特許第5667574号(P5667574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5667574下地基板、3B族窒化物結晶及びその製法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667574
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】下地基板、3B族窒化物結晶及びその製法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20150122BHJP
   C30B 19/12 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   C30B19/12
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-536191(P2011-536191)
(86)(22)【出願日】2010年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2010068166
(87)【国際公開番号】WO2011046203
(87)【国際公開日】20110421
【審査請求日】2013年8月14日
(31)【優先権主張番号】特願2009-239567(P2009-239567)
(32)【優先日】2009年10月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 崇行
(72)【発明者】
【氏名】下平 孝直
(72)【発明者】
【氏名】今井 克宏
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−267692(JP,A)
【文献】 特開2009−062229(JP,A)
【文献】 特開2009−051686(JP,A)
【文献】 特開2005−281067(JP,A)
【文献】 特開2006−165070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
JSTPlus(JDreamIII)
WPI
Science Citation Index Expanded(Web of Science)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3B族窒化物の種結晶層を備えた下地基板であって、
主面に段差が10〜50μmの複数のステップを有し、
前記ステップのテラス幅が1〜3.6mmである、
下地基板。
【請求項2】
フラックス法に用いられる、請求項1に記載の下地基板。
【請求項3】
前記段差が10〜40μmである、請求項1又は2に記載の下地基板。
【請求項4】
前記ステップは、エッジが前記3B族窒化物の結晶のa面に略平行に形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の下地基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の下地基板の
主面に成長した3B族窒化物結晶であって、
前記3B族窒化物結晶を{1−100}で切り出した断面を見たとき、前記下地基板の段差を起点として粒界が前記3B族窒化物結晶中で<0001>方向に対して55〜75°傾いた方向に斜めに伸びている、3B族窒化物結晶。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の下地基板の主面に成長した3B族窒化物結晶であって、
前記3B族窒化物結晶を表面側から見たとき、前記下地基板の段差を起点として前記3B族窒化物結晶の表面に至る粒界によって前記下地基板の主面の全面が覆い隠されている、3B族窒化物結晶。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の下地基板を3B族金属とアルカリ金属とを含む混合融液へ浸漬し、該混合融液へ窒素ガスを導入しながら前記下地基板の主面上に3B族窒化物結晶を成長させる3B族窒化物結晶の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地基板、3B族窒化物結晶及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウムなどの3B族窒化物を用いて青色LEDや白色LED、青紫色半導体レーザなどの半導体デバイスを作製し、その半導体デバイスを各種電子機器へ応用することが活発に研究されている。従来の窒化ガリウム系半導体デバイスは、主に気相法により作製されている。具体的には、サファイア基板やシリコンカーバイド基板の上に窒化ガリウムの薄膜を有機金属気相成長法(MOVPE)などによりヘテロエピタキシャル成長させて作製される。この場合、基板と窒化ガリウムの薄膜との熱膨張係数や格子定数が大きく異なるため、高密度の転位(結晶における格子欠陥の一種)が窒化ガリウムに生じる。このため、気相法では、転位密度の低い高品質な窒化ガリウムを得ることが難しかった。一方、気相法のほかに、液相法も開発されている。フラックス法は、液相法の一つであり、窒化ガリウムの場合、フラックスとして金属ナトリウムを用いることで窒化ガリウムの結晶成長に必要な温度を800℃程度、圧力を数MPa〜数100MPaに緩和することができる。具体的には、金属ナトリウムと金属ガリウムとの混合融液中に窒素ガスが溶解し、窒化ガリウムが過飽和状態になって結晶として成長する。こうした液相法では、気相法に比べて転位が発生しにくいため、転位密度の低い高品質な窒化ガリウムを得ることができる。
【0003】
こうしたフラックス法に関する研究開発も盛んに行われている。例えば、特許文献1には、転位密度を低減することを目的とする3B族窒化物結晶の製法が開示されている。具体的には、フラックス法において、窒化ガリウム種結晶層を含む下地基板として主面に対する法線が窒化ガリウム種結晶層の<0001>方向に対して1°以上10°以下の傾き角を有するものを使用し、窒化ガリウム単結晶が下地基板の主面上に成長する際に、窒化ガリウム単結晶に残留する転位を{0001}面に対して平行な方向に伝搬させてその単結晶の外周部に排出されるものである。
【0004】
ところで、特許文献1の図2には、下地基板の主面として、複数のミクロステップを有する階段状の凹凸面が例示されている。このミクロステップは、{0001}面(c面)である複数のテラス面と、複数の{1−100}面(m面)である複数のステップ面とで構成され、隣り合うテラス面同士はステップ面を介して連なっている。ここで、テラス面に平行な方向の結晶成長はテラス面に垂直な方向の結晶成長に比べて優勢であることや、転位は結晶の成長方向に伝搬することから、結晶成長の際に発生する転位をテラス面に実質的に平行に伝搬させて結晶の外周部に排出している。また、下地基板として主面に対する法線が窒化ガリウム種結晶層の<0001>方向に対して1°以上10°以下の傾き角を有するものを使用しているが、傾き角が10°を超えると結晶成長中にマクロステップが生じてそのマクロステップに融液が巻き込まれて液胞(インクルージョン)が生じるため好ましくないと説明されている。なお、一般的に、マクロステップは肉眼や低倍率の顕微鏡で容易に観察可能なマイクロメートルオーダーの段差を持つものを指し、ミクロステップは原子ステップなどのナノメートルオーダーの段差を持つものを指す。
【0005】
【特許文献1】特開2009−51686号公報
【発明の開示】
【0006】
一方、本発明者らは、結晶成長中に下地基板の主面から斜め上方向に向かって粒界が形成されることがあり、下地基板の主面から成長中の結晶に受け継がれる転位が粒界に突き当たるとその転位の伝搬が粒界によって妨げられることを見いだした。下地基板は一般に気相法によって生成されるため転位密度が高いことから、液相法においても結晶中にその転位が受け継がれてしまうが、結晶成長中に生じる粒界によって転位の伝搬を止めることができれば、結晶成長終了後の結晶表面には転位がほとんど現れない。このため、その結晶の上に更に窒化ガリウム単結晶を成長面が平滑となるように成長させれば、上層の窒化ガリウム単結晶は転位による欠陥がなく粒界やインクルージョンも少ないものとなる。
【0007】
しかしながら、これまでのところ、窒化ガリウムの結晶成長中の粒界の発生場所を制御する方法は知られていなかった。このため、結晶成長中に粒界が密に発生するところや疎に発生するところが混在してしまい、粒界が疎に発生したところでは転位の伝搬を止めることができず、結晶成長終了後の結晶表面に転位密度の高い部分が発生することがあった。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、3B族窒化物結晶の結晶成長中の粒界を利用して転位の伝搬を止めるのに適した下地基板を提供することを主目的とする。
【0009】
本発明者らは、3B族窒化物結晶の結晶成長中の粒界を利用して転位の伝搬を止めるにあたり、下地基板に段差が10〜40μmのステップを設けた場合、そのステップの段差付近を起点として粒界が発生したことから、粒界の発生を下地基板のステップによって制御できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の下地基板は、3B族窒化物の種結晶層を備えた下地基板であって、主面に段差がマイクロメートルオーダーの複数のステップを有するものである。この下地基板は、例えば以下のようにしてフラックス法に使用される。すなわち、下地基板を3B族金属とアルカリ金属とを含む混合融液へ浸漬し、該混合融液へ窒素ガスを導入しながら下地基板の主面上に3B族窒化物結晶を成長させる。主面上に3B族窒化物結晶が成長していく際、ステップの段差付近を起点として粒界が斜め上方に向かって発生する。一方、種結晶層に含まれる転位は、粒界の進む方向と交差する方向(主面に垂直な方向)に伝搬すると考えられ、粒界と転位とが交差した地点で転位の伝搬は粒界によって止められ、粒界を超えて転位が伝搬することはないと考えられる。したがって、本発明の下地基板によれば、ステップの段差を主面上のどの位置に形成するかによって粒界の起点を制御することができ、ひいては下地基板からの転位の伝搬を少ない数のステップでもって阻止することができる。
【0011】
ここで、「マイクロメートルオーダー」とは、1〜100μmを表すものとする。また、ステップの段差は10〜40μmであることが好ましい。ステップの段差が10μm未満の場合には、3B族窒化物結晶が成長する前に段差分の種結晶がメルトバックして段差が消失してしまうことがあるため、好ましくない。ステップの段差が40μmを超えると、粒界又はその近傍に巻き込まれるインクルージョンの量が多くなりすぎるため、好ましくない。また、各ステップのテラス幅は、すべて同じ値であってもよいが、ステップごとに種々の値をとっていてもよい。この点は、段差についても同様である。なお、特許文献1の下地基板はミクロステップを有しているが、基板表面が鏡面研磨されており、その段差はナノメートルオーダーと微小な点で、本発明におけるステップとは異なる。
【0012】
本発明の下地基板において、前記ステップは、エッジが3B族窒化物結晶のa面に略平行であってもm面に略平行であってもそれ以外のどの方向を向いていてもよいが、a面に略平行に形成されていることが好ましい。段差のエッジがa面に平行に形成されている場合には、m面に平行に形成されている場合よりも、粒界がc面に近い角度で伸びるために、同じ成長厚さで広い領域が粒界によって覆われるため好ましい。なお、「a面に略平行」とは、a面に平行な場合はもちろん、a面と実質的に平行な場合(例えばa面と5°未満の角度をなす方向)も含む意である。
【0013】
本発明の3B族窒化物結晶は、上述した本発明の下地基板の主面に成長した3B族窒化物結晶であって、前記3B族窒化物結晶を{1−100}で切り出した断面を見たとき、前記下地基板の段差を起点として粒界がGaN単結晶中で<0001>方向に対して55〜75°傾いた方向に斜めに伸びているものである。この3B族窒化物結晶によれば、下地基板の主面から3B族窒化物結晶の表面に至る粒界によって下地基板の主面の多く又はすべてが覆い隠されているため、下地基板の種結晶層から伝搬される転位はその粒界によって遮断される。したがって、この3B族窒化物結晶の上に更に別の3B族窒化物結晶を成長面が平滑となるように穏やかな条件で成長させれば、上層の3B族窒化物結晶は転位による欠陥が少なく、かつ、粒界やインクルージョンも少ないものとなる。
【0014】
本発明の3B族窒化物結晶は、上述した本発明の下地基板の主面に成長した3B族窒化物結晶であって、前記3B族窒化物結晶を表面側から見たとき、前記下地基板の段差を起点として前記3B族窒化物結晶の表面に至る粒界によって前記下地基板の主面の全面が覆い隠されているものである。この3B族窒化物結晶によれば、下地基板の主面から3B族窒化物結晶の表面に至る粒界によって下地基板の主面の全面が覆い隠されているため、下地基板の種結晶層から伝搬される転位は遮断されほとんど表面に到達していない。したがって、この3B族窒化物結晶の上に更に別の3B族窒化物結晶を成長面が平滑となるように穏やかな条件で成長させれば、上層の3B族窒化物結晶はほとんど転位による欠陥がなく、かつ、粒界やインクルージョンも少ないものとなる。
【0015】
例えば、下地基板の主面に結晶した3B族窒化物結晶の厚さをT(μm)、各ステップのテラス幅をW(μm)、主面に対して粒界がなす角度の最大値をθ(°)としたとき、W≦T/tanθを満足するようにテラス幅Wが設定されていることが好ましい。こうすれば、理論的には、3B族窒化物結晶を表面側から見たとき、下地基板の主面から3B族窒化物結晶の表面に至る粒界によって下地基板の主面の全面が覆い隠されることになる。特に、W=T/tanθとなるようにテラス幅Wを設定すれば、W<T/tanθの場合に比べてテラス幅が大きいため、下地基板の主面に形成するステップの数を減らすことができる。
【0016】
本発明の3B族窒化物結晶の製造方法は、上述した下地基板を3B族金属とアルカリ金属とを含む混合融液へ浸漬し、該混合融液へ窒素ガスを導入しながら下地基板の主面上に3B族窒化物結晶を成長させるものである。この製造方法では、主面上に3B族窒化物結晶が成長する際、ステップの段差付近を起点として粒界が斜め上方に向かって発生する。一方、種結晶層に含まれる転位は、粒界の進む方向と交差する方向(主面に垂直な方向)に伝搬すると考えられ、粒界と転位とが交差した地点で転位の伝搬は粒界によって止められ、粒界を超えて転位が伝搬することはないと考えられる。したがって、ステップの段差を主面上のどの位置に形成するかによって粒界の起点を制御することができ、ひいては下地基板からの転位の伝搬を少ない数のステップでもって阻止することができる。
【0017】
本発明の3B族窒化物結晶の成長方法において、3B族窒化物としては、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化タリウム(TlN)などが挙げられるが、このうち窒化ガリウムが好ましい。下地基板としては、例えば、サファイア基板やシリコンカーバイド基板、シリコン基板などの表面に3B族窒化物と同じ種類の薄膜が形成されたものを用いてもよいし、3B族窒化物と同じ種類の基板を用いてもよい。フラックスとしては、各種金属の中から3B族金属の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば3B族金属がガリウムの場合にはアルカリ金属が好ましく、金属ナトリウムや金属カリウムがより好ましく、金属ナトリウムが更に好ましい。
【0018】
なお、本明細書では、「粒界」とは、隣り合う結晶粒同士の間の不連続な境界をいう。「インクルージョン」とは、粒界に巻き込まれた融液のことをいう。インクルージョンは液胞と称されることもある。なお、結晶方位は、古くから無機化学の分野で用いられているが、六方晶の3B族窒化物単結晶の結晶方位について、簡単に説明する。六方晶において、c軸に垂直な面であるc面は(0001)面、−c面は(000−1)面であるが、これらは対称性の観点から等価なので、{0001}面と表記される。また、図26に示すように、[0−110]方向、[−1010]方向、[−1100]方向、[01−10]方向、[10−10]方向及び[1−100]方向は、対称性の観点から全て等価なので、<1−100>と表記される。また、<1−100>に垂直な面すなわちm面は{1−100}と表記される。更に、[−2110]方向、[−12−10]方向、[11−20]方向、[2−1−10]方向、[1−210]方向及び[−1−120]方向は、これらは対称性の観点から全て等価なので、<11−20>と表記される。また、<11−20>に垂直な面すなわちa面は{11−20}と表記される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】結晶板製造装置10の全体の構成を示す説明図である。
図2】育成容器12の説明図(断面図)である。
図3】エッジがa面に平行な場合の下地基板18の説明図であり、(a)は斜視図(一部断面)、(b)は平面図を示す。
図4】GaN結晶の転位低減メカニズムの説明図である。
図5】エッジがm面に平行な場合の下地基板18の平面図である。
図6】六角形パターンを持つ中凹形状の下地基板の説明図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
図7】三角形パターンを持つ中凹形状の下地基板の説明図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図である。
図8】六角形パターンを持つ中凸形状の下地基板の説明図であり、(a)は平面図、(b)はC−C断面図である。
図9】結晶板製造装置110の全体の構成を示す説明図である。
図10】実施例1のGaN単結晶の断面の蛍光顕微鏡像の写真である。
図11】実施例1のGaN単結晶のエッチピット観察像の写真である。
図12】実施例2のGaN単結晶の断面の蛍光顕微鏡像の写真である。
図13】実施例2のGaN単結晶のエッチピット観察像の写真である。
図14】実施例3のGaN単結晶の断面の蛍光顕微鏡像の写真である。
図15】実施例3のGaN単結晶のエッチピット観察像の写真である。
図16】実施例4のGaN単結晶の断面の蛍光顕微鏡像の写真である。
図17】実施例4のGaN単結晶のエッチピット観察像の写真である。
図18】実施例5のGaN単結晶の断面の蛍光顕微鏡像の写真である。
図19】実施例5のGaN単結晶のエッチピット観察像の写真である。
図20】実施例6のGaN単結晶の断面の蛍光顕微鏡像の写真である。
図21】実施例6のGaN単結晶のエッチピット観察像の写真である。
図22】実施例10のGaN単結晶の断面の蛍光顕微鏡像の写真である。
図23】実施例10のGaN単結晶のエッチピット観察像の写真である。
図24】比較例1のGaN単結晶の断面の蛍光顕微鏡像の写真である。
図25】比較例1のGaN単結晶のエッチピット観察像の写真である。
図26】六方晶の結晶方位を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の3B族窒化物結晶の成長方法を実施するための好適な装置について、図面を用いて以下に説明する。図1は結晶板製造装置10の全体構成を示す説明図、図2は育成容器12の説明図(断面図)、図3は下地基板18の説明図、図4は転位低減メカニズムの説明図である。以下には、3B族窒化物としてGaNを例に挙げて説明する。
【0021】
結晶板製造装置10は、図1に示すように、育成容器12と、この育成容器12に配置される下地基板18と、育成容器12を収納する反応容器20と、この反応容器20が配置される電気炉24と、窒素ボンベ42とステンレス製の反応容器20とを接続する配管の途中に設けられた圧力制御器40とを備えている。
【0022】
育成容器12は、有底筒状でアルミナ製の坩堝である。この育成容器12には、図2に示すように、GaN種結晶層を備えた下地基板18が配置される。また、育成容器12には、金属ガリウムとフラックスが収容される。フラックスとしては、金属ナトリウムが好ましい。金属ガリウムとフラックスは、加熱することにより混合融液となる。
【0023】
下地基板18は、図2に示すように、主面18aが水平方向に対して角度を持つように(つまり斜めに)配置される。この下地基板18は、図3に示すように、主面(c面)18aに複数のステップ19が階段状に形成されている。各ステップ19は、段差が10〜40μmであり、エッジがGaNの六方晶のa面と平行に形成されている。また、各ステップ19のテラス幅は、所定の幅に設定されている。所定の幅は、下地基板18の主面18aにGaN結晶を成長させた後、その成長したGaN結晶を表面側から見たときに粒界によって主面18aが覆い隠されるように設定されている。なお、複数のステップ19は、例えば、ドライエッチ、サンドブラスト、レーザー、ダイシング等によって形成することができる。
【0024】
反応容器20は、ステンレス製であり、上部に窒素ガスを導入可能なインレットパイプ22が挿入されている。このインレットパイプ22の下端は、反応容器20内であって育成容器12の上方空間に位置している。また、インレットパイプ22の上端は、圧力制御器40に接続されている。
【0025】
電気炉24は、内部に反応容器20が配置される中空の円筒体26と、この円筒体26の上部開口及び下部開口をそれぞれ塞ぐ上蓋28及び下蓋30とを備えている。この電気炉24は、3ゾーンヒーター式であり、円筒体26の内壁に設けられたリング状の2つの仕切り板32,33により、上ゾーン34、中ゾーン35、下ゾーン36の3つに分けられている。また、上ゾーン34を取り囲む内壁には上ヒーター44が埋設され、中ゾーン35を取り囲む内壁には中ヒーター45が埋設され、下ゾーン36を取り囲む内壁には下ヒーター46が埋設されている。各ヒーター44,45,46は、図示しないヒーター制御装置により予め個別に設定された目標温度となるように制御される。なお、反応容器20は、上端が上ゾーン34、下端が下ゾーン36に位置するように収容される。
【0026】
圧力制御器40は、反応容器20へ供給する窒素ガスの圧力が予め設定された目標圧力になるように制御する。
【0027】
このようにして構成された本実施形態の結晶板製造装置10の使用例について説明する。まず、下地基板18を用意し、育成容器12に入れる。このとき、下地基板18を水平方向に対して10°以上90°未満(好ましくは45°以上90°未満)の角度を持つように支持する。また、金属ガリウムとフラックスとしての金属ナトリウムを用意し、それらを所望のモル比となるように秤量し育成容器12に収容する。この育成容器12を反応容器20に入れ、インレットパイプ22を反応容器20に接続し、窒素ボンベ42から圧力制御器40を介して窒素ガスを反応容器20に充填する。この反応容器20を電気炉24の円筒体26内の上ゾーン34から中ゾーン35を経て下ゾーン36に至るように収容し、下蓋30及び上蓋28を閉じる。そして、圧力制御器40により反応容器20内が所定の窒素ガス圧となるように制御し、図示しないヒーター制御装置により上ヒーター44,中ヒーター45,下ヒーター46をそれぞれ所定の目標温度となるように制御し、窒化ガリウムの結晶を成長させる。窒素ガス圧は、1〜7MPaに設定するのが好ましく、2〜6MPaに設定するのがより好ましい。また、3つのヒーターの平均温度は700〜1000℃に設定するのが好ましく、800〜900℃に設定するのがより好ましい。窒化ガリウム結晶の成長時間は、加熱温度や加圧窒素ガスの圧力に応じて適宜設定すればよく、例えば数時間〜数100時間の範囲で設定すればよい。
【0028】
以上詳述した本実施形態によれば、下地基板18の主面18a上にGaN結晶が成長する際、図4に示すように、ステップ19の段差の付近を起点として粒界が斜め上方に向かって発生する。一方、下地基板18の種結晶層に含まれる転位は、粒界の進む方向と交差する方向(主面と垂直な方向)に伝搬すると考えられ、粒界と転位とが交差した地点で転位の伝搬は粒界によって止められ、粒界を超えて転位が伝搬することはないと考えられる。したがって、ステップ19の段差を主面18a上のどの位置に形成するかによって粒界の起点を制御することができ、ひいては下地基板18からの転位の伝搬を少ない数のステップ19でもって阻止することができる。
【0029】
また、下地基板18の主面18aにて結晶成長させた後のGaN結晶を表面側から見たとき、下地基板18の主面18aからGaN結晶の表面に至る粒界によって下地基板18の主面18aの全面が覆い隠されている。このため、下地基板18の種結晶層からGaN結晶へ伝播してくる転位はGaN結晶の表面まで到達することはほとんどない。
【0030】
更に、下地基板18の主面18aに成長したGaN結晶の上に、更にGaN結晶を成長面が平滑となるように成長させれば、上層のGaN結晶は下層のGaN結晶から伝播してくる転位がほとんど存在しないため転位による欠陥が少なく粒界やインクルージョンも少ないものとなる。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、図3に示す下地基板18を採用したが、その代わりに図5に示すようにエッジがGaNの六方晶のm面と平行な下地基板18を採用してもよい。あるいは、ステップを、下地基板の縦断面をみたときに中央が凹んだ形状(中凹形状)であり、下地基板の上面からみたときに点対称図形となるようなパターンに形成してもよい。点対称図形としては、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形が挙げられるが、このうちすべてのステップのエッジがa面に平行な六角形であるパターン(図6参照)や、同じく三角形であるパターン(図7参照)が好ましい。中凹形状を採用した場合、複数のステップを形成するために加工する最大厚みが図3に比べて半分で済むという利点がある。また、中央が突出した形状(中凸形状、図8参照)と比較して、中央領域にも確実に粒界が導入されるため中央領域の転位を確実に抑制することができる。
【0033】
上述した実施形態では、育成容器12内の混合融液に熱対流を発生させるようにしてもよい。具体的には、上ヒーター44及び中ヒーター45に比べて下ヒーター46の温度が高くなるように各目標温度を設定してもよい。このようにして発生した熱対流により、混合融液は下地基板18の主面18aに沿って流れるようになり、主面18aに沿った方向への結晶成長が促進される。
【0034】
上述した実施形態では、図1に示す結晶板製造装置10を採用したが、その代わりに図9に示す結晶板製造装置110を採用してもよい。結晶板製造装置110は、反応容器20が回転可能な点以外は結晶板製造装置10と同じであるため、以下には結晶板製造装置10と相違する点のみを説明する。反応容器20は、下面に回転シャフト52が取り付けられた円盤状の回転台50の上に載置されている。回転シャフト52は、内部磁石54を有しており、筒状ケーシング58の外側にリング状に配置された外部磁石56が図示しない外部モーターによって回転するのに伴って回転する。反応容器20に差し込まれたインレットパイプ22は、上ゾーン34内で切断されている。このため、回転シャフト52が回転すると、回転台50の上に載置された反応容器20も支障なく回転する。また、窒素ボンベ42から圧力制御器40を介して電気炉24内に充満された窒素ガスは、インレットパイプ22から反応容器22内に導入される。この結晶板製造装置110を使用することにより、育成容器12内の混合融液に下地基板18の表面に沿った方向の流れを発生させることができ、主面18aに沿った方向への結晶成長が促進される。なお、混合融液に生じる渦状の流れが下地基板18の表面と平行になるように育成容器12内での下地基板18の姿勢を決めるのが好ましい。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
図1に示す結晶板製造装置10を用いて、GaN結晶板を作製した。以下、その手順を詳説する。まず、縦10mm×横15mmの下地基板18の主面(c面)18aに、サンドブラスト法によりマスクパターンを使って複数のステップ19を形成した。砥粒は、材質がアルミナ(Al23)であり、粒径10〜20μm、平均粒径15μmのものを用いた。また、各ステップ19は、段差が10μmであり、エッジがGaNの六方晶のa面と平行であり、テラス幅が2mmとなるようにした。
【0036】
次に、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、複数のステップ19が形成された下地基板18を育成容器12内で水平方向に対する角度が70°になるように収容すると共に、金属ガリウム(Ga)3gとフラックスとしての金属ナトリウム(Na)4gとを秤量し、育成容器12内に入れた。この育成容器12を反応容器20内に入れ、窒素パージを行いながら反応容器20を電気炉24の円筒体26に入れ、上蓋28と下蓋30を閉じて密閉した。その後、所定の育成条件で窒化ガリウム結晶を育成させた。本実施例では、育成条件は、窒素圧力4.5MPa、平均温度875℃にして、100時間育成を行った。反応終了後、室温まで自然冷却したのち、反応容器20を開けて中から育成容器12を取り出し、育成容器12にエタノールを投入し、金属ナトリウムをエタノールに溶かしたあと、育成した窒化ガリウム結晶板を回収した。
【0037】
回収したGaN結晶を{1−100}で切り出した断面に波長330〜385nmの光を照射したときの蛍光顕微鏡像を図10に示す。この蛍光顕微鏡像では、下地基板18が薄緑色(図10では薄いグレー)、GaN単結晶が藍色(図10では濃いグレー)に見える。GaN単結晶中、筋状に青白く光る不純物帯発光部分(図10では薄いグレー)が粒界である。なお、不純物帯発光とは、不純物が深い準位を形成し、その準位に励起された電子が緩和することによって生じる発光のことをいう。図10では、ステップの段差の付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。具体的には、図10において、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約55〜75°傾いた方向に伸びる粒界が確認された。
【0038】
このGaN単結晶の表面を鏡面加工して250℃の硫酸とりん酸との混合液に約2時間浸してエッチング処理を行った。エッチング後、GaN単結晶の表面のうち直下に粒界(またはインクルージョン)が形成されている箇所を光学顕微鏡を用いて微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、エッチピット密度(EPD)を求めた。EPDは、100μm四方の測定エリア中のエッチピットの数を測定エリアの面積で除して求めた。このときのエッチピット観察像を図11に示す。図11では、測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。このように、GaN単結晶の表面のうち直下に粒界(またはインクルージョン)が形成されている箇所では転位が観察されなかったことから、GaN単結晶中での転位の伝搬は粒界によって阻止されたと考えられる。
【0039】
なお、図10では、段差から粒界がGaN単結晶表面に達するまでの水平距離は約2mmであるため、テラス幅をその水平距離2mm以下に設定すれば粒界によって主面の全面が覆い隠されることがわかる。
【0040】
(実施例2)
下地基板18に形成したステップ19の段差を20μmとした以外は、実施例1と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を撮影した。このときの蛍光顕微鏡像を図12に示す。図12から、ステップの段差の付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。具体的には、図12において、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約55〜75°傾いた方向に伸びる粒界が確認された。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。このときのエッチピット観察像を図13に示す。図13では、測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。
【0041】
(実施例3)
下地基板18に形成したステップ19の段差を40μmとした以外は、実施例1と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を撮影した。このときの蛍光顕微鏡像を図14に示す。図14では、ステップの段差の付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。具体的には、図14において、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約55〜75°傾いた方向に伸びる粒界が確認された。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。このときのエッチピット観察像を図15に示す。図15では、測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。
【0042】
(実施例4)
下地基板18のエッジをGaNの六方晶のm面と平行になるようにし、ステップ19の段差を10μm、テラス幅を1mmにした以外は、実施例1と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収した。そして、回収したGaN結晶を{11−20}で切り出した断面に波長330〜385nmの光を照射したときの蛍光顕微鏡像を撮影した。このときの蛍光顕微鏡像を図16に示す。図16では、ステップの段差の付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。具体的には、図16において、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約15〜35°傾いた方向に伸びる粒界が確認された。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。このときのエッチピット観察像を図17に示す。図17では、測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。
【0043】
(実施例5)
下地基板18に形成したステップ19の段差を20μmとした以外は、実施例4と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を撮影した。このときの蛍光顕微鏡像を図18に示す。図18では、ステップの段差の付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。具体的には、図18において、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約15〜35°傾いた方向に伸びる粒界が確認された。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。このときのエッチピット観察像を図19に示す。図19では、測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。
【0044】
(実施例6)
下地基板18に形成したステップ19の段差を40μmとした以外は、実施例4と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を撮影した。このときの蛍光顕微鏡像を図20に示す。図20では、ステップの段差の付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。具体的には、図20において、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約15〜35°傾いた方向に伸びる粒界が確認された。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。このときのエッチピット観察像を図21に示す。図21では、測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。
【0045】
(実施例7)
下地基板18に形成したステップ19のテラス幅を2mmとした以外は、実施例4と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収した。回収したGaN結晶を蛍光顕微鏡で観察したところ、ステップの段差付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。粒界は、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約15〜35°傾いた方向に伸びていた。実施例1の場合と比較して、粒界の<0001>方向に対する傾きが小さいため、粒界によって主面の全面が覆い隠されるまでに、実施例1の4倍の厚さの結晶成長が必要であった。
【0046】
(実施例8)
下地基板18に形成したステップ19の段差を20μmとし、育成時間を150時間にした以外は、実施例1と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を観察した。そうしたところ、GaN単結晶は約1.5mm成長しており、ステップの段差の付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。具体的には、GaN結晶を{1−100}で切り出した断面において、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約55〜75°傾いた方向に伸びる粒界が確認された。本実施例では、下地基板の主面の全面が粒界で覆い隠されていた。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。
【0047】
(実施例9)
実施例1で育成した結晶を{0001}面(c面)が出るように鏡面研磨し、これを下地基板として用いた以外は、実施例1と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を観察した。そうしたところ、不純物帯発光は確認されず、粒界(およびインクルージョン)は発生しなかった。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。
【0048】
(実施例10)
下地基板18に形成したステップ19のテラス幅を3.6mm(3600μm)とした以外は、実施例3と同様にしてGaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を撮影した。このときの蛍光顕微鏡像を図22に示す。図22では、テラス幅Wが広すぎて、GaN単結晶を表面から見たときに、粒界によって覆われていない箇所が存在していた。このGaN単結晶の表面を鏡面加工して250℃の硫酸とりん酸との混合液に約2時間浸してエッチング処理を行った。エッチング後、GaN単結晶の表面のうち直下に粒界(またはインクルージョン)が形成されている箇所を光学顕微鏡を用いて微分干渉像観察を行ったところ、転位に起因するエッチピットは観察されなかったが、直下に粒界(またはインクルージョン)が形成されていない箇所では、図23に示すようにエッチピットが多数観察され、EPDは3.4×106/cm2であった。つまり、テラス幅が広いため、実施例1〜8と比べるとエッチピットの観察されない箇所と観察された箇所があった。
【0049】
(実施例11)
下地基板18に形成したステップ19の段差を50μmとした以外は、実施例1と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を観察した。そうしたところ、ステップの段差の付近を起点として粒界がGaN単結晶中で斜め上方に向かって発生していた。具体的には、ステップの段差の付近を起点としてGaN単結晶中で<0001>方向に対して約55〜75°傾いた方向に伸びる粒界が確認された。本実施例では、殆どの粒界においてインクルージョンが巻き込まれており、GaN結晶表面にまでインクルージョンが露出していた。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。測定エリア内にはエッチピットは観察されず、EPDは<1×104/cm2であった。つまり、本実施例では、段差が大きいため、実施例1〜8と比べるとインクルージョンが表面に露出したが、エッチピットの抑制効果は十分得られた。
【0050】
(比較例1)
平滑な下地基板(実施例1のステップを形成する工程を実施しなかった下地基板)を用いた以外は、実施例1と同様にしてGaN単結晶を育成し、育成容器12から回収した。回収したGaN結晶を{11−20}で切り出した断面に波長330〜385nmの光を照射したときの蛍光顕微鏡像を図24に示す。図24では、不純物帯発光がみられず、粒界は確認されなかった。また、任意の場所の微分干渉像観察を実施例1と同様にして行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。このときのエッチピット観察像を図25に示す。図25では、測定エリア内にはエッチピットが多数観察され、EPDは7.3×105/cm2であった。
【0051】
(比較例2)
下地基板18に形成したステップ19の段差を0.5μmとした以外は、実施例1と同様にして、GaN単結晶を育成し、育成容器12から回収し、回収したGaN結晶の蛍光顕微鏡像を観察した。そうしたところ、下地基板に形成した0.5μmの段差が育成開始前のメルトバックにより消失して、実質的に段差のない面となっていたために、不純物帯発光は確認されず、段差の付近を起点とした粒界が発生しなかった。また、実施例1と同様にして微分干渉像観察を行い、転位に起因するエッチピットを観察し、EPDを求めた。測定エリア内にはエッチピットが多数観察され、EPDは1.2×106/cm2であった。
【0052】
本出願は、2009年10月16日に出願された日本国特許出願第2009−239567号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明で製造される3B族窒化物結晶は、パワーアンプに代表される高周波デバイスのほか、青色LEDや白色LED、青紫色半導体レーザなどの半導体デバイスに利用可能である。
図1
図2
図3
図4
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図26
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