【実施例】
【0080】
(実施例1)
ポリアクリロニトリル中間層の形成。ポリアクリロニトリル(PAN、MW〜150,000)/ジメチルホルムアミド(DMF)(10重量%)溶液が、本開示に従うフィルターのために多孔性の中央層を製造するために使用された。エレクトロスピニングパラメーターは以下のとおりである。印加電圧は約14から約20kV、流速は約10から約20μl/分、スピナレットの直径は約0.7mm、コレクタ(PET基材)とスピナレットとの距離は約10から約18cmであった。エレクトロスピニングされた膜の孔隙率を制御し、また表面層被覆を支持するのをより簡単にするために、物理的限界の範囲内(例えば、エンタングルメント凝縮または溶解限度に近い)でエレクトロスピニングされた繊維径を変更することが望ましい。PAN溶液の様々な濃度(DMF中で約4から約12重量%)が、PANのエレクトロスピニングされた繊維径を制御するために使用された。様々な溶液から得られた大きさは、以下の表1に要約されている。
【0081】
【表1】
(実施例2)
エレクトロスピニングされた層と精密ファイバー基材との改善された結合形成。PET基材、FO2413(Freudenburg Nonwovens(ケンタッキー州、ホプキンズビル)から市販されている)で、約10μmの繊維径を有する一面が、0.7重量%の中和されたキトサン(Mw=200,000g/mol)水溶液で被覆された。基材上のキトサン被覆を完全に乾燥する前に、PAN溶液(10重量%)は、キトサン被覆層の上に直接エレクトロスピニングされた。PANのエレクトロスピニングの後、複合限外ろ過(マイクロフィルター/エレクトロスピニングされたPANの合成物)は、2日間室温で真空乾燥した。
【0082】
得られた膜は、UF産業によって使用されるPall Corpからの標準ろ過器に基づき、クロスフローろ過装置に使用した。この器具では以下の試験範囲をとることができた。
1.フィルターサイズ:2.75インチ×3.75インチ
2.ポンプ容量:1.25ガロン/分(GPM)。最大500psiの圧力を生じさせることができる。
3.インレット、アウトレット、および透過スリットの大きさは、0.065インチ×2.25インチである。
4.運転条件下の実際の圧力は、180psiまで試験された。
【0083】
PET基材上にキトサン被覆を使用することにより、クロスフロー条件下でPET層とPAN層との付着が向上することが分かった。
【0084】
(実施例3)
ナノファイバー足場に基づいた高流量膜の設計および試験。異なる厚さ(50〜300μm)を使用して、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)のエレクトロスピニングされた膜が中間層の膜として製造され、実施例2に説明されたようなキトサンで処理されたPET型基材に適用された。
【0085】
次の材料がナノファイバー膜を調製する際に利用された。
【0086】
(A)ポリエステル基材:不織布PETのマイクロフィルター(FO2413、Freudenburg Nonwovens)。この基材の平均繊維径は約10μmであった。
【0087】
(B)AldrichからのPAN(ポリアクリロニトリル)が、以下のようにエレクトロスピニング法を使用して、ナノファイバー足場を製造するために使用された。PAN溶液の8〜10重量%がDMF中で調製された。PAN溶液は、溶液の流量25μl/分、18kVでPET基材の表面上にエレクトロスピニングされた。エレクトロスピニングされたPANの厚さの範囲は、50μmから300μmであった。
【0088】
(C)二つの市販の限外ろ過(UF)膜システムを選択し、本開示のナノファイバー膜と流量性能を比較した。選択された市販のUFシステムは、(1)VSEP(New Logic Researchより)、および(2)Pre−TecUFろ過(Pre−Tec Coより)であり、試験は0.5×102L/m
2・hのインク洗浄水よって実施された。
【0089】
本発明者らのナノファイバー膜および市販のUF膜の流量試験は、研究所で蒸留された水(水は多少粉塵を含んでいた)により、実施例2で上述のクロスフロー装置を使用して行なわれた。その結果は
図3に要約されている。
図3Aは、被覆層のないPETマイクロフィルター基材+エレクトロスピニングされたPAN(50μm)2層フィルター、
図3Bは、被覆層のないPETマイクロフィルター基材+エレクトロスピニングされたPAN(150μm)2層フィルター、
図3Cは、キトサン被覆層(約5μm)を有する、PETマイクロフィルター基材+エレクトロスピニングされたPAN(150μm)を示す。
図3から明白なように、PANナノファイバー足場/PETマイクロフィルター合成膜(被覆なしおよび約5μmのキトサンで被覆された)は、水流において既存の市販のUFフィルターよりも多大な改善を示した。
【0090】
被覆層のない合成フィルター(不織布PETマイクロフィルター/エレクトロスピニングされたPAN2層フィルター)は、高水圧(約120psi)で機械的に安定しており、クロスフロー試験(媒体:研究所で蒸留された水)において高流量ろ過性能を示した。合成フィルター(6,500〜20,300L/m
2・h)の流量は、市販の高流量限外ろ過(UF)ろ過膜(500〜1,300L/m
2・h)より13〜16倍多かった。したがって、2層合成フィルターは、油性廃水ろ過試験に基づき、それ自体有効なフィルターであった。
【0091】
最適ではない厚さを有する三階層フィルター(マイクロフィルター(150μmの支持材)/エレクトロスピニングされたPAN(150μmの中間層)/キトサン(5μmの被覆層))の流量さえも2,000〜4,800L/m
2・hであり、200μmの厚さを有する市販の高流量UFろ過膜より有効であった。
【0092】
エレクトロスピニングされたPANの中間層は、非常に大きな相互接続している空隙容量(〜80%)を有し、したがって、本開示のフィルター膜に使用することにより、限外ろ過膜に必要な厚さを減少し、それによって、全面的な処理能力を大幅に増加させた。
【0093】
(実施例4)
油性廃水(水中に、1350ppmの大豆油および150ppmの非イオン性界面活性剤(Dow Corning193流体))を使用して、実施例3で上述のフィルター膜で追加試験が実施された。これらの試験の結果は、複合膜が単独で使用される場合は有効なフィルターであることを示した。合成フィルターを通したろ過の後に、廃水濃度が1,500ppmから540ppmへ変化したときでさえ、ろ過流量は高いままであった。
【0094】
(実施例5)
キトサン被覆を有するナノファイバー膜の評価。キトサン(Mv〜250,000、80%脱アセチルされた)が、以下の手順を使用して、フィルター膜の表面被覆層のために使用された。キトサンは、酢酸(99.5%)を使用して、特定の濃度範囲(中和後:0.5〜1.5重量%)で溶解され、続いてpH〜6.5まで1N NaOHによって中和された。キトサン溶液中の実施例3(
図3Aおよび
図3Bに説明されたが、異なるナノファイバー層の厚さを有するものなど)で上述のPET/PAN2層膜の浸漬被覆が、被覆層を形成するために利用された。表面被覆層の厚さは、エレクトロスピニングされた層の厚さと関連していることが分かり、すなわち、エレクトロスピニングされた層が厚ければ厚いほど、表面被覆層はより薄くなることができる。このようにして、表面層の厚さは、高流量を達成するために、正確に制御することもあり得る。被覆が厚すぎる場合は、流量はより少なくなるであろう。被覆が薄すぎる場合は、ろ過効率は劣るであろう。
【0095】
均一の被覆層を得るために、濃度勾配を利用して数回被覆することが必要であった。PANの膜は水につけられ、最初に0.5重量%のキトサン溶液で、次に1.5重量%のキトサン溶液で被覆された場合の、二層被覆システムのSEMによる表面画像が
図4に示されている。
【0096】
この膜システムのクロスフロー測定が、油性廃水(水中に、1350ppmの大豆油および150ppmの非イオン性界面活性剤(Dow Corning 193流体))を使用して行なわれた。複合膜のろ過性能を試験するために、特注のクロスフローろ過セル(使用可能なろ過面積:0.006515m
2)を使用した。選択された膜透過圧(Δp)は50psiで、選択されたインレット圧は130psiであり、全実験の間中、一定に維持された。選択された作業温度は30〜33℃であった。流量測定は、各サンプルの性能を確認するために3回繰り返された。
【0097】
複合膜のろ過効率は以下のように決定された。最初の供給溶液およびろ過された液体(透過する)の界面活性剤濃度は、230nm(すなわち、150ppmから0ppmの油性界面活性剤混合物の範囲で)の波長で、紫外可視(UV)分光法(BioRad SmartSpec 3000)によって決定された。阻止パーセントは以下の方程式を使用して計算された:
阻止(%)=(C
f−C
p)/C
f×100
ここで、C
fおよびC
pは供給溶液の界面活性剤濃度および透過の界面活性剤濃度をそれぞれ表わす。
【0098】
市販のUF膜(
図5)より本開示の膜フィルターにおいて、流量はほぼ7倍多かったことが分かった。ろ過効率はUV‐VIS(紫外可視)分光法(230nmの吸光度)によって評価された。0から100ppmの範囲の廃棄油水の較正曲線を使用して、水中の不純物濃度を決定した。その結果は、以下の表2に要約されている。阻止パーセントデータから、本開示の三階層複合膜は、市販の膜に匹敵する阻止(%)値を有するが、流速は7倍速かった。
【0099】
【表2】
*(総合有機含有量(1500ppm)−ろ過された汚水値(ppm))/(総合有機含有量(1500ppm))×100(%)
(実施例6)
被覆材としてのPEGグラフト化キトサンの合成。実施例5に上述したように、非常に安価で親水性材料のキトサンは、ろ過膜の付着性を改善するための有望な可能性を示してきた。しかしながら、キトサン(CHN)は酸性条件の水のみに溶解できる。その乏しい溶解度および柔軟性を改善するために、また、タンパク質吸収を防止するために、親水性のポリ(エチレングリコール)(PEG)が、キトサンの足場上でグラフト化された(PEG‐g‐CHN)。さらに、PEG分子がタンパク質付着を防止するので、PEGのグラフト化は修飾キトサンの非生物付着性を改善した。
【0100】
PEGグラフト化キトサンは、調製後すぐに、本開示のナノファイバー膜の表面上の被覆層として使用することができる。
図6は、PEG‐g‐CHN共重合体を調製する一般的なスキームを描いた。キトサンは、有機溶媒に溶解できるキトサン類似物質を生成するために、アミノ基のフタリル化、水酸基のトリフェニルメチル化およびその後のアミノ基の脱保護によって修飾された。メチル‐PEGの一端での水酸基はカルボニルジイミダゾール(CDI)で活性化され、触媒としてジメチルアミノピリジンを使用して、キトサンに共役した。形成されたPEG‐g‐トリフェニルメチル‐キトサンは脱保護されて、PEG‐g‐CHNを得た。未反応PEGは、透析(Mw分画10,000)によって除去された。重合体中のPEG含有量は、[活性化したPEG]:[トリフェニルメチル‐キトサン]の供給比率の変更により調節されることもあり得る。
【0101】
この合成スキームを使用したところ、キトサンへのPEGのグラフトレベルは、50%の高さに達成することもあり、PEG‐g‐CHN共重合体は、DMF、クロロホルムなどの水および有機溶媒の両方に溶解可能となるであろう。その後、得られたPEG‐g‐CHN共重合体は、本開示のフィルター膜の被覆層に利用されることができ、上述のようにPET/PAN合成物を被覆できる。
【0102】
(実施例7)
PVAナノファイバー足場の調製。ポリビニルアルコール(PVA)粉末(Mw=78,000g/mol、98%加水分解された)は、Polysciences Inc.(ペンシルバニア州、ウォリントン)から入手され、TritonX−100、グルタルアルデヒド(GA)(50%の水溶液)および塩酸(36.5%の水溶液)は、Aldrich Chemical(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)から入手された。
【0103】
PVA溶液は、PVA粉末を90℃の蒸留水で少なくとも6時間持続的に攪拌し溶解させて調製された。溶液が室温まで冷却された時、Triton X−100が、約0.02から1.2v/w%の濃度でPVA溶液に加えられた。混合物はエレクトロスピニングの前に15分間攪拌された。PVA溶液の濃度は、8重量%から15重量%に及んだ。Triton X−100の界面活性剤は表面張力を低下させるために使用され、エレクトロスピニングの間にPVAを安定させた。実施例1に上述されるように、エレクトロスピニングが実施された。
【0104】
薄く均一なPVAナノファイバーの製造のための速くて安定したエレクトロスピニングの条件を達成するために、異なる濃度/組成物のPVA/Triton溶液による一連の実験が行われた(例えば、PVA溶液の濃度は8重量%から15重量%で、Triton
X−100の濃度は0.02から1.2v/w%に及んだ)。エレクトロスピニングする実験は、スピナレットからコレクタの距離が10cm、スピナレットの孔径が0.75mm、30kVの定電圧の下で操作された。
【0105】
10重量%のPVA溶液のために、界面活性剤濃度がPVA溶液中0.5v/w%以上の場合には、エレクトロスピニングする操作は、35〜40μl/分と比較的高い供給率により極めて安定していた。この供給率は、界面活性剤(15μl/分)の存在なしのPVAエレクトロスピニングのために得られる率より2倍以上高かった。界面活性剤濃度が、約0.6%v/w%に維持された場合には、PVAファイバーの平均の直径は、8%から15%までPVA溶液濃度の増加につれて120から500nmに増加された。
【0106】
図1Bは、PVAのエレクトロスピニングされた基材(界面活性剤濃度が0.6v/w%、印加電圧が30kV、スピナレットからコレクタまでの距離が10cmの10重量%PVA)の代表的なSEM画像を示す。ファイバーの平均の直径が約130nmの場合の、繊維径の度数分布を
図7に表わした。
【0107】
(実施例8)
エレクトロスピニングされたPVA基材の架橋。PVAナノファイバーは水に瞬時に溶解させることができるので、実施例7のエレクトロスピニングされたPVAナノファイバーから生成された基材は架橋された。架橋の手順は以下のとおりであった。実施例7で生成されたエレクトロスピニングされたPVA層は、0.01N HCl(HClの36.5%の水溶液)およびグルタルアルデヒド水溶液(50重量%)を有するアセトンに24時間浸された。グルタルアルデヒドの濃度は約0から約60mMと様々であった。架橋したPVA層は取り出され、架橋溶媒中で数回洗浄され、その後、使用する前に水中に保管された。
【0108】
架橋したPVAのナノファイバー基材の溶解度および吸水度を決定するために、重量法が使用された。5個のエレクトロスピニングされた試料は48時間水に浸され、ろ紙にあけて乾燥し、直ちに重さを量り(W
s)、その後、24時間室温の真空中で乾燥させ、直ちに再度重さを量った(W
d)。各サンプルの最初の重量はW
0であった。サンプルの減量(r)および含水量(q)は以下の方程式を使用して計算された:
減量パーセンテージ(r)=(W
0−W
d)/W
0×100
膨潤度(q)=(W
s−W
d)/W
d。
【0109】
膨潤実験はエレクトロスピニングされたPVA層の架橋の範囲を質的に測定するために使用された。膨潤試験中に、PVAのエレクトロスピニングされた基材のいくつかの部分は架橋条件に応じて水中に溶解された。
図8および
図9は、架橋工程の中で使用されたグルタルアルデヒド濃度の官能としてのPVAのエレクトロスピニングされた基材ごとの減量および水取り込みを示す。
図8に見られるように、減量はグルタルアルデヒドの濃度の増加とともに減少した。グルタルアルデヒド濃度が30mMより高い場合には、減量の形跡はなかった。PVA層のグラム当たりに対する水取り込みのグラムとして表される膨潤は、架橋密度の基準として使用された。
図9は、ファイバー基材中の含水量が、グルタルアルデヒド濃度の増加とともに減少し、PVAファイバー基材の架橋密度の増加を表示していることを示す。
【0110】
架橋したエレクトロスピニングされたPVA層の密度は、サンプルの容積で割られた質量を使用して、5つのサンプルの平均から決定された。各基材の孔隙率は以下の方程式を使用して計算された:
孔隙率=(1−ρ/ρ
0)×100
ρはエレクトロスピニングされた基材の密度、ρ
0はバルクポリマーの密度である。
【0111】
相浸漬法によって調製された従来のポリマー分離膜は、拡散性の低流量および高付着をもたらす可能性のある、比較的低い表面多孔性(約1%から約5%)および広い細孔径分布をしばしば示す。エレクトロスピニングにより生成された不織布ナノファイバー構造は、小さな細孔の大きさ(微小孔性の)を有する高孔隙率を生成した。エレクトロスピニングされた基材中の細孔は、三次元網目構造を形成するために完全に相互接続されており、高ろ過流量につながる。
【0112】
エレクトロスピニングされたPVA層の繊維径は、150〜300nmの範囲にあった。より重要なことは、基材の平均の孔隙率は、架橋前後にそれぞれ84%および82%であった。
【0113】
基材の収縮もまた試験された。収縮試験については、架橋したエレクトロスピニングされたPVA層は、アセトンの中で数回洗浄され、1時間フードの中で陰圧の下で保管され、サンプルの大きさを測定する前に基材中のどんな残留アセトンも除去した。エレクトロスピニングされたPVA層の収縮率は、最初の表面寸法(架橋前)で割られる、エレクトロスピニングされた基材の、架橋前の表面寸法と架橋後の表面寸法の差の比率として定義された。PVA層が上記の架橋溶液へ浸される場合は、明らかな収縮は観察されなかった。
【0114】
(実施例9)
エレクトロスピニングされたPVA層の機械的性質は、周囲温度で、ゲージ長が10mm、クロスヘッド速度が2mm/秒の状態でInstron(4442)引張試験装置を使用して決定された。標本は、20mm(長さ)×5mm(幅)で厚さが約100μmの典型的な大きさに、ナノファイバー巻き線方向に沿って切断された。
【0115】
架橋前と架橋後のPVAのエレクトロスピニングされた基材の引っ張り強さおよびひずみ曲線を
図10に示す。基材の破断時点での強度は増加する一方で、架橋後は破断までの伸張が減少することが分かった。これは以下のように説明することができる。架橋しないナノファイバー中の線状ポリマー鎖は、引張変形の間、お互いによって簡単に滑り落ち、低い引っ張り強さおよび高伸張をもたらす。しかしながら、3次元的に架橋したPVAナノファイバーについては、鎖は、共有結合によって強固に結合され、そのために、鎖が滑り落ちることはより困難になる。したがって、架橋したPVA層は、比較的高い引っ張り強さと低伸張とを有する。比較のために、約200nmの繊維径および約100μmの基材の厚さを有する、エレクトロスピニングされたポリアクリロニトリル(PAN)基材の機械的な性能もまた
図10に示す。以上のように、同様の分子量および繊維径のエレクトロスピニングされたPANナノファイバーと比較して、架橋したエレクトロスピニングされたPVA層は、全体的に非常によい機械的性質を示す。
【0116】
(実施例10)
平均の直径が20〜40nmの多層カーボンナノチューブ(MWNT)が、Nanostructured and Amorphous Materials Inc.(テキサス州、ヒューストン)から入手された。MWNTはH
2SO
4/HNO
3(1:3)濃縮溶液によって酸化され、ポリマーとの互換性を向上させた。カルボン酸(−COOH)、カルボニル(−C=O)および水酸基の(−OH)官能基を含む、酸化によって生成された表面の酸性基は、FT−IR分光法によって確認された。酸性基値(mmol/gとして表される)は、表面基密度の指標として使用された。酸化したMWNTに対する酸性基値は、酸塩基滴定により1.8mmol/gであり、これはMWNT(バルク中の)の約50の炭素ごとに、グラフト化されたカルボン酸基を一つ有することを意味する(カルボン酸基とおよび非修飾炭素との比率は、MWNT表面上より高かった)。化学エッチングの後、表面を酸化したMWNTは、蒸留水、エタノール、1‐プロパノール、1‐ブタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、N,N’‐ジメチルホルムアミドまたは他の有機溶媒中でよく分散できた。
【0117】
(実施例11)
限外ろ過複合膜の調製。PEBAX(登録商標)1074(ポリエチレンオキシド(PEO)‐ブロック‐ポリアミド12共重合体)が、Atofinaによって供給された。この材料中のPEO含有量は55重量%で、ポリマーに高い親水性を与える。
【0118】
1‐ブタノール中の1.0重量%のPEBAX(登録商標)1074の溶液が、ブタノール中のPEBAX(登録商標)を24時間還流することによって調製された。2.0重量%のPVA(pH〜2、塩酸によって調整された)を含有する水溶液もまた調製された。
【0119】
実施例10で調製された、表面を酸化したMWNTは、1.0重量%のPEBAX(登録商標)溶液中、または2.0重量%のPVA溶液中の、約0から約20重量%のポリマーの濃度で分散し、均一な懸濁液を生成した。少量のグルタルアルデヒド(約15から約60mM)が、PVAの微架橋のための被覆実験の直前に、PVA被覆溶液の中へ加えられた。PVAゲル生成のための所要時間は約15分で、加えられたグルタルアルデヒドの量によって制御された。
【0120】
試験済みの限外ろ過複合膜は実施例7のエレクトロスピニングされたPVA層を使用して構成され、以下の条件の下で架橋された:25℃で24時間アセトン中の30mMグルタルアルデヒド。エレクトロスピニングされたPVAのナノファイバー層の形態は、サンプルの金メッキの後に、走査電子顕微鏡(SEM、LEO1550、LEO、アメリカ)を使用して検査された。複合膜断面のSEM画像もまた、液体窒素中で破砕された後に得た。
【0121】
図11は、かかる架橋したエレクトロスピニングされたPVA層(水中に2日間浸され、その後、真空中で乾燥された)のSEM画像を示す。観察されるように、架橋の前(
図1B)と比較して、繊維径(〜130nm)にほとんど変化はなかった。架橋の後にはほとんど収縮はなかった。架橋した基材の表面は非常に均一で滑らかであった。
【0122】
複合膜は、以下の順序に従う被覆法によって調製された。上述の架橋したエレクトロスピニングされたPVA層は、ポリエステル不織布の精密ファイバー基材上(Freudenburg NonwovensからのPETマイクロフィルターFO2413)に設けられた。PVA層の平均の繊維径は約10μmであった。PVA層は、H
2O、続いて1‐ブタノールで洗浄され、その後、ポリマー/MWNT溶液で被覆された。次に、構成物は溶媒蒸発を遅くするために覆われ、一定量が達成されるまで周囲条件の下で乾燥された。三階層複合膜の概略図を
図1Aに示す。被覆層の膨潤試験のために、PEBAX(登録商標)1074およびPVAの独立膜が、1.0重量%のPEBAX(登録商標)および2.0重量%のPVA溶液(架橋剤を使用)からそれぞれ調製された。
【0123】
得られた複合膜の形態はSEMによって調査された。典型的なSEMの断面画像は
図12に示され、エレクトロスピニングされたPVA層が親水性の被覆層で覆われていることを明らかにした。
図12Aおよび
図12Bに、エレクトロスピニングされたPVA層のファイバー構造がはっきりと見ることができた。親水性の被覆層の表面は、SEM(約1〜3nm)の有益な解像力に基づいて、滑らかで無孔性であった。
図12Cに示すように、塊または一群が観察されなかった場合には、ナノチューブは薄いポリマーナノ複合被覆層の中によく分散した。
【0124】
(実施例12)
クロスフロー測定は、フィード圧100psi、温度30〜35℃、油/水乳剤(大豆油:1350ppm、非イオン性界面活性剤(Dow Corning 193流体):水中で150ppm)を使用して24時間行なわれた。有効なろ過面積は66.5cm
2であって。ろ過された水質は、UV−VIS分光法(230nmの吸光度)によって評価された。0から100ppmの範囲の廃棄油水の較正曲線は、水中の有機濃度を決定するために使用された。透過流量は以下の方程式によって計算することができる:
J=Q/AΔt
Jは透過流量(L/m
2・h)、Qは試験溶液の透過容積(L)、Aは試験された基材の有効面積(m
2)であり、Δtはサンプリング時間(h)である。油/水乳剤のろ過における総有機濃度(TOC)阻止(R%)は、以下によって得られる:
R=(1−透過中のTOC/フィード中のTOC)×100。
【0125】
クロスフロー測定は、フィード圧100psi、温度30〜35℃、油/水乳剤(大豆油:1350ppm、非イオン性界面活性剤(Dow Corning 193流体):水中で150ppm)を使用して24時間行なわれ、親水性ナノファイバー複合膜の限外ろ過性能を試験した。安定した流量が検出可能な付着なしで、実験の時間枠内で観察される場合は、
図13は、二つの複合膜(PVA/MWNT(90/10w/w)ナノ複合被覆およびPEBAX(登録商標)/MWNT(92/8w/w)ナノ複合被覆を有するPVAのナノファイバー基材)の典型的な限外ろ過性能を示す。比較のために、市販のUF膜(Pall Corporationより)のろ過性能もまた、
図13に含む。PVA/MWNT(90/10w/w)ナノ複合被覆を有する膜の流速は、市販のUF膜(330対18L/m
2・h)よりはるかに高かった。この値はまた、PEBAX(登録商標)/MWNT(92/8w/w)ナノ複合被覆より約二倍高かった。報告されたPEBAX(登録商標)共重合体複合膜(〜50L/m
2・h)と比較すると、エレクトロスピニングされたPVAナノ複合膜は本質的に比較的高流速を示した。
【0126】
表3は、純PEBAX(登録商標)またはPEBAX(登録商標)1074/MWNTナノ複合層で被覆された、架橋したエレクトロスピニングされたPVAのナノファイバー基材に基づいた、一連の膜に対する流速および総有機阻止の結果を以下に一覧にする。
【0127】
【表3】
表3で見られ得るように、流速の値は、MWNT含有量の増加とともに増加した。MWNT含有量が8%と高かった時でさえ(阻止の値は著しく変化しなかった)、試験済みの複合膜は、油/界面活性剤(>99.7%)の優れた阻止を示した。MWNT含有物が12%だった場合には、阻止が98.3%まで減少したが、水流量は著しく増加することが分かった。これらの結果は、低有機阻止を有する高水流量が約100psiの高フィード圧に見られることを実証した。
【0128】
表4は、純粋に微架橋したエレクトロスピニングされたPVAヒドロゲルまたはPVAヒドロゲル/MWNTナノ複合層で被覆された、架橋したPVAのナノファイバー基材に基づいた、一連の膜に対する流速および総有機阻止の結果を以下に一覧にする。
【0129】
【表4】
上記の表3および表4で見られ得るように、PEBAX(登録商標)/MWNT被覆は、PVAヒドロゲル/MWNT被覆を有する膜、すなわち、水流量を増加させた被覆層の中へMWNTを混入した膜と同様の結果を提供した。MWNTの含有量が同じで、阻止率が類似している場合には、たとえPVA被覆層がPEBAX(登録商標)被覆層より厚かったとしても、PVA/MWNT被覆を有する膜は、PEBAX(登録商標)/MWNT被覆より高流速を示した。例えば、高い阻止率(99.8%)に附随する、非常に高い流速(330L/m
2・h、すなわち、市販のUFフィルターよりけた違いに高い)は、10重量%のMWNTを有するPVAヒドロゲル/MWNT被覆を有する膜によって達成された。
【0130】
膨潤試験が二つの基礎被覆材料のために行われた。純PEBAX(登録商標)1074の独立膜および純粋に微架橋したPVAの独立膜が、48時間蒸留水に浸された。グラムのPVAヒドロゲル膜のグラム当たりの水取り込みは1.63gであったが、PEBAX(登録商標)1074のグラム当たりの水取り込みは0.51gであった。膨潤結果は、PEBAX(登録商標)1074被覆の親水性は、PVA被覆層より少なく、したがって水はPVAヒドロゲルにおいてより浸透可能になり得ることを示唆した。
【0131】
PVAヒドロゲル/MWNTサンプルの阻止データは、PEBAX(登録商標)/MWNTサンプルと類似していた(表3および表4)。両種の複合膜の透水性は、無孔性被覆層へMWNTを混入することにより向上し、両種の複合膜の阻止値は、PEBAX(登録商標)中の8重量%MWNTおよびPVAマトリックス中の10重量%MWNTまでの存在に対しては基本的に影響を受けなかった。
【0132】
MWNTの表面は、親水性被覆材(PEBAX(登録商標)1074およびPVA)と比較すると、非常に低い表面張力を有する黒鉛層構造を有していた。MWNTとこれらの親水性ポリマーとの互換性を向上させるために、
図14に示すように、表面にカルボン酸(−COOH)、カルボニル(−C=O)および水酸基(−OH)官能基を生成するために、MWNT上に酸化処理を行った。酸性基の密度は、比較的高かった(最大1.8mmol/g)。したがって、MWNTの表面は、疎水性の芳香族領域および親水性の酸性領域の二連続性のナノ相域を有することもあり得る。
【0133】
酸化したMWNTがポリマーマトリクスに混入される場合、両親媒性のMWNTの表面は、界面上のポリマー鎖の充填を分裂させ、被覆層の輸送特性に影響を及ぼすようにナノスケールの空洞を取り入れることが可能である。例えば、これらの官能基は、酸化したMWNTの表面上の酸性基とPVA鎖上の水酸基との化学結合(溶液中の架橋剤グルタルアルデヒドによる)または水素結合によりPVA鎖と相互作用することが可能である。酸化したMWNTの表面上の、親水性のPVA鎖と疎水性の芳香族領域との間で形成された空洞は、水透過のために経路を追加で供給することが可能である。したがって、複合被覆層は肉眼では無孔性であったが、SEMによって確認されるように、顕微鏡では見られるナノチャネルは、ポリマーマトリクスへの表面酸化したMWNTの混入によって生成された。その結果、複合膜中の透水性の値は、MWNT濃度の増加とともに系統的に増加した。したがって、MWNTの混入は、(1)被覆層の機械的強度の向上、および(2)被覆層の透水性の増加と、二つの特有の長所を提供した。
【0134】
上記により実証されるように、限外ろ過のための斬新な高流量複合膜は、無孔性の親水性ポリマー/MWNTナノ複合層で被覆された、架橋したエレクトロスピニングされたPVA層に基づいて開発された。エレクトロスピニングされたナノファイバー基材は、十分な引っ張り強さ、および大きな比表面積を有する、非常に軽量で相互接続した多孔性の構造を供給し、限外ろ過支持材足場としての優良な候補者にする。
【0135】
油/水乳剤を使用する限外ろ過の結果は、表面を酸化したMWNTの混入により界面の親水性の鎖の充填を改質することが可能であることを示唆し、それによって、水透過のために有効なナノチャンネルを生成した。PEBAX(登録商標)1074およびPVAヒドロゲルナノ複合被覆を有する、両膜のろ過阻止効率は、MWNTの存在(PEBAX(登録商標)中の8重量%MWNTおよびPVA中の10重量%MWNTまで)によって基本的に影響を受けなかったが、これらの膜の透水性の値は、MWNT含有量が増加するとともに大幅に増加した。PVAヒドロゲル/MWNT被覆層は、PEBAX(登録商標)1074/MWNT被覆層より水輸送のためのより多くの浸透可能な空隙率を示した。PVAヒドロゲル/MWNT(10重量%)被覆を有する複合膜は、24時間の運転期間にわたり検出可能な付着なく、優れた有機溶質阻止(99.8%)、および高い水流量(最大330L/m
2・h、すなわち、典型的な市販のUFフィルターより桁違いに高いものより多い)を示した。
【0136】
(実施例13)
PVAのナノファイバー基材の調製。表5に記載のように、様々な分子量および加水分解度を有するPVAが利用された。表5は、PVAサンプル(サンプルは、高分子量、中分子量および低分子量を示すために、HMw、MMwおよびLMwと称された)の重量平均分子量(Mw)および加水分解度(%)を示す。
【0137】
【表5】
これらのサンプルは、Polysciences Inc.(ペンシルバニア州、ウォリントン)から購入された、78,000g/mol(98%加水分解された)の重量平均分子量(Mw)を有するサンプル4を除いて、Aldrich Chemical(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)から購入された。Triton X−100、グルタルアルデヒド(GA)(50%の水溶液)および塩酸(36.5%の水溶液)もまた、Aldrichから購入された。PEBAX(登録商標)1074はAtofinaにより供給された。PEBAX(登録商標)1074中のPEO含有量は55重量%で、比較的高い親水性を与えた。これらの材料のすべては、それ以上精製することなく、受領した状態で使用された。
【0138】
PVAは、実施例7に上述のエレクトロスピニングの手順に従った。水性のPVA溶液は、PVA粉末サンプルを、加水分解度によって40〜95℃の蒸留水で少なくとも6時間持続的に攪拌し溶解させて調製された。溶液が室温まで冷却された時、Triton X−100が、0.6w/v%の濃度でPVA溶液に加えられた。混合物はエレクトロスピニングの前に15分間さらに攪拌された。Triton X−100の界面活性剤は、ポリマー溶液の表面張力を低下させ、PVAのエレクトロスピニングが比較的高い供給率(〜2.4ml/h)で行うことが出来るように使用された。
【0139】
PVAのエレクトロスピニングのための典型的なパラメーターは以下のとおりであった。PVA溶液の供給率は2.4ml/h、印加される電場は28kV、スピナレットとコレクタとの間の距離は10cmであった。
【0140】
(実施例14)
形態学的特徴。エレクトロスピニングされたPVAのナノファイバー膜の形態は、実施例11に上述の金メッキの後に、電走査電子顕微鏡(SEM、LEO1550、LEO、アメリカ)により検査された。複合膜のSEM断面画像は、液体窒素中で破砕により得られた。SEM機器の解像力は、運転電圧幅1〜30kVで、約2〜5nmであった。
【0141】
図15は、類似した加水分解度(すなわち、約98%)、印加される電圧28kVにおける異なる分子量、スピナレットとコレクタとの距離10cmを有する、三種のPVAから調製されたエレクトロスピニングされたPVA膜の典型的なSEM画像を示す。
図15Aは、98%の加水分解、Mw13,000〜23,000g/mol(24重量%溶液からエレクトロスピニングされた)、
図15Bは、98%の加水分解、Mw78,000g/mol(11重量%溶液から)、また、
図15Cは、98〜99%加水分解、Mw85,000〜124,000g/mol(9重量%溶液から)であった。
【0142】
図15に見られるように、PVAをエレクトロスピニングするための最適条件は、サンプルの分子量により異なるPVA濃度を使用して達成された(分子量が高くなればなるほど、濃度は低くなる)。3つの足場はすべて同様の孔隙率および繊維径(100〜300nmの間)を示した。架橋反応の前のエレクトロスピニングされたPVA足場の加えた応力と伸張比率(ε、ひずみ=1+ε)の関係を
図16に示す。
図16Aは、98%の加水分解、LMw;
図16Bは、98%の加水分解、MMw;
図16Cは、98〜99%の加水分解、HMwであった。
【0143】
これらのエレクトロスピニングされたPVA足場の、引張係数、引っ張り強さおよび破断までの伸張の比率の換算値を以下の表6に示す。
【0144】
【表6】
引張係数は分子量が増加するとともに減少するが、破断時点の伸張および引っ張り強さの両方は増加することが分かった。中分子量および低分子量のPVAから生成された足場と比較するとき、最高の分子量(Mw85,000〜124,000g/mol)を有するPVAから生成されたエレクトロスピニングされた足場は、最高の応力値(7.3MPa)および最大の破断時点の伸張値(110%)を示した。
【0145】
図17は、同じエレクトロスピニング条件の下で、異なる加水分解度(エレクトロスピニングのための溶液濃度は10重量%であった)を有する、高分子量のPVAサンプル(HMw、85,000〜124,000g/mol)を使用して調製されたエレクトロスピニングされたPVA足場の典型的なSEM画像を示す。
図17Aは、88〜89%の加水分解、
図17Bは、96%の加水分解、
図17Cは、98〜99%の加水分解であった。
【0146】
ファイバー構造は、加水分解度の増加とともに著しく変化することはなかった。三つの足場のすべてにおいるファイバーの平均の直径は、225から240nmの範囲にあった。これらのサンプルの加えた応力および伸張比率曲線を
図18に示し、引っ張り強さ、引張係数、および破断までの伸張の比率の換算値もまた表6に示されている。
図18Aは88〜89%加水分解されたサンプル、
図18Bは、96%加水分解されたサンプル、
図18Cは98〜99%加水分解されたサンプルであった。
【0147】
96%および98〜99%加水分解されたPVAから作られたエレクトロスピニングされた足場は、はるかに大きな値の引張係数(それぞれ40と66MPa)および引っ張り強さを示したが、比較的低い値の破断時点の伸張比率を示したのに対して、低い加水分解度(88〜89%)のPVAから調製されたエレクトロスピニングされた足場は、最高の破断時点の伸張比率、最低の引っ張り強さおよび最低の引張係数(たったの6.4MPa)を有した。上記の結果は、エレクトロスピニングされたPVA足場(架橋していない形式で、同様の形態および繊維径を有する)では、高い加水分解度および高い分子量を有するサンプルが全体的に最良の機械的性質(すなわち、破断時点の伸張比率と同様に高い引張係数、引っ張り強さ)を見せることを示し、限外ろ過適用の優良な候補となる。
【0148】
(実施例15)
エレクトロスピニングされたPVA足場の架橋。実施例13で調製されたエレクトロスピニングされたPVAナノファイバー足場の架橋処理が、上記の実施例8に説明されたように実施された。エレクトロスピニングされたPVA足場は、24時間、30mMのグルタルアルデヒドおよび0.01N HClを有するアセトン溶液に浸すことによって架橋した。架橋したPVA膜は、水中で数回洗浄され、次に、使用の前にフードの中で乾燥した。エレクトロスピニングされたPVA膜の密度はサンプルの容積で割った量を使用して、平均の5つのサンプルから決定された。上記の実施例8に説明されるように、それぞれの膜の孔隙率は以下のとおり計算された:
孔隙率=(1−ρ/ρ
0)×100
ρはエレクトロスピニングされた膜の密度、ρ
0はバルクポリマーの密度である。
【0149】
かかる足場の細孔は完全に相互接続し、約0.1から約3μmのサブミクロンの大きさの範囲の、平均の細孔の大きさを有する三次元網目構造を形成した。このエレクトロスピニングされた足場の繊維径は、150〜300nm(
図17および
図19に示すように)の範囲にあり、足場の平均の孔隙率は架橋前および架後にそれぞれ約84%と82%であった。
【0150】
98%の加水分解したMMwサンプルに基づいたエレクトロスピニングされたPVAは、上記の実施例8に説明されるように架橋した。同様の手順が、最良の機械的な性能(すなわち、96〜99%の加水分解を有するHMwサンプル)で二つのエレクトロスピニングされたPVA足場を処理するために利用された。
図19は、96%加水分解されたHMw(
図19A)および98〜99%加水分解されたHMw(
図19B)に基づいた、架橋したエレクトロスピニングされたPVA足場の代表的なSEM画像を示す。
【0151】
観察されるように、架橋前のサンプル(
図16)のSEM画像と比較して、繊維径(〜230nm)で明らかな変化はなかった。しかしながら、架橋によって誘発されたPVA足場の容積収縮(5%未満)もまた注目された。それにもかかわらず、架橋した足場の表面は、薄膜被覆の表面層を支持する望ましい特長である、比較的均一で滑らかなままである。
【0152】
(実施例16)
限外ろ過の親水性のナノファイバー複合膜の調製。水性の2.0重量%のPVA(96%加水分解された、M
W85,000〜124,000)溶液(pH〜2、塩酸によって調整された)が、上記の実施例15のエレクトロスピニングされた足場の表面の、ヒドロゲル被覆として利用された。実施例15の架橋したエレクトロスピニングされたPVA足場は、市販のポリ(エチレンテレフタレート)の不織布基材(Freudenburg NonwovensからのPETマイクロフィルターFO2413、この基材中の平均の繊維径は約10μmであった)に最初に設置された。グルタルアルデヒドの約30mMが、被覆の前に2.0重量%のPVA溶液に加えられた。PVAナノファイバー支持材の表面は、水で洗浄され、その後、PVA被覆溶液で被覆された。複合膜は表面の架橋を可能にするために、(溶媒蒸発を最小限にするために)6時間密閉された。その後、得られた膜は、一定量が達成されるまで周囲温度で乾燥された。
【0153】
PVAヒドロゲル被覆層の架橋度は、グルタルアルデヒドおよびPVAの繰り返し単位のモル比を変化させることにより変えられた。比較のために、親水性の共重合体PEBAX(登録商標)1074で被覆された、実施例13のエレクトロスピニングされたPVA支持材に基づいたナノファイバー複合膜もまた、以下の手順を利用して調製された。1‐ブタノール中の1.0重量%のPEBAX(登録商標)1074溶液は、ブタノール中のPEBAX(登録商標)を24時間還流させることにより調製された。PEBAX(登録商標)の被覆工程は、架橋反応が必要ではなかったことを除き、PVAヒドロゲルと類似していた。
【0154】
複合膜の典型的なSEMの断面像が
図21に示され、ナノファイバー複合膜の形態を明らかにし、微小孔性の架橋したエレクトロスピニングされたPVA支持材の上に被覆された、〜1.8μmの厚さを有するPVAヒドロゲルの表面層を含む。PVAヒドロゲルの表面被覆層の表面は、SEMの解像度に基づくと、滑らかで無孔性であった。高分子鎖の網目から成るPVAヒドロゲルの層は架橋点によって接続し、水が透過することができる有効なメッシュの大きさを定義した。架橋点の数の増加は、メッシュの大きさを減少させ、透過流量の減少につながる。
【0155】
(実施例17)
機械的性質の評価。実施例13および実施例15のエレクトロスピニングされたPVAのナノファイバー支持材、および被覆のない実施例16の複合膜の機械的性質が、周囲温度でInstron(モデル4442)型引張試験機を使用して決定された。サンプルのゲージ長は10mmで、クロスヘッド速度は2mm/分であった。機械的な評価のための典型的な標本の大きさは、20mm(長さ)×5mm(幅)×100μm(厚さ)であった。
【0156】
エレクトロスピニングされた足場の機械的性質の最適化については、架橋反応がアセトン中のグルタルアルデヒド(GA)と行なわれた場合、異なる程度の加水分解(88〜89%から98〜99%まで)および分子量(13,000〜23,000から85,000〜124,000g/molまで)を有するPVAが試験された。
【0157】
図20は、架橋したPVAのエレクトロスピニングされた足場の対応する応力および伸張曲線を示した。
図20Aは、96%加水分解されたHMwであるサンプル、
図20Bは、98〜99%加水分解されたHMwであるサンプルであった。
【0158】
機械的性質もまた、上記の表6に要約されている。架橋した98〜99%および96%の加水分解されたサンプルの引張係数が、非常に接近していたことが分かった。96%加水分解されたサンプルでは、引っ張り強さは13.5MPaであり、また、破断時点の伸張は67%であったが、98〜99%加水分解されたサンプルでは、引っ張り強さは6.8のMPaであり、破断時点の伸張は45%(架橋していないサンプルより低い)まで減少した。
【0159】
96%加水分解されたPVAおよび高分子量(85,000〜124,000g/mol)を使用する、架橋したエレクトロスピニングされた足場は、高い引っ張り強さおよび伸張を有する全体的に最良の機械的な性能を示した。架橋反応は、エレクトロスピニングされた足場の容積(<5%)で、比較的小さな収縮を生じただけであり、それによって、得られる孔隙率は比較的高かった(>80%)。エレクトロスピニングされた足場上のPVA被覆層は、多様な濃度のGAを使用して架橋した。PVAヒドロゲル被覆層は肉眼では無孔性であったが、顕微鏡的に見ると、架橋点によって接続している親水性の鎖のメッシュの役割を果たしていた。メッシュの大きさは、ヒドロゲル中の架橋の程度および最良の透過率によって制御されることが可能であり、ろ過効率は、表面のPVA層を架橋する0.06のGA/PVAの繰り返し単位の比率を使用することにより達成された。
【0160】
限外ろ過試験は、性能が表面層の厚さの減少および層組成の変更により、さらに最適化することができる場合には、PVAのナノファイバー複合膜の流速が既存の従来の限外ろ過膜のものより少なくとも数倍よいことを示した。
【0161】
上記の表6に提供されている機械的なデータに基づいて、高分子量の材料に基づいた足場が、破断時点の伸張の比較的高い値を有する一方で、比較的低い分子量の材料に基づいたエレクトロスピニングされた足場が、破断時点の伸張の比較的低い値を示したことが理解できる。架橋処理は破断時点の伸張比率を著しく減少させた一方で、加水分解度の減少は引張係数を著しく減少させた。全体として、高分子量(85,000〜124,000g/mol)および96%加水分解されたPVAのエレクトロスピニングされた足場は、架橋の前および架橋の後の両方で、比較的よく均衡の取れた機械的性質(すなわち、高い引張係数、引っ張り強さおよび伸張)を示した。
【0162】
(実施例18)
限外ろ過の評価。限外ろ過の評価については、実施例15のナノファイバー足場を使用する実施例17の複合膜は、96%加水分解されたPVA(HMw)から製造され、30のmMのグルタルアルデヒドで架橋された。クロスフロー測定が、ナノファイバー複合膜の限外ろ過の性能を特徴づけるために行なわれた。クロスフロー測定は、大豆油(1350ppm)、非イオン性界面活性剤(Dow Corning 193流体、150ppm)、および水を含む油/水乳剤の分離により行われた。選択されたろ過条件は以下のとおりであった。フィード圧(P)は100psi、温度は30〜35℃、ろ過継続時間は24時間であった。有効なろ過面積は66.5cm
2であった。ろ過された水質は、UV−VIS分光法(230nmの吸光度に基づいた)によって評価された。0から100ppmの範囲の廃棄油水の較正曲線が、ろ過された水の有機濃度を決定するために使用された。上記の実施例12に説明されたように、透過流量が計算された:
J=Q/AΔt
Jは透過流量(L/m
2・h)、Qは試験液の透過容積、Aは試験された膜の有効面積(m
2)、Δtはサンプリング時間(h)である。
【0163】
上記の実施例12に説明されるように、油/水乳剤のろ過中の総合有機濃度(TOC)阻止(R%)が計算された、すなわち:
R%=(1−透過のTOC/フィードのTOC)×100。
【0164】
図22は、複合膜の透過流量および溶質拒絶と、PVAの表面被覆層の架橋度との関係を示す。流速は、表面層の架橋度が増加するとともに減少した。架橋のないPVA被覆を有するサンプルについては、親水性のPVA被覆層は膨潤し、膜はオープンゲルとして作用した。大きな大きさの溶質は膜を通り抜けることができ、溶質の貧弱な阻止をもたらす。表面層が架橋される場合、膨潤作用(水中の)および対応するメッシュの大きさ(すなわち、ゲル構造)は、架橋度によって決定した。したがって、表面層の架橋度の増加は対応するメッシュの大きさを減少させ、
図22で見られるように、溶質の阻止率を増加させ、透過流量を減少させる結果になる。
【0165】
図23は、同様に「最適化された」が、二つの異なる被覆、(a)0.06のGA/PVAの繰り返し単位の比率によって処理されたPVA、(b)油/水乳剤の分離で、市販の親水性共重合体ポリエーテル‐b‐ポリアミド(PEBAX(登録商標)1074)を有するPVA足場を使用する、二つのナノファイバー複合膜の限外ろ過の性能を示す。PVA被覆層の厚さは1.8μm、PEBAX(登録商標)被膜の厚さは0.8μmであった。
【0166】
クロスフロー試験の時間内では、明らかな付着は、どちらの複合膜にも見られなかった。選択されたPVAヒドロゲル被覆を有するナノファイバー複合膜の流速は、約130L/m
2・hであり、比較的薄い表面被覆層の厚さを有するPEBAX(登録商標)被覆(流速は約57L/m
2・hであった)有するナノファイバー複合膜より著しく高かった。両方の膜は、同様に高い阻止率(>99.5%)を示した。多孔質膜および非常に薄い層の無孔性PEBAX(登録商標)(厚さ0.2〜0.5μm)から成る市販のTFC膜の流速は、同様の油/水乳剤の分離で約50L/m
2・hであり、PVAのエレクトロスピニングされた足場/PVAヒドロゲルナノファイバー複合膜より著しく低いことが注目された。
【0167】
上記の説明は、本開示に従う方法の多くの特定の詳細を含むが、これらの特定の詳細は、本開示の範囲に対して限定するものではなく、単にその好ましい実施形態の例証として解釈されるべきである。当業者は、本開示の範囲および精神の範囲内にすべて属する、他の多くの可能性のある変形物を想定するであろう。