特許第5668035号(P5668035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5668035
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】グラフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150122BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-207967(P2012-207967)
(22)【出願日】2012年9月21日
(65)【公開番号】特開2013-139373(P2013-139373A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2012年9月21日
(31)【優先権主張番号】201110447129.3
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】500080546
【氏名又は名称】鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】何 向明
(72)【発明者】
【氏名】王 莉
(72)【発明者】
【氏名】李 建軍
(72)【発明者】
【氏名】郭 建偉
(72)【発明者】
【氏名】孫 文▲てい▼
(72)【発明者】
【氏名】任 建国
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−293538(JP,A)
【文献】 特開平09−306494(JP,A)
【文献】 特開平09−320570(JP,A)
【文献】 特開2002−117851(JP,A)
【文献】 特開2003−012311(JP,A)
【文献】 特表2010−535690(JP,A)
【文献】 特開2011−032156(JP,A)
【文献】 特表2011−503804(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/057985(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/162727(WO,A1)
【文献】 H.F. XIANG et al.,Graphitic platelets prepared by electrochemical exfoliation of graphite and their application for Li energy storage,Electrochimica Acta,Available online 9 April 2011,Vol.56, pp.5322-5327
【文献】 Katsuhiko NAOI et al.,Journal of The Electrochemical Society,2005年 4月21日,Vol.156, No.6,pp.A1047-A1053
【文献】 Soon-Ki JEONG et al.,Journal of Power Sources,2007年 9月 1日,Vol.175,pp.540-546
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
Science Direct
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩を有機溶剤に溶解して、電解質溶液を形成する第一ステップと、
金属リチウムと、複数のグラフェンからなるグラファイトとを前記電解質溶液中に浸漬させた後、前記金属リチウム及び前記グラファイトが浸漬された前記電解質溶液を、150℃〜300℃の温度で、30分〜40時間加熱し、前記金属リチウム及び前記グラファイトを相互に接触させて、前記電解質溶液中のリチウムイオン及び前記有機溶剤の分子を隣接する二つのグラフェンの間に入れて、グラファイト層間化合物を形成する第二ステップと、
前記グラファイト層間化合物からグラフェンを分離させる第三ステップと、
を含むことを特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項2】
前記リチウム塩は、炭酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、リチウムビス(オキサレート)ボレート、テトラフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム及びこれら混合物のいずれか一種又は多種であることを特徴とする、請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラフェンとは、1原子の厚さのsp炭素原子のシートであり、炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をとっている。グラフェンは、優れた力学特性、電気特性、熱学特性などの性質を有するので、材料科学、化学、物理などの科学分野で広く応用されている。
【0003】
一般に、グラフェンは、熱膨張法、還元法、化学気相蒸着法又はエピタキシャル成長法によって製造される。前記熱膨張法及び還元法を利用することによって、低いコストで、前記グラフェンを大量生産することができるが、生成した前記グラフェンの電子構造及び結晶の完全性は、強力な酸化剤により破壊される。また、前記化学気相蒸着法又はエピタキシャル成長法を利用すれば、大きい面積のグラフェンを製造することができるが、そのコストは高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、前記課題を解決するために、グラフェンの電子構造及び結晶の完全性が、強力な酸化剤によって破壊されることなく、且つコストが低いグラフェンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のグラフェンの製造方法は、リチウム塩を有機溶剤に溶解して、電解質溶液を形成する第一ステップと、金属リチウムと、複数のグラフェンからなるグラファイトとを前記電解質溶液中に浸漬させた後、前記金属リチウム及び前記グラファイトを相互に接触させて、前記電解質溶液中のリチウムイオン及び前記有機溶剤の分子を隣接する二つのグラフェンの間に入れて、グラファイト層間化合物を形成する第二ステップと、前記グラファイト層間化合物からグラフェンを分離させる第三ステップと、
を含む。
【0006】
前記リチウム塩は、炭酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、リチウムビス(オキサレート)ボレート、テトラフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム及びこれらの混合物のいずれかの一種又は多種である。
【発明の効果】
【0007】
従来の技術と比べると、本発明のグラフェンの製造方法は、製造工程が簡単で、且つコストが低い。更に、該グラフェンの製造工程において、酸化剤を添加せずとも、金属リチウムと、グラフェンとを相互に接触させて、グラファイト層間化合物を形成させることができるので、グラフェンの電子構造及び結晶の完全性は破壊されない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例に係るグラフェンの製造方法のフローチャートである。
図2】本発明のグラフェンの製造方法で生成したグラフェンのSEM写真である。
図3】本発明のグラフェンの製造方法で生成したグラフェンのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0010】
(実施例)
図1を参照すると、本実施例のグラフェンの製造方法は、リチウム塩を有機溶剤に溶かし、電解質溶液を形成する第一ステップと、金属リチウムと、複数のグラフェンからなるグラファイトとを前記電解質溶液中に添加して、前記金属リチウム及び前記グラフェンを相互に接触させて、前記電解質溶液中のリチウムイオン及び前記有機溶剤の分子を、隣接する二つのグラフェンの間に入れて、グラファイト層間化合物を形成する第二ステップと、前記グラファイト層間化合物からグラフェンを剥がす第三ステップと、を含む。
【0011】
前記第一ステップにおいて、前記電解質溶液は、電解質リチウム塩を有機溶剤に溶かすことによって形成され、前記電解質リチウム塩は、前記有機溶剤中でリチウムイオンに解離されてなる。前記電解質リチウム塩は、炭酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、リチウムビス(オキサレート)ボレート、テトラフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム及びこれらの混合物のいずれか一種又は多種である。
【0012】
前記有機溶剤は、前記電解質リチウム塩を溶解するが、金属リチウムとは反応しない。前記有機溶剤は、炭酸プロピレン(PC)、テトラヒドロフラン(THF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、1,2−ジブトキシエタン(DBE)、ジメトキシメタン(DMM)、ジエトキシメタン(DEM)及びこれら混合物のいずれか一種又は多種である。
【0013】
本実施例において、前記有機溶剤の量は制限されず、前記電解質リチウム塩を完全に溶解し、且つ前記金属リチウム及びグラフェンを浸漬できればよい。
【0014】
前記電解質溶液における前記電解質リチウム塩のモル濃度は制限されない。例えば、前記電解質溶液における前記電解質リチウム塩の飽和濃度より小さいか又は等しく、前記電解質リチウム塩のモル濃度は、0.1mol/L〜100mol/Lである。本実施例において、前記電解質リチウム塩のモル濃度は、0.5mol/L〜20mol/Lである。
【0015】
前記第二ステップにおいて、前記金属リチウムは、シート状、砕せつ状、塊状又は粉末状であることができる。前記グラファイトは、電気グラファイト、人工グラファイト、高温熱分解グラファイト又は膨張グラファイトであることができる。本実施例において、前記グラファイトは、人工グラファイトであり、粉末状又は微粒状である。また、前記グラファイトの粒径は、0.05μm〜1000μmであり、前記グラファイトの粒径が小さいほど、前記金属リチウムと前記グラファイトとの接触面積は大きくなる。
【0016】
前記グラファイトは層状構造を有しており、隣接する二つのグラフェンの距離は、0.1335nmである。前記第二ステップにおいて、前記金属リチウム及び前記グラファイトは、前記有機溶剤の作用により、相互に接触して電位差を生じ、電気化学反応を起こす。該電気化学反応において、前記電解質溶液における前記金属リチウムはリチウムイオンになる。前記リチウムイオンは、前記電解質溶液と結びつき、イオン性溶媒和によって、溶媒和リチウムイオンを形成する。前記溶媒和リチウムイオンは、隣接する二つのグラファイト層の間に入り、グラファイト層間化合物を形成する。この際、前記隣接する二つのグラファイト層間化合物の結晶面の距離は、前記溶媒和リチウムイオンが入ることによって増加する。従って、前記隣接する二つのグラフェンの結合力は小さくなるので、前記グラファイト層は容易に剥がれて、グラフェンに分離されることができる。前記グラファイト層間化合物を形成する工程において、前記グラファイトを酸化するステップは必要ない。
【0017】
更に、前記金属リチウムと前記グラファイトとを均一に混合させるために、磁気撹拌、機械撹拌又は超音波分散などの攪拌方法を採用することによって、前記金属リチウム及び前記グラファイトを含む前記電解質溶液を攪拌することができる。
【0018】
更に、前記電気化学反応の速度を増加させるために、前記金属リチウム及び前記グラファイトを含む前記電解質溶液を加熱してもよく、その際は、常圧又は高圧下で、前記電解質溶液を加熱する。本実施例においては、高圧下で前記電解質溶液を加熱する。この場合、前記電解質溶液を、密閉した圧力反応釜に設置し、前記電界質溶液を所定の温度で、且つ所定時間加熱する。前記所定の温度は、150℃〜300℃であり、前記所定の時間は、30分〜40時間である。
【0019】
前記第三ステップにおいて、前記隣接する二つのグラファイト層間化合物の結晶面の距離は、グラファイト中の隣接する二つのグラフェンの距離より大きいので、前記グラファイト層間化合物におけるグラフェンは、容易に剥離される。前記グラフェンの剥離方法は制限されず、例えば、超音波分散、ボールミル法又は磁気撹拌などの方法を利用する。本実施例においては、液体媒介中での超音波分散の剥離方法によって、前記グラファイト層間化合物から前記グラフェンを剥離する。前記液体媒介は、前記リチウム塩を溶かした有機溶剤と同じであることができ、水又は低分子量の有機溶液であることもできる。例えば、前記低分子量の有機溶液は、エタノール、エチルエーテル又はアセトンである。前記超音波分散の剥離方法によって、前記グラファイト層間化合物における隣接する二つのグラフェンは剥離される。前記超音波分散における超音波の出力は100ワットであり、分散時間は5分〜400分である。
【0020】
また、得られた前記グラフェンをろ過、洗浄及び乾燥することもできる。本実施例において、遠心分離法又はろ過法によって、前記リチウム塩、金属リチウム及び溶剤を除去した後、凍結乾燥法、超臨界乾燥法、自然乾燥法又は焼成法によって前記グラフェンを乾燥する。
【0021】
(実験例1)
先ず、塩素酸リチウムを炭酸プロピレンに溶解して、電解質溶液を形成する。前記電解質溶液のモル濃度は、1.5mol/Lである。次いで、粒径が1μmの天然鱗片状グラファイト、粉末状の金属リチウム、及び前記電解質溶液を全て混合して混合溶液を形成した後、該混合溶液を高圧反応釜に設置して190℃で1時間加熱し、グラファイト層間化合物を形成する。次いで、前記グラファイト層間化合物を、超音波分散で攪拌して、グラフェンの懸濁液を形成する。この際、前記超音波分散における超音波の出力は1500ワットであり、分散時間は40分である。最後に、遠心分離法によって、前記懸濁液におけるグラフェンを分離させた後、該グラフェンを自然乾燥させる。図2及び図3は、本実施例のグラフェンの製造方法によって生成したグラフェンのSEM写真である。
【0022】
(実験例2)
先ず、塩化リチウムをテトラヒドロフランに溶解して、電解質溶液を形成する。前記電解質溶液のモル濃度は、0.5mol/Lである。次いで、粒径が8μmの天然鱗片状グラファイト、粉末状の金属リチウム、及び前記電解質溶液を全て混合して混合溶液を形成した後、該混合溶液を高圧反応釜に設置して200℃で1.5時間加熱し、グラファイト層間化合物を形成する。次いで、前記グラファイト層間化合物を超音波分散で攪拌して、グラフェンの懸濁液を形成する。この際、前記超音波分散における超音波の出力は600ワットであり、分散時間は120分である。最後に、遠心分離法によって前記懸濁液におけるグラフェンを分離させた後、該グラフェンを自然乾燥させる。
【0023】
(実験例3)
先ず、硝酸リチウムを1,2−ジメトキシエタンに溶解して、電解質溶液を形成する。前記電解質溶液のモル濃度は、2mol/Lである。次いで、粒径が50μmの天然鱗片状グラファイト、粉末状の金属リチウム、及び前記電解質溶液を全て混合して混合溶液を形成した後、該混合溶液を高圧反応釜に設置して300℃で10時間加熱し、グラファイト層間化合物を形成する。次いで、前記グラファイト層間化合物を超音波分散で攪拌して、グラフェンの懸濁液を形成する。この際、前記超音波分散における超音波の出力は250ワットであり、分散時間は30分である。最後に、遠心分離法によって前記懸濁液におけるグラフェンを分離させた後、該グラフェンを自然乾燥させる。
図1
図2
図3