【実施例】
【0045】
以下に、本発明を具体例に基づいてさらに説明するが、かかる具体例は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。
1.同種血清成分の検討
従来の方法では、ヒト用細胞シート作製にあたり、培養液中に公知のウシ胎仔由来血清などを加えていたが、こうした異種血清成分にはヒト感染性のウイルスなどが含まれる恐れがあるため、安全性に対する危険性が低いヒト血清成分の可能性を検討した。
【0046】
ヒト血清(Cambrex製または研究採血由来)5%、10%、20%、40%をそれぞれ含有するMCDB131培地とDMEM培地を用意し、各々2mLあたりヒト筋芽細胞を3.0×10
6〜3.1×10
6個ずつ懸濁し、φ3.5cm温度応答性培養皿(株式会社セルシード製)にそれぞれ播種した。
播種後、37℃、5%CO
2の条件で培養を行い40時間後に状態観察を実施した結果、全ての培養細胞において、三次元組織構造体としての細胞シート形成が可能であった。また、シート作製後の細胞回収率は83〜98%と、播種細胞数と比べてほぼ同一であり、細胞の増殖は実質的に認められなかった。
【0047】
図2に、ヒト血清を含有する細胞培養液で作製した細胞の外観図を示す。同図より、細胞が敷石状に並んでおり、細胞シートを形成していることが分かる。
【0048】
次に、ヒト血清を含有する細胞培養液で作製した細胞シートと、公知のウシ胎仔由来血清(Invitrogen製)を含有する細胞培養液で作製した細胞シートとの比較を行い、細胞機能への影響確認を検証した。
比較検証には、細胞生存率と純度を指標とした。
【0049】
細胞生存率の測定は以下の手順に従った。
形成した細胞シートをトリプシン様蛋白分解酵素(TrypLE Select、Invitrogen製)で解離させた後、同量のTrypan Blue Stain0.4%液(Invitrogen製)を加え混和した。
混和後、細胞浮遊液を細胞が沈まないうちに10μLずつ採取し、血球計算盤(エルマ製)に注入した。注入後、直ちに倒立型光学顕微鏡(オリンパス製)にて、血球計算盤の2つのチャンバーの9mm
2枠全体に観察される細胞数の計測を行った。
計測後、2つのチャンバーの生死細胞数の平均を求め、染色された細胞を含む全細胞数に対する無染色細胞の割合を算出した。
【0050】
細胞純度の測定は以下の手順に従った。
形成した細胞シートをトリプシン様蛋白分解酵素で解離させた後、遠心処理を行い上清を廃棄した。
これに0.5%BSA含PBS液を加え細胞をリンスした後、0.5%BSA含PBS液で10倍希釈した抗ヒトCD56抗体(ベクトン・ディッキンソン製)を添加し混和した。対照として0.5%BSA含PBS液で10倍希釈した陰性コントロール用抗体(ベクトン・ディッキンソン製)を添加混和したものを用意した。
各抗体を混和した後、直ちに冷暗所で約1時間反応させ0.5%BSA含PBS液を加え細胞をリンスした後、0.5%BSA含PBS液を加え解析に供した。
解析はフローサイトメーター(ベクトン・ディッキンソン製)を用い、各抗体を混和した細胞に含まれる抗体陽性細胞の割合を計測した。計測にあたっては、陰性コントロールの陽性率の補正を行い、細胞数5,000〜10,000個を解析した。
解析後、各抗体を混和した細胞の陽性細胞率の割合の差から純度を求めた。
【0051】
比較検討の結果、5%〜40%のヒト血清を用いて培養した全ての細胞と、対照とした公知のウシ胎仔由来血清を用いて培養した細胞との間に、細胞生存率と純度の差は認められなかった。表2に一覧表を示す。
【表3】
【0052】
2.成長因子、ステロイド剤の要否に関する検討
細胞の増殖に対する成長因子の効果を確認するため、ヒト筋芽細胞3.5×10
4個(200個/cm
2)を、0〜0.01μg/mL濃度の上皮成長因子(Invitrogen製)を添加した20%ウシ胎仔由来血清、4μg/mLリン酸デキサメタゾンナトリウム注射液(第一三共製薬製)を含有するMCDB131培地に播種し、培養10日後の細胞数を計測しその増殖能をみた。
【0053】
その結果、上皮成長因子を含まない培地では明らかに細胞増殖が低かったことから、上皮成長因子が細胞増殖を目的とした培養液には必要な成分であることが判った。表3に結果を示す。
【表4】
【0054】
これに対し、20%ヒト血清を含有するMCDB131培地と、対照として20%ウシ胎仔由来血清、0.01μg/mL上皮成長因子、4μg/mLリン酸デキサメタゾンナトリウム注射液を含有するMCDB131培地を用意し、各々2mLあたりヒト筋芽細胞3.0×10
6〜3.1×10
6個ずつ懸濁し、φ3.5cm温度応答性培養皿にそれぞれ播種した。
播種後、37℃、5%CO
2の条件で培養を行い40時間後に状態観察を実施した結果、いずれの細胞培養液においても、三次元組織構造体としての細胞シート形成が可能であった。
この結果から、φ3.5cm温度応答性培養皿に対し播種細胞数を3.0×10
6個、すなわち約3.0×10
5個/cm
2以上にコントロールすることで、細胞増殖の考慮は不要となることが明らかとなった。
なお、使用する培養皿の有効面積に対する播種細胞数は1つの目安であり、ここに例示した培養皿有効面積と細胞数に限定されない。
【0055】
図3Aに20%ヒト血清を含有するMCDB131培地からなる細胞培養液で作製した細胞の外観図を、
図3Bに20%ウシ胎仔由来血清、0.01μg/mL上皮成長因子、4μg/mLリン酸デキサメタゾンナトリウム注射液を含有するMCDB131培地からなる細胞培養液で作製した細胞の外観図を示す。
外観上、細胞の形態に差が認められなかったことから、成長因子、ステロイド剤の排除に対する細胞への影響を検証した。検証には、細胞生存率と純度を指標とした。
【0056】
細胞生存率の測定は以下の手順に従った。
形成した細胞シートをトリプシン様蛋白分解酵素で解離させた後、同量のTrypan Blue Stain0.4%液を加え混和した。
混和後、細胞浮遊液を細胞が沈まないうちに10μLずつ採取し、血球計算盤に注入した。注入後、直ちに倒立型光学顕微鏡にて、血球計算盤の2つのチャンバーの9mm
2枠全体に観察される細胞数の計測を行った。
計測後、2つのチャンバーの生死細胞数の平均を求め、染色された細胞を含む全細胞数に対する無染色細胞の割合を算出した。
【0057】
細胞純度の測定は以下の手順に従った。
形成した細胞シートをトリプシン様蛋白分解酵素で解離させた後、遠心処理を行い上清を廃棄した。
これに0.5%BSA含PBS液を加え細胞をリンスした後、0.5%BSA含PBS液で10倍希釈した抗ヒトCD56抗体を添加し混和した。対照として0.5%BSA含PBS液で10倍希釈した陰性コントロール用抗体を添加混和したものを用意した。
各抗体を混和した後、直ちに冷暗所で約1時間反応させ0.5%BSA含PBS液を加え細胞をリンスした後、0.5%BSA含PBS液を加え解析に供した。
解析はフローサイトメーターを用い、各抗体を混和した細胞に含まれる抗体陽性細胞の割合を計測した。計測にあたっては、陰性コントロールの陽性率の補正を行い、細胞数5,000〜10,000個を解析した。
解析後、各抗体を混和した細胞の陽性細胞率の割合の差から純度を求めた。
【0058】
比較検討の結果、成長因子、ステロイド剤を含有する細胞培養液で作製した細胞シートの純度は63%であった。これに対し、成長因子、ステロイド剤を含有しない細胞培養液で作製した細胞シートの純度は75%と優位に高い値を得た。表4に一覧表を示す。
【表5】
【0059】
これは、細胞培養液を非増殖系とすることで、同じ接着系細胞でありながら骨格筋芽細胞より増殖能が高い目的外細胞である線維芽細胞の増殖を抑える効果も示唆される結果となった。
【0060】
さらに、細胞シート作製の過程で培養中の細胞性状を観察したところ、上皮成長因子、リン酸デキサメタゾンナトリウムを含有する細胞培養液において、培養25時間後に骨格筋芽細胞の分化を示す多核化が認められた。そのため、MHCを標識とした細胞分化状態の確認を行ったところ、培養16時間後には分化を示す発現が認められた。
これに対し、上皮成長因子、リン酸デキサメタゾンナトリウムを含有しない細胞培養液で作製した細胞シートでは、培養25時間後においても細胞の多核化は認められなかった。
【0061】
図4Aに上皮成長因子、リン酸デキサメタゾンナトリウムを含有する細胞培養液にて作製した培養25時間後の細胞シート外観性状図を、
図4Bに前記細胞シートの培養16時間後のMHC発現像に関する図を、
図4Cに上皮成長因子、リン酸デキサメタゾンナトリウムを含有しない細胞培養液にて作製した培養25時間後の細胞シート外観性状図を示す。
【0062】
3.セレンの要否に関する検討
20%ヒト血清を含有するDMEM培地(セレン成分を含まない培地)と、対照として20%ウシ胎仔由来血清、0.01μg/mL上皮成長因子、4μg/mLリン酸デキサメタゾンナトリウム注射液を含有するMCDB131培地を用意し、各々2mLあたりヒト筋芽細胞3.0×10
6個ずつ懸濁し、φ3.5cm温度応答性培養皿にそれぞれ播種した。
播種後、37℃、5%CO
2の条件で培養を行い40時間後に状態観察を実施した結果、いずれの細胞培養液においても、三次元組織構造体としての細胞シート形成が可能であった。
【0063】
図5Aに20%ヒト血清を含有するDMEM培地からなる細胞培養液で作製した細胞の外観図を、
図5Bに20%ウシ胎仔由来血清、0.01μg/mL上皮成長因子、4μg/mLリン酸デキサメタゾンナトリウム注射液を含有するMCDB131培地からなる細胞培養液で作製した細胞の外観図を示す。
【0064】
外観上、細胞の形成状態に差が認められなかったことから、成長因子、ステロイド剤に加え、亜セレン酸の排除に対する細胞への影響を検証した。検証には、細胞生存率と純度を指標とした。
【0065】
細胞生存率の測定は以下の手順に従った。
形成した細胞シートをトリプシン様蛋白分解酵素で解離させた後、同量のTrypan Blue Stain0.4%液を加え混和した。
混和後、細胞浮遊液を細胞が沈まないうちに10μLずつ採取し、血球計算盤に注入した。注入後、直ちに倒立型光学顕微鏡にて、血球計算盤の2つのチャンバーの9mm
2枠全体に観察される細胞数の計測を行った。
【0066】
計測後、2つのチャンバーの生死細胞数の平均を求め、染色された細胞を含む全細胞数に対する無染色細胞の割合を算出した。
【0067】
細胞純度の測定は以下の手順に従った。
形成した細胞シートをトリプシン様蛋白分解酵素で解離させた後、遠心処理を行い上清を廃棄した。
【0068】
これに0.5%BSA含PBS液を加え細胞をリンスした後、0.5%BSA含PBS液で10倍希釈した抗ヒトCD56抗体を添加し混和した。対照として0.5%BSA含PBS液で10倍希釈した陰性コントロール用抗体を添加混和したものを用意した。
【0069】
各抗体を混和した後、直ちに冷暗所で約1時間反応させ0.5%BSA含PBS液を加え細胞をリンスした後、0.5%BSA含PBS液を加え解析に供した。
【0070】
解析はフローサイトメーターを用い、各抗体を混和した細胞に含まれる抗体陽性細胞の割合を計測した。計測にあたっては、陰性コントロールの陽性率の補正を行い、細胞数5,000〜10,000個を解析した。
解析後、各抗体を混和した細胞の陽性細胞率の割合の差から純度を求めた。
【0071】
比較検討の結果、亜セレン酸の排除に対する細胞への影響は認められなかった。表5に結果を示す。
【表6】