【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造は、断面減少率99%以上で連続伸線された、表層と内部酸化された酸化ニッケル粒子が微細に分散した内部酸化層と銅希薄ニッケル合金層から構成される半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤにおいて、その表層は酸化物の成長層からなり、その内部酸化層は金属不足型酸化銅マトリックスにニッケル酸化物粒子が微細に分散した層からなり、その銅希薄ニッケル合金層は純度99.995質量%以上の銅(Cu)マトリックスに0.1〜1.5質量%のニッケル(Ni)が均一固溶した合金層からなり、当該内部酸化層の厚さが当該表層の厚さよりも60倍以上厚いことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤの構造は、断面減少率99%以上で連続伸線された、表層と内部酸化層と銅希薄ニッケル合金層から構成される半導体装置接合用銅希薄ニッケル合金ワイヤにおいて、その表層は酸化物の成長層からなり、その内部酸化層は金属不足型酸化銅マトリックスにニッケル酸化物粒子が微細に分散した層からなり、その銅希薄ニッケル合金層は純度99.995質量%以上の銅(Cu)マトリックスに0.1〜1.5質量%のニッケル(Ni)およびリン(P)が1〜5質量ppm均一固溶した合金層からなり、当該内部酸化層の厚さが当該表層の厚さよりも60倍以上厚いことを特徴とする。
【0014】
本発明における銅希薄ニッケル合金は完全に均一固溶するので、微視的な固溶状態は不明である。しかし、ニッケル(Ni)の含有量が10質量%に近いもので、酸素雰囲気中で銅−ニッケル合金を内部酸化すると内部酸化されたニッケル酸化物(「NiO」と略す。)粒子が均一に分散した状態で観察される。( 「On the High−Temperature Oxidation of Cu−Rich Cu−Ni Alloys 」(非特許文献1)及び「TWO−PHASE SCALEFORMATION ON Cu−Ni ALLOYS」(非特許文献2))
非特許文献1及び非特許文献2によれば、Cu−5重量%Ni、あるいは、80%、55%、及び10%Niの銅ニッケル合金を酸化すると、銅酸化物からなる外側層とCu
2Oマトリクス中に内部酸化されたNiO粒子が分散した内部層とが形成されることが明らかにされている。
このことから、直接測定することはできないが、銅希薄ニッケル合金中でも同様にニッケル(Ni)は均一に固溶し、内部酸化されたNiO粒子の粒径は、ニッケル(Ni)の含有量が少なればなるほど小さくなり、銅マトリックス中に希薄状態で均一に分散しているものと考えられる。
一方、内部酸化されたNiO粒子は、熱力学的に安定しており、ある程度の大きさのNiO粒子が形成されれば、銅マトリックス中ないしCu
2-XOマトリックス中でも、ひいてはCu
2Oマトリックス中でも周囲温度では移動しない。ニッケル(Ni)の含有量の下限を0.1質量%としたのはこのためである。内部酸化により、固溶したニッケル(Ni)がNiO粒子となって増加した酸素分だけ銅マトリックス中の体積が増加し、銅マトリックスが機械的に歪む。この機械的な歪みは酸素の供給が十分な表層では大きく、ワイヤ内部ほど小さくなるので、いわゆる微視的なクサビ状の歪みとなる。このため、Cu
2-xOマトリックスから独立したフリーの酸素原子あるいは表層から供給されたフリーの酸素原子が粒界拡散よりも速い速度でCu
2-xOマトリックス中を侵攻するので(
図1参照。)、高純度の銅合金細線で観察されたような表層の半球状のCu
2O膜が形成される(
図3参照。)ことがなくなる(
図2参照。)。
【0015】
図1において、図の左端の深さ数nm以内の表面層近傍の領域のグラフは、装置特有のノイズや試料表面の汚染などの影響のため酸素濃度が低く表れたもので、正確な状態は明らかでないが、高純度銅合金及び本発明の銅稀薄ニッケル合金のいずれにおいてもこの表層から数nmの領域はCu
2O層であると考えられる(グラフの作成上の都合でグラフの左端が縦軸に接しておらず、この範囲はデータ上空白。)。
後述するように、酸素のカウント数が表層の十分の一になる領域を内部酸化層と定義すると、この領域では侵攻してくる酸素に伴い、酸化ニッケル微粒子が均一微細に分散した金属不足型銅酸化物Cu
2-xOマトリックスを形成し、
図2に観察される表層に不規則に肥大して形成される半球状のCu
2O層が生じない。
これに対して、高純度銅合金においては、表層から内方に向けて酸素の侵攻が進まず、内方から拡散してくる銅(Cu)との酸化物を形成し、表層直下に肥大した半球状の酸化物層を形成するものと解される。
これらの過程を詳細にみると、
【0016】
本発明の銅希薄ニッケル合金細線において、酸化ニッケル(NiO
1-y)は、酸化銅(Cu
2-xO)と同じく金属不足型酸化物であるが、Cu
2-xOマトリックス中ではニッケルが優先的に酸化されてNiOとなる。しかも、Cu
2-xOマトリックス中では粒径の小さなNiO粒子が希薄状態で均一に分散しているので、Cu
2-xOマトリックスから酸素が解離しやすくなり、解離したフリーの酸素の内部酸化速度が速くなる範囲が存在する。銅希薄ニッケル合金細線において、ニッケル(Ni)の上限を1.5質量%とし、下限を0.1質量%としたのはこの理由による。ニッケル(Ni)が上限を超えれば、NiO粒子が大きくなりすぎて内部酸化速度が遅くなり、その結果、表層に半球状の銅酸化物の模様ができてしまう。表層に半球状の模様を形成しにくくするには、ニッケル(Ni)が0.8〜1.2質量%の範囲が好ましい。
【0017】
本発明の銅希薄ニッケル合金細線において、リン(P)を1〜5質量ppm均一固溶させるのは、第一ボンド時の溶融ボールの表面に酸化膜を形成しにくくするためである。
リン(P)の添加量はニッケル(Ni)の含有量に対して微量なので、数日間周囲温度でボンディングワイヤを放置しても内部酸化層の形成機構に悪影響は無い。
【0018】
本発明の銅希薄ニッケル合金細線において、素材となる高純度銅(Cu)の純度は99.995質量%以上必要である。残りの0.005質量%未満には、銀(Ag)、鉄( Fe)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)、 スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)、クロム(Cr)、テルル(Te)、セレン(Se)、シリコン(Si)などが含まれる。この不純物元素が0.005質量%以上になると、銅希薄ニッケル合金細線に表面偏析が生じたりCu
2-xOマトリックス中にNiO粒子を希薄状態で均一に分散させることが困難になったりするからである。高純度銅(Cu)の純度は、NiO粒子を均一微細に分散させるために99 .998質量%以上が好ましい。
【0019】
本発明の銅希薄ニッケル合金細線は、銅希薄ニッケル合金を溶解鋳造直後から大気中の酸素によって酸化される。例えば、連続鋳造後の冷却時に酸化され、冷間で連続伸線加工時に酸化され、連続伸線後の調質熱処理によっても酸化される。また、出荷前の放置状態でもボンディングワイヤの表面から酸化が進行し、ボンダーにセットしてボンディング待ちの状態でも酸化が徐々に進行する。
ところが、銅希薄ニッケル合金細線を周囲温度で数日ないし数十日間放置しても、従来の高純度銅ワイヤと同様に、ボンディングワイヤ表面のCu
2O膜はほとんど膜厚を変えず、Cu
2-xOマトリックス中の酸素の侵攻が速いので、表層に半球状膜が形成されることは無い。
また、その結果、このようにして侵攻した酸素により形成される内部酸化層が拡大するが、これらの酸素濃度はきわめて低いのでボンディングワイヤの物理的、電気的性質に影響することはない。この内部酸化層の厚さはこれらの効果を確保するうえで、上記表層の厚さよりも60倍以上厚くすること、好ましくは80倍以上厚くすることが好ましい。
【0020】
この連続伸線は、連続伸線前の線径に対して99%以上の冷間加工されたものである。連続伸線加工は、ダイス伸線することが好ましく、ダイヤモンドダイスが特に好ましい。
これにより、銅希薄ニッケル合金細線の表面のすべりがよくなり、滑らかで均一な表面となるため、表層に半球状膜が形成されにくくなるためである。
【0021】
また、本発明においては、ボンディングワイヤ中の酸素(O)の含有量が10〜150質量ppmであることが好ましい。ボンディングワイヤの線径に応じて酸素濃化層の体積が定まるが、必要以上に銅希薄ニッケル合金細線中に酸素が含まれると、表層に半球状膜が形成されやすくなるためである。
なお、中間熱処理は、銅希薄ニッケル合金細線中の酸素が過剰に移動しやすくなるため、適用しないことが好ましいが、中間熱処理を施す場合は、非酸化性雰囲気でなるべく低温の400℃〜700℃で60〜180分間であれば、差支えはない。
【0022】
また、本発明の銅希薄ニッケル合金ボンディングワイヤにおいては、貴金属めっきされたアルミニウムパッドを用いることが好ましい。ボンディングワイヤからアルミニウムパッド中に酸素が進入するのを防ぐためである。貴金属めっきは、金(Au)めっき、銀(Ag)めっき、パラジウム(Pd)めっきの軟質めっきがよい。また、めっき硬さは銅希薄ニッケル合金ボンディングワイヤの静的硬さと同程度にしておくと、溶融ボールの組成流動をコントロールすることができ、チップ割れを防ぐことができる。具体的にはめっき硬さをヌープ硬さで測定し、ボンディングワイヤのビッカース硬さに近似させることができる。
【0023】
また、本発明においては、リードフレームが銅(Cu)合金または鉄(Fe)素材に銅(Cu)または銅(Cu)合金が電気めっき等により被覆されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のボンディングワイヤは、表層のCu
2O膜が周囲温度で成長するよりもはるかに速く、金属不足型銅酸化物(Cu
2-xO)マトリックス中のフリーの酸素がCu
2-xOマトリックス中をすばやく移動できるため、金属不足型銅酸化物(Cu
2-xO)マトリックスがクッション層として働き、表層の半球状の酸化膜模様の形成が無くなり、表層のCu
2O膜が安定する。このため、第二ボンドにおけるボンディングワイヤのステッチ接合性も向上する。
また、微細に分散したNiO粒子はCu
2-xOマトリックス中で移動することは無く、この内部侵攻現象は大気中の酸素によってCu
2-xOマトリックスの一部がCu
2Oマトリックスになったとしても変わらない。よって、数十日間周囲温度で放置しても、大気中の酸素が表層から銅マトリックス内部へ侵攻を続けるので、銅酸化物の表層の厚さは銅希薄貴金属合金細線と同様にほとんど変化しない特有の構造を示す。
【0025】
さらに、本発明のボンディングワイヤは、ボンディングワイヤ自体の細線の強度を銅希薄ニッケル合金でもたせるとともに、ニッケル(Ni)の含有量を調整することによってNiO粒子の粒径をコントロールし、表層に半球状の銅酸化物の模様が形成されず、微細に分散したNiO粒子が楔となって酸素をCuマトリックスへ送り込み、他の銅希薄貴金属合金細線よりも数倍速く内部酸化層を形成することができる(
図1参照。)。
よって、数十日間放置しても、これまでの高純度銅合金のボンディングワイヤよりもステッチ接合性が安定する。また、ニッケル(Ni)の含有量が数質量%なので、フリーエアボール(FAB)方式で溶融ボールを塑性流動しても、第一ボンドでボンディングワイヤの動的強度が増加してアルミスプラッシュを起こすことが無い。また、これまでの高純度銅合金よりも比抵抗が高くなり発熱しても、機械的強度が高いため高温安定性がこれまでの高純度銅合金よりも劣ることも無い。その他、ワイヤ強度がこれまでの高純度銅合金よりも強いためボンディング動作中にワイヤが変形しにくく、フリーエアボールの偏芯が少ない。