(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667852
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】可変指向性マイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20150122BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
H04R3/00 320
H04R1/40 320A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-266292(P2010-266292)
(22)【出願日】2010年11月30日
(65)【公開番号】特開2012-119829(P2012-119829A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年10月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100166752
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 典子
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−059300(JP,A)
【文献】
特開2005−072642(JP,A)
【文献】
特開昭57−148500(JP,A)
【文献】
特開昭58−083495(JP,A)
【文献】
特開2000−046637(JP,A)
【文献】
特開昭62−189898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性がカージオイドである動電型の第1マイクロホンユニットと、指向性が無指向性である動電型の第2マイクロホンユニットと、上記第1マイクロホンユニットの音声信号出力から上記第2マイクロホンユニットの音声信号出力を減算する演算回路と、上記演算回路に与えられる上記第1マイクロホンユニットの音声信号出力を所定に増幅する増幅器と、上記演算回路に与えられる上記第2マイクロホンユニットの音声信号出力のレベルを調整する電圧利得が可変の反転増幅器もしくは非反転増幅器からなるレベル調整回路とを備え、
上記第1マイクロホンユニットと上記第2マイクロホンユニットとが、音源に対して0゜方向となる収音軸を同一として同軸上に重なるように配置されており、
上記演算回路により、上記第1マイクロホンユニットの上記増幅器にて所定に増幅されたカージオイド特性の音声信号出力から、上記レベル調整回路にて所定にレベル調整された上記第2マイクロホンユニットの無指向性の音声信号出力を減算することにより、指向性が少なくともカージオイド,スーパーカージオイドもしくはハイパーカージオイドのいずれかに切り替えられ、上記第2マイクロホンユニットの無指向性の音声信号出力レベルと上記第1マイクロホンユニットの音声信号出力のうちの無指向性成分のレベルとが同一のときには指向性が双指向性となることを特徴とする可変指向性マイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指向性を選択できる可変指向性マイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、必要に応じて指向性を少なくともカージオイド,スーパーカージオイドもしくはハイパーカージオイドのいずれかに切り替えることができる可変指向性マイクロホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ライブステージや録音ステージ等で使用されるマイクロホンでは、音声が拡声されるために、往々にしてハウリングが発生する。これを防止するため、状況に応じて、カージオイド,ハイパーカージオイドもしくはスーパーカージオイド等の指向性の異なるマイクロホンユニットが選択されるのが一般的であるが、可変指向性マイクロホンによれば、一台のマイクロホンで指向性を選択できるので、ユニット交換の手間を省くことができる。
【0003】
可変指向性マイクロホンのうち、固定極の前後にそれぞれ振動板を配置してなるコンデンサマイクロホンユニットを備える機種では、そのユニットは専用設計され、製造時には振動板と固定極間の静電容量,振動板の張力,音響抵抗等について前後の対称性を保つために、細かな設定が必要となる。
【0004】
これとは別に、カージオイドの指向性をもつ2つのマイクロホンユニットを180度方向に組み合わせて、各マイクロホンユニットの出力信号を加減する機種もあるが、これには、音響性能が揃った2つのカージオイドユニットが必要とされるため、その選別作業が容易ではない。
【0005】
ところで、ステージ等で使用されるマイクロホンでは、無指向性と双指向性のマイクロホンユニットが使用されることはほとんどないことから、カージオイド,スーパーカージオイド,ハイパーカージオイドが選択されればよい。
【0006】
そこで、本出願人は、特許文献1において、固定極の前後にそれぞれ振動板を有する2つの単一指向性コンデンサマイクロホンユニットを含む可変指向性マイクロホンを提案している。
【0007】
このマイクロホンによれば、2つのマイクロホンユニットの出力の一方を選択しまたは混合することによって、指向性をカージオイド,スーパーカージオイド,ハイパーカージオイドのいずれかに切り替えることができるが、既存のマイクロホン部品を使用することができないので、やはり専用の設計が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−103637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、既存のマイクロホンユニットの組み合わせによって、指向性を少なくともカージオイド,スーパーカージオイドもしくはハイパーカージオイドのいずれかに切り替え可能とした可変指向性マイクロホンを作製することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、指向性がカージオイドである動電型の第1マイクロホンユニットと、指向性が無指向性である動電型の第2マイクロホンユニットと、上記第1マイクロホンユニットの音声信号出力から上記第2マイクロホンユニットの音声信号出力を減算する演算回路と、
上記演算回路に与えられる上記第1マイクロホンユニットの音声信号出力を所定に増幅する増幅器と、上記演算回路に与えられる上記第2マイクロホンユニットの音声信号出力のレベルを調整する
電圧利得が可変の反転増幅器もしくは非反転増幅器からなるレベル調整回路とを備え、
上記第1マイクロホンユニットと上記第2マイクロホンユニットとが、
音源に対して0゜方向となる収音軸を同一として重なるように配置されており、
上記演算回路により、上記第1マイクロホンユニットの
上記増幅器にて所定に増幅されたカージオイド特性の音声信号出力から、上記レベル調整回路にて所定にレベル調整された上記第2マイクロホンユニットの無指向性の音声信号出力を減算することにより、指向性が少なくともカージオイド,スーパーカージオイドもしくはハイパーカージオイドのいずれかに切り替えられ
、上記第2マイクロホンユニットの無指向性の音声信号出力レベルと上記第1マイクロホンユニットの音声信号出力のうちの無指向性成分のレベルとが同一のときには指向性が双指向性となることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、無指向性の第2マイクロホンユニットの音声信号出力のレベルを調整するだけで、指向性を少なくともカージオイド,スーパーカージオイドもしくはハイパーカージオイドのいずれかに切り替えることができる。
【0015】
また、第1マイクロホンユニットは既存のカージオイドユニットであってよく、第2マイクロホンユニットにしても既存の無指向性ユニットであってよいため、可変指向性マイクロホンを得るにあたって、マイクロホンユニットに関しては新たに専用設計する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る可変指向性マイクロホンを示す模式図。
【
図3】カージオイドの指向性を説明するための模式図。
【
図4】本発明の基本的な作用を説明するための模式図。
【
図5】本発明の実施形態で選択される指向性パターンの模式図。
【
図6】カージオイドユニットの指向周波数応答を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、
図1ないし
図6を参照して、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
図1に示すように、この実施形態に係る可変指向性マイクロホン1は、ステージ等で使用されるボーカル用のダイナミックマイクロホンで、円筒状に形成されたグリップ部としての金属製のマイク筐体10を備えている。
【0019】
マイク筐体10の前部側(
図1において左側)には、例えば金網からなるガードネット11が設けられており、また、マイク筐体10の後部側(
図1において右側)には、出力コネクタ12が装着されている。
【0020】
マイク筐体10内には、弾性材からなるショックマウント(緩衝部材)13を介して中筒14が同軸的に支持されている。中筒14は、ダイナミックマイクロホンユニットに所定容積の背部気室を提供する。
【0021】
ガードネット11内で、中筒14の前部側にダイナミックマイクロホンユニットが設けられるが、本発明では、そのマイクロホンユニットとして、第1マイクロホンユニット20と第2マイクロホンユニット30の2つのマイクロホンユニットが用いられる。
【0022】
この実施形態において、2つのマイクロホンユニットのうち、第1マイクロホンユニット20は指向性がカージオイドであり、第2マイクロホンユニット30は指向性が無指向性である。したがって、以下の説明において、第1マイクロホンユニットを「カージオイドユニット20」,第2マイクロホンユニットを「無指向性ユニット30」と言うことがある。
【0023】
この可変指向性マイクロホン1では、指向性を可変とするための電気的な回路構成として、演算回路21とレベル調整回路31とを備える。
【0024】
カージオイドユニット20の音声信号出力は、好ましくは増幅器22により所定に増幅されて演算回路21に与えられ、これに対して、無指向性ユニット30の音声信号出力は、レベル調整回路31を介して演算回路21に与えられる。
【0025】
そして、演算回路21において、カージオイドユニット20の音声信号出力から、レベル調整された無指向性ユニット30の音声信号出力が減算され、この減算された音声信号出力が、この可変指向性マイクロホン1のマイクロホン出力として出力端子23から出力される。
【0026】
この実施形態において、レベル調整回路31には、
図2に示す反転増幅回路31aが用いられため、演算回路21を加算回路21aとしている。
【0027】
すなわち、加算回路21aにおいて、カージオイドユニット20の音声信号出力から、反転増幅回路31aにてレベルが調整され、かつ、極性が負に反転された無指向性ユニット30の音声信号出力が加算処理(実質的な減算処理)される。
【0028】
なお、レベル調整回路31に図示しない非反転増幅回路が用いられてもよく、その場合には、演算回路21に減算回路が用いられる。また、出力端子23は、出力コネクタ12に含まれてよい。
【0029】
また、
図1では、カージオイドユニット20の上に重なるように無指向性ユニット30が配置されているが、この配置は逆であってもよい。いずれの場合にしても、各ユニット20,30は、収音軸(図示しない音源に対する0゜方向のX軸)を同一として同軸上に配置されることが好ましい。
【0030】
図3に模式的に示すように、カージオイドの指向性は、双指向成分と無指向成分とを合成することにより得られる。ここで、説明を容易にするため、双指向成分の0゜方向の感度を「1」とし、無指向成分の全方向の感度を同じく「1」とすると、その合成により、カージオイドにおける0゜方向の感度は「2」となり、90゜方向の感度は「1」となる。
【0031】
本発明では、カージオイドユニット20の音声信号出力から、レベル調整回路31(反転増幅回路31a)にてレベルが所定に調整された無指向性ユニット30の音声信号出力を減算することにより、指向性を
図5(a)に示すカージオイドから、
図5(b)に示すスーパーカージオイド,
図5(c)に示すハイパーカージオイドへと切り替えることができる。
【0032】
図4に、
図3で説明したカージオイドユニット20の音声信号出力から、レベル調整回路31(反転増幅回路31a)にて無指向性ユニット30の音声信号出力レベルを0.2に調整し減算して、指向性をスーパーカージオイドとする例を示す。
【0033】
このスーパーカージオイドにおいては、0゜方向の感度が「2.0」→「1.8」,90゜方向の感度が「1.0」→「0.8」となり、180゜方向に「0.2」の感度を持つ。
【0034】
この場合、
図2に示す反転増幅回路31aの帰還抵抗Rfを可変抵抗として、その抵抗値を変えることにより、無指向性ユニット30の音声信号出力レベルを所定に調整することができる。これとは別に、帰還抵抗Rfを抵抗値の異なる複数の抵抗素子として、そのいずれかを帰還抵抗Rfとして選択するようにしてもよい。
【0035】
なお、無指向性ユニット30の音声信号出力レベルと、カージオイドユニット20の無指向性成分(90゜方向成分)のレベルが同一の場合には、双指向性となる。
【0036】
次に、
図6に示されているカージオイドユニット20の指向周波数応答のグラフを参照して、カージオイドユニットの0゜と90゜のレベル差は、通常6dBである。90゜のレベルはカージオイドユニットの無指向成分である。
【0037】
本発明では、上記したように、カージオイドユニット20の無指向成分を減少させるように、無指向性ユニット30からの音声信号レベルを調整し、カージオイドユニット20の音声信号出力から減算するのであるが、これに伴って、0゜方向の感度も減少する。そこで、0゜方向の感度がどの程度変化するかについて検証する。
【0038】
例えば、0゜と90゜のレベル差を6dB→7.5dB(Δ−1.5dB)として、指向性をスーパーカージオイドとする場合には、カージオイドユニットの無指向成分が0.84になるように、無指向性ユニットからの音声信号レベルを調整する。
【0039】
これに伴って、0゜方向の感度(レベル)は1+0.84=1.84になる。ここで、20log1.84=5.296dBであるから、6−5.296≒0.70より、0゜方向の感度は約0.70dB低下する。
【0040】
次に、0゜と90゜のレベル差を6dB→9.5dB(Δ−3.5dB)として、指向性をハイパーカージオイドとする場合には、カージオイドユニットの無指向成分が0.67になるように、無指向性ユニットからの音声信号レベルを調整する。
【0041】
これに伴って、0゜方向の感度(レベル)は1+0.67=1.67になる。ここで、20log1.67=4.454dBであるから、6−4.454≒1.5より、0゜方向の感度は約1.5dB低下する。
【0042】
本発明によれば、0゜方向の感度低下をこの程度に抑えて、指向性をカージオイド→スーパーカージオイド→ハイパーカージオイドへと連続的もしくは段階的に変化させることができる。なお、カージオイドとする場合には、無指向性ユニット30の出力系に例えばオンオフスイッチ等を設けて、無指向性ユニット30の出力を0とすればよい。
【0043】
上記実施形態では、カージオイドユニット20と無指向性ユニット30をダイナミックユニットとし
て、ステージ等で使用されるボーカル用マイクロホンを例にしているが、これ以外の用途のマイクロホンであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 可変指向性マイクロホン
10 マイク筐体
11 ガードネット
12 出力コネクタ
20 カージオイドユニット(第1マイクロホンユニット)
21 演算回路
21a 加算回路
22 増幅器
23 出力端子
30 無指向性ユニット(第2マイクロホンユニット)
31 レベル調整回路
31a 反転増幅器