【実施例】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係る小物入れ付の車両用シートの概略斜視図を示し、
図2(A)は通常時における
図1のA部の小物入れの拡大斜視図、
図2(B)は
図1の線X−Xに沿った小物入れの部分縦断面図をそれぞれ示す。
【0017】
図1に示すように、車両用シート10は、シートクッション12と、シートクッションの後端に設けられたシートバック14とを有して構成され、アームレスト14aがシートバック側面にピン14a1の回りで揺動可能に、ヘッドレスト14hがシートバック上面に昇降可能にそれぞれ設けられている。シートクッション12、14の基本的な構造は周知であり、骨格となるシートフレームにウレタンフォームなどの発泡成形材からなるシートパッドを載せ、通気性のあるトリムカバー12cでシートパッド覆ってシートクッション、シートバックが形成されている。
【0018】
図1の線X−Xに沿った断面を示す
図2(B)からわかるように、シートクッションのシートパッド12pのたとえば前端に凹所12p1が形成され、この凹所を利用して、シートクッションの座面(上面)12uにカップホルダなどの小物入れ(小物ケース、カップホルダ)16が設けられている。
【0019】
凹所12p1は、ドリンク、ガム、ペン、ティッシュなどの小物の収納される小物入れ16を収納可能なケース形状、たとえば、横断面が矩形、円形、非円形(たとえば、楕円形)とされ、実施例では
図2(A)(B)に示すように、横断面は矩形となっている。また、凹所12p1はその縦断面が下方に行くにつれて小さくなる断面形状(逆テーパ形状)に形成されている。
小物入れ16は、上端が開口され、その上端開口の周縁にフランジ(外フランジ)16aを有して凹所12p1に対応した逆テーパ形状に軟質素材から成形されて凹所に埋設されており、軟質素材として、たとえば、エラストマー、軟質樹脂などの縫合可能な素材が例示できる。
【0020】
図2(B)に示すように、小物入れのフランジ16aは、その末端で下方に(小物入れの底部方向に)折曲され、この折曲端16a’に沿ってトリムカバー12cの端末が下方に折り返されている。そして、フランジの折曲端16a’とトリムカバー端末の折り返し12c’とが縫合されている。なお、参照符号18は縫合部を示す。
【0021】
フランジの折曲端16a’がトリムカバー端末の折り返し12c’に縫合されて、小物入れ16がトリムカバー12cと一体化されるため、着座によってシートクッションの座面が撓んでもトリムカバーの端末との間に隙間の生じる余地はなく、隙間の発生が確実に防止される。
【0022】
2種類の発泡成形材を成形金型に送り込んで硬度の異なる部分を成形する従来の構成とは異なり、フランジの折曲端16a’とトリムカバー端末の折り返し12c’とを縫合して一体化するだけで足り、構成が簡単で低コスト化できる。
【0023】
小物入れのフランジ16aの先端を下方に折曲し、この折曲端16a’に対応してトリムカバーの端末を折り返して、フランジの折曲端をトリムカバー端末の折り返し12c’に縫合しているため、トリムカバー12の端末に引張力が生じても折曲端を変形させる余地があり、これが遊びとなって縫合部18の破断を防止できる。つまり、折曲端16a’のないフランジ16aにトリムカバー12cの端末を直接重ねて縫合した場合に比較して、引張力に対応できる耐久性のある構成が得られる。
【0024】
小物入れ16は縫合の可能なエラストマー、軟質樹脂などの軟質素材から成形されて、ウレタンフォームなどの発泡成形材からなるシートパッド12pとの硬度の差が小さいため、着座時においても小物入れに異物感を感じない。
【0025】
また、小物入れ16が軟質素材から成形されてシートパッドの凹所12p1に埋設され、上端開口部のフランジ16aがトリムカバー12cの端末に縫合されているため、小物入れの底部をシートフレームなどにピン止めしなくても、その外形形状が崩れることなく維持され、収納物を安定して収納できる。
【0026】
小物入れ16をシートパッドの凹所12p1に埋設して、そのフランジ16aをトリムカバー12cの端末に縫合するだけで、シートクッション座面に小物入れが設けられ、シートフレームなどへの小物入れのピン止めが不要であるため、作業性が改善され、この点からも低コスト化が可能となる。
【0027】
小物入れ16は、逆テーパ形状の縦断面を持ち、その底面を上端開口より小さな相似形とされ、上下方向で略中央に肉薄部16bを設けるとともに、底面を引き上げるための引き上げ片16cが底面と一体に成形されている。上下方向略中央の肉薄部16bは、たとえば、小物入れ16の内面を断面略V形状に切り欠いて、その内面の全周にわたって環状に形成される。また、底面の引き上げ片16cは、たとえば、底面から突出して上に行くにつれて小径となる丸棒形状とされる。もちろん、引き上げ片16cは、掴んだり係止されて底面を引き上げ得るものであれば足り、図示の形状に限定されない。
【0028】
小物入れ16はエラストマー、軟質樹脂などの軟質素材から成形されて容易に弾性変形するとともに、上下方向略中央部に容易に変形する肉薄部16bを設けているため、底面の引き上げ片16cを掴んで引き上げれば、肉薄部を折り返しの支点としてその下半部16−1が容易に上下反転される。
【0029】
上下方向略中央部の肉薄部16bを支点としているため、下半部16-1を反転してもその底面はトリムカバー12cとほぼ面一(つらいち)に位置し、その反転位置においても小物入れ16が外観意匠を損なうおそれがない。
【0030】
図3(A)は下半部を反転させた
図1のA部の小物入れの拡大斜視図、(B)は
図1の線X−Xに沿った小物入れの部分縦断面図をそれぞれ示し、小物入れの下半部16−1を反転すると
図2(A)(B)に示すその通常の形(原形)に対してその容量、形態が変更される。そして、
図3(A)(B)に示す反転位置では、小物入れの上半部16−2と反転した下半部16−1との間に隙間16sが環状に形成され、この隙間は下方に行くに従って狭くなっている。そのため、この下方に行くにつれて狭くなる隙間16sに小物を押し込めば、その隙間に小物を挟み込むことができる。隙間16sで小物を挟み込めば、小物の動きが拘束され小物を安定して小物入れ16に収納でき、車両の走行に伴う振動による小物入れからの収納物の飛び出しを確実に防止できる。
【0031】
たとえば、磁気カード、ICカードなどのカードや携帯電話を容量、形態が変化しない従来の構成の小物入れに収納しても、これらの小物は背が高い割に薄いため、大きな隙間が残されるとともに、軽量であるため、小物入れから飛び出しやすい。これに対して、容量、形態が変更する小物入れ16では、下半部16-1を反転させて容量が小さく、隙間16sのある形態に変形させれば、カード17a、携帯電話17bは背が高く、隙間に押し込んで容易に挟み込むことができるため、動きを拘束して安定して収納され、小物入れからのカード17a、携帯電話17bの飛び出しを確実に防止できる。
なお、
図3(B)では、3枚のカード17aを重ねて収納しているが、奥に押し込めば、1枚のカードでも隙間16sに挟み込んで収納できることはいうまでもない。
【0032】
隙間16sに押し込んで挟みこむことが困難な大きなものは、下半部を反転しない通常形態の小物入れ(原形での小物入れ)16に収納される。
図3(A)(B)に示すその反転状態で底面を押し込めば、肉薄部16bを折り返し点として小物入れ16は
図2(A)(B)に示すその通常の形態(原形)に復帰して、容量、形態が変更される。
この原形での小物入れ16では大きな容量が確保されるため、隙間16sに挟み込めない大きなものも収納できる。また、反転した場合の2倍の深さが確保されて十分に深い小物入れ16に収納されるため、収納物の飛び出しが防止される。
【0033】
図2(A)(B)に示すように、小物入れの上半部16−2にリブ16dを設ければ、より効果的に飛び出しを防止できる。すなわち、反転収納時においては、隙間16sに押し込まれた収納物にリブが変形しながら押圧されるため、収納物の動きを十分に拘束して安定して収納できる。また、原形収納時においては、このリブ16dが収納物を上から押さえたり、その上方に位置して飛び出しの障害となることにより、収納物の飛び出しを防止できる。
【0034】
図4(A)(B)(C)は反転時における小物入れの変形例をそれぞれ示し、上記実施例の構成部材と同じ機能を有する変形例の対応する構成部材には同じ参照番号を付してその説明を省略し、上記実施例と異なる構成を主として説明する。
【0035】
下半部16−1を折り返したとき(反転時)に形成される隙間16sの幅が同じ大きさである必要はなく、
図4(A)の変形例の小物入れ116では、形成される4つの隙間16sの幅16s1〜16s4が16s1>16s2(=16s4)>16s3となるように、上端開口の形状に対して底面の形状が決められている。
このように、反転時に異なる幅の隙間16sを持つように小物入れ216を成形すれば、厚さを考慮して確実に隙間に挟み込まれるように小物を収納できる。
【0036】
また、
図4(B)(C)のように、その横断面が円形、楕円形となるように小物入れ(および小物入れの埋設されるシートパッドの凹所12p1)を成形してもよい。
図4(B)に示す横断面を円形とした小物入れ216においては、下半部16−1を折り返したとき、下半部、上半部16−2の間にリング状の隙間16sが全周的に形成される。隙間16sが円周方向に湾曲しているため、上下方向だけでなく、その湾曲した水平方向においても収納物を挟み込むことができる。
さらに
図4(C)に示す横断面を楕円形とすれば、湾曲(曲率)の異なるリング状の隙間16sが全周的に形成されるため、収納物の横幅を考慮して水平方向で適度な力で挟み込む位置で隙間16sに小物を差し込めば、小物を適切の力で保持し、飛び出しを確実に防止できる。
【0037】
上記のように、本発明によれば、縫合によって小物入れがトリムカバーと一体化されているため、トリムカバーの端末との間での隙間の発生が防止される。また、小物入れは縫合の可能な軟質素材から成形されて、シートパッドとの硬度の差が小さいため、着座時においても小物入れの存在に異物感を感じない。さらに、その下半部を反転させることによって小物入れはその容量、形態を変更でき、収納物の形状に応じた形態でその飛び出しを防止ながら収納できる。
【0038】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【0039】
小物入れのための軟質素材として、エラストマー、軟質樹脂を例示したが、これに限定されず、トリムカバーに縫合可能で、異物感がなく、小物を安定して収納できるものであればよい。
【0040】
実施例では、小物入れはシートクッションの座面Uの前端に設けられているが、小物入れを設ける位置はこれに限定されず、シートクッションの座面の左右の端に設けてもよい。また、シートクッションの座面に限定されず、アームレストの上面(アーム支持面)に設けてもよい。
【0041】
小物入れはその縦断面が逆テーパ形状に成形されるため、小物入れの埋設されるシートパッドの凹所も、通常、小物入れに対応した逆テーパ形状の縦断面に形成されるが、必ずしも逆テーパ形状の縦断面とする必要はなく、円筒形の縦断面としてもよい。