(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667903
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/32 20060101AFI20150122BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
B60H1/32 613C
F28D20/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-27165(P2011-27165)
(22)【出願日】2011年2月10日
(65)【公開番号】特開2012-166601(P2012-166601A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】512025676
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン・サーマル・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 理
【審査官】
小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−337537(JP,A)
【文献】
特開2003−336980(JP,A)
【文献】
特開2002−130904(JP,A)
【文献】
特開2010−149814(JP,A)
【文献】
特開2001−030749(JP,A)
【文献】
特開2001−071734(JP,A)
【文献】
米国特許第06330909(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0021366(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、コンデンサと、空気通路を有するケーシング内に配置された蓄冷機能付きエバポレータとを備え、かつ停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両に用いられる空調装置であって、蓄冷機能付きエバポレータの熱交換コア部が、上下方向にのびる複数の冷媒流通管と、上下方向にのびるとともに内部にパラフィン系の蓄冷材が封入された複数の蓄冷材容器とを備え、蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている車両用空調装置において、
蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率が70〜80%であり、
蓄冷機能付きエバポレータが、熱交換コア部が空気通路に位置し、かつ熱交換コア部の冷媒流通管および蓄冷材容器の上端が、下端よりも通風方向の上流側または下流側にくるように傾斜した状態で配置され、蓄冷材容器の傾斜方向側縁部の上端と、空気通路における蓄冷材容器の傾斜方向側縁部が向いている側の部分の上端とが等しくなっており、傾斜した蓄冷材容器内の蓄冷材の液面が、蓄冷材容器の傾斜方向側縁部の鉛直高さにおける下端から90%以上の高さ部分に位置している車両用空調装置。
【請求項2】
蓄冷機能付きエバポレータにおける傾斜した蓄冷材容器内の蓄冷材の液面が、蓄冷材容器の傾斜方向側縁部の鉛直高さの上端に位置している請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
蓄冷機能付きエバポレータの冷媒流通管および蓄冷材容器が、それぞれ幅方向を通風方向に向けた扁平状であり、隣り合う冷媒流通管どうしの間に通風間隙が形成されるとともに、蓄冷材容器の数が通風間隙の数よりも少なくなされ、全通風間隙のうち一部の複数の通風間隙に蓄冷材容器が配置されている請求項1または2記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両の
空調装置に関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、
図1および
図3の上下を上下というものとする。
【0003】
また、この明細書および特許請求の範囲において、「コンデンサ」という用語には、通常のコンデンサの他に凝縮部および過冷却部を有するサブクールコンデンサを意味するものとする。
【背景技術】
【0004】
近年、環境保護や自動車の燃費向上などを目的として、信号待ちなどの停車時にエンジンを自動的に停止させる自動車が提案されている。
【0005】
しかしながら、通常の車両用空調装置においては、エンジンを停止させると、エンジンを駆動源とする圧縮機が停止するので、エバポレータに冷媒が供給されなくなり、冷房能力が急激に低下するという問題がある。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、エバポレータに蓄冷機能を付与し、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、エバポレータに蓄えられた冷熱を放冷して車室内を冷却することが考えられている。
【0007】
この種の蓄冷機能付きエバポレータとして、上下方向に間隔をおいて配置された1対のタンクと、両タンク間に設けられた熱交換コア部とを備えており、熱交換コア部が、幅方向を通風方向に向けるとともに長さ方向を上下方向に向けた状態で両タンクの長さ方向に間隔をおいて配置され、かつ上下両端部がそれぞれ両タンクに通じさせられた複数の扁平状冷媒流通管と、幅方向を通風方向に向けるとともに長さ方向を上下方向に向けた状態で両タンクの長さ方向に間隔をおいて配置され、かつ内部に蓄冷材が封入された蓄冷材容器とを有し、蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている蓄冷機能付きエバポレータが提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータによれば、圧縮機が作動している通常の冷房時には、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱が、蓄冷材容器内の蓄冷材に伝わって蓄冷材に蓄えられ、圧縮機が停止した際には、蓄冷材容器内の蓄冷材に蓄えられた冷熱が、蓄冷材容器が熱的に接触させられた冷媒流通管を経て熱交換コア部を通過する空気に放冷されるようになっている。
【0009】
ところで、この種の蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器内に封入される蓄冷材としては、融点が5〜10℃に調整されたパラフィン系の潜熱蓄熱材を用いるのが一般的である。たとえば特許文献1に記載された蓄冷機能付きエバポレータにおいても、蓄冷材容器内に封入される蓄冷材としては、融点が6℃であるテトラデカンが用いられている。
【0010】
しかしながら、使用環境温度、たとえば−40〜90℃の範囲において、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器内に残存している空気が熱膨張し、蓄冷材容器における1つの密閉された空間の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率によっては、蓄冷材容器が内圧により破損するおそれがある。
【0011】
したがって、安全性を考慮して、蓄冷材充填率を低くする必要があるが、この場合、次のような問題が生じる。すなわち、
図5に示すように、特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータ(40)が圧縮機およびコンデンサとともに車両用空調装置に組み込まれる際には、通常、ケーシング(45)内に、熱交換コア部が空気通路(46)に位置するように垂直状態で配置されるので、蓄冷材容器(41)の上側部分に蓄冷材(S)の存在しない比較的大きな部分が生じることになる。その結果、蓄冷材容器(41)の上側部分では冷熱を蓄えることができず、圧縮機が停止した際に、空気が通過する熱交換コア部における蓄冷材容器(41)の上側部分における蓄冷材(S)が存在していない部分を流れる空気(A1)の温度が、蓄冷材(S)が存在している部分を流れる空気(A2)の温度に比べて速く上昇し、蓄冷機能付きエバポレータ(40)を通過する空気の温度である吐気温が大きくばらつくという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4043776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明の目的は、上記問題を解決し、蓄冷材容器の破損を防止しうるとともに、放冷時の吐気温のばらつきを抑制しうる蓄冷機能付きエバポレータ
を備えた車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0015】
1)
圧縮機と、コンデンサと、空気通路を有するケーシング内に配置された蓄冷機能付きエバポレータとを備え、かつ停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両に用いられる空調装置であって、蓄冷機能付きエバポレータの熱交換コア部が、上下方向にのびる複数の冷媒流通管と、上下方向にのびるとともに内部にパラフィン系の蓄冷材が封入された複数の蓄冷材容器とを
備え、蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器内の蓄冷材が、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱により冷却されるようになされている
車両用空調装置において、
蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率が70〜80%であり、
蓄冷機能付きエバポレータが、熱交換コア部が空気通路に位置し、かつ熱交換コア部の冷媒流通管および蓄冷材容器の上端が、下端よりも通風方向の上流側または下流側にくるように傾斜
した状態で配置され、蓄冷材容器の傾斜方向側縁部の上端と、空気通路における蓄冷材容器の傾斜方向側縁部が向いている側の部分の上端とが等しくなっており、傾斜した蓄冷材容器内の蓄冷材の液面が、蓄冷材容器の傾斜方向側縁部の鉛直高さにおける下端から90%以上の高さ部分に位置している
車両用空調装置。
【0016】
2)
蓄冷機能付きエバポレータにおける傾斜した蓄冷材容器内の蓄冷材の液面が、蓄冷材容器の傾斜方向側縁部の鉛直高さの上端に位置している上記1)記載の
車両用空調装置。
【0017】
3)蓄冷機能付きエバポレータの冷媒流通管および蓄冷材容器が、それぞれ幅方向を通風方向に向けた扁平状であり、隣り合う冷媒流通管どうしの間に通風間隙が形成されるとともに、蓄冷材容器の数が通風間隙の数よりも少なくなされ、全通風間隙のうち一部の複数の通風間隙に蓄冷材容器が配置されている上記
1)または2)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【発明の効果】
【0018】
上記1)〜
3)の車両用空調装置によれば、
蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率が70〜80%であるから、使用環境温度、たとえば−40〜90℃の範囲において、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器内に残存している空気が熱膨張したとしても、蓄冷材容器の内圧による破損が防止される。
【0019】
また、
蓄冷機能付きエバポレータが、熱交換コア部が空気通路に位置し、かつ熱交換コア部の冷媒流通管および蓄冷材容器の上端が、下端よりも通風方向の上流側または下流側にくるように傾斜
した状態で配置され、蓄冷材容器の傾斜方向側縁部の上端と、空気通路における蓄冷材容器の傾斜方向側縁部が向いている側の部分の上端とが等しくなっており、傾斜した蓄冷材容器内の蓄冷材の液面が、蓄冷材容器の傾斜方向側縁部の鉛直高さにおける下端から90%以上の高さ部分に位置しているので、蓄冷材容器の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率を、使用環境温度における蓄冷材容器の内圧による破損を防止しうる
70〜80%とした場合にも、蓄冷材は空気が通過する熱交換コア部の蓄冷材容器内の上端近傍まで存在することになる。したがって、蓄冷材容器の上端近傍においても蓄冷材容器内の蓄冷材に冷熱を蓄えることができ、圧縮機が停止した際に、熱交換コア部における蓄冷材容器の上端近傍に相当する部分を流れる空気の温度上昇を抑制し、蓄冷機能付きエバポレータを通過する空気の温度である吐気温のばらつきを抑制することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示す一部切り欠き斜視図である。
【
図2】
図1の蓄冷機能付きエバポレータを用いた車両用空調装置の構成を示す図である。
【
図3】
図2の車両用空調装置に組み込まれた蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器を模式的に示す拡大図である。
【
図4】本発明品と比較品の性能を示すグラフである。
【
図5】車両用空調装置に組み込まれた従来の蓄冷機能付きエバポレータの蓄冷材容器を模式的に示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
以下の説明において、通風方向下流側(
図1に矢印Xで示す方向)を前、これと反対側を後というものとする。また、前方から後方を見た際の左右、すなわち
図1の左右を左右というものとする。
【0023】
さらに、以下の説明において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【0024】
図1はこの発明による
車両用空調装置に用いられる蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示す。
【0025】
図1において、蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、上下方向に間隔をおいて配置された左右方向にのびるアルミニウム製第1ヘッダタンク(2)およびアルミニウム製第2ヘッダタンク(3)と、両ヘッダタンク(2)(3)間に設けられた熱交換コア部(4)とを備えている。
【0026】
第1ヘッダタンク(2)は、前側(通風方向下流側)に位置する冷媒入口ヘッダ部(5)と、後側(通風方向上流側)に位置しかつ冷媒入口ヘッダ部(5)に一体化された冷媒出口ヘッダ部(6)とを備えている。冷媒入口ヘッダ部(5)の右端部に冷媒入口(7)が設けられ、冷媒出口ヘッダ部(6)の右端部に冷媒出口(8)が設けられている。第2ヘッダタンク(3)は、前側に位置する第1中間ヘッダ部(9)と、後側に位置しかつ第1中間ヘッダ部(9)に一体化された第2中間ヘッダ部(11)とを備えている。第2ヘッダタンク(3)の第1中間ヘッダ部(9)内と第2中間ヘッダ部(11)内とは、両中間ヘッダ部(9)(11)の右端部に跨って接合され、かつ内部が通路となった連通部材(12)を介して通じさせられている。
【0027】
熱交換コア部(4)には、幅方向が通風方向(前後方向)を向くとともに長さ方向が上下方向を向いた複数のアルミニウム押出形材製扁平状冷媒流通管(13)が、左右方向に間隔をおいて並列状に配置されている。すなわち、前後方向に間隔をおいて配置された複数、ここでは2つの冷媒流通管(13)からなる複数の組(14)が左右方向に間隔をおいて配置されており、前後の冷媒流通管(13)よりなる組(14)の隣り合うものどうしの間に通風間隙(15)が形成されている。前側の冷媒流通管(13)の上端部は冷媒入口ヘッダ部(5)に接続されるとともに、同下端部は第1中間ヘッダ部(9)に接続されている。また、後側の冷媒流通管(13)の上端部は冷媒出口ヘッダ部(6)に接続されるとともに、同下端部は第2中間ヘッダ部(11)に接続されている。
【0028】
熱交換コア部(4)における全通風間隙(15)のうち一部の複数の通風間隙(15)でかつ隣接していない通風間隙(15)において、密閉状の内部空間内に蓄冷材が封入されたアルミニウム製蓄冷材容器(16)が、前後両冷媒流通管(13)に跨るように配置されている。また、残りの通風間隙(15)に、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるコルゲート状のアウターフィン(17)が、前後両冷媒流通管(13)に跨るように配置されて通風間隙(15)を形成する左右両側の組(14)を構成する前後両冷媒流通管(13)にろう付されている。すなわち、蓄冷材容器(16)が配置された通風間隙(15)の両側の通風間隙(15)にそれぞれアウターフィン(17)が配置されている。また、左右両端の冷媒流通管(13)の組(14)の外側にも両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるアウターフィン(17)が配置されて前後両冷媒流通管(13)にろう付され、さらに左右両端のアウターフィン(17)の外側にアルミニウム製サイドプレート(18)が配置されてアウターフィン(17)にろう付されている。
【0029】
蓄冷材容器(16)は幅方向が前後方向を向くとともに長さ方向が上下方向を向いた扁平状であり、前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後2つの冷媒流通管(13)にろう付された容器本体部(21)と、容器本体部(21)の前側縁部(風下側縁部)に連なるとともに前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも前方(通風方向外側)に張り出すように設けられた外方張り出し部(22)とを備えている。蓄冷材容器(16)の容器本体部(21)の左右方向の寸法は全体に等しくなっている。蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)は、上下方向の寸法が容器本体部(21)の上下方向の寸法と等しく、かつ左右方向の寸法が容器本体部(21)の左右方向の寸法よりも大きくなっており、容器本体部(21)に対して左右方向外方に膨出している。外方張り出し部(22)の左右方向の寸法は、冷媒流通管(13)の左右方向の寸法である管高さの2倍に、蓄冷材容器(16)の容器本体部(21)の左右方向の寸法を加えた高さと等しくなっている。
【0030】
蓄冷材容器(16)内へ充填される蓄冷材としては、凝固点が5〜10℃程度に調整されたパラフィン系潜熱蓄冷材が用いられる。具体的には、ペンタデカン、テトラデカンなどが用いられる。また、蓄冷材容器(16)の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率は70〜80%である。当該充填率は、常温におけるものである。
【0031】
アウターフィン(17)は、前後方向にのびる波頂部、前後方向にのびる波底部、および波頂部と波底部とを連結する連結部よりなるコルゲート状である。アウターフィン(17)は、前側冷媒流通管(13)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後の冷媒流通管(13)にろう付されたフィン本体部(図示略)と、フィン本体部の前側縁に連なるとともに後側冷媒流通管(13)の前側縁よりも前方に張り出すように設けられた外方張り出し部(23)とを備えている。そして、蓄冷材容器(16)が配置された通風間隙(15)の両隣の通風間隙(15)に配置されたアウターフィン(17)の外方張り出し部(23)が、蓄冷材容器(16)の外方張り出し部(22)の左右両側面にろう付されている。また、隣接するアウターフィン(17)の外方張り出し部(23)間にはアルミニウム製スペーサ(24)が配置されており、外方張り出し部(32)にろう付されている。
【0032】
図1においては、蓄冷機能付きエバポレータ(1)は垂直状態で示されているが、実際には、熱交換コア部(4)の冷媒流通管(13)および蓄冷材容器(16)の上端が、下端よりも通風方向の上流側または下流側にくるように傾斜して配置される。蓄冷機能付きエバポレータ(1)の傾斜した蓄冷材容器(16)内の蓄冷材の液面は、傾斜した蓄冷材容器(16)の上端が位置する側(風上側)の端部の鉛直高さ全体の90%以上の高さ部分に位置していることが好ましく、前記鉛直高さの上端に位置していることが望ましい。
【0033】
図2および
図3は、蓄冷機能付きエバポレータ(1)を備え、かつ停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両に用いられる車両用空調装置を示す。
【0034】
図2において、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両に用いられる車両用空調装置は、エンジンを駆動源とする圧縮機(30)と、圧縮機(30)で圧縮された冷媒を冷却するコンデンサ(31)(冷媒冷却器)と、コンデンサ(31)で冷却された冷媒を減圧する減圧器としての膨張弁(32)と、ケーシング(33)内に配置されかつ減圧された冷媒を蒸発させる蓄冷機能付きエバポレータ(1)とを備えている。なお、図示は省略したが、車両用空調装置は、気液混相冷媒を貯留して液相と気相とに分離する受液部を有している。
【0035】
図3に示すように、蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、熱交換コア部(4)がケーシング(33)の空気通路(34)内に位置しかつ冷媒流通管(13)および蓄冷材容器(16)の上端が、下端よりも通風方向の上流側または下流側、ここでは上流側にくるように傾斜した状態で配置されている。
蓄冷材容器(16)の傾斜方向側縁部(16a)(風上側縁部)の上端と、空気通路(34)における蓄冷材容器(16)の傾斜方向側縁部(16a)が向いている側の部分、ここでは上流側の部分の上端とが等しくなっている。蓄冷機能付きエバポレータ(1)の熱交換コア部(4)における傾斜した蓄冷材容器(16)内の蓄冷材(S)の液面(L)は、蓄冷材容器(16)の傾斜方向側縁部(16a)(風上側縁部)の鉛直高さ(H)全体の下端から90%以上の高さ部分、ここでは上端に位置していることが望ましい。
【0036】
上述した車両用空調装置において、圧縮機(30)が作動している場合には、圧縮機(30)で圧縮されてコンデンサ(31)および膨張弁(32)を通過した低圧の気液混相の2相冷媒が、冷媒入口(7)を通って蓄冷機能付きエバポレータ(1)の冷媒入口ヘッダ部(5)内に入り、前側の全冷媒流通管(13)を通って第1中間ヘッダ部(9)内に流入する。第1中間ヘッダ部(9)内に入った冷媒は、連通部材(12)を通って第2中間ヘッダ部(11)内に入った後、後側の全冷媒流通管(13)を通って出口ヘッダ部(6)内に流入し、冷媒出口(8)から流出する。そして、冷媒が冷媒流通管(13)内を流れる間に、通風間隙(15)を通過する空気と熱交換をし、冷媒は気相となって流出する。このとき、冷媒流通管(13)内を流れる冷媒の有する冷熱によって蓄冷材容器(16)内の蓄冷材が冷却されて蓄冷材に冷熱が蓄えられる。
【0037】
圧縮機(30)が停止した場合には、蓄冷材容器(16)の容器本体部(21)および外方張り出し部(22)内の蓄冷材の有する冷熱が、蓄冷材容器(16)の左右両側壁に伝えられ、冷媒流通管(13)を通過し、当該冷媒流通管(13)にろう付されているアウターフィン(17)を介して蓄冷材容器(16)が配置されている通風間隙(15)の両隣の通風間隙(15)を通過する空気に伝えられる。したがって、エバポレータ(1)を通過した風の温度が上昇したとしても、当該風は冷却されるので、冷房能力の急激な低下が防止される。
【0038】
そして、蓄冷機能付きエバポレータ(1)の熱交換コア部(4)における傾斜した蓄冷材容器(16)内の蓄冷材(S)の液面(L)が、蓄冷材容器(16)の傾斜方向側縁部(16a)(風上側縁部)の鉛直高さ(H)全体の下端から90%以上の高さ部分、ここでは上端に位置しているので、蓄冷材容器(16)内への蓄冷材の封入量を、蓄冷材容器(16)の内容積に対する封入された蓄冷材(S)の体積の比率である蓄冷材充填率が70〜80%となるような量としたとしても、蓄冷材(S)は蓄冷材容器(16)の上端近傍まで存在することになる。したがって、蓄冷材容器(16)の上端近傍においても蓄冷材容器(16)内の蓄冷材(S)に冷熱を蓄えることができ、圧縮機(30)が停止した際に、熱交換コア部(4)における蓄冷材容器(16)の上端近傍に相当する部分を流れる空気の温度上昇を抑制し、蓄冷機能付きエバポレータ(1)の熱交換コア部(4)を通過する空気(A)全体の温度である吐気温のばらつきを抑制することができる。
【0039】
次に、本発明品と比較品との性能を調べるために行った実験結果について説明する。
【0040】
上述した蓄冷機能付きエバポレータ(1)を、
図2に示す車両用空調装置において、熱交換コア部(4)がケーシング(33)の空気通路(34)内に位置しかつ冷媒流通管(13)および蓄冷材容器(16)の上端が、下端よりも通風方向の上流側にくるように傾斜した状態で配置した(本発明品)。ここで、蓄冷材としてペンタデカンを使用し、封入時(初期)の雰囲気温度を20℃として、蓄冷材容器(16)の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率を80%とした。また、冷媒流通管(13)および蓄冷材容器(16)の傾斜角度を30度とした。このとき、蓄冷機能付きエバポレータ(1)の傾斜した蓄冷材容器(16)内の蓄冷材(S)の液面(L)は、蓄冷材容器(16)の傾斜方向側縁部(16a)(風上側縁部)の鉛直高さ(H)全体の下端から90%の高さ部分に位置していた。
【0041】
この状態で圧縮機(30)を運転し、蓄冷機能付きエバポレータ(1)の空気側温度:25℃、相対湿度(RH):50%、蓄冷機能付きエバポレータ(1)の風上側風量:200m
3/hという条件で、蓄冷材容器(16)内の蓄冷材(S)に冷熱を蓄えた。ついで、圧縮機(30)を停止させ、蓄冷機能付きエバポレータ(1)の熱交換コア部(4)を通過した空気の温度を、空気通路(34)の出口部分の複数箇所において測定して平均温度を求めた。そして、圧縮機(30)を運転した時間(蓄冷時間)と、圧縮機(30)の運転を停止した後、前記平均温度が設定された温度(15℃)以上になるまでの時間(放冷時間)との関係を調べた。
【0042】
また、上述した蓄冷機能付きエバポレータ(1)を、
図2に示す車両用空調装置において、熱交換コア部(4)がケーシング(33)の空気通路(34)内に位置しかつ冷媒流通管(13)および蓄冷材容器(16)が垂直となるように配置した(比較品)。その他は、上述した本発明品と同様にして蓄冷時間と放冷時間との関係を調べた。
【0043】
これらの結果を
図4に示す。
図4に示すグラフから、蓄冷時間が同じ場合には、本発明品の放冷時間は比較品の放冷時間よりも長くなることがわかる。
【0044】
上記実施形態においては、各蓄冷材容器(16)が独立しているが、全蓄冷材容器(16)のうち、少なくとも一部の複数の蓄冷材容器(16)の内部空間どうしが、適当な連通部を介して通じさせられていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明による
車両用空調装置は、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる
車両に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0046】
(1):蓄冷機能付きエバポレータ
(4):熱交換コア部
(13):冷媒流通管
(16):蓄冷材容器
(30):圧縮機
(31):コンデンサ
(33):ケーシング
(34):空気通路
(L):液面
(S):蓄冷材