(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば、基材の表面を被覆する膜部材は、膜厚が厚くなるほど金属の溶出を抑制できる反面、膜厚が厚くなるほど基材から剥離しやすくなり、剥離によって基材と膜部材との間の電気抵抗が増大するなどの問題があった。このように、金属製の基材を膜部材により被覆したセパレータの耐久性の向上を図る技術については、なお改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、金属製の基材を膜部材によって被覆したセパレータの耐久性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本願発明は、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
[第1の形態]燃料電池に使用されるセパレータであって、平板状の金属部材により形成され、前記燃料電池に使用されたときに、膜電極接合体を含む積層体と接触する第1の領域と、前記第1の領域と重ならない第2の領域であって、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域と、を有する基材と、前記基材を被覆する炭素膜であって、前記第1の領域を被覆する膜厚が前記第2の領域を被覆する膜厚よりも薄い炭素膜と、を備えるセパレータ。この構成によれば、積層体と接触する第1の領域を被覆する炭素膜の膜厚が、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域を被覆する膜厚よりも薄いため、金属製の基材を炭素膜によって被覆したセパレータの耐久性の向上を図ることができる。
【0007】
[適用例1]
燃料電池に使用されるセパレータであって、
平板状の金属部材により形成され、前記燃料電池に使用されたときに、膜電極接合体を含む積層体と接触する第1の領域と、前記第1の領域と重ならない第2の領域であって、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域と、を有する基材と、
前記基材を被覆する導電性の膜部材であって、前記第1の領域を被覆する膜厚が前記第2の領域を被覆する膜厚よりも薄い膜部材と、を備えるセパレータ。
【0008】
この構成によれば、積層体と接触する第1の領域を被覆する膜部材の膜厚が、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域を被覆する膜厚よりも薄いため、金属製の基材を膜部材によって被覆したセパレータの耐久性の向上を図ることができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載のセパレータにおいて、
前記第1の領域を被覆する膜厚は、5nm以上400nm以下である、セパレータ。
【0010】
この構成によれば、膜部材の剥離を抑制しつつ基材からの金属の溶出を抑制できるため、金属製の基材を膜部材によって被覆したセパレータの耐久性の向上を図ることができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のセパレータにおいて、
前記膜部材は、炭素膜である、セパレータ。
【0012】
この構成によれば、金属製の基材を炭素膜によって被覆したセパレータの耐久性の向上を図ることができる。
【0013】
[適用例4]
燃料電池であって、
膜電極接合体を含む発電体と、
適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のセパレータと、を備える燃料電池。
【0014】
この構成によれば、金属製のセパレータを有する燃料電池の耐久性の向上を図ることができる。
【0015】
[適用例5]
セパレータの製造方法であって、
平板状の金属部材により形成され、前記燃料電池に使用されたときに、膜電極接合体を含む積層体と接触する第1の領域と、前記第1の領域と重ならない第2の領域であって、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域とを有する基材を用意する工程と、
スパッタリングより前記基材に導電性の膜を形成するための成膜装置であって、前記基材を配置したときに、前記第1の領域と対向するターゲットの個数密度が第2の領域と対向するターゲットの個数密度よりも小さい成膜装置を用意する工程と、
前記基材を前記成膜装置に配置し、前記成膜装置によって前記第1の領域を被覆する膜厚が前記第2の領域を被覆する膜厚よりも薄くなるように前記基材に膜を形成する工程と、を備える製造方法。
【0016】
この構成によれば、スパッタ法を用いて、積層体と接触する第1の領域を被覆する膜部材の膜厚が、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域を被覆する膜厚よりも薄いセパレータを容易に製造することができる。
【0017】
[適用例6]
セパレータの製造方法であって、
平板状の金属部材により形成され、前記燃料電池に使用されたときに、膜電極接合体を含む積層体と接触する第1の領域と、前記第1の領域と重ならない第2の領域であって、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域とを有する基材を用意する工程と、
プラズマCVD法より前記基材に導電性の膜を形成するための成膜装置であって、前記基材を配置したときに、前記第1の領域に対して供給される原料ガスの供給量が第2の領域に対して供給される原料ガスの供給量よりも小さい成膜装置を用意する工程と、
前記基材を前記成膜装置に配置し、前記成膜装置によって前記第1の領域を被覆する膜厚が前記第2の領域を被覆する膜厚よりも薄くなるように前記基材に膜を形成する工程と、を備える製造方法。
【0018】
この構成によれば、プラズマCVD法を用いて、積層体と接触する第1の領域を被覆する膜部材の膜厚が、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域を被覆する膜厚よりも薄いセパレータを容易に製造することができる。
【0019】
[適用例7]
セパレータの製造方法であって、
平板状の金属部材により形成され、前記燃料電池に使用されたときに、膜電極接合体を含む積層体と接触する第1の領域と、前記第1の領域と重ならない第2の領域であって、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域とを有する基材を用意する工程と、
プラズマCVD法より前記基材に導電性の膜を形成するための成膜装置であって、前記基材を配置したときに、前記第1の領域に対する前記第1の領域と対向する陽極の面積比率が前記第2の領域に対する前記第2の領域と対向する陽極の面積比率よりも小さい成膜装置を用意する工程と、
前記基材を前記成膜装置に配置し、前記成膜装置によって前記第1の領域を被覆する膜厚が前記第2の領域を被覆する膜厚よりも薄くなるように前記基材に膜を形成する工程と、を備える製造方法。
【0020】
この構成によれば、プラズマCVD法を用いて、積層体と接触する第1の領域を被覆する膜部材の膜厚が、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域を被覆する膜厚よりも薄いセパレータを容易に製造することができる。
【0021】
[適用例8]
セパレータの製造方法であって、
平板状の金属部材により形成され、前記燃料電池に使用されたときに、膜電極接合体を含む積層体と接触する第1の領域と、前記第1の領域と重ならない第2の領域であって、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域とを有する基材を用意する工程と、
プラズマCVD法より前記基材に導電性の膜を形成するための成膜装置であって、前記基材を配置したときに、前記第2の領域と対向する位置に磁場を発生させるための磁場発生部を有する成膜装置を用意する工程と、
前記基材を前記成膜装置に配置し、前記成膜装置によって前記第1の領域を被覆する膜厚が前記第2の領域を被覆する膜厚よりも薄くなるように前記基材に膜を形成する工程と、を備える製造方法。
【0022】
この構成によれば、プラズマCVD法を用いて、積層体と接触する第1の領域を被覆する膜部材の膜厚が、ガスマニホールドを形成するための開口部を内包する第2の領域を被覆する膜厚よりも薄いセパレータを容易に製造することができる。
【0023】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、適用例1に記載のセパレータを有する燃料電池システムや、基材に膜部材を形成する成膜装置、膜部材により基材を被覆するときの被覆方法、適用例1に記載のセパレータを有する燃料電池の製造方法、および、これらの方法を装置に実行させるための制御プログラムなどの形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0026】
A.第1実施例:
図1は、第1の実施例に係る燃料電池の断面構成を例示した説明図である。本実施例に係る燃料電池100は、水素および空気の供給を受け、電気化学反応により発電する固体高分子型の燃料電池である。
【0027】
燃料電池100は、シール部材一体型MEA(Membrane‐Electrode Assembly:膜電極接合体)200と、セパレータ310、330と、ガス拡散層410、430と、ガス流路形成部材510、530とを備えている。燃料電池100は、シール部材一体型MEA200のアノード側にガス拡散層410、ガス流路形成部材510、および、セパレータ310を順に積層した構成を備え、カソード側にガス拡散層430、ガス流路形成部材530、および、セパレータ330を順に積層した構成を備えている。
【0028】
シール部材一体型MEA200は、MEA210とシール部材220とを備え、略長方形状のMEA210の外周に、枠状のシール部材220が形成されている。MEA210は、電解質膜212の一方の面にアノード214、他方の面にカソード215を備えている。
【0029】
電解質膜212は、プロトン伝導性の固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜(Nafion(登録商標))により構成されている。なお、高分子電解質膜としては、Nafion(登録商標)に限定されず、例えば、アシプレックス(登録商標)、フレミオン(登録商標)等の他のフッ素系スルホン酸膜を用いてもよい。また、例えば、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等を用いてもよい。また、PTFE、ポリイミド等の補強材を含む機械的特性を強化した複合高分子膜を用いてもよい。
【0030】
アノード214およびカソード215は、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(例えば、白金)を担持したカーボン粒子(触媒担持担体)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(例えばフッ素系樹脂)を含んで構成されている。導電性担体としては、カーボン粒子の他に、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物等を用いることができる。また、触媒金属としては、白金の他に、例えば、白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム等を用いることができる。
【0031】
シール部材220は、シリコーンゴムを用いて射出成形により形成されている。シール部材220は、
図1に示されている冷却水供給用貫通孔225と、冷却水排出用貫通孔226のほか、図示しない、アノードガス供給用貫通孔と、アノード排ガス排出用貫通孔と、カソードガス供給用貫通孔と、カソード排ガス排出用貫通孔とを備えている。また、表面に反応ガスの漏洩を防止するためのシールラインSLが形成されている。各貫通孔は、セパレータ310、330にそれぞれ形成された貫通孔と共に、反応ガスおよび冷却水を給排するためのマニホールドを構成する。
【0032】
ガス拡散層410、430は、電極反応に用いられる反応ガス(アノードガスおよびカソードガス)を電解質膜212の面方向に沿って拡散させる層であり、多孔質の拡散層用基材により構成されている。拡散層用基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いることができる。また、ガス拡散層410、430は、撥水性を得るために、拡散層用基材が、撥水ペーストによりコーティング(撥水処理)され、図示しない撥水層が形成されている。なお、撥水ペーストとしては、例えば、カーボン粉末と撥水性樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)との混合溶液を用いることができる。撥水層は、拡散基礎層よりも微細な気孔を有するいわゆるMPL層(Micro Porous Layer)である。撥水層は、微細な気孔における毛細管現象を利用して、電気化学反応で生じた生成水を拡散基礎層へと排出する役割を果たす。
【0033】
ガス流路形成部材510、530は、発泡焼結金属体等の導電性多孔体により構成されている。本実施例では、チタン発泡焼結金属体を用いているが、ステンレス、ニッケルもしくは銅等の発泡金属を用いてもよい。また、ガス流路形成部材510、530は、発泡焼結金属体に限られず、例えば、ステンレス鋼により形成されたエキスパンドメタルや、撥水加工が施されたカーボンフェルト等であってもよい。また、これらの組み合わせにより構成されていてもよい。
【0034】
セパレータ310、330は、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって構成されている。セパレータ310は、主面の一方(
図1上方側)がガス流路形成部材510と接触し、他方(
図1下方側)が図示しないガス流路形成部材と接触している。セパレータ330は、主面の一方(
図1下方側)がガス流路形成部材530と接触し、他方(
図1上方側)が図示しないガス流路形成部材と接触している。セパレータ310、330は、それぞれ、後述するマニホールドを形成するための複数の開口部を備えている。セパレータ310、330の具体的な形状や構成については、
図2を用いて詳述する。
【0035】
燃料電池100に供給された水素は、図示しないアノードガス供給マニホールドからガス流路形成部材510を通って、ガス拡散層410に流入し、ガス拡散層410内を流通しつつ、MEA210に供給されて電極反応に利用される。電極反応に利用されなかった水素を含むアノード排ガスは、ガス流路形成部材510から図示しないアノード排ガス排出マニホールドに排出され、カソード排ガス排出マニホールドを通って燃料電池100の外へ排出される。
【0036】
また、燃料電池100に供給された空気は、図示しないカソードガス供給マニホールドからガス流路形成部材530を通って、ガス拡散層430に流入し、ガス拡散層430内を流通しつつ、MEA210に供給されて電極反応に利用される。電極反応に利用されなかった空気を含むカソード排ガスは、ガス流路形成部材530から図示しないカソード排ガス排出マニホールドに排出され、カソード排ガス排出マニホールドを通って燃料電池100の外へ排出される。
【0037】
図2は、セパレータの概略構成を説明するための説明図である。本実施例のセパレータ310とセパレータ330は同じ形状を有しているため、ここでは、セパレータ310の概略構成についてのみ説明する。
図2(a)は、セパレータ310の平面形状を例示した説明図である。
図2(b)は、
図2(a)のA−A断面を例示した説明図である。
【0038】
セパレータ310は、金属製の基材318と、基材318の表面を被覆する炭素膜317とを備えている。基材318は、略矩形形状を有するステンレス鋼やチタン、アルミニウム、銅などの金属の薄板により形成されている。基材318は、1枚の薄板により形成されていてもよいし、複数の薄板を積層して形成されていてもよい。基材318は、その両端部にマニホールドを構成するための複数の開口部(貫通孔)が形成されている。具体的には、基材318には、アノードガス供給マニホールドを構成するためのアノードガス供給用貫通孔311と、アノード排ガス排出マニホールドを構成するためのアノード排ガス排出用貫通孔312と、カソードガス供給マニホールドを構成するためのカソードガス供給用貫通孔313と、カソード排ガス排出マニホールドを構成するためのカソード排ガス排出用貫通孔314と、冷却水供給マニホールドを構成するための冷却水供給用貫通孔315と、冷却水排出マニホールドを構成するための冷却水排出用貫通孔316が形成されている。
【0039】
基材318は、その主面上に接触領域Atと、第1の開口部領域Ao1と、第2の開口部領域Ao2とを備えている。本実施例の接触領域Atは、特許請求の範囲における「第1の領域」に該当する。また、第1の開口部領域Ao1や第2の開口部領域Ao2は、特許請求の範囲における「第2の領域」に該当する。
【0040】
接触領域Atは、基材318が燃料電池100に使用されたときに電子伝導性を要する領域であり、ここではガス流路形成部材510、530と接触する領域である。本実施例の基材318は、主面の一方がガス流路形成部材510と接触し、他方の面が図示しないガス流路形成部材と接触するため、両方の主面に接触領域Atが設定されている。
【0041】
第1の開口部領域Ao1および第2の開口部領域Ao2は、接触領域Atと重ならない領域であって、上述した貫通孔311〜316のうちの1以上の貫通孔を内包する領域である。本実施例では、第1の開口部領域Ao1は、アノードガス供給用貫通孔311と、カソード排ガス排出用貫通孔314と、冷却水排出用貫通孔316とを内包する領域である。また、第2の開口部領域Ao2は、アノード排ガス排出用貫通孔312と、カソードガス供給用貫通孔313と、冷却水供給用貫通孔315とを内包する領域である。以後、第1の開口部領域Ao1および第2の開口部領域Ao2を併せて単に、開口部領域Aoとも呼ぶ。
【0042】
開口部領域Aoは、貫通孔311〜316のうちの1以上の貫通孔を内包し、接触領域Atと重ならない領域であれば任意の範囲として設定することができる。例えば、開口部領域Aoは、内包する貫通孔に外接する矩形の領域として設定してもよいし、内包する貫通孔から所定の距離離れた位置に領域の境界が設定されてもよい。本実施例の基材318は、両方の主面に開口部領域Aoが設定されている。
【0043】
炭素膜317は、アモルファス構造またはグラファイト構造を有する導電性の薄膜であり、後述するスパッタリングやプラズマCVD法、イオンプレーティング等によって基材318に蒸着されている。炭素膜317には、炭素原子のほかに水素原子や窒素原子が含まれていてもよい。本実施例の炭素膜317は、基材318上において、接触領域Atを被覆する膜厚tnが、開口部領域Aoを被覆する膜厚tkよりも薄く(tn<tk)なるように形成されている。また、炭素膜317は、接触領域Atを被覆する膜厚tnが5nm〜400nmの範囲(5nm<tn<tk<400nm)となるように、より好ましくは、25nm〜100nmの範囲(25nm<tn<tk<100nm)となるように形成されている。
【0044】
図3は、炭素膜の膜厚と抵抗増加率との関係を示した説明図である。接触領域Atを被覆する炭素膜317の膜厚tnと、炭素膜317の剥離によって生じる電気抵抗との関係を示すために、膜厚tnの異なる7つのセパレータに対して加速耐久試験をおこない、試験の前後における抵抗値の変化(増加率)を調べた。使用したセパレータの膜厚tnは、概ね25nm、50nm、75nm、100nm、200nm、400nm、700nmの7通りとなるようにした。
【0045】
図3では、加速耐久試験後の電気抵抗の増加率、ここでは試験前の抵抗値に対する試験後の抵抗値の増加量をそれぞれ示した。
図3に示すように、
(1)膜厚tnが概ね25nm〜100nmのとき、電気抵抗の増加率は20%程度
(2)膜厚tnが概ね200nmのとき、電気抵抗の増加率は30%程度
(3)膜厚tnが概ね400nmのとき、電気抵抗の増加率は60%程度
(4)膜厚tnが概ね700nmのとき、電気抵抗の増加率は160%程度
と膜厚tnが厚くなるほど試験後の電気抵抗の増加率が大きくなった。これは、膜厚tnが厚くなるほど、炭素膜317の内部の残留応力が大きく剥離しやすいためであると考えられる。
図3の結果から、接触領域Atを被覆する炭素膜317の膜厚tnは、概ね400nm以下とすることが望ましいといえる。こうすることにより、電気抵抗の増加率を60%程度以下とすることができるためである。なお、膜厚tnの下限値としては、成膜の実施可能性を考慮して、概ね5nm以上であることが望ましい。また、炭素膜317の膜厚tnを概ね25nm〜100nmの範囲とすることがさらに望ましいといえる。こうすることにより、電気抵抗の増加率を20%程度以下とすることができるためである。
【0046】
図4は、炭素膜の膜厚と基材からの金属の溶出量との関係を示した説明図である。開口部領域Aoを被覆する炭素膜317の膜厚tkと基材318からの金属の溶出量との関係を示すために、膜厚tkの異なる7つのセパレータに対して加速耐久試験をおこない、試験後の金属の溶出量を調べた。使用したセパレータの膜厚tkは、概ね25nm、50nm、75nm、100nm、200nm、400nm、700nmの7通りとなるようにした。
【0047】
図4では、加速耐久試験後の金属の溶出量を膜厚tkが200nmのときの金属の溶出量を1としたときの比率としてそれぞれ示した。
図4に示すように、炭素膜317の膜厚tkが厚くなるほど金属の溶出量が減少することがわかる。これは、膜厚tkが厚くなるほど、炭素膜317に形成されるピンホールの数が減少して金属の溶出が抑制されるためであると考えられる。
図4からわかるように、開口部領域Aoを被覆する炭素膜317の膜厚tkは厚いほど金属の溶出が抑制される。
【0048】
金属製のセパレータは、導電性や加工性に優れる反面、発電によって生じる生成水の中に含まれているフッ素イオン(F
−)などのハロゲンイオンや、硫酸イオン(SO
42−)などによって金属の溶出が生じることがあった。この生成水は、マニホールドを介して排出されるため、セパレータ310の貫通孔付近(開口部領域Ao付近)では、特に、金属の溶出が生じることがあった。金属の溶出が生じると、溶出した金属がマニホールドに堆積してガス等の流通が阻害されたり、溶出した金属によってガスケットが腐食しマニホールドの気密性が損なわれたり、溶出によってセパレータに損傷が生じたり、溶出した金属によって触媒層が被毒するなどによって、燃料電池の耐久性や発電性能が低下する問題があった。
【0049】
本実施例のセパレータ310は、基材318の表面に炭素膜317が形成されているため、生成水と基材318との接触を低減して、基材318からの金属の溶出を抑制することができる。特に、本実施例のセパレータ310は、マニホールドを構成する貫通孔付近の開口部領域Aoを被覆する炭素膜317の膜厚tkが、接触領域Atを被覆する炭素膜317の膜厚tnよりも厚くなるように構成されているため、金属が溶出しやすい貫通孔付近における金属の溶出をより抑制して、セパレータの耐久性の向上を図ることができる。
【0050】
一方、炭素膜317は、基材318に蒸着したときに、内部の残留応力が生じることがあった。この残留応力によって炭素膜317が基材318から剥がれると、炭素膜317と基材318との間の電気抵抗(接触抵抗)が増大することがあった。
【0051】
このことから、本実施例のセパレータ310は、燃料電池100に使用されたときに電子伝導性を要する接触領域Atを被覆する炭素膜317の膜厚tnが、電子伝導性を要しない開口部領域Aoを被覆する膜厚tkよりも薄くなるように構成されているため、電子伝導性を要する領域において、炭素膜317の剥離による電気抵抗の増大を抑制することができる。
【0052】
すなわち、本実施例のセパレータ310は、電子伝導性を要する接触領域Atでは、膜厚保を相対的に薄くすることにより、炭素膜317の剥離による電気抵抗の増大を抑制しつつ金属の溶出を抑制し、金属が溶出しやすい開口部領域Aoでは、膜厚保を相対的に厚くすることにより、金属の溶出をより抑制するように構成されているため、耐久性の向上を図ることができる。
【0053】
図5は、スパッタ法において炭素膜の膜厚の差異を形成する方法を説明するための説明図である。スパッタリング装置700は、スパッタリングによって基材318に炭素膜317を蒸着させるための装置である。スパッタリング装置700において、炭素膜の原料となるターゲット710の配置分布を基材318に対して変化させることにより、基材318に蒸着する炭素膜の膜厚に差異を形成することができる。具体的には、開口部領域Aoに対向するターゲット710の個数密度を接触領域Atに対向するターゲット710の密度個数より多くすることによって、開口部領域Aoの膜厚tkを接触領域Atの膜厚tnよりも厚くすることができる。
【0054】
スパッタ法において炭素膜の膜厚の差異を形成するその他の方法として、例えば、開口部領域Aoへのターゲット電流を、接触領域Atへのターゲット電流より大きくすることによって、開口部領域Aoの膜厚tkを接触領域Atの膜厚tnよりも厚くすることができる。また、例えば、開口部領域Aoと対向するターゲット710から開口部領域Aoまでの距離を、接触領域Atと対向するターゲット710から接触領域Atまでの距離よりも小さくすることによって、開口部領域Aoの膜厚tkを接触領域Atの膜厚tnよりも厚くすることができる。
【0055】
図6は、プラズマCVD法において炭素膜の膜厚の差異を形成する第1の方法を説明するための説明図である。プラズマCVD成膜装置800は、プラズマCVD法によって基材318に炭素膜317を蒸着させるための装置であって、チャンバー810と、ガス導出部815と、ガス供給部820と、陽極板830と、直流電源840とを備えている。プラズマCVD成膜装置800は、開口部領域Aoのプラズマ密度を、接触領域Atのプラズマ密度よりも高くすることによって、開口部領域Aoの膜厚tkを接触領域Atの膜厚tnよりも厚くすることができる。プラズマ密度を変化させる方法としては以下の方法がある。
【0056】
図6に示すように、プラズマCVD成膜装置800のガス供給部820を制御して、開口部領域Aoに供給される原料ガスの供給量を、接触領域Atに供給される原料ガスの供給量よりも多くすることによって、開口部領域Aoのプラズマ密度を、接触領域Atのプラズマ密度よりも高くすることができる。
【0057】
図7は、プラズマCVD法において炭素膜の膜厚の差異を形成する第2の方法を説明するための説明図である。
図7に示すプラズマCVD成膜装置800bのように、開口部領域Aoと対向する陽極板830の面積を相対的に大きくし、接触領域Atと対向する陽極板830の面積を相対的に小さくすることによって、開口部領域Aoのプラズマ密度を、接触領域Atのプラズマ密度よりも高くすることができる。具体的には、
(1)開口部領域Aoの面積をSao
(2)開口部領域Aoと対向する陽極板830の面積をSpo
(3)接触領域Atの面積をSat
(4)接触領域Atと対向する陽極板830の面積をSpt
とすると、比率(Spo/Sao)を比率(Spt/Sat)よりも大きくすることによって、開口部領域Aoのプラズマ密度を、接触領域Atのプラズマ密度よりも高くすることができる。
【0058】
図8は、プラズマCVD法において炭素膜の膜厚の差異を形成する第3の方法を説明するための説明図である。
図8に示すプラズマCVD成膜装置800cのように、開口部領域Aoと対向する陽極板830にマグネットなどの磁気発生部850を取り付けることにより、開口部領域Aoのプラズマ密度を、接触領域Atのプラズマ密度よりも高くすることができる。具体的には、磁気発生部850は、陽極板830に沿って、N極とS極とを交互に配置した構成を備えているため、陽極板830に沿って磁場を発生させて陽極板830付近に電子を集めることができる。磁気発生部850が陽極板830付近に電子を集めることによって、磁気発生部850と対向する陰極側の開口部領域Aoのプラズマ密度を高くすることができる。
【0059】
プラズマCVD法において炭素膜の膜厚の差異を形成するその他の方法として、例えば、開口部領域Aoと対向する陽極板830から開口部領域Aoまでの距離を、接触領域Atと対向する陽極板830から接触領域Atまでの距離よりも小さくすることによって、開口部領域Aoの膜厚tkを接触領域Atの膜厚tnよりも厚くすることができる。
【0060】
B.第2実施例:
図9は、第2実施例に係る燃料電池の断面構成を例示した説明図である。
図9は、第1実施例の
図1に対応している。第2実施例の燃料電池100aと第1実施例の燃料電池100(
図1)との違いは、第2実施例の燃料電池100aは、ガス流路形成部材510、530(
図1)を備えず、セパレータ310a、330aにリブ320、340を備えている点である。
【0061】
セパレータ310aは、ガス拡散層410と接触する面に複数の凹凸状のリブ320が形成されている。同様に、セパレータ330aは、ガス拡散層430と接触する面に複数の凹凸状のリブ340が形成されている。セパレータ310aおよびセパレータ330aが、MEA210、および、ガス拡散層410、430を両側から挟み込むことによって、アノードガスとしての水素、カソードガスとしての空気が流れる流路がそれぞれ形成される。
【0062】
燃料電池100に供給された水素は、図示しないアノードガス供給マニホールドを通り、セパレータ310aのリブ320によって形成される流路を通って、ガス拡散層410に流入し、ガス拡散層410内を流通しつつ、MEA210に供給されて電極反応に利用される。電極反応に利用されなかった水素を含むアノード排ガスは、図示しないアノード排ガス排出マニホールドに排出され、アノード排ガス排出マニホールドを通って燃料電池100の外へ排出される。
【0063】
燃料電池100に供給された空気は、図示しないカソードガス供給マニホールドを通り、セパレータ330aのリブ340によって形成される流路を通って、ガス拡散層430に流入し、ガス拡散層430内を流通しつつ、MEA210に供給されて電極反応に利用される。電極反応に利用されなかった空気を含むカソード排ガスは、図示しないカソード排ガス排出マニホールドに排出され、カソード排ガス排出マニホールドを通って燃料電池100の外へ排出される。
【0064】
図10は、第2実施例に係るセパレータの概略構成を説明するための説明図である。
図10は、第1実施例の
図2に対応している。第2実施例の接触領域Atは、ガス拡散層410、430と直接接触するリブ領域At1と、ガス拡散層410、430との間でガス流路を形成するガス流路領域At2とを含んでいる。リブ領域At1はリブ320の頂部に形成される領域であり、ガス流路領域At2はリブ320とリブ320との間に形成される領域である。なお、本実施例では接触領域Atは、リブ領域At1とガス流路領域At2とを含むものとしたが、接触領域Atは、リブ領域At1のみを含み、ガス流路領域At2を含まない構成であってもよい。
【0065】
炭素膜317は、第1実施例と同様に、基材318上において、接触領域Atを被覆する膜厚tnが、開口部領域Aoを被覆する膜厚tkよりも薄く(tn<tk)なるように形成されている。また、炭素膜317は、接触領域Atを被覆する膜厚tnが5nm〜400nmの範囲(5nm<tn<tk<400nm)となるように、より好ましくは、25nm〜100nmの範囲(25nm<tn<tk<100nm)となるように形成されている。
【0066】
第2実施例のセパレータ310aは、電子伝導性を要するリブ領域At1を含む接触領域Atでは、膜厚保を相対的に薄くすることにより、炭素膜317の剥離による電気抵抗の増大を抑制しつつ金属の溶出を抑制し、金属が溶出しやすい開口部領域Aoでは、膜厚保を相対的に厚くすることにより、金属の溶出をより抑制するように構成されているため、耐久性の向上を図ることができる。
【0067】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0068】
C−1.変形例1:
図11は、変形例1に係るセパレータの概略構成を説明するための説明図である。
図11は、第1実施例の
図2に対応している。第1〜2実施例では、セパレータ310は、第1の開口部領域Ao1と第2の開口部領域Ao2の2つの開口部領域Aoが設定されているものとして説明したが、開口部領域Aoの数には制限はなく、
図11に示すセパレータ310bのように、1つの開口部領域Aoのみを設定してもよいし、3つ以上の開口部領域Aoを設定してもよい。また、開口部領域Aoは、内包する貫通孔の数に制限はなく、例えば、
図11のセパレータ310bように、1つの開口部領域Aoに全ての貫通孔を内包するように設定してもよいし、貫通孔ごとに開口部領域Aoを設定してもよい。
【0069】
C−2.変形例2:
図12は、変形例2に係るセパレータの概略構成を説明するための説明図である。
図12は、第1実施例の
図2に対応している。第1〜2実施例では、セパレータ310は、基材318に形成されたすべての貫通孔が内包されるように開口部領域Aoが設定されているが、
図12に示すセパレータ310cのように、一部の貫通孔が開口部領域Aoに内包されていなくてもよい。特に、生成水が流入する虞の少ない貫通孔については、開口部領域Aoに内包されていなくてもよい。
【0070】
C−3.変形例3:
第1〜2実施例では、接触領域Atを被覆する炭素膜317の膜厚tnおよび開口部領域Aoを被覆する炭素膜317の膜厚tkは一定のものとして説明したが、接触領域Atの膜厚tnおよび開口部領域Aoの膜厚tkは、それぞれの領域の膜厚の平均値であってもよいし、最も薄い部分の値であってもよい。
【0071】
C−4.変形例4:
第1〜2実施例では、第1の開口部領域Ao1を被覆する炭素膜317の膜厚と、第2の開口部領域Ao2を被覆する炭素膜317の膜厚は、ともに膜厚tkとして説明したが、それぞれの膜厚は、接触領域Atを被覆する炭素膜317の膜厚tnより小さければ、互いに異なっていてもよい。
【0072】
C−5.変形例5:
第1〜2実施例では、基材318の両面に接触領域Atおよび開口部領域Aoが設定されているものとして説明したが、基材318の一方の面のみが生成水と接触し、他方の面が生成水と接触しない構成であれば、基材318の一方の面のみに接触領域Atおよび開口部領域Aoを設定して炭素膜317による被覆をおこなってもよい。
【0073】
C−6.変形例6:
第2実施例では、燃料電池100aは、ガス拡散層410、430を備えるものとして説明したが、燃料電池100aは、ガス拡散層410、430の少なくとも一方を備えていなくてもよい。この場合、接触領域Atは、アノード214やカソード215と直接接触するリブ領域At1と、アノード214やカソード215との間でガス流路を形成するガス流路領域At2により構成されていてもよい。