特許第5667561号(P5667561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許56675614’−デメチルノビレチン又は4’−デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する神経突起伸長剤、記憶改善剤、抗アルツハイマー剤、並びに、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667561
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】4’−デメチルノビレチン又は4’−デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する神経突起伸長剤、記憶改善剤、抗アルツハイマー剤、並びに、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20150122BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   A61K31/352
   A61P25/28
   A61P43/00 105
   A61P43/00 107
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-518334(P2011-518334)
(86)(22)【出願日】2010年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2010053958
(87)【国際公開番号】WO2010140409
(87)【国際公開日】20101209
【審査請求日】2013年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2009-133598(P2009-133598)
(32)【優先日】2009年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591046892
【氏名又は名称】富士産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086221
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 裕也
(72)【発明者】
【氏名】草野 崇一
(72)【発明者】
【氏名】田村 弘司
【審査官】 前田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−102430(JP,A)
【文献】 特開2002−060340(JP,A)
【文献】 J Nat Prod.,2007年,70(6),1035-1038
【文献】 J Nat Prod.,2004年,67(11),1876-1878
【文献】 Bioorg Med Chem Lett.,2007年,17(18),5177-5181
【文献】 J Nat Prod. ,2004年,67(11),1876-1878
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/352
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4'-デメチルノビレチンを有効成分として含有する神経突起伸長薬剤。
【請求項2】
4'-デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する神経突起伸長薬剤。
【請求項3】
4'-デメチルノビレチン及び4'-デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する神経突起伸長薬剤。
【請求項4】
4'-デメチルノビレチンを有効成分として含有する記憶改善薬剤または抗アルツハイマー薬剤。
【請求項5】
4'-デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する記憶改善薬剤または抗アルツハイマー薬剤。
【請求項6】
4'-デメチルノビレチン及び4'-デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する記憶改善薬剤または抗アルツハイマー薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定種類のカンキツ類の果皮を、特定種類の麹菌で発酵させて発酵物を得ることを特徴とする、4’−デメチルノビレチン又は4’−デメチルタンゲレチンの製造方法に関する。また、本発明は、前記化合物を有効成分として含有する医薬品(神経突起伸長剤、記憶改善剤、抗アルツハイマー剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメトキシフラボノイドであるノビレチン、タンゲレチンは、カンキツ特有のフラボノイドであるが、近年、がん予防、老化抑制、抗動脈硬化作用等さまざまな生理作用が知られるようになってきた。また、ノビレチンには、アルツハイマー改善作用(非特許文献1参照)、神経突起伸長作用(特許文献1参照)のあることが報告されている。
一方、これらノビレチン、タンゲレチンの生理作用に関する研究はすべてノビレチン、タンゲレチンそのもの(未変化体)について実施されてきたが、最近、腸管粘膜から吸収されたのち、いくつかの脱メチル体へと代謝され、全部で6個のメトキシ基に一部、脱メチル化が起こることが報告されている(非特許文献2参照)。
【0003】
ノビレチンのがん抑制作用について研究した例では、炎症や発がんを促進する一酸化窒素(NO)や誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)、シクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を抑えてがんの発生を予防する強さは、ノビレチンそのものより、3種の脱メチル化されたデメチルノビレチン(3'-デメチルノビレチン、4'-デメチルノビレチン、3',4'-ジデメチルノビレチン)の方が圧倒的に上回ることをこれら合成した脱メチル体で明らかにされた。中でも4'-デメチルノビレチンは強い活性を有している(非特許文献3参照)。
カンキツに存在する水酸基を有するポリメトキシフラボノイドとして、オレンジから得られた5位あるいは3'位が水酸基である2種のポリメトキシフラボノイド(5-ヒドロキシ3,6,7,8,3',4'ヘキサメトキシフラボン、3'-ヒドロキシ5,6,7トリメトキシフラボン)の生理作用に関する研究においてもiNOS、COX-2のmRNAの発現を強く抑制し、また、乳がん細胞のアポトーシスを誘発した。
いずれにしてもポリメトキシフラボノイドではメトキシ基が一部水酸基に置換されることによって生理機能が明らかに強まることが示され、デメチルポリメトキシフラボノイドの機能性成分としての利用が期待されている。
【0004】
しかしながら、現在知られている天然物に存在するこのような一部が水酸基に置換されたポリメトキシフラボノイドの含有量は非常に低く、これらを原料として当該成分を抽出して利用することは現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−60340号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J Pharmacol Exp Ther. 2008 , 326:739
【非特許文献2】Koga N. et al.:Biol.Pharm.Bull.,2007,30:2317
【非特許文献3】Li S. et al.: Bioorg. Med. Chem. Lett., 2007,17:5177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、優れた生理活性作用を有するデメチルポリメトキシフラボノイドを、原料の入手や工程が容易であり且つ経口摂取の面での安全性の高い方法で、製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこのような状況を鑑み、ポリメトキシフラボノイドを多く含有するカンキツ類の果皮を用いて種々の生物変換を試みた結果、特定種類の麹菌で発酵することにより、一部がデメチル化されたポリメトキシフラボノイドが生成されることを見出した。そして、その分子構造は、優れたがん予防作用を有する、4'位が水酸基に置換された4'-デメチルノビレチンおよび4'-デメチルタンゲレチンであることを明らかにした。
また、本発明者らは、4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチンのそれぞれが、神経突起伸長作用を有することを初めて見出した。そしてさらに、未変化体のノビレチンとタンゲレチンに比べ、明らかに活性が強くなっていること見出した。また、これらが、優れた記憶改善作用を有することも見出した。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
即ち、請求項1に係る本発明は、カンキツ属後生カンキツ亜族のミカン区または初生カンキツ亜族のダイダイ区に属するカンキツ類から選ばれる1以上の果皮、もしくは、その水抽出物を、;アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)およびアスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)から選ばれる1以上の麹菌で発酵させて発酵物を得ることを特徴とする、4’−デメチルノビレチンの製造方法に関する。
また、請求項2に係る本発明は、カンキツ属後生カンキツ亜族のミカン区または初生カンキツ亜族のダイダイ区に属するカンキツ類から選ばれる1以上の果皮、もしくは、その水抽出物を、;アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)およびアスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)から選ばれる1以上の麹菌で発酵させて発酵物を得ることを特徴とする、4’−デメチルタンゲレチンの製造方法に関する。
また、請求項3に係る本発明は、4’−デメチルノビレチンを有効成分として含有する神経突起伸長剤に関する。
また、請求項4に係る本発明は、4’−デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する神経突起伸長剤に関する。
また、請求項5に係る本発明は、4’−デメチルノビレチン及び4’−デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する神経突起伸長剤に関する。
また、請求項6に係る本発明は、4’−デメチルノビレチンを有効成分として含有する記憶改善剤または抗アルツハイマー剤に関する。
また、請求項7に係る本発明は、4’−デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する記憶改善剤または抗アルツハイマー剤に関する。
また、請求項8に係る本発明は、4’−デメチルノビレチン及び4’−デメチルタンゲレチンを有効成分として含有する記憶改善剤または抗アルツハイマー剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、特定のカンキツ類を原料として特定の麹菌を用いて発酵を行うことで(原料の入手や工程が極めて容易な方法で)、優れた機能性成分である4’−デメチルノビレチンと4’−デメチルタンゲレチンを、容易に且つ大量に製造することを可能とする。
また、本発明は、天然の食用植物由来の安全な4’−デメチルノビレチン、4’−デメチルタンゲレチンを提供することを可能とする。
また、本発明は、前記4’−デメチルノビレチン又は4’−デメチルタンゲレチンを有効成分として含有してなる機能性飲食品や医薬品(がん予防剤、神経突起伸長剤、記憶改善剤、抗アルツハイマー剤)を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1において、麹菌発酵前後におけるHPLC分析を行った結果を示す図である。
図2】実施例4において明らかになった4'-デメチルノビレチンの分子構造を示す図である。
図3】実施例5において明らかになった4'-デメチルタンゲレチンの分子構造を示す図である。
図4】実施例6において、各種被検物の神経突起伸長作用を比較した写真像図である。
図5】実施例9において、被検物をマウスに投与したときの自発的交替行動率(空間作業記憶を表す指標)を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、特定種類のカンキツ類の果皮を、特定種類の麹菌で発酵させて発酵物を得ることを特徴とする、4’−デメチルノビレチン又は4’−デメチルタンゲレチンの製造方法に関する。また、本発明は、前記化合物を有効成分として含有する医薬品(神経突起伸長剤、記憶改善剤、抗アルツハイマー剤)に関する。
【0013】
〔原料〕
本発明に用いることができる原料は、ポリメトキシフラボノイド(具体的には、ノビレチン、タンゲレチン)を含有するカンキツ類の‘果皮’である。なお、果実(果皮、果汁、果肉、種子などを含む果実全体)を用いることもできるが、ポリメトキシフラボノイドの含有率、廃棄物の有効利用の観点から、果皮のみを用いることが望ましい。
なお、原料としては、カンキツ類の植物体の他の部分(例えば、葉、芽、茎、花、など)を含むものを用いてもよいが、ポリメトキシフラボノイドの含有率の点でこれらを含まないものであることが望ましい。
【0014】
カンキツ類の種類としては、カンキツ属(Citrus、別名:ミカン属)の後生カンキツ亜族ミカン区または初生カンキツ亜族ダイダイ区に属するカンキツ類であれば、如何なる品種、系統のものも用いることもできる。
ここで後生カンキツ亜族ミカン区または初生カンキツ亜族ダイダイ区とは、田中長三郎の分類(Tanaka T., Bull. Univ. Osaka Pref., Ser. B. 21, 139-145(1969))によって定義される分類群であり、ミカン区として温州ミカン、ポンカン、マンダリン(別名:地中海マンダリン)、タンジェリン(別名:ダンシータンジェリン)、地ミカン、タチバナ、紀州ミカン、シークワシャー、シカイカン、コベニミカン、ケラジなどが含まれる。
また、ダイダイ区としてはスィートオレンジ、バレンシアオレンジ、イヨ、ヒューガナツ、シュンコウカンなどが含まれる。
特に、ミカン区のポンカン、シークワシャー、タンジェリン、タチバナなどは、ポリメトキシフラボノイドの含有率、廃棄物の有効利用の観点から好適である。
【0015】
本発明に用いる原料であるカンキツ類は、好ましくは、収穫・採取した生のもの、水洗いしたもの、を用いることが望ましいが、乾燥、凍結、長期保存したものなどであっても用いることができる。
また、本発明では、前記原料であるカンキツ類を、そのままの形態で用いてもよいが、前記原料であるカンキツ類を刻むか、砕片化するか、擂潰するかのいずれかの処理を行うことが望ましい。
当該工程は、前記原料であるカンキツ類を、いくつかの破片に大きめに刻むこと、細かい小片に細断すること、破砕すること、擂り潰すこと、粉末状にすること、等、幅広い行為を含むものである。好ましくは、1〜数cm程度に大きめに刻んだ状態にすることによって、行うことができる。
またさらには、これら原料から、予めポリメトキシフラボノイドを抽出(特に水抽出)して得た抽出物(エキス、乾燥物)や、純品のポリメトキシフラボノイドとして単離したものを用いることもできる。
【0016】
なお、水抽出物の条件としては、前記果皮に対して、前記溶媒を、1〜50倍量(重量比)、好ましくは2〜15倍量加え、0℃〜溶媒の沸点の温度条件、好ましくは室温〜溶媒の沸点以下の温度で、5分〜1ヶ月、好ましくは20分〜1週間の、浸漬もしくは振盪することにより、抽出することが可能である。
また、特には、高温での水抽出(熱水抽出)を行うことが望ましい。具体的には、90℃以上(好ましくは沸騰状態)で、数分〜数時間程度(例えば5分〜5時間)抽出を行うことが望ましい。
【0017】
抽出後に得られた抽出液(エキス)は、そのまま後記の麹菌発酵に用いることができるが、濾過や遠心分離などを行って固形物(果皮の残渣等)を除去することが望ましい。
なお、除去した固形物に対して、再度溶媒を加えて、複数回の抽出を行うことで、抽出効率を上げることもできる。
このようにして得られた抽出液(エキス)は、乾燥処理(凍結乾燥やエバポレーター等)を行って、乾燥物とすることができる。
【0018】
〔麹菌発酵〕
本発明は、上記のようにして調製した発酵原料(果皮、もしくは、果皮からの水抽出物)を基質として麹菌発酵を行い、発酵物を得る工程を含むものである。
なお、上記発酵原料は、麹菌発酵を行う前に、加熱処理を行って、原料中の雑菌を殺菌しておくことが好ましい。
【0019】
前記原料を発酵させる麹菌としては、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、を用いることができる。また、これらを混合させて用いてもよい。
前記麹菌のうち好ましくは、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、を用いると4'-デメチルノビレチンおよび4'-デメチルタンゲレチンを高い含有率で得ることができる。
【0020】
発酵原料へ前記麹菌を接種する方法としては、麹菌の胞子を発酵原料に直接振りかけて付着させることができる。また、予め前記麹菌を液体培養により予備発酵した培地を、発酵原料全体に行き渡るように接種してもよい。
前記麹菌を発酵原料に接種する場合の微生物発酵条件としては、好気的条件で行うことが望ましいことから、例えば有底円筒状の底部が広く深さが浅い容器が好適である。
このような容器の底部に、発酵原料を万遍なく広げ、空気との接触面積が大きくなるようにするとよい。
また、発酵原料が液体である場合には、通気、攪拌などの処理をすることが望ましい。
【0021】
発酵温度としては、前記麹菌の生育に好適な条件として、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜40℃、さらに好ましくは25〜32℃で行われる。加えて、前記麹菌の生育に好適な条件として、暗所で発酵させるのが好ましい。また、発酵原料が液体でない場合は、原料中に十分な水分が含まれている状態(例えば水分含量25%以上)であることが好ましい。
4'-デメチルノビレチンおよび4'-デメチルタンゲレチンを多量に得るための微生物発酵の発酵期間としては、好ましくは2〜21日、より好ましくは3〜14日、さらに好ましくは4〜12日である。
この発酵期間が2日未満の場合には、前記麹菌による微生物発酵がほとんど進行していないことから十分な4'-デメチルノビレチンおよび4'-デメチルタンゲレチンが得られない。また、逆に21日を超える場合には、微生物変換により生成された4'-デメチルノビレチンおよび4'-デメチルタンゲレチンの分解が進み、またカンキツ由来の好ましい芳香が消失する。
【0022】
また、本発明における当該麹菌発酵においては、麹菌から分泌される酵素によって、ポリメトキシフラボノイドがデメチル化され、デメチルポリメトキシフラボノイドへと変換させるものである。
従って、麹菌発酵を行う代わりに、当該麹菌もしくは発酵後に得られる発酵物から溶液抽出を行ってポリメトキシフラボノイドをデメチル化する酵素を含む酵素液を得、当該酵素を用いて前記原料と酵素反応を行って反応物を得ることで、デメチルポリメトキシフラボノイドを得ることも可能である。
具体的には、当該麹菌発酵後の発酵物からの水溶解物を回収し、粗酵素液として用いることで、酵素反応を行うことができる。
【0023】
本発明の麹菌発酵を行うことによって、前記カンキツ原料に含有されるポリメトキシフラボノイドであるノビレチン、タンゲレチンは、すべて4'-デメチルノビレチンおよび4'-デメチルタンゲレチンに変換される。
具体的には、前記カンキツ原料を麹菌発酵することによって、4'-デメチルノビレチンが乾燥重量あたり約0.5〜1.5質量%(具体的には、約1質量%)、4'-デメチルタンゲレチンが乾燥重量あたり0.25〜0.75質量%(具体的には、約0.5質量%)という、高い含有率の麹菌発酵物を得ることができる。
従って、ここで得られた麹菌発酵物を、得られたそのままの形態で、もしくは、加工(例えば、細片化、擂潰、粉末化、乾燥、など)して、薬剤や機能性食品の原料とすることも可能である。
【0024】
〔溶液抽出〕
なお、純度の点を鑑みると、前記麹菌発酵の後に得られる発酵物から溶液抽出を行って、抽出物を得ることが望ましい。
当該溶液抽出工程は、前記麹菌発酵物に対して直接行うこともできるが、前記麹菌発酵物について、さらに細片化、破砕、擂潰、粉末化等のいずれかの処理を行った後に得られたものに対して行うことが望ましい。
【0025】
溶液抽出工程に用いる溶媒は、水、緩衝液、有機溶媒、またはそれらの含水溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノールのような低級脂肪族アルコールや、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム等が挙げられる。
これらの溶媒の中でも、水、エタノールあるいは含水エタノールが抽出効率や取り扱いやすさ、安全性の面で特に好ましい。
また、特には、終濃度55%以上、好ましくは終濃度60%以上、さらに好ましくは終濃度80%以上のエタノールを用いて抽出を行うことで、不純物である多糖類の溶出を抑制でき、デメチルポリメトキシフラボノイドの抽出効率を向上できるため好ましい。
抽出条件としては、前記原料(好ましくは砕片化物)に対して、前記溶媒を、1〜50倍量(重量比)、好ましくは2〜15倍量加え、0℃〜溶媒の沸点の温度条件、好ましくは室温〜溶媒の沸点以下の温度で、5分〜1ヶ月、好ましくは20分〜1週間の、浸漬もしくは振盪することにより、抽出することが可能である。
【0026】
得られた抽出液は、凍結乾燥やエバポレーター等を用いて乾燥させることで、濃縮乾固物とすることができる。
また、溶液抽出工程は、異なる複数の溶媒で、複数回行うこともできる。特に、一度目の抽出を水や低濃度の含水アルコールで行った場合、次に前記特定濃度以上のエタノールを用いた抽出を行うことで、デメチルポリメトキシフラボノイドの抽出効率を向上させることができる。
そして、上記により得られた抽出物(前記抽出液や濃縮乾固物)は、薬剤や機能性食品の原料とすることができる。
【0027】
〔精製〕
また、これらに対して、精製工程を行うことによって、純度をさらに高めることができる。
精製工程としては、液−液分離抽出や、シリカゲル、化学修飾シリカゲル、活性炭、合成吸着樹脂担体等によるカラム精製により、高純度化を行うことができる。
例として、デメチルポリメトキシフラボノイドを高純度化するための精製条件を例示する。
まず、抽出液(具体的にはエタノール抽出を経た抽出液)のエタノール除去液を、水で平衡化した多孔性合成吸着樹脂(具体的には、ダイヤイオンHP-20〔三菱化学社製〕)のカラムに供する。そして、水溶出する成分を除去した後、さらに39〜41%エタノール(具体的には40%エタノール)で溶出される液を除去する。次に、44〜46%エタノール(具体的には45%エタノール)で溶出される成分を回収することにより高純度化したデメチルポリメトキシフラボノイド含有組成物を得ることができる。
なお、上記に記載した好適な条件で抽出および精製を行うことにより、純度80%以上のデメチルポリメトキシフラボノイドを高含有する組成物を得ることができる。
【0028】
また、上記のように得られたデメチルポリメトキシフラボノイド含有組成物は、さらにODSカラムクロマトグラフィー(具体的には45%メタノール溶出)、薄層クロマトグラフィー(TLC)〔具体的にはヘキサン/エタノール(7:3)〕、ODS−HPLC(具体的には37%(V/V)アセトニトリル・水の混合溶媒)に供し、目的ピークを採取することで、デメチルポリメトキシフラボノイドの純品を各々単離することができる。
【0029】
上記により得られるデメチルポリメトキシフラボノイドは、具体的には、「4'-デメチルノビレチン」(下記化学式1参照)と「4'-デメチルタンゲレチン」(下記化学式2参照)である。
これらは、4'位が脱メチル化したノビレチン、タンゲレチンのモノデメチル体である。これらは脱メチル化により極性が高くなり、各々の未変化体に比べてアルコール、水への溶解性に優れる。
【0030】
【化1】
【0031】
【化2】

【0032】
〔生理活性作用〕
上記により得られる、4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチンは、これら未変化体(ノビレチン、タンゲレチン)に比べて、優れた「神経突起伸長作用」を有するものである。また、臨床的には、優れた「記憶改善作用」と「抗アルツハイマー作用」を有するものであり、認知症やアルツハイマー病に対して有効な治療・改善・予防作用を奏するものである。なお、健常人の健忘や物忘れに対しても、有効な改善・予防作用を奏するものである。
また、これら以外にも、神経突起伸長作用によって改善が期待される神経疾患に対しては、有効な治療・改善・予防作用を奏することが期待される。
【0033】
また、4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチンは、これら未変化体(ノビレチン、タンゲレチン)に比べて、優れた「がん予防作用」を有するものである。特に4'-デメチルノビレチンは、極めて強い活性作用を有している(Li S. et al.: Bioorg. Med. Chem. Lett.,2007, 17:5177参照)。
ここでの‘がん予防作用’とは、具体的には、一酸化窒素(NO)や誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)、シクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を抑えること、;乳がん細胞のアポトーシスの誘発、;によって、がんの発生を予防するものである。
【0034】
〔薬剤・機能性飲食品〕
上記により得られる、4'-デメチルノビレチンや4'-デメチルタンゲレチンは(具体的には、‘麹菌発酵物’、‘発酵後の溶液抽出物’、‘精製物’、‘単離物’として)、各種原料に混合することで、薬剤や機能性飲食品の有効成分として用いることができる。
なお、これらの化合物は、ポリメトキシフラボノイドが脱メチル化した‘デメチルポリメトキシフラボノイド’であるため、極性は高く、未変化体のポリメトキシフラボノイドに比べて、水への溶解性も優れる物質である。従って、ポリメトキシフラボノイドを用いた場合では応用が難しいとされた形態への応用も可能となる。
また、これら化合物は、それぞれの化合物だけを含むように用いてもよく、両方の化合物を含むように用いてもよい。
【0035】
4’−デメチルノビレチンや4’−デメチルタンゲレチンの有効摂取量としては、体重60kgの成人1日あたり、1mg以上、好ましくは10mg以上経口摂取することにより、上記のような優れた生理活性作用(特に、神経突起伸長作用、記憶改善作用、抗アルツハイマー作用)が得ることができる。
従って、この必要量を確保できる形態や摂取方法(回数、量)で、4’−デメチルノビレチンや4’−デメチルタンゲレチンを摂取することで、前記薬理作用が得られることが期待される。ただし、対象の年齢、体重、症状、摂取スケジュール、製剤形態などにより、適宜決定することが望ましい。
【0036】
また、薬剤や機能性飲食品に含有させる含有量としては、上記必要な摂取量を担保できるように含有するものであればよいが、具体的には、0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上となるように含有させることができる。また、上限としては、50質量%以下を挙げることができる。
【0037】
‘薬剤’の形態としては、例えば、粉末状、細粒状、顆粒状、などとすることができ、カプセルに充填する形態の他、水に分散した溶液の形態、賦形剤等と混和して得られる錠剤の形態とすることもできる。
また、‘機能性飲食品’としては、種々の食品原料と混合して、例えば、ビスケット、スナック菓子、ガム、チュアブル錠、清涼飲料水、ドリンク、スープ、ゼリー、キャンディ等、に添加して使用してもよい。
【0038】
なお、上記により得られる4'-デメチルノビレチンや4'-デメチルタンゲレチンは、哺乳類全般に対しても、有効であると認められる。そのため、慣用の手段を用いて、ペットや家畜に用いる薬剤に適した形態にして使用してもよい。また、飼料やペットフードの形態にして使用してもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0040】
<実施例1> ポンカン果皮の麹菌(アスペルギルス・アワモリ)発酵
発酵原料としてポンカン果皮を用いた。ポンカン果皮500gを刻んで細片化し、オートクレーブ滅菌した底部の広い容器(有底円筒状の容器)に通気性の良くなるように万遍なく広げ、少量の水を加え30分間加熱した。
このようにして得られたポンカン果皮に、全体に行き渡るようにアスペルギルス・アワモリ((株)ビオック製)を接種した。そして、30℃の恒温室内で暗黒条件にて微生物発酵処理(麹菌発酵)を好気的に10日行うことで、麹菌発酵物を得た。
そして、これらの発酵物について、HPLC分析を行った。結果を図1に示す。なお、図1において、発酵前のポンカン果皮について分析した結果を図1Aに、麹菌発酵後に得られた発酵物について分析した結果を図1Bに示す。
【0041】
その結果、発酵前に存在したノビレチンとタンゲレチンが完全に消失し、発酵後には、これらが何らかの脱官能基化を受けたポリメトキシフラボノイド変換体(図1のピークが示す変換体1,2)へと変換されたことが示された。
即ち、ポンカン果皮原料は麹菌発酵によって、図1で示すポリメトキシフラボノイド変換体を含有する組成物になることが示された。
【0042】
<実施例2> デメチルポリメトキシフラボノイド高含有組成物の調製
上記実施例1で得られた麹菌発酵物1kgを擂り潰して砕片し、エタノール5Lを加えて室温で3日間抽出し、抽出液を得た。
次に、得られた抽出液を、ろ紙フィルターでろ過し、ろ液をロータリエバポレータで濃縮し1Lとした。そして、水5Lを加えて水溶性溶液を得た。
得られた溶液をあらかじめ水で平衡化したダイヤイオンHP20(多孔性合成吸着樹脂カラム)に供し、3Lの水で非吸着成分を除いた後、さらに2Lの40%エタノールで溶出する成分を除いた。次いで、2Lの45%エタノールで溶出する成分を得た。
そして、得られた溶出成分をエバポレータで濃縮乾固して、上記ポリメトキシフラボノイド変換体1および2)を高含有する組成物を得た。
【0043】
<実施例3> デメチルポリメトキシフラボノイドの単離精製
上記実施例2で得られた組成物2gを20%メタノールに溶解し、ODSカラムクロマトグラフィー(内径20mmφ、長さ30cmカラムに和光ゲル50C18を30g詰めた)に供した。40%メタノールで溶出する成分を除去し、60%メタノールで溶出する成分を得た。
次いで、得られた成分について、展開溶媒ヘキサン/エタノール7:3の条件で分取TLCクロマトグラフィー(シリカゲル70PF254プレートワコー、膜厚0.75mm、和光純薬製)を行い、各々の変換体を含む画分を、UVランプを用いて確認しながら採取した。
そして、得られた各々の画分を、分取HPLCカラム(TSK GEL ODS、東ソー社製、4.6mm×25cm)に供し、37%(v/v)アセトニトリルの移動層によって、各々純品のポリメトキシフラボノイド変換体1,2を単離した。
【0044】
<実施例4> 変換体1(4'-デメチルノビレチン)の構造解析
上記実施例3で得られたポリメトキシフラボノイド変換体1の単離物について、FABマススペクトル(pos)(JMS-600Y)によって、分子量を測定した。
また、1H-NMR、13C-NMRにより構造解析を行った。測定装置としては、JNM-AL400(NMR)(日本電子社製)を用いて、1H-NMRは400MHzで、13C-NMRは100MHzで、シグナルを検出することによって測定を行い、本物質の1Hと13Cについて、δH(ppm)とδC(ppm)を測定した。
当該ポリメトキシフラボノイド変換体1とタンゲレチンとのA環炭素シグナル(ppm)の比較結果を表1に示す。
また、1Hならびに13Cについての測定結果を表2に示す。また、表2は、当該ポリメトキシフラボノイド変換体1のケミカルシフト(CDCl3)の結果をまとめたものでもある。なお、表2において、δH(ppm)の数値右の記号は、シグナル分裂のパターンを表し、「s」はシングレット、「d」はダブレット、「dd」はダブルダブレット、「m」はマルチプレットを表す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】

a, b: Signals are interchangeable.
【0047】
マススペクトル解析の結果、測定分子量[M-H]はm/z=389であり、分子量は388と考えられた。
また、ノビレチンの1H-NMR(重クロロホルム−重メタノール中)と当該変換体1の1H-NMRを比較したところ、メトキシと考えられるシングレットシグナルが、ノビレチンで6本観測されるのに対し、当該デメチルノビレチンでは同5本が観測された。これらのことから、当該変換体1はノビレチンの構造から1箇所が脱メチル化した‘デメチルノビレチン’と考えられ、分子式C20208と推定された。
【0048】
次に、1H-NMR、13C-NMR、HMQCスペクトルより、特徴的なメトキシプロトンの帰属を行い、これらからHMBC解析を行ったところ、メトキシの根元に当たる炭素を同定できた。
これらのうち、C-5,C-6,C-7,C-8については、表1が示すように、タンゲレチンA環を構成する炭素シグナルと良く一致し、メトキシ基のシグナルについてもタンゲレチンと一致した。
このことから、A環について当該デメチルノビレチンは、ノビレチン、タンゲレチンと共通の構造であると推定された。そして、このことから、当該デメチルノビレチンでは、B環において脱メチルを受けていることが示唆された。
【0049】
また、COSYスペクトルより、7.53ppmは隣接する7.04ppmとカップリング(J=8.29Hz)すると共に、7.40ppmと遠隔カップリング(J=2.20Hz)していた。
これらのプロトンについてHMBCスペクトルを解析すると、7.40ppmならびに7.53ppmが、C-2(161.2ppm)にシグナルを持つことから、それぞれの位置が2'位、6'位と決定された。
また、B環を構成する147.0ppmおよび149.0ppmの各炭素に対し、2'-H、並びに、5'-Hは、これらの双方にHMBCが観測されたが、6'-Hからは149.0ppmのみの観測にとどまった。
これらのことから、147.0ppmおよび149.0ppmの各炭素は、それぞれ、C-3'、及び、C4'-と帰属された。ここで、C-3'(147.0ppm)は、メトキシプロトン(3.99s)からHMBCが観測される炭素であることから、残る4'位がデメチル部位であると決定された。
【0050】
以上より、実施例3で単離された変換体1は、「4'-デメチルノビレチン」であることが明らかになった。また、1Hならびに13Cについて、表2で示す結果がまとめられた。そして、上記の解析結果から総合的に得られた分子構造式および1H-1HCOSYおよびHMBCシグナルについてまとめたものを図2に示す。
【0051】
<実施例5> 変換体2(4'-デメチルタンゲレチン)の構造解析
上記実施例3で得られたポリメトキシフラボノイド変換体2の単離物について、FABマススペクトル(pos)(JMS-600Y)によって、分子量を測定した。
また、1H-NMR、13C-NMRにより構造解析を行った。測定装置としては、JNM-AL400(NMR)(日本電子社製)を用いて、1H-NMRは400MHzで、13C-NMRは100MHzで、シグナルを検出することによって測定を行い、本物質の1Hと13Cについて、δH(ppm)とδC(ppm)を測定した。
当該ポリメトキシフラボノイド変換体2とタンゲレチンとのA環炭素シグナル(ppm)の比較結果を表3に示す。
また、1Hならびに13Cについての測定結果を表4に示す。また、表4は、当該ポリメトキシフラボノイド変換体2のケミカルシフト(CDCl3)の結果をまとめたものでもある。なお、表4において、δH(ppm)の数値右の記号は、シグナル分裂のパターンを表し、「s」はシングレット、「d」はダブレット、「dd」はダブルダブレット、「m」はマルチプレットを表す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】

a, b: Signals are interchangeable.
【0054】
マススペクトル解析の結果、測定分子量[M-H]はm/z=359であり、分子量は358と考えられた。
また、タンゲレチンの1H-NMR(重DMSO中)と当該変換体2の1H-NMRを比較したところ、メトキシと考えられるシングレットシグナルが、タンゲレチンで5本観測されるのに対し、当該デメチルタンゲレチンでは同4本が観測された。これらのことから、当該変換体2はタンゲレチンの構造から1箇所が脱メチル化した‘デメチルタンゲレチン’と考えられ、分子式C19187と推定した。
【0055】
次に1H-NMR、13C-NMR、HMQCスペクトルより、当該デメチルタンゲレチンで特徴的なメトキシプロトンの帰属を行い、これらからHMBC解析を行ったところ、メトキシの根元に当たる炭素を同定できた。
これらのうち、C-5,C-6,C-7,C-8については、表3が示すように、タンゲレチンA環を構成する炭素シグナルと良く一致し、メトキシ基のシグナルについてもタンゲレチンと一致した。
このことから、A環について当該デメチルタンゲレチンは、ノビレチン、タンゲレチンと共通の構造であると推定された。そして、このことから、当該デメチルタンゲレチンでは、B環において脱メチルを受けていることが示唆された。
【0056】
また、6.60ppmのプロトン(3-H)について解析すると、C環を構成する162.1ppm(C-2)、178.1ppm(C-4),114.6ppm(C-10)に加え、123.0ppmにHMBCが観測された。この結果から、123.0ppm炭素はB環1'位と考えられた。
また、13C-NMRより116.4ppmならびに128.1ppmの炭素は、それぞれ2炭素分のシグナル強度を示し、フェノール基の存在を示唆していた。HMQCスペクトルから、116.4ppmならびに128.1ppm炭素に結合する水素シグナルは、それぞれ7.04ppmおよび7.80ppmと帰属でき、これらの水素シグナル間では相互カップリング(J=8.78Hz)が確認された。
ここで、7.80ppmプロトンについてHMBCスペクトルを解析するとC-2(161.1ppm)にシグナルが確認されることから、その位置が2'-Hと帰属され、隣接する7.80ppmプロトンは3'-Hと帰属された。その結果、2'-H、及び、3'-Hの双方から、HMBCの観測される160.1ppm炭素が4'位と帰属され、デメチル部位であると決定された。
【0057】
以上より、実施例3で単離された変換体2は、「4'-デメチルタンゲレチン」であることが明らかになった。また、1Hならびに13Cについて、表4で示す結果がまとめられた。そして、上記の解析結果から総合的に得られた分子構造式および1H-1HCOSYおよびHMBCシグナルについてまとめたものを図3に示す。
【0058】
<実施例6> 神経突起伸長作用の検討
上記実施例3で得られた変換体1である4'-デメチルノビレチン単離物、変換体2である4'-デメチルタンゲレチン単離物を用い、神経突起伸長作用を調べた。神経細胞としてNeuro2aを用いた。
まず、5%CO2、37℃インキュベータ中において、10%牛胎児血清(FBS)含有DMEM培地でNeuro2a細胞を培養した。3日毎に継代培養を行った。
そして、24穴細胞培養プレートに2×104/穴になるよう5%FBS含有DMEM培地を用いて細胞を撒いた。継代して3時間後に各種披検物を20μMになるように添加した。被検物としてエタノールに溶解した4'-デメチルノビレチン(実施例3製造物)、4'-デメチルタンゲレチン(実施例3製造物)、ノビレチン(比較対照)、タンゲレチン(比較対照)を用いた。対照としてエタノールのみを用いた。
そして、各種被検物添加2日後に、顕微鏡下で神経突起伸長作用を観察した。培養液中の各種被検物が奏する神経突起伸長作用を比較した写真像図を図4に示す。
【0059】
図が示すように、比較対照であるノビレチン、タンゲレチンに比べて、モノデメチル体である4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンでは、顕著に神経突起伸長作用が有することが明らかになった。
また、Gu H.ら(Neurosci Lett. 2009,453,204)によると、神経突起伸長作用を有する神経栄養因子を投与された痴呆モデルにおいて、記憶改善作用や抗アルツハイマー作用を有することが示されている。従って、本実施例の結果から、4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンは、記憶改善作用や抗アルツハイマー作用を有することが強く示唆される。
【0060】
<実施例7> ポンカン果皮の麹菌(アスペルギルス・カワチ)発酵
麹菌としてアスペルギルス・カワチ((株)ビオック製)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして麹菌発酵(ただし発酵期間は4日間)を行い、麹菌発酵物を得た。
そして、得られた発酵物について、HPLC分析を行ったところ、発酵前に存在したノビレチンとタンゲレチンが完全に消失し、発酵後には、4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンへの変換体のピークが示された。
【0061】
<実施例8> ポンカン果皮の麹菌(アスペルギルス・オリゼ)発酵
麹菌としてアスペルギルス・オリゼー((株)ビオック製)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして麹菌発酵(発酵期間10日間)を行い、麹菌発酵物を得た。
そして、得られた発酵物について、HPLC分析を行ったところ、発酵前に存在したノビレチンとタンゲレチンが完全に消失し、発酵後には、4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンへの変換体のピークが示された。
【0062】
<実施例9> 記憶改善作用の検討
(1)被検物の調製
まず、実施例2と同様にして、デメチルポリメトキシフラボノイド高含有組成物を調製した。
この組成物2gを20%メタノールに溶解し、ODSカラムクロマトグラフィー(内径20mmφ、長さ30cmカラムに和光ゲル50C18の30gを詰めた)に供し、40%メタノールで溶出する成分を除去した後、60%メタノールで溶出することにより、4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチンの混合物250mgを得た。この混合物を用いて記憶改善への効果を検討した。
【0063】
(2)動物試験
記憶改善のための評価系として、スコポラミン誘発空間記憶障害に対するY字型迷路装置を用いた空間記憶試験を行った。本試験は、動物が直前に進入したアームを避けて新しいアームに進入する行動特性(交替行動)を利用した試験法で、空間作業記憶(spatial working memory)能力を調べるために繁用されている試験である。
本試験で用いるマウスY字型迷路装置はアクリル製黒色台形アーム(床幅:3cm、側壁高さ:12cm、解放天井幅:10cm、長さ:40cm)を用いた。3つあるアームをそれぞれA,B,Cとし、まずAの先端にマウス置き、8分間にわたってY字迷路内を自由に探索させて、マウスが移動したアームを順番通りに記録した。各アームへの移動回数(総アーム選択数「total arm entries」)と、連続して異なる3本のアームを選択した数(交替行動数)を数え、交替行動数÷(総アーム選択数−2)×100=交替行動率(alternation behavior (%))とし、これを自発的交替行動の指標とした。
【0064】
本試験には、ddYマウス(雄性、体重25〜30g,n=6)を用いた。まず、試験開始時にY字迷路試験を実施し、交替行動率が同等となるよう2群(被検物投与群と対照群)に分けた。
そして被検物投与群には、上記より得られた4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチン(0.5%Tween20を含む生理食塩水に懸濁したもの)を、30mg/体重kg/1日の割合で反復経口投与した。なお、対照群には、0.5%Tween20を含む生理食塩水を反復経口投与した。
そして、1週間反復投与の後、それぞれのマウスにスコポラミンを0.6mg/kgの用量(生理食塩水に溶解)で皮下投与し、投与30分後に再度Y字型迷路試験を実施した。
結果を図5に示す。(なお、図5において「**」が示す有意差は、危険率1%以下を示すものである。)
【0065】
その結果、対照群(0.5%Tween20を含む生理食塩水のみ投与)では、スコポラミンの投与によって、試験開始前に比べて顕著に交替行動率が低下した。
それに対して、被検物投与群(4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチン投与)においては、試験開始前と比べて有意に高い交替行動率を示した。
このことより、4'-デメチルノビレチンと4'-デメチルタンゲレチンには、スコポラミン誘発空間記憶障害改善作用があり、記憶改善作用や抗アルツハイマー作用を有することが強く示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、極めて有用な機能性成分である4'-デメチルノビレチン、4'-デメチルタンゲレチンを、安全性の高い原料と方法により、容易に且つ大量に製造することを可能とする。
従って、本発明は、飲食品・医薬品分野において利用されることが期待される。また、高齢化に伴いボケや記憶障害の割合が増加しつつあり、がんによる死因が大きな割合を占める現代社会において、大きな需要が期待されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5