂、しかしより頻繁には脾臓体積の増大、肺でのガス交換の障害、ならびに急性の外傷性発作および心筋梗塞の単独症例が、末梢血幹細胞を収集するためにG−CSFを投与される健康なドナーにおいて観察された。G−CSFが骨髄異形成症候群および急性骨髄性白血病を引き起こすというエビデンスは、あまり明らかではなく、さらなる将来の長期の研究で分析される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0100089号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0180371号明細書
【特許文献3】米国特許第6,784,182号明細書
【特許文献4】米国特許第6,656,911号明細書
【特許文献5】米国特許第6,656,910号明細書
【特許文献6】米国特許第6,608,175号明細書
【特許文献7】米国特許第6,534,495号明細書
【特許文献8】米国特許第6,472,393号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Structure and Mechanism in Protein Science:A Guide to Enzyme Catalysis and Protein Folding、Alan Fersht、W.H. Freeman and Company、1999年、40−43頁
【非特許文献2】Brikら、Org.Biomol.Chem.、2003年、第1巻、5−14頁
【非特許文献3】Carl BrandenおよびJohn Tooze、「Introduction to Protein Structure」、Garland Publishing Inc、1991年、231−241頁
【非特許文献4】Expert Opin.Ther.Patents、2002年、第12巻、第8号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これらのアプローチは有望であるが、好中球減少症の処置のための改善された治療的、予防的または診断的アプローチのニーズがある。本発明は、好中球減少症の処置、診断または予防のための改善された信頼性の高い方法であって、必要とする対象への、治療上有効量のセリンプロテアーゼ阻害剤の投与を含む、方法を提供する。
【0014】
これらおよび他の目的は、上記の記載から明らかであろうが、それらが本発明によって成し遂げられた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、好中球減少症に罹患している患者の処置または予防のための方法であって、必要とする患者への、治療上有効量のセリンプロテアーゼ阻害剤の投与を含む方法に関する。好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤はカリクレイン阻害剤であり、好ましくはこのカリクレイン阻害剤は、hK2、hK3、hK4、hK5、hK6、hK7、hK8、hK9、hK10、hK11、hK12、hK13、hK14、hK15阻害剤またはこれらの混合物から選択される。最も好ましくは、このカリクレイン阻害剤は、hK2、hK4、hK11、hK5、hK14阻害剤またはこれらの混合物から選択される。さらにより好ましくは、このカリクレイン阻害剤はhK2阻害剤である。好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18またはこれらの混合物を含む群から選択される。
【0016】
感染、敗血症、化学療法、照射、毒性化学物質に起因して、またはいずれかの医薬の副作用として発症する、患者における好中球減少症を処置または予防する方法における使用のためのセリンプロテアーゼ阻害剤も開示される。好ましくは、好中球の数および/または活性化状態は低下している。このセリンプロテアーゼ阻害剤は、好中球が細胞死を経る糖尿病患者における皮膚潰瘍、または皮膚における低酸素条件および好中球機能障害およびアポトーシスと関連する末梢動脈疾患を有する患者において発症する皮膚潰瘍を処置または予防する方法における使用のためのものでもある。また、このセリンプロテアーゼ阻害剤は、悪性腫瘍の処置の過程、原子力プラントでの事故または核兵器の使用で起こる、骨髄系細胞の照射によって誘導される損傷を処置または予防する方法における使用のためのものでもある。好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤はカリクレイン阻害剤であり、好ましくはこのカリクレイン阻害剤は、hK2、hK3、hK4、hK5、hK6、hK7、hK8、hK9、hK10、hK11、hK12、hK13、hK14、hK15阻害剤またはこれらの混合物から選択される。好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18またはこれらの混合物を含む群から選択される。
【0017】
・好中球減少症もしくは骨髄系の遺伝的障害を有する患者への骨髄系細胞注入に先立つ遺伝子治療のために分子操作を行うために、
・または、好中球減少症もしくは好中球の機能障害を有する患者への注入のために、好中球およびそれらの骨髄前駆体を使用するために、
好中球およびそれらの骨髄前駆体の生体外で調製における使用のためのセリンプロテアーゼ阻害剤がさらに開示される。好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18またはこれらの混合物を含む群から選択される。
【0018】
本発明はさらに、患者の骨髄系細胞のアポトーシスの予防のための方法であって、
(1)遺伝子治療のために行われる骨髄細胞の形質移入の間および後、
(2)造血の再構成のために行われる血液幹細胞動員の間、および/または
(3)遺伝子治療のための造血の再構成のため、または好中球の注入による好中球減少症の処置のための、骨髄系の細胞の注入の間の、
必要とする前記患者への、治療上有効量のセリンプロテアーゼ阻害剤の投与を含む、方法を提供する。好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18またはこれらの混合物を含む群から選択される。
【0019】
また本発明は、哺乳動物における好中球減少症の診断、予後診断、予防または処置のためのキットであって、セリンプロテアーゼ阻害剤と、必要に応じて試薬および/または取扱説明書とを含むことを特徴とする、キットも提供する。好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤は、検出可能な標識を含むか、または検出可能な標識に結合して検出可能な複合体を形成することができる。また好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤はカリクレイン阻害剤であり、好ましくは、このカリクレイン阻害剤は、hK2、hK3、hK4、hK5、hK6、hK7、hK8、hK9、hK10、hK11、hK12、hK13、hK14、hK15阻害剤またはこれらの混合物から選択される。好ましくは、このセリンプロテアーゼ阻害剤は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18またはこれらの混合物を含む群から選択される。
【0020】
他の目的および利点は、以下の説明のための図面、および添付の特許請求の範囲を参照して進められる、以下の詳細な説明の精査から、当業者には明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1a】プロテアーゼ阻害剤MDPK67bとともにインキュベーションした際の好中球およびT細胞のアネキシン−V染色。示すように6μM〜60μMの範囲の濃度のMDPK67b、または対照としてのPBSとともに、24または48時間細胞をインキュベーションした。アネキシンV染色およびFACS分析によって、アポトーシスを評価した。示された白血球ポピュレーションは、前方散乱光/側方散乱光FACSドットプロットにおける(好中球)またはCD3に対する陽性染色法による(T細胞)それらの外観に基づいてゲーティングされた(gated)。
図1b】プロテアーゼ阻害剤MDPK67bまたはMDOKG9(OKDG9)とともにインキュベーションした際の好中球のアネキシン−V染色。示されたように60μM(希釈1)〜60pM(希釈7)の範囲のMDPK67bまたはMDOKG9濃度とともに、好中球を18時間インキュベーションした。上に概略を示したようにして、アポトーシスを評価した。
図2】MDPK67b処置された好中球のアネキシン−V染色を通した種々の細胞培養条件の比較を示す。好中球は、示された濃度のMDPK67bとともに培養された。MDPK67bを含まないPBSが対照としての役割を果たした。5×10/ml(高密度)または3×10/ml(低密度)のいずれかで好中球をプレーティングし(100μl/ウェル)、アネキシンV染色およびFACS分析によって、好中球のアポトーシスを評価した。RPMI 10% FCSの代わりの無血清培地(X−Vivo 15)中での5×10/mlの好中球の培養が、並行して評価された。
図3a】チロシンキナーゼ阻害剤によるMDPK67b媒介性好中球保護の復帰を示す。培養された好中球のCD16およびCD11bのレベルに対するMDPK67bの効果。好中球は、示された濃度のMDPK67bとともに培養され、高レベルのCD16またはCD11bを発現する好中球の百分率はFACSによって評価された。代表的なFACSプロットを示す。
図3b】チロシンキナーゼ阻害剤によるMDPK67b媒介性好中球保護の復帰を示す。PP2による、CD16およびCD11b好中球レベルに対するMDPK67bの効果の復帰。好中球は、Srcチロシンキナーゼ阻害剤PP2(最終濃度10μM)の存在下または不存在下で、示された濃度のMDPK67bとともに培養された。CD11bおよびCD16を高く発現する好中球のアポトーシスおよび相対頻度は、FACS分析によって測定された。
図4】好中球の生体外アポトーシスに対するG−CSFの効果を示す。好中球は、示された濃度のG−CSFとともに培養され、好中球アポトーシス(a)およびCD16発現の下方制御(b)は、FACSによって分析された。(c)好中球は、MDPK67b(0.6μM)および滴定された量のG−CSF(濃度は示されるとおり)とともに培養された。培地およびPBS(MDPK67bを含まない)の中で培養された好中球は、対照としての役割を果たした。
図5】MDPK67bおよびエトポシドで処置した好中球のアネキシン−VおよびCD16染色を示す。(a)MDPK67bおよびエトポシドで処置した好中球のアネキシン−V染色。エトポシド(125μg/ml)を加えたMDPK67b(6μM)、エトポシド単独またはPBSとともに、細胞を18時間インキュベーションした。アネキシンV染色およびFACS分析によって、アポトーシスを評価した。関連する白血球ポピュレーションは、前方散乱光または側方散乱光FACSドットプロットにおけるそれらの外観に基づいてゲーティングされた。(b)低MDPK67bおよび増加するエトポシド濃度で処置された好中球のアネキシン−V染色。細胞は、MDPK67b(0.06μM)単独、または示すとおりの増加する濃度のエトポシド(μg/ml単位)を加えたMDPK67b(0.06μM)またはPBSとともに、18時間インキュベーションされた。アネキシンV染色によって、アポトーシスを評価し、FACS分析を上記のようにして行った。(c)MDPK67bおよびエトポシドで処置した好中球のCD16染色。細胞は、MDPK67b(0.06μM)単独、または示すとおりの増加する濃度のエトポシド(μg/ml単位)を加えたMDPK67b(0.06μM)またはPBSとともに、18時間インキュベーションされた。CD16を高く発現する好中球の百分率は、FACS分析によって評価された。
【発明を実施するための形態】
【0022】
キモトリプシンスーパーファミリー(t−PA、プラスミン、u−PAが挙げられる)のセリンプロテアーゼおよび血液凝固カスケードのプロテアーゼのいくつかは、セリンプロテアーゼ触媒ドメインに加え、それらの活性の調節に部分的に関与する他の構造ドメインを含む巨大分子である(Barrett,1986;Gerardら、1986;Blasiら、1986)。
【0023】
重要なセリンプロテアーゼは、トリプシン、トリプターゼ、トロンビン、カリクレイン、Xa因子などのトリプシン様酵素である。セリンプロテアーゼ標的は、血液凝固:補体媒介溶菌、免疫反応、炎症、痛覚、糸球体腎炎、膵炎、癌、受胎抑制、細菌感染およびウイルス成熟などのプロセスに関連づけられる。特定の標的に対して高い特異性を有するセリンプロテアーゼを阻害することにより、宿主に対して大きな影響を与えうる生体内の多くの生物学的プロセスを阻害することができる。
【0024】
セリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン)は、ウイルス、植物およびヒトを含む様々な生物に由来する100を超えるタンパク質をすでに含むスーパーファミリーを構成する様々なタンパク質グループを含む。セルピンは5億年以上前に発生し、阻害機能を有するタンパク質および非阻害機能を有するタンパク質に系統発生学的に分かれた(HuntおよびDayhoff、1980)。オボアルブミンなどの非阻害性セルピンは、プロテアーゼ阻害活性を欠く(Remold−O’Donnell、1993)。セルピンファミリーのメンバーの主要な機能は、過剰発現したセリンプロテイナーゼ活性を無効化することであると思われる(Potempaら、1994)。セルピンは、細胞外のマトリクスのリモデリング、炎症反応の調節および細胞遊走においてある役割を果たす(Potempaら、1994)。
【0025】
セリンプロテアーゼ阻害剤は、ウシ膵臓トリプシン阻害剤(クニッツ)ファミリー(基本プロテアーゼ阻害剤としても知られる)(Ketchamら、1978);Kazalファミリー;ストレプトマイセススブチリシン(Streptomyces subtilisin)阻害剤ファミリー;セルピンファミリー;ダイズトリプシン阻害剤(クニッツ)ファミリー;ジャガイモ阻害剤ファミリー;Bowman−Birkファミリーに分類される(Laskowskiら、1980;Readら、1986;Laskowskiら、1987)。このセルピンファミリーに属するセリンプロテアーゼ阻害剤には、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤PAI−1、PAI−2、PAI−3、Clエステラーゼ阻害剤、α−2−抗プラスミン、コントラプシン、α1−アンチトリプシン、アンチトロンビンIII、プロテアーゼネキシンI、α1−アンチキモトリプシン、プロテインC阻害剤、ヘパリンコファクターIIおよび成長ホルモン調節タンパク質が含まれる(Carrellら、1987;Sommerら、1987;Suzukiら、1987;Stumpら、1986)。
【0026】
セリンプロテアーゼ阻害剤の多くは広い特異性を有し、血液凝固セリンプロテアーゼなどのプロテアーゼのキモトリプシンスーパーファミリーおよびセリンプロテアーゼのストレプトマイセススブチリシンスーパーファミリーの両方を阻害することができる(Laskowskiら、1980)。セルピンによるセリンプロテアーゼの阻害は、Travisら(1983)、Carrellら(1985)、Sprengersら(1987)に概説されている。BPTI、Kazal、SSI、ダイズトリプシン、ジャガイモ阻害剤ファミリーの完全な阻害剤のいくつか、およびセルピンα−1−アンチトリプシンの切断型の結晶学的データが得られている(Readら、1986)。これらのセリンプロテアーゼ阻害剤は様々なサイズと配列を有するタンパク質だが、これまでに研究された完全な阻害剤は、同族のセリンプロテアーゼの活性部位の認識配列を含む分子の表面から延びる特有のループ(反応性部位ループと呼ばれる)を有する点で共通している(Levinら、1983)。異なるセリンプロテアーゼ阻害剤におけるループの構造類似性は顕著である(Papamokosら、1982)。各阻害剤の特異性は、セリンプロテアーゼによる阻害剤の潜在的開裂部位に近いアミノ末端であるアミノ酸の同一性によって主として決定されると考えられる。このアミノ酸(Pi部位残基として知られる)は、セリンプロテアーゼの活性部位におけるセリンとアシル結合を形成すると考えられている(Laskowskiら、1980)。セルピンが阻害機能を有するか否かは、コード領域のカルボキシ末端近傍の反応性部位ループのヒンジ領域に位置するコンセンサス配列に強く依存する。反応性部位ループの外では、異なるファミリーに属するセリンプロテアーゼ阻害剤は、一般に、構造的な関連性を有していない。ただし、Kazalファミリーおよびストレプトマイセススブチリシンファミリーの阻害剤は多少の構造および配列類似性を示す。
【0027】
本発明の理解を容易にするために、本願明細書で使用する場合、以下の定義が与えられる。
【0028】
「1つの(a)」または「1つの(an)」は、「少なくとも1つの」または「1以上の」を意味する。
【0029】
「含む(comprise)」という用語は、通常は内包する(include)と同義で使用し、1または複数の特性(特徴)または成分(要素)が存在することを意味する。
【0030】
本願明細書において使用する「タンパク質」、「ポリペプチド」、「ポリペプチドの」、「ペプチド」、「ペプチドの」、「ペプチド鎖」という用語は、本願明細書において互換的に使用され、隣接する残基のα−アミノ基とカルボキシル基との間のペプチド結合によって結合した連続するアミノ酸残基を意味する。
【0031】
「アミノ酸残基」は、当業者に公知の任意のアミノ酸残基を意味する。「アミノ酸残基」という用語は、天然アミノ酸(例えば、3文字コードを使用すると、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Valなど)ならびに稀アミノ酸および/または合成アミノ酸およびそれらの誘導体(例えば、Aad、Abu、Acp、Ahe、Aib、Apm、Dbu、Des、Dpm、Hyl、McLys、McVal、Nvaなど)を含む。
【0032】
アミノ酸残基またはその誘導体は、異性体(特にキラル異性体、例えばL−アイソフォームまたはD−アイソフォーム)であってもよい。
【0033】
「アミノ酸誘導体」という用語は、当業者に公知の任意のアミノ酸誘導体を意味する。例えば、「アミノ酸誘導体」という用語は、さらなる側鎖(アルキル側鎖など)および/またはヘテロ原子置換を有する天然アミノ酸から誘導される残基を含む。
【0034】
「断片」は、基質の活性部位の各配列とアミノ酸の長さの少なくとも40%を共有する配列を意味する。これらの配列は、当該配列が由来する本来の配列と同一の特性を有する限り使用することができる。好ましくは、これらの配列は、基質の活性部位の各配列とアミノ酸の長さの70%超、より好ましくは80%超、特に好ましくは90%超を共有する。
【0035】
また、本発明は、基質の活性部位の配列のバリアントを含む。「バリアント」という用語は、本来の配列のポリペプチドと多少異なるアミノ酸配列(本来の配列と保存的アミノ酸置換において異なるアミノ酸配列)を有するポリペプチドを意味し、1以上のアミノ酸が同一の特性および配座的役割を有する別のアミノ酸によって置換されている。アミノ酸配列のバリアントは、本来のアミノ酸配列内の所定の位置に置換、欠失および/または挿入を有する。保存的アミノ酸置換とは、以下の5つのグループの1つにおける置換と定義される。
I.非極性またはわずかに極性を有する低分子量の脂肪族残基:Ala、Ser、Thr、Pro、Gly
II.極性を有する正に荷電した残基:His、Arg、Lys
III.極性を有する負に荷電した残基およびそれらのアミド:Asp、Asn、Glu、Gln
IV.高分子量の芳香族残基:Phe、Tyr、Trp
V.高分子量で非極性の脂肪族残基:Met、Leu、Ile、Val、Cys。
【0036】
「カリクレイン」という用語は、腺性または組織カリクレインに関連する。腺性または組織カリクレインは、高い基質特異性ならびに様々な組織と体液中における発現性を有するセリンプロテアーゼのサブファミリーである。「カリクレイン」という用語は、大量のプロテアーゼ酵素が膵分離株において発見された1930年代に初めて文献において使用された(ギリシア語で膵は「Kallikreas」である)(Krautら、1930、Werle、1934)。現代では、カリクレイン酵素は、分子量、基質特異性、免疫学的特徴、遺伝子構造および放出されるキニンの種類が著しく異なる2つの群、血漿カリクレインおよび組織カリクレインに分類されている。カリクレインは、15種類の相同性を有する単鎖分泌セリンエンドペプチダーゼ(約25〜30kDa)のファミリーを含み、少なくとも6つの哺乳類目の種に相同分子種が存在する。これらのカリクレインは、hK2、hK3、hK4、hK5、hK6、hK7、hK8、hK9、hK10、hK11、hK12、hK13、hK14、およびhK15である。好ましくは、カリクレインはhK2、hK4、hK11、およびhK14である。
【0037】
本願明細書で使用する場合の「抗体」は、抗原による刺激後に免疫系のB細胞によって産生される、一群の血漿タンパク質を指す。哺乳動物(すなわち、ヒト)抗体は、Ig G、M、A、EまたはDのクラスの免疫グロブリンである。本発明の目的のために使用される用語「抗体」としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、内部移行抗体(internalizing antibody)、中和抗体、抗イディオタイプ抗体、免疫学的に活性な断片またはその誘導体、免疫学的活性を有する組み換えタンパク質、およびカリクレインまたは膜アンカー型セリンプロテアーゼに結合する免疫複合体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
用語「癌」および「癌性の」は、典型的には未制御の細胞増殖によって特徴付けられる哺乳動物における生理的状態を指すか、または記述する。
【0039】
本願明細書において使用する「疾患」は、感染、遺伝的欠損または環境ストレスなどの様々な原因によって生じる生物の一部、臓器または全身の病的状態を意味し、識別可能な一群の徴候または症状によって特徴付けられる。
【0040】
処置対象となる「哺乳動物」とは、ヒト、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ、サルなどの家畜および動物園の動物、競技動物またはペットなどの哺乳動物に分類されるあらゆる動物を意味する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0041】
「処置」という用語は、治療処置と予防または再発防止の両方を意味する。処置を必要とする者には、すでに疾患を有する者および疾患を予防すべき者が含まれる。そのため、本発明で処置すべき哺乳動物は、疾患を有すると診断されたか、疾患にかかりやすいまたは感染しやすい可能性がある。
【0042】
「対象」という用語は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物の患者を意味し、本発明に係る方法を使用して検査または処置することが望ましい個体を含む。ただし、「患者」とは、症状または疾患が存在していることを必ずしも意味するものではないと理解されたい。
【0043】
「薬学的に許容できる」とは、生理的に許容でき、ヒトに投与した際に異常亢進や眩暈感などのアレルギー性または同様な有害反応を通常は生じさせない分子および組成物を意味する。
【0044】
本願明細書において使用する「プロテアーゼ」という用語は、分子を認識し、分子中の活性化配列に開裂させる酵素を意味する。プロテアーゼは、内部ペプチド結合を開裂させるエンドペプチダーゼであってもよい。あるいは、プロテアーゼは、ポリペプチドまたはタンパク質分子のN末端またはC末端からペプチド結合を加水分解するエキソペプチダーゼであってもよい。プロテアーゼは立体配座に折り畳まれ、活性化配列を受容し、開裂させる触媒部位を形成する。
【0045】
「阻害剤」とは、好ましくはカリクレインまたはセリンプロテアーゼに結合することによって、カリクレインまたはセリンプロテアーゼの機能を特異的に阻害するポリペプチドまたは化合物を意味する。
【0046】
「反応性セルピンループ」または「反応性部位ループ」またはRSLとは、セルピンに見られ、推定標的プロテアーゼとの相互作用に関係する、露出されたフレキシブルな反応性部位ループを意味する。切断性結合のアミノ酸側の残基から、その結合から離れるに従って、残基は慣用的にP1、P2、P3などと呼ばれる。切断性結合に続く残基はP1’、P2’、P3’などと呼ばれる。通常、RSLは6〜12個のアミノ酸残基で構成される。
【0047】
本発明に係る「セリンプロテアーゼ」またはセルピンは、α1−アンチキモトリプシン(ACT)、プロテインC阻害剤(PCI)、α1−プロテイナーゼ(AAT)、ヒトα1−アンチトリプシン関連タンパク質前駆体(ATR)、α2プラスミン阻害剤(AAP)、ヒトアンチトロンビンIII前駆体(ATIII)、プロテアーゼ阻害剤10(PI10)、ヒトコラーゲン結合タンパク質2前駆体(CBP2)、プロテアーゼ阻害剤7(PI7)、プロテアーゼ阻害剤leuserpin 2(HLS2)、ヒト血漿プロテアーゼC1阻害剤(C1 INH)、単核細胞/好中球エラスターゼ阻害剤(M/NEI)、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤3(PAI3)、プロテアーゼ阻害剤4(PI4)、プロテアーゼ阻害剤5(PI5)、プロテアーゼ阻害剤12(PI12)、ヒト内皮プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1前駆体(human plasminogen activator inhibitor−1 precursor endothelial)(PAI−1)、ヒト胎盤プラスミノーゲン活性化因子阻害剤2(PAI2)、ヒト色素上皮由来因子前駆体(PEDF)、プロテアーゼ阻害剤6(PI6)、プロテアーゼ阻害剤8(PI8)、プロテアーゼ阻害剤9(PI9)、ヒト扁平上皮癌抗原1(SCCA−1)、ヒト扁平上皮癌抗原2(SCCA−2)、T4結合グロブリン(TBG)、Megsin、プロテアーゼ阻害剤14(PI14)、それらのフラグメント、それらの分子キメラ、それらの組み合わせおよび/またはそれらのバリアントを含む群から選択することができる。
【0048】
これらのセルピン類のほとんどは異なる名称を有するため、出願人は、それらの詳細をまとめる表を下記に提示する:
【0049】
【表1】
【0050】
有利には、本発明のセリンプロテアーゼ阻害剤はセリンプロテアーゼトリプシン様酵素、好ましくはカリクレイン阻害剤であってもよい。本発明のカリクレイン阻害剤は、hK2、hK3、hK4、hK5、hK6、hK7、hK8、hK9、hK10、hK11、hK12、hK13、hK14、またはhK15阻害剤から選択される。好ましくは、カリクレイン阻害剤はhK2、hK4、hK11、hK5およびhK14阻害剤から選択される。より好ましくは、カリクレイン阻害剤はhK2阻害剤である。
【0051】
セルピン配列であって、このセルピン配列の反応性セルピンループP6−P6’が、カリクレイン、その生物活性のある断片、そのキメラ分子、これらの組み合わせおよび/またはこれらのバリアントに特異的な少なくとも1つの基質活性部位配列を含むセルピン配列を含むカリクレインの組み換え型阻害剤タンパク質は、本発明によって包含される。このカリクレインに特異的な少なくとも1つの基質活性部位配列は、国際特許出願PCT/IB2004/001040(ローザンヌ大学(University of Lausanne))に開示される、ファージディスプレイ法によるランダムペンタペプチドライブラリーを使用してカリクレインによって選択される基質ペプチドである。
【0052】
特に、カリクレイン阻害剤がhK2阻害剤である場合には、阻害剤は、国際特許出願第PCT/IB2004/001040号に開示されている阻害剤から選択することができる。国際特許出願第PCT/IB2004/001040号の開示内容はこの参照によってその全体を本願明細書に援用する。好ましくは、本発明のカリクレイン阻害剤は、MD820、MD62、MD61、MD67、MDCIを含む群から選択することができる。最も好ましくは、この阻害剤はMD62またはMD61であり、さらにより好ましくはこの阻害剤はMDPK67bである。本願は、阻害性ポリペプチド配列と、プロテアーゼに特異的な基質−酵素相互作用部位の少なくとも1つのポリペプチド配列と、を含むプロテアーゼのキメラの阻害剤タンパク質、およびプロテアーゼのキメラの阻害剤タンパク質を製造するための方法を開示する。好ましくは、本発明のセリンプロテアーゼ阻害剤をコードする精製され単離されたDNA配列は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13および配列番号15を含む群から選択される。最も好ましくは、本発明のセリンプロテアーゼ阻害剤をコードする精製され単離されたDNA配列は配列番号15である。本発明に係るセリンプロテアーゼ阻害剤の一例として、本願発明者らは、驚くべきことに、以下の表IIに示すプロテアーゼhK2に特異的な6種類の6つの新しいキメラの阻害剤タンパク質を見出した。
【0053】
【表2】
【0054】
これらの阻害剤タンパク質は、このセルピンの特異性を変更するために、キモトリプシン、肥満細胞キマーゼ、カテプシンG、前立腺カリクレインhK2、PSA(hK3)などの多くのヒト酵素を阻害することが知られているα1−アンチキモトリプシンのRSL(rACT)を修飾することによって得た。国際特許出願第PCT/IB2004/001040号に記載されているようにファージディスプレイ技術によって酵素hK2の基質として選択されるペプチド配列は、RSLの切断性結合および近傍のアミノ酸残基の代わりとして使用されている。組み換え型阻害剤は細菌中で製造され、アフィニティークロマトグラフィーによって精製されていた。
【0055】
加えて、本願発明者らは、rACTWTのRSL構造に位置する残基P3〜P3’をプロテインC阻害剤(PCI)のRSLをコードする基質ペンタペプチドによって置換することにより、カリクレインhK2およびhK3を阻害することができるキメラの阻害剤(MDCI)を製造できることを見出した。
【0056】
カリクレイン阻害剤がhK14阻害剤である場合には、阻害剤は、国際特許出願第PCT/IB2005/000504号に開示されている阻害剤から選択することができる。国際特許出願第PCT/IB2005/000504号の開示内容はこの参照によってその全体を本願明細書に援用する。好ましくは、この組み換え型阻害剤は、AATG1、AATG1G、AATC11、AATC11G、AATE5、AATE8、AATF11、AATF3、AATG9、ACTG1、AG1G、ACTC11、ACTC11G、ACTE5、ACTE8、ACTF11、ACTF3、ACTG9(配列番号17)、ACTG1V、およびACTC11Dを含む群から選択することができる。好ましくは、hK14プロテアーゼの阻害剤タンパク質は、AATG1、AATG1G、AATC11、AATC11G、AATE5、AATE8、AATF3、AATG9、ACTG1G、ACTC11、ACTC11G、ACTE5、ACTE8、AGTF11、ACTF3、ACTG9(配列番号18)、ACTG1V、またはACTC11Dである。本願は、阻害性ポリペプチド配列と、hK14プロテアーゼに特異的な基質−酵素相互作用部位の少なくともポリペプチド配列とを有するhK14プロテアーゼのキメラの阻害剤タンパク質を開示する。ここで、hK14プロテアーゼのこのキメラの阻害剤タンパク質は、生理的条件下において、
i)少なくとも4時間のインキュベーション後における11.7以下の阻害化学量論(stoichiometry of inhibition(SI))と、
ii)少なくとも7500M−1−1の会合速度(Ka)と、
iii)少なくとも30分間のインキュベーション後における100%の阻害活性と、
を有する。
【0057】
加えて、セルピンによるシステインプロテアーゼの阻害については今では数多く報告されているため、プロテアーゼ阻害剤の阻害性ポリペプチド配列はシステインプロテアーゼから選択することもできる(Gettins P.G.W.、2002、「Serpin structure,mechanism,and function」、Chem.Rev、102、4751−4803)。例としては、セルピン扁平上皮癌抗原1によるカテプシンK、L、Sの阻害、α1−アンチキモトリプシンによる前ホルモンチオールプロテナーゼの阻害、ウイルス性セルピンcrmAによるカスパーゼ1(インターロイキン1β変換酵素)、カスパーゼ3、カスパーゼ8を含むカスパーゼファミリーのメンバーの阻害ならびにヒトセルピンPI9によるカスパーゼ1、4、8を含むカスパーゼファミリーのメンバーの阻害が挙げられる。
【0058】
セリンプロテアーゼ阻害剤、抗体、ペプタボディおよびそれらの生物活性のある断片の混合物も本発明によって企図される。
【0059】
本発明に係る抗体は、カリクレインまたはセリンプロテアーゼに選択的に結合することができ、非標的ポリペプチドには結合しないであろう(または弱く結合するであろう)。本発明に係る抗体は、天然に存在するカリクレインまたはセリンプロテアーゼに、またはその組み換え体ポリペプチドにも結合することができる。本発明の抗体は、細胞によって発現されるカリクレインまたはセリンプロテアーゼに結合することができ、この細胞によって発現されるカリクレインまたはセリンプロテアーゼには、細胞表面型、膜結合型、細胞質型または分泌型が挙げられる。それらは、細胞質型、膜貫通型を含めたカリクレインまたはセリンプロテアーゼ上の1以上のドメイン、および/または細胞外ドメイン(1つまたは複数)にも結合することができる。あるいは、それらは、未変性の形態および/または変性された形態のカリクレインまたはセリンプロテアーゼのいずれにも結合することができる。
【0060】
抗体が指向するカリクレインまたはセリンプロテアーゼの領域またはエピトープは、意図された用途に応じて変わることができるということは、当業者は理解する。
【0061】
本発明に係る抗体は、細胞質ドメイン、膜貫通ドメイン、および/または細胞外ドメイン、またはいずれのそれらの部分(その断片または誘導体など)を含めて、カリクレインまたはセリンプロテアーゼのいずれの部分も認識および結合できる。
【0062】
本発明に係る抗体は、免疫原として使用されるカリクレインまたはセリンプロテアーゼなどの免疫原上の異なるエピトープに対する異なる抗体の集団を含むポリクローナル製剤であってもよい。
【0063】
ポリクローナル抗体は、当該技術分野で周知の方法によって製造することができる。一般に、いずれの抗体(例えば、モノクローナル、ポリクローナルなど)も、単離されたカリクレインまたはセリンプロテアーゼ、または断片を免疫原として使用して産生させることができる。加えて、免疫原は、V5、His、マルトース結合タンパク質、GST、またはヒトIgに融合される標的ポリペプチドのすべてまたは一部分を含めた融合タンパク質であってもよい。例えば、ポリクローナル抗体は、かつて、例えばマルトース結合タンパク質に融合されたヒトヘプシンの細胞外ドメインを有する融合タンパク質を使用して産生された(Y Kazamaら、1995 J Biol Chem 270:66−72)。本発明に係る抗体は、カリクレインまたはセリンプロテアーゼ上に存在する特異的抗原部位に結合するモノクローナル抗体であってもよい。
【0064】
免疫原を調製するためおよび動物を免疫化するための方法は、当該技術分野で周知である(KohlerおよびMilstein 1975 Nature 256:495−497;Brownら、1981 J Immunol 127:539−46;Brownら、1980 J Biol Chem 255:4980−83;Yehら、1976 Proc Natl Acad Sci USA 76:2927−31;Yehら、1982 Int J Cancer 29:269−75;Kozborら、1983 Immunol Today 4:72;Coleら、1985 Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss,Inc.、77−96頁;米国特許第4,816,567号明細書;Clacksonら、1991 Nature 352:624−628;Marksら、1991 J Mol Biol 222:581−597)。
【0065】
また本発明は、カリクレイン阻害剤および/またはセリンプロテアーゼ阻害剤がペプタボディの形態にある場合も想定した。国際公開第98/18943号パンフレット(Kajavaら)および国際公開第2004087766号パンフレット(ローザンヌ大学(Universite de Lausanne))(これらは参照によりその全体を本願明細書に援用したものとする)に開示される「ペプタボディ(Peptabody)」は、異常な細胞シグナルを誘導するために多量体化の概念を使用する高アヴィディティ分子である。この多量体化ドメインは、ヒンジ領域またはスペーサ(好ましくは、ヒトIgA由来の19のアミノ酸を含有する)に融合されている、ヒト軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)の一部分と、受容体(リガンド)に結合することができるドメイン(結合ドメイン)とからなる。ペプタボディ分子の概念によって、高レベルのカリクレインマーカーおよびセリンプロテアーゼを発現する細胞または組織上での強固な結合が可能になる。「デカボディ(Decabody)」は、デカボディが10本のアームおよび従って10の結合ドメインを有するという違いはあるが、同じ原理で構築される。
【0066】
通常、本発明に係る疾患は、感染、敗血症、照射、化学療法、薬物の副作用または毒性化学物質の作用に起因して減少することにより、多形核白血球、好中球の数が問題となる疾患である。
【0067】
本発明は、好中球の細胞死を防止し、これにより好中球の細胞充実性および機能を回復するための、糖尿病性皮膚潰瘍におけるカリクレイン阻害剤の局所的付与を含む。
【0068】
また本発明は、遺伝子治療用に分子操作を実施するため、または患者への注入液用に好中球およびその骨髄前駆体を使用するための、好中球およびその骨髄前駆体の調製のための、カリクレイン阻害剤またはセリンプロテアーゼ阻害剤の生体外での使用も包含する。
【0069】
本発明は、幹細胞または骨髄前駆体細胞または好中球輸血を投与されている患者を、カリクレイン阻害剤またはセリンプロテアーゼ阻害剤を用いて処置することを包含する。
【0070】
本発明は、任意に1以上の薬学的に許容できる担体と組み合わせて、本願明細書に記載されるカリクレイン阻害剤および/またはセリンプロテアーゼ阻害剤を活性薬剤として含む医薬組成物に関する。
【0071】
好ましくは、医薬組成物としての、本発明に係る組成物は、適切な経路を介して、通常は経口的にまたは血流もしくはCSFへの注射によって、または皮下にまたは注目する部位に、もしくはその部位の近くに直接、処置を必要とする患者に投与されることになる。
【0072】
好ましくは、本発明に係る組成物は、骨髄細胞、骨髄系細胞および好中球の注入液用に調製される注入溶液に添加されてもよい。
【0073】
別の実施形態によれば、本発明の組成物は、遺伝子治療のための骨髄細胞および好中球の生体外操作で、または細胞を保存するための細胞凍結で使用される溶液に添加されてもよい。
【0074】
さらなる実施形態によれば、本発明の組成物は、糖尿病性皮膚潰瘍または虚血性皮膚潰瘍において、皮膚に局所的に付与されてもよい。
【0075】
正確な投与量は、組成物の用途(予防または処置)、組成物の正確な特性およびカリクレイン阻害剤またはセリンプロテアーゼ阻害剤に結合した検出可能または機能的な標識の特性などの多くの要因に応じて決定される。
【0076】
本発明に係る医薬組成物は、活性物質としての薬学的有効量の当該組成物と、必要に応じて薬学的に許容できる担体、希釈剤および助剤と、を含む。
【0077】
「薬学的有効量」とは、ヒトまたは動物に投与した場合に検出可能な薬理学的および/または生理学的な作用を引き起こす化学物質または化合物を意味する。
【0078】
本願明細書に記載されるカリクレイン阻害剤および/またはセリンプロテアーゼ阻害剤の投薬単位の薬学的有効量は、通常は処置対象の患者の体重1kgあたり0.001ng〜100μgの範囲である。
【0079】
医薬組成物は、1以上の薬学的に許容できる担体、希釈剤および助剤を含むことができる。活性化合物の薬学的に使用可能な製剤への処理を容易にする許容しうる担体、希釈剤、助剤は、採用される投与量および濃度において対象に無毒であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、その他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸やメチオニンなどの酸化防止剤;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルアルコールもしくはベンジルアルコール;メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;m−クレゾール);低分子量(約10未満の残基)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、イムノグロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンなどの単糖類、二糖類、その他の炭水化物;EDTAなどのキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(Zn蛋白錯体など);および/またはTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン界面活性剤が例として挙げられる。医薬組成物は全身または局所的に投与することができる。例えば、このような組成物は、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、経皮的、口腔内投与などの非経口投与、埋込型装置による投与によって投与することができるし、または蠕動手段による投与によって送達されてもよい。本願明細書に記載される医薬組成物は、生体吸収性マトリクスに組み込むか、含浸させることができ、マトリクスはマトリクスの懸濁液、ゲルまたは固形支持体の形態で投与される。また、マトリクスは、バイオポリマーから構成されてもよい。
【0080】
徐放製剤を調製することもできる。徐放製剤の好適な例としては、抗体を含有する固体の疎水性ポリマーの半透過性基材が挙げられ、半透過性基材はフィルムまたはマイクロカプセルなどの成形品である。徐放基材の例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)など)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸と[γ]L−グルタミン酸エチルのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸リュープロリドからなる注入可能な小球体)などの分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、ポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。生体内投与に使用する製剤は無菌状態としなければならない。例えば、無菌濾過膜による濾過によって容易に無菌状態とすることができる。
【0081】
本発明に係る組成物の適切な投与量は、対象(被投与者)の年令、性別、健康状態、体重、もしあれば同時処置の種類、所望の効果の性質に依存することになるということは理解される。
【0082】
適切な投与形態は、疾患、阻害剤、投与方法に応じて異なる。例えば、錠剤、カプセル、トローチ、歯科用軟膏、坐剤、吸入剤、溶液、軟膏、非経口デポーが挙げられる。
【0083】
また、(例えば阻害剤の)アミノ酸のアミノ酸修飾は本発明に包含されるため、これは、阻害剤を非水溶性マトリクスまたはその他の高分子担体に架橋させたり、溶解性、吸着性、血液脳関門透過性を改良したりすることに対して有用な場合がある。そのような修飾は当該技術分野で周知であり、ペプチドなどのあらゆる起こりうる望ましくない副作用を排除または抑制することができる。
【0084】
通常、本発明のセリンプロテアーゼ阻害剤またはカリクレイン阻害剤は、検出可能な標識を含んでもよく、検出可能な標識に結合して検出可能な複合体を形成してもよい。
【0085】
「検出可能な標識」とは、診断のための検出可能な分子または検出部位、例えば特定の結合特性を有する酵素またはペプチド(ストレプトアビジンまたは西洋ワサビペルオキシダーゼなど)である。検出部位は、同族の特定の検出可能部位(標識アビジンなど)に結合することによって検出することができるビオチンなどの化学部位をさらに含む。
【0086】
好ましくは、検出可能な標識は、蛍光標識ならびにMRI−CT撮像に対して当該技術分野で通常使用される標識を含む。多くの蛍光材料が公知であり、標識として利用することができる。例としては、フルオレセイン、ローダミン、オーラミン、テキサスレッド、AMCAブルー、ルシファーイエローが挙げられる。
【0087】
本発明のカリクレイン阻害剤またはセリンプロテアーゼ阻害剤は、放射性標識(例えば、同位体3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、121I、124I、125I、131I、111In、211At、198Au、67Cu、225Ac、213bu、99Tc、186Re)を検出部位と担持することができる。放射性標識を使用する場合には、公知の現在利用可能な計数法を使用して特定の結合材料を同定・定量することができる。標識が酵素である場合には、当該技術分野で公知の現在利用できる比色、分光光度法、蛍光分光光度法、電流測定または気体定量法のいずれかによって検出することができる。
【0088】
生体内撮像の場合には、本発明の標識は、放射性同位体ではなく、造影剤(特に限定されないが、磁気共鳴造影剤など)に結合させることができる。キレート化剤の例としては、EDTA、ポルフィリン、ポリアミンクラウンエーテル、ポリオキシムが挙げられる。常磁性イオンの例としては、ガドリニウム、鉄、マンガン、レニウム、ユウロピウム、ランタン、ホルミウム、エルビウムが挙げられる。
【0089】
本発明の別の主題は、哺乳動物における好中球減少症の診断、予後診断、予防または処置のためのキットであって、本発明の組成物と、必要に応じて試薬および/または取扱説明書と、を含むキットを提供することにある。本発明のキットは、例えば、化学療法剤、抗表皮成長因子受容体抗体、放射免疫治療薬、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される抗癌剤を含む別々の医薬品剤形をさらに含んでもよい。
【0090】
一般に、キットは、容器と、容器上または容器内に設けられたラベルまたは包装挿入物を含む。適切な容器としては、瓶、バイアル、注射器などが挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの各種材料で形成することができる。容器は、状態を処置するために有効な組成物を保持し、無菌アクセス口(例えば、容器は静脈注射用溶液バッグまたは皮下注射針を貫通させることができるストッパーを有するバイアルであってもよい)を有することができる。ラベルまたは包装挿入物は、組成物が好中球減少症などの選択された症状を処置するために使用されることを表示する。
【0091】
あるいはまたはさらに、キットは、静菌剤注射用蒸留水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液などの薬学的に許容できるバッファーを含む第2(第3)の容器を含むことができる。製品は、その他のバッファー、希釈剤、フィルタ、針、注射器などの市販またはユーザーの見地から望ましいその他の材料をさらに含むことができる。
【0092】
また、本発明は、本発明の組成物の、哺乳動物における好中球減少症の診断、予後診断、予防または処置のための生体外および生体内試験システムの開発と標準化における薬理学ツールとしての使用を開示する。
【0093】
また、本発明は、組織試料における好中球減少症の診断、予後診断、予防または処置のための検出分析方法であって、その組織試料を本発明の組成物と接触させること、検出された標識の量を検出・測定すること、この量をその組織試料における好中球減少症の有無に相関させることを含む方法を包含する。
【0094】
当業者には、具体的に説明した実施形態以外に本発明を容易に変更および変形することができることは明らかであろう。本発明は、本発明の趣旨および基本的な特徴から逸脱しないすべてのそのような変更および変形を含むということを理解されたい。また、本発明は、本願明細書において参照または例示したすべての工程、特徴、組成物および化合物を個々または一括して含み、複数の工程または特徴のすべての組み合わせを含む。従って、本願の開示は例示した態様に限定されるものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、均等物の意味および範囲に含まれるあらゆる変形は本発明の範囲に含まれる。
【0095】
本願明細書において各種参考文献を引用しているが、各参考文献の内容は各参照によってその全体を本願明細書に援用するものとする。
【0096】
上記説明は以下の実施例を参照することによりさらに十分に理解されるだろう。ただし、以下の実施例は本発明を実施する方法の例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0097】
好中球細胞生存に対するMDPK67Bの生体外効果
生体外での好中球の生存率を評価するために、健康なドナーからの末梢血を赤血球溶解し、好中球または末梢血単核球(PBMC)を単離した。RPMI 10%FCSの中での培養は、特段の記載がない限り96穴のマイクロタイタープレート(5×10細胞/ウェル)で行った。アポトーシス好中球またはPBMCの百分率を、蛍光アネキシンV−タンパク質結合の結合、またはFACS(蛍光発色セルソーター)分析によるCD11bまたはCD16細胞表面発現の測定に基づいて評価した。
【0098】
実施例1:MDPK67bは、生体外で用量依存的に好中球のアポトーシスを減少させたが、T細胞生存に対しては有意な効果はない。
図1:プロテアーゼ阻害剤MDPK67bおよびMD0KG9とともにインキュベーションした際の好中球およびT細胞のアネキシン−V染色。
図1a:MDPK67bとともにインキュベーションした際の好中球およびT細胞のアネキシン−V染色。
示すように6μM〜60μMの範囲の濃度のMDPK67b、または対照としてのPBSとともに、24または48時間細胞をインキュベーションした。アネキシンV染色およびFACS分析によって、アポトーシスを評価した。示した白血球ポピュレーションは、前方散乱光/側方散乱光FACSドットプロットにおける(好中球)またはCD3に対する陽性染色法による(T細胞)それらの外観に基づいてゲーティングした。
図1b:MDPK67bまたはMDOKG9(OKDG9)とともにインキュベーションした際の好中球のアネキシン−V染色。
示したように60μM(希釈1)〜60pM(希釈7)の範囲のMDPK67bまたはMDOKG9濃度とともに、好中球を18時間インキュベーションした。上に概略を示したようにして、アポトーシスを評価した。
結論:60μM〜0.6μMの範囲の用量のMDPK67bは好中球のアポトーシスを阻害する。MDOKG9は、好中球がアポトーシスに誘導されることから保護するという同様の効果を有する。この効果は好中球に特異的であり、MDPK67Bは、単球またはリンパ球のアポトーシスを阻害しなかった。
【0099】
実施例2:アポトーシスに対する、好中球のMDPK67b介在性保護は、培養条件に依存しない。
図2:MDPK67b処置された好中球のアネキシン−V染色を通した種々の細胞培養条件の比較。
好中球を、示した濃度のMDPK67bとともに培養した。MDPK67bを含まないPBSが対照としての役割を果たした。5×10/ml(高密度)または3×10/ml(低密度)のいずれかで好中球をプレーティングし(100μl/ウェル)、アネキシンV染色およびFACS分析によって、好中球のアポトーシスを評価した。RPMI 10% FCSの代わりの無血清培地(X−Vivo 15)中での5×10/mlの好中球の培養を、並行して評価した。
結論:MDPK67bは、増殖培地中の細胞密度および血清の有無によらずに、生体外で好中球のアポトーシスを阻害する。
【0100】
実施例3:Srcチロシンキナーゼ阻害剤PP2は、MDPK67bが媒介する好中球のアポトーシスの減少を逆転させる。
図3:チロシンキナーゼ阻害剤によるMDPK67b媒介性好中球保護の復帰。
図3a:培養された好中球のCD16およびCD11bのレベルに対するMDPK67bの効果。好中球を、示した濃度のMDPK67bとともに培養し、高レベルのCD16またはCD11bを発現する好中球の百分率をFACSによって評価した。代表的なFACSプロットを示す。
図3b:PP2による、CD16およびCD11b好中球レベルに対するMDPK67bの効果の復帰。好中球を、Srcチロシンキナーゼ阻害剤PP2(最終濃度10μM)の存在下または不存在下で、示した濃度のMDPK67bとともに培養した。CD11bおよびCD16を高く発現する好中球のアポトーシスおよび相対頻度を、FACS分析によって測定した。
結論:MDPK67bは、CD16およびCD11bを高レベルで発現する好中球の頻度(これは、アポトーシスの減少と関連する)を用量依存的に増加させる。MDPK67bの存在下でのCD11bを高く発現する好中球の頻度の増加およびアポトーシスの減少は、Srcチロシンキナーゼ阻害剤PP2の存在下で逆転させることができる。細胞内シグナル伝達経路を遮断する他のキナーゼ阻害剤(PI3K阻害剤Ly294002およびERK阻害剤PD98059が挙げられる)で、同様の効果を観察した。
【0101】
実施例4:アポトーシスからの好中球の保護においてG−CSFと比較した、MDPK67bの優れた効果
図4:好中球の生体外アポトーシスに対するG−CSFの効果。
好中球を、示した濃度のG−CSFとともに培養し、好中球アポトーシス(a)およびCD16発現の下方制御(b)を、FACSによって分析した。(c)好中球は、MDPK67b(0.6μM)および滴定された量のG−CSF(濃度は示すとおり)とともに培養した。培地およびPBS(MDPK67bを含まない)の中で培養した好中球は、対照としての役割を果たした。
結論:好中球アポトーシスに対するMDPK67bの効果は、単独では好中球アポトーシスに対する軽度の防御効果しか有しないG−CSFによっては影響されない。
【0102】
実施例5:MDPK67bは、細胞増殖抑制剤誘発の好中球のアポトーシスを低下させる
図5:MDPK67bおよびエトポシドで処置した好中球のアネキシン−VおよびCD16染色。
図5a:MDPK67bおよびエトポシドで処置した好中球のアネキシン−V染色。
エトポシド(125μg/ml)を加えたMDPK67b(6μM)、エトポシド単独またはPBSとともに、細胞を18時間インキュベーションした。アネキシンV染色およびFACS分析によって、アポトーシスを評価した。関連する白血球ポピュレーションは、前方散乱光または側方散乱光FACSドットプロットにおけるそれらの外観に基づいてゲーティングした。
図5b:低MDPK67bおよび増加するエトポシド濃度で処置された好中球のアネキシン−V染色。
細胞を、MDPK67b(0.06μM)単独、または示すとおりの増加する濃度のエトポシド(μg/ml単位)を加えたMDPK67b(0.06μM)またはPBSとともに、18時間インキュベーションした。アネキシンV染色によって、アポトーシスを評価し、FACS分析を上記のようにして行った。
図5c:MDPK67bおよびエトポシドで処置した好中球のCD16染色。
細胞を、MDPK67b(0.06μM)単独、または示すとおりの増加する濃度のエトポシド(μg/ml単位)を加えたMDPK67b(0.06μM)またはPBSとともに、18時間インキュベーションした。CD16を高く発現する好中球の百分率を、FACS分析によって評価した。
結論:細胞増殖抑制剤であるエトポシドの高用量(125μg/mlまで)でさえ、部分的にしかMDPK67bのアポトーシス低下効果を遮断しない。
【0103】
実施例6:白血病細胞株ならびにドナー由来の単核細胞および好中球細胞におけるKLK発現のRT−PCR分析。
物質および方法:
DU−145、PC−3、T47D、OVCAR−3、HL−60、THP1およびU937細胞株を、10%不活性化ウシ胎仔血清を含む適切な標準的な培地の中で培養し、5% COとともに37℃でインキュベーションした。単核細胞および好中球細胞を単離した。トリゾール試薬(Life Technologies,Inc.)およびPureLink Micro−to−Midi キット(Invitrogen)を使用して上記細胞から全RNAを抽出し、2μgの全RNAを、製造業者の取扱説明書に従って、20μl反応液の中でSuperscript III(Invitrogen)を使用してfirst−strand cDNAへと逆転写した。各カリクレインに特異的プライマーおよび対照としてのアクチンプライマーを使用してPCR反応を行った。すべてのプライマーは、すでに文献に記載されていた(Harvey TJら、J Biol Chem、2000年12月1日;275(48):37397−406)。Yousef GMら、J Biol Chem. 2001年1月5日;276(1):53−61。Yousef GMら、Cancer Res. 2001年4月15日;61(8):3425−31)。PCR反応によっては、DU−145、PC−3、T47D、OVCAR−3を含めた異なる細胞株から単離したRNAを、KLK発現についての陽性対照として使用した(Harvey TJら、J Biol Chem、2000年12月1日;275(48):37397−406)。
循環条件は、主にHarvey TJら(J Biol Chem、2000年12月1日;275(48):37397−406)によって記載されているとおり、標的遺伝子に依存していた。PCR混合物を2%アガロースゲル上で電気泳動にかけ、臭化エチジウム染色によって可視化した。示したところでは、予想されるサイズのDNAバンドを、電気泳動後に第2の2%アガロースゲルから切り取り、回収したDNAを配列決定した。
【0104】
RT−PCRによるKLK増幅のために使用したプライマー;
【表3】
【0105】
結果:
表2:白血病細胞株ならびにドナー由来の単核細胞および好中球細胞におけるRT−PCR分析によって得た15のKLK遺伝子の発現パターン。使用した以下の記号は、以下の内容を表す:++、中/高発現;+、低発現;(1)予想されるサイズのPCR産物を配列決定し、正しい配列であることを確認した。
【0106】
【表4】
【0107】
結論:
白血病細胞株および単離されたヒト血液細胞におけるKLK発現レベルのRT−PCR分析は、複数のKLKが発現されるということ、および異なる細胞はKLKプロテアーゼファミリーについて非常に多様な発現パターンを有するということを示した。KLK発現レベルのこのような差は、記載した好中球細胞におけるアポトーシスに対する保護のような、これらの細胞の生体外培養物に対してカリクレイン阻害剤が有する異なる効果に関与している可能性がある。
【0108】
配列表
【表5】
【0109】
【表6】
イタリック体:開始コドンATG
太字:His−タグ
下線:DNA突然変異
下線および灰色:RSL突然変異をコードするDNA配列。
【0110】
【表7】
【0111】
【表8】
イタリック体:開始コドンATG
太字:His−タグ
下線:DNA突然変異
下線および灰色:RSL突然変異をコードするDNA配列。
【0112】
【表9】
【0113】
【表10】
イタリック体:開始コドンATG
太字:His−タグ
下線:DNA突然変異
下線および灰色:RSL突然変異をコードするDNA配列。
【0114】
【表11】
【0115】
【表12】
イタリック体:開始コドンATG
太字:His−タグ
下線:DNA突然変異
下線および灰色:RSL突然変異をコードするDNA配列。
【0116】
【表13】
【0117】
【表14】
イタリック体:開始コドンATG
太字:His−タグ
下線:DNA突然変異
下線および灰色:RSL突然変異をコードするDNA配列。
【0118】
【表15】
【0119】
【表16】
イタリック体:開始コドンATG
太字:His−タグ
下線:DNA突然変異
下線および灰色:RSL突然変異をコードするDNA配列。
【0120】
【表17】
【0121】
【表18】
【0122】
【表19】
【0123】
【表20】
イタリック体:開始コドンATG
太字:His−タグ
下線:DNA突然変異
下線および灰色:RSL突然変異をコードするDNA配列。
【0124】
【表21】
イタリック体および太字:開始コドンATG
太字および下線:His−タグ
下線:DNA突然変異(付加コドン)
下線および灰色:RSL突然変異をコードするDNA配列。
【0125】
【表22】
イタリック体および太字:開始メチオニン
太字および下線:His−タグ
下線:アミノ酸突然変異(付加)
下線および灰色:RSL突然変異。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]