【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0040】
<実施例1> ポンカン果皮の麹菌(アスペルギルス・アワモリ)発酵
発酵原料としてポンカン果皮を用いた。ポンカン果皮500gを刻んで細片化し、オートクレーブ滅菌した底部の広い容器(有底円筒状の容器)に通気性の良くなるように万遍なく広げ、少量の水を加え30分間加熱した。
このようにして得られたポンカン果皮に、全体に行き渡るようにアスペルギルス・アワモリ((株)ビオック製)を接種した。そして、30℃の恒温室内で暗黒条件にて微生物発酵処理(麹菌発酵)を好気的に10日行うことで、麹菌発酵物を得た。
そして、これらの発酵物について、HPLC分析を行った。結果を
図1に示す。なお、
図1において、発酵前のポンカン果皮について分析した結果を
図1Aに、麹菌発酵後に得られた発酵物について分析した結果を
図1Bに示す。
【0041】
その結果、発酵前に存在したノビレチンとタンゲレチンが完全に消失し、発酵後には、これらが何らかの脱官能基化を受けたポリメトキシフラボノイド変換体(
図1のピークが示す変換体1,2)へと変換されたことが示された。
即ち、ポンカン果皮原料は麹菌発酵によって、
図1で示すポリメトキシフラボノイド変換体を含有する組成物になることが示された。
【0042】
<実施例2> デメチルポリメトキシフラボノイド高含有組成物の調製
上記実施例1で得られた麹菌発酵物1kgを擂り潰して砕片し、エタノール5Lを加えて室温で3日間抽出し、抽出液を得た。
次に、得られた抽出液を、ろ紙フィルターでろ過し、ろ液をロータリエバポレータで濃縮し1Lとした。そして、水5Lを加えて水溶性溶液を得た。
得られた溶液をあらかじめ水で平衡化したダイヤイオンHP20(多孔性合成吸着樹脂カラム)に供し、3Lの水で非吸着成分を除いた後、さらに2Lの40%エタノールで溶出する成分を除いた。次いで、2Lの45%エタノールで溶出する成分を得た。
そして、得られた溶出成分をエバポレータで濃縮乾固して、上記ポリメトキシフラボノイド変換体1および2)を高含有する組成物を得た。
【0043】
<実施例3> デメチルポリメトキシフラボノイドの単離精製
上記実施例2で得られた組成物2gを20%メタノールに溶解し、ODSカラムクロマトグラフィー(内径20mmφ、長さ30cmカラムに和光ゲル50C18を30g詰めた)に供した。40%メタノールで溶出する成分を除去し、60%メタノールで溶出する成分を得た。
次いで、得られた成分について、展開溶媒ヘキサン/エタノール7:3の条件で分取TLCクロマトグラフィー(シリカゲル70PF
254プレートワコー、膜厚0.75mm、和光純薬製)を行い、各々の変換体を含む画分を、UVランプを用いて確認しながら採取した。
そして、得られた各々の画分を、分取HPLCカラム(TSK GEL ODS、東ソー社製、4.6mm×25cm)に供し、37%(v/v)アセトニトリルの移動層によって、各々純品のポリメトキシフラボノイド変換体1,2を単離した。
【0044】
<実施例4> 変換体1(4'-デメチルノビレチン)の構造解析
上記実施例3で得られたポリメトキシフラボノイド変換体1の単離物について、FABマススペクトル(pos)(JMS-600Y)によって、分子量を測定した。
また、
1H-NMR、
13C-NMRにより構造解析を行った。測定装置としては、JNM-AL400(NMR)(日本電子社製)を用いて、
1H-NMRは400MHzで、
13C-NMRは100MHzで、シグナルを検出することによって測定を行い、本物質の
1Hと
13Cについて、δH(ppm)とδC(ppm)を測定した。
当該ポリメトキシフラボノイド変換体1とタンゲレチンとのA環炭素シグナル(ppm)の比較結果を表1に示す。
また、
1Hならびに
13Cについての測定結果を表2に示す。また、表2は、当該ポリメトキシフラボノイド変換体1のケミカルシフト(CDCl
3)の結果をまとめたものでもある。なお、表2において、δH(ppm)の数値右の記号は、シグナル分裂のパターンを表し、「s」はシングレット、「d」はダブレット、「dd」はダブルダブレット、「m」はマルチプレットを表す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
a, b: Signals are interchangeable.
【0047】
マススペクトル解析の結果、測定分子量[M-H]
+はm/z=389であり、分子量は388と考えられた。
また、ノビレチンの
1H-NMR(重クロロホルム−重メタノール中)と当該変換体1の
1H-NMRを比較したところ、メトキシと考えられるシングレットシグナルが、ノビレチンで6本観測されるのに対し、当該デメチルノビレチンでは同5本が観測された。これらのことから、当該変換体1はノビレチンの構造から1箇所が脱メチル化した‘デメチルノビレチン’と考えられ、分子式C
20H
20O
8と推定された。
【0048】
次に、
1H-NMR、
13C-NMR、HMQCスペクトルより、特徴的なメトキシプロトンの帰属を行い、これらからHMBC解析を行ったところ、メトキシの根元に当たる炭素を同定できた。
これらのうち、C-5,C-6,C-7,C-8については、表1が示すように、タンゲレチンA環を構成する炭素シグナルと良く一致し、メトキシ基のシグナルについてもタンゲレチンと一致した。
このことから、A環について当該デメチルノビレチンは、ノビレチン、タンゲレチンと共通の構造であると推定された。そして、このことから、当該デメチルノビレチンでは、B環において脱メチルを受けていることが示唆された。
【0049】
また、COSYスペクトルより、7.53ppmは隣接する7.04ppmとカップリング(J=8.29Hz)すると共に、7.40ppmと遠隔カップリング(J=2.20Hz)していた。
これらのプロトンについてHMBCスペクトルを解析すると、7.40ppmならびに7.53ppmが、C-2(161.2ppm)にシグナルを持つことから、それぞれの位置が2'位、6'位と決定された。
また、B環を構成する147.0ppmおよび149.0ppmの各炭素に対し、2'-H、並びに、5'-Hは、これらの双方にHMBCが観測されたが、6'-Hからは149.0ppmのみの観測にとどまった。
これらのことから、147.0ppmおよび149.0ppmの各炭素は、それぞれ、C-3'、及び、C4'-と帰属された。ここで、C-3'(147.0ppm)は、メトキシプロトン(3.99s)からHMBCが観測される炭素であることから、残る4'位がデメチル部位であると決定された。
【0050】
以上より、実施例3で単離された変換体1は、「4'-デメチルノビレチン」であることが明らかになった。また、
1Hならびに
13Cについて、表2で示す結果がまとめられた。そして、上記の解析結果から総合的に得られた分子構造式および
1H-
1HCOSYおよびHMBCシグナルについてまとめたものを
図2に示す。
【0051】
<実施例5> 変換体2(4'-デメチルタンゲレチン)の構造解析
上記実施例3で得られたポリメトキシフラボノイド変換体2の単離物について、FABマススペクトル(pos)(JMS-600Y)によって、分子量を測定した。
また、
1H-NMR、
13C-NMRにより構造解析を行った。測定装置としては、JNM-AL400(NMR)(日本電子社製)を用いて、
1H-NMRは400MHzで、
13C-NMRは100MHzで、シグナルを検出することによって測定を行い、本物質の
1Hと
13Cについて、δH(ppm)とδC(ppm)を測定した。
当該ポリメトキシフラボノイド変換体2とタンゲレチンとのA環炭素シグナル(ppm)の比較結果を表3に示す。
また、
1Hならびに
13Cについての測定結果を表4に示す。また、表4は、当該ポリメトキシフラボノイド変換体2のケミカルシフト(CDCl
3)の結果をまとめたものでもある。なお、表4において、δH(ppm)の数値右の記号は、シグナル分裂のパターンを表し、「s」はシングレット、「d」はダブレット、「dd」はダブルダブレット、「m」はマルチプレットを表す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
a, b: Signals are interchangeable.
【0054】
マススペクトル解析の結果、測定分子量[M-H]
+はm/z=359であり、分子量は358と考えられた。
また、タンゲレチンの
1H-NMR(重DMSO中)と当該変換体2の
1H-NMRを比較したところ、メトキシと考えられるシングレットシグナルが、タンゲレチンで5本観測されるのに対し、当該デメチルタンゲレチンでは同4本が観測された。これらのことから、当該変換体2はタンゲレチンの構造から1箇所が脱メチル化した‘デメチルタンゲレチン’と考えられ、分子式C
19H
18O
7と推定した。
【0055】
次に
1H-NMR、
13C-NMR、HMQCスペクトルより、当該デメチルタンゲレチンで特徴的なメトキシプロトンの帰属を行い、これらからHMBC解析を行ったところ、メトキシの根元に当たる炭素を同定できた。
これらのうち、C-5,C-6,C-7,C-8については、表3が示すように、タンゲレチンA環を構成する炭素シグナルと良く一致し、メトキシ基のシグナルについてもタンゲレチンと一致した。
このことから、A環について当該デメチルタンゲレチンは、ノビレチン、タンゲレチンと共通の構造であると推定された。そして、このことから、当該デメチルタンゲレチンでは、B環において脱メチルを受けていることが示唆された。
【0056】
また、6.60ppmのプロトン(3-H)について解析すると、C環を構成する162.1ppm(C-2)、178.1ppm(C-4),114.6ppm(C-10)に加え、123.0ppmにHMBCが観測された。この結果から、123.0ppm炭素はB環1'位と考えられた。
また、
13C-NMRより116.4ppmならびに128.1ppmの炭素は、それぞれ2炭素分のシグナル強度を示し、フェノール基の存在を示唆していた。HMQCスペクトルから、116.4ppmならびに128.1ppm炭素に結合する水素シグナルは、それぞれ7.04ppmおよび7.80ppmと帰属でき、これらの水素シグナル間では相互カップリング(J=8.78Hz)が確認された。
ここで、7.80ppmプロトンについてHMBCスペクトルを解析するとC-2(161.1ppm)にシグナルが確認されることから、その位置が2'-Hと帰属され、隣接する7.80ppmプロトンは3'-Hと帰属された。その結果、2'-H、及び、3'-Hの双方から、HMBCの観測される160.1ppm炭素が4'位と帰属され、デメチル部位であると決定された。
【0057】
以上より、実施例3で単離された変換体2は、「4'-デメチルタンゲレチン」であることが明らかになった。また、
1Hならびに
13Cについて、表4で示す結果がまとめられた。そして、上記の解析結果から総合的に得られた分子構造式および
1H-
1HCOSYおよびHMBCシグナルについてまとめたものを
図3に示す。
【0058】
<実施例6> 神経突起伸長作用の検討
上記実施例3で得られた変換体1である4'-デメチルノビレチン単離物、変換体2である4'-デメチルタンゲレチン単離物を用い、神経突起伸長作用を調べた。神経細胞としてNeuro2aを用いた。
まず、5%CO
2、37℃インキュベータ中において、10%牛胎児血清(FBS)含有DMEM培地でNeuro2a細胞を培養した。3日毎に継代培養を行った。
そして、24穴細胞培養プレートに2×10
4/穴になるよう5%FBS含有DMEM培地を用いて細胞を撒いた。継代して3時間後に各種披検物を20μMになるように添加した。被検物としてエタノールに溶解した4'-デメチルノビレチン(実施例3製造物)、4'-デメチルタンゲレチン(実施例3製造物)、ノビレチン(比較対照)、タンゲレチン(比較対照)を用いた。対照としてエタノールのみを用いた。
そして、各種被検物添加2日後に、顕微鏡下で神経突起伸長作用を観察した。培養液中の各種被検物が奏する神経突起伸長作用を比較した写真像図を
図4に示す。
【0059】
図が示すように、比較対照であるノビレチン、タンゲレチンに比べて、モノデメチル体である4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンでは、顕著に神経突起伸長作用が有することが明らかになった。
また、Gu H.ら(Neurosci Lett. 2009,453,204)によると、神経突起伸長作用を有する神経栄養因子を投与された痴呆モデルにおいて、記憶改善作用や抗アルツハイマー作用を有することが示されている。従って、本実施例の結果から、4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンは、記憶改善作用や抗アルツハイマー作用を有することが強く示唆される。
【0060】
<実施例7> ポンカン果皮の麹菌(アスペルギルス・カワチ)発酵
麹菌としてアスペルギルス・カワチ((株)ビオック製)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして麹菌発酵(ただし発酵期間は4日間)を行い、麹菌発酵物を得た。
そして、得られた発酵物について、HPLC分析を行ったところ、発酵前に存在したノビレチンとタンゲレチンが完全に消失し、発酵後には、4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンへの変換体のピークが示された。
【0061】
<実施例8> ポンカン果皮の麹菌(アスペルギルス・オリゼ)発酵
麹菌としてアスペルギルス・オリゼー((株)ビオック製)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして麹菌発酵(発酵期間10日間)を行い、麹菌発酵物を得た。
そして、得られた発酵物について、HPLC分析を行ったところ、発酵前に存在したノビレチンとタンゲレチンが完全に消失し、発酵後には、4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンへの変換体のピークが示された。
【0062】
<実施例9> 記憶改善作用の検討
(1)被検物の調製
まず、実施例2と同様にして、デメチルポリメトキシフラボノイド高含有組成物を調製した。
この組成物2gを20%メタノールに溶解し、ODSカラムクロマトグラフィー(内径20mmφ、長さ30cmカラムに和光ゲル50C18の30gを詰めた)に供し、40%メタノールで溶出する成分を除去した後、60%メタノールで溶出することにより、4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチンの混合物250mgを得た。この混合物を用いて記憶改善への効果を検討した。
【0063】
(2)動物試験
記憶改善のための評価系として、スコポラミン誘発空間記憶障害に対するY字型迷路装置を用いた空間記憶試験を行った。本試験は、動物が直前に進入したアームを避けて新しいアームに進入する行動特性(交替行動)を利用した試験法で、空間作業記憶(spatial working memory)能力を調べるために繁用されている試験である。
本試験で用いるマウスY字型迷路装置はアクリル製黒色台形アーム(床幅:3cm、側壁高さ:12cm、解放天井幅:10cm、長さ:40cm)を用いた。3つあるアームをそれぞれA,B,Cとし、まずAの先端にマウス置き、8分間にわたってY字迷路内を自由に探索させて、マウスが移動したアームを順番通りに記録した。各アームへの移動回数(総アーム選択数「total arm entries」)と、連続して異なる3本のアームを選択した数(交替行動数)を数え、交替行動数÷(総アーム選択数−2)×100=交替行動率(alternation behavior (%))とし、これを自発的交替行動の指標とした。
【0064】
本試験には、ddYマウス(雄性、体重25〜30g,n=6)を用いた。まず、試験開始時にY字迷路試験を実施し、交替行動率が同等となるよう2群(被検物投与群と対照群)に分けた。
そして被検物投与群には、上記より得られた4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチン(0.5%Tween20を含む生理食塩水に懸濁したもの)を、30mg/体重kg/1日の割合で反復経口投与した。なお、対照群には、0.5%Tween20を含む生理食塩水を反復経口投与した。
そして、1週間反復投与の後、それぞれのマウスにスコポラミンを0.6mg/kgの用量(生理食塩水に溶解)で皮下投与し、投与30分後に再度Y字型迷路試験を実施した。
結果を
図5に示す。(なお、
図5において「**」が示す有意差は、危険率1%以下を示すものである。)
【0065】
その結果、対照群(0.5%Tween20を含む生理食塩水のみ投与)では、スコポラミンの投与によって、試験開始前に比べて顕著に交替行動率が低下した。
それに対して、被検物投与群(4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチン投与)においては、試験開始前と比べて有意に高い交替行動率を示した。
このことより、4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチンには、スコポラミン誘発空間記憶障害改善作用があり、記憶改善作用や抗アルツハイマー作用を有することが強く示唆された。