(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態>
本発明の発明者は、上述の課題を解決するために鋭意研究を行い、上層根の根域と下層根の根域とを隔て、着果期からは前記上層根の根域となる培地を乾燥化させることで、トマトの作物体に適度の水ストレスを与える栽培方法を確立し、この栽培方法に用いる容器を開発するに至った。
【0015】
本発明の実施の形態に係るトマトの栽培方法においては、植物根を介して湿潤土壌から乾燥土壌へ土壌水分が移動する現象である「hydraulic lift」を用いる。
hydraulic liftは、樹木や草本類で広く報告されている現象である(例えば、Caldwell1, M.M., T.E. Dawson, J.H. Richards、”Hydraulic lift: consequences of water efflux from the roots of plants”、Oeclogia、、、1997、、113、、p.151−161、等を参照)。
hydraulic liftは、植物体内の水分ポテンシャルと、土壌水ポテンシャルの勾配によって発生し、「植物スプリンクラー」と呼ばれている。
この現象を栽培現場へ利用すると、植物が水分を必要としない夜間などに乾燥土壌中に水分を放出することで、軽度の水分ストレスを植物体に付与する栽培が可能になる。
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態のトマト栽培容器1を示す図であり、
図1(a)は上方からの斜視図、
図1(b)は前方から見た断面図である。
なお、以下の説明で用いる上下、前後、左右の各方向は説明に用いる各図に示している。この上下、前後、左右は説明のために記載したもので、実際の配置と異なってよいことは勿論である。
【0017】
図1に示すように、トマト栽培容器1は、下容器3上に上容器2を配置して構成されている。下容器3は、上端が開放した四角箱状の容器体3Aを前後方向に1列に並べて構成されている。上容器2は、上端が開放した四角箱状を呈しており、下容器3の前後の側板間に架け渡されている。上容器2は、下容器3と同じ前後の長さ、下容器3よりも狭い左右の幅を有しており、下容器3の上端開口部が左右の端部を上方に暴露させるように配置されている。上容器2及び下容器3には、礫、砂、ロックウール、土、樹皮、おがくず、ポリウレタン等である培地5、6が収容される。また、上容器2と下容器3の培地5と培地6との容積比は2:1程度が好適である。
なお、培地5、6に、水分保持剤等を加えることも可能である。特に、上容器の培地5には、水分保持剤を加えることで、植物体に対する水ストレスを適宜調整できる。
【0018】
上容器2の下板21には、下容器3の各容器体3Aと上容器2とを連通させる孔22が形成されている。孔22は、上容器2に定植されたトマト7の根71、72を下容器3に進入させるためのものであり、下板21の左右の縁部に沿って等間隔で複数形成されている。また、孔22は、排水溝を兼ねており、植物の根がすべて通らないよう、小さく構成されている。つまり、上容器2の孔22については、全部の根を下容器に下ろすように大きな孔を開けると、うまく上容器が乾燥せず、水ストレスを与えることができない。このため、小さな孔22を加工し、例えば、植物体7の植えられている箇所から所定間隔離して、配置することが好ましい。また、スリット状の細い孔22を左右の縁部に沿って開口させてもよい。
下板21の上面には、上容器2から下容器3へ孔22を通して培地5が進入するのを規制する規制網23(規制部、規制部材)が配置されている。規制網23としては、例えば、プラスチック網等の目の細かい網を用い、上容器2から下容器3へ水分や液肥は通すものの、培地5は通しにくいように構成することが好適である。この規制網23としては、例えば、メッシュ幅が1mm×1mm〜5mm×5mm程度のプラスチック網を用いることができる。このうち、3mm×3mm程度のプラスチック網を用いることがより好適である。
また、上容器2と下容器3との間で、培地5と培地6とが直接接触しないように、空隙とすることが好適である。これにより、下容器3の培地6に水分や液肥を多く供給して水分含有量を高めても、上容器2の培地5は乾燥状態に保つことができる。
【0019】
上容器2の培地5上には、灌水チューブ41(灌水手段)が前後方向に沿って配置される。灌水チューブ41は、培地5に定植されたトマト7の左右に1本ずつ配置される。下容器3の培地6上には、上容器2の左右の側壁に沿って、培地5が暴露した暴露部に、灌水チューブ42(灌水手段)が1本ずつ配置される。灌水チューブ41、42の灌水は、それぞれ別に制御することができる。
なお、この灌水チューブ41、42としては、栽培用の点滴チューブ等を用いることができるが、これに限られず、スプリンクラー等も適宜用いることができる。
【0020】
トマト栽培容器1では、上容器2の培地5にトマト7を定植し、灌水チューブ41で水分や液肥が培地5に供給(灌水)する。培地5に定植されたトマト7は、培地5に根を張り、その後孔22を通して下容器3の培地6にまで根を延ばす。
この結果、
図1に示すように、培地5が上層根71の根域となり、培地6が下層根72の根域となる。培地6が下層根72の根域になった後は、灌水チューブ42からも培地6に水分や液肥を供給する。下層根72は、培地6から水分や液肥を吸収し、吸収した水分や液肥を上層根71側に供給する。上層根71は、培地5から水分や液肥を吸収し、下層根72側から供給された水分や液肥と共に主枝側に供給する。
【0021】
トマト7が着果期になると、その後は灌水チューブ41から培地5への水分や液肥の供給を制限し、培地6のみへ水分や液肥を供給する。これにより、培地5が乾燥化する。
培地6が乾燥化すると、上層根71は、下層根72から供給された水分や液肥を主枝側に供給するだけでなく、余分な水分や液肥を培地5に放出する。すなわち、上容器2の培地5を乾燥層とし、下容器3の培地6を湿潤層とすることで、hydric liftが起こる。
よって、下層根72から水分や液肥の供給を受けられない上層根71も、培地5に放出された水分や液肥の一部を吸収して主枝側に供給することが可能となる。
【0022】
このように、上容器2の培地5への水分や液肥の供給を制限することで、高糖度のトマト7の生育に必要な水分や液肥を下層根72から上層根71の主枝側に供給しつつ、余分な水分や液肥が上層根71の主枝に供給されるのを抑えて、上層根71に適度に弱い水ストレスを付加することが可能となる。
【0023】
本実施形態によれば、上容器2の培地5にトマト7を定植することで、上容器2の培地5を上層根71の根域とし、下容器3の培地6を下層根72の根域とすることができる。
このため、着果期以降には培地5を乾燥化させることで、高糖度のトマト7の生育に適した弱い水ストレスを上層根71に付加することが可能となる。よって、高糖度のトマトを簡単な作業で安定して生産することが可能となる。
【0024】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
まず、従来の栽培方法、及び従来技術1〜3に記載された栽培方法においては、高度な管理が必要であり、高糖度によって差別化を目的とした一部の生産者に受け入れられたとしても一般的な技術にはなりにくく、高糖度トマトを安定して生産することが難しかった。
これに対して、本発明の実施の形態に係る栽培容器及び栽培方法は、従来の高糖度トマトの栽培で問題であった灌水管理の煩雑さを解消し、簡便な水管理の下、高糖度トマトの栽培を可能とする。
具体的には、本発明の実施の形態に係る栽培容器及び栽培方法を用いることによって、上層の灌水停止期間中に下層の根からのみ吸水し、上層の乾燥土壌へhydraulic liftによって水を放出する。
この結果、トマト地上部には適度に弱い水ストレスが付加され、例えば、大玉品種のトマトでは1果重が100g以上で平均160g程度の果菜が、中玉品種のトマトでは1果重が30g以上で平均35g程度の果実が生産できる。この際、従来の高糖度トマト生産での問題であった果実重の減少という問題点を解決し、従来の栽培方法に比べ糖度を1度程度以上させることができる。
【0025】
すなわち、本発明の実施の形態に係る栽培方法及び栽培容器を用いることで、従来よりも簡便に、着果期に下容器3を湿潤にし上容器2を乾燥させる灌水法により水ストレスを付加し、果重を大きく減らすことなく、高糖度の果菜を得る栽培方法を提供することができる。これにより、高糖度トマトのような付加価値の高い果菜を得ることができる。
また、塩分を含まない灌水のコントロールだけで植物体に水ストレスを与えられるため、土壌に塩類が蓄積することによる塩類障害が起こらないという効果が得られる。
【0026】
なお、上記実施形態では、下容器3が上容器2に比べて左右の幅が狭く形成されている場合について説明したが、上容器2と下容器3とが同じ左右の幅に形成されていてもよい。
また、上容器2及び下容器3の形状も四角箱状には限定されない。また、上容器2に植えられたトマト7の根71、72を下容器3に進入させられるのであれば、孔22の形状や大きさや形成位置は任意であり、例えば、上容器2の左右の側板に開口させられていてもよい。
また、管路等の孔を通して上容器2から下容器3に根を進入させてもよい。また、上記実施形態では、上容器2の下板21と培地6との間に空隙が設けられている場合について説明したが、空隙が設けられていなくてもよい。この場合、空隙の代わりに、下容器3から余分な水分が上容器2に進入しないように、溢れた水分を吸収する吸収路や吸収剤を用いる等の構造を適宜用いることができる。
また、下板21の左右の中央部にも孔22が形成されていてもよい。さらに、上容器2及び下容器3に収容された培地5、6への灌水方法は任意であり、灌水チューブ41、42を用いたものには限定されない。
【0027】
また、上記実施形態では、高糖度トマトの栽培方法について特に記載したが、本実施形態の栽培方法は、他にも適度に水ストレスを与えて高糖度の果実を得るための各種果菜、果物、植物の栽培方法に適用可能である。たとえば、あまり高糖度でない瓜の品種等であっても、簡便に、水ストレスを与えて高糖度の果菜を得ることができる。また、リンゴ等の樹木にも適用することができる。
【0028】
また、
図2を参照すると、下容器の上縁部に設けられた段差上に上容器が載置されるように構成され、下容器の土壌と上容器との間に間隙が形成されるようにしてもよい。
また、
図2に示すように、下容器の段差に嵌め合わされる段差が上容器に設けられていてもよい。
【0029】
以下、本発明の実施の形態に係るトマト栽培容器1を用いて、栽培処理を行い、その結果がどう変化するのかを具体的に実施例として説明する。
しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
(栽培条件)
まず、上・下2層の容器に根系を分割して、着果期から上層を乾燥化させ下層にのみ灌水する本発明の実施例1に係るトマトの栽培方法について栽培試験を行った。
トマト(Lycopersicon esculentum Mill.)の供試品種として、中玉品種の"ルイ60"(発売元:タキイ種苗株式会社、台木:"ベスパ")を用い、抑制作型において栽培試験を行った。
栽培は、2010年に、秋田県農林水産技術センター農業試験場内のガラスハウス内で、15度以上を目安に加温して行った。
【0031】
試験は、発明者が製造した50L(50×50×20cm)の上容器の底中央に直径8cmの孔を切り、直径8cmの塩化ビニール管を用いて、50Lまたは25L(50×25×20cm)の下容器と連結した上下2層構造の容器を用いた。
試験区としては、黒ボク土1/2区、黒ボク土1区、砂土1/2区、砂土1区、対照区の5区を設定した。黒ボク土1/2区は、25Lの下容器に黒ボク土18.8Lを充填した処理区である。黒ボク土1区は、50Lの下容器に黒ボク土37.5Lを充填した処理区である。砂土1/2区は、25Lの下容器に砂土18.8Lを充填した処理区である。砂土1区は、50Lの下容器に砂土37.5Lを充填した処理区である。対照区は、50Lの下容器に黒ボク土37.5Lを充填し、上下容器に灌水を継続した完全灌水区である。
いずれの区も、上容器には37.5Lの黒ボク土を充填し、トマトを移植した。
7月13日に播種、8月29日に定植し、5段果房上の本葉2葉を残して摘心する主枝1本仕立てによって栽培し、10月11日から1月8日にかけて収穫した。
施肥は、肥効調節肥入り複合肥料を用いて、株当たり15gの窒素量を基肥として上容器に施用した。
【0032】
各区は、定植後から9月11日まで上容器に適宜灌水し、9月12日以降は点滴チューブを用いて、上下容器に1日当たり1500mLを灌水した。
対照区を除く処理区は、10月5日から上容器の灌水を停止して灌水制限を行った。灌水は、上下容器に点滴チューブ(Netafim社製、「Stream Line」)を各2本配置して行った。
【0033】
(測定項目および測定方法)
葉柄水ポテンシャルを、晴天日の11:00から14:00の間に、3段果房上第1葉の小葉を採取してプレッシャーチャンバー法によって測定した。水ポテンシャルは、植物の水分保持力を示す値で、単位はPa(パスカル)であり、水の化学ポテンシャル(j/mol)を水の部分モル体積量(m
3/mol)で割った熱力学的ポテンシャルエネルギーを示す。
収穫物調査は、各株の全果実について果実糖度と1果重を測定した。
【0034】
(結果)
図3を参照して、本発明の実施の形態の実施例1における、抑制栽培での葉柄水ポテンシャルの推移の実験結果について説明する。
図3の縦軸は、葉柄水ポテンシャル(MPa)を示し、横軸は測定日を示している。各区を示すグラフの誤差線は、標準偏差(n=3)である。
図3によると、砂土1区の葉柄水ポテンシャルは、−1.5MPa以下に低下する株が散見され、トマト地上部には強い水ストレスが付加されていた。
他の処理区の水ポテンシャルも対照区に比べて低く推移し、上容器の灌水制限によってトマト地上部には水ストレスが付加されていた。
【0035】
この状態での栽培結果を、下記の表1に示す。
砂土1区の1果重は平均32.2gとなり、対照区の54%まで減少し、果実糖度は対照区に比べ2.0度高くなった。
黒ボク1/2区も1果重が平均40.4gとなり、対照区の68%まで減少して、果実糖度は1.3度高くなった。
その他の処理区では、1果重が対照区に比べ有意に減少したが、果実糖度は有意差が認められなかった。
【0036】
【表1】
【0037】
以上の栽培結果から、灌水制限後の葉柄水ポテンシャルとトマトの糖度との関係について検討した。この結果について、
図4と
図5とを参照して説明する。
図4は、上述のように垂直方向に異なる水分条件の容器を配置した際の、トマトの葉柄水ポテンシャルと果実糖度の関係を示すグラフである。縦軸は、トマト果実の糖度(Brix%)を示す。Brix%は、液中の固形分濃度を表す量で、ショ糖濃度(糖度)を表す。横軸は、葉柄水ポテンシャルを示す。
図5は、同様の配置条件での、トマトの葉柄水ポテンシャルと1果重との関係を示すグラフである。縦軸は、1果重をグラム単位で示し、横軸は葉柄水ポテンシャルを示す。
これらのグラフで示すように、灌水制限後の葉柄水ポテンシャルは、果実糖度と1果重との間に関係があった。すなわち、水ポテンシャルが低下して水ストレスがかかると、果実糖度は増加し、1果重は減少した。
結果として、1果重の減少を抑えながら果実糖度を向上させる最適条件は、−1.3MPa程度であった。この条件を満たすには、上容器と下容器の容積比は2:1程度が適当であった。
【0038】
この結果から、上・下2層の容器に根系を分割して、着果期から上層を乾燥化させ下層にのみ灌水することで、1果重の減少を最低限に抑えつつ高糖度のトマトの栽培が可能になることが明らかになった。
【実施例2】
【0039】
(栽培条件)
次に、分割した2根系を水平に配置した栽培法である実施例2のトマトの栽培方法について栽培試験を行った。
供試品種としては、中玉品種の"ルイ60"(発売元:タキイ種苗株式会社、台木:"ベスパ")を用い、抑制作型において栽培試験を行った。
具体的には、乾燥土と湿潤土を水平方向に配置した容器を作成した。この容器では、50L(50×50×20cm)の容器を防水壁で仕切り、その中間にトマトを移植して根系を分割した。
試験区は、分割した根系の容量比と灌水制限の有無により、1:1区、1:4区、1:9区、及び対照区の4区を設定した。このうち、1:1区は、灌水を継続する18.8L容量の根系と灌水制限する18.8L容量の根系からなる試験区である。1:4区は、灌水を継続する7.5L容量の根系と灌水制限する30L容量の根系からなる試験区である。1:9区は、灌水を継続する3.8L容量の根系と灌水制限する33.7L容量の根系からなる試験区である。対照区は、灌水を継続する18.8L容量の2根系からなる完全灌水区である。
【0040】
灌水は、定植後から9月8日までは適宜行い、9月9日以降は点滴チューブによって2根系に1日1Lを灌水した。
対照区は収穫終了時までこの灌水を継続し、他の処理区は、9月25日の灌水制限以降、容量の少ない根系にのみ1日2Lを灌水した。
その他の栽培条件等は、実施例1と同様である。
【0041】
(測定項目および測定方法)
測定項目および測定方法は実施例1に従って行った。
【0042】
(結果)
図6を参照して、実施例2の結果について説明する。
図6の縦軸は葉柄水ポテンシャルを示し、横軸は測定日を示す。
対照区の葉柄水ポテンシャルは、灌水制限開始前の−0.6MPaから−1.0MPaまで緩やかに低下した。各処理区も同様に推移し、根系の容積比と水ポテンシャルの関係は認められなかった。
これに対して、処理区の果実糖度と1果重も対照区とほぼ同等であり、トマト地上部には水ストレスは付加されなかった。
また、トマト地上部への水ストレスの付加は、乾燥土と湿潤土中にある根量の比率のみならず根系の形態に大きく影響を受けると推察された。
【0043】
実施例2における栽培結果を、下記の表2に示す。この表2においては、各条件での1果重と乾燥度における有意差は認められなかった。
【0044】
【表2】
【0045】
この実施例2の栽培試験のように、分割した2根系が水平(左右)に配置された栽培法では、地上部に十分な水ストレスが付加されず、高糖度のトマトの栽培には不適であった。
すなわち、実施例1のように、上層根の根域と下層根の根域とを隔て、上層根の根域に水ストレスを付加することが重要であることが分かった。
【実施例3】
【0046】
(栽培条件)
次に、実施例3として、簡便な市販容器を改良して上・下2層の栽培を行う栽培方法について栽培試験を行った。
供試品種に中玉品種の"ルイ60"(発売元:タキイ種苗株式会社、台木;"ベスパ")を用い、抑制作型において栽培試験を行った。
【0047】
図7を参照して、この実施例3に係る栽培容器について説明する。
試験は、20L容量と30L容量の市販プランター(大和プラスチック社製)を積み重ねた容器を用いた。
具体的には、下容器の30L容量のプランターは、スノコの上に防根透水シートを敷き土壌を充填した。上容器の20L容量のプランターは、下容器からの灌水の流入を防ぐため、底の外側に厚さ2cmの発泡スチロール板を貼った。
また、底の四角に6mm×12cmの孔を開けた。孔の上にはメッシュの幅3mm×3mmのプラスチック網を置き、空隙ができるように加工した。この網により、上容器の土が下容器に流出することを防ぐことができる。
なお、
図7に示した上容器及び下容器の寸法の単位は(mm)である。
【0048】
この栽培容器においては、いずれの試験区も、上容器には20Lの黒ボク土を充填し、トマトを移植した。下容器の30L容量のプランターは、防根透水シートを敷き土壌(培地)を充填した。
試験区は、赤玉土区、黒ボク土区、黒ボク土連結区の4区を設けた。赤玉土区は、下容器に赤玉土10Lを充填した試験区である。黒ボク土区は、下容器に黒ボク土10Lを充填した試験区である。また、黒ボク土連結区は、毛管水の影響を明らかにするために、下容器に黒ボク土10Lを充填し、上容器の孔内に黒ボク土を充填して上・下容器間を土壌で連結した試験区である。また、対照区は、下容器に黒ボク土10Lを充填した完全灌水区である。
【0049】
灌水は、定植以降適宜灌水し、10月6日以降は点滴チューブによって各区の上下容器に1日2Lを灌水した。
対照区を除く処理区は、10月10日から栽培終了時まで上容器への灌水を停止した。
灌水は、上・下容器に点滴チューブ(Netafim社製、「Stream Line」)を各2本配置して行った。
【0050】
トマトは、7月17日に播種、8月31日に定植し、5段果房上の本葉2葉を残して摘心する主枝1本仕立てによって栽培し、10月16日から1月14日まで収穫した。
施肥は、肥効調節肥入り複合肥料を用いて、株当たり10gの窒素量を基肥として上容器に施用した。
その他の栽培条件等は、実施例1と同様である。
【0051】
(測定項目および測定方法)
葉柄水ポテンシャルは、晴天日の11:00から13:00の間に、各株の3段果房下の側枝第1葉と第2葉の小葉を採取して、プレッシャーチャンバー法によって測定した。土壌水分率は、TDR(Time domain reflectmetry)プローブ(Decagon社製、「EC−5」)を用い、15分間隔で電圧を記録した。
収穫物調査は、各株の全果実について果実糖度と1果重を測定した。
【0052】
(結果)
これら実施例3の栽培試験の結果について、
図8〜
図10を参照して説明する。
図8は、実際の栽培例を示す写真である。このように、トマトの植物体が上容器のほぼ中央に植えられている。この上容器の一面に根が生育し、四隅の孔(連結孔)から一部の根が下容器に下りている。
図9は、中玉品種のトマトの葉柄水ポテンシャルの推移を示すグラフである。誤差線は、標準誤差(n=4)を示す。また、縦軸は葉柄ポテンシャルを示し、横軸は測定日を示す。
この結果によると、灌水制限開始後の対照区の葉柄水ポテンシャルは、−0.8MPaから−0.9MPaの間で安定して推移した。
また、対照区を除く各処理区は、上容器の灌水停止後水ポテンシャルが速やかに低下し、10月15日に最低となった。10月10日と10月15日、11月7日の調査では、全ての処理区の水ポテンシャルは対照区に比べて低く、水ストレスが継続して付加されていた。
【0053】
図10は、中玉品種のトマトを栽培したプランターの土壌含水率の推移を示すグラフである。
図10(a)は上容器土壌の土壌水分率を示す。また、
図10(b)は、下容器土壌の土壌水分率を示す。それぞれ、縦軸は土壌含水率(%)を示し、横軸は測定日時を示す。また、矢印は、処理区の上容器の灌水を停止した日を示す。
このように、対照区の上容器の含水率は、28.1〜20.4%の間で変動した。また、対照区の下容器の含水率は、42.6〜35.3%の間で変動した。
これに対して、黒ボク土区と黒ボク土連結区は、上容器の含水率が14%まで緩やかに低下した。黒ボク土区の下容器の含水率は、43.4〜23.3%の間で変動し、黒ボク土連結区の下容器の含水率は、43.7〜24.7%の間で変動した。これらの処理区では、下容器の含水率が対照区の上容器の含水率より高く推移したことから、下容器に十分に灌水された条件下で、トマト地上部に水ストレスが付加されたと推定された。
【0054】
この実施例3の栽培条件における栽培結果を、下記の表3に示す。
赤玉土区の1果重は平均34.9gとなり、対照区の64%まで減少し、果実糖度は対照区に比べ1.6度高くなった。
黒ボク土区の1果重は平均35.3gとなり、対照区の65%まで減少し、果実糖度は対照区に比べ1.4度高くなった。
黒ボク土連結区の1果重は41.3gとなり、対照区の76%まで減少し、果実糖度は0.4度高くなるにとどまった。
毛管水の影響を除いた赤玉土区と黒ボク土区は、黒ボク土連結区に比べ糖度が高い傾向にあった。
【0055】
【表3】
【0056】
これらの結果から、簡便な市販容器を改良して上・下2層の栽培を行うことによって、高糖度のトマトの生産を可能にした。また、上・下の各層は、分離した方が糖度が高い果実を得ることができることが分かった。
本実施例3の栽培方法を適用することによって中玉品種では、1果重が30g以上で、平均35g程度、果実糖度が対照区に比べ約1.5度高いトマトを生産することができた。
【実施例4】
【0057】
(栽培条件)
次に、実施例4として、供試品種を大玉品種とした場合において、上・下2層の栽培を行う栽培方法について栽培試験を行った。
供試品種に大玉品種の桃太郎8(発売元:タキイ種苗株式会社、台木:ベスパ)を用い、夏秋作型において栽培試験を行った。
【0058】
試験は、実施例3に記載した容器を用いたが、上容器の孔上にプラスチック網を置かず、下容器から毛管水の移動がある条件で実施した。
試験区は、赤玉土区、黒ボク土区、及び対照区の3区を設定した。赤玉土区は、下容器に赤玉土10Lを充填した試験区である。黒ボク土区は、下容器に黒ボク土10Lを充填した試験区である。対照区は、下容器に黒ボク土10Lを充填し、上下容器に灌水を継続した完全灌水区である。
いずれの区も、上容器には20Lの黒ボク土を充填し、トマトを移植した。トマトは5月13日に播種、7月6日に定植を行い、6段果房上の本葉2葉を残して摘心する主枝1本仕立てによって栽培し、8月12日から11月5日にかけて収穫した。
施肥は、肥効調節肥入り複合肥料を用いて、株当たり10gの窒素量を基肥として上容器に施用した。
【0059】
各区は、定植後から8月5日まで上容器に適宜灌水し、8月6日以降は点滴チューブを用いて、上・下容器に1日当たり2L量を灌水した。
対照を除く処理区は、8月13日から栽培終了時まで上容器の灌水を停止して灌水制限を実施した。
灌水は、上・下容器に灌水チューブとして、点滴チューブ(Netafim社製、「Stream Line」)を各2本配置して行った。
その他の栽培条件等は、実施例1と同様である。
【0060】
(測定項目および測定方法)
葉柄水ポテンシャルは晴天日の11:00から14:00の間に、各株の3段果房下の側枝第1葉の小葉を採取してプレッシャーチャンバー法によって測定した。
土壌水分量は、TDRプローブ(Decagon社製、「EC−5」)を用いて電圧を15分間隔で記録した。
収穫物調査は、各株の全果実について果実糖度と1果重を測定した。
【0061】
(結果)
次に、
図11〜
図13を参照して、実施例4における栽培試験について説明する。
図11は、上・下2層のプランターで栽培した大玉品種のトマトの葉柄水ポテンシャルを示すグラフである。縦軸は、葉柄水ポテンシャルを示し、横軸は測定日を示す。誤差線は標準偏差(n=4)を示す。
図11の結果によると、赤玉土区と黒ボク土区の葉柄水ポテンシャルは、8月26日に−1.06MPa及び−0.95MPaまで低下した。その後、葉柄水ポテンシャルは、9月18日に−0.8MPaまで上昇した。
これに対して、対照区の葉柄水ポテンシャルは、−0.56MPaから−0.68MPaの間で推移した。
このことから、赤玉土区と黒ボク土区においては、トマト地上部に水ストレスが継続して付加されていたことが分かる。
【0062】
図12は、大玉品種のトマトを栽培したプランターの土壌含水率の推移を示すグラフである。
図12(a)は上容器の土壌を示し、
図12(b)は下容器の土壌の土壌水分率を示す。どちらのグラフも、縦軸は土壌含水率を示し、横軸は測定日を示す。また、矢印は、処理区の上容器の灌水を停止した日を示す。また、
図12(b)の灰太線は、処理区の下容器の含水率が対照区の上容器の含水率を下回った期間を示す。
この結果として、対照区の上容器の含水率は、33.7%から20.9%の間で変動した。黒ボク土区は、上容器の含水率が約17%まで緩やかに低下した。黒ボク土区の下容器の含水率は、43.2%から18.7%の間で変動した。黒ボク土区では、下容器の含水率が対照区の上容器の含水率より低くなった日が、灌水停止直後の8月16日から8月28日の13日間計測された。
この間、黒ボク土区では、下容器の潅水量不足が水ストレスの原因となったことも否定できないが、その後は、下容器に十分に灌水された条件下で、トマト地上部に水ストレスが継続して付加されたと推定された。
【0063】
この実施例4の栽培条件における栽培結果を、下記の表4に示す。
赤玉土区と黒ボク土区の果実糖度は7.3度であり、対照区より約1度高かった。赤玉土区と黒ボク土区の平均1果重は164.4g及び175.8gであり、対照区に比べて約40gの減少にとどまった。
【0064】
【表4】
【0065】
図13は、上・下2層のプランターで栽培した大玉品種のトマトの果実糖度(a)と1果重(b)の度数分布を示すグラフである。
図13(a)は果実の糖度を示す図であり、横軸は果実糖度の階級を示し、縦軸は果実糖度の各階級における果実割合(%)を示す。
図13(b)は、1果重を示す図であり、横軸は1加重の階級値を示し、縦軸は1加重の各階級における果実割合を示す。
図13(a)によると、赤玉土区と黒ボク土区は、それぞれ68%と80%の可販果が糖度7度以上の果実であった。
図13(b)によると、赤玉土区と黒ボク土区は、それぞれ95%と99%の可販果が100g以上の果実であった。
このように、1果重の減少を抑えながら果実糖度を上げることができた。
【0066】
このように、本発明の実施例4の栽培方法を用いることによって、大玉品種においても、平均1果重が160gで、果実糖度が対照区に比べ約1度高い7度以上のトマトを生産することができた。
すなわち、大玉品種を用いて本実施例の栽培方法にて栽培を行っても、糖度が高く果重が大きい、すなわち高品質のトマトを栽培できる。
【0067】
以上の結果から、本発明の実施の形態に係る栽培方法のように、上・下2層にプランターを配置し根系を分割して、着果期から上層のみを乾燥化させ下層にのみ十分に灌水を行うことで、作物体に適度の水ストレスを与えることができる。
図14を参照して説明すると、本発明の実施の形態に係る栽培方法では、乾燥地での植物の成長のように、湿潤層となる下層から乾燥層となる上層の根に水を吸い上げて放出する。すなわち、上層部の灌水停止期間中には、下層部の根からのみ吸水し、上層の乾燥層へhydraulic liftによって水を放出することができる。
この結果、トマト自身が水ストレス調節を行うため、適度なストレス処理を簡便に行うことが可能となる。
よって、トマト地上部には適度に弱い水ストレスが付加され、従来の高糖度トマト生産での問題であった果実重の減少という問題点を解決し、慣行の栽培方法に比べ糖度を約1度向上させることができる。
加えて、従来の高糖度トマトの栽培で問題であった灌水管理の煩雑さを解消し、簡便な灌水管理の下、高糖度トマトの栽培が可能となる。
【0068】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。