【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記の計算式1で定義されるフラットスポット指数が5.0%以下であるポリエチレンテレフタレートタイヤコードを提供する。
[計算式1]
フラットスポット指数(%)=(L
1−L
2)/L
0×100
(上記の計算式1において、L
0は、タイヤコードの初期長さであり、L
1は、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さであり、L
2は、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、0.01g/dの荷重だけを残した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。)
また、本発明は、前記タイヤコードを含む空気入りタイヤを提供する。
【0015】
以下、本発明の具体的な実施例によるポリエチレンテレフタレートタイヤコードおよびこれを含むタイヤについてより詳細に説明する。ただし、これは本発明の一実施例を示すものであって、これにより本発明の権利範囲が限定されるものではなく、本発明の権利範囲内で実施例の多様な変形が可能であることは、当業者に自明である。
また、本明細書全体において、特別な言及がない限り、「含む」または「含有する」という用語は、ある構成要素(または構成成分)を特別な制限なく含むことを表し、他の構成要素(または構成成分)の付加を除外するものと解釈されない。
【0016】
本発明の一実施例により、ポリエチレンテレフタレート(poly(ethyleneterephthalate))(以下、「PET」という)タイヤコードが提供される。このPETタイヤコードは、下記の計算式1で定義されるフラットスポット指数が5.0%以下のタイヤコードである。より具体的には、前記PETタイヤコードは、フラットスポット指数が1.0〜5.0%であり、2.0〜4.0%であるのが好ましい。
[計算式1]
フラットスポット指数(%)=(L
1−L
2)/L
0×100
上記計算式1において、L
0は、タイヤコードの初期長さであり、L
1は、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さであり、L
2は、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、0.01g/dの荷重だけを残した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。
【0017】
タイヤは、車両の走行中に、高温、膨張、または高圧状態などにさらされ、タイヤコード(例えば、キャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなど)に高い荷重がかかるため、前記コードが変形することがある。これに対し、駐車時には、このように変形した状態で冷えて、タイヤの地面との接地部分に位置するコードと、残りの部分に位置するコードとで受ける張力が異なる。つまり、タイヤの地面との接地部分に位置するコードには、車両やタイヤの自重により継続して高い荷重がかかるため、走行時に発生した形態変形が元の状態に回復せず、残りの部分に位置するコードは、荷重の解消により形態変形が回復するため、これら両部分のタイヤコード間で形態変形の差が発生することがある(いわゆる「フラットスポット」現象)。
【0018】
このようなフラットスポット現象により、車両を駐車した後に再び走行させると、車両ががたつくことがあり、これにより乗車感が低下する。
しかし、本発明の一実施例によるPETタイヤコードは、上記計算式1で定義されるフラットスポット指数が5.0%以下であり、これは、走行中の車両を駐車した時に、走行時に発生した形態変形が回復しないタイヤの接地部分におけるタイヤコードの長さL
1と、形態変形が回復した残りの部分におけるタイヤコードの長さL
2とで大差がないことを意味する。したがって、このタイヤコードを用いる場合には、これら両部分のタイヤコード間で形態変形の差が大きくないため、車両を駐車した後に再び走行させた時に、乗車感に影響を与えるほど車両ががたついたりすることがない。
【0019】
これに対し、前記フラットスポット指数が5.0%を超えるタイヤコードを用いると、車両を駐車した後に再び走行させた時に、上述したフラットスポット現象の影響により、車両ががたついて乗車感が低下することがある。
したがって、本発明の一実施例によるタイヤコードは、高い寸法安定性を有することにより、フラットスポット現象による車両のがたつきを抑制し、乗車感を向上させることができて、空気入りタイヤのキャッププライ用コードなどに非常に好適に使用可能である。
【0020】
これに加えて、本発明の一実施例によるタイヤコードは、上述した高い寸法安定性を有し、さらに、既知のナイロンまたは他のポリエステル系タイヤコードに比べても非常に優れた寸法安定性を有する。特に、このようなタイヤコードは、低いフラットスポット指数を示すことからもわかるように、非常に重い荷重がかかった状態や、熱または荷重などの急激な変化によっても、形態変形がほとんど生じない優れた寸法安定性を示す。したがって、このようなタイヤコードは、自動車の全体的な荷重を支持しながらも、形態変形がほとんど生じることなく、タイヤの形状の均一性を維持することができる。そのため、本発明の一実施例によるタイヤコードは、空気入りタイヤのボディープライ用などにも好適に使用され、かつて使用されていたビスコースレーヨンに相応するか、それよりも優れた性能を示すことができるため、タイヤの性能の向上または経済性に大きく寄与することができる。
【0021】
一方、本発明の一実施例によるPETタイヤコードは、下記の計算式2で定義される長さ変形率が3.0%以下となる。
[計算式2]
長さ変形率(%)=(L
1−L
0)/L
0×100
上記計算式2において、L
0は、タイヤコードの初期長さであり、L
1は、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。
【0022】
このようなPETタイヤコードは、高温および高荷重の状態でも形態変形がほとんどなく、タイヤの優れた走行性能を維持する。特に、車両を駐車した後に再び高速走行させることによって前記タイヤコードに高い荷重がかかった場合でも、前記PETタイヤコードは、3.0%以下の長さ変形が生じるだけで、形態変形はほとんど生じることがない。したがって、前記PETタイヤコードは、優れた寸法安定性を有することにより、タイヤの優れた高速走行性能を保障し、乗車感をさらに向上させることができる。そのため、前記PETタイヤコードは、キャッププライ用コードとして好適に使用可能で、上述した優れた寸法安定性によって車両の全体的な荷重を支持して、タイヤの形態を維持するボディープライ用コードなどとしても好適に使用可能である。
【0023】
一方、前記PETタイヤコードの形態は特に限定されず、通常のキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどと同等の形態を有することができる。より具体的には、前記PETタイヤコードは、通常のキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどの形態により、コードあたりの総繊度が1000〜5000デニール(d)、プライ数が1〜3、撚数が200〜500TPMであるディップコードの形態を有することができる。
【0024】
また、前記タイヤコードは、5〜8g/d、好ましくは5.5〜7g/dの強度、1.5〜5.0%、好ましくは2.0〜3.5%の荷重伸び(@4.5kg)、および10〜25%、好ましくは15〜25%の破断伸びを示すことができる。前記タイヤコードは、前記範囲の強度または伸び率などの諸物性を示すことにより、キャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどに好適に使用可能である。
【0025】
そして、前記タイヤコードは、空気入りタイヤのキャッププライ用コードなどとして適用可能である。このようなタイヤコードをキャッププライ用コードとして適用したタイヤは、車両の走行速度が変化して、前記キャッププライ用コードにかかる荷重が大きく変化しても、前記キャッププライ用コードの優れた寸法安定性により、形態変形がほとんど生じることがないため、前記キャッププライ用コードおよびタイヤの形態変形による車両のがたつきを抑制することができる。したがって、前記タイヤは、車両の調整性または乗車感をさらに向上させることができる。また、前記タイヤコードは、キャッププライ用コードとして好適に使用可能な高い強度または伸び率などの諸物性を示すため、このようなキャッププライ用コードが適用されたタイヤは、安定した高速走行性能を示すことができる。
【0026】
また、前記タイヤコードは、上述した優れた寸法安定性を示すことにより、ボディープライ用コードとしても好適に使用可能である。このようなタイヤコードがボディープライ用コードとして適用されたタイヤは、車両の全体的な荷重を安定的に支持しつつ、走行中の温度や荷重の急激な変動下でも形態変形がほとんど生じることがなく、タイヤの形状の均一性を維持することができる。また、前記タイヤコードは、強度または伸び率などの物性も優れているため、このようなボディープライ用コードが適用されたタイヤは、優れた性能および経済性を有することができる。
【0027】
ただし、以上では、本発明の一実施例によるPETタイヤコードがキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードとして使用された場合を主に想定して説明したが、前記PETタイヤコードの用途はこれに限られず、他のタイヤコードまたはゴムベルトなど、その他のゴム製品の補強材などの他の用途にも使用できることはいうまでもない。
一方、前記PETタイヤコードは、PETを溶融紡糸して未延伸糸を製造し、前記未延伸糸を延伸して延伸糸を製造し、前記延伸糸を合撚糸した後、接着剤に浸漬する方法によって製造されて、ディップコード形態を帯びる。この時、これら各段階の具体的な条件や進行方法が最終的に製造されたタイヤコードの物性に直接・間接的に反映されて、上述した物性を示すPETタイヤコードが製造可能である。
特に、前記PETの溶融紡糸条件を調整することにより、結晶化度が25%以上で、非晶配向指数(Amorphous Orientation Factor)(以下、「AOF」という)が0.15以下であるポリエチレンテレフタレート未延伸糸を得て、これから所定の延伸条件下で延伸糸を製造して用いることにより、フラットスポット指数が非常に小さく、寸法安定性が優れた本発明の一実施例によるPETタイヤコードを製造することができることが明らかになった。
【0028】
PETは、基本的に、一部が結晶化された形態を帯びており、結晶領域と非結晶領域とからなる。しかし、調整された溶融紡糸条件下で得られた前記PET未延伸糸は、配向結晶化現象により、既知のPET未延伸糸に比べて結晶化度が高く、25%以上、好ましくは25〜40%の高い結晶化度を示す。このような高い結晶化度により、前記PET未延伸糸から製造されたPET延伸糸およびタイヤコードは、高いモジュラスなどを示すことができる。
【0029】
これとともに、前記PET未延伸糸は、既知のPET未延伸糸に比べてはるかに低い0.15以下、好ましくは0.08〜0.15の非晶配向指数を示す。ここで、非晶配向指数とは、未延伸糸内の非結晶領域に含まれているチェーンの配向程度を示すものであり、前記非結晶領域のチェーンのもつれが増加するほど、低い値を有する。一般的には、前記非晶配向指数が低くなると無秩序度が増加し、非結晶領域のチェーンが緊張した構造でなく弛緩した構造からなるため、未延伸糸から製造された延伸糸およびタイヤコードは低い収縮率を有するという利点がある一方で、低い収縮応力を有するという欠点も併せ持つ。しかし、調整された溶融紡糸条件下で得られた前記PET未延伸糸は、これをなす分子チェーンが紡糸工程中に滑ることにより、微細なネットワーク構造を形成して、単位体積あたりより多くの架橋結合を含む。このため、前記PET未延伸糸は、非晶配向指数が大きく低下しながらも、非結晶領域のチェーンが多くの架橋結合によって緊張した構造を形成することができ、これにより、発達した結晶構造および優れた配向特性を示す。
【0030】
したがって、このような高い結晶化度および低い非晶配向指数を有するPET未延伸糸を用いることにより、低い収縮率とともに高い収縮応力およびモジュラスを同時に有するPET延伸糸およびタイヤコードを製造することができる。さらに、前記PET未延伸糸を用いることにより、本発明の一実施例による諸物性(例えば、小さいフラットスポット指数)を示すとともに、優れた寸法安定性およびモジュラスを有するPETタイヤコードを提供することができる。
【0031】
以下、前記PETタイヤコードの製造方法を各段階ごとに説明する。
前記タイヤコードの製造方法では、まず、PETを溶融紡糸し、上述した高い結晶化度および低い非晶配向指数を有するPET未延伸糸を製造する。
この時、上述した結晶化度および非晶配向指数を満たすPET未延伸糸を得るために、より高い紡糸張力下で前記溶融紡糸工程を行うことができる。例えば、前記溶融紡糸工程は、0.85g/d以上、好ましくは0.85〜1.25g/dの紡糸張力下で行うことができる。また、例えば、前記PETを溶融紡糸する速度を3800〜5000m/minに調整することができ、好ましくは4000〜4500m/minに調整することができる。
【0032】
実験の結果、このような高い紡糸張力および選択的に高い紡糸速度下でPETの溶融紡糸工程を行うことにより、PETの配向結晶化現象が現れて結晶化度が高くなり、PETをなす分子チェーンが紡糸工程中に滑りながら微細なネットワーク構造を形成し、上述した結晶化度および非晶配向指数を満たすPET未延伸糸が得られることが明らかになった。ただし、前記紡糸速度を5000m/min以上に調整することは現実的に実現が容易でなく、過剰な紡糸速度によって前記冷却工程を行うのも困難である。
【0033】
また、このようなPET未延伸糸の製造工程では、0.8〜1.3の固有粘度を有して、90モル%以上のポリエチレンテレフタレートからなるチップを前記PETとして使用することができる。
上述したように、前記PET未延伸糸の製造工程では、より高い紡糸張力および選択的により高い紡糸速度の条件を与えることができるが、この条件下で前記紡糸工程を好適に行うためには、前記チップの固有粘度が0.8以上であるのが好ましい。また、前記チップの溶融温度の上昇に応じた分子チェーンの切断および紡糸パックからの吐出量による圧力の増加を防止するためには、固有粘度が1.3以下であるのが好ましい。
【0034】
そして、前記チップは、モノフィラメントの繊度が2.0〜4.0デニール、好ましくは2.5〜3.0デニールになるように考案された口金を通して紡糸されるのが好ましい。つまり、紡糸中の糸切れの発生および冷却時の相互干渉による糸切れの発生可能性を低減させるためには、モノフィラメントの繊度が2.0デニール以上にならなければならず、紡糸ドラフトを高めて十分に高い紡糸張力を与えるためには、モノフィラメントの繊度が4.0デニール以下であるのが好ましい。
【0035】
また、前記PETの溶融紡糸後は、冷却工程を行って前記未延伸糸を製造することができるが、この冷却工程は、15〜60℃の冷却風を加える方法で行うのが好ましく、それぞれの冷却風の温度条件において、冷却風量を0.4〜1.5m/sに調整するのが好ましい。これにより、本発明の一実施例による諸物性を示すタイヤコードをより容易に製造することができる。
【0036】
一方、前記紡糸工程により上述した結晶化度などを満たすPET未延伸糸を製造した後には、この未延伸糸を延伸して延伸糸を製造するが、この延伸工程は、1.0〜1.55以下の延伸比条件下で行うことができる。前記PET未延伸糸は、結晶領域が発達しており、非結晶型領域のチェーンも配向程度が低くて、微細なネットワーク構造を形成している。したがって、1.55を超えた高い延伸比条件下で前記延伸工程を行うと、前記延伸糸に糸切れまたは毛羽立ちなどが発生することがあるため、これから製造されたタイヤコードも好適な物性を示すのが困難である。そして、比較的低い延伸比下で延伸工程を行うと、これから製造されたPETタイヤコードの強度が一部低くなることがある。ただし、1.0以上の延伸比下では、例えばキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどへの適用に好適な優れた強度を有するPETタイヤコードの製造が可能になるため、前記延伸工程は1.0〜1.55の延伸比条件下で好適に行うことができる。
【0037】
そして、前記延伸工程では、前記未延伸糸を約160℃以上240℃未満の温度で熱処理することができ、好ましくは、前記延伸工程を適切に行うために、200℃以下の温度で前記未延伸糸を熱処理することができる。
前記延伸糸の製造後は、この延伸糸を合撚糸した後、接着剤に浸漬してディップコードを製造するが、この合撚糸工程および浸漬工程は、通常のPETタイヤコードの製造工程の条件および方法と同様である。
【0038】
このように製造されたタイヤコードは、総繊度が1000〜5000デニール、プライ数が1〜3、撚数が200〜500TPMの形態を有し、上述した優れた諸物性、例えばより低いフラットスポット指数、低い長さ変形率、および優れた寸法安定性などを示すことができる。
一方、本発明の他の実施例により、上述したPETタイヤコードを含む空気入りタイヤが提供される。より具体的には、このような空気入りタイヤは、前記PETタイヤコードをキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードとして含むことができ、これを除く残りの構成は、通常の空気入りタイヤの構成と同様である。
【0039】
このようなタイヤは、車両の全体的な荷重を安定的に支持しながらも、優れた寸法安定性を示して、急激な速度および荷重の変化にも形態変形がほとんど生じないタイヤコード、例えばキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどを含むことにより、優れた高速走行性能を有して、乗車感をさらに向上させることができる。