(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5668421
(24)【登録日】2014年12月26日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】建設機械のアッパーフレーム
(51)【国際特許分類】
E02F 9/10 20060101AFI20150122BHJP
【FI】
E02F9/10
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-251854(P2010-251854)
(22)【出願日】2010年11月10日
(65)【公開番号】特開2012-102534(P2012-102534A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】本多 洋介
(72)【発明者】
【氏名】西村 耕一
【審査官】
鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−143303(JP,A)
【文献】
特開2001−342646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/10−9/18,9/24−9/28
B62D 17/00−25/08,25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前梁と後梁と左右の縦梁とを備えたサイドデッキにキャビンが搭載され、上記サイドデッキにおける上記前梁と左右の縦梁のなすコーナー部の内側に、水平な上辺部と垂直な後側辺部から成る左右のマウント取付部材が取付けられ、キャビンマウントが上記マウント取付部材に取付けられる一方、上記左右の縦梁の少なくとも一方の内側面に補強部材が取付けられる建設機械のアッパーフレームにおいて、上記左右のマウント取付部材のうち上記補強部材が設けられる側のマウント取付部材における上記後側辺部の下半部に、上記補強部材が通過し得る切欠を設け、上記補強部材の前端部を、上記切欠を貫通する状態で上記前梁に接合したことを特徴とする建設機械のアッパーフレーム。
【請求項2】
上記前梁を、前後及び上下が閉じた筒形に形成し、上記補強部材の前端部をこの前梁の後壁面に接合したことを特徴とする請求項1記載の建設機械のアッパーフレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベル等の建設機械において、キャビンが搭載されるサイドデッキを備えたアッパーフレームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
油圧ショベルは、
図8に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2が地面に対して垂直な軸のまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体2のベースとなるアッパーフレーム3上に、キャビン4を含む各種設備が搭載されるとともに、同フレーム3の前部であってキャビン4の右側に作業アタッチメント5、後端部にカウンタウェイト6がそれぞれ装着されて構成される。
【0004】
なお、この明細書においてはキャビン4の位置を左側前部とし、これを基準に「左右」及び「前後」の方向性をいうものとする。
【0005】
図9〜
図13にアッパーフレーム3の構造を示す。
【0006】
このアッパーフレーム3は、車幅方向の中央に位置するセンターセクションAと、このセンターセクションAの左右両側に外向きに張り出された左右のサイドデッキB,Cとに
よって構成され、センターセクションAの前部に
図8中の作業アタッチメント5、後端部に同カウンタウェイト6がそれぞれ取付けられるとともに、左サイドデッキBにキャビン4、右サイドデッキCに図示しないタンク類等の各種設備がそれぞれ搭載される。
【0007】
センターセクションAは、図示しない旋回ベアリングが取付けられる底板7と、この底板7の上面左右両側に垂直姿勢で前後方向に取付けられた一対の縦板8,9とを備えている。
【0008】
左サイドデッキBは、前梁10と後梁11と左右の縦梁12,13とによって額縁状の本体が形成されるとともに、必要に応じて中間部に連結部材(図では一つの横桟14のみを示す)が取付けられて構成され、この左サイドデッキBの前端部左右両側に、
図13中に示す前部キャビンマウント15が設けられる左側及び右側両マウント取付部材16,17が取付けられる。
【0009】
右側マウント取付部材17の取付部分の詳細を
図11〜
図13に示す。なお、左側マウント取付部材16も基本的に同じ構成となっている。
【0010】
同部材17は、水平な上辺部18と垂直な後側辺部19とから成る鈎形板状に形成され、前梁10と右縦梁13(左側マウント取付部材16の場合は左縦梁12)のなすコーナー部の内側に溶接によって取付けられる。
【0011】
両側マウント取付部材16,17の上辺部18にはマウント取付穴20,20が設けられ、前部キャビンマウント15がこのマウント取付穴20,20に取付けられる。
【0012】
なお、
図9,10に示すように後梁11の左右両側部に同様のマウント取付穴21,21が設けられ、後側のキャビンマウント(図示しない)がこのマウント取付穴21,21に取付けられる。
【0013】
以上の構成は特許文献1に示されている。
【0014】
このアッパーフレーム3において、特許文献1に示されているように、左サイドデッキBの補強手段として、左右の縦梁12,13の少なくとも一方(右縦梁13の場合で図示説明する)の内側面に補強部材22を取付ける技術が公知である。
【0015】
この公知技術において、補強部材22は断面コの字形に形成され、上下両辺部が全長部分で右縦梁13の内面に接合(通常は溶接。以下「接合」という場合に同じ)されるとともに、後端面が後梁11の前面に接合されている。
【0016】
一方、補強部材22の前端側には右側マウント取付部材17が位置することから、同部材前端面が右側マウント取付部材17の後側辺部19に接合されている。
【0017】
なお、左サイドデッキBにおいて、配管等の便宜のために右縦梁13の後部をカットし、垂直な継ぎ板を介して別の梁部材を継ぎ足す継ぎ足し構造をとる場合がある。この場合、補強部材22の後端面は継ぎ板の前面に接合される。
【0018】
また、左右の縦梁12,13の前後方向中間部間に連結梁を架け渡す連結梁構造をとる場合もあり、この場合、補強部材22の後端面は連結梁の前面に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2000−104284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記公知技術によると、補強部材22の前端側がマウント取付部材17を介して前梁10に間接的に接合された構造、いいかえればマウント取付部材17が補強部材22の一部(延長部分)を兼ねる構造となっている。
【0021】
しかし、マウント取付部材17は、元々、キャビン4を支持するだけの部材であって、補強部材22と比較して板厚も薄くて強度、剛性の低い部材であり、補強部材22の前端側に位置するというだけの理由で補強部材22の前端面が接合されているに過ぎない。
【0022】
このため、補強部材22の前端面をこのマウント取付部材17に接合した上記構造によると、前端側の補強効果が低いものとなる。
【0023】
このため、左サイドデッキB全体の強度と剛性が不十分となり、とくに機械転倒時におけるキャビンの安全規格であるROPSに適合しないおそれがあった。
【0024】
そこで本発明は、キャビンが搭載されるサイドデッキの左右少なくとも一方の縦梁の内側に補強部材を取付ける構成を前提として、この補強部材による前端側の補強効果を高め、左サイドデッキにROPS規格に適合する強度と剛性を確保することができる建設機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、前梁と後梁と左右の縦梁とを備えたサイドデッキにキャビンが搭載され、上記サイドデッキにおける上記前梁と左右の縦梁のなすコーナー部の内側に、
水平な上辺部と垂直な後側辺部から成る左右のマウント取付部材が取付けられ、
キャビンマウントが上記マウント取付部材に取付けられる一方、上記左右の縦梁の少なくとも一方の内側面に補強部材が取付けられる建設機械のアッパーフレームにおいて、上記
左右のマウント取付部材のうち上記補強部材が設けられる側のマウント取付部材における上記後側辺部の下半部に、上記補強部材が通過し得る切欠を設け、上記補強部材の前端部を
、上記切欠を貫通する状態で上記前梁に接合したものである。
【0026】
この構成によれば、補強部材の前端部を、公知技術のように強度、剛性において補強部材よりも劣るマウント取付部材ではなく、これよりも高い強度、剛性を備えた強度部材である前梁に接合したから、補強部材による左サイドデッキの補強効果を大幅に高めることができる。
【0027】
この場合、補強部材の前端部を、マウント取付部材を避けて前梁に接合する手段として、補強部材が設けられる側のマウント取付部材
における上記後側辺部の下半部に、上記補強部材が通過し得る切欠を設け、上記補強部材の前端部を
、上記切欠を貫通する状態で上記前梁に接
合したから、他の手段、たとえばマウント取付部材を補強部材と干渉しないように位置をずらしたり、寸法を縮小したり、あるいは補強部材の前端部をマウント取付部材に対してクランク状に迂回させたりした場合のように、キャビン支持の安定性や補強部材による補強効果が低下したり、補強部材の取付けが面倒となったりする弊害が生じない。
【0028】
また本発明は、前梁を、前後及び上下が閉じた筒形に形成し、上記補強部材の前端部をこの前梁の後壁面に接合するのが望ましい(請求項
2)。
【0029】
こうすれば、前梁を、後面が開いた断面C字形やコの字形等の枠状に形成し、補強部材の前端面をこの前梁の前壁面に接合する場合と比べて、前梁に対する補強部材前端部の接合が容易となるとともに、前梁そのものの強度と剛性が高いことから補強部材による左サイドデッキの補強効果を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、補強部材による補強効果を高め、左サイドデッキにROPS規格に適合する強度と剛性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の基本実施形態に係るアッパーフレームの斜視図である。
【
図2】同アッパーフレームにおける左サイドデッキ前部右側の一部切欠拡大斜視図である。
【
図6】基本実施形態におけるマウント取付部材の斜視図である。
【
図7】(a)(b)(c)は本発明の他の実施形態における補強部材三例を示す
図5相当の断面図である。
【
図8】本発明の適用対象例である油圧ショベルの概略側面図である。
【
図9】従来のアッパーフレームを示す斜視図である。
【
図11】同アッパーフレームにおける左サイドデッキ前部右側の一部切欠拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態を
図1〜
図7によって説明する。
【0033】
実施形態は、背景技術の説明に合わせて油圧ショベルのアッパーフレームを適用対象としている。
【0034】
図1に実施形態に係るアッパーフレーム23全体を示す。このアッパーフレーム23において、次の点は
図9〜
図13に示す従来のアッパーフレーム3と同じである。
【0035】
(I) アッパーフレーム23は、車幅方向の中央に位置するセンターセクションAと、このセンターセクションAの左右両側に外向きに張り出された左右のサイドデッキB´,Cとによって構成され、センターセクションAの前部に
図8中の作業アタッチメント5、後端部に同カウンタウェイト6がそれぞれ取付けられるとともに、左サイドデッキB´にキャビン4、右サイドデッキCに図示しないタンク類等の各種設備がそれぞれ搭載される点。
【0036】
(II) センターセクションAは、図示しない旋回ベアリングが取付けられる底板7と、この底板7の上面左右両側に垂直姿勢で前後方向に取付けられた一対の縦板8,9とを備えている点。
【0037】
(III) 左サイドデッキB´は、前梁10と後梁11と左右の縦梁12,13とによって額縁状の本体が形成されるとともに、必要に応じて中間部に連結部材(図では一つの横桟14のみを示す)が取付けられて構成される点。
【0038】
(IV) この左サイドデッキB´の前端部左側に左側マウント取付部材16、右側に右側マウント取付部材24がそれぞれ設けられ、この両側マウント取付部材16,24に前部キャビンマウント15が設けられる点。
【0039】
(V) 両側マウント取付部材16,24は、水平な上辺部18と垂直な後側辺部19とから成る鈎形板状に形成され、前梁10と右縦梁13(左側マウント取付部材16の場合は左縦梁12)のなすコーナー部の内側に溶接によって取付けられる点。
【0040】
(VI) 両側マウント取付部材16,24にはマウント取付穴20,20が設けられ、前部キャビンマウント15がこのマウント取付穴20,20に取付けられる点。
【0041】
(VII) 後梁11の左右両側部に同様のマウント取付穴21,21が設けられ、後側のキャビンマウント(図示しない)がこのマウント取付穴21,21に取付けられる点。
【0042】
基本実施形態(
図1〜
図5参照)
左サイドデッキB´の補強手段として、右縦梁13の内側面に補強部材25が前後方向に取付けられている。
【0043】
この補強部材25は、水平な上辺部25aと垂直な左側辺部25bとから成る逆L字形に形成され、
図4等に示すように上辺部25aの右端面が右縦梁13に、側辺部25bの下端面が底板7にそれぞれ全長部分で接合されるとともに、後端面が後梁11の前面に接合されている。
【0044】
一方、右側マウント取付部材24の
後側辺部
19の右下半部に、補強部材25が通過し得る切欠26が設けられ、補強部材25の前端部が同部材
24を貫通し、その前端面が前梁10の右側端部に接合されている。
【0045】
前梁10は、上下及び前後が閉じた筒体(所謂Dチューブ)として形成され、補強部材前端面はこの前梁10の後壁面10a(
図4のみに符号を付している)に接合されている。
【0046】
なお、
図4,5に示すように補強部材25の高さはキャビンマウント15と干渉しない寸法に設定されている。
【0047】
このように、補強部材25の前端部を、公知技術のように強度、剛性において補強部材25よりも劣るマウント取付部材24ではなく、同部材24を避けて、これよりも高い強度、剛性を備えた強度部材である前梁10に接合したから、補強部材25による左サイドデッキの補強効果を格段に高めることができる。
【0048】
この場合、補強部材25の前端部を、マウント取付部材24を避けて前梁10に接合する手段として、マウント取付部材24に切欠26を設け、補強部材25の前端部を、この切欠26によってマウント取付部材24を貫通する状態で前梁10に接合したから、他の手段、たとえばマウント取付部材24を補強部材25と干渉しないように左に位置をずらしたり、上下方向寸法を縮小したり、あるいは補強部材25の前端部をマウント取付部材24に対して左にクランク状に迂回させたりした場合のように、キャビン支持の安定性や補強部材25による補強効果が低下したり、補強部材25の取付けが面倒となったりする弊害が生じない。
【0049】
また、前梁10を上下及び前後が閉じた筒形に形成し、補強部材25の前端部をこの前梁10の後壁面に接合したから、前梁10を、後面が開いた断面C字形やコの字形等の枠状に形成し、補強部材25の前端部を前梁前壁面に接合する場合と比べて、前梁10に対する補強部材前端部の接合が容易となるとともに、前梁10そのものの強度と剛性が高いことから補強部材25による左サイドデッキB´の補強効果を一層高めることができる。
【0050】
他の実施形態
(1) 補強部材25の断面形状やその接合構造に関して、上記実施形態では補強部材25(上辺部25a、左側辺部25b)を右縦梁13と底板7とに接合したが、
図7(a)に示すように補強部材25(上辺部25a)を右縦梁13のみに接合する(底板7には接合しない)構成をとってもよい。
【0051】
また、
図7(b)に示すように補強部材25を、上辺部25aと左側辺部25bと下辺部25cとから成る断面コの字形に形成し、その上下両側を右縦梁13に接合してもよい。
【0052】
さらに、
図7(c)に示すように右縦梁13を、垂直な縦辺部13aと水平な下辺部13bから成る断面L字形に形成し、断面逆L字形の補強部材25をこの右縦梁13に互いの上辺部25aと下辺部13bとで接合してもよい。
【0053】
この場合、図示のように補強部材25の左側辺部25bを底板7に対して接合しなくてもよいし、接合してもよい。
【0054】
(2) 補強部材2
5を左縦梁12の内側面に取付けてもよいし、左右両縦梁12,13の内側面に取付けてもよい。
【0055】
(
3) 本発明は、前記のように左サイドデッキB´において右縦梁13の後部をカットし、垂直な継ぎ板を介して別の梁部材を継ぎ足す継ぎ足し構造をとる場合、及び左右の縦梁12,13の中間部間に連結梁を架け渡す連結梁構造をとる場合にも適用することができる。
【0056】
また、油圧ショベルに限らず、キャビンが搭載されるサイドデッキ付きのアッパーフレームを備えた作業機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
B´ 左サイドデッキ
4 キャビン
10 前梁
11 後梁
12 左縦梁
13 右縦梁
15 キャビンマウント
18 マウント取付部材の上辺部
19 同、後側辺部
23 アッパーフレーム
24 マウント取付部材
25 補強部材
26 マウント取付部材の切欠