特許第5667904号(P5667904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5667904
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20150122BHJP
   F16D 7/04 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   F16D7/02 A
   F16D7/04 D
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-28355(P2011-28355)
(22)【出願日】2011年2月14日
(65)【公開番号】特開2012-167727(P2012-167727A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000185248
【氏名又は名称】小倉クラッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】神沢 貴浩
【審査官】 中村 則夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−107561(JP,A)
【文献】 特開2000−192992(JP,A)
【文献】 特開2007−040403(JP,A)
【文献】 特開2007−100893(JP,A)
【文献】 特開2008−190695(JP,A)
【文献】 特開2007−132512(JP,A)
【文献】 特表2001−523325(JP,A)
【文献】 特開2001−012492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側機器の動力によって回転する駆動側回転部材と、この駆動側回転部材の回転が伝達される従動側機器の従動側回転部材と、この従動側回転部材と前記駆動側回転部材との間に介装されてこれら両部材を連結し、前記従動側機器に過負荷が加わったときに連結を解除する回転伝達部材とを備えた動力伝達装置において、
前記回転伝達部材は、円板状に形成されて外周寄りに複数の連結片形成用スリットを周方向に等間隔おいて形成することにより、環状の本体と、この本体の外周を取り囲むように前記本体に延設され軸線方向に弾性変形可能な複数の連結片とからなり、
前記各連結片は、基端側が前記駆動側回転部材に固定される固定部を有し、先端側に前記従動側回転部材と挟持板とによって離脱可能に挟持される接続部を有し、
前記各連結片は、前記固定部の半径方向の幅が前記接続部の半径方向の幅よりも広く形成され
前記回転伝達部材に、前記挟持板を前記従動側回転部材に固定する固定手段との干渉を避ける逃げ溝を設け、この逃げ溝を、周方向において前記連結片の接続部に対応するように位置付けたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
駆動側機器の動力によって回転する駆動側回転部材と、この駆動側回転部材の回転が伝達される従動側機器の従動側回転部材と、この従動側回転部材と前記駆動側回転部材との間に介装されてこれら両部材を連結し、前記従動側機器に過負荷が加わったときに連結を解除する回転伝達部材とを備えた動力伝達装置において、
前記回転伝達部材は、円板状に形成されて外周寄りに複数の連結片形成用スリットを周方向に等間隔おいて形成することにより、環状の本体と、この本体の外周を取り囲むように前記本体に延設され軸線方向に弾性変形可能な複数の連結片とからなり、
前記各連結片は、基端側が前記従動側回転部材に固定される固定部を有し、先端側に前記駆動側回転部材と挟持板とによって離脱可能に挟持される接続部を有し、
前記各連結片は、前記固定部の半径方向の幅が前記接続部の半径方向の幅よりも広く形成され
前記回転伝達部材に、前記挟持板を前記駆動側回転部材に固定する固定手段との干渉を避ける逃げ溝を設け、この逃げ溝を、周方向において前記連結片の接続部に対応するように位置付けたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
前記連結片形成用スリットの曲率が、前記接続部から前記固定部に向かって漸次大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーエアコン用コンプレッサ等に用いられる動力伝達装置に関し、特に、従動側機器に過負荷が加わったときに駆動側回転部材と従動側回転部材との連結を解除するようにした動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1の明細書の段落〔0019〕〜段落〔0020〕(図1図2および図4)に記載された動力伝達装置は、カーエアコン用コンプレッサにエンジンの動力を伝達するものである。この動力伝達装置は、エンジンの動力が伝達されるプーリと、このプーリと同一軸線上に位置付けられ、カーエアコン用コンプレッサの回転軸にスプライン嵌合されたハブと、これらプーリとハブとを連結するトルクリミッタ機構とを備えている。
【0003】
トルクリミッタ機構を構成している回転伝達部材は、ばね用鋼板によって全体が略円板状に形成され、周方向に等間隔おいて複数の連結片形成用スリットが形成されている。このスリットの内側に環状の本体が形成され、スリットの外側に軸線方向に向かって弾性変形可能な複数の連結片が形成されている。
【0004】
各連結片の固定部側に形成された折り曲げ部は、スリットの閉塞端と交わる折り曲げ線の内側端が回転方向前方側で、折り曲げ線の外側端が回転方向後方側となるように斜めに折り曲げ形成されている。
【0005】
また、各連結片の接続部側に形成された折り曲げ部が、接続部を従動側回転部材(ハブ)と挟持板との間に挟持したとき、各連結片が駆動側回転部材(プーリ)側に弾性変形した状態で、環状の本体と接続部との間隔がプーリとハブとの間隔と略同じとなるように折り曲げ形成されたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−107561号公報
【特許文献2】特開2007−107562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような従来の動力伝達装置は、エンジンやモータの駆動力をカーエアコン用コンプレッサの回転軸に伝達するとともに、回転軸に過負荷が発生したときには動力の伝達を遮断するトルクリミッタとして使用される。このため、コンプレッサに大きな負荷変動があると、止めねじで駆動側回転部材に固定された回転伝達部材の固定部や回転伝達部材のスリットの閉塞端に亀裂が発生するおそれがあるので、より耐久性に優れた動力伝達装置の開発要求がある。このような亀裂の発生を防止するためには、例えば、板厚寸法が大きいばね用鋼板により製造して、回転伝達部材の機械的強度を高くすればよい。しかしながら、回転伝達部材は、その接続部を従動側回転部材と挟持板との間に挟み込んだ状態で、従動側回転部材に挟持板をリベットで固定することにより、折り曲げ部が弾性変形して環状の本体と接続部との間隔が駆動側回転部材と従動側回転部材との間隔と略同じとする構造としている。このため、ばね用鋼板の板厚寸法が大きくなると、従動側回転部材と挟持板とによる挟持力も変わる。したがって、従動側回転部材と挟持板とを重ねたとき、板厚が大きくなった分の寸法の隙間ができるようにして、回転伝達部材の接続部の挟持力を調整する等の設計変更が必要になるという問題があった。
【0008】
本発明は上記した従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、回転伝達部材の接続部の挟持力の調整を必要とすることなく、従動側の大きな負荷変動に対しても耐久性に優れた動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明は、駆動側機器の動力によって回転する駆動側回転部材と、この駆動側回転部材の回転が伝達される従動側機器の従動側回転部材と、この従動側回転部材と前記駆動側回転部材との間に介装されてこれら両部材を連結し、前記従動側機器に過負荷が加わったときに連結を解除する回転伝達部材とを備えた動力伝達装置において、前記回転伝達部材は、円板状に形成されて外周寄りに複数の連結片形成用スリットを周方向に等間隔おいて形成することにより、環状の本体と、この本体の外周を取り囲むように前記本体に延設され軸線方向に弾性変形可能な複数の連結片とからなり、前記各連結片は、基端側が前記駆動側回転部材に固定される固定部を有し、先端側に前記従動側回転部材と挟持板とによって離脱可能に挟持される接続部を有し、前記各連結片は、前記固定部の半径方向の幅が前記接続部の半径方向の幅よりも広く形成され、前記回転伝達部材に、前記挟持板を前記従動側回転部材に固定する固定手段との干渉を避ける逃げ溝を設け、この逃げ溝を、周方向において前記連結片の接続部に対応するように位置付けたものである。
【0010】
本発明は、駆動側機器の動力によって回転する駆動側回転部材と、この駆動側回転部材の回転が伝達される従動側機器の従動側回転部材と、この従動側回転部材と前記駆動側回転部材との間に介装されてこれら両部材を連結し、前記従動側機器に過負荷が加わったときに連結を解除する回転伝達部材とを備えた動力伝達装置において、前記回転伝達部材は、円板状に形成されて外周寄りに複数の連結片形成用スリットを周方向に等間隔おいて形成することにより、環状の本体と、この本体の外周を取り囲むように前記本体に延設され軸線方向に弾性変形可能な複数の連結片とからなり、前記各連結片は、基端側が前記従動側回転部材に固定される固定部を有し、先端側に前記駆動側回転部材と挟持板とによって離脱可能に挟持される接続部を有し、前記各連結片は、前記固定部の半径方向の幅が前記接続部の半径方向の幅よりも広く形成され、前記回転伝達部材に、前記挟持板を前記駆動側回転部材に固定する固定手段との干渉を避ける逃げ溝を設け、この逃げ溝を、周方向において前記連結片の接続部に対応するように位置付けたものである。
【0011】
本発明は、前記発明のいずれか一つの発明において、前記連結片形成用スリットの曲率が、前記接続部から前記固定部に向かって漸次大きくなるように形成されているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連結片の半径方向の幅を接続部側から固定部側に向かって広くしている。このため、従動側機器側に過負荷が発生したときに、最も負荷がかかる回転伝達部材の固定部の機械的強度を高くすることができるため、回転伝達部材のスリットの閉塞端の亀裂の発生を防止することができる。また、回転伝達部材の板厚寸法を変えることがなく同じ板厚寸法のものを使用するため、接続部に対する従動側回転部材と挟持板とによる挟持力に変化がないから、この挟持力を調整するための設計変更も不要になる。さらに、逃げ溝を周方向において連結片の半径方向の寸法が最も狭い接続部に対応させていることにより、固定部の半径方向の寸法を大きくしても、回転伝達部材の外径を大きくすることがないから動力伝達装置が大型化するようなこともない。
【0014】
前記発明のうちの一つの発明によれば、連結片形成用スリットの曲率を、接続部から固定部に向かって漸次大きくなるように形成したことにより、連結片の半径方向の幅Wを接続部側から固定部側に向かって広くしても、回転伝達部材の外形形状を変更することなく同じにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る動力伝達装置の正面図である。
図2図1におけるII-II 線断面図である。
図3】本発明に係る動力伝達装置において、プーリ側から視たトルクリミッタ機構の背面図である。
図4】同図(A)は本発明に係る動力伝達装置における回転伝達部材の正面図、同図(B)は同図(A)におけるIV(B)-IV(B) 線断面図である。
図5】本発明に係る動力伝達装置おいて、回転伝達部材を組み込んだ状態の従動側回転部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1図5に基づいて説明する。
【0018】
図1図5において、この実施の形態による動力伝達装置1は、駆動側機器としての自動車用エンジン(図示せず)の動力を従動側機器としてのカーエアコン用コンプレッサ2(図2参照)の回転軸3に伝達するためのものである。また、この動力伝達装置1は、前記回転軸3に過負荷が発生したときに動力伝達を遮断するためのトルクリミッタ機構4を備えている。この実施の形態においては、回転軸3の先端側(図2においては右側)をコンプレッサ2の前側といい、反対側を後側という。
【0019】
前記コンプレッサ2は、前記回転軸3を回転自在に支持するハウジング2aを備えている。このハウジング2aの前端部には、回転軸3と同一軸線上に位置する筒状部2bが形成されている。この筒状部2bには、軸受5によって駆動側回転部材としてのプーリ6が回転自在に支持されている。前記プーリ6は、鋼板に塑性加工を施して所定の形状に成形されたいわゆる板金製のものである。
【0020】
このプーリ6は、前記軸受5に嵌合するボス部7と、このボス部7の前端部から径方向の外側に延びる円板部8と、この円板部8の外周部からコンプレッサ2の後側に延びるリム部9とから構成されている。すなわち、この実施の形態によるプーリ6には、コンプレッサ2の後側に向けて開口する環状溝10が形成される。コンプレッサ2のハウジング2aは、前記環状溝10の開口部分を後側から覆うように形成されている。
【0021】
前記プーリ6の円板部8には、図2に示すように、後述する固定用ねじ11を挿通させるためのねじ用貫通孔12と、後述するリベット13を挿通させるためのリベット用貫通孔14とが穿設されている。前記リム部9には、伝動用のベルト(図示せず)が巻き掛けられるいわゆるポリV溝9aが形成されている。
【0022】
前記回転軸3の前端部には、従動側回転部材としてのハブ15がスプライン嵌合によって取付けられている。このハブ15は、固定用ボルト16によって回転軸3に固定されており、トルクリミッタ機構4を介して前記プーリ6に連結されている。このハブ15は、図1に示すように、3つの挿通孔15aを有する円板状のフランジ部15bを有し、挿通孔15aのそれぞれに挿通されるリベット17によって、後述する挟持板22が裏面側に取り付けられている。また、フランジ部15bの外周には、挟持板22とともに後述する回転伝達部材21の接続部21fを挟持する3つの挟持部15cが周方向に等間隔おいて径方向に一体に突設されている。
【0023】
前記トルクリミッタ機構4は、図2に示すように、前記プーリ6の円板部8に固定用ねじ11によって締結された弾性材によって形成された回転伝達部材21と、この回転伝達部材21の外周側に位置する被挟持部としての接続部21fを前記ハブ15と協働して挟持する挟持板22との2部材によって構成されている。挟持板22は、中央部に穴が形成された円環状に形成され、前記リベット17が挿通される3つの貫通孔22a(図2参照)が設けられており、外周部には、図3に示すように前記ハブ15の挟持部15cとともに回転伝達部材21の接続部21fを挟持する3つの挟持部22bが周方向に等間隔おいて径方向に一体に突設されている。これら挟持部22bには、回転伝達部材21の後述する係合部28が係合する係合孔22cが設けられている。
【0024】
前記回転伝達部材21は、図4(A)に示すようにばね用鋼板によって全体が略円板状に形成されており、中央部にハブ15のボス部15dを挿通させる挿通孔21aが設けられ、この挿通孔21aの周縁には、前記リベット17との干渉を回避するために半円状に形成された3つの逃げ溝21bが周方向に等間隔おいて設けられている。この回転伝達部材21は、外周寄りに3つの連結片形成用スリット24を周方向に等間隔おいて設けることにより、スリット24の内側に位置する環状の本体21cと、この本体21cの外周を取り囲むように延設された軸線方向に弾性変形可能な3つの連結片21dとから構成され、プーリ6とハブ15との間に介装される。
【0025】
すなわち、連結片21dは、環状の本体21cから径方向の外側に延びるとともに周方向に延びるように形成されている。また、これらの連結片21dは、前記本体21cの外周部に周方向へ等間隔をおいて並ぶように設けられている。そして、この連結片21dの基端部25(回転伝達部材21の回転方向側端部)にはプーリ6の円板部8に固定される固定部21eが設けられ、先端部(反回転方向側端部)には前記ハブ15と挾持板22とによって離脱可能に挾持される接続部21fが設けられている。
【0026】
また、連結片21dは、基端部25の内側端Pと外側縁Qとを結ぶ斜めの折り曲げ線26に沿って、図4(B)に示すように表面側(ハブ15側)に所定の角度γをもって折り曲げ形成されることにより自然状態において傾斜している。外側縁Qは、図4(A)に示すように内側縁Pよりも回転伝達部材21の回転方向とは反対側(回転方向後方側)に位置している。折り曲げ線26の傾斜角、すなわち回転伝達部材21の中心Oと内側端Pとを結ぶ半径方向の直線Lと折り曲げ線26とのなす角度は角度βに設定されている。なお、この折り曲げ線26は、説明および図示の都合上、線状に表されるように図示しているが、湾曲した曲線をなすように塑性加工されることが望ましい。
【0027】
前記固定部21eは本体21cと連結片21dを連結する部分であって、本体21cと同一平面をなしている。固定部21eの中央には、止めねじ11が挿通される取付孔27が形成されている。そして、この取付孔27を使用して前記止めねじ11を後述するナットホルダー31のナット保持部31c内に保持された六角ナット32にねじ込むことにより、固定部21eがプーリ6の円板部8の前端面に固定され、プーリ6に取り付けられる。
【0028】
前記接続部21fは、固定部21eより回転伝達部材21の回転方向(矢印方向)とは反対方向に位置し、反回転方向側の固定部21eと近接して対向している。また、接続部21fは、図4(b)に示すように連結片21dとは反対方向(プーリ6側)に所要の折り曲げ角度θをもって折り曲げ形成されている。接続部21fの裏面中央には、挾持板22との結合強度を高めるために半球状の係合部28が突設されている。なお、図4(a)において、符号29は接続部21fの折り曲げ線であり、この折り曲げ線21fは回転伝達部材21の半径方向の直線でかつ接続部21fの内側縁を通る直線L1と一致している。
【0029】
本発明の特徴とするところは、回転伝達部材21の連結片形成用スリット24の固定部21eに対応した部位の曲率半径R1が、連結片形成用スリット24の接続部21fに対応した部位の曲率半径R2よりも小さく形成されている点にある。すなわち、回転伝達部材21の曲率中心O点を中心とした3つの連結片形成用スリット24の曲率が、連結片21dの接続部21fから固定部21eに向かって漸次大きくなるように形成されている。また、連結片21dの半径方向の幅Wが接続部21f側より固定部21e側に向かって広くしている点にある。すなわち、連結片21dの固定部21eの半径方向の幅W1が、接続部21fの半径方向の幅W2よりも広く形成されている。さらに、3つの逃げ溝21bが周方向において連結片21dの半径方向の幅Wが最も狭い接続部21fに対応(対向)するように位置付けられている点にある。すなわち、曲率中心O点と接続部21fの係合部28とを結ぶ線L2上に逃げ溝21bが位置付けられている。
【0030】
図2において、31はプーリ6の円板部8に対接されて前記リベット13によってプーリ6に固定されるナットホルダーである。このナットホルダー31は、環状本体31aと、この環状本体31aの内周側からコンプレッサ2側に延設された円筒部31bと、環状本体31aの周方向を3等分する位置に形成された凹状のナット保持部31cと、互いに隣接するナット保持部31c間を連結するように周方向に向かって延びたリブ部31dと、軸受5への水の侵入を阻止するために前記円筒部31bの先端部が内側に折り曲げられた折り曲げ部31eとが設けられている。ナット保持部31c内には、六角ナット32が保持されており、この六角ナット32に螺合する前記固定ねじ11によって前記回転伝達部材21の固定部21eがプーリ6に固定される。
【0031】
このような構造からなる動力伝達装置1の組立に際しては、図2に示すようにプーリ6の環状溝10内にナットホルダー31を組み込んで、ナットホルダー31をプーリ6にリベット13によって固定する。次に、プーリ6をハウジング2aの筒状部2bにベアリング5を介して回転自在に取付ける。
【0032】
次いで、ハブ15、挾持板22および回転伝達部材21を一体化して回転軸3に取付ける。ハブ15、挾持板22および回転伝達部材21を一体化させるには、図5に示すようにハブ15のフランジ部15bの裏面に挾持板22と回転伝達部材21とを重ね合わせて、回転伝達部材21の係合部28を挾持板22の係合孔22cに係合させる。そして、リベット17をハブ15の挿通孔15aと挾持板22の貫通孔22aに挿通してかしめることにより、ハブ15、挾持板22および回転伝達部材21を一体化し、ハブ15の挾持部15cと挾持板22の挾持部22bとで回転伝達部材21の接続部21fを挾持する。回転伝達部材21の接続部21fは、ハブ15と挾持板22とによって挾持されると、ハブ15の挾持部15cに圧接される。接続部21fが挾持部15cに圧接されると、回転伝達部材21の連結片21dはハブ15側に弾性変形して本体21cとの交差角度が大きくなり、接続部21fを本体21cから離間させる。これにより、本体21cと接続部21fは図5に示すように略平行な状態になる。
【0033】
次に、この状態で、図2に示すようにハブ15のボス部15dを回転軸3にスプライン結合させてボルト16により固定する。さらに、回転伝達部材21の本体21cを、連結片21dの弾性変形によってコンプレッサ2側に変位させて固定部21eをプーリ6の円板部8の前端面に押し付ける。そして、止めねじ11を回転伝達部材21の取付孔27およびプーリ6のねじ用貫通孔12を挿通させ、ナットホルダー31のナット保持部31c内に保持された六角ナット32に螺合させ、固定部21eをプーリ6の円板部8の前端面に固定することにより、動力伝達装置1の組立が完了する。
【0034】
ここで、回転伝達部材21の製造時の連結片21dの板厚方向への折り曲げ量または連結片21dと接続部21fとの折り曲げ角θを調整して、プーリ6の円板部8に固定部21eを固定する際の連結片21dの弾性変形量E−D(図5)を十分に小さくする、望ましくはDをEと等しくなるようにすると、組付け後の回転伝達部材21の反力を零にすることができるため、回転軸3を軸支するベアリング(図示せず)に対するスラスト荷重も零にすることができる。なお、Eはハブ15のフランジ部裏面からプーリ6の円板部8の前端面までの距離、Dは回転伝達部材21をハブ15に取付けた状態における本体21cと接続部21fとの間隔である。
【0035】
このような構造からなる動力伝達装置1において、エンジンからの動力は、プーリ6−ナットホルダー31−ナット保持部31c−六角ナット32−回転伝達部材21−ハブ15を経て回転軸3に伝達される。
【0036】
このように、本発明の実施の形態によれば、連結片21dの半径方向の幅Wが接続部21f側より固定部21e側に向かって広くしている。このため、回転軸3に異常な負荷変動が発生したときに、負荷がかかる回転伝達部材21の固定部21eの機械的強度を高くすることができるため、回転伝達部材21のスリット24の閉塞端Pの亀裂の発生を防止することができる。また、回転伝達部材21の板厚寸法を変えることがなく同じ板厚寸法のものを使用するため、接続部21fに対するハブ15と挟持板22とによる挟持力に変化がないから、この挟持力を調整するための設計変更も不要になる。
【0037】
また、3つの連結片形成用スリット24の曲率を、連結片21dの接続部21fから固定部21eに向かって漸次大きくなるように形成したことにより、連結片21dの半径方向の幅Wを接続部21f側から固定部21e側に向かって広くしても、回転伝達部材21の外形形状を変更することなく同じにすることができる。また、3つの逃げ溝21bを周方向において連結片21dの半径方向の幅Wが最も狭い接続部21fに対応させていることにより、固定部21eの半径方向の幅W1を広くしても、回転伝達部材21の外径を大きくすることがないから動力伝達装置1が大型化するようなこともない。
【0038】
なお、上記した実施の形態においては、回転伝達部材21の固定部21eを駆動側回転部材であるプーリ6に固定し、接続部21fを従動側回転部材であるハブ15に離脱可能に連結した例を示したが、本発明はこれに何ら特定されるものではなく、固定部21eをハブ15に固定し、接続部21fを挾持板22によってプーリ6に離脱可能に連結してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…動力伝達装置、2…カーエアコン用コンプレッサ(従動側機器)、3…回転軸、4…トルクリミッタ機構、6…プーリ(駆動側回転部材)、15…ハブ(従動側回転部材)、21…回転伝達部材、21b…逃げ溝、21d…連結片、21e…固定部、21f…接続部、22…挟持板、24…連結片形成用スリット、28…係合部、31…ナットホルダー、32…ナット。
図1
図2
図3
図4
図5