特許第5667872号(P5667872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667872
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】TDP−43蓄積細胞モデル
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150122BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150122BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20150122BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20150122BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20150122BHJP
   C07D 279/36 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20150122BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20150122BHJP
   A61K 31/437 20060101ALI20150122BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20150122BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N5/00 102
   C12Q1/02
   G01N33/15 Z
   A61P25/28
   A61P21/00
   C07D279/36
   A61K31/5415
   C07D471/04 102
   A61K31/437
   !C07K14/47
【請求項の数】12
【全頁数】72
(21)【出願番号】特願2010-507197(P2010-507197)
(86)(22)【出願日】2009年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2009054826
(87)【国際公開番号】WO2009125646
(87)【国際公開日】20091015
【審査請求日】2012年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2008-101899(P2008-101899)
(32)【優先日】2008年4月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】野中 隆
(72)【発明者】
【氏名】新井 哲明
(72)【発明者】
【氏名】秋山 治彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 成人
(72)【発明者】
【氏名】山下 万貴子
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05688511(US,A)
【文献】 特開平11−285382(JP,A)
【文献】 J.Virol.,1995 Jun,69(6),p.3584-96
【文献】 J.Biol.Chem.,2008 May 9,283(19),p.13302-9
【文献】 Science,2008 Mar 21,319(5870),p.1668-72
【文献】 J. Biol. Chem.,2005, vol.280, no.45,p.37572-37584
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS(STN)
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞において機能するプロモーター、及び変異型TDP-43遺伝子が導入された形質転換細胞であって、変異型TDP-43が、以下の(a)〜(c)のタンパク質である、前記形質転換細胞。
(a)野生型TDP-43のアミノ酸配列において第187番目〜第192番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)野生型TDP-43のアミノ酸配列において第78番目〜第84番目及び第187番目〜第192番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)アミノ酸配列(a)又は(b)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内封入体形成活性を有するタンパク質
【請求項2】
宿主細胞において機能するプロモーター、及び変異型TDP-43遺伝子が導入された形質転換細胞であって、変異型TDP-43が、以下の(a)〜(c)のタンパク質である、前記形質転換細胞。
(a)野生型TDP-43のアミノ酸配列のうちの第162番目〜第414番目のアミノ酸か構成されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)野生型TDP-43のアミノ酸配列のうちの第218番目〜第414番目のアミノ酸か構成されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)アミノ酸配列(a)又は(b)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内封入体形成活性を有するタンパク質
【請求項3】
変異型TDP-43が、細胞内封入体形成活性を有するものである、請求項1又は2記載の細胞。
【請求項4】
変異型TDP-43が、CFTRエキソン9スキッピング活性を有しないものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項5】
哺乳動物細胞の形質転換細胞である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項6】
哺乳動物細胞が、中枢神経系細胞、末梢神経系細胞又は神経芽細胞である、請求項5記載の細胞。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞に候補物質を接触させて当該細胞の細胞活性を測定し、得られる測定結果を指標として神経変性疾患の治療薬をスクリーニングする方法であって、前記細胞活性が、細胞活性が増殖能、生存能、並びに変異型TDP-43細胞内封入体の形成率、細胞内形成数及び大きさからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記方法。
【請求項8】
神経変性疾患が、前頭側頭葉変性症又は筋萎縮性側索硬化症である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
神経変性疾患が、TDP-43の細胞内封入体の形成に伴う疾患である、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞に神経変性疾患の治療薬を接触させて当該細胞の細胞活性を測定し、得られる測定結果を指標として神経変性疾患の治療薬の副作用を検定する方法であって、前記細胞活性が、神経突起伸張能、増殖能及び生存能からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記方法。
【請求項11】
神経変性疾患が、前頭側頭葉変性症又は筋萎縮性側索硬化症である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
神経変性疾患が、TDP-43の細胞内封入体の形成に伴う疾患である、請求項10又は11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内(細胞質内又は核内)にTAR DNA−binding protein of 43kDa(TDP−43)由来の封入体(凝集体)を形成する形質転換細胞、すなわちTDP−43蓄積細胞モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病やパーキンソン病などの多くの神経変性疾患では、神経細胞内に蓄積するタンパク質性の異常構造物が患者脳に見出されており、その異常構造物の形成が発症と密接に関連していると考えられている。前頭側頭葉変性症(FTLD)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経変性疾患では、患者脳の神経細胞内にユビキチン陽性の封入体が出現し(図1)、その出現部位と神経細胞の脱落部位に相関が認められることから、この細胞内封入体が出現することにより神経細胞死が引き起こされ、最終的に発症に至ると考えられている。本発明者らは、最近の研究により、FTLDやALS患者脳に見られる細胞内封入体の主要構成成分として、TAR DNA−binding protein of 43 kDa(TDP−43)という核タンパク質を同定した(Arai T et al.,TDP−43 is a component of ubiquitin−positive tau−negative inclusions in frontotemporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis,Biochem.Biophys.Res.Commun.,2006,vol.351(3),p.602−611;Neumann M et al.,Ubiquitinated TDP−43 in frontotemporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis,Science,2006,vol.314(5796),p.130−133)。TDP−43は、核に局在するタンパク質で、転写制御などに関与すると考えられているが(Buratti E et al.,Nuclear factor TDP−43 and SR proteins promote in vitro and in vivo CFTR exon 9 skipping,EMBO J.,2001,vol.20(7),p.1774−1784)、実際の機能については余りよく分かっていない。
進行が非常に早い神経難病であるALSにおいて、家族性の占める割合は5〜10%程度であり、その他大多数は弧発性であると推定されている。家族性ALSのうち、約20%がsuperoxide dismutase 1(SOD1)の遺伝子異常を伴うケースである(Deng HX et al.,Amyotrophic lateral sclerosis and structural defects in Cu,Zn superoxide dismutase,1993,Science,vol.261,p.1047−1051;Rosen DR et al.,Mutations in Cu/Zn superoxide dismutase gene are associated with familial amyotrophic lateral sclerosis,1993,Nature,vol.362,p.59−62)。SOD1の異常と発症との関連について様々な報告がなされているが、一方で、孤発性ALSとは神経病理像が異なっていることも指摘されている。すなわち、孤発性ALS患者脳ではTDP−43陽性の封入体がほぼ全例に認められるが(Geser F et al.,Evidence of multisystem disorder in whole−brain map of pathological TDP−43 in amyotrophic lateral sclerosis,2008,Arch Neurol.,vol.65,p.636−641;Nishihira Y et al,Sporadic amyotrophic lateral sclerosis two pathological patterns shown by analysis of distribution of TDP−43−immunoreactive neuronal and glial cytoplasmic inclusions,2008,Acta.Neuropathol.,vol.116,p.169−182)、SOD1変異を有する家族性ALS患者脳に認められるユビキチン陽性封入体は、抗TDP−43抗体で染色されないのである(Mackenzie IR et al,Pathological TDP−43 distinguishes sporadic amyotrophic lateral sclerosis from amyotrophic lateral sclerosis with SOD1 mutations,2007,Ann.Neurol.,vol.61,p.427−434;Tan CF et al,TDP−43 immunoreactivity in neuronal inclusions in familial amyotrophic lateral sclerosis with or without SOD1 gene mutation,2007,Acta.Neuropathol.,vol.113,p.535−542)。これらの事実は、SOD1変異を有する家族性ALSには、その他の家族性ALS及び大多数の弧発性ALSとは異なる発症メカニズムが存在することを示している。上述したALS患者におけるTDP−43遺伝子変異の発見を合わせて考慮すると、大多数のALSの発症過程においてTDP−43の異常が一次的な要因であり、その細胞内凝集と発症とは密接に関連していること考えられる。
したがって、TDP−43タンパク質がどのような機構によって細胞内で蓄積し、細胞障害性を発揮するのかについて、そのメカニズムを解明すること、すなわちTDP−43の細胞内封入体形成の機構やこの封入体による神経変性機構を解明することは、ALS及びFTLDの発症メカニズムの解明(病因解明)だけでなく、これらの治療薬及び治療方法等の開発にも大きく貢献できると考えられる。
【発明の開示】
【0003】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、FTLD及びALS等の神経変性疾患の患者脳に見られる、TAR DNA−binding protein of 43 kDa(TDP−43)由来の細胞内封入体(凝集体)を形成する形質転換細胞を提供することにある。また、本発明は、当該形質転換細胞を用いた神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法や、神経変性疾患の治療薬の副作用の検定方法を提供することも目的とする。さらに、本発明は、神経変性疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物を提供することも目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行い、FTLD及びALSの患者脳に見られるTDP−43細胞内封入体を実験室レベルで再現する培養細胞の構築に取り組んだ。
患者脳に見られる細胞内封入体では、TDP−43は核内又は細胞質内に蓄積する(図1)。本来核タンパク質であるTDP−43が細胞質に蓄積するということは、TDP−43が細胞内で局在変化することを意味する。そこで、本発明者は、TDP−43の核移行シグナルの同定を行い、その欠損変異体(変異型TDP−43タンパク質)などを作製した。また、近年神経変性疾患との関連が指摘されているプロテアソームにも着目し、変異型TDP−43タンパク質の発現とプロテアソーム活性の阻害処理とを組み合わせることにより、結果的に、核内および細胞質内にTDP−43封入体を形成させることに成功した。また、患者脳に蓄積するTDP−43の特徴として、TDP−43全長だけでなく、TDP−43断片も界面活性剤に不溶性の画分に回収されることから、本発明者はこの断片に着目し、各種TDP−43断片とGreen fluorescent protein(GFP)との融合タンパク質を発現させた。その結果、いくつかの融合タンパク質の発現細胞において、TDP−43細胞内封入体を形成させることに成功した。さらに、本発明者は、上述のTDP−43細胞内封入体を形成し得る細胞を用いて当該封入体形成抑制効果を有する化合物を検索し、実際に特定の低分子化合物が当該効果を有することを見出した。本発明は、このようにして完成されたものである。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)宿主細胞において機能するプロモーター、及び変異型TDP−43遺伝子が導入された形質転換細胞。
本発明の形質転換細胞において、変異型TDP−43としては、例えば、細胞内封入体形成活性を有するものが挙げられる。
また、変異型TDP−43としては、例えば、以下の(1a)〜(1d)のタンパク質、又は、以下の(2a)〜(2d)のタンパク質が挙げられる。
(1a)野生型TDP−43のアミノ酸配列において第78番目〜第84番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質
(1b)野生型TDP−43のアミノ酸配列において第187番目〜第192番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質
(1c)野生型TDP−43のアミノ酸配列において第78番目〜第84番目及び第187番目〜第192番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質
(1d)アミノ酸配列(1a)、(1b)又は(1c)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内封入体形成活性を有するタンパク質
(2a)野生型TDP−43のアミノ酸配列のうちの第162番目〜第414番目のアミノ酸を含むアミノ酸配列からなるタンパク質
(2b)野生型TDP−43のアミノ酸配列のうちの第218番目〜第414番目のアミノ酸を含むアミノ酸配列からなるタンパク質
(2c)野生型TDP−43のアミノ酸配列のうちの第1番目〜第161番目のアミノ酸を含むアミノ酸配列からなるタンパク質
(2d)アミノ酸配列(2a)、(2b)又は(2c)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内封入体形成活性を有するタンパク質
さらに、変異型TDP−43としては、例えば、CFTRエキソン9スキッピング活性を有しないものが挙げられる。
本発明の形質転換細胞としては、例えば、哺乳動物細胞の形質転換細胞が挙げられ、具体的には、中枢神経系細胞、末梢神経系細胞又は神経芽細胞が挙げられる。
(2)上記(1)に記載の細胞に候補物質を接触させて当該細胞の細胞活性を測定し、得られる測定結果を指標として、神経変性疾患の治療薬、及び変異型TDP−43の細胞内封入体形成抑制剤をスクリーニングする方法。
本発明のスクリーニング方法において、細胞活性としては、例えば、増殖能、生存能、並びに変異型TDP−43の細胞内封入体の形成率、細胞内形成数及び大きさが挙げられる。
また、本発明のスクリーニング方法において、神経変性疾患としては、例えば、前頭側頭葉変性症及び筋萎縮性側索硬化症が挙げられ、特にTDP−43の細胞内封入体の形成に伴う疾患(TDP−43の細胞内蓄積に伴う疾患)が挙げられる。
(3)上記(1)に記載の細胞に神経変性疾患の治療薬を接触させて当該細胞の細胞活性を測定し、得られる測定結果を指標として神経変性疾患の治療薬の副作用を検定する方法。
本発明の副作用の検定方法において、細胞活性としては、例えば、神経突起伸張能、増殖能及び生存能が挙げられる。
また、本発明の副作用の検定方法において、神経変性疾患としては、例えば、前頭側頭葉変性症及び筋萎縮性側索硬化症が挙げられ、特にTDP−43の細胞内封入体の形成に伴う疾患(TDP−43の細胞内蓄積に伴う疾患)が挙げられる。
(4)メチレンブルー及び/又はディメボンを含む、神経変性疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物。
本発明の医薬組成物において、神経変性疾患としては、例えば、前頭側頭葉変性症及び筋萎縮性側索硬化症が挙げられ、特にTDP−43の細胞内封入体の形成に伴う疾患(TDP−43の細胞内蓄積に伴う疾患)が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、FTLD又はALS患者脳に見られるTDP−43細胞内封入体を示す図である。左図が核内、右が細胞質内に形成された封入体である。
図2は、野生型TDP−43のアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。核移行シグナル配列(NLS1)および核移行シグナル類似配列(NLS2)の部分に下線を付した。なお、実施例中に記載の「アミノ酸残基番号」は、すべてこの図2(又は配列番号2)に示されるアミノ酸配列のN末端からのアミノ酸残基の位置及びアミノ酸配列領域を示すものである。また、所定のアミノ酸配列をコードする塩基配列がどれであるかは、配列番号1に示される塩基配列(アミノ酸配列も併記)を参照することで特定することができる。
図3は、TDP−43核移行シグナル(NLS)同定の方法を示した模式図である。
図4は、各種TDP−43を発現した細胞を共焦点レーザー顕微鏡により観察した結果を示す図である。
図5は、各種TDP−43の発現細胞に対するプロテアソーム阻害剤(MG132)処理の有無の効果を示す図である。市販の抗体(anti−TARDBP)による染色像である。
図6は、ΔNLS1発現細胞に対するプロテアソーム阻害剤(MG132)処理の有無の効果を示す図である。抗リン酸化TDP−43抗体(anti−pS409/410)および抗ユビキチン抗体(anti−Ubiquitin)による染色像である。
図7は、ΔNLS2発現細胞に対するプロテアソーム阻害剤(MG132)処理の有無の効果を示す図である。抗リン酸化TDP−43抗体(anti−pS409/410)および抗ユビキチン抗体(anti−Ubiquitin)による染色像である。
図8は、ΔNLS1&2発現細胞に対するプロテアソーム阻害剤(MG132)処理の有無の効果を示す図である。抗リン酸化TDP−43抗体(anti−pS409/410)および抗ユビキチン抗体(anti−Ubiquitin)による染色像である。
図9は、GFPが融合した野生型TDP−43および各種TDP−43断片の模式図である。
図10は、GFPおよびGFP−TDP−43 WT発現細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。GFPの蛍光およびanti−Ubiquitinによる染色像である。
図11は、GFP−TDP 162−414発現細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。GFPの蛍光およびanti−pS409/410またはanti−Ubiquitinによる染色像である。
図12は、GFP−TDP 218−414発現細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。GFPの蛍光およびanti−pS409/410またはanti−Ubiquitinによる染色像である。
図13は、GFP−TDP 274−414およびGFP−TDP 315−414発現細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。GFPの蛍光およびanti−Ubiquitinによる染色像である。
図14は、GFP−TDP 1−161およびGFP−TDP 1−217発現細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。GFPの蛍光およびanti−Ubiquitinによる染色像である。
図15は、GFP−TDP 1−273およびGFP−TDP 1−314発現細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。GFPの蛍光およびanti−Ubiquitinによる染色像である。
図16は、CFTRエキソン9スキッピングアッセイの方法を示す模式図である。
図17は、CFTRエキソン9スキッピングアッセイの結果を示す図である。
図18は、CFTRエキソン9スキッピングアッセイの結果を示す図である。
図19は、低分子化合物(メチレンブルー)によるTDP−43細胞内封入体形成の抑制効果について、共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。上段はTDP−43 deltaNLS1&2についての結果であり、下段の3つは、GFP−TDP 162−414についての結果である。
図20は、低分子化合物(メチレンブルー)によるTDP−43細胞内封入体形成の抑制効果について、封入体形成細胞の割合を定量測定した結果を示す図である。左のグラフはTDP−43 deltaNLS1&2についての結果であり、右のグラフは、GFP−TDP 162−414についての結果である。グラフの横軸は、メチレンブルー及びディメボンの濃度であり、縦軸は、TDP−43細胞内封入体形成細胞の割合である。
図21は、低分子化合物(ディメボン)によるTDP−43細胞内封入体形成の抑制効果について、共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。
図22は、低分子化合物(ディメボン)によるTDP−43細胞内封入体形成の抑制効果について、封入体形成細胞の割合を定量測定した結果を示す図である。左のグラフはTDP−43 deltaNLS1&2についての結果であり、右のグラフは、GFP−TDP 162−414についての結果である。グラフの横軸は、メチレンブルー及びディメボンの濃度であり、縦軸は、TDP−43細胞内封入体形成細胞の割合である。
図23は、低分子化合物(メチレンブルー及びディメボン)による、TDP−43 deltaNLS1&2に対するTDP−43細胞内封入体形成の抑制効果について、TDP−43細胞内封入体形成細胞の割合を定量測定した結果を示す図である。グラフの横軸は、メチレンブルー及びディメボンの濃度であり、縦軸は、TDP−43細胞内封入体形成細胞の割合である。
図24は、低分子化合物(メチレンブルー及びディメボン)による、GFP−TDP 162−414に対するTDP−43細胞内封入体形成の抑制効果について、TDP−43細胞内封入体形成細胞の割合を定量測定した結果を示す図である。グラフの横軸は、メチレンブルー及びディメボンの濃度であり、縦軸は、TDP−43細胞内封入体形成細胞の割合である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2008−101899号明細書の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
1.本発明の概要
アルツハイマー病などの多くの神経変性疾患では、神経細胞内にユビキチン陽性のタンパク質封入体が形成される。前頭側頭葉変性症(Frontotemporal lobar degeneration:FTLD)や、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)等の神経変性疾患では、これまで、患者脳に特徴的に認められるユビキチン陽性封入体の主要構成成分が明らかとなっていなかったが、最近の研究により、TAR DNA−binding protein of 43 kDa(TDP−43)という特定の核内タンパク質が上記封入体の主要構成成分として同定された(Arai T et al.,TDP−43 is a component of ubiquitin−positive tau−negative inclusions in frontotemporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis,Biochem.Biophys.Res.Commun.,2006,vol.351(3),p.602−611;Neumann M et al.,Ubiquitinated TDP−43 in frontotemporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis,Science,2006,vol.314(5796),p.130−133)。TDP−43は、不均一核内リボ核酸タンパク質(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein;hnRNP)の一種であり、核に局在し、RNAや他のhnRNPと結合して、RNAの安定化や選択的スプライシング、転写調節などのプロセスに関与するタンパク質であると考えられている(Buratti E et al.,Nuclear factor TDP−43 and SR proteins promote in vitro and in vivo CFTR exon 9 skipping,EMBO J.,2001,vol.20(7),p.1774−1784)。しかしながら、どのようなメカニズムでTDP−43が神経細胞内で蓄積するのか、蓄積したTDP−43に細胞毒性はあるか、及びどのようなメカニズムで細胞死が誘導されるのか、などといった点は、全く明らかになっていなかった。
本発明者は、これらの点の解明には、培養細胞等を用いたTDP−43蓄積細胞モデルが必要であると考え、そのようなモデル系の開発に取り組んだ。その結果、種々の変異体(変異型TDP−43タンパク質)やTDP−43タンパク質の断片を含む融合タンパク質を細胞に発現させ、場合によってはその細胞にプロテアソーム阻害処理を行うことにより、細胞内にTDP−43封入体を形成させ、TDP−43を蓄積させることに成功した。
このモデル系を用いることにより、細胞内TDP−43蓄積を抑制する薬剤や遺伝子等のスクリーニングが可能となり、またトランスジェニック動物の作製にも利用できると考えられ、FTLDやALSの新たな治療薬及び治療方法の開発に極めて有用なものであると考えられる。
2.形質転換細胞(細胞モデル)
本発明の形質転換細胞は、宿主細胞において機能するプロモーター、変異型TDP−43遺伝子が導入された細胞(以下、「変異型TDP−43形質転換細胞」と言うことがある。)である。本発明の形質転換細胞は、細胞内(細胞質内又は核内)封入体の主要構成成分となる変異型TDP−43を発現するものであり、FTLDやALS等の神経変性疾患の細胞モデルとして有用なものである。
(1)形質転換細胞の作製方法の概要
通常、所望の宿主細胞において外来の目的タンパク質(本発明では変異型TDP−43)を過剰発現させるためには、まず、目的タンパク質遺伝子を発現ベクターに組み込んだ組換えベクターを構築することが必要である。この際、発現ベクターに組込む遺伝子には、予め、宿主細胞において機能するプロモーターを連結しておくことが好ましく、そのほか、Kozak配列、ターミネーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、及び選択マーカー等を連結しておくこともできる。なお、上記プロモーター等の遺伝子発現に必要な各要素は、初めから目的タンパク質遺伝子に含まれていてもよいし、もともと発現ベクターに含まれている場合はそれを利用してもよく、特に限定はされない。
発現ベクターに目的タンパク質遺伝子を組込む方法としては、例えば、制限酵素を用いる方法や、トポイソメラーゼを用いる方法など、公知の遺伝子組換え技術を利用した各種方法が採用できる。また、発現ベクターとしては、例えば、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA、レトロウイルスベクター、人工染色体DNAなど、特に限定はされず、使用する宿主細胞に適したベクターを適宜選択して使用することができる。
次いで、構築した組換えベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を得、これを培養することにより、目的タンパク質を発現させることができる。なお、本発明で言う「形質転換」とは、宿主細胞に外来遺伝子を導入することを意味し、具体的には、宿主細胞にプラスミドDNA等を導入して(形質転換)外来遺伝子を導入すること、及び、宿主細胞に各種ウイルス及びファージを感染させて(形質導入)外来遺伝子を導入することをいずれも含む意味である。
宿主細胞としては、組換えベクターが導入された後、目的タンパク質を発現することができるものであれば、特に限定はされず、適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス及びラット等の各種哺乳動物由来の動物細胞や、場合によっては酵母細胞などを用いることもできる。当該動物細胞としては、例えば、ヒト繊維芽細胞、CHO細胞、サル細胞COS−7、Vero、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞、神経芽細胞、中枢神経系細胞及び末梢神経系細胞等を用いることができ、本発明においては、特に神経芽細胞、中枢神経系細胞及び末梢神経系細胞等の神経細胞が好ましい。一方、酵母としては、限定はされないが、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が好ましく挙げられる。
形質転換細胞を得る方法、すなわち組換えベクターを宿主細胞に導入する方法としては、特に限定はされず、宿主細胞と発現ベクターとの種類の組み合わせを考慮して、適宜選択することができるが、例えば、リポフェクション法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、ヒートショック法、PEG法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、並びに、DNAウイルスやRNAウイルス等の各種ウイルスを感染させる方法などが好ましく挙げられる。
得られる形質転換細胞においては、組換えベクターに含まれる遺伝子のコドン型は、実際に用いた宿主細胞のコドン型と一致していてもよいし、異なっていてもよく、限定はされない。
以上に概要を述べた、形質転換細胞の作製方法は、本発明の形質転換細胞(変異型TDP−43形質転換細胞)の作製においても任意に適用できる。
(2)変異型TDP−43形質転換細胞
本発明の形質転換細胞において、目的タンパク質である変異型TDP−43の発現態様は、宿主細胞において安定発現する態様であってもよいし、一過性発現する態様であってもよく、特に限定はされない。ここで、本発明でいう「安定発現」とは、宿主細胞の染色体内に組み込まれた遺伝子(染色体内遺伝子)に基づく恒常的な発現を意味し、一方、「一過性発現」とは、宿主細胞内の染色体に組み込まれていない遺伝子(プラスミド等の染色体外遺伝子)に基づく非恒常的な発現を意味する。
本発明の形質転換細胞において、宿主細胞としては、限定はされないが、哺乳動物細胞がより好ましい。哺乳動物細胞としては、ヒト由来細胞であっても非ヒト由来細胞であってもよく、限定はされない。非ヒト動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ラビット、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ及びウマ等の哺乳類動物が好ましく挙げられ、中でも、マウス、ラット及びモルモット等の齧歯類(ネズミ目)動物がより好ましく、特に好ましくはマウス及びラットである。また、動物細胞の細胞種としては、限定はされないが、神経芽細胞、中枢神経系細胞、末梢神経系細胞等が特に好ましい。
宿主細胞に目的タンパク質遺伝子(変異型TDP−43遺伝子)を導入するには、前述したように、通常、これら遺伝子を含む組換えベクターを用いるが、この際、宿主細胞内で安定発現させる場合は、染色体DNAと組換え可能な公知の発現ベクター(安定発現ベクター)を用いることが好ましく、一過性発現をさせる場合は、染色体DNAとの組換えがなく細胞内で自立複製が可能な公知の発現ベクター(一過性発現ベクター)を用いることが好ましい。なお、安定発現又は一過性発現をさせる場合に用いるベクターとしては、安定発現ベクターと一過性発現ベクターとの両方の機能を有するベクターを適宜用いてもよい。安定発現ベクターは、動物細胞用のものとして、例えば、pCEP4ベクター及びpTargetベクターなどの公知のベクターを用いることができ、酵母細胞用のものとして、公知の各種ベクターを用いることができる。また、一過性発現ベクターは、動物細胞用のものとして、例えば、pcDNA3.1ベクター、pcDNA3(+)ベクター、pcDNA3(−)ベクター、pEGFP−Clベクター(GFP(詳しくはEGFP)融合タンパク質発現用ベクター)、pCEP4ベクター、及びpTargetベクターなどの公知のベクターを用いることができ、酵母細胞用のものとして、公知の各種ベクターを用いることができる。
なお、上記各種発現ベクターとしては、宿主細胞において機能するプロモーターを含むものを公知のものから適宜選択して利用し、当該プロモーターにより宿主細胞における目的タンパク質遺伝子の発現制御を行うようにする。宿主細胞において機能するプロモーターの制御下にある変異型TDP−43遺伝子を導入することができる発現ベクターが好ましい。ここで、「プロモーターの制御下にある」とは、当該プロモーターが機能して変異型TDP−43遺伝子が宿主細胞において発現され得るように、すなわち、当該プロモーターがこれら遺伝子に作用可能なように、連結されたものであることを意味する。
具体的に、中枢神経系細胞において機能するプロモーターとしては、限定はされないが、例えば、Thy−1プロモーター(脳特異的)、Neuron−Specific Enolaseプロモーター(脳特異的)及びTα1プロモーター(脳特異的)及びプリオンプロモーター(脳特異的)等の中枢神経細胞用プロモーター、並びに、グリア細胞など中枢神経系に存在し得る各種細胞用の公知のプロモーターが挙げられる。中枢神経系細胞において機能するプロモーターは、中枢神経細胞用プロモーターとしての機能と、中枢神経系に存在し得る各種細胞用プロモーターとしての機能とを両方有するものであってもよい。また、末梢神経系細胞において機能するプロモーターとしては、限定はされず、末梢神経細胞用の公知のプロモーター、及び末梢神経系に存在し得る各種細胞用の公知のプロモーターが挙げられる。末梢神経細胞用の公知のプロモーターとしては、中枢神経細胞用プロモーターとして上記列挙したものを同様に使用することができ、また末梢神経系に存在し得る各種細胞用の公知のプロモーターとしては、中枢神経系に存在し得る各種細胞用の公知のプロモーターが同様に使用することができる。末梢神経系細胞において機能するプロモーターは、末梢神経細胞用プロモーターとしての機能と、末梢神経系に存在し得る各種細胞用プロモーターとしての機能とを両方有するものであってもよい。さらに、神経芽細胞において機能するプロモーターとしては、例えば、CMVプロモーター等の公知のプロモーターが挙げられる。
発現ベクターに挿入する変異型TDP−43遺伝子は、例えば、以下の通り作製することができる。
具体的には、まず、ヒトのcDNA遺伝子ライブラリーからPCR等の方法により野生型TDP−43遺伝子断片を得て、この遺伝子断片を用いて野生型TDP−43遺伝子をスクリーニングする。野生型TDP−43遺伝子には、必要により、エピトープタグ等をコードするDNAを連結しておいてもよい。スクリーニングした野生型TDP−43遺伝子は、組換えDNA技術を用いて、適当なプラスミドベクターに挿入しておいてもよい。あるいは、上記スクリーニングをする代わりに、予め野生型TDP−43遺伝子が挿入された市販のプラスミドベクターを使用してもよい。
野生型ヒトTDP−43遺伝子の塩基配列情報(配列番号1)は、公知のデータベースから容易に入手することができ、例えば、米国生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information(NCBI),ウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov)により提供されるGenBankデータベースにおいて「アクセッション番号:NM_007375」として公表されている。配列番号1において、野生型ヒトTDP−43のコード領域(CDS)は第135番目〜第1379番目であるため、配列番号1に示す全長配列の代わりに上記コード領域を使用することも可能である。
次いで、野生型TDP−43遺伝子の塩基配列に変異を加えて、変異型TDP−43をコードする変異型TDP−43遺伝子を得る。ここで、本発明でいう変異型TDP−43とは、細胞内封入体形成活性を有するタンパク質を意味する。「細胞内封入体形成活性」とは、自己、すなわち変異型TDP−43同士が主要構成成分となって互いに凝集し、細胞内(細胞質内又は核内)において封入体を形成する活性(例えば、封入体の形成率、細胞内形成数及び大きさ)を意味し、本来凝集して封入体を形成しにくい野生型TDP−43に比べて、変異型TDP−43同士の凝集の程度が高いと認められる物性であればよい。
本発明でいう変異型TDP−43としては、具体的には、以下の(1a)〜(1d)のタンパク質が好ましく挙げられる。
(1a)野生型TDP−43のアミノ酸配列(配列番号2;GenBankデータベース「アクセッション番号:NM_031214」)において第78番目〜第84番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質
(1b)野生型TDP−43のアミノ酸配列(配列番号2)において第187番目〜第192番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質
(1c)野生型TDP−43のアミノ酸配列(配列番号2)において第78番目〜第84番目及び第187番目〜第192番目のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質
(1d)アミノ酸配列(1a)、(1b)又は(1c)において1若しくは数個(好ましくは1個〜10個程度、より好ましくは1個〜5個程度)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内封入体形成活性を有するタンパク質
また、本発明でいう変異型TDP−43としては、以下の(2a)〜(2d)のタンパク質も具体例として好ましく挙げられる。
(2a)野生型TDP−43のアミノ酸配列(配列番号2)のうちの第162番目〜第414番目のアミノ酸を含むアミノ酸配列からなるタンパク質
(2b)野生型TDP−43のアミノ酸配列(配列番号2)のうちの第218番目〜第414番目のアミノ酸を含むアミノ酸配列からなるタンパク質
(2c)野生型TDP−43のアミノ酸配列(配列番号2)のうちの第1番目〜第161番目のアミノ酸を含むアミノ酸配列からなるタンパク質
(2d)アミノ酸配列(2a)、(2b)又は(2c)において1若しくは数個(好ましくは1個〜10個程度、より好ましくは1個〜5個程度)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内封入体形成活性を有するタンパク質
ここで、上記(2a)〜(2d)のタンパク質は、野生型TDP−43の断片を含むものであると言えるが、当該断片のみからなるタンパク質であってもよいし、他のタンパク質(例えばGFP等のレポータータンパク質)との融合タンパク質であってもよく、限定はされない。なお、当該融合タンパク質をコードする遺伝子の構築は、公知の塩基配列情報及び遺伝子組換え技術により当業者であれば容易に行うことができる。
本発明でいう変異型TDP−43は、嚢胞性線維症の原因遺伝子である嚢胞性線維症膜貫通調節因子(Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR)遺伝子(配列番号16;GenBankアクセッション番号:NM_000492)のエキソン9のスキッピング活性を有しないものであることが好ましい。従来より、野生型TDP−43の機能として、CFTRエキソン9をスキップさせる活性が報告されているが(Buratti E et al.,EMBO J.,2001(前掲))、本発明でいう変異型TDP−43、特に上記(1a)〜(1d)及び(2a)〜(2d)のタンパク質は、当該スキッピング活性を有しないため、TDP−43による細胞内封入体形成と、TDP−43の機能低下との関連性は高いものと言える。なお、配列番号16に示されるCFTR遺伝子(NM_000492)の塩基配列においては、エキソン10領域が、“Buratti E et al.,EMBO J.,2001(前掲)”でいうエキソン9領域に対応するものとなる。従って、本願明細書でいう「エキソン9のスキッピング活性」とは、便宜上、“Buratti E et al.,EMBO J.,2001(前掲)”での表記(名称)を同様に使用したものであり、配列番号16に示される塩基配列を基準にする場合は、実質的には、「エキソン10のスキッピング活性」を意味することとなる。この点については、本願明細書、特許請求の範囲、図面の記載のすべてにおいて同様に解釈されるものとする。なお、上記エキソン10は、配列番号16に示される塩基配列中の第1342番目〜第1524番目の塩基からなる塩基配列である。
上記の変異型TDP−43をコードする遺伝子(変異型TDP−43遺伝子)は、例えば、Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987−1997)等に記載の部位特異的変位誘発法に準じて調製することができる。具体的には、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キットを用いて調製することができ、当該キットとしては、例えば、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Mutan−K、Mutan−Super Express Km等:タカラバイオ社製)等が好ましく挙げられる。
また、変異型TDP−43遺伝子は、後述する実施例に記載のように、野生型TDP−43をコードする塩基配列を含むDNA等をテンプレートとして、当該遺伝子を増幅するためのプライマーを設計し、適当な条件下でPCRを行うことにより、調製することもできる。PCRに用いるDNAポリメラーゼは、限定はされないが、正確性の高いDNAポリメラーゼであることが好ましく、例えば、Pwo DNAポリメラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティックス)、Pfu DNAポリメラーゼ(プロメガ)、プラチナPfx DNAポリメラーゼ(インビトロジェン)、KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡)、KOD−plus−ポリメラーゼ(東洋紡)等が好ましい。PCRの反応条件は、用いるDNAポリメラーゼの最適温度、合成するDNAの長さや種類等により適宜設定すればよいが、例えば、サイクル条件であれば「90〜98℃で5〜30秒(熱変性・解離)→50〜65℃で5〜30秒(アニーリング)→65〜80℃で30〜1200秒(合成・伸長)」を1サイクルとして合計20〜200サイクル行う条件が好ましい。
さらに本発明においては、上記のようにして得られた変異型TDP−43遺伝子の塩基配列またはそのコード領域の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、細胞内封入体形成活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を使用することもできる。「ストリンジェントな条件」としては、例えば、ハイブリダイゼーションにおいて洗浄時の塩濃度が100〜900mM、好ましくは100〜300mMであり、温度が50〜70℃、好ましくは55〜65℃の条件が挙げられる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987−1997))等を参照することができる。ハイブリダイズするDNAとしては、その相補配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは70%、さらに好ましくは80%、より一層好ましくは90%(例えば、95%以上、さらには99%)の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。
本発明の形質転換細胞は、変異型TDP−43を発現することを特徴とするが、発現をするクローンの選択や、目的タンパク質の発現の検出及び定量は、ウエスタンブロット法等の公知の方法により行うこともできる。
本発明の形質転換細胞は、変異型TDP−43を発現することのみで、その細胞内(細胞質内又は核内)封入体を形成し得るものであるが、場合によっては、変異型TDP−43を発現させた細胞をプロテアソーム阻害剤で処理することにより、当該封入体の形成が認められるものも含まれる。本発明において使用されるプロテアソーム阻害剤としては、限定はされないが、例えば、MG132、ラクタシスチン、IEAL、MG115などが挙げられる。
本発明の形質転換細胞は、ヒトのFTLD又はALS等の神経変性疾患の患者脳に見られる細胞内(細胞質内又は核内)封入体に酷似した封入体が形成されたものが好ましく、これら神経変性疾患の治療薬や治療方法を開発するための細胞モデルとして極めて有用なものである。
3.神経変性疾患の治療薬等のスクリーニング方法
本発明においては、前記2.項に記載した形質転換細胞を用いた神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法、並びに当該方法により得られる神経変性疾患の治療薬を提供することもできる。当該スクリーニング方法は、詳しくは、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させて当該細胞の細胞活性を測定し、得られる測定結果を指標として神経変性疾患の治療薬をスクリーニングするというものである。当該スクリーニング方法において、神経変性疾患としては、限定はされないが、例えば、前頭側頭葉変性症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病及びプリオン病等が挙げられるが、特にTDP−43の細胞内封入体の形成に伴う疾患(TDP−43の細胞内蓄積に伴う疾患)が好ましく挙げられる。
ここで、本発明の形質転換細胞の細胞活性としては、限定はされず、該形質転換細胞の機能及び特性等に関わる種々の活性を挙げることができる。種々の活性の測定方法は、公知の方法が採用できる。上記スクリーニング方法においては、測定対象とする細胞活性が、例えば、神経突起伸張能、生存能、増殖能、並びに変異型TDP−43細胞内封入体の形成率、細胞内形成数及び大きさ(変異型TDP−43細胞内封入体形成活性)等であることが好ましい。
例えば、本発明の形質転換細胞が、脳神経細胞等の各種神経細胞や神経芽細胞に由来するものであるときは、これら形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、神経突起伸張能の測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、高い伸長率(伸長速度)を有すると評価できれば、候補物質を神経変性疾患の治療薬として選択することができる。
また、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、増殖能の測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、高い増殖率(増殖速度)を有すると評価できれば、候補物質を神経変性疾患の治療薬として選択することができる。同様に、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、生存能の測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、長い寿命又は高い生存率を有すると評価できれば、候補物質を神経変性疾患の治療薬として選択することができる。
さらに、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、変異型TDP−43を主要構成成分とする細胞内封入体の形成率(細胞個数基準)の測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、形成率が低いと評価できれば、候補物質を神経変性疾患の治療薬として選択することができる。同様に、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、細胞あたりの上記細胞内封入体の形成数の測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、個数が少ないと評価できれば、候補物質を神経変性疾患の治療薬として選択することができる。また同様に、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、上記細胞内封入体の大きさに関する測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、初めから小さいか又はそれ以上大きくなりにくいと評価できれば、候補物質を神経変性疾患の治療薬として選択することができる。
一方、本発明は、前記2.項に記載した形質転換細胞を用いた変異型TDP−43細胞内封入体形成抑制剤のスクリーニング方法、並びに当該方法により得られる変異型TDP−43細胞内封入体形成抑制剤を提供することもできる。当該スクリーニング方法は、詳しくは、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させて当該細胞内における上記封入体形成活性(実質的には、当該形成の抑制活性)を測定し、得られる測定結果を指標として変異型TDP−43細胞内封入体形成抑制剤をスクリーニングするというものである。当該スクリーニング方法において、変異型TDP−43細胞内封入体形成活性は、細胞内封入体の形成率、細胞内形成数及び大きさ等を基準にして測定されるものであることが好ましい。
本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、変異型TDP−43を主要構成成分とする細胞内封入体の形成率(細胞個数基準)の測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、形成率が低いと評価できれば、候補物質を当該封入体形成抑制剤として選択することができる。同様に、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、細胞あたりの上記細胞内封入体の形成数の測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、個数が少ないと評価できれば、候補物質を当該封入体形成抑制剤として選択することができる。また同様に、本発明の形質転換細胞に候補物質を接触させた場合に、上記細胞内封入体の大きさに関する測定結果が、候補物質を接触させない細胞と比較して、初めから小さいか又はそれ以上大きくなりにくいと評価できれば、候補物質を当該封入体形成抑制剤として選択することができる。
4.副作用の検定方法
本発明においては、前記2.項に記載した形質転換細胞を用いた神経変性疾患の治療薬の副作用を検定する方法を提供することもできる。当該検定方法は、詳しくは、本発明の形質転換細胞に神経変性疾患の治療薬を接触させて当該細胞の細胞活性を測定し、得られる測定結果を指標として神経変性疾患の治療薬の副作用を検定するというものである。当該検定方法において、神経変性疾患としては、例えば、前頭側頭葉変性症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病及びプリオン病等が挙げられるが、特にTDP−43の細胞内封入体の形成に伴う疾患(TDP−43の細胞内蓄積に伴う疾患)が好ましく挙げられる。
ここで、本発明の形質転換細胞の細胞活性としては、限定はされず、該形質転換細胞の機能及び特性等に関わる種々の活性を挙げることができる。種々の活性の測定方法は、公知の方法が採用できる。上記検定方法においては、測定対象とする細胞活性が、例えば、神経突起伸張能、増殖能及び生存能であることが、特に好ましい。
例えば、本発明の形質転換細胞が、脳神経細胞等の各種神経細胞や神経芽細胞に由来するものであるときは、これら細胞に神経変性疾患の治療薬を接触させた場合に、神経突起伸張能の測定結果が、当該治療薬を接触させない細胞と比較して、同等又は高い伸長率(伸長速度)を有すると評価できれば、当該治療薬が副作用を有しないと判断することができる。
また、本発明の形質転換細胞に神経変性疾患の治療薬を接触させた場合に、増殖能の測定結果が、当該治療薬を接触させない細胞と比較して、同等又は高い増殖率(増殖速度)を有すると評価できれば、当該治療薬が副作用を有しないと判断することができる。同様に、本発明の形質転換細胞に神経変性疾患の治療薬を接触させた場合に、生存能の測定結果が、当該治療薬を接触させない細胞と比較して、同等若しくは長い寿命又は同等若しくは高い生存率を有すると評価できれば、当該治療薬が副作用を有しないと判断することができる。
5.治療用及び予防用医薬組成物
本発明の神経変性疾患の治療用及び/又は予防用医薬組成物は、前述したように、有効成分としてメチレンブルー(Methylene Blue)及び/又はディメボン(Dimebone)といった低分子化合物を含むことを特徴とする医薬組成物である。メチレンブルー及びディメボンは、神経変性疾患、例えば、前頭側頭葉変性症又は筋萎縮性側索硬化症、特にTDP−43の細胞内封入体の形成に伴う神経変性疾患に対して、TDP−43細胞内封入体の形成を効果的に抑制することができるため、当該疾患の治療及び予防に有用なものである。
なお、本発明は、被験者(神経変性疾患若しくはその恐れのある患者、又は健常者)にメチレンブルー及び/又はディメボンを投与することを特徴とする神経変性疾患の治療及び/又は予防方法を含むものである。また、本発明は、神経変性疾患の治療及び/又は予防のための薬剤の製造ためのメチレンブルー及び/又はディメボンの使用を含むものであり、さらには、メチレンブルー及び/又はディメボンを含むことを特徴とする神経変性疾患の治療及び/又は予防用キットを提供することもできる。
本発明の医薬組成物等においては、メチレンブルー及びディメボンと同様に、エキシフォン、ゴシペチン及びコンゴレッド等の低分子化合物も、TDP−43細胞内封入体形成抑制効果を有する有効成分として、使用することができる。
(1)有効成分の配合割合
本発明の医薬組成物において、有効成分であるメチレンブルー及びディメボンの配合割合は特に限定はされないが、例えば、神経変性疾患の治療用医薬組成物(神経変性疾患治療薬)である場合、メチレンブルーは、0.01〜30重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜20重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%であり、ディメボンは、0.01〜30重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜20重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。また、本発明の医薬組成物においては、メチレンブルー及びディメボンは、いずれか一方のみ用いてもよいし(単剤処理)、両者を併用してもよく(併用処理)、限定はされない。メチレンブルー及びディメボンの併用の場合、本発明の医薬組成物におけるこれら有効成分の合計配合割合は、0.01〜30重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜20重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。
(2)その他の成分
本発明の医薬組成物は、有効成分であるメチレンブルー及びディメボン以外にも、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、他の構成成分を含んでいてもよく、限定はされず、例えば、後述するような薬剤製造上一般に用いられるもの等を含むことができる。
(3)用法、用量
本発明の医薬組成物の体内への投与は、例えば、非経口または経口等の公知の用法で行うことができ、限定はされないが、好ましくは非経口である。
これら各種用法に用いる製剤(非経口剤や経口剤等)は、薬剤製造上一般に用いられる賦形材、充填材、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
本発明の治療用及び予防用医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況や、投与経路、投与回数(/1日)、投与期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。
本発明の医薬組成物を、非経口剤又は経口剤として用いる場合について、以下に具体的に説明する。
非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されず、例えば、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、坐剤等のいずれであってもよい。各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供され得る。当該非経口剤には、前述した有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコールや、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリアルコール等が挙げられる。
非経口剤の投与量(1日あたり)は、限定はされないが、例えば各種注射剤であれば、一般には、前述した有効成分を、適用対象(患者)の体重1kgあたり0.1〜50mg服用できる量であることが好ましく、より好ましくは0.5〜20mgであり、さらに好ましくは1〜10mgである。
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれであってもよいし、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。当該経口剤には、前述した有効成分のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
経口剤の投与量(1日あたり)は、一般には、前述した有効成分を、適用対象(被験者;患者)の体重1kgあたり0.1〜100mg服用できる量であることが好ましく、より好ましくは0.5〜50mgであり、さらに好ましくは1〜10mgである。経口剤中の有効成分の配合割合は、限定はされず、1日あたりの投与回数等を考慮して、適宜設定することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
(1)材料及び方法
各種プラスミドベクターの構築
pRc−CMVベクター(Buratti et al.,EMBO J.,2001(前掲)参照)のCMVプロモーター下流のNot Iサイト及びApa Iサイト間にヒトTDP−43遺伝子(配列番号1)が挿入されたベクター(pRc−CMV−TDP−43)を鋳型として、PCR法により、ヒトTDP−43遺伝子のコード領域を増幅した。当該PCRは、下記のプライマーセットを使用し、下記の反応液組成及び反応条件で行った。
<プライマーセット>
Fプライマー:
Rプライマー:
<反応液組成>
<反応条件>
「95℃で30秒間の熱変性・解離→50℃で30秒間のアニーリング→72℃で120秒間の合成・伸長」を1サイクルとするサイクル条件で、計30サイクル。
上記PCRにより得られた増幅断片を、pcDNA3(+)ベクター(インビトロジェン社)のMCSのBamHIサイトおよびXbaIサイト間に挿入し、pcDNA3−TDP43 WTベクターを作製した。
次いで、pcDNA3−TDP43 WTを鋳型とし、QuickChange Site−directed Mutagenesis Kit(ストラテジーン社)を用いて、TDP−43の核移行シグナル(NLS1,アミノ酸残基番号:78−84,図2参照)の欠損変異体、核移行シグナル類似配列(NLS2,アミノ酸残基番号:187−192,図2参照)の欠損変異体、およびこれら両方の欠損変異体をコードする塩基配列を有するプラスミドベクターを、それぞれ作製した。各ベクターの名称及び概要を以下に列挙した。
・pcDNA3−TDP43 WT:
野生型TDP−43(アミノ酸残基番号:1−414(全長))をコード。
・pcDNA3−TDP43−ΔNLS1:
NLS1欠損変異体(アミノ酸残基番号:78−84を欠損)をコード。
・pcDNA3−TDP43−ΔNLS2:
NLS2欠損変異体(アミノ酸残基番号:187−192を欠損)をコード。
・pcDNA3−TDP43−ΔNLS1&2:
NLS1及びNLS2の両欠損変異体(アミノ酸残基番号:74−84及びアミノ酸残基番号:187−192を欠損)をコード。
さらに、野生型TDP−43又はその一部と、GFPとの融合タンパク質をコードする塩基配列を有するプラスミドベクターを作製した。具体的には、まず、pcDNA3−TDP43 WTを鋳型として、PCR法により、野生型TDP−43をコードする塩基配列の全部又は所望の一部を増幅した。当該PCRは、下記のいずれがのプライマーセットを使用し、下記の反応液組成及び反応条件で行った。
<プライマーセット>
・野生型TDP−43(アミノ酸残基番号:1−414)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
・TDP−43の一部(アミノ酸残基番号:162−414)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
・TDP−43の一部(アミノ酸残基番号:218−414)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
・TDP−43の一部(アミノ酸残基番号:274−414)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
・TDP−43の一部(アミノ酸残基番号:315−414)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
・TDP−43の一部(アミノ酸残基番号:1−161)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
・TDP−43の一部(アミノ酸残基番号:1−217)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
・TDP−43の一部(アミノ酸残基番号:1−273)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
・TDP−43の一部(アミノ酸残基番号:1−314)をコードする塩基配列の増幅用
Fプライマー:
Rプライマー:
<反応液組成>
<反応条件>
「95℃で30秒間の熱変性・解離→55℃で30秒間のアニーリング→72℃で120秒間の合成・伸長」を1サイクルとするサイクル条件で、計30サイクル。
上記PCRにより得られた各増幅断片を、それぞれpEGFP−Cl(クロンテック社;GenBankアクセッション番号:U55763)のMCSのBamHIサイトおよびXhoIサイト間に挿入し、GFPとの融合タンパク質をコードする塩基配列を有するプラスミドベクターを、それぞれ作製した。各ベクターの名称及び概要を以下に列挙した。
・GFP−TDP−43 WT:
GFPと野生型TDP−43(アミノ酸残基番号:1−414(全長))との融合タンパク質をコード。
・GFP−TDP 162−414:
GFPとTDP−43の一部(アミノ酸残基番号:162−414)との融合タンパク質をコード。
・GFP−TDP 218−414:
GFPとTDP−43の一部(アミノ酸残基番号:218−414)との融合タンパク質をコード。
・GFP−TDP 274−414:
GFPとTDP−43の一部(アミノ酸残基番号:274−414)との融合タンパク質をコード。
・GFP−TDP315−414:
GFPとTDP−43の一部(アミノ酸残基番号:315−414)との融合タンパク質をコード。
・GFP−TDP 1−161:
GFPとTDP−43の一部(アミノ酸残基番号:1−161)との融合タンパク質をコード。
・GFP−TDP 1−217:
GFPとTDP−43の一部(アミノ酸残基番号:1−217)との融合タンパク質をコード。
・GFP−TDP 1−273:
GFPとTDP43の一部(アミノ酸残基番号:1−273)との融合タンパク質をコード。
・GFP−TDP 1−314:
GFPとTDP−43の一部(アミノ酸残基番号:1−314)との融合タンパク質をコード。
TDP−43の機能解析を行うために、嚢胞性線維症の原因遺伝子である嚢胞性線維症膜貫通調節因子(Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR)のエキソン9およびその前後のイントロンを含む領域をコードするプラスミドベクターを作製した。すなわち、ヒト健常者由来の染色体DNAよりPCR法を用いて、CFTR遺伝子(GenBankアクセッション番号:NM_000492)の塩基配列(配列番号16)中のエキソン10(“Buratti E et al.,EMBO J.,2001(前掲)”でいうエキソン9に対応)の上流側221番目の塩基から当該エキソン10の下流側266番目の塩基までの計670塩基(配列番号16に示される塩基配列中の第1130番目〜第1790番目の塩基)からなる塩基配列領域を増幅した。当該PCRは、下記のプライマーセットを使用し、下記の反応液組成及び反応条件で行った。
<プライマーセット>
Fプライマー:
Rプライマー:
<反応液組成>
<反応条件>
「95℃で30秒間の熱変性・解離→60℃で30秒間のアニーリング→72℃で120秒間の合成・伸長」を1サイクルとするサイクル条件で、計35サイクル。
上記PCRにより得られた増幅断片を、pSPL3ベクター(GIBCO BRL社;GenBankアクセッション番号:U19867)のMCSのEcoRIサイトおよびXhoIサイト間に挿入して、pSPL3−CFTRex9ベクターを作製した。
SH−SY5Y細胞の培養およびプラスミドベクターの導入
神経芽細胞SH−SY5Yは、10%仔牛血清を含むDMEM/F12培地を用いて37℃、5%COの条件のインキュベーター中で培養した。
上記の各種プラスミドベクター(pcDNA3系又はpEGFP系,1μg)は、FuGENE6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いてSH−SY5Y細胞に導入した。総プラスミド量の3倍容量のFuGENE6をプラスミドと混合し、15分間室温で静置した後、細胞液に混合した。2〜3日間培養を行い、細胞ライセートの調製又は免疫組織染色などに用いた。
共焦点レーザー顕微鏡による観察
カバーガラス上で培養したSH−SY5Y細胞に、各種発現ベクター(1μg)を混合して、FuGENE6の存在下で添加した。2日間の培養の後、細胞の固定又はプロテアーゼ阻害剤処理を行った。プロテアーゼ阻害剤処理では、細胞に終濃度で20μM MG132(プロテアソーム阻害剤)又はcarbobenzoxy−leucyl−leucinal(zLL:カルパイン阻害剤)を添加し、37℃で6時間培養を行った。その後、細胞は4%パラホルムアルデヒド溶液中で固定した。固定した細胞は、0.2% Triton X−100で処理したのち、5%牛血清アルブミン溶液でブロッキングして、一次抗体と37℃で1時間反応させた。0.05% Tween20および150mM NaClを含む50mM Tris−HCl,pH7.5(TBS−T)で洗浄した後、蛍光標識した二次抗体と37℃で1時間反応させた。TBS−Tで洗浄したのち、細胞はTO−PRO−3(インビトロジェン社,3,000倍希釈)と37℃で1時間反応させて核染色を行った。これをスライドガラス上で封入したのち、共焦点レーザー顕微鏡(カールツァイス社)で解析した。
使用した一次抗体および蛍光標識した二次抗体は、以下の通りである。
・一次抗体:
anti−TARDBP(ProteinTech社,1:1000希釈);
anti−pS409/410(TDP−43の第409番目及び第410番目のSer残基が共にリン酸化されたペプチドを抗原として得られた抗体(TDP−43凝集物に特異的に結合する抗体),1:500希釈);
anti−Ubiquitin(MAB1510,CHEMICON社,1:500希釈)
・蛍光標識二次抗体:
FITC標識した抗ウサギIgG(抗ウサギイムノグロブリン,FITC標識,製品番号:F9887,シグマ社,1500希釈);
ローダミン標識した抗マウスIgG(抗マウスイムノグロブリン,TRITC標識,製品番号:T2402,シグマ社,1:500希釈)
なお、上記一次抗体のanti−pS409/410抗体は、以下のようにして作製した。
(i)抗原の調製
抗原となるペプチドとして、ヒトTDP−43のアミノ酸配列(配列番号2)におけるアミノ酸残基番号405−414のアミノ酸のN末端にシステインを付加した配列を有し、かつセリン残基がリン酸化されているペプチド
(CMDSKS(PO)S(PO)GWGM(配列番号19))を、固相法により合成した(シグマジェノシス、又はサーモクエスト)。ここで、当該ペプチド中、S(PO)はリン酸化セリンを表す。また、カラム作製、コントロール等に使用するため、非リン酸化ペプチド(MDSKSSGWGM(配列番号20);配列番号2に示されるアミノ酸配列中のアミノ酸残基番号405−414)も合成した。
(ii)免疫
上記合成ペプチドをThyroglobulin又はKLHと定法に従ってコンジュゲートし、抗原として用いた。抗原ペプチドを含有する1mlの1mg/ml抗原ペプチド生理食塩水溶液と1mlのフロイント完全アジュバント(Difco社)を合わせ、超音波処理によってエマルジョン化し、ウサギ(ニュージーランドホワイト、体重2.5kg、雌)の背中に数カ所以上に分けて免疫した。初回免疫から2週間後に0.5mlの1mg/ml抗原ペプチド生理食塩溶液と1mlのフロイント不完全アジュバントを合わせ、超音波処理によりエマルジョン化したものを追加免疫した。免疫から1週間後に採血を行い、採取した血液は室温で1時間静置後、4℃で一晩静置し、5000×gで10分間遠心分離処理を行い、抗血清を得た。
(iii)抗体の精製
抗体を精製するため、ホルミルセルロファイン(生化学工業社)又はトヨパールAFトレシル650M(東ソー社)約2mlに対し、前記非リン酸化合成ペプチド約2mgを反応させたカラムを作製した。抗血清2mlをこのカラムにおいて10〜20時間循環させ、カラムに吸着されなかった抗体を、抗リン酸化TDP−43抗体(anti−pS409/410)とした。
エキソンスキッピングアッセイ
各種のTDP−43変異体の機能を調べるために、嚢胞性線維症の原因遺伝子である嚢胞性線維症膜貫通調節因子(Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator:CFTR)のエキソン9のスキッピングアッセイを行った。6ウェルプレートに播種したcos7細胞に、0.5μgのpSPL3−CFTRex9および1μgの各種TPD−43発現ベクターを混合して、FuGENE6の存在下で添加した。そのまま2日間培養を行った後、細胞を回収して、GIBCO BRL社のExon Trapping Systemの使用説明書に従って試料を調製し、1.3%アガロースゲルを用いた電気泳動により解析した。
低分子化合物の添加による細胞内封入体形成の抑制
細胞としてはヒト神経芽細胞株SH−SY5Y細胞を用い、各種TDP−43変異体のうち強い細胞内封入体形成が認められたpEGFP−TDP 162−414(GFP−TDP 162−414)およびpcDNA3−TDP deltaNLS1&2(TDP deltaNLS1&2)を用いて、上記封入体形成の阻害剤の検索を行った。
SH−SY5Y細胞への遺伝子導入は、前述した「SH−SY5Y細胞の培養およびプラスミドベクターの導入」に記載の方法に従い、各種プラスミド1μgを3倍容量のトランスフェクション試薬(FuGENE6:3μl)により細胞に導入した。
候補阻害剤による処理は、遺伝子導入から2時間後に開始した。候補阻害剤としては、メチレンブルー(Methylene Blue)およびディメボン(Dimebone)について検討した。メチレンブルーはDMSOに溶解し、終濃度が0μM、0.05μM及び0.1μMになるように培養液に添加することにより処理を開始した。一方、ディメボンは滅菌水に溶解し、終濃度が0μM、20μMおよび60μMになるように培養液中に添加することにより処理を開始した。なお、メチレンブルーの濃度は細胞増殖へのダメージがない濃度条件をあらかじめ検討し、上記濃度に決定した。一方、ディメボンの濃度については参考文献(Jun Wu et al.,Molecular Neurodegeneration,2008,vol.3,p.15)を参考にし、調製法(滅菌水に懸濁)については試薬提供者の指示に従った。
候補阻害剤の添加から3日後、前述した「共焦点レーザー顕微鏡による観察」に記載の方法に従い、細胞の状態を観察した。候補阻害剤処理から3日後の細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.2% TritonX−100にて膜透過処理を行った後、5%牛血清アルブミン溶液でブロッキングし、一次抗体と37℃で1時間反応させた。0.05% Tween20および150mM NaClを含む50mM Tris−HCl,pH7.5(TBS−T)で洗浄した後、蛍光標識した二次抗体と37℃で1時間反応させた。TBS−Tで洗浄した後、細胞はTO−PRO−3(インビトロジェン社,3,000倍希釈)と37℃で1時間反応させて核染色を行った。これをスライドガラス上で封入して、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社)で解析した。なお、今回使用した一次抗体および蛍光標識した二次抗体は、以下の通りである。
pEGFP−TDP 162−414(GFP−TDP 162−414)に対して
一次抗体:
・anti−pS409/410(TDP−43の第409番目および第410番目のアミノ酸残基のSerが共にリン酸化されたペプチドを抗原として得られた抗体であって、TDP−43凝集物に特異的に結合する抗体(本発明者により作製),1:500希釈)
蛍光標識二次抗体:
・Alexa−568標識した抗マウスIgG(1:500希釈)
共焦点レーザー顕微鏡による観察像:
TDPが緑色(ベクター由来のGFP)、リン酸化TDPが赤色で確認される。
pcDNA3−TDP deltaNLS1&2(TDP deltaNLS1&2)に対して
一次抗体:
・anti−pS409/410(TDP−43の第409番目および第410番目のアミノ酸残基のSerが共にリン酸化されたペプチドを抗原として得られた抗体であって、TDP−43凝集物に特異的に結合する抗体(本発明者により作製),1:500希釈)
・anti−Ubiquitin(MAB1510,CHEMICON社,1:500希釈)
蛍光標識二次抗体:
・Fluorescein isothiocyanate(FITC)標識した抗ウサギIgG(シグマ社、1:500希釈)
・Alexa−568標識した抗マウスIgG(1:500希釈)
共焦点レーザー顕微鏡による観察像:
リン酸化TDPが緑色、ユビキチンが赤色で確認される。
共焦点レーザー顕微鏡による検鏡に際しては、細胞内封入体のみが検出できるようにレーザー出力(緑)を設定した(図19及び21)。
pcDNA3−TDP deltaNLS1&2(TDP deltaNLS1&2)では、リン酸化TDP(緑)の強度と細胞数を示すTO−PRO−3(青)の強度とを、pEGFP−TDP 162−414(GFP−TDP 162−414)では、TDP(緑)の強度と細胞数を示すTO−PRO−3(青)の強度とを、それぞれLSM5 Pascal v4.0ソフトウェア(Carl Zeiss)を用いてそれぞれ算出し、全細胞数(青)に対する封入体形成細胞数(緑)の割合(Cell with aggregates(%))を求め、グラフに表した。その結果を、図20及び22(メチレンブルー又はディメボンの単剤処理)、並びに図23及び24(メチレンブルー及びディメボンの併用処理)に示した。
(2)結果及び考察
核移行シグナル(NLS)の同定
TDP−43のNLSの同定を行った。NLSは、一般的に、塩基性アミノ酸が数残基連なった配列として知られている(図3)。最もよく知られているNLSとして、SV40のT抗原に存在する配列(PKKKRKV:配列番号21)が知られており、この配列を基にTDP−43アミノ酸配列(図2)より、NLS配列の検索を行った。その結果、2カ所の候補配列を見いだし(図2:NLS1およびNLS2)、NLSを同定するために、NLS候補配列(NLS1:78−84残基,NLS2:187−192残基)をそれぞれ欠損させた変異体(ΔNLS1およびΔNLS2)を作製し、野生型と共にSH−SY5Y細胞に一過性に発現させ、共焦点レーザー顕微鏡により観察した(図3)。その結果、図4に示したように、野生型の発現は核に認められたが、ΔNLS1の発現は核ではなく、細胞質に認められた。また、ΔNLS2の発現は核に認められたが、野生型の場合とは異なり、核内に顆粒状の構造物として検出された。以上のことから、NLS1のアミノ酸配列(図2)が核移行シグナルであることが分かった。しかしながら、野生型を含め、いずれの変異体を発現させても、発現させただけでは細胞内封入体は形成されないことも分かった。また、市販の抗体(anti−TARDBP)では、プラスミドによる外来のTDP−43だけでなく、細胞に元々存在する内在性TDP−43もよく染色されることが分かった(図4のnone:pcDNA3(+)ベクターそのものをトランスフェクトした場合)。
核内封入体の出現
次に、野生型TDP−43や各種欠損変異体をSH−SY5Y細胞に発現させ、発現細胞をプロテアソーム阻害剤であるMG132で処理し、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った。各種プラスミドをSH−SY5Y細胞にトランスフェクションした後、37℃で48時間インキュベートし、そこに20μMのMG132を添加して、さらに37℃で6時間インキュベートした。細胞を固定した後に、市販のTDP−43ポリクローナル抗体(anti−TARDBP)で染色したところ、図5に示したように、野生型TDP−43やNLS1欠損変異体の発現細胞では、未添加の場合(図5:上)と比較して、特に顕著な差は見られなかったが、NLS2欠損変異体の発現細胞では、MG132処理により核内に封入体が認められた。また、MG132に構造が類似したカルパイン阻害剤であるzLL処理を行ってみたが、特に発現パターンの変化は見られなかった(データは示さず)。
この核内封入体が、FTLD又はALS患者脳で見られる核内封入体と同じ性質を有するかどうかを調べる目的で、前述のリン酸化TDP−43特異抗体(anti−pS409/410)および抗ユビキチン抗体(anti−Ubiquitin)による染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った。その結果、MG132未処理の試料において、anti−pS409/410抗体に陽性な核内の顆粒状の構造物が検出できたが、anti−Ubiquitinでは何も染色されなかった(図6:左)。この結果より、リン酸化TDP−43特異抗体であるanti−pS409/410は、正常の細胞に存在する内在性TDP−43を全く検出しないことが再確認できた。一方、MG132処理した試料においては(図6:右)、anti−pS409/410およびanti−Ubiquitinのどちらにも陽性な核内封入体が出現し、その直径は約10μmであることが確認された。この結果より、NLS2欠損変異体の発現細胞にMG132処理した場合に出現する核内封入体は、FTLD又はALS患者脳で見られる核内封入体(図1:左)と同様に、リン酸化およびユビキチン化されており、その大きさもほぼ同じであることが分かった。
細胞質封入体の出現
核移行シグナルを除去したNLS1欠損変異体を発現させたSH−SY5Y細胞にMG132処理を行い、市販のTDP−43抗体(anti−TARDBP)で染色を行った場合には、図5(ΔNLS1)に示したように、細胞質封入体は認められなかったので、次にリン酸化TDP−43抗体(anti−pS409/410)での染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。その結果、anti−TARDBPではMG132処理後においても細胞質封入体は見られなかったが(図5:ΔNLS1)、anti−pS409/410による染色により、anti−pS409/410陽性の細胞質封入体が観察できた(図7:右)。図6の核内封入体と同様に、この細胞質封入体も、わずかではあるがanti−Ubiquitin陽性であった。またこの細胞質封入体の直径は、約10μmであった。また、カルパイン阻害剤であるzLLを同様に処理してみたが、細胞内封入体は全く見られず、未処理の場合と全く同様な結果であった(データは示さず)。
さらに、NLS1及びNLS2の両配列を除去した欠損変異体(ΔNLS1&2)を発現させたSH−SY5Y細胞に、anti−pS409/410およびanti−Ubiquitinによる免疫染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った。その結果、図8に示したように、ΔNLS1&2発現細胞では、MG132処理無しで、すなわちプラスミドを発現させただけで、細胞質にanti−pS409/410及びanti−Ubiquitin抗体に陽性な細胞質封入体が認められた。これらの細胞質封入体の直径は、約10μmであった。
GFP融合タンパク質の発現
本発明者らにより、FTLD患者脳より、界面活性剤に不溶性の画分を調製し、市販のポリクローナル抗体(anti−TARDBP)でイムノブロットを行うと、20〜35kDa付近にバンドが認められ、これらは正常コントロール脳より調製した同じ画分においては全く認められないことが明らかにされている(Arai T et al.,Res.Commun.,2006,vol.351(3),p.602−611(前掲);Neumann M et al.,Science,2006,vol.314(5796),p.130−133(前掲))。このことは、患者脳においては、全長TDP−43だけでなく、TDP−43の部分断片が高度に不溶化し、蓄積していることを示している。そこで、種々のTDP−43断片を発現させるプラスミドを作製して、SH−SY5Y細胞に導入し、当該断片を発現させた。まず、常法に従い、pcDNA3(+)ベクターにTDP−43の162−414残基目までのC末端側断片を導入し(pcDNA3−TDPΔN161)、FuGENE6にて細胞にトランスフェクトした。37℃で2日間インキュベートした後、細胞を回収してanti−TARDBP抗体によるイムノブロット解析を行ったが、その発現は全く認められなかった(データは示さず)。そこで、次に、TDP−43の162−414残基の断片のN末端側にGFPタグを融合させた融合体タンパク質(GFP−TDP 162−414)を細胞に発現させたところ、その発現は認められた(図11)。したがって、野生型TDP−43および各種TDP−43断片をGFPのC末端側に融合させたタンパク質をコードするプラスミドを作製し(図9)、これらをSH−SY5Y細胞に発現させ、anti−pS409/410あるいはanti−Ubiquitin抗体による染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡観察を行った。
その結果を図10〜15に示した。まず、GFPのみを発現させた場合(図10:左)、核および細胞質における典型的なGFPの発現パターンが確認できた。次に、GFP−TDP WTを発現させた場合(図10:右)、その発現は核にのみ認められた。したがって、GFPタグが結合することによる人為的な影響によって、GFPが融合したTDP−43の発現パターンが変化することは無いことが分かった。TDP−43のN末端側の161残基を除去したGFP−TDP 162−414を発現させた場合(図11)は、anti−pS409/410およびanti−Ubiquitin抗体に陽性な細胞内封入体が出現した。この封入体は、GFP−TDP 218−414を発現させた場合にも認められた(図12)。しかし、さらにN末端側を除去したGFP−TDP 274−414あるいは315−414を発現させた細胞においては、このような細胞内封入体は全く認められなかった(図13)。したがって、GFP−TDP 162−414およびGFP−TDP 218−414変異体を細胞に発現させると、患者脳に特徴的に認められる、リン酸化およびユビキチン化TDPからなる細胞内封入体に類似した異常構造物が出現することが分かった。
同様に、C末端側を除去した変異体を作製し、これらも細胞に一過性に発現させた。その結果、162残基目以降を除去したGFP−TDP 1−161を発現した場合にのみ、anti−pS409/410およびanti−Ubiquitin陽性の顕著な細胞内封入体を観察することができた。その他のN末端断片を発現させても、特に細胞内封入体は認められなかった(図14,15)。なお、C末端側を除去した変異体を発現させた場合の解析では、それらの変異体にリン酸化部位(409番目及び410番目のSer)が存在しないため、抗リン酸化TDP−43抗体(anti−pS409/410)は使用しなかった。
以上の結果より、種々のTDP−43変異体あるいはGFPが融合したTDP−43タンパク質を細胞に発現させ、場合によっては、プロテアソーム阻害処理と組み合わせることによって、培養細胞内に、患者脳に特徴的に見られる異常な細胞内封入体を再現することに成功した。
CFTRエキソン9スキッピングアッセイ
上記の細胞内封入体が出現したTDP−43変異体あるいはGFP融合タンパク質が、野生型TDP−43と機能的に異なるかどうかを調べるために、TDP−43によるCFTRエキソン9スキッピングアッセイを行った。
TDP−43の機能として、CFTRエキソン9をスキップさせる活性が報告されている(Buratti E et al.,EMBO J.,2001(前掲))。すなわち、嚢胞性線維症の一種である先天性両側完全精管欠損症と呼ばれる病気は、CFTRのエキソン9の欠失による未成熟CFTRの機能異常により発症することが知られている(Buratti E et al.,EMBO J.,2001(前掲))。このエキソン9の欠失にTDP−43が関与していることが報告されており、CFTRのエキソン9の上流のイントロン内に存在する特定の塩基(TG及びT)のリピート配列にTDP−43が結合し、エキソン9のスキッピングがなされる。このようなTDP−43のCFTRエキソン9のスキッピング活性に注目し、この活性を指標に野生型と各種変異体を比較した。
簡単なスキームを図16に示した。前述したように、CFTRエキソン9の上流のイントロンを含む領域を正常健常者よりクローニングし、pSPL3ベクターに挿入し、pSPL3−CFTR ex9ベクターを作製した。これを、各種TDP−43変異体あるいはGFP融合体と共にcos7細胞に発現し、発現細胞よりmRNAを調製し、PCR解析を行った。
発現細胞内において、エキソン9がスキップされる場合は、117bpのバンドが検出され、エキソン9がスキップされない場合は、361bpのバンドが検出されることになる(図16)。発現細胞の試料をPCR解析し、アガロースゲル電気泳動を行った結果、NLS1欠損変異体、NLS2欠損変異体、及びNLS1&2欠損変異体を発現させた場合は、野生型TDP−43を発現させた場合とは異なり、エキソン9がスキップされたバンドは全く検出されなかった(図17)。すなわち、細胞内封入体の形成が観察された3種類の変異体には、CFTRエキソン9のスキッピング活性が存在しないことが分かった。同様に、GFP融合タンパク質とpSPL3−CFTR ex9とを共発現させた場合には、細胞内封入体が認められたGFP−TDP 162−414、GFP−TDP 218−414、及びGFP−TDP 1−161の3種類において、CFTRエキソン9スキッピング活性は認められなかった(図18)。野生型TDP−43のGFP融合体(GFP−TDP−43 WT)の発現では、CFTRエキソン9スキッピング活性が認められていることから(図18)、これらの結果は、GFPを融合したことによる人為的な効果ではないことも分かった。
以上の結果より、TDP−43の欠損変異体およびGFP融合体において、細胞内封入体形成が認められた変異体にはCFTRエキソン9スキッピング活性がなく、TDP−43による細胞内封入体形成は、その機能低下と関連することが示された。この結果は、TDP−43の細胞内封入体形成のメカニズムの解明に大きく貢献するものであり、かつFTLDやALS発症機構ならびにそれらの治療薬の開発につながるものと考えられた。
低分子化合物によるTDP−43細胞内封入体形成の抑制
細胞内封入体形成が認められたpEGFP−TDP 162−414(GFP−TDP 162−414)およびpcDNA3−TDP deltaNLS1&2(TDP deltaNLS1&2)を用いて、封入体形成を抑制する低分子化合物の検索を行った結果、どちらの欠損変異体においてもメチレンブルーでは0.05μMという低濃度において阻害効果が確認され、その効果は濃度依存的に増強した(図19及び20)。一方、ディメボンも20μMにおいて阻害効果が確認され、その効果は濃度依存に増強した(図21及び22)。さらに、メチレンブルー及びディメボンを併用し、両者を同時に添加すると、その効果はさらに増強し、メチレンブルー0.025μMおよびディメボン5〜10μMという低濃度においても、未処理時に比べて70〜85%ほどの阻害効果が認められた(図23及び24)。このことから、メチレンブルー及びディメボンは、神経変性疾患、特にTDP−43の細胞内封入体の形成に伴う神経変性疾患の治療薬の有効成分として有用なものであると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明によれば、FTLDやALS等の神経変性疾患の患者脳に見られる、TAR DNA−binding protein of 43kDa(TDP−43)の細胞内封入体を形成する形質転換細胞(細胞モデル)を提供することができる。また、そのようなTDP−43細胞内封入体の主要構成成分となる変異型TDP−43タンパク質やTDP−43タンパク質断片を提供することができる。
本発明により提供される細胞モデルで形成されるTDP−43細胞内封入体は、上記患者脳に見られる封入体と非常によく似た性質を有しており、大きさだけでなく、抗リン酸化TDP−43抗体及び抗ユビキチン抗体に陽性のものである。本発明の形質転換細胞は、TDP−43の核内又は細胞質内蓄積を抑制する化合物や遺伝子などのスクリーニング、並びにFTLDやALS等の神経変性疾患に対する新規治療薬等の開発に用いることができる点で、極めて有用なものであり、実際に、本発明者により、当該形質転換細胞を用いてTDP−43細胞質内蓄積(TDP−43細胞内封入体形成)を抑制する化合物(メチレンブルーやディメボン)が見出された点でも、極めて実用性に優れたものである。
【配列表フリーテキスト】
【0008】
配列番号3:合成DNA
配列番号4:合成DNA
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
配列番号9:合成DNA
配列番号10:合成DNA
配列番号11:合成DNA
配列番号12:合成DNA
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
配列番号15:合成DNA
配列番号17:合成DNA
配列番号18:合成DNA
配列番号19:リン酸化合成ペプチド
配列番号19:Serはリン酸化されたセリン残基を表す(存在位置:6、7)。
配列番号20:合成ペプチド
[配列表]
図2
図20
図22
図23
図24
図1
図3
図4
図5
図6
図7
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