特許第5667224号(P5667224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667224
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】酸素濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/10 20060101AFI20150122BHJP
   A61M 16/00 20060101ALI20150122BHJP
   A61M 16/20 20060101ALI20150122BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   A61M16/10 B
   A61M16/00 370Z
   A61M16/20 F
   C01B13/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-21363(P2013-21363)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-150873(P2014-150873A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2013年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌大
(72)【発明者】
【氏名】近藤 由典
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−058469(JP,A)
【文献】 特開2011−004962(JP,A)
【文献】 特開2008−036349(JP,A)
【文献】 特開2008−011933(JP,A)
【文献】 特開2007−296203(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/139204(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00−16/20
C01B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中から酸素を濃縮して酸素濃縮気体を製造する構成を備えるとともに、使用者によって設定された所定の設定流量にて前記酸素濃縮気体を供給する制御を行う電子制御装置と、
前記電子制御装置からの制御信号に基づいて、前記酸素濃縮気体の流量を制御する流量調整弁と、
を備えた酸素濃縮装置において、
前記流量調整弁と使用者との間の前記酸素濃縮気体の流量を測定する流量測定手段と、
前記流量測定手段によって測定された前記酸素濃縮気体の流量測定値が、前記設定流量となるように、前記流量調整弁の動作を制御して、前記酸素濃縮気体の流量を調整する流量制御手段と、
前記流量制御手段によって設定される前記流量調整弁に対する制御信号と予め定められた当該制御信号の所定の正常判定値との比較に基づいて、前記流量測定手段の異常を検知する異常検知手段と、
を備えたことを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項2】
前記所定の正常判定値は、前記設定流量と該設定流量に応じて設定される前記制御信号との関係に基づいて所定の範囲内に定められ、前記設定流量に対して前記制御信号の値が前記正常判定値の範囲外と判定された場合には、前記流量測定手段に異常があると判断することを特徴とする請求項1に記載の酸素濃縮装置。
【請求項3】
前記正常判定値の範囲は、前記酸素濃縮装置の使用環境温度範囲、前記酸素濃縮装置の部品ばらつき範囲、及び前記酸素濃縮気体の供給圧力範囲のうち、少なくとも1種に基づいて設定されていることを特徴とする請求項2に記載の酸素濃縮装置。
【請求項4】
前記流量調整弁は、比例制御弁であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素濃縮装置。
【請求項5】
前記流量調整弁を制御する制御信号の値は、電流値、電圧値、又はPWM制御値であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気中から窒素を吸着して除去することにより、酸素濃縮気体を製造するとともに、その酸素濃縮気体の流量を制御する酸素濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高濃度の酸素を患者に供給することができる装置として、医療用酸素濃縮装置が在宅酸素療法などに使用されている。この種の酸素濃縮装置としては、例えばコンプレッサによって圧力を高めた空気を、窒素吸着剤が充填された吸着筒に送り、この吸着筒にて空気中から窒素を吸着除去して酸素濃縮気体(高濃度の酸素を含む気体)を製造するものが知られている。
【0003】
また、最近の酸素濃縮装置においては、酸素濃縮気体の流量(吐出ガス流量)を調整する手段として、オリフィス式流量設定器ではなく、流量を連続的に調整することができる比例制御弁が採用されているものがある。
【0004】
この比例制御弁を用いた酸素濃縮装置では、流量センサによって流量を実測し、その測定された流量が(使用者によって設定された)設定流量と一致するように制御している。つまり、比例制御弁を用いて流量を制御(フィードバック制御)し、それによって、使用者に適正な流量で酸素濃縮気体を提供するようにしている。
【0005】
これにより、例えばカニューラ折れやチューブの延長等によって流量損失が発生する場合でも、比例制御弁の流量調整の可能範囲であれば、設定流量通りの流量にて酸素濃縮気体を提供することができる。
【0006】
また、近年では、単一の流量センサを用い、流量制御のために流量を実測するとともに、装置の異常を検知する目的で流量を監視する技術がある(特許文献1参照)。また、単一の流量センサではなく、流量の実測のための流量センサと、異常検知のための流量センサとをそれぞれ備えた酸素濃縮装置も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−144550号公報
【特許文献2】特許第4263063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した技術において、流量センサが1つの場合には、その流量センサが故障すると、流量の監視ができないという問題がある。つまり、流量センサが故障した場合には、実際の流量に対応した流量センサの出力が得られないので、流量を精度良く測定することができない。そのため、流量センサが1つの場合に、流量センサ自身の異常を検知できる対策が望まれている。
【0009】
一方、流量センサを2つ用いる場合には、ガス流量を監視する性能(信頼性)は高くなるが、部品点数が増加しコストアップにつながるという問題や、各流量センサに対応する配管の複雑化や、装置が大型化するという問題がある。
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、(流量センサを2つ用いる場合の)部品点数の増加や構造の複雑化などの問題を回避できるとともに、流量センサを1つ使用した場合において、流量センサ自身の異常を検知できる酸素濃縮装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、第1態様として、空気中から酸素を濃縮して酸素濃縮気体を製造する構成を備えるとともに、使用者によって設定された所定の設定流量にて前記酸素濃縮気体を供給する制御を行う電子制御装置と、前記電子制御装置からの制御信号に基づいて、前記酸素濃縮気体の流量を制御する流量調整弁と、を備えた酸素濃縮装置において、前記流量調整弁と使用者との間の前記酸素濃縮気体の流量を測定する流量測定手段と、前記流量測定手段によって測定された前記酸素濃縮気体の流量測定値が、前記設定流量となるように、前記流量調整弁の動作を制御して、前記酸素濃縮気体の流量を調整する流量制御手段と、前記流量制御手段によって設定される前記流量調整弁に対する制御信号と予め定められた当該制御信号の所定の正常判定値との比較に基づいて、前記流量測定手段の異常を検知する異常検知手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本第1態様では、流量測定手段によって、使用者に供給される酸素濃縮気体の流量を測定し、流量制御手段によって、その測定された流量(流量測定値)に基づいて、使用者によって設定された設定流量となるように、(酸素濃縮気体の流量を制御する)流量調整弁の動作を制御して、酸素濃縮気体の流量を調整する。
【0013】
特に本第1態様では、異常検知手段によって、設定流量を実現するための(流量制御手段によって設定される)流量調整弁に対する制御信号と当該制御信号の所定の正常判定値との比較に基づいて、流量測定手段の異常を検知する。
【0014】
ここで、上述した流量測定手段の異常検知の原理について説明する。
流量測定手段が正常な場合には、電子制御装置では、測定された正確な流量に基づいて、設定流量を実現するように、(流量制御手段によって)流量調整弁に対する制御信号が設定される。
【0015】
しかしながら、流量測定手段が故障等によって異常となった場合には、流量測定手段によって測定された流量は正確な値ではない。ところが、流量測定手段の異常が検知されていない場合には、この不正確な流量に基づいて、正常時と同様に、所定の設定流量を実現するように、流量調整弁に対して(不適切な)制御信号が出力されてしまう。
【0016】
つまり、例えば設定流量が同じ場合であっても、流量測定手段が正常な場合と異常な場合とでは、実際に測定される流量が異なるので、流量調整弁に対する制御信号も異なることになる。
【0017】
従って、例えば流量測定手段が正常な場合において、(例えば所定の設定流量に対する)流量調整弁に対する適切な制御信号の値を予め所定の正常判定値として把握しておくことにより、実際の制御信号と予め定められた当該制御信号の所定の正常判定値との比較から、流量測定手段の異常を検知することができる。
【0018】
つまり、設定流量に対して実際に出力される制御信号が適切でない場合には、流量測定手段に異常があると判断することができる。
これによって、(流量測定手段を2つ用いる場合の)部品点数の増加や構造の複雑化などの問題を回避できるとともに、流量測定手段を1つにした場合でも、流量測定手段自身の異常を好適に検知することができる。
【0019】
なお、実際に出力される制御信号が適切でない原因としては、流量測定手段の異常以外の可能性もあるが、通常では、流量測定手段の異常の可能性が高いので、ここでは、実際に出力される制御信号が適切でない場合を、流量測定手段の異常として判断している。
【0020】
(2)本発明では、第2態様として、前記所定の正常判定値は、前記設定流量と該設定流量に応じて設定される前記制御信号との関係に基づいて所定の範囲内に定められ、前記設定流量に対して前記制御信号の値が前記正常判定値の範囲外と判定された場合には、前記流量測定手段に異常があると判断することを特徴とする。
【0021】
本第2態様は、流量測定手段の異常判定の好適な例を示している。
(3)本発明では、第3態様として、前記正常判定値の範囲は、前記酸素濃縮装置の使用環境温度範囲、前記酸素濃縮装置の部品ばらつき範囲、及び前記酸素濃縮気体の供給圧力範囲のうち、少なくとも1種に基づいて設定されていることを特徴とする。
【0022】
前記酸素濃縮装置の使用環境温度が変化した場合や、酸素濃縮装置の部品ばらつきがある場合や、酸素濃縮気体の供給圧力が変化した場合には、設定流量が同じ場合でも、実際の酸素濃縮気体の流量は変化する。
【0023】
つまり、設定流量が同じ場合であっても、温度や部品ばらつきや圧力に応じて、実際の流量は変化するので、設定流量を実現するために出力される流量調整弁の制御信号も変化する。
【0024】
従って、酸素濃縮気体の使用環境温度、酸素濃縮装置の部品ばらつき、酸素濃縮気体の供給圧力に応じて、上述した制御信号の正常判定値(従ってその範囲)を変化させることによって、一層精度良く、流量測定手段の異常判定を行うことができる。
【0025】
(4)本発明では、第4態様として、前記流量調整弁は、比例制御弁であることを特徴とする。
本第4態様は、流量調整弁として好ましい比例制御弁を例示したものである。
【0026】
この比例制御弁とは、比例制御弁を作動させる制御信号の値に比例して、その開度(従って流量)を制御できるものである。
(5)本発明では、第5態様として、前記流量調整弁を制御する制御信号の値は、電流値、電圧値、又はPWM制御値であることを特徴とする。
【0027】
本第5態様は、例えば比例制御弁を制御する制御信号を例示したものである。
ここで、PWM(Pulse Width Modulation)制御値とは、周期的なパルス波の幅を変えて制御を行う際の値(デューティ比)である。
【0028】
尚、前記酸素濃縮装置としては、吸着筒に充填した窒素吸着剤により、空気中から窒素を吸着除去して酸素を濃縮する装置や、酸素選択透過膜を利用した装置などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1の酸素濃縮装置の基本構成を示す説明図である。
図2】実施例1の酸素濃縮装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3】実施例1の流量センサの異常を検知するために構成を示す説明図である。
図4】実施例1の流量センサの異常の検知に用いられる正常判定値の範囲を示すグラフである。
図5】実施例1の酸素濃縮装置の制御処理を示すフローチャートである。
図6】実施例2の流量センサの異常の検知に用いられる正常判定値の範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の酸素濃縮装置の実施の形態の例(実施例)を説明する。
【実施例1】
【0031】
本実施例では、空気中から窒素吸着剤を用いて窒素を吸着して除去することにより酸素を濃縮し、この高濃度の酸素を含む酸素濃縮気体を、患者等に対して供給する医療用酸素濃縮装置(以下酸素濃縮装置と記す)を例に挙げる。
【0032】
a)まず、本実施例の酸素濃縮装置の内部構成について説明する。
図1に示す様に、酸素濃縮装置1は、その空気の導入路3に、上流側より、空気取入口5、防塵フィルタ7、吸気フィルタ9、吸気マフラ10、コンプレッサ11、熱交換器13、一対の切換弁15、及び窒素吸着剤を充填した一対の吸着筒17が設けられている。尚、コンプレッサ11及び熱交換器13の近傍には、冷却用ファン19が配置されている。
【0033】
このうち、前記窒素吸着剤は、加圧すると空気中の窒素を優先的に吸着し、また圧力を下げると吸着した窒素を放出して、窒素吸着剤の再生を行うゼオライト系の窒素吸着剤である。また、一対の吸着筒17から窒素を排気する排気路21には、断続的な排気音を消すサイレンサ23が設けられている。
【0034】
更に、一対の吸着筒17から、酸素濃縮気体を供給する供給路27の構成として、その上流側から、吸着筒17間の圧力を調節する二方弁である均圧弁29、酸素濃縮気体の逆流を防止する一対の逆止弁30、酸素濃縮気体を溜める製品タンク31、酸素濃縮気体の圧力(供給圧力)を所定圧力に調整する圧力調整器33、酸素濃縮気体の酸素濃度を検出する酸素センサ34、細菌等の通過を防止するバクテリアフィルタ35、酸素濃縮気体の流量を制御する比例制御弁37、酸素濃縮装置1の流量を測定する流量センサ39、酸素濃縮気体の圧力を測定する圧力センサ41、酸素濃縮気体を加湿する加湿器43、及び酸素出口45が設けられている。
【0035】
また、酸素濃縮装置1には、酸素濃縮装置1内の温度を検知するために、温度センサ47が配置されるとともに、使用者によって(マニュアルにて)流量の設定が可能な流量設定器49が設けられている。
【0036】
このような構成を有する本実施例の酸素濃縮装置1では、吸着筒17にコンプレッサ11で圧縮空気を送りこみ、一定時間経過したら、もう一方の吸着筒17に切換弁15により切り換え、吸着した窒素が減圧とともに排出されるように電気的に制御する。
【0037】
また、吸着筒17により、加圧時には酸素だけを抽出でき、その下流の製品タンク31、圧力調整器33、バクテリアフィルタ35、比例制御弁37、流量センサ39、加湿器43を通り、酸素濃縮気体が酸素出口45まで供給される。これを、交互に繰り返すことにより、90%以上の濃縮酸素を連続的に得ることができ、更に、製品タンク31に溜めることにより変動を低減して連続性を確保している。
【0038】
尚、本実施例の酸素濃縮装置1は、連続ベース流量が毎分5Lの装置であるので、流量設定器49によって、毎分0.5L〜5Lの範囲で、即ち、0.5L、0.75L、1L、1.25L、1.5L、2L、2.5L、3L、3.5L、4L、5Lの様に、流量の設定が可能である。
【0039】
b)次に、酸素濃縮装置1の電気的な構成について説明する。
図2に示す様に、本実施例の酸素濃縮装置1には、酸素濃縮装置1の動作を制御するために、電子制御装置51が搭載されている。
【0040】
この電子制御装置51は、周知のマイクロコンピュータ(マイコン)53やメモリ55を備え、その入力部57には、電源スイッチ61、酸素センサ34、流量設定器49、流量センサ39、圧力センサ41、温度センサ44などが接続され、その出力部59には、コンプレッサ11、切換弁15、均圧弁29、設定流量表示器63、流れ表示ランプ65、異常報知ランプ67、ブザー69、比例制御弁37などが接続されている。
【0041】
従って、この電子制御装置51には、電源スイッチ61の操作を示す信号、酸素センサ34からの酸素濃度を示す信号、流量設定器49により設定された設定流量を示す信号、流量センサ39からの酸素濃縮気体の流量を示す信号、圧力センサ41からの酸素濃縮気体の圧力を示す信号、温度センサ47からの温度を示す信号が入力する。また、電子制御装置51からは、コンプレッサ11、切換弁15、均圧弁29、設定流量表示器63、流れ表示ランプ65、異常報知ランプ67、ブザー69、比例制御弁37などの動作を制御する制御信号が出力される。
【0042】
ここで、比例制御弁37としては、比例制御弁37に対する制御信号、即ち、比例制御弁37に対して加えられる例えば電流の大きさ(電流値)などに対応して(比例して)、その開度(従ってガス流量)を連続的に調節可能なコントロールバルブを使用できる。なお、電流値以外に、電圧値やPWM制御値によって制御される周知の比例制御弁を用いることができる。
【0043】
c)次に、酸素濃縮装置1の制御のうち流量を制御するための構成について説明する。
図3に要部を示す様に、酸素濃縮装置1では、流量設定器49により設定された設定流量を示す信号が、電子制御装置51に入力されると、その設定流量を実現するように、電子制御装置51から、比例制御弁37に対して、(その設定流量を実現するような)所定の開度とする制御信号が出力される。
【0044】
その結果、吸着筒17によって製造された酸素濃縮気体は、比例制御弁37の開度に応じた所定の流量(ガス流量)にて外部(カニューラ等)に供給される。
また、この外部に供給される酸素濃縮気体の実際の流量は、流量センサ39によって測定され、その測定値が電子制御装置51に入力される。
【0045】
電子制御装置51では、測定された実際の酸素濃縮気体の流量と設定流量とを比較し、その差が小さくなるように、比例制御弁37の開度を制御する。即ち、電子制御装置51の流量制御部51aにて、流量のフィードバック制御を行う。
【0046】
また、電子制御装置51では、測定された実際のガス流量と比例制御弁37に対する制御信号(例えば電流値)との関係に基づいて、後述するように、流量センサ39の異常を検知する。即ち、電子制御装置51の異常検知部51bにて、流量センサ39の異常検知を行う。
【0047】
そして、異常検知の結果は、異常報知ランプ67等の表示装置やブザー69などによって使用者に報知される。
なお、前記流量制御部51aと異常検知部51bとは、電子制御装置51の機能を示したものである。
【0048】
d)次に、流量センサ39の異常を検知する手法について、具体的に説明する。
・本実施例では、例えば図4に示すように、制御信号の値である制御値(例えば電流値)と設定流量との関係(即ち設定流量に対する制御値の正常判定値の範囲)が規定されている。
【0049】
この図4では、領域Cが、基準温度(例えば25℃)における個体ばらつきを考慮した正常な制御値の範囲(正常判定値の範囲C)であり、領域Bが、高温側(例えば50℃)における正常判定値の範囲Bであり、領域Dが、低温側(例えば0℃)における正常判定値の範囲Dであり、領域Aが、出口側の負荷変動を示す圧力変動(例えば15kPaまで)を考慮した正常判定値の範囲Aである。
【0050】
具体的には、領域Cは、各酸素濃縮装置1の個体のばらつきの影響によって流量が変動することに伴う制御値の変動を考慮したものであり、制御値がこの範囲で変動した場合には、個体ばらつきが原因とみなして、流量センサ39が異常であると判定しない。
【0051】
領域Bは、温度が例えば50℃まで上昇した場合に、その温度の影響によって流量が変動することに伴う制御値の変動を考慮したものであり、制御値がこの範囲で変動した場合には、温度上昇が原因とみなして、流量センサ39が異常であると判定しない。
【0052】
領域Dは、温度が例えば0℃まで下降した場合に、その温度の影響によって流量が変動することに伴う制御値の変動を考慮したものであり、制御値がこの範囲で変動した場合には、温度下降が原因とみなして、流量センサ39が異常であると判定しない。
【0053】
領域Aは、酸素濃縮気体の出口(酸素出口45)近傍の圧力が例えば15kPaまで上昇した場合に、その圧力の影響によって流量が変動することに伴う制御値の変動を考慮したものであり、制御値がこの範囲で変動した場合には、圧力変動(出口負荷変動)が原因とみなして、流量センサ39が異常であると判定しない。
【0054】
従って、本実施例では、これらの全ての領域A〜Dを含む範囲(閾値上限と閾値下限の間の範囲)を、流量センサ39が正常であると判定する正常判定値の範囲としている。よって、(ある設定流量において)制御値が、この正常判定値の範囲から外れた場合には、流量センサ39に異常があると判定する。
【0055】
なお、本実施例では、複数の酸素濃縮装置1を用いて、その制御値をサンプリングして正常判定値の範囲を設定しているので、全ての酸素濃縮装置1に対して、この正常判定値の範囲を適用することが可能である。
【0056】
・次に、上述した正常判定値の範囲を設定する手法について詳細に説明する。
<1>まず、酸素濃縮装置1の使用温度域の基準温度(例えば25℃)と上限温度(例えば50℃)と下限温度(例えば0℃)における各設定流量と比例制御弁37の制御値との関係を求める。
【0057】
このとき、1台ではなく、複数(好ましくは全数)の酸素濃縮装置1に対して、実際に環境温度を調整し、設定流量に対する制御値を測定する事で、設定流量と制御値の関係を求め、(個体ばらつきによる)設定流量に対する制御値のずれ幅(領域B+C+D)を求める。
【0058】
なお、このときの出口負荷圧力は0として測定する。
<2>次に、使用環境から考えられる最も大きな出口負荷圧力(例えば15kPa)が生じた場合において、各設定流量と各制御値のずれ幅(領域A)を測定する。
【0059】
なお、このときには、前記<1>の測定の際に(温度の)上限近くのばらつきを持つ複数の酸素濃縮装置1に対して測定を行う。
<3>そして、前記<1>の上限温度において各設定流量に対して最も制御値が大きくなったデータを用い、そのデータに、前記<2>の測定において最も大きな値を加算し、その値を、各設定流量に対する閾値の上限(閾値上限)とする。
【0060】
なお、出口負荷が大きい場合には、設定流量に対して制御値が大きくなるので、ここでは出口負荷圧力の上限側のみを規定している。
<4>また、前記<1>の下限温度において各設定流量に対して最も制御値が小さくなったデータを用い、そのデータの値を、各設定流量に対する閾値の下限(閾値下限)とする。
【0061】
これによって、上述した正常判定値の範囲を設定することができる。なお、この正常判定値の範囲は、予め電子制御装置51のメモリ55に記憶される。
d)次に、本実施例における制御処理について説明する。
【0062】
本処理は、流量センサ39の異常を検知する処理であり、電子制御装置51のマイコン53によって実施される。
図5のフローチャートに示す様に、酸素濃縮装置1の電源が投入されると、ステップ(S)100にて、初期設定が行われる。
【0063】
例えば、メモリ55から、流量センサ39の異常を判定するための閾値(正常判定値の範囲)を読み出す等の処理が行われる。
続くステップ110では、サンプリング周期(例えば1sec)であるか否かを判定する。サンプリング周期である場合はステップ120に進み、そうでない場合は待機する。
【0064】
ステップ120では、サンプリング周期であるので、通常処理を実行する。
具体的には、例えば流量センサ39から流量を示す信号を読み取る処理(流量を実測する処理)、流量設定器49によって設定された設定流量を読み取る処理、比例制御弁37の制御値(例えば電流値)を設定する処理などを行う。
【0065】
この比例制御弁37の制御値を設定する処理とは、実測された流量と設定流量との差(偏差)を求め、この差が小さくなるように比例制御弁37の開度(従って流量)を調節するための処理である。詳しくは、例えば実測された流量が設定流量より大きな場合には、比例制御弁37の開度(従って流量)が小さくなるように、例えば比例制御弁37に印加する電流値を小さくし、逆に、実測された流量が設定流量より小さな場合には、比例制御弁37の開度(従って流量)が大きくなるように、比例制御弁37に印加する電流値を大きくするための処理である。
【0066】
従って、上述の様にして設定された制御値が比例制御弁37に出力されることによって、比例制御弁37の動作(即ち開度)が制御され、それによって流量が調節される。
続くステップ130では、比例制御弁37の制御値が、前記図4に示したような正常判定値の範囲(領域A〜D)内であるか否かを判定する。具体的には、所定の設定流量(今回設定された設定流量)において、比例制御弁37の制御値が、「閾値上限を下回り、且つ、閾値下限を上回る」か否かを判定する。ここで肯定判断されるとステップ140に進み、一方否定判断されるとステップ150に進む。
【0067】
ステップ140では、流量センサ39が正常と判定されたので、例えばそのことを示すフラグ等を設定して、前記ステップ110に戻る。
一方、ステップ150では、流量センサ39が異常と判定されたので、例えばそのことを示すフラグ等を設定して、前記ステップ110に戻る。
【0068】
なお、流量センサ39が異常と判定された場合には、フラグ等に基づいて、異常報知ランプ67等の表示装置やブザー69などによって使用者に報知する。
また、本実施例では、流量センサ39が異常と判定されても、再びサンプリング周期毎に通常処理を行う為、流量センサ39が異常と判定されても使用者への酸素濃縮気体の供給は停止されない。
【0069】
e)次に、上述した構成による本実施例の効果について説明する。
本実施例では、流量センサ39によって、実際に使用者に供給される酸素濃縮気体の流量を測定し、その測定された流量(流量測定値)に基づいて、設定流量となるように、比例制御弁37の動作を制御して、酸素濃縮気体の流量を調整している。
【0070】
特に本実施例では、設定流量と(その設定流量を実現するために設定される)比例制御弁37に対する制御値とに基づいて、流量センサ39が正常か異常かを判定するための領域(正常判定値の領域)を設定している。
【0071】
従って、この正常判定値の領域を利用することにより、流量センサ39の異常を検知することができる。つまり、比例制御弁37の制御値が、正常判定値の範囲内であるか否かを判定し、その正常判定値の範囲外であると判定された場合には、流量センサ39に異常があると判断することができる。
【0072】
これによって、(流量センサ39を2つ用いる場合の)部品点数の増加や構造の複雑化などの問題を回避できるとともに、流量センサ39を1つにした場合でも、流量センサ39段自身の異常を好適に検知することができる。
【0073】
また、本実施例では、正常判定値の範囲を、酸素濃縮装置1の使用環境温度、酸素濃縮装置1の部品ばらつき、及び酸素濃縮気体の供給圧力に基づいて設定している。よって、流量センサ39の異常検知を精度良く行うことができるという利点がある。
【0074】
なお、本実施例では、酸素濃縮装置1の使用環境温度、酸素濃縮装置1の部品ばらつき、及び酸素濃縮気体の供給圧力に基づいて、正常判定値の範囲を設定したが、これらの3種の要件のうち、1種又は2種の要件に基づいて、正常判定値の範囲を設定しても、ある程度の精度の高い判定を行うことができる。
【0075】
例えば、図4の領域Aを除いて、即ち、圧力の変動によるばらつきを考慮しないで、正常判定値の範囲を設定してもよい。
例えば、図4の領域Bや領域Cを除いて、即ち、温度の変動によるばらつきを考慮しないで、正常判定値の範囲を設定してもよい。
【0076】
例えば、図4の領域Aや領域Bや領域Cを除いて、即ち、温度及び圧力の変動によるばらつきを考慮しないで、正常判定値の範囲を設定してもよい。
【実施例2】
【0077】
次に実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、前記実施例1とは、ハード構成は同じで、流量センサの異常検知の処理内容が異なるので、異常検知の処理について説明する。なお、ハード構成の番号は同じものを用いて説明する。
【0078】
本実施例は、特定の酸素濃縮装置1に対してサンプリングを行って、正常判定値を設定するものである。
本実施例では、製造工程において、個々の酸素濃縮装置1に対して、基準温度(例えば25℃)における各設定流量と制御値との関係を求めておく。従って、この各設定流量と制御値との関係は(ばらつくこと無く)1対1であるので、図6に示すような比例関係を示す(即ち一次関数で表すことができる)直線となる。
【0079】
次に、酸素濃縮装置1を使用する前に、予め、酸素濃縮装置1に対して、各設定流量において、基準温度(例えば25℃)から高温側(例えば50℃)及び低温側(例えば0℃)への制御値の変動幅をサンプリングする。このサンプリングの結果を、図6の(高温側の)領域F及び(低温側の)領域Gで示す。
【0080】
また、各設定流量において、所定の出口負荷圧力(例えば15kPa)の場合の制御値の変動幅をサンプリングする。このサンプリングの結果を、図6の領域Eで示す。
そして、(個体ばらつきの無い)基準値を示す前記の直線に対して、温度による変動幅及び圧力による変動幅を加味して、閾値上限と閾値下限との間に挟まれる正常判定値の範囲を設定する。
【0081】
本実施例においても、上述した正常判定値の範囲を用いて、前記実施例1と同様に、流量センサ39の異常を検知することができる。
特に本実施例では、それぞれの酸素濃縮装置1に対して、各設定流量と制御値との関係を示す基準値の直線を求めておくので、正常判定値の範囲の精度が高く、よって、流量センサ39の異常検知の精度が一層高いという顕著な効果を奏する。
【0082】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば前記実施例1では、部品ばらつきの範囲(領域C)を設定したが、この領域Cに変えて、例えば実施例2のような基準値の直線を利用して、正常判定値の範囲を設定してもよい。但し、この場合は、個々の酸素濃縮装置の基準値の直線を用いるのではなく、複数の酸素濃縮装置に対してサンプリングすることよって得られた平均値である基準値の直線を用いる。
【0083】
(2)また、例えば前記実施例1では、流量センサの異常判定(ステップ130)を毎サンプリング行なったが、複数サンプリング間隔毎や、流量設定値が変更されたタイミング毎等に行なってもよい。
【0084】
(3)更に、前記実施例1では、設定流量と比例制御弁に対する制御値とに基づいて正常判定値の領域を設定し、この正常判定値に基づいて流量センサの異常を検知したが、これ以外に、正常判定値以外の領域を異常判定値の領域として設定し、比例制御弁の制御値が、異常判定値の範囲内であると判定された場合に、流量センサに異常があると判断してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…酸素濃縮装置
37…比例制御弁
39…流量センサ
41…圧力センサ
47…温度センサ
49…流量設定器
51…電子制御装置
図1
図2
図3
図5
図4
図6