【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である足踏み式パーキングブレーキ操作装置10を示す概略図で、車載状態における車両側方(左側)から見た一部を切り欠いた側面図である。この足踏み式パーキングブレーキ操作装置10は、運転席前方において車体12に位置固定に配設されるブラケット14に、支持軸16の軸心Sまわりに回動可能に配設された操作ペダル18を備えている。操作ペダル18の下端部にはペダルパッド20が設けられており、そのペダルパッド20が運転者によって踏込み操作されると、操作ペダル18は支持軸16の右まわりに回動させられ、ブレーキケーブル22を引っ張って図示しない車輪に配設されたパーキングブレーキを作動させる。この足踏み式パーキングブレーキ操作装置10がパーキングブレーキ装置で、操作ペダル18が制動部材に相当し、支持軸16の右まわりへの回動が一方向への移動である。
【0019】
操作ペダル18の上部前方には、軸心Sを中心とする円弧形状に沿って多数の鋸歯24を有するラチェット26が取り付けられており、軸心Sと平行なポールピン28を介してブラケット14に回転可能に配設されたポール30の噛合歯32と噛み合わされることにより、操作ペダル18の原位置側への戻り回動が阻止されてパーキングブレーキの作動状態が維持される。ポール30は、両端部がポール30およびブラケット14に掛け止められた捩りコイルスプリング34によってポールピン28の右まわり方向へ回動するように付勢されており、噛合歯32がラチェット26の鋸歯24と噛み合わされる。捩りコイルスプリング34はポール付勢スプリングに相当する。
【0020】
ラチェット26の鋸歯24は、
図2および
図2の III部分を拡大して示す
図3から明らかなように、軸心Sまわりにおいて操作ペダル18の踏込み操作時の回動方向Aと逆方向へ傾斜する傾斜歯で、捩りコイルスプリング34によって矢印B方向へ付勢されているポール30は、その付勢力に抗して矢印Cで示すように揺動しながら鋸歯24を乗り越えることができる。そして、操作ペダル18に対する踏込み操作力が解除されると、
図6に示すように操作ペダル18はブレーキケーブル22の張力に従って矢印Dで示す左まわり方向へ戻り回動させられるとともに、三角形状の噛合歯32は相対的に矢印Eで示すようにラチェット26の歯溝内に進入し、鋸歯24のロック面24a〜歯底面24cに当接させられて操作ペダル18のそれ以上の戻り回動が阻止され、これによりパーキングブレーキの作動状態が維持される。ラチェット26およびポール30は何れも金属材料製で、ロック面24aおよびそのロック面24aに対面する噛合歯32の第1側端面32aは、何れも
図6に示す側面視において直線状を成す平坦面で互いに略密着させられるとともに、歯底面24cおよび噛合歯32の先端面32cは何れも側面視において曲率が略等しい円弧形状を成す円筒面で互いに略密着させられ、ロック状態すなわちパーキングブレーキの作動状態が安定して維持される。
【0021】
ポールピン28はポール30に設けられた長穴40内を挿通させられており、
図6に示すようにポール30の噛合歯32がラチェット26の鋸歯24と噛み合わされると、ブレーキケーブル22の張力によりポール30の回転中心が変化するとともに、捩りコイルスプリング34による付勢方向が逆転する。これにより、再度操作ペダル18が踏まれてラチェット26との噛合が解除されると、ポール30は捩りコイルスプリング34の付勢力に従ってポールピン28の左まわりに回動させられ、ラチェット26との噛合が不能となる。操作ペダル18は、両端部が操作ペダル18およびブラケット14に掛け止められた捩りコイルスプリング42(
図1参照)によって軸心Sの左まわり方向へ回動するように付勢されており、この捩りコイルスプリング42の付勢力およびブレーキケーブル22の張力に従って
図1に示す原位置まで戻り回動させられる。操作ペダル18の原位置は、ブラケット14に取り付けられたストッパ44により規定されるとともに、操作ペダル18が原位置まで戻り回動させられる際に、戻し係合部46がポール30と係合させられることにより、そのポール30がポールピン28の右まわりに回動させられ、回転中心が
図1、
図2に示す初期位置へ復帰させられるとともに、捩りコイルスプリング34による付勢方向が右まわり方向に戻される。上記捩りコイルスプリング42はリターンスプリングに相当する。なお、ポール30をポールピン28の左まわりに回動させてラチェット26との噛合を解除する等の他のレリース機構を採用することもできる。
【0022】
ここで、パーキングブレーキを作動させるために操作ペダル18が踏込み操作されると、ポール30は
図3に矢印Cで示すように揺動しながらラチェット26の鋸歯24を連続的に乗り越えるが、
図3に示すように捩りコイルスプリング34の付勢力に従って次の鋸歯24の非ロック面24b側に当接させられる。このため、多数の鋸歯24を乗り越える毎に、ポール30の噛合歯32がそれ等の鋸歯24に当接する作動音(連続する打撃音)が発生する。その場合に、本実施例では、三角形状の噛合歯32の一対の第1側端面32aおよび第2側端面32bのうち、鋸歯24の非ロック面24bに対面する側の第2側端面32bには合成樹脂膜50が設けられており、この合成樹脂膜50が鋸歯24に当接させられることにより、衝撃が吸収されて作動音が低減される。合成樹脂膜50は、
図3におけるIV−IV断面を示す
図4から明らかなように、噛合歯32の第2側端面32b側を回曲するように断面U字形状を成しており、第2側端面32b上に位置する厚肉の当接部50a、および噛合歯32の側面上に位置する一対の側壁部50bを備えている。この合成樹脂膜50は、例えばインサート成形等により成形と同時に噛合歯32に一体的に固設されるが、必要に応じて接着剤で接着したりリベット等の固定手段で固定しても良い。
【0023】
上記合成樹脂膜50は、噛合歯32の前記第1側端面32aおよび先端面32cを除く部分に設けられており、
図6に示すロック状態では、合成樹脂膜50から露出しているそれ等の金属製の第1側端面32a、先端面32cがラチェット26の鋸歯24のロック面24a、歯底面24cに直接当接させられる。これにより、パーキングブレーキが緩むことがない安定したロック状態が得られる。
【0024】
また、噛合歯32の第2側端面32bは、
図5に示すように、先端面32cにおける第1側端面32b側の接線L1から所定寸法tだけ後退した位置に設けられている。接線L1は、第1側端面32bと平行な接線である。そして、合成樹脂膜50は、この接線L1から突き出さないように設けられており、本実施例では、合成樹脂膜50の当接部50aの肉厚が後退寸法tと略一致するように、すなわち当接部50aの表面が接線L1と略一致するように設けられている。これにより、例えば
図7に示すように噛合歯32の先端面32cが鋸歯24の歯先面24dに当接している状態でブレーキ操作が解除され、操作ペダル18がブレーキケーブル22の張力に従って矢印Dで示す左まわり方向へ戻り回動させられるとともに、噛合歯32が相対的に矢印Eで示すようにラチェット26の歯溝内に進入する際に、合成樹脂膜50が鋸歯24の歯先部分に引っ掛かって剥がれたりめくれ上がったりすることが抑制される。すなわち、
図8に示す噛合歯60のように、上記接線L1と一致する位置に第2側端面60bが設けられ、その第2側端面60bを被覆するように合成樹脂膜62が設けられると、噛合歯60の先端面60cに対して合成樹脂膜62の膜厚分だけ出っ張るため、噛合歯60が相対的に矢印Eで示すようにラチェット26の歯溝内に進入する際に、その合成樹脂膜62が鋸歯24の歯先部分に引っ掛かり易くなるのである。また、本実施例では鋸歯24の歯先面24dが側面視において円弧形状を成す円筒面とされているため、合成樹脂膜50の引っ掛かりが一層効果的に抑制される。なお、
図8のように合成樹脂膜62が先端面60cの接線L1(第2側端面60bと略同じ)から出っ張る場合も本発明の一実施態様であり、例えば合成樹脂膜62の膜厚を薄くするなどして出張りを小さくすれば引っ掛かりが抑制される。
【0025】
一方、上記のように噛合歯32の第2側端面32bを合成樹脂膜50で被覆しても、ロック状態を安定に維持するために先端面32cが露出しているため、例えば
図9に示すラチェット100のようにロック面102aおよび非ロック面102bが平坦(
図9の側面視において直線)な三角山形状の鋸歯102を有する場合には、ブレーキ操作時にその先端の金属部分がラチェット100の鋸歯102の非ロック面102bに当接して作動音が大きくなる恐れがある。すなわち、合成樹脂膜50で被覆される第2側端面32bが鋸歯102の非ロック面102bと略平行であると、噛合歯32の先端の金属部分(先端面32c)が非ロック面102bに当接して打撃音が発生し、合成樹脂膜50の当接部50aに僅かな摩耗やへたりが生じた場合には、先端面32cが非ロック面102bにより当接し易くなる。
図10に示すように第2側端面32bを鋸歯102の非ロック面102bに対して傾斜させれば、その第2側端面32bを被覆する合成樹脂膜50の当接部50aが鋸歯102の歯先部分に当接させられるようになり、先端面32cが非ロック面102bに当接することが防止される。しかしながら、ブレーキ操作が解除されて、
図11に示すように噛合歯32がラチェット100の歯溝内に進入する際に、先端面32cがロック面102aに片当たりの状態で当接させられるとともに、合成樹脂膜50の当接部50aが鋸歯102の歯先部分に押圧されるようになり、合成樹脂膜50の耐久性が損なわれる。
【0026】
これに対し、本実施例では
図3から明らかなように鋸歯24の非ロック面24bが、鋸歯24の歯底面24cと歯先面24dとを結ぶ直線L2から後退するように滑らかな円弧状にへこんだ凹曲面とされているため、ブレーキ操作時に合成樹脂膜50から露出する先端面32cが鋸歯24の非ロック面24bに当接することが適切に防止される。また、この非ロック面24の凹曲面を適当に定めることにより、ブレーキ操作が解除されて
図6に示すように噛合歯32がラチェット26の歯溝内に進入する際に、先端面32cが鋸歯24の歯底面24cに当接させられるとともに、第2側端面32bを被覆している合成樹脂膜50の当接部50aが歯先面24dから離間するように容易に設定できる。これにより、噛合歯32の先端面32cと歯底面24cとの当接による安定したロック状態を確保できるとともに、合成樹脂膜50の耐久性を損なうことなく、ブレーキ操作時の作動音を適切に低減できる。
【0027】
このように、本実施例の足踏み式パーキングブレーキ操作装置10においては、鋸歯24の非ロック面24bが、その鋸歯24の歯先面24dと歯底面24cとを結ぶ直線L2から後退するようにへこんだ凹曲面とされているため、操作ペダル18を踏み込むブレーキ操作時にポール30が相対的に鋸歯24を乗り越えて次の鋸歯24の非ロック面24b側に当接させられる際には、
図3に示すように第2側端面32bを被覆している合成樹脂膜50の当接部50aがその非ロック面24b側の歯先部分(歯先面24d)に当接させられ、合成樹脂膜50から露出している金属製の噛合歯32の先端面32cがその非ロック面24bに当接することが適切に防止される。これにより、ブレーキ操作時にポール30がラチェット26の鋸歯24を乗り越える毎にその鋸歯24の非ロック面24b側に当接する際に生じる作動音(連続する打撃音)が確実に低減される。
【0028】
また、操作ペダル18の踏込み操作が終了して踏込み操作力が解除されると、
図6に矢印Dで示すようにその操作ペダル18はブレーキケーブル22の張力に従って戻り移動させられ、ポール30の噛合歯32がラチェット26の歯溝内に進入するが、鋸歯24の非ロック面24bの凹面形状を適当に定めることにより、合成樹脂膜50から露出している金属製の先端面32cが鋸歯24の歯底面24cに当接させられるとともに、第2側端面32bを被覆している合成樹脂膜50の当接部50aが歯先面24dから離間させられるようにすることができる。これにより、操作ペダル18の戻り回動が確実に防止されてパーキングブレーキの作動状態が適切に維持されるとともに、第2側端面32bを被覆する合成樹脂50の当接部50aに過大な負荷が作用して耐久性が低下することが防止される。
【0029】
また、本実施例では、合成樹脂膜50によって被覆される第2側端面32bが、円弧状の先端面32cの第2側端面32b側の接線L1から所定の後退寸法tだけ後退した位置に設けられており、合成樹脂膜50はその接線L1から突き出さないようにその第2側端面32bを被覆している。このため、操作ペダル18の踏込み操作が解除されることにより、ブレーキケーブル22の張力に従って操作ペダル18が戻り回動させられ、ポール30の噛合歯32がラチェット26の歯溝内に進入する際に、合成樹脂膜50の当接部50aが鋸歯24の歯先部分(歯先面24d)に引っ掛かって剥がれたりめくれ上がったりすることが抑制され、合成樹脂膜50の耐久性が一層向上する。
【0030】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。