(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属は、タングステン、タンタル、モリブデン、ニオブ、チタンおよびクロムよりなる群から選択される1種以上である請求項1〜4のいずれかに記載のコンタクトプローブピン。
【背景技術】
【0002】
集積回路(IC)、大規模集積回路(LSI)、発光ダイオード(LED)等の電子部品(即ち、半導体素子を用いた電子部品)は、半導体素子の電極にプローブピンを接触させてその電気特性が検査される。このような検査装置(半導体検査装置)で用いられるプローブピン(コンタクトプローブピン)は、導電性が良好なこと(接触抵抗値が低いこと)は勿論のこと、被検体としての電極との繰り返し接触によっても摩耗や損傷を生じない程度に優れた耐久性を備えていることが要求される。
【0003】
コンタクトプローブピンの接触抵抗値は、一般的には100mΩ以下に設定されているが、被検体との繰り返し検査を行なうことによって、数100mΩから数Ωにまでに悪化することがある。
【0004】
こうした事態への対策としては、コンタクトプローブピンのクリーニングや、コンタクトプローブピン自体の交換が行なわれている。しかしながら、これらの対策は、検査工程の信頼性と稼働率を著しく低下させるものであり、接触抵抗値が長期の使用によっても悪化しないような特性を発揮するコンタクトプローブピンの実現が望まれている。特に、被検体(電極)が、ハンダやスズめっき等の素材では、その表面が酸化しやすく、且つ軟らかいために、コンタクトプローブピンの接触によって削り取られ、コンタクトプローブピンの先端部に付着しやすい性質があり、安定な接触を行なうことが困難になる。
【0005】
接触抵抗値を安定化させる方法として、コンタクトプローブピンの先端部近傍(電極と接触する先端部とその近傍)に、炭素皮膜をコーティングする技術が提案されている(例えば、特許文献1〜4)。これらの技術では、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)に代表される炭素皮膜に対して、タングステン(W)等の合金元素を混入させて、炭素皮膜の持つ被検体(電極)に対する低付着性と、混入させた金属(若しくはその炭化物)の働きによる高い導電性を併せ持つ様な表面皮膜とすることが、重要な要件となっている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、導電性を付与するための金属を含有させた炭素皮膜について、その金属の濃度分布と、導電性、耐久性との関係について明らかにし、最適な特性を発揮するコンタクトプローブピンを実現するべく、様々な角度から検討した。特に、低付着性の観点から、検査時における被検体との接触において、被検体の材料に含まれる金属(特に、Sn)がプローブピンに付着し、付着した金属が酸化することで、接触抵抗値の増大を招き、検査の際の支障となることを明らかにした。本発明者らはこうした問題を解消するべく、低い接触抵抗値を示すと共に、低付着性にも優れたコンタクトプローブピンを実現したものである。
【0017】
本発明のコンタクトプローブピンでは、検査時に被検体と接触する先端部と、検査時に被検体と接触しない側面部表面において、炭素皮膜中の金属やその炭化物の含有量を異なるようにし、導電性に最も寄与する先端部における金属やその炭化物の含有量を、それ以外の部分の含有量よりも多くすることによって、先端部における良好な導電性を確保すると共に、それ以外の部分における被検体(特に、それに含まれるSn)の低付着性を確保したものである。
【0018】
本発明のコンタクトプローブピンによる作用効果を、図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明のコンタクトプローブピンを用いたときの接触原理を示す概略説明図である。比較のために、炭素皮膜中の含有量が先端部から側面部に亘って均一であることを想定したコンタクトプローブピン(従来技術)を用いたときの接触原理を
図2(概略説明図)に示す。尚、コンタクトプローブピンの接触部分(被検体と接触する部分)の形状については様々なものが知られているが、ここでは4分割されたものを(
図1、2では側面からの投影したものであり、3つの突起として示す)示した。但し、本発明のコンタクトプローブピンの形状は4分割されたものに限定されない。例えば、3分割、2分割等でもよいし、分割されていないものでも良い。また、すり鉢状のものであっても良い。
【0019】
コンタクトプローブピン10は、検査時にその先端部11(即ち、分割された場合には各突起の頂部)が被検体としての電極12と接触することになる。この場合に、電極12の表面に形成される酸化皮膜の影響を低減しつつ、或る程度の接触面積を確保するために、通常は電極の一部を変形・食い込ませるような形で接触させるのが一般的である[
図1(a)、
図2(a)]。
【0020】
多数の電子部品を検査するためには、コンタクトプローブピンは電極12への接触と通電を繰り返し実施する中で、通電箇所に被検体としての電極を構成する材料13(電極材料)の付着が通電箇所に徐々に生じることになる[
図1(a)、
図2(a)]。通電箇所に付着した電極材料13は、その後酸化し、また有効な接触面積を確保する上で妨げとなるため、そのままの状態が維持されると接触抵抗値が変動する原因となる[
図1(b)、
図2(b)]。
【0021】
一方、コンタクトプローブピンの先端は尖鋭な形状に形成されているので、その形状に基づく効果によって、繰り返し接触を実施する度に、付着した電極材料もこれを排除する作用が働くことになる[
図1(c)、
図2(c)]。このとき、本発明のコンタクトプローブピンのように、側面部の金属若しくは炭化物の含有量が少なくなるように構成されたものでは、本来電極材料13が付着しやすい部分(側面部)における付着力が小さくなるので、先端部領域から排斥させた電極材料13はその途中で再付着することなく[
図1(d)]、容易に接触部分から排斥され、接触部分には常に正常な表面が露出して、安定な接触抵抗を継続することができることになる[
図1(e)]。
【0022】
これに対して、
図2に示すような従来のコンタクトプローブピンでは、電極12に対向する先端部11から排斥された排斥効果が
図1に示した場合と比べて十分とは言えない。仮に、この排斥効果の差が僅かであったとしても、数万〜数十万回にわたる繰り返しの利用では、完全に除去されなかった付着物(電極材料13)が、検査時に接触しない部分にも徐々に堆積し[
図2(d)]、これが妨げとなって更に排斥効果を劣化させるために、先端部11の状態は更に悪化し[
図2(e)]、電気抵抗値の安定には大きな差が生じることになる。
【0023】
上記のような効果を発揮させるためには、コンタクトプローブピンの先端部(分割された場合には、各突起の頂部)から側面部になるにつれて、金属やその炭化物の含有量が連続的または断続的に減少するように構成された炭素皮膜であればよいが、こうした効果をより有効に発揮させるためには、前記先端部の炭素皮膜中の金属および/またはその炭化物の含有量をA(原子%)、被検体と接触しない側面部における炭素皮膜中の金属および/またはその炭化物の最大含有量をB(原子%)としたとき、これらの比(B/A)が0.9以下であるようにすることが好ましい。
【0024】
被検体と接触しない側面部とは、検査時に前記先端部が被検体に食い込む部分よりも根元側(先端部とは反対側)を意味するが、こうした側面部のうち先端部に最も近い部分は(こうした観点からして、その部分の含有量は、側面部における最大含有量となる)、コンタクトプローブピンの形状や使用状況によっても異なるものである。
【0025】
被検体と接触しない側面部の具体的な目安は、通常先端部から根元側10μmの位置となる。即ち、具体的な構成としては、先端部の炭素皮膜中の金属および/またはその炭化物の含有量をA(原子%)、前記先端部から根元側10μm位置における側面部の炭素皮膜中の金属および/またはその炭化物の含有量をB’(原子%)としたとき、これらの比(B’/A)が0.9以下であるものが挙げられる。また、根元側30μm位置における(B’/A)は0.8以下が好ましい。
【0026】
炭素皮膜中に含有される金属はその製造原理からして、金属単体若しくは炭化物の形態となり(或は、混在した状態)、その含有量によって炭素皮膜の接触抵抗値が決定されるが、コンタクトプローブピンの形状や実効的な接触面積、更には検査時に要求される接触抵抗値や必要なテスト回数(検査回数)によって、最適値が存在する。こうした観点から、コンタクトプローブピンの先端部の炭素膜中の金属および/またはその炭化物の含有量は、5〜30原子%であることが好ましい。即ち、先端部と側面部とで金属および/またはその炭化物の含有量に差を生じさせつつ、先端部で導電性を付与(低抵抗を実現)させるには、先端部での金属および/またはその炭化物の含有量は、5〜30原子%であることが好ましい。更には、後述する実験データ(
図4、5)から、低抵抗とSn排斥効果の両立の点から、先端部での金属および/またはその炭化物の含有量は15〜25原子%程度であることがより好ましい。
【0027】
また、後記
図4に示すように、金属および/またはその炭化物の含有量が10原子%以上で、おおよそ比抵抗が低い値を維持している。特に、通電特性に必要な先端部での金属および/またはその炭化物の含有量は、15原子%以上が好ましい。先端部としては、上述のように、金属および/またはその炭化物の含有量が15原子%以上で特に通電性能に優れたものとなるが、後記
図5に示したように、Snの付着性の点からは25原子%以下であることが好ましい。
【0028】
炭素皮膜中に含有させる金属は、容易に炭化物を形成する金属である場合には、炭素皮膜中に均一に分散し、非晶質で均一な状態に保つことになる。こうした観点から、炭素皮膜中に含有させる金属としては、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、クロム(Cr)等が挙げられ、これらの金属の1種以上を用いることができる。このうち、炭化物の安定性を考慮すれば、タングステンが最も好ましい。
【0029】
コンタクトプローブピンによって検査される被検体(電極)は、通常ハンダやSn合金からなるが、これらは基本的にSnを含むものであり、このSnは特にコンタクトプローブピンの表面に付着しやすいものである。従って、被検体がスズまたはスズを含有する合金からなる場合、本発明のコンタクトプローブピンを適用すると、特にその効果が有効に発揮される。
【0030】
本発明のコンタクトプローブピンは、その製造方法によっては、炭素皮膜中(特に先端部の炭素皮膜中)にはArを含んだものとなるが、炭素皮膜中にArを含有することは炭素皮膜の組織の微細化を図って炭素皮膜の強度を向上させる上で好ましい。こうしたことも、本発明のコンタクトプローブピンの耐久性を更に向上させるものと考えられる。こうした効果を発揮させるためには、Arの含有量は2〜10原子%であることが好ましい。また、先端部の方が、より硬度が高く、緻密であることが要求されるため、先端部のArの含有量は側面部のArの含有量以上が良い。
【0031】
本発明のコンタクトプローブピンにおいては、炭素皮膜の厚さが薄過ぎると炭素皮膜を形成する効果が発揮されないので、0.1μm以上とすることが好ましい。しかしながら、炭素皮膜の厚さが厚過ぎると抵抗が高くなるので、10μm以下であることが好ましい。炭素皮膜の厚さは、0.2μm以上であることがより好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
【0032】
ところで、コンタクトプローブピンを構成するに際して、その基材(若しくは芯材)は、強度や導電性等を考慮して、ベリリウム銅(Be−Cu)、パラジウム(Pd)またはその合金、炭素工具鋼等が用いられるが、これらの素材と炭素皮膜とは、本来密着性が悪いものである。こうしたことから、基材と炭素皮膜の密着性を高めるために、これらの間に中間層(密着層)を介在させて両者の密着性を高めることも好ましい構成である。
【0033】
こうした中間層としては、基材の種類によって適切なものを選択すればよいが、例えばCrまたはCr基合金等の金属層、或はこれらとCの混合層が挙げられる。これらのいずれかを少なくとも一層以上積層して中間層を構成すれば良い。より具体的な構成としては、基材側に基材と密着性の良好な金属からなる層を形成すると共に、その上に基材側から炭素皮膜側になるにつれて炭素含有量が傾斜的に増加する傾斜層(金属と炭素からなる層)を形成する構成が挙げられる。
【0034】
上記のような金属若しくは炭化物の濃度分布がある炭素皮膜を形成するには、その製造条件も適切にする必要がある。炭素皮膜を基材上に形成する方法としては、通常スパッタリング法が採用される。そして、スパッタリング法を適用して、金属若しくは炭化物の濃度分布が均一な炭素皮膜を形成するには、基材の軸芯方向がターゲット面と平行になるように配置し、基材を回転させながら炭素皮膜を形成するようにされている。
【0035】
プローブピンのように、立体的構造で棒状の構造に均一に炭素皮膜を形成するには、例えば工具材料等が良い例になるが、基材の軸芯方向がターゲット面と平行となるように配置し、ターゲットとの距離も十分離した上で、基材を回転させながら皮膜を形成することが通常良く用いられる。DLCのような硬質な膜は膜応力が高く、側面にも緻密な膜を形成しなければ、皮膜が剥がれやすいため、密着性や付着する膜の均一さを重視して上記のような方法をとることが一般的となる。
【0036】
しかしながら、こうした方法では、本発明で規定するような金属濃度分布のある炭素皮膜が形成されず、先端部の方がむしろ低い金属含有量となるような濃度分布になることが判明した。或は、先端部が分割された形状(前記
図1、2)のコンタクトプローブピンのような場合には、この形状の複雑さに起因して先端部に炭素皮膜を均一な厚さで形成することが困難な場合もある。
【0037】
そこで、本発明で規定するような金属若しくは炭化物の濃度分布がある炭素皮膜を形成するには、基材とターゲットを比較的近接させた上で、基材の軸心方向がターゲット面と垂直となるように配置すればよいことが判明したのである。こうした方法によって、コンタクトプローブピンの位置によって含有量が異なる炭素皮膜が形成される理由は、金属構成元素と炭素が飛来する方向成分の影響によるものと考えられる。
【0038】
また、スパッタリング法を適用する際には、基材へバイアス電圧を印加するのが通常であるが、バイアス電圧を印加することにより、スパッタリング時に発生するターゲット上のプラズマが基材方向にも伸び、近接する。こうした効果により、金属元素と炭素が飛来する方向成分の違いを、より強調することができ、上記のような炭素皮膜を形成する上で寄与しているものと考えられた。更に、プローブのトップ面(イオンが垂直に入射)と側面(イオンが面に対して斜めに入射)におけるイオンの入射角の違いによっても、金属および/またはその炭化物の濃度分布が制御されると考えられる。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
コンタクトプローブピンには、前記
図1、2に示したものと同様に、先端部が4分割されたスプリング内蔵のものを用いた。炭素皮膜に金属をドープし、更にその濃度分布を制御するために、次のような方法を採用した。
【0041】
平行平板型マグネトロンスパッタリング装置(株式会社島津製作所製)に、炭素(グラファイト)ターゲットとクロムターゲットを配置し、これらに先端部が対向するようにコンタクトプローブピンの基材(Be−Cu製)を配置した(基材の軸心方向がターゲット面と垂直となるように配置)。このとき、コンタクトプローブピンの先端部から根元部に向かって0.3mm程度のみに炭素皮膜が形成されるように、それ以外の箇所には治具によってマスキングした。また基材の先端部とターゲットとの間隔は55mmに設定した。
【0042】
前記炭素(グラファイト)ターゲット上に、タングステン(W)のチップを載せて、同時にスパッタリングされるようにし、平板上に成膜した場合に、Wの含有量が18〜22原子%となるようにその濃度を調整した。
【0043】
スパッタリングチャンバ内を6.7×10
-4Pa以下まで真空排気した後、アルゴン(Ar)ガスを導入して圧力を13Paに調整した。そして、基材に高周波電圧を印加することで、Arイオンエッチングを施した後、基材と炭素皮膜との密着層としてCr層、更にCrとW含有炭素皮膜を交互に成膜しつつ、徐々に炭素皮膜の比率を増加させる傾斜組成の中間層を成膜し、最後に最表面の成膜時には、投入電力密度を5.7×10
-4W/m
2でWチップを載せたグラファイトターゲットをDCマグネトロン放電させ、基材には−20Vのバイアス電圧を印加し、約400nm(0.4μm)の厚さにコーティングを実施した。
【0044】
上記のようにして炭素皮膜を形成したコンタクトプローブピンを、EPMA(Electron Probe X−ray Micro Analyzer:日本電子製X線マイクロアナライザー「JXA−8800RL」)にて、下記の条件で各位置における組成分析を行なった。
[EPMA測定条件]
加速電圧:10kV
照射電流:0.1μA
分析方法:定量分析(指定元素C,Ar,W)
分析範囲:φ0.2μm
【0045】
組成分析結果を、下記表1に示す。尚、下記表1に示した先端部1〜3(即ち、分割された突起の頂部)、および側面部4〜6は、
図3(コンタクトプローブピンの先端部付近を示す図面代用顕微鏡写真)に示した各位置を示している。また、
図3の側面部4で示した位置は、先端部1〜3から根元部(
図3における下方)に向かって30μmの位置(側面部における最大含有量の位置)に相当するものである。
【0046】
【表1】
【0047】
[実施例2]
バイアス電圧を−100Vにした以外は、実施例1と同条件で、炭素皮膜を形成し、同様に各位置における組成分析(原子%)を行なった。その結果を、下記に示す。
[組成分析結果]
先端部/C:73.0、Ar:4.1、W:22.9
側面部(10μm位置:外周面)/C:76.1、Ar:4.1、W:19.8
側面部(10μm位置:内周面)/C:78.78、Ar:3.57、W:17.65
側面部(20μm位置:外周面)/C:77.4、Ar:3.7、W:18.9
【0048】
上記のようにして炭素皮膜が形成されたコンタクトプローブピンを用い(実施例1、2)、鉛フリーハンダ(Sn+3原子%Cu+0.5原子%Ag)からなる電極に対して、10万回の接触と通電試験を行なったところ、従来のコンタクトプローブピン(Auめっき品)に比べて優れた抵抗安定性を示していることが確認できた。
【0049】
[比較例]
基材の軸心方向がターゲット面と平行となるように配置する以外は、上記と同様にしてスパッタリングを行ない、コンタクトプローブピンの基材(株式会社ヨコオ製)表面に炭素皮膜を形成した(それ以外の条件は、上記と同じ)。上記のようにして炭素皮膜を形成したコンタクトプローブピンを、実施例と同様にして各位置における組成分析を行なった。
【0050】
組成分析結果を、下記表2に示す。尚、下記表2に示した先端部1〜3、および側面部4〜6は、実施例の場合と同様の位置を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
この結果から明らかなように、基材の軸心方向がターゲット面と平行となるように配置して炭素皮膜を形成したときには、W含有量が本発明で規定する分布とはならず、先端部の方が却って低い状態となっていることが分かる。
【0053】
[実施例3]
炭素皮膜中のW含有量と電気抵抗(比抵抗)の関係について調査した。このとき、試験片としてW含有量(含有量はEPMAによる測定)を様々に変化させた炭素皮膜(膜厚:0.5μm)を絶縁性基板上に形成し、各炭素皮膜の比抵抗を下記の方法で測定した。
【0054】
[比抵抗の測定方法]
薄膜の抵抗測定において一般的に用いられる四探針法により、市販の測定器(日置電気 3226 mΩテスター+共和理研製 四探針測定器)を用いて薄膜のシート抵抗を測定し、これに膜厚を乗じることにより比抵抗を算出した。
【0055】
その結果(W含有量と比抵抗の関係)を
図4に示すが、W含有量が増加するにつれて、比抵抗が低くなっていることが分かる。
【0056】
上記で得られた各試験片について、炭素皮膜表面の摩擦係数(静止摩擦係数μs、動摩擦係数μk)を下記の条件で測定し、W含有量と摩擦係数の関係について調査した。
【0057】
[摩擦係数の測定方法]
摺動試験装置により、銅製のピンの先に鉛フリーハンダ(Sn+3原子%Cu+0.5原子%Ag)を固定し、先端の大きさがφ2mm(フラット)としたものを、Wを含有した炭素皮膜(DLC膜)上で、荷重:1kgf(9.8N)、摺動速度:100mm/minにて100回摺動を実施した後の、ハンダと炭素皮膜との摩擦係数を測定した。
【0058】
その結果(W含有量と摩擦係数の関係)を
図5に示すが、W含有量が増加するにつれて摩擦係数が大きくなっていることが分かる。