【文献】
William T. Friedewald, Robert I. Levy and Donald S. Fredrickson,"Estimation of the Concentration of Low-Density Lipoprotein Cholesterol in Plasma, Without Use of the Preparative Ultracentrifuge",Clinical Chemistry,The American Association of Clinical Chemists, Inc.,1972年 6月,Vol. 18, No. 6,p. 499-502
【文献】
平野 勉,「血液検査 血清脂質−分類,脂質異常症の特性を含む−」,日本臨牀,株式会社日本臨牀社,2008年 6月28日,66巻増刊号4,p. 279-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面に示した一実施例を参照して、本発明に係る小型血液成分測定装置の実施の形態を説明していく。
図1は、本発明に係る小型血液成分測定装置及び該測定装置に使用するセンサカードを示している。
図中符号Xは、本発明に係る小型血液成分測定装置を示しており、符号Yは前記測定装置Xに使用するセンサカードを示している。
【0009】
始めに、センサカードYの構成について説明していく。
図2は、本発明に係る小型血液成分測定装置に使用するセンサカードの一実施例の展開斜視図である。
このセンサカードは、血液中のコレステロール、中性脂肪及びHDLコレステロールを検出できるように構成されている。
図面に示すように、このセンサカードは、
試料液の流路を形成する8枚のフィルム1〜8と、
3つのフィルタ9〜11と、
電極及び端子が形成された1枚の基板12と
から構成されている。
【0010】
最も上方に位置するフィルム1は、0.125mmの厚みを有するポリエチレン・テレフタレートフィルム(以下、PETフィルム)である。
2番目に位置するフィルム2は上面に接着面を有する厚さ0.15mmの片面粘着テープから成り、その一端部に、血液導入保持部Aを形成するための切欠き2aと、後述するフィルム3の切欠き3aと連通する二つの独立した開口2b及び2cとが各々形成されている。
3番目に位置するフィルム3は、両面に接着面を有する厚さ0.3mmの両面粘着テープから成り、その一端部に、上記フィルム2の切欠き2aと共に、血液導入保持部を形成する切欠き3aが形成されている。この切欠き3aは、前記フィルム2の開口2b及び2cと、後述するフィルム4の開口4a及び4bと連通するように前記フィルム2の切欠き2aより内側に広く切欠かれている。
4番目に位置するフィルム4は、0.125mmの厚みを有するPETフィルムからなり、第1流路を形成する開口4aと第2流路を形成する開口4bとが各々形成されている。
5番目に位置するフィルム5は、両面に接着面を有する厚さ0.725mmの両面粘着テープから成り、その一端部には、前記フィルム4の開口4aと連通する開口5aと、前記フィルム4の開口4bと連通する開口5bとが各々形成されている。
【0011】
前記開口5aには、ガラス繊維不織布9が嵌め込まれる。このガラス繊維不織布9は、フィルム5と同じ厚みで、1〜10μmの孔径を有し、かつ横断面形状が開口5aと同形同寸に形成され、血漿に比べて血球の進行速度を遅らせる血球進行遅延フィルタとして機能する。また、このガラス繊維不織布9には、予め血球分離促進剤としてレクチンが乾燥保持されており、このレクチンとの反応により血球の進行速度の遅延効果を増大させている。
また、前記開口5bにも同様に、ガラス繊維不織布10がはめ込まれている。このガラス繊維不織布10は、フィルム5と同じ厚みで、1〜10μmの孔径を有し、かつ横断面形状が開口5bと同形同寸に形成されている。また、このガラス繊維不織布10には、予め非HDLコレステロール沈殿剤が乾燥保持されており、これにより、このガラス繊維不織布10は、血球の進行を遅らせると共に、非HDLコレステロール成分をトラップする血球進行遅延兼非HDLコレステロール成分除去フィルタとして機能する。
フィルム5(即ち、上記した二つの独立したフィルタ9及び10)と後述するフィルム6との間には、多孔性ポリエステルメンブレン11が設けられている。この多孔性ポリエステルメンブレン11には、垂直方向(即ち、流路の進行方向)に沿って伸びる孔径0.5〜4μmの範囲の孔が多数形成されており、前記ガラス繊維不織布9及び10の作用で血漿の後に通ることになる血球をトラップする血球除去フィルタとして機能する。
【0012】
6番目に位置するフィルム6は、両面に接着面を有する厚さ0.06mmの両面粘着テープから成り、その一端部には、前記開口5a及び5bに嵌めこまれた前記ガラス繊維不織布9及び10と前記多孔性ポリスチレンメンブレン11とを介して、フィルム4の開口4a及び4bと各々連通する独立した開口6a及び6bが形成されている。
7番目に位置するフィルム7は、厚さ0.125mmのPETフィルムからなり、前記フィルム6の開口6a及び6bと各々連通する独立した開口7a及び7bが形成されている。
8番目に位置するフィルム8は、両面に接着面を有する厚さ0.1mmの両面粘着テープからなる。
このフィルム8には、
一端が前記開口7aと連通し、後述する基板12の第1測定部Bの上面を通過して、同基板12に形成された吸引用開口Dまでフィルムの長手方向に沿って伸びる細長い開口8aと、
一端が前記開口7bと連通し、後述する基板12の第2測定部Cの上面を通過して、同基板12に形成された吸引用開口Eまでフィルムの長手方向に沿って伸びる細長い開口8bと
が各々形成されている。
前記細長い開口8a及び8bは、後述する基板12の測定部B及びCに対応する部分が幅広に形成され、この幅広部分から下流に向けて細くなった後、後述する基板12の吸引用開口D及びEに対応する部分で再び幅広になるように形成されている。
細長い開口8aにおける測定部Bに対応する幅広部分と吸引開口Cに対応する幅広部分との間の細い流路部分には、気体透過性と液体不透過性との両方の性質を具備する封止部材13aが設けられている。
同様に、細長い開口8bにおける測定部Cに対応する幅広部分と吸引開口Eに対応する幅広部分との間の細い流路部分には、気体透過性と液体不透過性との両方の性質を具備する封止部材13bが設けられている。
これらの封止部材13a及び13bは、例えば、吸水性ポリマーから成る繊維や疎水性ポリマーから成る繊維を用いて形成されたものが用いられる。具体的には、封止部材13a及び13bは、例えば、適当な芯材に前記繊維をコーティングする等して形成され得る。吸水性ポリマーを用いると、血液が接触した時に、吸水性ポリマーが血液を吸収して膨潤し、それ以上血液を通さなくなり、また、疎水性ポリマーを用いると表面張力により血液を通さなくなる。
前記吸水性ポリマーとしては、例えば、多糖及び/又はその誘導体、アクリル系高分子、ポリビニルアルコール、ゼラチン、コラーゲン又は無水マレイン酸を含むブロックコポリマー等が用いられ得る。
前記疎水性ポリマーとしては、例えば、ポリエステル、シリコン、フッ素樹脂、又はポリエチレン等が用いられ得る。
【0013】
最後に、基板12について
図2及び
図3を参照して説明する。
図3は、
図2における基板12の拡大図である。
基板12にはポリエステルフィルムからなり、第1測定部Bと第2測定部Cとが形成されている。
第1測定部Bは、コレステロール測定用の一対の電極B1及びB2と、中性脂肪測定用の一対の電極B3及びB4と、対極B5とからなる。
第2測定部Cは、HDLコレステロール測定用の一対の電極C1及びC2と、対極C3とから成る。
前記コレステロール測定用の一対の電極B1及びB2のうちの一方の電極B1の測定部位上には、コレステロール測定試薬としてコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、電子受容体が滴下乾燥により保持されており、他方の電極B2の測定部位上には、コレステロールエステラーゼ、電子受容体が保持されている。
前記中性脂肪測定用の一対の電極B3及びB4のうちの一方の電極B3の測定部位上には、中性脂肪測定試薬としてリパーゼ、グリセロールキナーゼ、グリセロリン酸オキシダーゼ、電子受容体が保持されており、他方の電極B4の測定部位上には、グリセロールキナーゼ、グリセロリン酸オキシダーゼ、電子受容体が保持されている。
前記HDLコレステロール測定用の一対の電極C1及びC2のうちの一方の電極C1の測定部位上には、HDLコレステロール測定のためにコレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、電子受容体が滴下乾燥により保持されており、他方の電極C2の測定部位上には、コレステロールエステラーゼ、電子受容体が保持されている。
上記したように、各測定項目に対して各々一対の電極を設け、一方の電極に測定に必要な全ての試薬を保持し、他方の電極に測定に必要な全ての試薬から一つを除いたものを保持することにより、測定装置で両電極で得られる反応値の差から、コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール成分を測定することができるように構成されている。
HDLコレステロール成分については、予めガラス繊維不織布10により非HDLコレステロール成分を除去すると共に、ガラス繊維不織布10と多孔性ポリエステルメンブレン111との組み合わせで予め血球を除去しておくことにより、コレステロール測定試薬を用いてHDLコレステロール成分の測定をすることを可能にしている。
前記した各電極は、基板上に銅箔を接着した後、フォトリソグラフィ法により所望のパターンを形成して成る。
測定用電極B1、B2、B3、B4、C1及びC2の測定部位表面には金メッキ又は白金メッキが施されている。また、対極B5およびC3には、パターン上に、さらに銀粉末と塩化銀粉末とを含有した導電性ペーストからなる導電層がスクリーン印刷により形成されている。
また、電極上にフォトリソグラフィ法により測定部位及び端子部位のみが露出するようにUV硬化型ポリエステル樹脂からなる絶縁レジストを形成した。本実施例では、絶縁性レジストの形成にフォトリソグラフィ法を用いることにより、各測定部位の露出部分の径を0.6φにすることができた。このように、測定部位の露出部分を小さくすることにより、測定に必要な血液の量を大幅に減らすことができ、患者の負担も軽くすることができるという効果を奏する。
【0014】
上記フィルム1〜8と3つのフィルタ9〜11は、全て、基板12上に積層される。
上記したようにフィルムとフィルムの間又はフィルムと基板の間に挟まれるフィルム2、3、5、6及び8は、それ自体が片面テープ又は両面テープで構成されているため単に位置を合わせて積重ねるだけで各フィルムが基板上に液密及び気密に接着されてセンサカードが簡単に製造できる。
全てのフィルム1〜8とフィルタ9〜11とを基板12上に積層すると、フィルム1、フィルム2の切欠き2a、フィルム3の切欠き3a及びフィルム4によって血液導入保持部Aが形成される。フィルム1及びフィルム4における、この血液導入保持部Aに対応する部分には、予めヘパリン等の血液の凝集を阻害する物質が塗布されており、これにより、血液導入保持部Aにある程度の時間、血液を保持しておくことを可能にしてある。
また、全てのフィルム1〜8とフィルタ9〜11とを基板12上に積層すると、開口4a、開口5a内に嵌めこまれたガラス繊維不織布9、多孔性ポリエステルメンブレン11、開口6a、開口7a、細長い開口8a及び吸引用開口Dが全て連通して、
図2に点線で示すように、第1流路Fが形成される。この第1流路Fは、その上流端が前記血液導入保持部Aに連通し、基板12に形成された第1測定部Bの上面を通過して吸引用開口Dに至る。
また、同時に、開口4b、開口5bに嵌めこまれたガラス繊維不織布10、多孔性ポリエステルメンブレン11、開口6b、開口7b、細長い開口8b及び吸引用開口Eが全て連通して、
図2に点線で示すように、第2流路Gが形成される。この第2流路Gは、その上流端が前記血液導入保持部Aに連通し、基板12に形成された第2測定部Cの上面を通過して吸引用開口Eに至る。
前記第1流路F及び第2流路Gは、
図2に示すように、共に、血液導入保持部Aから第1測定部B及び第2測定部Cと同一平面上に至るまでは基板12に対して垂直であり、そこから基板12に対して水平になり、さらに、吸引用開口D及びEを介して基板12に対して垂直方向に開口している。そして、フィルタとして機能するガラス繊維不織布9及び10並びに多孔性ポリエステルメンブレン11は、全て、流路F及びGの、基板に垂直な部分に配置されている。
【0015】
次に、上記したように構成されたセンサカードを使用する本発明に係る小型血液成分測定装置の一実施例について
図1及び
図4説明する。
この小型血液成分測定装置は、小型のケーシング30を備え、
該ケーシング30には、
図2及び3に示したセンサカードYを挿入する挿入口31と、
前記センサカードYの吸引用開口D及びEを介してセンサカードYの流路F及びGの血液を吸引するポンプ32と、
スタートボタン36(後述)からの操作信号を入力し、前記センサカードYの端子部から得られる出力信号を演算処理して、表示装置35(後述)に表示させると共に、前記ポンプ32の動作を制御する制御部33と、
前記制御部33による演算結果を記憶する記憶部34と、
前記表示部35と、
前記スタートボタン36と
を備えている。
前記制御部33は、前記センサカードYの端子部から得られる出力信号に基づいて、総コレステロール(T−CHO)、中性脂肪(TG)及びHDLコレステロールを算出すると共に、算出した総コレステロール(T−CHO)、中性脂肪(TG)及びHDLコレステロールに基づいて次式(フリードバルドの式)を用いてLDLコレステロールを算出する。
LDLコレステロール=総コレステロール−(中性脂肪×0.2)−HDLコレステロール
そして、さらに、HDLコレステロール及びLDLコレステロールに基づいて次式を用いてLH比を算出する。
LH比=LDLコレステロール/HDLコレステロール
算出された各値は、制御部33によって記憶部34に記憶させられると共に、表示部35によって表示される。
図5は、測定結果の表示例を示す図である。
【0016】
以下に、上記したように構成された小型血液成分測定装置の使用方法について簡単に説明する。
使用者は、センサカードYを測定装置Xの挿入31に挿入した後、一方が外部に開放された血液導入保持部Aに血液を導入する。
導入直後の血液は、表面張力により第1流路F(
図2参照)及び第2流路G(
図2参照)へは流れずに血液導入保持部Aに保持される。
次いで、使用者が測定装置Xのスタートボタン36を押すと、制御部33によりポンプ32が作動され、血液導入保持部Aの中にある血液が、その表面張力に抗して第2流路Gに流れてフィルタ10に接触するまで第2流路G側の吸引開口Eを介してポンプ32で吸引される。血液が接触するとフィルタ10は、その容量を満たすまで血液を自ら吸収する。
次いで、血液導入保持部Aにある血液が、その表面張力に抗して第1流路Fに流れてフィルタ9に接触するまで第1流路F側の吸引開口Dを介してポンプ32で吸引される。血液が接触するとフィルタ9は、その容量を満たすまで血液を自ら吸収する。
この状態で、フィルタ9における血球分離促進剤と血液とが十分に反応するまで待機し、十分な反応時間経過後、再び、フィルタ9中の血液がフィルタ11を介して開口6a、7a及び8aの順に流れ、基板12の第1測定部Bを通って開口8aの封止部材13aに達するまで第1流路F側の吸引開口Dを介してポンプ32で吸引される。
これにより、フィルタ11の作用で血球が除去された血漿だけが第1流路Fにおけるフィルタ11の下流から封止部材13aまでの間に満たされる。尚、この時、フィルタ9の独自の血球進行遅延作用に加えて、血球分離促進剤との反応により、フィルタ9において血球の進行が血漿に進行に対して十分に遅らせられるので、血漿が、第1測定部Bの上方を通って封止部材13aに達する前にフィルタ11が血球で詰まってしまうことはない。
次いで、非HDLコレステロール沈殿剤と血液との十分な反応時間経過後、再び、フィルタ10中の血液がフィルタ11を介して開口6b、7b及び8bの順に流れ、基板12の第2測定部C上を通って開口8bの封止部材13bに達するまで第2流路G側の吸引開口Eを介して測定装置のポンプ32で吸引される。
これにより、フィルタ10で非HDLコレステロール成分が除去されると共に、フィルタ11で血球が除去され、血球及び非HDLコレステロール成分が除去された血漿だけが第2流路Gにおけるフィルタ11の下流から封止部材13bまでの間に満たされる。
上記したように、このセンサカードは、測定すべき血漿(又は非HDLコレステロール成分が除去された血漿)が、第1測定部B及び第2測定部C上を通って封止部材13a,13bまで満たされるように構成されているため、各電極の電極面の濡れに関わらず、一定量の血漿を、行き過ぎの心配なく、電極上に導くことができるので測定が非常に安定する。
上記した状態で、制御部33がセンサカードYの端子部からの信号に基づいて、総コレステロール(T−CHO)、中性脂肪(TG)及びHDLコレステロールを算出すると共に、算出した総コレステロール(T−CHO)、中性脂肪(TG)及びHDLコレステロールに基づいてLDLコレステロールを算出し、さらに、HDLコレステロール及びLDLコレステロールに基づいてLH比を差出して、表示部35に表示させる。
【0017】
上記した実施例では、小型血液成分測定装置は表示部35を備え、該表示部35で測定結果を表示するように構成されているが、小型血液成分測定装置は、表示部35に加えてプリンタを備えていてもよい。
また、小型血液成分測定装置の制御部33は、記憶部34に、測定日時、測定回数及びセンサカード種別を測定結果に関連付けして記憶させておくことができ、必要に応じて、記憶部34に記憶した過去の測定結果を経時的に表示部35に表示させたり、プリンタで印字させたりすることもできる。