(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記圧電単結晶が、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つの請求項に記載の複合基板。
前記支持基板が、シリコン、サファイア、窒化アルミニウム焼結体、アルミナ、炭化ケイ素焼結体、窒化ケイ素焼結体、ホウ珪酸ガラスおよび石英ガラスからなる群より選ばれた材料からなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つの請求項に記載の複合基板。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(弾性表面波素子の例)
図1(a)、
図1(b)の弾性表面波素子6においては、支持基板1の接合面1bに接着剤層2を介して伝搬基板3の接合面3bを接合している。1aは支持基板1の底面である。伝搬基板の表面3aに、入力電極4および出力電極5を形成し、トランスバーサル型の弾性表面波素子6を得る。入力電極4から出力電極5へと向かって、弾性表面波が矢印7のように伝搬され、弾性表面波フィルタを構成する。
【0018】
また、携帯電話用の弾性表面波フィルタでは、主として共振型の弾性表面波素子を使用する。
図2(a)、
図2(b)は、この例に係るものである。
図2(b)は、共振型の弾性表面波素子の電極パターン例を示す。
【0019】
図2(a)、
図2(b)の弾性表面波素子10においては、支持基板1の接合面1bに接着剤層2を介して伝搬基板3の接合面3bを接合している。1aは支持基板1の底面である。伝搬基板の表面3aに、電極16、17、18を形成し、共振型の弾性表面波素子を得る。
【0020】
図3(a)の弾性表面波素子6Aにおいては、支持基板1の接合面1bに伝搬基板3の接合面3bを直接接合している。伝搬基板の表面3aに、入力電極4および出力電極5を形成し、トランスバーサル型の弾性表面波素子6Aを得る。入力電極4から出力電極5へと向かって、弾性表面波が矢印7のように伝搬され、弾性表面波フィルタを構成する。
【0021】
図3(b)の弾性表面波素子10Aにおいては、支持基板1の接合面1bに伝搬基板3の接合面3bを直接接合している。1aは支持基板1の底面である。伝搬基板の表面3aに、電極16、17、18を形成し、共振型の弾性表面波素子を得る。
【0022】
(表面格子歪み層)
ここで、本発明においては、
図4に示すように、伝搬基板3の表面3a側に、表面格子歪み層11が形成されている。12は、格子歪みの特に設けられていない層である。
【0023】
伝搬基板3の横断面について、高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)像を撮像すると、
図5に示すように、TEM像で表面にコントラストが見られた。こうした高解像度のTEM像をフーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)し、FFTパターンを得た。この結果、結晶欠陥により生じるスポットは確認されなかった。従って、伝搬基板の表面に現れるコントラストの異なる薄層は、結晶格子の欠陥によって生じた層ではなく、格子歪みを有する層であることが確認された。
【0024】
伝搬基板の表面に存在する格子歪み層の厚さは、実際の製造上の観点からは、15
nm以下
とするが、10
nm以下であることが好ましく、8
nm以下がさらに好ましい。また、伝搬基板の表面に存在する格子歪み層の厚さは、挿入損失の観点からは、5
nm以下が好ましく、3
nm以下がさらに好ましい。伝搬基板の表面に存在する格子歪み層の厚さの下限は特にないが、1
nm以上が好ましい。
【0025】
ただし、伝搬基板の表面に存在する格子歪み層の厚さは、上述した伝搬基板3の横断面についてのTEM像において、表面に存在する、伝搬基板を構成する結晶とはコントラストの異なる層状領域の厚さを意味する。
【0026】
本発明では、この表面格子歪み層上に前述のような電極パターンを形成する。伝搬基板表面の格子歪み層は、伝搬基板の全体を構成する圧電単結晶よりも硬くなっており、温度変化による伸縮を抑制する効果があり、周波数変化の温度係数を低減できる。また、表面格子歪み層は音速が早くなっており、基板表面付近に弾性エネルギーを閉じ込める効果を示す。このエネルギー閉じ込め効果によって、弾性波の伝搬効率が向上することが期待される。
【0027】
以下、本発明の各要素について更に詳細に説明する。
(弾性波素子)
本発明の弾性波素子は、弾性表面波の他、伝搬基板内部を伝搬するラム波を用いた素子であってよい。弾性波素子は、特に好ましくは弾性表面波フィルタまたはレゾネ―タである。弾性表面波フィルタは帯域通過フィルタが好ましく、またレゾネータは、弾性表面波発振素子であり、1ポートタイプと2ポートタイプのいずれも含む。
【0028】
弾性波素子は、伝搬基板の表面に設けられる複数の電極指を間挿してなるIDT電極と、IDT電極のラム波の伝播方向両側に配設される一対の反射器とを備えるラム波型共振子であってよい。ラム波とは、伝播させる波の数波長以下に基板厚みを薄くすることで、基板内部を伝播するバルク波が基板の上下面での反射を繰り返し伝播する板波である。基板表面から深さ1波長以内にエネルギーの90%を有するレイリー波、漏洩弾性表面波、擬似縦波型漏洩弾性表面波の表面波とは異なり、ラム波は基板内部を伝播するバルク波であるためエネルギーは基板全体に分布している。
【0029】
(支持基板)
支持基板の材質は、シリコン、サファイア、窒化アルミニウム、炭化ケイ素焼結体、窒化ケイ素焼結体、アルミナ、ホウ珪酸ガラスおよび石英ガラスからなる群より選ばれた材料が好ましい。好ましくは、支持基板が、シリコンまたはホウ珪酸ガラスからなり、特に好ましくはシリコンからなる。これらを採用することで、伝搬基板の熱膨張を小さくし、周波数の温度特性を一層改善することが可能である。
【0030】
好ましくは、支持基板の表面に酸化膜が形成されておらず、これによって、支持基板と伝搬基板との接着力が高くなり、かつ高温でも支持基板と伝搬基板との剥離や割れを防止できる。この観点からは、支持基板がシリコンからなり、表面に酸化シリコン膜がないことが好ましい。なお、支持基板の表面酸化膜の有無は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)によって断面観測する。
【0031】
支持基板の厚さT1は 温度特性改善という観点からは、100μm以上が好ましく、150μm以上がさらに好ましく、200μm以上が一層好ましい。また、T1は、製品の小型化という観点からは、500μm以下が好ましい。
【0032】
(伝搬基板)
伝搬基板の材質は、電気機械結合定数の大きいニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶からなる群より選ばれることが好ましい。好ましくは、圧電単結晶がタンタル酸リチウムからなる。
【0033】
また、好ましくは、伝搬基板における弾性表面波伝播方向がX方向であり、切り出し角を回転Yカット板とする。特に好ましくは、ニオブ酸リチウムでは35〜130°Yカット板である。タンタル酸リチウムでは伝搬基板が36〜47°Yカット板である。
【0034】
伝搬基板の厚さT2は、弾性表面波デバイスの場合、周波数の温度特性の改善という観点からは、10〜50μmが好ましく、10〜40μmがさらに好ましく、10〜30μmが特に好ましい。ラム波やバルク弾性波を用いた弾性波デバイスでは、伝搬基板の厚さT2は、0.1〜10μmが好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。
【0035】
(電極パターン)
電極パターンを構成する材質は、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、金が好ましく、アルミニウムまたはアルミニウム合金がさらに好ましい。アルミニウム合金は、Alに0.3から5重量%のCuを混ぜたものを使用するのが好ましい。この場合、CuのかわりにTi、Mg、Ni、Mo、Taを使用しても良い。
【0036】
電極パターンの厚さの弾性波波長λに対する比率(t/λ)は、3〜15%であることが好ましく、5%以上であることが更に好ましく、また15%以下であることが更に好ましい。
【0037】
(製造プロセス例)
図6、
図7は、弾性波素子用接合体の製造プロセスを模式的に示す断面図である。本例では、支持基板と伝搬基板とを直接接合している。
【0038】
図6(a)に示すように、支持基板1の接合面1bと伝搬基板材料3Aの接合面3bとを対向させる。この際、支持基板1の接合面1bと伝搬基板材料3Aの接合面3bとをそれぞれ活性化処理する。活性化処理としては、中性化したAr高速原子ビーム(FAB:Fast
Atom Beam)や、Arイオンビームを高真空チャンバー内で基板表面に照射することが好ましい。
【0039】
次いで、
図6(b)に示すように、支持基板1の接合面1bと伝搬基板材料3Aの接合面3bとを接触させ、接合面に対して垂直方向に圧力を加えることで、両者を直接接合する。直接接合は以下のようにして行うことが好ましい。
【0040】
すなわち、活性化した基板表面同士を高真空チャンバー内で常温で接触させ、荷重を付加する。その後、チャンバー内から取り出し接合が完成する。
【0041】
次いで、
図6(c)に示すように、伝搬基板材料3Aの表面13を研削加工することによってその厚さを小さくし、薄層の伝搬基板材料3Bを形成する。この段階で、伝搬基板材料の厚さを、最終的な目標厚さに近づける。
【0042】
次いで、
図7(a)に示すように、伝搬基板材料3Bの表面14を研磨加工し、研磨面19の形成された伝搬基板材料3Cを形成する。この段階で、研磨面の算術平均粗さ:Raを4nm以下とすることが好ましい。研磨加工は、以下のようにすることが好ましい。
【0043】
すなわち、金属定盤(Sn、Cu)上に、ダイヤモンドスラリー(平均粒径0.5〜3μm)を滴下し、定盤を回転させる。基板材料の表面を金属定盤と接触するように置き、圧力を加えながら研磨する。
【0044】
次いで、
図7(b)に示すように、伝搬基板材料3Cの研磨面19を鏡面加工し、鏡面20の形成された伝搬基板材料3Dを形成する。ここで、鏡面とは、算術平均粗さ:Raを1nm以下とした面とする。このための精密研磨加工は、以下のようにすることが好ましい。
【0045】
すなわち、研磨パッド上に、コロイダルシリカスラリー(平均粒径20〜80nm)を滴下し、パッドを回転させる。基板材料の表面をパッドと接触するように置き、圧力を加えながら研磨する。
【0046】
通常、鏡面研磨された伝搬基板材料の鏡面20は、軟質パッドによって摩擦することによって仕上げ加工を行っていた。こうした仕上げ加工後の断面をTEM撮像しても、表面に特にコントラストの異なる層は生成しない。軟質パッドは一般的に、スェード製のパッドが使用される。
【0047】
ところが、
図7(c)に示すように、鏡面研磨された伝搬基板材料3Dの鏡面20を、硬質パッドによって摩擦することによって仕上げ加工を行うと、表面3aに表面格子歪み層11の形成された伝搬基板3が生成する。
【0048】
こうした硬質パッドとしては、発泡ポリウレタンパッドやウレタン含浸不織布パッドが好ましい。発泡ウレタンは、ウレタンのプレポリマー、硬化剤、発泡剤からなる。ウレタン樹脂には、耐水性や耐薬品性の観点から、エーテル系のウレタン、硬化剤にはジアミンなどが使われる。発泡倍率は、用途に応じて0.4〜1.0g/cm
3のものが使われる。ウレタン樹脂以外には、エポキシ樹脂製のパッドも開発されている。
【0049】
不織布パッドの不織布の繊維品種として主にレーヨン、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレンなどがある。これらの不織布にウレタン樹脂を含浸させ、不織布とポリウレタン樹脂との混合体にする。
【0050】
硬質パッドと軟質パッドの切り分けは、一般的に硬質パッドがヤング率100MPa以上、軟質パッドが1〜10MPa程度で分けられる。
【0051】
また、硬質パッドによって鏡面を仕上げ加工する段階では,軟質パッドと同様にコロイダルシリカスラリーを用いて研磨する。
【0052】
なお、
図6、
図7の例では支持基板と伝搬基板材料とを直接接合したが、両者を接着層を介して接合することも可能である。
【0053】
支持基板と伝搬基板とを接着する有機接着剤層の材質は限定されないが、アクリル系樹脂、あるいはエポキシ系樹脂が好ましい。
接着剤層の形成方法は限定されないが、印刷、スピンコーティングを例示できる。
【0054】
好適な実施形態においては、有機接着剤層の厚さtを0.1μm以上、1.0μm以下とする。弾性波素子の周波数の温度特性を更に向上させるという観点からは、有機接着剤層の厚さは、0.1μm以上が好ましく、また、0.8μm以下が好ましい。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
図6、
図7に示す製法に従い、
図1(b)および
図3(a)に示すような弾性表面波素子6Aを作製した。
【0056】
ただし、支持基板1としては、厚さ230μm、径4インチの単結晶シリコン基板を使用した。支持基板1のSAWの伝搬方向Xの線膨張係数が3ppm/℃である。伝搬基板材料3Aとしては、SAWの伝播方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である36°YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板を使用した。SAWの伝搬方向Xの線膨張係数が16ppm/℃である。伝搬基板材料3Aの厚さは230μmとした。
【0057】
支持基板と伝搬基板材料とを、10
−6Pa台の真空度を保つ真空チャンバーに導入し、それぞれの接合面を対向させて保持した。支持基板の接合面および伝搬基板材料の接合面に、それぞれ、アルゴンビームを80sec照射し、各接合面にある不活性層を除去し、活性化した。次いで、支持基板の接合面と伝搬基板材料の接合面とを接触させ、接合面に対して垂直な方向に向かって1200kgfの荷重を加えることで、両者を直接接合した。
【0058】
得られた接合体をチャンバーから取り出した後、研削加工機によって伝搬基板材料の表面を研削し、伝搬基板材料の厚さを25μmとした。次いで、この接合体をラップ研磨装置にセットし、ダイモンドスラリー(平均粒径1μm)を用いて、伝搬基板材料の厚さが21μmになるまで研磨加工した。次いで、この伝搬基板材料の研磨面をCMP(化学機械研磨)機でコロイダルシリカ(平均粒径0.05μm)を用いて、厚さ20μmになるまで鏡面研磨した。得られた鏡面の中心線平均表面粗さRaは0.15nmである。
【0059】
次いで、形成された鏡面を発泡ウレタンパッド(硬質パッド)を用いて摩擦することで仕上げ加工した。得られた素子の横断面を機械研磨とイオンミリングにより薄板化し、以下の条件で透過型電子顕微鏡写真を撮像した。
【0060】
装置の型式:日立製H-9000UHR I
倍率:21,000〜520,000倍
測定条件:加速電圧300kV
観察方法:明視野像、回折パターン、多波干渉像
【0061】
この結果、100,000倍以上の倍率で、
図5に示すように、伝搬基板表面に厚さ3nmにわたって、コントラストの異なる、より暗く写っている薄層が確認された。ただし、
図5におけるTEM像の倍率は520000倍である。次いで、TEM像をフーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)し、FFTパターンを得た。この結果、結晶欠陥により生じるスポットは確認されなかった。
【0062】
図5においては、上から見て、濃い表面の線状部分、より薄い線状部分、濃い線状部分の順番で並んでおり、その下に厚さ均一領域が観察される。表面格子歪み層の厚さは、濃い表面の線状部分の上端から、最下の濃い線状部分の下端までの寸法である。
【0063】
得られた伝搬基板上に、厚さ0.14μmの金属アルミニウム製の入力電極4および出力電極5を形成した。電極厚さt/弾性波波長λ=7%である。そして、弾性表面波素子の共振点における周波数温度特性(Temperature Coefficient of Frequency)を測定したところ、-10ppm/℃であった。またその挿入損失は7.3dBであった。
【0064】
(比較例1)
上述の実施例において、伝搬基板の鏡面を発泡ウレタンパッド(硬質パッド)によって摩擦する仕上げ加工を行わなかった。得られた伝搬基板の表面近傍のTEM写真を撮像したところ、コントラストの異なる領域ないし層は観測されなかった。
【0065】
得られた伝搬基板上に、厚さ0.14μmの金属アルミニウム製の入力電極4および出力電極5を形成した。電極厚さt/弾性表面波波長λ=7%である。そして、弾性表面波素子の共振点における周波数温度特性(Temperature Coefficient of Frequency)を測定したところ、-20ppm/℃であった。またその挿入損失は10dBであった。
【0066】
(実施例2)
上述の実施例1において、発泡ウレタンパッドの代わりに、より硬質な不織布パッドを用いて摩擦する仕上げ加工を行なった。得られた伝搬基板の表面近傍のTEM写真を撮像したところ、格子歪み層の厚みは8nmであった。また、実施例1と同様のコントラストの異なる3層が表面に観察された。
【0067】
得られた伝搬基板上に、厚さ0.14μmの金属アルミニウム製の入力電極4および出力電極5を形成した。電極厚さt/弾性表面波波長λ=7%である。そして、弾性表面波素子の共振点における周波数温度特性(Temperature Coefficient of Frequency)を測定したところ、-13ppm/℃と良好な値を示した。しかしながら挿入損失は8dBと低下していた。これは表面の歪み層が厚いため弾性波が伝搬中に減衰したためと考えられる。
【0068】
(実施例3)
実施例1と同様に接合基板を作成した。ただし、支持基板として、前記シリコン基板ではなく、このシリコン基板と同じ厚みのサファイア基板を用いた。この時の共振点における周波数温度特性は、-18ppm/℃であった。
【0069】
(比較例2)
実施例3と同様に接合基板を作成した。ただし、伝搬基板の鏡面を前記発泡ウレタンパッド(硬質パッド)によって摩擦する仕上げ加工を行わず、その代わりに、スウェードパッド(軟質パッド)で仕上げ加工を行った。この結果、得られた伝搬基板の表面近傍のTEM写真を撮像したところ、コントラストの異なる領域ないし層は観測されなかった。また、共振点における周波数温度特性は、-23ppm℃であった。
【0070】
(実施例4)
伝搬基板材料として、SAWの伝播方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である128°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板を使用した以外は、実施例1と同様にして接合基板を作成した。SAWの伝搬方向Xの線膨張係数が15.4ppm/℃である。伝搬基板材料の厚さは230μmとした。研磨後の基板断面を同様にTEMで観察したところ、表面格子歪み層の厚みは15nmであり、タンタル酸リチウムの場合の厚みに比べて大きくなっていた。これは結晶材料のヤング率が相対的に小さいことに起因すると想定される。また、実施例1と同様のコントラストの異なる3層が表面に観察された。
【0071】
実施例1と同様に弾性表面波素子の共振点における周波数温度特性を測定したところ、-58ppm/℃であった。
【0072】
(比較例3)
実施例4と同様に接合基板を作成した。ただし、伝搬基板の鏡面を前記発泡ウレタンパッド(硬質パッド)によって摩擦する仕上げ加工を行わず、その代わりに、スウェードパッド(軟質パッド)で仕上げ加工を行った。この結果、得られた伝搬基板の表面近傍のTEM写真を撮像したところ、コントラストの異なる領域ないし層は観測されなかった。また、共振点における周波数温度特性は、-65ppm℃であった。
【0073】
(実施例5)
上記例では、すべて基板同士を直接貼り合わせていたが、接着樹脂を用いて基板を貼り合わせることもできる。
【0074】
具体的には、実施例1で用いたシリコン基板の表面に、液状のアクリル系接着剤をスピンコーターで塗布し、この上に実施例1で用いたタンタル酸リチウム基板を接着して接着体を得た。接着体を約150℃のオーブン中に投入し、接着剤を硬化させた。次いで、上記実施例1と同様の工程を経て、弾性波素子を作成した。
【0075】
TEM観察によれば、表面歪み層の厚みは、3nmであり、実施例1と同じであった。また、実施例1と同様のコントラストの異なる3層が表面に観察された。また、共振点における周波数温度特性は、-10ppm/℃であって実施例1と同じであり、表面格子歪み層による効果は接合方法に依存しないことが明らかになった。
【0076】
(比較例4)
実施例5と同様に接合基板を作成した。ただし、伝搬基板の鏡面を前記発泡ウレタンパッド(硬質パッド)によって摩擦する仕上げ加工を行わず、その代わりに、スウェードパッド(軟質パッド)で仕上げ加工を行った。この結果、得られた伝搬基板の表面近傍のTEM写真を撮像したところ、コントラストの異なる領域ないし層は観測されなかった。また、共振点における周波数温度特性は、-20ppm℃であった。
弾性波素子用複合基板は、支持基板1、および支持基板1に接合され、圧電単結晶からなり、弾性波を伝搬させる伝搬基板3を備えている。伝搬基板3が、前記圧電単結晶の結晶格子が歪んでいる表面格子歪み層11を有する。