特許第5667638号(P5667638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667638
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】作業機械の周辺監視装置
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/24 20060101AFI20150122BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20150122BHJP
   H04N 7/18 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   E02F9/24 H
   E02F9/26 A
   H04N7/18 J
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-539546(P2012-539546)
(86)(22)【出願日】2010年10月22日
(86)【国際出願番号】JP2010068718
(87)【国際公開番号】WO2012053105
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2013年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077816
【弁理士】
【氏名又は名称】春日 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100156524
【弁理士】
【氏名又は名称】猪野木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小沼 知恵子
(72)【発明者】
【氏名】弓場 竜
(72)【発明者】
【氏名】石本 英史
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−121053(JP,A)
【文献】 特開2010−198519(JP,A)
【文献】 特開2008−248613(JP,A)
【文献】 特開2010−059653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/24
E02F 9/26
H04N 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械周辺の画像を撮影する撮影手段と、
前記作業機械周辺の障害物の存在を検出する障害物検出手段と、
当該検出された障害物の作業機に対する相対位置を算出する位置算出手段と、
前記作業機械の姿勢及び動作のうち少なくとも1つに基づいて、前記作業機械の周囲における危険範囲を算出する危険範囲算出手段と、
前記算出した危険範囲内に障害物が存在するか否かを前記算出した障害物の位置に基づいて判定する判定手段と、
前記判定手段で前記危険範囲内に存在すると判定された障害物に対して、当該障害物の種別、位置及び高さのうち少なくとも1つに基づいて接触危険度を設定する危険度設定手段と、
前記危険度設定手段で最も高い接触危険度が設定された障害物の上方に設定した視点から当該最も高い接触危険度が設定された障害物および前記作業機械を仮想カメラで見た画像を、前記撮影手段により撮影された画像に基づいて作成する画像作成手段と、
当該作成した画像を表示する表示手段とを備えることを特徴とする作業機械の周辺監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械の周辺監視装置において、
前記危険度設定手段は、さらに、前記作業機械の姿勢及び動作のうち少なくとも1つに基づいて接触危険度を設定することを特徴とする作業機械の周辺監視装置。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械の周辺監視装置において、
前記作業機械は、走行体と、当該走行体の上部に旋回可能に取り付けられた旋回体と、当該旋回体に取り付けられたフロント作業装置とを備え、
前記危険度設定手段は、さらに、同じ種別の障害物の中で、前記旋回方向において前記フロント作業装置に最も近い位置に存在する障害物に最も高い接触危険度を設定することを特徴とする作業機械の周辺監視装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の作業機械の周辺監視装置において、
前記画像作成手段は、前記作成した画像において、前記危険度設定手段で最も高い接触危険度を設定された前記障害物の上に警告表示を重畳的に描画することを特徴とする作業機械の周辺監視装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の作業機械の周辺監視装置において、
前記画像作成手段は、前記危険度設定手段で最も高い接触危険度を設定された前記障害物の種別が人である場合には、前記作成した画像において、当該障害物の上に人を示す画像を重畳的に描画することを特徴とする作業機械の周辺監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業機械周囲の障害物を監視する周辺監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械の周辺監視装置は、作業機械の周辺をカメラ等で監視して、作業時に作業機械の周囲に存在する人及び物(障害物)との接触を防止するためのものである。この種の技術には、オペレータが作業機械と周囲の障害物との位置関係を容易に把握することを図った技術として、作業時の作業機械の姿勢及びその作業範囲を描画した画像と、カメラで撮影した作業機械周辺の画像を作業機械の上方視点からの俯瞰画像に変換した画像と、カメラ等の検出手段で適宜検出した障害物を描画した画像とを、表示装置に重畳的に表示する技術がある(特開2008−248613号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−248613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に係る技術は、表示装置に重畳的に表示される画像をオペレータが見ることで障害物の有無及び作業機械と障害物との位置関係を容易に把握できる点で優れている。ところで、複数の障害物が作業機械の周囲に表示された場合には、その中のどの障害物が接触の可能性が最も高いかを判断する必要が生じることもある。このような場合には、オペレータ自身がその判断を行わなければならならず、その判断作業が必然的に通常作業(掘削作業)の間に介入することになる。したがって、このような状況で作業機械が利用されることを想定すると、上記技術は作業機械による作業効率を向上させる観点から改善する余地がある。
【0005】
本発明の目的は、最も危険な障害物の作業機械に対する位置を瞬時に把握することができる作業機械の周辺監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、作業機械周辺の画像を撮影する撮影手段と、前記作業機械周辺の障害物の存在を検出する障害物検出手段と、当該検出された障害物の作業機に対する相対位置を算出する位置算出手段と、前記作業機械の姿勢及び動作のうち少なくとも1つに基づいて、前記作業機械の周囲における危険範囲を算出する危険範囲算出手段と、前記算出した危険範囲内に障害物が存在するか否かを前記算出した障害物の位置に基づいて判定する判定手段と、前記判定手段で前記危険範囲内に存在すると判定された障害物に対して、当該障害物の種別、位置及び高さのうち少なくとも1つに基づいて接触危険度を設定する危険度設定手段と、前記危険度設定手段で最も高い接触危険度が設定された障害物の上方に設定した視点から当該最も高い接触危険度が設定された障害物および前記作業機械を仮想カメラで見た画像を、前記撮影手段により撮影された画像に基づいて作成する画像作成手段と、当該作成した画像を表示する表示手段とを備えるものとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、最も危険な障害物の作業機械に対する位置がオペレータに瞬時に把握されるので、作業機械による作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観図。
図2】本発明の実施の形態に係る作業機械の周辺監視装置の全体構成図。
図3】本発明の実施の形態における画像作成部600の構成図。
図4】障害物検出部400で利用される障害物の存在を検出する装置として、カメラ13aを用いた場合と、ミリ波レーダ14aを用いた場合の検知範囲の説明図。
図5】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの周囲における障害物(人/物)と油圧ショベルの位置関係を示す説明図。
図6】本発明の実施の形態に係る障害物検出部400で行われる処理のフローチャート。
図7】本発明の実施の形態に係る位置算出部500で行われる処理のフローチャート。
図8】S520において障害物とカメラ13の距離を算出する際のフローチャート。
図9】本発明の実施の形態に係る危険範囲算出部700で行われる処理のフローチャート。
図10】上部旋回体1dが右旋回した場合における危険範囲の算出例の説明図。
図11】上部旋回体1dが左旋回した場合における危険範囲の算出例の説明図。
図12】下部走行体1eが後進した場合における危険範囲の算出例の説明図。
図13】本発明の実施の形態に係る判定部800で行われる処理のフローチャート。
図14】本発明の実施の形態に係る危険度設定部2000で行われる処理のフローチャート。
図15】危険度設定部2000において行われる危険度設定処理に関する第1の説明図。
図16】危険度設定部2000において行われる危険度設定処理に関する第2の説明図。
図17】危険度設定部2000において行われる危険度設定処理に関する第3の説明図。
図18】画像作成部600における俯瞰画像作成部610で行われる処理のフローチャート。
図19】画像作成部600における俯瞰視点決定部2100(俯瞰位置決定部2130及び俯瞰高さ決定部2140)で行われる処理のフローチャート。
図20】俯瞰視点決定部2100における俯瞰視点を決定する例の概念図。
図21】画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第1の例を示す図。
図22】画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第2の例を示す図。
図23】画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第3の例を示す図。
図24】画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第4の例を示す図。
図25】画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第5の例を示す図。
図26】画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第6の例を示す図。
図27】本発明の実施の形態における表示装置1300の表示画面の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観図である。この図に示す油圧ショベルは、垂直方向にそれぞれ回動するブーム1a,アーム1b及びバケット1cからなる多関節型のフロント作業装置1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eからなる車体1Bと、運転室1f内に設置された表示装置1300を備えている。
【0010】
運転室1fは上部旋回体1dに備えられている。フロント作業装置1Aのブーム1aの基端は上部旋回体1dの前部に支持されている。ブーム1a、アーム1b、バケット1c、上部旋回体1d及び下部走行体1eは、それぞれ、ブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、旋回モータ(図示せず)及び左右の走行モータ3e,3f(図示せず)の各アクチュエータによりそれぞれ駆動される。また、ブーム1a、アーム1b、バケット1c及び上部旋回体1dは、それぞれの回動角(θ1,θ2,θ3,θ4)を検出する角度検出器8a,8b,8c,8dを備えている。
【0011】
上部旋回体1dには、油圧ショベル周囲の画像を撮影する後方カメラ13a、右側方カメラ13b及び左側方13c(撮影手段)が設置されている。後方カメラ13aは、上部旋回体1dの後方の画像を撮影するためのもので、上部旋回体1dの後方に設置されている。右側方カメラ13bは、上部旋回体1dの右側方の画像を撮影するためのもので、上部旋回体1dの右側方に設置されている。左側方カメラ13cは、上部旋回体1dの左側方の画像を撮影するためのもので、上部旋回体1dの左側方に設置されている。
【0012】
図2は本発明の実施の形態に係る作業機械の周辺監視装置の全体構成図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。この図に示す周辺監視装置は、カメラ13a,13b,13cと、障害物検出部400と、位置算出部500と、危険範囲算出部700と、判定部800と、危険度設定部2000と、画像作成部600と、表示装置1300と、各部が行う処理を実行するCPU等の処理装置(図示せず)と、各部で行われる処理内容や処理結果が記憶されるメモリ等の記憶装置(図示せず)を備えている。
【0013】
障害物検出部400は、カメラ13a,13b,13cで撮影した画像を利用して油圧ショベル周辺の障害物の存在を検出する部分であり、位置算出部500は、障害物検出部400で検出された障害物の油圧ショベルに対する相対位置を算出する部分である。
【0014】
危険範囲算出部700は、油圧ショベルの姿勢及び動作のうち少なくとも1つに基づいて、油圧ショベルの周囲における危険範囲を算出する部分である。ここで、油圧ショベルの姿勢(上部旋回体1dの旋回角度及びフロント作業装置1Aの姿勢等)は、角度検出器8a,8b,8c,8dによって検出された検出角度θ1,θ2,θ3,θ4から算出することができる。また、油圧ショベルの動作は、運転室1f内に設置された操作装置(操作レバー)30からブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、旋回モータ(図示せず)及び左右の走行モータ3e,3fに出力される操作信号(油圧信号又は電気信号)や、角角度検出器8a,8b,8c,8dによる検出角度θ1,θ2,θ3,θ4の時間変化から算出することができる。
【0015】
判定部800は、危険範囲算出部700で算出された危険範囲内に障害物が存在するか否かを位置算出部500で算出された障害物の位置に基づいて判定する部分である。ここで、「危険範囲内」とは危険範囲の内側(油圧ショベル側)と危険範囲上の領域を示すこととし、「危険範囲外」とは危険範囲上を除く危険範囲の外側の領域を示すこととする。
【0016】
危険度設定手段2000は、判定部800で危険範囲内に存在すると判定された障害物に対して、カメラ13a,13b,13cで撮影された画像から得られる当該障害物の種別(人/物)、位置及び高さのうち少なくとも1つに基づいて接触危険度(単に危険度と称することもある)を設定する部分である。
【0017】
画像作成部600は、カメラ13a,13b,13cで撮影された画像を油圧ショベルを中心とする俯瞰画像に変換し、危険度設定部2000で最も高い接触危険度を設定された障害物の上方から当該俯瞰画像を俯瞰した画像(監視画像)を作成する部分である。画像作成部600によって作成される監視画像には、俯瞰画像上における油圧ショベルと危険範囲算出部700で算出された危険範囲のすべてが含まれる。
【0018】
図3は本発明の実施の形態における画像作成部600の構成図である。この図に示すように、画像作成部600は、俯瞰画像作成部610と、俯瞰視点決定部2100と、監視画像作成部620を備えている。
【0019】
俯瞰画像作成部610は、カメラ13a,13b,13cで撮影された画像を油圧ショベルを中心とする俯瞰画像に変換する部分である。ここで、俯瞰画像とは、油圧ショベルを中心とした作業地を当該油圧ショベルの真上の位置から見たときに得られる平面図に相当する画像のことを示し、本実施の形態では3つのカメラ13a,13b,13cの画像を変換及び合成することで作成される。カメラで撮影した画像を俯瞰画像に変換する方法は、例えば、後述する方法や、特開2006−48451号公報に記載されている方法等が利用可能である。
【0020】
俯瞰視点決定部2100は、俯瞰画像作成部610で作成した俯瞰画像を仮想カメラ(図示せず)で俯瞰する視点(俯瞰視点)を決定する部分であり、俯瞰位置決定部2130と、俯瞰高さ決定部2140を備えている。俯瞰位置決定部2130は、俯瞰視点の水平面上の位置を決定する部分であり、本実施の形態では、危険度設定部2000で最も高い接触危険度を設定された障害物の水平面位置を俯瞰位置とする。俯瞰高さ決定部2140は、俯瞰視点の高さ位置を決定する部分であり、本実施の形態では、仮想カメラに撮影される画像内に少なくとも油圧ショベルと危険範囲算出部700で算出された危険範囲が含まれるように俯瞰高さを決定している。なお、このように俯瞰高さ(仮想カメラの高さ)を調節する代わりに又は併せて、仮想カメラの画像に油圧ショベルと危険範囲が含まれるように当該仮想カメラの焦点距離(画角)を調節しても良い。
【0021】
監視画像作成部620は、俯瞰画像作成部610で作成された俯瞰画像を俯瞰視点決定部2100で決定した俯瞰視点から仮想カメラで撮影することで監視画像を作成する部分である。監視画像作成部620は、作成した監視画像上に適宜必要な画像を合成して表示する処理も行う。例えば、監視画像は、油圧ショベルに対する障害物の位置関係がオペレータに容易に把握されるように、俯瞰画像の中心に油圧ショベルを模した図形(模擬作業機械図)を表示することが好ましい。模擬作業機械図を表示する方法としては、俯瞰画像の中央に油圧ショベルのイラストや3次元モデルを表示するものがある。なお、その際、オペレータによる状況把握をさらに容易にするために、当該模擬作業機械図に実際の油圧ショベルの姿勢や動作を反映させることが好ましい。
【0022】
さらに、オペレータの視認性を向上させるために、最も接触危険度が高い障害物が人である場合には、当該障害物の上に警告表示を重畳的に描画することが好ましい。警告表示としては、例えば、図形(星形の図形等)や文字(「危険」等)があり、これらに対して監視画像中において目立つ彩色を施すことが好ましい。また、俯瞰画像に変換すると画像が適宜拡大縮小されて障害物の種別が判別し難くなる傾向が強い。そのため、最も接触危険度が高い障害物が人である場合には、オペレータの視認性を向上させるために、当該障害物の上に人を示す画像を重畳的に描画しても良い。その際、人を示す画像としては、例えば、人のイラストや写真等がある。なお、これらに対しても、監視画像中において目立つ彩色を施すことが好ましい。
【0023】
図2に戻り、表示装置1300は、画像作成部600で作成した画像を表示する部分であり、図1に示したように運転室1f内に設置されている。なお、表示装置1300は、油圧ショベルの運転室1fにおいてオペレータ(運転員)が目視確認容易な位置に設置することが好ましい。
【0024】
なお、周辺監視装置は、画像処理が可能なコンピュータと表示装置、または、画像処理専用装置と表示装置で構成しても良い。
【0025】
ところで、油圧ショベルにおいて、障害物検出部400における障害物検出性能を向上させる観点からは、ミリ波レーダのような距離センサを設置する代わりに、上記のカメラ13a,13b,13cを上部旋回体1dに設置することが好ましい。例えば、本実施の形態の油圧ショベルにおいて、図1に示すように、上部旋回体1dの後方から障害物までの距離を計測するミリ波レーダ14aを後方カメラ13aの下方に設置し、上部旋回体1dの右側方から障害物までの距離を計測するミリ波レーダ14bを右側方カメラ13bの下方に設置し、上部旋回体1dの左側方から障害物までの距離を計測するミリ波レーダ14cを左側方カメラ13cの下方に設置したとし、障害物の検出にカメラ13を用いた場合とミリ波レーダ14を用いた場合とで比較する。
【0026】
図4は障害物検出部400で利用される障害物の存在を検出する装置として、カメラ13aを用いた場合と、ミリ波レーダ14aを用いた場合の検知範囲の説明図である。ミリ波レーダ14aは、水平方向のスキャン21が可能であり、垂直方向のスキャンは困難である。ここで、一般的な油圧ショベルの下部走行体1eの高さは1.0m以上あるため、ミリ波レーダ14aの設置高は1.0mより高い位置に設置せざるを得ない。そのため、ミリ波レーダ14aの直下に設置高さより低い障害物(例えば、座っている人15a(高さ0.8m程度))がある場合には、当該障害物はミリ波レーダ14aの死角になり検知不可能になる。一方、車体1Bの最上部にカメラ13aをその真下が撮影可能なような俯角で設置すると、水平方向と垂直方向の撮影20aが可能となるので、座っている人15aも撮影でき、ミリ波レーダ14aのような死角は発生しない。したがって、本実施の形態のようにカメラ13a,13b,13cを用いると、障害物の検出性能が向上し安全性も高まる。なお、カメラ13a,13b,13cに加えて、ミリ波レーダ14a,14b,14cを設置すると、検出性能がさらに向上することは言うまでもない。
【0027】
次に上記のように構成される油圧ショベルの周辺監視装置を図5に示す環境で動作させた場合について説明する。図5は本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの周囲における障害物(人/物)と油圧ショベルの位置関係を示す説明図である。この図において、上部旋回体1dの後方にはカメラ13aとミリ波レーダ14aが、右側方にはカメラ13bとミリ波レーダ14b(図示せず)が、左側方にはカメラ13cとミリ波レーダ14cが設置されている。また、オペレータから見え難い方向である上部旋回体1dの後方には、作業員15a,15bと、土嚢16、カラーコーン17及びポールサイドコーン19が存在し、右側方に作業員15c,15dが存在し、左側方に作業員15eが存在している。
【0028】
図6は本発明の実施の形態に係る障害物検出部400で行われる処理のフローチャートである。周辺監視装置において周辺監視処理が開始されると、障害物検出部400は、まず、カメラ13が撮影した画像を入力し(S401)、直前又はnフレーム前におけるカメラ13からの入力画像や、障害物が無い状態を別途撮影した画像等を背景画像として入力する(S402)。そして、S401の入力画像とS402の背景画像を用いて画素毎の差分画像を作成し(S403)、その作成した差分画像において輝度が所定の閾値(7〜15程度)未満の部分を0とし、それ以上の部分を1以上にする2値化処理を行って障害物の変化領域を抽出する(S404)。
【0029】
次にS404において抽出した変化領域に面積が所定の閾値以上の部分が有るか否かを判定する(S405)。ここで利用される閾値は、カメラ13から離れた障害物ほど小さく撮影されることを鑑みて、カメラ13からの距離の増加に伴って減少するように設定することが好ましい。S405において変化領域に面積が閾値以上の部分がある場合には、障害物領域が存在すると判定して(S406)S408に進み、閾値未満の部分しかない場合には障害物は存在しないと判定して(S407)S401以降の処理を繰り返す。
【0030】
S408では障害物領域は複数存在するか否かをチェックする。S408で、障害物領域の個数が1個であると判定された場合には障害物領域の個数を1個(n=1)とする(S409)。そして、kを1に設定して(S411)、当該障害物領域に対する外接矩形の左上座標と右下座標を記憶装置に格納し(S413)、S401以降の処理を繰り返す。
【0031】
一方、S408において障害物領域が複数存在すると判定された場合には当該障害物領域の個数を複数個(n)とする(S410)。そして、kを1に設定して(S412)、1番目の障害物領域に対する外接矩形の左上座標と右下座標を記憶装置に格納し(S413)、すべての障害物領域に対して座標を格納したか否か、すなわちkがnに達したか否かをチェックする(S414)。S414でkがnに達していない場合には、kを1つ進めて(S415)S413に戻り、以降は障害物領域の個数分だけS413→S414→S415の処理を繰り返す。上記の処理により、油圧ショベル周辺の障害物の存在を検出することができる。
【0032】
図7は本発明の実施の形態に係る位置算出部500で行われる処理のフローチャートである。周辺監視装置において周辺監視処理が開始されると、位置算出部500は、障害物検出部400によって抽出された領域(抽出領域)に外接矩形が存在するか否か、すなわち、障害物検出部400によって記憶装置に外接矩形の座標が格納されているか否かをチェックする(S501)。
【0033】
S501において、抽出領域に外径矩形が存在する場合にはS502に進み、外接矩形が存在しない場合には外接矩形が存在するまでチェックし続ける。抽出領域に外径矩形が存在する場合には、外接矩形における下辺の中点の座標(画素)を、障害物の位置算出時の基点とし(S502)、当該障害物のカメラ13からの距離を算出する(S520)。
【0034】
図8はS520において障害物とカメラ13の距離を算出する際のフローチャートである。
【0035】
ところで、カメラ(イメージセンサ)からの距離を算出する原理として、実際の地上3D座標とカメラ画像処理画面などのカメラ画面座標系の変換モデルとして最も一般的な手法はピンホールカメラモデルである。この手法では、地上3D座標に対して移動と回転変換を行ってカメラ3D座標を算出し、更に、その算出したカメラ3D座標に投影変換を行うことでカメラ画像2D座標を算出できる。すなわち、地上3D座標系とカメラ位置パラメータを組み合わせたものに、側写角パラメータ、俯角パラメータ及び回転角パラメータに関する回転行列を掛けるとカメラ3D座標系が得られる。そして当該カメラ3D座標系とスケールパラメータを組み合わせて射影変換を行うとカメラ画面2D座標系になる。ここで利用される、カメラパラメータとしては、(1)カメラ位置パラメータ(カメラレンズ中心すなわち視点の地上3D座標)、(2)俯角パラメータ、(3)側写角パラメータ、(4)回転角パラメータ、(5)スケールパラメータがある。このうち、(1)カメラ位置パラメータ、(2)俯角パラメータ及び(3)側写角パラメータはカメラの設置仕様データから計算できる。(4)回転角パラメータは、(2)俯角パラメータ及び(3)側写角パラメータに従属的なパラメータなので変換内部で算出できる。(5)スケールパラメータはズーム率に従属するパラメータである。したがって、各カメラパラメータは、実際にカメラを設置した後に既知の大きさの物体を使いキャリブレーションを行うことで算出でき、これを用いることでカメラ画像の距離が算出できる。
【0036】
S520では、上記の原理により地上3D座標系からカメラ画面2D座標系への変換を行って、障害物のカメラ13からの距離を算出している。位置算出部500は、まず、地上3D座標から移動と回転変換を行ってカメラ3D座標変換の変換行列を算出し(S521)、カメラ3D座標から投影変換を行ってカメラ画面2D座標変換の変換行列を算出する(S522)。次に、ステップ522で作成した変換行列を用いてカメラ画面2D座標の画像を作成し(S523)、カメラ内部パラメータを用いたキャリブレーションにより、2D画像の画素における距離を計算する(S524)。そして、S502で決定した害物領域の基点(外接矩形における下辺の中点)からカメラ13までの距離を算出し(S525)、S503に進む。
【0037】
図6に戻り、S503では、外接矩形がカメラ13の近くの領域に位置するか否か、すなわち、S520で算出した距離が所定の閾値以下であるかをチェックする。S520で算出した距離が閾値以下の場合、外接矩形がカメラ13の近くの領域に位置すると判定し、抽出領域は障害物の一部分であると推定して当該障害物の特徴を抽出する(S504)。具体的には、S506において、当該抽出領域にヘルメットの特徴である円形が存在するか否かをチェックする。S506において、円形が存在すると判定された場合には、当該抽出領域はヘルメットを着用している作業員(人)であると決定し(S510)、円形が存在しないと判定された場合には当該抽出領域は物であると決定する(S511)。
【0038】
一方、S503において、S520で算出した距離が閾値より大きい場合には、抽出領域には障害物の全体が撮影されていると推定して、当該障害物の特徴を抽出する(S505)。具体的には、S507において、抽出領域の縦横比は人が立った状態のものに近いか、または、抽出領域を頭部、胴体部及び下部に3分割してそれぞれの輪郭形状や色等を抽出し人の頭部、胴体部及び下部の特徴があるか否かを判定する。即ち、縦横比は縦長か否か、または、抽出領域の頭部に扇型の輪郭が現れているか、胴体部のうち肩部に斜め輪郭が胴体部に縦輪郭が現れているか、下部に逆V字の輪郭や縦輪郭が現れているか否かをチェックする。S507において、抽出領域にこれらの特徴が複数現れている場合には、当該抽出領域は人であると決定し(S508)、これら特徴が1個以下しか存在しない場合には物であると決定する(S509)。S508〜S511において抽出領域の種別(人/もの)の選別が終了したら、全ての抽出領域の距離算出及び種別決定は終了したか否かをチェックし(S512)、終了していない場合にはS501に戻り、S501以降の処理を繰り返す。上記の処理により、障害物検出部400で検出された障害物の油圧ショベルに対する相対位置を算出することができる。なお、上記において、ステップ503で判定した結果に応じて、その後の種別判別処理(S506,507)において上記と異なる手法を適用してもよい。
【0039】
図9は本発明の実施の形態に係る危険範囲算出部700で行われる処理のフローチャートである。周辺監視装置において周辺監視処理が開始されると、危険範囲算出部700は、まず、ブーム1aの回動角を検出する角度検出器8aの出力θ1を取込み、アーム1bの回動角を検出する角度検出器8bの出力θ2を取込み、バケット1cの回動角を検出する角度検出器8cの出力θ3を取込み、上部旋回体1dの回動角を検出する角度検出器8dの出力θ4を取込む(S701)。次に、S701における出力θ1、出力θ2、出力θ3、出力θ4から、バケット1cの先端座標と高さを算出し(S702)、フロント作業装置1Aの大きさ(長さ)と下部走行体1eからの上部旋回体1dの旋回方向を算出することで(S703)、油圧ショベルの姿勢を算出する。
【0040】
次に、危険範囲算出部700は、操作装置30から出力される操作信号を取込み(S704)、取り込んだ操作信号に基づいて油圧ショベルの動作(ブーム1a、アーム1b及びバケット1cの移動方向、上部旋回体1dの旋回方向、下部走行体1eの移動方向等)を算出する(S705)。
【0041】
次に、危険範囲算出部700は、ショベル仕様記憶部706に記憶された油圧ショベルのサイズ(上部旋回体1dのサイズ等)を取り込み(S707)、S703で算出された油圧ショベルの姿勢及びS705で算出された油圧ショベルの動作及びS707で取り込まれた油圧ショベルのサイズに基づいて、油圧ショベルの周囲における危険範囲を算出する(S708)。危険範囲の算出が終了したらS701に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0042】
上記の処理により油圧ショベルの周囲における危険範囲を算出することができる。また、上記S701〜S708の一連の処理は、油圧ショベルの稼動中に時々刻々変化するデータを取り込んで行われるものである。そのため、油圧ショベルの姿勢及び動作に連動して危険範囲が算出されるので、監視区域を最適にすることができる。また、後述するように危険度設定部2000では、障害物が危険範囲内に有るか危険範囲外に有るかに応じて接触危険度を変更しているので、真に必要なときにだけ警告を表示することができる。例えば、危険範囲内に障害物がある場合に限って警告表示をするようにすれば、油圧ショベルの動作が制限される場面が抑制されるので作業効率を向上できる。なお、上記では、油圧ショベルの状態と危険範囲の連動性を向上させる観点から、油圧ショベルの姿勢及び動作の両方に基づいて危険範囲を算出したが、油圧ショベルの姿勢及び動作のいずれか一方に基づいて危険範囲を算出しても良い。また、上記に加え、各角度検出器8による検出角度θの時間変化、すなわち移動速度を鑑みて危険範囲を算出しても良い。
【0043】
図10図12は危険範囲算出部700で算出される危険範囲の例を示す。ここでは、便宜上、後方カメラ13a、右側方カメラ13b、左側方カメラ13cが撮影した画像を変換して得た俯瞰画像(後述)を油圧ショベルの真上から見たときの画像911を利用して説明する。
【0044】
図10は上部旋回体1dが右旋回した場合における危険範囲の算出例の説明図である。いま、上部旋回体1d(油圧ショベル)が右旋回912すると、これに連動してフロント作業装置1Aも右方向へ移動する。危険範囲算出部700は、この動作状態に基づいて油圧ショベル周囲の危険範囲を算出する。具体的には、油圧ショベルの動作に連動して、旋回方向である右方向の範囲が広く、旋回方向と異なる後方や左方向の範囲が狭い危険範囲913が算出される。このように危険範囲は油圧ショベルの動作と連動して算出されるため、周辺監視装置による監視区域が最適となる。
【0045】
図11は上部旋回体1dが左旋回した場合における危険範囲の算出例の説明図である。上部旋回体1dが左旋回915すると、これに連動してフロント作業装置1Aも左方向へ移動する。危険範囲算出部700は、この動作状態に基づいて油圧ショベル周囲の危険範囲を算出する。具体的には、油圧ショベルの動作に連動して、旋回方向である左方向の範囲が広く、旋回方向と異なる後方や右方向の範囲が狭い危険範囲916が算出される。
【0046】
図12は下部走行体1eが後進した場合における危険範囲の算出例の説明図である。下部走行体1eが後進917すると、これに連動して上部旋回体1dも後進する。危険範囲算出部700は、ステップ707で取り込んだ油圧ショベルのサイズ(横幅)等を利用して、この動作状態に基づいた危険範囲を算出する。具体的には、移動方向である油圧ショベルの後ろ側において油圧ショベルの横幅と同じ幅を有する危険範囲918が算出される。
【0047】
図13は本発明の実施の形態に係る判定部800で行われる処理のフローチャートである。周辺監視装置において、周辺監視処理が開始されると、判定部800は、危険範囲算出部700が算出した危険範囲内に障害物検出部400で検出された障害物が存在するか否かを、位置算出部500で算出した当該障害物の位置に基づいて判定する(S801,802)。S802において、危険範囲内に存在すると判定された場合はその結果を記憶装置に記憶し(S803)、危険範囲外に存在すると判定された場合には同様にその結果を記憶装置に記憶する(S804)。このように記憶された判定結果は、他の処理(例えば、危険度設定部2000)で利用される。記憶装置への書き込みが完了したら、すべての障害物について時間毎にS801の判定を繰り返し行う。この処理により各障害物が危険範囲内に存在するか否かを判別することができる。
【0048】
図14は本発明の実施の形態に係る危険度設定部2000で行われる処理のフローチャートである。周辺監視装置において、周辺監視処理が開始されると、危険度設定部2000は、まず、判定部800の判定結果に基づいて危険範囲内に障害物が存在するか否かをチェックする(S2051)。S2051において、危険範囲内に障害物が存在しないと判定された場合には接触危険度を設定することなく(危険度を0とする)(S2071)、処理を終了する。一方、S2051において、危険範囲内に障害物が存在すると判定された場合には、S2052以下の処理において、カメラ13の画像から得られる各障害物の種別、位置及び高さに基づいて、危険範囲内に存在する各障害物に対して接触危険度を設定していく。
【0049】
S2052では、危険度設定部2000は、危険範囲内に存在する障害物のうち接触危険度が設定されていないものについて、当該障害物は人か否かをチェックする。S2052で障害物が人ではないと判定した場合には(すなわち、障害物は物)、当該障害物の高さを所定の高さ(例えば、200cm)に設定し(S2073)、S2063に進む。
【0050】
一方、S2052で障害物が人であると判定した場合には、障害物検出部400によって格納された抽出領域の外接矩形の左上座標と右下座標に基づいて、当該外接矩形の形状が縦長か否かまたは隣り合う2辺が同等の長さか否か判定する(S2053)。S2053で縦長または同等の長さであると判定された場合には、抽出領域には立っている人が含まれると推定し、その高さを設定値(例えば180cm)に設定し(S2054)、S2056に進む。一方、S2053で縦長または同等の長さでないと判定された場合には、抽出領域にはかがんでいる人が含まれると推定し、その高さを設定値(例えば80cm)に設定し(S2055)、S2056に進む。
【0051】
S2056では、操作装置の操作信号又は角度検出器8dの検出角度θ4の時間変化等に基づいて、油圧ショベルの動作は旋回(右旋回及び左旋回)又は後進か否かを判定する。S2056で旋回も後進もしない場合には、接触危険度を2に設定し(S2057)、S2070に進む。一方、S2056において、油圧ショベルが旋回又は後進すると判定された場合には、S2058に進む。
【0052】
S2058では、危険範囲内の他の障害物と比較して、当該障害物が油圧ショベルの動作方向に最も近い位置に存在する人であるか否かを判定する。具体的には、S2058において油圧ショベルが旋回すると判定された場合には、まず、油圧ショベルの旋回中心を中心とする円の半径を0からバケット先端にまで至るまで徐々に大きくすることで複数の同心円を描く。そして、接触危険度を設定する対象となっている障害物が、当該複数の同心円上の旋回方向においてフロント作業装置1Aから最も近い位置に存在する人であるか否かを判定する。また、S2058において油圧ショベルが後進すると判定された場合には、接触危険度を設定する対象となっている障害物が、油圧ショベルの後ろ側において最も近い位置に存在する人であるか否かを判定する。このS2058において、障害物が油圧ショベルの動作方向に最も近い人であると判定された場合には、接触危険度を5に設定し(S2059)、S2070に進む。すなわち、S2059では、危険範囲内に存在する種別が人である障害物の中で、フロント作業装置1Aの旋回方向又は油圧ショベルの後進方向において当該フロント作業装置1A又は油圧ショベルに最も近い位置に存在する人(障害物)に最も高い接触危険度を設定している。一方、S2058において、油圧ショベルの動作方向に最も近い人ではないと判定された場合には、S2060に進む。
【0053】
S2060では、バケット1cの先端の高さはS2054,2055で設定した障害物の高さ以下か否かチェックする。バケット1cの高さがS2054,2055の高さ以下の場合には、接触危険度を4に設定し(S2062)、S2070に進む。一方、S2060において、バケット1cの高さがS2054,2055の高さよりも高い場合には、接触危険度を3に設定し(S2061)、S2070に進む。
【0054】
S2063では、操作装置の操作信号又は角度検出器8dの検出角度θ4の時間変化等に基づいて、油圧ショベルの動作が旋回(右旋回及び左旋回)又は後進か否かを判定する。S2063で旋回も後進もしない場合には、接触危険度を1に設定し(S2064)、S2070に進む。一方、S2063において、油圧ショベルが旋回又は後進すると判定された場合には、S2065に進む。
【0055】
S2065では、危険範囲内の他の障害物と比較して、当該障害物が油圧ショベルの動作方向に最も近い位置に存在する物であるか否かを判定する。その判定の具体的方法は、S2058で説明したものと同様である。S2065において、障害物が油圧ショベルの動作方向に最も近い物であると判定された場合には、接触危険度を4に設定し(S2066)、S2070に進む。すなわち、S2066では、危険範囲内に存在する種別が物である障害物の中で、フロント作業装置1Aの旋回方向又は油圧ショベルの後進方向において当該フロント作業装置1A又は油圧ショベルに最も近い位置に存在する物(障害物)に最も高い接触危険度を設定している。一方、S2065において、油圧ショベルの動作方向に最も近い物ではないと判定された場合には、S2067に進む。
【0056】
S2067では、バケット1cの先端の高さはS2073で設定した障害物の高さ以下か否かチェックする。バケット1cの高さがS2073の高さ以下の場合には、接触危険度を3に設定し(S2069)、S2070に進む。一方、S2067において、バケット1cの高さがS2073の高さよりも高い場合には、接触危険度を2に設定し(S2068)、S2070に進む。
【0057】
S2070では、危険度設定部2000は、危険範囲内の全障害物に対して接触危険度を設定したか否かをチェックする。ここで、危険範囲内にまだ接触危険度を設定していない障害物が存在する場合にはS2052に戻り、S2052以降の処理を繰り返す。S2070において全部の障害物に対して接触危険度が設定されていると判定された場合には処理を一旦終了する。なお、危険範囲の更新や障害物が新しく検出された場合等には、適宜上記一連の危険度設定処理を再度実行する。この処理により危険範囲内に存在する全障害物について接触危険度を設定することができる。このとき、油圧ショベルの旋回や後進時に危険範囲内に人が存在する場合には、最も高い接触危険度(5)を当該人に設定することができる。
【0058】
なお、上記の例では、障害物の種別(人か/物か)と、位置(危険範囲内か/油圧ショベルに近いか)と、高さ(バケット1c先端より低いか)に基づいて接触危険度を設定したが、これらのうち少なくとも1つに基づいて接触危険度を各障害物に設定しても良い。
【0059】
図15は危険度設定部2000において行われる危険度設定処理に関する第1の説明図である。この図は、油圧ショベルが右旋回し、危険範囲913内に物16,17と、人15a,15bが存在し、危険範囲913外に物18と人15cが存在する場合を示し、バケット1cの先端の高さは150cmとする。
【0060】
この図に示す場合は、危険範囲913外に存在する物18と人15cに対しては、S2051,2071の処理に従って接触危険度は設定されない。そして、バケット1cの先端の高さは150cmであるので、危険範囲913内に存在する物16については、上部旋回体1dの旋回中心2151からの距離が同じ同心円2094の領域のうちフロント作業装置1Aの移動方向に最も近いので、S2065,2066の処理に従って接触危険度として4が設定される。また、物17については、S2067,2069の処理に従って接触危険度として3が設定される。さらに、人15bについては、上部旋回体1dの旋回中心2151からの距離が同じ同心円2094の領域のうちフロント作業装置1Aの移動方向に最も近いので、S2058,2059の処理に従って接触危険度として5が設定され、人15cについては、S2060,2061の処理に従って接触危険度として3が設定される。すなわち、この図のなかで最も接触危険度が高いのは人15bとなる。
【0061】
図16は危険度設定部2000において行われる危険度設定処理に関する第2の説明図である。この図は、油圧ショベルが右旋回し、危険範囲913内に物16,17が存在し、危険範囲913外に物18と人15cが存在する場合を示し、バケット1cの先端の高さは150cmとする。
【0062】
この図に示す場合は、図15の場合と同様に、危険範囲913外に存在する物18と人15cに対しては、S2051,2071の処理に従って接触危険度は設定されない。そして、バケット1cの先端の高さは150cmであるので、危険範囲913内に存在する物16については、上部旋回体1dの旋回中心2151からの距離が同じ同心円2098の領域のうちフロント作業装置1Aの移動方向に最も近いので、S2065,2066の処理に従って接触危険度として4が設定される。また、物17については、S2067,2069の処理に従って接触危険度として3が設定される。すなわち、この図のなかで最も接触危険度が高いのは物16となる。
【0063】
図17は危険度設定部2000において行われる危険度設定処理に関する第3の説明図である。この図は、油圧ショベルが右旋回し、危険範囲913外に物18と人15cが存在する場合を示す。この図に示す場合は、すべての障害物18,15cが危険範囲913の外に存在しているので、各障害物に接触危険度として0が設定される。すなわち、この場合には、接触危険度が設定される障害物は存在しない。
【0064】
次に本発明の実施の形態に係る画像作成部600で行われる処理について説明する。図18は画像作成部600における俯瞰画像作成部610で行われる処理のフローチャートである。俯瞰画像作成部610は、まず、地上3D座標をカメラ3D座標に変換する変換行列を算出する(S521)。そして、カメラ3D座標をカメラ画面2D座標に変換する変換行列を算出する(S522)。さらに、これら変換行列を用いてカメラ13の画像からカメラ画面2D座標の画像(俯瞰画像)を作成する(S523)。そして、S521,522,523の処理を行って作成した俯瞰画像を、油圧ショベルを模した図形(模擬作業機械図)の周囲に配置し、S521に戻ってS521以降の処理を繰り返す。本実施の形態では、後方カメラ13aの俯瞰画像を模擬作業機械図の後方に配置し、右側方カメラ13bの俯瞰画像を模擬作業機械図の右側方に配置し、左側方カメラ13cの俯瞰画像を模擬作業機械図の左側方に配置することで、油圧ショベル周囲の俯瞰画像を作成している。
【0065】
図19は画像作成部600における俯瞰視点決定部2100(俯瞰位置決定部2130及び俯瞰高さ決定部2140)で行われる処理のフローチャートである。俯瞰位置決定部2130は、危険度設定部2000で危険範囲内の各障害物に危険度が設定されたら、各障害物の接触危険度の値をチェックする(S2131)。S2131において、各障害物の接触危険度が1〜5以外の場合(すなわち0の場合)には、俯瞰視点の水平面位置を油圧ショベルの中心部に決定し(S2132)、S2142に進む。一方、S2131において各障害物の接触危険度に1〜5が含まれる場合には、その中で最も接触危険度の高い障害物の水平面位置を俯瞰視点の水平面位置として決定し(S2133)、S2143に進む。
【0066】
S2142では、俯瞰高さ決定部2140が、俯瞰視点の高さは、油圧ショベルの中心部(旋回中心)の上方から油圧ショベルを見下ろしたときに危険範囲を表示できるように設定した値(設定値)に設定し、当該俯瞰視点の水平位置及び高さ位置を記憶装置に格納して処理を終了する。
【0067】
一方、S2143では、油圧ショベルの中心部とS2133で利用した最も接触危険度の高い障害物の基点(S502参照)との距離(絶対値)を算出し、その算出値に比例して俯瞰視点の高さ(例えば、障害物高さの2〜3倍)を算出する(S2144)。S2144においてS2143で算出した値に乗じる比例定数は、最も接触危険度の高い障害物の上方から油圧ショベルの中心部を見下ろしたときに危険範囲を表示できるように設定すれば良い。このように俯瞰視点の高さを算出したら、S2133で決定した俯瞰視点の水平位置とS2144で決定した高さ位置を記憶装置に格納して処理を終了する。
【0068】
上記の処理により、接触危険度が設定されている場合には、危険度設定部2000で設定した各障害物の接触危険度のうち、最も接触危険度の高い障害物の上方に油圧ショベル及び危険範囲を見込む俯瞰視点が設定され、また、接触危険度が設定されていない場合には、油圧ショベルの上方から油圧ショベル及び危険範囲を見込む俯瞰視点が設定される。
【0069】
図20は俯瞰視点決定部2100における俯瞰視点を決定する例の概念図である。この図は、人15dに最も高い接触危険度が設定された場合を示し、まず、S2133において、人15dの水平位置2152が俯瞰視点の水平位置として決定される。そして、S2143において、油圧ショベルの中心部2151と水平位置2152の差(絶対値)を算出し、その算出値に当該算出値の大きさに応じた比例定数を乗じ、俯瞰視点の高さ2153を決定する。これにより、監視画像作成部620が監視画像を作成する際の俯瞰視点(仮想カメラ)の位置を決定することができる。
【0070】
図21は画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第1の例を示す図である。この図に示す場面で油圧ショベルを右旋回612させると、これに連動してフロント作業装置1Aも右側方向へ移動する。これにより、危険度設定部2000において、危険範囲内913においてフロント作業装置1Aの右側に存在する人15cの接触危険度が最も高い値である5に設定される。そして、俯瞰視点決定部2100は人15cの上部に俯瞰視点を決定し、監視画像作成部620は当該俯瞰視点から仮想カメラで油圧ショベル及び危険範囲を見たときの画像を監視画像621として作成する。このように作成された監視画像621には、油圧ショベルと接触危険度が最も高い障害物が表示されることになるので、特別な判断作業を行わなくてもオペレータはどの障害物が接触の可能性が最も高いか及び当該障害物は油圧ショベルに対してどの位置に存在するかを瞬時に把握することができる。特に、このように監視画像を作成すると、油圧ショベルの動作方向(旋回方向である右側方向)を大きく表示することができ、また、当該動作方向に存在する最も危険な障害物(人15c)を大きく表示できる。したがって、本実施の形態によれば、最も危険な障害物の油圧ショベルに対する位置がオペレータに瞬時に把握されるので、油圧ショベルによる作業効率を向上させることができる。
【0071】
図22は画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第2の例を示す図である。この図に示す場面で下部走行体1eを後進617させると、これに連動してフロント作業装置1A及び上部旋回体1dも後進する。これにより、危険度設定部2000において、危険範囲内917において下部走行体1eの後方に存在する人15aの接触危険度が最も高い値である5に設定される。そして、俯瞰視点決定部2100は人15aの上部に俯瞰視点を決定し、監視画像作成部620は当該俯瞰視点から油圧ショベル及び危険範囲を見たときの画像を監視画像621として作成する。したがって、この場合も、最も危険な障害物の油圧ショベルに対する位置がオペレータに瞬時に把握されるので、油圧ショベルによる作業効率を向上させることができる。
【0072】
図23は画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第3の例を示す図である。この図に示すように、監視画像作成部620は、どの障害物が最も危険であるかということについてのオペレータの視認性を向上させるために、危険度設定部2000で最も高い接触危険度を設定された障害物(人15c)の上に警告表示631を重畳的に描画している。なお、この図の例では、警告表示として略星型の図形を人15cの上に表示している。
【0073】
さらに、この図の例では、バケット1cの先端がどの程度の高さで障害物と接触するかという点を監視画像から容易に把握可能にするために、右旋回を続行するとバケット1cの先端が接触すると推定される部分に警告表示631を重畳的に表示している。すなわち、図23の例では、人15cの頭部に警告表示631が表示されている。このように接触部分に警告表示631を表示する際には、危険度設定部2000で行われる処理のうちS2054,2055,2073で設定した障害物高さと、角度検出器8a〜8dの出力θ1〜θ4を利用して算出したバケット1cの先端高さとを比較すれば良い。そして、例えば、(1)障害物高さの上半分にバケット1cが接触する可能性があると推定される場合には当該障害物の上部(人のときは頭部)に警告表示631を表示し、(2)障害物高さの下半分に接触する可能性があると推定される場合には当該障害物の下部(人のときは胴体部)に警告表示631を表示すれば良い。図24は、画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第4の例を示す図であり、人15cの胴体部に警告表示632を表示した場合の監視画像621を示している。
【0074】
図25は画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第5の例を示す図である。この図に示すように、監視画像作成部620は、危険度設定部2000で最も高い接触危険度を設定された障害物の種別が人である場合には、当該最も高い接触危険度を設定された障害物(人15c)の上に人を表す画像645を監視画像621に重畳的に描画している。この図25の例では、人を表す表示645として、カメラ13の画像を俯瞰変換しないまま人15cを抽出した画像(写真)を人15cの上に表示している。
【0075】
俯瞰画像のみを利用して監視画像を作成すると、カメラ13から遠い位置に存在する部分ほど拡大表示されるので、物体がゆがんで表示されることが多い(例えば、人については頭部に行くほど拡大表示される)。そのため、カメラ13から遠くに存在する障害物については、俯瞰画像に変換する際に生じるゆがみに起因する違和感によって視認性に欠けることがある。そこで上記のように人を表す画像645を監視画像に重畳的に描画すると、監視画像上において、人がどこに存在するかを瞬時に把握することができる。
【0076】
なお、その際、外接矩形内の領域644に存在する人15cの視認性をさらに向上させる観点から、カメラ13が撮影した画像内には存在しないオペレータに視認容易な目立つ色で描画することが好ましい。さらに、先の例で示したように、警告表示として、「危険」という文字641及び最も接触危険度の高い障害物を示す矢印643等を重畳的に表示したり、略星型の図形642を文字641の近くに重畳的に表示したりして、さらに視認性を高めても良い。
【0077】
図26は画像作成部600における監視画像作成部620が作成する監視画像の第6の例を示す図である。図25では人を表す画像としてカメラ13の画像645を利用したが、この図の例では、当該人を表す画像として、人の上半身を3次元的に表現したイラスト655を利用している点で異なる。このように他の表現方法を利用しても、監視画像上において、人がどこに存在するかを瞬時に把握することができる。なお、図25の例と同様に、警告表示として文字651、略星型の図形652及び矢印653等を重畳的に表示することでさらに視認性を高めても良い。
【0078】
図27は本発明の実施の形態における表示装置1300の表示画面の例を示す図である。この図に示す表示画面には、画像作成部600で作成された監視画像が表示される主表示部1005と、主表示部1005に表示される監視画像を所定の時間にわたって録画するための録画開始ボタン1001と、監視画像を拡大表示するための拡大表示ボタン1003と、拡大表示ボタン1003による拡大を戻す標準表示ボタン1004を備えている。なお、この図に示す監視画像には、人を表す画像として、人の全身を3次元的に表現したイラスト665が表示されている。また、先の図25,26の例と同様に、警告表示として、「危険」という文字661、略星型の図形662及び最も接触危険度の高い障害物を示す矢印663等をさらに重畳的に表示している。
【0079】
このように録画開始ボタン1001を設けると、接触可能性のある障害物(人15c)が存在する場合等、必要に応じて主表示部1005に表示される監視画像を録画することができる。これにより、万が一事故が発生したときにその原因究明等にその録画データを用いることができる。なお、録画開始ボタン1001を用いることなく、主表示部1005に警告表示が表示された時に監視画像を自動的に録画するように設定しても良い。また、監視画像の拡大表示についても、拡大表示ボタン1003を操作して手動で拡大表示しても良いし、警告表示が表示される場合に自動的に拡大表示しても良い。
【符号の説明】
【0080】
1A フロント作業装置
1B 車体
1a ブーム
1b アーム
1c バケット
1d 上部旋回体
1e 下部走行体
1f 運転室
3a〜3c 油圧アクチュエータ
3e 走行モータ
8a,8b,8c,8d 角度検出器
13a,13b,13c カメラ(イメージセンサ)
14a,14b,14c ミリ波レーダ
15a,15b,15c,15d,15e 障害物(人)
16,17 障害物(物)
30 操作装置
400 障害物検出部
500 位置算出部
600 画像作成部
610 俯瞰画像作成部
620 監視画像作成部
700 危険範囲算出部
800 判定部
1300 表示装置
2000 危険度設定部
2100 俯瞰視点決定部
2130 俯瞰位置決定部
2140 俯瞰高さ決定部
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