【実施例1】
【0031】
本実施例では、空気中から窒素吸着剤を用いて窒素を吸着して除去することにより酸素を濃縮し、この高濃度の酸素を含む酸素濃縮気体を、患者等に対して供給する医療用酸素濃縮装置(以下酸素濃縮装置と記す)を例に挙げる。
【0032】
a)まず、本実施例の酸素濃縮装置の内部構成について説明する。
図1に示す様に、酸素濃縮装置1は、その空気の導入路3に、上流側より、空気取入口5、防塵フィルタ7、吸気フィルタ9、吸気マフラ10、コンプレッサ11、熱交換器13、一対の切換弁15、及び窒素吸着剤を充填した一対の吸着筒17が設けられている。尚、コンプレッサ11及び熱交換器13の近傍には、冷却用ファン19が配置されている。
【0033】
このうち、前記窒素吸着剤は、加圧すると空気中の窒素を優先的に吸着し、また圧力を下げると吸着した窒素を放出して、窒素吸着剤の再生を行うゼオライト系の窒素吸着剤である。また、一対の吸着筒17から窒素を排気する排気路21には、断続的な排気音を消すサイレンサ23が設けられている。
【0034】
更に、一対の吸着筒17から、酸素濃縮気体を供給する供給路27の構成として、その上流側から、吸着筒17間の圧力を調節する二方弁である均圧弁29、酸素濃縮気体の逆流を防止する一対の逆止弁30、酸素濃縮気体を溜める製品タンク31、酸素濃縮気体の圧力(供給圧力)を所定圧力に調整する圧力調整器33、酸素濃縮気体の酸素濃度を検出する酸素センサ34、細菌等の通過を防止するバクテリアフィルタ35、酸素濃縮気体の流量を制御する比例制御弁37、酸素濃縮装置1の流量を測定する流量センサ39、酸素濃縮気体の圧力を測定する圧力センサ41、酸素濃縮気体を加湿する加湿器43、及び酸素出口45が設けられている。
【0035】
また、酸素濃縮装置1には、酸素濃縮装置1内の温度を検知するために、温度センサ47が配置されるとともに、使用者によって(マニュアルにて)流量の設定が可能な流量設定器49が設けられている。
【0036】
このような構成を有する本実施例の酸素濃縮装置1では、吸着筒17にコンプレッサ11で圧縮空気を送りこみ、一定時間経過したら、もう一方の吸着筒17に切換弁15により切り換え、吸着した窒素が減圧とともに排出されるように電気的に制御する。
【0037】
また、吸着筒17により、加圧時には酸素だけを抽出でき、その下流の製品タンク31、圧力調整器33、バクテリアフィルタ35、比例制御弁37、流量センサ39、加湿器43を通り、酸素濃縮気体が酸素出口45まで供給される。これを、交互に繰り返すことにより、90%以上の濃縮酸素を連続的に得ることができ、更に、製品タンク31に溜めることにより変動を低減して連続性を確保している。
【0038】
尚、本実施例の酸素濃縮装置1は、連続ベース流量が毎分5Lの装置であるので、流量設定器49によって、毎分0.5L〜5Lの範囲で、即ち、0.5L、0.75L、1L、1.25L、1.5L、2L、2.5L、3L、3.5L、4L、5Lの様に、流量の設定が可能である。
【0039】
b)次に、酸素濃縮装置1の電気的な構成について説明する。
図2に示す様に、本実施例の酸素濃縮装置1には、酸素濃縮装置1の動作を制御するために、電子制御装置51が搭載されている。
【0040】
この電子制御装置51は、周知のマイクロコンピュータ(マイコン)53やメモリ55を備え、その入力部57には、電源スイッチ61、酸素センサ34、流量設定器49、流量センサ39、圧力センサ41、温度センサ44などが接続され、その出力部59には、コンプレッサ11、切換弁15、均圧弁29、設定流量表示器63、流れ表示ランプ65、異常報知ランプ67、ブザー69、比例制御弁37などが接続されている。
【0041】
従って、この電子制御装置51には、電源スイッチ61の操作を示す信号、酸素センサ34からの酸素濃度を示す信号、流量設定器49により設定された設定流量を示す信号、流量センサ39からの酸素濃縮気体の流量を示す信号、圧力センサ41からの酸素濃縮気体の圧力を示す信号、温度センサ47からの温度を示す信号が入力する。また、電子制御装置51からは、コンプレッサ11、切換弁15、均圧弁29、設定流量表示器63、流れ表示ランプ65、異常報知ランプ67、ブザー69、比例制御弁37などの動作を制御する制御信号が出力される。
【0042】
ここで、比例制御弁37としては、比例制御弁37に対する制御信号、即ち、比例制御弁37に対して加えられる例えば電流の大きさ(電流値)などに対応して(比例して)、その開度(従ってガス流量)を連続的に調節可能なコントロールバルブを使用できる。なお、電流値以外に、電圧値やPWM制御値によって制御される周知の比例制御弁を用いることができる。
【0043】
c)次に、酸素濃縮装置1の制御のうち流量を制御するための構成について説明する。
図3に要部を示す様に、酸素濃縮装置1では、流量設定器49により設定された設定流量を示す信号が、電子制御装置51に入力されると、その設定流量を実現するように、電子制御装置51から、比例制御弁37に対して、(その設定流量を実現するような)所定の開度とする制御信号が出力される。
【0044】
その結果、吸着筒17によって製造された酸素濃縮気体は、比例制御弁37の開度に応じた所定の流量(ガス流量)にて外部(カニューラ等)に供給される。
また、この外部に供給される酸素濃縮気体の実際の流量は、流量センサ39によって測定され、その測定値が電子制御装置51に入力される。
【0045】
電子制御装置51では、測定された実際の酸素濃縮気体の流量と設定流量とを比較し、その差が小さくなるように、比例制御弁37の開度を制御する。即ち、電子制御装置51の流量制御部51aにて、流量のフィードバック制御を行う。
【0046】
また、電子制御装置51では、測定された実際のガス流量と比例制御弁37に対する制御信号(例えば電流値)との関係に基づいて、後述するように、流量センサ39の異常を検知する。即ち、電子制御装置51の異常検知部51bにて、流量センサ39の異常検知を行う。
【0047】
そして、異常検知の結果は、異常報知ランプ67等の表示装置やブザー69などによって使用者に報知される。
なお、前記流量制御部51aと異常検知部51bとは、電子制御装置51の機能を示したものである。
【0048】
d)次に、流量センサ39の異常を検知する手法について、具体的に説明する。
・本実施例では、例えば
図4に示すように、制御信号の値である制御値(例えば電流値)と設定流量との関係(即ち設定流量に対する制御値の正常判定値の範囲)が規定されている。
【0049】
この
図4では、領域Cが、基準温度(例えば25℃)における個体ばらつきを考慮した正常な制御値の範囲(正常判定値の範囲C)であり、領域Bが、高温側(例えば50℃)における正常判定値の範囲Bであり、領域Dが、低温側(例えば0℃)における正常判定値の範囲Dであり、領域Aが、出口側の負荷変動を示す圧力変動(例えば15kPaまで)を考慮した正常判定値の範囲Aである。
【0050】
具体的には、領域Cは、各酸素濃縮装置1の個体のばらつきの影響によって流量が変動することに伴う制御値の変動を考慮したものであり、制御値がこの範囲で変動した場合には、個体ばらつきが原因とみなして、流量センサ39が異常であると判定しない。
【0051】
領域Bは、温度が例えば50℃まで上昇した場合に、その温度の影響によって流量が変動することに伴う制御値の変動を考慮したものであり、制御値がこの範囲で変動した場合には、温度上昇が原因とみなして、流量センサ39が異常であると判定しない。
【0052】
領域Dは、温度が例えば0℃まで下降した場合に、その温度の影響によって流量が変動することに伴う制御値の変動を考慮したものであり、制御値がこの範囲で変動した場合には、温度下降が原因とみなして、流量センサ39が異常であると判定しない。
【0053】
領域Aは、酸素濃縮気体の出口(酸素出口45)近傍の圧力が例えば15kPaまで上昇した場合に、その圧力の影響によって流量が変動することに伴う制御値の変動を考慮したものであり、制御値がこの範囲で変動した場合には、圧力変動(出口負荷変動)が原因とみなして、流量センサ39が異常であると判定しない。
【0054】
従って、本実施例では、これらの全ての領域A〜Dを含む範囲(閾値上限と閾値下限の間の範囲)を、流量センサ39が正常であると判定する正常判定値の範囲としている。よって、(ある設定流量において)制御値が、この正常判定値の範囲から外れた場合には、流量センサ39に異常があると判定する。
【0055】
なお、本実施例では、複数の酸素濃縮装置1を用いて、その制御値をサンプリングして正常判定値の範囲を設定しているので、全ての酸素濃縮装置1に対して、この正常判定値の範囲を適用することが可能である。
【0056】
・次に、上述した正常判定値の範囲を設定する手法について詳細に説明する。
<1>まず、酸素濃縮装置1の使用温度域の基準温度(例えば25℃)と上限温度(例えば50℃)と下限温度(例えば0℃)における各設定流量と比例制御弁37の制御値との関係を求める。
【0057】
このとき、1台ではなく、複数(好ましくは全数)の酸素濃縮装置1に対して、実際に環境温度を調整し、設定流量に対する制御値を測定する事で、設定流量と制御値の関係を求め、(個体ばらつきによる)設定流量に対する制御値のずれ幅(領域B+C+D)を求める。
【0058】
なお、このときの出口負荷圧力は0として測定する。
<2>次に、使用環境から考えられる最も大きな出口負荷圧力(例えば15kPa)が生じた場合において、各設定流量と各制御値のずれ幅(領域A)を測定する。
【0059】
なお、このときには、前記<1>の測定の際に(温度の)上限近くのばらつきを持つ複数の酸素濃縮装置1に対して測定を行う。
<3>そして、前記<1>の上限温度において各設定流量に対して最も制御値が大きくなったデータを用い、そのデータに、前記<2>の測定において最も大きな値を加算し、その値を、各設定流量に対する閾値の上限(閾値上限)とする。
【0060】
なお、出口負荷が大きい場合には、設定流量に対して制御値が大きくなるので、ここでは出口負荷圧力の上限側のみを規定している。
<4>また、前記<1>の下限温度において各設定流量に対して最も制御値が小さくなったデータを用い、そのデータの値を、各設定流量に対する閾値の下限(閾値下限)とする。
【0061】
これによって、上述した正常判定値の範囲を設定することができる。なお、この正常判定値の範囲は、予め電子制御装置51のメモリ55に記憶される。
d)次に、本実施例における制御処理について説明する。
【0062】
本処理は、流量センサ39の異常を検知する処理であり、電子制御装置51のマイコン53によって実施される。
図5のフローチャートに示す様に、酸素濃縮装置1の電源が投入されると、ステップ(S)100にて、初期設定が行われる。
【0063】
例えば、メモリ55から、流量センサ39の異常を判定するための閾値(正常判定値の範囲)を読み出す等の処理が行われる。
続くステップ110では、サンプリング周期(例えば1sec)であるか否かを判定する。サンプリング周期である場合はステップ120に進み、そうでない場合は待機する。
【0064】
ステップ120では、サンプリング周期であるので、通常処理を実行する。
具体的には、例えば流量センサ39から流量を示す信号を読み取る処理(流量を実測する処理)、流量設定器49によって設定された設定流量を読み取る処理、比例制御弁37の制御値(例えば電流値)を設定する処理などを行う。
【0065】
この比例制御弁37の制御値を設定する処理とは、実測された流量と設定流量との差(偏差)を求め、この差が小さくなるように比例制御弁37の開度(従って流量)を調節するための処理である。詳しくは、例えば実測された流量が設定流量より大きな場合には、比例制御弁37の開度(従って流量)が小さくなるように、例えば比例制御弁37に印加する電流値を小さくし、逆に、実測された流量が設定流量より小さな場合には、比例制御弁37の開度(従って流量)が大きくなるように、比例制御弁37に印加する電流値を大きくするための処理である。
【0066】
従って、上述の様にして設定された制御値が比例制御弁37に出力されることによって、比例制御弁37の動作(即ち開度)が制御され、それによって流量が調節される。
続くステップ130では、比例制御弁37の制御値が、前記
図4に示したような正常判定値の範囲(領域A〜D)内であるか否かを判定する。具体的には、所定の設定流量(今回設定された設定流量)において、比例制御弁37の制御値が、「閾値上限を下回り、且つ、閾値下限を上回る」か否かを判定する。ここで肯定判断されるとステップ140に進み、一方否定判断されるとステップ150に進む。
【0067】
ステップ140では、流量センサ39が正常と判定されたので、例えばそのことを示すフラグ等を設定して、前記ステップ110に戻る。
一方、ステップ150では、流量センサ39が異常と判定されたので、例えばそのことを示すフラグ等を設定して、前記ステップ110に戻る。
【0068】
なお、流量センサ39が異常と判定された場合には、フラグ等に基づいて、異常報知ランプ67等の表示装置やブザー69などによって使用者に報知する。
また、本実施例では、流量センサ39が異常と判定されても、再びサンプリング周期毎に通常処理を行う為、流量センサ39が異常と判定されても使用者への酸素濃縮気体の供給は停止されない。
【0069】
e)次に、上述した構成による本実施例の効果について説明する。
本実施例では、流量センサ39によって、実際に使用者に供給される酸素濃縮気体の流量を測定し、その測定された流量(流量測定値)に基づいて、設定流量となるように、比例制御弁37の動作を制御して、酸素濃縮気体の流量を調整している。
【0070】
特に本実施例では、設定流量と(その設定流量を実現するために設定される)比例制御弁37に対する制御値とに基づいて、流量センサ39が正常か異常かを判定するための領域(正常判定値の領域)を設定している。
【0071】
従って、この正常判定値の領域を利用することにより、流量センサ39の異常を検知することができる。つまり、比例制御弁37の制御値が、正常判定値の範囲内であるか否かを判定し、その正常判定値の範囲外であると判定された場合には、流量センサ39に異常があると判断することができる。
【0072】
これによって、(流量センサ39を2つ用いる場合の)部品点数の増加や構造の複雑化などの問題を回避できるとともに、流量センサ39を1つにした場合でも、流量センサ39段自身の異常を好適に検知することができる。
【0073】
また、本実施例では、正常判定値の範囲を、酸素濃縮装置1の使用環境温度、酸素濃縮装置1の部品ばらつき、及び酸素濃縮気体の供給圧力に基づいて設定している。よって、流量センサ39の異常検知を精度良く行うことができるという利点がある。
【0074】
なお、本実施例では、酸素濃縮装置1の使用環境温度、酸素濃縮装置1の部品ばらつき、及び酸素濃縮気体の供給圧力に基づいて、正常判定値の範囲を設定したが、これらの3種の要件のうち、1種又は2種の要件に基づいて、正常判定値の範囲を設定しても、ある程度の精度の高い判定を行うことができる。
【0075】
例えば、
図4の領域Aを除いて、即ち、圧力の変動によるばらつきを考慮しないで、正常判定値の範囲を設定してもよい。
例えば、
図4の領域Bや領域Cを除いて、即ち、温度の変動によるばらつきを考慮しないで、正常判定値の範囲を設定してもよい。
【0076】
例えば、
図4の領域Aや領域Bや領域Cを除いて、即ち、温度及び圧力の変動によるばらつきを考慮しないで、正常判定値の範囲を設定してもよい。
【実施例2】
【0077】
次に実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、前記実施例1とは、ハード構成は同じで、流量センサの異常検知の処理内容が異なるので、異常検知の処理について説明する。なお、ハード構成の番号は同じものを用いて説明する。
【0078】
本実施例は、特定の酸素濃縮装置1に対してサンプリングを行って、正常判定値を設定するものである。
本実施例では、製造工程において、個々の酸素濃縮装置1に対して、基準温度(例えば25℃)における各設定流量と制御値との関係を求めておく。従って、この各設定流量と制御値との関係は(ばらつくこと無く)1対1であるので、
図6に示すような比例関係を示す(即ち一次関数で表すことができる)直線となる。
【0079】
次に、酸素濃縮装置1を使用する前に、予め、酸素濃縮装置1に対して、各設定流量において、基準温度(例えば25℃)から高温側(例えば50℃)及び低温側(例えば0℃)への制御値の変動幅をサンプリングする。このサンプリングの結果を、
図6の(高温側の)領域F及び(低温側の)領域Gで示す。
【0080】
また、各設定流量において、所定の出口負荷圧力(例えば15kPa)の場合の制御値の変動幅をサンプリングする。このサンプリングの結果を、
図6の領域Eで示す。
そして、(個体ばらつきの無い)基準値を示す前記の直線に対して、温度による変動幅及び圧力による変動幅を加味して、閾値上限と閾値下限との間に挟まれる正常判定値の範囲を設定する。
【0081】
本実施例においても、上述した正常判定値の範囲を用いて、前記実施例1と同様に、流量センサ39の異常を検知することができる。
特に本実施例では、それぞれの酸素濃縮装置1に対して、各設定流量と制御値との関係を示す基準値の直線を求めておくので、正常判定値の範囲の精度が高く、よって、流量センサ39の異常検知の精度が一層高いという顕著な効果を奏する。
【0082】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば前記実施例1では、部品ばらつきの範囲(領域C)を設定したが、この領域Cに変えて、例えば実施例2のような基準値の直線を利用して、正常判定値の範囲を設定してもよい。但し、この場合は、個々の酸素濃縮装置の基準値の直線を用いるのではなく、複数の酸素濃縮装置に対してサンプリングすることよって得られた平均値である基準値の直線を用いる。
【0083】
(2)また、例えば前記実施例1では、流量センサの異常判定(ステップ130)を毎サンプリング行なったが、複数サンプリング間隔毎や、流量設定値が変更されたタイミング毎等に行なってもよい。
【0084】
(3)更に、前記実施例1では、設定流量と比例制御弁に対する制御値とに基づいて正常判定値の領域を設定し、この正常判定値に基づいて流量センサの異常を検知したが、これ以外に、正常判定値以外の領域を異常判定値の領域として設定し、比例制御弁の制御値が、異常判定値の範囲内であると判定された場合に、流量センサに異常があると判断してもよい。