【実施例】
【0010】
以下、図面と共に本発明による自己診断機能を有する角速度センサの好適な実施の形態について説明する。
まず、
図1(a)及び
図1(b)を用いて、音叉型振動子1の駆動振動と検出振動について説明する。
図1(a)を参照に、音叉形振動子1の駆動電極(図示せず)に駆動信号を印加することにより左右のアーム部2,3が互いに開閉するような振動が発生する。この振動はX軸に平行な振動である。このような振動を駆動振動という。ここでY軸に対して角速度が印加されると、周知のコリオリ力により
図1(b)のように左右のアーム部2,3が前後の振動をする。この振動はZ軸に平行な振動である。このような振動を検出振動という。検出電極20,20aがこの検出振動を検出することによりY軸を中心とした角速度を検知することができる。なお、音叉型振動子1のアーム部2,3の長手方向をY軸、幅方向をX軸、厚み方向をZ軸とする(以下において同じ)。
【0011】
(実施例1)
実施例1は、角速度センサ5に用いる音叉型振動子1に自己診断用電極6,7を設けた例である。
図2は音叉型振動子1のベース部8に自己診断用電極6,7を配置した斜視図であり、
図3から
図5は各アーム部2,3の表面A、側面C、D、裏面Bにかけて形成され、互いに分離して形成された一対の検出電極20,20aを示し、
図6は音叉型振動子1に配置された自己診断用電極6,7が、スイッチ手段40のスイッチSW1,SW2の開閉により駆動電極9及び1個のみの発振回路10と開放、短絡状態となることを示す回路ブロック図である。SW−OFFで各アーム部2,3が平面でみて対称的に両側に開く(
図7)ように駆動される通常モード、SW−ONで自己診断モードに切り替えを行う。SW−ON時に短絡状態となった時に、一対の駆動電極9がアンバランスとなり、各アーム部2,3が非対称的に駆動(
図8に示す)され、擬似的に検出振動を発生する。その周知のFEM解析結果を
図7及び
図8に示す。
図7はSW−OFFの駆動電極9のインピーダンス応答の解析結果であり、X方向に振動する駆動振動のみの応答となる。他方、
図8はSW−ON時の駆動電極9のインピーダンス応答の解析結果であり、X方向に振動する駆動振動の他に、Z方向に振動する検出振動が発生しており、自己診断用電極6,7により、擬似的に検出振動を発生させることができる。すなわち、
図8では、各アーム部2,3が平面でみて左右非対称に駆動することで上下方向の動きが発生する。
【0012】
図9、
図10は、自己診断用電極6,7による出力変化の実測例を示す。横軸は各アーム部2,3が対称的に駆動される通常モード(SW−OFF)における感度を示し、縦軸は自己診断モードの(SW−ON)における出力変化を通常モードの感度で角速度換算した値である。SW1及びSW2は交互にON−OFFを行う。SW1−ON(SW2−OFF)時は、プラスの出力変化を示し、SW2−ON(SW1−OFF)時は、マイナスの出力変化を示す。SW1,2の切り替えにより、右回転、左回転に相当する出力変化(擬似感度)が発生する。また、通常モードの感度とSW−ON時の出力変化(擬似感度)は、高い相関性がある。以上より、音叉型振動子1に自己診断用電極6,7を配置し、スイッチSW1,SW2の開閉により、自己診断用電極6,7と駆動電極9及び発振回路10と短絡又は開放とすることで、擬似的に検出振動を発生させ、擬似感度を監視することで、感度変化を検出可能となる。
なお、通常モードはSW−OFFとしたが、通常モードをSW1,2−ON状態にし、自己診断モードでSW−1,2を各々OFFにしても、各駆動電極9がアンバランス、すなわち、各アーム部2,3が非対称的に駆動されるために、擬似的に検出振動が発生することはいうまでもない(図示せず)。
【0013】
(実施例2)
実施例2は、上述、自己診断用電極を配置した音叉型振動子とSWの組合せの回路による、自己診断方法を示す。
図11はスイッチSW1,SW2を交互に開閉させることにより自己診断例を示す。
図11でVoutは角速度センサのオフセット電圧、V1,V2はSW1,SW2がONの時の出力値、閾値AU,ALはSW1−ON時の判定閾値、閾値BU,BLはSW2−ON時の判定閾値を示す。スイッチSW1をONさせるとセンサ出力がプラス方向に、SW2をONとさせるとマイナス方向に変化する。
それぞれ(V1,V2)の上限値、下限値を設定し、変化時出力が設定値内にはいっていることを確認することで故障判定する。
表1に判定表を示す。SW1,SW2が各々ONの時の判定の組合せにより、静止時出力変化、感度変化、回路動作異常を検出することができる。
【0014】
【表1】
【0015】
(実施例3)
実施例3は、上述、自己診断用電極6,7を配置した音叉型振動子1とSWの組合せの回路による、自己診断方法の例を示す。
図12スイッチSW1(またはSW2)のみ開閉させることによる自己診断例を示す。
図12でVoutは角速度センサ5のオフセット電圧、V1はスイッチSW1がONの時の出力値、△Vout1はSW−OFFとSW−ONの出力差、閾値AU,ALはSW1−OFFの時(静止時)の判定閾値、閾値BU,BLはSW1−ON時の判定閾値を示す。
まずVout(SW1がOFFの状態の出力)を測定し、次にスイッチSW1がONしたときの出力(V1)を測定する。
判断は第1例として、Voutの値が設定値内に入っているかどうか第2例としてV1−Vout=△Vout1が設定値内に入っているかどうかを確認することで故障判定を行う。
表2に判定表を示す。SW1−OFF,SW1−ON時の出力差判定の組合せにより、静止時出力変化、感度変化、ゲイン変化、回路動作異常を検出することができる。
【0016】
【表2】
【0017】
(実施例4)
実施例4は、上述、自己診断用電極6,7を配置した音叉型振動子1とスイッチSW1,SW2の組合せの回路による、自己診断方法を示す。
図13はスイッチSW1又はSW2のどちらか一方をONさせ、その際、第二のオフセット調整を実施し、SW−OFF時の出力値及びSW−ON時出力値を確認することによる自己診断例を示す。
図13でVoutは角速度センサのオフセット電圧、V1はSW1がONの時の出力値、△Vout1はSW−OFFとSW−ONの出力差を示す。
まず、Vout(SW1−OFFの状態の出力)を測定し、次にSW1又はSW2をONさせ、その際第二のオフセット調整を実施した時の出力(Vout)を測定する。
それぞれのVout(SW−OFF)、Vout(SW−ON)の値がある範囲(閾値共通)に入っているかどうかを確認することで、自己診断を行う。閾値を共通化できる実施の形態となる。
まお、第二オフセット調整とはスイッチSW1又はSW2がONした場合に、角速度センサ5のオフセット電圧、Voutが1/2Vdd近辺になるよう調整する機能である。
【0018】
(実施例5)
実施例5は、角速度センサ5に用いる音叉型振動子1に出力変化の異なる自己診断用電極6,7を設けた例である。
図14は、自己診断用電極6,7で出力差を与えた場合の出力変化の実施例を示す(SW1の例)。横軸は通常モード(SW−OFF)における感度を示し、縦軸は自己診断モードの(SW−ON)における出力変化の通常モードの感度で角速度換算した値である。
出力差のある検出振動の信号の大きさを監視することで、レンジの異なる静止時出力変化、感度変化を診断することができる。出力差は自己診断用電極の寸法で任意に変更可能であり、本実施例は自己診断用電極6の寸法(面積)を自己診断用電極7に対して50%小さくした例である。なお、電極寸法のみならず、電極配置など別の手法で出力差を与えてもよい(
図6に基づく)。
尚、前述の角速度センサ5の発振回路10及び各スイッチSW1,SW2は周知のASIC(Application Specific IC)で構成されている。
【0019】
前述の本発明による自己診断機能を有する角速度センサの構成と機能をまとめると、次の通りである。
すなわち、ベース部8と前記ベース部8から二又状に延びる一対のアーム部2,3とを有する音叉型振動子1と、前記アーム部2,3に設けられた一対の駆動電極9と、前記アーム部2,3に設けられた一対の検出電極20,20aと、前記ベース部8の表面Aに設けられた第1、第2自己診断用電極6,7とを有する角速度センサ素子30と、前記駆動電極9に接続された1個のみの発振回路10と、前記各自己診断用電極6,7に前記駆動電極9及び発振回路10を接続(又は非接続と)するための
一対のスイッチからなるスイッチ手段40と、からなり、前記スイッチ手段40がオフの時は前記各アーム部2,3
は駆動振動が駆動され、前記スイッチ手段40がオンの時は前記各アーム部2,3
はコリオリ力に相当する検出振動が駆動される。
また
、前記
各スイッチSW1,SW2は片側のみ短絡することができ、スイッチ1個のON/OFFにより開放時と短絡時の出力判定により、開放時は静止時出力、短絡時は感度変化、ゲイン変化、回路動作異常を判定する自己診断を行うことができる。
また、前記各自己診断用電極6,7はベース部8の左右に1個ずつ設けられると共に、各スイッチSW1,SW2を介して、電気的に交互に発振回路10及び一方の駆動電極9と短絡又は開放とすること
により、右回転、左回転に相当する感度変化の検出ができる。
また、前記各スイッチSW1,SW2のON/OFFにより左右の自己診断用電極6,7の開放・短絡を切り替えることで前記音叉型振動子1の検出振動の位相を変えることができ、右回転、左回転に相当する感度変化、及び静止時出力変化、回路動作異常を判定する自己診断を行うことができる。
また、
一方の前記スイッチSW1がOFFの状態の角速度センサ5のオフセット電圧Voutを測定し、次に前記各スイッチ(SW1又はSW2)をONさせ、その際前記角速度センサ5のオフセット電圧Voutを調整するための時間であるオフセット調整を実施した時の前記オフセット電圧Voutを測定し、前記各オフセット電圧Voutの値が共通閾値のある範囲に入っているかどうかを確認することで、静止時出力、感度変化、回路動作異常の判定閾値を共通化することができる。
また、前記自己診断用電極6,7の電極寸法は診断信号の大きさにより変更することにより、角速度により得られる感度に影響することなく、電極寸法の変更のみで自己診断信号の振幅の大きさを調整することができる。
また、前記各自己診断用電極6,7で発生する出力変化差を調整することにより、出力差のある検出振動の信号の大きさを監視でき、静止時出力変化、感度変化を診断することができる。