特許第5668063号(P5668063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5668063溶射被膜を有する摺動部材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5668063
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】溶射被膜を有する摺動部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/10 20060101AFI20150122BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20150122BHJP
   F16J 9/26 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   C23C4/10
   C22C27/06
   F16J9/26 D
【請求項の数】15
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-522044(P2012-522044)
(86)(22)【出願日】2010年4月15日
(65)【公表番号】特表2013-500392(P2013-500392A)
(43)【公表日】2013年1月7日
(86)【国際出願番号】EP2010054961
(87)【国際公開番号】WO2011012336
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2013年1月24日
(31)【優先権主張番号】102009035210.4
(32)【優先日】2009年7月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509340078
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル ブルシェイド ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL BURSCHEID GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(74)【代理人】
【識別番号】100165940
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 令子
(72)【発明者】
【氏名】マルカス ケネディ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ジナボールド
(72)【発明者】
【氏名】マルク マニュエル マッツ
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−071664(JP,A)
【文献】 特開平10−068034(JP,A)
【文献】 特開昭55−125249(JP,A)
【文献】 特開2000−045058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00 − 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用の摺動部材であって、
基材と、
以下の成分比率を含む粉末を溶射することによって形成可能な被膜とを備えることを特徴とする摺動部材。
クロム(Cr):55〜75wt%、
ケイ素(Si):3〜10wt%、
ニッケル(Ni):18〜35wt%、
モリブデン(Mo):0.1〜2wt%、
炭素(C):0.1〜3wt%、
ホウ素(B):0.5〜2wt%および
鉄(Fe):0〜3wt%。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動部材であり、前記粉末はNi及びCrの双方を含むマトリックスに埋め込まれたCrを含むことを特徴とする摺動部材。
【請求項3】
請求項2に記載の摺動部材であり、Cr前記粉末内での比率はCrが30〜50wt%となるように調整されることを特徴とする摺動部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記粉末の粒径は5〜65μmであることを特徴とする摺動部材。
【請求項5】
請求項2、又は、請求項2に従属する請求項3又は請求項4のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記Ni及びCrの双方を含むマトリックスに埋め込まれた炭化物の粒径は1〜5μmであることを特徴とする摺動部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記被膜の層厚は最大1000μmであることを特徴とする摺動部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の摺動部材であり、前記溶射の方法は高速酸素燃料溶射法またはプラズマ溶射法を含むことを特徴とする摺動部材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の摺動部材であり、ピストンリングであることを特徴とする摺動部材。
【請求項9】
内燃機関用の摺動部材の製造方法であり、
基材を設けるステップと、
以下の成分比率を含む粉末を溶射することにより前記基材を被覆するステップとを備える方法。
クロム(Cr):55〜75wt%、
ケイ素(Si):3〜10wt%、
ニッケル(Ni):18〜35wt%、
モリブデン(Mo):0.1〜2wt%、
炭素(C):0.1〜3wt%、
ホウ素(B):0.5〜2wt%および
鉄(Fe):0〜3wt%。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であり、前記粉末はNi及びCrの双方を含むマトリックスに埋め込まれたCrを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であり、Cr前記粉末内での比率はCrが30〜50wt%となるように調整されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法であり、前記粉末の粒径は5〜65μmであることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項10、又は、請求項10に従属する請求項11又は請求項12のいずれか一項に記載の方法であり、前記Ni及びCrの双方を含むマトリックスに埋め込まれた炭化物の粒径は1〜5μmであることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか一項に記載の方法であり、前記被膜の層厚は最大1000μmであることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか一項に記載の方法であり、前記溶射の方法は高速酸素燃料溶射法またはプラズマ溶射法を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用の摺動要素、特にピストンリングに関し、そのような摺動部材の製造方法に関する。
【0002】
本発明の目的は、被覆材料として従来使用されてこなかった材料系を被覆材料として利用して、電着法または溶射によって製造されるピストンリング被膜に比べて溶射ピストンリングの摩擦特性を改善することである。
【背景技術】
【0003】
クロム系被膜の溶射塗布はピストンリングには利用されていない。現時点でクロム含有被膜系は電着工程を利用してピストンリングに塗布されている。また、この工程の間に耐摩耗性を改善するための金属酸化物またはダイヤモンド粒子がクロム層に埋め込まれる。
【0004】
金属酸化物またはダイヤモンド粒子で強化したクロム層を電着工程によって作製する手法の代わりに、摺動部材をクロム系材料で溶射被覆する手法がある。溶射層の摩耗低減に利用される硬質材料粒子は炭化クロム(Cr)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化クロムを含めたCrを主成分とする被膜系をプラズマ溶射法または高速酸素燃料(high-velocity oxy fuel:HVOF)溶射法によって作製しピストンリング被覆材料として使用することにより、新しいタイプのピストンリングを製造する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様では、内燃機関用の摺動部材であって、基材と、以下の成分比率で構成された粉末を溶射することによって形成可能な被膜とを備える摺動部材を提供する。
クロム(Cr):55〜75wt%、
ケイ素(Si):3〜10wt%、
ニッケル(Ni):18〜35wt%、
モリブデン(Mo):0.1〜2wt%、
炭素(C):0.1〜3wt%、
ホウ素(B):0.5〜2wt%および
鉄(Fe):0〜3wt%。
【0007】
摺動部材、特にピストンリングに使用する材料は、例えば鋼または鋳鉄であってよい。
【0008】
一実施形態によれば、粉末はNi/Crマトリックスに埋め込まれたCrを含む。
【0009】
一実施形態によれば、Crの比率はCrが30〜50wt%となるように調整する。
【0010】
一実施形態によれば、粉末の粒径は5〜65μmである。
【0011】
一実施形態によれば、Ni/Crマトリックスに埋め込まれた炭化物の粒径は1〜5μmである。
【0012】
一実施形態によれば、被膜の層厚は最大1000μmである。
【0013】
一実施形態によれば、溶射の方法は高速酸素燃料溶射法またはプラズマ溶射法を含む。
【0014】
一実施形態によれば、摺動部材はピストンリングである。
【0015】
本発明の別の態様では、内燃機関用の摺動部材の製造方法であって、基材を設けるステップと、以下の成分比率を含む粉末を溶射することにより当該基材を被覆するステップとを備える方法を提供する。
クロム(Cr):55〜75wt%、
ケイ素(Si):3〜10wt%、
ニッケル(Ni):18〜35wt%、
モリブデン(Mo):0.1〜2wt%、
炭素(C):0.1〜3wt%、
ホウ素(B):0.5〜2wt%および
鉄(Fe):0〜3wt%。
【0016】
一実施形態によれば、粉末はNi/Crマトリックスに埋め込まれたCrを含む。
【0017】
一実施形態によれば、Crの比率はCrが30〜50wt%となるように調整する。
【0018】
一実施形態によれば、粉末の粒径は5〜65μmである。
【0019】
一実施形態によれば、Ni/Crマトリックスに埋め込まれた炭化物の粒径は1〜5μmである。
【0020】
一実施形態によれば、被膜の層厚は最大1000μmである。
【0021】
一実施形態によれば、溶射の方法は高速酸素燃料溶射法またはプラズマ溶射法を含む。
【0022】
一実施形態によれば、摺動部材はピストンリングである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】HVOFによりピストンリング材料上に作製した本発明に係るCr‐Ni‐Si‐C‐Fe‐B被膜の微細構造の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
粉末を溶射し、微細構造(図1参照)を調査し、硬度および耐摩耗特性を試験した。微細構造画像から、炭化物が均一に分布しており、未溶融粒子が存在せず、多孔性の低い非常に高密度な層であることが分かった。ここでは以下の化学組成を有する材料系を使用した。
クロム(Cr):65.5〜65.7wt%、
ケイ素(Si):3.7〜3.9wt%、
ニッケル(Ni):21.2〜21.4wt%、
モリブデン(Mo):1.2〜1.3wt%、
炭素(C):5.8〜5.9wt%、
ホウ素(B):0.7wt%および
鉄(Fe):1.2wt%
(ただし、Crの比率は40wt%とした)。
【0025】
最初の試験結果からこの層の多孔性は5%未満、硬度は約948HV0.1であることが分かった。これは、CrSi、NiSi、FeB、Crのような硬質材料相の存在下でHVOFプロセスを利用した場合の結果である。
【0026】
この材料系の摩擦特性を試験するために、内標準法試験システムにおける摩耗試験を潤滑条件下で実施した。
【0027】
表1は、測定した摩耗値を、電着によって作製したCr系層および溶射によって作製したMo系層と比較した評価結果を示す。この表から、本明細書に記載した材料系が他の被覆技術の代替として使用できることが容易に分かる。また、本発明の溶射法を使用すれば被覆時間を大幅に短縮することができる(電着:1μm/h、本発明:100μm/min)。
【0028】
【表1】
図1