【実施例1】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図3は本発明にかかる強誘電体の脱分極方法を実施する脱分極装置の一例(実施例1)を示す。本発明の特徴とする構成は、脱分極装置に強誘電体の圧電性を検出する手段が備えられた点にある。
【0023】
本実施例の強誘電体1は、厚さ0.4mm、直径10mmのPZT系セラミックス単板であり、強誘電体1の表裏主面には厚さ1μmの銀電極2,3が形成されている。さらに、強誘電体1は、
図1に矢印Pで示すように、厚み方向において分極されている。また、電極3の電極表面上に振動センサ4を圧接させている。電源5のプラス側を電極2に、電源5のマイナス側を電極3に接続する。振動センサ4は増幅器6に接続され、増幅器6から出力される電圧信号は、コントローラ7に入力される。さらにコントローラ7は電源5に接続されている。
【0024】
次に、電源5の電圧を上昇(例えば1.0kV/sec)させて、強誘電体1の分極反転を行う。前記電圧の印加中、振動センサ4(例えばAEセンサ)は、強誘電体1の圧電性により生じる、強誘電体1の前記機械的振動を、電圧信号に変換し、該電圧信号は増幅器6で一定の増幅率(例えば80dB)で増幅された後、コントローラ7に入力される。コントローラ7は、前記電圧信号の振幅に基づき、強誘電体1の圧電性のレベルを検出する。さらに、該圧電性のレベルの最低値に基づき、強誘電体1の圧電性の目標消失レベル値を設定する。次に、分極反転中の強誘電体1の圧電性が、前記目標消失レベル値以下に達した時に、コントローラ7は、電源5の電圧印加を停止させる。
【0025】
比較例として、コントローラ7をOFFとしたときの、印加電圧(例えば±800Vの三角波)と前記電圧信号を
図4に示す。なお、該印加電圧と該電圧信号はオシロスコープで測定されているが、
図2中には描かれていない。前記電圧信号は、前記印加電圧が±480Vになるときに、バックグランドノイズ(BGN)レベルの最小値(例えば0.30V)となり、該最小値に対応する前記強誘電体の分域構造が、圧電性の消失、あるいは微弱状態となる。前記最小値以外の状態では、0Vを含む電圧印加中、前記機械振動が検出されており、該強誘電体が圧電性を有していることがわかる。
【0026】
次に、前記圧電性のレベルの最低値に基づき、前記電圧信号における圧電性の目標消失レベル値(例えば0.35V)を設定し、コントローラ7をONとしたときの、分極反転中の前記印加電圧と前記電圧信号を
図5に示す。前記電圧信号が前記目標消失レベル値以下に達したときに、コントローラ7は前記分極反転のための電圧印加を停止する。前記電圧信号は、前記電圧の低下中途と、0Vに戻した状態とにおいても、前記目標消失レベル値以下の状態を維持し、強誘電体1の脱分極状態が継続していることが確認される。なお、前記目標消失レベル値が、前記圧電性のレベルの最小値に近いほど、より圧電性のレベルの低い、脱分極状態が得られる。
【0027】
本発明よる脱分極処理を施した前記PZT単板の単極性印加電圧に対する電界誘起変位と、前記PZT単板の分極処理時における電界誘起変位とを
図6に示す。前記脱分極処理を施したPZT単板において、印加電圧が、前記圧電性が消失、あるいは微弱状態となる電圧まで、変位が誘起されないことがわかる。さらに、分極処理時に生じる0.65μmの残留変位に対して、前記脱分極処理を施したPZT単板では0.20μmの残留歪が生じ、分極状態と脱分極状態との間に生じる0.45μmの残留変位の差を変位保持に用いることが可能である。
【0028】
さらに、
図7に示すように、前記目標消失レベル値以下を達成した印加電圧以下の単極性電圧(例えば400V)の繰り返し印加に対しても、前記脱分極処理を施したPZT単板では、変位は誘起されず、脱分極状態が達成されていることが確認される。
【0029】
図8に、脱分極処理前の前記PZT単板の物性量を1としたときの、脱分極処理前と、本発明による脱分極処理後との,前記PZT単板の物性量の比較図を示す。前記PZT単板の変位測定から求めた圧電定数d
33は、脱分極処理前の430pC/Nから、脱分極処理後に変位が生じない0pC/Nへと極端な変化している。同様に、分極反転に伴う反転電流の計測から求めた残留分極は、脱分極処理前の30μC/cm
2から、1μC/cm
2以下へと変化し、脱分極が効果的に行われていることがわかる。また、比誘電率εは脱分極処理前の2150から、1550へと25%以上の低減を示し、該低減の原因は、前記競合する分域構造のために、分域構造が変化することができず、誘電的応答が制限されるためと想像される。さらに、分極処理時に生じる0.65μmの残留変位に対して、前記脱分極処理を施したPZT単板では、0.20μmの残留変位が生じ、分極処理時に生じる残留歪の約70%の0.45μmの変位が繰り返し利用可能となる。さらに、焦電性も、前記残留分極の減少に対応して、分極時の4%以下と大幅に減少している。
【0030】
以上の結果から、本発明による脱分極方法では、必要最小限の強誘電体の分極反転により、消費電力と、強誘電体へのダメージとを抑えた、実際的な脱分極処理が可能であることがわかる。さらに、強誘電体デバイスにおいては、本発明による脱分極方法により、強誘電体部の脱分極状態を繰り返し利用することが容易となり、前記強誘電体部の分極状態の、圧電性と、残留歪と、誘電率と、分極値と、焦電性と、弾性率とに加え、前記強誘電体部の脱分極状態の、残留歪と、誘電率と、分極値と、弾性率とを併せ持ち、脱分極状態から分極状態へ変化したときに生じる前記強誘電体部の残留歪を、歪保持に利用することが可能な、多機能・高機能化された強誘電体デバイスが達成可能であることがわかる。
【0031】
なお、前記目標消失レベル値以下の圧電性のレベルが、前記最小値に達する前に、達成された場合の分域状態は、脱分極処理後の繰り返し印加電界により、反転可能な分域が減少するため、前記圧電性が消失、あるいは微弱となる分域状態に近づけることができる。
【0032】
また、前記圧電性のレベルが、電界の印加中に、前記最小値を経た後に、前記目標消失レベル値以上に達した場合の分域状態においては、前記分極反転を行う電界の印加を停止し、前記分極反転を行う電界と逆向きの電界を印加することで、前記分域状態を圧電性が消失、あるいは微弱となる分域状態に戻し、前記圧電性のレベルを前記目標消失レベル値以下の状態にすることができる。
【0033】
これらの結果から、本発明による強誘電体の脱分極方法においては、該強誘電体の圧電性のレベルが最低値なる直前の状態から、該最低値までに対応する分域構造を、該強誘電体に導入することが望ましい。
【0034】
強誘電体の圧電性の検出に用いる前記振動センサは、AEセンサに限定されるものではなく、接触型、あるいは、非接触型の種々の振動センサの使用が可能である。さらに、前記検出を行う前記強誘電体の部位は、前記強誘電体の表裏主面に限定されものではなく、前記強誘電体の側端部、あるいは前記強誘電体に弾性的に接続された弾性体の振動を、前記振動センサにより検出しても良い。また、強誘電体へ流入する電流変化を測定することで、圧電性検出を行っても良い。さらに、強誘電体の分極反転時の反転電流に基づく流入電荷量を、圧電性の消失、あるいは微弱状態に対応させることで、圧電性の消失、あるいは微弱状態を特定しても良い。さらに、印加電圧値と分域状態との関係を予め実験的に求めておき、印加電圧値から、圧電性の消失、あるいは微弱状態を、予測するようにしても良い。
【0035】
前述の強誘電体1の圧電性の検出に用いる振動は、電源5からの前記リップル電流に限定されるものではなく、分極反転を行うための電圧信号に、前記電圧信号の振幅値と、周波数とに比べて、小振幅値と、高い周波数とを有する振動励起用電圧信号を重畳した電圧信号を使用することが可能である。さらに、前記振動励起用電圧信号は正弦波、方形波、のこぎり波など種々の電圧信号が可能である。また、前記強誘電体は単板形に限定されたものではなく、積層体、あるいは、基板上に形成された強誘電体であっても良い。
【0036】
強誘電体1の圧電性のレベルの前記目標消失レベル値以下の状態は、前記印加電圧の最大値で達成される必要はなく、前記印加電圧の電圧信号波形と、印加時間とに基づき、前記印加電圧を減じる過程中に達成されても良い。
【0037】
強誘電体1の強誘電体材料は、チタン酸バリウム(BT系)を主成分とする材料、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT系)を主成分とする材料、ニッケルニオブ酸鉛(PNN系)を主成分とする材料、ジルコン酸ランタン鉛(PLZT系)を主成分とする材料、チタン酸鉛を主成分とする材料、更にはこれらの複合材料等が好適に用いられる。
【実施例2】
【0038】
図9は本発明にかかる強誘電体デバイスの一例(実施例2)を示す。本実施例ではユニモルフ型圧電アクチュエータの脱分極処理が行われる。前記ユニモルフ型圧電アクチュエータにおいて、強誘電体21は厚さ0.3mm、直径25mmのPZT系セラミックス単板であり、強誘電体21は、
図7に矢印Pで示すように、厚み方向において分極されている。強誘電体21の表裏主面には厚さ1μmの電極22、23、24が形成されている。電極24の直径は3.0mmであり、強誘電体部21の一方の主面全面に形成された電極を、機械研磨加工により設けられた幅1.0mmの溝により、分割して電極22と、24とが形成される。さらに、厚さ0.3mmm、直径30mmの金属シム28が、電極23の表面上に貼り付けてあり、前記強誘電体デバイスはユニモルフ型圧電アクチュエータの構造を有する。電極24と電極23とが、増幅器26に接続され、増幅器26からの電圧信号はコントローラ27に入力される。さらに、コントローラ27は電源25に接続されている。
【0039】
ここで、電極24と電極23との間にある強誘電体部21の部位(以下、「検出部」と称する)は、電極22と電極23との間にある強誘電体部21の部位(以下、「主要部」と称する)の圧電性の検出に用いられる。強誘電体部21は、予め、電極22と電極23との間と、電極24と電極23との間に、電圧を印加することで分極されている。なお、前記主要部の分極方向と前記検出部の分極方向は、同じでなくても良い。また、電極24の形成方法は、機械研磨加工に限定されるものではなく、真空蒸着法、焼付け電極などの種々の分割電極形成方法が可能である。また、前記電極23を前記検出部と前記主要部との共通電極とする必要はなく、個別に形成された電極を前記検出部と前記主要部に用いても良い。
【0040】
次に、前記主要部の圧電性の検出方法と、脱分極処理とについて説明する。前記電圧の印加中、電極22と電極23との間にある強誘電体部21の分極反転が生じるが、電極24は電源25と接続されていないために、検出部の分極状態は維持される。前記主要部の圧電性により生じる、前述機械的振動は、強誘電体部21を介して検出部に伝搬し、前記検出部の圧電性により、電圧信号に変換される。該電圧信号は増幅器26(例えばオペアンプ)で一定の増幅率(例えば60dB)で増幅された後、コントローラ27に入力される。コントローラ27で、前記電圧信号(以下、検出信号と称する)の振幅に基づき、前記主要部の圧電性のレベルと、該レベルの最低値とを検出する。さらに、前記検出信号の最低値に基づき、主要部の圧電性のレベルの目標消失レベル値を設定する。前記圧電性のレベルが目標消失レベル値以下に達した時に、コントローラ27は電源25の電圧印加を停止させる。具体的には、前記検出信号の振幅が目標消失レベル値以下のレベル(例えば0.45V)に達した時に、電源25の電圧印加を停止させる。
【0041】
図10に本実施例2における脱分極処理時の、増幅器26で増幅された前記検出信号と、比較例として、前記主要部の圧電性を前記AEセンサを用いて測定した場合の電圧信号(以下、AE測定信号と称する)との結果を示す。
【0042】
前記検出信号は、前記AE測定信号において圧電性のレベルが最小値となる230V付近で、前記目標消失レベル値以下のレベルに達する。この結果から、前記主要部の圧電性のレベルの最低値を、前記検出信号で特定することが可能であることがわかる。
【0043】
図11に前記検出信号を用いて脱分極処理を施した場合の、前記ユニモルフ型圧電アクチュエータの電圧印加に対する先端変位を示す。実施例1の場合と同様に、分極処理を施した前記ユニモルフ型圧電アクチュエータは、前記230Vを閾値電圧として、該閾値電圧以上の電圧印加に対して、急激な変位を生じる。さらに、電圧を0Vとした場合に、脱分極状態から約160μmの変位保持を続けることが可能であり、機械式高耐圧リレースイッチなどに応用することが考えられる。
【0044】
本実施例では、強誘電体デバイスの強誘電体部の一部分を用いて前記強誘電体部の圧電性を検出する振動センサが、該強誘電体デバイス中に、構成された。前記振動センサを用いた脱分極処理の結果は、前記AEセンサを用いた場合と同等であり、以上の結果から、強誘電体部の一部分を用いて、種々の強誘電体デバイス内に前記圧電性の消失、あるいは微弱状態を検出する振動センサを容易に構成することが可能であることがわかる。
【0045】
なお、本実施例においては、ユニモルフ型圧電アクチュエータを例にとって説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であり、脱分極温度(Td)以下で、圧電デバイスと、焦電デバイスと、容量性強誘電デバイスと、強誘電体メモリデバイスとを含む、全ての強誘電体デバイスに本発明による脱分極方法の実施が可能である。