特許第5668087号(P5668087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5668087半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5668087
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20150122BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-33540(P2013-33540)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-165272(P2014-165272A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2014年7月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000217332
【氏名又は名称】田中電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107962
【弁理士】
【氏名又は名称】入交 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】天野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】三上 道孝
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】濱本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中島伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 勉
(72)【発明者】
【氏名】三苫 修一
(72)【発明者】
【氏名】小野 甲介
(72)【発明者】
【氏名】劉 斌
(72)【発明者】
【氏名】執行 裕之
【審査官】 井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−163194(JP,A)
【文献】 特開2007−012776(JP,A)
【文献】 特開2012−089386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
H01B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面減少率99%以上で連続伸線され、銅酸化物の成長層からなる表層と金属不足型酸化銅マトリックスに酸化ニッケル粒子が微細に分散した層からなる内部酸化層及び純度99.995質量%以上の銅(Cu)マトリックスに0.1〜1.5質量%のニッケル(Ni)が均一に固溶した合金層とから構成される半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤであって
上記表層に対してその酸素濃度が十分の1となるまでの領域を内部酸化層厚さとするとき、上記表層の厚さに対する上記内部酸化層の厚さが60倍以上である、ことを特徴とする半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造。
【請求項2】
断面減少率99%以上で連続伸線され、銅酸化物の成長層からなる表層と金属不足型酸化銅マトリックスに酸化ニッケル粒子が微細に分散した層からなる内部酸化層及び純度99.995質量%以上の銅(Cu)マトリックスに0.1〜1.5質量%のニッケル(Ni)及び1〜5質量ppmのリン(P)が均一に固溶した合金層とから構成される半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤであって、
上記表層に対してその酸素濃度が十分の1となるまでの領域を内部酸化層厚さとするとき、該表層の厚さに対する内部酸化層の厚さが60倍以上である、ことを特徴とする半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造。
【請求項3】
上記表層の厚さに対する上記内部酸化層の厚さが80倍以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造。
【請求項4】
上記銅希薄ニッケル合金層の残部銅(Cu)の純度が99.998質量%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイやの構造。
【請求項5】
上記銅希薄ニッケル合金層の残部ニッケル(Ni)が0.8〜1.2質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造。
【請求項6】
上記銅合金細線の酸素(O)の含有量が10〜150質量ppmであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造。
【請求項7】
上記連続伸線が冷間で連続伸線されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造。
【請求項8】
上記半導体装置の接合がウェッジボンディングであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造。
【請求項9】
上記半導体装置の接合がボールボンディングおよびステッチボンディングであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造に関し、特にフリーエアボール(FAB)ボンディングにより半導体素子上のパッド電極に第一ボンドをした後、ステッチボンディングにより、リードフレーム上の外部電極に第二ボンドをするボールボンディング用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のフリーエアボールにより半導体素子上のパッド電極に第一ボンドをする方法は次の通りである。
リールから繰り出された銅合金細線は、ボンディングツールとしてのキャピラリに導入され、次いでそのツールの出口側から一定長さだけ導出された銅合金細線の先端を水素混入窒素ガス等の不活性ガスを吹き付けながら、銅合金細線の先端とスパークロッドとの間の微小放電により銅合金細線の先端を溶融してイニシャルボールを形成した後、150℃〜300℃の範囲内で加熱したICチップ等の半導体素子のアルミニウム(Al)またはアルミニウム(Al)合金のパッド電極上にこの溶融ボールを超音波振動させながら超硬ツールで押しつけ、熱圧着(超音波併用熱圧着ボンディング)する。
ここで、超音波印加の効果は、銅合金細線の変形を助長するための接合面積の拡大と、銅合金細線に形成された数ナノメートル(nm) 程度の表面酸化膜を破壊・除去することにより、銅(Cu) 等の新たな金属原子を下面に露出させ、相対して接するボンディングパッドとの界面に塑性流動を発生させ、互いに密着する新生面を漸増させながら、両者を原子間結合させることにある。
【0003】
その後、このキャピラリをXYZ方向(前後、左右、上下方向)に移動させてICチップの電極上に接合された銅合金細線を所定の形状にループを形成し、外部配線リードフレーム上にステッチボンディングした後、この銅合金細線を切断してワイヤボンディングする方法が採られている。このステッチボンディングは、ボンディングワイヤを超音波でボンディングするウェッジボンディングの1種であると考えられている。
【0004】
このボンディングワイヤは、高純度の銅合金だけでは軟らかすぎるため微量の添加元素を入れるのが一般的である。例えば、特開2012−89685号公報(後述する特許文献1) がある。これは、チタン(Ti)等の9種類の添加元素を含む軟質希薄銅合金材料を用いて加工前の結晶組織がその表面から内部に向けて50μmの深さまでの平均結晶粒サイズが20μm以下である表層を有する銅ボンディングワイヤを製造し、導電率(万国標準軟銅(International Anneld Copper Standard)上、抵抗率1.7241×10−8Ωmを100%とした場合の導電率をいう。以下、同じ。)を98%IACS以上の比較的高い値に維持したまま、ボンディングワイヤの機械的な軟質特性及びボンディング後の疲労特性を向上しようとするものである。
【0005】
また、フリーエアボール(FAB)方式ではなく、完全な還元雰囲気下で比較的大きな溶融ボールを形成してボンディングする銅合金細線の材料としては、特開昭61−20693号公報(後述する特許文献2) がある。
これは、ボンディングワイヤの電気的な導電性を高く維持したまま、第一ボンドの接合強度を良好にすることを目的として、マグネシウム(Mg)、希土類元素、テルル(Te)等の24元素(希土類元素を便宜的に1元素とした。)を0.001〜2質量%含有し、残部が実質的に銅であるボンディングワイヤが開示されている。
【0006】
これまでの高純度の銅合金細線を質量分析すると、もともと含まれる数質量ppmないし数十質量ppmの酸素のほか、表層や粒界を通して侵攻した酸素が数十ないし数百質量ppm、通常は100質量ppm前後含まれている。すなわち、銅合金細線に形成された銅酸化物の表面酸化膜以外に、銅合金内部に酸素が存在している。
高純度の銅合金中に酸化しやすい微量添加元素が無ければ、この微量の酸素は高純度の銅マトリックスのCuと金属不足型銅酸化物(「Cu2-XO」と略す。)をなし、Cu2-xOマトリックスを形成する。このCu2-xOマトリックスは周囲温度で絶えず表層から大気中の酸素を呼び込んで銅マトリックスに酸素を供給していく。この表層側のCu2-XOマトリックス中でCu2-XOが酸素原子を手放すと、新たな銅原子が形成されるとともに、フリーの酸素原子は新たな銅マトリックスとふたたび金属不足型銅酸化物(Cu2-XO)を形成し、この過程を通じて銅マトリックス内部へCu2-XOが侵攻する。一方、新たな銅原子は金属不足型銅酸化物マトリックス中を自由に移動できるので、その一部は大気中の酸素と結びついて表層酸化物(便宜的に「CuO」と略す。)を形成する。
【0007】
ボンディング用の高純度の銅合金細線は、ダイス、一般的にはダイヤモンドダイスにより断面減少率99%以上の連続伸線がされているので、その表面はダイスの圧縮力によって高度に伸線加工の影響を受けている。特に、冷間で連続伸線されている場合、微視的にみれば、細線の周囲に均等に押圧力がかかっているわけではないので、強引抜き加工による細線のダメージのバラツキははなはだしい。そのため、水中で冷間伸線された、酸素含有量が10質量ppm以下の銅希薄ニッケル合金細線であっても、連続伸線加工を経てボンディングワイヤを放置している期間中に、周囲温度でも大気中の酸素によって内部酸化される。その結果、例え、酸素含有量が10質量ppm以下の細線で、製造直後は良好なボンディング特性を示すワイヤであっても、数十日間周囲温度で放置後には、図3に示すように、表層にある均一な数ナノメートルのCuO皮膜以外に最大厚さが十ナノメートル(nm)前後の不均一な半球状に肥大したCu2O膜が表層に形成されるようになる。
このように肥大した半球状のCu2O膜が形成された表層中でも、Cu2-XOからの新たな銅原子は、Cu2O膜を経由して自己拡散して大気中の酸素と結合できるので、Cu2-XO皮膜は周囲温度でもゆるやかに内方向へ成長し、また、表層内部の不規則な半球状膜もさらに酸化され、Cu2O皮膜として厚く形成されるようになる。
【0008】
これまでの高純度の銅合金細線をボンディングワイヤとして用いた場合、第一ボンドでは、フリーエアボール(FAB)方式で水素混入窒素ガス等の還元性ガスを吹き付けて溶融ボールを形成するため、上記の数ナノメートル(nm)ないし数十ナノメートル(nm)からなるCu2Oの皮膜および不規則な半球状Cu2O膜は熱破壊される。しかし、第二ボンドのステッチ接合では、接合温度が低いので上記の酸化膜はなかなか壊れず、第二ボンドはこのようにして形成されたCu2O膜の状態により接合するたびに接合結果がばらつく。ボンディングワイヤが周囲温度に放置される期間が長くなったり、線径が25μmから20μm、ひいては15μmと細くなったりすればするほど、この表層の影響が強く現れ、ステッチ接合性のバラツキが大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−89685号公報
【特許文献2】特開昭61−20693号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Reidar Haugsrud、外1、 「On the High−Temperature Oxidation of Cu−Rich Cu−Ni Alloys 」、Oxidation of Metals, Vol.50, Nos.314,1998
【非特許文献2】D.P.Whitle、外1、「TWO−PHASE SCALEFORMATION ON Cu−Ni ALLOYS」Coprrosion Science,1968,Vol.295−308,Pregamon Press
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高純度銅合金細線の表層において、周囲温度で数日間放置しておいても、不規則な半球状の酸化模様が形成されるのを防ぎ、超音波ボンディング、特にボールボンディングにおけるステッチ接合性のバラツキが抑制される銅合金ボンディングワイヤを提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造は、断面減少率99%以上で連続伸線された、表層と内部酸化された酸化ニッケル粒子が微細に分散した内部酸化層と銅希薄ニッケル合金層から構成される半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤにおいて、その表層は酸化物の成長層からなり、その内部酸化層は金属不足型酸化銅マトリックスにニッケル酸化物粒子が微細に分散した層からなり、その銅希薄ニッケル合金層は純度99.995質量%以上の銅(Cu)マトリックスに0.1〜1.5質量%のニッケル(Ni)が均一固溶した合金層からなり、当該内部酸化層の厚さが当該表層の厚さよりも60倍以上厚いことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造は、断面減少率99%以上で連続伸線された、表層と内部酸化層と銅希薄ニッケル合金層から構成される半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤにおいて、その表層は酸化物の成長層からなり、その内部酸化層は金属不足型酸化銅マトリックスにニッケル酸化物粒子が微細に分散した層からなり、その銅希薄ニッケル合金層は純度99.995質量%以上の銅(Cu)マトリックスに0.1〜1.5質量%のニッケル(Ni)およびリン(P)が1〜5質量ppm均一固溶した合金層からなり、当該内部酸化層の厚さが当該表層の厚さよりも60倍以上厚いことを特徴とする。
【0014】
本発明における銅希薄ニッケル合金は完全に均一固溶するので、微視的な固溶状態は不明である。しかし、ニッケル(Ni)の含有量が10質量%に近いもので、酸素雰囲気中で銅−ニッケル合金を内部酸化すると内部酸化されたニッケル酸化物(「NiO」と略す。)粒子が均一に分散した状態で観察される。( 「On the High−Temperature Oxidation of Cu−Rich Cu−Ni Alloys 」(非特許文献1)及び「TWO−PHASE SCALEFORMATION ON Cu−Ni ALLOYS」(非特許文献2))
非特許文献1及び非特許文献2によれば、Cu−5重量%Ni、あるいは、80%、55%、及び10%Niの銅ニッケル合金を酸化すると、銅酸化物からなる外側層とCuOマトリクス中に内部酸化されたNiO粒子が分散した内部層とが形成されることが明らかにされている。
このことから、直接測定することはできないが、銅希薄ニッケル合金中でも同様にニッケル(Ni)は均一に固溶し、内部酸化されたNiO粒子の粒径は、ニッケル(Ni)の含有量が少なればなるほど小さくなり、銅マトリックス中に希薄状態で均一に分散しているものと考えられる。
一方、内部酸化されたNiO粒子は、熱力学的に安定しており、ある程度の大きさのNiO粒子が形成されれば、銅マトリックス中ないしCu2-XOマトリックス中でも、ひいてはCu2Oマトリックス中でも周囲温度では移動しない。ニッケル(Ni)の含有量の下限を0.1質量%としたのはこのためである。内部酸化により、固溶したニッケル(Ni)がNiO粒子となって増加した酸素分だけ銅マトリックス中の体積が増加し、銅マトリックスが機械的に歪む。この機械的な歪みは酸素の供給が十分な表層では大きく、ワイヤ内部ほど小さくなるので、いわゆる微視的なクサビ状の歪みとなる。このため、Cu2-xOマトリックスから独立したフリーの酸素原子あるいは表層から供給されたフリーの酸素原子が粒界拡散よりも速い速度でCu2-xOマトリックス中を侵攻するので(図1参照。)、高純度の銅合金細線で観察されたような表層の半球状のCu2O膜が形成される(図3参照。)ことがなくなる(図2参照。)。
【0015】
図1において、図の左端の深さ数nm以内の表面層近傍の領域のグラフは、装置特有のノイズや試料表面の汚染などの影響のため酸素濃度が低く表れたもので、正確な状態は明らかでないが、高純度銅合金及び本発明の銅稀薄ニッケル合金のいずれにおいてもこの表層から数nmの領域はCuO層であると考えられる(グラフの作成上の都合でグラフの左端が縦軸に接しておらず、この範囲はデータ上空白。)。
後述するように、酸素のカウント数が表層の十分の一になる領域を内部酸化層と定義すると、この領域では侵攻してくる酸素に伴い、酸化ニッケル微粒子が均一微細に分散した金属不足型銅酸化物Cu2-xOマトリックスを形成し、図2に観察される表層に不規則に肥大して形成される半球状のCuO層が生じない。
これに対して、高純度銅合金においては、表層から内方に向けて酸素の侵攻が進まず、内方から拡散してくる銅(Cu)との酸化物を形成し、表層直下に肥大した半球状の酸化物層を形成するものと解される。
これらの過程を詳細にみると、
【0016】
本発明の銅希薄ニッケル合金細線において、酸化ニッケル(NiO1-y)は、酸化銅(Cu2-xO)と同じく金属不足型酸化物であるが、Cu2-xOマトリックス中ではニッケルが優先的に酸化されてNiOとなる。しかも、Cu2-xOマトリックス中では粒径の小さなNiO粒子が希薄状態で均一に分散しているので、Cu2-xOマトリックスから酸素が解離しやすくなり、解離したフリーの酸素の内部酸化速度が速くなる範囲が存在する。銅希薄ニッケル合金細線において、ニッケル(Ni)の上限を1.5質量%とし、下限を0.1質量%としたのはこの理由による。ニッケル(Ni)が上限を超えれば、NiO粒子が大きくなりすぎて内部酸化速度が遅くなり、その結果、表層に半球状の銅酸化物の模様ができてしまう。表層に半球状の模様を形成しにくくするには、ニッケル(Ni)が0.8〜1.2質量%の範囲が好ましい。
【0017】
本発明の銅希薄ニッケル合金細線において、リン(P)を1〜5質量ppm均一固溶させるのは、第一ボンド時の溶融ボールの表面に酸化膜を形成しにくくするためである。
リン(P)の添加量はニッケル(Ni)の含有量に対して微量なので、数日間周囲温度でボンディングワイヤを放置しても内部酸化層の形成機構に悪影響は無い。
【0018】
本発明の銅希薄ニッケル合金細線において、素材となる高純度銅(Cu)の純度は99.995質量%以上必要である。残りの0.005質量%未満には、銀(Ag)、鉄( Fe)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)、 スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)、クロム(Cr)、テルル(Te)、セレン(Se)、シリコン(Si)などが含まれる。この不純物元素が0.005質量%以上になると、銅希薄ニッケル合金細線に表面偏析が生じたりCu2-xOマトリックス中にNiO粒子を希薄状態で均一に分散させることが困難になったりするからである。高純度銅(Cu)の純度は、NiO粒子を均一微細に分散させるために99 .998質量%以上が好ましい。
【0019】
本発明の銅希薄ニッケル合金細線は、銅希薄ニッケル合金を溶解鋳造直後から大気中の酸素によって酸化される。例えば、連続鋳造後の冷却時に酸化され、冷間で連続伸線加工時に酸化され、連続伸線後の調質熱処理によっても酸化される。また、出荷前の放置状態でもボンディングワイヤの表面から酸化が進行し、ボンダーにセットしてボンディング待ちの状態でも酸化が徐々に進行する。
ところが、銅希薄ニッケル合金細線を周囲温度で数日ないし数十日間放置しても、従来の高純度銅ワイヤと同様に、ボンディングワイヤ表面のCu2O膜はほとんど膜厚を変えず、Cu2-xOマトリックス中の酸素の侵攻が速いので、表層に半球状膜が形成されることは無い。
また、その結果、このようにして侵攻した酸素により形成される内部酸化層が拡大するが、これらの酸素濃度はきわめて低いのでボンディングワイヤの物理的、電気的性質に影響することはない。この内部酸化層の厚さはこれらの効果を確保するうえで、上記表層の厚さよりも60倍以上厚くすること、好ましくは80倍以上厚くすることが好ましい。
【0020】
この連続伸線は、連続伸線前の線径に対して99%以上の冷間加工されたものである。連続伸線加工は、ダイス伸線することが好ましく、ダイヤモンドダイスが特に好ましい。
これにより、銅希薄ニッケル合金細線の表面のすべりがよくなり、滑らかで均一な表面となるため、表層に半球状膜が形成されにくくなるためである。
【0021】
また、本発明においては、ボンディングワイヤ中の酸素(O)の含有量が10〜150質量ppmであることが好ましい。ボンディングワイヤの線径に応じて酸素濃化層の体積が定まるが、必要以上に銅希薄ニッケル合金細線中に酸素が含まれると、表層に半球状膜が形成されやすくなるためである。
なお、中間熱処理は、銅希薄ニッケル合金細線中の酸素が過剰に移動しやすくなるため、適用しないことが好ましいが、中間熱処理を施す場合は、非酸化性雰囲気でなるべく低温の400℃〜700℃で60〜180分間であれば、差支えはない。
【0022】
また、本発明の銅希薄ニッケル合金ボンディングワイヤにおいては、貴金属めっきされたアルミニウムパッドを用いることが好ましい。ボンディングワイヤからアルミニウムパッド中に酸素が進入するのを防ぐためである。貴金属めっきは、金(Au)めっき、銀(Ag)めっき、パラジウム(Pd)めっきの軟質めっきがよい。また、めっき硬さは銅希薄ニッケル合金ボンディングワイヤの静的硬さと同程度にしておくと、溶融ボールの組成流動をコントロールすることができ、チップ割れを防ぐことができる。具体的にはめっき硬さをヌープ硬さで測定し、ボンディングワイヤのビッカース硬さに近似させることができる。
【0023】
また、本発明においては、リードフレームが銅(Cu)合金または鉄(Fe)素材に銅(Cu)または銅(Cu)合金が電気めっき等により被覆されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のボンディングワイヤは、表層のCu2O膜が周囲温度で成長するよりもはるかに速く、金属不足型銅酸化物(Cu2-xO)マトリックス中のフリーの酸素がCu2-xOマトリックス中をすばやく移動できるため、金属不足型銅酸化物(Cu2-xO)マトリックスがクッション層として働き、表層の半球状の酸化膜模様の形成が無くなり、表層のCu2O膜が安定する。このため、第二ボンドにおけるボンディングワイヤのステッチ接合性も向上する。
また、微細に分散したNiO粒子はCu2-xOマトリックス中で移動することは無く、この内部侵攻現象は大気中の酸素によってCu2-xOマトリックスの一部がCu2Oマトリックスになったとしても変わらない。よって、数十日間周囲温度で放置しても、大気中の酸素が表層から銅マトリックス内部へ侵攻を続けるので、銅酸化物の表層の厚さは銅希薄貴金属合金細線と同様にほとんど変化しない特有の構造を示す。
【0025】
さらに、本発明のボンディングワイヤは、ボンディングワイヤ自体の細線の強度を銅希薄ニッケル合金でもたせるとともに、ニッケル(Ni)の含有量を調整することによってNiO粒子の粒径をコントロールし、表層に半球状の銅酸化物の模様が形成されず、微細に分散したNiO粒子が楔となって酸素をCuマトリックスへ送り込み、他の銅希薄貴金属合金細線よりも数倍速く内部酸化層を形成することができる(図1参照。)。
よって、数十日間放置しても、これまでの高純度銅合金のボンディングワイヤよりもステッチ接合性が安定する。また、ニッケル(Ni)の含有量が数質量%なので、フリーエアボール(FAB)方式で溶融ボールを塑性流動しても、第一ボンドでボンディングワイヤの動的強度が増加してアルミスプラッシュを起こすことが無い。また、これまでの高純度銅合金よりも比抵抗が高くなり発熱しても、機械的強度が高いため高温安定性がこれまでの高純度銅合金よりも劣ることも無い。その他、ワイヤ強度がこれまでの高純度銅合金よりも強いためボンディング動作中にワイヤが変形しにくく、フリーエアボールの偏芯が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本件発明の銅希薄ニッケル合金細線を製造後、周囲温度で30日間放置した後の銅(Cu)、ニッケル(Ni)および酸素(O)の相対二次イオン強度の深さ方向分布曲線を示す。縦軸は対数目盛である。
図2図2は、本件発明の銅希薄ニッケル合金細線を製造後、周囲温度で30日間放置した後の表層と金属不足型酸化銅(Cu2-xO)マトリックス(写真下側)の明視野透過電子顕微鏡像(×220万倍)を示す。
図3図3 は、従来例の高純度銅合金細線を製造後、周囲温度で30日間放置した後の表層と金属不足型酸化銅(Cu2-xO)マトリックス(写真下側)の明視野透過電子顕微鏡像(×220万倍)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(内部酸化膜厚測定)
酸素含有量が公称5質量ppmの純度99.9999質量%の銅(Cu)に純度99.995質量%のニッケル(Ni)を1.2質量%含有した銅希薄ニッケル合金を連続鋳造し、直径300mmの銅希薄ニッケル合金インゴットとした。このインゴットを冷間で連続伸線し、線径20μmのボンディングワイヤとした。このワイヤを周囲温度で30日間放置した後の酸素(O)濃度を表層から深さ方向へ測定(装置名:CAMECA製二次イオン質量分析装置ims5f型)したところ、図1の結果を得た。
なお、このボンディングワイヤを燃焼法(装置名:LECO製酸素分析装置 RO−600)で測定したところ、44質量ppm(固溶酸素および表面酸化膜の酸素の両方が含まれた値)を得た。
図1の測定結果において、酸素のカウント数が表層の十分の一になる厚さを内部酸化層厚さと定義し、今回の測定では172nmという値を得た。
酸素濃度は、表層から内部へ連続して下がっていることから、まだ内部酸化が進行していることを示している。すなわち、これは、このまま周囲温度で放置しておいてもボンディングワイヤの表層に不安定な半球状の模様が形成されないことを意味する。
従来の純度99.997%、酸素含有量が公称5質量ppmの高純度銅合金線についても同様の測定を行い図1中に結果を示した。この場合、内部酸化層厚さは19nmであった。
【0028】
(表層の酸化膜厚測定)
上記の銅希薄ニッケル合金ワイヤを周囲温度で30日間放置した後、透過観察型顕微鏡(TEM)により明視野像を220万倍で観察した(日立ハイテクノロジーズ社製、HF−2000)。これを図2に示す。図2から明らかな通り、中央に1.8nmの均一なCu2O膜が観察され、その下方に黒いまだら模様のCu2-xO内部酸化層が観察されるが、従来の高純度銅合金(図3)に観られるような半球状の銅酸化物の模様は観察されなかった。
なお、10万倍のFE−SEM(装置名:日本電子製 電界放出型走査電子顕微鏡
JSM−7800F)では微小のNiO粒子が観察されなかった。
また、本発明の銅希薄ニッケル合金細線では、表層で銅酸化物が形成される固相拡散速度よりも銅希薄ニッケル合金マトリックスへ進入する内部酸化速度が桁違いに速いことが観察される(図2)。(この内部酸化層の酸素の侵攻は、他の銅希薄貴金属合金細線よりも一桁深い。)
同様に純度99.997%、酸素含有量が公称5質量ppmの従来の高純度銅合金線についてもTEM観察を行い、図3の結果を得た。図2で示すような本発明の銅希薄ニッケル合金と違い、半球状の銅酸化物が成長している様子が観察される。
【0029】
(第二ボンドの接合性試験)
各種ワイヤを室温にて30日間放置後、ボンディングマシン(装置名:キューリックアンドソファー社製 IConnタイプ)を使用し、銀めっき銅板(めっき厚:2.5μm)へ各種ボンディング条件でボンディングし、ボンディングプロセスウィンドウ評価(ここでいう「ウインドウ広さ」とは、主に超音波出力と過重とで定まる適正に接合できる範囲をいう。)を行った。ボンディングプロセスウィンドウが広いワイヤほど、実操業時の各種ノイズの影響を受けにくく安定して使用できる。
今回は接合出力(Bond Power)を0から200まで20刻みで設定し、そのそれぞれの接合出力(Bond Power)に対して、Bond Forceを20から200まで20刻みで変更した、合計110のボンディング条件で評価を行った。それぞれのボンディング条件で100本の連続ボンディングを行い、連続してボンディングが進行して一度もボンディングが止まらなければOK、不着等の理由により一度でもボンディングが停止するとNGとした。ワイヤの第二ボンド接合性の指標として、上記110のボンディング条件中OKであった条件数を記録し、ウインドウ広さを求めた。
【0030】
次いで、接合出力(Bond Power)を「100」および接合力(Bond Force)を「120」として1万回接合したときの接合不良の本数を求めた。その結果を表1の「第二ボンディング接合信頼性」に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
従来例のボンディングワイヤは、内部酸化層厚さ/表面酸化層厚さが1.7と小さいので、第二ボンディングのウィンドウ広さも27と狭く、第二ボンディングの接合条件が不安定になることがわかる。
また、比較例1および3のボンディングワイヤも、内部酸化層厚さ/表面酸化層厚さが、それぞれ、25.5および14.3と小さいので、第二ボンディングのウィンドウ広さも40および32と狭くいずれも50以下なので、第二ボンディングの接合条件が不安定になることがわかる。
【0033】
(第一ボンドの接合性試験)
各種ワイヤを室温にて30日間放置後、ボンディングマシン(装置名: キューリックアンドソファー社製 IConnタイプ)を用いて、銅合金線をチップ(厚さ0.35mm)上の0.8μm厚のAl−0.5%Cuパッド上へボールボンディングを行った。フリーエアーボール(FAB)作製条件は、FAB径が線径の2倍となるように設定し、第一ボンドの超音波および荷重の条件は圧着径がFABの1.5倍となるよう設定した。ループ長さは5mm、ループ高さは300μmとした。100本ボンディングを行い、パッドのめくれ(Alスプラッシュ)をSEM(装置名:キーエンス社製 走査電子顕微鏡VE−9800)で観察した。パッドのめくれ幅が5μm以上のものを×、それ未満を○とした。
パッドのめくれが5μm以上に大きくなると、隣接するパッドと電気的に短絡してしまう可能性があるため、5μm以上のめくれ量の多いワイヤは、ボンディングワイヤとしては適さない。
【0034】
前記の評価に加え、従来例のボンディングワイヤは、表面酸化層厚さが11.5nmあるので、第一ボンドのAlスプラッシュが生じ、また、第二ボンディングの接合信頼性も欠いている。また、比較例2のボンディングワイヤは、ニッケル(Ni)の濃度が1.6質量%あり本発明の上限値を超えているので、溶融ボールが硬くなり、第一ボンドのAlスプラッシュが生じた。
同様にして、比較例1のボンディングワイヤは、ニッケル(Ni)の濃度が0.08質量%しかなく本発明の下限値に満たないので、第二ボンディングのウィンドウ広さが狭く、第二ボンディングの接合信頼性もない。比較例3のボンディングワイヤは、銅(Cu)の純度が99.99質量%しかなく、不純物として銀(Ag)が40質量ppm、硫黄(S)が20質量ppm、ヒ素(As)が10質量ppm、アンチモン(Sb)が10質量ppmなど、を含んでいる。比較例3のボンディングワイヤは、第二ボンディングのウィンドウ広さが比較例1のボンディングワイヤと同様に狭く、第二ボンディングの接合信頼性もない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、長期間放置しても酸化膜の成長が少なく、ボンディング時の第二ボンド接合性が良いことから、パソコン、携帯電話に使用される電子部品の接続線として有用である。
図1
図2
図3