(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、建物に入力される振動は、地震のような振幅の大きな振動ばかりでなく、例えば風などにより小さく振動する場合もある。このため、例えば、地震等による大きな振動にて最適な制振効果が発揮されるように摩擦ダンパーが調整されていると、風などの小さな振動を抑制することができない。また、風などの小さな振動にて最適な制振効果が発揮されるように摩擦ダンパーが調整されていると、地震等による大きな振動を抑制するためには、対策を追加する必要があるという課題がある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、小さな振動も大きな振動も抑制することが可能な接合部の制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の接合部の制振構造は、相対移動自在に重ねられた第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材に圧接力を付勢する第1圧接力付勢部材と、を備えて接合された第1接合部と、相対移動自在に重ねられた前記第2部材及び第3部材と、前記第2部材及び前記第3部材に圧接力を付勢する第2圧接力付勢部材と、を備えて接合された第2接合部と、を有し、前記第1接合部は、前記第1部材及び前記第2部材との相対移動量を規制する移動量規制部を有し、前記第1部材と前記第2部材とが振動により相対移動するときに前記第1接合部にて発生する摩擦力により、前記振動のエネルギーが吸収され、前記第2部材と前記第3部材とが振動により相対移動するときに前記第2接合部にて発生する摩擦力により、前記振動のエネルギーが吸収され、前記第1接合部にて発生する前記摩擦力は、前記第2接合部にて発生する前記摩擦力より小さく、前記振動による前記第1接合部の相対移動が前記移動量規制部にて規制されたときに前記第2接合部にて相対移動
し、前記第1部材及び前記第3部材に重ねられた第2部材は、前記相対移動の方向に沿って複数設けられており、前記複数の第2部材の各々と前記第1部材とが前記第1接合部を成し、前記複数の第2部材の各々と前記第3部材とが前記第2接合部を成すことを特徴する接合部の制振構造である。
【0007】
このような接合部の制振構造によれば、第1部材と第2部材とが相対移動自在に重ねられた第1接合部にて発生する摩擦力は、第2部材と第3部材とが相対移動自在に重ねられた第2接合部にて発生する摩擦力より小さいので、第1接合部は第2接合部より小さな力にて相対移動して振動エネルギーを吸収し、第2接合部は第1接合部より大きな力にて相対移動して振動エネルギーを吸収する。また、振動による第1接合部の相対移動が移動量規制部にて規制されたとき、即ち、第1接合部にて相対移動可能な移動量より大きく相対移動する場合には、第2接合部にて相対移動するので、第1接合部にて許容される移動量より大きく相対移動する場合には、第1接合部より大きな摩擦力を発生する第2接合部位にて振動エネルギーを吸収させることが可能である。このため、第1接合部では相対移動量が小さな振動のエネルギーを吸収して、小さな振動を抑制するとともに、第2接合部では相対移動量が大きな振動のエネルギーを吸収して大きな振動を制振することが可能である。
また、第1部材と第3部材との間には、複数の第2部材が架け渡されており、複数の第2部材の各々と第1部材とが第1接合部をなし、複数の第2部材の各々と前記第3部材とが前記第2接合部をなすので、各々の第2部材に設けられた第1接合部と第2接合部とを独立させて機能させることが可能である。具体的には、1つの第2部材に複数の第1接合部又は第2接合部が設けられていたとしても、単一の第1部材又は単一の第3部材の間では、いずれかの第1接合部の相対移動にて、その他の第1接合部における相対移動が規制されてしまう虞がある。このため、複数の第2部材を第1部材と第3部材との間に架け渡して、各々第1接合部と第2接合部を有する構成を有することにより、より効果的に振動を制振することが可能である。
【0008】
かかる接合部の制振構造であって、前記第1接合部にて許容される相対移動量は、前記第2接合部にて許容される相対移動量より小さいことが望ましい。
このような接合部の制振構造によれば、小さな振動のエネルギーを吸収する第1接合部にて許容される相対移動量が、第2接合部にて許容される相対移動量より小さいので、振動エネルギーが大きく、相対移動量が大きな振動が入力された際には、より早く第1接合部より大きな摩擦力が発生する第2接合部にて振動エネルギーを吸収させることが可能である。
【0009】
かかる接合部の制振構造であって、前記第1圧接力付勢部材は、重ねられた前記第1部材及び前記第2部材とともに貫通されたボルトにて圧縮されており、前記第2圧接力付勢部材は、重ねられた前記第2部材及び前記第3部材とともに貫通されたボルトにて圧縮されており、前記振動により前記第2部材と前記第3部材とが相対移動する力は、前記第1接合部における相対移動量が前記許容される相対移動量を超えたときに前記第1接合部の前記ボルトを介して前記第2接合部に伝達されることが望ましい。
このような接合部の制振構造によれば、振動が入力されると、まず第1接合部にて第1部材と第2部材との間にて相対移動するとともにエネルギーが吸収される。そして、入力された振動が第1接合部の許容される相対移動量を超えたときには、第1接合部のボルトを介して、第2接合部に振動により第2部材と第3部材とが相対移動する力が伝達される。即ち、入力された振動が第1接合部にて許容される相対移動力を超える場合には、その振動が第2接合部に伝達されて、第2接合部にて振動エネルギーが吸収される。このため、第1接合部と第2接合部との制御手段を備えることなく、小さな振動は第1接合部にて、大きな振動は第2接合部にてそれぞれ吸収することが可能である。
【0010】
かかる接合部の制振構造であって、前記第1部材及び前記第3部材は、端部同士が互いに間隔を隔てて対向しており、前記第2部材は、前記第1部材と前記第3部材との間に架け渡されていることが望ましい。
このような接合部の制振構造によれば、第2部材は、端部同士が互いに間隔を隔てて対向している第1部材と第3部材との間に架け渡されているので、第1部材と第2部材とが相対移動して摩擦量が発生する部位と、第3部材と第2部材とが相対移動して摩擦力が発生する部位とを同一平面上にて配置することが可能である。このため、摩擦力が作用したときに、第1部材、第2部材、第3部材にねじれが生じ難いので、より効率良く振動を抑制することが可能である。また、第1部材と第3部材は、第2部材に対して同じ側に配置されるので、第1部材と第3部材とが第2部材に対して反対側に配置される場合より、重なり方向の厚みを小さくすることが可能である。
【0011】
かかる接合部の制振構造であって、前記第1接合部の前記ボルトは、パイプ材に挿通されて設けられ、前記振動により前記第2部材と前記第3部材とが相対移動する力は、前記パイプ材を介して前記第2接合部に伝達されることが望ましい。
このような接合部の制振構造によれば、第2部材と第3部材とが相対移動する力は、パイプ材を介して第1部材から第2部材へと伝達されるので、ボルトをパイプ材により保護するとともに、ボルトを圧接力の付与のみに特化させて使用できて、その健全性を高く維持可能となる。
【0012】
かかる接合部の制振構造であって、前記第1部材は、前記第1接合部にて前記パイプ材が貫通される第1貫通孔を有し、前記第3部材は、前記第1貫通孔より前記相対移動方向の幅が広い第2貫通孔を有し、前記振動により前記第1接合部にて前記パイプが前記第1貫通孔と係合することにより、前記第2部材と前記第3部材とが相対移動する力が前記第2部材に伝達されることが望ましい。
このような接合部の制振構造によれば、第2部材と第3部材とが相対移動する力は、第1接合部にて第1部材と第2部材とが相対移動した際に許容される相対移動量を超えた際に第1貫通孔がパイプ材に当接されてパイプ材が移動することにより、パイプ材と共に第2部材が移動される。このとき、第2部材と第3部材とが相対移動する力がパイプ材と第1貫通孔との係合を介して第2部材に伝達されるので、ボルトに剪断力が作用することは殆どなく、ボルトを圧接力の付与のみに特化させて使用できて、その健全性をより高く維持可能となる。
【0013】
かかる接合部の制振構造であって、前記第1部材と前記第2部材とのうちの一方、及び、前記第2部材と前記第3部材とのうちの一方に設けられた滑り板と、前記第1部材と前記第2部材とのうちの他方、及び、前記第2部材と前記第3部材とのうちの他方に設けられ、前記第1部材と前記第2部材、及び、前記第2部材と前記第3部材が相対移動したときに前記滑り板と摺動して前記摩擦力が生じる摩擦板と、を有していることが望ましい。
このような接合部の制振構造によれば、第1部材と第2部材とのうちの一方、及び、前記第2部材と前記第3部材とのうちの一方に、設けられた滑り板と、第1部材と第2部材とのうちの他方、及び、第2部材と第3部材とのうちの他方に設けられ、第1部材と第2部材、及び、第2部材と第3部材が相対移動したときに滑り板と摺動して摩擦力が生じる摩擦板と、を有しているので、第1接合部及び第2接合部がそれぞれ相対移動した際に安定した摩擦力を生じさせて制振することが可能である。
【0014】
かかる接合部の制振構造であって、前記第1圧接力付勢部材及び前記第2圧接力付勢部材は皿ばねであり、前記第1接合部にて付勢する前記圧接力、及び、前記第2接合部にて付勢する前記圧接力は、前記皿ばねにより調整されることが望ましい。
このような接合部の制振構造によれば、第1圧接力付勢部材及び第2圧接力付勢部材は、圧縮方向の変形量に対して、荷重の変動がほぼ一定となる非線形ばね領域を備えた皿ばねなので、安定した圧接力を発生させることが可能である。特に、本接合部の制振構造では、第1圧接力付勢部材と第2圧接力付勢部材とにより付勢する圧接力を違えるために、安定した付勢力が得られる皿ばねを使用している。また、皿ばねは複数枚を重ねて使用することが可能なので、重ねる皿ばねの数を相違させることにより圧接力を容易に調整することが可能である。
【0015】
かかる接合部の制振構造であって、前記第2部材は、前記第1部材及び前記第3部材を挟んで両側に設けられていることが望ましい。
このような接合部の制振構造によれば、第1部材及び第3部材を第2部材にて両側から挟むことにより、第2部材を第1部材及び第3部材に対して安定した状態にて相対移動させて安定した摩擦力を発生させることが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小さな振動を抑制するとともに、大きな振動も抑制することが可能な接合部の制振構造を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態の接合部の制振構造の一例について図を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る接合部の制振構造を建物の間柱に組み込んだ状態の一例を示す斜視図である。
図2は、本実施形態の摩擦ダンパーユニットを正面から見た模式図である。
図3は、
図2におけるA−A断面図であり、
図4は、
図2におけるB−B断面図であり、
図5は、
図2におけるC−C断面図である。
【0020】
本発明の接合部の制振構造は、多層階ビルディング等の上階層と下階層との間に設けられる柱、梁、ブレース及び間柱などがボルトで接合されたボルト接合部にて、水平方向の相対移動を制振する摩擦ダンパーをなしている。
【0021】
本実施形態では、
図1に示すように、摩擦ダンパー20、30を間柱10に組み込んだ形態を例に挙げて説明する。
間柱10は、上階層3と下階層5との間にて上下を架け渡し方向として配置されている。また、間柱10は、その長手方向たる前記架け渡し方向の略中央の位置において分断されており、分断された端部を利用して摩擦ダンパー20、30を形成しつつ接合されている。
【0022】
具体的には、
図1〜
図5に示すように、間柱10が上下方向に間隔を隔てるように分断されて、第1部材としての間柱下部11と、第3部材としての間柱上部12とをなしている。
【0023】
間柱下部11と間柱上部12とは、間柱下部11の上端部11cと間柱上部12の下端部12cとが、所定方向としての上下方向に互いに間隔を隔てて対向している。間柱下部11と間柱上部12との、表裏面側にはそれぞれ、間柱下部11と間柱上部12とに架け渡された第2部材としての対をなす2枚のスプライスプレート21が、相対移動方向に沿って3対並べて設けられている。3対のスプライスプレート21と間柱下部11及び間柱上部12との接合部がそれぞれ摩擦ダンパー20、30を構成している。即ち、間柱下部11と間柱上部12とに架け渡された、一対のスプライスプレート21と間柱下部11及び間柱上部12との2つの接合部にて摩擦ダンパー20、30が構成された摩擦ダンパーユニット25が3セット設けられている。以下、間柱上部12とスプライスプレート21との接合部にて形成されている摩擦ダンパーを上摩擦ダンパー20とし、間柱下部11とスプライスプレート21との接合部にて形成されている摩擦ダンパーを下摩擦ダンパー30として説明する。ここで、下摩擦ダンパー30が第1接合部に相当し、上摩擦ダンパー20が第2接合部に相当する。
【0024】
3セットの摩擦ダンパーユニット25は、いずれも同じ構成なので、ここでは1つの摩擦ダンパーユニット25について説明する。
【0025】
摩擦ダンパーユニット25は、対をなすスプライスプレート21が、上下方向と交差する方向にて間柱下部11と間柱上部12を挟んで互いに対向するとともに、間柱下部11と間柱上部12との間に架け渡されている。即ち、上摩擦ダンパー20側では、2枚のスプライスプレート21と、その間に介在された間柱上部12とが重なっている。
【0026】
また、間柱上部12と各スプライスプレート21との間には、間柱上部12側に滑り板としての滑動板26が固定され、スプライスプレート21側に摩擦板28が固定されている。ここで、摩擦板28には、有機系摩擦材や無機系摩擦材を使用し得る。有機系摩擦材は、熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維,ガラス繊維,ビニロン繊維,カーボンファイバー,アスベストなどの繊維材料と、カシューダスト,鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリュームなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成される。上記熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂,メラミン樹脂,フラン樹脂,ポリイミド樹脂,DFK樹脂,グアナミン樹脂,エポキシ樹脂,キシレン樹脂,シリコーン樹脂,ジアリルフタレーン樹脂,不飽和ポリエステル樹脂などがある。一方、滑動板26は上述したステンレスやチタンなどの耐食性を有する材料によって形成される。
【0027】
間柱上部12と滑動板26とには、相対移動方向に長い長孔12a、26aが設けられている。また、2枚のスプライスプレート21と摩擦板28とには、円形状の丸孔21a、28aが設けられている。ここで、間柱上部12に設けられた長孔12aが第2貫通孔に相当する。
【0028】
2枚のスプライスプレート21、間柱上部12、2対の滑動板26及び摩擦板28に設けられた長孔12a、26a又は丸孔21a、28aには高力ボルト16が貫通されている。
【0029】
高力ボルト16は、対をなすスプライスプレート21のうちの一方のスプライスプレート21の、間柱上部12と反対側に設けられ複数の皿ばねが重ねられた皿ばね積層体8を貫通するとともにナット18が螺合されている。このとき、高力ボルト16の頭部16aと他方のスプライスプレート21との間、一方のスプライスプレート21と皿ばね積層体8との間、皿ばね積層体8とナット18との間にはそれぞれ座金45が介在されている。また、皿ばね積層体8と高力ボルト16との間には、皿ばね積層体8の内周側に入り込み各皿ばねの位置を規制するブッシュ46が設けられている。
【0030】
皿ばね積層体8は、高力ボルト16にナット18が螺合されて締め込まれて圧縮されることにより、2枚のスプライスプレート21の間に圧接力を付勢する第2圧接力付勢部材である。2枚のスプライスプレート21と間柱上部12とは皿ばね積層体8による圧接力が付勢されつつ水平方向に相対移動可能に構成され、2枚のスプライスプレート21と間柱上部12とが相対移動したときには、摩擦板28と滑動板26とが摺動して摩擦力が生じるように構成されている。
【0031】
下摩擦ダンパー30側では、2枚のスプライスプレート21と、その間に介在された間柱下部11とが重なっている。
【0032】
また、間柱下部11と各スプライスプレート21との間には、間柱下部11側に滑動板26が固定され、スプライスプレート21側に摩擦板28が固定されている。2枚のスプライスプレート21、間柱下部11、2対の滑動板26及び摩擦板28には、丸孔11b、21b、26b、28bが設けられており、丸孔11b、21b、26b、28bには、パイプ材としての鋼製の丸パイプ17に、管軸方向に挿通された高力ボルト16が貫通されている。ここで、間柱11に設けられている丸孔11bが第1貫通孔に相当する。そして、2枚のスプライスプレート21及び摩擦板28の丸孔21b、28bの孔径は、貫通される丸パイプ17との間の隙間がほぼ零になるように設定されており、また、間柱下部11及び滑動板26の孔径は、丸パイプ17との間に隙間Sが形成されるように設定されている。なお、この隙間Sは、柱梁架構に風荷重が作用した際に想定される間柱下部11と間柱上部12との間の相対移動量を考慮して決定され、例えば当該相対移動量の想定値と同値又はこれよりもやや大きめの値に設定されている。
【0033】
ここで、より望ましくは高力ボルト16と丸パイプ17との間に隙間を設けると良く、より望ましくは、当該隙間の大きさを、設計で想定する限界状態(例えば、弾性限界)まで変形状態の丸パイプ17において当該丸パイプ17の内周面と高力ボルト16とが当接しないようなサイズにすると良い。そして、このように設定すれば、対を成すスプライスプレート21を摺動させるための外力は、専ら丸パイプ17のみに作用して高力ボルト16には作用しないので、高力ボルト16の健全性を高い状態に維持可能となる。
【0034】
高力ボルト16は、一方のスプライスプレート21の、間柱下部11と反対側に設けられ複数の皿ばねが重ねられた皿ばね積層体8を貫通するとともにナット18が螺合されている。このとき、高力ボルト16の頭部16aと他方のスプライスプレート21との間、一方のスプライスプレート21と皿ばね積層体8との間、皿ばね積層体8とナット18との間にはそれぞれ座金45が介在されている。また、皿ばね積層体8と高力ボルト16との間には、皿ばね積層体8の内周側に入り込み各皿ばねの位置を規制するブッシュ46が設けられている。
【0035】
皿ばね積層体8は、高力ボルト16にナット18が螺合されて締め込まれることにより圧縮され、2枚のスプライスプレート21の間に圧接力を付勢する第1圧接力付勢部材である。2枚のスプライスプレート21と間柱下部11とは皿ばね積層体8による圧接力が付勢されつつ水平方向に相対移動可能に構成され、2枚のスプライスプレート21と間柱下部11とが相対移動したときには、摩擦板28と滑動板26とが摺動して摩擦力が生じるように構成されている。このとき、間柱下部11側に設けられた皿ばね積層体8の付勢力による圧接力は、間柱上部12側に設けられた皿ばね積層体8の付勢力による圧接力より小さく設定されている。即ち、本実施形態では、皿ばね積層体8の付勢力による圧接力を上摩擦ダンパー20と下摩擦ダンパー30とで相違させることにより、同一の摩擦板28と滑動板26とを用いても、第1接合部にて発生する摩擦力を第2接合部にて発生する摩擦力より小さくしている。
【0036】
具体的には、上摩擦ダンパー20は、地震等の大きな外力が作用する振動により間柱上部12とスプライスプレート21とが相対移動し、下摩擦ダンパー30は、風荷重のような小さな外力が作用する振動であっても相対移動するように設定されている。上摩擦ダンパー20の圧接力と下摩擦ダンパー30の圧接力の違いは、例えば、上摩擦ダンパー20及び下摩擦ダンパー30が備える皿ばね積層体8を構成する皿ばねの枚数を違えることにより調整している。即ち、上摩擦ダンパー20の皿ばね積層体8の方が、下摩擦ダンパー30の皿ばね積層体8より多くの皿ばねが重ねられて構成されている。
【0037】
このような上摩擦ダンパー20及び下摩擦ダンパー30を有する摩擦ダンパーユニット25が間柱10に設けられた建物は、風荷重の作用下においては、入力される外力が小さいので、2枚のスプライスプレート21と間柱下部11との相対移動量も小さくなる。また、上述したように、丸パイプ17と間柱下部11の丸孔11bとの間の隙間Sは、風荷重の作用下にて想定される2枚のスプライスプレート21と間柱下部11との相対移動量よりも大きく設定されている。よって、柱梁架構が振動しても、丸パイプ17に対して間柱下部11が隙間Sの範囲内で相対移動するのみであって間柱下部11の丸孔11bの内周面が丸パイプ17に当接係合することは無く、もって、間柱下部11から丸パイプ17へと相対移動方向の力が作用することも無い。このとき、地震等の大きな外力が作用する振動にて相体移動するように設定された上摩擦ダンパー20では、間柱上部12とスプライスプレート21とが相対移動しない。その結果、間柱下部11のみが2枚のスプライスプレート21に対して摺動するのみで、2枚のスプライスプレート21と間柱上部12とは摺動しない状態が作り出される。つまり、風荷重のような小さな外力による振動に対しては、下摩擦ダンパー30にて小さな摩擦力が発生し、これにより、下摩擦ダンパー30は、風荷重による小さな外力による振動を、それに対応する大きさの小さな摩擦力によって効果的に減衰することができる。
【0038】
他方、地震時においては、その外力も大きいので、2枚のスプライスプレート21と間柱下部11との相対移動量は、丸パイプ17と丸孔11bとの間の隙間Sよりも大きくなる。このため、当該相対移動に伴い、間柱下部11の丸孔11bの内周面は丸パイプ17と当接係合することになる。すると、この当接係合による外力は丸パイプ17内において剪断力の形態を経た後に、丸パイプ17の2枚のスプライスプレート21の丸孔21bの内周面との当接係合を通じて間柱下部11からスプライスプレート21へと伝達され、当該伝達された外力は2枚のスプライスプレート21を間柱上部12に対して相対移動させるべく作用する。これにより、2枚のスプライスプレート21は、間柱上部12に対して摺動する。その結果、相対移動量の大きい振動、すなわち大きな外力の振動に対しては、上摩擦ダンパー20にて大きな摩擦力が発生することになり、これにより、上摩擦ダンパー20は、地震時の大きな外力による振動を、それに対応する大きさの大きな摩擦力によって効果的に減衰することができる。ここで、2枚のスプライスプレート21の丸孔21bが、振動による第1接合部である下摩擦ダンパー30の相対移動を規制する移動量規制部に相当する。
【0039】
図6は、この摩擦ダンパーユニットの振動エネルギー吸収履歴特性を示すグラフである。このグラフは、相対移動方向に所定の振幅δ1又は振幅δ2で強制加振して得られるグラフであり、横軸には、相対移動方向の相対変位量δを示し、縦軸には、上摩擦ダンパー20及び下摩擦ダンパー30が発生する摩擦力の総和を示している。なお、振幅δ1は地震時の想定振幅量であり、振幅δ2は風荷重作用下の想定振幅量である。
図7は、風荷重による下摩擦ダンパーの動作を説明するための断面図である。
【0040】
図6中、四角形ABCDは、風荷重の作用下において、上述したように下摩擦ダンパー30のみが摺動して上摩擦ダンパー20が作用しない状態の振動エネルギー吸収履歴特性を示している。即ち、E点は、
図7(a)に示す状態であり、下摩擦ダンパー30に外力が作用していない状態を示している。A点は、
図7(b)に示す状態であり、風荷重が作用し2枚のスプライスプレート21に対し間柱下部11が所定方向に相対移動して相対変位量δが最大δ2となった状態を示している。B点は、2枚のスプライスプレート21に対する間柱下部11の相対移動の方向が反転した直後の状態を示している。C点は、
図7(c)に示す状態であり、相対移動方向が反転した後に2枚のスプライスプレート21に対する間柱下部11の相対変位量δが最大−δ2となった状態を示している。D点は、2枚のスプライスプレート21に対する間柱下部11の相対移動方向が再び反転した直後の状態を示している。その後、上摩擦ダンパー20は、A点の状態に戻る。即ち、風荷重下では、このようなサイクルが繰り返される。
【0041】
他方、地震時には、下摩擦ダンパー30だけでなく上摩擦ダンパー20も作用するので、振動の減衰力としては、下摩擦ダンパー30と上摩擦ダンパー20にて発生する摩擦力の総和が作用する。下摩擦ダンパー30と上摩擦ダンパー20にて発生する摩擦力の総和は、
図6中の多角形FGHIJKLMにおいて線分MF及び線分IJで示すように、風荷重作用下の場合より大きくなっている。
【0042】
図8は、地震による摩擦ダンパーユニットの動作を説明するための断面図である。
摩擦ダンパーユニット25に、地震による振動が作用すると、まず、圧接力が小さな下摩擦ダンパー30にて間柱下部11と2枚のスプライスプレート21とが間柱下部11の丸孔11bの内周面が丸パイプ17に当接係合するまで相対移動する。ここまでは、風荷重下の場合と同じであり、
図6に示すA点の状態、即ち、
図7(b)の状態である。その後、地震による外力は風荷重より大きいので、そのまま同じ方向に相対移動する。このとき、丸パイプ17が間柱下部11の丸孔11bの内周面により相対移動方向に付勢されることにより、丸パイプ17とともに移動する2枚のスプライスプレート21が間柱上部12に対して相対移動し上摩擦ダンパー20にて摩擦力が発生する。
【0043】
A´点は、丸パイプ17が間柱下部11の丸孔11bの内周面により相対移動方向に付勢され始めた直後の状態を示しており、F点は、
図8(a)に示す状態であり、地震による外力が作用し間柱上部12に対して2枚のスプライスプレート21が所定方向に相対移動して相対変位量δが最大δ1となった状態を示している。
【0044】
G点は、間柱上部12に対して2枚のスプライスプレート21の相対移動方向が反転した直後の状態を示している。地震による相対移動の方向が反転した際には、圧接力が小さな下摩擦ダンパー30が先に作用する。すなわち、まず、丸パイプ17に対して間柱下部11が丸孔11bと丸パイプ17との隙間Sだけ相対移動する。H点は、
図8(b)に示す状態であり、相対移動方向が反転した後、下摩擦ダンパー30が作用した状態を示している。
【0045】
その後、地震の外力により、そのまま反転した方向と同じ方向に相対移動し続ける。このとき、丸パイプ17が間柱下部11の丸孔11bの内周面により、線分A´Fの状態と反対方向に付勢されることにより、丸パイプ17とともに移動する2枚のスプライスプレート21が間柱上部12に対して相対移動し上摩擦ダンパー20にて摩擦力が発生する。
【0046】
I点は、相対同方向が反転し下摩擦ダンパー30が作用し、上摩擦ダンパー20が作用し始めた直後の状態を示している。J点は、
図8(c)に示す状態であり、地震による外力による相対移動の方向が反転した後、間柱上部12に対して2枚のスプライスプレート21の相対変位量δが最大―δ1となった状態を示している。K点は、2枚のスプライスプレート21に対する間柱上部12の相対移動方向が再び反転した直後の状態を示している。
【0047】
2枚のスプライスプレート21に対する間柱上部12の相対移動方向が再び反転した直後は、G点と同様に、圧接力が小さな下摩擦ダンパー30が先に作用する。すなわち、まず、丸パイプ17に対して間柱下部11が丸孔11bと丸パイプ17との隙間Sだけ相対移動する。L点は、
図8(d)に示す状態であり、相対移動方向が再び反転した後、下摩擦ダンパー30が作用した状態を示している。
【0048】
その後、地震の外力により、そのまま同じ方向に相対移動し続ける。このとき、丸パイプ17が間柱下部11の丸孔11bの内周面により、線分A´Fの状態と同じ方向に付勢されることにより、丸パイプ17とともに移動する2枚のスプライスプレート21が間柱上部12に対して相対移動し上摩擦ダンパー20にて摩擦力が発生する。
【0049】
M点は、相対同方向が反転して下摩擦ダンパー30が作用した後、上摩擦ダンパー20が作用し始めた直後の状態を示している。その後、上摩擦ダンパー20はF点の状態に戻る。即ち、地震による外力が作用した場合には、このようなサイクルが繰り返される。
【0050】
本実施形態の間柱10には、上記の摩擦ダンパーユニット25が、3セット、相対移動方向に沿って並べて設けられているので、各々個別に機能して、風荷重及び地震による振動を減衰させることが可能である。
【0051】
本実施形態の接合部の制振構造によれば、間柱下部11と2枚のスプライスプレート21とが相対移動自在に重ねられた下接合部である下摩擦ダンパー30にて付勢している皿ばね積層体8の圧接力を、2枚のスプライスプレート21と間柱上部12とが相対移動自在に重ねられた第2接合部である上摩擦ダンパー20にて付勢している皿ばね積層体8の圧接力より小さくすることにより、第1接合部にて発生する摩擦力を第2接合部にて発生する摩擦力より小さくしたので、下摩擦ダンパー30は上摩擦ダンパー20より小さな力にて相対移動して振動エネルギーを吸収する。
【0052】
また、下摩擦ダンパー30は上摩擦ダンパー20より許容される相対移動量が小さいので、相対移動量が小さな場合に振動エネルギーを吸収する。また、振動エネルギーが大きく振幅の大きな振動が入力された場合には、上摩擦ダンパー20にて2枚のスプライスプレート21と間柱上部12とが相対移動して、振動を抑制する。このため、下摩擦ダンパー30では相対移動量が小さな振動のエネルギーを吸収して小さな振動を抑制するとともに上摩擦ダンパー20では相対移動量が大きな振動のエネルギーを吸収して大きな振動を制振することが可能である。
【0053】
より具体的には、摩擦ダンパーユニット25が設けられた建物等に振動が入力されると、まず下摩擦ダンパー30にて間柱下部11と2枚のスプライスプレート21との間にて相対移動するとともにエネルギーが吸収される。そして、入力された振動による相対移動量が、下摩擦ダンパー30の許容される相対移動量である丸パイプ17と丸孔11bとの隙間Sを超えたときには、下摩擦ダンパー30を構成する丸パイプ17を介して、上摩擦ダンパー20に、2枚のスプライスプレート21と間柱上部12とが相対移動する力が伝達される。即ち、入力された振動が下摩擦ダンパー30にて許容される相対移動力を超える場合には、その振動が上摩擦ダンパー20に伝達されて、上摩擦ダンパー20にて振動エネルギーが吸収される。このため、下摩擦ダンパー30と上摩擦ダンパー20との制御手段を備えることなく、小さな振動は下摩擦ダンパー30にて、大きな振動は上摩擦ダンパー20にてそれぞれ振動エネルギーを吸収することが可能である。
【0054】
また、2枚のスプライスプレート21と間柱上部12とが相対移動するための力は、丸パイプ17を介して間柱下部11から2枚のスプライスプレート21へと伝達されるので、丸パイプ17に挿通されている高力ボルト16が相対移動時に生じる剪断力を受けることを防止するとともに、高力ボルト16を圧接力の付与のみに特化させて使用できて、その健全性を高く維持可能となる。このとき、間柱下部11及び間柱上部12を2枚のスプライスプレート21にて両側から挟むことにより、2枚のスプライスプレート21を間柱下部11及び間柱上部12に対して安定した状態にて相対移動させて安定した摩擦力を発生させることが可能である。
【0055】
また、間柱下部11と間柱上部12とに設けられた滑動板26と、2枚のスプライスプレート21に設けられ、間柱下部11及び間柱上部12に対し相対移動したときに滑動板26と摺動して摩擦力が生じる摩擦板28と、を有しているので、上摩擦ダンパー20及び下摩擦ダンパー30にてそれぞれ相対移動したときに安定した摩擦力を生じさせて制振することが可能である。
【0056】
また、上摩擦ダンパー20及び下摩擦ダンパー30に、圧縮方向の変形量に対して、荷重の変動がほぼ一定となる非線形ばね領域を備えた皿ばね積層体8を用いたので、より安定した圧接力を発生させることが可能である。このため、本接合部の制振構造では、上摩擦ダンパー20と下摩擦ダンパー30とにおいて、発生する摩擦力を違えるために、安定した圧接力が得られる皿ばね積層体8を使用している。また、皿ばね積層体8は、重ねる皿ばねの数を相違させることにより圧接力を相違させ、容易に摩擦力を調整することが可能である。
【0057】
本実施形態の接合部の制振構造では、間柱下部11と間柱上部12との間には、複数の対を成すスプライスプレート21が架け渡されており、複数の対を成すスプライスプレート21の各々と間柱下部11とを有する下摩擦ダンパー30を構成し、複数の対を成すスプライスプレート21の各々と間柱上部12とを有する上摩擦ダンパー20を構成するので、各々の対を成すスプライスプレート21に設けられた上摩擦ダンパー20と下摩擦ダンパー30とを独立させて機能させることが可能である。具体的には、単一のスプライスプレート21に複数の上摩擦ダンパー20及び下摩擦ダンパー30が設けられていたとしても、各摩擦ダンパー20、30における丸孔11bと丸パイプ17との配置及び長孔12aとボルト16との配置が、各摩擦ダンパー20、30にて相違していると、いずれかの摩擦ダンパー20、30のみに相対移動が生じた後には、他の摩擦ダンパー20、30において適切な相対移動が発生せず、摩擦力が適正に発生しない虞がある。ところが、本実施形態では、摩擦ダンパーユニット25をスプライスプレート21ごとに備えたので、各摩擦ダンパー20、30が個別に機能するため、各々の摩擦ダンパー20、30の減衰力を確実に作用させることが可能である。
【0058】
上記実施形態では、下摩擦ダンパー30が、高力ボルト16が挿通される丸パイプ17を備えている例について説明したが、丸パイプ17は必ずしも設けなくても良い。
【0059】
上記実施形態においては、間柱下部11と間柱上部12とに対をなすスプライスプレートが架け渡された例について説明したが、間柱下部11と間柱上部12等の2つの部材間に架け渡されるスプライスプレートは、2つの部材のいずれか一方の面のみの1枚であっても構わない。このとき、2つの部材をスプライスプレートの互いに異なる側に配置しても構わない。また、間柱に摩擦ダンパーユニットを3セット備えた例について説明したが、設けられる摩擦ダンパーユニットの数は3セットに限らない。
【0060】
また、上記実施形態では摩擦ダンパーユニット25を間柱10に設けた例について説明したが、間柱に限らず、例えばブレース等であっても構わない。摩擦ダンパーユニットをブレースに備える場合には、架け渡し方向と相対移動方向とが同一となるため、地震等の大きな力にて相対移動する摩擦ダンパーに設けられる長孔は相対移動方向に沿って形成される。
【0061】
上記実施形態においては、上摩擦ダンパー20と下摩擦ダンパー30とにおいて、発生する摩擦力を違えるために、上摩擦ダンパー20及び下摩擦ダンパー30が備える皿ばね積層体8による圧接力を相違させる例について説明したが、これに限るものではない。例えば、上摩擦ダンパー20が備えている滑動板と摩擦板との間の摩擦係数と、下摩擦ダンパー30が備えている滑動板と摩擦板との間の摩擦係数とを相違させても良い。
【0062】
また、上記実施形態においては、圧接力付勢部材として皿ばね積層体8を用いた例について説明したが、これに限るものではなく、例えばコイルバネや板バネ等、圧縮されて圧接力を付勢可能な部材であれば構わない。
【0063】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。