(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667194
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】射出成形用スタンパの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/26 20060101AFI20150122BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C33/38
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-528742(P2012-528742)
(86)(22)【出願日】2010年9月6日
(65)【公表番号】特表2013-503766(P2013-503766A)
(43)【公表日】2013年2月4日
(86)【国際出願番号】KR2010006034
(87)【国際公開番号】WO2011031047
(87)【国際公開日】20110317
【審査請求日】2012年3月8日
(31)【優先権主張番号】10-2009-0084953
(32)【優先日】2009年9月9日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】502032105
【氏名又は名称】エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン キュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ソク ジェ
【審査官】
松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−167497(JP,A)
【文献】
特開2000−225620(JP,A)
【文献】
特開平11−333885(JP,A)
【文献】
特開2004−110882(JP,A)
【文献】
特開2003−043203(JP,A)
【文献】
特開昭62−146624(JP,A)
【文献】
特開昭62−119100(JP,A)
【文献】
特開平01−135606(JP,A)
【文献】
特開平02−307737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76、39/26−39/36、41/38−41/44、43/36−43/42、43/50、45/26−45/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に所定の微細パターンを形成するパターン形成段階と、
前記基板に対してニッケル又は銅メッキを行って前記微細パターンが転写されたスタンパを形成する金属メッキ段階と、
前記の金属メッキで形成されたスタンパを前記基板から離型させるスタンパ分離段階と、
電子ビーム蒸着法により窒化チタンをコーティングすることにより、前記スタンパのパターン上に鏡面を保持するための保護層をコーティングする保護層コーティング段階と、
を含み、
前記スタンパから転写された前記微細パターンを備える構造物において、前記微細パターンのピッチ及び前記微細パターンの間隔を調節して、見る方向によって、前記構造物の表面の色が変化し、
前記の窒化チタンコーティング層の厚さは0.2〜0.6μmである、
ことを特徴とする射出成形用スタンパの製造方法。
【請求項2】
前記保護層コーティング段階は、窒素雰囲気または窒素及びアルゴン雰囲気の真空チャンバ内でチタンに電子ビームを照射し、前記スタンパにチタンイオンと窒素イオンを蒸着させる段階を含む、請求項1に記載の射出成形用スタンパの製造方法。
【請求項3】
前記保護層コーティング段階の前に、前記スタンパを溶剤に浸して超音波を加えることで前記スタンパを洗浄する超音波洗浄段階をさらに含む、請求項1に記載の射出成形用スタンパの製造方法。
【請求項4】
前記溶剤は、アセトン溶剤である、請求項3に記載の射出成形用スタンパの製造方法。
【請求項5】
前記パターン形成段階は、
前記基板上にフォトレジストを塗布する段階と、
前記の塗布されたフォトレジストをソフトベークする段階と、
前記の塗布されたフォトレジストを有する基板上に所定形態のパターンマスクを載せて露光する段階と、
前記の露光されたフォトレジストを現像する段階と
前記フォトレジストが部分的に除去された箇所をハードベークする段階と、を含む、請求項1に記載の射出成形用スタンパの製造方法。
【請求項6】
前記パターン形成段階の後に、前記の形成されたパターン上にシード層を蒸着する段階をさらに含む、請求項1に記載の射出成形用スタンパの製造方法。
【請求項7】
前記パターン形成段階は、
前記基板上に金属を蒸着する段階と、
前記の蒸着された金属を電解研磨する段階と、
前記金属を1次陽極酸化する段階と、
生成された金属酸化物をエッチングして除去する段階と、
酸化されていない金属を2次陽極酸化する段階と、
前記2次陽極酸化により前記微細パターンと前記基板との間に形成されたバリア層を除去する段階と、を含む、請求項1に記載の射出成形用スタンパの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用スタンパの製造方法に係り、特に、微細パターンを形成して金属スタンパを製造した後であっても、硬度が高く、スクラッチを防止でき、耐久性に優れた射出成形用スタンパの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形は一定の形状を有する金型のキャビティの内部に溶融した樹脂を流入させて充填し、これを冷却することによってキャビティの形状と同じ製品を形成する方法である。近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の発達に伴い、微細パターンが形成されたスタンパを用いて様々な形態の構造物が作られている。
【0003】
特に、このような射出成形はプラスチック製品を大量に生産するために一般的に用いられる製造方法であり、時代の流れに伴い、優れた耐久性を有する高強度の重合体から構成されるプラスチック製品に対する需要が著しく増大しており、係る射出成形方法も様々な分野において適用されているのが現状である。
【0004】
近年は、一般的な家庭用のプラスチック製品のみならず、航空宇宙の分野や精密光学機器の分野で用いられるプラスチック製品を生産する場合においても射出成形方法が用いられており、特に、微細で精密なパターンが要求される製品にも適用されている。
【0005】
即ち、表面に数十ナノ乃至数十マイクロメータサイズの微細パターンが存在するプラスチック構造物を生産するための方法として、射出成形が用いられている。
【0006】
しかしながら、係るナノまたはマイクロメータサイズの微細パターンを備えるプラスチックの成形物を提供するためには、その微細パターンに相応する別途のスタンパを用いる。係るスタンパは一種の板の形態で提供されるのが一般的である。
【0007】
係る微細パターンを備えるスタンパを用いて光の建設的干渉及び相殺的干渉による光学的効果を具現できる成形物を製造することができる。例えば、係る微細パターンによるナノ線幅を用いて高分解能分光計に使用したり、光の散乱を促進するパターンを形成してLCD部品のバックライトユニットとして使用したりすることができる。
【0008】
また、極微細パターンの規則的な配列を通して光学的バンドギャップ効果を発生させることによって、その極微細パターンにおける特定波長の光だけを反射し、それ以外の光は透過及び吸収させるようにすることも可能である。
【0009】
所定の製品に所望の微細パターンを形成するためには、該パターンを具備するスタンパを用いて製造することが一般的で、従来の微細パターンを作るためにLIGA(Lithographie,Galvanoformung,Abformung)工程が用いられる。
【0010】
このLIGA工程を用いてスタンパを製造する過程を簡単に説明すると次の通りである。まず、基板を洗浄した後、フォトレジストを塗布してソフトベークする。 次に、所定形状のパターンマスクを載せて露光し、露光されたフォトレジストを現像した後、フォトレジストが部分的に除去された箇所にハードベークを通して所定形状の微細パターンを形成する。形成されたパターン上に導電層を蒸着した後、ニッケルまたは銅などのメッキをしてから、そのメッキ層を分離するとマスタースタンパが完成する。
【0011】
図1には、従来技術により製造された射出成形用スタンパを表す写真が示されている。
【0012】
製造されたマスタースタンパは、射出成形品を生産するための金型として用いられるもので微細なパターンが形成されているために、滑らかな鏡面を保持しなければならない。しかし、従来技術により製造されたマスタースタンパはニッケルまたは銅からなるパターン平面の硬度が低いため、
図1の拡大図に示すように、軽い接触でもスクラッチ(S)が発生しやすく、メンテナンスが難しいという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来の問題点を解決するために案出されたものであり、微細なパターンが形成されているスタンパの表面硬度を強化することによって、鏡面を保持してスクラッチの発生を防止できる射出成形用スタンパの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明の射出成形用スタンパの製造方法は、基板に所定の微細パターンを形成するパターン形成段階と、基板に対して金属メッキを行って微細パターンが転写されたスタンパを形成する金属メッキ段階と、スタンパを基板から離型させるスタンパ分離段階と、スタンパのパターン上に鏡面を保持させるために保護層をコーティングする保護層コーティング段階と、を含むことを特徴とする。
【0015】
好ましくは、金属メッキ段階でメッキされる金属はニッケルまたは銅である。
【0016】
好ましくは、保護層コーティング段階でコーティングされる物質は窒化チタンである。
【0017】
好ましくは、保護層コーティング段階では、電子ビーム蒸着法により窒化チタンがコーティングされる。
【0018】
好ましくは、保護層コーティング段階では、窒素雰囲気または窒素及びアルゴン雰囲気の真空チャンバ内でチタンに電子ビームを照射して、スタンパにチタンイオンと窒素イオンとを蒸着させる。
【0019】
好ましくは、保護層コーティング段階の前に、スタンパを溶剤に浸して超音波を加えることで洗浄する超音波洗浄段階をさらに含む。
【0020】
好ましくは、溶剤はアセトン溶剤である。
【0021】
好ましくは、窒化チタンコーティング層の厚さは 0.2〜0.6μmである。
【0022】
好ましくは、パターン形成段階は、基板上にフォトレジストを塗布する段階と、塗布されたフォトレジストをソフトベークする段階と、所定形態のパターンマスクを載せて露光する段階と、露光されたフォトレジストを現像する段階と、フォトレジストが部分的に除去された箇所をハードベークする段階と、を含む。
【0023】
好ましくは、パターン形成段階の後に、形成されたパターン上にシード層を蒸着する段階をさらに含む。
【0024】
また、パターン形成段階は、基板に金属を蒸着する段階と、蒸着された金属を電解研磨する段階と、金属を1次陽極酸化する段階と、生成された金属酸化物をエッチングして除去する段階と、酸化されていない金属を2次陽極酸化する段階と、2次陽極酸化を通して形成された微細パターンと基板との間に形成されたバリア層を除去する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の射出成形用スタンパの製造方法によれば、微細なパターンが形成されているスタンパの表面硬度を強化することによって、鏡面を維持してスクラッチの発生を防止でき、製造されたスタンパのメンテナンスが容易になる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】従来技術により製造された射出成形用スタンパであり、スクラッチが形成された状態を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施例によりLIGA工程を用いてマスタースタンパを製造する工程を順次に示す断面図である。
【
図3】本発明の第2実施例によりAAO工程を用いてマスタースタンパを製造する工程を順次に示す断面図である。
【
図4】本発明において、電子ビームを照射して微細パターンが形成されたスタンパに窒化チタンをコーティングすることを示す概略図である。
【
図5】本発明のスタンパ製造方法により製造された射出成形用スタンパを示す図である。
【
図6】本発明により製造されたスタンパを用いて射出成形された構造物を示す図である。
【
図7】本発明により製造されたスタンパを用いて射出成形された構造物を示す図である。
【
図8】
図6及び
図7の構造物が冷蔵庫に設けられることを示す斜視図である。
【
図9】本発明により様々なデザインを有したスタンパを用いて射出成形されたパネルまたはフィルム状の半製品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0028】
本発明の射出成形用スタンパの製造方法は、基板に所定の微細パターンを形成するパターン形成段階と、該基板に対して金属メッキを行って微細パターンが転写されたスタンパが形成されるようにする金属メッキ段階と、該スタンパを基板から離型させるスタンパ分離段階と、該スタンパのパターン上に鏡面を維持するために保護層をコーティングする保護層コーティング段階と、を含むことを特徴とする。
【0029】
本発明のスタンパ製造方法は、該パターン形成段階において、基板に微細パターンを形成する方法により二つの実施例に大別される。まず、二つの実施例により基板に微細パターンを形成する工程について説明する。
【0030】
図2は、本発明の第1実施例によりLIGA工程を用いてマスタースタンパを製造する工程を順次に示す断面図である。
【0031】
本発明の第1実施例によれば、該パターン形成段階は、基板10上にフォトレジスト20を塗布する段階と、塗布されたフォトレジスト20をソフトベークする段階と、所定形態のパターンマスク30を載せて露光する段階と、露光されたフォトレジスト20を現像する段階と、フォトレジスト20が部分的に除去された箇所をハードベークする段階と、を含むことが好ましい。
【0032】
基板10はシリコンやガラスまたは合成樹脂のフィルムから形成することができる。まず、この基板10を洗浄して、その表面にある不純物を除去し、
図2(a)に示すように、一定の厚さでフォトレジスト20を塗布した後、塗布されたフォトレジスト20をソフトベークする。次に、
図2(b)に示すように、微細パターンが形成されているマスク30を定置させ、マスク30を通して露光して現像した後にハードベークすると、
図2(c)に示すように、フォトレジスト20に微細パターン20Pが形成される。この微細パターン20Pは厚さが約1.5μmで、幅が約2μmになるように形成されることが好ましい。
【0033】
微細パターン20P上に、直接、金属メッキを行うこともできるが、パターン形成段階後に、微細パターン20P上にシード層40を蒸着する段階をさらに含むことが好ましい。
【0034】
図2(d)に示すように、シード層40は形成された微細パターン20P上に一定の厚さで塗布される。このシード層40は、金属メッキ後に金属メッキ層50を微細パターン20Pから分離しやすくするための離型層として作用する。したがって、このシード層40の厚さは、金属メッキ層に転写されるパターンに影響を与えない程度に薄く形成しなければならない。シード層40は、素材として、CrON、DLC(Diamond Like Carbon)、C4F8、自己組織化単分子膜(SAM;Self−Assembled Monolayer)などを用いて、真空蒸着により形成される。
【0035】
次に、
図2(e)に示すように、シード層40上に金属メッキを行う。スタンパは主にニッケル(Ni)または銅(Cu)から形成され、その中でも硬度や耐久性の点でより優れたニッケル(Ni)がより頻繁に使われる。
【0036】
メッキにより形成される金属メッキ層50の厚さは約500μm、微細パターンが形成される部分の厚さは約2μmとなるように形成することが好ましい。
図2(e)では、便宜上、パターン部の厚さがメッキ層の厚さと同じくらいとなっている。
【0037】
続いて、該微細パターンが転写された金属メッキ層50をシード層40から離型させることにより、金属メッキ層50をシード層40から分離すると、
図2(f)に示すように、この分離された金属メッキ層50こそが、微細パターンが形成されたスタンパになるものである。この際、シード層40は金属メッキ層50の分離を容易にする。
【0038】
最後に、
図2(g)に示すように、分離された金属メッキ層50のパターンがある表面に窒化チタン(TiN)からなる保護層をコーティングすると、優れた表面硬度を有するマスタースタンパの形成が完了する。保護層は、コーティングし易く、極薄のコーティングが可能であって、コーティングした後でも優れた表面硬度を有する材料から形成されることが要求される。そのような材料として、窒化チタンが好ましい。
【0039】
一方、この保護層コーティング段階の前に、スタンパを溶剤に浸し、これに超音波を加える超音波洗浄段階をさらに含むことが好ましい。様々な種類の溶剤があるが、スタンパがニッケルまたは銅からなり、その上に微細パターンが形成されていることを考慮すると、市場で容易に入手でき、金属洗浄用として優秀なアセトン溶剤を用いることが好ましい。超音波洗浄によりスタンパから不純物を除去することによって、保護層コーティング段階で、大きいチタンイオンがスタンパの表面に存在する不純物と反応して付着する現象を防止して鏡面を維持することができる。
【0040】
保護層コーティング段階で、電子ビーム蒸着法により窒化チタンをコーティングすることが好ましい。電子ビーム蒸着法において、
図4に示すように、窒素雰囲気または窒素及びアルゴン雰囲気の真空チャンバ内でチタンに強力な電子ビームを照射して、スタンパにチタンイオンと窒素イオンとを蒸着させる。電子ビームの高エネルギー電子はチタンに衝突してプラズマ放電を起こし、プラズマ放電から飛び出したチタンイオン(Ti
+)が金属スタンパの表面に付着する。さらに、プラズマ放電によりチャンバ内の窒素のうち一部がイオン化される。イオン化窒素のうち金属スタンパに付着した窒素イオン(N
+)とチタンイオン(Ti
+)が反応して窒化チタン(TiN)を形成し、反応が継続するに従い、窒化チタンコーティング層70が形成される。
【0041】
この窒化チタンコーティング層70の厚さは0.2〜0.6μmであることが好ましい。これは、窒化チタンコーティング層70の厚さが厚すぎると、スタンパの微細パターンに影響を与えるようになり、薄すぎると所望の硬度が得られないためである。
【0042】
一方、以下では、パターン形成段階で、上述のLIGA工程とは異なる方法によりスタンパを製造する陽極酸化アルミニウム(AAO;Anodized Aluminum Oxide)工程について
図3を参照して説明する。
【0043】
本発明の第2実施例による射出成形用スタンパの製造方法におけるパターン形成段階は、基板上に金属を蒸着する段階と、蒸着した金属を電解研磨する段階と、金属を1次陽極酸化する段階と、生成された金属酸化物をエッチングして除去する段階と、酸化されていない金属を2次陽極酸化する段階と、該2次陽極酸化を通して微細パターンと基板との間に形成されたバリア層を除去する段階と、を含む。
【0044】
図3は、基板に微細パターンを形成し、微細パターン上に金属メッキを行い、金属メッキ上に窒化チタンをコーティングするAAO工程によりマスタースタンパを製造する方法のステップを示す断面図を示している。
【0045】
金属製スタンパを提供するためのスタンパの製造プロセスにおいて、
図3(a)に示すように、所定の基板110上にアルミニウム(Al)などの金属120を5〜10μm蒸着した後、
図3(b)に示すように、電解研磨により表面粗さを3〜5nm以下に調節する。電解研磨は、電気分解時に陽極の金属表面における微細な凸部が他の表面部分より選択的に溶解することを用いた金属研磨法である。研磨しようとする金属を陽極として、電解液の中で電気分解すると金属表面を研磨できる。
【0046】
次に、
図3(c)に示す1次陽極酸化段階と、
図3(d)に示すエッチング段階と、
図3(e)に示す2次陽極酸化段階とを行うことにより、一定のピッチまたは半径を有するホール、またはナノサイズまたはマイクロサイズのパターンが規則的に分布する金属酸化物からなるスタンパが提供される。
【0047】
各段階を詳細に見てみると、
図3(c)に示すように、1次陽極酸化が進むと、アルミニウム層120の一部が電解剤と接触してアルミナ(Al
20
3)130に変化し、所定の深さを有する微細パターン130Pが形成される。
【0048】
次に、
図3(d)に示すように、エッチング工程を行って、1次陽極酸化工程により形成されたアルミナ130を除去すると、基板110上にアルミニウム120だけが残留する。
【0049】
続いて、
図3(e)に示すように、2次陽極酸化を行い、残留アルミニウム120をアルミナ140に変化させる。このプロセスで形成される微細パターン140Pは基板110の表面に近接する深さを有する一方で、その幅は広くなる。
【0050】
このプロセスで、微細パターン140Pと基板110との間には陽極酸化の副産物としてバリア層145が形成される。
【0051】
図3(f)に示すように、バリア層145を酸溶液により除去すると、アルミナ層140に形成された微細パターン140Pを有する基板110が製造される。
【0052】
そして、
図3(g)に示すように、微細パターン上にこれらを覆うニッケル(Ni)または銅(Cu)の金属メッキ構造物150を電鋳メッキ(electroforming)工程を通して形成し、その後、
図3(h)のように微細パターン140Pが転写されたメッキ構造物150を基板から分離すると、所定の微細パターン150Pを有し、耐久性を備えた金属構造物150、すなわちスタンパが製造される。
【0053】
最後に、
図3(i)に示すように、製造されたスタンパ150の微細パターンが形成されている表面に窒化チタン170を0.2〜0.6μmの厚さでコーティングすると、本発明に係るマスタースタンパの製造が完了する。窒化チタン170をスタンパの表面にコーティングすることは第1実施例と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0054】
このように、AAO法は、シンプルに且つ低コストで所望のパターンを有するスタンパの製造を正確且つ再現可能に制御することができる。
【0055】
図5は、本発明の方法により製造されたマスタースタンパの写真を示す。
図1に示す従来技術においてニッケルメッキにより製造されたスタンパは銀灰色を帯びている。しかし、本発明により製造された
図5のスタンパはTiNメッキにより金色を帯びており、はるかに優れた硬度を有するために、反復的な射出成形作業にもかかわらずスクラッチの発生が著しく減ることを確認することができた。
【0056】
一方、上述したLIGA工程やAAO工程によりスタンパを製造する場合、パターンのピッチを調節することによってホログラムを表示するように、パターンが転写された所定の構造物を形成することができる。
【0057】
すなわち、微細パターンが転写された構造物が搭載された家電機器の一部を使用者が眺めた時、眺める方向によりその構造物の表面の色が変化し、ホログラム効果を具現できるものである。なぜなら、微細パターンは射出成形された構造物の前方側から構造物の方向に向かう光の屈折及び干渉現象を起こすことから、微細パターン上で屈折及び干渉される光の波長も変わって色が変わるからである。
【0058】
また、スタンパ50、150に形成される微細パターンの間隔を調節して射出成形された構造物に形成される微細パターンの間隔を拡げたり狭めたりすると、光の経路が変わるようになる。これによって、構造物の微細パターンで屈折及び干渉される光の波長も変わって色が変わるようになるので、これを用いて様々なデザインを有する構造物を射出成形することができる。
【0059】
本発明により製造されたスタンパによって射出成形される構造物は、
図5に例示されたスタンパにより製造されるボタン形態だけでなく様々な立体形状を有した構造物に成形されて、家電製品に装飾部材などとして用いられ得る。
【0060】
図6及び
図7には、それぞれ
図5に示したような微細パターンを有するスタンパにより射出成形されるボタン形態の構造物700が図示されている。この構造物700には該スタンパの微細パターンにより所定の文様が形成されており、それぞれの文様には上述した光の屈折、反射、干渉により総天然色が表現される。
【0061】
図8は、
図6及び
図7の構造物を備えた冷蔵庫を示している。この冷蔵庫本体600の内部には、貯蔵室610が設けられ、貯蔵室610の内部には貯蔵品の貯蔵のための貯蔵箱620が設けられる。ここで、該構造物700は貯蔵箱620の前面630に設けられるが、その部分には該構造物700が設置され得る設置溝640が設けられる。したがって、構造物700は貯蔵箱620の前面を飾る装飾部材としての役割を果たすようになる。
【0062】
そして、本発明のスタンパを用いて微細パターンを有する構造物をパネルまたはフィルム形態に製造することもでき、製造されたパネルまたはフィルム形態の装飾部材は冷蔵庫、洗濯機、エアコン、調理器等の様々な家電製品に適用することができる。
図9は、エアコンの室内機の前面パネルや、冷蔵庫のドアーの前面パネル、または洗濯機や調理器の前面のコントロールパネルまたは前面パネルに形成される各種文様または文字を示し、外部からこれらを見ると各文様や文字が光を発しているかのように見えるようになる。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明の範囲は係る特定の実施例に限定されず、当該分野において通常の知識を有する者であれば本発明の特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内で適宜に変更可能である。