【実施例】
【0032】
次に、本発明に係る積層セラミックコンデンサ(MLCC)の実施例を説明する。表1に示す各条件(Group I〜VI:条件No.1〜28)で、少なくとも10個以上のMLCCを作製してそれぞれ評価を行った。作製したMLCCのチップ寸法は、何れも1.0mm×0.5mm×0.5mm(1005サイズ)である。
【0033】
<MLCCの作成>
(1)誘電体原料粉末の調製
MLCCの誘電体層を焼成する主成分の出発原料として、BaTiO
3粉末を使用した(ここで、チタン酸バリウムを「BT」と略称する。)。BTを粉砕し、それぞれのメジアン径d50が0.33μm、0.30μm及び0.25μmである3種類の各粒径サイズのBT粉末を準備した。表1に示されるように、BT粉末について大小異なる粒径サイズの組(Group I〜VI)を定め、各条件に従ってそれぞれのグループ毎に小径及び大径粒子の配合比を変えて主成分粉末を混合した。
【0034】
BT粉末(主成分粉末)に添加する固溶副成分として、Ho
2O
3、Dy
2O
3、Gd
2O
3、MgCO
3、MnCO
3、V
2O
5、及びLiとBとを含む酸化物ガラス粉末を使用した。主成分であるBaTiO
3が100molに対して、Ho
2O
3が0.2mol、Dy
2O
3が0.2mol、Gd
2O
3が0.05mol、MgCO
3が0.5mol、MnCO
3が0.2mol、V
2O
5が0.1mol、LiとBとを含む酸化物ガラス粉末が1.0molの組成比となるように、各副成分の添加分量を調整した。
【0035】
表1に示されるように、Group I及びIVのMLCCでは、小径粒子に対する大径粒子の粒径比を1.1倍(=0.33/0.30)に調整した。Group II及びVのMLCCでは、小径粒子に対する大径粒子の粒径比を1.2倍(=0.30/0.25)に調整した。Group III及びVIのMLCCでは、小径粒子に対する大径粒子の粒径比を1.32倍(=0.33/0.25)に調整した。
【0036】
(2)MLCC成型体の作製
大小異なる粒径のBT主成分粉末に固溶副成分粉末を添加して得た誘電体原料粉末をポリビニルアセタール樹脂及び有機溶剤を含む有機バインダで湿式混合し、ドクターブレード法により1.5μm及び1.0μmの2種類の厚さのグリーンシートを作成した。そして、これらグリーンシート上にNi導電ペーストをスクリーン印刷することで、左右2極の内部電極に対応する電極パターンを形成した。
【0037】
左右の電極パターンが交互の配置となるように合計101枚のグリーンシートを積層した。すなわち、MLCCの層数nは100である。積層したグリーンシートをプレス後、所定のチップサイズ(1.0mm×0.5mm)にカットした。そして、電極パターンが露出した積層体の両端面にNi導電ペーストを塗布して、左右の外部電極20、20を形成した。
【0038】
(3)MLCC成型体の焼成
こうして得たMLCCの成型体をN
2雰囲気中で脱バインダし、その後、N
2、H
2、H
2Oの還元性混合ガス(酸素分圧が約1.0×10
−11MPa)雰囲気中において1250℃に昇温させた。表1には焼成工程における昇温速度の各条件が示される。1250℃での保持時間を2時間に設定して、MLCCの焼結体10を得た。焼結体10をアニール後、外部電極20、20の表面にはNi−Snめっき処理を施した。
【0039】
<評価方法>
(1)コアシェル粒子の面積比率
コアシェル粒子と均一固溶粒子とが混在するセラミック誘電体層において、焼結体粒子全体に対しコアシェル粒子が残存している割合を観察断面の面積比率により測定した。
【0040】
具体的には、MLCCから内部電極が交差する層断面を切り出し、Arイオンミリング法にて150nmの厚みまでそれを薄片化させて誘電体層試料を得て、TEM(透過型電子顕微鏡)により100個以上の焼結体粒子が観察できる15μm×15μmの視野を複数選択する。そして少なくとも20箇所以上の視野から、コアシェル粒子の面積(断面積)の総和が誘電体層の焼結体粒子全体の総断面積に対して占める割合を画像解析により算出する。このとき、TEMの視野外に一部が見切れている粒子であっても面積の測定において考慮した。
【0041】
図2は、誘電体断面の拡大画像を模式的に示す図である。画像解析おいては、コアシェル構造が観察される粒子を占めるピクセルを選択し、選択したピクセルの個数をカウントすることでコアシェル粒子が占める面積を算出した。他方、コアシェル構造が観察されない均一固溶粒子を占めるピクセルも同様に選択し、そのピクセル数をカウントすることで均一固溶粒子が占める面積を算出した。コアシェル粒子及び均一固溶粒子の面積の和を焼結体粒子全体の面積とし、これに対するコアシェル粒子の面積比率を百分率で評価した。
【0042】
TEMの画像解析において、コアシェル粒子及び均一固溶粒子の何れでもない箇所に該当するピクセルは、誘電体中のポア(空孔)又は空隙、若しくは不純物が析出した二次相と考えられ、これらのピクセルについては面積の算出から除外した。
【0043】
(2)焼結体粒子の平均粒径
MLCCの側面を研磨し内部電極が交差する層断面を露出させた後、TEMによりその断面の誘電体層部分を撮影した画像に基づいて焼結体粒子の粒径を測定した。撮影したTEM画像から100個以上の焼結体粒子が観察できる15μm×15μmの任意の視野を少なくとも20箇所以上選択した。
図2に示すように、1つの焼結体粒子で積層方向及びそれに直交する方向における最大の粒界幅D1、D2を測定し、それらを加算して2で割った値をその粒子の粒子径D(=(D1+D2)/2)とした。各焼結体粒子の粒子径を20箇所以上の視野を撮影したTEM画像から測定し、それらの算術平均を焼結体粒子の平均粒径として評価した。
【0044】
(3)比誘電率
MLCCの静電容量Cmの測定値から、下記の式(1)を用いて比誘電率εを求めた。本発明の実施例では、比誘電率の基準を5000と設定しそれ以上のものを適合と評価した。
【0045】
Cm=ε×ε
0×n×S/t ・・・式(1)
ここで、ε
0は真空の誘電率であり、n、S、tは、それぞれ、誘電体層の層数、内部電極層の面積、誘電体層の層厚である。
【0046】
インピーダンスアナライザを用いて静電容量Cmを測定し、電圧印加条件を、1kHz、1.0Vrmsとした。実施例で用いたMLCCの誘電体層の層数nは100である。内部電極層の面積はMLCCにおける電極パターンの設計値から推定される有効電極面積とした。誘電体層の層厚は作製したMLCCの層断面のTEM画像から求めた。
【0047】
(4)温度特性
MLCCの静電容量温度変化特性(TCC)がEIA規格X5Rの要求(静電容量の変化率が−55〜+85℃の温度範囲にて±15%以内)を満足するか否かにより温度特性を評価した。表1には、各条件で作製したMLCCについて、25℃の容量C
25℃を基準に温度範囲−55〜85℃における最大の容量変化ΔC(=C
min−C
25℃)から算出したTCC(=ΔC/C
25℃)が百分率で示される。
【0048】
<評価結果>
表1を参照して、各条件で作製したMLCCについての特性結果を説明する。
【0049】
【表1】
【0050】
Group I及びIV(条件No.1〜6、No.15〜20)のMLCCでは、粒径が0.30μmの小径粒子と、粒径が0.33μmの大径粒子のBT粉末が用いられ、各条件に示すそれぞれの配合比でセラミック誘電体層を焼成することにより、コアシェル粒子の残存比率を各条件で変化させた。表1に示されるように、Group IとIVとでは焼成後の誘電体層の層厚が異なり、すなわちGroup Iでは誘電体層の層厚が1.2μm、Group IVでは0.8μmである。
【0051】
これらGroup I及びIVのMLCCにおいて、小径粒子に対する大径粒子の配合比が小さくコアシェル粒子が比較的少ないMLCC(面積比率が2%の条件No.1、15)では、温度特性を示すTCCが−15%よりも悪化した。逆に、コアシェル粒子が多く残存するMLCC(面積比率が17%の条件No.6、20)では、比誘電率が規定の5000よりも低かった。
【0052】
一方、条件No.2〜5、16〜19のMLCCでは、5000以上の高い比誘電率とともにTCCが±15%以内の温度特性を達成した。良好な特性結果が得られたこれらの誘電体におけるコアシェル粒子の面積比率は5〜15%であった。
【0053】
Group II及びV(条件No.7〜10、No.21〜24)のMLCCでは、粒径が0.25μmの小径粒子と、粒径が0.30μmの大径粒子のBT原料粉末が用いられ、これら小径粒子及び大径粒子の配合比を7:3とした。小径粒子及び大径粒子の配合比を一定にしたことで、これらの条件では焼成後のコアシェル粒子の面積比率が何れも5%となった。
【0054】
Group II及びVのMLCCを用いて、焼成の昇温速度を1800〜600℃/hまで段階的に変化させて、その焼成条件の違いによる特性への影響を調べた。結果として、昇温速度が1500〜900℃/hでは5000以上の比誘電率が得られ、かつ、±15%以内の安定したTCCが達成されている(条件No.8、9、22、23)。また、これらの条件での焼結体粒子の平均粒径は0.3〜0.5μmであった。
【0055】
定性的には昇温速度が遅いほど、すなわち焼成時間が長いほど粒成長が促進されるといえる。また、Group II及びVの結果から、昇温速度が遅いほど、すなわち焼結体粒子の平均粒径が大きくなるほど温度特性が良好となる傾向があることが判る。
【0056】
Group III及びVI(条件No.11〜14、No.25〜28)のMLCCでは、粒径が0.25μmの小径粒子と、粒径が0.33μmの大径粒子のBT原料粉末を用いた。また、これら小径粒子及び大径粒子の配合比を一定の3:5としたことで、これらの条件では何れも焼成後のコアシェル粒子の面積比率が比較的高い15%となった。
【0057】
Group III及びVIのMLCCにおいても、焼成の昇温速度を2000〜600℃/hの範囲で段階的に変化させて、その焼成条件の違いによる特性への影響を調べた。これらの条件のうち条件No.12、13、26、27(昇温速度が1800〜900℃/h)のMLCCで、5000以上の比誘電率、かつ±15%以内のTCCが達成された。また、特性が良好と評価された条件における焼結体粒子の平均粒径は0.3〜0.5μmであった。